説明

機器の異常検出装置

【課題】製油所や石油化学関連の工場等の巨大施設において、機器が発生する生の異常音を鮮明に聴き取ることができ、機器の異常を正確に検知することのできる機器の異常検出装置を提供する。
【解決手段】機器の異常音を感知し、機器の異常を検出する異常検出装置は、機器の被測定部位に接触させて機器の振動を検出する振動検出部21aと、振動検出部21aにより検出された振動を伝播する振動伝播部21cと、振動伝播部21cにより伝播された振動を音声に変える空間部Vと、空間部Vにて生じた音声を電気信号に変換する集音手段4と、を備えたピックアップ手段2と、ピックアップ手段2に着脱自在に連結された録音手段3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製油所や工場施設内の設備や機械等(以下、単に「機器」という。)の巡回点検の際に用いられる聴診により機器の異常を検知する異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製を行う製油所や石油化学関連の工場等の巨大施設においては、現場ポンプ、モータ、ボイラ等の多数の設備や機械等、即ち、種々の機器が設置され、稼働している。
【0003】
一般に、機器は稼働中に異常が生じると、その稼働中に発生する音響や振動に変化が生じる場合が多く、このような機器のトラブルを未然に防止するため、定期的に音響や振動の検査を行う保守点検が行われている。その際に該設備等から発生する異常音(異音)の有無により、機器の異常を感知すべく鉄等の金属から成る聴診棒が用いられてきた。
【0004】
聴診棒による異音検査の際には、設備や機械の被測定部位に一方の端部を接触させ、他方の端部を保守検査員の耳に接触させて使用されていた。
【0005】
このような聴診棒としては、機器の被測定部位との密着性を高め、異音の捕捉性能を向上させたり、安全性に考慮したものが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、特許文献2に示す回転機の軸受診断装置においては、回転機の軸受けの振動が検出されている。この装置では、回転機の実運転周波数を検出し、この実運転周波数に基づいて特徴周波数を算出するようにして、軸受けの診断精度を上げると共に、検出した振動信号を音に変換する構成とされている(特許文献2参照)。
【0007】
更に、特許文献3には、異常音検出装置が示されており、正常動作時及び機器稼働中の音響波形を収集する手段と、音響特徴化数値を算出する音響特徴化手段と、音響特徴化手段により得られた正常動作時の各々の音響特徴化数値並びに機器稼働中の各々の音響特徴化数値を記憶、保存する音響データベースと、を有する構成とされている。
【0008】
更に、特許文献4には、振動・音響計測一体化センサーが開示されており、検査対象物にプラグを接続し、振動加速度ピックアップにより検査対象物からの振動を計測すると共に、振動膜とマイクロフォンとを備えた音圧計測部にて、音圧レベルにて計測することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−38735号公報
【特許文献2】特開2001−255241号公報
【特許文献3】特開2004−125641号公報
【特許文献4】特開昭63−108235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載するような聴診棒による異音検出は、一般に保守検査員の聴覚による診断を行うため、聞いた本人しか分からず、個人判定となり、保守検査員の経験(熟練度)によるところが多い。他人への伝達は、擬音でしか表現できない。そのため、異音発生時に、専門検査員不在の場合のときは、判断が遅れる可能性がある。
【0011】
更には、機器設置場所での外部音による影響や検査員の体調により診断を誤る等の可能性があった。
【0012】
なお、特許文献2、特許文献3、特許文献4などに記載する装置のように、異常音の検知に対する研究や技術は向上しているが、その構成は複雑であり、高価なものである。
【0013】
斯界において、保守検査員が感じ取るような機器の異常音検出装置は、更なる小型化、軽量化、低コスト化が望まれている。
【0014】
そこで、本発明の目的は、製油所や石油化学関連の工場等の巨大施設において、機器が発生する生の異常音を鮮明に聴き取ることができ、機器の異常を正確に検知することのできる機器の異常検出装置を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、機器が発生する生の異常音を鮮明に録音して、他人による聴き取りをも可能とした機器の異常検出装置を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、機器が発生する内部の異常音と、機器の周囲の外部音とを明確に区別して録音することができ、機器の異常を正確に検知することのできる機器の異常検出装置を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、構成が簡単で、小型、軽量であり、安価であって、更に、操作が簡単な機器の異常検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は本発明に係る機器の異常検出装置にて達成される。要約すれば、本発明は、機器の異常音を感知し、機器の異常を検出する異常検出装置において、
機器の被測定部位に接触させて機器の振動を検出する振動検出部と、前記振動検出部により検出された振動を伝播する振動伝播部と、前記振動伝播部により伝播された振動を音声に変える空間部と、前記空間部にて生じた音声を電気信号に変換する集音手段と、を備えたピックアップ手段と、
前記ピックアップ手段に着脱自在に連結された録音手段と、
を有することを特徴とする機器の異常検出装置である。
【0019】
本発明の一実施態様によると、前記ピックアップ手段は、
前記振動検出部と前記振動伝播部とを形成するために、先端部が前記機器の被測定部位に接触する先細形状とされるロッド状の細長部材と、
前記先端部とは反対側の端部にて前記細長部材に連結され、前記空間部を形成する円筒部材と、
前記円筒部材に連結され、前記空間部に対面して前記録音手段を支持し、前記円筒部材と協働して密閉された前記空間部を形成する円筒形状の支持部材と、
を有する。
【0020】
本発明の他の実施態様によると、前記円筒部材と前記支持部材とは着脱自在に連結されている。
【0021】
本発明の他の実施態様によると、少なくとも、前記ロッド状の細長部材及び前記円筒部材は、金属にて作製され、前記金属は、アルミウム又はステンレススチールであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の機器の異常検出装置によれば、
(1)製油所や石油化学関連の工場等の巨大施設において、機器が発生する生の異常音を鮮明に聴き取ることができ、機器の異常を正確に検知することができる。
(2)機器が発生する生の異常音を鮮明に録音して、他人による聴き取りも可能である。
(3)機器が発生する内部の異常音と、機器の周囲の外部音とを明確に区別して録音することができ、機器の異常を正確に検知することができる。
(4)構成が簡単で、小型、軽量であり、安価であって、更に、操作が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る機器の異常検出装置の全体構成図である。
【図2】本発明に係る機器の異常検出装置におけるピックアップ手段の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る機器の異常検出装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0025】
実施例1
本発明に係る機器の異常検出装置は、機器の異常音を感知し、機器の異常を検出することができる。
【0026】
図1に、本発明に係る機器の異常検出装置の一実施例の概略構成図である。本実施例によれば、機器の異常検出装置1は、被測定対象物である機器の異常音を感知するピックアップ手段2と、ピックアップ手段2に連結された録音手段3とを備えている。ピックアップ手段2は、詳しくは図2を参照して後述するが、集音手段、即ち、マイクロフォン4を備えており、マイクロフォン4から延在するコード41が、ジャック42にて録音手段3に接続自在に連結されている。
【0027】
図2に、本実施例のピックアップ手段2の概略構成を示す。
【0028】
本実施例にて、ピックアップ手段2は、一方の端部(先端部)21aが先細形状とされるロッド状の細長部材21を有している。また、細長部材21の先端21aとは反対側の端部(後端部)21bには、細長部材21の外径より大径とされる円筒部材22が連結されており、内部に空間部Vを形成している。細長部材21と円筒部材22との連結部23は、円錐形状とされ、従って、円筒部材22内に形成される空間部Vは、円錐空間V1と円筒空間V2との組み合わせた形状となっている。
【0029】
円筒部材22には、空間部Vに対面配置してマイクロフォン4を支持する円筒形状の支持部材24が接続されている。支持部材24は、一端開口部の内側に雌螺子24aが形成されている。この雌螺子24aは、円筒部材22の、前記細長部材21が連結された側と反対側の端部外径部に形成された雄螺子22aと螺合されて着脱可能に連結される。
【0030】
支持部材24の内部には、前記雌螺子24aの内方端に隣接してマイクロフォン4を支持する支持部としてのフランジ25が形成されており、このフランジ25の中心部に取付け穴25aが形成されている。
【0031】
フランジ取付け穴25aには、円筒部材22の空間部Vに対面する態様で、マイクロフォン4が取り付けられる。マイクロフォン4は、その外周面が弾性材26を介して前記取付け穴25aに取り付けるのが好適である。これにより、マイクロフォン4が、振動するピックアップ手段2自体と共振するのが防止され、周囲の外部雑音を遮断し、被測定対象物である機器の生の内部伝播音がマイクロフォン4により集音可能となる。
【0032】
本実施例にて、少なくとも、ロッド状の細長部材21と円筒部材22は、金属にて作製され、好ましくは、金属は、アルミウム又はステンレススチールである。本発明者の実験によれば、アルミニウムがより好適であった。支持部材24も又、細長部材21及び円筒部材22と同様に、同じ金属にて作製することができるが、場合によっては、他の材料、例えば、合成樹脂などで作製しても良い。
【0033】
上記構成のピックアップ手段2において、ロッド状細長部材21にて、先端部21aは、機器の被測定部位に接触して、機器の振動を検出する振動検出部を構成し、先端部21aに連接したロッド状部分により後端部21bまでのロッド状部、即ち、本体部21cは、振動検出部(先端部21a)により検出された機器の振動を伝播する振動伝播部を構成している。
【0034】
先端部及びロッド状本体部21cを形成する細長部材の形状寸法は、任意に選定することができるが、最大外径が10mm程度より小さいのが好ましく、通常5〜10mmとされ、長さも、通常50〜100mm程度とされるのが、機能上及び操作上からも好適である。また、細長部材21のロッド状本体部21cは、本実施例では、全体が後端部21bから先端部21aへと細長形状に傾斜したロッドとされているが、同じ直径とすることも可能である。
【0035】
また、円筒部材22は、振動伝播部(ロッド状細長部材21の本体部21c)により伝播された振動を音声に変える空間部Vを形成している。つまり、円筒部材22の開口部に形成された空間部Vは、支持部材24を一体的に接続した場合に、マイクロフォン4を支持したフランジ状の支持部25によって円筒部材22の端部開口部が閉鎖されることにより密閉され、振動が音声に変換される振動検出部として機能することとなる。
【0036】
空間部Vに対面して支持部材24に支持されたマイクロフォン4は、振動検出部である前記空間部Vにて生じた音声を集音し、電気信号に変換する。マイクロフォン4としては、本実施例では、ソニー株式会社製の(商品名:SONY ECM−C10)を採用したがこれに限定されるものではない。
【0037】
上記構成の本実施例の異常検出装置1によれば、ピックアップ手段2のロッド状細長部材21にて、先端部(振動検出部)21aを機器の被測定部位に接触すると、先端部21aにより機器の振動を検出する。振動検出部により検出された機器の振動は、先端部21aに連接したロッド状部(振動伝播部)21cを伝搬し、円筒部材22の空間部Vは、振動伝播部により伝播された振動を音声に変える。
【0038】
本発明者らの研究実験の結果によれば、空間部Vの密閉された容積は、5〜10cm3程度が、振動伝播部により伝播された振動を音声に変えるのに好適であることが分かった。
【0039】
空間部Vで発生した音声が、空間部Vに対面するマイクロフォン4により集音され、音声信号が録音手段3へと伝送され、録音される。この時、機器の伝播内部音は、機器周辺から生じる外部音とは完全に遮断されたものとなる。
【0040】
つまり、本実施例の機器の異常検出装置1によれば、聴診棒と同じように聞こえる生の音、即ち、機器内部を伝搬する真の音だけを、鮮明に録音することができる。従来の、ポータブル振動計(株式会社シロ産業製)などにおいては、振動音は、振動計に入り、そこから録音手段3へ伝送されているが、このために、生の音ではなく、電子音的になっている。
【0041】
本実施例の異常検出装置では、支持部材24を円筒部材22から外すことにより、機器周辺の実際の外部音を録音することができる。この外部音も又、異常検出(診断)に役立つものである。
【0042】
録音手段3としては、MD又はWAV/MP3レコーダ等を使用することができる。このようなレコーダに記録された音声信号は、パソコンを介してEメールにより現場にいない複数の人に送信することができ、また、必要によっては波形処理することができ、複数の検査員による正確な診断と修理範囲の決定が可能となる。
【0043】
つまり、本実施例の機器の異常検出装置によれば、
(1)検査員が聴診棒で診断している音と同じ生の音(真の音)だけが鮮明に録音できる。
(2)機器の伝播内部音と外部音が単独で録音できる。
(3)波形処理することにより、正常音と異常音のパソコンファイル化、即ち、データとしての比較が可能となり、技能伝承できる。
(4)異常早期発見できる。
(5)安価である。
(6)一人で異音判断ができない時に、パソコンやEメールで専門の多人数の技術者に音を聞いてもらい、正確な診断と修理範囲の決定ができる。
(7)休日、夜間でも現場の音がEメールで聞くことができる。呼び出し点検作業等は不要とされる。
(8)構成部品が少なく、小型、軽量であり、操作も簡単である。
(9)FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理ができ、各周波数スペクトルを分類し見易くすることができる。
【0044】
(具体例)
ここで、本実施例にて作製した異常検出装置1の一具体的寸法形状を示せば次の通りであった。
(A)ピックアップ手段2
・材料:アルミニウム(A5052P−H34)
全長(L0):150mm
・先端部21a
長さ(L1):10mm
尖端丸み(R):1〜2mm
最大外径(D1):6mm
・ロッド部21c
長さ(L2):64mm
最大外径(D2):7〜8mm
・円筒部材22
円錐部の長さ(L3): 6mm
円筒部の長さ(L4):15mm
空間部Vの円錐部V1の長さ(L30):6mm
空間部Vの円筒部V2の長さ(L40):14mm
空間部の最大外径(D3):22mm
外径(D4):30mm
雄螺子22aの長さ(L5):10mm
・支持部材24
外径(D4):30mm
内径(D5):27mm
雌螺子24aの長さ(L5):10mm
支持部25の軸線方向の厚さ(H1):8mm
支持部25の内径(D6):8.5mm
・マイクロフォン4:SONY ECM−C10
外径:8.3mm
・弾性材26:シリコン樹脂ボンド
(B)録音手段3
・WAV/MP3 レコーダ(ローランド株式会社製:商品名(型番R−09))
上記構成の本実施例の機器の異常検出装置1を使用して石油プラントの駆動モータにおけるギヤー部、バルブ等の作動時の音を聴診したが、聴診棒で診断している音と同じ生の音を鮮明に録音することができた。
【0045】
また、支持部材24から円筒部材22を外すことにより、機器周辺の実際の外部音を録音することができ、異常の検出(診断)をすることができた。
【符号の説明】
【0046】
1 機器の異常検出装置
2 ピックアップ手段
21 ロッド状細長部材
21a 先端部(振動検出部)
21c ロッド状部(振動伝播部)
22 円筒部材(振動検出部)
24 支持部材
25 フランジ(マイクロフォン支持部)
3 WAV/MP3レコーダ(録音手段)
4 マイクロフォン(集音手段)
41 コード
42 ジャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の異常音を感知し、機器の異常を検出する異常検出装置において、
機器の被測定部位に接触させて機器の振動を検出する振動検出部と、前記振動検出部により検出された振動を伝播する振動伝播部と、前記振動伝播部により伝播された振動を音声に変える空間部と、前記空間部にて生じた音声を電気信号に変換する集音手段と、を備えたピックアップ手段と、
前記ピックアップ手段に着脱自在に連結された録音手段と、
を有することを特徴とする機器の異常検出装置。
【請求項2】
前記ピックアップ手段は、
前記振動検出部と前記振動伝播部とを形成するために、先端部が前記機器の被測定部位に接触する先細形状とされるロッド状の細長部材と、
前記先端部とは反対側の端部にて前記細長部材に連結され、前記空間部を形成する円筒部材と、
前記円筒部材に連結され、前記空間部に対面して前記録音手段を支持し、前記円筒部材と協働して密閉された前記空間部を形成する円筒形状の支持部材と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の機器の異常検出装置。
【請求項3】
前記円筒部材と前記支持部材とは着脱自在に連結されていることを特徴とする請求項2に記載の機器の異常検出装置。
【請求項4】
少なくとも、前記ロッド状の細長部材及び前記円筒部材は、金属にて作製されることを特徴とする請求項2又は3に記載の機器の異常検出装置。
【請求項5】
前記金属は、アルミウム又はステンレススチールであることを特徴とする請求項4に記載の機器の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−203866(P2010−203866A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48624(P2009−48624)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】