説明

樹脂組成物を成形して得られる成形体及び該成形体の製造方法

【課題】 成形性の良好な樹脂組成物を用いた、高熱伝導性を有する成形体及び該成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該熱可塑性樹脂の含有量が15重量%以上75重量%以下であり、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該異方性形状の熱伝導性フィラーの含有量が25重量%以上85重量%以下である樹脂組成物を、射出圧縮成形して得られることを特徴とする、成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を射出圧縮成形して得られる成形体及び該成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、溶融成形が可能な樹脂であり、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性等の性質のバランスがよく、電気・電子分野、精密機械分野、自動車分野、保安・医療分野、食品・雑貨分野等の幅広い分野で用いられている。特に、OA分野、電気・電子分野、精密機械分野、自動車分野での需要が伸びている。
【0003】
これらの分野においては、ほとんどの機器が発熱する部品を搭載している。特に近年では装置・部品の高性能化に伴い消費電力量が増え、部品からの発熱量が増大する傾向にあるため、機器が局部的に高温になることによる誤動作等のトラブルの発生が懸念されている。そのため、熱伝導性が要求される部分の筐体やシャーシ、放熱板等には、通常、熱を拡散させやすい金属材料が広く用いられている。しかし、金属材料は、熱伝導性に優れる反面、成形が困難であり、また製造コストが高くなるという課題があるため、金属材料に代わる優れた熱伝導性を有する材料の開発が望まれている。
【0004】
また、OA、電気・電子部品では、絶縁性を求められる用途も多く、高い熱伝導性と絶縁性を併せ持つ材料が望まれている。
【0005】
このような材料として、例えばポリフェニレンスルフィド樹脂とα−アルミナの球状粒子を含有する樹脂組成物が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−158512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の樹脂組成物においては、熱伝導性を向上させるために、高価なα−アルミナ球状粒子を比較的多量の添加させており、その成形性が低下する傾向にあった。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、成形性の良好な樹脂組成物を用いた、絶縁性と高熱伝導性とを兼ね備えた成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究したところ、熱伝導性フィラーを用いて熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物に熱伝導性を付与する際に、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を射出圧縮成形法により成形することにより、熱伝導性を向上させることができることを見出したものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該熱可塑性樹脂の含有量が15重量%以上75重量%以下であり、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該異方性形状の熱伝導性フィラーの含有量が25重量%以上85重量%以下である樹脂組成物を、射出圧縮成形して得られることを特徴とする、成形体に存する(請求項1)。
【0011】
このとき、前記異方性形状の熱伝導性フィラーが平均アスペクト比2以上100以下の異方性形状の熱伝導性フィラーであることが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、前記異方性形状の熱伝導性フィラーが絶縁性のフィラーであることが好ましい(請求項3)。
【0013】
さらに、前記異方性形状の熱伝導性フィラーがアルミニウム化合物のフィラーであることが好ましい(請求項4)。
【0014】
さらに、前記アルミニウム化合物のフィラーがアルミナフィラーであることが好ましい(請求項5)。
【0015】
さらに、前記成形体を自動車用部材として用いることが好ましい(請求項6)。
【0016】
本発明の別の要旨は、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を射出圧縮成形することを特徴とする、成形体の製造方法に存する(請求項7)。
【0017】
本発明の別の要旨は、上記の成形体の製造方法であって、前記成形体における、前記射出圧縮成形により圧縮される方向の熱伝導率が、前記樹脂組成物を圧縮せずに射出成形して得られる成形体の同方向の熱伝導率よりも高いことを特徴とする、成形体の製造方法に存する(請求項8)。
【発明の効果】
【0018】
異方性形状の熱伝導性フィラーを用いて熱可塑性樹脂組成物の成形体に熱伝導性を付与する際に、射出圧縮成形法を用いることで、成形性の良好な樹脂組成物を用いた、高熱伝導性を有する成形体を提供することができる。また、上記の熱可塑性樹脂組成物を射出圧縮形成法により成形することにより、射出圧縮成形時に圧縮される方向の熱伝導率を、圧縮せずに射出成形した場合の熱伝導率より高くすることが可能となるため、所望の熱配向性付与による排熱設計が可能な成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1a及び図1bは、射出圧縮成形機100を圧縮方向に対して垂直な方向から見た断面の概略図である。
【図2】図2a及び図2bは、射出圧縮成形機101を圧縮方向に対して垂直な方向から見た断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本願発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
[1.樹脂組成物]
本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を成形して得られる。以下、本発明に係る熱可塑性樹脂及び本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーについて説明する。
【0022】
[1−1.熱可塑性樹脂]
本発明に係る熱可塑性樹脂は、溶融成形が可能な樹脂であれば限定されず、結晶性樹脂でも非晶性樹脂でもよい。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリカーボネート及び脂肪族ポリカーボネートなどのポリカーボネート類;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;ナイロンなどのポリアミド類;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン類;ポリオキシエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド及びこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0024】
これらの内、結晶性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステルエラストマー及びこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0025】
また、非晶性樹脂としては、ポリカーボネート類、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド等及びこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0026】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の結晶性樹脂が好ましく、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0027】
なお、これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0028】
熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合のその融点、又は熱可塑性樹脂が非晶性樹脂である場合のそのガラス転移点(Tg)は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、耐熱性の点では高い方が好ましく、通常100℃以上、好ましくは140℃以上、さらに好ましくは160℃以上がよい。また、上限は、通常400℃である。
【0029】
なお、代表的な樹脂のガラス転移点(Tg)又は融点は、高密度ポリエチレンが132℃、ポリプロピレンが167℃、ポリブチレンテレフテレートが224℃、ナイロン6が225℃、ポリカーボネートが250℃、ポリエチレンテレフタレートが256℃、ナイロン66が267℃、ポリフェニレンサルファイドが280℃、液晶性ポリマーが285℃、ポリイミドが300℃超である。
【0030】
[1−2.異方性形状の熱伝導性フィラー]
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーは、本発明に係る樹脂組成物の熱伝導性を向上させる材料である。
【0031】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーの熱伝導率は、本発明の成形体の熱伝導率向上の観点では高い方が好ましく、通常5W/m・K以上、好ましくは30W/m・K以上、さらに好ましくは70W/m・K以上がよい。また、一方、経済性及び入手のしやすさの観点では低い方が好ましく、通常500W/m・K以下、好ましくは300W/m・K以下、さらに好ましくは200W/m・K以下がよい。
【0032】
なお、本発明において熱伝導性フィラーの熱伝導率は、フィラーを加圧成形し、2000℃以上の温度で焼結させたものを株式会社アルバック製全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000H/SB」を用いて、レーザーフラッシュ法にて測定することができる。
【0033】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーとしては、具体的には、ポリベンザゾールフィラー、アラミドフィラー等の有機フィラー;アルミニウム化合物フィラー、窒化珪素フィラー、スチールファイバー、六方晶窒化ホウ素フィラー等の無機フィラーなどが挙げられる。また、アルミニウム化合物フィラーとしては、窒化アルミニウムフィラー、アルミナフィラー等が挙げられる。
これらの中で、経済性及び高熱伝導率であることから、アルミニウム化合物フィラー、窒化珪素フィラー、六方晶窒化ホウ素フィラー等の無機フィラーが好ましい。
なお、本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0034】
本発明の成形体をOA、電気・電子部品などに用いる場合には、電気絶縁性のある絶縁性フィラーを用いることが好ましい。絶縁性フィラーの電気絶縁性は、体積低効率で通常10Ω・cm以上、好ましくは1010Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上がよく、また、通常1016Ω・cm以下、好ましくは1015Ω・cm以下がよい。
【0035】
なお、本発明において熱伝導性フィラーの絶縁性(体積抵抗率)は、加圧した後に焼結した板状の成形体を使用して、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタ(UR端子)」を使用し、500V、10秒の条件にて測定し、得られた体積抵抗率の3点の平均値を体積抵抗値とする。
【0036】
電気絶縁性を有する異方性形状の熱伝導性フィラーとしては、上述の異方性形状の熱伝導性フィラーの例示の中で無機フィラーが好ましく、アルミナフィラー、窒化アルミニウムフィラー等のアルミニウム化合物フィラーが更に好ましく、アルミナフィラーが特に好ましい。
【0037】
アルミナフィラーのアルミナのα化率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導性向上の観点では高い方が好ましく、また、一方、製造コストの点では低い方が好ましい。具体的には、下限が通常10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上であるのがよい。また、上限は、通常100%以下、好ましくは99%以下であるのがよい。
【0038】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーの形状について説明する。本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーは、異方性形状の粒子をいい、球状粒子のような等方性形状の粒子は、本発明に係る異方性形状には含まれない。また、異方性形状であれば、繊維状でも板状でもよいが、熱伝導性制御の観点から繊維状であるのが特に好ましい。なお、この異方性形状の熱伝導性フィラーの形状は、本発明に係る樹脂組成物とする前の状態での形状である。
【0039】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーの最大長は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導経路が効率的に成形されやすい点では長い方が好ましく、また、一方、フィラーの分散性、流動性及び成形性の点では短い方が好ましい。具体的には、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、更に好ましくは30μm以上がよく、また、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは250μm以下がよい。
【0040】
なお、本発明において最大長とは、異方性形状の熱伝導性フィラーの任意の2点間距離の最大値をいう。最大長の測定は、後述の平均アスペクト比の測定方法の過程において測定することができる。
【0041】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーの最大垂直長は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、凝集等が起こり難く、分散性に優れる点では長い方が好ましく、また、一方、熱伝導経路が効率的に成形されやすい点では短い方が好ましい。具体的には、通常2μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは4μm以上がよく、また、通常15μm以下、好ましくは12μm以下、さらに好ましくは10μm以下がよい。
【0042】
なお、本発明において最大垂直長とは、最大長に対して平行な2直線で熱伝導フィラーを挟んだときの2直線間の距離の最小値をいう。最大垂直長の測定は、後述の個数平均のアスペクト比の測定方法の過程において測定することができる。
【0043】
本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーのアスペクト比は、通常2以上であるのがよい。また、本発明に係る異方性形状の熱伝導性フィラーのアスペクト比は、少量で熱伝導性を発現しやすい点では大きい方が好ましい。具体的には、アスペクト比が好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、特に好ましくは7以上、最も好ましくは10以上であるのがよく、また、通常100以下、好ましくは70以下、更に好ましくは50以下がよい。このアスペクト比の範囲内に該当していれば、繊維状でも板状でもかまわない。
【0044】
なお、本発明においてアスペクト比とは、最大長から最大垂直長を除して得た値である。アスペクト比は、粒度・形状分布測定装置(株式会社セイシン企業製「PITA−1」)を用いて、水を分散媒として、フィラー形状(最大長、最大垂直長、アスペクト比(アスペクト比=最大長/最大垂直長))及びその個数を計測し、計測個数の度数平均値におけるアスペクト比をもって個数平均のアスペクト比として測定することができる。
【0045】
[1−3.その他の成分]
本発明に係る樹脂組成物は、本発明の効果を著しく損なわなければ、上述の熱可塑性樹脂及び異方性形状の熱伝導性フィラー以外の成分(以下、「その他の成分」ということがある。)を含有していてもよい。
その他の成分としては、例えば、安定剤、着色剤、流動性改良剤、離型剤等の添加剤等や熱可塑性樹脂以外の樹脂等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0046】
[1−4.樹脂組成物]
(1−4−1.組成)
本発明に係る樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する。また、それらに加えて、熱可塑性樹脂以外の樹脂や添加剤等のその他の成分を含有していてもよい。本発明に係る樹脂組成物中における熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計重量は、より高い熱伝導率を得やすくするためには多い方が好ましく、樹脂組成物100重量%中に、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であるのがよい。また、その他の成分は含有させなくてもよいので、上限は100重量%である。
【0047】
本発明に係る樹脂組成物の成形性の点では、本発明に係る樹脂組成物中に熱可塑性樹脂を多く含有することが好ましく、また、一方、本発明の成形体の熱伝導性の点では、本発明に係る樹脂組成物中に異方性形状の熱伝導性フィラーを多く含有することが好ましい。
【0048】
本発明に係る樹脂組成物における、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計重量に対する熱可塑性樹脂の量は、通常15重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上がよく、一方、通常75重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下がよい。また、本発明に係る樹脂組成物における、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計重量に対する異方性形状の熱伝導性フィラーの量は、通常25重量%以上、好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上がよく、一方、通常85重量%以下、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下がよい。
【0049】
(1−4−2.混合)
本発明に係る樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとが含有されていれば、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを混合しても、敢えて混合操作を行わずに混じった状態で存在していても構わないが、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを混合してから成形する方が異方性形状の熱伝導性フィラーの成形体中における分散性の点で好ましい。この場合の混合操作は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はない。
【0050】
混合操作を行う場合は、例えば、ニーダー、ロール、押出機などの混合装置を用いて混合する方法等が挙げられる。混合時に異方性形状の熱伝導性フィラーを長い状態で残す(外圧などによって切断されない)方が本発明の成形体の熱伝導性能を向上させることができるため、剪断応力は小さい混合方法の方が好ましい。しかしながら、異方性形状の熱伝導性フィラーの熱可塑性樹脂中での分散性の点からは、剪断応力をかける方が好ましい。この相反する条件を鑑みて、スクリューの形態、処理量、スクリューの回転数、装置温度等の操作条件に対する自由度が高い二軸押出機を用いて行う方法が好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物中での異方性形状の熱伝導性フィラーの最大長は、樹脂組成物とする前のそれと同様に、熱伝導経路が効率的に成形されやすい点では長い方が好ましく、成形性の点では短い方が好ましいが、混合時の剪断応力などによって、本発明の樹脂組成物とする前より短くなっている場合がある。この場合も、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、更に好ましくは30μm以上がよく、また、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、更に好ましくは250μm以下がよい。
【0052】
また、本発明に係る樹脂組成物がその他の成分を含有する場合、その混合順序等に特に制限はない。すなわち、例えば、その他の成分を予め熱可塑性樹脂と混合した後に異方性形状の熱伝導性フィラーと混合してもよいし、その他の成分を予め異方性形状の熱伝導性フィラーと混合した後に熱可塑性樹脂と混合してもよいし、予め熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーを混合した後にその他成分を加えるだけで混合しなくてもよい。また、混合単軸押出機や2軸押出機、ニーダーなどの装置を用いて、熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとその他の成分とを同時に混合してもよい。
【0053】
(1−4−3.樹脂組成物)
本発明に係る樹脂組成物は、これを射出圧縮成形することで本発明の成形体を得ることができる樹脂組成物である。本発明の成形体の用途に制限はないが、本発明の成形体をOA分野、電気・電子分野、精密機械分野、自動車分野等に用いる場合は、本発明に係る樹脂組成物が以下の物性を有することが好ましい。
【0054】
本発明に係る樹脂組成物の熱伝導率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが高い方が好ましい。具体的には、通常1W/m・K以上、好ましくは2W/m・K以上、さらに好ましくは3W/m・K以上がよい。
【0055】
本発明に係る樹脂組成物及び後述の本発明の成形体の熱伝導率は、熱拡散率から算出することができる。熱拡散率は、株式会社アイフェイズ製「ai−Phase Mobile」を用いて測定することが可能である。この装置による熱拡散率の測定方法は、以下の通りである。すなわち、樹脂組成物又は成形体を2つの電極で挟み、電気を流すことで発生するジュール熱を利用して、樹脂組成物又は成形体の裏面で検出される樹脂組成物又は成形体の内部を伝播してきた温度波と、樹脂組成物又は成形体の表面に与えた交流温度波との位相差を測定し、この位相差の周波数を変えて測定し、各周波数の平方根に対する位相差の傾きより熱拡散率を算出することができる。そして、熱伝導率は、この熱拡散率と樹脂組成物の比熱、密度の積として求められる。
【0056】
ここで、密度は、メトラー・トレド株式会社製精密天秤「XS−204」を用い、置換液に蒸留水を用いてアルキメデス法にて測定することができる。また、比熱は、株式会社パーキンエルマー製の示差走査熱量計「DSC7」を用い、結晶化条件が200℃で3分放置後10℃/分で−10℃まで降温、昇温条件が−10℃で5分放置後10℃/分で81℃まで昇温し4分放置にて測定した場合の25℃における比熱とする。
【0057】
[2.成形方法]
本発明の成形体は、上述の本発明に係る樹脂組成物を射出圧縮成形して得られる。
【0058】
本発明に係る射出圧縮成形とは、射出と共に金型の容積を減少させる工程が含まれる成形方法をいう。
本発明に係る射出圧縮成形は、予め低圧型締めされ閉鎖された金型内に、溶融樹脂を射出充填し、その後型締め側で圧縮を行う射出圧縮成形、又は、予め未閉鎖状態に保持された両金型間に溶融樹脂を射出充填し、その後型締め側で圧縮を行う射出プレス成形の何れもでもよく、両者に共通する「金型を圧縮する工程」を有する成形方法である。
【0059】
なお、本発明に係る射出圧縮成形は、射出と金型の容積を減少させる工程等が含まれていればよく、閉じた金型を射出に合わせて開き(コアバック)その後圧縮する成形のように、さらに射出と共に金型の容積を増加させる工程が含まれていてもよい。
【0060】
本発明の射出成形法の具体例としては、金型を開いた状態で射出した後に金型を閉じる方法、金型を閉じながら射出する方法、閉じた金型を射出に合わせて開き(コアバック)再度閉じて型締めをかける方法、閉じた金型の型締め力をゼロにして射出してから型締めを行う方法等が挙げられる。中でも、熱伝導性を向上させるためには、コアバック成形が好ましい。
【0061】
樹脂組成物の金型内への射出を開始する際の型開き率は、金型全閉時の成形体の厚みを、溶融状態の樹脂組成物を金型内に射出充填するときに金型が射出方向に開かれている量(充填前の開き量)で除した値である。型開き率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導率向上の点では低い方が好ましい。具体的には、通常1.0以下、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.25以下がよい。
【0062】
射出圧縮成形機の型締め開始ポイントは、プランジャーより射出された樹脂組成物を圧縮成形するために、金型を射出方向と反対の方向に移動させるタイミングを決める指標であり、以下のように規定される。通常射出成形は、可塑化された樹脂組成物をプランジャー又はスクリューを前進させてスプルーを経て金型内に注入させて行う。このときの金型の成形体体積に対する金型内に充填された樹脂組成物の量から次式で算出された数値を型締め開始ポイントとする。
(型締め開始ポイント)={(樹脂組成物充填量)−(スプルー体積)}/(金型体積)
【0063】
型締め開始ポイントは、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導性向上の点では大きい方が好ましい。具体的には、通常0.50以上、好ましくは0.70以上、更に好ましくは0.9以上、特に好ましくは1.00以上、最も好ましくは1.50以上がよい。
【0064】
なお、本発明の成形体の熱伝導性を高くさせる点においては、射出された樹脂組成物を金型内に注入と同時に圧縮を開始するよりも、射出してから圧縮を開始する方が好ましい。
【0065】
射出圧縮成形において、射出した樹脂を圧縮する方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。具体的には、例えば、金型を開いた状態で射出して閉じる方法、金型を閉じながら射出する方法、閉じた金型を射出に合わせて開き(コアバック)、再度閉じて型締めをかける方法、閉じた金型の型締め力をゼロにして射出してから型締めを行う方法の方法が挙げられる。またこれらの方法を組み合わせて用いてもよい。これらの内、より高い熱伝導率を得るための点から、閉じた金型を射出に合わせて開き(コアバック)、再度閉じて型締めをかける方法が好ましい。
また、射出圧縮成形において、射出した樹脂を圧縮する方向は、射出した樹脂が圧縮されていれば特に制限はない。具体的には、例えば、樹脂を射出する方向と逆向きに圧縮してもよいし、樹脂を射出する方向と直交方向から圧縮してもよい。また、成形体が板状又は糸状などである場合に、樹脂を射出する方向は、その厚みを薄く又は直径を細くする方向であっても、その長さを短くする方向であっても構わない。
本発明の成形方法では、この樹脂を圧縮する方向が本発明の成形体の長さを短くする方向であっても、後述の実施例の通り、成形体の厚み方向の熱伝導性を向上させることができる。即ち、樹脂組成物を圧縮する方向と成形体の厚み方向が同一方向でなくても、成形体の厚み方向の熱伝導性を向上させることができる。
【0066】
射出圧縮成形の圧縮での圧縮率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、射出流動によるフィラー配向性の点では小さい方が好ましく、また、一方、配向性制御の点では大きい方が好ましい。具体的には、通常1.0以上、好ましくは3.0以上、更に好ましくは4.0以上がよい。なお、圧縮率とは、型開き率の逆数である。
【0067】
射出圧縮成形の圧縮での型締め速度は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、過冷却となり難い点では小さい方が好ましく、また、一方、所望の厚みに成形しやすい点では大きい方が好ましい。具体的には、通常10cm/s以上、好ましくは15cm/s以上、さらに好ましくは20cm/s以上がよく、また、通常150cm/s以下、好ましくは100cm/s以下、さらに好ましくは70cm/s以下がよい。なお、型締め速度とは、金型の容積を減少させる速度(cm/s)である。
【0068】
射出圧縮成形における金型の温度は、これに供する樹脂組成物の種類等により異なるが、射出した樹脂組成物が固化する範囲で高い温度である方が好ましい。具体的には、樹脂組成物の融点若しくはガラス転移点が金型の温度よりも低い方がよい。また、その温度差は、樹脂組成物の固まりやすさの点では小さい方が好ましく、また、一方、金型内に射出した樹脂組成物が固まる前に金型内に広がりやすい点では大きい方が好ましく、具体的には、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上がよく、また、通常150℃以下、好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下、特に好ましくは120℃以下、最も好ましくは100℃以下がよい。
【0069】
また、樹脂組成物の射出圧縮成形中の金型の温度は、樹脂組成物を金型に射出している間と、圧縮している間で温度が異なるなど、一定に保っていなくても構わない。具体的には、例えば、金型に樹脂組成物を射出している間は樹脂組成物を金型内に充填しやすいように樹脂組成物の融点より高い温度で行い、圧縮中に温度を下げてもよい。
【0070】
以下、図を用いて、本発明の成形方法の内、特に好ましい一例を説明する。但し、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、以下の説明例に限定されるものではない。
【0071】
図1は、射出圧縮成形機100を圧縮方向に対して垂直な方向から見た断面の概略図である。図1(a)が樹脂組成物の充填前の状態を、図1(b)が樹脂組成物を充填して圧縮した後の状態を各々示す。射出圧縮成形機100は、可動の一対の型T1とT2を備えており、型T2は樹脂組成物を射出圧縮成形機100内に射出充填するための孔であるスプルー1を備えている。また、スプルー1にはプランジャー2を備えるシリンダ3が接続されており、該シリンダ3によって、射出圧縮成形機100内に樹脂組成物が射出充填される。
【0072】
成形体を得るには、先ずシリンダ3によってスプルー1から樹脂組成物を射出圧縮成形機100内に射出充填する。そして、充填終了後に、型開き量X1がゼロになるまで型T1を閉め、樹脂組成物を圧縮する。この型T1を閉め切ったときの厚みX2が成形体の厚みとなる。
このように、図1の例では、樹脂組成物を射出する方向D1に対し、樹脂組成物を圧縮する方向D2が逆向きとなっている。また、樹脂組成物が圧縮される方向D2が成形体の厚みX2の方向となっている。
【0073】
[3.成形体]
(3−1.成形体の特徴)
本発明の成形体の形状は、本発明の効果を著しく損なわない限りどのような形状でもよく特に制限はない。具体的には、射出圧縮成形の金型で成形できる形状であればよく、具体的には、板状、円盤状、矩形等が挙げられる。
【0074】
本発明の成形体の熱伝導率は、上述の本発明に係る樹脂組成物の熱拡散率と同様に求めることができる。
【0075】
本発明の成形体の熱伝導率は、高い方が好ましく、具体的には、通常1W/m・K以上、好ましくは2W/m・K以上、更に好ましくは3W/m・K以上がよい。また、熱伝導率は高ければ高いほどよいので、その上限は、特に無い。また、特に、本発明の成形体は、射出圧縮成形時の圧縮方向の熱伝導率を、圧縮せずに射出成形して得られる成形体の同方向の熱伝導率よりも高くすることが可能である。
【0076】
本発明の成形体の射出圧縮成形時の圧縮方向の熱伝導率は、本発明に係る樹脂組成物を圧縮せずに射出成形した場合に得られる成形体の同方向の熱伝導率に対して、通常1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上、特に好ましくは1.5倍以上とすることが可能である。また、熱伝導率は、高ければ高いほど好ましい。
【0077】
本発明の成形体の射出圧縮成形時の圧縮方向の熱伝導率を、圧縮せずに射出成形して得られる成形体の同方向の熱伝導率よりも高くできる理由は、定かではないが、以下のように推測することができる。
本発明の成形体の射出圧縮成形時の圧縮方向の熱伝導率を、圧縮せずに射出成形して得られる成形体の同方向の熱伝導率よりも高くできる原因としては、射出圧縮成形時の圧縮により、成形体中での異方性形状の熱伝導性フィラーの配向に変化が生じ、本発明の成形体の熱伝導率に圧縮方向との関係で異方性が生じることが考えられる。
すなわち、圧縮を伴わない射出成形で射出する場合は、通常、高い圧力をかけることにより金型内に樹脂組成物を充填させる。このとき、樹脂組成物に強い応力がかかり、金型内で樹脂組成物が流動する方向に異方性形状の熱伝導性フィラーが配向すると考えられる。これに比べ、射出圧縮成形では、射出時に高圧充填する必要はなく、また、コアバック等の射出と共に金型の容積を増加させる工程も含ませることができる。従って、通常の射出成形に比べ、熱伝導フィラーの樹脂中での樹脂の流動方向への配向が起こりづらく、分散状態が変化したことにより、熱伝導性が向上したと考えられる。
【0078】
特に、本発明の成形方法では、後述の実施例で示すとおり、射出圧縮成形により樹脂組成物を圧縮する方向の熱伝導率が向上する。これは、熱伝導フィラーが圧縮方向に垂直な方向に配向するのではなく、意外なことに圧縮方向に配向したことによるものと考えられる。
そして、その結果、本発明の成形体には熱配向性が備わることになり、OA分野、電気・電子分野、精密機械分野、自動車分野等において、局所的な高温に対しても効率よく排熱が可能な樹脂組成物を成形してなる成形体として用いることができることが期待される。
【0079】
本発明の成形体の電気絶縁性は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、本発明の成形体を電気又は電子部品等の電気絶縁性を求められる部品として用いる場合は大きい方が好ましい。具体的には、体積抵抗値が通常10Ω・cm以上、好ましくは1010Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上がよく、また、通常1016Ω・cm以下、好ましくは1015Ω・cm以下がよい。
【0080】
本発明の成形体の電気絶縁性は、体積抵抗率の値で評価する。体積抵抗率は、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタ」又はアドバンテスト株式会社製「R8340A」などにより測定することができる。特に、体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmの場合は、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタ(UR端子)」を使用し、500V、10秒の条件にて測定して得られる体積抵抗率を体積抵抗値とする。
【0081】
(3−2.成形体の用途)
本発明の成形体は、熱伝導率の高さを利用することで、電子部品用放熱部品として用いることができる。また、絶縁性を要求されるOA機器部品や電気電子部品、精密機器及び自動車関連部品に幅広く用いられるが、中でもOA機器や電気電子機器の内部部品に好適であり、例えば、コネクタ部品やパソコン部材、携帯電話、プリンター、コピー機、スキャナー、テレビ等の用途が挙げられる。
また、例えば耐衝撃性のある熱可塑性樹脂を選択するなどすれば、耐衝撃性が要求されるような自動車部品用との用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を作製し、これを射出圧縮成形して成形体を作製し、その熱伝導率と表面抵抗を評価した。
【0084】
[評価方法]
(成形体の厚み方向の熱伝導率の測定方法)
成形体の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率を測定した。熱伝導率は、熱拡散率と樹脂組成物の比熱、密度の積から導出した。
【0085】
・熱拡散率
熱拡散率は、株式会社アイフェイズ製「ai−Phase Mobile」を用いて測定した。具体的には、成形体を2つの電極で挟み、電気を流すことで発生するジュール熱を利用して、成形体裏面で検出される成形体内部を伝播してきた温度波と、成形体表面に与えた交流温度波との位相差を測定し、この位相差の周波数を変えて測定し、各周波数の平方根に対する位相差の傾きより熱拡散率を算出した。
【0086】
・比熱
比熱は、株式会社パーキンエルマー製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて測定した。具体的には、結晶化条件が200℃で3分放置後10℃/分で−10℃まで降温、昇温条件が−10℃で5分放置後10℃/分で81℃まで昇温し4分放置にて測定した場合の25℃における比熱とした。
【0087】
・密度
密度は、メトラー・トレド株式会社製精密天秤「XS−204」を用いて測定した。具体的には、置換液に蒸留水を用いてアルキメデス法にて測定した。
【0088】
(体積抵抗値の測定方法)
電気絶縁性は、体積抵抗値で評価した。
体積抵抗値は、ダイヤインスツルメント株式会社製社製「ハイレスタ」を用いて、UR端子を使用し、500V、10秒の条件にて測定した。
【0089】
[樹脂組成物Aの製造]
【0090】
三菱樹脂株式会社製の繊維状アルミナフィラー「マフテックALS」を大気下、温度1400℃で5時間加熱し、アルミナフィラー中のδアルミナのα化率を95重量%まで進行させた。
【0091】
次にポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン5010R」(融点224℃))34重量%と、上述の繊維状アルミナフィラー66重量%とを、シリンダ温度270℃、スクリュー回転数は100rpmに設定した、シリンダ直径30mmの2軸同方向混練押出機にて混練し、押出を行い、円筒状ペレット(樹脂組成物A)を得た。
なお、「マフテックALS」の形状(最大長、最大垂直長及びアスペクト比)を株式会社セイシン企業製の粒度・形状分布測定装置「PITA−1」を用いて測定した結果、個数平均で、最大長が100μm、最大垂直長が10μmで、アスペクト比が10の異方性形状であることが確認された。形状測定は、具体的には、水を分散媒として、各フィラーの形状と個数を計測し、アスペクト比を(最大長/最大垂直長)として算出し、計測個数の度数平均値におけるアスペクト比を個数平均アスペクト比として測定した。
【0092】
また、「マフテックALS」を加圧成形後、2000℃で焼結させて、株式会社アルバック製全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000H/SB」を用いて、レーザーフラッシュ法にて測定した熱伝導率は、30W/m・Kであった。
【0093】
[樹脂組成物Bの製造]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン5010R」(融点224℃))を57重量%と、上述の繊維状アルミナフィラーを43重量%とした以外は、樹脂組成物Aと同様の方法で樹脂組成物Bを製造した。
【0094】
[樹脂組成物Cの製造]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン5010R」(融点224℃))を34重量%と、上述の繊維状アルミナフィラーの代わりに球状アルミナ(マイクロン株式会社製「AX−3」(熱伝導率32W/m・K、平均アスペクト比1))を66重量%とした以外は、樹脂組成物Aと同様の方法で樹脂組成物Cを製造した。
【0095】
[実施例1]
樹脂組成物Aを120℃、2時間の条件で乾燥させ、型締め圧3tの射出圧縮成形機(日精樹脂工業株式会社製「ELJECT AU3E」)を用いて、シリンダ温度265℃、金型温度140℃、型開き率0.25、射出速度300mm/秒で溶融樹脂を射出し、型締め開始ポイント1.00の位置から型締め速度33mm/sで圧縮して成形し、直径30mmで厚みが0.5mmの成形体A1を得た。なお、ここで、射出圧縮成形の圧縮での圧縮率は、型開き量(2.0mm)/成形体の厚み(0.5mm)=4.0であった。
【0096】
この成形方法について、図2を用いて詳述する。
図2は、射出圧縮成形機101を圧縮方向に対して垂直な方向から見た断面の概略図である。図2(a)が樹脂組成物Aの充填前の状態を、図2(b)が樹脂組成物Aを充填して圧縮した後の状態を各々示す。射出圧縮成形機101は、型締め圧3tの射出圧縮成形機(日精樹脂工業株式会社製「ELJECT AU3E」)を用いた。射出圧縮成形機101は、可動の一対の型T3と型T4とを備えている。型T3と型T4との間には、直径30mmの円柱状の空隙がある。型T4は、樹脂組成物を射出圧縮成形機101内に射出充填するための孔であるスプルー5を備えている。また、スプルー5にはプランジャー6を備えるシリンダ7が接続されており、該シリンダ7によって、射出圧縮成形機101内に樹脂組成物が射出充填される。成形体を得るには、先ずシリンダ7によってスプルー5から樹脂組成物を射出圧縮成形機101内に射出充填する。そして、充填終了後に、型開き量X3がゼロになるまで型T3を閉め、樹脂組成物を圧縮する。この型T3を閉め切ったときの厚みX4が成形体の厚みとなる。
【0097】
すなわち、射出圧縮成形は、以下の手順で行った。シリンダ7の温度を265℃に、金型T3及びT4の温度を温度140℃にした。シリンダ7内に溶融状態の樹脂組成物Aを充填させた。金型T3、T4を、型開き率0.25(金型全閉時の成形体の厚み(X4)0.5mm/充填前の金型の開き量(X3)2mm)の状態にして、金型内に樹脂組成物Aをスプルー5から射出速度300mm/秒で射出充填させた。射出充填開始後に、型を、型締め開始ポイントが1.00{(樹脂組成物Aの充填量550cm−スプルー5の体積200cm)/金型内の空隙の体積350cm}の位置から型開き量X3がゼロになるまで、型締め速度33mm/sで閉め、樹脂組成物Aを圧縮した。この型を閉め切ったときの厚みX4は、0.5mmであった。
【0098】
このようにして、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体A1を得た。ここで、射出圧縮成形の圧縮での圧縮率は、型開き量(2.0mm)/成形体の厚み(0.5mm)=4.0であった。また、樹脂組成物Aを射出する方向D3は、樹脂組成物Aを圧縮する方向D4に対し、逆向きであった。そして、樹脂組成物Aが圧縮される方向D4は、成形体A1の厚み方向であった。
得られた成形体A1の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2]
型締め開始ポイントを0.75にした以外は、実施例1と同様の条件で射出圧縮成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体A2を得た。得られた成形体A2の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例3]
型開き率を1.0、型締め開始ポイントを0.75にした以外は、実施例1と同様の条件で射出圧縮成形し、直径が30mmφで厚みが0.5mmの円盤状の成形体A3を得た。得られた成形体A3の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例4]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例2と同様の条件で射出圧縮成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体B2を得た。得られた成形体B1の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例5]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例3と同様の条件で射出圧縮成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体B3を得た。得られた成形体B3の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
[比較例1]
樹脂組成物Aを120℃、2時間の条件で乾燥させ、型締め圧3tの射出圧縮成形機(日精樹脂工業株式会社製「ELJECT AU3E」)を用いて、シリンダ温度300℃、金型温度140℃、射出速度300mm/秒、型開きなし、型締めなしの条件で射出成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体A4を得た。得られた成形体A4の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
[比較例2]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Bを用いた以外は、比較例1と同様の条件で射出成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体B4を得た。得られた成形体B4の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
[比較例3]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Cを用いた以外は、比較例1と同様の条件で成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体C4を得た。得られた成形体C4の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
[比較例4]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Cを用いた以外は、実施例3と同様の条件で成形し、直径が30mmで厚みが0.5mmの円盤状の成形体C3を得た。得られた成形体C3の厚み方向(射出圧縮成形時の圧縮方向)の熱伝導率と体積抵抗値を測定した。結果を表1に示す。

【0107】
【表1】

【符号の説明】
【0108】
1 スプルー
2 プランジャー
3 シリンダ
5 スプルー
6 プランジャー
7 シリンダ
100 射出圧縮成形機
101 射出圧縮成形機
T1 金型
T2 金型
T3 金型
T4 金型
X1 型開き量
X2 成形体の厚み
X3 型開き量
X4 成形体の厚み
D1 樹脂組成物を射出する方向
D2 樹脂組成物を圧縮する方向
D3 樹脂組成物を射出する方向
D4 樹脂組成物を圧縮する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該熱可塑性樹脂の含有量が15重量%以上75重量%以下であり、該熱可塑性樹脂と該異方性形状の熱伝導性フィラーとの合計量に対する該異方性形状の熱伝導性フィラーの含有量が25重量%以上85重量%以下である樹脂組成物を、射出圧縮成形して得られることを特徴とする、成形体。
【請求項2】
前記異方性形状の熱伝導性フィラーが平均アスペクト比2以上100以下の熱伝導性フィラーであることを特徴とする、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記異方性形状の熱伝導性フィラーが絶縁性のフィラーであることを特徴とする、請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
前記異方性形状の熱伝導性フィラーがアルミニウム化合物のフィラーであることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の成形体。
【請求項5】
前記アルミニウム化合物のフィラーがアルミナフィラーであることを特徴とする、請求項4に記載の成体体。
【請求項6】
前記成形体を自動車用部材として用いることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の成形体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と異方性形状の熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物を射出圧縮成形することを特徴とする、成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の成形体の製造方法であって、前記成形体における、前記射出圧縮成形により圧縮される方向の熱伝導率が、前記樹脂組成物を圧縮せずに射出成形して得られる成形体の同方向の熱伝導率よりも高いことを特徴とする、成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234678(P2010−234678A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85900(P2009−85900)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】