説明

樹脂組成物

【課題】高い機械的強度および優れた難燃性を有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)熱可塑性のポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂;(B)ポリエチレン樹脂;(C)残炭素率が20質量%以上である芳香族化合物(ただし、前記(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂を除く。);および(D)難燃剤を含有する樹脂組成物であって、当該樹脂組成物中において、前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が分散されており、長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比(長径/短径)が1〜10である前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が、全結晶粒に対して60個数%以上の割合で存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂およびその樹脂組成物は、優れた成形加工性、機械的物性、耐熱性、耐候性、外観性、衛生性および経済性などの観点から、容器、包装用フィルム、家電機器、OA機器、AV機器、電気・電子部品および自動車部品などの成形材料として幅広い分野で使用されている。そのため、このような熱可塑性樹脂およびその樹脂組成物の成形加工品の使用量は多く、年々増加の一途を辿っている。従って、使用済みとなって廃棄される成形加工品の量も益々増加し、深刻な社会問題となっている。
【0003】
近年、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」や「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」などの法律が相次いで施行されることにより、このような熱可塑性樹脂およびその樹脂組成物の成形加工品のマテリアルリサイクル技術に対する関心が高まってきている。特に、使用量が急速に増加しているポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう。)を材料とするPETボトルのマテリアルリサイクル技術の確立は急務とされている。また、CD、CD−R、DVDおよびMDなどのようなポリカーボネート(以下、「PC」ともいう。)を材料とする光学記録媒体製品(光ディスク)の普及に伴い、これらの成形加工時に排出される端材の再利用方法や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層などを剥離した後に得られるPCを再利用する方法の検討がなされている。
【0004】
しかしながら、市場から回収された使用済みのPETボトルなどのポリエステル樹脂や光ディスクなどのポリカーボネート樹脂の成形加工品は、加水分解や熱分解などにより劣化している場合が多く、例えばこれらの成形加工品を粉砕して再度成形する場合においては、機械的強度が極めて低く、全く成形することができないか、または、成形が可能であっても得られる成形加工品は脆弱で容易に破損し、実用に耐え得る成形加工品への再生利用は極めて困難とされている。
【0005】
そこで、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂の機械的強度を高めるため、当該樹脂にゴム成分を添加する方法が知られている。しかしながら、このような方法によっては、靱性を高めることは可能であるが、弾性率の低下を招き、十分な機械的強度が得られないという問題がある。また、このような問題を解決するため、ゴム成分と共に高弾性成分を添加する方法が考えられるが、従来技術では当該樹脂が可塑化されて靱性が低下し、未だ十分な機械的強度が得られていない。
【0006】
また、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂およびその樹脂組成物が家電機器やOA機器などの構成部材に使用される場合においては、十分な難燃性を有することが要求されている。
そこで、機械的強度および難燃性を得るために、ゴム成分および難燃剤を添加する方法など(例えば、特許文献1〜4参照)が提案されているが、当該難燃剤に含有されるハロゲン原子に起因して、十分な機械的強度が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−183486号公報
【特許文献2】特開2003−213112号公報
【特許文献3】特開2003−221498号公報
【特許文献4】特開2003−231796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、高い機械的強度および優れた難燃性を有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、
(A)熱可塑性のポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂;
(B)ポリエチレン樹脂;
(C)残炭素率が20質量%以上である芳香族化合物(ただし、前記(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂を除く。);および
(D)難燃剤
を含有する樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物中において、前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が分散されており、
長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比(長径/短径)が1〜10である前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が、全結晶粒に対して60個数%以上の割合で存在することを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂組成物においては、当該樹脂組成物が、(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂、(B)ポリエチレン樹脂、(C)芳香族化合物および(D)難燃剤を含有する溶融状態の高分子混練物を間隙距離が5mm未満のスリットに通過させる間隙通過処理を経て得られたものであることが好ましい。
【0011】
本発明の樹脂組成物においては、前記(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂が10〜80質量%、前記(B)ポリエチレン樹脂が5〜25質量%、前記(C)芳香族化合物が1〜10質量%、前記(D)難燃剤が0.1〜20質量%の割合で含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物によれば、再生されたポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂を用いる場合においても、特定の形状を有する(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が、特定の存在割合で樹脂組成物中に分散されていることにより、高い機械的強度が得られ、また、特定の芳香族化合物および難燃剤が含有されることにより、優れた難燃性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の樹脂組成物を得るための特定の間隙通過処理に用いられる装置(ダイ)の一構成例を示す説明図であって、(a)は透視平面図であり、(b)はP−Q線断面図である。
【図2】実施例1に係る樹脂組成物〔1〕における切断面を示す撮像画像であって、(a)はオリジナルの撮像画像であり、(b)は(a)の撮像画像に(B)成分による結晶粒の輪郭を実線により示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも(A)熱可塑性のポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂、(B)ポリエチレン樹脂、(C)特定の芳香族化合物および(D)難燃剤を含有する固状のものである。
以下、樹脂組成物の構成成分について詳細に説明する。
【0016】
〔(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂〕
(A)熱可塑性のポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂(以下、「(A)成分」ともいう。)は、本発明の樹脂組成物を構成する主成分である。
【0017】
(ポリエステル樹脂)
(A)成分としてのポリエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、使用済みとなって廃棄された成形加工品から得られたポリエステル樹脂(以下、「再生ポリエステル樹脂」ともいう。)を用いることができ、また、ジカルボン酸またはエステル形成能を有する誘導体と、ジオールまたはエステル形成能を有する誘導体とを公知の方法で重縮合して得られるものを用いることもできる。
【0018】
(A)成分としてのポリエステル樹脂を形成するためのジカルボン酸の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、3,3′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、こはく酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体(例えばメチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステルなど)などから誘導されるジカルボン酸が挙げられる。
【0019】
(A)成分としてのポリエステル樹脂を形成するためのジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオールなどの炭素数2〜10の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量6000以下のポリアルキレングルコールなどから誘導されるジオールが挙げられる。
【0020】
これらのジカルボン酸およびジオールは共に上記化合物を各々単独または2種以上組み合わせて用いることができる。さらに、本発明の樹脂組成物を構成する(A)成分としてのポリエステル樹脂は、全構造単位に基づいて1モル%以下であれば、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上のモノマーから誘導される構造成分を有していてもよい。
【0021】
ポリエステル樹脂は、機械的強度および難燃性のさらなる向上の観点から、芳香族ジカルボン酸またはエステル形成能を有する誘導体と、脂肪族ジオールまたはエステル形成能を有する誘導体とを重縮合して得られる芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸系ポリエステル、ポリアリレート系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ジオール成分として、エチレングリコールを用いたPETおよびPENがその結晶化挙動、熱的性質、機械的性質などの物性バランスの観点から特に好ましい。
【0023】
(A)成分としてのポリエステル樹脂は、固有粘度が0.5〜1.5dl/gのものであることが好ましく、より好ましくは0.65〜1.30dl/gのものである。
ポリエステル樹脂の固有粘度が過小である場合においては、十分な耐衝撃性が得られず、また耐薬品性が低下するおそれがある。
一方、ポリエステル樹脂の固有粘度が過大である場合においては、流動粘度が増大し、後述する(I)溶融・混練処理において混練温度を高く設定することとなり、他の添加剤に影響を及ぼすおそれがある。
この固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(質量比:1/1)混合溶媒を用いて30℃で測定したときの値である。
【0024】
(A)成分としてのポリエステル樹脂は、融点が180〜300℃のものであることが好ましく、より好ましくは220〜290℃のものであり、また、ガラス転移温度が40〜200℃のものであることが好ましく、より好ましくは50〜150℃のものである。
【0025】
このポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量計「DSC7020」(セイコーインスツル社製)を用いて測定されるものであり、融点とは、当該示差走査熱量計による昇温測定時に発現する結晶融解吸熱ピークの終点温度をいうものとする。
【0026】
このポリエステル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSC7020」(セイコーインスツル社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、測定用試料(ポリエステル樹脂)10mgを小数点以下2桁まで精秤し、アルミニウム製パンにセットする。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0〜200℃、昇温速度10℃/min、降温速度10℃/minにて、Heat−Cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータを基に解析を行う。本発明におけるガラス転移温度とは、ベースラインが階段状に変化した部分の温度のことをいうものとする。すなわち、階段状に変化した部分の前後における各ベースラインから延長した直線から縦方向に等距離にある直線と、階段状に変化した部分の曲線との交点の温度をいうものとする。
【0027】
(A)成分としてのポリエステル樹脂の含有量は、樹脂組成物全量に対して10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%である。
【0028】
(ポリカーボネート樹脂)
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、使用済みとなって廃棄された成形加工品から得られたポリカーボネート樹脂(以下、「再生ポリカーボネート樹脂」ともいう。)を用いることができる。
また、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂としては、2価フェノールとカーボネート前駆体とを反応して得られるものを用いることもできる。このようなポリカーボネート樹脂の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば2価フェノールにホスゲンなどのカーボネート前駆体を直接反応させる方法(界面重合法)や、2価フェノールとジフェニルカーボネートなどのカーボネート前駆体とを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが挙げられる。
【0029】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂を形成するための2価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)ベンゼンおよび核にアルキル基やハロゲン原子などが置換しているこれらの誘導体などを用いることができる。特に好適な2価フェノールの代表例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス{(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)フェニル}スルホンなどが挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。これらの中で、特にビスフェノールAを用いることが好ましい。
【0030】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂を形成するためのカーボネート前駆体としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネートなどのジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ホスゲンなどのカルボニルハライド、2価フェノールのジハロホルメートなどのハロホルメートなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、ジフェニルカーボネートが好ましい。これらカーボネート前駆体もまた、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンまたは1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、得られたポリカーボネート樹脂を2種またはそれ以上混合して得られた混合物であってもよい。
【0032】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂は、分子量が粘度平均分子量で10,000〜40,000のものであることが好ましく、より好ましくは12,000〜35,000のものである。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、「CBM−20Aliteシステム」および「GPCソフトウェア」(以上、島津製作所社製)を用いて測定されるものである。
【0033】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が120〜290℃のものであることが好ましく、より好ましくは140〜270℃のものである。
このポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、上述したポリエステル樹脂のガラス転移温度の測定方法において測定用試料をポリカーボネート樹脂に変更することの他は同様にして測定されるものである。
【0034】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物全量に対して10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量%である。
【0035】
また、(A)成分としてポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とを併用する場合においては、その質量比としては、(ポリエステル樹脂:ポリカーボネート樹脂)=(9:1)〜(1:9)であることが好ましい。
【0036】
〔(B)ポリエチレン樹脂〕
本発明の樹脂組成物に含有される(B)ポリエチレン樹脂(以下、「(B)成分」ともいう。)は、本発明の樹脂組成物を構成する成分であり、当該(B)成分による結晶粒が、当該樹脂組成物中において、分散されている状態のものである。
【0037】
(B)成分による結晶粒は、長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比(長径/短径)が1〜10であるものが、全結晶粒に対して60個数%以上100個数%以下の割合、より好ましくは70個数%以上100個数%以下の割合で存在するものである。
(B)成分による結晶粒の存在割合が上記範囲内であることにより、当該樹脂組成物に高い機械的強度が得られる。
一方、(B)成分による結晶粒の存在割合が過小である場合においては、樹脂組成物に十分な機械的強度を確保することができない。
【0038】
本発明の樹脂組成物中における(B)成分による結晶粒の存在割合の算出方法としては、まず、ペレット状の樹脂組成物または当該樹脂組成物よりなる成形加工品を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームにより切り出して薄片状の測定用試料を作製し、透過型電子顕微鏡「LEM−2000型」(トプコン社製)を用いて倍率5000倍にて、当該測定用試料の断面を撮像する。この撮像画像(150mm×150mm)について、(B)成分による結晶粒と確認できるものをカウントし、各々の結晶粒について長径および短径を測定してアスペクト比を算出し、長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比が1〜10である結晶粒の全結晶粒に対する存在割合(個数%)を算出する。
【0039】
なお、本発明において、結晶粒の「長径」とは、結晶粒を2本の平行線で挟んだとき、その平行線の間隔が最大となる幅をいい、結晶粒の「短径」とは、前記長径の垂線の当該結晶粒に係る線分が最大となる幅をいう。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物中において、(B)成分による結晶粒は、長径が0.1〜5μmであって、アスペクト比が1〜5であるものが、全結晶粒に対して60個数%以上100個数%以下の割合で存在することがより好ましい。これにより、樹脂組成物により高い機械的強度が得られる。
【0041】
(B)成分は、特に限定されるものではなく、エチレンが重合した構造を有する重合体を用いることができる。具体的には高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられるが、機械的強度および難燃性の観点からHDPEを用いることが好ましい。
【0042】
(B)成分は、融点が70〜170℃のものであることが好ましく、より好ましくは90〜140℃のものである。
(B)成分の融点は、上述したポリエステル樹脂の融点の測定方法において測定用試料を(B)成分に変更することの他は同様にして測定されるものである。
【0043】
(B)成分の含有量は、樹脂組成物全量に対して5〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
(B)成分の含有量が過小である場合においては、樹脂組成物に十分な機械的強度が得られないおそれがある。
一方、(B)成分の含有量が過大である場合においては、自己消化性が低下するおそれがある。
【0044】
〔(C)芳香族化合物〕
本発明の樹脂組成物に含有される(C)芳香族化合物(以下、「(C)成分」ともいう。)は、本発明の樹脂組成物を構成する成分であり、残炭素率が20質量%以上100質量%以下のものである。
なお、本発明において、「芳香族化合物」とは、環状不飽和有機化合物をいい、(A)成分に該当するものを除くものをいう。
【0045】
本発明において、「残炭素率」とは、熱重量分析法により測定される質量変化率をいう。
具体的には、残炭素率は、熱重量分析装置「TGDTA6200」(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、白金セルにて(C)成分10mgを窒素気流下(流量300mm/min)において、昇温速度10℃/minの条件で、25℃から500℃まで加熱し、加熱前後の質量を測定し、下記式(1)により算出されるものである。
式(1):残炭素率(質量%)={w2/w1}×100
〔式(1)中、w1は加熱前の(C)成分の質量であり、w2は加熱後の(C)成分の質量である。〕
【0046】
(C)成分の残炭素率が上記範囲内であることにより、当該(C)成分が十分な耐熱性を有するものとされ、その結果、樹脂組成物に十分な難燃性が得られる。
(C)成分の残炭素率が過小なものである場合においては、当該(C)成分が十分な耐熱性を有さず、その結果、樹脂組成物に十分な難燃性が得られないおそれがある。
なお、(C)成分は、残炭素率が大きいもの、すなわち加熱によっても質量変化の少ないものとされ、耐熱性の指標となるものであり、本発明の樹脂組成物においては、難燃性に寄与する機能を有するものである。
【0047】
(C)成分としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」ともいう。)を好ましく用いることができる。
PPSは、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして有用なポリフェニレンスルフィドである。
【0048】
PPSは、軟化点が240〜300℃のものが好ましく、より好ましくは240〜290℃のものである。
PPSの軟化点は示差走査熱量計「DSC7020」(セイコーインスツル社製)を用いて測定されるものである。
【0049】
PPSの具体的な市販品としては、例えば、「トレリナ」(東レ社製)、「PPS」(DIC社製)などが挙げられる。
【0050】
(C)成分の含有量は、樹脂組成物全量に対して1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0051】
〔(D)難燃剤〕
本発明の樹脂組成物に含有される(D)難燃剤(以下、「(D)成分」ともいう。)は、本発明の樹脂組成物を構成する成分であり、(D)成分としては、例えば、リン酸エステル化合物などの有機系難燃剤を用いることができる。
リン酸エステル化合物としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、およびホスホン酸のエステル化物などを用いることができる。
【0052】
亜リン酸エステルの具体例としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0053】
リン酸エステルの具体例としては、例えば、トリフェニルホスフェート(以下、「TPP」ともいう。)、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0054】
亜ホスホン酸エステルの具体例としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスホナイトなどが挙げられる。
【0055】
ホスホン酸エステルの具体例としては、例えば、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
リン酸エステル化合物としては、亜リン酸、リン酸およびホスホン酸のエステル化物が好ましく、特にリン酸エステルが好ましい。
【0057】
(D)成分の含有量は、樹脂組成物全量に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。
【0058】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が達成される範囲内で、(A)〜(D)成分の他に、慣用の他の添加剤、例えば、架橋剤(例えばフェノール樹脂など)、顔料、染料、補強材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、粘土鉱物、チタン酸カリウム繊維など)、充填剤(酸化チタン、金属粉、木粉、籾殻など)、熱安定剤、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤(例えばGMA−MA−PEなど)、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤などを配合することができる。
他の添加剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して0.01〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0059】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されないが、少なくとも(A)〜(D)成分よりなる高分子混合物が(I)溶融・混練処理され、得られる溶融状態の高分子混練物が後述する(II)特定の間隙通過処理を経て、その後、当該高分子混練物が(III )冷却処理されて得られる方法であることが好ましい。このようにして得られた樹脂組成物は、次工程(例えば成形工程)での処理を容易にするために、例えばペレダイザーによりカッティングされることにより、ペレット状のものとされる。
本発明において、「間隙通過処理」とは、溶融状態の高分子混練物を微小な間隙距離を有するスリットに通過させる処理をいう。
【0060】
(I)溶融・混練処理
溶融・混練処理は、例えば押出機を用いることにより行われる。このような押出混練機としては、特に制限されず、剪断力を利用した公知の押出混練機を用いることができ、例えば二軸押出混練機「KTX30」(神戸製鋼社製)、「KTX46」(神戸製鋼社製)などが挙げられる。
溶融・混練条件は、特に制限されず、例えばスクリュー回転数は50〜1000rpmとされ、溶融・混練温度は例えば150〜500℃とされる。
【0061】
(II)特定の間隙通過処理
特定の間隙通過処理は、溶融・混練処理した後、溶融状態の高分子混練物を間隙距離が5mm未満のスリットに通過させることにより行われる。
このような特定の間隙通過処理を経ることにより、(B)成分が高分子混練物中において高い分散状態を有するものとなると考えられる。
すなわち、溶融状態の高分子混練物がスリットを通過するとき、この高分子混練物が受ける圧力および高分子混練物の移動速度が大きく変化する。このとき、高分子混練物に対して剪断作用、伸長作用および折りたたみ作用が有効に働くものと考えられる。そのため、そのような作用を高分子混練物が受けることにより、結果として、(B)成分が高い分散状態を有するものとなると考えられる。
【0062】
本発明の樹脂組成物においては、当該特定の間隙通過処理を1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上経て得られたものであることが好ましい。
特定の間隙通過処理の回数を増やすほど、樹脂組成物の機械的強度は顕著に向上する。当該特定の間隙通過処理の回数の上限は通常、1000回とされる。特定の間隙通過処理は、一軸または二軸混練機で混練後に行うことによりその回数を低減させることが可能で、例えば二軸混練機の吐出口に取り付けた装置で特定の間隙通過処理を連続的に行う場合には、3から10回まで回数を低減することができる。
【0063】
スリットの間隙距離は、5mm未満とされ、好ましくは1〜3mmとされる。例えば、スリットを2つ以上有する装置を用いる場合においては、間隙距離は各々独立に5mm未満とされ、より好ましくは各々独立に1〜3mmとされる。
スリットの間隙距離が5mm以上である場合においては、高分子混練物がスリットを通過するときの圧力が不十分となり、(B)成分が高い分散状態を有するものとならないおそれがある。
【0064】
以下、特定の間隙通過処理の具体例として、間隙距離が5mm未満のスリットを直列に2つ有する装置を用いた方法について説明する。
【0065】
図1は本発明の樹脂組成物を得るための特定の間隙通過処理に用いられる装置(ダイ)の一構成例を示す説明図であって、(a)は透視平面図、(b)はP−Q線断面図である。
この装置10Aは、略直方体形状のハウジングを備え、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面間に形成されたスリット(2a,2b)を直列に2つ有する。
各々のスリット2a,2bの直前には、断面積が当該スリット2a,2bの断面積よりも大きい溜まり部1a,1bを有する。
【0066】
この装置10Aは、流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させることにより、当該押出混練機の押出力を、高分子混練物の移動の推進力として利用し、当該高分子混練物を全体として移動方向MDに移動させ、スリット2a,2bを通過させることができる。このように、装置10Aは押出混練機の吐出口に連結させて使用することができるため、ダイと呼ぶこともできる。
【0067】
溶融状態の高分子混練物は、流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。そして、溜まり部1aに充填された高分子混練物は、スリット2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらにスリット2bを通過し、吐出口6から吐出される。
【0068】
スリット2aにおける間隙距離x1 は、具体的には3mmであり、スリット2bにおける間隙距離x2 は、具体的には3mmである。
【0069】
スリット2a,2bにおける移動方向MDの距離y1 およびy2 としては、通常、各々独立に2〜200mmであることが好ましく、より好ましくは5〜50mmである。
スリット2aにおける移動方向MDの距離y1 は、具体的には50mmであり、スリット2bにおける移動方向MDの距離y2 は、具体的には40mmである。
【0070】
スリット2a,2bにおける幅方向WDの距離z1 としては、通常、10〜500mmであることが好ましく、より好ましくは50〜300mmであり、具体的には250mmである。
【0071】
溜まり部1a,1bにおける最大高さh1 ,h2 としては、通常、3〜150mmであることが好ましく、より好ましくは5〜100mmであり、具体的には50mmである。
本発明において、溜まり部の最大高さとは、幅方向WDに対する垂直断面における最大高さをいう。
【0072】
溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m1 および溜まり部1bにおける移動方向MDの距離m2 は、各々独立に1mm以上であればよく、効率性の観点から、2mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上であり、具体的には100mmである。距離m1 およびm2 の上限値は、特に制限されるものではないが、距離m1 およびm2 が過大である場合においては、効率性が低下すると共に流入口5に連結される押出混練機の押出力を大きくする必要がある。従って、距離m1 およびm2 は、各々独立に1〜300mmが好ましく、より好ましくは2〜100mm、さらに好ましくは5〜50mmである。
【0073】
スリット2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aおよびスリット2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bは、通常、各々独立に1.1以上、特に1.1〜1000であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点から、2〜100が好ましく、より好ましくは3〜15である。
【0074】
溶融状態の高分子混練物がスリットを通過するときの流速は、スリットの断面積1cm2 当たりの値で1g/min以上であればよく、好ましくは10〜5000g/min、より好ましくは10〜500g/minである。
【0075】
本発明において、断面積とは、移動方向MDに対する垂直断面における面積いう。
本発明において、流速は、吐出口から吐出される高分子混練物の吐出量(g/min)を間隙の断面積(cm2 )で除することにより測定されるものである。
【0076】
間隙通過処理時の高分子混練物の粘度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、例えば、1〜10000Pa・sであり、好ましくは10〜8000Pa・sである。
この高分子混練物の粘度は、粘弾性測定装置「MARS」(ハーケー社製)により測定されるものである。
【0077】
溶融状態の高分子混練物を移動方向MDに移動させるための圧力は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、大気圧力との差圧で示される樹脂圧力で0.1MPa以上が好ましい。樹脂圧力はスリットにおける樹脂の吐出口から1mm以上内側で計測した高分子混練物の圧力であり、圧力計で直接計測することにより測定される。圧力は高いほど効果的であるが樹脂圧力が高すぎると著しい剪断発熱が生じ、高分子の分解が生じる場合があるので、樹脂圧力は500MPa以下が好ましく、より好ましくは50MPa以下である。
【0078】
間隙通過処理時の高分子混練物の温度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、400℃を超える高温度では高分子の分解が生じるので400℃以下が好ましい。また間隙通過処理時の高分子混練物の温度は、高分子のガラス転移温度(Tg)以上の温度であると樹脂圧力が著しく高くならないので好ましい。
間隙通過処理時の高分子混練物温度は、当該処理を行う装置の加熱温度を調整することによって制御できる。
【0079】
(III )冷却処理
冷却処理は、特に限定されず、例えば、間隙通過処理された高分子混練物を0〜60℃の水に浸漬する方法や−40℃〜60℃の気体で冷却する方法、−40℃〜60℃の金属に接触させる方法により行われる。また例えば、間隙通過処理された高分子混練物をそのまま放置冷却する方法により行ってもよい。このような冷却処理により、(B)成分による結晶粒の高い分散状態が有効に維持される。
【0080】
このようにして得られた樹脂組成物は、次工程での処理を容易にするために、通常、ペレダイザーによりカッティングされる。
【0081】
本発明の樹脂組成物を得るためには、(I)溶融・混練処理のさらに前に、高分子混合物を構成する全成分を予め混合する予備混合処理を行ってもよい。
また、予備混合処理の後においては、(I)溶融・混練処理の前に、ポリエステル樹脂の加水分解反応を抑制させる観点から、高分子混合物を十分に乾燥させることが好ましい。
【0082】
本発明の樹脂組成物を得るための製造方法としては上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【0083】
本発明の樹脂組成物によれば、再生ポリエステル樹脂や再生ポリカーボネート樹脂を用いる場合においても、特定の形状を有する(B)成分による結晶粒が、特定の存在割合で樹脂組成物中に分散されていることにより、高い機械的強度が得られ、また、特定の芳香族化合物および難燃剤が含有されることにより、優れた難燃性が得られる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
<実施例1>
表1に示す成分を所定の質量割合でV型混合器を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で60℃、4時間乾燥させ、予備混合処理を行った。乾燥させた混合物を二軸押出混練機「KTX30」(神戸製鋼社製)の原材料供給口から投入し、吐出量:30kg/時および樹脂圧力:4MPaおよびスクリュー回転数:250rpmの条件にて溶融・混練処理を行った。なお、この二軸押出混練機は、シリンダ部は温調ブロックごとにC1〜C9の9つのブロックからなり、C1部には原材料供給口が設けられ、C3部およびC7部にはローターとニーダーとのスクリューの組み合わせが配置され、C8部にはベントが設置されるものである。そして、図1に示すものと同様の装置(ダイ)を用いて下記間隙通過処理条件において、二軸押出混練機から吐出された溶融状態の高分子混練物を流入口(5)から流入した後、所定のスリット(2a,2b)を通過させ、吐出口(6)から吐出して間隙通過処理を行った。ダイから吐出した高分子混練物を30℃の水に浸漬することによって冷却処理し、ペレタイザーによりカッティングすることによりペレット状の樹脂組成物〔1〕を得た。
【0086】
−間隙通過処理条件−
高分子混練物の流速;30kg/h
高分子混練物の樹脂圧力;4MPa
高分子混練物の温度;290℃
【0087】
<実施例2〜4および比較例1〜3>
樹脂組成物を構成する各成分の種類、その含有量および間隙通過処理におけるスリットの間隙距離を表1に示すものに従って変更したことの他は、実施例1と同様にして樹脂組成物〔2〕〜〔7〕を得た。
【0088】
得られた樹脂組成物〔1〕〜〔7〕について、長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比が1〜10である(B)成分による結晶粒の存在割合(個数%)を前述した測定方法により算出した。また、樹脂組成物を構成する(C)成分においては、残炭素率を前述した測定方法により測定した。結果を表1に示す。
【0089】
また、実施例1に係る樹脂組成物〔1〕について、当該樹脂組成物〔1〕の切断面を透過型電子顕微鏡「LEM−2000型」(トプコン社製)により撮像した撮像画像を図2(a)および(b)に示す。図2(b)においては、(B)成分による結晶粒と確認できるものの輪郭を実線により示す。
なお、この樹脂組成物〔1〕における撮像画像(150mm×150mm)においては、(B)成分による結晶粒と確認できるものは全部で113個あり、そのうち、長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比が1〜10である結晶粒は72個であった。
【0090】
【表1】

【0091】
表1において、(A)成分における「PET」は、使用済みとなって廃棄されたPETボトルから得られたもの(固有粘度:0.90dl/g、融点:270℃、ガラス転移温度:76℃)であり、「PEN」は、「テオネックス」(帝人化成株式会社製)(融点:275℃、ガラス転移温度:118℃)であり、「ポリカーボネート樹脂」は、使用済みとなって廃棄された光ディスクから得られたもの(粘度平均分子量:約15000、ガラス転移温度:148℃)である。
(B)成分における「ポリエチレン樹脂」は、「ハイゼックス」(プライムポリマー社製)(融点:136℃)である。
(C)成分における「PPS」は、「トレリナ」(東レ株式会社製)である。
(D)成分における「TPP」は、「トリフェニルホスフェート」(大八化学工業株式会社製)である。
他の添加剤における架橋剤としての「フェノール樹脂」は、「スミライトレジン」(住友ベークライト株式会社製)であり、結晶核剤としての「GMA−MA−PE」は、「ボンドファースト」(住友化学株式会社製)である。
【0092】
<評価>
(1)機械的強度
得られたペレット状の樹脂組成物〔1〕〜〔7〕を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「J55ELII」(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダ設定温度280℃、金型温度40℃で、100mm×10mm×4mmの短冊型試験片を成形し、当該試験片の機械的強度について、下記の評価方法により評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
〔シャルピー衝撃強度〕
「JIS−K7111」に準拠してシャルピー衝撃試験(Uノッチ、R=1mm)を行い、下記評価基準により評価した。
A;42kJ/m2 以上
B;32kJ/m2 以上42kJ/m2 未満
C;6kJ/m2 以上32kJ/m2 未満(実用上問題なし)
D;6kJ/m2 未満(実用上問題あり)
【0094】
〔曲げ強度〕
「JIS−K7171」に準拠して曲げ試験を行い、下記評価基準により評価した。
A;70MPa以上
B;66MPa以上70MPa未満
C;50MPa以上66MPa未満(実用上問題なし)
D;50MPa未満(実用上問題あり)
【0095】
〔弾性率〕
上記曲げ強度の初期歪の結果より、弾性率を求め、下記評価基準により評価した。
A;3.0GPa以上
B;2.1GPa以上3.0GPa未満
C;2.0GPa以上2.1GPa未満(実用上問題なし)
D;2.0GPa未満(実用上問題あり)
【0096】
(2)難燃性
得られたペレット状の樹脂組成物〔1〕〜〔7〕を100℃で4時間乾燥させた後、ダイをストランドダイとした二軸押出混練機「KTX30」(神戸製鋼社製)を用いて、10cmのストランド状試験片を成形した。当該試験片を垂直から45°に傾けて端部から1cmの長さの部分を固定し、ライターで着火した。下記評価基準により評価した。結果を表2に示す。
A;燃焼距離0.3cm未満で自己消火し、燃焼部分が0.3cm未満
B;燃焼距離2cm未満で自己消火し、燃焼部分が0.3cm以上2cm未満
C;燃焼距離5cm未満で自己消火し、燃焼部分が2cm以上5cm未満(実用上問題なし)
D;燃焼距離5cm未満で自己消火せず、燃焼部分が5cm以上(実用上問題あり)
【0097】
【表2】

【符号の説明】
【0098】
1a,1b 溜まり部
2a,2b スリット
5 流入口
6 吐出口
10A 装置(ダイ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性のポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂;
(B)ポリエチレン樹脂;
(C)残炭素率が20質量%以上である芳香族化合物(ただし、前記(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂を除く。);および
(D)難燃剤
を含有する樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物中において、前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が分散されており、
長径が0.1〜10μmであって、アスペクト比(長径/短径)が1〜10である前記(B)ポリエチレン樹脂による結晶粒が、全結晶粒に対して60個数%以上の割合で存在することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
当該樹脂組成物が、(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂、(B)ポリエチレン樹脂、(C)芳香族化合物および(D)難燃剤を含有する溶融状態の高分子混練物を間隙距離が5mm未満のスリットに通過させる間隙通過処理を経て得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂が10〜80質量%、前記(B)ポリエチレン樹脂が5〜25質量%、前記(C)芳香族化合物が1〜10質量%、前記(D)難燃剤が0.1〜20質量%の割合で含有されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82359(P2012−82359A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231190(P2010−231190)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】