説明

機構部品における微細加工部の加工方法および加工装置

【課題】ウォータジェットレーザ加工法を生かすべく、機構部品の加工時に機構部品やレーザ光出射側を、適宜可動可能とすることで、加工精度も良好で自由形状の微細加工部を形成可能とする。
【解決手段】機構部品20に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するに当り、微細加工部を形成すべき部位に、レーザヘッド7側及び機構部品20側を作動させつつ加工を施すことで、所望形状の微細加工部を得るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機構部品における微細加工部の加工方法および加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の機構部品において、微細な貫通孔や細溝などを形成する精密加工には、周知のドリル加工や、放電加工が用いられてきた。
ドリル加工は、加工穴の径が小さくなればなるほど、対応するドリルの径も小さくする必要があるため、ドリルの折損率が増大し、機構部品の不良品発生率が高まることになる。
また放電加工は、電気加工の特性上、加工部位と電極との間には、数十〜数100μmの隙間(放電ギャップ)が必須のものであるので、加工穴径が微小になればなるほど、超極細の電極が必要となる。かかる極細電極には、高電圧を印加することはできず、加えて電極は再生不能であり、極めて高価であるが故に、ランニングコストが上昇する。
【0003】
そこで本出願人は、放電加工、ドリル加工等の加工法に代わる加工法として、ウォータジェットレーザ加工装置に注目した(特許文献1参照)。すなわちウォータジェットレーザ加工装置は、高圧水供給部から高圧水を円筒状の水柱として加工部位に噴射し、かかる水柱を導波路として、レーザ発生部からレーザ光を照射して加工を行うものである。
このようなウォータジェットレーザ加工装置によれば、加工部位に噴射される水柱は円筒状で、レーザ光はかかる円筒状水柱内を全反射しながら進行するので真直性が高い。従って、加工部位の位置決めを正確に行うことができ、しかも、エネルギーが水柱内に集約されるので、効率よく高い精度の加工が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−6471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ウォータジェットレーザ加工は、放電加工では得られない利点を有するものであるが、一回、一回の加工範囲は水柱の断面積の範囲内に限られ、その機構部品に応じて自由な形状、任意寸法の加工孔、溝を形成するには、ウォータジェットおよびレーザの発振源か、機構部品側を動かす必要が出てくる。
またその際、留意しなくてはならないのが、加工表面と深潭部におけるレーザパワー値の減衰率の違いである。このウォータジェットレーザ加工法は、細いウォータジェットをレーザの導波路として利用する方法なので、ウォータジェットが極微細幅の中を壁面に干渉しながら、深潭部に到達することから、深潭領域においてはウォータジェットが乱れる故に、有効性が低下するものと考えられる。すなわち、被加工物の表面近傍より、深潭近傍の面粗度は荒くなる傾向があると思われる。
本発明は、以上のような背景から提案されたものであって、ウォータジェットレーザ加工法を生かすべく、機構部品の加工時に機構部品及びレーザ光出射側を、可動可能とすることで、加工精度も良好でより自由な形状の貫通孔を形成可能とした、機構部品における微細加工部の加工方法および加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、機構部品(20)に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するための、機構部品(20)における微細加工部の加工方法であって、機構部品(20)における微細加工部を形成すべき部位に、ウォータジェットレーザ加工を施す際に、高圧水と共にレーザ光を出射するレーザヘッド(7)側及び機構部品(20)側を作動させつつ加工を施すことで、所望形状の微細加工部を得るようにしたことを特徴とする。
【0007】
これにより、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するに当り、機構部品(20)に対応する所望形状の微細加工部を容易に形成することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、レーザヘッド(7)側を機構部品(20)の微細加工部の形成方向に沿って往復動させる一方、機構部品(20)側を揺動させながら加工を行うようにしたことを特徴とする。
【0009】
これにより、機構部品(20)に微細加工部を形成すべき部位に、より効率的に微細加工部が形成される。その場合、レーザヘッド(7)側と機構部品(20)の移動方向、速度を変えることで、意のままに所望形状の微細加工部を形成することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、レーザヘッド(7)側と機構部品(20)側とを、機構部品(20)の揺動動作方向に、相対的に対向するように動作させて加工を施すようにしたことを特徴とする。
【0011】
これにより、一層、効率的に微細加工部を形成することができ、しかも、動かし方により、意のままに所望形状の微細加工部を形成することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、ウォータジェットレーザ加工により機構部品(20)に微細加工部を形成するに当り、微細加工部を形成すべき部位に、高圧水供給部(5)からの高圧水を鉛直方向に円筒噴流として噴射すると共に、高圧円筒噴流を導波路として、レーザ発生部(4)からレーザヘッド(7)を介してレーザ光を照射して加工を行うことを特徴とする。
【0013】
これにより、高圧水供給部(5)からの高圧水が、鉛直方向に円筒噴流として噴射されると共に、高圧円筒噴流を導波路としてレーザ光が照射されることで、微細加工部を形成すべき部位に、ビーム痕が形成され、対応する溝幅の加工溝が形成される。
【0014】
請求項5に記載の発明では、微細加工部を形成すべき部位に対し、レーザヘッド(7)から、鉛直軸方向に高圧水の高圧円筒噴流と共にレーザ光を照射して、レーザヘッド(7)側を機構部品(20)の微細加工部の形成方向に沿って往復動させる一方、機構部品(20)を支える加工テーブル(3)を、鉛直軸を中心として、所定角度、揺動させるようにしたことを特徴とする。
【0015】
これにより、機構部品(20)に微細加工部を形成すべき部位に、鉛直軸を中心として、機構部品(20)を揺動させることで、断面扇形状に拡開する微細溝(10)が形成される。
【0016】
請求項6に記載の発明では、機構部品(20)の微細加工部は、扇形状となっていることを特徴とする。
【0017】
これにより、機構部品(20)における加工部位を揺動させることで、ビームが加工部位に対し、扇形状に当たり、この結果、加工部位には、断面扇形状の微細溝となって形成される。
【0018】
請求項7に記載の発明では、機構部品(20)の微細加工部は、所定径の丸孔(30)であり、レーザヘッド(7)から高圧水と共に出射されるレーザ光が、機構部品(20)における微細加工部の形成面に沿って移動するようにしたことを特徴とする。
【0019】
これにより、所望の径の丸孔(30)を高精度に加工することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明では、機構部品(20)はインジェクタであり、微細加工部は噴孔であることを特徴とする。
【0021】
これにより、インジェクタ(10)の噴孔(26)を、断面扇形状に加工することで、インジェクタ(10)を、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたものとすることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明では、機構部品(20)に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するための、機構部品(20)における微細加工部の加工装置であって、高圧水を水柱(6)として噴射すると共にレーザ光を出射するレーザヘッド(7)を備えたウォータジェットレーザ加工装置(2)と、機構部品(20)を載置して加工を行うための加工テーブル(3)とを具備し、レーザヘッド(7)はレーザヘッド駆動機構(12)を備えると共に、加工テーブル(3)は揺動駆動機構(13)を備え、レーザヘッド(7)をレーザヘッド駆動機構(12)により作動させつつ、加工テーブル(3)を揺動駆動機構(13)により揺動させて、機構部品(20)における微細加工部を形成すべき部位に、高圧水と共にレーザ光を照射して加工を施すことで、所望形状の前記微細加工部を得るようにしたことを特徴とする。
【0023】
これにより、レーザヘッド(7)をレーザヘッド駆動機構(12)により作動させつつ、機構部品(20)を載置した加工テーブル(3)を揺動駆動機構(13)により揺動させることで、微細加工部を形成すべき部位に、水柱(6)が噴射されると共にレーザ光が照射されて、ビーム痕が形成され、微細加工部を形成すべき部位には、所望形状の微細加工部となって形成される。
【0024】
さらに請求項10に記載の発明では、機構部品(20)は、インジェクタであり、微細加工部は噴孔であることを特徴とする。
【0025】
これにより、インジェクタ(10)の噴孔(26)を、断面扇形状に加工することで、インジェクタ(10)を、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたものとすることができる。
【0026】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0027】
機構部品に微細加工部を形成する際、機構部品側及びレーザ出射側を作動させることで、一回、一回の加工範囲は水柱の断面積の範囲内に限られるウォータジェットレーザ加工法であっても、機構部品側またはレーザ出射側の動かし方により、自由な形状の微細加工部を形成することができる。
機構部品がインジェクタである場合、断面扇形状の噴孔として形成することができ、燃料噴霧時に抵抗なく、また、広角度な噴霧が可能で噴霧性能を向上させたインジェクタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工方法を実施する加工装置の一例を示した、模式的な構成説明図である。
【図2】被加工物を具備する機構部品の対象としてのインジェクタの一例を示す、要部断面説明図である。
【図3】図2で示すインジェクタの上方から観た、平面図である。
【図4】本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工手順を説明するための模式的な斜視説明図である。
【図5】本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工手順において、レーザヘッドの加工動作の軌跡を示した、動作線図である。
【図6】本発明の加工方法を用いて微細加工部として丸孔を加工する加工手順の模式的な斜視説明図である。
【図7】他の加工方法を実施するための加工装置の参考例1を示した、模式的な構成説明図である。
【図8】図7で示す加工装置で加工される加工範囲である、レーザ光の照射範囲を示した、線図である。
【図9】加工部位を一定速度で移動させた場合の加工範囲である、レーザ光の照射範囲を示した、線図である。
【図10】ウォータジェットレーザ加工装置を用いた、参考例2にかかる加工装置の、模式的な構成説明図である。
【図11】図10で示す加工装置で加工された被加工物を、仕上げ加工としてのドリル加工を施す、模式的な加工説明図である。
【図12】被加工物を具備する機構部品の対象としてのインジェクタの一例を示す、断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工方法を実施するにあたり用いられる、加工装置1の一例を示す。
本加工装置1は、機構部品(後述)に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するための装置である。
本加工装置1は、詳細は後述するが、ウォータジェットをレーザの導波路として利用するウォータジェットレーザ加工装置2と、機構部品を載置して加工を行うための加工テーブル3とを備える。
【0030】
ウォータジェットレーザ加工装置2は、レーザ光を発生させるレーザ発生部4と、高圧水を発生する高圧水供給部5と、高圧水供給部5から高圧水を水柱6として噴射すると共にレーザ光を出射するレーザヘッド7と、レーザヘッド7から、高圧水を所定の細径円筒状の水柱6として噴射可能とするためのノズル8とを備えて、ノズル8を介して噴射する高圧水の水柱6を導波路として、レーザヘッド7において絞られたレーザ光を照射するようにしている。
【0031】
レーザヘッド7は、レーザ発生部4と光ファイバ9を介して連結している。レーザヘッド7には集光用レンズ10が介在され、高圧水供給部5からの高圧水を導入するための導入口11が設けられている。
【0032】
そして以上のような構成の加工装置1では、ウォータジェットレーザ加工装置2におけるレーザヘッド7には、詳細は図示しないが、微細加工部を構成する輪郭線に沿って水柱6が進行するように、レーザヘッド7を移動させるためのレーザヘッド駆動機構12が設けられている一方、加工テーブル3には、微細加工部の中心を鉛直方向に貫く軸を中心に加工テーブル3を揺動させる揺動駆動機構13が設けられている。
【0033】
レーザヘッド7を移動させるためのレーザヘッド駆動機構12は、例えば、XYステージで構成し、制御盤(図示省略)により制御動作可能な周知の駆動機構でよい。
また、加工テーブル3を揺動させる揺動駆動機構13は、例えばそれぞれ伸縮駆動機構を搭載した多軸リンク旋回支持機構で構成することができ、かかる揺動駆動機構13も制御盤(図示省略)により制御動作可能な構成としている。
これらレーザヘッド駆動機構12と揺動駆動機構13とは、機構部品の微細加工部が所望の寸法、形状のものが得られるように、互いに関連付けて動作を行うように動作プログラムが制御盤に格納されている。
【0034】
ここで、機構部品20の対象としては、図2に示すように、例えばインジェクタを一例として挙げることができる。
機構部品20(以下、インジェクタ20)は、詳細は説明しないが燃料噴射先端側に円筒形状のノズルボディ21と、ノズルボディ21先端に嵌着可能な、被加工物である蓋部22と、後端側にインジェクタ本体(図示省略)に取り付けてなる取付部23とを有している。
【0035】
ノズルボディ21は横断面円形状で軸方向に延び、その中空部21aに針状のニードル弁24が軸方向に移動可能に挿通されている。
また、蓋部22は、図に示すように、先端側が内側に空間を有する略円錐形状のドーム部25を有する。ドーム部25の内側空間には、円錐台状の弁座部25aを形成している。
【0036】
そしてドーム部25の先端には、ドーム部25を肉厚方向に貫通させた長さlの異径噴孔26が形成されている。かかる噴孔26は、図3に示すように左右一対の側壁26a、横壁26bにより区画されている。異径噴孔26の溝幅hは全長に亘って一定である。
これに対して、幅は図2に示すように内周面側のw1から外周面側のw2まで拡開しており、異径噴孔26は扇形状の縦断面形状を有する。よって、左右の側壁26aは細長い矩形状を持つが、横壁26bは扇形状を有する。
【0037】
ニードル弁24はノズルボディ21の案内孔21aの内径よりも小さい外径を有し、両者間には環状の燃料流通路27が画成される。また、ニードル弁24はその先端に、ドーム部25の内側空間の弁座部25aに着座する弁部28を有する。ニードル弁24は軸方向に進退(図1において上下動)され、上方に移動したとき弁部28が弁座部25aから離れて異径噴孔26を開放する。その結果、燃料流通路27内の燃料が異径噴孔26から扇形状の噴霧分布形状で噴射されるようになっている。
【0038】
次に、加工装置1を用いた、上述のインジェクタ20のノズルボディ21先端の蓋部22における微細加工部である、異形噴孔26の加工手順について説明する。
先ず、被加工物である蓋部22を、加工テーブル3に保持しておく。この場合、加工テーブル3は、当初は頂部の被加工物である蓋部22の載置面は、略水平状態にあり、かかる載置面に蓋部22が置かれ、蓋部22に対し、ウォータジェットレーザ加工装置2におけるレーザ発生部4からのレーザ光および高圧水供給部5からの高圧水に基づく水柱6が鉛直方向から当たるようになっている。
【0039】
次いで操作指令が、加工装置1における制御盤により与えられると、ウォータジェットレーザ加工装置2におけるレーザヘッド7には、高圧水供給部5から高圧水が送り込まれ、レーザヘッド7から、ノズル8を通じて高圧水を所定の細径円筒状の水柱6として噴射され、その一方でレーザ発生部4にて発生したレーザ光が、光ファイバ9を介してレーザヘッド7に送られ、レーザヘッド7において集光用レンズ10により所望の径に絞られ、ノズル8を介して噴射する高圧水の水柱6を導波路として、レーザヘッド7において絞られたレーザ光を照射することができる。
【0040】
かくして、ウォータジェットレーザ加工装置2におけるレーザ発生部4からのレーザ光および高圧水供給部5からの水柱6とは、微細加工部である、異形噴孔26を形成すべき部位に、鉛直軸方向から水柱6となって当たる。レーザ発生部4から出射されたレーザ光は、水柱6に沿って全反射しながら進行し、水柱6と共に異形噴孔26を形成すべき部位に漏れなく照射される。
【0041】
かかる水柱6の断面積は、異形噴孔26の面積に比較してはるかに小さいため、所望形状の異形噴孔26を得るために、レーザヘッド7を駆動させるためのレーザヘッド駆動機構12と、加工テーブル3を揺動させる揺動駆動機構13とを、制御盤に予め格納されたプログラムで、互いに関連付けて動作を行う。
例えば、図4、図5に示すように、レーザヘッド7側は、当初、蓋部22のX軸上の適宜な位置を始点として、レーザ発生部4からのレーザ光および高圧水供給部5からの水柱6とが、鉛直軸方向から水柱6となって当たり、加工がスタートする。
レーザヘッド7は、レーザヘッド駆動機構12により、図中、X方向に、異形噴孔26の長さ方向に往復動し、これにより、レーザ光および水柱6は、孔壁面と平行に当っていき、孔壁面が徐々に削られていく。さらにレーザヘッド駆動機構12を、X方向に往復動させる毎に、微小距離、Y方向に徐々に移動させ(オフセットさせ)、その一方で、加工テーブル3側は、揺動駆動機構13により、鉛直軸Zを中心として、所定角度スイングするように、一定速度で揺動させることができる。
【0042】
以上のようにして、被加工物である、蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位には、水柱6と共にレーザ光が、図5に示すように、加工テーブル3の始点から、加工テーブル3の揺動動作に基づいて、左右に、扇形状に噴射、照射され、所望の異形噴孔26が貫通形成されるのである(図4参照)。
【0043】
以上、本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工方法の一例を挙げ、説明したが、ウォータジェットレーザ加工を用いた、機構部品における微細加工部の加工方法としては、レーザヘッド7側と機構部品を支える加工テーブル3側とを双方、作動させる手法において、さらに加工効率を向上させるために、レーザヘッド7側と機構部品20側とを、機構部品20の揺動動作方向に、相対的に対向するように動作させて加工を行うようにすることもできる。
例えば、図5を用いて説明すると、レーザヘッド駆動機構12により、レーザヘッド7を図中、X軸方向に沿って、左方に移動させるときは、機構部品20を支える加工テーブル3を、揺動駆動機構13によって、X軸方向に沿って、右方に振るようにする。
反対に、レーザヘッド7を、X軸方向に沿って、右方に移動させるときは、機構部品20を支える加工テーブル3を、X軸方向に沿って、左方に振るようにする。
このようにレーザヘッド7と加工テーブル3とを、それぞれレーザヘッド駆動機構12、揺動駆動機構13により、制御盤に予め格納されたプログラムで、互いに対向させるように動作を行うことで、機構部品20におけるレーザ光の照射点の移動速度が倍加し、加工の進行を促進することができる。
【0044】
また、本発明では、ウォータジェットレーザ加工装置を用いてレーザヘッド7側及び機構部品20を支える加工テーブル3側を作動させる手法を用いれば、任意の径の丸孔30を加工することもできる(図6参照)。
この場合、レーザヘッド7の動作機構(図示省略)を、高圧水供給部5からの高圧円筒噴流が、微細加工部である、丸孔30の輪郭線を描くように、公転させるようにすることで任意の径の丸孔30を加工することができることになる。
勿論、レーザヘッド7側でなく、機構部品20を支える加工テーブル3側の動作機構を移動させて、丸孔30の輪郭線を描くように、レーザヘッド7からの水柱6を噴射させるようにすることで、丸孔加工を実行することもできる。
【0045】
以上のような機構部品における微細加工部の加工方法の他、以下に記載する参考例1のように、レーザヘッド7側は固定し、機構部品を支える加工テーブル3側を揺動させて行う手法も可能である。
【0046】
(参考例1)
ここでは、機構部品の被加工部位(後述)に対し微細溝を形成するに際し、微細溝を形成すべき被加工部位にレーザ加工を施す際に、機構部品を揺動させながら加工を行うようにしたものである。この場合の加工装置40では、実質的には、図1に示した加工装置1におけるウォータジェットレーザ加工装置2と同様のレーザ加工装置41を備え、揺動可能な加工テーブル3を備えている。なお、レーザ加工装置41については、ウォータジェットレーザ加工装置2と同構成要素には同符号を付して詳細な説明は省略する。
図7に示すように、このレーザ加工装置41では、レーザヘッド7はレーザヘッド駆動機構12が設けられてはおらず、固定型としている。
以上のような加工装置40のレーザ加工装置41によりなされる加工では、加工テーブル3に揺動可能に保持されたインジェクタ20の蓋部22に、水を噴射して水柱6を形成すると共に、該水柱6の中を通してレーザ光を照射するようにしている。
【0047】
なお、加工対象であるインジェクタ20については、図2に示すインジェクタ20を一例として想定しているので、重複図示、説明を避けるため、その図示、説明は省略する。
【0048】
次に、加工装置40のレーザ加工装置41により、インジェクタ20のノズルボディ21先端の蓋部22における微細溝である、異形噴孔26の加工手順について説明する。
先ず、インジェクタ20の蓋部22を、加工テーブル3に保持しておく。この場合、加工テーブル3は、当初は頂部の被加工物である蓋部22の載置面は、略水平状態にあり、かかる載置面に蓋部22が置かれると、蓋部22の中心軸が鉛直軸と一致し、且つ、レーザ加工装置41におけるレーザ発生部4からのレーザ光および高圧水供給部5からの水柱6と一致するようになっている(ニュートラル状態)。
【0049】
次いで操作指令を、加工装置40における制御盤により、加工テーブル3、高圧水供給部5、およびレーザ発生部4に対し与え、蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位に、水を噴射して水柱6を形成すると共に、水柱6の中を通してレーザ光を照射するようにする。
これにより、高圧水供給部5から水柱6用の高圧水が、ノズル8を通じて蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位に、鉛直軸方向から水柱6となって当たる。
一方、レーザ発生部4から出射されたレーザ光は、レーザ発生部4から光ファイバ9を通じて、レーザヘッド3に導かれて所望の径に絞られ、水柱6に沿って水柱6と共に蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位に導かれる。
ここで、加工テーブル3は、図示しない駆動機構により、鉛直軸を中心として、所定角度スイングするように、一定速度で揺動している。
これにより、蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位には、水柱6と共にレーザ光が、図8に示すように、加工テーブル3のニュートラル状態における開始点から、加工テーブル3の揺動動作に基づいて、左右に、扇形状に噴射、照射され、所望の異形噴孔26が貫通形成される。
【0050】
ところで、以上のように、加工テーブル3の揺動動作下に、水柱6と共にレーザ光が蓋部22の異形噴孔26を形成すべき部位に照射されると、レーザ光のパワー値が適切な入力値であっても、実加工上のパワー値は、表面>深潭であることから、深潭近傍の面粗度は悪化傾向となる。
しかしながら、上述のような揺動加工を実施することで、深潭部周辺は、レーザ光の照射点の移動速度Vが、表面寄りのレーザ光の照射点の移動速度Vに比較して低下することで、レーザ光のパワー値が落ちても、加工度合いを所定の水準に維持することができる(図8参照)。
言い換えれば、深潭部周辺は、レーザ光の照射点がより狭い範囲で密集し、重なり合うことになるため、加工面の仕上がり向上につながる。
【0051】
反対に上述のような揺動加工でない加工では、図9に示すように、深潭部近傍では、レーザパワーが減衰しているにもかかわらず、レーザ光の照射点の移動速度Vは、表面側と同一であることから、加工能力が追従することができず、面粗度の悪化は避けられないことは、容易に諒解されよう。
【0052】
以上は、ウォータジェットレーザ加工装置を用いて、機構部品に異形の微細加工部を加工する例を示したが、ウォータジェットレーザ加工装置は、勿論、微細孔の加工に用いることもできるので、以下に参考例2として挙げ、説明する。
【0053】
(参考例2)
ここでは、後述するが下穴加工(ウォータジェットレーザ加工)と、仕上げ加工(ドリル加工他)を組み合わせ実行する加工法を採用する一方で、ウォータジェットレーザ加工装置によるウォータジェットレーザ加工が、精度的に向上した段階では、ウォータジェットレーザ加工のみで高精度の微細孔の加工を行うことも考えられる。
【0054】
この加工装置50におけるウォータジェットレーザ加工装置51(以下、レーザ加工装置51)は、機構部品の被加工物(後述)に対し微細孔を形成するに際し、加工テーブル3に傾斜状態で保持された被加工物Wの微細孔52を形成すべき部位に、形成方向をガイドすべき下穴加工として用いられるものである。
この場合のレーザ加工装置51は、参考例1で示したレーザ加工装置41と同構成であり、各構成要素に対し、同符号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0055】
上述のレーザ加工装置51によりなされる下穴加工は、加工テーブル3に傾斜状態で保持された被加工物Wの微細孔52を形成すべき部位に、水を噴射して水柱6を形成すると共に、この水柱6の中を通してレーザ光を照射するようにしている。
そしてかかるレーザ加工装置51による下穴加工の後は、仕上げ加工としてドリル53を用いてドリル加工を施すようにしている(図11参照)。
【0056】
被加工物Wを具備する機構部品の対象としては、図12に示すように、例えばインジェクタ60を一例として挙げることができる。
インジェクタ60は、詳細は説明しないが筒状のハウジング61を有している。ハウジング61の上端部は燃料入口62として、燃料入口62には、図示しない燃料ポンプから燃料が供給され、燃料は、燃料フィルタ63を経由してハウジング61の内周側に流入するようになっている。
ハウジング61の下端部には、ノズルホルダ64が設けられ、内側に筒状の弁ボディ65が形成されている。かかる弁ボディ65には、軸方向において燃料入口62とは反対側の端部に開口部66を有し、かかる開口部66には、被加工物Wである噴孔プレート67を固着している。噴孔プレート67には、外側に向けて広がるように傾斜形成した微細孔52(以下、噴孔52)を設けている。なお、以上のようなハウジング61、ノズルホルダ64および弁ボディ65の内周側には、ニードル68が、軸方向へ往復移動可能に収容されている。ニードル68は、電磁的駆動手段である駆動部69により、軸方向に上下動し、弁ボディ65との間に燃料が流れる燃料通路70を形成して、開口部66における噴孔プレート67の噴孔52に燃料を送り込み、噴孔52を介して外方に燃料を噴射する構成である。
【0057】
そして、被加工物Wである噴孔プレート67は、薄い板状に形成されている。噴孔プレート67には、弁ボディ65の噴孔プレート67側の端部の略円形状の開口部66に倣うように、噴孔プレート67中心寄りに、複数の傾斜形成した、微細孔である、噴孔52を設けている。
【0058】
次に、上述のインジェクタ60の被加工物Wである噴孔プレート67における微細孔として、噴孔52の加工手順について説明する。
先ず、被加工物Wである噴孔プレート67を、加工テーブル3に傾斜状態で保持しておく。この場合、加工テーブル3に対する噴孔プレート67の傾斜保持角度は、形成すべき噴孔52の傾斜角度に合わせるようにする。
次いで操作指令を、レーザ加工装置51における制御盤により、高圧水供給部5、およびレーザ発生部4に対し与え、被加工物Wの微細孔を形成すべき部位に、水を噴射して水柱6を形成すると共に、水柱6の中を通してレーザ光を照射するようにする。
これにより、高圧水供給部5から水柱6用の高圧水が、ノズル8を通じて被加工物Wの微細孔を形成すべき部位に、水柱6となって傾斜保持角度を以って当たる。
一方、レーザ発生部4から出射されたレーザ光は、レーザ発生部4から光ファイバ9を通じて、レーザヘッド7に導かれて所望の径に絞られ、水柱6に沿って水柱6と共に被加工物Wの微細孔を形成すべき部位に導かれ、加工を施すことができる。
これにより、被加工物Wの微細孔を形成すべき部位には、噴孔プレート67の傾斜保持角度、すなわち、噴孔52の傾斜角度に指向する下穴(パイロット穴)が形成される。
かかる下穴加工を繰り返すことで、被加工物Wには、所望の数の下穴Phを形成することができる。
【0059】
そして、以上のような下穴Phが被加工物Wに形成されると、加工テーブル3に同じ傾斜角度で保持した状態で、仕上げ加工としてのドリル加工を施すようにする(図11参照)。
ドリル53には、噴孔52に対応した径のドリルビット53pが装着されており、かかるドリルビット53pを、レーザ加工装置1における水柱6およびレーザ光と、同一の加工軸方向に沿って、被加工物Wにおける下穴Phに向けて進行させ、ドリル加工を施す。
この場合、ドリルビット53pは、微細な径である噴孔52に対応する極細のものであるが、ドリルビット53pを噴孔52の傾斜角度に指向する下穴Phに沿って、下穴Phをガイドとして進めていくことができるため、ドリルビット53pにかかるストレスを極力、抑えることができるので、ドリルビット53pが折損することなく、確実に穿孔することができる。
【0060】
また、下穴加工としては、ウォータジェットレーザ加工装置を用いるほか、通常のレーザ加工も可能であるが、ウォータジェットレーザ加工装置を用いたほうが、仕上げ加工であるドリル加工時に、ドリル加工での仕上げ量(除去量)を極限まで減らすことができるので、より有利であり、効率的である。
【0061】
また、仕上げ加工には、放電加工も可能である。
【0062】
さらに、上述のウォータジェットレーザ加工装置は、今後、精度的に向上することが期待できる。精度的に所望の水準に達し得た場合には、下穴加工から、仕上げ加工まで、ウォータジェットレーザ加工装置単体で、微細孔の高精度な加工が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上、本発明にかかる機構部品における微細加工部の加工方法を実施するにあたり、機構部品の対象として、インジェクタを挙げ、蓋部における微細溝である、異形噴孔の加工手順を説明したが、機構部品の対象として、勿論、インジェクタに限るものではなく、微細溝を有する様々な機構部品(気化器噴出孔、流体流量調整用オリフィス、印字機噴射ノズル等)も可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 加工装置
2 ウォータジェットレーザ加工装置
3 加工テーブル
4 レーザ発生部
5 高圧水供給部
6 水柱
7 レーザヘッド水柱
8 ノズル
9 光ファイバ
10 集光用レンズ
11 導入口
12 レーザヘッド駆動機構
13 揺動駆動機構
20 インジェクタ
21 ノズルボディ
21a 中空部
22 蓋部
23 取付部
24 ニードル弁
25 ドーム部
25a 弁座部
26 噴孔
26a 側壁
26b 横壁
27 燃料流通路
28 弁部
30 丸孔
40 加工装置
41 ウォータジェットレーザ加工装置
50 加工装置
51 ウォータジェットレーザ加工装置
52 微細孔
53 ドリル
53p ドリルビット
60 インジェクタ
61 ハウジング
62 燃料入口
63 燃料フィルタ
64 ノズルホルダ
65 弁ボディ
66 開口部
67 噴孔プレート
68 ニードル
69 駆動部
70 燃料通路
W 被加工物
h 溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構部品(20)に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するための、機構部品(20)における微細加工部の加工方法であって、
前記機構部品(20)における微細加工部を形成すべき部位に、前記ウォータジェットレーザ加工を施す際に、高圧水と共にレーザ光を出射するレーザヘッド(7)側及び前記機構部品(20)側を作動させつつ加工を施すことで、所望形状の前記微細加工部を得るようにしたことを特徴とする機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項2】
前記レーザヘッド(7)側を前記機構部品(20)の微細加工部の形成方向に沿って往復動させる一方、前記機構部品(20)側を揺動させながら加工を行うようにしたことを特徴とする請求項1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項3】
前記レーザヘッド(7)側と前記機構部品(20)側とを、前記機構部品(20)の揺動動作方向に、相対的に対向するように動作させて加工を施すようにしたことを特徴とする請求項2に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項4】
前記ウォータジェットレーザ加工により前記機構部品(20)に微細加工部を形成するに当り、前記微細加工部を形成すべき部位に、高圧水供給部(5)からの高圧水を鉛直方向に円筒噴流として噴射すると共に、前記高圧円筒噴流を導波路として、レーザ発生部(4)から前記レーザヘッド(7)を介してレーザ光を照射して加工を行うことを特徴とする請求項1ないし3記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項5】
前記微細加工部を形成すべき部位に対し、前記レーザヘッド(7)から、鉛直軸方向に前記高圧水の高圧円筒噴流と共にレーザ光を照射して、前記レーザヘッド(7)側を前記機構部品(20)の微細加工部の形成方向に沿って往復動させる一方、前記機構部品(20)を支える加工テーブル(3)を、鉛直軸を中心として、所定角度、揺動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項6】
前記機構部品(20)の微細加工部は、扇形状となっていることを特徴とする請求項1ないし5記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項7】
前記機構部品(20)の微細加工部は、所定径の丸孔(30)であり、前記レーザヘッド(7)から高圧水と共に出射されるレーザ光が、前記機構部品(20)における微細加工部の形成面に沿って移動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項8】
前記機構部品(20)はインジェクタであり、前記微細加工部は噴孔(26)であることを特徴とする請求項1ないし7記載のうち、いずれか1に記載の機構部品における微細加工部の加工方法。
【請求項9】
機構部品(20)に対し、ウォータジェットレーザ加工により微細加工部を形成するための、機構部品(20)における微細加工部の加工装置であって、
高圧水を水柱(6)として噴射すると共にレーザ光を出射するレーザヘッド(7)を備えたウォータジェットレーザ加工装置(2)と、
前記機構部品(20)を載置して加工を行うための加工テーブル(3)と、
を具備し、
前記レーザヘッド(7)はレーザヘッド駆動機構(12)を備えると共に、前記加工テーブル(3)は揺動駆動機構(13)を備え、
前記レーザヘッド(7)を前記レーザヘッド駆動機構(12)により作動させつつ、前記加工テーブル(3)を前記揺動駆動機構(13)により揺動させて、前記機構部品(20)における微細加工部を形成すべき部位に、高圧水と共にレーザ光を照射して加工を施すことで、所望形状の前記微細加工部を得るようにしたことを特徴とする機構部品における微細加工部の加工装置。
【請求項10】
前記機構部品(20)は、インジェクタであり、前記微細加工部は噴孔(26)であることを特徴とする請求項9に記載の機構部品における微細加工部の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−45906(P2011−45906A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195849(P2009−195849)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】