説明

樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法、樹脂被覆PC鋼撚り線、および樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置

【課題】リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法、樹脂被覆PC鋼撚り線、および樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置を提供する。
【解決手段】中心線と、中心線の外周に配置される6本以上の側線とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線30を準備する工程と、PC鋼撚り線30を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解する工程と、緩解する工程により形成される緩解PC鋼撚り線40の中心線および側線の外周に樹脂粉体を付着させる工程と、付着させる工程により形成される付着PC鋼撚り線50を所望の形状に予備成型する工程と、予備成型する工程により形成される予備成型PC鋼撚り線60を樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁・円形構造物などのプレストレスコンクリート構造物に使用される樹脂被膜PC鋼撚り線や、法面などの補強に使用されるアンカー用樹脂被覆PC鋼撚り線に関するものである。特に、リラクセーションに優れた樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法、樹脂被覆PC鋼撚り線、および樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレストレスコンクリート(PC)に緊張材として用いられるPC鋼撚り線(PCストランド)は、中心に配置される中心線と、中心線の周囲に配置される複数の側線を撚り合わせたものである。PC撚り線は、中心線と側線との間に空隙部が存在する。従来、斜張橋、エクストラドースト橋の斜材ケーブルや外ケーブル工法にPC鋼撚り線を使用する場合、PC鋼撚り線はコンクリートの内部に埋設されないため腐食環境下にさらされる。また、PC鋼撚り線をアンカー用に使用する場合、アンカーはセメントモルタルで防食されているとはいえ、常に腐食環境下の土中にあることになる。そのため、この空隙部を完全に被覆しない場合には、腐食性成分を含んだ水分やガスが浸入して、PC鋼撚り線を腐食させてしまう。
【0003】
PC鋼撚り線の腐食を防止するために、たとえば特開平5−200825号公報(特許文献1)に合成樹脂を被覆して防食処置した、PC鋼撚り線の合成樹脂被覆形成加工方法が提案されている。特許文献1では、PC鋼撚り線を塑性加工歪みが生じない温度に加熱して緩解し、高温に保ったPC鋼撚り線にポリエチレンまたはエポキシ樹脂等を300〜350℃に加熱して粉末塗装を行ない、空隙部を埋めている。
【0004】
また、たとえば特開平11−50597号公報(特許文献2)では、所定の条件の鋼撚り線に、樹脂を被覆して防食処置したリラクセーションに優れた樹脂被膜PC鋼撚り線が提案されている。特許文献2では、樹脂被膜の形成時にPC鋼撚り線を再加熱した状態で緩解しているので、リラクセーションを大きくすることを可能としている。
【0005】
また、たとえば特開平10−226973号公報(特許文献3)では、樹脂に特徴をもつ防錆被覆の低リラクセーションPCストランドが開示されている。特許文献3では、空隙部と外周面とを、常温硬化型液状樹脂からなる防錆材で被覆して内部防食層を形成している。
【特許文献1】特開平5−200825号公報
【特許文献2】特開平11−50597号公報
【特許文献3】特開平10−226973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示のPC鋼撚り線の合成樹脂被覆形成加工方法では、高温下で撚りを緩解するため、撚り戻しを行なう際に歪みまたは残留応力が発生してしまう。そのため、樹脂被覆する際にリラクセーション値のレベルが低下するという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献2に開示のリラクセーションに優れた樹脂被膜PCは鋼撚り線では、用いる低リラクセーション対応鋼が特殊配合鋼であり、汎用品でないので、コストがかかるという問題がある。
【0008】
さらに、上記特許文献3に開示の防錆被覆の低リラクセーションPCストランドでは、被覆原料として液状硬化性樹脂を用いている。液状硬化性樹脂は、分子量が低いモノマーまたはオリゴマーを使用するが、これらの物質の多くは有害性が高い。そのため、液状硬化性樹脂を充填する被覆工程は、危険性および有害性が大きいという問題がある。
【0009】
それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法、樹脂被覆PC鋼撚り線、および樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、PC撚り線の緩解によるリラクセーションの増加を鋭意研究した結果、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC撚り線の緩解を行なうことにより、高温下の加熱状態で緩解する場合と比較して、リラクセーションの増加が少ないことを見出した。
【0011】
そこで、本発明の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法は、中心線と、中心線の外周に配置される6本以上の側線とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線を準備する工程と、PC鋼撚り線を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解する工程と、緩解する工程により形成される緩解PC鋼撚り線の中心線および側線の外周に樹脂粉体を付着させる工程と、付着させる工程により形成される付着PC鋼撚り線を所望の形状に予備成型する工程と、予備成型する工程により形成される予備成型PC鋼撚り線を樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する工程とを備えている。
【0012】
本発明の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法によれば、緩解する工程で非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線を緩解しているため、リラクセーションを増加させずに、付着させる工程で樹脂粉体を緩解PC鋼撚り線に付着させることができる。そして、予備成型する工程および加熱する工程によって、中心線と側線との隙間、および側線と側線との隙間を樹脂で埋めて防錆被覆層とすることができる。よって、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
【0013】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法において好ましくは、準備する工程におけるPC鋼撚り線の中心線の中心と側線の中心との距離dと、緩解PC鋼撚り線の中心線の中心と側線の中心との距離Dとが、D/dが1以上10以下の関係を満たすように緩解する工程を実施することを特徴としている。
【0014】
この範囲内とすることにより、樹脂被覆PC鋼撚り線のリラクセーションの増加を抑えるとともに、隙間を十分に樹脂で充填することができる。
【0015】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法において好ましくは、予備成型する工程は、付着PC鋼撚り線の入口側から出口側に向けてテーパ形状となる予備成型ダイスにより実施されることを特徴としている。
【0016】
テーパ形状の予備成型ダイスを用いることにより、中心線と側線との隙間などに樹脂粉体を圧入することが可能となる。そのため、隙間への樹脂の充填度を向上できる。よって、より防錆効果の大きい樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
【0017】
本発明の樹脂被覆PC鋼撚り線は、上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法により製造される。これにより、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線とすることが可能となる。
【0018】
本発明の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置は、上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法に用いられる樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置であって、PC鋼撚り線を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解するためのオープナー機構と、緩解PC鋼撚り線の中心線および側線の外周に樹脂粉体を付着させる粉体充填装置と、付着PC鋼撚り線を所望の形状に予備成型する予備成型ダイスと、予備成型PC鋼撚り線を樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する加熱炉とを備えている。これにより、リラクセーションの低い樹脂被膜PC鋼撚り線を製造することができる。
【0019】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置において好ましくは、付着PC鋼撚り線の入口側から出口側に向けてテーパ形状を有している。これにより、防錆効果のより大きい樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法によれば、緩解する工程では、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線を緩解しているため、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における樹脂被覆PC鋼撚り線を示す断面図である。図1を参照して、本発明の実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線を説明する。
【0023】
本発明の実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10は、図1に示すように、中心線11と、側線12と、樹脂13とを備えている。樹脂被覆PC鋼撚り線10は、中心線11と側線12とを撚り合わせて形成されている。中心線11は、樹脂被覆PC鋼撚り線10の略中央部分に配置されている。側線12は、中心線11の外周に6本以上配置されている。樹脂13は、中心線11と側線12との隙間、隣接する側線12間の隙間、および側線12の外周に配置されている。
【0024】
具体的には、中心線11および側線12は、鋼からなる。側線12は、実質的に同一の形状のものであり、中心線11の延在する方向の外周を囲むように6つ配置されている。たとえば中心線11を5.25mm、側線12を5.05mm程度とすることができる。
【0025】
樹脂13は、危険性および有害性がなく、かつ熱硬化性樹脂であることが好ましく、たとえばエポキシ樹脂を用いることができる。樹脂13は、特にこれに限定されず、たとえば熱可塑性樹脂とすることができる。熱可塑性樹脂としては、鋼材との接着性に優れているものであることが好ましく、たとえば接着性オレフィン樹脂とすることができる。
【0026】
樹脂被覆PC鋼撚り線10の長手方向の断面形状は、たとえば花びら型である。隣接する側線12が接続されている外側部分であるバレー部13aは、花びら型などの深く落ち込んだ谷形状とすることが好ましい。連続する側線12の断面形状を花びら型とすると、側線12の外周面を被覆する樹脂13の断面形状も花びら型となる。断面形状を花びら型とすることによって、高強度鋼材などの鋼材とコンクリートとの高付着力を有することができるので好ましい。なお、側線12は、6以上配置されていれば花びら型に特に限定されず、たとえば多角形型など用途に応じて配置することができる。
【0027】
実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10は、リラクセーション値が2.5%以下である。なお、リラクセーション値は、JIS G3536に準拠して測定される。リラクセーション特性は、構造物にPC鋼撚り線を配置・緊張してプレストレスを与えるとき、長時間経過後にプレストレスが減少していく特性である。リラクセーション値は小さいほど有効なプレストレスが確保される。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10によれば、リラクセーション値が低い。また、中心線11および側線12に汎用の鋼を用いることができるので、製造コストを抑制できる。さらに、樹脂13は危険性および有害性がない。
【0029】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置を示す概略図である。図3は、本発明の実施の形態2における予備成型ダイスを示し、(A)は断面図であり、(B)は側面図である。図4は、本発明の実施の形態2と異なる予備ダイスを示し、(A)は断面図であり、(B)は側面図である。図2〜4を参照して、本発明の実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置を説明する。
【0030】
本発明の実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20は、図2に示すように、巻出機21と、オープナー機構22と、粉体充填装置23と、予備成型ダイス24と、加熱炉25と、巻取機26とを備えている。実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20により、実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10を製造できる。
【0031】
具体的には、巻出機21は、中心線と側線とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線30を巻き出すための部材である。
【0032】
オープナー機構22は、PC鋼撚り線30を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解するための部材である。詳細には、オープナー機構22は、PC鋼撚り線30の入口側の粉体充填装置23と接続される部分に配置されている。オープナー機構22は、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線30の中心線および側線を互いに離れた状態になるように撚りを拡大した(緩解した)状態の緩解PC鋼撚り線40とする。オープナー機構22は、たとえば所望のD/dとなるように円板の中心および面内に中心線もしくは側線を通すための穴を備え、この円板が撚りの回転に応じて自動的もしくは受動的に回転することが可能であり、かつ前後に移動しないように固定されているような構成としている。オープナー機構22により、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線30の中心線と側線とが離れる。
【0033】
粉体充填装置23は、緩解PC鋼撚り線40の中心線および側線の外周に樹脂粉体を付着させる。粉体充填装置23は、緩解PC鋼撚り線40を付着PC鋼撚り線50とする。粉体充填装置23は、たとえば樹脂粉体を溶融した流動浸漬および粉体スプレーの少なくとも一方の充填機能を備える構成としている。また、粉体充填装置23は、余分な樹脂粉体を掻き落とす機能をさらに備えていることが好ましい。
【0034】
予備成型ダイス24は、付着PC鋼撚り線50を所望の形状に予備成型する。予備成型ダイス24により予備成型を行なうと、付着PC撚り線50のバレー部などに付着される粉体樹脂の付着を予備成型することができる機能と、緩解した撚りを元に戻す機能とを備えている。
【0035】
また、予備成型ダイス24は、PC鋼撚り線30の出口側の粉体充填装置23と接続される部分に配置されている。予備成型ダイス24は、図3(A)に示すように、断面形状が花びら型としている。この形状とすることにより、実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10の長手方向の断面を花びら型とすることができる。
【0036】
また、予備成型ダイス24は、図3(B)に示すように、PC鋼撚り線の入口(入線)側24aから出口(出線)側24bに向けて入口側24aの内径が大きく出口側24bの内径が小さいテーパ形状を有していることが好ましい。なお、予備成型ダイス24は特にこの形状に限定されず、たとえば図4(B)に示すように、PC鋼撚り線の入口側24aから出口側24bに向けて延在する形状としてもよい。
【0037】
加熱炉25は、予備成型PC鋼撚り線60を樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する。加熱炉25は、中心線と側線との隙間、および側線を2以上有しているときは側線と側線との隙間に付着された粉体状態の樹脂粉体を溶融および硬化して中心線および側線と一体化させて、防錆被覆層とする。なお、実施の形態2では、加熱炉25は樹脂粉体に応じて温度を変更できる制御手段を有している。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20によれば、PC鋼撚り線30を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解するためのオープナー機構22と、緩解PC鋼撚り線40の中心線および側線の外周に樹脂粉体を付着させる粉体充填装置23と、付着PC鋼撚り線50を所望の形状に予備成型する予備成型ダイス24と、予備成型PC鋼撚り線60を樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する加熱炉25とを備えている。オープナー機構22により、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線30を緩解できるので、リラクセーションを増加させずに、粉体充填装置23により緩解PC鋼撚り線40に樹脂粉体53を付着・充填することができる。そして、予備成型ダイス24および加熱炉25により、中心線と側線との隙間、および側線と側線との隙間を樹脂で埋めて防錆被覆層とすることができる。よって、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線10を製造することができる。
【0039】
また、樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20は、中心線および側線に汎用の鋼を用いることができるので、樹脂被覆PC鋼撚り線の製造コストを抑制できる。さらに、危険性および有害性がない樹脂粉体を用いても、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線10を製造できる。
【0040】
さらに、樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20は、粘性の高い樹脂、低温での押出しによる中心線と側線との隙間に付着させることが難しかった樹脂、および押出しによる成型が困難であった熱硬化性樹脂などの樹脂を、リラクセーションを増加させることなく、PC鋼撚り線30に付着および被覆させることが可能である。
【0041】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置において好ましくは、予備成型ダイス24が、付着PC鋼撚り線50の入口側24aから出口側24bに向けてテーパ形状を有している。これにより、側線12間の隙間のみならず中心線11と側線12との隙間にも樹脂粉体を圧入することが可能となる。そのため、隙間への樹脂の充填度を向上できる。よって、より防錆効果の大きい樹脂被覆PC鋼撚り線10を製造することができる。
【0042】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法を示すフローチャートである。図6は、緩解前のPC鋼撚り線を示す断面図である。図7は、緩解後のPC鋼撚り線を示す断面図である。図8は、粉体樹脂を付着させたPC鋼撚り線を示す断面図である。図9は、予備成型したPC鋼撚り線を示す断面図である。図1〜図9を参照して、本発明の実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法について説明する。実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法は、実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置20を用いて、実施の形態1における樹脂被覆PC鋼撚り線10を製造している。
【0043】
まず、図5および図6に示すように、中心線11と、中心線11の外周に配置される側線12とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線30を準備する工程(S10)を実施する。
【0044】
次に、PC鋼撚り線30を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解する工程(S20)を実施する。緩解する工程(S20)では、たとえば図2に示すオープナー機構22により行なう。
【0045】
緩解する工程(S20)では、図6に示すPC鋼撚り線30の中心線11の中心と任意の側線12の中心との距離dと、図7に示す緩解PC鋼撚り線40の中心線11の中心と任意の側線12の中心との距離Dとが、D/dが1以上10以下の関係を満たすように緩解を実施することが好ましい。なお、緩解前の距離dは、側線線径d1、中心線線径d0とするとd=d1+d0である。
【0046】
また、非加熱状態とは、室温でのPC鋼撚り線30を意味する。また、加熱する場合には120℃以下であり、リラクセーションの増加をより抑制する観点から、好ましくは100℃以下である。120℃以下に加熱する場合には、後述する付着させる工程(S30)で樹脂粉体53をやわらかくできるため好ましい。なお、120℃以下とすることによって、樹脂粉体53の融点以下となるので、非加熱状態で緩解する場合と同様のリラクセーションの効果が得られる。
【0047】
なお、緩解する工程(S20)は、非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解を実施すればよく、オープナー機構22により緩解を実施することに特に限定されない。
【0048】
緩解する工程(S20)により図6に示すPC鋼撚り線30を緩解すると、図7に示す緩解された緩解PC鋼撚り線40となる。緩解PC鋼撚り線40は、その中心線11と側線12とが互いに離れた状態になるように撚りを拡大した状態となる。
【0049】
次に、図8に示すように、緩解する工程(S20)により形成される緩解PC鋼撚り線40の中心線11および側線12の外周に樹脂粉体53を付着させる工程(S30)を実施する。付着させる工程(S30)では、たとえば図2に示す粉体充填装置23を用いて行なう。
【0050】
付着させる工程(S30)では、たとえば樹脂粉体を溶融した流動浸漬および粉体スプレーの少なくとも一方により行なう。たとえば粉体充填装置23内を一定速度で連続して通過させることにより、樹脂粉体53を均一に緩解PC鋼撚り線40に付着させる。また、付着させる樹脂粉体は、危険性および有害性がなく、かつ熱硬化性樹脂の粉体であることが好ましく、たとえばエポキシ樹脂の粉体を用いることができる。付着させる樹脂粉体は、特にこれに限定されず、たとえば熱可塑性樹脂の粉体とすることができる。熱可塑性樹脂の粉体としては、鋼材との接着性に優れているものであることが好ましく、たとえば接着性オレフィン樹脂の粉体とすることができる。
【0051】
付着させる工程(S30)により図7に示す緩解PC鋼撚り線40に樹脂粉体53を付着させると、図8に示すように、緩解された状態で中心線11および側線12に樹脂粉体53が付着した、付着PC鋼撚り線50を得ることができる。
【0052】
次に、図9に示すように、付着させる工程(S30)により形成される付着PC鋼撚り線50を所望の形状に予備成型する工程(S40)を実施する。予備成型する工程(S40)では、たとえば図2に示す予備成型ダイス24を用いて行なう。
【0053】
予備成型する工程(S40)では、付着PC鋼撚り線50の入口側から出口側に向けてテーパ形状となる予備成型ダイスにより実施されることが好ましい。
【0054】
予備成型する工程(S40)により図8に示す緩解された状態の樹脂粉体53が付着した付着PC鋼撚り線50を予備成型すると、図9に示すように、緩解が解除された状態の予備成型された、予備成型PC鋼撚り線60を得ることができる。
【0055】
なお、予備成型する工程(S40)を実施して中心線11と側線12との隙間に樹脂粉体53を付着した後に、側線12の外周面を粉体塗装または押出し被覆などにより、さらに樹脂粉体で被覆してもよい。
【0056】
次に、予備成型する工程(S40)により予備成型PC鋼撚り線60を樹脂粉体53の融点以上の温度で加熱する工程(S50)を実施する。
【0057】
加熱する工程(S50)では、樹脂粉体53の融点以上の温度で加熱して樹脂粉体53を溶解する。そして、その状態で冷却または放置することにより、溶解した樹脂粉体53が硬化する。
【0058】
加熱する工程(S50)により、図9に示す予備成型PC鋼撚り線60を加熱すると、図1に示すような中心線11と側線12と樹脂13とが一体化された樹脂被覆PC鋼撚り線10を得ることができる。そして、樹脂被覆PC鋼撚り線10の樹脂13は、防錆保護層の機能を有する。
【0059】
上記工程(S10〜S50)を実施することにより、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線10を得ることができる。
【0060】
以上説明したように、本発明の実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法によれば、中心線11と、中心線11の外周に配置される側線12とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線30を準備する工程(S10)と、PC鋼撚り線30を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解する工程(S20)と、緩解する工程(S20)により形成される緩解PC鋼撚り線40の中心線11および側線12の外周に樹脂粉体53を付着させる工程(S30)と、付着させる工程(S30)により形成される付着PC鋼撚り線50を所望の形状に予備成型する工程(S40)と、予備成型する工程(S40)により形成される予備成型PC鋼撚り線60を樹脂粉体53の融点以上の温度で加熱する工程(S50)とを備えている。緩解する工程(S20)では、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線30を緩解すると高温下の加熱状態で緩解する場合よりもリラクセーションの増加が少ないことを利用して、非加熱状態または120℃以下の加熱状態でPC鋼撚り線30を緩解している。そのため、緩解PC鋼撚り線40のリラクセーションを増加させずに、付着させる工程(S30)で樹脂粉体53を緩解PC鋼撚り線40に充填することができる。そして、予備成型する工程(S40)および加熱する工程(S50)によって、中心線と側線との隙間、および側線を2以上有しているときは側線と側線との隙間を樹脂13で埋めて防錆被覆層とすることができる。よって、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
【0061】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法において好ましくは、準備する工程(S10)におけるPC鋼撚り線30の中心線11の中心と側線12の中心との距離dと、緩解PC鋼撚り線40の中心線11の中心と側線12の中心との距離Dとが、D/dが1以上10以下の関係を満たすように緩解する工程(S20)を実施している。D/dを1以上とすることによって、中心線と側線との隙間への樹脂の充填が十分となる。一方、D/dを10以下とすることによって、リラクセーションの増加を抑えることができる。
【0062】
上記樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法において好ましくは、予備成型する工程(S40)は、付着PC鋼撚り線50の入口側24aから出口側24bに向けてテーパ形状となる予備成型ダイス24により実施されている。これにより、隙間に圧入することが可能となる。そのため、隙間への樹脂13の充填度を向上できる。よって、より防錆効果の大きい樹脂被覆PC鋼撚り線を製造することができる。
[実施例]
本実施例では、緩解する工程の効果を調べた。始めに、実施例および比較例の各々の樹脂被覆PC鋼撚り線を以下の方法により製造した。
【0063】
(実施例1における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造)
実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法により製造した。具体的には、準備する工程(S10)として、内径15.2mmのPC鋼撚り線を準備した。そして、緩解する工程(S20)として、D/dが10となるように、非加熱状態でPC鋼撚り線を緩解した。そして、樹脂粉体を付着させる工程(S30)として、中心線に向けてスプレーガンにてエポキシ樹脂の粉体を吹き付けた。この際、余分な樹脂粉体を掻き落とすことができる機能を有する粉体充填装置23内を一定速度で連続して通過させた。そして、予備成型する工程(S40)として、断面形状が花びら型の予備成型ダイスで予備成型した。そして、加熱する工程(S50)として、鋼材表面温度が230℃になるように加熱できる対流式加熱炉を通過させた。これにより、実施例1における樹脂被覆PC鋼撚り線を得た。
【0064】
(実施例2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造)
実施例2は基本的には実施例1と同様であるが、実施例2は、緩解する工程(S20)においてD/dを1とした点においてのみ異なる。
【0065】
(比較例1における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造)
比較例1は基本的には実施例1と同様であるが、比較例1は、緩解する工程(S20)において高温下の加熱状態で行なった点およびD/dを30とした点においてのみ異なる。具体的には、準備する工程(S10)として、PC撚り線を対流式加熱炉に連続的に通過させて、鋼材表面温度が230℃になるように加熱した。そして、緩解する工程(S20)として、加熱状態でオープナーにてD/dを30となるように緩解した。
【0066】
(比較例2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造)
比較例2は基本的には実施例1と同様であるが、比較例2は、緩解する工程(S20)において高温下の加熱状態で行なった点においてのみ異なる。具体的には、準備する工程(S10)として、PC撚り線を対流式加熱炉に連続的に通過させて、鋼材表面温度が230℃になるように加熱した。
【0067】
(評価方法)
得られた樹脂被覆PC鋼撚り線について、それぞれリラクセーション値を測定した。リラクセーション値は、JIS G3536に規定された方法にて、室温下で1000時間の条件で測定した。また、予備成型する工程(S40)により得られた予備成型されたPC撚り線について樹脂粉体の充填状況を観察した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1および実施例2における樹脂被覆PC鋼撚り線のリラクセーション値は、2.5%以下と低い値となった。一方、230℃の高温下で加熱しD/dが1〜30の範囲外の比較例1における樹脂被覆PC鋼撚り線、および230℃の高温下で加熱した比較例2における樹脂被覆PC鋼撚り線のリラクセーション値は、2.5%を超える高い値となった。なお、実施例1、2および比較例1の樹脂粉体の充填状況は、すべて良好であった。
【0070】
以上説明したように実施例によれば、非加熱状態で緩解を行なうことにより、リラクセーションの低い樹脂被覆PC鋼撚り線を製造できることがわかった。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態における樹脂被覆PC鋼撚り線を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態2における予備成型ダイスを示し、(A)は断面図であり、(B)は側面図である。
【図4】本発明の実施の形態2と異なる予備ダイスを示し、(A)は断面図であり、(B)は側面図である。
【図5】本発明の実施の形態3における樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】緩解前のPC鋼撚り線を示す断面図である。
【図7】緩解後のPC鋼撚り線を示す断面図である。
【図8】粉体樹脂を付着させたPC鋼撚り線を示す断面図である。
【図9】予備成型したPC鋼撚り線を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10 樹脂被覆PC鋼撚り線、11 中心線、12 側線、13 樹脂、13a バレー部、20 樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置、21 巻出機、22 オープナー機構、23 粉体充填装置、24 予備成型ダイス、24a 入口側、24b 出口側、25 加熱炉、26 巻取機、30 PC鋼撚り線、40 緩解PC鋼撚り線、50 付着PC鋼撚り線、53 樹脂粉体、60 予備成型PC鋼撚り線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線と、前記中心線の外周に配置される6本以上の側線とを撚り合わせて形成されるPC鋼撚り線を準備する工程と、
前記PC鋼撚り線を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解する工程と、
前記緩解する工程により形成される緩解PC鋼撚り線の前記中心線および前記側線の外周に樹脂粉体を付着させる工程と、
前記付着させる工程により形成される付着PC鋼撚り線を所望の形状に予備成型する工程と、
前記予備成型する工程により形成される予備成型PC鋼撚り線を前記樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する工程とを備える、樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法。
【請求項2】
前記準備する工程における前記PC鋼撚り線の前記中心線の中心と前記側線の中心との距離dと、前記緩解PC鋼撚り線の前記中心線の中心と前記側線の中心との距離Dとが、D/dが1以上10以下の関係を満たすように前記緩解する工程を実施することを特徴とする、請求項1に記載の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法。
【請求項3】
前記予備成型する工程は、前記付着PC鋼撚り線の入口側から出口側に向けてテーパ形状となる予備成型ダイスにより実施されることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法により製造される、樹脂被覆PC鋼撚り線。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造方法に用いられる樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置であって、
前記PC鋼撚り線を非加熱状態または120℃以下の加熱状態で緩解するためのオープナー機構と、
前記緩解PC鋼撚り線の前記中心線および前記側線の外周に樹脂粉体を付着させる粉体充填装置と、
前記付着PC鋼撚り線を所望の形状に予備成型する予備成型ダイスと、
前記予備成型PC鋼撚り線を前記樹脂粉体の融点以上の温度で加熱する加熱炉とを備える、樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置。
【請求項6】
前記予備成型ダイスが、前記付着PC鋼撚り線の入口側から出口側に向けてテーパ形状を有する、請求項5に記載の樹脂被覆PC鋼撚り線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−217823(P2007−217823A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39417(P2006−39417)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】