説明

機能化カーボンナノチューブ

第1の基板(301)上でカーボンナノチューブを成長させる。上記第1の基板(301)上で成長したCNT(101)を生物学的溶液中に所定の深さで浸漬して、上記CNT(101)の末端を生体分子で機能化する。上記第1の基板(301)から上記機能化CNTを採取する。上記CNTの末端を機能化した生体分子に相補的な結合パートナーである相補的な生物学的修飾(203)で第2の基板を機能化する。上記相補的な結合パートナー(203)を介して、上記機能化CNTを上記第2の基板に付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許仮出願第60/761113号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、概して、カーボンナノチューブに関し、より詳細にはカーボンナノチューブの機能化に関する。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)は、それらの電子放出モードで多くの用途に使用されている。これらの用途の一部では、CNTを基板上に堆積させ、その結果、電界放出カソードを生じる。それらの電子放出モードでは、CNTが高電界で動作され、カソード基板へのそれらの付着性が非常に重要である。CNTをカソードに堆積させる方法は、主として2通りある。1つは、化学蒸着(CVD)による基板への直接的堆積であるが、それは、一般的には高熱を必要とし、その結果、低価格基板とは適合性がない。もう1つの方法は、既に製造されているCNTの使用であるが、この場合、カソード基板へのCNTの付着性を確実にするために、インクおよびのりなどを利用しうる。これらのインクおよびのりは、これらのタイプのCNTが基板に付着するのを補助するが、カーボンナノチューブの放出特性が改変され、また、インクまたはのりで構成される結合層からカーボンナノチューブを遊離させるのに、活性化処置を必要としうる。これらのインクまたはのりは、有機物質および無機物質の混合物をベースとしている。概して、インクおよびのりの中のCNTは、より高い閾値電圧を有し、それらの電子放出は均一でなく、その結果、高品質なCNTテレビを産生するのは非常に困難である。さらに、有機物質は電子放出動作に必要な高真空性を妨害しうる。
【特許文献1】米国特許仮出願第60/761113号
【非特許文献1】Braunら、「DNA−Templated Carbon Nanotube Field−Effect Transistor」、Science、302巻、2003年11月21日
【非特許文献2】Savageら、1992、「Avidin−Biotin Chemistry: A Handbook」、米国イリノイ州ロックフォード(Rockford)所在、Pierce Chemical社
【非特許文献3】BeierおよびHoheisel、「Versatile derivatization of solid support media for covalent bonding on DNA−microchips」、Nucleic Acids Research、27巻、1970〜1977頁
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
以下の説明において、本発明の完全な理解を提供するために、特定のカソード材料など、多数の特定の詳細について説明する。しかし、そのような特定の詳細なしでも、本発明を実施しうることは当業者には明白であろう。他の場合では、不必要な詳細で本発明を不明瞭にしないように、よく知られている回路はブロック図の形態で示されている。大部分では、そのような詳細が本発明の完全な理解を得るのに必要でない限り、タイミング要件に関する詳細などは省略した。それらは、当業者の技能の範囲内にある。
【0005】
これより図を参照するが、図中、図示されている要素は必ずしも原寸に比例しているわけではなく、また、同様または類似の要素には、いくつかの図を通して同じ参照番号が指定されている。
【0006】
CNTは、高電場が印加された場合、電場内でアノードに対して整列することが実証されている。結果として、CNTは事前に整列させなければならないという理論は不適切となった。
【0007】
さらに、カーボンナノチューブの長さが実質的に等しければ、電子放出の均一性が改善され、その結果、均一性を破壊する高電場のホットスポットが形成されないことが実証された。
【0008】
本発明の一実施形態はCNTテレビ用のカソードを作製する一例に関して説明するが、本発明はこれらのタイプのデバイスに限定されない。CNT TVカソードの作製に加えて、本発明の実施形態は、それらの間で結合する特定の能力を有するか、CNTの長軸に沿って局在的な様式で結合する他の実体、抗体または化学物質に適用できる。CNTの長軸に沿った特定の位置でCNTを機能化することによって、多数の光電子デバイスが実現されることができ、通常のタイプの超小型電子技術工程の使用によって生じる一部の加工問題および信頼性問題を解決する。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態は、CNTの長軸上における、CNTの正確な位置の機能化を用いる。例えば、ある場合には、CNTの末端の一方、または両端における小さな部分のみを機能化することが所望されよう。他の場合では、長軸の中央部分でのCNTの機能化が所望されうる。例えば、CNTの全長ではなく、CNTの一端のみを機能化することができ、この局所的に機能化されたCNTを基板上に固着させる方法を見出したとしたならば、多数のCNTが一端で上記基板にすべて固着され、電場が加えられた際に、それらの長さの大部分が、自体をアノードに向けて指向させるのに利用できるという状況が実現される。
【0010】
この場合、この方法は、活性化の問題、インクまたはのりの使用の問題(デバイスで必要な真空性を改善する)を解決し、さらに、平均の望ましい長さに対して、非常に長いCNTまたは非常に短いCNTを排除するのにも利用できる。さらに、基板上のカーボンナノチューブの密度を制御するのが、より簡単である。
【0011】
一例として、以下は、CNT TVまたは他の製品での電子放出にCNTカソードをどのように使用しうるかを説明する。これらのカソードは、CNTがそれらの一端のみでその基板に強固に付着し、それらが電界内で屈曲した際に、それらは実質的に同じ長さであり、そのようにして極めて均一な電子放出パターンを実現し、その結果、アノードからの均一な発光をもたらすように作製されたものでありうる。
【0012】
図1を参照して、本発明の方法は、当業界で知られている様々な方法の1つによって、ウェーハ102上で成長させたCNT 101で始まる。例えば、CNT 101が相互に平行となり、多かれ少なかれ平均の高さhを有し、CNT 101がhより長いか、短いものとなるように直立したCNT 101をCVD法によってウェーハ102上で成長させることができる。最大の長さがL、最小の長さがlと仮定する。
【0013】
その上でCNT 101が成長したウェーハ102を、図2に示す精密浸漬装置およびウェーハホルダ204を介してナノメートル精度で機能化剤203の中に浸漬することができる。最終カソード上でのCNT 101の高さが、電場中で約hとなることが望ましいであろうから、長さがhであるか、それより長いCNT 101の末端のみが機能化剤203の中に浸漬されるように、ウェーハ102を浸漬することができる。機能化剤203の一例として、ストレプトアビジンを使用することができる。ストレプトアビジンは、ビオチンという別の化学物質に対する極めて特異的な結合特性を有する。図3を参照して、蛍光顕微鏡によって示されている通り(Braunら、「DNA−Templated Carbon Nanotube Field−Effect Transistor」、Science、302巻、2003年11月21日)、浸漬されたCNTの部分を吸着によってストレプトアビジンが均質的に被覆している。上述の通り機能化した後、制御された化学エッチング(ピラニア液および過硫酸アンモニウム溶液を用いる)、レーザー、ミクロトームまたは他の方法によって、ウェーハ102上のCNT 101を採取する。
【0014】
図4を参照して、カソードのベースとなるであろう基板301(例えばガラス)を、ストレプトアビジンに対して高親和性を有する物質(この例では、ビオチン302を使用することができる)でコーティングする。これらのコーティングは、チオール、スルフヒドリル、またはアミンベースの表面修飾を介して、基板表面に共有結合によって結合させることができる。一例では、アミン基を与えるシラン化ガラスまたはインジウム−酸化スズ(ITO)表面をビオチン−NHSのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基と反応させて、基板とビオチンとの間に共有結合を形成させることができる。図5を参照して、ビオチン302によってコーティングされた基板301によって、ストレプトアビジン吸着CNT 401がカソード表面に局在化される。各ストレプトアビジンタンパク質は、4つのビオチン結合部位を有する。この結合対の相互作用は、Kd=10−14という極端に緊密な結合親和性を生ずる(Savageら、1992、「Avidin−Biotin Chemistry: A Handbook」、米国イリノイ州ロックフォード(Rockford)所在、Pierce Chemical社)。
【0015】
この段階で、機能化CNTをカソード基板上に堆積させる。ストレプトアビジンとビオチンとの間の強固な特異的結合により、図5に示す通り、ストレプトアビジンで機能化されたすべてのCNTが基板に結合し、一方で、ストレプトアビジンで機能化されなかったすべてのCNTが基板に結合せず、洗い落とされるであろう。ここで、高さhは、機能化剤(例えばストレプトアビジン)中への精密ウェーハ挿入の深さによって定義および制御され、上記ウェーハから採取されたCNT集団全体にわたって効果的に均一である。CNTの自由端領域における機能化領域は、ウェーハ上で成長したCNTの元々の長さが可変的であるため、可変的である。図6に示す通り、この可変的機能化領域は表面(例えばビオチン層)に付着し、hが、電界中でアノードに向かって屈曲するのに利用可能な状態に残されるであろう。図中、ストレプトアビジン−ビオチン結合601は単純化された長方形として基板表面に図示されている。長方形601は、CNT 401とビオチン層との間の結合の可変領域を図示するものである。図6は、ディスプレイなどの電界放出デバイスをどのように作製できるかも図示している。アノードに発光体(示されていない)を付加することができる。
【0016】
別法では、この方法で、ストレプトアビジンが図4における第2の基板上となるように、ビオチン−ストレプトアビジン結合を逆にすることができる。
【0017】
図7を参照して、例えば短いデオキシリボ核酸(DNA)オリゴマーの相補的な鎖を用いることによって、この方法を改変することができる。限定されるものではないが、ジスルフィド結合、エステル化、またはアミド化を含めた多数の利用可能な化学的性質を用いて、一方の一本鎖オリゴマー(鎖1)をカソード表面に共有結合によって結合させる。表面への共有結合を可能にする様々な3’または5’末端修飾、例えば5’アミン(NH2)末端を有する概ね長さ100ヌクレオチド未満のDNAオリゴマーを設計することができる。基板がカルボキシル(COOH)末端を有するシランで誘導体化されている場合、縮合反応により、アミド結合を介してDNAオリゴマーが表面に共有結合されるであろう。誘導体化された表面それぞれが核酸オリゴマーを付着させる能力は、官能基および付着条件に応じて変動する。これらの相互作用の化学的性質は、確立されている遺伝子マイクロアレイ技法およびバイオセンサー技法に従って利用することができる(BeierおよびHoheisel、「Versatile derivatization of solid support media for covalent bonding on DNA−microchips」、Nucleic Acids Research、27巻、1970〜1977頁)。必要に応じて、DNAもしくは類似生体物質の高密度格子アレイを実現する、ミクロ容積自動プリンターを用いたDNAマイクロアレイプリンティング技法によって、または特定の領域をDNAもしくはビオチン結合から保護するために、e−ビームで堆積された酸化物のパターン形成を制御できるマスク製作によって、または他の方法によって、この鎖をカソード上でパターン形成させることもできる。相補的な「配列」のオリゴマー(鎖2)は、図2に記載した方法による「精密挿入」法によって、CNT末端に特異的に共有結合で結合させる。この場合、機能化溶液はDNAオリゴマーである。例えば、HSO−HNO溶液中への、本明細書に記載の精密挿入を介した酸処理によってCNTをカルボキシル機能化する(CNT−COOH)か、または同様な修飾物を商業的に購入することができる。縮合反応により、上記CNT−COOHにNH末端DNAを共有結合で結合させ、その結果、CNT−鎖2複合体を生じさせることができる。DNA鎖2で機能化されたCNTは、以後、相補的な核酸鎖の固有のアニーリングによって、鎖1で誘導体化されたカソードに局在化させることができる。この場合、2本鎖DNA複合体の長さはナノメートル規模であり、CNTそれ自体は何ミクロンかの長さである。
【0018】
図8を参照して、Erez Braunらによって部分的に記載されている通り(Braunら、「DNA−Templated Carbon Nanotube Field−Effect Transistor」、Science、302巻、2003年11月21日)、RecAタンパク質を介した相同的DNA組換えを用いて、長いDNAを用いる代替の機構を設計することができる。このシナリオでは、ラムダファージゲノムの末端配列に対応する長さが何百ヌクレオチドの桁の一本鎖DNA(ssDNA)をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で生成させる。このPCR断片は、RecAタンパク質と重合する。RecAは、ssDNAを相補的な二本鎖DNA(dsDNA)と相同的に組換えるのに機能する。別の反応で、標準的な表面化学を介して、直鎖状二本鎖ラムダファージゲノムをカソードの表面に共有結合で結合させる。標準的な表面化学の例は上述されている。RecAが重合したssDNAを、dsラムダDNA誘導体化されたカソードと共にインキュベートし、それにより、RecAによって媒介された相同組換えが起こる。これより、RecAは、カソード表面上のdsDNA複合体と共に存在する。次に、カソード−dsDNA−RecA複合体に抗RecA抗体を添加する。抗RecA抗体はRecAに結合する。その後、抗RecA抗体に特異的に結合するビオチン化二次抗体(例えば市販の抗マウス、抗ウサギなど)をカソード複合体に添加する。その後、上記ビオチン部分を介して、ストレプトアビジン吸着CNT(図2の通り)をカソードに局在させ、しかるべく上記方法を継続する。この場合、二本鎖DNA抗体複合体の長さはCNTそれ自体と同様なものとなる。これらの物質は例であり、カソード基板への化学層の付着性、ならびに機能化CNTと中間層との間の結合の強度に応じて、他の多くの可能性が存在する。
【0019】
本発明およびその利点を詳細に説明したが、添付されている特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な変更、置換、および改変をここに加えることができると理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】基板上で成長し、様々な長さを有するカーボンナノチューブを示す図である。
【図2】ストレプトアビジン中へのCNTの浸漬を示す図である。
【図3】機能化CNTを示す図である。
【図4】ビオチンでコーティングされた基板を示す図である。
【図5】ビオチンに対して高親和性を有するストレプトアビジン吸収CNTを示す図である。
【図6】電界放出デバイスを示す図である。
【図7】基板にCNTを結合させるのに利用されるDNAを示す図である。
【図8】本発明の別の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
101 CNT
102 ウェーハ
203 ストレプトアビジン
204 ウェーハホルダ
301 基板、ウェーハ
302 ビオチン
401 ストレプトアビジン吸着CNT
601 ストレプトアビジン−ビオチン結合、結合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上でカーボンナノチューブ(CNT)を成長させるステップと、
前記第1の基板上で成長したCNTを生物学的溶液中に所定の深さで浸漬して、前記CNTの末端を生体分子で機能化するステップと、
前記第1の基板から前記機能化CNTを採取するステップと、
前記CNTの末端を機能化した生体分子に相補的な結合パートナーである相補的な生物学的修飾で第2の基板を機能化するステップと、
前記相補的な結合パートナーを介して、前記機能化CNTを前記第2の基板に付着させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記生物学的溶液がタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的溶液がDNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的溶液が炭水化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記相補的な生物学的修飾がタンパク質を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記相補的な生物学的修飾がDNAを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記相補的な生物学的修飾が炭水化物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の基板上で成長した前記CNTが様々な長さを有し、長さが少なくとも所定の長さであるCNTのみが生体分子で機能化される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記機能化CNTが付着している前記第2の基板から所定の距離にアノードを配置するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
生物学的な相補的結合対を介して機能化CNTが付着している基板を含むカソードを含む電界放出デバイス。
【請求項11】
前記カソードから所定の距離に配置されているアノードをさらに含む、請求項10に記載の電界放出デバイス。
【請求項12】
電界の影響下でカソードから放出された電子の衝撃に応答して発光する、基板上に堆積した発光体を前記アノードがさらに含む、請求項11に記載の電界放出デバイス。
【請求項13】
前記生物学的な相補的結合対がDNAを含む、請求項10に記載の電界放出デバイス。
【請求項14】
前記生物学的な相補的結合対がビオチンおよびストレプトアビジンを含む、請求項10に記載の電界放出デバイス。
【請求項15】
前記生物学的溶液がストレプトアビジンを含み、前記相補的な結合パートナーがビオチンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記生物学的溶液がビオチンを含み、前記相補的な結合パートナーがストレプトアビジンを含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−523699(P2009−523699A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552540(P2008−552540)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/060881
【国際公開番号】WO2008/057614
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(505131522)アプライド・ナノテック・ホールディングス・インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】