説明

機能性基板とその製造方法及び該機能性基板を含むタッチパネル

【課題】ある膜がパターニングされた場合でも膜が存在する部分と存在しない部分が視認されないようにした機能性基板を提供することを目的とする。
【解決手段】基板の少なくとも一方の面に、パターニングされた光学薄膜と、前記基板とは屈折率の異なる他の光学薄膜が2層以上形成された機能性基板において、前記光学薄膜と前記光学薄膜に隣接した他の光学薄膜との屈折率比が0.85以上、1.0以下(0.85≦n1/n2≦1.0、n1≦n2)である機能性基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニングされた光学薄膜を含む機能性基板とその製造方法及びその基板を含むタッチパネルに係り、より具体的には、透明電極、電磁波遮蔽膜等として有用な透明導電膜とその製造方法および該透明導電膜を用いたタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
パターニングされた光学薄膜を含む機能性基板は、EL表示モジュールやタッチパネルなどに光学部材として用いられている。特に、パターニングされた光学薄膜として挙げられる透明導電膜は、導電性と光学的な透明性とを合わせ持つという特性を有している。このため、産業的には、透明電極、電磁波遮蔽膜、面状発熱膜、反射防止膜等として使用されている。また、学問的にも多くの研究がなされている。
【0003】
これまでに透明導電膜の形成材料としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛等の酸化物、またそれらの混合酸化物が利用されている。この中で現在最も一般的に利用されているのが、酸化インジウムと酸化錫との混合酸化物であり、これはITOと呼ばれている。このITOからなる透明導電膜は、通常、ガラスやプラスチック基材上に成膜されている。
【0004】
ところで、透明導電膜の光学的な透明性の程度は、主として透明導電膜、透明導電膜を形成する基材、空間の媒質、及び透明導電膜に付加的に設けられる機能層の屈折率や吸収率の特性に支配される。
【0005】
そこで、基材上に形成した透明導電膜の透明性を制御する方法としては、透明導電膜、基材、空間の媒質、機能層等の屈折率や吸収率に基づいた光学的設計を行い、それらの構成を決定することが考えられる。
【0006】
ただし、基材や空間の媒質は、当該透明導電膜の用途に応じて定まるので、これらの構成素材を透明導電膜の透明性を制御するために変更することは実際上できない。
【0007】
そこで、基材上に形成した透明導電膜の透明性を制御するために、光学設計により透明導電膜自体についての構成を試みることがなされている。
【0008】
そして、透明導電膜が光学的設計に基づく所定の屈折率や吸収特性となるように、透明導電膜の成膜時の条件を変えることがなされている(下記の特許文献1および特許文献2を参照)。
【0009】
しかしながら、上記の場合のように透明導電膜自体の構成を変化させた場合、光学特性と導電特性の両者の特性が変化してしまう問題があった。
【0010】
この課題に対しては、光学的干渉効果を利用して、かかる薄膜の積層体からなる透明導電膜全体としての透明性を向上させることが検討、実施されている(下記の特許文献3を参照)。この場合、導電性薄膜の膜厚を変更する必要はなく、導電性の低下が引き起こされることも防止できる。また、かかる透明導電膜を、粘着剤を介して他の透明基材に貼りあわせることにより、通常では透明導電膜が形成困難な基材に透明導電性を付加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO00/063924号パンプレット
【特許文献2】特開平11−48387号公報
【特許文献3】特開2009−032548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
確かに、この特許文献3にて開示された発明によれば、透明性を向上させることが可能である。
しかしながら、透明導電膜をパターニングして用いて透明回路を形成するようにした場合、透明導電膜の存在する部分と存在しない部分の光学的干渉効果が異なり、色差が発生する。そして光学的に均等で不可視であることが望まれる透明回路において、その回路部分が視認され得るという問題があった。
【0013】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、ある膜がパターニングされた場合でも膜が存在する部分と存在しない部分が視認されないようにした機能性基板を提供し、更にその機能性基板の製造方法及び該機能性基板を含むタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基板の少なくとも一方の面に、パターニングされた光学薄膜と、前記基板とは屈折率の異なる他の光学薄膜が2層以上形成された機能性基板において、前記光学薄膜と前記光学薄膜に隣接した他の光学薄膜との屈折率比が0.85以上、1.0以下(0.85≦n1/n2≦1.0、n1≦n2)であることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の機能性基板において、前記光学薄膜が、L*a*b*表色系(D65光源、2度視野の色相)における膜の存在する部分と膜の存在しない部分との透過色差ΔE*abtが1以下であり、反射色差ΔE*abrが5以下であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の機能性基板において、前記光学薄膜が透明導電膜であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の機能性基板において、前記他の光学薄膜と前記光学薄膜とが、基材側からこの順に配置して設けられていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の機能性基板において、前記基板が、プラスチックフィルム又はガラスであることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、粘着剤または接着剤を用い、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の機能性基板と他の基板を貼り合わせた積層体である。
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の機能性基板又は積層体を用いたタッチパネルである。
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7の何れか1項の機能性基板または積層体について、真空装置内に複数の材料のターゲットを配置し、透明な基板をロールから連続的に巻出し、装置内を大気に解放することなく他の光学薄膜およびパターニングされた光学薄膜を形成し、その後にロールに巻き取ることを特徴とする、機能性基板または積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明導電膜のようなある光学薄膜がパターニングされた場合でも、当該光学薄膜が存在する部分と存在しない部分が視認されないようになり、例えば、当該光学薄膜を備える機能性基板を用いたタッチパネルの視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の機能性基板の代表的な層構成を表す断面図である。
【図2】実施例1に記載の機能性基板の断面図である。
【図3】実施例2に記載の機能性基板の断面図である。
【図4】比較例に記載の機能性基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、上記の課題を解決するための手段の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
本発明においては、基板の少なくとも一方の面に、パターニングされた光学薄膜と、基板とは屈折率の異なる他の光学薄膜が2層以上形成された機能性基板において、光学薄膜と光学薄膜に隣接した他の光学薄膜との屈折率比が、0.85以上、1.0以下(0.85≦n1/n2≦1.0、n1≦n2)であることを特徴としている。光学薄膜と光学薄膜に隣接した他の光学薄膜との屈折率比が、上記範囲を満たすことにより、パターニング部分の膜が存在する部分と存在しない部分が視認され難くなる。
【0019】
図1は、本発明の機能性基板の代表的な層構成を表す断面図である。この図1に示すものでは、透明基材1の少なくとも一方の面に、第1の光学薄膜11、第2の光学薄膜12、第3の光学薄膜13からなる他の光学薄膜、及びパターニングされた第4の光学薄膜14を順次積層させてなる。
【0020】
ここで、光学薄膜は、無機化合物、有機化合物、有機無機化合物あるいはそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0021】
実用上は、フッ化マグネシウム(1.39)、二酸化珪素(1.45)、酸化マグネシウム(1.6)、酸化アルミニウム(1.63)、酸化インジウム(2.03)、酸化錫(2.03)、酸化亜鉛(2.10)、酸化ニオブ(2.30)、酸化ジルコニウム(2.07)、酸化チタン(2.45)、等の無機化合物及びその混合物が特に好適に用いられる。但し、上記括弧内の数値は屈折率を表す。
【0022】
また、前記のパターニングされた第4の光学薄膜14を導電性薄膜とする場合の導電性材料としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン等の酸化物及びその混合酸化物等をあげることができる。特に、ITOと呼ばれる酸化インジウムと酸化錫の混合酸化物が好適に用いられる。
【0023】
この導電性材料には、必要に応じて、Al、Zr、Ga、Si、W等の添加物を含有させることができる。
【0024】
また、図1に示す、パターニングされた第4の光学薄膜14は、基板1の一方の面に、2層以上の他の光学薄膜、パターニングされた光学薄膜の順に積層されていてもよく、基板と光学薄膜との間、または、光学薄膜と光学薄膜との間に積層されていてもよい。
【0025】
本発明において上記の条件を満たした場合、隣接した光学薄膜の一方がパターニングされたときにでも、膜の存在する部分と膜の存在しない部分の透過色差ΔE*abtが1以下及び、反射色差ΔE*abrが5以下とすることが容易となる。ここで、光学薄膜が、L*a*b*表色系(D65光源、2度視野の色相)における膜の存在する部分と膜の存在しない部分との透過色差ΔE*abtが1以下であり、反射色差ΔE*abrが5以下であることを示す。ここで、色差ΔE*はJIS Z8730に準拠しており、D65光源2度視野で算出した。
【0026】
特に、光学薄膜が透明導電膜であり回路等でのパターニングした場合にその電極回路が不可視となることが本発明の有用な形態である。
【0027】
基材としてはガラスやプラスチックフィルムが使用できる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、トリアセチルセルロース、これらの共重合体の無延伸あるいは延伸フィルムを用いることが出来る。また、透明性の高い他のプラスチックフィルムを用いることも出来る。その厚さは、基材の可撓性を考慮し、10〜200μm程度のものが好ましく用いられる。この内透明性やフィルムの入手性からポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが好ましく用いられる。
【0028】
なお、これらの透明基材は、易接着処理、プラズマ処理、コロナ処理、ハードコート処理などの1種類以上の表面処理が施されていてもよい。
【0029】
また、本発明では、粘着剤、接着剤等の手段を用い機能性基板と他の基板を貼り合わせるようにしてもよい。
【0030】
粘着剤、粘着剤としては、透明性を有すれば特に制限はないが、アクリルやシリコーン系粘着剤などが好ましい。
【0031】
本発明における光学薄膜の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でも良く、真空蒸着法、スパッタリング等の物理的気相析出法、プラズマCVD法などの真空成膜プロセスや、マイクログラビア、スクリーン印刷等のウェットプロセスの各種コーティング方法を用いて形成することができる。なかでも大面積に均一な膜質の薄膜を形成するために、プロセスが安定し、薄膜が緻密化するスパッタリング法が望ましい。とくに好ましくは、公知のロール・ツー・ロール法を用いて該積層体を連続して形成することである。
【0032】
次に、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図2(a)に示すように、基板として、188μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。ロール・ツー・ロール法にて、光学薄膜21(屈折率2.30・Nb)、光学薄膜22(屈折率1.46・SiO)、光学薄膜23(屈折率2.30・Nb)を順に形成した機能性基板2−1を作製した。光学薄膜21,22,23の厚みはそれぞれ8nm、40nm、2nmとした。
【0034】
また、図2(b)に示すように、機能性基板2にさらに光学薄膜24(屈折率2.03・ITO)を形成した機能性基板2−2を作製した。光学薄膜24の厚みは23nmとした。
【0035】
隣接する光学薄膜23と光学薄膜24の屈折率比は2.03/2.30=0.88であり、機能性基板2−1と機能性基板2−2の透過色差ΔE*abtが0.7、反射色差ΔE*abrが3.0であった。
【実施例2】
【0036】
図3(a)に示すように、基板として、188μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。ロール・ツー・ロール法にて、光学薄膜31(屈折率2.30・Nb)、光学薄膜32(屈折率1.46・SiO)、光学薄膜33(屈折率2.07・ZrO)を順に形成した機能性基板3−1を作製した。光学薄膜31,32,33の厚みはそれぞれ9nm、46nm、3nmとした。
【0037】
また、図3(b)に示すように、機能性基板3−1にさらに光学薄膜34(屈折率2.03・ITO)を形成した機能性基板3−2を作製した。光学薄膜24の厚みは23nmとした。
【0038】
隣接する光学薄膜33と光学薄膜34の屈折率比は、2.03/2.07=1.0であり、機能性基板3−1と機能性基板3−2の透過色差ΔE*abtが0.5、反射色差ΔE*abrが1.1であった。
【比較例】
【0039】
図4(a)に示すように、基板として、188μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。ロール・ツー・ロール法にて、光学薄膜41(屈折率2.30・Nb)、光学薄膜42(屈折率1.45・SiO)を順に形成した機能性基板4−1を作製した。光学薄膜41,42の厚みはそれぞれ8nm、40nmとした。
【0040】
また、図4(a)に示すように、機能性基板4にさらに光学薄膜43(屈折率1.98・ITO)を形成した機能性基板4−2を作製した。光学薄膜43の厚みは25nmとした。
【0041】
隣接する光学薄膜42と光学薄膜43の屈折率比は、1.45/1.98=0.73であり、機能性基板4−1と機能性基板4−2の透過色差ΔE*abtが1.1、反射色差ΔE*abrが5.4であった。
【符号の説明】
【0042】
1,2,3,4…透明基材
11…第1の光学薄膜
12…第2の光学薄膜
13…第3の光学薄膜
14…第4の光学薄膜
21…光学薄膜(屈折率2.30・Nb
22…光学薄膜(屈折率1.46・SiO
23…光学薄膜(屈折率2.30・Nb
24…光学薄膜(屈折率2.03・IT
31…光学薄膜(屈折率2.30・Nb
32…光学薄膜(屈折率1.46・SiO
33…光学薄膜(屈折率2.07・ZrO
34…光学薄膜屈折率2.03・ITO)
41…光学薄膜(屈折率2.30・Nb
42…光学薄膜(屈折率1.45・SiO
43…光学薄膜(屈折率1.98・ITO)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも一方の面に、パターニングされた光学薄膜と、前記基板とは屈折率の異なる他の光学薄膜が2層以上形成された機能性基板において、
前記光学薄膜と前記光学薄膜に隣接した他の光学薄膜との屈折率比が0.85以上、1.0以下(0.85≦n1/n2≦1.0、n1≦n2)であることを特徴とする機能性基板。
【請求項2】
前記光学薄膜が、L*a*b*表色系(D65光源、2度視野の色相)における膜の存在する部分と膜の存在しない部分との透過色差ΔE*abtが1以下であり、反射色差ΔE*abrが5以下であることを特徴とする請求項1に記載の機能性基板。
【請求項3】
前記光学薄膜が透明導電膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の機能性基板。
【請求項4】
前記他の光学薄膜と前記光学薄膜とが、基材側からこの順に配置して設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の機能性基板。
【請求項5】
前記基板が、プラスチックフィルム又はガラスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の機能性基板。
【請求項6】
粘着剤または接着剤を用い、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の機能性基板と他の基板を貼り合わせた積層体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の機能性基板又は積層体を用いたタッチパネル。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項の機能性基板または積層体について、真空装置内に複数の材料のターゲットを配置し、透明な基板をロールから連続的に巻出し、装置内を大気に解放することなく他の光学薄膜およびパターニングされた光学薄膜を形成し、その後にロールに巻き取ることを特徴とする、機能性基板または積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−71422(P2012−71422A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215902(P2010−215902)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】