説明

樹脂複合成形体の製造方法、及び樹脂複合成形体

【課題】二重成形法による樹脂複合成形体の製造において、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合であっても、一次成形体と二次成形体との密着力を高めつつ、上記のような熱処理を樹脂複合成形体に施さなくても、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を充分に高めることが可能な技術を提供する。
【解決手段】二重成形に用いる一次成形体を、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が一次成形体を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂複合成形体の製造方法、及び樹脂複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂は、一般に優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気特性等の物性を有するため、自動車用部品、電子・電子部品、化学機器等の部品の原料として幅広く使用されている。
【0003】
上記の通り、結晶性熱可塑性樹脂を原料とする樹脂成形体は、様々な用途の部品として使用されており、部品によっては、複雑な形状を有する等の理由から、複数の樹脂成形体を接合して製造される場合がある。接合方法としては、接着剤による接合、ボルト等による機械的接合等が知られている。
【0004】
しかしながら、接着剤を用いて接合する方法の場合、接着剤のコストが高い、接着強度が充分に高まらない等の問題がある。また、ボルト等を用いて接合する方法の場合、費用、締結の手間、重量増等が問題となる。
【0005】
一方、射出溶着(二重成形法等)、レーザー溶着、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着等に関しては短時間で接合が可能であり、また、接着剤や金属部品を使用しないので、それにかかるコストや重量増、環境汚染等の問題が発生しない。上記の溶着方法の中でも、特に二重成形法等の射出溶着は、二次成形体の成形時に併せて一次成形体と接合させることができるため生産性が高い。しかし、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合、一次成形体と二次成形体との密着強度が低い傾向にある。
【0006】
そこで、特許文献1には、一次成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が低くなるように調整して、一次成形体と二次成形体との密着強度を高める技術が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合であっても、一次成形体と二次成形体との密着強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−47830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の技術では、樹脂複合成形体における一次成形体は非晶状態、あるいは樹脂複合成形体における一次成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が所望の結晶化度よりも低い状態となる。これを補うためには、樹脂複合成形体を加熱処理して上記結晶化度を高める方法があるが、特許文献1に記載の技術により得られた樹脂複合成形体は、加熱処理の際の寸法変化が大きく、加熱処理の際にクラック等が発生する問題が生じており、従来技術では、これを解決する方法がない。
【0009】
本発明の目的は、二重成形法による樹脂複合成形体の製造において、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合であっても、一次成形体と二次成形体との密着力を高めつつ、上記のような熱処理を樹脂複合成形体に施さなくても、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を充分に高めることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金型のキャビティ表面の一部に断熱層を形成し、この金型を用いて樹脂成形体を製造すれば、結晶化度が低い領域と結晶化度が高い領域とを樹脂成形体に形成可能であることを見出した。この知見に基づいて、二重成形に用いる一次成形体を、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が一次成形体を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造すれば、必要な部分のみ結晶化度が低い状態になり、樹脂成形体の大部分において充分に結晶化度が高められた状態になるため、高温環境下等に曝されても、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化に起因する寸法変化が小さい。その結果、クラック等が発生する問題は抑えられ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 結晶性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる一次成形体と、前記一次成形体の表面の一部である第一接合部と接合される第二接合部を有する二次成形体と、を備える樹脂複合成形体の製造方法であって、前記一次成形体を金型に配置し、金型内に溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出することで、前記第一接合部と前記第二接合部とで接合された樹脂複合成形体を製造する工程を有し、前記一次成形体は、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が前記一次成形体を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造され、前記断熱層は、前記キャビティ表面における、前記第一接合部を形成する予定の領域である接合予定面と接する部分以外の略全面に形成されることを特徴とする樹脂複合成形体の製造方法。
【0012】
(2) 前記二次成形体は、金型温度が前記二次成形体を構成する結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)+10℃以上の条件で製造される(1)に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【0013】
(3) 前記一次成形体は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物から構成される(1)又は(2)に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【0014】
(4) 前記一次成形体は、前記断熱金型の金型温度が100℃以下の条件で製造される(3)に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【0015】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の方法で製造された樹脂複合成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、二重成形法による樹脂複合成形体の製造において、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合であっても、一次成形体と二次成形体との密着力を高めつつ、熱処理等を行わなくても結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を充分に高めることができる。充分に結晶化度が高められていれば、高温環境下等に曝されても、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化に起因する寸法変化が小さいため、クラック等が発生する問題は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、以下の説明に使用する樹脂複合成形体を模式的に示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はMM断面図である。
【図2】図2は一次成形体、二次成形体を模式的に示す図であり、(a)は一次成形体を模式的に示す底面図であり、(b)は二次成形体を模式的に示す平面図である。
【図3】図3は、本実施形態の一次成形体になる成形体及びその成形体を製造するための金型を模式的に示す図であり、(a)は二次成形体と一体化される前の一次成形体の底面を模式的に示す図であり、(b)一次成形体を製造するための断熱金型のキャビティの断面図である。
【図4】図4は、本実施形態の二次成形体を製造するための金型のキャビティを模式的に示す断面図である。
【図5】図5は実施例Bで製造した樹脂複合成形体を模式的に示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はNN断面図である。
【図6】図6は一次成形体のもととなる成形体を模式的に示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はOO断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
本発明の製造方法は、一次成形体と二次成形体とが一体となった樹脂複合成形体を二重成形法で製造する方法である。
【0020】
本発明の特徴の一つは、一次成形体の製造方法にあり、二重成形法としては、一般的な方法を採用することができる。以下、板状の一次成形体と、円盤状の二次成形体とを備える樹脂複合成形体の製造を例に本発明を説明する。なお、単純な形状の成形体を例に説明するが、本発明の製造方法は、一次成形体や二次成形体がどのような形状であっても実施できる。
【0021】
図1は、以下の説明に使用する樹脂複合成形体を模式的に示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はMM断面図である。図1に示すように、樹脂複合成形体1は、板状の一次成形体10と円盤状の二次成形体20とを備え、一次成形体10と二次成形体20とは接合部2で一体化してなる。
【0022】
図2(a)は、一次成形体10を模式的に示す底面図であり、(b)は二次成形体20を模式的に示す平面図である。一次成形体10は、二次成形体20と接合する第一接合部101を備える。本実施形態において、第一接合部101は、図2(a)中の点線で囲まれる範囲である。一方、二次成形体20は、一次成形体10と接合する第二接合部201を有する。本実施形態において、第二接合部201は、図2(b)に示すように、円盤状の二次成形体の円形の端面全体である。第一接合部101と第二接合部201とで接合部2を形成する。
【0023】
上記樹脂複合成形体1の製造方法の概要は、先ず、一次成形体10を製造し、次いで、この一次成形体10を金型に配置し、最後に、熱可塑性樹脂組成物を金型内に射出することで、二次成形体20を成形すると同時に、一次成形体10と二次成形体20とを一体化する。
【0024】
本発明では、以下の方法で一次成形体10を製造するため、一次成形体10と二次成形体20との密着強度を高めつつ、熱処理等の後処理を行わなくても、一次成形体10の結晶化度を高い状態にすることができる。
【0025】
[一次成形体の製造方法]
一次成形体10は、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が一次成形体10を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造される。冷結晶化温度(Tc1)とは、結晶化が不充分な状態で成形された樹脂を昇温した場合に結晶化する温度のことを指す。冷結晶化温度(Tc1)は、溶融した樹脂を急冷却、固化して粉砕し、これを示差走査熱量測定計(DSC)を用い、10℃/分の速度で昇温した時の熱量曲線のクニック(屈曲点)又は結晶化発熱ピークより求めることが出来る。なお、キャビティとは、金型内部における樹脂が充填される空間全体を指す。
【0026】
先ず、一次成形体10を構成する材料について説明する。本発明は、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合に生じる課題を解決する発明である。したがって、一次成形体10は、結晶性熱可塑性樹脂組成物から構成される。
【0027】
結晶性熱可塑性樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を含む。本発明において、結晶性熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂を使用可能である。また、複数の種類の結晶性熱可塑性樹脂を併用してもよい。特に、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂を用いた場合、樹脂成形体間の密着が弱くなる傾向にあるが、本発明によれば、このような強い接合を形成させることが困難な、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる場合であっても、樹脂成形体間の接合強度を充分に高めることができる。
【0028】
また、結晶性熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を大きく害さない範囲において、その他の樹脂や、従来公知の各種無機・有機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、離型剤、可塑剤等の添加剤を含有してもよい。また、結晶性熱可塑性樹脂組成物は、微量の不純物等しか含まない等、実質的に結晶性樹脂からなるものであってもよい。
【0029】
続いて、一次成形体の具体的な製造方法について説明する。図3(a)には、二次成形体と一体化される前の一次成形体10の底面を模式的に示し、図3(b)には、一次成形体10を製造するための断熱金型3のキャビティの断面を模式的に示した。
【0030】
図3(a)に示す一次成形体10の表面には、二次成形体20と一体化された際に第一接合部101を形成する領域である接合予定面Fと、上記接合予定面F以外の領域Fとが存在する。
【0031】
本実施形態においては、断熱金型3のキャビティ表面における、接合予定面Fと接触する部分には断熱層31が形成されておらず、領域Fに接触する略全面には断熱層31が形成されている。断熱層31は、熱伝導率が低く、高温の熱可塑性樹脂組成物が接しても不具合を生じない程度の耐熱性を有するものであればよく、断熱層31を構成する材料は特に限定されない。なお、略全面は全面を含み、本実施形態では全面である。
【0032】
断熱層31に求められる耐熱性及び熱伝導率を満たす材料としては、ポリイミド樹脂等の耐熱性が高く熱伝導率が低い樹脂、多孔質ジルコニア等の多孔質セラミックを挙げることができる。以下、これらの材料について説明する。
【0033】
ポリイミド樹脂の具体例としては、ピロメリット酸(PMDA)系ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミド、トリメリット酸を用いたポリアミドイミド、ビスマレイミド系樹脂(ビスマレイミド/トリアジン系等)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸系ポリイミド、アセチレン末端ポリイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。なお、ポリイミド樹脂から構成される断熱層であることが特に好ましい。ポリイミド樹脂以外の好ましい材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。また、断熱層は、本発明の効果を害さない範囲で、ポリイミド樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂以外の樹脂、添加剤等を含んでもよい。
【0034】
断熱金型3のキャビティ表面に、ポリイミド樹脂の断熱層31を形成する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法で断熱層31を断熱金型3内に形成することが好ましい。
【0035】
高分子断熱層を形成しうるポリイミド前駆体等のポリマー前駆体の溶液を断熱金型3の所望の金属面に塗布し、加熱して溶媒を蒸発させ、さらに加熱してポリマー化することによりポリイミド膜等の断熱層31を形成する方法、耐熱性高分子のモノマー、例えばピロメリット酸無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを蒸着重合させる方法、又は、平面形状の金型に関しては、適切な接着方法又は粘着テープ状の高分子断熱フィルムを用いて断熱金型3の金属面の所望部分に高分子断熱フィルムを貼付し、断熱層31を形成する方法が挙げられる。また、ポリイミド膜を形成させ、さらにその表面に金属系硬膜としてのクローム(Cr)膜や窒化チタン(TiN)膜を形成させることも可能である。
【0036】
上記の樹脂から構成される断熱層31に求められる熱伝導率は、用途等によっても異なるが、2W/m・K以下であることが特に好ましい。なお、上記熱伝導率は実施例に記載の方法で得られた値を採用する。
【0037】
断熱層31の厚みは、特に限定されず、使用する材料、成形体の形状等によって適宜好ましい厚みに設定することができる。断熱層31がポリイミド樹脂から構成される場合、断熱層31の厚みが、20μm以上であれば、充分高い断熱効果が得られるため好ましい。上記断熱金型3のキャビティ表面に形成される断熱層31の厚みは均一でもよいし、厚みの異なる箇所を含むものであってもよい。
【0038】
また、多孔質ジルコニアに含まれるジルコニアとしては、特に限定されず、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、未安定化ジルコニアのいずれでもよい。安定化ジルコニアとは、立方晶ジルコニアが室温でも安定化されているものであり、強度及び靱性等の機械的特性や耐磨耗性に優れている。また、部分安定化ジルコニアとは、正方晶ジルコニアが室温でも一部残存した状態を指し、外部応力を受けると正方晶から単斜晶へのマルテンサイト変態が生じ、特に引張応力の作用によって進展する亀裂の成長を抑制し、高い破壊靭性を持つ。また、未安定化ジルコニアとは安定化剤で安定化されていないジルコニアを指す。なお、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、及び未安定化ジルコニアから選択される少なくとも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアに含まれる安定化剤としては、従来公知の一般的なものを採用することができる。例えば、イットリア、セリア、マグネシア等が挙げられる。安定化剤の使用量も特に限定されず、その使用量は、用途、使用材料等に応じて適宜設定できる。
【0040】
なお、多孔質ジルコニア以外の多孔質セラミックも使用することができるが、多孔質ジルコニアはその他の多孔質セラミックと比較して耐久性が高い。このため、多孔質ジルコニアから構成される断熱層31を形成した断熱金型3を用いれば、断熱層31の変形等の不具合が生じ難いため、連続して成形できる成形体の数が多く、成形体の生産性が非常に高まる。
【0041】
断熱層31を形成するための原料は、本発明の効果を害さない範囲で、上記のジルコニア、安定化剤以外に従来公知の添加剤等をさらに含んでもよい。
【0042】
上記の原料を用いて断熱層31を形成する方法は特に限定されないが、溶射法を採用することが好ましい。溶射法を採用することで、多孔質ジルコニアの熱伝導率は所望の範囲に調整されやすくなる。また、多孔質ジルコニアの内部に気泡が形成され過ぎることにより断熱層の機械的強度が大幅に低下する等の問題も生じない。このように溶射により断熱層31を形成することで、断熱層31の構造は本発明の用途に適したものになる。
【0043】
溶射による断熱層31の形成は、例えば以下のようにして行うことができる。先ず、原料を溶融させて液体とする。この液体を加速させ断熱金型3の所望の金属面に衝突させる。最後に、断熱金型3の所望の金属面に衝突し付着した原料を固化させる。このようにすることで、非常に薄い断熱層31が断熱金型3の所望の金属面に形成される。この非常に薄い断熱層31上にさらに溶融した原料を衝突させ固化させることで、断熱層31の厚みを調整することができる。なお、原料を固化させる方法は、従来公知の冷却手段を用いてもよいし、単に放置することで固化させてもよい。なお、溶射方法は特に限定されず、アーク溶射、プラズマ溶射、フレーム溶射等の従来公知の方法から好ましい方法を適宜選択することができる。
【0044】
多孔質セラミックから構成される断熱層31の熱伝導率は、成形品の用途等に応じて適宜調整可能である。本発明においては、2W/m・K以下であることが好ましく、より好ましくは0.3W/m・K以上2W/m・K以下である。熱伝導率が0.3W/m・K以上であれば、断熱層31内の気泡が多くなり過ぎることによる断熱層31の強度の低下によって、成形体の生産性を大きく低下させることがほとんど無いため好ましい。特に、断熱層31の熱伝導率が0.7W/m・K以上であれば、断熱層31内の気泡が多くなり過ぎることによる断熱層31の強度の低下を非常に小さい範囲に抑えられる傾向にあるため好ましい。なお、上記熱伝導率は実施例に記載の方法で得られた値を採用する。また、断熱層が多層構造になる場合には、断熱層の熱伝導率(λ)は密度の低い層と高い層のそれぞれの熱伝導率を求め、密度の低い層の熱伝導率(λl)、密度の高い層の熱伝導率(λh)、断熱層全体の厚さに対する密度の低い層の厚さ割合(t)とした場合、[1/λ]=[t/λl]+[(1−t)/λh]の式を用い計算により求めることができる。
【0045】
断熱層31が多孔質ジルコニアから構成される場合の、断熱層31の厚みは特に限定されないが200μm以上であることが好ましく、より好ましくは500μm以上1000μm以下である。500μm以上であれば、ジルコニア断熱層の強度が高くなるという理由で好ましい。また、断熱層31の厚みが1000μm以下であれば、成形サイクルが長くならないという理由で好ましい。
【0046】
上記のようにして作製した断熱金型3を用いて、一次成形体を製造する方法を、具体的に説明する。
【0047】
断熱金型3内に、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出する。断熱金型3内における、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物が断熱層31と接触する部分については、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物の有する熱が、断熱金型3外に排出されにくい。一方、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物が断熱層31と接触しない部分(接合予定面F1と接触する部分)については、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物の有する熱が、断熱金型3外に排出されやすい。
【0048】
断熱層31と接触する部分については、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物の有する熱が断熱金型3外に排出されにくいので、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物が徐々に固化することになる。その結果、断熱層31と接触する部分では、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を充分に高めた状態で固化する。
【0049】
断熱金型3の断熱層31が形成されていない金属面に接触する部分については、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物の有する熱が断熱金型3外に排出されやすいので、その接触面付近において、溶融状態の結晶性熱可塑性樹脂組成物は急冷される。その結果、上記の断熱層31と接触しない部分では、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が充分に高まらないまま固化する。
【0050】
上記のように結晶熱可塑性樹脂の結晶化度が高い部分と低い部分に分けるためには、金型温度を、結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下に調整する必要がある。より好ましくは、(Tc1)−80℃以上(Tc1)−20℃以下である。ここで、結晶性熱可塑性樹脂組成物に2種類以上の結晶性樹脂が含まれる場合には、主成分の結晶性熱可塑性樹脂に着目して、金型温度の条件を決定する。
【0051】
特に、結晶性熱可塑性樹脂組成物として、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる場合には、金型温度を100℃以下にすることができる。金型温度を100℃以下にすることができるため、金型の温調を水で行うことができる。
【0052】
上記のような断熱金型3を用い、特定の金型温度の条件で成形を行うことで、接合予定面F1における、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が低い状態になる。結晶化度が低い部分は溶融しやすいため、この部分に、二次成形体を形成するための熱可塑性樹脂組成物が溶融状態で接触すると、強固な接合部が形成される。
【0053】
上記の通り、本実施形態では、一次成形体10を製造するための金型3において、一次成形体10の接合予定面F1と接する部分の全体に断熱層31が形成されていない。このように接合予定面F1の全体に断熱層が形成されていないことが、一次成形体10と二次成形体20との接合強度を高める上では有効であるが、接合予定面F1の一部に断熱層が形成されている部分があっても充分に接合強度を高められる場合には、断熱層31が接合予定面F1の一部にも形成されていることが好ましい。金型3のキャビティ表面全体の面積中における、断熱層31が形成されている面積が大きいほど、一次成形体内部の結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が充分に高められた領域が大きくなり、一次成形体10が高温に曝されたときの寸法変化が小さくなるからである。
【0054】
また、本実施形態では、一次成形体10を製造するための金型3のキャビティ表面において、その他の面F2と接する部分には全面に断熱層31が形成されている。この断熱層31は、一次成形体10において結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を充分に高めた領域を形成させるためのものであり、所望の程度に上記結晶化度を高められる場合には、その他の面F2と接触する部分であっても断熱層31を設けなくてもよい。ここで、充分な結晶化度とは、断熱層が形成されていない金型を用い、金型温度の条件をTc1+15℃に設定して、結晶性熱可塑性樹脂組成物を成形した場合の、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を指す。
【0055】
また、本実施形態では、一次成形体10は一箇所の接合部2のみで二次成形体と接合するが、接合部2が複数個所あってもよいし、また、複数の成形体が一次成形体10と接合していてもよい。複数の成形体が一次成形体10と接合する場合には、金型3のキャビティ表面における、一次成形体10の表面のその他の成形体と接合しない部分と接触する部分に断熱層31を形成すればよい。
【0056】
続いて、本実施形態では、図4に示す二次成形体形成用金型4を用いて、一次成形体10と二次成形体20とが一体化した樹脂複合成形体1を製造する。図4には二次成形体形成用金型4の断面を模式的に示す。
【0057】
本実施形態で使用する二次成形体形成用金型4は、二分割の金型であり、一方の金型40は、一次成形体を収容可能な第一キャビティ401を備え、他方の金型41は、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物が流れ込み二次成形体が形成される空間である第二キャビティ411を有する。
【0058】
先ず、一方の金型40の第一キャビティ401に一次成形体10を収容する。次いで、二次成形体形成用金型4を閉じた状態とし、溶融状態の樹脂組成物を第二キャビティ411に充填する。最後に、第二キャビティ411に充填された熱可塑性樹脂組成物が冷却されて固化した後、二次成形体形成用金型4を開き、樹脂複合成形体1を取り出す。
【0059】
二次成形体20を形成する際の金型温度は、二次成形体20を構成する結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が充分高められるように調整する。通常は、図4に示すような断熱層が形成されていない金型を用いる。断熱層が形成されていない金型を用いた場合の金型温度は、好ましくは、二次成形体20を構成する結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)+10℃以上、より好ましくは(Tc1)+15℃以上である。
【実施例】
【0060】
<材料>
結晶性熱可塑性樹脂組成物1:ポリフェニレンサルファイド樹脂(冷結晶化温度(Tc1)が125℃)を60質量%とガラス繊維を40質量%とを含む樹脂組成物
結晶性熱可塑性樹脂組成物2:ポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス社製、「フォートロン(登録商標)1130T6」、冷結晶化温度(Tc1)が125℃)
断熱層形成用材料:ポリイミド(熱伝導率0.22(W/m・K))
【0061】
(熱伝導率の測定)
断熱層の熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて熱拡散率、DSCにて比熱、水中置換法(JIS Z8807固体比重測定方法に準拠)にて比重を測定し、[熱伝導率]=[熱拡散率×比熱×比重]により算出した。
【0062】
<実施例A>
一次成形体の寸法は、長さ65mm×幅12.5mm×厚さ3mmである。この寸法のキャビティを有する金型について、断熱層を備える金型と断熱層を備えない金型とを用意した。また、断熱層を備える金型については、二次成形体との接合する予定の部分である接合予定面と接する部分には断熱層を形成せず、その他の部分には断熱層を形成した。また、断熱層の厚みは200μmとした。これらの金型、及び結晶性熱可塑性樹脂組成物1を用いて、実施例及び比較例に必要な一次成形体を製造した。一次成形体を製造する際の金型温度の条件については、表1に示した。
【0063】
一次成形体の長さ方向の寸法に対して、長さ方向の寸法が2倍のキャビティ(キャビティの寸法が、長さ130mm×幅12.5mm×厚さ3mm)を有する金型に、一次成形体と同形状の二次成形体が成形されるように、一次成形体をセットした(一次成形体における接合予定面は、一端の幅12.5mm×厚さ3mmの側面である)。ここに、結晶性熱可塑性樹脂組成物1を射出し、二次成形体を形成すると同時に一次成形体と二次成形体とを一体化した。なお、二次成形体の成形時の金型温度は表1に示した。また、二次成形体を形成するための金型のキャビティ表面には断熱層は形成されていない。
【0064】
各樹脂複合成形体について、引張試験機(オリエンテック社製、RTC−1325)を用いて、一次成形体と二次成形体とを引き離すように引張り、接合部の破断荷重を測定した。測定結果を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から明らかなように、一部に断熱層を有する金型を用いることで一次成形体と二次成形体との接合強度を高めることができる。
【0067】
<実施例B>
実施例Bにおける、実施例及び比較例では、図5に模式的に示す樹脂複合成形体を製造した。図5(a)は斜視図であり、図5(b)はNN断面図である。一次成形体は図6に示す成形体を二つ組み合わせたものである。なお、図6(a)は斜視図であり、(b)はOO断面図である。図6(a)のドット模様で表す部分が接合予定面にあたる。なお、図中の寸法を表す数字の単位はmmである。
【0068】
図6(a)に示す形状の成形体を、断熱層が形成された金型、結晶性熱可塑性樹脂組成物2を用い、射出成形法で製造した。接合予定面である図6(a)のドットで表す部分と接する部分には断熱層が形成されず、その他の部分に断熱層が形成されている金型を用いた。断熱層の厚みは200μmである。金型温度の条件は表2に示した。また、同じ形状の成形体を2個製造した。
【0069】
図5に示すような樹脂複合成形体を製造するために、上記2個の成形体の開口縁面同士を当接した状態で金型にセットした。その後、結晶性熱可塑性樹脂組成物2を金型に射出し、樹脂複合成形体を製造した。金型温度の条件は表2に示した。
【0070】
得られた樹脂複合成形体に対して、アニーリング処理(140℃、2時間)を施し、樹脂複合成形体にクラックが入るか否かを確認した。
【0071】
【表2】

【0072】
表2の結果から明らかなように、本発明の製造方法で得られた樹脂複合成形体を構成する一次成形体は、断熱層が一部に形成された金型を用いて製造されているため、一次成形体内の結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が充分に高められている。このため、アニーリング処理を樹脂複合成形体に施しても、一次成形体の寸法変化が小さく、一次成形体にクラックが発生しないことが確認された。
【0073】
以上の実施例A及び実施例Bの結果を併せると、実施例Aの結果から確認できる接合強度の向上から、一次成形体となる成形体の接合予定面付近における結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が低く抑えられていると考えられる。また、その他の部分においては、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が充分に高められていると考えられる。
【符号の説明】
【0074】
1 樹脂複合成形体
10 一次成形体
101 第一接合部
20 二次成形体
201 第二接合部
2 接合部
3 金型
31 断熱層
4 二次成形体形成用金型
40 一方の金型
401 第一キャビティ
41 他方の金型
411 第二キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる一次成形体と、前記一次成形体の表面の一部である第一接合部と接合される第二接合部を有する二次成形体と、を備える樹脂複合成形体の製造方法であって、
前記一次成形体を金型に配置し、金型内に溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出することで、前記第一接合部と前記第二接合部とで接合された樹脂複合成形体を製造する工程を有し、
前記一次成形体は、キャビティ表面の一部に断熱層が形成された断熱金型を用い、金型温度が前記一次成形体を構成する結晶性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)−10℃以下の条件で製造され、
前記断熱層は、前記キャビティ表面における、前記第一接合部を形成する予定の領域である接合予定面と接する部分以外の略全面に形成されることを特徴とする樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記二次成形体は、金型温度が前記二次成形体を構成する結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tc1)+10℃以上の条件で製造される請求項1に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記一次成形体は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物から構成される請求項1又は2に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記一次成形体は、前記断熱金型の金型温度が100℃以下の条件で製造される請求項3に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法で製造された樹脂複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56517(P2013−56517A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197602(P2011−197602)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】