説明

樹脂組成物および水性電着塗料

【課題】 耐熱性、絶縁性、安全性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料を提供する。
【解決手段】 ポリイミド粒子5〜80重量部および親水性カチオンポリマー15〜80重量部を含み、好ましくはさらにポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を固形分換算で5〜80重量部含む樹脂組成物と、有機酸、無機酸などの酸中和剤と、水とを混合し、水性電着塗料を作製する。この水性電着塗料を用いて電着塗装することによって、平角配線10などの金属表面に、耐熱性、絶縁性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜13を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーを含む樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物を用いる水性電着塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装法は、電着塗料と呼ばれる塗料を満たした通電槽中に金属製品などの被塗装物を浸漬し、通電することによって被塗装物表面を塗装する方法であり、複雑な形状のものであっても均一に塗装を施すことができることから、電子機器分野などの種々の分野において多用されている。
【0003】
電着塗料には、その用途に応じて多種にわたる特性、たとえば塗膜の絶縁性、耐熱性、耐磨耗性などに優れることなどが求められる。特に、電子機器分野では、優れた耐熱性が要求される。
【0004】
耐熱性の向上を目的とした電着塗料としては、たとえば、ポリアミド酸をアミンなどのアルカリで中和して得られるポリアミド酸の中和塩を含み、該中和塩を陽極側に電着させるアニオン型の電着塗料組成物、ブロック共重合で閉環させたポリイミド樹脂を含み、該ポリイミド樹脂を陽極に析出させるアニオン型の電着塗料組成物などが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1などに開示の電着塗料に含まれる樹脂はアニオン型であるので、被塗装物を陽極とする必要があり、被塗装物の溶解が生じるという問題がある。このため、これらの樹脂を用いた電着塗料は、電子部品に用いられる銅、銀めっきなどの金属を塗装する際のように絶縁性が要求される塗装には使用することができない。また、これらの樹脂は、水に分散または溶解しにくいので、これらの樹脂の溶解力に優れるN−メチルピロリドン(略称NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(略称DMAc)、クレゾール類などの非プロトン性極性有機溶剤を電着塗料全量の50重量%以上と多量に併用しなければならず、安全面および環境面で問題がある。
【0006】
このように、アニオン型の樹脂を用いた電着塗料には種々の問題があることから、カチオン型の樹脂を用いた電着塗料が検討されている。たとえば、カチオン型のポリイミド樹脂を用いた電着塗料として、有機溶剤可溶性のポリイミドのワニス溶液と親水性カチオンポリマーなどの親水性ポリマーとを有機溶剤中にて溶液状態で混合して反応させ、得られた反応溶液を水性媒体と混合させて得られるポリイミド系水性分散体が提案されている(特許文献2および3参照)。
【0007】
特許文献2および3に開示のポリイミド系水性分散体は、ポリイミドワニスと親水性ポリマーとを反応させる工程を経て得られるものであるので、反応の制御が必要であり、製造工程が煩雑になるという問題がある。また反応性を考慮して材料を選択する必要があるので、使用可能な材料の種類が限定され、特性の調整が困難であるという問題もある。
【0008】
この問題を解決するための技術としては、重縮合ポリイミド樹脂、熱架橋ポリイミド樹脂および親水性カチオンポリマーの三者を所定の割合で水中に分散させることによって、重縮合ポリイミド樹脂を親水性カチオンポリマーと反応させることなく水中に分散させることが提案されている(特許文献4参照)。
【0009】
回路基板における絶縁用塗料として使用される電着塗料には、前述の耐熱性および絶縁性などに加えて、吸湿による塗膜の寸法変化が起こらないように耐湿性も求められる。回路基板の配線を覆う絶縁用の塗膜に寸法変化が生じると、配線の短絡などが生じる可能性がある。
【0010】
また、回路基板の小型化を目的として平角電線と呼ばれる矩形状の断面形状を有する電線が多用されるようになっており、電着塗料には、この平角電線の端部(以下、エッジ部とも称する)まで均一に塗装することのできること、すなわちエッジカバーリング性に優れることも求められる。
【0011】
特許文献4に開示の技術では、耐湿性およびエッジカバーリング性については考慮しておらず、耐湿性およびエッジカバーリング性をも考慮した電着塗料の開発が求められる。
【0012】
【特許文献1】特開平9−124978号公報
【特許文献2】特開平11−49951号公報
【特許文献3】特開2000−34352号公報
【特許文献4】特開2000−268235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、耐熱性、絶縁性、安全性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料、ならびに該水性電着塗料を実現可能な樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するための研究過程で、水性電着塗料中に含まれる極性有機溶剤が、吸湿による塗膜の寸法変化およびエッジカバーリング性の低下を発生させる原因になるという知見を得た。このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、水性電着塗料中における樹脂の分散性を低下させることなく、水性電着塗料中に含まれる極性有機溶剤の量を低減することのできる新規な樹脂組成物を見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、ポリイミド粒子5〜80重量部および親水性カチオンポリマー15〜80重量部を含むことを特徴とする樹脂組成物である。
【0016】
また本発明は、さらにポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を固形分換算で5〜80重量部含むことを特徴とする。
【0017】
また本発明は、ポリイミド粒子の平均粒子径が、0.02〜50μmであることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、ポリイミド粒子の平均粒子径が、2〜20μmであることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、ポリイミド粒子が、熱反応性基を有することを特徴とする。
また本発明は、熱反応性基が、アミノ基およびエポキシ基のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記本発明の樹脂組成物、酸中和剤および水を含むことを特徴とする水性電着塗料である。
【0021】
また本発明は、酸中和剤が、有機酸および無機酸のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーをそれぞれ特定量ずつ含む樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明の樹脂組成物において、ポリイミド粒子は、親水性カチオンポリマーとの絡み合いおよび相溶、ならびに親水性カチオンポリマーのポリイミド粒子表面に対する濡れ性によって、極性有機溶剤を用いなくとも水中に容易に分散される。このため、本発明の樹脂組成物を用いることによって、水性電着塗料中における極性有機溶剤の量を低減することができるので、耐湿性およびエッジカバーリング性に優れ、かつ安全性に優れ、環境への負荷の小さい水性電着塗料を実現することができる。
【0024】
また、ポリイミド粒子は、該ポリイミド粒子を含む溶液で形成される塗膜の流動性を抑えることができるので、本発明の樹脂組成物を含む溶液は被塗装物への塗着性に優れ、特に優れたエッジカバーリング性を示す。またポリイミド粒子は、耐熱性、絶縁性および機械的特性に優れるとともに耐薬品性にも優れるので、該ポリイミド粒子を含む溶液で形成される塗膜に耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を付与することができる。さらに本発明の樹脂組成物はポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーをそれぞれ特定量ずつ含むので、本発明の樹脂組成物を含む溶液は成膜後の耐熱性および絶縁性に特に優れる。
【0025】
したがって、本発明の樹脂組成物を用いることによって、被塗装物である金属表面に耐熱性、絶縁性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料を実現することができる。また、本発明の樹脂組成物は、プリプレグの調製に用いられる含浸用樹脂材料としても有用であり、たとえば本発明の樹脂組成物を適当な溶剤に溶解させた溶液を適当な基材に含浸させることによって、耐熱性、絶縁性および耐湿性に優れるプリプレグを得ることができる。また、本発明の樹脂組成物を用いることによって、キャスティング法またはスピンコート法による耐熱性、絶縁性などに優れたフィルムの作製、ディッピング法による耐熱、絶縁コーティングも可能である。
【0026】
また本発明によれば、本発明の樹脂組成物は、さらにポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を特定量含む。ポリイミドの有機溶剤溶液およびポリイミドプレポリマーの有機溶剤溶液は、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーと相溶し、ポリイミド粒子の水中への分散性を向上させることができる。また、この有機溶剤溶液中のポリイミドおよびそのプレポリマーは、これらの有機溶剤溶液を含む本発明の樹脂組成物を用いた水性電着塗料で形成される電着塗膜に共析し、塗膜を乾燥または焼付する際の加熱によって架橋反応を起こすので、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を向上させることができる。したがって、ポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を含む本発明の樹脂組成物を用いることによって、被処理金属表面に耐熱性および耐磨耗性に特に優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料を得ることができる。
【0027】
また本発明によれば、本発明の樹脂組成物に含まれるポリイミド粒子の平均粒子径は、0.02〜50μmであることが好ましい。ポリイミド粒子の平均粒子径を0.02〜50μmの範囲に選択することによって、ポリイミド粒子の水中への分散性を向上させることができる。したがって、本発明の樹脂組成物を用いた水性電着塗料によって被処理金属表面に形成される塗膜の均一性および表面平滑性を向上させることができる。また本発明の樹脂組成物を用いた水性電着塗料の保存安定性を向上させることができる。
【0028】
また本発明によれば、本発明の樹脂組成物に含まれるポリイミド粒子の平均粒子径は、2〜20μmであることがさらに好ましい。ポリイミド粒子の平均粒子径を2〜20μmの範囲に選択することによって、本発明の樹脂組成物を用いた水性電着塗料の流動性をさらに抑制し、塗膜のエッジカバーリング性を向上させることができる。
【0029】
また本発明によれば、本発明の樹脂組成物に含まれるポリイミド粒子は、熱反応性基を有することが好ましく、熱反応性基の中でもアミノ基およびエポキシ基のうちの少なくともいずれか一方を有することが好ましい。ここで、熱反応性基とは、加熱された際に、共存する他のポリイミド粒子または前述の有機溶剤溶液に含まれるポリイミドもしくはそのプレポリマーと反応することのできる官能基のことである。熱反応性基を有するポリイミド粒子を含む本発明の樹脂組成物を水性電着塗料に用いることによって、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性をさらに向上させることができる。これは、乾燥または焼付時などの加熱によって塗膜中のポリイミド粒子が架橋反応を起こし、剛直な架橋構造が形成されるためであると推察される。したがって、熱反応性基を有するポリイミド粒子を含む本発明の樹脂組成物を用いることによって、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性に特に優れる水性電着塗料を実現することができる。
【0030】
また本発明によれば、本発明の水性電着塗料は、前記本発明の樹脂組成物と、酸中和剤好ましくは有機酸および無機酸のうちの少なくともいずれか一方と、水とを含む。このことによって、被塗装物である金属表面に耐熱性、絶縁性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、(a)ポリイミド粒子5〜80重量部および(b)親水性カチオンポリマー15〜80重量部を含み、必要に応じて(c)ポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を含む。
【0032】
本発明の樹脂組成物において、ポリイミド粒子は、親水性カチオンポリマーとの絡み合いおよび相溶、ならびに親水性カチオンポリマーのポリイミド粒子表面に対する濡れ性によって、極性有機溶剤を用いなくとも水中に容易に分散される。このため、本発明の樹脂組成物を用いることによって、後述する水性電着塗料中における極性有機溶剤の量を低減することができるので、耐湿性およびエッジカバーリング性に優れ、かつ安全性に優れ、環境への負荷の小さい水性電着塗料を実現することができる。
【0033】
また、ポリイミド粒子は、該ポリイミド粒子を含む溶液で形成される塗膜の流動性を抑えることができるので、本発明の樹脂組成物を含む溶液は被塗装物への塗着性に優れ、特に優れたエッジカバーリング性を示す。またポリイミド粒子は、耐熱性、絶縁性および機械的特性に優れるとともに耐薬品性にも優れ、溶剤中でも変質しないので、該ポリイミド粒子を含む溶液で形成される塗膜に耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を付与することができる。さらに本発明の樹脂組成物はポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーをそれぞれ特定量ずつ含むので、本発明の樹脂組成物を含む溶液は成膜後の耐熱性および絶縁性に特に優れる。
【0034】
したがって、本発明の樹脂組成物を用いることによって、被塗装物である金属表面に耐熱性、絶縁性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料を実現することができる。また、本発明の樹脂組成物は、プリプレグの調製に用いられる含浸用樹脂材料としても有用であり、たとえば本発明の樹脂組成物を適当な溶剤に溶解させた溶液を適当な基材に含浸させることによって、耐熱性、絶縁性および耐湿性に優れるプリプレグを得ることができる。また、本発明の樹脂組成物は、キャスティング法、スピンコート法などによるフィルムの作製、ディッピング法によるコーティングなどに用いられる塗布用樹脂材料としても使用できる。本発明の樹脂組成物をこれらの方法に用いることによって、耐熱性、絶縁性などに優れるフィルムの作製、コーティングなどが可能である。
【0035】
(a)ポリイミド粒子
本発明において、ポリイミド粒子とは、ポリイミド樹脂を含む粒子である。ポリイミド粒子を構成するポリイミド樹脂は、オリゴマーであってもよい。ポリイミド樹脂は、熱的性質および分子構造によって以下の3種類に分類される。
【0036】
(1)直鎖型熱可塑性ポリイミド樹脂
直鎖型熱可塑性ポリイミド樹脂は、分子構造が直鎖状(リニア)であり、加熱すると軟化し、冷却すると固化するという性質を有する。
【0037】
(2)直鎖型非熱可塑性ポリイミド樹脂
直鎖型非熱可塑性ポリイミド樹脂は、分子構造が直鎖状(リニア)であるけれども、加熱してもほとんど軟化せず、明確なガラス転移点および融点を示さないという性質を有する。
【0038】
(3)熱硬化型ポリイミド樹脂
熱硬化型ポリイミド樹脂は、加熱による硬化前には分子量が小さく、加熱すると架橋によって三次元網目化して分子量が大きくなり硬化するという性質を有する。
【0039】
ポリイミド粒子を構成するポリイミド樹脂としては、特に限定されず、以上の(1)〜(3)に分類されるポリイミド樹脂の1種または2種以上を用いることができる。その中でも、(1)の直鎖型熱可塑性ポリイミド樹脂および(2)の直鎖型非熱可塑性ポリイミド樹脂が好適に用いられる。
【0040】
これらのポリイミド樹脂は、たとえば、無水テトラカルボン酸とジアミン化合物とを適当な有機溶剤中で等モル反応させてポリアミド酸を合成し、得られたポリアミド酸を脱水閉環反応させてイミド化することによって得ることができる。なお、無水テトラカルボン酸に代えて無水マレイン酸などの無水ジカルボン酸を用いてもよく、またこれらの混合物を用いてもよい。
【0041】
無水テトラカルボン酸としては、特に制限されず、ポリイミド樹脂の合成に一般に使用されるものを用いることができる。たとえば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾサルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、無水ピロメリット酸などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物などの脂環族テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物などの複素環族テトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、これらの中でも芳香族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。無水テトラカルボン酸は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0042】
ジアミン化合物としても、特に制限されず、ポリイミド樹脂の合成に一般に用いられるものを用いることができる。たとえば、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどの芳香族ジアミン、1,2−ジアミノメタンなどの脂肪族ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環族ジアミン、3,4−ジアミノピリジンなどの複素環族ジアミン、1,4−ジアミノ−2−ブタノンなどが挙げられ、これらの中でも芳香族ジアミンが好適に用いられる。ジアミン化合物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0043】
これらのうち、たとえば、無水テトラカルボン酸として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン化合物として4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることによって、前述の(1)の直鎖型熱可塑性ポリイミド樹脂を得ることができる。
【0044】
また、(2)の直鎖型非熱可塑性ポリイミド樹脂は、たとえば、無水テトラカルボン酸として無水ピロメリット酸を用い、ジアミン化合物としてp−フェニレンジアミンを用いることによって製造することができる。
【0045】
また、(3)の熱硬化型ポリイミド樹脂は、たとえば、無水テトラカルボン酸として3,3’−4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用い、無水ジカルボン酸として無水マレイン酸を用い、ジアミン化合物として4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることによって製造することができる。
【0046】
ポリイミド粒子の製造方法としては、日本接着学会誌(2002年,第38巻,第269頁)、特許第3478977号公報、特開平10−322140号公報、特開平2000−248063号公報、大阪府立産業技術総合研究所発行テクニカルシートNO.98053、高分子論文集(2000年,第57巻,5号,271頁)などに記載された方法、たとえば、ポリイミドの重合時に反応系から粒子を相分離させる化学的方法、ポリイミド固形物を機械的に粉砕する方法、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のワニス溶液を貧溶媒と混合することによって相分離させてポリアミド酸粒子を調製し、調製したポリアミド酸粒子をイミド化してポリイミド粒子を調製する方法、可溶性ポリイミドのワニス溶液を貧溶媒と混合することによって相分離させてポリイミド粒子を沈殿させる方法などが代表的なものとして挙げられる。
【0047】
これらの中でも、特許第3478977号明細書、特開平10−322140号公報、特開平2000−248063号公報、大阪府立産業技術総合研究所発行テクニカルシートNO.98053、高分子論文集(2000年,第57巻,5号,271頁)に記載された製造方法は、ナノメートルサイズからマイクロメートルサイズで粒子径が揃ったポリイミド粒子を得ることができるので、本発明において特に効果的である。
【0048】
これらの文献に記載のポリイミド粒子の製造方法によれば、ポリイミド粒子は、たとえば、ポリイミドのプレポリマーであるポリアミド酸の状態で粒子化した後、その形態を保持したまま加熱してイミド化することによって製造される。具体的には、まず原料であるジアミン化合物および無水テトラカルボン酸の各所定量を個別に反応溶媒に溶解した後、双方を混合し、超音波を照射しながら反応させ、ポリアミド酸粒子を調製する。生成したポリアミド酸粒子を遠心分離法によって分離し、反応溶媒を用いて繰返し洗浄して精製する。ジアミン化合物を溶解させる反応溶媒および無水テトラカルボン酸を溶解させる反応溶媒としては、原料であるジアミン化合物または無水テトラカルボン酸を溶解するけれども、生成物であるポリアミド酸を溶解しないものを用いる必要がある。このような溶媒としては、たとえばメタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類などが挙げられる。
【0049】
次に、得られたポリアミド酸粒子を適当な溶媒中に分散した後、3〜5時間好ましくは4時間還流してイミド化し、ポリイミド粒子を得る。イミド化反応の溶媒としては、ポリアミド酸およびポリイミドに化学的および物理的に影響を及ぼさず、かつ沸点がポリアミド酸のイミド化温度以上であり、水と共沸するものを用いることが好ましい。このような溶媒としては、たとえばキシレンなどの芳香族炭化水素類、ドデカンなどのアルコール類などが挙げられる。なお、ポリアミド酸のイミド化温度は、一般にポリイミド樹脂の製造に用いられるポリアミド酸で135℃以上である。
【0050】
また、別法として、たとえば、ポリイミドのプレポリマーであるポリアミド酸の非プロトン性極性溶剤によるワニス溶液を加熱してイミド化し、ポリイミドを粒子として沈殿生成させる方法も挙げられる。この方法では、まずジアミン化合物および無水テトラカルボン酸の各所定量を非プロトン性極性溶剤中においてたとえば室温(20〜30℃程度)で重合させてポリアミド酸のワニスを調製する。ポリアミド酸の合成反応に用いられる非プロトン性極性溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(略称DMAc)、N−メチルピロリドン(略称NMP)などが挙げられる。
【0051】
次いで、得られたポリアミド酸のワニスに所定量のトルエンなどの共沸溶媒を加え、一定速度で撹拌しながら還流してイミド化を行うことによってポリイミド粒子が得られる。ここで、共沸溶媒とは、水と共沸可能な溶媒のことである。イミド化反応の終了は、水の生成の有無で判断することができる。たとえば、還流開始から約30分間〜1時間でイミド化した粒子の沈殿が始まり、還流開始から約3時間で水の生成が終了し、約4時間でほぼ反応が終了する。反応終了後、析出したポリイミド粒子を濾過または遠心分離法によって分離し、反応溶媒、メタノール、アセトンなどで洗浄して精製する。なお、ポリアミド酸のワニスにトルエンなどの共沸溶媒を添加することは、イミド化反応に伴って生成する水を共沸によって反応系外に留去し、未反応のポリアミド酸部分の加水分解を低減するのに有効である。
【0052】
以上のようにして得られるポリイミド粒子は、本発明の樹脂組成物を用いて作製される後述の水性電着塗料に対して、耐熱性および絶縁性を付与することができる。
【0053】
なお、本発明の樹脂組成物を用いて後述する本発明の水性電着塗料を作製する際には、樹脂組成物を含む溶液は加熱されないかまたはその加熱温度がたとえば50℃程度と高くないので、ポリイミド粒子は溶融せず、水性電着塗料中においてその粒子形状が保持される。
【0054】
ポリイミド粒子の平均粒子径は、0.02〜50μm(0.02μm以上、50μm以下)であることが好ましく、より好ましくは2〜20μm(2μm以上、20μm以下)である。平均粒子径が前記範囲内にあるポリイミド粒子は、水中への分散性に優れるので、このようなポリイミド粒子を用いることによって、後述する本発明の水性電着塗料の保存安定性、ならびに塗膜の均一性および表面平滑性を向上させることができる。特に、平均粒子径が2〜20μmの範囲内にあるポリイミド粒子は、水性電着塗料の流動性を抑制する効果に優れ、塗膜のエッジカバーリング性を向上させることができるので、好適に用いられる。
【0055】
また、ポリイミド粒子の変動係数は、1〜50%(1%以上、50%以下)であることが好ましく、より好ましくは1〜20%(1%以上、20%以下)である。変動係数は、その値が小さいほど、粒子径のばらつきが小さいことを示す。変動係数が前記範囲内にあるポリイミド粒子を用いることによって、後述する水性電着塗料中におけるポリイミド粒子の分散性を向上させ、保存安定性、塗膜の均一性および表面平滑性を一層向上させることができる。
【0056】
ポリイミド粒子は、熱反応性基などの官能基を有してもよい。特に熱反応性基、好ましくはアミノ基およびエポキシ基の少なくともいずれか一方を有するポリイミド粒子は、本発明の樹脂組成物を用いた後述の水性電着塗料において、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を向上させることができるので、好適に用いられる。これは、塗膜中に含まれるポリイミド粒子の熱反応性基が、塗膜の乾燥または焼付時などの加熱によって架橋反応を起こし、塗膜中に剛直な架橋構造が形成されるためであると推察される。
【0057】
ポリイミド粒子は、固体状態で使用されてもよく、有機溶剤に分散させた分散液として使用されてもよい。
【0058】
本発明の効果を発揮させるためには、本発明の樹脂組成物中におけるポリイミド粒子の配合量は、固形分換算で5〜80重量部(5重量部以上、80重量部以下)であることが必要である。ポリイミド粒子の配合量が5重量部未満であると、水性電着塗料によって形成される塗膜に、充分な耐熱性および絶縁性を付与することができない。またポリイミド粒子の配合量が80重量部を超えると、本発明の樹脂組成物が水中に分散または溶解しにくくなる。
【0059】
ポリイミド粒子の配合量は、固形分換算で、より好ましくは5〜70重量部(5重量部以上、70重量部以下)であり、さらに好ましくは10〜60重量部(10重量部以上、60重量部以下)である。
【0060】
(b)親水性カチオンポリマー
本発明において、親水性カチオンポリマーとは、カチオン性親水基を有するポリマーのことであり、カチオン性親水基とは、水中でカチオン基を形成する親水基のことである。カチオン性親水基としては、たとえばアミノ基、1級アミノ基、2級アミノ基などの置換または無置換のアミノ基、それらの4級化塩、ヒドロキシル基などが挙げられる。
【0061】
親水性カチオンポリマーとしては、前述のカチオン性親水基を有する樹脂であれば、特に限定されず、公知のものを用いることができ、たとえば、カチオン性親水基を有するアクリル共重合体(以下、親水性アクリル共重合体と称する)、エポキシアミンアダクト樹脂などが挙げられる。
【0062】
親水性アクリル共重合体は、カチオン性親水基を有するアクリル単量体(以下、親水性アクリル単量体と称する)の2種以上を共重合させて、または親水性アクリル単量体の1種以上と、これと共重合可能なビニル単量体の1種以上とを共重合させて得られる。ここで、アクリル単量体とは、アクリル酸およびその誘導体だけでなく、メタクリル酸およびその誘導体をも含む。
【0063】
親水性アクリル単量体としては、アクリル単量体のアミノ誘導体、アクリル単量体のヒドロキシ誘導体などが挙げられる。
【0064】
アクリル単量体のアミノ誘導体としては、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアクリル酸またはアクリル酸エステルのアミノ誘導体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのメタクリル酸またはメタクリル酸エステルのアミノ誘導体、これらの単量体中のアミノ基を4級化した塩たとえばアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0065】
アクリル単量体のヒドロキシ誘導体としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルなどのアクリル酸またはアクリル酸エステルのヒドロキシ誘導体、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルなどのメタクリル酸またはメタクリル酸エステルのヒドロキシ誘導体などが挙げられる。
【0066】
親水性アクリル単量体と共重合可能なビニル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボニルなどの、カチオン性親水基を有しないアクリル酸またはアクリル酸のエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシルなどの、カチオン性親水基を有しないメタクリル酸またはメタクリル酸のエステル、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、メタクリル酸2−(パーフロロオクチル)エチル、メタクリル酸トリフロロメチル、スチレン、N−フェニルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0067】
親水性アクリル共重合体は、アクリル酸またはメタクリル酸のアミノ誘導体5〜30重量%と、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシ誘導体5〜30重量%と、1種または2種以上のビニル単量体40〜90重量%とを含む共重合体であることが好ましい。
【0068】
エポキシアミンアダクト樹脂としては、エポキシ樹脂のエポキシ基を1級または2級アミンで変性させることによって得られるものを用いることができる。エポキシアミンアダクト樹脂は、エポキシ樹脂のエポキシ基を1級または2級アミンで30〜100%変性させたものであることが好ましい。
【0069】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、市販品として入手可能であり、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(以上、いずれも商品名、油化シェル社製)などが挙げられ、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂としては、エピコート152、エピコート154(以上、いずれも商品名、油化シェル社製)などが挙げられ、グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、エピコート604(商品名、油化シェル社製)などが挙げられ、ダイマー酸型エポキシ樹脂としては、エピコート872(商品名、油化シェル社製)などが挙げられる。
【0070】
これらのエポキシ樹脂の変性に用いられる1級アミンとしては、特に制限されず、公知のものを使用でき、たとえば、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミンなどのモノアルカノールアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどのジアルキルアミノアルキルアミンなどが挙げられる。また2級アミンとしても、特に制限されず、公知のものを使用でき、たとえば、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどのジアルカノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミンなどのアルキルアルカノールアミン、ジ(n−ブチル)アミンなどのジアルキルアミンなどが挙げられる。
【0071】
親水性カチオンポリマーを添加することによって、本発明の樹脂組成物を用いて作製される後述の水性電着塗料において、ポリイミド粒子および必要に応じて溶液状態で添加されるポリイミドおよび/またはそのプレポリマーを酸性水中に分散させ、電着塗装法によって被塗装物である金属表面に析出させることができる。
【0072】
親水性カチオンポリマーは、ヒドロキシル基およびカルボキシル基のうちの少なくとも一方を有することが好ましい。これらの官能基を親水性カチオンポリマーに導入することによって、水性電着塗料として使用する場合の塗膜の加熱によって、熱反応性基を有するポリイミド粒子または有機溶剤溶液として添加されるポリイミドもしくはそのプレポリマーと架橋反応を起こさせ、塗膜の耐熱性および耐磨耗性を向上させることができる。
【0073】
親水性カチオンポリマーは、固体状態で使用されてもよく、また有機溶剤に溶解させた溶液または分散させた分散液(以下、溶液と総称する)として使用されてもよい。親水性カチオンポリマーを溶液として使用する場合、親水性カチオンポリマーは、固形分濃度40〜80重量%の水溶性有機溶剤溶液として樹脂組成物に用いられることが好ましい。
【0074】
本発明の樹脂組成物中における親水性カチオンポリマーの配合量は、本発明の効果を発揮させるためには、固形分換算で15〜80重量部(15重量部以上、80重量部以下)である必要がある。親水性カチオンポリマーの配合量が15重量部未満であると、本発明の樹脂組成物が水中に分散または溶解しにくくなる。また親水性カチオンポリマーの配合量が80重量部を超えると、ポリイミド粒子ならびに有機溶剤溶液の形態で添加される後述のポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの共析率が低下し、塗膜の耐熱性および絶縁性が得られない。
【0075】
親水性カチオンポリマーの配合量は、固形分換算で、より好ましくは15〜75重量部(15重量部以上、75重量部以下)であり、さらに好ましくは20〜70重量部(20重量部以上、70重量部以下)である。
【0076】
(c)ポリイミドおよびそのプレポリマーの有機溶剤溶液
ポリイミドの有機溶剤溶液(以下、単にポリイミド溶液とも称する)およびポリイミドプレポリマーの有機溶剤溶液(以下、単にポリイミドプレポリマー溶液とも称する)は、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーと相溶することができ、これによってポリイミド粒子の水中への分散性を向上させることができる。また、ポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を含む本発明の樹脂組成物を用いた電着塗料で電着塗装を行なうと、有機溶剤溶液中のポリイミドおよびそのプレポリマーは、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーとともに電着塗膜に共析し、塗膜の乾燥または焼付時に加熱される。この加熱によって、有機溶剤溶液の形態で添加されるポリイミド樹脂間、ポリイミドプレポリマー間およびポリイミド樹脂とポリイミドプレポリマーとの間、またはポリイミドおよび/もしくはそのプレポリマーと熱反応性基などの官能基を有するポリイミド粒子との間で架橋反応が起こり、塗膜中に架橋構造が形成される。この架橋構造は塗膜に共析された親水性カチオンポリマーとも相互作用するので、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性が向上する。
【0077】
したがって、本発明の樹脂組成物にポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を添加し、これを水性電着塗料に用いることによって、被処理金属表面に耐熱性および耐磨耗性に特に優れる塗膜を形成することのできる水性電着塗料を得ることができる。
【0078】
有機溶剤溶液の形態で添加されるポリイミド樹脂としては、有機溶剤可溶性のポリイミド樹脂が用いられる。このような有機溶剤可溶性ポリイミド樹脂としては、たとえば、以下に例示する芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを適当な有機溶剤中で等モル反応させた後、イミド化率が30〜80%になるように脱水閉環反応させてイミド化することによって得られる重縮合ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0079】
有機溶剤可溶性の重縮合ポリイミド樹脂のモノマーとして使用される芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、たとえば、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0080】
有機溶剤可溶性の重縮合ポリイミド樹脂のモノマーとして使用される芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0081】
なお、有機溶剤可溶性の重縮合ポリイミド樹脂のモノマーは、これらに限定されるものではなく、本発明の好ましい効果を損なわない範囲内で、前記以外の一般的なポリイミド樹脂のモノマーの1種または2種以上を用いてもよい。
【0082】
ポリイミド溶液に使用される有機溶剤としては、たとえば、N−メチルピロリドン(略称NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(略称DMAc)などの極性有機溶剤などが挙げられる。
【0083】
ポリイミド溶液の固形分濃度は、特に制限されず、使用されるポリイミド樹脂の種類などに応じて適宜選択できるけれども、作業性を考慮すると、5〜30重量%であることが好ましい。
【0084】
また、有機溶剤溶液の形態で添加されるポリイミドプレポリマーとしては、熱架橋ポリイミド樹脂のプレポリマーなどが挙げられる。熱架橋ポリイミド樹脂のプレポリマーとしては、たとえば、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミドなどのビスマレイミド化合物、N,N’−m−キシレンビスナジイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスアリルナジイミドなどのビスナジイミド化合物などが挙げられる。これらのプレポリマーは、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0085】
ポリイミドプレポリマー溶液に使用される有機溶剤としては、たとえば、N−メチルピロリドン(略称NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(略称DMAc)などの極性有機溶剤などが挙げられる。
【0086】
ポリイミドプレポリマー溶液の固形分濃度は、特に制限されず、使用されるプレポリマーの種類などに応じて適宜選択できるけれども、作業性を考慮すると、5〜80重量%であることが好ましい。
ポリイミド溶液およびポリイミドプレポリマー溶液は混合されて使用されてもよい。
【0087】
本発明の樹脂組成物中において、ポリイミドおよびそのプレポリマーの有機溶剤溶液の配合量は、その合計量が、固形分換算で5〜80重量部(5重量部以上、80重量部以下)であることが好ましく、より好ましくは5〜70重量部(5重量部以上、70重量部以下)であり、さらに好ましくは10〜60重量部(10重量部以上、60重量部以下)である。
【0088】
ポリイミドおよびそのプレポリマーの有機溶剤溶液の合計配合量が5重量部未満であると、塗膜の耐熱性および耐磨耗性が低下する可能性があり、80重量部を超えると、本発明の樹脂組成物が水中に分散または溶解しにくくなる可能性がある。
【0089】
〔水性電着塗料〕
本発明の水性電着塗料は、以上に述べた本発明の樹脂組成物、酸中和剤および水を含む。
【0090】
本発明の樹脂組成物は、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーを含むので、ポリイミド粒子間、親水性カチオンポリマー間、ポリイミド粒子と親水性カチオンポリマーとの間などの樹脂間の絡み合い、相溶および濡れ性によって水中への分散が可能であり、電着塗料化することができる。
【0091】
本発明の樹脂組成物の使用量は、水性電着塗料1リットルに対して、20〜250g(20g以上、250g以下)であることが好ましく、より好ましくは50〜200g(50g以上、200g以下)である。
【0092】
本発明において、酸中和剤とは、本発明の樹脂組成物に含まれるポリイミド粒子、親水性カチオンポリマーなどの成分の有する塩基性基を中和可能な酸性物質のことである。酸中和剤は、本発明の樹脂組成物の水性電着塗料中における分散性を向上させる目的で添加される。
【0093】
酸中和剤としては、乳酸、酢酸、蟻酸、コハク酸、酪酸などの有機酸、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸などが挙げられる。酸中和剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0094】
酸中和剤の使用量は、水性電着塗料1リットルに対して、0.2〜8g(0.2g以上、8g以下)が好ましく、0.5〜7gがより好ましく、1〜6gがさらに好ましい。
【0095】
本発明の水性電着塗料は、たとえば、前述のポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーの各適量、ならびに必要に応じてポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液の適量を混合して樹脂組成物を調製した後、樹脂組成物の適量に酸中和剤の適量を加えて中和し、全量が所望の水性電着塗料の体積たとえば1リットルになるように水を加え、溶解または分散させることによって製造することができる。
【0096】
以上のようにして得られる本発明の水性電着塗料は、ポリイミド粒子を含むので、被塗装物である金属表面に膜強度、耐熱性、絶縁性およびエッジカバーリング性に優れる塗膜を形成することができる。また本発明の樹脂組成物は、ポリイミド粒子および親水性カチオンポリマーをそれぞれ特定量ずつ含むので、塗装膜の耐熱性および絶縁性に特に優れる。
【0097】
またポリイミド粒子は、極性有機溶剤を用いることなく水中に容易に分散させることができるので、水性電着塗料中における極性有機溶剤の量を低減する、または極性有機溶剤を含まない水性電着塗料を実現することができる。したがって、本発明の水性電着塗料は、耐湿性およびエッジカバーリング性に優れる塗膜を形成することができ、かつ安全面および環境面についても優れた特性を有している。
【0098】
また、本発明の水性電着塗料に添加する樹脂組成物として、ポリイミド樹脂の有機溶剤溶液およびポリイミドプレポリマーの有機溶剤溶液の少なくともいずれか一方を含むものを用いることによって、塗膜の耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を向上させることができる。さらに、ポリイミド粒子にアミノ基、エポキシ基などの熱反応性基を導入することによって、耐熱性、絶縁性および耐磨耗性を一層向上させることができる。またポリイミド粒子の粒径を調整することによって、塗装膜に種々の機能および特性を付与することができる。
【0099】
本発明の水性電着塗料は、たとえば、銅、銅合金、ニッケルなどの各種金属表面の電着塗装に好適に用いられる。
【0100】
本発明の水性電着塗料を用いる金属表面の電着塗装は、本発明の水性電着塗料を用いること以外は、従来の方法と同様に以下のようにして実施できる。
【0101】
まず、少なくともその表面の一部または全部が任意の1種または2種以上の金属から成る被塗装物に対して、脱脂処理を施す。脱脂処理は、公知の方法に従い、たとえば、被塗装物の表面にアルカリ水溶液を供給することによって実施される。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、被塗装物の表面にアルカリ水溶液を噴霧するか、または被塗装物をアルカリ水溶液に浸漬することによって行なわれる。アルカリとしては、金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液のpHは、被処理金属の種類および被塗装物の汚れ度合などに応じて適宜選択されるけれども、好ましくはpH8〜10程度である。また、アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、使用されるアルカリの種類および所望のpHの値などに応じて適宜決定される。脱脂処理は、たとえば、被塗装物をアルカリ水溶液に浸漬する場合には、アルカリ水溶液の液温が20〜50℃程度の条件下で行なわれ、1〜5分間程度で終了する。脱脂処理が施された被塗装物は、水洗され、次の中和工程に供される。
【0102】
中和工程における中和処理は、公知の方法に従い、たとえば、被塗装物の表面に酸水溶液を供給することによって実施される。酸水溶液は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、被塗装物表面への酸水溶液の噴霧、被塗装物の酸溶液中への浸漬などによって供給される。酸としては、アルカリの中和に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、脱脂処理に使用されるアルカリ水溶液中のアルカリ濃度および被処理金属の種類などに応じて適宜選択される。中和処理は、たとえば、被塗装物を酸水溶液に浸漬する場合には、酸水溶液の液温が20〜30℃程度の条件下に行なわれ、15秒〜60秒(1分間)程度で終了する。中和処理が施された被塗装物は、水洗され、次の電着塗装工程に供される。
【0103】
電着塗装工程では、本発明の水性電着塗料によって被塗装物に電着塗装を施す。電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、本発明の水性電着塗料を満たした通電槽中に被塗装物を完全または部分的に浸漬し、この状態で通電することによって実施される。電着塗装条件は、特に制限されず、本発明の水性電着塗料の組成、被塗装物である金属の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られる塗装物の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは、電着塗料の液温10〜50℃程度、印加電圧10〜250V程度、電圧印加時間1〜10分間程度である。塗装が施された被塗装物は、通電槽から取出され、水洗され、次の乾燥工程に供される。
【0104】
乾燥工程では、水洗後の被塗装物を加熱して乾燥させる。乾燥条件は、特に制限されず、広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは、50〜130℃程度の温度下で、10〜30分間程度である。次いで、被塗装物の表面に形成された塗膜を焼付け、被塗装物表面に定着させる。焼付けの条件は、処理対象の金属の種類、電着塗装で用いられる本発明の水性電着塗料の組成などに応じて適宜選択されるけれども、好ましくは、120〜260℃程度の温度下で、10分〜1時間程度である。以上のようにして、金属表面に塗膜が形成された物品が得られる。
【0105】
本発明の水性電着塗料の用途としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)マグネットワイヤーにおける耐熱絶縁用塗料
モーター、トランスなどの電気エネルギーを磁気エネルギーに変化するコイル用の絶縁被膜には、優れた耐熱性および密着性が要求される。このため、コイル用の絶縁被膜を形成する場合には、ポリイミドワニス、ポリアミドイミドワニスなどを10層程度塗布する多層コーティングを行なう必要がある。これに対し、本発明の水性電着塗料は、1度の塗装処理にて優れた耐熱性を有する絶縁被膜を形成することが可能である。また、電気泳動法による膜形成法であるので、形成された絶縁被膜はコイル材との密着性にも優れる。したがって、本発明の水性電着塗料を用いることによって、製造工程の簡略化および大量生産が可能となる。
【0106】
(2)回路基板の絶縁用塗料
電子機器の分野では、集積回路(略称IC)チップ、ハードディスク(略称HD)ドライブなどの動作速度および集積度の向上、回路パターンの微細化および複雑化などに伴い、必要な部位に必要な耐熱性および絶縁性を有する絶縁膜を形成できる耐熱性絶縁コーティング技術が求められる。また回路基板上に形成される絶縁膜には、基板材料の耐久性として湿度による寸法変化が起こらないことが求められる。
【0107】
本発明の水性電着塗料によって形成される塗膜は、優れた耐熱性および絶縁性を有するので、所望の耐熱性および絶縁性を実現するの必要な絶縁膜の寸法を低減することができ、回路パターンに対応した所望の部位のみに絶縁膜を形成することが可能である。また本発明の水性電着塗料は、湿度による寸法変化の大きな要因であるDMF、NMPなどの極性有機溶剤をほとんど含まない組成にすることが可能であるので、湿度の影響をほとんど受けない基板絶縁膜形成が可能である。したがって、本発明の水性電着塗料を用いることによって、微細なパターンでの大面積部品のバッチ処理などの新たな工法が実現できる。
【0108】
(3)摺動部品の耐熱耐磨耗用塗料
モーター、家電製品などの可動部材として使用される摺動部品には、耐熱性および耐磨耗性を向上させるために、耐熱耐磨耗性塗装が施される。この耐熱耐磨耗性塗装としては、従来、ふっ素樹脂、ポリイミドワニスなどの吹付け法による耐熱耐磨耗性塗装(コーティング)が行なわれているけれども、部品の短小軽薄化に伴って従来のコーティング技術では対応しきれなくなりつつある。また、従来の耐熱耐磨耗性コーティングでは、部品と塗膜との密着性を上げるために、コーティングの前処理としてサンドブラスト処理などの表面を粗化する処理が必要であり、微細な部品の塗装が困難である。
【0109】
本発明の水性電着塗料は、電気泳動法によるコーティング技術であるので、複雑な形状の物品にも均一に塗装を施すことが可能である。また本発明の水性電着塗料は、優れた耐磨耗性を有する塗膜を形成することができ、またふっ素樹脂粒子を添加することによって耐磨耗性の更なる向上を実現できる。さらに塗装前に部品の表面を粗化する処理が不要であるので、微細化した部品の大量生産が可能となる。
【実施例】
【0110】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
なお、本実施例における各物性値は、以下のようにしてそれぞれ測定した。
【0111】
(1)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点は、示差走査熱量分析装置(商品名:DSC220CV、セイコーインスツルメンツ株式会社製)によって求めた。測定は、窒素雰囲気下において、昇温速度20℃/分、窒素流入量50mL/分の条件下で行なった。得られたDSC曲線の吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。また、DSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0112】
(2)熱分解温度
熱分解温度は、熱重量分析装置(商品名:TG/DTA320V、セイコーインスツルメンツ株式会社製)によって求めた。測定は、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分、窒素流入量200mL/分の条件下で行なった。得られたTGA曲線において、加熱開始前の質量を通る横軸に平行な直線と、屈曲点間の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度を熱分解温度とした。
【0113】
(3)平均粒子径および変動係数
ポリイミド粒子の平均粒子径および変動係数は、以下のようにして求めた。
【0114】
まず、ポリイミド粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、そのSEM写真から任意の100個の粒子を選び出し、これらの粒子径の平均を下記数式(1)に従って求め、これを平均粒子径Xとした。
平均粒子径X=(1/n)ΣXi …(1)
(式(1)において、nは測定データ数を示し、Xiは測定データ値を示す。)
【0115】
次いで、得られた平均粒子径Xの値に基づいて、下記数式(2)および(3)に従い、標準偏差Sを求め、さらに下記数式(4)に従って変動係数Cを求めた。
分散S=[1/(n−1)](ΣXi−X・ΣXi) …(2)
標準偏差S=(S1/2 …(3)
変動係数C=(S/X)×100 …(4)
【0116】
(4)対数粘度および粘度
対数粘度および粘度は、粘度測定装置(商品名:B8H型粘度計、株式会社トキメック製)を用いて、温度25℃において測定した。
【0117】
実施例および比較例では、以下に示すポリイミド粒子A−1およびA−2、ポリイミドプレポリマー溶液B−1、ポリイミド溶液B−2、親水性カチオンポリマーC−1およびC−2を用いた。以下に示す各樹脂の構造の確認は、FT−IRによって行なった。
【0118】
(製造例1)ポリイミド粒子A−1の製造
ポリイミド粒子A−1は、以下のようにして製造した。
【0119】
2,4,6−トリアミノピリミジン7.5g(0.06mol)をメタノール150mLに溶解させた溶液に、4,4’−ジアミノフェニルエーテル48g(0.24mol)をアセトン800mLに溶解させた溶液を加えた後、この混合溶液を、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物96.67g(0.3mol)をアセトン750mLに溶解させた溶液に加え、超音波を照射しながら30分間反応させた。超音波発生装置には、株式会社エスエムティー製のSC−650N(商品名、出力600W、発信周波数28kHz±10%)を用いた。反応終了後、沈殿として生成したポリアミド酸粒子を遠心分離器で単離し、キシレンで繰返し洗浄した。
【0120】
得られたポリアミド酸粒子100gをn−ドデカン500mL中に分散させた後、マグネティックスターラーで攪拌しながら4時間還流した。このとき、イミド化に伴い副生成する縮合水をn−ドデカンとの共沸によって反応系外に留去しながら反応を進めた。反応終了後、生成したポリイミド粒子を遠心分離法によって単離し、反応溶媒およびアセトンで洗浄することによって精製した。
【0121】
以上のようにして、粒子表面にアミノ基を有するポリイミド粒子A−1を製造した。得られたポリイミド粒子A−1は、平均粒子径が1094nm(1.094μm)、変動係数が5.8%、ガラス転移点が320℃、熱分解温度が542℃であった。
【0122】
(製造例2)ポリイミド粒子A−2の製造
ポリイミド粒子A−2は、以下のようにして製造した。
【0123】
3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)0.24モルと、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)0.12モルと、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン(MAPS−M)0.12モルとを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1200mL中にて、窒素ガス雰囲気下、常温で24時間撹拌して反応させ、ポリイミドのプレポリマーであるポリアミド酸を溶液状態で得た。
【0124】
得られたポリアミド酸溶液1200mLにトルエン240mLを加え、還流させて反応させた。反応容器には2000mLセパラブルフラスコを用い、還流冷却器とセパラブルフラスコとの間には検水管を取付け、錨型攪拌棒を毎分360回転(360rpm)の速度で回転させて攪拌しながら反応させた。このとき、イミド化反応に伴って副生成する水をトルエンとの共沸によって反応系外の検水管にトラップし、トルエンをオーバーフローによってフラスコ中に戻しながら反応を行なった。反応の終了は副生成物である水の生成の有無で判断した。本製造例では、還流開始から約3時間で水の生成が終了した。水の生成が終了してからさらに約1時間還流を続け、合計約4時間還流を行なった。反応終了後、析出したポリイミド粒子を遠心分離器によって分離し、反応溶媒であるトルエン、メタノールおよびアセトンで洗浄することによって精製した。
【0125】
以上のようにして、ポリイミド粒子A−2を製造した。得られたポリイミド粒子A−2は、平均粒子径が5880nm(5.880μm)、変動係数が17.3%、融点が372℃、ガラス転移点が246℃、熱分解温度が541℃であった。
【0126】
(製造例3)ポリイミドプレポリマー溶液B−1の製造
N,N’−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドをN−メチルピロリドンに溶解させ、固形分濃度75重量%の熱架橋ポリイミド樹脂のプレポリマー溶液を作製し、これをポリイミドプレポリマー溶液B−1とした。
【0127】
(製造例4)ポリイミド溶液B−2の製造
ポリイミド溶液B−2として、重縮合ポリイミド樹脂の有機溶剤溶液を以下のようにして製造した。
【0128】
ジムロート還流管を備えた4ツ口フラスコに、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物0.5モルと、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.5モルとを加え、N−メチルピロリドンで不揮発分20重量%に希釈し、25℃にて24時間撹拌して反応させ、ポリアミド酸を合成した。得られたポリアミド酸を含む溶液にトルエン30gを添加し、140℃で4時間還流させ、脱水反応にて生成した水をトルエンとの共沸によって反応系外に除去しながら脱水閉環反応を行ない、固形分濃度20重量%、対数粘度0.6の褐色透明のポリイミド溶液B−2を得た。
【0129】
(製造例5)親水性カチオンポリマーC−1の製造
親水性カチオンポリマーC−1は、以下のようにして製造した。
【0130】
まず、N―フェニルマレイミド25g、メタクリル酸メチル20g、アクリル酸2−ヒドロキシエチル30g、アクリル酸n−ブチル15g、メタクリル酸ジメチルアミノエチル25g、スチレン25gおよび重合開始剤であるベンゾインパーオキサイド1gを混合し、モノマー混合物を調製した。次いで、ジムロート還流管を備えた4ツ口フラスコにジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル60gを入れ、加熱還流を行った後、4ツ口フラスコに滴下ロートを取付け、モーターで撹拌しながら、前述のモノマー混合物を8分割したものを10分間隔で滴下ロートから滴下し、温度75℃で5時間反応させた。その後、ベンゾインパーオキサイドを0.1g添加し、さらに約1時間モノマー臭がなくなるまで還流させ、固形分濃度70重量%、温度25℃における粘度20Pa・s(20,000cps)、MEQ90の黄色透明な樹脂溶液として親水性カチオンポリマーC−1を得た。ここで、MEQとは、mg equivalentの略称であり、溶液の固形分100g当たりの中和剤(酸)のmg当量である。
【0131】
(製造例6)親水性カチオンポリマーC−2の製造
親水性カチオンポリマーC−2は、以下のようにして製造した。
【0132】
ジムロート還流管を備えた4ツ口フラスコに、エポキシ樹脂(商品名:エピコート1001、油化シェル社製)500gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル300gを入れて溶解させた。前述の4ツ口フラスコに滴下ロートを取付け、液温を90℃に保ち、モーターで撹拌しながら、ジエタノールアミン180gを滴下ロートから60分間で滴下した。滴下終了後、液温120℃にて90分間加熱し、固形分濃度70重量%、温度25℃における粘度13Pa・s(13,000cps)、MEQ180の黄色透明な樹脂溶液として親水性カチオンポリマーC−2を得た。
【0133】
[実施例]
(1)水性電着塗料の作製
(実施例1〜8)
実施例1〜8では、以下のようにして水性電着塗料を作製した。
【0134】
成分Aとして、表1に示すポリイミドプレポリマー溶液またはポリイミド溶液と親水性カチオンポリマーとを表1に示す割合で用い、液温を50℃として2時間混合した。次いで、成分Bとして表1に示すポリイミド粒子を表1に示す割合で加え、この溶液に表1に示す割合でガラスビーズを加え、ディスクの回転数を毎分3000回転に設定してビーズミルで1時間混合し、本発明の樹脂組成物を得た。
【0135】
次いで、酸中和剤として乳酸を表1に示す割合で加え、室温で30分間混合して中和した。この溶液に、全量が1リットルになるように純水を2時間かけて投入し、樹脂組成物を水中に分散させた。以上のようにして、本発明の要件を全て満足する実施例1〜8の水性電着塗料を作製した。
【0136】
(比較例1)
樹脂組成物として、表1に示す成分Aのポリイミドプレポリマー溶液および親水性カチオンポリマーを、表1に示す割合で液温を50℃として2時間混合したものを用い、成分Bを用いないこと以外は、実施例1〜8と同様にして、比較例1の水性電着塗料を作製した。すなわち、比較例1は、ポリイミド粒子を用いていないものである。
【0137】
(比較例2)
樹脂組成物として、表1に示す成分Aのポリイミド溶液および親水性カチオンポリマーを表1に示す割合で、液温を50℃として2時間混合したものを用い、成分Bを用いないこと以外は、実施例1〜8と同様にして、比較例2の水性電着塗料を作製した。すなわち、比較例2は、ポリイミド粒子を用いていないものである。
【0138】
表1に、各実施例および比較例における各成分の量、混合条件および水転条件を示す。また表1に、作製した水性電着塗料に含まれる極性有機溶剤濃度、水性電着塗料のpH、電導度(測定温度25℃)および外観を示す。なお、表1に示す各成分の配合量は、水性電着塗料1リットル中に含まれるグラム数(固形分重量)である。また、使用していない成分については、「−」と記載する。
【0139】
【表1】

【0140】
表1から、実施例1〜8の本発明の水性電着塗料における極性有機溶剤濃度は、1.50%と低濃度であり、安全性が高く、環境に対する影響も小さくなっていることが判る。
【0141】
(2)電着塗装実験
塗膜の特性評価を行なうために、以下のようにして試験片への電着塗装を行った。
【0142】
実施例1〜8および比較例1,2で得られた水性電着塗料1リットルを通電槽に入れ、液温を25℃に保持し、電着塗装を行なった。陽極にはカーボン板を使用し、陰極には試験片である銅板(寸法50×50mm)を使用した。具体的な工程を図1に示す。
【0143】
まず、工程(a)において試験片である銅板を液温50℃の弱アルカリ水溶液(pH8)を用いて5分間脱脂を行ない、工程(b)で水洗した。次いで、工程(c)において、濃度1%の硝酸を用いて室温下で1分間の中和を行ない、工程(d)で水洗した。
【0144】
次いで、工程(e)においてイオン交換水で水洗し、工程(f)において、電極間に電圧100Vを1分間印加し、電着塗装を行なった。次いで、工程(g)で水洗し、工程(h)で温度100℃にて15分間乾燥した後、最後に工程(i)で温度180℃にて30分間焼付けを行なった。
【0145】
以上のようにして塗装された試験片(以下、塗装試料板と称する)について、膜厚(JIS K5400 3.5)、外観(目視)、鉛筆硬度(JIS K5400 8.4.2)、碁盤目剥離試験(JIS K5400 8.5.1)、ガラス転移点(DSC(
Differential Scanning Calorimetry)測定)、体積抵抗値、耐熱減量(窒素雰囲気におけるTG−DTA(熱重量示差熱分析)測定)および耐熱試験(220℃で100時間加熱前後の絶縁耐圧測定)を評価した。なお、DSC測定およびTG−DTA測定は、前述の示差走査熱量分析装置および熱重量分析装置を用いてそれぞれ行なった。
【0146】
また、塗装試験板について、以下のようにして吸湿率を求めた。まず、塗装試験板を温度85℃、相対湿度85%(85RH%)の密閉された容器中に1000時間放置する吸湿試験を行なった。吸湿試験後の塗装試験板の重量W2から吸湿試験前の塗装試験板の重量W1を差引いた値(W2−W1)を吸湿量ΔWとして求め、この値の吸湿試験前の塗装試験板の重量W1に対する重量百分率(ΔW/W1×100)を吸湿率(%)として求めた。
【0147】
また、塗装試験板と同様にして、銅平角電線(幅1.5mm×厚み0.1mm、長さ300mm)に対して電着塗装を行ない、エッジカバーリング試験に供した。なお、平角電線への電着塗装は、図2に示す平坦部11の膜厚D1が10μmになるように、電着塗装時の印加電圧を設定して行なった。塗装された平角電線10の断面を観察し、図2に示すエッジ部12の膜厚D2を測定した。
以上の評価結果を表2に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
表2から、膜厚については、実施例1〜8および比較例1,2の塗料のいずれも8〜15μmの範囲であった。また実施例1〜8および比較例1,2のいずれも平滑な外観が得られた。また鉛筆硬度試験では、実施例1〜8および比較例1〜2の塗料のいずれも4Hであった。また碁盤目剥離試験でも、実施例1〜8および比較例1〜2の塗料のいずれも100/100であった。
【0150】
ガラス転移点は、実施例1〜4については275〜284℃、実施例5〜8については240〜255℃であった。また比較例1の塗料ではガラス転移点は240℃であり、比較例2の塗料ではガラス転移点は210℃であった。実施例1〜4の塗料で形成された塗膜の方が実施例5〜8の塗料で形成された塗膜よりも高いガラス転移点を示したのは、実施例1〜4の塗料に含まれるポリイミド粒子中のアミノ基が熱処理中に架橋反応を起こした結果、より剛直な架橋構造が形成されたためであると推察される。また、実施例5〜8については、実施例1〜4に比べるとややガラス転移点は劣るけれども、比較例2に比べると高いガラス転移点となった。これは、実施例5〜8の塗料は、ポリイミド粒子を大量に含むので、比較例2の塗料よりも高いガラス転移点を得ることができたものと推察される。
【0151】
体積抵抗値は、実施例1〜8および比較例1,2の塗料のいずれも、1×1016Ω・cmを超える値が得られた。
【0152】
耐熱減量については、実施例1〜4では2%以下、実施例5〜8では2.25〜2.5%となり、比較例1の3.50%、比較例2の5.30%よりも優れた値を示した。これは、本発明の水性電着塗料における樹脂組成および塗膜で形成される架橋構造の影響が現れているものと推察される。
【0153】
耐熱試験では、実施例1〜8および比較例1,2の塗料のいずれも220℃の加熱前後で変化が無く、かつ1.1〜1.5kVと充分な絶縁性を示した。
【0154】
また、吸湿率については、実施例1〜8で極めて低い結果となった。これは、実施例1〜8の塗料では極性有機溶剤の濃度が低いためであると考えられる。
【0155】
一方、エッジカバーリング試験では、実施例1〜8の塗料において、比較例1,2に比べ、平坦部の膜厚D1とエッジ部の膜厚D2との差が小さく、エッジカバーリング性に優れる結果となった。これに対し、比較例1および2の塗料では、実施例1〜8に比べ、エッジカバーリング性がかなり劣っていることが判明した。これは、比較例1および2では、ポリイミド粒子を含まず、また含有される極性有機溶剤の量が多いので、塗膜に含まれる溶剤によって塗膜の流動が激しく起こったためであると考えられる。特に比較例2については、実施例1〜8に比べ、塗膜において熱架橋反応の起こる温度が高いので、熱架橋反応によって塗膜が硬化するよりも前に塗膜が流動してエッジ部が露出したものと考えられる。
【0156】
また、実施例1〜8の中でも、特に実施例5〜8においてエッジ部の膜厚D2が平坦部の膜厚D1と同程度に維持されていることが判明した。これは、実施例1〜4の塗料に含まれるポリイミド粒子に比べ、実施例5〜8の塗料に含まれるポリイミド粒子の平均粒子径が大きく、塗膜の流動性を抑えたためであると考えられる。これに対し、実施例1〜4については、平坦部の膜厚D1が10μmであるのに対し、エッジ部の膜厚D2は6〜7μmとやや小さい結果となった。これは、実施例5〜8の塗料に比べ、ポリイミド粒子の平均粒子径がやや小さく、塗膜の流動性への寄与がやや小さいためであると推察される。
【0157】
以上のように、本発明の樹脂組成物を用いた本発明の水性電着塗料は、被塗装物である金属表面に耐熱性、絶縁性、耐湿性およびエッジカバーリング性のいずれにも優れる塗膜を形成することができ、かつ安全面および環境面においても優れた特性を有していることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】電着塗装試験における電着塗装の工程図である。
【図2】エッジカバーリング試験に供する塗装された平角電線10の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0159】
10 平角電線
11 平坦部
12 エッジ部
13 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド粒子5〜80重量部および親水性カチオンポリマー15〜80重量部を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
さらにポリイミドおよび/またはそのプレポリマーの有機溶剤溶液を固形分換算で5〜80重量部含むことを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリイミド粒子の平均粒子径が、0.02〜50μmであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリイミド粒子の平均粒子径が、2〜20μmであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリイミド粒子が、熱反応性基を有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
熱反応性基が、アミノ基およびエポキシ基のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載の樹脂組成物、酸中和剤および水を含むことを特徴とする水性電着塗料。
【請求項8】
酸中和剤が、有機酸および無機酸のうちの少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項7記載の水性電着塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52268(P2006−52268A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233566(P2004−233566)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】