説明

欠陥検査方法及び欠陥検査装置

【課題】
微小欠陥を試料にダメージを与えることなく高速に検査すること。さらに大欠陥についても、散乱光量を精度良く検出し、欠陥寸法および欠陥座標を高精度に算出すること。
【解決手段】
互いに異なる複数の照度による照明、あるいは互いに異なる複数の感度の画素による検出により、互いに実効感度の異なる複数の信号を得、それらを選択利用することで、高感度、広ダイナミックレンジ検査を実現する。さらに上記複数の信号を同時並列に出力し、処理することにより、高速検査を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料表面に存在する微小な欠陥を高感度かつ高速に検査する欠陥検査方法および欠陥検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板や薄膜基板等の製造ラインにおいて、製品の歩留まりを維持・向上するために、半導体基板や薄膜基板等の表面に存在する欠陥の検査が行われている。従来技術としては特許文献1や特許文献2が知られている。微小な欠陥を検出するために試料表面上に数十μmに集光したレーザビームを照射して、欠陥からの散乱光を集光・検出している。
【0003】
上記方法において、平坦な金属および誘電体上の球状粒子に対して照明光を照射した場合の、球状粒子からの散乱光の強度および角度分布の算出方法として非特許文献1が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−304289号公報
【特許文献2】特開平2000−162141号公報
【非特許文献1】P. A. Bobbert and J. Vlieger, “Light scattering by a sphere on a substrate”, Physica A, Volume 137, Issue 1−2, p. 209−242 (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LSI配線の微細化は年々進展しており、検出すべき欠陥のサイズは光学式検査の検出限界に近づいている。半導体ロードマップによると2007年では寸法32.5nm、2011年以降では寸法20nm以下の欠陥を検出する能力が必要とされている。
【0006】
LSI基板上の微小な欠陥を高速に検査するには、短い検査時間内に、検出器で検出できるだけの十分な散乱光量を微小な欠陥から得る必要がある。このためには高出力の光源を用いて高照度の照明を行うことが有効であるが、照度を上げすぎると、照射領域の加熱が大きくなりLSI基板にダメージを与えるため、高照度化による感度向上には限界がある。
【0007】
また、微小欠陥からの散乱光を検出可能な装置構成とした場合、試料上に微小欠陥と同時に存在する中程度あるいは大寸法の欠陥から大きな散乱光が発生するため、微小欠陥を検出するのと同じ検出器でこれらを検出した際に出力が飽和する。例えば寸法500nmの粒子の散乱光量は寸法20nmの粒子の散乱光量の約100万倍であり、通常の光検出器(光電子増倍管やフォトダイオード)のダイナミックレンジ(60dB〜80dB)にて後者を検出する場合、前者の信号は飽和する。検出器出力が飽和すると、正しい散乱光量が分からなくなるため、散乱光量に基づいた欠陥寸法の算出が困難となる。また、欠陥散乱信号の波形に基づいて、例えば欠陥波形の重心などを用いて、欠陥位置の特定を行う場合も、信号の飽和により欠陥座標算出の精度が低下するなどの課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、微小欠陥を検出可能であり、かつ大欠陥に対しても欠陥寸法あるいは欠陥座標の高精度算出が可能な、欠陥検査方法及び欠陥検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は、試料上の概略全面にわたる走査を1回行う間に試料上の概略同一領域を複数回照明・検出し、得た信号を加算、飽和判定、選択利用することで高感度の検査を行うことを特徴とする。すなわち、互いに異なる複数の照度による照明、あるいは互いに異なる複数の感度の画素による検出により、互いに実効感度の異なる複数の信号を得、それらを選択利用することで、検出信号の飽和を回避しつつ高感度な欠陥検出を行う。
【0010】
以下、本願で開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次の通りである。
(1)試料表面を検査する欠陥検査装置であって、前記試料を保持するステージと、前記試料表面での照明領域が線状となるようにレーザビームを照射する照明光学系と、前記試料表面における線状照明領域から散乱された光を検出する複数の画素を備えた検出器を有し、前記検出器の複数の画素より得られた互いに実効感度の異なる複数の検出信号を並列に出力する検出光学系と、前記複数の検出信号から飽和していない検出信号を選択し、前記選択された検出信号に基づいて欠陥を検出する信号処理系と、を有することを特徴とする欠陥検査装置である。
(2)(1)記載の欠陥検査装置であって、前記検出光学系により並列に出力される複数の検出信号は、前記試料表面の同一領域を複数回照明して各々検出された散乱光に基づくものであることを特徴とする欠陥検査装置である。
(3)試料表面の欠陥を検査する欠陥検査方法であって、前記試料表面の同一領域にレーザビームを複数回照射する第一工程と、前記同一領域からの散乱光をそれぞれの回において検出し、互いに実効感度の異なる複数の検出信号を得る第二工程と、前記複数の検出信号から飽和していない検出信号を選択し、前記選択された検出信号に基づいて欠陥を検出する第三工程と、を有することを特徴とする欠陥検査方法である。
(4)(3)記載の欠陥検査方法であって、前記試料表面で線状となるようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小な欠陥から大寸法の欠陥まで検出および寸法算出可能な欠陥検査方法及び欠陥検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る欠陥検査装置の第一の実施形態は、図1に示す通り、ウエハ1に照明光を照射する照明光学系101と、前記照明光によるウエハ1からの散乱光を第一の方向から検出する検出光学系102と、ウエハ1を載置可能なステージ103と、検出光学系102にて得られた検出信号を処理する信号処理部105と、全体制御部53及び表示部54とを少なくとも有して構成され、必要に応じて、ウエハ1における照明領域内での照度分布をモニタする観察光学系104と、ウエハ1からの散乱光を第二の方向から検出する斜方位検出光学系33(図示せず)を含んで構成される。
【0013】
照明光学系101はレーザ光源2、アッテネータ3、偏光素子4、ビームエキスパンダ7、照度分布制御素子5、反射ミラーm、集光レンズ6を適宜用いて構成される。
レーザ光源2から射出されたレーザ光は、アッテネータ3で所望のビーム強度に調整され、偏光素子4で所望の偏光状態に調整され、ビームエキスパンダ7で所望のビーム径に調整され、反射ミラーmおよび集光レンズ6を介して、ウエハ1の被検査領域に照明される。照度分布制御素子5は、ウエハ1上における照明の強度分布を制御するために用いられる。
レーザ光源2としては、ウエハ表面近傍の微小な欠陥を検出するには、短波長の紫外または真空紫外のレーザビームを発振し、かつ出力1W以上の高出力のものが用いられる。ウエハ内部の欠陥を検出するには、可視あるいは赤外のレーザビームを発振するものが用いられる。
【0014】
また、集光レンズ6として、シリンドリカルレンズを用いることで、レーザ光の照射されるウエハ表面上の領域(照野)が、ある方向に長く、それに垂直な方向には短い形状となる。あるいは、複数のプリズムから構成されるアナモフィック光学系を用い、光軸に垂直な平面内における一方向のみに関してビーム径を変化させた後、円形レンズを使ってウエハ上にてある方向に長く、それに垂直な方向には短い形状の領域の照明を行うことも可能である。アナモフィック光学系は、光軸調整が容易になる点で有効である。
【0015】
ステージ103は、ステージ制御部55、並進ステージ11、回転ステージ10、Zステージ(図示せず)を用いて構成される。図2に、ウエハ1上の照明領域(照野20)と、回転ステージ10および並進ステージ11の運動による走査方向との関係およびそれによりウエハ1上に描かれる照野20の軌跡を示す。照野20は、回転ステージ10の回転運動によって、回転ステージ10の回転軸を中心とした円の円周方向S1、ステージ11の並進運動によって、ステージ11の並進方向S2に走査される。照野20の長手方向が走査方向S2と平行となり、かつ走査方向S2の走査によって回転ステージ10の回転軸を照野20が通過するように、照明光学系101が構成される。Zステージの移動は、ウエハ1の高さ、すなわちウエハ1表面の法線方向の移動に対応する。以上の構成において、走査方向S1の走査によりウエハを1回転する間に、走査方向S2の走査を照野20の長手方向の長さ以下の距離だけ行うことにより、照野がらせん状の軌跡Tを描き、ウエハ1の全面が走査される。
【0016】
紫外光を100nm以下の微小異物を照射した場合は、ウエハ表面法線より傾斜した斜方よりP偏光照明を行った場合に大きな散乱光を発し、特に照明入射角75度以上で極大となる。また、斜方から照明を行った際に発生する散乱光の角度分布はウエハ表面法線より傾斜した角度に強く偏り、特にウエハ表面法線より60度から65度傾斜した角度範囲を中心に強く出射する。本実施形態では、微小異物からより大きな散乱光を検出するため、斜方から照明し、斜方から検出する構成となっている。基板上粒子による散乱の照明角度依存性、散乱光強度の角度分布に関するこれらの知見は、非特許文献1に基づいた計算によって得られる。
【0017】
検出光学系102は、図3に示す通り、結像系8、偏光フィルタ13、およびリニアアレイセンサ9を用いて構成される。偏光フィルタ13は結像系8の光軸A上へ着脱可能であり、ノイズ要因となるウエハラフネス等による散乱光成分を低減する目的で用いる。図3(a)は、結像系8の光軸Aと走査方向S2を含む面の断面図である。結像系8により、照野20の像がリニアアレイセンサ9上に結像される。リニアアレイセンサ9の長手方向、すなわち複数画素の並び方向が走査方向S2と平行に置かれ、照野20の長手方向に対応する。図3(b)は、結像系8の光軸Aと走査方向S1を含む面の断面図である。異物からより大きな散乱光を得るためには、前述の通り、光軸Aはウエハ1表面法線方向に対して傾斜させるのが有効である。紫外光を斜方照明する場合、ウエハ法線から60度から65度の角度範囲を中心に散乱光が強く出るため、この方向を結像系8の検出角度範囲に含むような構成をとるのが有効である。
【0018】
ここで、結像系8の実施形態について反射光学系701を用いて構成した例を図17に示す。図17(a)(b)は、楕円面鏡による構成例である。いずれも楕円の第一焦点位置を照明光の照射位置とし、第二焦点位置をリニアセンサアレイ9の受光面に配置する。図17(a)はウエハ面に対して浅い角度で出射する散乱光をリニアアレイセンサ9に導くのに適する。図17(b)は、広い角度範囲に出射する散乱光をリニアアレイセンサ9に導き、微小欠陥の検出に適する。図17(c)は、シュバルツシルト光学系による構成例である。波長200nm以下の短波長で照明する場合に散乱光をリニアアレイセンサ9に結像するのに適する。
【0019】
リニアアレイセンサ9の構成例を図4に示す。図4(a)に示すリニアアレイセンサ9の第一の形態は、イメージインテンシファイア21、リレーレンズ22、およびフォトダイオードアレイ23を用いて構成したものであり、微弱な異物散乱光の検出に適する。リニアアレイセンサ9はイメージインテンシファイア21により入射光が増幅され、増幅された光はリレーレンズ22を介してフォトダイオードアレイ23に再結像される。この構成により、微弱光が高感度に検出され、かつ画素毎の信号が並列に高速出力される。図4(b)に示すリニアアレイセンサ9の第二の形態は、イメージインテンシファイア22によって増幅された光を、ファイバ結像部24によってフォトダイオードアレイ23に出力する構成としたものである。これらの形態に限られず、検出光学系102の構成の簡素化を図る場合には、リニアアレイセンサ9として、電子増倍機能と信号の並列出力が可能なマルチアノード光電子増倍管や、アバランシェフォトダイオードアレイを用いてもよい。
【0020】
次に、ウエハ上での欠陥位置P、照野20、および検出光学系102の概略の位置関係を図5に示す。以下、簡単のため、本実施例ではリニアアレイセンサ9が4画素からなるものとして説明する。照野20が結像系8によってリニアアレイセンサ9の受光面上に結像される。時刻t=t1(図5(a))において、ウエハ上の欠陥位置Pが、画素9aの位置と共役の関係にあり、この時点で欠陥Pからの散乱光が画素9aにて検出される。時刻t=t2=t1+Δt(図5(b))では、照野20を基準として考えた場合、S1方向の走査によって欠陥位置Pがウエハ上を1回転し、S2方向の走査によって時刻t1とΔrずれた位置に欠陥位置Pが来る。Δrはリニアアレイセンサ9の受光面における画素間隔に対応し、この時点では欠陥Pからの散乱光が画素9bにて検出される。同様に、時刻t3では欠陥Pからの散乱光が画素9cにて、時刻t4では欠陥Pからの散乱光が画素9dにて検出される。
【0021】
走査方向S1の走査速度(角速度)をω、走査方向S2の走査速度をvとすると、照野20上に欠陥位置Pが来る時間間隔はΔt=2π/ω(数1)、走査方向S2の間隔はΔr=2πv/ω(数2)となる。リニアセンサアレイ9の画素間隔と結像系8の光学倍率からΔrが決まる。(数2)の関係を満たす走査速度ω、vを設定すれば、ウエハ上の同一箇所からの散乱光信号が、時間間隔Δtごとに、リニアアレイセンサ9の互いに異なる画素から出力される。この信号に対し、後述する信号処理部105において加算、並列読出し処理を行う。ウエハ上の同一箇所に時間間隔をあけて複数回照射し、各々で得られた散乱光信号を加算することにより、高照度化によるウエハへの加熱ダメージを与えることなく、高感度で広ダイナミックレンジの検査が実現される。
【0022】
斜方位検出系33の概略構成を図6に示す。斜方位検出系33は、集光レンズ29、偏光フィルタ30、視野絞り31およびポイントセンサ32を適宜用いて構成される。検出光学系102の光軸が照野20の長手方向に対して垂直な方向の面内にあるのに対して、斜方位検出系33の光軸は、照野20の長手方向に垂直な方向に対して傾斜している。照野20上に、検出光学系102のリニアアレイセンサ9に対応する視野27が存在する。図6(a)に示すように、視野27内で、リニアアレイセンサ9の任意の画素に対応する領域からの散乱光を検出するように、集光レンズ29、視野絞り31、およびポイントセンサ32が構成、配置される。ポイントセンサ32は、リニアアレイセンサ9の任意の画素による検出位置にポイントセンサ視野28を有し、ここから出射される散乱光を検出光学系102とは異なる検出方位、検出角度で検出し、得られた散乱光信号を出力する。
【0023】
図6(b)に、斜方位検出系33の別の構成例を示す。図6(b)は、集光レンズ29、偏光フィルタ30、視野絞り31およびリニアアレイセンサ32’を適宜用いて構成される。視野27のリニアセンサアレイ9各画素に対応する位置を、リニアセンサアレイ32’により検出するように構成される。照野20の長手方向に対して傾斜した方位からの検出になるため、像面が光軸から傾斜する。この傾斜に対応するようリニアセンサアレイ32’を光軸に対して傾斜させる。図6(a)の構成では、斜方位検出系33をコンパクト、かつ安価に構成できる。一方、図6(b)の構成では、照野20の長手方向に垂直な方向に対して傾斜した方向へ出射する散乱光による信号が、時間間隔Δtごとに、リニアアレイセンサ33’の互いに異なる画素から出力される。この信号に対し、後述する信号処理部105において加算、飽和判定、選択使用等の処理を行うことで、高感度、広ダイナミックレンジの検査が実現される。
【0024】
検出光学系102と斜方位検出系33各々によって検出される散乱光の角度成分の関係を図7(b)を用いて示す。図7(a)は検出される角度範囲の表示方法の説明である。図7(a)は、赤道面がウエハ表面に対応し、ウエハ表面の法線方向を天頂とする半球を示す。走査方向S2を基準とする方位角(経度)をφ、天頂からの角度をθとする。検出光学系102あるいは斜方位検出系33によって検出される角度範囲は、半球上の領域Rによって示され、これを赤道面に平行な面に平行投影して表示したのが図7(b−1)(b−2)である。検出光学系102による検出角度範囲を斜線の網掛けで、斜方位検出系33による検出角度範囲を網点で表示している。図7(b−1)(b−2)のように、検出光学系102と斜方位検出系33を各々複数備えて、広い角度範囲をカバーすることで、様々な種類の欠陥を検出することが可能である。また、欠陥種や欠陥寸法によって、欠陥散乱光の角度分布が異なるため、様々な角度の散乱光強度を複数の検出系によって同時に検出し、後述する信号処理部105によって処理することで、欠陥種の分類や欠陥寸法の推定を高精度で行うことが可能である。図7(b−1)は微小寸法から大寸法の異物を検査するのに適した検出系配置の一例である。感度の高い検出光学系102の構成にて、θ=60〜65度を含む散乱光成分を高NA(開口数)で検出することで、ごく微小な欠陥の検出が可能である。図7(b−2)は、結晶欠陥(COP:Crystal Originated Particle)を検査するのに適した検出系配置の一例である。結晶欠陥は凹欠陥であるため、低仰角(θ:大)の散乱光が出にくい。そのため、結晶欠陥を検出するには、感度の高い検出光学系102の構成にて、高仰角(θ<30度)の散乱光成分を検出することで、微小な結晶欠陥まで検出可能である。微小異物の散乱光が強く出る低仰角の散乱光成分も合せて検出することで、微小異物と結晶欠陥の同時検出、分類が可能である。なお、検出光学系102と斜方位検出系33の位置関係及び配置数は図7(b−1)(b−2)に限られず、例えば、図7(b−2)に示す8つの方位全てを検出光学系102で構成しても良いし、配置数を増減しても良く、種々変更可能である。
【0025】
照明光学系101による斜方照明の方位と、走査方向S1、S2との関係を図8に示す。図8(a)は、走査方向S2に平行な方位Iで照明する例である。ステージの高さ方向の位置ずれや振動があった場合に、照野20の位置ずれが欠陥検出座標の誤差として現れる。図8(a)の構成であれば、照野20の位置ずれが照度分布の勾配が緩やかなS2方向に起こるため、照度分布の勾配が急なS1方向に位置ずれが起こる場合と比較して、欠陥検出座標の誤差が相対的に小さくなる利点がある。図8(b)は別の実施例であり、照明方位をI1とI2の2方位としている。照明光学系101の光路を分岐することで実現される。ウエハの研磨工程などで生じるスクラッチなどの異方性がある欠陥を検査する場合に、照明方位と欠陥方位との関係によって発生する散乱光量が大きく変わり、検査感度にムラが出る問題がある。図8(b)のように互いに異なる2方位の照明を行うことで、欠陥方位による検査感度の変動を抑え、異方性のある欠陥についてもロバストな検査を行うことができる。
【0026】
次に、照明光学系101における照度分布制御素子5の構成と照度分布制御方法について図9を用いて説明する。図9(a)は透過型光学素子を照度分布制御素子5として用いた場合の構成例である。レーザ光源2から発し、前述の照明光学系101の構成により所望の強度、偏光、ビーム径に調整され、照度分布制御素子5を透過し、集光レンズ6を介してウエハ1上に導かれる。図9(b)は反射型光学素子を照度分布制御素子5として用いた場合の構成例である。照度分布制御素子5としては、透過する光の光軸に垂直な面内の、二次元的(図9(c))、あるいは一次元的(図9(d))な位置ごとに、透過する光の強度あるいは位相を変化させる機能を有する光学素子を用いる。集光レンズ6との関係を、照度分布制御素子5の光透過面の像がウエハ1上に結像される構成とすることで、照度分布制御素子5により変調された光強度分布の相似形がウエハ1上に投影される。あるいは、集光レンズ6からウエハ1上と光軸との交点との距離、および集光レンズ6から照度分布制御素子5の透過面との距離を共に集光レンズ6の焦点距離と等しくすることで、照度分布制御素子5の光透過面における光振幅分布のフーリエ変換像がウエハ1上に投影される。このような構成により、照度分布制御素子5により与える透過率および位相分布に応じた照度分布がウエハ1上に形成される。集光レンズ6としてシリンドリカルレンズを用いることで、上記作用を1軸のみに作用させ、もう一方の軸方向には照明光を集光して、走査方向S2には照度分布制御素子5により与える透過率および位相分布に応じた照度分布を与え、走査方向S1には短い領域のみを照明することが可能である。レーザ光源2によって発するレーザ光が実質的にガウスビームであり、照度分布制御素子5を特に作用させない場合には、ビームエキスパンダ7、および集光レンズ6により形状の決まるガウス分布がウエハ上に投影される。
【0027】
与える透過率分布あるいは位相分布が固定なものとして、回折光学素子(DOE)、ホモジナイザ(マイクロレンズアレイ、光ファイババンドル、あるいは中空パイプの内面に反射コーティングを施したもの(図9(e)))などがある。全体制御部53より制御されるコントローラ14を接続し、照度分布制御素子5が動的に可変な空間光変調素子(SLM:Spatial Light Modulator)を用いた構成とすることで、照野20がウエハ1を走査する前後あるいは走査している間に、照度分布が任意の形状になるよう動的に制御、調整される。動的に可変な空間光変調素子の例としては、透過型のものには、液晶素子、磁気光学空間光変調素子などがある。反射型のものには、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、グレーティングバルブ(GLV)、LCOS等の反射型液晶素子などがあり、適宜選択可能である。
【0028】
上記構成および後述の観察光学系104により照度分布をモニタすることにより、照度分布の制御に加え、照明光学系101に含まれる光学素子の収差や位置ずれによる照度分布のずれ、歪みなどを照度分布制御素子5の調整により補正することが可能である。また、環境の変化などにより、照度分布のずれ、歪み、乱れが動的に変動した場合にも、動的に可変な空間光変調素子の調整により補正することが可能である。
【0029】
上記構成により形成される照度分布の例を図10に示す。ウエハ上の照野20において、走査方向S2方向に対して、図10に示すように照度分布に傾斜あるいは位置依存性を持たせることにより、同じ欠陥を検出する場合でも、照度の強い箇所と共役点にある画素には強い散乱光が入射するため、その画素からは大きな信号が得られるのに対して、照度の弱い箇所と共役点にある画素には弱い散乱光が入射するため、その画素からは相対的に小さな信号が得られる。すなわち、同一欠陥からの散乱光を実効的に高感度の画素と低感度の画素で検出することに相当する。リニアアレイセンサ9の受光面に強度フィルタを貼付するなどの手段で画素ごとの感度を互いに異なるものにすることによっても同等のことが実現できる。照度分布に傾斜あるいは位置依存性を持たせる方法では、前記の照度分布制御素子5の調整により、感度分布の調整、変更が可能である利点がある。これらの方法により、リニアアレイセンサ9の画素ごとの感度を互いに異なるものとし、それらの画素から得た信号、およびそれらの加算信号を、後述の信号処理部105において飽和判定、選択使用等の処理することにより、高感度、広ダイナミックレンジの検査が実現できる。
【0030】
図10(a)はレーザ光源2の分布が反映された実質的にはガウス分布である。図10(b)は照度分布制御素子5としてホモジナイザなどを用いてほぼ均一な照度分布を形成した例である。ほぼ均一な照度分布は高照度レーザ照射によるウエハに対する熱ダメージを抑えつつ、欠陥からの散乱光量を最大化して高感度検査を実現するのに適する。図10(c)は均一照度分布に対して中央の照度を落とした分布である。図10(c)は、均一照度分布をしたときに発生する温度上昇が照度分布の中央で極大となり、そこでウエハに対する熱ダメージが発生する可能性がある場合に、それを回避しつつ、高感度を実現するのに適した分布である。図10(d)は、リニアセンサアレイ9の各画素に対応する位置ごとに照度分布が極大となる分布である。各画素によって検出されるウエハ上の面積が実効的に小さくなるため、ノイズ要因となるウエハラフネスからの散乱光を低減するのに有効である。なお、リニアセンサアレイ9の各画素に対応する位置ごとの照度の極大値は必ずしも同じにする必要はなく、広ダイナミックレンジを得るべく、各対応する位置ごとに変えても構わない。図10(e)は、照度分布を傾斜させ、リニアセンサアレイ9の画素ごとに実効的に異なる感度を持たせるのに適した分布である。後述する信号処理部105における処理を簡易化しつつ、広ダイナミックレンジ検出を実現するのに適している。図10(f)のように、照度分布に指数的な変化を持たせることで、さらに広ダイナミックレンジを実現できる。
【0031】
照明光学系101によって形成されたウエハ上の照度分布は、観察光学系104によって測定される。観察光学系104は、図1に示すとおり、結像系81およびイメージセンサ82を用いて構成される。照明光学系101によるウエハ表面上の照射位置が、結像系81によって、イメージセンサ82の受光面に拡大、結像される。照明光学系101により斜方照明が行われる場合は、イメージセンサ82にて得られる画像は暗視野画像となり、得られた像の明るさ分布がそのまま照明光学系101によるウエハ上の照度分布に相当する。ウエハ表面の状態が非常に滑らか場合には、散乱がほとんど起こらないために、イメージセンサ82における照度分布の測定が困難となる。その場合は、ウエハ表面と同じ高さに、表面が粗くなるよう処理されたウエハやあるいは表面が粗いセラミックを設置して照度分布を測定する。あるいはイメージセンサ82としてEMCCDあるいはEBCCDなど高感度イメージセンサを用いるか、冷却CCDなどノイズの少ないCCDを蓄積時間を長くして用いることで測定可能となる。
【0032】
次に、信号処理部105の構成について説明し、欠陥判定と欠陥座標および欠陥寸法算出手法について述べる。アナログ処理部51の構成を図11に示す。リニアセンサアレイ9の各画素9a−dから出力された信号電流は、プリアンプ部501a−dにより各々電圧に変換されて増幅される。さらにローパスフィルタ511a−dにより高周波数のノイズ成分がカットされた後、ローパスフィルタ511a−dのカットオフ周波数より十分高いサンプリングレートを備えたアナログ−デジタル変換部502a−dにおいて、デジタル信号に変換され、出力される。ここで、デジタル変換された信号は、後述するデジタル処理部52における信号加算によって飽和しないだけ十分なビット深度を持つ。
【0033】
デジタル処理部52の構成を図12に示す。遅延部503a−dは、走査S1によって照野20がウエハ上を一周する時間間隔Δtだけ、各画素からの信号出力を蓄積して遅延するメモリを有する。画素9aからの信号が遅延部503aにおいて時間間隔Δtだけ遅延し、画素9bの信号に加算されることで、ウエハ上の同一箇所を2回走査、検出して加算したものと同等の信号が得られる。この信号を遅延部503bにおいて時間間隔Δtだけ遅延して、画素9cの信号に加算することで、ウエハ上の同一箇所を3回走査、検出して加算したものと同等の信号が得られる。ここで、遅延部503aから出力された信号を遅延部504aにて時間間隔2×Δtだけ遅延した信号G1、および遅延部503bから出力された信号を遅延部504bにて時間間隔Δtだけ遅延した信号G2、および遅延部503cから出力された信号G3およびそれに画素9dから出力された信号を加算した信号G4を出力する構成とする。このとき信号Gn(n=1,2,3,4)各々は、ウエハ上の同一箇所をn回検出して加算したものと同等の信号となる。遅延部504a,bは、信号G3,G4に対して、信号G1,G2にて同一箇所の信号が現れるタイミングを合せる役割を果たす。信号G1〜4は判定処理部505に入力される。本実施例では簡単のためセンサ画素数が4画素の例を示しているが、より多数画素(N画素)のセンサの場合も、同様のステップを繰返し、遅延加算をN−1回行い、後段の遅延部にてタイミングのずれを補償することで、ウエハ上の同一箇所を1,2,…,N回走査、検出して加算したものと同等の信号が得られる。
【0034】
判定処理部505の第一の構成例について図13に示す。図13(a)では、信号G1〜4が飽和判定部601および信号選択部602に入力される。ここで、前述の手段により画素9a〜9dの実効的な感度が互いに異なり、画素9aが最も実効的な感度が低く、画素9a、9b、9c、9dの順に実効的な感度が高くなっていくものとする。すなわち、仮に画素9a、9b、9c、9d各々の実効感度をSa、Sb、Sc、Sdとすると、Sa>Sb>Sc>Sdである。飽和判定部601において、信号G1〜G4を元に、画素9a〜9dにおける飽和の有無が判定される。飽和判定は、リニアアレイセンサ9の各画素の最大信号出力値に対応するデジタル信号値と、図12に述べた構成における加算前後のデジタル信号値との差分との大小を比較することによって行われる。例えば、画素9aからの出力信号は、信号G2と信号G1の差に相当するため、信号G2と信号G1の差が画素9aからの最大信号出力値(飽和信号値)と実質的に同等であるか(例えば飽和信号レベルの90%に相当する信号レベルより大きいか)、それより小さいかによって、画素9aの出力信号が飽和していたか否かが判定される。飽和判定部601では、同様に画素9b、9c、9dからの出力信号に関する判定を行い、飽和していた画素の情報を出力する。画素9a〜9dの感度の相対関係から、画素9a、9b、9c、9dの順に飽和判定を行い、いずれかの時点で飽和していたと判定された段階でそれ以降の画素でも飽和していると推定されるため、それ以降の飽和判定は不要となる。よって、この場合飽和画素の情報としては、画素9a、9b、9c、9dで飽和判定を行い飽和していたと判定した最初の画素の番号か、あるいはいずれの画素でも飽和していなかったという情報を出力すれば十分である。
【0035】
信号選択部602には、信号G1〜G4および飽和画素の情報が入力される。信号選択部602では飽和判定部601から入力される飽和画素の情報を元に、信号G1〜G4の中で飽和画素の信号が加算されていない信号を選択しそれを適正感度信号603aとして出力し、さらに選択した信号が実効的にはどの感度で得た信号に相当するかという実効感度情報を信号603bとして出力する。感度情報信号603bは実効的に異なる感度で検出され加算された信号値の絶対量を後処理で補正して算出するために用いられる。例えば、飽和判定部601により画素9cにて信号が飽和していたと判定された場合、信号選択部602において、画素9cからの出力が加算される前の信号G2が選択され出力される。さらに、信号G2は画素9aおよび9bからの信号が加算されたものであるため、画素毎の感度と加算の影響を考慮した感度情報信号603bとして、値Sa+Sbを出力する。適正感度信号603aとしてG1〜G4いずれの信号が選択された場合でも、その信号値を信号603bの値で除算することにより、元の欠陥散乱光量の大小関係に対応した信号値が得られる。
【0036】
適正感度信号603aは、ハイパスフィルタ604aにより欠陥信号を抽出され、欠陥判定部605aに入力される。欠陥は照野20によりS1方向に走査されるため、欠陥信号の波形は照野20のS1方向の照度分布プロファイルを拡大縮小したものとなる。ハイパスフィルタ604aにより、欠陥信号波形の含まれる周波数帯域を通し、ノイズが相対的に多く含まれる周波数帯域および直流成分をカットすることで、欠陥信号のS/Nが向上する。ハイパスフィルタ604aとしては、特定のカットオフ周波数を持ちその周波数以上の成分を遮断するよう設計されたハイパスフィルタか、あるいは欠陥信号の波形と相似形を成すFIRフィルタを用いる。欠陥判定部605aは、ハイパスフィルタ604aから出力された欠陥波形を含む信号の入力に対してしきい値処理を行い、欠陥の有無を判定する。欠陥の存在を判定された箇所については、その欠陥波形と感度情報信号603bに基づいて、ウエハ内の欠陥位置を示す欠陥座標、および欠陥寸法の推定値を、欠陥情報606aとして出力する。欠陥座標は欠陥波形の重心を基準として算出する方法がある。欠陥寸法は欠陥波形の積分値を元に算出する方法がある。いずれの方法も、適正感度信号603aと感度情報信号603bを用いることで、飽和信号の影響を受けず、欠陥からの散乱光量の大小に精度良く対応した信号に基づいた算出を行うことができるため、高精度の欠陥座標および欠陥寸法を得ることができる。
【0037】
ローパスフィルタ604bには最高感度信号611、すなわち実効感度の最も高い信号、ここでは信号G4が入力され、周波数の低い成分および直流成分が出力される。ローパスフィルタ604bからの出力は、ウエハ上の照野20における微小ラフネスからの散乱光量(ヘイズ)に対応する。通常は、信号の直流成分によってリニアセンサアレイ9が飽和しないよう、照明光学系101におけるアッテネータ3が調整される。よって最も実効感度の高い信号G4であっても飽和信号が含まれているおそれがないため、この信号G4を飽和判定することなくローパスフィルタ604bに入力する。もちろん飽和判定によって飽和信号を含まないと判定された信号603aを入力する構成としてもよい。この場合は、局所的にラフネスの粗さが大きくなり信号の低周波数成分が大きくなった場合でも飽和を回避することが可能となる。ローパスフィルタ604bの出力はヘイズ処理部605bに入力され、ヘイズ情報の処理が行われる。ヘイズ処理部605bは入力信号の大きさから、ヘイズの大小に対応する信号、あるいはラフネスの空間周波数に対応する情報を、ヘイズ信号606bとして出力する。
【0038】
判定処理部505の第二の構成例について図13(b)に示し、図13(a)と異なる部分を説明する。本第二の構成例では、最高感度信号611がハイパスフィルタ604aに入力される。図13(a)の構成のように適正感度信号603aすると、適正感度信号603aにはある感度信号から別の感度信号に切り替わる際の波高の瞬間的な変化により波形にのこぎり形状が生じるため、これがハイパスフィルタ604aにおいて除去されず、欠陥判定部605aに歪んだ波形や不要なノイズとして入力されることで、欠陥座標算出精度の低下や誤検出につながる場合がある。図13(b)の構成により常に最高感度信号611をハイパスフィルタ604aに入力し、その出力を欠陥判定部605aに入力して欠陥判定を行うことで、選択信号の切替えに影響されること無く、よりロバストな欠陥判定が行われる。この場合、飽和信号は欠陥と判定すればよいが、欠陥信号の大小に基づく欠陥寸法算出が困難となる。これを補うため、適正感度信号603aおよび感度情報信号603bを欠陥寸法判定部613に入力し、欠陥判定部605aにて欠陥と判定された箇所に関して、対応する適正感度信号603aおよび感度情報信号603bに基づいて欠陥寸法を算出する。適正感度信号603aと感度情報信号603bを用いて欠陥寸法判定を行うことで、飽和信号の影響を受けず、欠陥からの散乱光量の大小に精度良く対応した信号に基づいて精度良く欠陥寸法を得ることができる。欠陥寸法判定部613において、欠陥寸法判定に加えて欠陥座標算出を行ってもよい。以上、図13(b)に示した構成により、ロバストな欠陥判定と、高精度の欠陥座標および欠陥寸法算出とを両立することが可能である。
【0039】
互いに異なる実効感度による信号を用いた検出ダイナミックレンジ拡大と、それに基づいた欠陥寸法算出の方法について図14を用いて説明する。図14(a)に、リニアセンサアレイ9で受光する散乱光量と、それを高感度画素、中感度画素、低感度画素各々で検出した場合の信号の大きさとの関係を示す。ウエハ上における画素ごとの検出位置に、互いに異なる照度を与え同じ感度の画素で検出する場合も、互いに異なる感度の画素で検出することと実質的に等価である。図14(a)に示すように、検出器のダイナミックレンジRで検出できる散乱光量の範囲は、画素感度が一通り(例えば高感度画素のみ)の場合、R1で示される範囲となるが、複数の感度の画素の信号を組合わせることでより広い検出光量範囲R2を検出することが可能となる。検出器のダイナミックレンジRの範囲内で応答の線形性が保たれていれば、図14(b)に示すように、複数の感度の画素の信号を補正して用いることで、光量範囲R2で示される広い範囲にわたって線形の応答信号を得ることができる。リニアアレイセンサ9による最小検出光量i1と最大検出光量i2との比i2/i1をダイナミックレンジDとすると、高感度画素によりi1以上i2以下の散乱光量を検出し、高感度画素の1/D倍の感度を持つ中感度画素によりi1×D(=i2)以上i2×D以下の散乱光量を検出し、中感度画素の1/D倍の感度を持つ低感度画素によりi1×(D^2)(=i2×D)以上i2×D^2以下の散乱光量を検出することで、i1以上i2×D^2以下の範囲の散乱光量の検出が可能となり、ダイナミックレンジがD^2倍に拡大される。ダイナミックレンジがDの検出画素N個を、互いに感度にD倍の違いを持たせ、図14(b)に示すように応答曲線をつなぎ合わせることで、DのN乗のダイナミックレンジが実現できる。図14(c)は、拡大したダイナミックレンジにより、広い寸法範囲の欠陥の寸法算出が可能となることを示すグラフである。直径500nmの粒子の散乱光量は直径20nmの粒子の散乱光量の約10^6倍(120dB)である。リニアセンサアレイ9各画素のダイナミックレンジが50dBとすると、高感度画素に対して、中感度画素の感度を−35dB、低感度画素の感度を−70dBとすれば、全体で120dBの範囲をカバーでき、この範囲に含まれる直径20nmから500nmの粒子の信号光量を測定できるため、図14(c)に示したような信号光量と粒子直径との対応関係に基づいて、この粒子直径範囲にわたって高精度な寸法算出が可能となる。
【0040】
以上述べた実施例の変形例を述べる。前記実施例と異なる部分のみを、図15、16を用いて説明する。図15(a)は、互いに異なる複数の方位あるいは入射角の照明光、あるいは互いに異なる複数の偏光状態の照明光をウエハ上に照射することを示す。互いに異なる各々の照明による照野20a(照明方位I1)、照野20b(照明方位I2)は、各々リニアアレイセンサ9の互いに異なる画素の共役位置に対応する。このような照明光は、照明光学系101の光路を分岐して、各々にビームエキスパンダ、照度分布制御素子、集光レンズ、反射ミラー等のビーム光路、形状あるいは照度分布を調整する光学部を設けることで実現される。
【0041】
図15(b)は、画素9a、9bでは縦方向の偏光成分のみを検出、画素9c、9dでは横方向の偏光成分のみを検出するリニアアレイセンサ9の構成を示す。リニアアレイセンサ9の前に偏光フィルタ901を設置する。偏光フィルタ901は、互いに異なる偏光成分を選択的に透過する微小偏光素子901a、901bからなる微小偏光素子アレイで構成される。このような微小偏光素子アレイの作成方法として、撮像素子または基板の上にミクロンオーダからサブミクロンオーダ厚の薄膜状の偏光板を載せ、画素の大きさに合せて不要な部分をエッチングで除去し、さらに主軸方位の異なる薄膜偏光板あるいは波長板を載せて同様のパターニングを繰り返す方法がある。ただし、この方法に限られず、使用する光の波長より短い周期を持つ微細格子をパターニングによって作成することで、画素毎に光学異方性を持たせる方法であってもよい。
【0042】
図15(a)(b)に示した方法にて、互いに異なる複数の光学条件により照明あるいは検出を行い、ある欠陥に関して各々の光学条件にて発生する散乱光の信号が得られれば、図15(c)に示すように、光学条件に対する欠陥の応答が多次元の空間上にプロットされ、空間上の分布に基づいて欠陥の種類を分類することが可能となる。例えば、光学条件Aとして低角度(大入射角)照明あるいはS偏光照明、光学条件Bとして高角度(小入射角)照明あるいはP偏光照明を行うことで、光学条件Bの方がウエハ表面あるいはそこに形成された膜の内部に照明光が浸透するため、表面内部の欠陥(欠陥種2)の散乱光が光学条件Bで強く、表面より上にある異物等の欠陥(欠陥種1)が光学条件Aで相対的に強くなるため、図15(c)のように欠陥の散乱信号が分布してこれにもとづいた欠陥種の分類が行われる。同様に、欠陥寸法によっても光学条件の違いによる散乱応答の違いが見られるため、同様の方法によって欠陥寸法算出の精度を高めることが可能である。
【0043】
図15に示した欠陥分類あるいは欠陥寸法算出方法を実現するためのデジタル処理部52の構成を図16に示す。光学条件Aおよび光学条件Bにおいて得られた信号は、図16(a)に示した、遅延部503a、503c、504a、504bおよび加算部からなる構成により、光学条件毎に加算され、タイミングを調整された後、判定処理部505に入力される。
【0044】
次に、判定処理部505に入力された光学条件Aでの信号621a、b、および光学条件Bでの信号621c、dは、図16(b)の通り、飽和判定部601および信号選択部602に入力される。飽和判定部601において、図13を用いて説明した飽和判定部601における判定と同じ飽和判定を、光学条件Aでの信号と光学条件Bでの信号各々に対して行い、各光学条件について飽和していた画素の情報を出力する。
【0045】
信号選択部602には、信号621a〜dおよび各光学条件ごとの飽和画素の情報が入力される。信号選択部602ではそれらの入力を元に、光学条件ごとに複数の信号の中で飽和画素の信号が加算されていない信号を選択し、それを適正感度信号623aおよび623bとして出力し、さらに選択した信号各々の感度情報を信号603bとして出力する。
【0046】
光学条件ごとの適正感度信号623a、bは、それぞれハイパスフィルタ624a、cにより欠陥信号を、ローパスフィルタ624b、dによりヘイズ信号を抽出される。ハイパスフィルタ624a、cより出力された各光学条件の欠陥信号および対応する感度情報信号603bが、欠陥判定部625aへ入力され、ローパスフィルタ624b、dより出力された各光学条件のヘイズ信号および対応する感度情報信号603bが、ヘイズ処理部625bへ入力される。欠陥判定部625aにて、各光学条件の欠陥信号に対してしきい値処理を行い、欠陥候補位置を検出し、それらのORをとることで、欠陥位置が検出される。複数の光学条件の信号に基づいて欠陥を検出するため、単一の光学条件の信号に基づいて欠陥を検出する場合に比べて欠陥の捕捉率が高い利点がある。また、欠陥判定部625aにおいて、各光学条件の欠陥信号を利用して図15に示した欠陥分類あるいは欠陥寸法算出手法が行われる。ヘイズ処理部625bでは各光学条件でのヘイズ信号に基づいて、ヘイズの大小に対応する信号、あるいはラフネスの空間周波数に対応する情報を、ヘイズ信号606bとして出力する。ラフネスのRMSや空間周波数分布によって、照明入射角、方位角あるいは偏光などの光学条件に対する依存性が異なるため、複数の光学条件でのヘイズ信号に基づいた処理により、単一光学条件の場合より詳細なラフネスの情報が得られる。
【0047】
次に、欠陥検出処理フローについて、図18を用いて説明する。まずレシピ設定として照明方向・センサ感度などの検査条件を設定する(ステップ120)。その中に照野20の方向S1あるいはS2の長さ、走査方向S2の間隔Δr、および検出散乱光に対して行う処理方法を設定することも含まれる。ウエハ走査を開始し(ステップ121)、検出散乱光に対しレシピで設定した信号処理を行う(ステップ122)。処理を施された信号に基づいて欠陥判定を行い(ステップ123)、欠陥マップ(ウエハ内の欠陥位置の分布を示す図)等の検査結果を表示部54に表示する(ステップ124)。検査結果として欠陥マップの他に、欠陥の個数、欠陥の寸法ごとの個数、欠陥の種類ごとの個数、欠陥の寸法あるいは種類ごとの欠陥マップ、ウエハ内におけるヘイズの分布等を表示することも含まれる。
【0048】
図19はレシピの設定および検査結果を表示するためのユーザーインターフェースの一例である。検査終了後に表示される欠陥マップ130、検査前に検査モードを設定するサブウィンドウを構成要件とする。欠陥マップは検査時に取り込んだ欠陥信号、欠陥寸法、欠陥種と座標を基に表示される。ヘイズの分布を示すマップへの表示切替も必要に応じて可能な構成とする。検査モード131の選択は直接入力でもプルダウン選択でも可能である。
一度の検査中で同一欠陥への照明回数が同じである必要はなく、例えば試料内周部では検査モードを標準モードに設定し(132)、試料外周部では高感度モードに設定できる(133)。例えば高感度モードでは、Δrを小さくし、照明回数を増やすことで、検出感度を向上させることも可能である。
【0049】
以上のとおり、本発明の実施の形態によれば、一度の検査で同一欠陥を複数回照明し、複数回発生する散乱光を加算することで検出感度を向上させることができる。また複数画素を有するフォトダイオードアレイを使用することで、スループットを落とさずに検査できる。また、本発明の実施の形態によれば、検出感度向上と高スループットを両立させることが可能な検査方法および検査装置を実現することができる。また、互いに異なる照度による複数回照明、あるいは互いに異なる感度の画素による複数回検出により得られる信号を利用することで、ダイナミックレンジ拡大や欠陥寸法の高精度判定、欠陥座標の高精度算出が可能となる。また、互いに異なる光学条件(照明条件あるいは検出条件)による複数回検出によって得られる信号を利用することで、欠陥分類性能の向上も可能となる。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、各構成の各実施形態を適宜組み合わせて本発明に係る欠陥検査装置及び欠陥検査方法としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示す概略構成図である。
【図2】試料の走査方法を示す模式図である。
【図3】検出光学系の配置を示す構成図である。
【図4】リニアセンサアレイの構成例を示す構成図である。
【図5】試料上での欠陥位置、照野および検出光学系との位置関係を示す模式図である。
【図6】斜方位検出系の構成を示す構成図である。
【図7】検出光学系および斜方位検出系による検出角度範囲を示す模式図である。
【図8】斜方照明の方位と走査方向との関係を示す模式図である。
【図9】照度分布制御素子の構成および照度分布制御方法を示す構成図および模式図である。
【図10】照明光学系によって実現される照度分布を示す分布図である。
【図11】アナログ処理部の構成を示すブロック図である。
【図12】デジタル処理部の構成を示すブロック図である。
【図13】判定処理部の構成を示すブロック図である。
【図14】散乱光量、検出信号、および粒子直径の間の関係を示すグラフである。
【図15】互いに異なる複数の光学条件による検出信号を得る手段を示す構成図とそれを利用した欠陥分類方法を示す散布図である。
【図16】互いに異なる複数の光学条件による検出信号を処理する処理部の構成を示すブロック図である。
【図17】反射光学系による結像系の構成例を示す構成図である。
【図18】欠陥検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】レシピの設定および検査結果を表示するためのユーザーインターフェースを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1…ウエハ、 2…レーザ光源、 3…アッテネータ、 4…偏光素子、 5…照度分布制御素子、 6…集光レンズ、 7…ビームエキスパンダ、 8…結像系、 9…リニアアレイセンサ、 10…並進ステージ、 11…回転ステージ、 13…偏光フィルタ、 14…コントローラ、 20…照野、 21…イメージインテンシファイア、 22…リレーレンズ、 23…リニアアレイセンサ、 24…ファイバ結合部、 、 27…リニアアレイセンサ視野、 28…ポイントセンサ視野、 28’…斜方位センサ視野、 29…集光レンズ、 30…偏光フィルタ、 31…視野絞り、 32…ポイントセンサ、 32’…リニアアレイセンサ、 33…斜方位検出系、 51…アナログ処理部、 51a−51d…アナログ処理部、 52…デジタル処理部、 53…全体制御部、 54…表示部、 55…ステージ制御部、 81…結像系、 82…イメージセンサ、 101…照明光学系、 102…検出光学系、 103…ステージ、 104…観察光学系、 105…信号処理部、 501a−d…プリアンプ部、 502a−d…A/D変換部、 503a−d…遅延部、 504a−d…遅延部、 505…判定処理部、 511a−d…ローパスフィルタ、 601…飽和判定部、 602…信号選択部、 603a…適正感度信号、 603b…感度情報信号、 604a…ハイパスフィルタ、 604b…ローパスフィルタ、 605a…欠陥判定部、 605b…ヘイズ信号処理部、 606a…欠陥信号、 606b…ヘイズ信号、 611…最高感度信号、 613…欠陥寸法判定部、 614a…欠陥信号、 614b…ヘイズ信号、 614c…欠陥寸法信号、 624a,c…ハイパスフィルタ、 624b,d…ローパスフィルタ、 625a…欠陥判定部、 625b…ヘイズ信号処理部、 626a…欠陥信号、 626b…ヘイズ信号、 701…反射光学系、 P…異物あるいは欠陥、 S1…第一の走査方向(θ方向)、 S2…第二の走査方向(R方向)、 T…軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面を検査する欠陥検査装置であって、
前記試料を保持するステージと、
前記試料表面での照明領域が線状となるようにレーザビームを照射する照明光学系と、
前記試料表面における線状照明領域から散乱された光を検出する複数の画素を備えた検出器を有し、前記検出器の複数の画素より得られた互いに実効感度の異なる複数の検出信号を並列に出力する検出光学系と、
前記複数の検出信号から飽和していない検出信号を選択し、前記選択された検出信号に基づいて欠陥を検出する信号処理系と、
を有することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の欠陥検査装置であって、
前記検出光学系により並列に出力される複数の検出信号は、前記試料表面の同一領域を複数回照明して各々検出された散乱光に基づくものであることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の欠陥検査装置であって、
前記検出器の複数の画素は、互いに異なる感度であることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の欠陥検査装置であって、
前記照明光学系は、前記試料表面における線状照明領域内での照度分布が傾斜をもつようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の欠陥検査装置であって、
前記照明光学系は、前記試料表面における線状照明領域内での照度分布が前記検出器の複数の画素に対応する位置ごとに極大となる分布をもつようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
前記照明光学系は、前記試料表面に対して照明入射角が75度以上となるようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
前記検出光学系は、光軸が前記線状照明領域の長手方向に対して略垂直な面内にあることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
さらに、前記線状照明領域の長手方向に対して略垂直な方向から傾斜した光軸をもつ斜方位検出系を有することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項9】
請求項1乃至8記載の欠陥検査装置であって、
前期信号処理系は、前記選択された検出信号を用いて欠陥寸法を算出することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項10】
請求項1乃至9記載の欠陥検査装置であって、
さらに、前記試料表面における線状照明領域内での照度分布をモニタする観察光学系を有することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項11】
試料表面の欠陥を検査する欠陥検査方法であって、
前記試料表面の同一領域にレーザビームを複数回照射する第一工程と、
前記同一領域からの散乱光をそれぞれの回において検出し、互いに実効感度の異なる複数の検出信号を得る第二工程と、
前記複数の検出信号から飽和していない検出信号を選択し、前記選択された検出信号に基づいて欠陥を検出する第三工程と、
を有することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項12】
請求項11記載の欠陥検査方法であって、
前記試料表面で線状となるようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項13】
請求項12記載の欠陥検査方法であって、
前記第一工程では、前記試料表面における線状照明領域内での照度分布が傾斜をもつようにレーザビームを照射することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項14】
請求項11乃至13のいずれかに記載の欠陥検査方法であって、
前記第二工程では、前記同一領域からの各回の散乱光は、複数の画素を有する検出器のそれぞれ異なる画素により検出することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項15】
請求項14記載の欠陥検査方法であって、
前記複数の画素は互いに異なる感度を有することを特徴とする欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−236791(P2009−236791A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85167(P2008−85167)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】