説明

樹脂組成物及びこれを用いた電気絶縁部品

【目的】ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体とした、難燃性及び電気安全性に優れた樹脂組成物を提供する。
【構成】
(A―1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂 40〜96.5重量部
(A―2)ポリスチレン系樹脂 3.5〜50重量部
(A―3)相溶化剤 0〜10重量部
から成る樹脂成分(A)100重量部に対して,下記の難燃化剤(B)
(B−1)ホスファゼン化合物及びホスフィン酸塩より成る群から選ばれたリン系難燃剤 10〜60重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩から成る窒素系難燃剤 20〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩 0〜20重量部 (但し、これらの難燃剤の合計は40〜100重量部である)
(C)無機充填剤 0〜200重量部
を配合して成り、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、及びフェノール樹脂のいずれも最大で1重量%以下しか含有していない樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性及び電気安全性に優れた成形品を与える樹脂組成物に関する。詳しくは、ポリアルキレンテレフタレート樹脂及びポリスチレン系樹脂、更にはこれにポリスチレン系樹脂の相溶化剤を配合して成る樹脂組成物に、リン系及び窒素系という2種類の非ハロゲン系難燃剤を含有させることにより、難燃性、耐トラッキング性に加えて、グローワイヤ特性にも優れるという特性が付与された樹脂組成物、及びこれを用いて成形された、高温度下においても難燃剤のブリードアウトのない電気絶縁部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品における電気安全性に対する要求が、以前にも増して厳しくなりつつある。例えば、最近改定された国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、略称IEC)のIEC60335−1規格によると、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品のうち、通常の動作中に0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を支持している電気絶縁部品、及びこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁部品(プリント回路基板、端子台、プラグなど)の材料は、赤熱棒燃焼指数(Glow−wire Flammability Index、略称:GWFI)が1.5mm厚みで850℃以上であること、及び赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature、略称:GWIT)が0.8〜3mm厚みで775℃以上であることを満足させることが要求されている。更に望ましくは、GWFIは960℃以上、GWITは0.8〜3mm厚みで800℃以上であることを満足することである。
【0003】
勿論これらの部品は、既に同様の電気電子部品に必要であるとされているアンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格の難燃性やトラッキング指数(Comparative Tracking Index、略称CTI)、又は保証トラッキング指数(Proof Tracking Index、略称PTI)等の要求事項をも同時に満たさねばならない。即ち、0.8mm厚みにてV−2以上の難燃性、PTI(又はCTI)で550V以上を満足する必要がある。好ましくは、難燃性はV−0であり、PTI(又はCTI)は600V以上であることが要求される。
【0004】
このように、電気電子部品には難燃性や耐トラッキング性に加えて、着火および炎の伝播に対しての耐性、即ち電気安全性についても厳しい規定が設けられており、これらの全てをバランスよく満たす部品が求められている。
【0005】
ところで、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略称することがある。)や、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂と略称することがある。)は、機械的性質、電気的性質、耐熱性などに優れているため、近年、電気機器部品、機械部品等の多くの用途に使用されている。特に、優れた難燃性が容易に得られ、同時に機械的性質も優れている点から、上述のオペレータが付かない状態で動作する電気電子機器の部品の絶縁材料としても使用されるようになってきた。
【0006】
PBT樹脂などのポリアルキレンテレフタレート樹脂に、ハロゲン系難燃剤を配合すると、UL−94規格で最高評価であるV−0に到達可能であることはよく知られている。しかしトラッキング特性やグローワイヤ特性などの特性(以下、電気安全性と称することがある)は、難燃性の評価として知られているUL−94規格の難燃性(以下、単に難燃性と称することがある)とは、全く異なる方法で評価される指標である。UL−94の難燃性が、バーナーの炎を接触させた場合の「燃えにくさ」を示すのに対し、GWFIやGWITは、改正IEC 60335−1規格に定義されているように、グローワイヤによる高温での着火性を評価する指標であって、全く別異な性質に関するものである。しかもUL−94規格で最高評価であるV−0であっても、電気安全性は不十分な場合があり、逆にV−0より難燃性が低いV−2であっても、高い電気安全性を示す場合があるため、UL−94の難燃性の評価からは、電気安全性を予測することはできない。
【0007】
例えば、特許文献1および2には、ハロゲン系難燃剤を使用した電気安全性に優れたポリエステル樹脂組成物が開示されている。そして3mm厚みにおいてGWFIやGWITは上記規格に合格することが示されているが、本発明者らの実験では、特に1.5mm厚み以下においてはGWITの規格に合格しないことが判明した。また、近年は、このようなハロゲン系難燃剤を使用した成形品は、使用後に焼却処分すると環境に悪影響を及ぼすとの懸念から、ハロゲン系難燃剤を使用しない樹脂組成物を用いた電気絶縁部品が求められている。
【0008】
ポリエステル樹脂用非ハロゲン系難燃剤としては、従来からホスファゼン化合物(ホスホニトリル化合物と表記されることもある)が知られている(例えば、特許文献3ないし7参照)。またホスファゼン化合物に窒素系難燃剤を併用することも知られている。例えば特許文献4には、「(A)熱可塑性樹脂100重量部に対して(B)一般式(1)の繰り返し単位を有するホスホニトリル線状ポリマー及び/または環状ポリマー0.5〜100重量部および(C)一般式(2)で表わされる化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸からなる塩0.5〜100重量部を配合してなる難燃性樹脂組成物。」が開示されている。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
そして実施例では、PBT樹脂に上記2種類の難燃剤を配合すると、V−0という優れた難燃性に到達可能であることが示されている。しかし他の物性としては機械的特性と耐加水分解性が示されているのみで、電気安全性についての開示はない。また、樹脂に対するホスファゼン化合物とシアヌル酸メラミンの配合量はそれぞれ11.0〜17.4重量%、8〜12重量%のであり、且つその配合比率は、ホスファゼン/シアヌル酸メラミン=1.17〜1.96であって、ホスファゼン化合物の方が多い。
【0012】
さらに、特許文献5には、ポリアルキレンテレフタレート樹脂に難燃剤としてホスファゼン化合物とポリフェニレンオキシド系化合物を配合することが記載されている。また、これに更なる難燃剤として、スチレン系樹脂や窒素系難燃剤を配合することも記載されている。しかし特許文献5には、ホスファゼン化合物とポリフェニレンオキシド系樹脂とを組み合わせて難燃剤を構成すると、ポリアルキレンテレフタレート樹脂を高度に難燃化できると共に、成形品からの難燃剤の染み出し(ブリードアウト)、金属腐食性、及び射出成形時の成形性(モールドデポジット)が大幅に改善できることが記載されているだけで、特許文献4と同様に電気安全性についての記載はない。また実施例でのホスファゼン化合物と窒素含有化合物(シアヌル酸メラミン等)の配合量比率は1.47〜10で、ホスファゼン化合物の方が相当に多い。
【0013】
特許文献6には、ポリアルキレンテレフタレート樹脂とスチレン系樹脂より成る樹脂成分に、難燃剤としてホスファゼン化合物とフェノール系樹脂を配合することが記載されている。そしてその
【0014】
には、フェノール系樹脂の存在は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂の分子量や機械的特性の低下を抑制し、ホスファゼン化合物単独で用いる場合に比べてポリアルキレンテレフタレート樹脂を高度に難燃化できると記載されている。また、これに更なる難燃剤として、炭化性樹脂や窒素系難燃剤を配合することも記載されている。しかし特許文献6には、難燃性、難燃剤の染み出し(ブリードアウト)機械的強度、混練加工性の評価結果が示されているのみで、電気安全性についての記載はない。
【0015】
、特許文献7には、ポリエステル樹脂 とポリフェニレンエーテル樹脂及び/又は ポリフェニレンスルフィド樹脂 より成る樹脂成分に、ホスファゼン化合物やシアヌル酸メラミンを配合して成る難燃性樹脂組成物が記載されている。然しながら、この樹脂組成物の物性としては、機械的特性や耐加水分解性、溶融粘度などが示されているだけで、電気安全性についての記載はない。
【0016】
上述のように、ポリアルキレンテレフタレート樹脂に、難燃剤としてホスファゼン化合物と他の難燃剤とを配合した難燃性樹脂組成物がいくつも提案されているが、これらの難燃性樹脂組成物の電気安全性に関しては情報がない。また本発明者らの知見によれば、特許文献5〜7のように、ポリアルキレンテレフタレート樹脂にポリフェニレンエーテル樹脂やフェノール樹脂を配合すると、トラッキング特性が急激に低下する。
【0017】
【特許文献1】特開2005−232410号公報
【特許文献2】特開2006−45544号公報
【特許文献3】特開昭51−36266号公報
【特許文献4】特開平7−216235号公報
【特許文献5】特開2003−82211号公報
【特許文献6】特開2003−82210号公報
【特許文献7】特開平10−77396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、ハロゲン系難燃剤を用いずに、改定IEC60335−1規格のグローワイヤ性やトラッキング性などの電気安全性を満足し、且つ、難燃剤のブリードアウトの抑制された成形品を与える樹脂組成物を提供することにある。また他の目的は、上記の特許文献において難燃剤としてホスファゼン化合物を用いる場合に併用されている、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、及びフェノール系樹脂のいずれをも実質的に含有しない樹脂組成物を提供することにある。また更なる他の目的は、この樹脂組成物を用いた有接点電気電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアルキレンテレフタレート樹脂及びポリスチレン系樹脂、更にはこれにポリスチレン系樹脂の相溶化剤を配合して成る樹脂成分に、難燃剤としてホスファゼン化合物やホスフィン酸塩のようなリン系化合物、メラミン類の塩のような窒素系化合物及び硼酸亜鉛を特定量配合することにより得られる樹脂組成物が、意外なことにGWIT、GWFI、PTI等の電気用品関連の厳しい規格の要求特性を満足し、且つ難燃剤のブリードアウトが抑制された電気絶縁部品を与えることを見出した。
【0020】
本発明は上記の諸知見に基づき達成されたものであって、その要旨は、
(A―1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂 40〜96.5重量部
(A―2)ポリスチレン系樹脂 3.5〜50重量部 及び
(A―3)相溶化剤 0〜10重量部
より成る樹脂成分(A)100重量部に対し
下記の難燃剤(B)
(B―1)ホスファゼン化合物及びホスフィン酸塩より成る群から選ばれたリン系難燃剤 10〜60重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩からなる窒素系難燃剤 20〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩 0〜20重量部(但し、これらの難燃剤の合計は40〜100重量部である) 及び、
(C)無機充填剤 0〜200重量部
を配合してなり、且つポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びフェノール系樹脂(但し、相溶剤として作用するエポキシ基含有のノボラックエポキシ樹脂を除く)のいずれをも含有していないか、含有していてもいずれも最大で1重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物に存する。
【0021】
また本発明の他の要旨は、この樹脂組成物を用いて形成された成形部を有しており、且つ該成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある部分を形成していることを特徴とする電気絶縁部品に存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物は、動作中の着火及び炎の伝播に対しての耐性が向上した電気絶縁部品を与える。従ってオペレータが不在の状態で動作する機器の部品で、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる、即ち、定格電流が0.2Aを超える接続部を支持している電気絶縁部品、及びこれらの接続部から3mm以内の距離にある部分を有する電気絶縁部品の材料として幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の(A)樹脂成分は、(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂、(A−2)ポリスチレン系樹脂、及び(A−3)相溶化剤から構成される。
【0024】
(A−1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
ポリアルキレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールが全ジオールの50重量%以上を占める樹脂をいう。テレフタル酸は全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めるのが好ましく、95モル%以上を占めるのがさらに好ましい。エチレングリコール又は1,4−ブタンジオールは全ジオール成分の80モル%以上を占めるのが好ましく、95モル%以上を占めるのがさらに好ましい。なお本発明においては、ポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の95モル%、特に98モル%以上を占め、且つエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールが全ジオールの95重量%以上を占めるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0025】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した場合、0.50以上、好ましくは0.6以上であり、且つ3.0以下、好ましくは1.5以下である。固有粘度が0.50より小さいと、得られる樹脂組成物の機械的強度が低く、逆に3.0より大きいと樹脂組成物の成形性が著しく悪化する。なおポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、固有粘度を異にする2種類以上のポリアルキレンテレフタレート樹脂を併用してもよい。
【0026】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂を構成するテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸など常用のものを用いることができる。
【0027】
エチレングリコール又は1,4−ブタンジオール以外のジオール成分としては、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールなどが用いられる。なおエチレングリコールやブチレングリコールを用いても、反応中にジエチレングリコールやジブチレングリコールが副生してポリアルキレンテレフタレート中に取り込まれることがある。
【0028】
更に所望ならば、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することもできる。これらの共重合成分は、生成するポリアルキレンテレフタレートの5重量%、特に3重量%以下となるように用いるのが好ましい。
【0029】
ジカルボン酸又はその誘導体とジオールとからのポリアルキレンテレフタレートの製造は、常用の任意の方法で行うことができる。すなわち、テレフタル酸とグリコールを直接エステル化反応させる直接重合法、及びテレフタル酸ジメチルを主原料として使用するエステル交換法のいずれの方法も用いることができる。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。直接重合法が原料コスト面から有利である。
【0030】
また回分法と連続法のいずれも用いることができ、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行ったりすることもできる。
【0031】
本発明では、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂単独、又はこのようなポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物を用いるのが好ましい。
【0032】
末端カルボキシル基量が30eq/t以下のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いると、得られる樹脂組成物の耐加水分解性を高めることができる。すなわちカルボキシル基は、ポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると、早期に加水分解が始まり、さらに生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、ポリブチレンテレフタレートの重合度が急速に低下する。しかし、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であれば、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解を抑制することができる。ポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は、ポリブチレンテレフタレートを有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。
【0033】
またポリブチレンテレフタレート中の残存テトラヒドロフラン量は、300ppm(重量比)、特に200ppm(重量比)以下であるのが好ましい。残存テトラヒドロフラン量の多いポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた樹脂組成物は、高温下で有機ガスの発生が多い。しかし残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下のポリブチレンテレフタレートを用いた樹脂組成物から得られる成形品は、高温で使用した場合にも、有機ガスの発生が少なく、したがって電気接点の腐食のおそれが少ないので、リレー部品などの有接点電気・電子部品に好適に使用することができる。
【0034】
残存テトラヒドロフラン量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、50ppm(重量比)程度である。残存テトラヒドロフラン量が少ない方が、有機ガスの発生が少なくなる傾向はあるものの、残存量とガス発生量は必ずしも比例するものではなく、50ppm程度のテトラヒドロフランの存在は、通常の使用に問題とならない。むしろ少量のジオールの存在が、電気接点の腐食を抑制することが知られており(特開平8−20900号公報)、テトラヒドロフランにも同様の効果が期待される。なお残存テトラヒドロフラン量は、ポリブチレンテレフタレートのペッレトを水に浸漬して120℃で6時間保持し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィで定量することにより求めることができる。
【0035】
ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂としては、熱可塑性のものであればよく、芳香族ビニル単量体の単独又は共重合体、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体やゴム成分とで構成された共重合体(例えば、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との共重合体、ゴム成分に芳香族ビニル単量体がグラフト共重合した重合体、ゴム成分に芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体がグラフト共重合した非結晶性ゴム状重合体等)など常用のものが用いられる。また、これらをエポキシ化合物で変性した変性ポリスチレンや、他の重合体鎖とポリスチレン鎖が種々の様式で結合したものなども用いることができる。
【0036】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、アルキルスチレン(例えば、o−,m−,p−メチルスチレン等のビニルトルエン類、2,4−ジメチルスチレンなどのビニルキシレン類、エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のアルキル置換スチレン類)、α−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなど)等が用いられる。これらのスチレン系単量体は、単独で又は二種以上組合せて使用できる。なかでもスチレン、ビニルトルエン又はα−メチルスチレンを用いるのが好ましく、特にスチレンを用いるのが好ましい。
【0037】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどが用いられる。シアン化ビニル単量体も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいシアン化ビニル単量体はアクリロニトリルである。
【0038】
ゴム成分としては、共役ジエン系ゴム(ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体等)、オレフィン系ゴム[エチレン−プロピレンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム等を用いることができ、これらのゴム成分は水素添加物であってもよい。これらのゴム成分は、二種以上組合わせて用いることもできる。これらのゴム成分のうち、共役ジエン系ゴムが好ましい。ゴム成分はゲル含有量の如何に関わらず用いることができる。また、ゴム成分は、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、溶液−塊状重合、塊状−懸濁重合等の方法で製造できる。
【0039】
なおポリスチレン系樹脂は、シアン化ビニルに加えて又はシアン化ビニルに換えて他の共重合性単量体を併用したものであってもよい。このような共重合性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸と炭素数1〜18のアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0040】
また、カルボキシル基含有単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸やその無水物;マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル等のマレイン酸と炭素数1〜10のアルコールとのモノエステル)やこれらに対応するフマル酸モノエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステルなど]、マレイミド系単量体[例えば、マレイミド、N−メチルマレイミドなどのN−アルキルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど]が挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組合わせて使用できる。好ましい共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル(特にメチルメタクリレート)、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイミド系単量体等が挙げられる。
【0041】
芳香族ビニル単量体に他の共重合性単量体を併用する場合、両者の割合(重量比)は、芳香族ビニル単量体/他の共重合性単量体=100/0〜10/90、好ましくは95/5〜10/90、さらに好ましくは80/20〜20/80程度である。芳香族ビニル単量体が多いほうが、難燃剤のブリードアウト抑制効果は大きい。一方、樹脂組成物におけるポリスチレン系樹脂の分散の度合いとも関係するが、芳香族ビニル成分が多いと、樹脂組成物が炭化し易く、トラッキング性やグローワイヤ特性が低下する傾向にある。
【0042】
より具体的には、シアン化ビニル単量体を共重合成分として用いる場合、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との割合(重量比)は、芳香族ビニル単量体/シアン化ビニル単量体=10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20程度である。
【0043】
ゴム成分を用いる場合、ゴム成分と芳香族ビニル単量体との割合(重量比)は、ゴム成分/芳香族ビニル単量体=5/95〜80/20、好ましくは10/90〜70/30程度である。ゴム成分の割合が少ないと、樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、多すぎると、ポリスチレン系樹脂の分散が不良となり外観を損ないやすい。
【0044】
好ましいポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、グラフト重合体[アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレンゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(ABSM樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)等]、ブロック共重合体[例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)共重合体など)、スチレン−アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体(AES)等]、又はこれらの水添物などが挙げられる。
【0045】
特に好ましいポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)共重合体等が挙げられ、更に好ましくはポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)である。これらのポリスチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
ポリスチレン系樹脂のなかでもエポキシ変性ポリスチレン系樹脂は、分散性が良好で、且つ得られる樹脂組成物の耐加水分解性も同時に向上させるので好ましい。エポキシ変性ポリスチレン系樹脂とは、ポリスチレン系樹脂にエポキシ基を導入したものである。エポキシ基の導入方法は、従来公知の任意の方法を用いることができる。具体的には、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合したスチレン系樹脂が好ましく用いられる。エポキシ基含有ビニル系単量体は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基とエポキシ基の両者を共有する化合物であり、具体例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類および2−メチルグリシジルメタクリレートなどの上記の誘導体類が挙げられ、なかでもアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。またこれらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合又は共重合したスチレン系樹脂の製造方法としては、公知の方法が採用できるが、特にスチレン、又はスチレンおよびこれと共重合可能なその他の単量体とエポキシ基含有ビニル系単量体とを共重合する方法、スチレン又はスチレンおよびこれと共重合可能なその他の単量体を共重合して得られる(共)重合体にエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合する方法が挙げられる。更には、エポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体をポリスチレンとブロック共重合又はグラフト共重合した構造を有する高分子化合物、エポキシ基を付加した櫛型ポリスチレン、エポキシ基を付加したポリスチレン等を挙げることができる。かかる共重合、グラフト重合も公知の方法により行うことができる。
【0048】
ポリスチレン系樹脂にラジカル発生剤などにより、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合する際の、ベースとなるスチレン系樹脂の好ましい具体例としては、ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などの主としてスチレンからなる樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/ブタジエン樹脂等のスチレン系共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン/イソプレン/スチレン樹脂、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン樹脂などのスチレンを含有するブロック共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/メタクリル酸メチル/スチレン樹脂等のABS系樹脂等が挙げられる。これらの中で、主としてスチレンからなる樹脂やスチレン系共重合体が好ましく、特にアクリロニトリル/スチレン共重合体が最も好ましい。
【0049】
また、エポキシ基を有するポリマーとポリスチレン系ポリマーとの共重合構造は特に限定されるものではないが、例えば、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、エポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体とポリスチレンをブロック共重合した直鎖状構造の高分子化合物、主鎖がポリスチレンであって側鎖がエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体である櫛型構造の高分子化合物、主鎖にエポキシ基を含有するポリスチレンであって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、少量のエポキシ基を付加したポリスチレン等を挙げることができる。
【0050】
、なかでも、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、主鎖にエポキシ基を含有するポリスチレンであって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物、少量のエポキシ基を付加した変性ポリスチレンが好ましく、特に、主鎖にエポキシ基を含有する共重合性不飽和モノマーからなる重合体であって側鎖がポリスチレンである櫛型構造の高分子化合物が好ましい。これらのエポキシ基を含有するポリスチレン系樹脂は複数種のブレンドであっても良い。
【0051】
エポキシ変性ポリスチレン系樹脂中のエポキシ基は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂とエポキシ変性スチレン系樹脂の相溶性を向上させる作用がある。エポキシ変性ポリスチレン系樹脂中のエポキシ基量は、この作用を奏するのに有効な量であれば特に限定されるものではないが、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂中のエポキシ基含有単量体成分として0.05重量%以上であることが好ましい。多量に共重合すると流動性低下やゲル化の傾向がある。エポキシ基含有単量体の含有量にもよるが、樹脂成分(A)中に占めるエポキシ変性ポリスチレン系樹脂の比率は45重量%以下、さらには40重量%以下が好ましい。
【0052】
これらのエポキシ変性ポリスチレン系樹脂は2種以上を併用することもできる。また、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂とエポキシ基を含有してないポリスチレン系樹脂とを併用することもでき、この方法によれば、ポリスチレン系樹脂のエポキシ基の含有量などを容易に調整することができる。
【0053】
なお、本発明において、エポキシ変性ポリスチレン系樹脂の、スチレン成分(スチレン残基)含有量は、上述のスチレンを主とするポリスチレン系樹脂の場合は、50重量%以上が好ましく、さらに好ましくは70重量%以上であり、スチレン系共重合体の場合は、30重量%以上が好ましく、さらに好ましくは50重量%以上、特に60重量%以上である。またABS系樹脂の場合は、30重量%以上が好ましく、より好ましくは40重量%以上であり、ブロック共重合体の場合は、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。
【0054】
相溶化剤
ポリスチレン系樹脂はポリアルキレンテレフタレート樹脂中に微粒子状に分散させることが必要であり、分散状態は、得られる樹脂組成物の難燃性やトラッキング特性に微妙な影響を与える。然しながら、エポキシ基などのようなポリアルキレンテレフタレート樹脂との反応基を有しないポリスチレン系樹脂は、良好に分散し難いことが多い。しかし樹脂組成物を製造する際に、分散を促進するため機械的に強いせん断力を加えると、発熱して難燃剤の分解などのトラブルが発生する恐れがある。従って、分散を促進するため相溶化剤を少量配合するのが好ましい。好ましい相溶化剤としてはエポキシ化合物が挙げられる。エポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ変性熱可塑性樹脂、エポキシ系難燃剤などが挙げられる。なお相溶化剤として用いられるノボラック型エポキシ化合物は、成形材料として用いられるノボラック型フェノール樹脂とは異なり、低分子量のものである。
【0055】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環化合物型エポキシ化合物、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマーなどである。耐加水分解性と樹脂への分散の観点から、エポキシ当量150〜280g/eqのノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。なかでもエポキシ当量180〜250g/eqで分子量1000〜6000のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000g/eqで分子量1200〜6000のビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いるのが好ましい。
【0056】
樹脂成分を構成するポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン系樹脂及び相溶化剤の配合比率は、一般的にはポリアルキレンテレフタレート樹脂が40〜96.5重量%、ポリスチレン系樹脂が3.5〜50重量%、相溶化剤が0〜10重量%である。、ポリアルキレンテレフタレート樹脂は45〜95.5重量%、特に55〜90重量%を占めるのが好ましい。ポリスチレン系樹脂は4.5重量%以上を占めるのが好ましく、またその上限は45重量%以下であるのが好ましい。、相溶化剤は0,2〜8重量%を占めるのが好ましい。なお相溶化剤が10重量%より多いと流動性と難燃性が低下する。またポリスチレン系樹脂がエポキシ変性ポリスチレン系樹脂を含有する場合には、その含有量は、成形品の外観と難燃性の点から樹脂成分中10〜50重量%、特に15〜45重量%であるのが好ましい。エポキシ含有ポリスチレン系樹脂は一般に分散性がよいので、相溶化剤が無くても良好な分散を達成できることが多い。、エポキシ基を含有しないポリスチレン系樹脂を用いる場合を含めると、最も好ましい配合比率は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂55〜90重量%、ポリスチレン系樹脂4.5〜45重量%、相溶化剤0〜8重量%、すなはちポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体とする組成である。
【0057】
(B)難燃剤
本発明の樹脂組成物は、リン系難燃剤(B−1)、窒素系難燃剤(B−2)及び硼酸金属塩(B−3)という3種類の難燃剤含有しており、その含有量は(A)樹脂成分100重量部に対して、リン系難燃剤(B―1)は10〜60重量部、窒素系難燃剤(B−2)は20〜70重量部、硼酸金属塩(B−3)は0〜20重量部であり、同時にその合計量が40〜100重量部、好ましくは50〜100重量部であることが必要である。難燃剤(B)が100重量部を超えるとCTIやグローワイヤ特性が低下し、更にはガスの発生が多くなる。また40重量部未満であると難燃性、トラッキング特性、グローワイヤ性を満足できない。CTIやグローワイヤ特性をさらに向上させる点からは、窒素系難燃剤(B−2)に対するリン系難燃剤(B−1)の配合比率(B−1)/(B−2)(重量比)は、0.14〜1.1,更には0.2〜1.0の範囲であるのが好ましく、0.3〜0.95の範囲であるのが最も好ましい。0.14未満では十分な難燃性が得られないことがあり、1.1を超えるとGWITが低下し易い。
【0058】
(B−1)リン系難燃剤
本発明においては、リン系難燃剤としてはホスファゼン化合物又はホスフィン酸塩を用いることが必要であり、これらは単独又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0059】
(B−1a)ホスファゼン化合物
ホスファゼン化合物としては、従来公知のものを広く用いることができる。本発明では、例えばJames E. Mark, Harry R. Allcock, Robert West 著、”Inorganic Polymers” Pretice−Hall International, Inc., 1992, p61−p140に記載されている構造のホスファゼン化合物を好適に用いることができる。例えば、下記一般式(3)で示される環状ホスファゼン化合物及び下記一般式(4)で示される鎖状ホスファゼン化合物が挙げられ、その中でもこれらの構造を有するホスファゼン化合物を95重量%以上含有するものが好ましい。
【0060】
【化3】

【0061】
【化4】

【0062】
(式中、nは3〜25の整数、mは3〜10000の整数を表す。Xは、それぞれ独立して、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が6〜11のアリール基、フッ素原子、下記一般式(5)で示される置換基を有していてもよいフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、炭素数が1〜6のアルコキシ基及びアルコキシ置換アルコキシ基より成る群から選ばれる置換基である。なお一般式(5)以外でも置換基X上の水素原子は一部又は全部がフッ素原子、水酸基、シアノ基で置換されていてもよい。またYは−N=P(O)(X)又は−N=P(X)3を表し、Zは−P(X)4又は−P(O)(X)2を表す。Xは上記と同義である。)
【0063】
【化5】

【0064】
(式中、Y、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、炭素数が1〜5のアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ヘテロ元素含有基の中からなる群より選ばれる置換基を表す。)
【0065】
これらの化合物は、単独で用いても、二種以上の混合物として用いてもよい。
ホスファゼン化合物の難燃性付与効果を決める因子の一つとして、分子中に含有するリン原子の濃度が挙げられる。鎖状構造を有する鎖状ホスファゼンは分子末端に置換基を有することから、環状ホスファゼン化合物よりもリン含有率が低くなるので、配合量が同じであれば鎖状ホスファゼン化合物よりも環状ホスファゼン化合物の方がより難燃性付与効果が高いと考えられる。従って、本発明においては、環状構造を有するホスファゼン化合物の使用が好ましく、環状ホスファゼン化合物を95重量%以上含有するものが好ましい。
【0066】
一般式(3)又は(4)で表されるホスファゼン化合物中の置換基Xの例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基等のアルキル基、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、4−ターシャリーブチルフェニル基、2−メチル−4−ターシャリーブチルフェニル基等のアリール基、
【0067】
メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、n−アミルオキシ基、イソアミルオキシ基、tert−アミルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、メトキシプロピルオキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、3,4−ジメチルフェノキシ基
【0068】
、2,3,4−トリメチルフェノキシ基、2,3,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,5−トリメチルフェノキシ基、3,4,5−トリメチルフェノキシ基、2−エチルフェノキシ基、3−エチルフェノキシ基、4−エチルフェノキシ基、2,6−ジエチルフェノキシ基、2,5−ジエチルフェノキシ基、2,4−ジエチルフェノキシ基、3,5−ジエチルフェノキシ基、3,4−ジエチルフェノキシ基、4−n−プロピルフェノキシ基、4−イソプロピルフェノキシ基、4−ターシャリーブチルフェノキシ基、2−メチル−4−ターシャリーブチルフェノキシ基、2−フェニルフェノキシ基、3−フェニルフェノキシ基、4−フェニルフェノキシ基等のアルキル置換フェノキシ基、アリール置換フェノキシ基ナフチル基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0069】
、これらの基において水素原子の一部又は全部が、フッ素原子やヘテロ元素を含有する基に置き換わっていてもよい。ここで、ヘテロ元素を含有する基とは、B、N、O、Si、P、Sのいずれかの原子を含有する基であり、そのいくつかを例示すると、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、グリシジル基、カルボキシル基、水酸基、シアノ基、メルカプト基、シリル基等が挙げられる。
【0070】
さらに、これらの化合物は、国際公開番号WO00/09518号に開示されている技術により、フェニレン基、ビフェニレン基および下記に示す基(6)からなる群より選ばれた架橋基によって架橋されていてもよい。
【0071】
【化6】

【0072】
(式中、Xは、―C(CH−、−SO−、−S−、又は−O−を、yは0又は1を表す。)
【0073】
これらの架橋構造を有するホスファゼン化合物は、例えばジクロルホスファゼンオリゴマーにフェノールのアルカリ金属塩および芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を反応させることにより製造される。これらのアルカリ金属塩は、ジクロロホスファゼンオリゴマーに対して理論量よりもやや過剰に添加される。
これらのホスファゼン化合物は単独で用いても、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0074】
また、ホスファゼン化合物は一般に環状三量体、環状四量体等の環状体や鎖状ホスファゼン、架橋体といった構造の異なる化合物の混合物であるが、樹脂に添加した場合の加工性は、環状三量体、四量体や架橋体の含有率が高いほど好ましい傾向がある。三量体または架橋体を70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に85重量%以上含有するホスファゼン化合物を用いると、(B−2)成分である窒素系難燃剤との相乗効果が効果的に発現する。その結、優れた難燃性付与効果が得られるだけでなく、優れた機械特性の向上効果も得られる。
【0075】
また、ホスファゼン化合物中に含有するナトリウム、カリウム等のアルカリ金属成分は、それぞれ200ppm以下、特に50ppm以下であるのが好ましい。全アルカリ金属成分が50ppm以下であれば更に好ましい。
【0076】
また、一般式(3)中の置換基Xのうち少なくとも一つが水酸基であるホスファゼン化合物、即ちP−OH結合を含有するホスファゼン化合物の含有量は1重量%未満であることが好ましく、且つ、塩素含有量が1000ppm以下、特に500ppm以下であるのが好ましい。塩素含有量が300ppm以下であれば最も好ましい。
【0077】
P−O結合を含有するホスファゼン化合物は、下記一般式(7)で表されるオキソ体構造をとることもあるが、このようなオキソ体化合物も水酸基含有ホスファゼン化合物と同様に1重量%未満であることが望ましい。一般式(4)で表される鎖状構造を有するホスファゼン化合物の場合も同様である。
【0078】
【化7】

【0079】
(式中、a+b=nであり、nは3以上の整数である。また、式中のXはそれぞれ独立して、アリールオキシ基またはアルコキシ基を示す。)
【0080】
ホスファゼン化合物は、電気特性、耐加水分解性等を考慮した場合、その水分含量が1000ppm以下、更には800ppm以下であるのが好ましい。水分含量が500ppm以下、特に300ppm以下であれば最も好ましい。またこれに加えて、JIS K6751に基づき測定された酸価が1.0以下、特に0.5以下であるのが好ましい。
【0081】
また、ホスファゼン化合物は、耐加水分解性、耐吸湿性の観点から、水への溶解度(サンプルを0.1g/mLの濃度で蒸留水に混合し、室温で1時間攪拌後に水中に溶け込んだサンプルの量を指す)が100ppm以下であるのが好ましい。この値が50ppm、特に25ppm以下であれば更に好ましい。
【0082】
ホスファゼン化合物は、含有する置換基の種類や構造の違いによっても異なるが、液状、ワックス状、固体状等、さまざまな形態を取ることができ、本発明の効果を損なわないものであれば、どのような形態のものでも用いることができる。取り扱い性、作業性等を考慮すると、固体状態のものが好ましい。その嵩密度は0.45g/cm以上、特に0.45g/cm 0.75g/cm以下であるのが好ましい。
【0083】
(B−1b)ホスフィン酸塩
ホスフィン酸塩(B−1b)とは、下記式(8)又は式(9)で表されるものであり、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を水溶液中で反応させることにより製造される。、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件によっては縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
【0084】
【化8】

【0085】
【化9】

【0086】
[これらの式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜6の線状もしくは分枝状のアルキル基又はアリール基であり、Rは炭素数1〜10の線状もしくは分枝状の アルキレン基、炭素数6〜10の アリーレン基、又は炭素数7〜10の アルキレンールアリーレン基を表す。MはCa、Mg、Al又はZnを表す。、mは2または3、nは1ないし3、xは1または2である]
【0087】
ホスフィン酸塩の具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウムが挙げられる。
【0088】
また、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛も挙げられる。難燃性、電気特性の観点からは、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0089】
成形品の機械的強度及び外観の点で、ホスフィン酸塩は100μm以下、特に50μm以下に粉砕した粉末を用いるのが好ましい。粒径が0.5〜20μmの粉末を用いると、高い難燃性を発現するばかりでなく成形品の強度が著しく高くなるので特に好ましい。ホスフィン酸塩は難燃剤として作用するが、窒素系難燃剤と併用することで少ない難燃剤量で優れた難燃性と優れた電気特性を発現する。しかし、これらの配合量が多いと離型不良やモールドデポジットの発生が起こりやすく、成形性が低下する。
【0090】
リン系難燃剤の配合量は、樹脂成分(A)100重量部に対して10〜60重量部である。15〜45重量部、特に20〜40重量部であるのが好ましい。リン系難燃剤の配合量が60重量部を越えるとトラッキング特性、機械的物性が低下しやすく、またブルーミングしやすくなり、さらに発生ガス量が多くなる。
【0091】
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩
窒素系難燃剤であるアミノ基含有トリアジン類の塩を構成するアミノ基含有トリアジン類としては、通常、アミノ基含有1,3,5−トリアジン類が使用され、例えば、メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂樹脂など)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリドなど)、グアナミン又はその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU−グアナミンなど)などが挙げられる。
【0092】
これらのトリアジン類と塩を形成する無機酸としては、硝酸、塩素酸類(塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸類(燐酸、亜燐酸、メタ燐酸、ピロ燐酸など)、硫酸類(硫酸や亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸やピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが挙げられる。中でもリン酸や硫酸が好ましい。また有機酸としては、有機スルホン酸類(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸など)、環状尿素類(尿酸、バルビツル酸、シアヌル酸、アセチレン尿素など)などが挙げられる。これらのうちメタンスルホン酸などの炭素数1〜4のアルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのような炭素数6〜12の芳香環に炭素数1〜3のアルキル基が置換していてもよい芳香族スルホン酸、シアヌル酸が好ましい。
【0093】
アミノ基含有トリアジン類の塩としては、例えば、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)、硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラムなど)、スルホン酸メラミン類(メタンスルホン酸メラミン、メタンスルホン酸メラム、メタンスルホン酸メレム、メタンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩、トルエンスルホン酸メラミン、トルエンスルホン酸メラム、トルエンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩等)などが挙げられる。これらのアミノ基含有トリアジン類の塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0094】
このような窒素系難燃剤のなかで本発明において好ましく使用されるのは、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との塩(付加物)であり、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有するものである。より具体的にはシアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミンであり、更にはシアヌル酸メラミンである。これらの塩は、公知の方法、例えば、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸とを水中で良く混合して、両者の塩を微粒子状に析出させた後、これを濾取し、乾燥することにより、一般に粉末状で得られる。
【0095】
また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、未反応のトリアジン系化合物やシアヌル酸、イソシアヌル酸が多少残存していても良い。また、樹脂成分に配合される前の塩の平均粒径は、成形品の難燃性、機械的強度や耐湿熱特性、滞留安定性、表面性の点から、100〜0.01μmが好ましく、更に好ましくは80〜1μmである。また、上記の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤などを併用してもよい。
【0096】
窒素系難燃剤の量は、成分(A)100重量部に対して20〜70重量部であり、中でも25〜60重量部であることが好ましい。窒素系難燃剤の配合量が70重量部を越えると機械的物性が低下しやすい。
【0097】
(B−3)硼酸金属塩
本発明の樹脂組成物は更なる難燃剤として、硼酸金属塩を含有することが好ましい。硼酸金属塩としては、通常用いる処理条件下で安定であり、揮発成分のないものが好ましい。硼酸金属塩としては硼酸のアルカリ金属塩(例えば四硼酸ナトリウム、メタ硼酸カリウム等)やアルカリ土類金属塩(例えば硼酸カルシウム、オルト硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム等)、亜鉛塩等が挙げられる。これらの中でも好ましいのは、硼酸亜鉛である。硼酸亜鉛は、一般に、2ZnO・3B・xHO(x=3.3〜3.7)で示される水和物であるが、Xが3.5で、かつ260℃又はそれより高い温度まで安定なものが好ましい。市販品としては水澤化学工業(株)のアルカネックス FRF−30,FRC−500、FRC−600などがある。
【0098】
硼酸金属塩の配合量は、成分(A)100重量部に対して0〜20重量部であるが15重量部以下であるのが好ましい。硼酸金属塩の配合量が20重量部を越えると機械的物性が低下しやすい。金属硼酸塩の効果を十分に発現させるには2重量部以上配合するのが好ましい。
【0099】
(C)無機充填剤
本発明の樹脂組成物は、更に無機充填剤を含有することが好ましい。充填剤としては、繊維状充填剤(ガラス繊維、カーボン繊維、玄武岩繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維等)、粉粒状充填剤(カオリン、タルク、ワラストナイト等のケイ酸塩;炭酸カルシウムなどの金属の炭酸塩;酸化チタンなどの金属酸化物等)、板状充填剤(マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔等)等があげられる。これらの充填剤のうち、高い強度・剛性を有する成形物を与える点で、繊維状充填剤、特にガラス繊維(チョップドストランドなど)が好ましい。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
これらの充填剤は、収束剤又は表面処理剤と組み合わせて使用してもよい。このような収束剤又は表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能基を有する化合物が挙げられる。無機充填剤の量は、(A)樹脂成分100重量部に対して、0〜200重量部、好ましくは5〜150重量部であるが、無機充填剤の効果を十分に発現させるには50重量部以上、特に50〜130重量部配合するのが好ましい。
【0101】
(D)滴下防止剤
本発明の樹脂組成物には更に滴下防止剤を配合するのが好ましい。滴下防止剤とは、燃焼時の樹脂の滴下を防止する性質を有する化合物であればよいが、樹脂組成物の難燃性の観点から、フッ素含有ポリマーが好ましい。
【0102】
成分(D)滴下防止剤の量は、成分(A)樹脂成分100重量部に対して0.01〜15重量部の範囲から選ばれる。滴下防止剤の量が少ないと、燃焼中の滴下防止効果が不十分であり、多すぎると、流動性や機械的物性の低下を招く畏れがある。
【0103】
(D)滴下防止剤として使用されるフッ素含有ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、フッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィンが好ましく、中でもポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体がより好ましく、特にはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好適に用いられる。
【0104】
(D)滴下防止剤として使用されるフッ素含有ポリマーは、350℃における溶融粘度が、1.0×10〜1.0×1015(Pa・s)のものが好ましく、中でも1.0×10〜1.0×1014(Pa・s)、特には1.0×1010〜1.0×1012(Pa・s)のものが好適に用いられる。溶融粘度が1.0×10(Pa・s)未満であると燃焼時の滴下防止能が不充分であり、1.0×1015(Pa・s)より大きくなると組成物の流動性が著しく低下する。
【0105】
フッ素含有ポリマーの量は、成分(A)樹脂成分100重量部に対し0.5〜15重量部であり、好ましくは0.7〜12重量部、特には1〜10重量部が好ましい。添加量が0.5重量部より少ないと燃焼中の滴下防止効果が不充分であり、15重量部より多いと流動性や機械的物性が低下する。
【0106】
本発明の樹脂組成物には、更に必要に応じて、上記(A)〜(D)の成分の他に、慣用の添加剤などを配合することができる。配合する添加剤に特に制限はない。添加剤のうち、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などは、ポリアルキレンテレフタレートの重合途中あるいは重合後に添加することができる。また、耐加水分解性をさらに向上させるべくエポキシ化合物、カルボジイミド、オキサゾリン等を添加できる。さらに、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することができる。
【0107】
さらに、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じて、(A)樹脂成分以外の樹脂を配合することが出来る。しかし、前述のようにポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール樹脂の配合は、トラッキング特性を低下するので好ましくなく、これらは全く含有しないか、含有する場合でも樹脂組成物中でそれぞれ1重量%以下の含有量に制限する必要がある。なお本明細書において、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂については特開平8―20900号公報に、フェノール樹脂については特許文献6に開示されているものを意味する。
なお、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂は、トラッキング特性を向上する効果があるが、難燃性を著しく低下する欠点がある。
【0108】
本発明の樹脂組成物の製造法は特に限定されるものではなく、公知の方法により各成分を混合することにより容易に製造することができる。例えば、ブレンダーやミキサーなどを使用してドライブレンドする方法、押出機を使用して溶融混合する方法などが挙げられるが、通常スクリュー押出機を使用して溶融混合してストランド状に押し出し、ペレット化する方法が適している。各成分を一括して溶融混練しても、特定成分を先に溶融混合してもよいが、機械的物性の観点から、(A)樹脂成分と(B)難燃剤とを先に溶融混合し、次いで残りの成分を混合する方法が好ましい。
【0109】
本発明の樹脂組成物から成形品を製造する方法には特に制限はなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することができ、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0110】
本発明の樹脂組成物は難燃性、機械的物性等に優れ、腐食性ガス発生による金型腐食がなく、更に低比重で流動性に優れるので、薄肉あるいは複雑な形状の成形品の製造に好適に使用できる。従って、電気機器、電子機器等の部品を製造する材料として好適である。
【0111】
更に、電気機器、電子機器等の部品の中でも、本発明の樹脂組成物の優れた特性が十分に発揮されるのは、この樹脂組等成物を用いて形成された樹脂成形部が、通常の動作中に0.2Aを超える電流、即ち0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持しているか、またはこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁部品、すなわち高い電気安全性を求められる部品である。本発明の樹脂組成物を使用して形成された樹脂成形部は、高GWFI値、高GWITを実現し、かつ従来から必要とされているUL規格の難燃性(V−0)や、PTI等の要求事項をも満たすことができる。
【0112】
ここで「該樹脂成形部が、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部から3mm以内の距離にある」とは、例えばリレー部品などの場合、樹脂成形部に接続部(接点)が接触して直接支持しているのではなく、接点と樹脂成形部との間に数ミリの空間を設ける場合を意味する。このような場合にも、やはり高い電気安全性は必要であり、本発明の樹脂組成物が有効である。
【0113】
本発明の樹脂組成物で成形された電気絶縁部品は、金属接点、銅版などと組み合わせることにより、リレー、スイッチ、コネクター、センサー、アクチュエーター、マイクロセンサー及びマイクロアクチュエーターなどの電気・電子部品に加工される。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
なお、実施例及び比較例において、ポリアルキレンテレフタレート樹脂の物性の測定及び本発明樹脂組成物の評価は下記の方法により行った。
【0116】
(1)末端カルボキシル基量;
ポリブチレンテレフタレート0.1gをベンジルアルコール3mlに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/リットル−ベンジルアルコール溶液を用いて滴定した。
【0117】
(2)降温結晶化温度;
示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、ポリブチレンテレフタレートを、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/分で80℃まで降温した場合の、発熱ピークの温度を測定し、降温結晶化温度とした。
【0118】
(3)残存テトラヒドロフラン量;
ポリブチレンテレフタレートのペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0119】
(4)固有粘度;
ウベローデ型粘度計とフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用い、30℃において、濃度1.0g/dl、0.6g/dl及び0.3g/dl溶液の粘度を測定し、粘度を濃度0に外挿した。
【0120】
実施例及び比較例で使用した各成分は下記の通りである。
[原材料]
(A−1a)PBT−1:下記の連続重合法により製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂。末端カルボキシル基量は20eq/t、降温結晶化温度は178℃、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)、固有粘度は0.85dl/gであった。
【0121】
〔PBT−1製造法〕
テレフタル酸1.0モルに対して1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合してスラリーとした。このスラリー、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaの第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネートを供給し(供給量はスラリー2972重量部に対し、テトラブチルチタネート3.14重量部)、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。
【0122】
このオリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。更にこのオリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザーで切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
【0123】
(A−1b)PBT−2:下記の回分重合法により製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂で、末端カルボキシル基量は41eq/t、降温結晶化温度は170℃、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)、固有粘度は0.85dl/gであった。
【0124】
〔PBT−2製造法〕
テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,226重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
【0125】
(A−1c)PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学(株)製、商品名ノバペットPBK1)
【0126】
(A−2a)エポキシ変性AS樹脂:AS樹脂(テクノポリマー(株)製 、商品名サンレックスSAN−C、 メルトマスフローレート25g/10min )100重量部に対して、メタクリル酸グリシジル3重量部および2.5−ジメチル−2.5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシンの0.015重量部を混合し、30mmの二軸押出機を使用して210℃にて混練した後ペレット化した。未反応のメタクリル酸グリシジルをアセトン抽出した後、紫外線吸収スペクトル測定から反応したメタクリル酸グリシジルの定量を行ったところ、含有量は1.7重量%であった。
【0127】
(A−2b)EGMA−g−PS:エポキシ変性ポリスチレン樹脂 、日本油脂(株)製、 商品名モディパーA4100(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にポリスチレンをグラフトした櫛型構造ポリマー。EGMA/PS=70/30(重量比))
【0128】
(A−2c)AS樹脂:スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、 テクノポリマー(株)製、商品名 サンレックスSAN−C、 メルトマスフローレート25g/10min
【0129】
(A−2d)GPPS樹脂: PSジャパン(株)製、 商品名HF77 、メルトフローレイト7.5g/10min
【0130】
(A−3)エポキシ化合物(相溶化剤):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 旭電化工業(株)製 、商品名アデカサイザーEP17
【0131】
(B−1a)ホスファゼン化合物:環状物を主体とするホスファゼン化合物(伏見製薬所(株)製、商品名FP−100)
【0132】
(B−1b)ホスフィン酸塩:ジエチルホスフィン酸アルミ(クラリアントジャパン(株)製、商品名OP1240)
【0133】
(B−2a)シアヌル酸メラミン;三菱化学(株)製、商品名MX44。
【0134】
(B−2b)ポリリン酸メラミン(チバ スペシャル社製 melapur200/70)
【0135】
(B−3)硼酸亜鉛:ボラックス・ジャパン(株)製、商品名ファイヤーブレイクZB。
【0136】
(C)GF(無機充填剤):ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、エポキシシラン処理品、3mmチョップドストランド 銘柄名:T−187)。
【0137】
(D)PTEF(滴下防止剤):ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製、四フッ化エチレン樹脂、商品名ポリフロンF201)。
【0138】
(E)臭素系難燃剤:臭素化ポリスチレン(アルベマール日本(株)製、商品名Saytex HP−7010)。
【0139】
(F)アンチモン化合物:三酸化アンチモン(森六(株)製、商品名MIC−3)。
【0140】
(G)安定剤:ヒンダードフェノール系化合物(チバ・スペシャリティー・ジャパン(株)製、商品名イルガノックス1010)
【0141】
(H)離型剤:モンタン酸カルシウム(クラリアントジャパン(株)製、商品名CaV102)
【0142】
(I−1)PPE樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂);三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、商品名ユピエース、固有粘度0.36
【0143】

(I−2)フェノール樹脂:ノボラックフェノール樹脂(住友デュレズ社製、商品名スミライトレジンPR−53195)
【0144】
[性能評価法]
(1)難燃性試験
UL試験片(厚み1/32インチ)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格の垂直燃焼試験法により実施した。難燃性レベルは該規格に従い、V−0>V−1>V−2>HBの順で評価した。
【0145】
(2)保証トラッキング指数(Proof Tracking Index)試験(略称:PTI試験)
試験片(厚み3mmの平板)について、国際規格 IEC60112に定める試験法によりPTIを決定した。このPTIは、25V刻みの保証電圧の数値である。PTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、600Vから100Vの間の電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、550V以上が要求され、好ましくは600V以上である。
【0146】
(3)赤熱棒燃焼指数(Glow−wire Flammability Index)試験(略称:GWFI試験)
試験片(厚み3mmの平板)について、IEC60695−2−12に定める試験法に従っておこなった。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、その後引き離す。この間に着火しないか,着火しても引き離し後30秒以内に火が消える先端の最高温度として定義され、最高で、960℃まで試験する。難燃用途には850℃以上が求められる。本発明においては、960℃で合格するか否かを判定した。
【0147】
(4)赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature)試験(略称:GWIT試験)
厚み0.75mm、1.5mm、3mmの3種類の平板試験片について、IEC60695−2−13に定める試験法に従って行った。即ち、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、着火しない先端の最高温度より25℃高い温度として定義される。難燃用途には、0.8〜3mm厚みのGWITとして775℃以上が求められる。更に好ましくは800℃以上が求められる。
【0148】
(5)難燃剤ブリードアウト試験
10cm角、厚み3mmの平板を試料とし、150℃に温度調節された熱風乾燥機内で、48時間の熱処理を行った後、試験片の表面を目視観察し、難燃剤の染み出しを次の4段階に分類し、◎から△は実用上使用可能と判断したが、◎又は○であるのが好ましい。
◎:染み出しなし、○:染み出し極僅かに認められる、△:染み出しあり、× :染み出し多い
【0149】
(6)引張試験:ISO引張試験片(ISO3167)を用い、ISO527に準拠して測定した。
【0150】
(7)耐加水分解性試験
上記ISO引張試験片を温度121℃の飽和水蒸気中で40時間保持した。保持前後のISO試験片について、ISO527に準拠して引張試験を行い、引張強度保持率を測定した。
【0151】
(8)発生ガス;
樹脂組成物ペレット5gを内容量26mlのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱した後、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。クロマトグラムのピーク面積を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量を樹脂に対する比(ppm)として表した。
【0152】
[実施例1〜11および比較例1〜12]
表1に示すガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合し、L/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、更にガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、バレル温度260℃の条件下押出して樹脂組成物のペレットを得た。
この樹脂組成物ペレットについて、射出成型機(住友重機械社製、型式SH−100)を使用して、シリンダ温度270℃、金型温度80℃の条件で上記(1)〜(5)の試験片(縦横それぞれ10cm、厚さ0.75mm、1.5mmおよび3mmの3種類の平板試験片、及び厚さ1/32インチのUL−94規格の試験片)を製造した。また、(6)および(7)の試験片としては、射出成形機(住友重機械(株)製 型式S−75 MIII)を用い、265℃にて、ISO引張試験片(ISO3167)を成形した。これらの試験片を用いて、上記の評価を実施した。また樹脂組成物のペレットを120℃にて8時間熱風乾燥後、(8)の発生ガス量の測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
表1より次のことが判明する。
(1)難燃剤として臭素系難燃剤とアンチモン化合物を配合した比較例1は、PTIが低く、また1.5mm以下の厚みにおいてGWITが775Vに到達しない。
(2)難燃剤を通常通り配合したが、(A−2)成分のポリスチレン系樹脂を配合しなかった比較例2、3、及びポリスチレン系樹脂の配合量が本発明の範囲より少ない比較例4は、難燃剤のブリードアウトが著しい。逆にポリスチレン系樹脂の配合量が過剰な比較例5、及び難燃剤の配合量が少ない比較例6では、難燃性、電気安全性が低下する。
(3)難燃剤配合量が過剰である比較例7、及び難燃剤の配合量は適正であるがリン系難燃剤が過剰である比較例8は、難燃性は高いが、発生ガス量が大きく、かつ物性が低い。
【0156】
(4)本発明の範囲内の実施例1〜11は、難燃性もV−0であり、PTIは550V、960℃のGWFIは合格で、GWITも0.75〜3.0mm厚みの範囲内ですべて775V以上と極めて電気安全性が高い。また、難燃剤のブリードアウトも少なく、耐加水分解性は良好である。
(5)発生ガス量も、末端カルボキシル基および残存テトラヒドロフラン量が少ないPBT樹脂をベースにした実施例1は、これらの量が多いPBT樹脂を使用した実施例11と比較すると、発生ガス量が少なく、リレーなどの有接点部品に好適である。
【0157】
(6)リン系難燃剤と窒素系難燃剤の配合比率が異なる実施例1と実施例7とを比較すると、リン系難燃剤/窒素系難燃剤の比が0.14〜1.1の範囲にある実施例1の方が難燃剤のブリードアウトおよび発生ガス量が少ない。
(7)実施例1の組成にさらにPPE樹脂またはフェノール樹脂を配合した比較例9〜12は、難燃性、ブリードアウト性は良好であるが、トラッキング性が著しく低下している
【0158】

(8)各種ポリスチレン系樹脂を配合した実施例1〜6の比較において、芳香族ビニル単量体の含有量が少ない成分A−2bのみを配合した実施例2の難燃剤ブリードアウトが、他の実施例に比較して多い。一方、芳香族ビニル単量体のみの成分A−2dを配合した実施例4のトラッキング性が、ほかに比べやや低下する。
(9)エポキシ基を含有してないポリスチレン系樹脂のみを配合した実施例3および4は、実施例1、2、5および6に比較してややグローワイヤ性、耐加水分解性がやや悪化している。また難燃性はV−0を保持しているが、燃焼時間がやや長めであった。
【0159】
以上、表1の実施例1〜11ら明らかなように、本発明に係る樹脂組成物で形成された電気絶縁部品は、概して難燃剤のブリードアウトが極めて少なく、難燃性、PTI、GWFI、GWITおよび機械的特性が良好であり、IEC60335−1に示される、通常の作動中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁部品、及びこれらの接続部から3mm以内にある絶縁部品の規定に適合したものであることがわかる。さらに、末端カルボキシル基および残存テトラヒドロフラン量の少ないPBT樹脂をベースにすると、発生ガス量が更に少なく、リレーなどの有接点の部品にも有用なものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A―1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂40〜96.5重量部
(A―2)ポリスチレン系樹脂3.5〜50重量部 及び
(A―3)相溶化剤0〜10重量部
より成る樹脂成分(A)100重量部に対し、
下記の難燃剤(B)
(B−1)ホスファゼン化合物及びホスフィン酸塩より成る群から選ばれたリン系難燃剤10〜60重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩からなる窒素系難燃剤20〜70重量部
(B−3)硼酸金属塩0〜20重量部(但しこれらの難燃剤の合計は40〜100重量部である) 及び
(C)無機充填剤0〜200重量部
を配合して成り、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びフェノール系樹脂(但し、相溶化剤として作用する低分子量のエポキシ基含有のノボラックエポキシ樹脂を除く。)のいずれをも含有していないか、又は含有していてもいずれも含有量が最大で1重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
(A―1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂45〜96.3重量部
(A―2)ポリスチレン系樹脂3.5〜50重量部
(A―3)相溶化剤0.2〜8重量部
より成る樹脂成分(A)100重量部に対し
下記の難燃剤(B)
(B−1)ホスフアゼン化合物及びホスフイン酸塩より成る群から選ばれたリン系難燃剤15〜45重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩から成る窒素系難燃剤25〜60重量部
(B−3)硼酸金属塩0〜15重量部(但し、これらの難燃剤の合計は50〜100重量部である)及び
(C)無機充填剤5〜150重量部
を配合して成り、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフイド樹脂及びフエーノル系樹脂(但し、相溶化剤として作用する低分子量のエポキシ基含有のノボラックエポキシ樹脂を除く、)のいずれをも含有していないか、又は含有していてもいずれも最大で1重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
(A―1)ポリアルキレンテレフタレート樹脂55〜95重量部
(A―2)ポリスチレン系樹脂3.5〜45重量部
(A―3)エポキシ化合物0〜8重量部
より成る樹脂成分(A)100重量部に対し
下記の難燃剤(B)
(B−1)ホスファゼン化合物及びホスフィン酸塩より成る群から選ばれたリン系難燃剤20〜40重量部
(B−2)アミノ基含有トリアジン類の塩から成る窒素系難燃剤25〜60重量部
(B−3)硼酸亜鉛2〜15重量部(但し、これらの難燃剤の合計は50〜100重量部である) 及び
(C)無機充填剤50〜130重量部
を配合して成り、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、及びフェノール系樹脂(但し、相溶化剤として作用するエポキシ基含有のノボラックエポキシ樹脂を除く、)のいずれをも含有しないか、又は含有していてもいずれも最大で1重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分(A)100重量部に占めるポリスチレン系樹脂(A―2)の量が4.5重量部以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
窒素系難燃剤(B−2)に対するリン系難燃剤(B−1)の重量比が0.14〜1.1であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリスチレン系樹脂(A―2)がエポキシ変性ポリスチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A―1)がポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A―1)の少なくとも一部が、末端カルボキシル基量が30eq/t以下で、且つテトラヒドロフラン含有量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
無機充填剤が繊維状のものであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂成分(A)100重量部に対し、(E)滴下防止剤としてフッ素含有ポリマー0.01〜15重量部を含有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
電気絶縁部材成形用のものであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成された成形部を有しており、該成形部が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持するか、又はこれらの接続部から3mm以内の距離にある部分を形成していることを特徴とする電気絶縁部品。
【請求項13】
該成形部が厚さ2mm以下の肉薄部分を有しており、且つこの肉薄部分が0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を直接支持するか、又はこれらの接続部から3mm以内の距離にある部分を形成していることを特徴とする請求項12に記載の電気絶縁部品。
【請求項14】
接続部が接点であることを特徴とする請求項12又は13に記載の電気絶縁部品。
【請求項15】
リレー、スイッチ、コネクター、センサー、アクチュエーター、マイクロスイッチ、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエーターからなる群の選ばれる有接点電気電子部品の部品として使用されるものであることを特徴とする請求項12ないし14のいずれかに記載の電気絶縁部品。

【公開番号】特開2009−292897(P2009−292897A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146195(P2008−146195)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】