説明

樹脂被覆アルミニウム合金板

【課題】絞り加工性及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜に割れ及び剥離が生じ難く、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生し難く、さらに炭化水素系溶剤による洗浄で潤滑皮膜を十分に除去できる樹脂被覆アルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】基板と化成皮膜と樹脂塗膜と潤滑皮膜とよりなる樹脂被覆アルミニウム合金板である。樹脂塗膜は、所定のエポキシ樹脂とポリエステル樹脂とアミノ樹脂とイソシアネート樹脂とを所定の配合割合で含有する樹脂混合物の硬化物からなる。潤滑皮膜は、温度25℃における針入度が5〜40のパラフィンを主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り及びしごき加工が施される樹脂被覆アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板は、軽量で適度な機械的特性を有すると共に、成形加工性及び耐食性にも優れているため、飲料用缶材料、建材、電機及び電子部品を含む家電材、及び自動車部品材等の用途に広く用いられている。
アルミニウム合金板は、通常、所望の形状にプレス成形して上述の用途等に用いられる。プレス成形には、プレス機にアルミニウム合金板を一枚ずつ供給して行なう方法と、プレス機にコイル状のアルミニウム合金板を連続的に供給して行なう方法があるが、後者は優れた生産性で成形が可能であるため、広く採用されている。
【0003】
アルミニウム製品の多くには、表面に塗料等が塗布される。
塗料の塗布には、アルミニウム合金板のプレス成形後に行なう方法と、アルミニウム合金板のプレス成形前に行なう方法がある。後者の場合には、塗料が塗布されたアルミニウム合金板のプレス成形性を向上させることを目的として、塗料に潤滑剤を添加したり、塗装後に潤滑剤を塗布することが一般的に行なわれている。
【0004】
例えば、後述の特許文献1には、塗膜中に潤滑剤であるラノリンを添加し、塗装後にパラフィンもしくはマイクロクリスタリンを塗布することにより、アルミニウム合金からなる基材の表面に塗膜とワックス層とを形成したアルミニウム塗装板が示されている。このようなアルミニウム塗装板は、金型へのラノリンの堆積を防止し、連続成形性を向上させることが可能になる。
また、特許文献2には、予めラノリンとパラフィンとを溶融混合したものを塗装後の塗膜に塗布することにより、アルミニウム基材の表面に、樹脂被覆膜と溶融混合ワックス層を形成したアルミニウム塗装材が示されている。このようなアルミニウム塗装板を用いることにより、成形性を向上させることが可能になる。
また、特許文献3には、特定のエポキシ樹脂とポリエステル樹脂とアミノ樹脂を主成分とする樹脂塗膜をアルミニウム合金板からなる基材に形成した樹脂被覆アルミニウム合金板が示されている。このような樹脂被覆アルミニウム合金板においては、塗膜の成形性が向上し、成形時に塗膜割れや剥離が生じ難くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283496号公報
【特許文献2】特開2007−320204号公報
【特許文献3】特開2009−111152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されたアルミニウム塗装板においては、缶蓋材等に加工する際の曲げ加工は可能であっても、絞り加工やしごき加工等のより過酷な加工においては、塗膜割れが起り、連続加工が困難になるおそれがある。
【0007】
また、特許文献2に示されたアルミニウム塗装板においては、ラノリンが表面に露出するため、成形時に金型へラノリンが堆積してしまうおそれがある。また、製造にあたって、予めワックスを加熱して溶融混合しておく必要があるため、製造コストが増大するおそれがある。さらに、成形加工後に、塗装面に印刷等を施す場合には、溶融混合ワックスを除去する必要があるが、ラノリンを混合したワックスは、ハロゲン系洗浄剤での洗浄性は良好であるものの、より環境に対する安全性が優れた炭化水素系洗浄剤での洗浄性が不十分であり、後工程の印刷に支障が出るおそれがある。
【0008】
また、特許文献3に示された樹脂被覆アルミニウム合金板においては、しごき加工率50%のしごき加工に耐えうるものの、例えばコンデンサケースのようなしごき加工を何万回と連続して行なう際には、塗膜の一部が金型に付着し、塗膜に筋状模様が生じるという不具合を生じたり、塗膜が剥離したりするおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、絞り加工性及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜に割れ及び剥離が生じ難く、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生し難く、さらに炭化水素系溶剤による洗浄で潤滑皮膜を十分に除去できる樹脂被覆アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜と、該樹脂塗膜の表面上に形成された潤滑皮膜とよりなり、
上記樹脂塗膜は、(a)エポキシ樹脂、(b)ポリエステル樹脂、(c)アミノ樹脂、及び(d)イソシアネート樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部、及び上記(d)イソシアネート樹脂を0〜20質量部含有する樹脂混合物の硬化物であり、
上記(a)エポキシ樹脂は、数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、波数830cm-1における吸光度h1、波数750cm-1における吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であり、
上記(b)ポリエステル樹脂は、数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であり、
上記潤滑皮膜は、JIS K2235に基づく温度25℃における針入度が5〜40のパラフィンを主成分とすることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム合金板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
上記樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記特定の物性を有するエポキシ樹脂と、ポリエステル樹脂とアミノ樹脂とイソシアネート樹脂とを特定の配合割合で含有する樹脂混合物の硬化物からなる上記樹脂塗膜を有し、さらに該樹脂塗膜上に形成された特定のパラフィンを主成分とする潤滑皮膜を有する。
そのため、上記樹脂被覆アルミニウム合金板においては、絞り加工性及びしごき加工性が良好で、加工時における樹脂塗膜の割れを抑制すると共に、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間での剥離を抑制することができる。また、加工成形後、過酷な環境においても樹脂塗膜の剥離や変質が起り難い。さらに、上記樹脂塗膜は、環境に対する安全性に優れた炭化水素系洗浄剤による洗浄で十分に除去することができ、洗浄後に印刷等を施す場合においても印刷へ悪影響を回避できる。
【0012】
上記樹脂塗膜において、上記樹脂混合物は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と(c)アミノ樹脂を必須成分とし、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と(d)イソシアネート樹脂を選択成分とする。
【0013】
上記(a)エポキシ樹脂を用いることにより、アルミニウム合金板との密着性が向上し、成形加工時に樹脂塗膜に割れや剥離が発生することを抑制することができ、また、成形加工後、より過酷な環境においても樹脂塗膜の剥離や変質が生じ難くなり、基板の腐食を防止できるという効果が得られる。
【0014】
また、上記(b)ポリエステル樹脂を用いることにより、樹脂塗膜の伸びが増加し、かつ、後述するブロッキング性能が良好になる。
また、上記(c)アミノ樹脂又は該(c)アミノ樹脂と上記(d)イソシアネート樹脂とを用いることにより、樹脂塗膜の硬化が促進され、加工成形後、塗膜が割れ難くなり、また、過酷な環境においても樹脂塗膜が軟化し難くなる。
【0015】
そして、上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、上記(c)アミノ樹脂、及び上記(d)イソシアネート樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部、上記(d)イソシアネート樹脂を0〜20質量部含有する。
【0016】
このような配合割合にすることにより、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、上記(c)アミノ樹脂、及び上記(d)イソシアネート樹脂のそれぞれより得られる効果を調整し、良好な絞り及びしごき加工性が得られ、加工時の樹脂塗膜の割れや剥離を防ぎ、特に、従来よりも、高温多湿環境に曝された際の樹脂塗膜の割れや剥離を生じ難くすることができる。
【0017】
上記樹脂被覆アルミニウム合金板においては、上記基板と上記樹脂塗膜との間に上記化成皮膜を介在させることにより、上記基板と上記樹脂塗膜とを良好に密着させることができ、上述の優れた効果を発揮する上記樹脂塗膜の割れ又は剥離を、より発生し難くすることができる。
【0018】
このように、本発明によれば、絞り加工性及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜に割れ及び剥離が生じ難く、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生し難く、さらに炭化水素系溶剤による洗浄で潤滑皮膜を十分に除去できる樹脂被覆アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板は、上述したように、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜と、該樹脂塗膜の表面上に形成された潤滑皮膜とよりなる。
【0020】
本発明において、アルミニウム合金板とは、純アルミニウム又はアルミニウム合金のいずれかよりなる板である。また、上記アルミニウム合金板としては、アルミニウム合金であれば、特に限定されず、成形後の用途に応じて適宜選択することができる。
【0021】
また、上記化成皮膜としては、上記基板に、樹脂塗膜を被覆するための下地、すなわち、上記樹脂塗膜を形成させるための下地として、通常用いられている化成皮膜であれば、特に制限されない。
上記化成皮膜としては、例えば、アルカリ−クロム酸塩系、クロム酸塩系、リン酸−クロム酸塩系、リン酸亜鉛系、非クロム酸塩系、酸化皮膜系等が挙げられ、更に具体的には、アルミニウムの酸化物及びクロムの酸化物の混合皮膜、リン酸クロム及びリン酸アルミニウムの混合皮膜、リン酸亜鉛皮膜、酸化アルミニウム及びリン酸エステルの混合皮膜、クロムの酸化物及びポリアクリル酸樹脂の混合皮膜、アルミニウムの水和酸化物皮膜等が挙げられる。
【0022】
上記化成皮膜を形成する方法としては、上記アルミニウム合金板に樹脂塗膜を形成させるための下地としての化成皮膜の形成に用いられる方法であれば、特に制限されない。例えば、圧延等により得られたアルミニウム合金板の表面を、中性洗剤、酸性洗剤、アルカリ性洗剤又は脱脂剤等で洗浄するか、あるいは、エッチング処理して、上記圧延等により得られたアルミニウム合金板の表面に付着している潤滑油等の油脂分を除去し、次いで、得られた脱脂アルミニウム合金板の表面を、皮膜処理することにより、アルミニウム合金板の表面に化成皮膜を形成させる方法等が挙げられる。
【0023】
化成皮膜を形成させる処理としては、リン酸、無水クロム酸、フッ化水素を含有する処理液に、上記脱脂アルミニウム合金板を浸漬するクロム酸クロメート処理や、ジルコニウム化合物又はチタン化合物を主とする化合物を含有する処理液に、上記脱脂アルミニウム合金板を浸漬する処理や、有機樹脂及び金属塩を含有する処理液を、上記脱脂アルミニウム合金板に塗布・乾燥する塗布型処理等が挙げられる。
【0024】
また、上記樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と(c)アミノ樹脂とを必須成分とし、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と(d)イソシアネート樹脂とを選択的成分とする樹脂混合物の硬化物である。
【0025】
上記(a)エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂、又はエポキシ基を有する樹脂のエポキシ基若しくは水酸基に、各種変性剤を反応させて得られる変性エポキシ樹脂である。
上記(a)エポキシ樹脂としては、具体的に、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、又はノボラック型エポキシ樹脂、あるいは、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基又は水酸基に、各変性剤を反応させて得られる変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記化学式(1)に示すような、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物との縮合物である。なお、化学式(1)には、上記エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物との縮合物のうち、ビスフェノール化合物がビスフェノールAの場合を示した。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下、高分子量まで縮合させることにより、あるいは、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下、縮合させて低分子量物を得、次いで、該低分子量物とビスフェノール化合物とを重付加反応させることにより得られる。
【0027】
【化1】

【0028】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂に係るビスフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン:ビスフェノールF、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン:ビスフェノールB、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0029】
そして、上記(a)エポキシ樹脂は、数平均分子量が30000〜80000である。
数平均分子量が30000未満のエポキシ樹脂を用いる場合には、塗膜が過剰に硬化して、柔軟性が低下するおそれがある。一方、数平均分子量が80000を超えるエポキシ樹脂を用いる場合には、塗膜の硬化が不十分となり、過酷環境に対する抵抗が低下し、塗膜の劣化、変色が発生するおそれがある。
【0030】
また、上記(a)エポキシ樹脂は、塗膜のFT−IR分析において、波数830cm-1における吸光度h1、波数750cm-1における吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10である。
波数830cm-1における吸収は、ビスフェノールA由来の吸収を示す。また、波数750cm-1における吸収は、ビスフェノールF由来の吸収を示す。
【0031】
上記ビスフェノールAは、レトルト性の面で有効であり、上記ビスフェノールFは、成形性の面で有効である。
そして、上記h2/h1が、0.1〜10である場合に、レトルト性と成形性の両者を満足することができる。
上記h2/h1が0.1未満である場合には、成形加工において、塗膜割れが発生し、成形性を確保することができない。一方、上記h2/h1が10を超える場合には、過酷環境において塗膜が劣化し、変色が発生し、レトルト性を確保することができない。
【0032】
上記(b)ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化物である。
上記多塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、イタコン酸、ダイマー酸等の二塩基酸が挙げられる。上記二塩基酸は、1種を単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0033】
また、上記多塩基酸は、上記二塩基酸と、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ピロメリット酸等の三価以上の多塩基酸との組合せであってもよい。
また、上記ポリエステル樹脂は、上記多塩基酸に加えて、必要に応じて、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸等の一塩基酸が、併用されていてもよい。
【0034】
また、上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等の二価アルコールが挙げられる。上記二価アルコールは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、上記多価アルコールは、上記二価アルコールと、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三価以上の多価アルコールとの組合せであってもよい。
【0036】
上記(b)ポリエステル樹脂を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、上記多塩基酸又は必要に応じて併用される一塩基酸と、上記多価アルコールとを、公知の方法によりエステル化させる方法、あるいは、上記多塩基酸の低級アルコールエステル又は必要に応じて併用される上記一塩基酸の低級アルコールエステルを、上記多価アルコールで公知の方法によりエステル交換する方法が挙げられる。
【0037】
また、上記(b)ポリエステル樹脂は、数平均分子量が7000〜30000である。
数平均分子量が7000未満のポリエステル樹脂を用いる場合には、樹脂塗膜の伸びが少なくなるため、樹脂塗膜の密着性が低くなり、剥離しやすくなるおそれがある。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が30000を超えるポリエステル樹脂を用いる場合には、樹脂塗膜形成用塗料の溶媒として有機溶媒を用いる場合は、ポリエステル樹脂が有機溶媒に溶解し難いため、樹脂塗膜を形成することが困難になるおそれがある。(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量は、好ましくは、8000〜20000である。
【0038】
また、上記(b)ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が−20℃以上である。
ガラス転移温度が−20℃未満のポリエステル樹脂を用いる場合には、アルミニウム合金板の片面に樹脂塗膜を形成させた後、得られた樹脂被覆アルミニウム合金板をコイルに巻き取る場合、樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜が、接触する無塗装面のアルミニウム合金板に貼り付く、すなわち、ブロッキング性能が悪くなるおそれがある。
上記(b)ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−20〜80℃であり、より好ましくは−10〜40℃である。
【0039】
ここで、上記ブロッキング性能について説明する。ブロッキング性とは、片面に樹脂塗膜が形成されている2枚の樹脂被覆アルミニウム合金板を、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜が形成されていないアルミニウム合金板面(ベア面)とが接触するように重ね合わせた時の、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面との貼り付き難さを指す。そして、樹脂被覆アルミニウム合金板のブロッキング性能が良好であるとは、重ね合わせ後に、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面とが貼り付かない場合を指す。樹脂被覆アルミニウム合金板のブロッキング性能が不良であるとは、重ね合わせ後に、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面とが貼り付く場合を指す。製造ラインにおいては、通常、製造後の樹脂被覆アルミニウム合金板をコイルに巻き取りながら、樹脂被覆アルミニウム合金板の製造が行われるため、コイルに巻き取りながら製造される樹脂被覆アルミニウム合金板においては、ブロッキング性能が良好であることは、必須である。
【0040】
(c)アミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ基を有するアミノ化合物とアルデヒドとの付加縮合反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、又はメチロール化アミノ樹脂をエーテル化したアルキルエーテル化メチロールアミノ樹脂等が挙げられる。
【0041】
上記メチロール化アミノ樹脂に係るアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。上記アルキルエーテル化メチロールアミノ樹脂において、上記メチロール化アミノ樹脂のエーテル化に用いられるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0042】
(d)イソシアネート樹脂としては、芳香族、脂肪族、又は脂環族のイソシアネート類による遊離もしくはブロックされたイソシアネート基を含む合成樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、2,4−トイレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、およびこれらイソシアネート類のイソシアヌレート化変性品、カルボジイミド化変性品、ビュレット化変性品等が挙げられる。
【0043】
上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、上記(c)アミノ樹脂、及び上記(d)イソシアネート樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部、上記(d)イソシアネート樹脂を0〜20質量部含有する。
【0044】
上記(a)エポキシ樹脂の含有量が70質量部未満の場合には、高温多湿環境に曝された時に、塗膜が変質しやすくなって、変色の原因となる。一方、上記(a)エポキシ樹脂の含有量が98質量部を超える場合には、塗膜の硬化が不十分となり、成形時の塗膜の割れが生じ易くなって、高温多湿環境に曝された時に、素地のアルミニウムが腐食し、変色の原因となる。(a)エポキシ樹脂の含有量は、好ましくは80〜95質量部である。
【0045】
また、上記(b)ポリエステル樹脂の含有量が20質量部を超える場合には、高温多湿環境に曝された時の変色が生じやすい。
また、上記(b)ポリエステル樹脂は選択成分であり、上記樹脂混合物は上記(b)ポリエステル樹脂を含有しなくてもよいが、樹脂塗膜の加工性の面から、1質量部以上含有することが好ましい。(b)ポリエステル樹脂の含有量は、好ましくは、1〜10質量部である。
【0046】
また、上記(c)アミノ樹脂の含有量が2質量部未満の場合には、樹脂塗膜の硬化が不十分となり、高温高湿環境に曝された時に、樹脂塗膜の割れ又は溶融が生じるおそれがある。一方、上記(c)アミノ樹脂の含有量が20質量部を超える場合には、塗膜の硬化が過剰となって柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工時に、樹脂塗膜の割れ又は剥離が生じるおそれがある。上記(c)アミノ樹脂の含有量は、好ましくは2〜10質量部である。
【0047】
また、上記(d)イソシアネート樹脂の含有量が20質量部を超える場合には、樹脂塗膜の硬化が過剰となって柔軟性が低下し、絞り加工及びしごき加工時に、樹脂塗膜の割れ又は剥離が起りやすくなるおそれがある。
また、上記(d)イソシアネート樹脂は選択成分であり、上記樹脂混合物は上記(d)イソシアネート樹脂を含有しなくてもよいが、樹脂塗膜の硬化を促進させるという観点から1質量部以上含有することが好ましい。上記(d)イソシアネート樹脂の含有量は、好ましくは1〜10質量部である。
【0048】
また、上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、上記(c)アミノ樹脂、及び(d)イソシアネート樹脂の合計含有量100質量部に対して、ポリエチレンワックス0.1〜10質量部、カルナウバワックス0.1〜10質量部、あるいはマイクロクロスタリンワックス0.1〜10質量部のうち1種又は2種以上を含有することが好ましい(請求項4)。
この場合には、加工時に樹脂塗膜に割れが発生することをより一層防止することができる。各ワックスの含有量が0.1質量部未満の場合には、添加による割れ防止効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、10質量部を超える場合には、樹脂塗膜の剥離が起り易くなるおそれがある。
【0049】
また、硬化前の上記樹脂混合物には、必要に応じて、硬化促進剤、顔料、顔料分散剤、可塑剤、着色剤、塗膜調整剤、改質剤等の各種添加剤を添加することができる。
上記硬化促進剤としては、例えばリン酸、スルホン酸化合物、スルホン酸化合物のアミン中和物等が挙げられる。
【0050】
また、上記顔料としては、例えば二酸化チタン、亜鉛華、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ粉末、カーボンブラック、アルミペースト等の無機顔料、及び各種有機顔料などが挙げられる。
また、上記塗膜調整剤としては、樹脂塗膜の平滑性を向上させる表面平滑剤、潤滑剤、揺変剤、消泡剤等が挙げられる。また、樹脂塗膜のピンホールやはじきを防止する界面活性剤等も挙げられる。
【0051】
また、上記樹脂塗膜は、例えば厚み1〜100μmで形成することができる。好ましくは、上記樹脂塗膜の厚みは2〜50μmがよい。
【0052】
上記樹脂塗膜は、上記樹脂混合物を含有する樹脂塗膜形成用塗料を上記化成皮膜の表面上に塗装し、次いで、焼付けを行うことにより形成することができる(請求項2)。
この場合には、上記樹脂混合物を熱硬化させて上記樹脂塗膜を形成することができる。
【0053】
上記樹脂塗膜形成用塗料には、上記樹脂混合物の他に、必要に応じて、上述の添加剤を添加することができる。上記樹脂塗膜形成用塗料は、上記樹脂混合物及び上記添加剤を溶媒に混合し、該溶媒中に溶解又は分散させることにより作製することができる。上記樹脂塗膜形成用塗料中の上記樹脂混合物の含有量、即ち、固形分濃度は、10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜50質量%がよい。
【0054】
上記樹脂塗膜形成用塗料に用いられる溶媒としては、例えば水又は有機溶媒がある。
有機溶媒は、樹脂の溶解性、基材に塗布した場合の蒸発速度等を考慮して適宜選択することができる。上記有機溶媒としては、具体的には、例えば、キシレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ソルベッソ(登録商標)#100、ソルベッソ(登録商標)#150、ブチルセロソルブ、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレングリコールアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
また、上記溶媒は、1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記溶媒の沸点は、好ましくは60〜230℃、特に好ましくは80〜200℃である。
また、樹脂塗膜形成用塗料の溶媒として、水を用いる場合は、ポリエステル樹脂が水溶媒に分散はするが、樹脂混合物が硬化し難くなるおそれがある。
【0055】
上記樹脂塗膜形成用塗料を、化成皮膜の表面に塗装する方法としては、例えば、バーコート法、ロールコート法、スプレー法、浸漬法等が挙げられる。
【0056】
上述のごとく、上記樹脂塗膜形成用塗料を化成皮膜の表面に塗装した後、上記樹脂塗膜形成用塗料が塗布されている基板を加熱して焼付けを行う場合には、焼付け時の加熱温度は、溶媒が蒸発し、且つ、上記樹脂混合物が熱硬化する温度で設定することができる。上記加熱温度は、通常、150〜300℃、好ましくは220〜260℃である。また、上記焼付けを行う際の加熱時間は、30〜180秒、好ましくは40〜100秒である。
【0057】
また、上記樹脂被覆アルミニウム合金板においては、上記樹脂塗膜上にパラフィンを主成分とする潤滑皮膜が形成されている。
パラフィンとしては、JIS K2235に基づく温度25℃における針入度が5〜40のものを採用する。
パラフィンの針入度が4未満の場合には、パラフィンが硬くなり、特に低温域での成形時に潤滑性が不足し、塗膜割れが起り易くなるおそれがある。一方、パラフィンの針入度が40を超える場合には、パラフィンが柔らかくて、潤滑皮膜としての強度が不十分になり、成形時に傷がつくおそれがある。好ましくは、パラフィンの針入度は、10以上、28以下がよい。
【0058】
上記潤滑皮膜の塗布量は、10mg/m2以上、120mg/m2以下が好ましい。10mg/m2未満の場合には、上記潤滑皮膜の形成効果が小さくなり、成形時における樹脂塗膜に対するの傷の防止効果が低下するおそれがある。120mg/m2を超える場合には、上記樹脂被覆アルミニウム合金板を例えばロール状に巻き取った場合に、ロールの端面からパラフィンワックスがたれてしまうおそれがある。
【0059】
パラフィンの形態は特に制限されるものではなく、その溶剤分散体、水分散体、溶融隊のいずれをも用いることができる。塗布方法も、特に限定されるものではないが、例えばバーコート法、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、静電塗装法等が挙げられる。
上記潤滑皮膜は、パラフィンを含有する潤滑皮膜形成用塗料を上記樹脂塗膜の表面上に塗布し、次いで、焼付け又は乾燥を行なうことにより形成することができる(請求項3)。
【0060】
上記樹脂被覆アルミニウム合金板は、絞り及びしごき加工が必要な用途に好適である。具体的には、例えば、飲料用、食品用の缶材料等のような有底円筒型容器用の材料に好適である。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかる16種類の樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E16)を作製し、比較例にかかる16種類の樹脂被覆アルミニウム合金板(試料C1〜試料C16)を作製し、評価を行った。
【0062】
本例の実施例にかかる樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E16)は、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜と、該樹脂塗膜の表面上に形成された潤滑皮膜とよりなる。樹脂塗膜は、(a)エポキシ樹脂、(b)ポリエステル樹脂、(c)アミノ樹脂、及び(d)イソシアネート樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部、及び上記(d)イソシアネート樹脂を0〜20質量部含有する樹脂混合物の硬化物である。
【0063】
上記(a)エポキシ樹脂は、数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、波数830cm-1における吸光度h1、波数750cm-1における吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10である。また、上記(b)ポリエステル樹脂は、数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上である。
また、上記潤滑皮膜は、JIS K2235に基づく温度25℃における針入度が5〜40のパラフィンを主成分とする。
【0064】
樹脂被覆アルミニウム合金板の作製方法について説明する。
まず、厚さ0.26mm、幅200mm、長さ300mmのA3003−H34からなるアルミニウム合金板を準備した。
また、樹脂塗膜を構成するエポキシ樹脂として、表1に示す8種類のエポキシ樹脂A〜Hを用意した。
また、樹脂塗膜を構成するポリエステル樹脂として、表2に示す5種類のポリエステル樹脂a〜eを用意した。
また、樹脂塗膜を構成するアミノ樹脂として、スミマールM−40S(住友化学工業社製)を準備した。
また、樹脂塗膜を構成するイソシアネート樹脂として、スミジュールN3200(住化バイエル(株)製)を準備した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
なお、樹脂の数平均分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)を用いた。また、樹脂のガラス転移温度(ガラス転移点)の測定には、示差走査熱量計を用いて、20℃/分の昇温速度で測定した。
【0068】
まず、上記アルミニウム合金板を、市販の弱アルカリ性脱脂剤ファインクリーナー4377(日本パーカライジング製、10g/L、65℃)に、1分間浸漬した後、上水で水洗して、脱脂した。次いで、アルサーフ401(日本ペイント社製)30gとアルサーフ41(日本ペイント社製)3gの混合液に、上水を加え、全量を1リットルとした、42℃の溶液に、脱脂したアルミニウム合金板を、20秒間浸漬することにより、リン酸クロメート処理を行い、化成皮膜が形成されたアルミニウム合金板を得た。このとき、リン酸クロメート処理の目付け量を、クロム量で15mg/m2とした。
【0069】
その後、表3及び表4に示す配合量で、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂を混合した樹脂混合物を、溶媒としてキシレンを用いて溶解した樹脂塗膜形成用塗料を得た。次に、この樹脂塗膜形成用塗料を化成皮膜が形成されたアルミニウム合金板の一方の面に、バーコート法により塗布し、電気炉中260℃で1分間加熱した後、炉から取り出し、放冷し、化成皮膜上に樹脂塗膜を形成した。このとき、加熱後の樹脂塗膜の膜厚が6μmになるようにバーの番手を選定した。
【0070】
次に、表5に示す温度25℃における針入度が異なる6種類のパラフィンP1〜P6を準備した。温度25℃におけるパラフィンの針入度は、JIS K2235(1991年)に規定の方法に基づいて測定できる。これら6種類のパラフィンをそれぞれ水又はヘキサンに溶解し、潤滑皮膜形成用塗料を得た。
【0071】
次に、潤滑皮膜形成用塗料を樹脂塗膜上に、バーコート法により塗布し、電気炉中120℃で1分間加熱した後、炉から取り出し、放冷し、樹脂塗膜上に潤滑皮膜を形成した。
このようにして、合計28種類の樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E14、試料C1〜試料C14)を得た。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
次に、得られた樹脂被覆アルミニウム合金板について、ブロッキング試験、絞り及びしごき加工試験、レトルト試験、及びワックス除去試験を行い、特性を評価した。結果を表6及び表7に示す。
【0076】
<ブロッキング試験>
ブロッキング試験においては、樹脂被覆アルミニウム合金板5枚を、50mm×50mmに切断し、潤滑皮膜の形成面とベア面が重なるように、重ね合わせ、その上から、1kgの荷重をのせた状態で、50℃、90%RHの環境に3日間保管した後、板同士の貼り付きを観察した。荷重を除いた時、5枚全ての板において貼り付きがなければ、ブロッキング性能を「○」として評価し、1枚でも貼り付いていた場合には、ブロッキング性能を「×」として評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0077】
<絞り及びしごき加工試験>
絞り及びしごき加工試験においては、上記のようにして得られた樹脂被覆アルミニウム合金板を直径140mmの円形にカットし、次いで、該樹脂被覆アルミニウム合金板の両面に、プレス油G−6284M(日本工作油社製)を塗布し、潤滑皮膜の形成面が外面になるようにして、絞り及びしごき成形機を使用して絞り及びしごき加工を実施し、直径65mm、高さ135mmの円筒形に成形した。しごき率は55%とした。
成形したプレス油は、トリクレン蒸気中に10分間暴露することにより脱脂した。
【0078】
絞り及びしごき加工後の樹脂塗膜を倍率100倍の顕微鏡で観察し、端部から5mm以内の樹脂塗膜に割れ及び剥離のいずれも観察されなかった場合を「○」として評価し、樹脂塗膜に割れが観察された場合を「×(割れ)」として評価し、樹脂塗膜に剥離が観察された場合を「×(剥離)」として評価した。また、加工時に樹脂被覆アルミニウム合金板が破断した場合を「×(破断)」として評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0079】
<レトルト試験>
レトルト試験においては、上記絞り及びしごき加工試験後のプレス品を、蒸気窯中、121℃の水蒸気に、16日間暴露した。レトルト試験後の樹脂塗膜の変色が観察されず、かつ倍率100倍の顕微鏡で観察したときに樹脂塗膜に剥離が観察されなかった場合を「○」として評価し、樹脂塗膜に変色、或いは剥離が観察された場合、又は割れの拡大が観察された場合を「×」として評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0080】
<ワックス除去試験>
ワックス除去試験においては、上記絞り及びしごき加工試験後のプレス品を、(株)ジャパンエナジー製のNSクリーン100(主成分:n−デカン)に温度50℃で5分間浸漬した後、温度180℃にて蒸気洗浄を行なった。
洗浄後のプレス品を四塩化炭素に常温で10秒間浸漬し、樹脂塗膜表面に残留するワックスを抽出し、抽出されたワックス量を赤外分光光度法にて測定した。5mg/m2以上のワックスの残留があった場合を「×」として評価し、なかった場合を「○」として評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
表6より知られるごとく、実施例としての試料E1〜試料E14は、ブロッキング試験、絞り及びしごき加工試験、レトルト試験、及びワックス除去試験のいずれの項目においても、良好な結果を示した。
これにより、本発明によれば、絞り加工性及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜に割れ及び剥離が生じ難く、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生し難く、さらに炭化水素系溶剤による洗浄で潤滑皮膜を十分に除去できる樹脂被覆アルミニウム合金板を提供することができることが分かる。
【0084】
また、表7より知られるごとく、比較例としての試料C1は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回り、また、h2/h1が本発明の下限を下回るため、絞り及びしごき加工試験で塗膜剥離が発生し、レトルト試験で変色を生じた。
また、比較例としての試料C2は、(a)エポキシ樹脂のh2/h1が本発明の上限を上回るため、レトルト試験で塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0085】
また、比較例としての試料C3は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の上限を上回るため、塗膜の硬化が不十分となり、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0086】
また、比較例としての試料C4は、(c)アミノ樹脂の含有量が本発明の下限を下回るため、塗膜の柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験で塗膜の剥離が発生したり、変色を生じた。
また、比較例としての試料C5は、(b)ポリエステル樹脂の含有量が本発明の上限を上回るため、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0087】
また、比較例としての試料C6及び試料C8は、(a)エポキシ樹脂の含有量が本発明の下限を下回るため、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
また、比較例としての試料C7は、(a)エポキシ樹脂の含有量が本発明の上限を上回り、また、(c)アミノ樹脂の含有量が本発明の下限を下回るため、塗膜の効果が不十分となり、絞り及びしごき加工試験で、塗膜剥離が生じ、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0088】
また、比較例としての試料C9は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回り、また、(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明の上限を上回り、かつガラス転移点が本発明の下限を下回るため、塗装時に樹脂塗膜と反対面のベア面とが貼り付き、ブロッキング性能が不合格となった。また、レトルト試験で変色を生じた。
また、比較例としての試料C10は、(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回るため、塗膜の柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験で塗膜の剥離が発生したり、変色を生じた。
【0089】
また、比較例としての試料C11は、(d)アミノ樹脂の含有量が本発明の上限を上回るため、塗膜が過剰に硬化し、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、また、レトルト試験で塗膜の剥離が発生したり、変色を生じた。
また、比較例としての試料C12は、樹脂塗膜の組成は本発明の範囲内であるが、潤滑皮膜が形成されていない。そのため、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験で塗膜の剥離が発生したり、変色を生じた。
また、比較例としての試料C13は、樹脂塗膜の組成は本発明の範囲内であるが、潤滑皮膜のパラフィンの針入度が本発明の上限を上回る。そのため、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験で塗膜の剥離が発生したり、変色を生じた。
また、比較例としての試料C14は、樹脂塗膜の組成は本発明の範囲内であるが、潤滑皮膜のパラフィンの針入度が本発明の下限を下回る。そのため、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験で樹脂塗膜の割れや剥離が発生したり、変色を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜と、該樹脂塗膜の表面上に形成された潤滑皮膜とよりなり、
上記樹脂塗膜は、(a)エポキシ樹脂、(b)ポリエステル樹脂、(c)アミノ樹脂、及び(d)イソシアネート樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部、及び上記(d)イソシアネート樹脂を0〜20質量部含有する樹脂混合物の硬化物であり、
上記(a)エポキシ樹脂は、数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、波数830cm-1における吸光度h1、波数750cm-1における吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であり、
上記(b)ポリエステル樹脂は、数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であり、
上記潤滑皮膜は、JIS K2235に基づく温度25℃における針入度が5〜40のパラフィンを主成分とすることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板において、上記樹脂塗膜は、上記樹脂混合物を含有する樹脂塗膜形成用塗料を上記化成皮膜の表面上に塗装し、次いで、焼付けを行うことにより形成されることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板において、上記潤滑皮膜は、パラフィンを含有する潤滑皮膜形成用塗料を上記樹脂塗膜の表面上に塗布し、次いで、焼付け又は乾燥を行なうことにより形成されることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板において、上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、上記(c)アミノ樹脂、及び(d)イソシアネート樹脂の合計含有量100質量部に対して、ポリエチレンワックス0.1〜10質量部、カルナウバワックス0.1〜10質量部、あるいはマイクロクロスタリンワックス0.1〜10質量部のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする樹脂被覆アルミニウム合金板。

【公開番号】特開2011−230311(P2011−230311A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100306(P2010−100306)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】