説明

橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法

【課題】種々の漏水経路について対応することができ、既設の伸縮装置を取り替えることなく、そのまま利用することができ、施工コストを抑制することができる漏水補修方法の提供。
【解決手段】橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法であって、橋梁の上側から、漏水経路へ、水分捕捉型の充填剤を充填する工程を具備する、漏水補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伸縮装置とは、橋梁の路面端部に設けられるもので、温度変化等に起因する膨張や収縮、地震や車の走行に伴う橋梁の変形を吸収し、自動車や人が支障なく通行できるようにするものである。
【0003】
伸縮装置は下面側に止水措置が施されており、雨水等が桁下や支承等へ流れ落ちない構造となっているのが通常である。しかしながら、老朽化等に起因して止水機能が損なわれ、漏水が生じる場合がある。漏水が生じると、支承、橋梁端部、橋脚、橋台等が劣化する可能性がある。特に冬季には路面凍結防止剤が散布されることがあるが、漏水箇所があると、路面凍結防止剤中の塩化物が雨水とともにコンクリート等の内部へ浸透し、鉄筋や鉄骨を腐食する可能性がある。また、コンクリート等の内部に浸透した水分が凍結することによって、コンクリートを損壊させる可能性もある。
したがって、伸縮装置およびその周辺部位は漏水が生じないように定期的に補修する必要がある。また、排水型伸縮装置などの、設置時に既に漏水が生じ得る構造となっている伸縮装置もあるが、このようなものについては漏水が生じないように改良することが好ましい。
伸縮装置の漏水補修方法としては、例えば特許文献1に記載の方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−69596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、伸縮装置およびその周辺部位は老朽化等によって様々な漏水経路が形成され得る。例えば、止水構造体と後打ちモルタルとの接着が破断して漏水経路が形成される場合がある。また、後打ちモルタルまたは後打ちコンクリートと舗装との間の密着が不十分となり漏水経路が形成される場合がある。また、止水構造体、後打ちモルタルまたは後打ちコンクリート自体が劣化してひび割れが生じ漏水経路が形成される場合がある。さらに、止水構造体自体が破損して脱落し、漏水経路が形成される場合もある。
しかしながら、このような種々の漏水経路のほぼ全てについて対応することができる漏水補修方法は、従来、提案されていなかった。また、止水構造体の多くの部分が脱落したような、漏水経路の幅が大きい場合、それを短時間で補修することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち本発明は、種々の漏水経路について対応することができる漏水補修方法を提供することにある。
【0007】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は次の(1)〜(4)である。
(1)橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法であって、
橋梁の上側から、漏水経路へ、水分捕捉型の充填剤を充填する工程を具備する、漏水補修方法。
(2)前記漏水経路へ、硬化速度が異なる少なくとも2種類の充填剤を順に充填する工程であり、第1充填剤を充填した後、前記第1充填剤よりも硬化速度が速い第2充填剤を充填する、上記(1)に記載の漏水補修方法。
(3)前記充填剤のB型回転粘度計を用いて測定した粘度(η)が、初期値(η0)は10〜100(mPa/sec)であり、20分経過後の粘度(η20)はη0<η20<250(mPa/sec)の関係を満たし、45分経過後の粘度(η45)はη45>η0×1.5(mPa/sec)の関係を満たす、上記(1)または(2)に記載の漏水補修方法。
(4)橋梁の上側から見た場合の前記漏水経路の幅の最大値が30mm以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の漏水補修方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種々の漏水経路について対応することができる漏水補修方法を提供することができる。また、既設の伸縮装置を取り替えることなく、そのまま利用できるので、施工コストを抑制することができる。
また、本発明は好ましくは、前記漏水経路へ、硬化速度が異なる少なくとも2種類の充填剤を順に充填するものであって、第1充填剤を充填した後、前記第1充填剤よりも硬化速度が速い第2充填剤を充填する方法であるが、このような場合、止水構造体の多くの部分が脱落したような場合のように漏水経路の幅が大きくても、それを短時間で補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一般的な橋梁用伸縮装置およびその周辺部位を上側(路面側)から見た概略図である。
【図2】図1のA−A線における概略断面図である。
【図3】橋梁用伸縮装置およびその周辺部位に形成された漏水経路を示す概略断面図である。
【図4】本発明の方法の具体例を説明するための概略断面図である。
【図5】橋梁用伸縮装置およびその周辺部位に形成された漏水経路を示す別の概略断面図である。
【図6】本発明の好適方法を説明するための概略断面図である。
【図7】本発明の好適方法を説明するための別の概略断面図である。
【図8】本発明の好適方法を説明するためのさらに別の概略断面図である。
【図9】水分捕捉型充填剤の性能試験について説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法であって、橋梁の上側から、漏水経路へ、水分捕捉型の充填剤を充填する工程を具備する、漏水補修方法である。
このような漏水補修方法を、以下では「本発明の方法」ともいう。
本発明において「橋梁の伸縮装置部位」とは、橋梁の伸縮装置およびその周辺部位を意味するものとする。
【0011】
初めに、橋梁の伸縮装置部位の構造について具体例を用いて説明する。
図1は一般的な橋梁の伸縮装置およびその周辺部位(道路)を上側(路面側)から見た概略図であり、図2は図1のA−A線における概略断面図である。
【0012】
図1、図2において伸縮装置10は、橋梁本体である床板20、20の遊間に設けられている。また、床板20の上の舗装22と伸縮装置10と間に、モルタルまたはコンクリートが後打ちされることで伸縮装置10が固定されている。後打ちされたモルタルまたはコンクリートを、以下では、後打ちモルタル等(24)ともいう。
【0013】
また、図1、図2に例示した伸縮装置10は、フェースプレート11、シール材13、バックアップ材15、腹板17、支持具19を備えている。
伸縮装置10における道路面は、互いに噛み合う一対の櫛形鋼製のフェースプレート11からなる。フェースプレート11の下方にはシール材13およびバックアップ材15が配置されている。また、フェースプレート11の下面から下方へ、後打ちモルタル等24および/または床板20の側面に密着するように腹板17が配置されている。シール材13およびバックアップ材15は腹板17の側面に接着されている。バックアップ材15は支持具19によって支えられている。
なお、伸縮装置には様々な種類があり、例えば腹板17を備えないものもある。この場合、シール材13およびバックアップ材15は後打ちモルタル等24および/または床板20の側面に接着される。
【0014】
次に、伸縮装置およびその周辺部位に形成される漏水経路について説明する。
図3は、伸縮装置部位に形成された漏水経路を示す概略断面図である。図3に示す伸縮装置部位は、図2に示した態様の伸縮装置部位が老朽化したものと考えてもよい。
【0015】
図3に示す漏水経路31は、シール材13およびバックアップ材15が劣化してひび割れて生じたものである。入口31aから漏水経路31へ入り込んだ雨水等は出口31bへ到達して漏水する。
また、図3に示す漏水経路33は、フェースプレート11および腹板17と後打ちモルタル等24および床板20との密着性がなくなり形成されたものである。入口33aから漏水経路33へ入り込んだ雨水等は出口33bへ到達して漏水する。
また、図3に示す漏水経路35は、舗装22と後打ちモルタル等24と床板20との密着性がなくなり形成されたものである。入口35aから漏水経路35へ入り込んだ雨水等は出口35bへ到達して漏水する。
【0016】
また、図3に示したものの他にも、シール材13およびバックアップ材15と腹板17との密着性がなくなり漏水経路が形成される場合や、後打ちモルタル等24が劣化してひび割れて漏水経路が形成される場合もある。
【0017】
このような漏水経路から漏水が生じると、支承、橋梁端部、橋脚、橋台等が劣化する可能性がある。また、冬季には、散布された路面凍結防止剤中の塩化物が雨水とともにコンクリート等の内部へ浸透し、鉄筋や鉄骨を腐食する可能性がある。また、漏水経路の内部に浸透した水分が凍結することによって、漏水経路を拡大し、コンクリート等を損壊させる可能性もある。
【0018】
本発明の方法によると、上記のような漏水経路が形成された伸縮装置およびその周辺部位の漏水を補修することができる。
このような本発明の方法について、図4を用いて具体的に説明する。
図4は、図3に示した、シール材13およびバックアップ材15が劣化してひび割れて生じた漏水経路31を有する伸縮装置部位に、本発明の方法を適用して漏水補修したことを示す概略断面図である。
本発明の方法では、図4に示すように、初めに、漏水経路31の入口31aを塞ぐようにホース42の一方端部を配置する。ホース42の他方端部は圧送タンク44およびコンプレッサー46に連結されており、圧送タンク44中の充填剤をホース42を通じて漏水経路31へ充填することができる。
【0019】
ここで、充填剤50は、図4に示すように、入口31aから充填して出口31bにまで到達させることが好ましい。つまり、本発明の方法は充填剤を用いて漏水経路の出口を塞ぐ工程をさらに具備することが好ましい。
【0020】
また、出口31bが解放されていると、特に充填剤の充填直後においては、出口31bから下方へ充填した充填剤が漏れてしまう可能性がある。したがって、遮蔽剤48などを用いて、図4に示すように出口31bを塞ぐことが好ましい。
【0021】
本発明の方法において用いる充填剤は、水分捕捉型の充填剤である。
漏水経路へ充填された充填剤は、漏水経路内に残留する水分を捕捉するので、鋼製部材やコンクリート中の鉄筋等の腐食を防止することができる。また、当該水分が凍結することによる漏水経路の拡大やコンクリート等の損壊を防止することができる。
【0022】
水分捕捉型の充填剤は水分を捕捉する充填剤であれば特に限定されず、容易に充填作業を行うことができるものであることが好ましく、さらに充填完了後、短時間で充填剤が硬化するものであることがより好ましい。例えば水分捕捉型ウレタン樹脂(例えば、ウレタン技研工業社製、TA−745)を用いることができる。水分捕捉型ウレタン樹脂に、公知の希釈剤(例えば、プロピレンカーボネート)を適量混合して粘度を調整することが好ましい。また、水分捕捉型ウレタン樹脂の分子量を調整して粘度を調整することもできる。また、公知の難燃可塑剤(例えばリン系のもの)を適量混合してもよい。さらに公知の触媒(例えばSn触媒)を適量混合して硬化速度を調整することもできる。
【0023】
また、充填剤は、B型回転粘度計を用いた粘度(η)が、充填する直前の粘度である初期値(η0)は10〜100(mPa/sec)であり、かつ、充填してから20分経過後の粘度(η20)はη0<η20<250(mPa/sec)の関係を満たし、かつ、充填してから45分経過後の粘度(η45)はη45>η0×1.5の関係を満たすものであることが好ましい。
また、充填剤は、さらに、η0<η20<η0×2の関係を満たすものであることがより好ましい。漏水経路は細く入り組んでいる場合が多いので、出口から入口まで充填剤を充填するのは比較的困難であるが、このような粘度を有する充填剤であれば、比較的容易に漏水経路へ充填剤を充填することができ、さらに充填完了後、短時間で充填剤が硬化するので好ましい。
η0は、40〜90(mPa/sec)であることがより好ましく、60〜80(mPa/sec)であることがさらに好ましい。
η20は、η0<η20<230(mPa/sec)の関係を満たすことがより好ましく、η0<η20<200(mPa/sec)の関係を満たすことがさらに好ましい。
η45は、η45>η0×1.8の関係を満たすことがより好ましく、η45>η0×2.0の関係を満たすことがさらに好ましい。
η20は、η0<η20<η0×1.5の関係を満たすことがより好ましく、η0<η20<η0×1.2の関係を満たすことがさらに好ましい。
上記のように水分捕捉型ウレタン樹脂と希釈剤と難燃可塑剤と触媒とを混合して、上記の粘度(η)を備える充填剤を得ることができる。
【0024】
なお、本発明において充填剤(後述する第1充填剤および第2充填剤を含む)の粘度は、JIS K7117−1−1999「液状の樹脂の回転粘度計による粘度試験方法」(B型粘度計を使用)によって測定した値を意味するものとする。
【0025】
次に、伸縮装置およびその周辺部位に形成される、別の漏水経路について説明する。
図5は、伸縮装置部位に形成された漏水経路を示している。図5に示す伸縮装置部位は、図2に示した態様の伸縮装置が老朽化し、シール材13、バックアップ材15、支持具17および支持具19が脱落して漏水経路37が形成されたものと考えてもよい。また、図5に示す伸縮装置部位は、シール材13、バックアップ材15、支持具17および支持具19が初めから(設置時から)無かったもの(排水型伸縮装置等)と考えてもよい。
入口37aから漏水経路37に入り込んだ雨水等は出口37bへ到達して漏水する。また、後打ちモルタル等24や床板20に亀裂39が形成されている場合には、亀裂39を通じて後打ちモルタル等24などの内部へ雨水等が浸透する場合がある。
【0026】
図5は漏水経路の幅が大きい態様である。場合によってはこの漏水経路の幅の最大値は200mm程度のもなる。なお、ここで漏水経路は、本発明の方法を適用して充填剤を充填すべき部分であるので、「漏水経路の幅」とは、図5においてWで示す、漏水経路における道路面に平行な長さである。
【0027】
このような漏水経路から漏水が生じると、支承、橋梁端部、橋脚、橋台等が劣化する可能性がある。また、冬季には、散布された路面凍結防止剤中の塩化物が雨水とともにコンクリート等の内部へ浸透し、鉄筋や鉄骨を腐食する可能性がある。また、図5に示す亀裂39の内部に浸透した水分が凍結して、後打ちモルタル等24を損壊させる可能性もある。
【0028】
本発明は好ましくは、前記漏水経路へ、硬化速度が異なる少なくとも2種類の充填剤を順に充填するものであって、前記第1充填剤を充填した後、前記第1充填剤よりも硬化速度が速い第2充填剤を充填する方法であるが、このような本発明の好適方法によると、図5に示すような漏水経路の幅が大きい場合でも、これを短時間で塞ぐ補修を行うことができる。
【0029】
ここで第1充填剤として、前述の水分捕捉型充填剤を用いることが好ましい。すなわち、第1充填剤は、分子量を適正範囲内に調整した水分捕捉型ウレタン樹脂(例えばウレタン技研工業社製、TA−745)に、公知の希釈剤、可塑剤または触媒を適量添加して硬化速度を調整したものであることが好ましい。また、前述と同様に、この第1充填剤は、B型回転粘度計を用いた粘度(η)が、充填する直前の粘度である初期値(η0)は10〜100(mPa/sec)であり、かつ、充填してから20分経過後の粘度(η20)はη0<η20<250(mPa/sec)の関係を満たし、かつ、充填してから45分経過後の粘度(η45)はη45>η0×1.5の関係を満たすものであることがより好ましい。η0、η20およびη45の好ましい範囲および関係についても前述と同様である。
【0030】
このような本発明の好適方法について、図6〜8を用いて説明する。
図6は、図5に示した態様の伸縮装置部位における漏水経路37の出口37b(図5に示す態様の場合は伸縮装置における遊間とも言える)を塞ぐように支持体56を設置し、その上に第1充填剤52を流し込んだ状態を示している。
ここで支持体56はある程度柔軟性があり、橋梁の変形に追従して変形するものであって、漏水経路の出口を塞ぐことができるものであればよく、例えば発砲体を用いることができる。図6に示す態様の場合、発砲体からなる支持体56を後打ちモルタル等24の側面に、接着、粘着または圧着させて、漏水経路37の出口37bを塞いでいる。
【0031】
支持体56の上に第1充填剤52を流し込んだ後、図7に示すように、第1充填剤52の上へ第2充填剤54を流し込むように充填する。
ここで第2充填剤は、第1充填剤よりも硬化速度が速いものである。そして、あまり時間をおかず(つまり第1充填剤が硬化する前に)、第2充填剤を充填する。そうすると、第1充填剤よりも先に第2充填剤が硬化し始める。ここで、第1充填剤と第2充填剤とは攪拌しない限り、あまり混ざらない。逆に言えば、第1充填剤と第2充填剤とができるだけ混ざらないように、第1充填剤の上から第2充填剤を流し込むことが好ましい。
【0032】
このようにして第1充填剤の上へ第2充填剤を流し込むように充填すると、液状の充填剤(第1充填剤および第2充填剤)の対流や表面張力等の影響で、図8に示すように、第1充填剤が底面側および側面側(後打ちモルタル等24の側面側および支持体56の上面側)に移動する。そうすると、この底面や側面は温度が低いので、第1充填剤の硬化反応が進行し難くなる。この結果、相対的に硬化速度が遅い第1充填剤の硬化速度は、さらに遅くなるので、第1充填剤は比較的長時間、流動性が保たれる。
このように第1充填剤は底面や側面に偏在することとなり、さらにその粘性は低いので、亀裂39に入り込み、少なくともこの亀裂の入口を塞ぐことができる。
また、図8に示すように、硬化速度が速い第2充填剤が漏水経路の中心付近で早く硬化して強度を発現する。よって、第1充填剤が完全に硬化していない状態でも、伸縮装置の上部からの荷重に耐えることができる。
【0033】
ここで、第1充填剤と第2充填剤との容積比は、1:9〜5:5であることが好ましく、2:8〜4:6であることがより好ましい。このような容積比であると、第1充填剤が完全に硬化していなくても、伸縮装置の上部からの荷重により耐えることができる。
【0034】
このような本発明の好適方法によると、漏水経路の幅が広い場合でも、補修を短時間に行うことができる。橋梁の伸縮装置部位の補修は、通常、道路の交通規制を行い、例えば4時間程度の時間で行わなければならないが、本発明の好適方法によれば、第1充填剤が完全に硬化しなくても、補修した伸縮装置部位の上を自動車等が通過することができる。具体的には第2充填剤が速く硬化して、自動車等の荷重を支える役割を果たすことができる。そして、単に硬化速度が速い充填剤を用いるのではなく、上記のように第1充填剤と第2充填剤とを順に用いることで、亀裂(図5〜図8に示す亀裂39など)を塞ぐこともできる。
【0035】
このような本発明の好適方法であると、漏水経路の幅(W)の最大値が30mm以上であっても、短時間で漏水経路を塞ぐ補修を行うことができる。Wの最大値が好ましくは100mm以上、より好ましくは150mm以上、さらに好ましくは200mm以上であっても、同様に、漏水経路を短時間で塞ぐ補修を行うことができる。Wの最大値は600mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましく、300mm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
第2充填剤は、第1充填剤よりも硬化速度が速いものであれば特に限定されず、充填してから10分経過後の粘度が、第2充填剤の場合、第1充填剤の場合に対して2倍以上であることが好ましく、2〜10倍であることがより好ましい。なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて測定した粘度である。
【0037】
このような第2充填剤は、上記の第1充填剤と同様にして、分子量を適正範囲内とした水分捕捉型ウレタン樹脂に、希釈剤、難燃可塑剤または触媒を適量添加して得ることができる。水分捕捉型ウレタン樹脂として、例えば、ウレタン技研工業社製、TA−746を用いることができる。
【実施例】
【0038】
<水分捕捉型の充填剤の性能試験>
矩形であって表面のほぼ全面に錆を有する鋼板(錆鋼板)と、錆鋼板と同形状であって錆を有さない鋼板(ダミー鋼板)とを、主面が密着するように重ねた。このとき、錆鋼板とダミー鋼板との主面の間には約1mmの隙間が存在していた。
次に、この隙間を保持したまま、錆鋼板とダミー鋼板とを図9に示すように充填剤の中へ浸漬し、10分間保持した。
図9は浴槽66中の充填剤62に、錆鋼板60とダミー鋼板64とを浸漬した状態を示す概略断面図である。
【0039】
ここで充填剤は、水分捕捉型ウレタン樹脂(ウレタン技研工業社製、TA‐745)に、希釈剤(プロピレンカーボネート)およびSn触媒を添加して粘度を調整したものである。粘度をJIS K7117−1−1999に準じてB型回転粘度計を測定したところ、初期値(η0)で73(mPa/sec)であり、20分経過後の粘度(η20)が93(mPa/sec)であり、45分経過後の粘度(η45)が174(mPa/sec)であった。
【0040】
10分経過後、錆鋼板とダミー鋼板とを充填剤の中から取り出し、隙間内を観察したところ、隙間の全域に充填剤が浸透していることを確認できた。
また、錆鋼板の断面を顕微鏡にて観察したところ、錆鋼板の表面に積層し微細孔構造を備えている錆の内部にまで、充填剤が浸透していることを確認できた。
【0041】
このような実験によって、細く入り組んだ漏水経路であっても、容易に充填剤を充填することができると考えられる。
【符号の説明】
【0042】
10 伸縮装置
11 フェースプレート
13 シール材
15 バックアップ材
17 腹板
19 支持具
20 床板
22 舗装
24 後打ちモルタル等
31、33、35、37 漏水経路
31a、33a、35a、37a 漏水経路の入口
31b、33b、35b、37b 漏水経路の出口
39 亀裂
42 ホース
44 圧送タンク
46 コンプレッサー
48 遮蔽剤
50 充填剤
52 第1充填剤
54 第2充填剤
56 支持体
60 錆鋼板
62 充填剤
64 ダミー鋼板
66 浴槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の伸縮装置部位の漏水補修方法であって、
橋梁の上側から、漏水経路へ、水分捕捉型の充填剤を充填する工程を具備する、漏水補修方法。
【請求項2】
前記漏水経路へ、硬化速度が異なる少なくとも2種類の充填剤を順に充填する工程であり、第1充填剤を充填した後、前記第1充填剤よりも硬化速度が速い第2充填剤を充填する、請求項1に記載の漏水補修方法。
【請求項3】
前記充填剤のB型回転粘度計を用いて測定した粘度(η)が、初期値(η0)は10〜100(mPa/sec)であり、20分経過後の粘度(η20)はη0<η20<250(mPa/sec)の関係を満たし、45分経過後の粘度(η45)はη45>η0×1.5(mPa/sec)の関係を満たす、請求項1または2に記載の漏水補修方法。
【請求項4】
橋梁の上側から見た場合の前記漏水経路の幅の最大値が30mm以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の漏水補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246600(P2012−246600A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116502(P2011−116502)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【Fターム(参考)】