歩行ナビゲーション方法、システムおよびプログラム
【課題】 自律航法による歩行ナビゲーションの精度を向上させる。
【解決手段】 単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、前記加速度の水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、ことを含む。
【解決手段】 単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、前記加速度の水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、ことを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行ナビゲーション方法、システムおよびプログラムに関し、特に自律航法による歩行ナビゲーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2、3には、携帯型情報端末において自律航法によって現在地を特定するための技術が開示されている。車両に搭載されるナビゲーションシステムでは移動体である車両の姿勢と磁気センサの姿勢との関係が固定されているのに対し、携帯型情報端末では移動体である歩行者の姿勢に対して磁気センサの姿勢が安定していない。このため携帯型情報端末においては、歩行方位を導出し、歩行方位を用いた自律航法によって現在地を導出することは容易でない。
【0003】
特許文献1に開示された方法は、三次元加速度センサから出力される加速度データに基づいて、一歩ごとに、三次元加速度センサの加速度の水平成分の微分値が最大となる瞬間における加速度の水平成分の方向を導出し、一歩ごとに、加速度の水平成分が最大となる瞬間における加速度の水平成分の方向を、一歩進む区間の歩行方向として導出する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−302419号公報
【特許文献2】特開2005−283386号公報
【特許文献3】特開平2−216011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法では、一歩ごとに歩行方向を導出するために誤差が累積しやすいという問題がある。例えば、加速度をサンプリングする時間間隔が広い場合、真の歩行方向と導出される歩行方向とのずれが大きくなる。しかし加速度をサンプリングする時間間隔が狭い場合、演算量が増大するため、サンプリングする時間間隔を闇雲に狭くすることはできない。
【0006】
しかも特許文献1に開示された方法では、加速度センサが静止した状態において加速度センサの傾きを導出し、そのように導出した加速度センサの傾きを用いることによって、一歩ごとに歩行方向を導出している。しかし、静止状態の加速度センサの姿勢と歩行状態の加速度センサの姿勢が一致する保証がないため、特許文献1に開示された方法では歩行方向の推定誤差が許容範囲を超えて大きくなりうる。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みて創作されたものであって、自律航法による歩行ナビゲーションの精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法は、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータとして加速度データを出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、前記水平振動軸の傾きに基づいて前記加速度の水平振動軸成分を導出し、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、ことを含む。
【0009】
三次元加速度センサが出力する加速度データは三次元ベクトルデータである。三次元加速度センサとともに回転する任意の三軸直交座標系を加速度データについて定めることによって三次元加速度センサの姿勢を基準とする加速度の方向が定まる。任意区間は、時間で区切られても、距離で区切られても、歩数で区切られてもよい任意の区間である。三次元加速度センサの加速度の水平成分とは、三次元加速度センサの加速度の水平成分とみなして処理される二次元ベクトルデータである。三次元加速度センサの加速度の鉛直軸成分とは、三次元加速度センサの加速度の鉛直軸成分とみなして処理される一次元ベクトルデータである。加速度の鉛直軸成分は、加速度の鉛直軸成分と「みなして」処理する一次元ベクトルデータであるから、三次元加速度センサの加速度相当のデータであってもよいし、三次元加速度センサの加速度と重力加速度の合成ベクトル相当のデータであってもよい。加速度データに基づいて三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分を導出する方法に制限はなく、例えば特許文献1に記載されている方法を用いてもよい。また本明細書においては、方向と方位を次のように使い分ける。方向というときには、あらかじめ決められた任意の座標系において定義される方向をいい、方位というときには東西南北の四方を基準とする方向をいうものとする。したがって「三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向」は、三次元加速度センサとともに座標軸が回転する座標系において定義される方向である。
【0010】
この歩行ナビゲーション方法では、任意区間において三次元加速度センサから取得する複数の加速度データに基づく統計演算により歩行方向を導出する。このため、母集団を区切る任意区間の長さを適切に設定することにより、一歩毎に歩行方向を導出する方法に比べて精度よく歩行方向を導出することができる。すなわち、特許文献1に開示されているように一歩毎に歩行方向を導出する方法では、一歩ごとに歩行方向を確定するため、歩行方向を確定するたびに確定した誤差が累積する。これに対し、本発明による歩行ナビゲーション方法では、例えば5歩、10歩と進む任意区間で区切られる加速度データを統計的に処理するため、導出される歩行方向の誤差が小さくなる。
【0011】
この歩行ナビゲーション方法において統計演算により導出される水平振動軸は本来一意の方向を持たないため、三次元加速度センサの姿勢を基準とする水平振動軸の傾きとして導出されるデータは、歩行方向に平行な方向を一意に特定できる値ではあっても、歩行方向を示している場合もあれば、歩行方向と逆向きを示している場合もある。水平振動軸の傾きとして導出されるデータが歩行方向を示している場合、加速度センサの加速度の水平振動軸成分は加速度センサの加速度の歩行方向軸成分に一致する。尚、ここでいう歩行方向軸とは歩行方向を正にとる向きをもつ座標軸である。後者の場合、加速度センサの加速度の水平振動軸成分は加速度センサの加速度の歩行方向軸成分と大きさが同じで反対向きの関係になる。本発明では歩行者に携行されている加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動位相と加速度の鉛直軸成分の振動位相がずれる現象に着目し、水平振動軸と平行な2方向のうちいずれか一方向を歩行方向として判定する。もちろん歩行者に携行されている加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動も鉛直軸成分の振動も完全な周期関数ではないが、歩行方向軸成分の振動においても鉛直軸成分の振動においても一歩ごとに類似した振動パターンが現れ、三次元加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動位相は鉛直軸成分の振動位相に対して少し進む。したがって例えば、鉛直軸成分の振動位相が水平振動軸成分の振動位相に対して進む場合、水平振動軸の傾きとして導出されたデータが歩行方向と反対の方向を示していると判定し、水平振動軸の傾きを表す角度に180°を加えた角度で歩行方向を定めることができる。逆の場合、水平振動軸の傾きとして導出されたデータが歩行方向を示していると判定し、水平振動軸の傾きを表す角度によって歩行方向を定めることができる。
【0012】
(2)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記三次元加速度センサに固有の座標系から、静止状態の前記三次元加速度センサが出力する加速度データとみなす静止データの方向がZ軸と平行になるXYZ直交座標系への写像を導出してもよい。この場合、前記加速度の前記水平成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのX、Y成分であって、前記加速度の前記鉛直軸成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのZ成分である。
【0013】
地球の地表において等速直線運動中の質量に作用している力は重力である。加速度を単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサは、等速直線運動中の加速度を重力加速度と方向が反対の加速度に相当する三次元ベクトルデータとして出力する。すなわち、静止データとは重力加速度と方向が反対の加速度に相当するとみなして処理されるデータである。静止データを導出する方法に特に制限はなく、例えば特許文献1に記載されている方法を用いてもよい。
【0014】
この歩行ナビゲーション方法では、重力加速度の反対向きの加速度に相当するとみなして処理する静止データの方向がZ軸と平行になるように加速度データの座標軸を回転させる。すなわち、XYZ直交座標系において静止データが表現されるとき、加速度データのX成分およびY成分はともに0になる。このように座標軸を回転させて加速度データを扱うことにより、加速度データの扱いが容易になる。
【0015】
(3)平地における等速直線運動中に三次元加速度センサが出力する加速度データは重力加速度相当の三次元ベクトルデータである。平地における直線歩行は平地における等速直線運動に近似できる。また平地における曲線歩行は短い時間区間においては平地における直線歩行とみなすことができる。したがって、適切な長さの区間を設定すれば、平地における歩行を平地における等速直線運動に近似することができる。
そこで上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、複数の前記加速度データの平均を前記静止データとして導出してもよい。
【0016】
この方法では、歩行状態で静止データを導出できる。ここで歩行中に取得される加速度データに基づいて導出する静止データの方向と重力加速度の反対方向とのずれと、静止中に取得される加速度データに基づいて導出する静止データの方向と重力加速度の反対方向とのずれについて説明する。静止データの反対方向と重力加速度の方向とのずれは三次元加速度センサの真の姿勢と推定している姿勢とのずれに相当する。静止中に取得される加速度データに基づいて静止データを導出すれば、静止データと重力加速度の反対方向とのずれは、歩行中に取得される加速度データに基づいて静止データを導出する場合に比べて小さくなる。しかし、静止状態での三次元加速度センサの姿勢と歩行中の三次元加速度センサの姿勢とが一致している保証は何もない。静止状態で導出した静止データに基づいて歩行中の加速度センサの姿勢を推定すると、加速度のセンサの静止状態と歩行状態との姿勢差に応じて姿勢の推定誤差が大きくなるため、加速度センサの姿勢の推定誤差が許容できないほど大きくなる可能性がある。その結果、静止状態から推定された加速度センサの姿勢に応じて導出される歩行方向が実際の歩行方向に対する許容できない誤差を含みやすい。これに対し、歩行中に取得される加速度データの平均を静止データとして導出する場合、そのように導出される静止データに対応する三次元加速度センサの姿勢と、三次元加速度センサの真の姿勢との差は、歩行中の加速度センサの運動を等速直線運動に近似することから生ずる誤差でしかないため、許容できないほどの誤差を含みにくい。したがって、本発明によると、水平振動軸の傾きから導出される歩行方向が実際の歩行方向に対する許容できない誤差を含みにくい。
【0017】
(4)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれを、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相に対する前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相の遅れと前記加速度の前記水平振動軸成分の周期または前記加速度の前記鉛直軸成分の振動周期との比としてもよい。
なお、歩行状態において加速度の水平振動軸成分の振動周期と加速度の鉛直軸成分の振動周期とは一致しているとみなせるため、いずれの振動周期と振動位相の遅れを対比しても実質的な差異はない。
【0018】
(5)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記三次元加速度センサとともに姿勢変化する磁気センサから磁気データを取得し、前記磁気データと前記歩行方向とに基づいて前記任意区間における歩行方位を導出してもよい。
この場合、東西南北の四方を基準とする歩行方位を導出することができる。
【0019】
(6)前述したとおり歩行状態においては加速度の鉛直軸成分の振動は一歩ごとに類似した振動パターンが現れる周期運動である。したがって、加速度の鉛直軸成分に基づいて歩数を導出可能である。
そこで上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて前記任意区間の歩数を導出し、基準歩幅と前記任意区間の歩数とに基づいて前記任意区間の歩行距離を導出してもよい。
【0020】
この場合、任意区間毎の歩行方向と歩行距離とに基づいて、任意区間の始点を基準とする任意区間の終点の相対位置を導出することが可能になる。すなわち、任意区間毎に始点を基準とする終点の相対位置を導出し、その結果を累積することにより、GPS位置データ等で位置が特定されている点を基準として現在地を導出することが可能になる。
尚、基準歩幅は、歩数から歩行距離を推定するために、任意区間の平均歩幅とみなして用いる値であって、演算によって導出してもよいし、ユーザに登録させてもよい。
【0021】
(7)例えば上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、歩数起算地のGPS位置データと歩数決算地のGPS位置データとに基づいて前記歩数起算地から前記歩数決算地までの区間距離を導出し、前記歩数起算値から前記歩数決算値までの歩数である基準歩数を前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて導出し、前記区間距離と前記基準歩数とに基づいて前記基準歩幅を導出する、
【0022】
歩数起算地とは、GPS位置データに基づいて歩幅を導出するために暫定的に設定する区間の始点である。歩数決算地とは、GPS位置データに基づいて歩幅を導出するために暫定的に設定する区間の終点である。
この場合、基準歩幅や基準歩幅を導出するための身長等の基礎データを登録する手間を省くことができるため、使い勝手が向上する。
【0023】
(8)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記歩行方位と前記歩行距離とGPS位置データとに基づいて現在位置を導出してもよい。
この場合、衛星航法による現在位置の特定ができない任意区間においても高精度の自律航法によって歩行者の現在位置を導出することができる。
(9)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記任意区間の前記加速度の前記水平成分を(Xp、Yp)、ただし(p=0,1,2...s)とするとき、次式(1)を満たすθ(−90°<θ≦90°)を前記水平振動軸の傾きとして導出してもよい。
【数1】
【0024】
XY座標軸を同一座標平面内でθだけ回転させてtu座標軸に変換する写像は次式(2)によって表される。
【数2】
X軸の回転後の座標軸tが水平振動軸となるθを導出するためには、次式(3)で表すf(θ)が極大となるθを求めればよい。
【数3】
【0025】
式(1)はf(θ)が極値をとる2つのθによって満たされる。式(1)を満たす2つのθのうち一方はf(θ)を極大とし、他方はf(θ)を極小とする。したがって、式(1)を満たす2つのθのうち、f(θ)に代入するとf(θ)がより大きくなる方がf(θ)が極大となる値である。このように導出されるθを水平振動軸のXY直交座標系における傾きとする方法は、水平振動軸の傾きを統計演算によって導出する1つの方法である。
【0026】
(10)上記目的を達成するための歩行ナビゲーションシステムは、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、を備える。
【0027】
(11)上記目的を達成するための歩行ナビゲーションプログラムは、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、としてコンピュータを機能させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら次の順序で説明する。
********目次*************
(1)基本原理
(2)歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成
(3)歩行ナビゲーションシステムのデータの流れ
(4)歩行方位の導出方法の詳細
・加速度センサの傾きの推定
・加速度の水平成分および鉛直軸成分の導出
・水平振動軸の傾きの導出
・歩行方向の導出
・歩行方位の導出
(5)効果
(6)他の実施形態
***********************
【0029】
(1)基本原理
はじめに本発明の実施形態の理解を容易にする基本原理を図1、図2に基づいて説明する。
図1のx、y、z軸は加速度センサと磁気センサに固有の座標軸を示している。図1においては、加速度センサと磁気センサとが相対的に固定されており、加速度センサに固有の各座標軸の方向と磁気センサに固有の各座標軸の方向とが一致している(対応する座標軸の方向が一致し、かつ対応する座標軸にとる変数が一致している。)ものと仮定している。
【0030】
直線歩行中の歩行者に一定の姿勢を保たれて携行されている加速度センサの離散時間の出力をある時間区間についてxyz座標系にプロットすると、出力は立体的な有限分布を示す。歩行者に携行されている加速度センサは加速度センサが位置する身体部位の運動にともなって三次元運動するが、水平面上の直線歩行中に起きるその運動は二次元的である。すなわち、加速度センサの出力である加速度データは、鉛直軸とそれに垂直な歩行方向軸を含む平面近傍に分布する。この平面を歩行振動面というとき、歩行振動面は水平面に対して垂直な面である。加速度データを、一次元ベクトルである鉛直軸成分と二次元ベクトルである水平成分に分解し、さらに水平成分を歩行振動面と平行な成分と歩行振動面に垂直な成分に分解すると、加速度データの水平成分の歩行振動面と平行な成分は歩行方向軸と平行になる。
【0031】
水平面(水平面は図1に円で示されている。)に垂直に加速度データを投影したデータの分布を考えると、すなわち加速度データの水平成分の分布を考えると、水平面に含まれる歩行方向軸の方向においてその分布の分散は最大になり、歩行方向軸と垂直な方向においてその分散は最小になる。すなわち、水平面に垂直に加速度データを投影したデータに相当する加速度データのXY成分の分散が最大になる方向は歩行方向軸に平行である。
【0032】
以上のことから、加速度データを空間情報として扱い、加速度センサの傾きとして加速度センサに固有の座標軸に対する鉛直軸の傾きを推定できれば、推定した水平面に加速度データを投影したデータを母集団とする統計演算によって歩行方向軸を特定することができることがわかる。
【0033】
一定姿勢の運動状態にある加速度センサの傾きを推定する方法として、静止状態にある加速度センサの傾きを運動状態の傾きとして導出する方法もあるが、本実施形態では運動状態にある加速度センサから取得する加速度データに基づいて運動状態にある加速度センサの傾きを推定する方法について説明する。歩行者に携行されている加速度センサの姿勢は時々刻々変化するが、数秒の短い時間内での姿勢変化はそれほど大きくはない。したがって、歩行中の短い時間区間において加速度センサの姿勢は一定であるとみなす。水平面上での直線歩行は等速直線運動とみなすことができる。平らでない地面上での曲線歩行も、1歩以下ではないがあまり多くはない歩数しか進まない時間区間では等速直線運動と見なすことができる。等速直線運動状態にある加速度センサが検出する加速度は重力加速度と反対向きの加速度である。そこで、ある適切な区間を設定し、その区間における加速度データの平均を重力加速度と反対向きの加速度とみなすこととする。このように重力加速度と反対向きの加速度とみなす加速度を静止データというとき、加速度センサに固有の座標系における静止データの方向が鉛直上向きとして推定されることになる。本実施形態ではこのようにして加速度センサの姿勢を基準として鉛直軸上下の方向を推定し、この方向を加速度センサの傾きとして導出する。このようにして加速度センサの傾きを導出するときに歩行方向軸とみなされる軸が水平振動軸である。
【0034】
ここまで、歩行方向軸とみなす水平振動軸を導出する原理を説明した。歩行方向として推定すべき方向は水平振動軸に平行な2方向のうちいずれか一方向であるが、歩行データの空間的分布を解析しても歩行方向を推定することはできない。そこで、水平振動軸に平行な2方向のうちいずれか一方向を歩行方向として判定するために加速度データが時系列情報として扱われる。
【0035】
図2は静止状態から歩行状態にかけて加速度センサが出力する加速度データの水平振動軸成分の大きさと鉛直軸成分の大きさとを時系列にプロットしたグラフである。図2では、静止状態において加速度が0を示すように加速度データから静止データを引き算した実験値をプロットしている。このように静止状態において0を示すように加速度データをオフセットすると、オフセットされた加速度データは、加速度センサが検出している加速度を表すデータになる。
【0036】
図2に示すように、歩行状態においては、加速度データの水平振動軸成分の振動位相は鉛直軸成分の振動位相に比べて少し進む。したがって、加速度データの水平振動軸成分の振動位相が鉛直軸成分に遅れるのではなく進むように加速度データの水平振動軸の正負の向きを定めることにより、水平振動軸に平行な二方向のいずれが歩行方向であるかを判定することができる。
【0037】
(2)歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成
図3は本発明の一実施形態としての歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成を示すブロック図である。図3には、携帯電話端末、PDA、携帯型ナビゲーション装置などの各種の携帯型情報端末として構成される歩行ナビゲーションシステムの要部を示している。
【0038】
加速度センサ10は、直交する3軸の成分に分解して加速度を検出する三次元加速度センサである。加速度センサ10は、ピエゾ抵抗型、静電容量型、熱検知型などどのような検知方式であってもよい。加速度センサ10は、重力加速度の反対向きの加速度と加速度センサの運動に固有の加速度を合成した加速度を表す加速度データg(x、y、z)を出力する。すなわち例えば、加速度センサ10のz軸の正方向が鉛直上向きになる姿勢で自然落下している状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、0)であり、同じ姿勢で静止した状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、g)であり(gは正の定数)、同じ姿勢で鉛直上向きに加速度の絶対値が重力加速度の絶対値に等しい等加速度直線運動をしている状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、2g)である。
【0039】
磁気センサ11は、MI素子、MR素子などを備え、直交する3軸の成分に分解して磁気を検出するセンサである。磁気センサ11に固有のxyz座標系の各軸の方向は、加速度センサ10に固有のxyz座標系の各軸の方向と一致している。すなわち、磁気センサ11から出力される磁気データh(x、y、z)=(1、1、1)と加速度センサ10から出力される加速度データg(x、y、z)=(1、1、1)とが同じ方向を向くように磁気センサ11と加速度センサ10とは例えば共通の基板17に固定されている。
【0040】
GPS(Global Positioning System)ユニット12は、衛星航法に用いる3個又は4個の衛星から送られてくる軌道データを受信するアンテナ、現在位置を示す緯度経度データを出力するためのASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成される。
【0041】
PU(Processor Unit)14は、歩行ナビゲーションプログラム、OS(Operating System)などを実行することにより、歩行方位を出力したり、歩行ナビゲーションシステムの様々なハードウェアを制御する。
ROM(Read Only Memory)15は、PU14が実行する各種のコンピュータプログラムが格納されている不揮発性記憶媒体である。
RAM(Random Access Memory)16は、PU14がコンピュータプログラムを実行したり加速度データを格納するためのワークメモリとして機能する記憶媒体である。
IF(Inter Face)13は、AD変換器、DA変換器などを備え、加速度センサ10、磁気センサ11、GPSユニット12、PU14、ROM15、RAM16などの間で転送されるデータの形式を受取側のデータ形式に変換するモジュールである。
【0042】
(3)歩行ナビゲーションシステムのデータの流れ
図4は、歩行ナビゲーションシステムのデータの流れの要部を示すデータフロー図である。図4に示す処理は歩行ナビゲーションプログラムを実行するPU14によって処理される。
【0043】
傾斜推定プロセス21は、加速度データg(x、y、z)を入力し、加速度センサ10の傾きの推定値としての(α、β)を加速度データの平均である静止データに基づいて導出する。加速度センサ10の傾きの推定値は、加速度センサ10に固有のxyz座標系において定義する静止データの方向であり、加速度センサ10に固有のx軸と静止データのxy成分とのなす角α(y軸の正方向を正として−180°<α≦180°とする。)と、加速度センサ10に固有のz軸と静止データとのなす角β(z軸の正方向を正として−90°<β≦90°とする。)とで表される。
【0044】
回転プロセス20は、加速度データg(x、y、z)と加速度センサ10の傾きの推定値(α、β)とを入力し、これらに基づいて加速度データの座標軸を回転することにより、静止状態で加速度センサが検出するとみなす静止データをZ軸の正方向にとるXYZ直交座標系で表されるデータに加速度データを変換し、その結果として加速度データg(X、Y、Z)を出力する。
【0045】
水平振動軸導出プロセス22は、加速度データg(X、Y、Z)のXY成分である加速度の水平成分g(X、Y)を任意区間について入力し、その分布を解析することにより水平振動軸の傾きを導出する。水平振動軸の傾きはXYZ直交座標系のX軸とのなす角θ(−90°<θ≦90°)として導出される。任意区間とはGPSユニット12が軌道データを受信できない区間である自律航法区間(図5参照)において1つの歩行方位を導出する単位となる区間である。任意区間は、時間で区切ってもよいし、歩数で区切ってもよい。
【0046】
水平振動軸成分導出プロセス30は、加速度の水平成分g(X、Y)と水平振動軸の傾きθとを入力し、これらに基づいて加速度データの座標軸を回転することにより、水平振動軸をt軸としt軸に垂直で水平面に含まれる軸をu軸とするtu直交座標系で表されるデータに加速度データを変換し、その結果として加速度の水平振動軸成分データg(t)を導出する。
【0047】
位相差判定プロセス23は、加速度の水平振動軸成分であるg(t)と加速度データg(X、Y、Z)のZ成分である加速度の鉛直軸成分g(Z)とを入力し、加速度の水平成分の水平振動軸成分の位相が加速度の鉛直軸成分の位相に対して進んでいるか否かを判定する。
【0048】
歩行方向導出プロセス26は、水平振動軸の傾きであるθと位相差判定プロセス23の判定結果である真/偽とを入力し、歩行方向を導出する。歩行方向はXYZ直交座標系のX軸と歩行方向とのなす角であるθ(−90°<θ≦90°)またはθ+180°である。
【0049】
歩行方位導出プロセス28は、歩行方向と、磁気データh(x、y、z)と、加速度センサ10の傾き(α、β)とを入力し、これらに基づいて北方向と歩行方向とのなす角である歩行方位を導出する。
【0050】
以上のプロセスが任意区間の歩行方位を導出するためのプロセスである。次に任意区間の歩行距離を導出するためのプロセスについて説明する。
【0051】
歩数導出プロセス24は、歩数起算地から歩数決算地までの歩幅測定区間と任意区間とについて加速度データの鉛直軸成分g(Z)を入力し、これに基づいて任意区間の歩数nと、歩数起算地から歩数決算地までの歩数Nとを導出する。歩幅測定区間はGPSユニット12が軌道データを受信できる区間である衛星航法区間(図5参照)において歩行者の平均的な歩幅である基準歩幅が導出される区間である。歩幅測定区間は、時間で区切ってもよいし、歩数で区切ってもよい。任意区間の歩数nを導出する方法としては加速度データの大きさが任意区間内で0となる回数を計数し、それに基づいて歩数nを導出する方法が知られているが、歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度の歩行方向軸成分と鉛直軸成分の大きさがそれぞれ0になる時点にずれがあるため、成分の大きさを0とみなす適切な閾値を設定することが難しいという問題がある。このため、加速度データの鉛直軸成分のみを使って歩数nを導出することが望ましい。
【0052】
歩幅導出プロセス25は、歩幅測定区間の歩数Nと、歩数起算地と歩数決算地とのGPS位置データp(x、y)とを入力し、これらに基づいて基準歩幅wを導出する。
【0053】
歩行距離導出プロセス27は、任意区間の歩数nと基準歩幅wとを入力し、これらを掛け合わせることによって歩行距離dを導出する。
【0054】
以上が任意区間の歩行距離を導出するプロセスである。次に歩行者の現在位置を導出する現在位置導出プロセス29について説明する。
【0055】
現在位置導出プロセス29は、任意区間の歩行方位と任意区間の歩行距離と衛星航法区間のGPS位置データとを入力し、これらに基づいて現在位置P(x、y)を導出する。現在位置P(x、y)は現在地の緯度経度を示すベクトルデータである。現在位置導出プロセス29は図5に示す衛星航法区間においてはGPS位置データをそのまま現在位置として出力し、自律航法区間においては次のように現在位置を導出する。すなわち、GPSユニット12が軌道データを受信できなくなると、最後に取得したGPS位置データを最初の任意区間の始点として設定する。その後、任意区間(p3/p4、p4/p5、p5/p6、p6/p7、...)の歩行方位と歩行距離とに基づいて導出する任意区間の歩行ベクトルを、最初の任意区間の始点に積算することによって自律航法区間の現在位置P(x、y)を導出する。
【0056】
(4)歩行方位の導出方法の詳細
次に上述のナビゲーションシステムによる歩行方位の導出方法の詳細を説明する。
・加速度センサの傾きの推定
図6は歩行中の任意区間の加速度データを加速度センサ10に固有のxyz座標系にプロットした図である。図6に示すように、歩行中の加速度データは原点から中心部が離れた有限範囲に分布する。加速度データの分布の中心部が原点から離れる理由は、重力加速度の反対向きの加速度と歩行運動に固有の加速度を合成した加速度を表すデータが加速度センサ10から出力されるからである。前述したように、本実施形態では加速度データの平均を重力加速度の反対向きの加速度とみなして静止データとし、加速度センサ10に固有の座標系で定義される静止データの方向を加速度センサの傾きとして導出する。図7は、静止状態から10秒間歩行した区間についての加速度データの平均と、歩行開始時の静止状態にある加速度センサ10から出力される加速度データとの比較結果を示す表である。図7に示す比較結果からは、加速度データの平均を静止データとして導出しても実用上十分信頼できる範囲で加速度センサの傾きを推定できることがわかる。例えば、加速度データの平均を静止データとして導出しても±5°程度の誤差範囲で歩行方位を導出することが可能である。
【0057】
加速度センサ10の傾きは具体的には例えば次のようにして推定される。
はじめに、加速度センサ10の傾きを推定するための区間について加速度データg(x、y、z)の平均である静止データgave(x、y、z)を導出する。この区間は、加速度センサ10の傾き推定値を用いて歩行方位を導出する任意区間と一致していてもよいし、一致していなくてもよいし、連続区間であってもよいし、互いに離れた複数の区間であってもよい。例えば、歩行方位を導出する区間の直前の区間において静止データを導出してもよい。また、ある区間において導出した静止データの方向をその区間の後の複数の区間における歩行方位の導出に利用してもよい。
【0058】
次に、加速度センサ10の傾きを、加速度センサ10に固有の座標系であるxyz座標系において特定する。具体的には、α、βという2つの値によって静止データの方向を定義することとし、加速度センサ10の傾きを(α、β)として特定する。αは、静止データのxy成分とx軸とのなす角であり、静止データのxy成分であるベクトル(x、y)と(1、0)とのなす角の角度(°)として導出する。αは(0、1)から(1、0)に向かう方向を正とする。βは静止データとz軸とのなす角であり、静止データと平行でz軸を含む座標平面において表した静止データ((x2+y2)1/2、z)と、同一座標平面の単位ベクトル(0、1)とのなす角として導出する。
【0059】
・加速度の水平成分および鉛直軸成分の導出
図8は、静止データの方向がZ軸の正の方向となるXYZ直交座標系に加速度データをプロットした図である。このXYZ直交座標系ではZ軸の正方向が鉛直上向きであると推定され、XY平面が水平面に平行なものとして推定されている。
【0060】
加速度センサ10に固有のxyz直交座標系からXYZ直交座標系への座標軸変換の写像は次式(4)の行列Bと加速度データg(x、y、z)との積で表される。
【数4】
【0061】
式(4)の右辺の2つの行列の積を加速度センサ10の傾き(α、β)に基づいて計算することにより、加速度センサ10に固有のxyz座標系からXYZ座標系への写像の行列表現である行列Bが導出される。尚、xyz直交座標系からXYZ直交座標系への座標軸変換の別の方法として四元数を使用する方法もある。
【0062】
次に加速度センサ10に固有のxyz座標系からXYZ座標系への写像を表す行列Bを用いて加速度データの座標軸を変換し、静止データの方向がZ軸の正の方向となるXYZ座標系で表した加速度データg(X、Y、Z)を導出する。
【0063】
・水平振動軸の導出
図9は、XYZ直交座標系のXY平面に加速度データを投影した図である。すなわち、図9に実線で示されるデータは加速度データのXY成分であり、加速度の水平成分として見なしている二次元ベクトルデータである。加速度データの水平成分であるXY成分の分布の長軸である水平振動軸を図10、図11に示す。図10はXY平面が水平面であると推定されているXYZ座標系において水平振動軸を示し、図11は加速度センサ10に固有のxyz座標系において水平振動軸を示している。歩行中の加速度の水平成分は、図10、図11に示すように長軸の長さと短軸の長さとが明らかに異なる扁平した分布を示す。前述したように水平振動軸に平行な2方向のいずれかを歩行方向として特定するため、加速度の水平成分の分布を解析し、分布の長軸である水平振動軸とX軸とのなす角θ(−90°<θ≦90°)を以下の方法で算出することにより、水平振動軸を導出する。
【0064】
水平振動軸をt軸とするtu直交座標系への加速度データの水平成分g(X、Y)の座標軸変換の写像は次式(5)によって表される。
【数5】
【0065】
t軸が水平振動軸と平行になるとき、式(5)の写像は加速度データの水平成分の分布の主軸変換に相当する。分布の長軸方向において分散が最大になるため、t軸が水平振動軸と平行であるとき、次式(6)で表すf(θ)は極大となる。
【数6】
【0066】
式(6)においては歩行方位を導出する対象となる任意区間の加速度g(X、Y)の配列Qを次式(7)で定義している。
【数7】
【0067】
f(θ)が極値を取るとき次式(8)で表すf'(θ)は0である。
【数8】
【0068】
したがって、次式(9)を満たす2つのθ1、θ2を計算してそれぞれf(θ)に代入し、θ1、θ2のうちf(θ)がより大きくなる角度を特定し、特定した角度を水平振動軸とX軸とのなすθとして導出する。
【数9】
【0069】
尚、式(9)の計算が発散することを防ぐため、式(9)の右辺の分母の絶対値と分子の絶対値とを予め計算し、絶対値の大きい方を分母にして計算する必要がある。したがって、式(9)の右辺の分母の絶対値と分子の絶対値とを計算し、分子の絶対値の方が小さい場合には式(9)を用いてθを導出し、分子の絶対値の方が大きい場合には式(9)の代わりに次式(10)を用いてθを導出する。
【数10】
また、水平加速度の分散が最小となる分布の短軸の傾きを導出し、短軸の傾きから長軸の傾きを導出しても良いことはいうまでもない。
【0070】
ここまでの処理が終了すると水平振動軸の傾きが導出される。ただし、水平振動軸は正負の向きに意味を持たない軸である。ここまでの処理では、任意区間内の時系列データである加速度データを単なる空間情報として扱うことにより正負の向きに意味を持たない水平振動軸の傾きを導出した。
【0071】
・歩行方向の導出
図12は加速度データの水平振動軸成分tが加速度データの歩行方向軸成分に一致すると仮定して加速度データの水平振動軸成分tをプロットしたグラフである。横軸pは、水平加速度g(X、Y)の配列Qの各要素の添え字として用いたpであるから、加速度センサ10が加速度データを出力した離散時間を表している。図13は歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度(この加速度は真の加速度である。)の歩行方向軸成分と鉛直軸成分の振動を表すグラフである。加速度データに計測誤差がなく、加速度センサ10の推定した傾きにも誤差がない場合、真の加速度の歩行方向軸成分は加速度データの水平振動軸成分tまたは−tと一致し、真の加速度の鉛直軸成分は加速度データの鉛直成分とみなしているZ成分と一致する。加速度データの計測誤差は公知のオフセット補正(ここでいうオフセット補正は静止データを差し引く補正ではなく、温度特性等を補正する処理である。)により十分小さくなっている。また前述したように加速度センサ10の傾きの推定精度は十分高い。したがって、加速度データの水平振動軸成分tまたは−tの振動位相は、加速度データのZ成分の振動位相に対して少し進む。そこで加速度データの水平振動軸成分tと鉛直軸成分Zとを時系列データとして扱う例えば次の方法によって、加速度データの水平振動軸成分tの振動位相と加速度データの鉛直軸成分Zの振動位相とのずれの大きさを特定し、その結果に基づいて水平振動軸に平行な2方向のいずれか一方向を歩行方向として判定する。
【0072】
まず加速度データの水平振動軸成分tが正から負に向かって0になる時点pt〔i〕(i=0,1,2...)と加速度の鉛直軸成分Yから静止データを差し引いた値の符号がそれぞれ正から負に向かって0になる時点pz〔j〕(j=0,1,2...)とを導出し、各iについてpz〔j〕とpz〔j+1〕との間にあるpt〔i〕を導出する。そして次式(11)のf(i,j)が0.5より大きいか小さいかを判定し、小さければθを歩行方向とし、大きければθ+180°を歩行方向とする。
【数11】
【0073】
式(11)を用いた上述の判定方法は、加速度センサ10の加速度について歩行方向軸成分の振動位相と鉛直軸成分の振動位相との差φ(φは歩行方向軸成分の振動位相が進む方向を正とする値である)が常に加速度センサ10の加速度の歩行方向軸成分の振動周期Tの1/2未満となった実験結果に基づいている。尚、歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度については歩行方向軸成分の振動周期と鉛直軸成分の振動周期とがほぼ一致するため、いずれの周期を式(11)の左辺の分子に対応させても良い。
【0074】
pt〔i〕とpz〔j〕の導出は、例えば次のように行う。
加速度データの水平振動軸成分t、鉛直軸成分Zを、加速度センサ10が加速度データを出力した離散時間を表すpの関数としてそれぞれ表すと、t〔p〕、Z〔p〕となる。加速度センサ10が加速度データを出力する時間間隔(すなわち加速度データを読み込む時間間隔)をΔpとする。
はじめに加速度データの水平振動軸成分が正から負に転ずるタイミングを捕捉するため、次式(12)を満たすpを導出する。
【数12】
式(12)を満たすpが導出されたら、次にpとp+1との間においてt〔p〕を直線近似して値が0となる時点に対応する水平振動軸成分pt〔i〕を導出する。具体的には次式(13)を満たすpt〔i〕を導出する。
【数13】
pz〔j〕もpt〔i〕と同様にして導出することができる。
【0075】
ただし、歩行していない状態であっても完全に静止していないと、式(12)によってノイズとなるタイミングが捕捉されることとなる。そこで式(12)に加えて次式(14)をも満たす場合にのみ振動位相の差を導出するための有意なタイミングとして捕捉することが望ましい。
【数14】
ただしCは、例えば0.1G相当の正の定数とする。
また加速度データの出力間隔が狭い場合には、1個とばし、2個とばしというようにとびとびの加速度データを式(12)に代入して加速度データの水平振動軸成分が正から負に転ずるタイミングを捕捉してもよい。
【0076】
水平振動軸に平行な2方向のいずれか一方向を歩行方向として判定する他の方法としては、式(11)の左辺の分母分子を入れ替えたf(i,j)と2との大小比較によって判定しても良いことはもちろんのこと、加速度データの水平振動軸成分tと、加速度データの鉛直方向軸成分Zから静止データを差し引いた値との差分の積算値の符号によって判定する方法や、加速度データの水平振動軸成分tが0となる時点の加速度データのY成分の正負によって判定する方法などが考えられる。
【0077】
θは静止データをZ軸の正に取るXYZ直交座標系のX軸となす角度であるから、上述した方法によってθまたはθ+180°として導出される歩行方向は、図14、図15に示すように、加速度センサ10の一定とみなしている姿勢を基準とする方向である。
【0078】
・歩行方位の導出
加速度センサ10の姿勢を基準とする歩行方向から東西南北の四方を基準とする歩行方位を導出する方法は次の通りである。
磁気センサ11に固有のxyz座標系の各軸の方向が加速度センサ10に固有のxyz座標系の各軸の方向と一致しているという前提条件の下では、加速度データgの3軸直交座標系の各軸の方向と磁気データhの3軸直交座標系の各軸の方向とを一致させる座標軸の回転により、磁気データが示す北方向と加速度センサ10の姿勢を基準とする歩行方向とのなす角度D(°)が東西南北を基準とする歩行方位となる(図1参照)。
【0079】
したがって次式(15)に示す写像を用いて磁気センサ11に固有のxyz直交座標系からXYZ直交座標系に磁気データの座標系を変換し、XYZ直交座標系の磁気データ(hX、hY、hZ)が示す方位角から歩行方向θまたはθ+180°を差し引くことにより、東西南北を基準とする歩行方位Dを導出できる。
【数15】
【0080】
(5)効果
以上説明した歩行ナビゲーション方法では、任意の区間において三次元加速度センサから取得する複数の加速度データに基づいた統計演算により歩行方向を導出した。このため、母集団を区切る任意区間の長さを適切に設定することにより、一歩毎に歩行方向を導出する方法に比べて精度よく歩行方向を導出することができる。すなわち、一歩毎に歩行方向を導出する方法では、一歩ごとに歩行方向を確定するため、歩行方向を確定するたびに確定した誤差が累積する。これに対し、上記実施形態の方法では、例えば5歩、10歩と進む任意区間で区切られる加速度データを統計的に処理することによって、導出される歩行方向、歩行方位、現在位置の誤差がそれぞれ小さくなる。
また、重力加速度の反対向きの加速度に対応する静止データとして加速度データの平均を導出するため、歩行中において加速度センサ10の姿勢が変化したとしても、その変化によって増大する歩行方向、歩行方位、現在位置の誤差を歩行中に低減することができる。
(6)他の実施形態
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において上述の実施形態に対して種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係るブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るデータフロー図である。
【図5】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る表である。
【図8】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図10】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図11】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図12】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図13】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図14】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図15】本発明の実施形態に係る模式図である。
【符号の説明】
【0082】
10:加速度センサ、11:磁気センサ、12:GPSユニット、13:IF、14:PU、15:ROM、16:RAM、17:基板、20:回転プロセス、21:傾斜推定プロセス、22:水平振動軸導出プロセス、23:位相差判定プロセス、24:歩数導出プロセス、25:歩幅導出プロセス、26:歩行方向導出プロセス、27:歩行距離導出プロセス、28:歩行方位導出プロセス、29:現在位置導出プロセス、D:角度(歩行方位)、d:歩行距離
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行ナビゲーション方法、システムおよびプログラムに関し、特に自律航法による歩行ナビゲーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2、3には、携帯型情報端末において自律航法によって現在地を特定するための技術が開示されている。車両に搭載されるナビゲーションシステムでは移動体である車両の姿勢と磁気センサの姿勢との関係が固定されているのに対し、携帯型情報端末では移動体である歩行者の姿勢に対して磁気センサの姿勢が安定していない。このため携帯型情報端末においては、歩行方位を導出し、歩行方位を用いた自律航法によって現在地を導出することは容易でない。
【0003】
特許文献1に開示された方法は、三次元加速度センサから出力される加速度データに基づいて、一歩ごとに、三次元加速度センサの加速度の水平成分の微分値が最大となる瞬間における加速度の水平成分の方向を導出し、一歩ごとに、加速度の水平成分が最大となる瞬間における加速度の水平成分の方向を、一歩進む区間の歩行方向として導出する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−302419号公報
【特許文献2】特開2005−283386号公報
【特許文献3】特開平2−216011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法では、一歩ごとに歩行方向を導出するために誤差が累積しやすいという問題がある。例えば、加速度をサンプリングする時間間隔が広い場合、真の歩行方向と導出される歩行方向とのずれが大きくなる。しかし加速度をサンプリングする時間間隔が狭い場合、演算量が増大するため、サンプリングする時間間隔を闇雲に狭くすることはできない。
【0006】
しかも特許文献1に開示された方法では、加速度センサが静止した状態において加速度センサの傾きを導出し、そのように導出した加速度センサの傾きを用いることによって、一歩ごとに歩行方向を導出している。しかし、静止状態の加速度センサの姿勢と歩行状態の加速度センサの姿勢が一致する保証がないため、特許文献1に開示された方法では歩行方向の推定誤差が許容範囲を超えて大きくなりうる。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みて創作されたものであって、自律航法による歩行ナビゲーションの精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法は、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータとして加速度データを出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、前記水平振動軸の傾きに基づいて前記加速度の水平振動軸成分を導出し、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、ことを含む。
【0009】
三次元加速度センサが出力する加速度データは三次元ベクトルデータである。三次元加速度センサとともに回転する任意の三軸直交座標系を加速度データについて定めることによって三次元加速度センサの姿勢を基準とする加速度の方向が定まる。任意区間は、時間で区切られても、距離で区切られても、歩数で区切られてもよい任意の区間である。三次元加速度センサの加速度の水平成分とは、三次元加速度センサの加速度の水平成分とみなして処理される二次元ベクトルデータである。三次元加速度センサの加速度の鉛直軸成分とは、三次元加速度センサの加速度の鉛直軸成分とみなして処理される一次元ベクトルデータである。加速度の鉛直軸成分は、加速度の鉛直軸成分と「みなして」処理する一次元ベクトルデータであるから、三次元加速度センサの加速度相当のデータであってもよいし、三次元加速度センサの加速度と重力加速度の合成ベクトル相当のデータであってもよい。加速度データに基づいて三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分を導出する方法に制限はなく、例えば特許文献1に記載されている方法を用いてもよい。また本明細書においては、方向と方位を次のように使い分ける。方向というときには、あらかじめ決められた任意の座標系において定義される方向をいい、方位というときには東西南北の四方を基準とする方向をいうものとする。したがって「三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向」は、三次元加速度センサとともに座標軸が回転する座標系において定義される方向である。
【0010】
この歩行ナビゲーション方法では、任意区間において三次元加速度センサから取得する複数の加速度データに基づく統計演算により歩行方向を導出する。このため、母集団を区切る任意区間の長さを適切に設定することにより、一歩毎に歩行方向を導出する方法に比べて精度よく歩行方向を導出することができる。すなわち、特許文献1に開示されているように一歩毎に歩行方向を導出する方法では、一歩ごとに歩行方向を確定するため、歩行方向を確定するたびに確定した誤差が累積する。これに対し、本発明による歩行ナビゲーション方法では、例えば5歩、10歩と進む任意区間で区切られる加速度データを統計的に処理するため、導出される歩行方向の誤差が小さくなる。
【0011】
この歩行ナビゲーション方法において統計演算により導出される水平振動軸は本来一意の方向を持たないため、三次元加速度センサの姿勢を基準とする水平振動軸の傾きとして導出されるデータは、歩行方向に平行な方向を一意に特定できる値ではあっても、歩行方向を示している場合もあれば、歩行方向と逆向きを示している場合もある。水平振動軸の傾きとして導出されるデータが歩行方向を示している場合、加速度センサの加速度の水平振動軸成分は加速度センサの加速度の歩行方向軸成分に一致する。尚、ここでいう歩行方向軸とは歩行方向を正にとる向きをもつ座標軸である。後者の場合、加速度センサの加速度の水平振動軸成分は加速度センサの加速度の歩行方向軸成分と大きさが同じで反対向きの関係になる。本発明では歩行者に携行されている加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動位相と加速度の鉛直軸成分の振動位相がずれる現象に着目し、水平振動軸と平行な2方向のうちいずれか一方向を歩行方向として判定する。もちろん歩行者に携行されている加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動も鉛直軸成分の振動も完全な周期関数ではないが、歩行方向軸成分の振動においても鉛直軸成分の振動においても一歩ごとに類似した振動パターンが現れ、三次元加速度センサの加速度の歩行方向軸成分の振動位相は鉛直軸成分の振動位相に対して少し進む。したがって例えば、鉛直軸成分の振動位相が水平振動軸成分の振動位相に対して進む場合、水平振動軸の傾きとして導出されたデータが歩行方向と反対の方向を示していると判定し、水平振動軸の傾きを表す角度に180°を加えた角度で歩行方向を定めることができる。逆の場合、水平振動軸の傾きとして導出されたデータが歩行方向を示していると判定し、水平振動軸の傾きを表す角度によって歩行方向を定めることができる。
【0012】
(2)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記三次元加速度センサに固有の座標系から、静止状態の前記三次元加速度センサが出力する加速度データとみなす静止データの方向がZ軸と平行になるXYZ直交座標系への写像を導出してもよい。この場合、前記加速度の前記水平成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのX、Y成分であって、前記加速度の前記鉛直軸成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのZ成分である。
【0013】
地球の地表において等速直線運動中の質量に作用している力は重力である。加速度を単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサは、等速直線運動中の加速度を重力加速度と方向が反対の加速度に相当する三次元ベクトルデータとして出力する。すなわち、静止データとは重力加速度と方向が反対の加速度に相当するとみなして処理されるデータである。静止データを導出する方法に特に制限はなく、例えば特許文献1に記載されている方法を用いてもよい。
【0014】
この歩行ナビゲーション方法では、重力加速度の反対向きの加速度に相当するとみなして処理する静止データの方向がZ軸と平行になるように加速度データの座標軸を回転させる。すなわち、XYZ直交座標系において静止データが表現されるとき、加速度データのX成分およびY成分はともに0になる。このように座標軸を回転させて加速度データを扱うことにより、加速度データの扱いが容易になる。
【0015】
(3)平地における等速直線運動中に三次元加速度センサが出力する加速度データは重力加速度相当の三次元ベクトルデータである。平地における直線歩行は平地における等速直線運動に近似できる。また平地における曲線歩行は短い時間区間においては平地における直線歩行とみなすことができる。したがって、適切な長さの区間を設定すれば、平地における歩行を平地における等速直線運動に近似することができる。
そこで上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、複数の前記加速度データの平均を前記静止データとして導出してもよい。
【0016】
この方法では、歩行状態で静止データを導出できる。ここで歩行中に取得される加速度データに基づいて導出する静止データの方向と重力加速度の反対方向とのずれと、静止中に取得される加速度データに基づいて導出する静止データの方向と重力加速度の反対方向とのずれについて説明する。静止データの反対方向と重力加速度の方向とのずれは三次元加速度センサの真の姿勢と推定している姿勢とのずれに相当する。静止中に取得される加速度データに基づいて静止データを導出すれば、静止データと重力加速度の反対方向とのずれは、歩行中に取得される加速度データに基づいて静止データを導出する場合に比べて小さくなる。しかし、静止状態での三次元加速度センサの姿勢と歩行中の三次元加速度センサの姿勢とが一致している保証は何もない。静止状態で導出した静止データに基づいて歩行中の加速度センサの姿勢を推定すると、加速度のセンサの静止状態と歩行状態との姿勢差に応じて姿勢の推定誤差が大きくなるため、加速度センサの姿勢の推定誤差が許容できないほど大きくなる可能性がある。その結果、静止状態から推定された加速度センサの姿勢に応じて導出される歩行方向が実際の歩行方向に対する許容できない誤差を含みやすい。これに対し、歩行中に取得される加速度データの平均を静止データとして導出する場合、そのように導出される静止データに対応する三次元加速度センサの姿勢と、三次元加速度センサの真の姿勢との差は、歩行中の加速度センサの運動を等速直線運動に近似することから生ずる誤差でしかないため、許容できないほどの誤差を含みにくい。したがって、本発明によると、水平振動軸の傾きから導出される歩行方向が実際の歩行方向に対する許容できない誤差を含みにくい。
【0017】
(4)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれを、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相に対する前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相の遅れと前記加速度の前記水平振動軸成分の周期または前記加速度の前記鉛直軸成分の振動周期との比としてもよい。
なお、歩行状態において加速度の水平振動軸成分の振動周期と加速度の鉛直軸成分の振動周期とは一致しているとみなせるため、いずれの振動周期と振動位相の遅れを対比しても実質的な差異はない。
【0018】
(5)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記三次元加速度センサとともに姿勢変化する磁気センサから磁気データを取得し、前記磁気データと前記歩行方向とに基づいて前記任意区間における歩行方位を導出してもよい。
この場合、東西南北の四方を基準とする歩行方位を導出することができる。
【0019】
(6)前述したとおり歩行状態においては加速度の鉛直軸成分の振動は一歩ごとに類似した振動パターンが現れる周期運動である。したがって、加速度の鉛直軸成分に基づいて歩数を導出可能である。
そこで上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて前記任意区間の歩数を導出し、基準歩幅と前記任意区間の歩数とに基づいて前記任意区間の歩行距離を導出してもよい。
【0020】
この場合、任意区間毎の歩行方向と歩行距離とに基づいて、任意区間の始点を基準とする任意区間の終点の相対位置を導出することが可能になる。すなわち、任意区間毎に始点を基準とする終点の相対位置を導出し、その結果を累積することにより、GPS位置データ等で位置が特定されている点を基準として現在地を導出することが可能になる。
尚、基準歩幅は、歩数から歩行距離を推定するために、任意区間の平均歩幅とみなして用いる値であって、演算によって導出してもよいし、ユーザに登録させてもよい。
【0021】
(7)例えば上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、歩数起算地のGPS位置データと歩数決算地のGPS位置データとに基づいて前記歩数起算地から前記歩数決算地までの区間距離を導出し、前記歩数起算値から前記歩数決算値までの歩数である基準歩数を前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて導出し、前記区間距離と前記基準歩数とに基づいて前記基準歩幅を導出する、
【0022】
歩数起算地とは、GPS位置データに基づいて歩幅を導出するために暫定的に設定する区間の始点である。歩数決算地とは、GPS位置データに基づいて歩幅を導出するために暫定的に設定する区間の終点である。
この場合、基準歩幅や基準歩幅を導出するための身長等の基礎データを登録する手間を省くことができるため、使い勝手が向上する。
【0023】
(8)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記歩行方位と前記歩行距離とGPS位置データとに基づいて現在位置を導出してもよい。
この場合、衛星航法による現在位置の特定ができない任意区間においても高精度の自律航法によって歩行者の現在位置を導出することができる。
(9)上記目的を達成するための歩行ナビゲーション方法において、前記任意区間の前記加速度の前記水平成分を(Xp、Yp)、ただし(p=0,1,2...s)とするとき、次式(1)を満たすθ(−90°<θ≦90°)を前記水平振動軸の傾きとして導出してもよい。
【数1】
【0024】
XY座標軸を同一座標平面内でθだけ回転させてtu座標軸に変換する写像は次式(2)によって表される。
【数2】
X軸の回転後の座標軸tが水平振動軸となるθを導出するためには、次式(3)で表すf(θ)が極大となるθを求めればよい。
【数3】
【0025】
式(1)はf(θ)が極値をとる2つのθによって満たされる。式(1)を満たす2つのθのうち一方はf(θ)を極大とし、他方はf(θ)を極小とする。したがって、式(1)を満たす2つのθのうち、f(θ)に代入するとf(θ)がより大きくなる方がf(θ)が極大となる値である。このように導出されるθを水平振動軸のXY直交座標系における傾きとする方法は、水平振動軸の傾きを統計演算によって導出する1つの方法である。
【0026】
(10)上記目的を達成するための歩行ナビゲーションシステムは、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、を備える。
【0027】
(11)上記目的を達成するための歩行ナビゲーションプログラムは、単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、としてコンピュータを機能させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら次の順序で説明する。
********目次*************
(1)基本原理
(2)歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成
(3)歩行ナビゲーションシステムのデータの流れ
(4)歩行方位の導出方法の詳細
・加速度センサの傾きの推定
・加速度の水平成分および鉛直軸成分の導出
・水平振動軸の傾きの導出
・歩行方向の導出
・歩行方位の導出
(5)効果
(6)他の実施形態
***********************
【0029】
(1)基本原理
はじめに本発明の実施形態の理解を容易にする基本原理を図1、図2に基づいて説明する。
図1のx、y、z軸は加速度センサと磁気センサに固有の座標軸を示している。図1においては、加速度センサと磁気センサとが相対的に固定されており、加速度センサに固有の各座標軸の方向と磁気センサに固有の各座標軸の方向とが一致している(対応する座標軸の方向が一致し、かつ対応する座標軸にとる変数が一致している。)ものと仮定している。
【0030】
直線歩行中の歩行者に一定の姿勢を保たれて携行されている加速度センサの離散時間の出力をある時間区間についてxyz座標系にプロットすると、出力は立体的な有限分布を示す。歩行者に携行されている加速度センサは加速度センサが位置する身体部位の運動にともなって三次元運動するが、水平面上の直線歩行中に起きるその運動は二次元的である。すなわち、加速度センサの出力である加速度データは、鉛直軸とそれに垂直な歩行方向軸を含む平面近傍に分布する。この平面を歩行振動面というとき、歩行振動面は水平面に対して垂直な面である。加速度データを、一次元ベクトルである鉛直軸成分と二次元ベクトルである水平成分に分解し、さらに水平成分を歩行振動面と平行な成分と歩行振動面に垂直な成分に分解すると、加速度データの水平成分の歩行振動面と平行な成分は歩行方向軸と平行になる。
【0031】
水平面(水平面は図1に円で示されている。)に垂直に加速度データを投影したデータの分布を考えると、すなわち加速度データの水平成分の分布を考えると、水平面に含まれる歩行方向軸の方向においてその分布の分散は最大になり、歩行方向軸と垂直な方向においてその分散は最小になる。すなわち、水平面に垂直に加速度データを投影したデータに相当する加速度データのXY成分の分散が最大になる方向は歩行方向軸に平行である。
【0032】
以上のことから、加速度データを空間情報として扱い、加速度センサの傾きとして加速度センサに固有の座標軸に対する鉛直軸の傾きを推定できれば、推定した水平面に加速度データを投影したデータを母集団とする統計演算によって歩行方向軸を特定することができることがわかる。
【0033】
一定姿勢の運動状態にある加速度センサの傾きを推定する方法として、静止状態にある加速度センサの傾きを運動状態の傾きとして導出する方法もあるが、本実施形態では運動状態にある加速度センサから取得する加速度データに基づいて運動状態にある加速度センサの傾きを推定する方法について説明する。歩行者に携行されている加速度センサの姿勢は時々刻々変化するが、数秒の短い時間内での姿勢変化はそれほど大きくはない。したがって、歩行中の短い時間区間において加速度センサの姿勢は一定であるとみなす。水平面上での直線歩行は等速直線運動とみなすことができる。平らでない地面上での曲線歩行も、1歩以下ではないがあまり多くはない歩数しか進まない時間区間では等速直線運動と見なすことができる。等速直線運動状態にある加速度センサが検出する加速度は重力加速度と反対向きの加速度である。そこで、ある適切な区間を設定し、その区間における加速度データの平均を重力加速度と反対向きの加速度とみなすこととする。このように重力加速度と反対向きの加速度とみなす加速度を静止データというとき、加速度センサに固有の座標系における静止データの方向が鉛直上向きとして推定されることになる。本実施形態ではこのようにして加速度センサの姿勢を基準として鉛直軸上下の方向を推定し、この方向を加速度センサの傾きとして導出する。このようにして加速度センサの傾きを導出するときに歩行方向軸とみなされる軸が水平振動軸である。
【0034】
ここまで、歩行方向軸とみなす水平振動軸を導出する原理を説明した。歩行方向として推定すべき方向は水平振動軸に平行な2方向のうちいずれか一方向であるが、歩行データの空間的分布を解析しても歩行方向を推定することはできない。そこで、水平振動軸に平行な2方向のうちいずれか一方向を歩行方向として判定するために加速度データが時系列情報として扱われる。
【0035】
図2は静止状態から歩行状態にかけて加速度センサが出力する加速度データの水平振動軸成分の大きさと鉛直軸成分の大きさとを時系列にプロットしたグラフである。図2では、静止状態において加速度が0を示すように加速度データから静止データを引き算した実験値をプロットしている。このように静止状態において0を示すように加速度データをオフセットすると、オフセットされた加速度データは、加速度センサが検出している加速度を表すデータになる。
【0036】
図2に示すように、歩行状態においては、加速度データの水平振動軸成分の振動位相は鉛直軸成分の振動位相に比べて少し進む。したがって、加速度データの水平振動軸成分の振動位相が鉛直軸成分に遅れるのではなく進むように加速度データの水平振動軸の正負の向きを定めることにより、水平振動軸に平行な二方向のいずれが歩行方向であるかを判定することができる。
【0037】
(2)歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成
図3は本発明の一実施形態としての歩行ナビゲーションシステムのハードウェア構成を示すブロック図である。図3には、携帯電話端末、PDA、携帯型ナビゲーション装置などの各種の携帯型情報端末として構成される歩行ナビゲーションシステムの要部を示している。
【0038】
加速度センサ10は、直交する3軸の成分に分解して加速度を検出する三次元加速度センサである。加速度センサ10は、ピエゾ抵抗型、静電容量型、熱検知型などどのような検知方式であってもよい。加速度センサ10は、重力加速度の反対向きの加速度と加速度センサの運動に固有の加速度を合成した加速度を表す加速度データg(x、y、z)を出力する。すなわち例えば、加速度センサ10のz軸の正方向が鉛直上向きになる姿勢で自然落下している状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、0)であり、同じ姿勢で静止した状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、g)であり(gは正の定数)、同じ姿勢で鉛直上向きに加速度の絶対値が重力加速度の絶対値に等しい等加速度直線運動をしている状態において加速度センサ10から出力される加速度データは(0、0、2g)である。
【0039】
磁気センサ11は、MI素子、MR素子などを備え、直交する3軸の成分に分解して磁気を検出するセンサである。磁気センサ11に固有のxyz座標系の各軸の方向は、加速度センサ10に固有のxyz座標系の各軸の方向と一致している。すなわち、磁気センサ11から出力される磁気データh(x、y、z)=(1、1、1)と加速度センサ10から出力される加速度データg(x、y、z)=(1、1、1)とが同じ方向を向くように磁気センサ11と加速度センサ10とは例えば共通の基板17に固定されている。
【0040】
GPS(Global Positioning System)ユニット12は、衛星航法に用いる3個又は4個の衛星から送られてくる軌道データを受信するアンテナ、現在位置を示す緯度経度データを出力するためのASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成される。
【0041】
PU(Processor Unit)14は、歩行ナビゲーションプログラム、OS(Operating System)などを実行することにより、歩行方位を出力したり、歩行ナビゲーションシステムの様々なハードウェアを制御する。
ROM(Read Only Memory)15は、PU14が実行する各種のコンピュータプログラムが格納されている不揮発性記憶媒体である。
RAM(Random Access Memory)16は、PU14がコンピュータプログラムを実行したり加速度データを格納するためのワークメモリとして機能する記憶媒体である。
IF(Inter Face)13は、AD変換器、DA変換器などを備え、加速度センサ10、磁気センサ11、GPSユニット12、PU14、ROM15、RAM16などの間で転送されるデータの形式を受取側のデータ形式に変換するモジュールである。
【0042】
(3)歩行ナビゲーションシステムのデータの流れ
図4は、歩行ナビゲーションシステムのデータの流れの要部を示すデータフロー図である。図4に示す処理は歩行ナビゲーションプログラムを実行するPU14によって処理される。
【0043】
傾斜推定プロセス21は、加速度データg(x、y、z)を入力し、加速度センサ10の傾きの推定値としての(α、β)を加速度データの平均である静止データに基づいて導出する。加速度センサ10の傾きの推定値は、加速度センサ10に固有のxyz座標系において定義する静止データの方向であり、加速度センサ10に固有のx軸と静止データのxy成分とのなす角α(y軸の正方向を正として−180°<α≦180°とする。)と、加速度センサ10に固有のz軸と静止データとのなす角β(z軸の正方向を正として−90°<β≦90°とする。)とで表される。
【0044】
回転プロセス20は、加速度データg(x、y、z)と加速度センサ10の傾きの推定値(α、β)とを入力し、これらに基づいて加速度データの座標軸を回転することにより、静止状態で加速度センサが検出するとみなす静止データをZ軸の正方向にとるXYZ直交座標系で表されるデータに加速度データを変換し、その結果として加速度データg(X、Y、Z)を出力する。
【0045】
水平振動軸導出プロセス22は、加速度データg(X、Y、Z)のXY成分である加速度の水平成分g(X、Y)を任意区間について入力し、その分布を解析することにより水平振動軸の傾きを導出する。水平振動軸の傾きはXYZ直交座標系のX軸とのなす角θ(−90°<θ≦90°)として導出される。任意区間とはGPSユニット12が軌道データを受信できない区間である自律航法区間(図5参照)において1つの歩行方位を導出する単位となる区間である。任意区間は、時間で区切ってもよいし、歩数で区切ってもよい。
【0046】
水平振動軸成分導出プロセス30は、加速度の水平成分g(X、Y)と水平振動軸の傾きθとを入力し、これらに基づいて加速度データの座標軸を回転することにより、水平振動軸をt軸としt軸に垂直で水平面に含まれる軸をu軸とするtu直交座標系で表されるデータに加速度データを変換し、その結果として加速度の水平振動軸成分データg(t)を導出する。
【0047】
位相差判定プロセス23は、加速度の水平振動軸成分であるg(t)と加速度データg(X、Y、Z)のZ成分である加速度の鉛直軸成分g(Z)とを入力し、加速度の水平成分の水平振動軸成分の位相が加速度の鉛直軸成分の位相に対して進んでいるか否かを判定する。
【0048】
歩行方向導出プロセス26は、水平振動軸の傾きであるθと位相差判定プロセス23の判定結果である真/偽とを入力し、歩行方向を導出する。歩行方向はXYZ直交座標系のX軸と歩行方向とのなす角であるθ(−90°<θ≦90°)またはθ+180°である。
【0049】
歩行方位導出プロセス28は、歩行方向と、磁気データh(x、y、z)と、加速度センサ10の傾き(α、β)とを入力し、これらに基づいて北方向と歩行方向とのなす角である歩行方位を導出する。
【0050】
以上のプロセスが任意区間の歩行方位を導出するためのプロセスである。次に任意区間の歩行距離を導出するためのプロセスについて説明する。
【0051】
歩数導出プロセス24は、歩数起算地から歩数決算地までの歩幅測定区間と任意区間とについて加速度データの鉛直軸成分g(Z)を入力し、これに基づいて任意区間の歩数nと、歩数起算地から歩数決算地までの歩数Nとを導出する。歩幅測定区間はGPSユニット12が軌道データを受信できる区間である衛星航法区間(図5参照)において歩行者の平均的な歩幅である基準歩幅が導出される区間である。歩幅測定区間は、時間で区切ってもよいし、歩数で区切ってもよい。任意区間の歩数nを導出する方法としては加速度データの大きさが任意区間内で0となる回数を計数し、それに基づいて歩数nを導出する方法が知られているが、歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度の歩行方向軸成分と鉛直軸成分の大きさがそれぞれ0になる時点にずれがあるため、成分の大きさを0とみなす適切な閾値を設定することが難しいという問題がある。このため、加速度データの鉛直軸成分のみを使って歩数nを導出することが望ましい。
【0052】
歩幅導出プロセス25は、歩幅測定区間の歩数Nと、歩数起算地と歩数決算地とのGPS位置データp(x、y)とを入力し、これらに基づいて基準歩幅wを導出する。
【0053】
歩行距離導出プロセス27は、任意区間の歩数nと基準歩幅wとを入力し、これらを掛け合わせることによって歩行距離dを導出する。
【0054】
以上が任意区間の歩行距離を導出するプロセスである。次に歩行者の現在位置を導出する現在位置導出プロセス29について説明する。
【0055】
現在位置導出プロセス29は、任意区間の歩行方位と任意区間の歩行距離と衛星航法区間のGPS位置データとを入力し、これらに基づいて現在位置P(x、y)を導出する。現在位置P(x、y)は現在地の緯度経度を示すベクトルデータである。現在位置導出プロセス29は図5に示す衛星航法区間においてはGPS位置データをそのまま現在位置として出力し、自律航法区間においては次のように現在位置を導出する。すなわち、GPSユニット12が軌道データを受信できなくなると、最後に取得したGPS位置データを最初の任意区間の始点として設定する。その後、任意区間(p3/p4、p4/p5、p5/p6、p6/p7、...)の歩行方位と歩行距離とに基づいて導出する任意区間の歩行ベクトルを、最初の任意区間の始点に積算することによって自律航法区間の現在位置P(x、y)を導出する。
【0056】
(4)歩行方位の導出方法の詳細
次に上述のナビゲーションシステムによる歩行方位の導出方法の詳細を説明する。
・加速度センサの傾きの推定
図6は歩行中の任意区間の加速度データを加速度センサ10に固有のxyz座標系にプロットした図である。図6に示すように、歩行中の加速度データは原点から中心部が離れた有限範囲に分布する。加速度データの分布の中心部が原点から離れる理由は、重力加速度の反対向きの加速度と歩行運動に固有の加速度を合成した加速度を表すデータが加速度センサ10から出力されるからである。前述したように、本実施形態では加速度データの平均を重力加速度の反対向きの加速度とみなして静止データとし、加速度センサ10に固有の座標系で定義される静止データの方向を加速度センサの傾きとして導出する。図7は、静止状態から10秒間歩行した区間についての加速度データの平均と、歩行開始時の静止状態にある加速度センサ10から出力される加速度データとの比較結果を示す表である。図7に示す比較結果からは、加速度データの平均を静止データとして導出しても実用上十分信頼できる範囲で加速度センサの傾きを推定できることがわかる。例えば、加速度データの平均を静止データとして導出しても±5°程度の誤差範囲で歩行方位を導出することが可能である。
【0057】
加速度センサ10の傾きは具体的には例えば次のようにして推定される。
はじめに、加速度センサ10の傾きを推定するための区間について加速度データg(x、y、z)の平均である静止データgave(x、y、z)を導出する。この区間は、加速度センサ10の傾き推定値を用いて歩行方位を導出する任意区間と一致していてもよいし、一致していなくてもよいし、連続区間であってもよいし、互いに離れた複数の区間であってもよい。例えば、歩行方位を導出する区間の直前の区間において静止データを導出してもよい。また、ある区間において導出した静止データの方向をその区間の後の複数の区間における歩行方位の導出に利用してもよい。
【0058】
次に、加速度センサ10の傾きを、加速度センサ10に固有の座標系であるxyz座標系において特定する。具体的には、α、βという2つの値によって静止データの方向を定義することとし、加速度センサ10の傾きを(α、β)として特定する。αは、静止データのxy成分とx軸とのなす角であり、静止データのxy成分であるベクトル(x、y)と(1、0)とのなす角の角度(°)として導出する。αは(0、1)から(1、0)に向かう方向を正とする。βは静止データとz軸とのなす角であり、静止データと平行でz軸を含む座標平面において表した静止データ((x2+y2)1/2、z)と、同一座標平面の単位ベクトル(0、1)とのなす角として導出する。
【0059】
・加速度の水平成分および鉛直軸成分の導出
図8は、静止データの方向がZ軸の正の方向となるXYZ直交座標系に加速度データをプロットした図である。このXYZ直交座標系ではZ軸の正方向が鉛直上向きであると推定され、XY平面が水平面に平行なものとして推定されている。
【0060】
加速度センサ10に固有のxyz直交座標系からXYZ直交座標系への座標軸変換の写像は次式(4)の行列Bと加速度データg(x、y、z)との積で表される。
【数4】
【0061】
式(4)の右辺の2つの行列の積を加速度センサ10の傾き(α、β)に基づいて計算することにより、加速度センサ10に固有のxyz座標系からXYZ座標系への写像の行列表現である行列Bが導出される。尚、xyz直交座標系からXYZ直交座標系への座標軸変換の別の方法として四元数を使用する方法もある。
【0062】
次に加速度センサ10に固有のxyz座標系からXYZ座標系への写像を表す行列Bを用いて加速度データの座標軸を変換し、静止データの方向がZ軸の正の方向となるXYZ座標系で表した加速度データg(X、Y、Z)を導出する。
【0063】
・水平振動軸の導出
図9は、XYZ直交座標系のXY平面に加速度データを投影した図である。すなわち、図9に実線で示されるデータは加速度データのXY成分であり、加速度の水平成分として見なしている二次元ベクトルデータである。加速度データの水平成分であるXY成分の分布の長軸である水平振動軸を図10、図11に示す。図10はXY平面が水平面であると推定されているXYZ座標系において水平振動軸を示し、図11は加速度センサ10に固有のxyz座標系において水平振動軸を示している。歩行中の加速度の水平成分は、図10、図11に示すように長軸の長さと短軸の長さとが明らかに異なる扁平した分布を示す。前述したように水平振動軸に平行な2方向のいずれかを歩行方向として特定するため、加速度の水平成分の分布を解析し、分布の長軸である水平振動軸とX軸とのなす角θ(−90°<θ≦90°)を以下の方法で算出することにより、水平振動軸を導出する。
【0064】
水平振動軸をt軸とするtu直交座標系への加速度データの水平成分g(X、Y)の座標軸変換の写像は次式(5)によって表される。
【数5】
【0065】
t軸が水平振動軸と平行になるとき、式(5)の写像は加速度データの水平成分の分布の主軸変換に相当する。分布の長軸方向において分散が最大になるため、t軸が水平振動軸と平行であるとき、次式(6)で表すf(θ)は極大となる。
【数6】
【0066】
式(6)においては歩行方位を導出する対象となる任意区間の加速度g(X、Y)の配列Qを次式(7)で定義している。
【数7】
【0067】
f(θ)が極値を取るとき次式(8)で表すf'(θ)は0である。
【数8】
【0068】
したがって、次式(9)を満たす2つのθ1、θ2を計算してそれぞれf(θ)に代入し、θ1、θ2のうちf(θ)がより大きくなる角度を特定し、特定した角度を水平振動軸とX軸とのなすθとして導出する。
【数9】
【0069】
尚、式(9)の計算が発散することを防ぐため、式(9)の右辺の分母の絶対値と分子の絶対値とを予め計算し、絶対値の大きい方を分母にして計算する必要がある。したがって、式(9)の右辺の分母の絶対値と分子の絶対値とを計算し、分子の絶対値の方が小さい場合には式(9)を用いてθを導出し、分子の絶対値の方が大きい場合には式(9)の代わりに次式(10)を用いてθを導出する。
【数10】
また、水平加速度の分散が最小となる分布の短軸の傾きを導出し、短軸の傾きから長軸の傾きを導出しても良いことはいうまでもない。
【0070】
ここまでの処理が終了すると水平振動軸の傾きが導出される。ただし、水平振動軸は正負の向きに意味を持たない軸である。ここまでの処理では、任意区間内の時系列データである加速度データを単なる空間情報として扱うことにより正負の向きに意味を持たない水平振動軸の傾きを導出した。
【0071】
・歩行方向の導出
図12は加速度データの水平振動軸成分tが加速度データの歩行方向軸成分に一致すると仮定して加速度データの水平振動軸成分tをプロットしたグラフである。横軸pは、水平加速度g(X、Y)の配列Qの各要素の添え字として用いたpであるから、加速度センサ10が加速度データを出力した離散時間を表している。図13は歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度(この加速度は真の加速度である。)の歩行方向軸成分と鉛直軸成分の振動を表すグラフである。加速度データに計測誤差がなく、加速度センサ10の推定した傾きにも誤差がない場合、真の加速度の歩行方向軸成分は加速度データの水平振動軸成分tまたは−tと一致し、真の加速度の鉛直軸成分は加速度データの鉛直成分とみなしているZ成分と一致する。加速度データの計測誤差は公知のオフセット補正(ここでいうオフセット補正は静止データを差し引く補正ではなく、温度特性等を補正する処理である。)により十分小さくなっている。また前述したように加速度センサ10の傾きの推定精度は十分高い。したがって、加速度データの水平振動軸成分tまたは−tの振動位相は、加速度データのZ成分の振動位相に対して少し進む。そこで加速度データの水平振動軸成分tと鉛直軸成分Zとを時系列データとして扱う例えば次の方法によって、加速度データの水平振動軸成分tの振動位相と加速度データの鉛直軸成分Zの振動位相とのずれの大きさを特定し、その結果に基づいて水平振動軸に平行な2方向のいずれか一方向を歩行方向として判定する。
【0072】
まず加速度データの水平振動軸成分tが正から負に向かって0になる時点pt〔i〕(i=0,1,2...)と加速度の鉛直軸成分Yから静止データを差し引いた値の符号がそれぞれ正から負に向かって0になる時点pz〔j〕(j=0,1,2...)とを導出し、各iについてpz〔j〕とpz〔j+1〕との間にあるpt〔i〕を導出する。そして次式(11)のf(i,j)が0.5より大きいか小さいかを判定し、小さければθを歩行方向とし、大きければθ+180°を歩行方向とする。
【数11】
【0073】
式(11)を用いた上述の判定方法は、加速度センサ10の加速度について歩行方向軸成分の振動位相と鉛直軸成分の振動位相との差φ(φは歩行方向軸成分の振動位相が進む方向を正とする値である)が常に加速度センサ10の加速度の歩行方向軸成分の振動周期Tの1/2未満となった実験結果に基づいている。尚、歩行者に携行されている加速度センサ10の加速度については歩行方向軸成分の振動周期と鉛直軸成分の振動周期とがほぼ一致するため、いずれの周期を式(11)の左辺の分子に対応させても良い。
【0074】
pt〔i〕とpz〔j〕の導出は、例えば次のように行う。
加速度データの水平振動軸成分t、鉛直軸成分Zを、加速度センサ10が加速度データを出力した離散時間を表すpの関数としてそれぞれ表すと、t〔p〕、Z〔p〕となる。加速度センサ10が加速度データを出力する時間間隔(すなわち加速度データを読み込む時間間隔)をΔpとする。
はじめに加速度データの水平振動軸成分が正から負に転ずるタイミングを捕捉するため、次式(12)を満たすpを導出する。
【数12】
式(12)を満たすpが導出されたら、次にpとp+1との間においてt〔p〕を直線近似して値が0となる時点に対応する水平振動軸成分pt〔i〕を導出する。具体的には次式(13)を満たすpt〔i〕を導出する。
【数13】
pz〔j〕もpt〔i〕と同様にして導出することができる。
【0075】
ただし、歩行していない状態であっても完全に静止していないと、式(12)によってノイズとなるタイミングが捕捉されることとなる。そこで式(12)に加えて次式(14)をも満たす場合にのみ振動位相の差を導出するための有意なタイミングとして捕捉することが望ましい。
【数14】
ただしCは、例えば0.1G相当の正の定数とする。
また加速度データの出力間隔が狭い場合には、1個とばし、2個とばしというようにとびとびの加速度データを式(12)に代入して加速度データの水平振動軸成分が正から負に転ずるタイミングを捕捉してもよい。
【0076】
水平振動軸に平行な2方向のいずれか一方向を歩行方向として判定する他の方法としては、式(11)の左辺の分母分子を入れ替えたf(i,j)と2との大小比較によって判定しても良いことはもちろんのこと、加速度データの水平振動軸成分tと、加速度データの鉛直方向軸成分Zから静止データを差し引いた値との差分の積算値の符号によって判定する方法や、加速度データの水平振動軸成分tが0となる時点の加速度データのY成分の正負によって判定する方法などが考えられる。
【0077】
θは静止データをZ軸の正に取るXYZ直交座標系のX軸となす角度であるから、上述した方法によってθまたはθ+180°として導出される歩行方向は、図14、図15に示すように、加速度センサ10の一定とみなしている姿勢を基準とする方向である。
【0078】
・歩行方位の導出
加速度センサ10の姿勢を基準とする歩行方向から東西南北の四方を基準とする歩行方位を導出する方法は次の通りである。
磁気センサ11に固有のxyz座標系の各軸の方向が加速度センサ10に固有のxyz座標系の各軸の方向と一致しているという前提条件の下では、加速度データgの3軸直交座標系の各軸の方向と磁気データhの3軸直交座標系の各軸の方向とを一致させる座標軸の回転により、磁気データが示す北方向と加速度センサ10の姿勢を基準とする歩行方向とのなす角度D(°)が東西南北を基準とする歩行方位となる(図1参照)。
【0079】
したがって次式(15)に示す写像を用いて磁気センサ11に固有のxyz直交座標系からXYZ直交座標系に磁気データの座標系を変換し、XYZ直交座標系の磁気データ(hX、hY、hZ)が示す方位角から歩行方向θまたはθ+180°を差し引くことにより、東西南北を基準とする歩行方位Dを導出できる。
【数15】
【0080】
(5)効果
以上説明した歩行ナビゲーション方法では、任意の区間において三次元加速度センサから取得する複数の加速度データに基づいた統計演算により歩行方向を導出した。このため、母集団を区切る任意区間の長さを適切に設定することにより、一歩毎に歩行方向を導出する方法に比べて精度よく歩行方向を導出することができる。すなわち、一歩毎に歩行方向を導出する方法では、一歩ごとに歩行方向を確定するため、歩行方向を確定するたびに確定した誤差が累積する。これに対し、上記実施形態の方法では、例えば5歩、10歩と進む任意区間で区切られる加速度データを統計的に処理することによって、導出される歩行方向、歩行方位、現在位置の誤差がそれぞれ小さくなる。
また、重力加速度の反対向きの加速度に対応する静止データとして加速度データの平均を導出するため、歩行中において加速度センサ10の姿勢が変化したとしても、その変化によって増大する歩行方向、歩行方位、現在位置の誤差を歩行中に低減することができる。
(6)他の実施形態
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において上述の実施形態に対して種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係るブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るデータフロー図である。
【図5】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る表である。
【図8】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図10】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図11】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図12】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図13】本発明の実施形態に係るグラフである。
【図14】本発明の実施形態に係る模式図である。
【図15】本発明の実施形態に係る模式図である。
【符号の説明】
【0082】
10:加速度センサ、11:磁気センサ、12:GPSユニット、13:IF、14:PU、15:ROM、16:RAM、17:基板、20:回転プロセス、21:傾斜推定プロセス、22:水平振動軸導出プロセス、23:位相差判定プロセス、24:歩数導出プロセス、25:歩幅導出プロセス、26:歩行方向導出プロセス、27:歩行距離導出プロセス、28:歩行方位導出プロセス、29:現在位置導出プロセス、D:角度(歩行方位)、d:歩行距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、
前記水平振動軸の傾きに基づいて前記加速度の水平振動軸成分を導出し、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、
ことを含む歩行ナビゲーション方法。
【請求項2】
前記三次元加速度センサに固有の座標系から、静止状態の前記三次元加速度センサが出力する加速度データとみなす静止データの方向がZ軸と平行になるXYZ直交座標系への写像を導出し、
前記加速度の前記水平成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのX、Y成分であって、
前記加速度の前記鉛直軸成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのZ成分である、
請求項1に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項3】
複数の前記加速度データの平均を前記静止データとして導出する、
請求項2に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項4】
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれを、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相に対する前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相の遅れと前記加速度の前記水平振動軸成分の周期または前記加速度の前記鉛直軸成分の振動周期との比とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項5】
前記三次元加速度センサとともに姿勢変化する磁気センサから磁気データを取得し、
前記磁気データと前記歩行方向とに基づいて前記任意区間における歩行方位を導出する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項6】
前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて前記任意区間の歩数を導出し、
基準歩幅と前記任意区間の歩数とに基づいて前記任意区間の歩行距離を導出する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項7】
歩数起算地のGPS位置データと歩数決算地のGPS位置データとに基づいて前記歩数起算地から前記歩数決算地までの区間距離を導出し、
前記歩数起算値から前記歩数決算値までの歩数である基準歩数を前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて導出し、
前記区間距離と前記基準歩数とに基づいて前記基準歩幅を導出する、
請求項6に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項8】
前記歩行方位と前記歩行距離とGPS位置データとに基づいて現在位置を導出する、
請求項6または7に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項9】
前記任意区間の前記加速度の前記水平成分を(Xp、Yp)、ただし(p=0,1,2...s)とするとき、次式(1)を満たすθ(−90°<θ≦90°)を前記水平振動軸の傾きとして導出する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【数1】
【請求項10】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、
を備える歩行ナビゲーションシステム。
【請求項11】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、
としてコンピュータを機能させる歩行ナビゲーションプログラム。
【請求項1】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得し、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出し、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出し、
前記水平振動軸の傾きに基づいて前記加速度の水平振動軸成分を導出し、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する、
ことを含む歩行ナビゲーション方法。
【請求項2】
前記三次元加速度センサに固有の座標系から、静止状態の前記三次元加速度センサが出力する加速度データとみなす静止データの方向がZ軸と平行になるXYZ直交座標系への写像を導出し、
前記加速度の前記水平成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのX、Y成分であって、
前記加速度の前記鉛直軸成分は、前記XYZ直交座標系における前記加速度データのZ成分である、
請求項1に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項3】
複数の前記加速度データの平均を前記静止データとして導出する、
請求項2に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項4】
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれを、前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相に対する前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相の遅れと前記加速度の前記水平振動軸成分の周期または前記加速度の前記鉛直軸成分の振動周期との比とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項5】
前記三次元加速度センサとともに姿勢変化する磁気センサから磁気データを取得し、
前記磁気データと前記歩行方向とに基づいて前記任意区間における歩行方位を導出する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項6】
前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて前記任意区間の歩数を導出し、
基準歩幅と前記任意区間の歩数とに基づいて前記任意区間の歩行距離を導出する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項7】
歩数起算地のGPS位置データと歩数決算地のGPS位置データとに基づいて前記歩数起算地から前記歩数決算地までの区間距離を導出し、
前記歩数起算値から前記歩数決算値までの歩数である基準歩数を前記加速度の前記鉛直軸成分に基づいて導出し、
前記区間距離と前記基準歩数とに基づいて前記基準歩幅を導出する、
請求項6に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項8】
前記歩行方位と前記歩行距離とGPS位置データとに基づいて現在位置を導出する、
請求項6または7に記載の歩行ナビゲーション方法。
【請求項9】
前記任意区間の前記加速度の前記水平成分を(Xp、Yp)、ただし(p=0,1,2...s)とするとき、次式(1)を満たすθ(−90°<θ≦90°)を前記水平振動軸の傾きとして導出する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の歩行ナビゲーション方法。
【数1】
【請求項10】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、
を備える歩行ナビゲーションシステム。
【請求項11】
単位質量に作用する重力と慣性力の合成ベクトルを示すデータを加速度データとして出力する三次元加速度センサから前記加速度データを任意区間内の離散時間に取得する手段と、
前記加速度データに基づいて前記三次元加速度センサの加速度の水平成分と鉛直軸成分とを導出する手段と、
前記加速度の前記水平成分の分布の長軸である水平振動軸の前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする傾きを統計演算により導出する手段と、
前記加速度の前記水平振動軸成分の振動位相と前記加速度の前記鉛直軸成分の振動位相とのずれに基づいて前記水平振動軸に平行な二方向のうちいずれか一方向を前記任意区間における前記三次元加速度センサの姿勢を基準とする歩行方向として判定する手段と、
としてコンピュータを機能させる歩行ナビゲーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−116315(P2008−116315A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299699(P2006−299699)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]