説明

止水材

【課題】 対象地盤等の浸透係数の大小に拘わらず注入浸透可能で、施工作業に適した練り置き時間が十分確保できる一剤型のスラリー状止水材を提供する。
【解決手段】 セメントクリンカ粉末、スラグ粉末、石膏、アルカリ金属の硫酸塩及び減水剤を含有してなる水性スラリーからなる止水材であって、止水材中のアルカリ金属の硫酸塩を除く全無機粒子に占める粒径10.5μm以上の粒子が10体積%未満(0体積%を含む)、粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が20〜54体積%、粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が18〜30体積%、粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が17〜35体積%及び粒径0.9μm未満の粒子が11〜35体積%である止水材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤や岩盤、堤などの湧水・漏水を防止するためのセメント系の止水材に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の地盤や岩盤、堤などの湧水・漏水を防ぐために、当該地盤や岩盤等に液状の止水材を注入することが行われている。止水材に要求される特性としては、湧水や漏水が既に見られるか起こりつつある箇所への緊急対処性を鑑み、速硬性が要求される他、止水工事の作業上の制約を軽減する上で、配合後の止水材の練り置き時間が十分確保できること。さらには地盤や岩盤への浸透性に優れることが挙げられる。一方、従前より使用されている止水材は、軟弱地盤を強固な地盤に改質するための地盤注入材から転用されたものが多く、一般的には速硬性を得るための成分として、コロイダルシリカ(シリカゾル)、カルシウムアルミネート類(アルミナセメントを含む。)を用い、また、練り置き時間を確保するために、凝結遅延剤を配合したり、スラリー化させた速硬性成分とポルトランドセメント等の水硬性成分を別個に作製(2剤化)し、注入直前に混合使用する(2ショット注入施工)ことも行われている。さらに、浸透性を高める上で、注入成分の粒径を微粒化したり、分散剤(減水剤)を配合して粒子の凝集化を抑制する手法がある。このような方策を講じたものとして例えば、速硬性成分としてカルシウムアルミネート系材料であるアルミナセメントに水和硬化物質の石膏を加え、これらの粒径を微粒化し、分散剤や遅延剤を配合した1剤型スラリーの止水材が知られている。(例えば、特許文献1参照。)しかし、カルシウムアルミネートを有効成分とする1剤型スラリーの止水材は、岩盤亀裂等の間隙へは深部まで浸透性を確保できるものの、作液直後からスラリー中での水和反応が起こり、水和反応粒子の凝集化が進み易く、分散剤や凝結遅延剤を加えても硬化性状に殆ど支障を及ぼさずに、粒子間隙の微小な浸透係数の低い地盤へは著しく浸透し難いものであった。浸透係数の低い地盤への浸透性に優れる注入材として、硬化成分に超微粒子のポルトランドセメントを用い、速硬性成分としてシリカゾルを用いたものが知られており(例えば、特許文献2参照。)、この注入材は速硬性も高いので止水効果にも優れるが、1剤型スラリーにすると凝結が急速に進み練り置きができないので、2剤化して施工使用せねばならず、機材や施工工程が増加・繁雑になるなど作業性に劣る。1剤型スラリーとして練り置きができ、低浸透係数の地盤にも浸透性が優れる注入材として、超微粒を主体とするポルトランドセメントとスラグに、石膏と可溶性硫酸塩を凝結調整剤として加えた注入材も知られている。(例えば、特許文献3参照。)
【特許文献1】特開2002−321963号公報
【特許文献2】特開平10−231481号公報
【特許文献3】特開2004−231884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、前記特許文献3に開示された注入材は、浸透係数の低い地盤にも高い浸透性を有するようにするため、粒度を規定して規定粒径以下の超微粒子の含有量を抑制し、注入材の浸透中での水和硬化による微小間隙目詰まりを防いだものであった。このため、注入後の初期強度発現性は、カルシウムアルミネート等の速硬成分を含むものに比べて低く、従って浸透係数の高い地盤に使用すると、地盤中に注入材が留まらずに流冒する虞があって、浸透係数に拘わらず満遍なく各種の地盤に対して適している止水材とは言い難かった。そこで、本発明は、浸透係数の低い地盤のみならず高い地盤に用いても浸透性が良好で、また流冒し難く、一剤化しても練り置き時間が十分確保でき、しかも高い初期強度発現性を呈して適度な速硬性を付与できるセメント系の止水材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、セメント−スラグ系地盤注入材において、セメントクリンカ粉砕物を始めとする無機粒子の超微粒子分の含有量を多くすると共に、粒子径を特定の粒度分布とすることによって、セメントの水和反応活性が適度に高まり注入後の初期強度発現性が強化されつつ、系全体の急激な凝結化をもたらさずに一剤化のスラリーにしても練り置き時間が確保でき、また微粒分の増大により微小間隙への浸透性も確保でき、浸透流冒の虞も少ない止水材が得られたことから、本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、セメントクリンカ粉末、スラグ粉末、石膏、アルカリ金属の硫酸塩及び減水剤を含有してなる水性スラリーからなる止水材であって、止水材中のアルカリ金属の硫酸塩を除く全無機粒子に占める粒径10.5μm以上の粒子が10体積%未満(0体積%を含む)、粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が20〜54体積%、粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が18〜30体積%、粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が17〜35体積%及び粒径0.9μm未満の粒子が11〜35体積%であることを特徴とする止水材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明による止水材は、浸透係数の高い地盤から比較的低い地盤まで広範囲に注入適用でき、また一剤型スラリーにしても練り置き時間が適度に確保できるので作業性に優れ、しかも短時間強度発現性も高いことから緊急性が要求される止水工事にも十分適応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の止水材に含有するセメントクリンカ粉末は、石灰石などのセメント原料を例えば1300〜1450℃で焼成したものの粉砕物であって、水和反応性の鉱物相が生成しているものであれば特に限定されず、例えば普通ポルトランドセメントを始めとする各種ポルトランドセメント製造用に使用されるのと概ね同等のセメントクリンカを挙げることができ、2種以上のクリンカ粉末を混合させたものでも良い。好ましくはアルミナセメント製造用セメントクリンカの単独での使用は一剤型止水材での練り置き時間が確保し難いことから避けるのが望ましい。セメントクリンカ粉末の使用形態としては、セメントクリンカ粉末単体であっても、このようなセメントクリンカを用いたセメント粉末としたものであっても良い。後者の場合、セメントの種類は限定されず、フライアッシュセメントやシリカセメントなどの混合セメントでも良い。本止水材のセメントクリンカ含有量は、液分を除く止水材中5〜50質量%が好ましい。この含有量は、セメント粉末として含有させた場合は、セメント中に含まれるクリンカ相当成分が注入材に占める量とし、またセメントクリンカ粉末単体も共に含有させる時は該単体量と合わせた量とする。セメントクリンカ含有量が5質量%未満では凝結が遅延し過ぎるため適当ではなく、50質量%を超えると浸透性が著しく低下することがあるので適当ではない。
【0008】
本発明の止水材に含有するスラグ粉末は、特に限定されず、例えば高炉スラグ、下水汚泥溶融スラグ、都市ゴミ溶融スラグ等を挙げることができる。望ましくは反応活性が高いことから高ガラス化率のスラグが良く、例えば急冷した高炉水砕スラグなどが適当である。本止水材のスラグ含有率は、液分を除く止水材中50〜95質量%が好ましい。50質量%未満では浸透性が低下するので適当ではなく、95質量%を超えると凝結固結能力が低下するので適当ではない。
【0009】
また本発明の止水材に含有する石膏は、粉末状のものとする他は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の天然石膏の他、化学石膏と称されているものでも良く、これらの何れか1種または2種以上でも良い。石膏は、専らエトリンガイト生成による初期強度発現性増進作用を付与し、また硬化促進作用にも寄与するため含有される。液分を除く本止水材中の石膏含有量は、セメント等に含まれている石膏成分も含めた総含有量で、SO3換算で0.1〜10質量%が好ましい。石膏含有量がSO3換算で0.1重量%未満では強度発現性が低下するので適当ではなく、また10重量%を超えると凝結が遅延して、速硬性が喪失することがあるので適当ではない。
【0010】
本発明の止水材は減水剤を含有する。減水剤の使用により水性スラリー中でのセメントクリンカ粒子やスラグ粒子の凝集を防ぎ、特に浸透係数の低い地盤などへの浸透性を高めることができる。本発明で使用する減水剤は特に限定されず、何れもモルタルやコンクリートに使用できる高性能減水剤、高性能AE減水剤、分散剤、流動化剤と称されるものでも良く、また液体でも可溶性粉体からなる減水剤でも良い。このような減水剤の成分としては、例えばナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩を有効成分とするもの、ナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物を有効成分とするもの、ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩ホルマリン重縮合物を有効成分とするもの、高縮合芳香族スルホン酸を有効成分とするもの、変性リグニンと高縮合芳香族スルホン酸複合体を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸塩を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸高縮合物を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸塩高縮合物を有効成分とするもの、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を有効成分とするもの、ナフタレンスルホン酸変性リグニン縮合物を有効成分とするもの、ナフタレンスルホン酸変性リグニン縮合物とリグニンを有効成分とするもの、変性リグニンとアルキルアリルスルホン酸と活性持続ポリマーの複合物を有効成分とするもの、ポリアルキルスルホン酸と反応性高分子を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸高縮合物とカルボキシル基含有多価ポリマーを有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸塩変性リグニン共縮合物と変性リグニンを有効成分とするもの、リグニン誘導体とアルキルアリルスルホン酸塩を有効成分とするもの、ポリアルキルアリルスルホン系界面活性剤を有効成分とするもの、アルキルアリルスルホン酸ホルマリン縮合物を有効成分とするもの、ポリアルキルアリルスルホン酸化合物を有効成分とするもの、メラミンスルホン酸系縮合物を有効成分とするもの、メラミンスルホン酸系化合物を有効成分とするもの、メラミンスルホン酸系化合物とポリオール複合体を有効成分とするもの、高縮合トリアジン系化合物を有効成分とするもの、トリアジン環系高縮合物塩の界面活性剤を有効成分とするもの、メチロールメラミン縮合物を有効成分とするもの、変性メチロールメラミン縮合物を有効成分とするもの、変性メチロールメラミン縮合物とカルボン酸系化合物を有効成分とするもの、スルホン化メラミン高縮合物塩を有効成分とするもの、ポリカルボン酸又はその塩を有効成分とするもの等を挙げることができ、これら2種以上を併用しても良い。この中でも、スラリー中の粒子凝集抑制時間を伸長させる作用が高いことから、ナフタレンスルホン酸系の減水剤を使用するのが好ましい。本止水材の減水剤含有量は液分を除く止水材中の0.05〜5質量%(但し、固型分換算量)とする。好ましくは、減水剤としてナフタレンスルホン酸系減水剤を単独使用する場合は0.1〜3重量%が良い。0.05質量%未満では粒子凝集抑制効果が殆ど得られず浸透性が低下することがあるので適当ではなく、また5重量部を超えると凝結時間が遅延し、強度発現性が低下することがあるので好ましくない。
【0011】
本発明の止水材に含有するアルカリ金属の硫酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの何れか1種又は2種以上の硫酸化合物であれば何れのものでも良い。アルカリ金属の硫酸塩は、常温付近では水に溶解し、水性スラリー中で大量に含まれる粒径2.2μm未満のセメントクリンカ粒子やスラグ粒子の擬凝結を抑制し、またこれら微粒子の分散性を高めて浸透性向上に寄与する他、注入材ゲル化後の初期強度発現性を大幅に高める作用を有する。アルカリ金属の硫酸塩の本止水材の含有量は、液分を除く止水材中の0.1〜10質量%が好ましい。0.1重量%未満では含有効果が殆ど得られないので好ましくなく、また10重量%を超えると、硬化促進作用が過大となり、練り置き時間の低下や浸透性の低下を引き起こすことがあるので適当ではない。
【0012】
本発明の止水材には前記以外の成分を浸透性や強度発現性等の性状に支障を及ぼさない範囲で適宜含有することができる。含有可能な成分例を示すと、フライアッシュやシリカフューム等のポゾラン反応性物質、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
【0013】
本発明の止水材は、止水材中のアルカリ金属の硫酸塩を除く全無機粒子の粒度構成が、全無機粒子に占める体積割合で、粒径10.5μm以上の粒子を10体積%未満(0体積%を含む)、粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が20〜54体積%、粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が18〜30体積%、粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が17〜35体積%及び粒径0.9μm未満の粒子が11〜35体積%の粒度構成であることを必須とする。このような粒度構成とすることにより、浸透係数が比較的低い地盤のみならず、浸透係数が高い地盤に対しても良好な浸透性を示す止水材が得られ、また、反応活性が比較的高い水硬性粒子と比較的低い水硬性粒子を含むため、練り置き性が確保されたまま適度な凝結促進性を呈し、注入施工時に流冒することなく安定した止水効果が得られる。粒径10.5μm以上の粒子が10体積%を超えると地盤土壌粒子間隙や岩盤亀裂が粗大粒により閉塞され易くなるので好ましくない。粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が20体積%未満ではゲル化時間が早まり、練り置き時間が十分確保できなくなるので好ましくない。粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が18体積%未満ではゲル化後の短時間強度発現性が向上し難くなるために好ましくない。粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が17体積%未満では注入後にブリーディング水が発生し易くなり、止水効果が得られなくなることがあるため好ましくない。粒径0.9μm未満の粒子が11体積%未満では水硬性粒子の反応活性が低下し、浸透係数の高い地盤に注入施工すると材液が流冒する虞があるので好ましくない。また、粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が54体積%を超えると浸透係数の小さい地盤に注入施工すると反応活性が低過ぎる止水材になり易く、短時間強度発現性が低下するので好ましくない。粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が30体積%を超えると、注入適用可能な地盤浸透係数の範囲が狭くなり過ぎることがあるため好ましくない。粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が35体積%を超えるとスラリー中で無機粒子の凝集化が進み易くなり、比較的浸透係数の低い地盤への注入浸透性が低下するので好ましくない。また、粒径0.9μm未満の粒子が35体積%を超えると凝結が著しく促進され、練り置き時間が殆ど確保できないので好ましくない。
【0014】
本発明の止水材は、前記成分を水性スラリー化したものである。スラリー化には水を使用する。水の配合量は、固型含有成分の合計量100質量部に対し、概ね100〜1000質量部が望ましい。約100質量部未満の水量では浸透性が乏しくなるので適当ではなく、1000質量部を超えると注入しても止水作用が殆ど得られないことがあるので適当ではない。また、スラリー化の方法は特段限定されるものではなく、一例を示すとグラウトミキサーに水以外の各成分を入れて乾式混合し、次いで水を添加して湿式混合すれば良い。また、本発明の止水材は、一剤化のスラリーとしての使用に適した止水材であるが、例えば、水ガラスやシリカゾルを有効成分とするスラリー等と併用して、二剤型のスラリー止水材としても使用しても良い。
【実施例】
【0015】
普通ポルトランドセメント用クリンカ、高炉水砕スラグ(新日本製鉄株式会社製)、II型無水石膏(セントラル硝子株式会社製)、中性無水ホウ硝(市販試薬)、アルミナセメント(太平洋マテリアル株式会社製)、ナフタレンスルホン酸系高性能減水剤(商品名「マイティ150」、花王株式会社製)、ポリカルボン酸系粉末状分散剤(商品名「コアフローNF−100」、太平洋マテリアル株式会社製)、酒石酸(市販試薬)、水酸化リチウム15%濃度水溶液から選定される材料と水を用い、表1に示す含有量及び含有無機粒子の粒度分布となる水性スラリーを作製した。尚、粒度分布の調整は、普通ポルトランドセメント用クリンカ、高炉水砕スラグ(新日本製鉄株式会社製)、II型無水石膏(セントラル硝子株式会社製)、中性無水ホウ硝(市販試薬)、アルミナセメント(太平洋マテリアル株式会社製)から選定される材料を表1の配合量となるようチューブミルに入れて粉砕し、レーザー回析式粒度分布測定装置を併用して粒度確認を行いながら遠心分離機により分級を行った。また、粒度調整を施した粉砕物は、グラウトミキサーで表1記載の量の水と混合・混練した。
【0016】
【表1】

【0017】
得られた水性スラリーは、地盤工学会基準「薬液注入による安定処理土の供試体作製方法」JGS0831に準拠して作製した供試体を、JIS A1218「土の透水試験方法」に準じて20℃の温度下で試験を行った。具体的には、φ5×22cmのアクリル円筒管に、山形珪砂4号を間隙率40%調整して充填させた供試体(高浸透性地盤モデル)及び山形珪砂5号を間隙率40%に調整して充填させた供試体(低浸透性地盤モデル)を作製し、撹拌機能が付与された加圧タンクに投入した水性スラリーを、垂直に設置した各供試体の底部付近から1kgf/cm2の圧力で500ml注入した。尚、各供試体は、注入に先立ち、水を飽和充填し、透水係数を測定した結果、高浸透性地盤モデルに相当する供試体では約3×10-1cm/秒、低浸透性地盤モデルに相当する供試体では約5×10-2cm/秒であった。水性スラリー注入してから6時間放置した後、アクリル管内で固結した充填物を抜き取り、φ5×10cmに成形した固結体の透水係数を測定し、止水性の評価とした。また、止水性を確認した固結体の一軸圧縮強度を、JIS A1216「土の一軸圧縮試験方法」に準じた方法で測定した。別に、各水性スラリーの練り置き性の評価として、薬液注入協会で規定された「カップ倒立法」に準じた方法で、水性スラリーのゲル化時間を測定した。尚、注入性が不良であったものは供試体を固結化できず、透水係数及び一軸圧縮強度の測定が不能であった。以上の各評価・測定結果は、表2に纏めて表す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から、本発明の水性スラリーは何れも、120分以上の練り置き時間が安定に確保でき、また地盤の浸透係数の大小に拘わらず良好な浸透性を示し、浸透後は透水係数の著しく低い固結体となって十分な止水性を発現できることがわかる。これに対し、本発明から外れる水性スラリーは、低浸透性の地盤に注入できても高浸透性地盤では注入固結できなかったり(参考品19)、高浸透性地盤に注入できても低浸透性地盤では注入時に目詰まりを起こしたり(参考品12及び14)、低浸透性及び高浸透性地盤の両者に浸透できなかったり(参考品16)、ゲル化が短時間に進み流動性に著しく欠くものが見られ(参考品20〜22)、また注入できたものも、十分な強度発現性が得られない等の理由で、固結体の透水係数が高くなり、十分な止水性が得られないもの(参考品11、13、15、17及び18)となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉末、スラグ粉末、石膏、アルカリ金属の硫酸塩及び減水剤を含有してなる水性スラリーからなる止水材であって、止水材中のアルカリ金属の硫酸塩を除く全無機粒子に占める粒径10.5μm以上の粒子が10体積%未満(0体積%を含む)、粒径2.2μm以上で10.5μm未満の粒子が20〜54体積%、粒径1.5μm以上で2.2μm未満の粒子が18〜30体積%、粒径0.9μm以上で1.5μm未満の粒子が17〜35体積%及び粒径0.9μm未満の粒子が11〜35体積%であることを特徴とする止水材。

【公開番号】特開2008−138056(P2008−138056A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325046(P2006−325046)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】