説明

樹脂被覆鋼管の製造方法および製造装置

【課題】鋼管の溶接余盛部におけるPE被膜の低下を抑制して、鋼管の溶接余盛部においても所定の膜厚を有するPE被覆鋼管を製造コストの上昇を抑制しながら製造する。
【解決手段】溶接余盛部6を有する第1の鋼管P1、および、溶接余盛部7を有し、第1の鋼管P1に続く第2の鋼管P2を、軸方向へ送りながら、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の外面にPEシート8を供給することによってPE被覆鋼管を製造する際に、(a)第2の鋼管P2へのPEシート8の供給が開始される時から、第1の鋼管P1へのPEシート8の供給が終了する時までの期間を少なくとも含む第1の期間には、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の周速度を制御し、(b)第1の期間を除いた第1の鋼管P1のみまたは第2の鋼管P2のみにPEシート8が供給される第2の期間には、第1の鋼管P1または第2の鋼管P2に供給されるPEシート8の張力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆鋼管の製造方法および製造装置に関し、所定の膜厚を有する例えばポリエチレン被覆鋼管を低コストで製造することができる樹脂被覆鋼管の製造方法および製造装置に関する。
【従来の技術】
【0002】
鋼管の外面にポリエチレンを被覆したポリエチレン被覆鋼管(以下「PE被覆鋼管」という)を製造するには、軸回りに回転する鋼管を軸方向へ搬送しながらこの鋼管の外面にポリエチレンシートを螺旋状に巻き付ける方法が用いられる。この方法によるPE被覆鋼管の製造工程では、生産性を高めるため、先行する鋼管(以下単に「先行管」という)の後方に所定距離離れて後行する鋼管(以下単に「後行管」という)を続けて搬送しながら、これら先行管および後行管に対して搬送ラインの側方に配置されたポリエチレン供給装置からポリエチレンシートを順次送り出すことによって、先行管および後行管それぞれの外面にポリエチレンシートが螺旋状に巻き付けられる。
【0003】
PE被覆鋼管の素材となる鋼管が、例えばUOE鋼管のような溶接鋼管である場合には、鋼管の外面には、その軸方向へ延設される外面側に盛り上がった溶接余盛部(ビード部)が存在する。この鋼管の外面にポリエチレンシートを巻き付ける際、ポリエチレン供給装置から送り出されるポリエチレンシートの張力がこの溶接余盛部に巻き付く際に増加するので、ポリエチレンシートが部分的に延ばされて薄くなる。このため、鋼管の外面に巻き付けられたポリエチレンシートの溶接余盛部における膜厚が溶接余盛部以外の一般部における膜厚よりも不可避的に薄くなる。溶接余盛部における膜厚の低下の程度が製品に要求される仕様を満足できない場合には、このPE被覆鋼管を出荷できないため、PE被覆鋼管の生産性の低下の一因となる。
【0004】
ポリエチレンシートの膜厚が、膜厚が最も薄くなる溶接余盛部においても、要求される膜厚仕様を満足させるためには、巻き付けるポリエチレンシートの膜厚を、溶接余盛部における膜厚の低下分だけ、鋼管の全周において増加すればよいが、これでは、溶接余盛部以外の一般部におけるポリエチレンの膜厚がその分だけ過剰となり無駄に厚くなるので、PE被覆鋼管の製造コストが大幅に上昇してしまう。
【0005】
ポリエチレンシートの膜厚が溶接余盛部において薄くなることを、製造コストの上昇を抑制しながら防止するために、特許文献1には、回転する鋼管の溶接余盛部に合わせて鋼管の周速度を制御する発明、すなわち、溶接余盛部がポリエチレンシートの供給位置を通過する際に、回転する鋼管の周速度を低下させて膜厚を厚くする発明が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1により開示された発明、すなわち鋼管の周速度制御は、大重量の鋼管の周速度を変更するので、応答性が悪く、溶接余盛部近傍のかなり広い範囲にわたって膜厚を厚くしなければならず、材料(ポリエチレンシート)の無駄が多く、製造コストの軽減が不十分である。
【0007】
特許文献2には、ポリエチレン供給装置から鋼管の外面へ向けて送り出されるポリエチレンシートの張力を調整するためのテンションローラを配置しておき、回転する鋼管の溶接余盛部がポリエチレンシートの供給位置を通過する際にテンションローラを作動させてポリエチレンシートの張力を制御して溶接余盛部近傍の膜厚を厚くさせ、溶接余盛部の膜厚低下を防止する発明が開示されている。この場合、特許文献1の周速度制御に較べ、応答性に優れるため、材料の無駄が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−228129号公報
【特許文献2】特開昭59−190824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2により開示された発明は、一本の鋼管に対してポリエチレンシートを巻き付ける場合には、応答性よく溶接余盛部近傍の膜厚を厚くすることができ、溶接余盛部における膜厚低下を防止することが可能であるものの、上述したように先行管および後行管に対して連続してポリエチレンシートを巻き付ける場合に、先行管および後行管に同時にポリエチレンシートが巻き付くときには、先行管の溶接余盛部に応じたタイミングで作動させたテンションローラは、先行管と後行管の溶接余盛部の周方向における位置が同じでない限り、後行管の溶接余盛部には応じていないので、後行管の先端部側の溶接余盛部における膜厚が、溶接余盛部以外の一般部における膜厚よりも薄くなってしまう。
【0010】
このように、従来のいずれの発明によっても、ポリエチレンシートの膜厚が溶接余盛部において部分的に薄くなることを確実に防止しながら、先行管および後行管に対してポリエチレンシートを低コストで順次巻き付けることは、難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、「先行管および後行管にポリエチレンシート等の樹脂シートが供給されるタイミングには、第1の鋼管および第2の鋼管の回転速度制御(周速度制御)を行うとともに、先行管または後行管のどちらか一方に樹脂シートが供給されるタイミングには、第1の鋼管または第2の鋼管へ供給される樹脂シートの張力制御を行うことによって、樹脂シートの膜厚が溶接余盛部において部分的に薄くなることを確実に防止しながら、先行管および後行管に対して樹脂シートを低コストで順次巻き付けることが可能になる」という技術思想に基づくものである。
【0012】
本発明は、外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有する第1の鋼管、および第2の鋼管を、それぞれ回転させながら、第1の鋼管の後方に第2の鋼管が位置するように軸方向へ送るとともに第1の鋼管および第2の鋼管の外面に連続して樹脂シートを供給することによって樹脂被覆鋼管を製造する樹脂被膜鋼管の製造方法であって、第2の鋼管への樹脂シートの供給が開始される時から、第1の鋼管への樹脂シートの供給が終了する時までの期間を少なくとも含む期間である第1の期間には、第1の鋼管および第2の鋼管の周速度を制御するとともに、第1の期間を除くとともに第1の鋼管のみまたは第2の鋼管のみに樹脂シートが供給される期間である第2の期間には、第1の鋼管または第2の鋼管に供給される前記樹脂シートの張力を制御することを特徴とする樹脂被覆鋼管の製造方法である。
【0013】
この本発明に係る樹脂被覆鋼管の製造方法では、樹脂シートの供給が昇降自在に支持されるテンションローラを介して行われ、第2の期間における張力の制御は、このテンションローラの高さおよび昇降速度を調整することにより行われることが望ましい。
【0014】
別の観点からは、本発明は、(i)外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有するとともに回転しながら先行する第1の鋼管、および、外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有し、回転しながら第1の鋼管から離れて後方を後行する第2の鋼管を、いずれも、それぞれの軸方向へ送るための搬送装置と、(ii)第1の鋼管および第2の鋼管それぞれの外面に向けて樹脂シートを順次送り出すための樹脂シート供給装置と、(iii)第2の鋼管への樹脂シートの供給が開始される時から、第1の鋼管への樹脂シートの供給が終了する時までの期間を少なくとも含む期間である第1の期間に、搬送装置に制御信号を出力することによって第1の鋼管および第2の鋼管の周速度を制御するとともに、第1の期間を除くとともに第1の鋼管のみまたは第2の鋼管のみに樹脂シートが供給される期間である第2の期間に、樹脂シート供給装置に制御信号を出力することによって第1の鋼管または第2の鋼管の外面へ向けて送り出される樹脂シートの張力を制御する制御装置とを備えることを特徴とする樹脂被覆鋼管の製造装置である。
【0015】
この本発明に係る樹脂被覆鋼管の製造装置では、樹脂シート供給装置が、昇降自在に支持されるテンションローラを備え、第2の期間における張力の制御は、このテンションローラの高さおよび昇降速度を調整することにより行われることが望ましい。
【0016】
これらの本発明では、第2の期間に制御される樹脂シートの張力は、第1の鋼管または第2の鋼管に供給される直前の樹脂シートの張力である。
これらの本発明では、第1の期間に第1の鋼管および第2の鋼管それぞれの軸方向の端部に樹脂シートを供給するとともに、第2の期間にこの端部を除いた一般部に樹脂シートを供給することが望ましい。この本発明では、第1の鋼管の端部は、第1の鋼管の後端面から、樹脂シートの幅から第1の鋼管の後端面および第2の鋼管の先端面間の距離を減算した値だけ離れた位置までを少なくとも含む範囲であるとともに、第2の鋼管の端部は、第2の鋼管の先端面から、樹脂シートの幅から第1の鋼管の後端面および第2の鋼管の先端面間の距離を減算した値だけ離れた位置までを少なくとも含む範囲であることが例示される。
【0017】
さらに、これらの本発明では、樹脂被覆鋼管がPE被覆鋼管であることが例示される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1の鋼管および第2の鋼管それぞれの溶接余盛部における樹脂被膜の膜厚低下を抑制することが可能になるので、鋼管の溶接余盛部においても所定の膜厚を有する樹脂被覆鋼管を、製造コストの上昇を抑制しながら製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る製造装置を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、試料No.1のPE被覆鋼管の、溶接肉盛部の存在位置を0度とする周方向角度と膜厚との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、試料No.2のPE被覆鋼管P1の溶接肉盛部の存在位置を0度とし、鋼管P1と鋼管P2の溶接肉盛部存在位置が120度ずれている場合の周方向角度と膜厚との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、試料No.3のPE被覆鋼管の、溶接肉盛部の存在位置を0度とする周方向角度と膜厚との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以降の説明では、樹脂被覆鋼管がPE被覆鋼管である場合を例にとるが、本発明はPE被覆鋼管以外の樹脂被覆鋼管に対しても同様に適用可能である。また、以降の説明では、先行する第1の鋼管P1と、第1の鋼管P1に後続する第2の鋼管P2とに対して連続的にポリエチレンシート(以下「PEシート」という)を巻き付けることによってPE被覆鋼管を製造する状況を例にとる。
【0021】
図1は、本発明に係る製造装置1を模式的に示す説明図である。
この製造装置1は、搬送装置2、PEシート供給装置3および制御装置4を備えるので、これらの構成要素を順次説明する。
【0022】
[搬送装置2]
搬送装置2は、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2を支持する多数のスキューローラ5と、その駆動系(図示しない)とにより構成される。
【0023】
第1の鋼管P1の外面には、軸方向へ延設される外面側に盛り上がった溶接余盛部6が形成されている。第1の鋼管P1は、スキューローラ5が図中矢印方向に回転することによって、図1中矢印方向へ回転しながらその軸方向(図1中における白抜き矢印方向)へ送られる。第1の鋼管P1は、後述する第2の鋼管P2に先行して搬送される。
【0024】
一方、第2の鋼管P2の外面にも、軸方向へ延設される溶接余盛部7が形成されている。多くの場合、図1に示すように、第1の鋼管P1の周方向における溶接余盛部6の位置と、第2の鋼管P2の周方向における溶接余盛部7の位置とは、一致せずにずれている。
【0025】
第2の鋼管P2は、スキューローラ5が図中矢印方向に回転することによって、図1中矢印方向へ、第1の鋼管P1と同じ周速度で回転しながら第1の鋼管P1から距離w1だけ後方に離れて、その軸方向(図1中における白抜き矢印方向)へ送られる。第2の鋼管P2は、上述した第1の鋼管P1に後行して搬送される。
【0026】
なお、第1の鋼管P1と第2の鋼管P2との軸方向への距離w1は、PEシートの巻き付け完了後に鋼管P1と鋼管P2を切り離すために鋼管P1と鋼管P2との間のPEシートをカットするカッターが入る隙間を確保できる距離であればよい。しかし、鋼管P1と鋼管P2が余りに接近し過ぎると、搬送時に第1の鋼管P1の後端面と第2の鋼管P2の先端面とが衝突する場合があるので、実際の操業においては、PEシートの幅よりも狭い間隔、例えば50〜200mm程度離して搬送することができる。なお、PEシート幅より離すと後行管である鋼管P2に連続してPEシートを巻き付けることができなくなる。
【0027】
なお、図1に示す例では、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2は、同一の外径および肉厚を有する。
搬送装置2は、この種の搬送装置として周知慣用のものでよいので、搬送装置2に関するこれ以上の説明は省略する。
【0028】
[PEシート供給装置3]
PEシート供給装置3は、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2それぞれの外面に向けてPEシート8を順次送り出して供給するためのものである。
【0029】
図1に示すPEシート供給装置3は、帯状(幅:w2)かつ軟化状のPEシート8を押し出すTダイス9、固定ローラ10、テンションローラ11、固定ローラ12、抑えローラ13およびテンションシリンダ14を備えている。Tダイス9から押し出されたポリエチレンシート8は、固定ローラ10、テンションローラ11、固定ローラ12および抑えローラ13の回りを順次周回して第1の鋼管P1の外面および第2の鋼管P2の外面に順次巻き付けられることによって、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2を被覆する。ポリエチレンシート8は、Tダイス9から押し出される際の速度と、第1の鋼管P1または第2の鋼管P2の外面に巻き付けられる際の速度との差によって生じる張力により延伸され、その厚さが変動する。
【0030】
PEシート供給装置3は、PEシート供給装置3の設置位置の上流側の適当な位置に配置されて、第1の鋼管P1の溶接余盛部6または第2の鋼管の溶接余盛部7の到達を検知するためのセンサー15bの出力値に基づいて、第1の鋼管P1の溶接余盛部6または第2の鋼管P2の溶接余盛部7にPEシート8が巻き付けられるタイミングにあわせて、テンションシリンダ14により昇降自在に配置されるテンションローラ11の高さを適宜調整してPEシート8の張力を調整することによって、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の外面に連続して供給されるPEシート8の厚みを制御することができる。
【0031】
PEシート供給装置3も、この種の供給装置として周知であるので、PEシート供給装置3に関するこれ以上の説明は省略する。
[制御装置4]
制御装置4は、第1の期間には、搬送装置2に制御信号s1を出力してスキューローラ5の周速度を制御することによって、第1の鋼管P1、第2の鋼管P2の周速度を制御するとともに、第1の期間を除く第2の期間には、合成樹脂シート供給装置3のテンションシリンダ14に制御信号s2を出力してテンションローラ11の高さを制御することによって、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2に供給されるPEシート8の張力を制御するためのものである。
【0032】
ここで、「第1の期間」とは、第2の鋼管P2へのPEシート8の供給が開始される時、すなわちPEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する時から、第1の鋼管P1へのPEシート8の供給が終了する時、すなわち第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する時までの期間を、少なくとも含む期間である。
【0033】
PE被覆鋼管に巻き付けるPEシートの量が最小となるのは、第1の期間が、「PEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する時から、第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する時までの期間」の場合である。しかし、実際の操業においては、制御の誤差や応答性を考慮して、多少の余裕をみて、第1の期間は、「PEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する時より少しだけ前の時から、第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する時よりも少しだけ後の時までの期間」とすることが望ましい。
【0034】
この第1の期間は、以下に示すようにして、第1の鋼管P1の位置、第2の鋼管P2の位置を求めることによって、定めることができる。例えば、第1の鋼管P1または第2の鋼管の存在を検知することができるセンサー15aを、PEシート供給装置3の設置位置の上流側の適当な位置に配置しておき、このセンサー15aによって、第1の鋼管P1の後端、第2の鋼管P2の先端の到達を検知し(鋼管P1がセンサー15aの対向位置から存在しなくなったとき、鋼管P2がセンサー15aの対向位置に到達したときを検知し)、検知した位置を起点してスキューローラ5の回転数をトラッキングすることによって、「第2の鋼管P2がPEシート8の供給を開始される位置より少し上流の位置(PEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する位置より少し上流の位置)にある時」から、「第1の鋼管P1がPEシート8の供給を完了する位置よりも少し下流の位置(第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する位置よりも少し下流の位置)にある時」と定める。
【0035】
また、「第2の期間」は、この第1の期間を除く期間であって、第2の鋼管P2のみにPEシート8が供給される位置に第2の鋼管が存在する期間である。
なお、第1の期間は、この説明とは異なり、以下に説明するようにして定めてもよい。例えば、センサー15aが第2の鋼管P2の先端面が到達した時から予め定めた所定の時間が経過した時を、「第2の鋼管P2へのPEシート8の供給が開始される時より少し前の時(PEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する時より少し前の時)」として予め定めるとともに、このようにして定めた「第2の鋼管P2へのPEシート8の供給が開始される時より少し前の時」から予め定めた所定の時間が経過した時を「第1の鋼管P1へのPEシート8の供給が終了する時よりも少し後の時(第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する時よりも少しの時間だけ後の時)」と定めることが例示される。「第2の期間」は、この第1の期間を除く期間であって、第2の鋼管P2のみにPEシート8が供給される期間である。
【0036】
図1中のA矢視図に示すように、制御装置4によって、この第1の期間に第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の軸方向の端部にPEシートが供給されるとともに、第2の期間に、第1の鋼管P1または第2の鋼管P2の軸方向の端部を除いた一般部にPEシートが供給される。換言すると、第1の鋼管P1の端部とは、この第1の鋼管P1の後端面16から、PEシート8の幅w2から第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の間の軸方向距離w1を減算した値(w2−w1)だけ離れた位置17までを少なくとも含む範囲である。また、第2の鋼管P2の端部とは、第2の鋼管P2の先端面18から、PEシート8の幅w2から軸方向距離w1を減算した値(w2−w1)だけ離れた位置19までを少なくとも含む範囲である。なお、前述したとおり、それぞれの端部にはこれらの範囲に制御の誤差や応答性を考慮した余裕代を含むことが好ましい。
【0037】
本発明に係る製造装置1は、以上のように構成される。次に、本発明に係る製造装置1によりPE被覆鋼管が製造される状況を、図1を参照しながら説明する。なお、図1は、第1の鋼管P1に対するPEシート8の巻き付けが終了する直前のタイミング(第1の鋼管P1と第2の鋼管P2の両方にPEシート8が巻き付けられているタイミング)を図示するが、以降の説明は、第1の鋼管P1の一般部にPEシートの巻き付けが行われている時から、第2の鋼管P2の端部への巻き付けが終了する時までについて、経時的に行う。
【0038】
第1の鋼管P1および第2の鋼管P2が、多数のスキューローラ5により支持されて、図1中矢印方向へ同一の周速度で回転しながらその軸方向(図1中における白抜き矢印方向)へ同一の搬送速度で送られている。第1の鋼管P1は、その軸方向に所定距離w1だけ離間して第2の鋼管P2に先行して搬送される。さらに、第1の鋼管P1の周方向における溶接余盛部6の位置と、第2の鋼管P2の周方向における溶接余盛部7の位置とは、図1に示すように、一致せずにずれている。
【0039】
センサ15bは第1の鋼管P1の溶接余盛部6の周方向位置を検出し、検出信号v2を制御装置4に出力する。
制御装置4は、検出信号v2に基づいて第1の鋼管P1の溶接余盛部6の位置をトラッキングし、これに基づいて、搬送装置2のPEシート供給装置3のテンションシリンダ14に制御信号s2を出力する。これにより、第1の鋼管P1の溶接余盛部6にPEシート8が巻き付けられる時にあわせて、テンションシリンダ14により昇降自在に支持されるテンションローラ11の高さおよび昇降速度(移動速度)を適宜調節することによって、第1の鋼管P1の外面に連続して供給されるPEシート8の厚みが、溶接余盛部6においても低下しないように、制御する。このようにして、第1の鋼管P1に対するPEシート8の巻き付けが継続して行われる。
【0040】
その後、制御装置4は、第1の期間を以下のようにして定める。すなわち、センサー15aによって、第1の鋼管P1の後端面、第2の鋼管P2の先端面の到達を検知し、検知した位置を起点してスキューローラ5の回転数をトラッキングすることによって、「第2の鋼管P2へのPEシート8の供給が開始される位置より少し上流の位置(PEシート供給装置3の抑えローラ13を介して送られるPEシート8が第2の鋼管P2の外面に接する位置より少し上流の位置)」と、「第1の鋼管P1へのPEシート8の供給が終了する位置よりも少し下流の位置(第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する位置よりも少し下流の位置)」と定める。そして、第1の期間には、テンションシリンダ14への制御信号s2の出力を停止するとともに、搬送装置2に制御信号s1を出力してスキューローラ5の周速度を制御することによって、第1の鋼管P1の周速度を低下する。
【0041】
このようにして、この第1の期間には、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の周速度を低くすることによって、第1の鋼管P1の端部の外面および第2の鋼管P2の端部の外面に同時に供給されるPEシート8の厚みが、それぞれの溶接余盛部6、7のいずれにおいても低下しないように、制御する。すなわち、第1の期間には、PEシート8の厚さがもっとも薄くなるそれぞれの溶接余盛部においても、要求される仕様厚さを満足する厚さになるように周速度を遅くする。これにより、第1の期間では、鋼管の全周において膜厚が厚くなり、それぞれの溶接余盛部以外では余剰となるが、余剰が発生する管軸方向位置を鋼管の端部に限っているため、無駄を最小限に抑えることができる。
【0042】
制御装置4は、第1の期間が終了した時、すなわち、「第1の鋼管P1へのPEシート8の供給が終了する位置よりも少し下流の位置(第1の鋼管P1へのPEシート8の巻き付きが完了する位置よりも少し下流の位置)」に第1の鋼管P1が到達すると、第2の期間として、搬送装置2への制御信号s1の出力を停止して搬送装置2の搬送速度を通常の速度の高めるとともに、検出信号v2に基づいて得られる第2の鋼管P2の溶接余盛部7の位置のトラッキング情報に基づいて、PEシート供給装置3のテンションシリンダ14に制御信号s2を出力する。これにより、第2の鋼管P2の溶接余盛部7にPEシート8が巻き付けられる時にあわせて、テンションシリンダ14により昇降自在に支持されるテンションローラ11の高さおよび昇降速度を適宜調節することによって、第2の鋼管P2の外面に連続して供給されるPEシート8の厚みが、溶接余盛部7においても低下しないように、制御する。このようにして、第2の鋼管P2に対するPEシート8の巻き付けが継続して行われる。
【0043】
以上の内容を、第2の鋼管P2に後続する他の鋼管に対して順次行うことによって、PE被覆鋼管が量産される。
このようにして、本発明によれば、回転しながら連続して搬送される第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の外面に、PEシート供給装置3により送り出されるPEシート8を供給することによってPE被覆鋼管を製造する際に、
(a)第1の期間には、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2の周速度を制御することによって、第1の鋼管P1の軸方向の端部、すなわち第1の鋼管P1の後端面16から距離(w2−w1)だけ離れた位置17までを少なくとも含む範囲と、第2の鋼管P2の軸方向の端部、すなわち第2の鋼管P2の先端面18から距離(w2−w1)だけ離れた位置19までを少なくとも含む範囲にPEシート8を供給するとともに、
(b)第2の期間には、PEシート供給装置3から第1の鋼管P1または第2の鋼管P2へ向けて送り出されるPEシート8の張力を制御することによって、第1の鋼管P1または第2の鋼管P2の上記端部を除いた一般部にPEシート8を供給する。
【0044】
このため、本発明によれば、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2それぞれの溶接余盛部6、7におけるPE被膜の膜厚の低下を確実に防止しながら、第1の鋼管P1および第2の鋼管P2のいずれの全周に対して要求される膜厚(規定膜厚)を下回ることなく、かつ余剰な膜厚を最小限に抑えてPEシート8を巻き付けることが可能になる。このため、本発明によれば、PE被覆鋼管を低コストで製造することができるようになる。
【実施例】
【0045】
図1に示す製造装置1を用いて、外径:508mm、肉厚:15mmの鋼管、および外径:1422mm、肉厚:28mmの鋼管それぞれ50本ずつを素材として、テンションローラ11の高さ・昇降速度を制御することによるPEシート8の張力制御と、搬送装置2のスキューローラ5の回転速度を制御することによる鋼管の周速度制御とを切り換えて行う本発明例(試料No.3、6)のPE被覆鋼管と、テンションローラ11の高さを制御することによるPEシート8の張力制御だけを行う比較例(試料No.2、5)のPE被覆鋼管と、PEシート8の張力制御および鋼管の周速度制御のいずれも行わない比較例(試料No.1、3)のPE被覆鋼管を製造した。
【0046】
なお、以下に列記する条件で製造した。なお、条件(b),(c),(e)は本発明例の場合のみの条件である。
(a)
規定膜厚:3mm以上
(b)第1の期間における第1、2の鋼管の周速度:6.7秒/回
(c)第2の期間における第1、2の鋼管の周速度:5.6秒/回
(d)第1、2の鋼管との間の距離:200mm
(e)第1、2の鋼管の端部の範囲:端面から軸方向に480mmの位置までの範囲
(f)PEシートの幅:500mm
また、表1には、試料No.1〜6のPE被覆鋼管の条件と、1本当たりのポリエチレンの使用量(比較例1を1とした原単位の比の値)とを、まとめて示す。
【0047】
また、図2は、試料No.1のPE被覆鋼管の、溶接肉盛部の存在位置を0度とする周方向角度と膜厚との関係を示すグラフであり、図3は、試料No.2のPE被覆鋼管の、先行管P1の溶接肉盛部の存在位置を0度とし、先行管P1と後行管P2の溶接肉盛部存在位置が120度ずれている場合のそれぞれの端部における周方向角度と膜厚との関係を示すグラフであり、さらに、図4は、試料No.3のPE被覆鋼管の、溶接肉盛部の存在位置を0度とする周方向角度と膜厚との関係を示すグラフである。
【0048】
いずれの場合も、規定膜厚を下回らないように各条件を設定した。
図2のグラフに示す場合は、膜厚制御を適用せずに被覆させたもので、溶接余盛部でも3mmを下回らないように周速度を設定したため、鋼管の全周において膜厚が厚くなっている。このため、溶接余盛部以外では余剰となり、PE被覆鋼管の製造コストが上昇する。
【0049】
図3のグラフに示す場合は、先行管と後行管の両方に巻き付けが行われる期間(第1の期間)では、先行管の溶接余盛部に合わせた張力制御が行われるため(図3のグラフの白丸のプロット)、後行管では、張力制御により膜厚が厚くなる位置と溶接余盛部とがずれ(黒丸のプロット)、制御位置がずれる後行管においても規定膜厚を下回らないようにするためには、全体的に底上げした膜厚にせざるを得ず、PE被覆鋼管の製造コストが上昇する。
【0050】
図4のグラフに示す場合は、本発明を適用した際の周方向膜厚分布であり、管端部では周速度を下げることにより全周にわたりほぼ一定の膜厚であり、溶接余盛部においても規定膜厚を確保できている。しかも中央部においては、溶接余盛部以外における膜厚の余剰を最小限にすることができる。
【0051】
図2〜4および表1に示すように、本発明は、鋼管の溶接余盛部におけるPE被膜の膜厚の低下を確実に防止しながら、連続して搬送される2本の鋼管のいずれの全周に対して要求される膜厚を下回ることなく、かつ余剰な膜厚を最小限に抑えてPEシート8を巻き付けることが可能になる。このため、本発明によれば、比較例よりも、PE被覆鋼管を低コストで製造することができるようになる。
【0052】
【表1】

【符号の説明】
【0053】
1 本発明に係る製造装置
2 搬送装置
3 PEシート供給装置
4 制御装置
5 スキューローラ
6、7 溶接余盛部
8 PEシート
9 Tダイス
10 固定ローラ
11 テンションローラ
12 固定ローラ
13 抑えローラ
14 テンションシリンダ
15a、15b センサー
16 後端面
17、19 位置
18 先端面
P1 第1の鋼管
P2 第2の鋼管
s1、s2 制御信号
v1、v2 検出信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有する第1の鋼管、および第2の鋼管を、それぞれ回転させながら、前記第1の鋼管の後方に第2の鋼管が位置するように軸方向へ送るとともに前記第1の鋼管および前記第2の鋼管の外面に連続して樹脂シートを供給することによって樹脂被覆鋼管を製造する樹脂被膜鋼管の製造方法であって、
前記第2の鋼管への前記樹脂シートの供給が開始される時から、前記第1の鋼管への当該樹脂シートの供給が終了する時までの期間を少なくとも含む期間である第1の期間には、前記第1の鋼管および前記第2の鋼管の周速度を制御するとともに、前記第1の期間を除くとともに前記第1の鋼管のみまたは前記第2の鋼管のみに前記樹脂シートが供給される期間である第2の期間には、前記第1の鋼管または前記第2の鋼管に供給される前記樹脂シートの張力を制御すること
を特徴とする樹脂被覆鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂シートの供給が昇降自在に支持されるテンションローラを介して行われ、前記第2の期間における張力の制御は、当該テンションローラの高さおよび昇降速度を調整することにより行われることを特徴とする請求項1に記載された樹脂被膜鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記第1の期間に前記第1の鋼管および前記第2の鋼管それぞれの軸方向の端部に前記樹脂シートを供給するとともに、前記第2の期間に前記端部を除いた一般部に前記樹脂シートを供給する請求項1または請求項2に記載された樹脂被覆鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記第1の鋼管の前記端部は、該第1の鋼管の後端面から、前記樹脂シートの幅から前記第1の鋼管の後端面および前記第2の鋼管の先端面間の距離を減算した値だけ離れた位置までを少なくとも含む範囲であるとともに、前記第2の鋼管の前記端部は、該第2の鋼管の先端面から、前記樹脂シートの幅から前記第1の鋼管の後端面および前記第2の鋼管の先端面間の距離を減算した値だけ離れた位置までを少なくとも含む範囲である請求項3に記載された樹脂被覆鋼管の製造方法。
【請求項5】
外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有する第1の鋼管、および、外面に軸方向へ向けた溶接余盛部を有し、前記第1の鋼管から離れて後方を後行する第2の鋼管を、いずれも、回転させながらそれぞれの軸方向へ送るための搬送装置と、
前記第1の鋼管および前記第2の鋼管それぞれの外面に向けて樹脂シートを順次送り出すための樹脂シート供給装置と、
前記第2の鋼管への前記樹脂シートの供給が開始される時から、前記第1の鋼管への当該樹脂シートの供給が終了する時までの期間を少なくとも含む期間である第1の期間に、前記搬送装置に制御信号を出力することによって前記第1の鋼管および前記第2の鋼管の周速度を制御するとともに、前記第1の期間を除くとともに前記第1の鋼管のみまたは前記第2の鋼管のみに前記樹脂シートが供給される期間である第2の期間に、前記樹脂シート供給装置に制御信号を出力することによって前記第1の鋼管または前記第2の鋼管の外面へ向けて送り出される前記樹脂シートの張力を制御する制御装置と
を備えることを特徴とする樹脂被覆鋼管の製造装置。
【請求項6】
前記樹脂シート供給装置が、昇降自在に支持されるテンションローラを備え、前記第2の期間における張力の制御は、当該テンションローラの高さおよび昇降速度を調整することにより行われることを特徴とする請求項5に記載された樹脂被膜鋼管の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131541(P2011−131541A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294945(P2009−294945)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】