説明

樹脂被覆金属複合シート

【課題】 アルミニウムと熱可塑性樹脂からなる耐熱性に優れた複合シートを提供すること。
【解決手段】 引張り強度が80〜180N/mmで、厚さが50μm以下で、平均表面粗さRaが0.2μm以上のアルミニウムまたはその合金の少なくとも一つの面に、ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し塗布乾燥することによって得られるアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シート。
該複合シートは電子部品や電子回路の製造工程における保護材、マスキング材、包装材、仮止め材等の副資材に好適なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートに関する。さらに詳しくは、ガラス転移温度が200℃以上である熱可塑性樹脂とアルミニウムとの複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、包装材や缶材として一般に用いられている。アルミニウムと熱可塑性樹脂を複合する方法として種々の提案がなされてきた。例えばアルミニウムなどの金属シートとポリエチレンシートを、接着層を介して圧着接合する方法(特開平5−64869号公報)や、アルミニウムの表面を化成処理したのちポリエステル樹脂を溶融押出しコーティングする方法(特開平9−1734号公報)、アルミニウムの表面を酸化処理したのちポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などを溶融浸漬やフィルムラミネートする方法(特開2000−86612、特開2003−342790)が提案されている。
【0003】
従来公知のアルミニウムの熱可塑性樹脂被覆複合シートは、食品包装、静電防止包装、防湿包装、缶胴や缶蓋の缶材、電気部品外箱、建材パネルなどに利用されているが、耐熱性が低いために耐熱性が要求される電子部品や電子回路等の製造工程における副資材用途には使用できないという問題があった。
【0004】
本発明者らは、それらの電子部品や電子回路等の製造工程における副資材分野での利用の可能性があると考え鋭意研究した結果、耐熱性に優れたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートに関わる本発明に到達したものである。
【0005】
【特許文献1】特開平5−64869号公報
【特許文献2】特開平9−1734号公報
【特許文献3】特開2000−86612
【特許文献4】特開2003−342790
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性に優れたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを提供することにある。
本発明の目的は、優れた耐熱性を有する上に、熱可塑性樹脂とアルミニウムとの優れた接着性を示すアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを提供することにある。
また本発明の目的は、電子部品や電子回路の製造工程における保護材、マスキング材、包装材、仮止め材などの副資材用途に使用可能なアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、引張り強度が80〜180N/mmで、厚さが50μm以下で、平均表面粗さRaが0.2μm以上のアルミニウムまたはその合金の少なくとも一つの面に、ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し塗布乾燥することによって得られるアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを提供する。
【0008】
前記アルミニウムまたはその合金の表面に酸化皮膜が形成されている、前記したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは本発明の好ましい態様である。
【0009】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれた少なくとも1種である、前記したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは本発明の好ましい態様である。
【0010】
前記熱可塑性樹脂を溶解する溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン,N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれた少なくとも1種である、前記したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、耐熱性に優れたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートが提供される。
本発明によれば、優れた耐熱性を有する上に、熱可塑性樹脂とアルミニウムとの優れた接着性を示すアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートの提供が可能となる。
本発明により、電子部品や電子回路の製造工程における保護材、マスキング材、包装材、仮止め材などの副資材用途に使用可能なアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、引張り強度が80〜180N/mmで、厚さが50μm以下で、平均表面粗さRaが0.2μm以上のアルミニウムまたはその合金を基材として、その少なくとも一つの面に、ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し塗布乾燥したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを提供する。
【0013】
本発明のアルミニウムは、アルミニウム金属であっても、アルミニウムと他の合金であってもよい。
【0014】
本発明のアルミニウム基材は、アルミニウムのシートもしくは箔状基材であって、その引張り強度が80〜180N/mm、好ましくは90〜110N/mmであり、厚さが50μm以下、好ましくは15〜35μm程度のものが使用される。
【0015】
本発明のアルミニウム基材の表面は、適度の粗さを有していることが好ましく、中心線平均表面粗さRaで表して0.2μm以上、好ましくは0.3μm以上であることが望ましい。このような荒さを有しているアルミニウム基材を用いると、熱可塑性樹脂被覆との間で良好な接着力を得ることができる。
【0016】
適度の粗さを得る方法として、アルミニウムのシートもしくは箔の表面を、酸またはアルカリでエッチングする方法、ブラスト処理によって粗面化する方法、圧延ロールに通して粗面化する方法などを挙げることができる。中でも、酸またはアルカリでエッチングする方法を、本発明のアルミニウム基材表面に適度は荒さを持たせるのに好適な方法として挙げることができる。
【0017】
本発明のアルミニウム基材は、その表面に酸化皮膜が形成されていることが望ましい。アルミニウムは通常自然酸化皮膜で覆われているが、自然酸化皮膜のままでは耐蝕性や表面硬さが十分ではないので、人工的な酸化皮膜を形成させることが好ましい。
【0018】
このような酸化皮膜形成の好適な例としては、陽極酸化を挙げることができる。陽極酸化によって酸化皮膜を形成させるには、通常アルミニウム表面を弱アルカリ性の脱脂液による脱脂処理や酸洗浄などで表面に付着した油脂分を除去し、素材表面の不均質な酸化物皮膜が除去したのち、アルミニウムを電極として電気化学的方法で人工的に酸化皮膜を形成させる方法が行われる。硫酸電解溶液中で行う硫酸陽極酸化は、陽極酸化による酸化皮膜形成の好ましい例である。
【0019】
本発明のアルミニウムまたはその合金の表面として、脱脂洗浄や酸、アルカリ洗浄後、酸化皮膜が形成された状態は好ましい態様であり、陽極酸化によって酸化皮膜が形成された状態はより好ましい態様である。
【0020】
本発明で使用される熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂である。ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂から適宜選択して使用することができるが、好ましい熱可塑性樹脂としてポリイミド系熱可塑性樹脂及びポリサルホン系熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0021】
ポリイミド系熱可塑性樹脂の具体例としては、ポイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミドなどを挙げることができ、ポリサルホン系熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホンなどを挙げることができる。
【0022】
本発明のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートはアルミニウム基材上に熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させたワニスを塗布して、乾燥させることによって得ることができる。
【0023】
アルミニウム基材上に熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させたワニスを塗布する場合、溶媒としては使用する熱可塑性樹脂を溶解させうる溶媒を選択して使用すればよいが、本発明の熱可塑性樹脂を溶解させうる溶媒の例としては、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),N,N−ジメチルホルムアミド(DFM)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用してもいいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
アルミニウム基材上に熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させたワニスを塗布した後、オーブンなどで乾燥させる。乾燥は80〜280℃程度の温度で、10分〜1時間程度の時間行えばよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
アルミニウム基材上に形成される熱可塑性樹脂の皮膜の厚さは、3〜30μm程度が好ましく、より好ましくは5〜15μmであることが望ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂の皮膜は、アルミニウム基材の両面に形成させてもよいが、アルミニウム基材の片面であってもよい。得られる樹脂被覆金属複合シートを使用する用途に応じて、熱可塑性樹脂被覆の形成態様を選択することができる。
【0027】
本発明により得られたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、ガラス転移温度が200℃以上であるため、レジストの塗布乾燥、金属の安定化処理、半田、熱プレス、樹脂封止、ダイボンディング、ダイヤーボンディングなどに対する耐久性に優れるので電子部品や電子回路の製造工程における保護材、マスキング材、包装材、仮止め材などの副資材用途に好適に使用することができる。
【0028】
本発明のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、熱可塑性樹脂が被覆された複合シートであるので、過熱プレスすることによって、プリント基板やリードフレームなどの実装基材に容易に融着させることができるため、例えばCCDやLEDなどの中空半導体パッケージ製造過程でダイパッド部やインナーリード部を形成するときのマスキング材として好適に使用することができる。
【0029】
本発明のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、電子回路作成時の耐熱レジスト塗布やメッキのマスキング用にも有効に使用することができる。
また、本発明のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、電磁シールド材としても使用することが可能な複合シートである。
【0030】
本発明により、前記したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートからなる電子部品や電子回路等の製造工程におけるすぐれた保護材、マスキング材、包装材、仮止め材等の副資材が提供される。
【実施例】
【0031】
以下に具体的例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
本発明の物性測定に使用される方法は、下記のとおりである。
【0032】
(1)ガラス転移温度
DSC法による。ASTM D3418に従って20℃/分の割合で試料を昇温させ吸熱曲線を作成しその変曲点より求める。
(2)引張り強度
JIS Z 2241に従って測定する。
【0033】
(3)クロスカット試験による樹脂層の接着性評価
JIS K 5600に従ってカッターナイフで樹脂層側に2mm間隔にキズを入れ100個のマス目を作成し、その上からセロハンテープを圧着し瞬間的に引き剥がし樹脂層のアルミ箔からのハガレ状態を調べる。100個のマス目で剥がれが全く無い場合は100/100、逆に全てはがれた場合は0/100とする。
【0034】
(4)耐熱特性の評価
アルミニウムと熱可塑性樹脂接着シートをFR4両面銅張り板(0.4mm厚み)に熱プレスで熱接着した後、プレヒート150℃×180秒+220℃×60秒の条件でリフロー半田装置に通しフクレ、剥がれ等の不具合発生の有無を調べた。
【0035】
(実施例1)
引張り強度98N/mm、厚さ20μmのアルミニウムシートをエッチング処理及び硫酸陽極酸化によって表面に酸化皮膜を形成させた中心線平均粗さRaが0.3μmであるアルミニウム基材を用いた。
熱可塑性樹脂としてポリアミドイミド(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製、商品名トーロン、ガラス転移温280℃)をNMPに溶解させたワニス(固形分16wt.%)を、アルミニウム基材に塗布し、240℃で、10分間乾燥させて、樹脂厚み10μmのアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを得た。得られた複合シートについて、その特性を測定した。
また耐熱性の評価に当たっては0.8mm厚みの両面銅張りFR4プリント基板に複合シートを290℃、10MPaの条件で加熱プレスし接着したものを用いた。
各特性の測定結果を表1に示した。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、トーロンに代えてポリフェニルサルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製、商品名レーデルR、ガラス転移温度220℃)を用いるほかは同様にして、アルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを得た。得られた複合シートについて、実施例1と同様にしてその特性を測定した。ただし耐熱性の評価に当たっては0.4mm厚みの両面銅張りFR4プリント基板に複合シートを240℃、10MPaの条件で加熱プレスし接着したものを用いた。
各特性の測定結果を表1に示した。
【0037】
(比較例1)
実施例2においてアルミニウムの表面粗さがRa0.08μmのものを用いるほかは同様にしてアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを得た。実施例2と同様にして各特性を測定した。測定結果を表1に示した。
【0038】
(比較例2)
実施例1においてトーロンにかえてポリサルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製、商品名ユーデル、ガラス転移温度185℃)を用いるほかは同様にして、アルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートを得た。実施例1と同様にしてその特性を測定した。ただし耐熱性評価に当たっては0.4mm厚みの両面銅張りFR4プリント基板に複合シートを240℃、10MPaの条件で加熱プレスし接着したものを用いた。測定結果を表1に示した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によって耐熱性に優れたアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートが提供される。
本発明によれば、優れた耐熱性を有する上に、熱可塑性樹脂とアルミニウムとの優れた接着性を示すアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートが提供される。
また本発明によって提供されるアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、電子部品や電子回路等の製造工程において保護材、マスキング材、包装材、仮止め材等の副資材として好適に使用できる。
また本発明によって提供されるアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートは、電子回路作成時の耐熱レジスト材やメッキのマスキング材、さらには電磁シールド材などにも適用することができるものである。
また、本発明により、前記したアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シートからなる電子部品や電子回路等の製造工程におけるすぐれた保護材、マスキング材、包装材、仮止め材等の副資材が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張り強度が80〜180N/mmで、厚さが50μm以下で、平均表面粗さRaが0.2μm以上のアルミニウムまたはその合金の少なくとも一つの面に、ガラス転移温度が200℃以上の熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し塗布乾燥することによって得られるアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シート。
【請求項2】
前記アルミニウムまたはその合金の表面に酸化皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂を溶解する溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン,N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムと熱可塑性樹脂の複合シート。

【公開番号】特開2006−315230(P2006−315230A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138324(P2005−138324)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(596127576)光洋マテリカ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】