説明

樹脂組成物、その製造方法並びにこれからなる成形品、ケーブル用被覆材及びケーブル

【課題】剛性及び引張伸度のバランス、更には耐熱クリープ性に優れた樹脂組成物、その製造方法並びにこれからなる成形品、ケーブル被覆材及びケーブルを提供すること。
【解決手段】(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されたブロック共重合体1〜100質量部と、(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を含有する樹脂組成物とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、その製造方法並びにこれからなる成形品、ケーブル用被覆材及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、優れた難燃性、耐熱性、寸法安定性、非吸水性及び電気特性に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られているが、溶融流動性が悪く成形加工性に劣り、かつ、耐溶剤性、耐衝撃性に劣る欠点がある。
一方、ポリオレフィン系樹脂は、低比重で安価なプラスチックであり、耐薬品性、耐溶剤性、成形加工性等に優れるため自動車部品や電気・電子機器部品及び家庭用電気製品等の各種分野に使用されている。
【0003】
特許文献1と特許文献2には、ポリフェニレンエーテルを水素添加ブロック共重合体及びポリオレフィンとブレンドすることにより耐衝撃性を改良することが記載されている。
【0004】
特許文献3には、ポリフェニレンエーテルをポリオレフィン及び水素添加ブロック共重合体とブレンドすることにより耐衝撃性を改良することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4166055号明細書
【特許文献2】米国特許第4239673号明細書
【特許文献3】米国特許第4383082号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリフェニレンエーテルは、加工時等に約300〜350℃の熱履歴を受けると酸化劣化が顕著に起こるため、熱劣化物が茶〜黒色の異物として樹脂組成物中に混入する。この異物は樹脂組成物と親和性が乏しいため、樹脂組成物に応力が加わったとき、亀裂発生の原因となり、機械的強度を著しく損なうという欠点がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、熱履歴に起因する異物がなく、剛性及び引張伸度のバランス、更には耐熱クリープ性に優れた樹脂組成物、その製造方法並びにこれからなる成形品、ケーブル被覆材及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及び水素添加ブロック共重合体に、特定のポリアミン化合物を用いて溶融混練することにより、剛性、引張伸度及び耐熱クリープ性に優れた樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
[1](a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されたブロック共重合体1〜100質量部と、(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を含有する樹脂組成物。
[2](a)成分がポリプロピレン系樹脂である[1]に記載の樹脂組成物。
[3](a)成分のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kg)が0.01〜300g/10分である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4](c)成分における重合体ブロックAの数平均分子量が、15000以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5](c)成分における重合体ブロックBの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が、65〜90%である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6](d)ポリアミン化合物がポリエチレンイミンである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[7](d)ポリアミン化合物が、下記式(1)で表される化合物である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化1】



(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキレン基を表す。x及びyは、それぞれ1以上の整数を表す。)
[8](d)ポリアミン化合物の重量平均分子量が200〜100000である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[9](a)成分がマトリックス相を、(b)成分が分散相を、それぞれ形成する、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[10](a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体1〜100質量部と、(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を溶融混練するに際して、下記(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
(1)(b)成分と(d)成分の全量と、(a)成分の一部と、(c)成分と(e)成分の一部又は全量と、を溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分と(c)成分と(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
[11](a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体1〜100質量部と、(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を溶融混練するに際して、下記(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
(1)(b)成分と(d)成分の全量と、(c)成分と(e)成分の一部又は全量と、溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分の全量と、(c)成分と(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
[12][10]又は[11]に記載の製造方法により得られる樹脂組成物。
[13][1]〜[9]及び[12]のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
[14][13]に記載の成形品からなるケーブル用被覆材。
[15][14]に記載のケーブル用被覆材を用いたケーブル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異物を低減して、剛性、引張伸度及び耐熱クリープ性に優れた樹脂組成物、その製造方法並びにこれからなる成形品、ケーブル用被覆材及びケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの本実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。そして、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
本実施の形態に係る樹脂組成物は、以下の(a)〜(e)成分を含有する樹脂組成物である。
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されたブロック共重合体1〜100質量部、
(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満、
(e)アクリレート系化合物0〜3質量部。
【0013】
<(a)成分>
本実施の形態の(a)成分として用いるポリオレフィン系樹脂(以下、単に「PO」という場合がある。)は、特に限定されず、例えば、アイソタクチックポリプロピレン(iPP)、超高分子量アイソタクチックポリプロピレン(UHMW−iPP)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリブテン−1(PB−1)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高分子量高密度ポリエチレン(HMW−HDPE)、超高分子量高密度ポリエチレン(UHMW−HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、超低密度ポリエチレン(UPDPE)、エチレン、プロピレン、他のα−オレフィン、不飽和カルボン酸及びその誘導体の中から選ばれる2種以上の化合物の共重合体等が挙げられる。
【0014】
2種以上の化合物の共重合体としては、例えば、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プロピレン/エチレン(ランダム、ブロック)共重合体、プロピレン/1−ヘキセン共重合体、プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体等が挙げられる。
【0015】
これらのポリオレフィン系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中で好ましいのは、剛性や靭性等の物性バランスの観点から、ポリプロピレン系のポリオレフィン系樹脂である。
【0016】
ポリプロピレン系樹脂は、例えば、結晶性プロピレンホモポリマー;重合の第一工程で得られる結晶性プロピレンホモポリマー部分と、重合の第二工程以降でプロピレン、エチレン及び/又は少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等)を共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分とを有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体等が挙げられる。また、結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の混合物でもよい。
かかるポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されないが、例えば、三塩化チタン触媒又は塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等とアルキルアルミニウム化合物の存在下に、重合温度0〜100℃の範囲で、重合圧力3〜100気圧の範囲で重合して得ることができる。
【0017】
この際、重合体の分子量を調製するために水素等の連鎖移動剤を添加してもよい。また、重合方法は限定されず、バッチ式、連続式いずれの方法でもよい。
【0018】
また、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合;スラリー重合;無溶媒下モノマー中での塊状重合;ガス状モノマー中での気相重合方法等を適用できる。
【0019】
更に、得られるポリプロピレンのアイソタクティシティと重合活性を高めるため、上記重合触媒の他に第三成分として電子供与性化合物を内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。この電子供与性化合物の種類は限定されず、公知のものを使用できる。例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル等のエステル化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸エステル;ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸誘導体;アルコキシエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類及び/又は各種フェノール類等が挙げられる。
【0020】
本実施の形態で用いる(a)ポリプロピレン系樹脂は、上記の方法等によって得ることができる。また、いかなる結晶性や融点を有するポリプロピレン系樹脂であっても、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kg)は、好ましくは0.01〜300g/10分であり、より好ましくは0.1〜100g/10分、更に好ましくは0.1〜30g/10分の範囲である。MFRをかかる範囲とすることによって、剛性や耐熱クリープ性のバランスを取ることができる。
また、MFRがこれらの範囲のポリプロピレン系樹脂であれば、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
更に、上記のポリプロピレン系樹脂のほかに、ポリプロピレン系樹脂と、α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態あるいは溶液状態で30〜350℃で反応させることによって得られうる変性ポリプロピレン系樹脂を用いてもよい。
【0023】
変性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト化又は付加したポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂と変性ポリプロピレン系樹脂の混合割合は制限されず、任意に決定できる。
【0024】
<(b)成分>
本実施の形態で用いる(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、単に「PPE」という場合がある。)は、下記式(2)で表される繰返し単位構造からなるホモ重合体及び/又は共重合体である。その還元粘度(0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)は、特に限定されないが、0.15〜2.50の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.30〜2.00、更に好ましくは0.35〜2.00の範囲である。
【0025】
【化2】

【0026】
式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の第1級又は第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものである。
【0027】
本実施の形態において用いることができるポリフェニレンエーテル系樹脂は、特に限定されず、公知のものを用いてもよい。例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、更に2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)等のポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。
【0028】
これらの中で、好ましくは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましい。更に好ましくは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
【0029】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば、2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造できる。あるいは米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載された方法等によって製造できる。
【0030】
更に、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂のほかに、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系モノマー又はその誘導体とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で80〜350℃で反応させることによって得られうる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を併用してもよい。
【0031】
かかる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、スチレン系モノマー又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト化又は付加したポリフェニレンエーテル系樹脂が挙げられる。
【0032】
ポリフェニレンエーテル系樹脂と変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の混合割合は制限されず、任意の割合で混合できる。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記した樹脂以外に、ポリフェニレンエーテル系樹脂にポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン又はハイインパクトポリスチレンを混合したものも好適に用いることができる。
より好適には、ポリフェニレンエーテル系樹脂100質量部に対して、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン又はハイインパクトポリスチレン及びこれらの混合物が合計400質量部を超えない範囲で混合されたものである。
【0033】
本実施の形態では、(a)成分がマトリックス相を、(b)成分が分散相を、それぞれ形成することが好ましい。これにより耐熱クリープ性を発現させることができる。分散相は、(b)成分単独でもよいし、(b)成分と(c)成分を組み合わせてもよい。かかる樹脂組成物は、マトリックス相((a)成分)と、分散相((b)成分、又は(b)成分と(c)成分)を構成する分散粒子と、からなる。
【0034】
分散粒子の短軸径の長さは、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。分散粒子の長軸径/短軸径の比は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜3である。分散粒子のモルフォロジーとして、かかる範囲の短軸径や長軸径/短軸径の比とすることで、更に優れた耐熱クリープ性を樹脂組成物に付与できる。
分散粒子径は、通常、透過型電子顕微鏡で測定することができる。分散粒子は、[長軸径/短軸径]≧1である。
具体的には、[長軸径/短軸径]=1、すなわち長軸径=短軸径の時には円状の分散粒子をとる。[長軸径/短軸径]>1の時にはフィブリル構造又はラメラ構造の分散粒子をとる。分散相は、これらの構造の分散粒子の1種又は2種以上からなってもよい。
【0035】
(c)成分の大部分は、(b)成分からなる分散粒子の内部に包含されたりするが、本実施の形態の効果である耐熱性及び耐熱クリープ性を損なわない程度に、マトリックス相中に、分散粒子と別に単独で存在させてもよい。
【0036】
<(c)成分>
本実施の形態で(c)成分として用いることができる水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部を水素添加したものである。
【0037】
(c)成分は、(a)成分のポリオレフィン系樹脂と(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の混和剤又は耐衝撃性付与剤の少なくともいずれかとして作用する。
【0038】
(ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA)
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体ブロックである。
重合体ブロックAにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物を50質量%を超えて含有することをいう。そして、ビニル芳香族化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0039】
重合体ブロックAを構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。これらの中ではスチレンが好ましい。
【0040】
重合体ブロックAの数平均分子量は、特に限定されないが、15000以上が好ましい。これにより、本実施の形態の樹脂組成物の耐熱クリープ性をより優れたものとできる。
重合体ブロックAの数平均分子量の測定は、GPC(移動層:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって行うことができる。
【0041】
(1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB)
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックである。
重合体ブロックBにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、重合体ブロックB中に共役ジエン化合物を50質量%を超えて含有することをいう。そして、共役ジエン化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0042】
重合体ブロックBを構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。これらの中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0043】
そして、重合体ブロックBのミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)については、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(以下、「全ビニル結合量」という場合がある。)が30〜90%、好ましくは45〜85%である。全ビニル結合量をかかる範囲とすることで優れた混和性を得ることができる。
【0044】
特に、重合体ブロックBがブタジエンを主体とする重合体である場合には、重合体ブロックBの全ビニル結合量が65〜90%であることが好ましい。
全ビニル結合量を30%以上とすることで、得られる樹脂組成物に分散するポリフェニレンエーテル系樹脂の分散性を優れたものにできる。全ビニル結合量を90%以下とすることで、ポリフェニレンエーテル系樹脂の優れた分散性を有しながら経済性にも優れた樹脂組成物とできる。
本実施の形態において、全ビニル結合量は、赤外分光光度計によって測定する。なお、算出方法はAnalytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて行うことができる。
【0045】
(c)成分は、少なくとも重合体ブロックAと、少なくとも重合体ブロックBを含むブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体である。
【0046】
ブロック重合体Aを「A」とし、ブロック重合体Bを「B」とすると、(c)成分としては、例えば、A−B、A−B−A、B−A−B−A、(A−B−)Si、A−B−A−B−A等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。(A−B−)Siは、四塩化ケイ素、四塩化スズ等といった多官能カップリング剤の反応残基、又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基等である。
【0047】
ブロック重合体Aとブロック重合体Bを含むブロック共重合体の分子構造は、特に制限されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0048】
重合体ブロックAと重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物又は共役ジエン化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで成っていてもよい。
そして、重合体ブロックA又は重合体ブロックBのいずれかが繰り返し単位中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0049】
この(c)成分の水素添加ブロック共重合体は、水素添加前のブロック共重合体が結合したビニル芳香族化合物を20〜95質量%含むことが好ましく、30〜80質量%含むことが更に好ましい。
本実施の形態において、ビニル芳香族化合物の含有量の測定は、紫外線分光光度計によって行うことができる。
【0050】
また、水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000、より好ましくは10000〜800000、更に好ましくは30000〜500000である。
数平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、溶媒:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって行うことができる。
【0051】
水素添加前のブロック共重合体の分子量分布は、10以下が好ましい。分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、溶媒:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)で測定した重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)の比によって算出できる。
【0052】
また、(c)成分中の共役ジエン化合物に対する水素添加率は限定されないが、共役ジエン化合物に由来する二重結合の50%以上であることが好ましく、更に好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
本実施の形態において、水素添加率はNMRによって測定できる。
【0053】
(c)成分の水素添加ブロック共重合体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法で得ることができる。このようなものとして、例えば、特開昭47−11486号公報、特開昭49−66743号公報、特開昭50−75651号公報、特開昭54−126255号公報、特開昭56−10542号公報、特開昭56−62847号公報、特開昭56−100840号公報、特開平2−300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び米国特許第4501857号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0054】
また、(c)成分の水素添加ブロック共重合体は、水素添加ブロック共重合体と、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)とをラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で反応させることによって得られる変性水素添加ブロック共重合体であってもよい。この場合、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%の割合で水素添加ブロック共重合体にグラフト化又は付加していることが好ましい。更に上記の水素添加ブロック共重合体と該変性水素添加ブロック共重合体との任意の割合の混合物であってもよい。
【0055】
<(d)成分>
(d)成分のポリアミン化合物は、第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有する化合物であればよく、その種類は特に限定されない。ここで、第2級アミノ基とは、イミノ基(−NH−)のことをいう。
その具体例としては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアルキレンイミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環族アミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン等が挙げられる。
それらの中でも、樹脂組成物の異物低減の観点から、ポリエチレンイミンが好ましい。
【0056】
(d)成分は、分岐炭素及び/又は分岐窒素を有していることが好ましく、第3級アミノ基を有することがより好ましい。ここで、分岐炭素とは、ポリアミン化合物の主鎖骨格が分岐している起点となる炭素原子のことをいう。分岐窒素とは、ポリアミン化合物の主鎖骨格が分岐している起点となる窒素原子のことをいう。また、第3級アミノ基とは、いずれの結合手にも水素原子が結合していない窒素原子からなる基のことをいう。
【0057】
このように、本実施の形態において用いられる好ましいポリアミン化合物としては、第1級アミノ基と第2級アミノ基を有するもの、第1級アミノ基と第2級アミノ基と第3級アミノ基を有するもの等が挙げられる。これらの中で更に好ましいものは、第1級アミノ基と第2級アミノ基と第3級アミノ基を有するものである。
【0058】
第1級アミノ基と第2級アミノ基と第3級アミノ基を有するポリアミン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0059】
【化3】

【0060】
式中、R、R及びRは、アルキレン基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。x及びyは、それぞれ1以上の整数を表す。R〜Rは、それぞれアルキレン基であればよく、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、―CHCH(CH)−、等が挙げられる。
【0061】
ポリアミン化合物の重量平均分子量は、特に限定されず、好ましくは200〜100000であり、より好ましい下限値は300以上であり、より好ましい上限値は10000以下である。重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、移動相:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって行う。重量平均分子量をかかる範囲とすることで、分散性、安定性、耐水性を有しながら、樹脂組成物の流動性の悪化を防止できる。
【0062】
<(e)成分>
本実施の形態における(e)成分のアクリレート系化合物は、特に限定されず、公知のものを用いることができ、好ましくは下記式(3)で表される化合物である。(e)成分は本実施の形態に係る樹脂組成物において熱劣化防止剤として用いることができる。
【0063】
【化4】

【0064】
上記式(3)中、Rは炭素原子数1〜5のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基等が挙げられる。好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはエチル基である。
は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−オクチル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、t−ブチル基又はt−ペンチル基であり、より好ましくはt−ペンチル基である。
10は水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基等が挙げられる。好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくはメチル基である。
11は水素原子又は炭素原子数1〜5個のアルキルであり、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。好ましくは、水素原子である。
【0065】
本実施の形態のアクリレート化合物としては、例えば、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ブチル]フェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)プロピル]フェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
好ましくは、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート及び2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートである。
【0066】
(e)成分は、市販のものから適宜に選択して用いることもできる。例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートである住友化学工業(株)製スミライザー(登録商標)GM、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレートである住友化学工業(株)製スミライザーGS(登録商標)等を用いることができる。
【0067】
本実施の形態に係る樹脂組成物は、(a)成分〜(e)成分を基本成分として構成される。
【0068】
(a)成分の配合量は特に限定されないが、(a)成分と(b)成分の合計100質量部中において、(a)成分の配合量は好ましくは1〜99質量部、より好ましくは5〜95質量部である。
(a)成分の配合量が1質量部以上であれば、得られる樹脂組成物の耐熱性、成形加工性、耐溶剤性のバランスを更に優れたものとできる。また、99質量部以下であれば、成形加工性、耐溶剤性及び耐熱性のバランスが更に優れたものとできる。
【0069】
(b)成分の配合量は特に限定されないが、(a)成分と(b)成分の合計100質量部中において、(b)成分の配合量は好ましくは99〜1質量部、より好ましくは95〜5質量部である。
(b)成分の配合量が99質量部以下とすることで、得られる樹脂組成物の耐熱性、成形加工性、耐溶剤性のバランスを更に優れたものとできる。また、1重量以上とすることで成形加工性と耐溶剤性を更に優れたものとできる。
【0070】
(c)成分の配合量は(a)成分、(b)成分の合計100質量部に対して、1〜100質量部である。
かかる配合量が1質量部以上とすることで、本実施の形態に係る樹脂組成物の混和剤としての効果(ポリオレフィン系樹脂中にポリフェニレンエーテル系樹脂を微細に乳化分散させる効果、ポリフェニレンエーテル系樹脂中にポリオレフィン系樹脂を微細に乳化分散させる効果)を得ることができる。
また、かかる配合量を100質量部を越えると、(a)成分、(b)成分が示す作用効果の耐熱性、耐溶剤性の低下が顕著であり好ましくない。
【0071】
(d)成分の配合量は、剛性、引張伸度、耐熱クリープ性及び異物低減の観点から、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上1質量部未満である。この配合量の範囲以外の場合、例えば、(d)成分が1質量部以上の場合、耐熱性が低下するため好ましくない。
(e)成分の配合量は、異物低減の観点から、(a)成分と(b)成分100質量部に対して、0〜3質量部である。
【0072】
本実施の形態では、上記の成分の他に本実施の形態の効果の範囲内で、必要に応じて、他の付加的成分を添加してもよい。
付加的成分としては、特に限定されないが、例えば、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体やオレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、ポリリン酸メラミン系化合物、ホスフィン酸塩類、水酸化マグネシウム、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(GF、GF長繊維、CF、CF長繊維、ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0073】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施の形態の樹脂組成物の製造方法について説明する。本実施の形態の樹脂組成物は、種々の溶融混機及び混練押出機を用いて製造できるが、好ましくは以下の工程を有する製造方法が好ましい。
【0074】
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体1〜100質量部と、
(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、
(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を溶融混練するに際して、下記の(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
(1)(b)成分と(d)成分の全量と、(a)成分の一部と、(c)成分と(e)成分の一部又は全量と、を溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分と(c)成分と(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
【0075】
あるいは、(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を溶融混練するに際して、下記の(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法、も好ましい。
(1)(b)成分と(d)成分の全量と、(c)成分と(e)成分の一部又は全量と、溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分の全量と、(c)成分と(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
【0076】
これら製法によって得られる樹脂組成物は、(b)成分の熱劣化を(d)成分が効果的に抑制し、(a)成分、(b)成分、(c)成分の混合物が各々優れた分散形態を得ることができる。これにより、剛性、引張伸度及び耐熱クリープ性に優れる樹脂組成物を効率よく得ることができる。
【0077】
これらの方法は溶融混練機を用いて行うことができ、溶融混練機の種類は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられる。
これらの中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法がより好ましい。具体的には、コペリオン社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズ等が挙げられる。
【0078】
また、押出機を用いる場合であれば、その種類や規格等は特に限定されず、適宜公知の押出機を用いることができる。押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は好ましくは20以上75以下の範囲であり、更に好ましくは30以上60以下の範囲である。
【0079】
押出機は原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたものや、上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2、第3原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたもの等が好ましい。
これらの中でも、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものや、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第3原料供給口にニーディングセクションを設け、第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものがより好ましい。
【0080】
第2、第3原料供給口への原材料供給方法は、特に限定されないが、押出機の第2、第3原料供給口の開放口よりの単なる添加供給よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方が安定で好ましい。
【0081】
溶融混練温度、スクリュー回転数は、特に限定されないが、通常、溶融混練温度200〜370℃、スクリュー回転数100〜1200rpmの中から適宜に選ぶことができる。
【0082】
本実施の形態の樹脂組成物は、成形品として用いることができる。
成形品として、例えば、各種部品やシートやフィルム等とすることができる。成形の手法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、射出成形、押出成形、押出異形成形、中空成形等が挙げられる。
【0083】
各種部品としては、例えば、自動車部品が挙げられ、具体的には、バンパー、フェンダー、ドアーパネル、各種モール、エンブレム、エンジンフード、ホイールキャップ、ルーフ、スポイラー、各種エアロパーツ等の外装品;インストゥルメントパネル、コンソールボックス、トリム等の内装部品;自動車、電気自動車及びハイブリッド電気自動車等に搭載される二次電池電槽部品やリチウムイオン電池のセパレータ等に適している。
【0084】
更に、電気機器の内外装部品としても好適に使用でき、具体的には各種コンピューター及びその周辺機器、その他のOA機器、テレビ、ビデオ、各種ディスクプレーヤー等のキャビネット、シャーシ、冷蔵庫、エアコン、液晶プロジェクターが挙げられる。また、電気機器用のリチウムイオン電池のセパレータにも適している。工業用部品用途では各種ポンプケーシング、ボイラーケーシング等の部品用途に適している。
【0085】
また、本実施の形態に係る成形品は、公知の電線押出被覆装置等を用いて得られる光ファイバーの被覆材、低電圧タイプの電線・ケーブル、計装ケーブル、電子ワイヤー、自動車用ワイヤーハーネス、及び原子力発電所用ケーブル等の制御ケーブル等にも適している。
【0086】
そして、本実施の形態に係る成形品をケーブル用被覆材とすることができる。本実施の形態に係る樹脂組成物は剛性と引張伸度のバランスに優れ、耐熱クリープ性にも優れているので、この樹脂組成物からなる成形品はケーブル用被覆材として好適に用いることができる。
【0087】
更に、本実施の形態に係るケーブル用被覆材と導線を用いることでケーブルとすることができる。ケーブルの用途や大きさや構造等は限定されず、例えば、導線(中心導体)の外周を絶縁被覆層により被覆形成し、更にその外周をケーブル用被覆材により被覆形成したケーブル等とすることができる。
【0088】
本実施の形態に係るケーブルに用いることができる導線は、その形状や種類は特に限定されず、単線でも複線でもよい。導線としては、その材料は限定されず、公知の材料から適宜選択され、例えば、銅及びその合金線、アルミ及びその合金線又はこれらにメッキを施したもの等が挙げられる。また、導線はスズ又は銀で被覆されていても良い。
【0089】
本実施の形態に係るケーブル用被覆材を用いるケーブルは、剛性と引張伸度のバランスに優れ、耐熱クリープ性にも優れているため、フレキシブルケーブルとして好適に用いることができる。また、本実施の形態に係るケーブルは、「電線」と呼ばれる場合もある。
【実施例】
【0090】
本実施の形態を実施例によって更に詳細に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0091】
各材料の各物性の測定は以下のようにして行った。
[数平均分子量]
各成分の数平均分子量の測定はGPC(移動相:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって測定した。
【0092】
[結合スチレン量の測定]
結合スチレン量の測定は紫外線分光光度計によって測定した。
【0093】
[全ビニル結合量の測定]
全ビニル結合量の測定は赤外分光光度計によって測定した。
【0094】
[水素添加率の測定]
水素添加率の測定はNMRによって測定した。
【0095】
[融点]
各成分の融点の測定は示差走査熱量計によって測定した。
【0096】
[MFR(メルトフローレート)]
MFRの測定は230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0097】
[還元粘度]
還元粘度の測定は0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃の条件で測定した。
【0098】
[樹脂組成物の製造]
1.(a)成分(ポリオレフィン系樹脂)
プロピレンホモポリマー 融点:167℃、MFR:0.4g/10分
【0099】
2.(b)成分(ポリフェニレンエーテル系樹脂)
2,6−キシレノールを酸化重合してポリフェニレンエーテルホモポリマーを得た。
還元粘度:0.54
【0100】
3.(c)成分(水素添加ブロック共重合体)
(c−1)水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のB−A−B−A型の構造を有するブロック共重合体を常法によって合成した。このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
結合スチレン量:43%、
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):75%、
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:98000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:20000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:22000
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
【0101】
(c−2)ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のA−B−A型の構造を有するブロック共重合体を常法によって合成した。このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
結合スチレン量:43%、
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):75%、
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:97000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:22000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:20000
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
【0102】
(c−3)ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のA−B−A型の構造を有するブロック共重合体を合成した。
結合スチレン量:45%、
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):20%、
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:92000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:21000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:20400
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
【0103】
4.(d)成分(ポリアミン化合物)
(d−1)ポリエチレンイミンの重量平均分子量:10000
エポミンSP−200(登録商標、(株)日本触媒社製)
(d−2)ポリエチレンイミンの重量平均分子量:1800
エポミンSP−018(登録商標、(株)日本触媒社製)
(d−3)ポリエチレンイミンの重量平均分子量:300
エポミンSP−003(登録商標、(株)日本触媒社製)
【0104】
5.(e)成分(アクリレート系化合物)
2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート(スミライザーGS(登録商標、住友化学(株)社製))
【0105】
<実施例1>
二軸押出機(コペリオン社製、ZSK−25)を用い、原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第2原料供給口を設け、更にその下流に真空ベントを設けた。また、第2供給口への原材料供給方法は、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する。上記のように設定した押出機を用い、(a)〜(e)成分を表1に示した組成で配合し、押出温度270〜320℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/時間の条件にて溶融混練し、ペレットとして得た。
【0106】
<実施例2〜8>
(a)成分〜(e)成分を表1に示す条件で行った点以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0107】
<比較例1〜7>
(a)成分〜(e)成分を表2に示す条件で行った点以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0108】
<曲げ弾性率、引張伸度>
実施例及び比較例で得たペレットを用いて240〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、曲げ弾性率、引張伸度測定用テストピースを射出成形し、ギアーオーブンを用い80℃の環境下に24時間静置し熱履歴処理を行った。これらの成形品を用いて、曲げ弾性率はISO178、引張伸度はISO527に準じて測定した。
【0109】
<耐熱クリープ性>
実施例及び比較例で得たペレットを用いて240〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、クリープ測定用テストピースを射出成形し、ギアーオーブンを用い80℃の環境下に24時間静置し熱履歴処理を行った。なお、クリープ測定用のテストピースは、図1に示す形状のダンベル成形品(厚さ1mm)を成形した。図1中の符号1は、テストピースを示している。幅L1は65mm、幅L2は40mm、幅L3は22mmである。高さHは10mmである。クリープ測定は、クリープ試験機(安田精機製作所(株)製、145−B−PC型)を用いて、チャック間40mm間、応力12.25MPa相当の荷重で温度80℃下で120時間にわたって耐熱クリープ性試験を行い、破断の有無を確認した。
【0110】
<異物試験>
実施例及び比較例で得たペレットを、240〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、図1に示す形状のダンベル成形品(厚さ1mm)を成形した。得られた試験片3枚を、目視で観察し、褐色又は黒色の異物の数を数えた。異物の数の合計値が10個未満のものを「○」、10個以上のものを「×」とした。
【0111】
以上の結果を表1、表2に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
実施例1〜8は、いずれも曲げ弾性率が1689MPa以上、引張伸度が160%以上、耐熱クリープ性は「破断無」、異物試験は「○」であった。
一方、比較例1は、曲げ弾性率が1710MPaであったが、引張伸度が137%、耐熱クリープ性が「破断有」、異物試験が「×」であった。比較例2は、引張伸度が210%、耐熱クリープ性が「破断無」、異物試験が「○」であったが、曲げ弾性率が1420MPaであった。比較例3は、曲げ弾性率が1710MPaであったが、引張伸度が145%、耐熱クリープ性が「破断有」、異物試験が「×」であった。比較例4は、引張伸度が160%、異物試験が「○」であったが、曲げ弾性率が1710MPa、耐熱クリープ性が「破断有」であった。比較例5は、曲げ弾性率が1690MPaであったが、引張伸度が90%、耐熱クリープ性が「破断有」異物試験が「×」であった。比較例6は、引張伸度が250%、異物試験が「○」であったが、曲げ弾性率が950MPa、耐熱クリープ性が「破断有」であった。比較例7は、曲げ弾性率が1690MPa、引張伸度が160%、異物試験が「○」であったが、耐熱クリープ性が「破断有」であった。
以上より、本実施の形態に係る樹脂組成物は、剛性、引張伸度、耐熱クリープ性及び異物低減に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る樹脂組成物、その製造方法並びに該樹脂組成物からなる成形品、ケーブル用被覆材及びケーブルは、剛性、引張伸度及び耐熱クリープ性に優れるため、これらの特性が要求される種々の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例で用いたテストピースの簡略側面図である。
【符号の説明】
【0117】
1 テストピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加されたブロック共重合体1〜100質量部と、
(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、
(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、
を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)成分がポリプロピレン系樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a)成分のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kg)が0.01〜300g/10分である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(c)成分における前記重合体ブロックAの数平均分子量が、15000以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)成分における前記重合体ブロックBの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が、65〜90%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(d)ポリアミン化合物がポリエチレンイミンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(d)ポリアミン化合物が、下記式(1)で表される化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化1】



(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキレン基を表す。x及びyは、それぞれ1以上の整数を表す。)
【請求項8】
前記(d)ポリアミン化合物の重量平均分子量が200〜100000である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(a)成分がマトリックス相を、前記(b)成分が分散相を、それぞれ形成する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体1〜100質量部と、
(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、
(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を溶融混練するに際して、下記(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
(1)前記(b)成分と前記(d)成分の全量と、前記(a)成分の一部と、前記(c)成分と前記(e)成分の一部又は全量と、を溶融混練する工程、
(2)前記(1)工程で得られた混練物に対して、前記(a)成分と前記(c)成分と前記(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
【請求項11】
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計100質量部と、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体1〜100質量部と、
(d)ポリアミン化合物0.1〜1質量部未満と、
(e)アクリレート系化合物0〜3質量部と、を溶融混練するに際して、下記(1)工程と、(2)工程と、を含む樹脂組成物の製造方法。
(1)前記(b)成分と前記(d)成分の全量と、前記(c)成分と前記(e)成分の一部又は全量と、溶融混練する工程、
(2)前記(1)工程で得られた混練物に対して、前記(a)成分の全量と、前記(c)成分と前記(e)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の製造方法により得られる樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜9及び12のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項14】
請求項13に記載の成形品からなるケーブル用被覆材。
【請求項15】
請求項14に記載のケーブル用被覆材を用いたケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−138215(P2010−138215A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313061(P2008−313061)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】