説明

樹脂組成物および位相差フィルム

【課題】セルロースエステル系樹脂と可塑剤を主成分とする樹脂組成物にさらにソルビトール誘導体を添加することで、複屈折を容易に高められるセルロースエステル系樹脂組成物、およびこの樹脂組成物から位相差用フィルムを得ること。
【解決手段】(A)セルロースエステル系樹脂50〜99重量%、および(B)スモール(small)の方法に従って計算した溶解度パラメーターの値が9.0(cal/cm1/2を超える可塑剤50〜1重量%[ただし、(A)+(B)=100重量%]に対し、(C)ソルビトール誘導体を0.01〜10重量%添加して得られる樹脂組成物、この樹脂組成物から得られる位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などの光学補償フィルムなどを形成するのに有用なセルロースエステル系の樹脂組成物、および位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネルなどに使用される位相差フィルムは、光透過性が高く、光学特性値であるレタデーションが、130nm前後で肉厚の薄いフィルムが求められている。近年、テレビが薄型化してきており、それに使用される液晶ディスプレイパネルの薄肉化が必須であり、構成材料である位相差フィルムも薄いものが求められている。レタデーションは、フィルムの厚みと複屈折の積で表され、複屈折が高い程フィルムの厚みを薄くできる。複屈折の発現性は、ほぼ原料で決まり、容易に高複屈折を得るには、一般的に光学的異方性の原料が用いられる。
現行の位相差フィルムは、光透過性が高く、また光学的異方性の原料である、シクロオレフィンポリマーやポリカーボネートなどが使用されている。しかし、これらの材料は石油由来であり、近年、石油は、枯渇や二酸化炭素による環境問題が懸念されており、好ましい材料ではない。そこで、本発明者らは、植物由来で環境にやさしい、セルロースエステル樹脂で、現行の位相差フィルムの代替の研究を行った。セルロースエステル樹脂は、光透過性が高く、光学的等方性の原料であるため、液晶TVなどの写真感光材料の支持体、偏光板保護フィルムやカラーフィルタなどの光学材料として利用されているが、高複屈折が必要な位相差フィルムなどの検討はあまりされていない。
高複屈折を得る方法として、例を上げるとすれば、セルロースの水酸基を炭素数4以下のアシル基で置換し、複屈折の発現性を大きくさせ位相差フィルムを作成する方法が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、この先行技術には、セルロースエステル系樹脂と可塑剤の種類や量を組み合わせ、さらにソルビトール誘導体を添加することで、複屈折を容易に高める技術は開示されてはいない。
【特許文献1】特開2006−274135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、セルロースエステル系樹脂と可塑剤を主成分とする樹脂組成物に、ソルビトール誘導体を添加することで、複屈折を容易に高められるセルロースエステル系樹脂組成物、およびこの樹脂組成物から肉厚の薄い位相差フィルムを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(A)セルロースエステル系樹脂50〜99重量%、および(B)スモール(Small)の方法に従って計算した溶解度パラメーターの値が9.0(cal/cm1/2を超える可塑剤50〜1重量%[ただし、(A)+(B)=100重量%]に対し、(C)ソルビトール誘導体を0.01〜10重量%添加して得られる樹脂組成物に関する。
ここで、(A)セルロースエステル系樹脂としては、セルロースアセテートブチレートおよび/またはセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
次に、本発明は、上記樹脂組成物から得られる、位相差フィルムに関する。
ここで、得られるフィルムは、一軸延伸されていても、二軸延伸されていてもよい。
本発明の光学用フィルムは、上記樹脂組成物を、溶融押出したのち、弾性率(E’)が10Paでの温度で、延伸倍比2.5で延伸した場合の複屈折率[Δn(デルタn)]が好ましくは6.0×10−4を超える値を示す。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、セルロースエステル系樹脂と可塑剤を主成分とする樹脂組成物に、さらにソルビトール誘導体を添加することで、複屈折を容易に高められる、セルロースエステル系樹脂組成物、およびこの樹脂組成物から、肉厚の薄い位相差フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(A)セルロースエステル系樹脂:
本発明に用いる(A)セルロースエステル系樹脂は、セルロースエステル系誘導体であれば特に限定を受けないが、透明性に優れることから、セルロースアセテートブチレートおよび/またはセルロースアセテートプロピオネートを用いることが好ましく、さらに、アセチル含量、プロピオニル含量およびブチリル含量の総和が(A)セルロースエステル系樹脂に対して40〜99重量%であることが優れた透明性材料を得るために好ましい。さらに好ましくは、40〜60重量%である。なお、アセチル含量などの測定方法は、ASTMD 817に詳細が記述されている。
また、セルロースアセテートブチレートおよび/またはセルロースアセテートプロピオネートにおけるアセテート、プロピオネート、およびブチレートの平均置換度としては、合計で2.0以上であることが、優れた透明性材料を得るために好ましい。
【0007】
(A)セルロースエステル系樹脂として、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネートを併用する場合は、両者の割合は、重量比で、通常、0.01:99.99〜99.99:0.01、好ましくは1:99〜99:1である。
本発明に使用される(A)セルロースエステル系樹脂としては、セルロースアセテートプロピオネートは、イーストマン社製の商品名CAP−482−20が挙げられ、セルロースアセテートブチレートは、イーストマン社製の商品名CAB−381−20が挙げられる。
【0008】
(B)可塑剤:
本発明に用いられる(B)可塑剤は、スモール(Small)の方法に従って計算した溶解度パラメーターの値が9.0(cal/cm1/2を超える値、好ましくは9.0(cal/cm1/2を超え15.0(cal/cm1/2以下の可塑剤である。
ここで、Smallの方法は、液体の溶解度パラメーターから、分子を構成する原子または原子団、結合型など構成グループについて、モル吸引力(molar attraction constants)(Fi)を算出し、分子に対し、各々Fiの加成性を認め、下記式によって、溶解度パラメーター(δ)が算出される。
δ=(ΣFi)/V=(ρΣFi)/M
(式中、Vはモル容積、ρは密度、Mは分子量で高分子では繰り返し単位の値である。)
この溶解度パラメーターの算出方法の詳細は、「秋山三郎、井上隆、西敏夫共著、ポリマーブレンド −相溶性と界面−、第127頁、1987年8月25日発行、(株)シーエムシー刊」に詳述されている。
【0009】
このような(B)スモールの溶解度パラメーターが9.0(cal/cm1/2を超える可塑剤としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル系可塑剤;リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブトキシエチルなどの正リン酸エステル系可塑剤が挙げられる。
本発明の樹脂組成物において、(B)可塑剤を配合することにより、複屈折を高められるという効果を奏する。ただし、50重量%を超えると、耐熱性の低下や、可塑剤のブリード、透明性の低下が懸念される。
【0010】
(C)ソルビトール誘導体:
本発明に用いられるソルビトール誘導体としては、周知の一般的に使用されているものが挙げられる。例えば、ジベンジリデンソルビトール、ビス(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(4−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(2,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,5−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−クロロベンジリデン)ソルビトール、ベンジリデン−p−クロロベンジリデンソルビトール、ベンジリデンアルキル置換ベンジリデンソルビトールなどが挙げられる。
本発明の樹脂組成物において、(C)ソルビトール誘導体を配合することにより、複屈折を容易により高められるという効果を奏する。
【0011】
本発明の樹脂組成物において、(A)セルロースエステル系樹脂と(B)可塑剤の配合割合は、(A)成分が50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、(B)成分が50〜1重量%、好ましくは40〜5重量%[ただし、(A)+(B)=100重量%]である。
セルロースエステル系樹脂が50重量%未満では、耐熱性の低下やヘーズが高くなり、光学用フィルムまたはシートとしての機能を果たさなくなる。一方、99重量%を超えると、得られるシートの可撓性が損なわれ、割れやヒビの発生が懸念される。
また、(C)ソルビトール誘導体の配合量は、(A)〜(B)成分の合計量100重量%に対し、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。ソルビトール誘導体が0.01重量%未満では、複屈折を高められず、一方、10重量%を超えると、透明性を失う恐れがある。
また、本フィルムを延伸する際の延伸倍比は、2.5以下が好ましい。2.5を超える延伸倍比で、延伸したフィルム及びシートは、機械的強度の低下、加熱伸縮、吸湿による伸縮が大きくなり、反りの発生が懸念される。
【0012】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては特に限定を受けず、(A)セルロースエステル系樹脂と(B)可塑剤と(C)ソルビトール誘導体とをバンバリーミキサーや加圧ニーダーなどのインターナルミキサー、ロール混練機、単軸または二軸押出機などを用いて混合して得られる。この際の混合温度は、通常、120〜300℃、好ましくは150〜260℃程度である。
本発明の樹脂組成物を製造する際には、(A)セルロースエステル系樹脂をあらかじめ乾燥しておくことが望ましく、その乾燥条件は任意であり、例えば30〜90℃の温度にて30分〜3日間程度乾燥することが好ましい。また、本発明の樹脂組成物を成形加工する際にも、該樹脂組成物をあらかじめ乾燥しておくことが望ましく、その乾燥条件は任意であり、例えば30〜90℃の温度にて30分〜3日間程度乾燥することが好ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、アンチブロッキング剤、離型剤、スリップ剤、防曇剤、滑剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、耐光安定剤、耐候性安定剤、防徽剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤および酸化防止剤などを含んでいても良い。また、色調調整のために、染料や顔料を併用しても良い。
【0014】
また、必要に応じて添加される上記帯電防止剤などを樹脂組成物に添加する方法については、従来公知の方法が使用されるが、例えば、バンバリーミキサーや加圧ニーダーなどのインターナルミキサー、ロール混練機、単軸または二軸押出機などを用いて混合して得られる。
【0015】
さらに、本発明の樹脂組成物には、性能を損なわない程度に他の熱可塑性樹脂やゴム、特に生分解性樹脂と称される熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。
上記他の熱可塑性樹脂またはゴムとしては、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、エピクロロヒドリンゴムなどをブレンドすることが可能である。
【0016】
本発明の樹脂組成物の成形方法は任意であり、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、異形押出し、ブロー、射出、発泡、押出コーティング、回転成形などが挙げられ、中でも溶融押出しがフィルム成形性に優れる。フィルム成形を行う場合には、溶融樹脂の温度を180℃以上にすると押出負荷が低減するために好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物を、上記溶融押出しに準じて溶融押出したのち、弾性率(E’)が10Paでの温度で延伸倍比2.5で延伸した場合の複屈折率(Δn)は、好ましくは6.0×10−4を超える値、さらに好ましくは6.0×10−4を超え1.0.×10−1以下である。すなわち、本発明の樹脂組成物は、(A)セルロースエステル系樹脂と(B)溶解度パラメーターが9.0(cal/cm1/2を超える可塑剤を主成分とする樹脂組成物に(C)ソルビトール誘導体を加えることで複屈折を容易に高められ、位相差フィルムなどの用途に有用である。
【0018】
以上の本発明のフィルムの厚さは特に限定されないが、照明カバーや各種表示デバイスのパネル構成材料、インテリア材料などの光学材料に用いるには10mm以下が好ましく、さらに好ましくは0.001〜5mmである。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、これらは例示的なものであって、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例中の各種測定を以下に示す。
<溶解度パラメーター>
溶解度パラメーター(δ)は、下記式より算出した。
δ=(ΣFi)/V=(ρΣFi)/M
(式中、Vはモル容積、ρは密度、Mは分子量で高分子では繰り返し単位の値である。)
Fiの値は、「秋山三郎、井上隆、西敏夫共著、ポリマーブレンド −相溶性と界面−、第127頁、1987年8月25日発行、(株)シーエムシー刊」を参考にした。
<透明性>
目視にて透明性の評価を行った。
○:フィルムに濁りがない。
×:フィルムに濁りがある。
<複屈折>
ライカ社製、偏光顕微鏡を用いて、下記式より算出した。
Re=Δn(nx−ny)×d
ここで、Reはレタデーション、Δnは複屈折、nx及びnyは屈折率、dは厚さである。
【0020】
実施例1
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマン社製、商品名CAP−482−20、アセチル含量2.5重量%、プロピオニル含量46.0重量%)90重量部とTCP(リン酸トリクレジル)10重量部を内容積60ccのインターナルミキサー(東洋精機製作所社製、ラボプラストミル)にて240℃、回転数30rpmにて5分間混合し、得られた試料に、さらに、ジベンジリデンソルビトール(新日本理化社製、商品名ゲルオールD)を加え5分間混合した。得られた試料を圧縮成型機にて成形した。次いで、延伸装置として、(株)ユービーエム製、Rheogel−E4000を用いて、フィルム弾性率(E’)が10Paになる温度(125℃)で1.5倍、2.0倍、2.5倍に延伸し、各種評価に用いた。結果を表1に示す。
【0021】
実施例2〜3
セルロースアセテートプロピオネートに配合する可塑剤の種類を変える以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にしてフィルムを作製して物性を評価した。結果を表1に示す。
【0022】
比較例1〜3
表1に配合処方に従って樹脂組成物を調製し、実施例1と同様にしてフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1において、TCP,DEPは、以下のとおりである。
TCP(リン酸トリクレジル):大八化学工業社製、商品名TCP(ρ=1.170、M=368)
DEP(フタル酸ジエチル):大八化学工業社製、商品名DEP(ρ=1.120、M=222)
DBP(フタル酸ジブチル):大八化学工業社製、商品名DBP(ρ=1.048、M=278)
【0025】
表1から明らかなように、実施例1と比較例1の延伸倍比2.5でのフィルム厚みを比較すると14.7%、実施例2と比較例2では、15.1%薄くすることができた。また、比較例3は、フィルムが白濁した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の樹脂組成物から得られるフィルムは、光学的特性に優れ、植物由来で環境にやさしく、かつ薄肉化が可能であり、光学補償フィルム、位相差フィルムなどとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステル系樹脂50〜99重量%、および(B)スモール(Small)の方法に従って計算した溶解度パラメーターの値が9.0(cal/cm1/2を超える可塑剤50〜1重量%、[ただし、(A)+(B)=100重量%]に対し、(C)ソルビトール誘導体を0.01〜10重量%添加して得られる樹脂組成物。
【請求項2】
(A)セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテートブチレートおよび/またはセルロースアセテートプロピオネートである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(B)可塑剤がフタル酸エステル系可塑剤および/または正リン酸エステル系可塑剤である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物から得られる位相差フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルムが一軸延伸されている位相差フィルム。
【請求項6】
請求項4に記載のフィルムが二軸延伸されている位相差フィルム。
【請求項7】
請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物を、溶融押出したのち、弾性率(E’)が10Paでの温度で、延伸倍比2.5で延伸した場合の複屈折(Δn)が6.0×10−4を超える請求項4〜6いずれかに記載の位相差フィルム。


【公開番号】特開2009−149717(P2009−149717A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327015(P2007−327015)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000203944)太平化学製品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】