説明

樹脂試験片測定方法および樹脂試験片測定装置

【課題】実機における評価結果と乖離しない測定結果が得られることを可能とし、超高圧下での透過係数測定を確立できるようにする。
【解決手段】円筒状の樹脂試験片TPを挟持するための環状の溝部2aを具備し、この樹脂試験片TPを挟持した状態で加圧するプレート2と、該プレート2の溝部2aよりも内側に配置され、樹脂試験片TPが加圧された状態で当該樹脂試験片TPの内側へ流体を投入する流体投入口3と、を備える。積層構造である樹脂試験片TPの構成部材間に流体を投入する積層間流体投入口4を溝部2aに備えていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂試験片測定方法および樹脂試験片測定装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、高圧水素タンク等に適用可能な樹脂試験片(テストピース)の測定技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の貯蔵ないしは供給に用いられる高圧タンク(高圧ガス貯蔵容器)として、従来、例えば樹脂を含浸させたライナーの外周面をCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)層で補強したタンク本体と、そのタンク本体の長手方向の開口端部に取り付けられた合金からなる口金部を有しているものが知られている。
【0003】
高圧タンクを補強するFRP(CFRP)においては、タンク内部のガスを閉じ込めておくための密封性能や所定の強度が要求される。そこで、従来、例えば短冊状といった試験片(テストピース)を使って当該FRP(CFRP)のガス透過量や強度などを測定するための試験が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−227784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばガス透過量の測定試験に関していえば、FRP(CFRP)の繊維と樹脂界面から抜けるガスが誤差成分となることがあるため、超高圧下での透過係数測定が確立するまでには至っていない。また、短冊状の試験片を用いた試験であることから、実機(例えば燃料電池用の高圧水素タンク)における評価結果と乖離する場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、実機における評価結果と乖離しない測定結果が得られることを可能とし、超高圧下での透過係数測定を確立できるようにした樹脂試験片測定方法および樹脂試験片測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。これまでのFRP(CFRP)のガス透過量測定は、短冊状の試験片での評価が主であったが、この手法によると、材料FRP(CFRP)の界面方向へ抜けるガス(ショートカットガス)が生じる場合があり、これが、実際の透過成分ではない誤差成分となる(図7参照)。また、短冊状の試験片を引っ張ることで強度を測定してタンクの強度を評価する試験においては、試験片における繊維の巻き構成や内部応力場がそもそも実機の場合のそれらとは異なってしまうため、試験片を使った測定結果がそのまま実機における評価とはなり難い場合がある(図8参照)。その一方で、実際の高圧タンク等を使って行う実機評価の場合には、信頼性の高い結果は得られるものの、タンク等を作製するコストがかかる点、性能のばらつきを把握するための数量確保を要する点で難しい。これら問題点を考慮し、さらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくもので、樹脂試験片の測定方法であって、環状の溝部と、該溝部の内側に配置された流体投入口とを具備するプレートの当該溝部で円筒状の樹脂試験片を挟持し、加圧する工程と、プレートの流体投入口から当該樹脂試験片の内側へ流体を投入する工程と、流体投入後の当該樹脂試験片の変化を測定する工程と、を含む。
【0009】
このように、本発明にかかる樹脂試験片測定方法では、タンクを例えば輪切りにした状態と同様の円筒状の樹脂試験片を用いることから、実機により近い測定結果を得ることができる。すなわち、円筒状の樹脂試験片においては繊維の巻き構成や内部応力場が実機の場合のそれらと近似しており、試験片を使った測定結果を実機における評価とした場合の信頼性が向上する。
【0010】
しかも、本発明にかかる樹脂試験片測定方法では、環状溝部付きのプレートで樹脂試験片を挟持し、加圧した状態で流体を投入するので、短冊状の試験片を用いた場合におけるような、界面方向へ抜けるガス(ショートカットガス)が生じるおそれが少ない。このため、透過成分による誤差成分の少ない、信頼性が向上した測定結果が得られる。また、試験片を用いて測定を行うため、実際のタンク等を使った実機評価の場合のようなコストや数量確保といった問題がない。
【0011】
この樹脂試験片測定方法においては、樹脂試験片をプレートの溝部で挟持する際、シール部材を介在させることが好ましい。
【0012】
また、本発明にかかる樹脂試験片測定方法においては、流体として、液体または気体を投入する。
【0013】
また、この樹脂試験片測定方法においては、測定前に、プレートによる挟持時の圧力、および当該樹脂試験片の破壊圧力の少なくとも一方を算出することが好ましい。
【0014】
また、本発明にかかる測定装置は、樹脂試験片の透過性あるいは強度等の性能を評価するための樹脂試験片測定装置であって、円筒状の当該樹脂試験片を挟持するための環状の溝部を具備し、この樹脂試験片を挟持した状態で加圧するプレートと、該プレートの溝部よりも内側に配置され、樹脂試験片が加圧された状態で当該樹脂試験片の内側へ流体を投入する流体投入口と、を備える。
【0015】
このように、本発明にかかる樹脂試験片測定装置では、タンクを例えば輪切りにした状態と同様の円筒状の樹脂試験片を用いている。このような円筒状の樹脂試験片においては繊維の巻き構成や内部応力場が実機の場合のそれらと近似しており、実機により近い測定結果を得ることができ、試験片を使った測定結果を実機における評価とした場合の信頼性が向上する。
【0016】
しかも、本発明にかかる樹脂試験片測定装置では、環状溝部付きのプレートで樹脂試験片を挟持して加圧した状態とするので、短冊状の試験片を用いた場合におけるような、界面方向へ抜けるガス(ショートカットガス)が生じるおそれが少ない。このため、透過成分による誤差成分の少ない、信頼性が向上した測定結果が得られる。また、試験片を用いて測定を行うため、実際のタンク等を使った実機評価の場合のようなコストや数量確保といった問題がない。
【0017】
このような樹脂試験片測定装置が、積層構造である樹脂試験片の構成部材間に流体を投入する積層間流体投入口を溝部に備えていることも好ましい。この場合、積層構造である樹脂試験片の構成部材どうしの密着性能を評価することができる。
【0018】
また、樹脂試験片測定装置が、樹脂試験片の温度を測定する温度測定装置を備えていることも好ましい。
【0019】
また、樹脂試験片測定装置が、樹脂試験片の変形を検出する変位計を備えていることも好ましい。
【0020】
また、樹脂試験片測定装置が、樹脂試験片の疲労ないしは破壊時の現象を検出するAEセンサを備えていることも好ましい。
【0021】
また、樹脂試験片測定装置が、樹脂試験片とプレートの溝部との間に介在するシール部材を備えていることも好ましい。
【0022】
また、樹脂試験片測定装置が、樹脂試験片を透過したリークガスを検出するガス漏れ検出装置を備えていることも好ましい。
【0023】
さらには、樹脂試験片測定装置が、プレートの駆動源となるアクチュエータを備えていることも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、車両衝突時の衝撃を搭載されているタンクにおいても効果的に緩和することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】高圧水素タンクの構造例を示す断面図および部分拡大図である。
【図2】樹脂試験片の形態例を示す斜視図である。
【図3】樹脂試験片と治具(プレート等)との固定方法の一例を示す図である。
【図4】樹脂試験片測定装置の構成例を示す図である。
【図5】ガス透過測定後に破壊や疲労試験を実施する場合の流れの一例を示すフローチャートである。
【図6】各種製造ばらつき因子を含むタンクが、通常(ノミナル)のタンクと比較してどの程度の強度を発現できるか例示したグラフである。
【図7】従来の樹脂試験片測定においてショートカットガスが生じる様子を参考として示す図である。
【図8】(A)短冊状の樹脂試験片を引っ張り強度試験を行う様子と、(B)実機評価を行う場合における当該実機(高圧タンク)の概略を参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1〜図6に本発明にかかる樹脂試験片測定方法および樹脂試験片測定装置の実施形態を示す。以下では、燃料電池システム等において利用される水素燃料供給源としての高圧水素タンク(以下、高圧タンクともいう)100を挙げ、当該高圧タンク100を構成するFRP層の透過係数や強度を評価する場合を例示しつつ説明する。
【0028】
高圧タンク100は、例えば両端が略半球状である円筒形状のタンク本体110と、当該タンク本体110の長手方向の一端部に取り付けられた口金111を有する。タンク本体110は、例えば二層構造の壁層を有し、内壁層であるライナー120とその外側の外壁層である樹脂繊維層(補強層)としての例えばFRP層121を有している。FRP層121は、例えばCFRP層121cのみ、あるいは該CFRP層121cおよびGFRP層121gによって形成されている(図1参照)。
【0029】
また、ライナー120は、タンク本体110とほぼ同じ形状に形成される。ライナー120は、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはその他の硬質樹脂などにより形成されている。あるいは、ライナー120はアルミニウムなどで形成された金属ライナーであってもよい。
【0030】
続いて、上述した高圧タンク100を構成するFRP層121の透過係数や強度を評価するための樹脂試験片TPについて説明する(図2参照)。本実施形態では、樹脂試験片TPを円筒状(パイプ状)とし、当該樹脂試験片TPのガス透過係数や強度などの測定結果に基づいて高圧タンク100の評価を行う。樹脂試験片TPとしては、高圧タンク100の実際の径よりも小さく形成されたものを使用してもよい。
【0031】
円筒状の樹脂試験片TPは、例えば、マンドレルを用いてFW(フィラメントワインディング)成形したFRPを必要な軸方向長さ(厚み)に切断することによって得られる。この場合、はじめに長いFRPのパイプを成形しておき、その後、所望の軸方向長さに切断すれば樹脂試験片TPが得られ、当該樹脂試験片TPの数量を確保しやすいという利点がある。また、FW等による成形時、巻回される繊維の張力や巻回パターン(例えば、中心軸に対する繊維の巻き角度のパターン、巻き角度の異なる層の積層パターンなど)など、FW成形に特有の要素を折り込むことが可能である。さらに、当該樹脂試験片TPとしては、FRP単独の試験片、あるいは同じく円筒状のライナー120と合体させることで積層状態を模擬した構造の試験片などとして測定と評価を実施することが可能である。
【0032】
なお、このように樹脂試験片TPを円筒状とする本実施形態においては、後述するように実機における評価結果と乖離しない測定結果が得られるほか、円筒状(パイプ状)であることから、環状断面の観察を即時行うことも可能である。これによれば、断面状態(ボイド率、Vfなど)と性能との相関を取得できるという利点がある。なお、Vfは繊維体積含有率であり、その値(Vf値)が大きくなると繊維の含有率が高くなり、樹脂の含有率が小さくなる。このVf値が高すぎると疲労耐久性が悪化し、低すぎるとタンク外径が大きくなる。
【0033】
続いて、本実施形態における樹脂試験片測定装置1について説明する(図3、図4参照)。本実施形態の樹脂試験片測定装置1は、プレート2、流体投入口3、積層間流体投入口4、熱電対5、変位計6、AEセンサ7、シール部材8、ガスリークディテクタ(ガス漏れ検出装置)9などの各種装置ないしは治具を備えた構成となっている。
【0034】
プレート2は、樹脂試験片TPを挟持した状態で加圧する部材である(図3、図4参照)。例えば本実施形態では対向する一対の上下の板状部材をプレート2として用いている。これらプレート2の対向する面には、樹脂試験片TPを挟持するための環状の溝部2aが形成されている。
【0035】
締結具2bは、プレート2を締め付けて樹脂試験片TPに圧力を付与する装置である。例えば本実施形態では、ボルトおよびナットからなる締結具2bにおりプレート2を締め付ける構成としている(図4参照)。特に詳しく図示していないが、ナットを回転させるためのモータ等の装置、あるいはプレート2を加圧する油圧シリンダといったアクチュエータ(図4において符号10で示す)を利用することもできる。一般に、樹脂試験片TPの内部を加圧すると、プレート2が持ち上げられる方向に反力が働くため、シール面圧が下がる場合がある。この点、アクチュエータ10を使用している場合、内圧に追従してシール面圧をコントロールすることができるので、常に一定のシール面圧を確保することが可能になる。
【0036】
流体投入口3は、プレート2によって樹脂試験片TPが加圧された状態で当該樹脂試験片TPの内側へ流体を投入するための流通孔からなる。本実施形態の流体投入口3は、一方(例えば上方)のプレート2の略中央に形成されている。この場合、流体投入口3は、環状の溝部2aの内側に配置されていればよい。流体投入口3からは、流体として液体または気体が投入される。
【0037】
積層間流体投入口4は、積層構造である場合の樹脂試験片TPの構成部材間に流体を投入するための投入口である。例えば本実施形態の遊戯装置1においては、積層間流体投入口4が上述した溝部2aに配置されており、プレート2によって挟持された状態の樹脂試験片TPの構成部材間(例えば、内壁層であるライナー120とその外側の外壁層である樹脂繊維層としてのFRP層121の間)に流体を投入できるようにしている(図4参照)。このような積層間流体投入口4によれば、積層構造である場合の樹脂試験片TPの構成部材間に流体を投入し、不具合が生じた状態を人為的に模擬して評価することができる。ここでいう不具合が生じた状態の代表例は、高圧タンク100において、ライナー120を透過した内部ガスが該ライナー120とその外側のFRP層121との間に滞留した状態である。このような不具合状態を模擬できる本実施形態の樹脂試験片測定装置1においては、構成部材どうしの密着性能などを評価することが可能である。なお、積層間流体投入口4は一つのみが設けられていれば上述のごとき評価試験が可能となるが、複数設けられていてもよい(図4参照)。
【0038】
また、積層間流体投入口4とともに(あるいはこれらとは別個に)、投入される流体の圧力を検出する圧力センサ12が設けられていることも好ましい。例えば本実施形態では、積層間流体投入口4とともに設けた圧力センサ12によりライナー120とFRP層121の間の圧力(中間圧力)を検出し、これらライナー120およびFRP層121の積層状態下における内部の圧力勾配を把握することを可能としている(図4参照)。
【0039】
熱電対5は、樹脂試験片TPの温度を測定する温度測定装置として設けられている(図4参照)。熱電対5を用いることにより、測定中における樹脂試験片TPの温度を測定することが可能である。また、ライナー120とFRP層121との間の温度を検出することにより、部材間の熱伝導を求めることや、当該FRP層121のガス透過係数を適宜補正して温度差の影響を考慮したデータを得ることも可能となる。
【0040】
変位計6は、樹脂試験片TPの変形を検出するための装置である(図4参照)。これによれば、測定中ないしはその前後における樹脂試験片TPの変位を測定し、材料種毎の剛性を把握することができる。具体的には、例えば、プレート2によって樹脂試験片TPを加圧した際、この変位計6を利用することで、繊維や樹脂の組合せによって当該樹脂試験片TPの剛性がどのように変化するか等を把握することができる。
【0041】
AEセンサ7は、樹脂試験片TPの疲労ないしは破壊時の現象を検出するためのセンサとして設けられている(図4参照)。例えば試験対象である樹脂試験片TPの内部に液体を投入し、液圧で加圧することによって破壊や疲労現象を再現した際、樹脂試験片TPから生じる弾性波をこのAEセンサ7で検出し、検出結果に基づいて破壊、疲労の進行度を定量的に把握することが可能である。
【0042】
シール部材8は、樹脂試験片TPとプレート2の溝部との間に介在し、測定中にこれらの間からガス等の流体の漏れ(ショートカット)が生じるのを抑止する(図4参照)。例えば本実施形態では樹脂試験片TPの端面にガスバリア性の高い接着剤をシール部材8として塗布し、プレート2を加圧してショートカットガスを遮断し、誤差成分の少ないガス透過量測定を可能にしている。シール部材8としては、接着剤のほか、パッキンやガスケットなども利用することができる。
【0043】
ガスリークディテクタ9は、樹脂試験片TPを透過したガス(リークガス)を検出するガス漏れ検出装置である。本実施形態では、ここまで説明したプレート2,流体投入口3など全体を密閉容器11で覆い、樹脂試験片TPを透過がしたリークガスをこのガスリークディテクタ9で検出するようにしている(図4参照)。
【0044】
続いて、樹脂試験片測定装置1を用いて、ガス透過測定後に破壊や疲労試験を実施する場合の流れの一例を説明する(図5参照)。
【0045】
まず、樹脂試験片(テストピース)のサイズを決定し(ステップSP1)、シール部面積(換言すれば、円筒状樹脂試験片TPの環状端面の面積)を算出する(ステップSP2)。次に、想定破壊圧力(あるいは、疲労の場合であれば疲労試験の圧力)を算出する(ステップSP3)。ここでは、仮に樹脂試験片TPを破壊させる場合のFRP層121の内圧や面圧が何MPa程度になるかといった計算データ等に基づいて算出を行う。
【0046】
続いて、必要シール圧を算出する(ステップSP4)。ここでは、想定される破壊圧力に至るまでシールを確保できる面圧を算出し、測定対象たる樹脂試験片TPとプレート2との間におけるシール性能を確保する。樹脂試験片測定方法においては、測定前に、プレート2による挟持時の圧力、および当該樹脂試験片TPの破壊圧力の少なくとも一方を算出しておくことが好ましい。上述したように、本実施形態では測定前の準備として両方を算出しておく。
【0047】
次に、締結具2bにおける必要軸力を算出する(ステップSP5)。本実施形態の場合には、ボルトおよびナットにおいて必要な軸力を算出することになるが、上述したようにアクチュエータ10を利用する場合には、当該アクチュエータ10において必要となる荷重を算出する。
【0048】
以上の計算を終えたら、まずは樹脂試験片TPと各種治具をセットする(ステップSP6)。シール部材8を用いる本実施形態の場合には、シール面(溝部2a)に当該シール部材8を塗布ないしは設置する。また、必要に応じて、中間圧力測定用の圧力センサ12や熱電対5などもセットする。
【0049】
上述のセットを終えたら、各治具の漏れ(プレート2からのガスリーク等)がないかチェックし(ステップSP7)、流体透過試験と各種測定を実行する(ステップSP8)。測定が完了したら、樹脂試験片TPの内部のガスを放出する(ステップSP9)。
【0050】
さらに、本実施形態においては、樹脂試験片TPの破壊または疲労試験を実施するために、樹脂試験片TPの内部に液(水やLLCなどの液体)を充填する(ステップSP10)。この時点で、必要に応じて樹脂試験片測定装置1にAEセンサ7や変位計6をセットしておく。
【0051】
その後、破棄または疲労試験を実施する(ステップSP11)。樹脂試験片TPが破壊や疲労のフェール現象を呈するまで試験を実施し(ステップSP11)、その後、終了する。
【0052】
ここまで説明した本実施形態の樹脂試験片測定装置1によれば以下のような利点がある。すなわち、まず従来手法について簡単に説明すれば、一般に、短冊状の試験片を用いた従来のFRP透過係数の測定手法においては、ショートカットガス(透過成分とはみなせない誤差成分)があり、FRP透過係数測定の難易度が高かった。しかも従来は、例えば1MPa未満程度の低圧下での測定例はあるが、数十MPaといった超高圧下での測定事例はなく、要は、FRPタンクの透過係数測定は技術的にも歴史が浅い。例えば金属ライナータンクであればガス透過はほぼ生じないため考慮しなくて済むが、樹脂ライナータンクにおいては、ガス透過係数は当該タンクの性能を決定する重要なファクターとなる。また、樹脂ライナーだけではガスバリア性能を確保しきれないので、FRP層のガスバリア性も適正値に制御する必要がある。CFRPのガスバリア性能は、高すぎると白濁のような不具合が生じうる。要は、FRP層のガス透過係数が適正な範囲内に収まっていることが樹脂ライナータンク設計において重要である。ただ、従来は、樹脂試験片TPにおける実機要素(巻き構成や内部応力場)が欠如しており、試験片と実機との間における性能差が大きかったため、樹脂試験片TPの試験結果がそのまま実機での結果となるわけではなかった。
【0053】
この点、本実施形態の樹脂試験片測定装置1あるいは当該装置を用いた樹脂試験片測定方法によれば、これら種々の問題を解決することができる。すなわち、この樹脂試験片測定装置1によれば、例えば高圧タンクを輪切りにした状態と同様の円筒状の樹脂試験片TPを測定ないし評価の対象として用いることから、実機により近い測定結果を得ることができる。特に、円筒状の樹脂試験片TPにおいては繊維の巻き構成や内部応力場が実機の場合のそれらと近似していることから、試験片を使った場合に信頼性の向上した測定結果を得ることができる。また、本実施形態の樹脂試験片測定装置1によれば、環状溝部2a付きのプレート2で樹脂試験片TPを挟持し、加圧した状態で流体を投入するので、短冊状の試験片を用いた場合におけるような、界面方向へ抜けるガス(ショートカットガス)が生じるおそれが少ない。このため、透過成分による誤差成分の少ない、信頼性が向上した測定結果が得られる。また、試験片を用いて測定を行うため、実際のタンク等を使った実機評価の場合のようなコストや数量確保といった問題がない。
【0054】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、燃料電池システム等において利用される水素燃料供給源としての高圧水素タンク100を挙げ、当該高圧タンク100を構成するFRP層121の透過係数や強度を評価する場合を例示したがこれは一例にすぎず、その他の樹脂試験片TPの測定にも本発明を適用することができるのはいうまでもない。
【0055】
また、タンク(例えば高圧水素タンク)の製造時には、拡幅不足、繊維ダメージ(いわゆるケバのようなもの)、張力、ボイド率といった各種要素の影響により製造個体にばらつきが生じ、タンク性能を低下させることが起こり得ることを鑑み、本発明にかかる樹脂試験片測定装置1を用いて製造ばらつきの影響を定量的に把握することも可能である。具体的には、樹脂試験片TPの成形時、タンク製造ばらつきの因子となるこれらの要素を当該樹脂試験片TPに折り込み、測定ないし評価を行うことができる。このような測定の結果を利用すれば、各種製造ばらつき因子を含むタンクが、通常(ノミナル)のタンクと比較してどの程度の強度を発現できるか評価することができる(図6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、高圧水素タンク等に適用可能な樹脂試験片(テストピース)の測定に適用して好適である。
【符号の説明】
【0057】
1…円筒体測定装置、2…プレート、2a…溝部、3…流体投入口、4…積層間流体投入口、5…熱電対(温度測定装置)、6…変位計、7…AEセンサ、8…シール部材、9…ガスリークディテクタ(ガス漏れ検出装置)、10…アクチュエータ、TP…樹脂試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂試験片の測定方法であって、
環状の溝部と、該溝部の内側に配置された流体投入口とを具備するプレートの当該溝部で円筒状の前記樹脂試験片を挟持し、加圧する工程と、
前記プレートの前記流体投入口から当該樹脂試験片の内側へ流体を投入する工程と、
流体投入後の当該樹脂試験片の変化を測定する工程と、
を含む樹脂試験片測定方法。
【請求項2】
前記樹脂試験片を前記プレートの溝部で挟持する際、シール部材を介在させる、請求項1に記載の樹脂試験片測定方法。
【請求項3】
前記流体として、液体または気体を投入する、請求項1または2に記載の樹脂試験片測定方法。
【請求項4】
測定前に、前記プレートによる挟持時の圧力、および当該樹脂試験片の破壊圧力の少なくとも一方を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定方法。
【請求項5】
樹脂試験片の透過性あるいは強度等の性能を評価するための樹脂試験片測定装置であって、
円筒状の当該樹脂試験片を挟持するための環状の溝部を具備し、この樹脂試験片を挟持した状態で加圧するプレートと、
該プレートの前記溝部よりも内側に配置され、前記樹脂試験片が加圧された状態で当該樹脂試験片の内側へ流体を投入する流体投入口と、
を備える樹脂試験片測定装置。
【請求項6】
積層構造である前記樹脂試験片の構成部材間に流体を投入する積層間流体投入口を前記溝部に備えている、請求項5に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項7】
前記樹脂試験片の温度を測定する温度測定装置を備える、請求項5または6に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項8】
前記樹脂試験片の変形を検出する変位計を備える、請求項5から7のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項9】
前記樹脂試験片の疲労ないしは破壊時の現象を検出するAEセンサを備える、請求項5から8のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項10】
前記樹脂試験片と前記プレートの溝部との間に介在するシール部材を備える、請求項5から9のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項11】
前記樹脂試験片を透過したリークガスを検出するガス漏れ検出装置を備える、請求項5から10のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定装置。
【請求項12】
前記プレートの駆動源となるアクチュエータを備える、請求項5から11のいずれか一項に記載の樹脂試験片測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−58994(P2011−58994A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210249(P2009−210249)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】