説明

樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造

【課題】簡易な構成で樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がりを効果的に防止することができる樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造を提供する。
【解決手段】樹脂製シリンダヘッドカバー12は外周部にフランジ部14を有し、該フランジ部14がシリンダヘッド11上にガスケットを介して複数のボルト16で締め付け固定されている。この場合、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14上に金属製フレーム19を載せた状態でボルト16を締め付け固定するように構成されている。この金属製フレーム19には、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14に設けられているボルト挿通用の締結孔15と対応する位置にボルト挿通用の共締孔21が設けられている。さらに、金属製フレーム19は、その外周部にシリンダヘッドカバー12のフランジ部14の外周面に係止される折り曲げ係止片20が下方へ曲げ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンのシリンダヘッドを覆う樹脂製シリンダヘッドカバーに関し、特に樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がりを抑え、潤滑油やブローバイガスの漏れを防止することができる樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドカバーはエンジンのシリンダヘッドを覆い、潤滑油やブローバイガスの漏れを防止したり、カム機構部を保護したりするようになっている。このシリンダヘッドカバーは、ポリアミド樹脂等の合成樹脂又はアルミニウム等の金属で有蓋四角筒状に形成され、その開口端部にはフランジ部が設けられている。該フランジ部には複数のボルト締結孔が透設され、それらのボルト締結孔にボルトを挿通してシリンダヘッドのねじ孔に螺合することにより、シリンダヘッドカバーがシリンダヘッドに固定されている。
【0003】
かかるシリンダヘッドカバーが金属製である場合には寸法精度が高く、高温にも耐え得る一方、切削加工、孔加工等の機械加工が必要で、製造コストが嵩むという欠点があった。これに対して、シリンダヘッドカバーが樹脂製である場合には加工が容易で、製造コストを抑えることができる一方、金属製のものと比較して耐熱性が低く、強度や気密性が低いという欠点があった。このため、樹脂製シリンダヘッドカバーにおいては、そのような欠点を解消する工夫がなされている。
【0004】
例えば特許文献1に記載された樹脂製シリンダヘッドカバーでは、金属製の補強部材が使用されている。すなわち、樹脂製シリンダヘッドカバーの下部外周部には、金属製の補強部材として矩形状に折曲げられた枠体と、該枠体には間隔を隔ててU字状に外方へ膨出させた複数の締結補強部とがインサート成形されて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−152966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている樹脂製シリンダヘッドカバーでは金属製の補強部材がインサート成形によって設けられることから、複雑な成形型を用意し、その成形型内の所定位置に金属製の補強部材をインサートした状態で成形型内に溶融樹脂を射出して成形しなければならない。このため、樹脂製シリンダヘッドカバーの製造が煩雑であるとともに、溶融樹脂の射出圧で金属製の補強部材が変形するおそれがある。
【0007】
加えて、シリンダヘッドと樹脂製シリンダヘッドカバーのフランジ部との間にはガスケットが介装されてシール性能が確保されているが、金属製の補強部材がインサートされている樹脂製シリンダヘッドカバーはエンジンの振動等によりその樹脂と金属製インサートとの間が剥離しやすい。従って、ガスケットの反力によりフランジ部が浮き上がりを生ずるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、簡易な構成で樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がりを効果的に防止することができる樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造では、外周部にフランジ部を有し、該フランジ部がシリンダヘッド上にガスケットを介してボルトで締め付け固定された樹脂製シリンダヘッドカバーであって、そのフランジ部上に金属製フレームを載せた状態でボルトを締め付け固定するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造は、請求項1に係る発明において、前記金属製フレームには、前記フランジ部に設けられているボルト挿通用の締結孔と対応する位置にボルト挿通用の共締孔が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記金属製フレームは平板状に形成され、その外周部には前記フランジ部の外周面に係止される係止片が折り曲げ形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記金属製フレームには、シリンダ内のポンプの上方位置に樹脂製シリンダヘッドカバーを跨ぐように架橋帯が架設されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記金属製フレームには、樹脂製シリンダヘッドカバーの本体外周部に係止される立ち上がり部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造は、請求項1から請求項5のいずれか1項に係る発明において、前記金属製フレームは、ボルトによる締め付け部以外の部位においてかしめ付けにより前記フランジ部上に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明における樹脂製シリンダヘッドカバーは、そのフランジ部上に金属製フレームを載せた状態でボルトを締め付け固定するように構成されている。このため、ボルトによる締め付け後には樹脂製シリンダヘッドカバーのフランジ部がガスケットの反力により浮き上がろうとしてもその動きが金属製フレームで規制され、フランジ部の変形が抑制される。
【0016】
従って、本発明の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造によれば、樹脂製シリンダヘッドカバーのフランジ部上に金属製フレームを載せるという簡易な構成で樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がりを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態においてシリンダヘッド上に樹脂製シリンダヘッドカバーが固定された状態を示す要部斜視図。
【図2】(a)は図1の2a−2a線における断面図、(b)は図1の2b−2b線における断面図。
【図3】本発明の別例を示し、(a)は架橋帯を有する金属製フレームを示す要部斜視図、(b)は架橋帯を有する金属製フレームを示す平面図。
【図4】本発明の別例を示し、(a)は内周部に立ち上がり部を有する金属製フレームを示す要部斜視図、(b)は内周部に立ち上がり部を有する金属製フレームを示す要部断面図。
【図5】本発明の別例を示し、ボルトによる締結部以外の部位にかしめ部を有する金属製フレームを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1及び図2に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2(a),(b)に示すように、自動車用エンジンのシリンダヘッド11上に取付けられる樹脂製シリンダヘッドカバー(以下、単にシリンダヘッドカバーともいう)12は、その本体13が有蓋四角筒状に形成され、その下端部外周にはフランジ部14が延出されている。シリンダヘッド11はアルミニウム、アルミニウム合金等の金属により形成され、樹脂製シリンダヘッドカバー12はポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)等のエンジニアリングプラスチックにより形成されている。
【0019】
シリンダヘッドカバー12のフランジ部14には複数(各辺に2個ずつ)の円孔状の締結孔15が貫通形成され、それぞれボルト16が挿通されるように構成されている。該フランジ部14は、各ボルト16の締結部において外方へ平面円弧状に膨出形成されている。また、フランジ部14の内周側下面には環状の嵌着穴17が凹設され、該嵌着穴17にはガスケット18が嵌着されてシリンダヘッド11とシリンダヘッドカバー12との間のシール性が確保されるようになっている。
【0020】
シリンダヘッドカバー12のフランジ部14上には、シリンダヘッドカバー12の本体13周囲を取り囲むように平面四角環状をなす金属製フレーム19が載置されている。該金属製フレーム19は平板状に形成され、前記ボルト16の締結部がシリンダヘッドカバー12のフランジ部14の膨出部分に対応するように平面円弧状に膨出形成されている。また、金属製フレーム19の外周部におけるボルト16締結部分以外の部位にはシリンダヘッドカバー12のフランジ部14の外周面に係止される折り曲げ係止片20が下方へ曲げ形成されている。
【0021】
この金属製フレーム19は、例えばプレス加工により成形される。金属製フレーム19には、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14に設けられているボルト挿通用の締結孔15と対応する位置にボルト挿通用の共締孔21が設けられている。図2(a),(b)に示すように、金属製フレーム19はガスケット18の反力が作用する直上部位を覆って補強できるように構成されている。
【0022】
そして、シリンダヘッドカバー12上に金属製フレーム19を載せた状態で、ボルト16を共締孔21及び締結孔15に挿通してその雄ねじ部16aをシリンダヘッド11の雌ねじ孔22に螺合することにより、シリンダヘッドカバー12がシリンダヘッド11に締め付け固定されるように構成されている。金属製フレーム19はシリンダヘッド11と同様にアルミニウム等の剛性を有する金属材料により形成され、シリンダヘッドカバー12と共にシリンダヘッド11に締め付けられたときシリンダヘッドカバー12のフランジ部14を上から規制することにより、フランジ部14の浮き上がりを抑制することができるようになっている。
【0023】
上記のように構成された樹脂製シリンダヘッドカバー12の作用について説明する。
図1に示すように、シリンダヘッドカバー12をシリンダヘッド11に組付ける場合には、シリンダヘッド11上にシリンダヘッドカバー12を、ガスケット18がシリンダヘッドカバー12の嵌着穴17に嵌着された状態で被せる。次いで、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14上に金属製フレーム19を、その折り曲げ係止片20がフランジ部の14外周面に係止されるようにして載せる。その状態で、ボルト16を上方から金属製フレーム19の共締孔21及びフランジ部14の締結孔15に挿通し、その雄ねじ部16aをシリンダヘッド11の雌ねじ孔22に螺合して工具で締め付ける。この締結操作を複数のボルト16について順に実施する。このようにして、シリンダヘッドカバー12がシリンダヘッド11に締め付け固定される。
【0024】
シリンダヘッド11上に固定されたシリンダヘッドカバー12は、そのフランジ部14上に金属製フレーム19が共締めされていることから、図2(b)の二点鎖線に示すようにシリンダヘッドカバー12のフランジ部14がガスケット18の反力を受けて浮き上がる動きを金属製フレーム19の平板部分で規制することができる。加えて、金属製フレーム19の外周には折り曲げ係止片20が垂下され、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14の周囲を覆うように構成されていることから、図2(b)の二点鎖線に示すようなフランジ部14の浮き上がりを抱えるように抑えることができる。
【0025】
以上のように構成された実施形態のシリンダヘッドカバー12により発揮される効果について以下にまとめて説明する。
(1) 本実施形態の樹脂製シリンダヘッドカバー12は、そのフランジ部14がその上に金属製フレーム19を載せた状態でボルト16を締め付け固定するように構成されている。このため、ボルト16による締め付け後においてシリンダヘッドカバー12のフランジ部14がガスケット18の反力に基づいて浮き上がろうとしても金属製フレーム19で規制され、フランジ部14の変形が抑制される。
【0026】
従って、本実施形態のシリンダヘッドカバー12の浮き上がり防止構造によれば、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14上に金属製フレーム19を載せるという簡易な構成でシリンダヘッドカバー12の浮き上がりを効果的に防止することができる。その結果、ボルト16締結部間のピッチを長くすることができ、ボルト16の個数を減少させることができるとともに、ボルト16の締結に要する工数を削減することができる。
【0027】
(2) 前記金属製フレーム19には、シリンダヘッドカバー12のフランジ部14に設けられているボルト挿通用の締結孔15と対応する位置にボルト挿通用の共締孔21が設けられている。このため、ボルト16によりシリンダヘッドカバー12をシリンダヘッド11に締め付け固定するときに、金属製フレーム19を同時に締め付け固定することができる。
【0028】
(3) 前記金属製フレーム19は平板状に形成され、その外周部にはシリンダヘッドカバー12のフランジ部14の外周面に係止される折り曲げ係止片20が下方へ曲げ形成されている。このため、シリンダヘッドカバー12の浮き上がり時に折り曲げ係止片20がフランジ部14の外周面の動きを規制し、シリンダヘッドカバー12の浮き上がりを一層効果的に防止することができる。
【0029】
(4) 前記金属製フレーム19は、従来のようなインサート成形ではなく、プレス加工により製作することができることから、複雑な装置を必要とせず、金属製フレーム19を容易に得ることができるとともに、溶融樹脂の射出による金属製フレーム19の変形が生ずるおそれもない。
【0030】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 図3(a),(b)に示すように、金属製フレーム19にはシリンダ内に設けられた吸気用又は掃気用のポンプ23の上方位置にシリンダヘッドカバー12の本体13を跨ぐように架橋帯24を架設することもできる。このように構成した場合、ポンプ23の振動に基づくボルト16の緩みによるフランジ部14の浮き上がりを架橋帯24で有効に抑えることができる。
【0031】
・ 図4(a),(b)に示すように、金属製フレーム19には、シリンダヘッドカバー12の本体13外周部に係止される立ち上がり部25を設けることもできる。この場合、金属製フレーム19を補強することができ、フランジ部14の浮き上がりをさらに有効に防止することができる。
【0032】
・ 図5に示すように、金属製フレーム19は、ボルト16による締め付け部以外の部位においてかしめ付け部26によりシリンダヘッドカバー12のフランジ部14上に固定することもできる。この場合、ボルト16による締め付け固定とかしめ付け部26による締め付け固定により、シリンダヘッドカバー12をシリンダヘッド11に強固に連結したり、ボルト16による締め付け固定の箇所を減らしたりすることができる。
【0033】
・ 前記金属製フレーム19の折り曲げ係止片20を省略し、金属製フレーム19の構成を簡易にすることも可能である。
・ 前記金属製フレーム19の折り曲げ係止片20に挿通孔を設け、その挿通孔にボルトを挿通してシリンダヘッドカバー12のフランジ部14に設けたねじ孔に螺合するように構成し、金属製フレーム19をフランジ部14に一層強固に締結することもできる。
【符号の説明】
【0034】
11…シリンダヘッド、12…シリンダヘッドカバー、13…本体、14…フランジ部、15…締結孔、16…ボルト、18…ガスケット、19…金属製フレーム、20…折り曲げ係止片、21…共締孔、23…ポンプ、24…架橋帯、25…立ち上がり部、26…かしめ付け部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部にフランジ部を有し、該フランジ部がシリンダヘッド上にガスケットを介してボルトで締め付け固定された樹脂製シリンダヘッドカバーであって、
そのフランジ部上に金属製フレームを載せた状態でボルトを締め付け固定するように構成されていることを特徴とする樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。
【請求項2】
前記金属製フレームには、前記フランジ部に設けられているボルト挿通用の締結孔と対応する位置にボルト挿通用の共締孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。
【請求項3】
前記金属製フレームは平板状に形成され、その外周部には前記フランジ部の外周面に係止される係止片が折り曲げ形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。
【請求項4】
前記金属製フレームには、シリンダ内のポンプの上方位置に樹脂製シリンダヘッドカバーを跨ぐように架橋帯が架設されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。
【請求項5】
前記金属製フレームには、樹脂製シリンダヘッドカバーの本体外周部に係止される立ち上がり部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。
【請求項6】
前記金属製フレームは、ボルトによる締め付け部以外の部位においてかしめ付けにより前記フランジ部上に固定されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の樹脂製シリンダヘッドカバーの浮き上がり防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−2128(P2012−2128A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137217(P2010−137217)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】