説明

樹脂製ねじの締め付け管理システム

【課題】精度良くファイナルトルク値のばらつきを抑制でき、且つ、ねじの締め付け異常を容易に認知できる樹脂製ねじの締め付け管理システムを提供する。
【解決手段】樹脂製のタンク本体1に対してねじ式のキャップ3を締め付け装置11で締め付けるにあたり、締め付けの途中段階において、締め付けトルク値が中間設定トルク値に達したことを検出する中間設定トルク値検出手段18と、中間設定トルク値検出手段18による検出時以降のキャップ3の回転角度を検出する回転角度検出手段19と、回転角度検出手段19により検出されるキャップ3の回転角度が予め設定した設定回転角度と一致したときに、キャップ3の回転を停止させる回転停止手段20と、中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したキャップ3の回転角度を監視する監視手段21と、を備える管理システムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ねじの締め付け管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載される燃料タンクは、防錆性や軽量化等の観点から近年ではブロー成型による樹脂製のタイプのものが主流である。図6は、エンジンへの燃料供給用のポンプモジュールをタンク本体の内部に収容する燃料タンクユニットに関する図であり、各構成部品を分解した状態として示している。樹脂製のタンク本体1(一部省略)の上部には、上面に開口部1bを有する円筒部1aが形成されている。ポンプモジュールP(一部省略)は、円筒形状を呈する本体Paと、この本体Paの上部に形成される円板状のフランジ部Pbとを有した構成からなり、本体Paが前記開口部1bを介してタンク本体1の内部に挿入される。
【0003】
符号2は、前記開口部1bとポンプモジュールPとの間に介設されるシール部材を示す。シール部材2は、ゴム材等、弾性を有する部材であって、鉛直状且つ環状に形成される本体部2aと、この本体部2aの上端から径方向の外側に向けて水平状に形成されるフランジ部2bと、を有した形状からなる。以上のシール部材2及びポンプモジュールPを装着したうえで、前記円筒部1aの外周面に螺設された雄ねじ1cに、内周面に雌ねじ3aが螺設された樹脂製のキャップ3を螺合することで、ポンプモジュールPがタンク本体1に対して堅固に固定される。キャップ3の上部には、フランジ部Pbの上面に接触してポンプモジュールP及びシール部材2を円筒部1aに対して押圧する可撓性の押圧フランジ部3cが形成されている。これらの構造については、例えば特許文献1にも開示されている。
【0004】
キャップ3の締め付け用の治具としては、例えば図7に示すものが使用されている。治具4は、円板状の基部4aと、この基部4aの周縁部から一体的に垂設された複数の係合部4bとを備えた形状からなる。前記キャップ3の外周面には複数の縦リブ3bが等間隔で形成されており、各係合部4bを隣接し合う縦リブ3b間の外周面に上方から挿入係合させたうえで、図示しないモータにより治具4を回転させることにより、キャップ3が円筒部1a(図6)に対して締め付け固定される。そして、このキャップ3の締め付けの管理について、従来では、設定したトルク値が生ずるまで締め付ける、いわゆる「トルク法」により締め付けを制御するという方法が採られていた。
【特許文献1】特開2003−40318号公報(段落0011〜0033、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以降、図6ないし図8のいずれかを適宜に参照して説明する。図8は、前記治具4を一定速度で回転させたときの、キャップ3の締め付け過程におけるトルク変化の様子を示すグラフである。本グラフではキャップ3の最終的な締め付けのトルク値を90Nmとした場合を示している。A1領域で一旦トルク値が下がっているが、これはキャップ3が前記ポンプモジュールPのフランジ部Pbを介してシール部材2を実質的に強く押圧し始めるあたりを狙って(当該時を以降では「着座」時というものとする)、治具4の回転動作を一旦停止していることによる。この例ではトルク値が15Nmに達した時点で治具4の回転動作を一旦停止させている。
【0006】
さて、着座時以降のトルク変化をみると、時間の経過とともにトルク値は概ね一定の比率で増加していくものの、局部的にみた場合、トルク値は常に小刻みに変動しながら(以降、これをトルク変動という)、増加していく様子が良く判る。いうまでもなく、これは両ねじ面間に生ずる、いわゆるスティックスリップ現象を受ける結果であり、特に締め付け途中のスナグ点(回転角度と締め付け力との関係を示す線図の直線部のうちで小さい値となる点)近傍のA2領域から最終段階のA3領域までの区間では、ねじ面圧の増大によりトルク係数が大きくなることもあって変動の度合いがより激しいものとなっている。このような現象は一般に樹脂製のねじに関して特に顕著であり、摩擦係数が小さい金属製のねじについてはさほど発生するものではない。図9は、本発明者が比較対象として金属ねじに関するトルク変化を計測した結果を示すグラフであり、このグラフを見ても判るように、最終段階のA3領域あたりで若干の変動が確認できるものの、全体的にほとんど無視できる程度のトルク変動となっていることが判る。
【0007】
以上のように樹脂製のねじは締め付け過程においてトルク変動が大きく、図8の場合、A3領域ではその変動値S1が10Nm前後となっている。また、樹脂製のねじの場合、材質自体や製造の誤差等に起因して、金属製のねじに比べてトルク変動に関する個体差、つまりばらつきが大きい傾向にある。したがって、図8の場合、例えばファイナルトルク値が90Nmに達したことを検知して、その検知信号に基き図示しないモータを停止させて治具4(図7)の回転を停止させるものとすると、検知してから治具4が停止するまでの制御系のタイムラグ及び、変動値S1とねじ間の個体差との関係で、最終的なキャップ3(図7)の締め付けのトルク値(以降、これをピークトルク値という)が、製品によっては互いに10Nmの値分、異なるという不都合が生じるおそれがある。
【0008】
なお、このような場合、締め付けの回転速度を低速化することでピークトルク値のばらつきをある程度抑えることができる。図10(a)〜(d)は治具4(図7)の回転速度を変えた場合のファイナルトルク値とピークトルク値との相関を示すグラフであり、それぞれ製品50個についてテストを行った場合を示している。これらのグラフから、回転速度が(c)の15.5rpmや(d)の19.9rpmの場合に比べ、低速である(b)の11.0rpmの場合の方が各個体間のばらつきが小さく、且つファイナルトルク値とピークトルク値との近似度が高いことが判る。そして、さらに低速である(a)の6.6rpmの場合にはその傾向がより顕著となる。これは低速に伴いイナーシャが小さくなって前記制御系のタイムラグが少なくなることが主な要因である。
【0009】
また、締結部において、締め付け対象物に対して締め付け方向に与える力(軸力を指し、本明細書では以降、締め付け力というものとする)は、雄ねじ又は雌ねじの回転角度による変位量が、ねじ材の弾性係数と関連することでもたらされるものである。しかし、図11(本発明者が多量製品についてテストを行った際の締め付けトルクと締め付け角度(ねじの回転角度)との相関を示すグラフ)からも判るように、樹脂製ねじの場合、締め付けトルク量とねじの回転角度は相関関係が弱く(ばらつきが大きく)、この結果、同一のトルクで締め付けても、締め付け力に関して締め付け過多或いは締め付け不足という事態を招きやすいという問題がある。この主たる原因は、ねじ面及び座面のトルク係数の個体差によるものであり、多量生産下では、このトルク係数の差が品質に及ぼす影響を無視できないのが実情である。
【0010】
本発明は、このような締め付けの変化要素(トルク係数のばらつき)の影響を受けにくく、締め付け力のばらつきを抑制できる樹脂製ねじの締め付け管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、樹脂製の雄ねじ及び雌ねじを互いに螺合させ、いずれか一方のねじを回転させて対象物に対する締め付けを行うねじの締め付け管理システムであって、締め付けの途中段階において、締め付けトルク値が中間設定トルク値に達したことを検出する中間設定トルク値検出手段と、前記中間設定トルク値検出手段による検出時以降のねじの回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度検出手段により検出される回転角度が予め設定した設定回転角度と一致したときに、ねじの回転を停止させる回転停止手段と、前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度を監視する監視手段と、を備える構成とした。
【0012】
当該構成によれば、ねじの締め付け過程が、前半のいわゆるトルク法と後半のいわゆる回転角法とに分けられて管理され、且つ、トルク法での締め付け段階において、締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度が監視される。これにより、締め付け力のばらつきは、回転角法の段階において効果的に抑えられ、且つ、締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度の値が許容範囲内に入っているか否かを見ることで、ねじの締め付けの異常状態を認知できることとなる。また、途中から回転角法とすることで、ピークトルク値のばらつきが抑えられる。
【0013】
また、本発明は、ねじの締め付けが終了した時点におけるねじのピークトルク値を監視する構成とした。
【0014】
当該構成によれば、ねじの締め付けの異常状態をより的確に把握でき、高精度な管理システムを構築できる。
【0015】
また、本発明は、前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度、若しくは該回転角度が予め設定した許容角度範囲内に入っているか否かの合否判定を表示装置に表示させる構成とした。
【0016】
当該構成によれば、作業者は表示装置に表示された回転角度や合否判定結果を見ることで、ねじの締め付けが正常になされたか否かを瞬時に、且つ容易に認知できることとなる。
【0017】
また、本発明は、前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度と、前記回転角度検出手段により検出される回転角度とを加算した合計値、若しくは該合計値が予め設定した許容角度範囲内に入っているか否かの合否判定を表示装置に表示させる構成とした。
【0018】
当該構成によれば、後半の回転角法の段階において検出される回転角度も監視下に置かれるので、監視精度がより向上することになる。そして、作業者は表示装置に表示された合計値や合否判定結果を見ることで、ねじの締め付けが正常になされたか否かを瞬時に、且つ容易に認知できることとなる。
【0019】
さらに、本発明では、前記中間設定トルク値として、ねじのスナグ点に設定する構成とした。
【0020】
樹脂製ねじの場合、締め付けトルクの変動の度合いはスナグ点付近を境に大きく変わる傾向にあることから、当該構成によれば、トルク法の過程における締め付けトルクの管理が全てばらつき安定域において行われることとなり、締め付けトルクの管理精度が向上する。
【0021】
また、本発明においては、車両に搭載される樹脂製の燃料タンクユニットにおいて、タンク本体には、燃料供給用のポンプモジュール及び弾性を有するシール部材を取り付けるための無蓋の円筒部が形成されるとともに、前記ポンプモジュール及びシール部材を固定するためのキャップが取り付けられ、前記雄ねじは前記円筒部の外周面に形成されるとともに、前記雌ねじは前記キャップの内周面に形成されている構成とした。
【0022】
当該構成によれば、作業者がシール部材を捩れた状態で装着した場合やシール部材を装着し忘れた場合等の異常状態を判別できることとなるので、燃料タンクユニットの品質精度が向上することになる。
【0023】
また、本発明は、車両に搭載される樹脂製の燃料タンクユニットにおいて、タンク本体には、燃料供給用のポンプモジュール及び弾性を有するシール部材を取り付けるための無蓋で且つ外周面に雄ねじが螺設された円筒部が形成され、前記円筒部の雄ねじには、内周面に雌ねじが螺設された樹脂製のキャップが螺合され、前記キャップは、締め付けに伴って前記ポンプモジュール及びシール部材を前記円筒部に対して押圧する可撓性の押圧フランジ部を備えた形状からなり、前記キャップの所定の締め付けが終了した後、前記押圧フランジ部に所定荷重を加える荷重付与手段と、前記所定荷重が加えられたときの前記押圧フランジ部の撓み変位量を監視する変位量監視手段と、を備える樹脂製ねじの締め付け管理システムとした。
【0024】
当該構成によれば、キャップの締め付け状態が正常か否かを容易に且つ的確に把握できるため、燃料タンクユニットの品質精度が向上することになる。また、製品を直接的に管理する、いわゆる製品を主体とした管理システムとなるため、装置側の管理システムに比して管理精度の信頼性に優れる。また、装置側の管理システムと併用することにより、さらに燃料タンクユニットの品質精度が向上する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ねじの締め付け過程が、前半のいわゆるトルク法と後半のいわゆる回転角法とに分けられて管理され、且つ、トルク法での締め付け段階において、締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度が監視される。これにより、締め付け力のばらつきは、回転角法の段階において効果的に抑えられ、且つ、締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度の値が許容範囲内に入っているか否かを見ることで、ねじの締め付けの異常状態を認知できることとなる。また、途中から回転角法とすることで、ピークトルク値のばらつきが抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下では、図6で説明した樹脂製の燃料タンクユニットの組み付けに本発明を適用した形態について説明する。図1は、ねじの締め付け装置11及び本発明に係る締め付け管理システムを示す構成ブロック図、図2はタンク本体1側の雄ねじ1cにキャップ3の雌ねじ3aを締め付けた状態を示す側断面図である。
【0027】
先ず、燃料タンクユニットの構成について図2または図6を参照して詳細に説明する。タンク本体1は、ブロー成型等によって成形される樹脂製のタンクであって、その上部には、上面に開口部1bを有する円筒部1aが形成されている。タンク本体1(円筒部1a)の外表層部の材質としては、例えばポリエチレン等である。開口部1b周りの周縁部1dは、シール部材2のシール部2c(図2)に接するシール面としての機能を担う。そして、円筒部1aの外周面には雄ねじ1cが形成されている。
【0028】
ポンプモジュールPは、図示しないポンプ部を内蔵した円筒形状を呈する本体Paと、この本体Paの上部に形成される円板状のフランジ部Pbとを有した構成からなる。なお、フランジ部Pbの上面には、燃料を外部へ送り出すための吐出口が形成されるが、図では省略している。本体Pa及びフランジ部Pbは合成樹脂材等により成形されている。
【0029】
シール部材2は、タンク本体1の開口部1bとポンプモジュールPとの間に介設される。シール部材2は、弾性を有する部材であり、例えばアクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとの混合材料等から成形されたゴム部材として構成される。シール部材2は、略鉛直状に、且つ環状に形成される本体部2aと、この本体部2aの上端から径方向の外側に向けて水平状に形成される環状のフランジ部2bとを有した形状からなる。フランジ部2bの上面及び下面には、それぞれ断面視して半円状に突型となるシール部2cが全周にわたって形成されている。また、本体部2aにおいて、その内周面及び外周面における上下方向に関する略中央部には、断面視して頂点が斜め下方に位置し、頂点角が鋭角となる三角形状の嵌合腕部2dが全周にわたって形成されている。さらに、本体部2aの下端は二股に分岐形成されて嵌合脚部2eとして構成される。
【0030】
図2に示すように、タンク本体1へのポンプモジュールPの挿入が完了したときには、一対のシール部2cが弾性変形して、それぞれフランジ部Pbの下面及びタンク本体1の周縁部1dに密着することで、開口部1bとフランジ部Pbとの間が封止(シール)される。また、嵌合腕部2d及び嵌合脚部2eも弾性変形することで、円筒部1aの内周面側とポンプモジュールPの本体Paとの間が封止される。シール部材2及びポンプモジュールPの取り付け態様としては、先にシール部材2をタンク本体1の開口部1bに取り付けてからポンプモジュールPを取り付けるという態様になっており、これら一連の取り付け作業は人手により行われる。そして、タンク本体1にシール部材2及びポンプモジュールPが取り付けられた後、円筒部1aに対してキャップ3が人手により仮締めされる。キャップ3は、その内周面に、前記雄ねじ1cに対応した雌ねじ3aが形成された樹脂製の部材であり、材質は例えばポリエチレン等である。
【0031】
キャップ3の上部はポンプモジュールPの吐出口(図示せず)等を挿通させるために円孔として開口形成されており、その環状となる開口縁部は、キャップ3の側壁から内側に且つ若干下方側に屈曲形成された押圧フランジ部3cとして構成される。この押圧フランジ部3cは下方側に屈曲形成されていることから可撓性を有した部位となり、キャップ3の締め付けに伴いフランジ部Pbを介してポンプモジュールP及びシール部材2を円筒部1aの周縁部1dに対して押圧する部位となる。
【0032】
次いで図1を参照して、タンク本体1に仮締めされたキャップ3を堅固に締め付けるための締め付け装置11について説明する。締め付け装置11は、キャップ3の回転駆動源となるモータ12と、減速機13と、キャップ3の回転抵抗トルク、すなわちキャップ3の締め付けトルクを検出するトルクトランスデューサ14と、モータ12の回転角度を検出するエンコーダ15とを備えた構成からなる。モータ12からの出力系は減速機13及び軸継ぎ手16を介して治具17に接続される。この治具17は基本的に図7で示した治具4と略同一の構成であるが、治具4の場合、係合部4bがキャップ3の縦リブ3b間の外周面の数に対して1つおきに係合する構成であったのに対し、治具17の場合には、係合部17bの数が多く、縦リブ3b間の外周面の数の全てに係合する構成となっている点が異なっている。この場合、治具17の方が回転力に関してキャップ3の全周にわたって均一に伝わるため、締め付け精度の向上が図れる。以上の締め付け装置11は昇降自在な架台(図示せず)に載置されており、該架台を下降させて治具17をキャップ3に被せ、モータ12を駆動させることで治具17が回転し、タンク本体1に対するキャップ3の締め付けがなされる。
【0033】
さて、本発明は、締め付け装置11によるキャップ3の締め付けの管理にあたり、締め付けの途中段階において、締め付けトルク値が中間設定トルク値に達したことを検出する中間設定トルク値検出手段18と、この中間設定トルク値検出手段18による検出時以降のねじの回転角度を検出する回転角度検出手段19と、この回転角度検出手段19により検出される回転角度が予め設定した設定回転角度と一致したときに、ねじの回転を停止させる回転停止手段20と、中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度を監視する監視手段21と、を備える締め付け管理システムとしたことを主な特徴とする。これらの各手段は演算機能を備えたコントローラ22にて制御される。
【0034】
本発明にかかる締め付け管理システムを適用し、締め付け装置11で治具17を回転させたときのキャップ3に関するトルク変化の様子を図3に示す。以降、図1ないし図3のいずれかを適宜に参照して説明する。先ず図3において、着座領域B1、スナグ点領域B2及びファイナル領域B3は、図8にて説明したA1領域、A2領域及びA3領域と同一の領域である。すなわち、着座領域B1は、キャップ3がポンプモジュールPのフランジ部Pbを介してシール部材2を実質的に強く押圧し始める領域であり、言い換えると、人手により挿入され、場合によっては姿勢が不安定となった可能性のあるシール部材2及びポンプモジュールPの姿勢を均一に安定させる領域となる。この着座領域B1における着座点は予め試験により求めてコントローラ22に記憶させておく。本実施形態では、締め付けトルク値が15Nmに達した時点を着座点として、極めて短時間ながら治具17の回転動作を一旦停止させている。
【0035】
次いで、本実施形態では、前記した中間設定トルク値(符号T1にて示す)をスナグ点領域B2におけるスナグ点としている。中間設定トルク値T1も予め試験により求めてコントローラ22に記憶させておくものであり、本実施形態では40Nmとしている。前記コントローラ22の中間設定トルク値検出手段18は、トルクトランスデューサ14からの信号を受け、キャップ3の締め付けトルク値がこの中間設定トルク値T1に達したことを検出する。ここで、中間設定トルク値T1をスナグ点(スナグ点近傍を含む)以外に設定することも可能であるが、この中間設定トルク値T1は少なくとも着座点(着座領域B1)以降に設定されるものである。
【0036】
そして、中間設定トルク値T1に達して以降、エンコーダ15からの検出信号に基き、コントローラ22は回転角度検出手段19によりねじの回転角度、すなわちキャップ3の回転角度を検出し、この検出した回転角度(以降、これをモニター角度θ2という)が予め設定した設定回転角度と一致したとき、回転停止手段20によりキャップ3の回転を停止させる。設定回転角度は、前記中間設定トルク値T1が生じた時点の角度を零として、そこから所望の締め付け力が得られるまでに要する回転角度として設定されるものであり、予め試験により求めてコントローラ22に記憶させておくものである。例えば、本実施形態では設定回転角度を75度としてあり、図3では、これにより得られるピークトルク値PTが概ね100Nmとして示されている。
【0037】
以上から判るように、締め付け開始時からスナグ点(中間設定トルク値T1)に達するまでの締め付け段階はいわゆる「トルク法」によって管理され、スナグ点(中間設定トルク値T1)から締め付け停止時に達するまでの締め付け段階は「回転角法」によって管理される。そして、中間設定トルク値T1に達する前の段階、つまりトルク法によって管理される段階において、締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したキャップ3の回転角度が監視手段21によって監視される。このときの回転角度も勿論、エンコーダ15によって検出されるものである。本実施形態では、当該回転角度を、着座点からスナグ点(中間設定トルク値T1)に達するまでに要した回転角度(以降、これをスナグ角度θ1という)として監視している。
【0038】
ここで、「トルク法」は、特に樹脂製のねじ間のトルク係数の影響を受けやすく、締め付けトルク量とねじの回転角度との相関関係が弱いことから、締め付け力のばらつきが大きくなりやすいことは既述した通りである。一方、設定した角度だけ回転させる「回転角法」は、前記相関関係、つまりトルク係数のばらつきがさほど介在しないことから、締め付け対象となる対象物に関して予め多量の試験データを取得し、その解析結果を基に設定回転角度を決めておくことで高精度の締め付け管理が得られるという利点があり、「トルク法」に比して締め付け力のばらつきを抑えることが可能となる。しかし、「回転角法」は設定回転角度のみを管理する手法であるから、対象物自体のトルク係数以外に起因する異常時、例えばねじ部に異物が挟まることによってトルク係数が増大し、結果として締め付けトルクが過大となったり、逆に油が付着することによってトルク係数が減少し、締め付けトルクが不足するなど、ねじ緩みやねじ破損に波及する事態に容易に対処できないという問題がある。
【0039】
これらの問題に対して、本発明のように、キャップ3の締め付けを前半のトルク法と後半の回転角法とに分け、且つトルク法での締め付け段階においてスナグ角度θ1を監視する管理システムとすれば、締め付け力のばらつきは、回転角法において多量の試験データを基に設定された設定回転角度(=モニター角度θ2)によって抑えられ、且つ、スナグ角度θ1の値によりキャップ3の締め付けの異常状態を認知できることとなる。
【0040】
また、後半の回転角法の締め付け段階においては、ピークトルク値PTのばらつきが低減される。その様子について模式グラフとして示した図4を参照して説明する。図4は、キャップ3の締め付け過程における締め付けトルクと回転角度との模式相関グラフであり、複数個をテストした場合のばらつき分布を示している。(a)は締め付けトルクが零の時点からキャップ3を所定角度値θまで締め付けた場合、つまりキャップ3の全締め付け過程を回転角法で管理した場合を示し、(b)は本発明のように、所定の締め付けトルクが発生している切換点(前記した中間設定トルク値T1が生ずる時点であり、例えばスナグ点)から所定角度値θまで締め付けた場合を示す。なお、図4における締め付けトルクと回転角度との線図は実際には次第に勾配が上がる曲線であるがその勾配変化は緩やかであり、図では便宜上、直線として描いている。また、トルク変動分は無視して描いている。
【0041】
先ず(a)のグラフより、回転角度が大きくなるほど締め付けトルクのばらつきが大きくなっていく様子が判る。この(a)において、所定角度値θにおけるキャップ3の締め付けトルク(すなわち図3に示すピークトルクPT)の平均値をXとし、そのばらつきをX±20%とする。この(a)に対して(b)のように、途中の切換点(仮に半分のθ/2の位置とする)を起点としてキャップ3の回転角度を管理した場合には、管理される回転角度は残り半分のθ/2分であるから、所定角度値θにおけるキャップ3の締め付けトルク(ピークトルクPT)のばらつきは、理論的に(a)の半分であるX±10%となる。本実施形態のように切換点をスナグ点近傍、またはそれ以下とした場合、個々の製品におけるトルク変動はまだ小さい領域であることから、切換点自体のばらつきはかなり小さいものである。
【0042】
さて、前記キャップ3の締め付けの異常状態の例としては、(1)ねじ部にゴミ等の異物が挟まった場合、(2)ねじ部に油が付着している場合、等であり、これらに加えて本実施形態の場合には、(3)作業者がシール部材2を捩れた状態で装着した場合、(4)作業者がシール部材2を装着し忘れた場合、等が挙げられる。(1)と(3)の場合にはトルク係数が増大するので、締め付けトルク値の所定の上昇幅に対応したスナグ角度θ1は小さな値となり、(2)と(4)の場合にはトルク係数が減少するのでスナグ角度θ1は大きな値となる。
【0043】
特に、本実施形態のように、キャップ3がポンプモジュールPのフランジ部Pbを介してシール部材2を実質的に強く押圧し始めるところの着座点からスナグ点までの範囲、つまりスナグ角度θ1を監視することで、前記(3)及び(4)の状態を的確に把握できることとなる。
【0044】
したがって、このスナグ角度θ1に対して許容値を設定し、この許容値の範囲内に入っているか否かを見ることで、キャップ3の締め付けの異常状態を認知できるようになる。また、監視する対象としては、スナグ角度θ1自体である場合の他に、図3に示す要求締め付け角度θ3(スナグ角度θ1とモニター角度θ2とを加算した合計値)としても良い。この場合、スナグ角度θ1に加えてモニター角度θ2も監視下に置かれることとなるので、監視精度がより向上するものである。監視態様例としては、例えば、モニター角度θ2を75度に設定し、最終的に得られた要求締め付け角度θ3が100度〜135度の範囲に入っているか否かを監視する等である。
【0045】
そして、この要求締め付け角度θ3自体、若しくは予め設定した許容角度範囲(例えば前記した100度〜135度の範囲)内に入っているか否かの合否判定(例えば範囲内に入っていれば「OK」、外れていれば「NG」の表示をさせるなど)、または、これら両者を、図1の表示装置23に表示させる構成とすれば、作業者はその表示内容を見ることにより、キャップ3の締め付けが正常になされたか否かを瞬時にして認知できることとなる。
【0046】
勿論、要求締め付け角度θ3に関する表示に代えて、スナグ角度θ1自体、若しくは予め設定した許容角度範囲(例えば25度〜60度の範囲)内に入っているか否かの合否判定(例えば範囲内に入っていれば「OK」、外れていれば「NG」の表示をさせるなど)、または、これら両者を、図1の表示装置23に表示させる構成としても良い。
【0047】
また、本実施形態のように、締め付けトルクの変動の度合いが変わるスナグ点を境として、前半のトルク法と後半の回転角法とに分けて管理することで、各締め付けトルクの管理精度が向上することになる。
【0048】
なお、以上のスナグ角度θ1の監視や要求締め付け角度θ3の監視に加えて、図3に示すピークトルクPTも監視する態様とすれば、キャップ3の締め付けの異常状態をより的確に把握でき、高精度な管理システムを構築できる。
【0049】
さて、一般に製品の量産管理の手法としては、大別して装置側の管理と製品側の管理とに分けることができ、この2面で管理することにより製品の管理精度をさらに向上させることが可能となる。以上に説明した管理システムは、装置の制御を主体とするいわば装置側における管理システムであるが、以下に説明する管理システムは、製品を直接的に管理する、いわば製品側における管理システムに係わるものである。なお、両システムともそれぞれ個別に行うことで所定の効果が奏されるが、両システムを併用する管理システムとすることで、前記したように管理精度がさらに向上するものであり、燃料タンクユニットの品質精度の向上が図れるものである。
【0050】
この管理システムは、可撓性を有するキャップ3の押圧フランジ部3cを利用するものであり、図5に示すように、キャップ3の所定の締め付けが終了した後(通常はキャップ3の締め付けが完了した後)、押圧フランジ部3cに所定荷重を加える荷重付与手段31と、前記所定荷重が加えられたときの押圧フランジ部3cの撓み変位量H1を監視する変位量監視手段32と、を備える。荷重付与手段31や変位量監視手段32は図示しないコントローラ等により制御される。
【0051】
荷重付与手段31としては、例えば図示しないアクチュエータ等の駆動源に取り付けた押圧板33で押圧フランジ部3c全体を上方から押圧する態様とする。押圧フランジ部3cは押圧板33を介して所定荷重を受けると、図5(b)に仮想線で示すように下方に撓むこととなるが、このとき、キャップ3が強く締め付けられている場合、つまりキャップ3の締め付け力が大きい場合(前記した(1)ねじ部にゴミ等の異物が挟まった場合、(3)作業者がシール部材2を捩れた状態で装着した場合、等が挙げられる)には撓み変位量H1は小さな値となり、逆にキャップ3が緩めに締め付けられている場合、つまり締め付け力が小さい場合(前記した(2)ねじ部に油が付着している場合、(4)作業者がシール部材2を装着し忘れた場合、等が挙げられる)には撓み変位量H1は大きな値となる。
【0052】
したがって、この所定荷重に対する撓み変位量H1(押圧板33が押圧フランジ部3cに接触した位置を基準位置とした変位量)を計測(監視)し、その値が、例えば予め設定した適正な撓み変位量H1の許容値の範囲内に入っているか否かを見ることで、キャップ3の締め付けの状態(締め付け力の大小)を容易に且つ的確に認知できる。なお、撓み変位量H1の計測は前記押圧板33の移動量を見ることで容易にできる。
【0053】
また、本管理システムの場合も、撓み変位量H1自体の数値、或いは撓み変位量H1の許容値の範囲内に入っているか否かの合否判定(例えば範囲内に入っていれば「OK」、外れていれば「NG」の表示をさせるなど)、または、これら両者を、図1に示したような表示装置23に表示させる構成とすれば、作業者はその表示内容を見ることにより、キャップ3の締め付けが正常になされたか否かを瞬時にして認知できることとなる。
【0054】
以上、本発明について最良の形態を説明したが、各構成要素の形状やレイアウト、個数等についてはその主旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ねじの締め付け装置及び本発明に係る締め付け管理システムを示す構成ブロック図である。
【図2】タンク本体側の雄ねじにキャップの雌ねじを締め付けた状態を示す側断面図である。
【図3】本発明にかかる締め付け管理システムを適用し、締め付け装置で治具を回転させたときのキャップの締め付け過程におけるトルク−時間の相関グラフである。
【図4】キャップの締め付け過程におけるトルク−角度の模式相関グラフであり、複数個をテストした場合のばらつき分布を示す。(a)はトルクが零の時点から所定角度値まで締め付けた場合を示し、(b)は所定のトルクが発生している時点から所定角度値まで締め付けた場合を示す。
【図5】本発明にかかる他の締め付け管理システムに関する説明図であり、(a)は荷重付与手段を示す側断面説明図、(b)は(a)の要部における作用説明図である。
【図6】エンジンへの燃料供給用のポンプモジュールをタンク本体の内部に収容する燃料タンクユニットに関する図であり、各構成部品を分解した状態として示す外観斜視図である。
【図7】キャップの締め付け用の治具を示す外観斜視図である。
【図8】治具を一定速度で回転させたときの、キャップの締め付け過程におけるトルク変化の様子を示すグラフである。
【図9】樹脂ねじに対する比較として金属ねじに関するトルク変化を計測した結果を示すグラフである。
【図10】治具の回転速度を変えた場合のピークトルク値とファイナルトルク値との相関を示すグラフである。
【図11】締め付けトルクと締め付け角度(ねじの回転角度)との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
P ポンプモジュール
1 タンク本体
1a 円筒部
1c 雄ねじ
2 シール部材
3 キャップ
3a 雌ねじ
3c 押圧フランジ部
11 締め付け装置
17 治具
18 中間設定トルク値検出手段
19 回転角度検出手段
20 回転停止手段
21 監視手段
22 コントローラ
23 表示装置
31 荷重付与手段
32 変位量監視手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の雄ねじ及び雌ねじを互いに螺合させ、いずれか一方のねじを回転させて対象物に対する締め付けを行うねじの締め付け管理システムであって、
締め付けの途中段階において、締め付けトルク値が中間設定トルク値に達したことを検出する中間設定トルク値検出手段と、
前記中間設定トルク値検出手段による検出時以降のねじの回転角度を検出する回転角度検出手段と、
前記回転角度検出手段により検出される回転角度が予め設定した設定回転角度と一致したときに、ねじの回転を停止させる回転停止手段と、
前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度を監視する監視手段と、
を備えたことを特徴とする樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項2】
ねじの締め付けが終了した時点におけるねじのピークトルク値を監視することを特徴とする請求項1に記載の樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項3】
前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度、若しくは該回転角度が予め設定した許容角度範囲内に入っているか否かの合否判定を表示装置に表示させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項4】
前記中間設定トルク値に達する前の段階における締め付けトルク値の所定の上昇幅に要したねじの回転角度と、前記回転角度検出手段により検出される回転角度とを加算した合計値、若しくは該合計値が予め設定した許容角度範囲内に入っているか否かの合否判定を表示装置に表示させる構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項5】
前記中間設定トルク値は、ねじのスナグ点に設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項6】
車両に搭載される樹脂製の燃料タンクユニットにおいて、タンク本体には、燃料供給用のポンプモジュール及び弾性を有するシール部材を取り付けるための無蓋の円筒部が形成されるとともに、前記ポンプモジュール及びシール部材を固定するためのキャップが取り付けられ、
前記雄ねじは前記円筒部の外周面に形成されるとともに、前記雌ねじは前記キャップの内周面に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の樹脂製ねじの締め付け管理システム。
【請求項7】
車両に搭載される樹脂製の燃料タンクユニットにおいて、
タンク本体には、燃料供給用のポンプモジュール及び弾性を有するシール部材を取り付けるための無蓋で且つ外周面に雄ねじが螺設された円筒部が形成され、
前記円筒部の雄ねじには、内周面に雌ねじが螺設された樹脂製のキャップが螺合され、
前記キャップは、締め付けに伴って前記ポンプモジュール及びシール部材を前記円筒部に対して押圧する可撓性の押圧フランジ部を備えた形状からなり、
前記キャップの所定の締め付けが終了した後、前記押圧フランジ部に所定荷重を加える荷重付与手段と、
前記所定荷重が加えられたときの前記押圧フランジ部の撓み変位量を監視する変位量監視手段と、
を備えたことを特徴とする樹脂製ねじの締め付け管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−62466(P2006−62466A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245436(P2004−245436)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【出願人】(000177128)三洋機工株式会社 (35)
【Fターム(参考)】