説明

歯周病治療用組成物

【課題】 歯周病治療用組成物、歯根膜誘導方法およびそれらに用いられるポリペプチド、ポリヌクレオチド、組み換え発現ベクターおよび形質転換体を提供する。
【解決手段】 ヒトADAMTSL4αタンパク質、ヒトADAMTSL4βタンパク質、マウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質が歯根膜再生工程を制御する因子であることを同定した。これらのタンパク質を含む組成物、これらのタンパク質をコードする遺伝子が導入されている形質転換体を含む組成物、これらのタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換え発現ベクターにより、歯根膜を誘導することができる。その結果、歯周病によって崩壊した組織を修復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病治療用組成物およびそれに用いられるポリペプチド、ポリヌクレオチド、組み換え発現ベクターおよび形質転換体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯周病は口腔内常在菌により引き起こされる慢性炎症性疾患である。その病態は、加齢と共に進行する。そして病態が重度に進行した歯周病では、歯を支える歯周組織(歯根膜、歯槽骨、セメント質)は崩壊し、その結果、支持組織を失った歯は抜去される。厚生省歯科疾患実態調査では、50歳以上の約50%が歯周病に罹患しており、75歳以上の高齢者にいたっては、75%以上が歯牙喪失者であることが報告されている。さらに、歯周病による咀嚼機能喪失の喪失は、単に咀嚼機能の低下をまねくのみならず、全身の健康にも影響を及ぼすことが報告されている。したがって、歯周病再生医療が確立すれば、歯の寿命を延長することができるのみならず、高齢者のquality of lifeにも大きく貢献することが期待できる。
【0003】
従来から、歯周病の治療には、病原菌に感染した部位を対症療法による手段で対処する方法が広く用いられている。しかしながら、歯周病は大きな組織崩壊を伴う疾患であるため、崩壊した組織の自然修復は難しく、治療後に組織を修復することが必要であった。そのため、従来からさまざまな組織修復方法が開発されてきた。
【0004】
例えば、ゴアテックス膜もしくはポリ乳酸などの人工材料を用いた再生療法が開発され、一部の臨床ケースではその有効性が示されている(非特許文献1、2参照)。なお、上記人工材料を用いた再生療法の開発過程で、歯周組織修復過程の初期段階に、歯根膜再生工程が必須であることが報告された。その結果、歯根膜再生能力を有する生理活性物質が、歯周組織修復薬剤の候補として注目を集めるに至った。
【0005】
このような状況下、生理活性物質と人工材料とを併用した歯周組織の再生療法も開発されている(非特許文献3、4参照)。この再生療法は、上記生理活性物質としてサイトカインや増殖因子などを用い、積極的に歯根膜再生工程を促進しようとするものである。具体的には、上記生理活性物質として、骨形成タンパク質であるBone morphogenic protein(BMP)2、BMP7、血小板成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が用いられている。これら生理活性物質の中で、bFGFは、歯周組織修復能力が高いことが報告されている。
【0006】
本発明者らが注目したADAMTSL(a disintegrin-like and metalloprotease domain with thrombospondin type I motifs-like)遺伝子は、ADAMTS(a disintegrin-like and metalloprotease domain with thrombospondin type I motifs)ファミリーに属する新規遺伝子ファミリーであって、ADAMTSファミリーに属する遺伝子に特徴的なprometaroprotease domainとdisintegrin-like domainとを欠く新規遺伝子ファミリーである。
【0007】
現在までにマウスにおいては、ADAMTSLファミリーに属する遺伝子として、ADAMTSL1〜4遺伝子の4種類の遺伝子が知られている。また、ヒトにおいても、ADAMTSLファミリーに属する遺伝子として、ADAMTSL1〜3遺伝子の3種類の遺伝子が知られている。
【0008】
これらADAMTSLファミリーに属する遺伝子のうち、ヒトADAMTSL1遺伝子およびヒトADAMTSL3遺伝子に関しては、COS−1細胞で強制発現すると、ADAMTSL1タンパク質およびADAMTSL3タンパク質が、細胞外に分泌され、しかも細胞接着を制御するvinculinと局在が一致することが確認されていた。このことから、上記タンパク質が細胞接着を制御する細胞外マトリックス因子であることが示唆されている(非特許文献5、6参照)。
【非特許文献1】Minabe M et al. J Periodontol Vol.62,No.3,p171-9(1991)
【非特許文献2】Bartold PM et al. Periodontol Vol.24,No.1,p253-269(2000)
【非特許文献3】Gestrelius S et al. Clin Oral Investig Vol.4,No.2,p120-5(2000)
【非特許文献4】Murakami S et al.J Periodontal Res Vol.38,No.1,p97-103(2003)
【非特許文献5】Hall NG et al. Matrix Biol. Nov;22(6):p501-10(2003)
【非特許文献6】Hirohata S et al. J Biol Chem. Apr5;277(14):12182-9(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の歯周病治療法では、歯周病に伴う組織崩壊を十分に修復することができなかった。
【0010】
具体的には、上記従来の人工材料を用いる再生療法では、再生能力に限界があるため崩壊した組織を十分に再生することができないという問題を生じる。
【0011】
また、上記従来の生理活性物質と人工材料とを併用した再生療法も、崩壊の小さな組織の修復には有効性を示すが、崩壊の大きな組織の修復には、十分な有効性を示すまでには至っていない。この原因としては、上記生理活性物質が、直接的ではなく間接的に歯根膜再生工程を誘導している可能性があげられる。つまり、上記生理活性物質は、歯根膜再生工程の一部を誘導するのみであって、その結果、軽度の歯周病には有効性を示すものの、重度の歯周病の再生誘導までには至らないことが示唆されている。
【0012】
上記の理由から、より効果的な歯周組織修復方法を確立するためには、より広範に歯根膜再生工程を制御する因子を利用した組織工学的な治療方法の開発が必要になる。そのためには、歯根膜再生過程で歯根膜の原基である歯小嚢細胞を歯根膜細胞へ分化誘導する因子、あるいは歯根膜を構成する細胞外マトリックス因子の同定が必要である。そしてこれらの因子と生体吸収性材料とを組み合わせた組成物の開発によって、より効果的な歯周組織再生方法を確立することができる。しかしながら、現在まで、上記因子の同定には至っていなかった。
【0013】
また、上述したADAMTSLファミリーに属する遺伝子は、細胞外マトリックス因子であることが示唆されてはいたが、その詳細な機能は不明であった。このような状況下、ADAMTSLファミリーに属するタンパク質が上記歯根膜再生工程を制御する因子に相当するものであることが実証されれば、これらタンパク質を歯周病治療に用いることができる。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、歯根膜再生工程を制御する因子を同定するとともに、それを用いた歯周病治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、マウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質の機能を検討したところ、上記タンパク質が、歯周組織修復過程の初期に必須である歯根膜の再生を誘導することができることを見出した。さらに、本発明者は、今回、新たにヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子をクローニングするとともに、ヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質も、歯根膜を誘導することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明の歯周病治療用組成物は、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部を含むことを特徴としている。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0017】
また、本発明の歯周病治療用組成物は、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部をコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を含むことを特徴としている。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0018】
さらに、本発明の歯周病治療用組成物は、以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を含むことを特徴としている。
(c)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列、あるいは配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0019】
さらに、本発明の歯周病治療用組成物は、生体吸収材料を含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の歯根膜誘導方法は、上記歯周病治療用組成物を歯周病罹患部位へ充填する充填工程を含むことを特徴としている。
【0021】
また、本発明の歯根膜誘導方法は、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部をコードするポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0022】
また、本発明の歯根膜誘導方法は、以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。
(c)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列、あるいは配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0023】
また、本発明のポリペプチドは、歯根膜を誘導するポリペプチドであって、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチドであることを特徴としている。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド。
【0024】
また、本発明のポリヌクレオチドは、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることを特徴としている。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド。
【0025】
また、本発明のポリヌクレオチドは、以下の(c)または(d)のいずれかであることを特徴としている。
(c)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1または3に示される塩基配列、あるいは配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0026】
また、本発明の組み換え発現ベクターは、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド。
【0027】
また、本発明の組み換え発現ベクターは、以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
(c)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1または3に示される塩基配列、あるいは配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0028】
また、本発明の形質転換体は、歯根膜を誘導するポリペプチドであって、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド。
【0029】
また、本発明の形質転換体は、以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
(c)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1または3に示される塩基配列、あるいは配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0030】
本発明の歯周病治療用組成物および歯根膜誘導方法を用いることにより、歯周病などによって崩壊した組織を修復することができるという効果を奏する。
【0031】
また、本発明の組織再生薬剤のスクリーニング方法を用いることにより、歯周病などによって崩壊した組織を再生することが可能な組織再生薬剤をスクリーニングすることができるという効果を奏する。
【0032】
また、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、歯根膜を誘導する機能を有するため、効率良く歯根膜を再生できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(1)歯周病治療用組成物
本発明は、歯周病などによって崩壊した組織を修復するための歯周病治療用組成物を提供する。
【0035】
本発明者は、詳細な機能が解明されていなかったマウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質が、歯周組織修復過程の初期に必須である歯根膜の再生を誘導することができることを見出した(後述の実施例参照)。また、同様にヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質も、歯根膜の再生を誘導することができることを見出した(後述の実施例参照)。したがって、本発明の歯周病治療用組成物は、上記ヒトADAMTSL4αタンパク質、ヒトADAMTSL4βタンパク質、マウスADAMTSL4αタンパク質もしくはマウスADAMTSL4βタンパク質、またはその一部を含むものであればよい。その結果、歯周病などによって崩壊した組織を修復することができる。ここで、「歯根膜の再生を誘導する」とは、歯周病などによって失われた歯根膜を再び構築することを意味するが、それに限定されるものではなく、本来歯根膜が存在しなかった組織に、歯根膜を構築することをも意味する。また、本明細書中「歯根膜誘導活性」という表現は「歯根膜の再生を誘導する活性」の意味で使用される。
【0036】
一実施形態において、本発明の歯周病治療用組成物は、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドを含むことが好ましい。また、他の実施形態において、本発明の歯周病治療用組成物は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を含むことが好ましい。また、本発明の歯周病治療用組成物は、上記ポリペプチドまたは形質転換体を含むと同時に、生体吸収材料を併せて含んでもよい。本発明の歯周病治療用組成物中に含まれる上記ポリペプチド、形質転換体および生体吸収材料に関しては後述する。
【0037】
また、本発明の歯周病治療用組成物は、上記ポリペプチド、形質転換体および生体吸収材料に加えて、適切な薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。このキャリアは、薬学的に用いられ得る賦形剤および助剤を含む。本発明の歯周病治療用組成物中に使用される薬学的に受容可能なキャリアは、上記歯周病治療用組成物の投与形態および剤型に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0038】
本発明の歯周病治療用組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。また、本発明の歯周病治療用組成物が含む上記ポリペプチド、形質転換体、生体吸収材料および薬学的に受容可能なキャリアの各含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、当該歯周病治療用組成を用いて崩壊した組織を修復できるような量であれば特に限定されない。
【0039】
また、本発明の歯周病治療用組成物の投与方法に関しては、歯周病によって崩壊した組織部位に当該歯周病治療用組成物を充填することができるものであればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
また、本発明の歯周病治療用組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法および当該歯周病治療用組成物の投与対象である患者の年齢、体重、症状などによって適宜設定されることができる。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回、または数回に分けて行ってもよい。また、1週、1ヶ月あるいは1年内において単回、または数回に分けて行ってもよく、本発明の歯周病治療用組成物の投与頻度は、特に限定されるものではない。
【0041】
以下に、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチド、形質転換体および生体吸収材料に関して説明する。
【0042】
(1−1)ポリペプチド
以下に、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドについて説明する。
【0043】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本実施形態のポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、組換え的に生成されてもよい。
【0044】
本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドは、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドを含むものであればよい。上記ポリペプチドは、歯根膜を誘導するポリペプチドであって、配列番号2、配列番号4、配列番号6もしくは配列番号8に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチドであることが好ましい。ここで、配列番号2、配列番号4、配列番号6もしくは配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、それぞれヒトADAMTSL4αタンパク質、ヒトADAMTSL4βタンパク質、マウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質である。なお、「その一部からなるポリペプチド」とは、配列番号2、配列番号4、配列番号6もしくは配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメントを意味する。当該フラグメントは歯根膜誘導活性を有するものであればよい。
【0045】
例えば、上記フラグメントとは、ADAMTSL4タンパク質のPLAC(protease and lacunin)ドメインおよび/またはADAMTSL4αタンパク質のN末端領域のポリペプチドとを含むポリペプチドであることが好ましい。ここで上記PLACドメインとは、配列番号2、配列番号4、配列番号6および配列番号8に示されるポリペプチド中の、それぞれ975〜1004位、615〜644位、975〜1004位および615〜644位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。また、上記N末端領域のポリペプチドとは、ヒトADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4αタンパク質に特異的な配列であって、配列番号2および配列番号6に示されるポリペプチド中の、それぞれ1〜348位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0046】
また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドは、上記ポリペプチドの変異体であって歯根膜誘導活性を有するものでもよい。このような変異体としては、配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0047】
このような変異体は、人為的に作製されたものでもよく、天然に存在するものでもよい。当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法(変異誘発法)に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。
【0048】
また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドは、天然の精製産物であってもよく、原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、E.coli細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物であってもよい。また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、アミノ酸以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。さらに、本実施形態のポリペプチドはまた、組み換え技術などを用いて製造された場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0049】
また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれるポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、HA、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0050】
(1−2)形質転換体
本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体は、上述したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み換え発現ベクターに挿入し、当該組み換え発現ベクターを導入することによって作製される。なお、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いる、ポリヌクレオチド、組み換え発現ベクターについては、後述する。
【0051】
本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いる細胞は、特に限定されるものではないが、適用対象動物と同一の動物種由来細胞であることが好ましい。例えば、ヒトを対象とする場合には、ヒト由来の各種培養細胞を好適に用いることができる。例えば、ヒト生体由来の細胞であって、間葉系幹細胞、ES細胞、骨芽細胞、歯根膜細胞、歯小嚢細胞、歯胚細胞、線維芽細胞を用いることが好ましい。
【0052】
組み換え発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0053】
(1−2−1)ポリヌクレオチド
以下に、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられるポリヌクレオチドについて説明する。
【0054】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0055】
本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられるポリヌクレオチドは、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればよい。また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられるポリヌクレオチドは、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体であってもよい。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。また、天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。このような変異体としては、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0056】
具体的には、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられるポリヌクレオチドは、以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
また、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられるポリヌクレオチドは、
(c)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列、あるいは配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
であることが好ましい。ここで、配列番号1、配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとは、それぞれヒトADAMTSL4αcDNA、ヒトADAMTSL4βcDNA、マウスADAMTSL4αcDNAおよびマウスADAMTSL4βcDNAである。
【0057】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0058】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。
【0059】
上記ポリヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、上記ポリヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、上記ポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記ポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0060】
あるいは、上記ポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、上記ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、上記ポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0061】
本実施形態のポリヌクレオチドを取得するための供給源は、特に限定されるものではないが、ヒト歯根膜組織を好適に用いることができる。
【0062】
(1−2−2)組み換え発現ベクター
以下に、本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いられる組み換え発現ベクターについて説明する。
【0063】
本発明の歯周病治療用組成物に含まれる形質転換体を作製するために用いる組み換え発現ベクターは、上述した歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されないが、RNAポリメラーゼの認識配列を有するプラスミドベクター(pEF6(invitorgen社製)、pSecTag2(invitrogen社製)、p3X FLAG−CMV(Sigma社製)など)が好ましい。例えば、上記ベクターに、歯根膜誘導活性を有するポリペプチド(シグナル配列を含んでも含まなくてもよい)をコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組み換え発現ベクターなどが挙げられる。また、アデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターを用いることもできる。組み換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0064】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に上記歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと上記歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0065】
本発明の組み換え発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
【0066】
組み換え発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。上記選択マーカーを用いれば、本発明のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。
【0067】
上記組み換え発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0068】
このように、上記組み換え発現ベクターは、少なくとも、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターであればよいといえる。
【0069】
(1−3)生体吸収材料
本発明の歯周病治療用組成物は、上記ポリペプチドまたは形質転換体を含むと同時に、生体吸収材料を併せて含むことが好ましい。以下に生体吸収材料について説明する。
【0070】
生体吸収材料とは、生分解性および生体親和性という性質を有する物質を意味する。上記生体吸収材料には、ポリ乳酸化合物、ハイドロキシアパタイト、キトサン化合物、異種動物由来コラーゲンなどを含む。それゆえ、本発明の歯周病治療用組成物の構成成分として好適である。
【0071】
本発明の歯周病治療用組成物に使用される生体吸収材料としては、有機材料として、例えば、乳酸、グリコール酸、ラクトンの重合体もしくは共重合体、コラーゲン、アルブミン、デキストラン、脂肪酸エチルエステル、ゼラチン、キチン、キトサン、フィブロイン等を挙げることが出来る。なお、天然由来材料も、抗原性の無い材料を用いることができる。
【0072】
また、セラミックスとして、生体適合性および骨伝導性に優れたリン酸カルシウム系セラミックス材料を用いることができる。水酸化アパタイトセラミックス(HAP)やβ−リン酸三カルシウムセラミックス(β−TCP)は、その代表的な材料である。これらセラミックス材料は、公知の手法により作製することができる。以下、水酸化アパタイトセラミックスおよびβ−リン酸三カルシウムセラミックスを、それぞれHAPおよびβ−TCPと称する。本発明で細胞浮遊液に添加される担体粉末は、担体であるセラミックスを公知の手法で粉砕することにより得ることができる。
【0073】
HAPは、優れた骨伝導性を有し、骨組織と直接結合するが、非吸収性で長期的に生体内に残存してしまう。一方、β−TCPは、優れた骨伝導能を有し、骨組織と直接結合する上、骨組織中で経時的に吸収され、自家骨に置換されるという性質を有する。これらの材料は、骨補填の用途に応じて使い分けることが出来る。
【0074】
特に、β−TCPは、生体適合性、骨形成に優れている上、生体吸収性にも優れ、骨欠損部などに充填する場合、経時的に自家骨に置換するという特徴を有する。そのため、本発明に使用されるリン酸カルシウム系セラミックス材料としては、β−TCPが最も好ましい。
【0075】
β−TCPは、メカノケミカル法で作製したβ−TCPであって、気孔率50〜90%、連通する気孔径50〜1000μmと5μm以下の気孔を有するものであることが好ましい。なお、β−TCPは、一般的に骨伝導能と生体吸収性の性質を併せ有するが、その合成プロセスによりその性能は左右され、メカノケミカル法により合成されたβ−TCPが最も骨補填材として優れている。
【0076】
また、多孔質の気孔性状は、β−TCP内部への細胞の進入などに寄与する50〜1000μmの気孔と、生体内での吸収を効率良くさせる5μm以下の気孔とを有することが望ましい。
【0077】
(2)歯根膜誘導方法
本発明は、歯根膜誘導方法を提供する。本発明の歯根膜誘導方法は、上述した歯周病治療用組成物を歯周病罹患部位へ充填する充填工程、または上述した組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むものであればよい。
【0078】
本発明の歯根膜誘導方法は、上記充填工程または遺伝子導入工程によって歯周病罹患部位に歯根膜誘導活性を有するポリペプチドを投与することができる。その結果、歯周病などによって崩壊した組織を修復することができる。以下に充填工程および遺伝子導入工程について説明する。
【0079】
(2−1)充填工程
本実施形態の歯根膜誘導方法は、上記歯周病治療用組成物を歯周病罹患部位へ充填する充填工程を含むことが好ましい。
【0080】
歯周病罹患部位は、患者によって様々な形状をなす。したがって、歯周病罹患部位へ充填される上記歯周病治療用組成物の形状および量は、特に限定されるものではなく、歯周病罹患部位の形状にあわせて、適宜変更すればよい。
【0081】
また、上記歯周病治療用組成物を患部へ充填する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜用いることができる。公知の方法としては、例えば、歯周外科手術時に歯周病罹患部位に直接塗布する方法、注射針を用いて罹患部位へ充填する方法、インプラント治療において、インプラント担体に治療用組成物を塗布したものを歯槽骨内に埋入する方法などを挙げることができる。また、本発明の歯周病治療用組成物を歯周病罹患部位に塗布する場合、プロピレングリコールアルジネート(PGA)、ゼラチンあるいはハイドロキシアパタイトを担体として用いることができる。
【0082】
(2−2)遺伝子導入工程
本実施形態の歯根膜誘導方法は、上述したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入した組み換え遺伝子発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むことが好ましい。ここで用いる組み換え発現ベクターとしては、上述した組み換え発現ベクターを用いることができる。また、ベクターの導入方法に関しても特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0083】
また、上記組み換え遺伝子発現ベクターとしては、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ベクターまたは非ウイルスベクター等を用いて作製した組み換え発現ベクターを用いることもできる。これらベクターに、上述したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入することによって組み換え遺伝子発現ベクターを作製することができる。なお、上記非ウイルスベクターとしては、例えば、HVJ(センダイウイルス)エンベロープベクターなどを用いることができる。
【0084】
上記レトロウイルスベクターの作製、ウイルスの作製、およびウイルスの標的細胞への感染方法は、特に限定されるものではない。例えば、Shimada等の方法(Shimada T et al. J Clin Invest. 1991 88(3):1043-1047 参照)を用いることができる。また、ウイルスを標的細胞に感染させる方法としては、例えば、歯周外科手術時に歯周病罹患部位に注射液を注入することによって行うことができる。
【0085】
また、上記アデノウイルスベクターの作製、ウイルスの作製、およびウイルスの標的細胞への感染方法も、特に限定されるものではない。例えば、Engelhardt等の方法(Engelhardt JF et al. Nat Genet. 1993 4(1),27-34 参照)を用いることができる。また、ウイルスを標的細胞に感染させる方法としては、例えば、歯周外科手術時に歯周病罹患部位に注射液を注入することによって行うことができる。
【0086】
また、上記レンチウイルスベクターの作製、ウイルスの作製、およびウイルスの標的細胞への感染方法も、特に限定されるものではない。例えば、Nakajima等の方法(Nakajima T et al. Hum Gene Ther. 11,1863-1874,2000)を用いることができる。
【0087】
また、上記アデノ随伴ベクターの作製、ウイルスの作製、およびウイルスの標的細胞への感染方法も、特に限定されるものではない。例えば、Muzyczka等の方法(Muzyczka N et al. Hum Gene Ther. Apr;16(4):408-416,2005)を用いることができる。
【0088】
また、上記非ウイルスベクターの作製、ウイルスの作製、および標的細胞への導入も、特に限定されるものではない。例えば、Nabel GJ等の方法(Nabel GJ et al.Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 90(23):11307-11311 参照)、Kaneda等の方法(Kaneda Y et al. Exp Cell Res. 1987 Nov;173(1):56-69 参照)およびWellsの方法(Gene Ther. 2004 11(18):1363-1369 参照)を用いることができる。また、非ウイルスベクターを標的細胞に導入する場合には、例えば、リポソーム法、センダイウイルス膜エンベロープベクターを用いる方法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0089】
また、歯周病罹患部位の細胞へ各ベクターが導入されたか否かを判定する方法としては、例えば、ベクターを導入してから所定の時間が経過したあと、歯周病罹患部位から組織を採取し、その組織を用いてウエスタンブロティング法、蛍光染色法、ノザンブロティング法などの公知の方法によって判定することができる。
【0090】
(3)ポリペプチド
本発明者は、マウスADAMTSL4αcDNAおよびマウスADAMTSL4βcDNAと相同性の高いヒトcDNAをNCBIデータベースであるBLASTを用いて検索し、その配列に基づいて、ヒト歯根膜より精製したRNAを鋳型として用いたRT−PCRを行い、ヒトADAMTSL4αcDNAおよびヒトADAMTSL4βcDNAをクローニングした。上記ヒトADAMTSL4αcDNAおよびヒトADAMTSLβcDNAは、それぞれ配列番号1および配列番号3によって示される。また、ヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質は、それぞれ配列番号2および配列番号4によって示される。
【0091】
さらに本発明者は、ヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質が、歯根膜の再生を誘導することができることを見出した(後述の実施例参照)。したがって、本発明のポリペプチドは、例えば、本発明の歯周病治療用組成物に含まれることによって、歯周病などによって崩壊した組織を再生することができる。
【0092】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明のポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、組換え的に生成されてもよい。
【0093】
本発明は、歯根膜を誘導することのできるポリペプチドを提供する。一実施形態において、本発明のポリペプチドは、歯根膜を誘導するポリペプチドであって、配列番号2もしくは配列番号4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチドである。ここで、配列番号2または配列弁号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、それぞれヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質である。なお、「その一部からなるポリペプチド」とは、配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメントを意味する。当該フラグメントは歯根膜誘導活性を有するものであればよい。
【0094】
例えば、上記フラグメントとは、ADAMTSL4タンパク質のPLAC(protease and lacunin)ドメインおよび/またはADAMTSL4αタンパク質のN末端領域のポリペプチドとを含むポリペプチドであることが好ましい。ここで上記PLACドメインとは、配列番号2または配列番号4に示されるポリペプチド中の、それぞれ975〜1004位および615〜644位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。また、上記N末端領域のポリペプチドとは、ヒトADAMTSL4αタンパク質に特異的な配列であって、配列番号2に示されるポリペプチド中の、1〜348位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0095】
また、本発明のポリペプチドは、上記ポリペプチドの変異体である。
【0096】
即ち、本実施形態のポリペプチドは、歯根膜を誘導するポリペプチドであって、
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0097】
上記(b)に示されるポリペプチドは、上記(a)に示されるポリペプチドの変異体である。このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0098】
ポリペプチドのアミノ酸配列中におけるいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではなく、天然のポリペプチドにおいて、当該ポリペプチドの構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0099】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性のアミノ酸置換、欠失、または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、付加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明のポリペプチドの歯根膜誘導活性を変化させない。
【0100】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中の1つのアミノ酸から別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0101】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310 (1990)に見出され得る。
【0102】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法(変異誘発法)に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。
【0103】
また、本発明のポリペプチドは、天然の精製産物、原核生物宿主および真核生物宿主(例えば、E.coli細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。また、本発明のポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、アミノ酸以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「アミノ酸以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。さらに、本発明のポリペプチドはまた、組み換え技術などを用いて製造された場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0104】
また、本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよい。
【0105】
また、本発明のポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0106】
また、本発明のポリペプチドは、融合ポリペプチドのような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明のポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に付加され得る。
【0107】
本実施形態のポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)を、当該ポリペプチドのN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合ポリペプチドの簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合ポリペプチドは、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態のポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
【0108】
このように、本発明のポリペプチドは、少なくとも、上記(a)または(b)に示されるポリペプチドを含んでいればよいといえる。すなわち、上記(a)または(b)に示されるポリペプチドと特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とからなるポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0109】
また、本発明の目的は、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される歯根膜誘導活性を有するポリペプチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0110】
(4)ポリヌクレオチド
本発明は、上述した本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0111】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0112】
本発明のポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0113】
また本発明のポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0114】
本発明はさらに、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0115】
このような変異体としては、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0116】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0117】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、以下に示す(a)もしくは(b)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド。
【0118】
ここで、配列番号2または配列弁号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドとは、それぞれヒトADAMTSL4αタンパク質およびヒトADAMTSL4βタンパク質である。
【0119】
また、他の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、下記の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドであることが好ましい。
(c)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1または3に示される塩基配列、あるいは配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0120】
ここで、配列番号1または配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとは、それぞれヒトADAMTSL4αcDNAおよびヒトADAMTSL4βcDNAである。
【0121】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0122】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0123】
本発明のポリヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。本発明のポリヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術は、標的遺伝子に対して相補的なRNA転写体を生成するキメラ遺伝子の導入を基本原理とする。その結果として得られる表現型は、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少である。DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0124】
本発明のポリヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明のポリヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0125】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0126】
本発明のポリヌクレオチドを取得するための供給源は、特に限定されるものではないが、ヒト歯根膜組織を用いることができる。
【0127】
本発明の目的は、歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチドの作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される歯根膜誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0128】
(5)組み換え発現ベクター
本発明は、本発明のポリペプチドを発現するために使用されるベクターを提供する。本発明のベクターを用いれば、本発明のポリペプチドを発現する形質転換体を作製することができる。上記形質転換体は、本発明の歯周病治療用組成物中に含まれてもよいし、本発明のポリヌクレオチドの精製原料として用いることもできる。
【0129】
本発明のベクターは、上述した本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されないが、RNAポリメラーゼの認識配列を有するプラスミドベクター(pEF6(invitorgen社製)、pSecTag2(invitrogen社製)またはp3X FLAG−CMV(Sigma社製)など)を用いて作製されることが好ましい。また、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ベクターまたは非ウイルスベクター等を用いて作製することもできる。例えば、上記ベクターに、歯根膜誘導活性を有するポリペプチド(シグナル配列を含んでも含まなくてもよい)をコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組み換え発現ベクターなどが挙げられる。アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ベクター等を用いれば、培養細胞のみならず、生体中で、本発明のポリペプチドを発現させることができる。例えば、歯周病罹患部位の細胞へ導入することによって、歯周病によって崩壊した組織を修復することができる。組み換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0130】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0131】
本発明の組み換え発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
【0132】
本発明のベクターを用いて形質転換された宿主を培養、栽培または飼育した後、培養物などから慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなど)に従って、本発明のポリペプチドを回収、精製することができる。精製された上記ポリペプチドは、本発明の歯根膜誘導用組成物中に含まれ得る。また、本発明のベクターを用いて形質転換された形質転換体もまた、本発明の歯根膜誘導用組成物中に含まれ得る。あるいは、上記組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入することによって、歯根膜を誘導することができ、その結果、歯周病などによって崩壊した組織を再生することができる。
【0133】
組み換え発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性遺伝子、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。上記選択マーカーを用いれば、本発明のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。
【0134】
あるいは、本発明のポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)を用い、本発明のポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
【0135】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、Bowes黒色腫細胞)および各種ヒト培養細胞などが挙げられる。
【0136】
本発明の組み換え発現ベクターを培養細胞に導入した場合、当該細胞を本発明のポリペプチドの供給源として利用することができる。また、本発明の組み換え発現ベクターを、歯周病罹患部位の細胞に導入した場合には、歯周病などによって崩壊した組織を修復することができる。
【0137】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明のポリペプチドを昆虫で発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0138】
本発明のベクターを使用すれば、上記ポリペプチドを生物または細胞に導入すれば、当該生物または細胞中に歯根膜誘導活性を有するポリペプチドを発現させることができる。
【0139】
このように、本発明のベクターは、少なくとも、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現用ベクターであればよいといえる。
【0140】
つまり、本発明の目的は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する発現用ベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得した発現用ベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0141】
(6)形質転換体
本発明は、本発明のポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を提供する。上記形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドが導入されているので、本発明のポリペプチドを精製するための原材料として使用することができる。または、上記形質転換体を本発明の歯周病治療用組成物に混合し、当該歯周病治療用組成物を用いることによって、歯周病などによって崩壊した組織を修復することができる。
【0142】
本発明の形質転換体に導入されるベクターは、上述した本発明のポリヌクレオチドを導入すればよい。その場合に用いるベクターは、上述した本発明の組み換え発現ベクターを用いればよい。
【0143】
細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞)や各種ヒト培養細胞などが挙げられる。また、本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含むことが意図される。
【0144】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明のポリペプチドを昆虫で発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0145】
また、本発明の組み換え発現ベクターは、上述したようにマーカー遺伝子を有するので、マーカー遺伝子の発現を指標として、上記形質転換体を選択採取することができる。
【0146】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0147】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0148】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0149】
〔実施例1:ヒトADAMTSL4α遺伝子およびADAMTSL4β遺伝子のクローニング〕
米国national institute of the health(NIH)のNCBIデータベースであるBLASTを用いて、マウスADAMTSL4α遺伝子(配列番号5)およびマウスADAMTSL4β遺伝子(配列番号7)に相同性の高いヒトcDNAの検索を試みた。
【0150】
まず、マウスADAMTSL4α遺伝子に相同性の高いヒト遺伝子をデータベース検索したところ、FLJ13710(weakly similar to F-SPONDIN PRECURSOR)およびFLJ16791(weakly similar to ADAM-TS 6 precursor)の二つのヒトcDNAが、登録されていることが判明した。上記二つのcDNAをつなぎ合わせたcDNAは、マウスADAMTSL4α遺伝子と相同性の高い遺伝子を含んでおり、ヒトADAMTSL遺伝子(cDNA)であると推測された。
【0151】
次に、マウスADAMTSL4β遺伝子に相同性の高いヒト遺伝子をデータベース検索したところ、DFKZp686A1457およびFLJ13710(weakly similar to F-SPONDIN PRECURSOR)の二つのヒトcDNAが、登録されていることが判明した。このうちFLJ13710は、マウスADAMTSL4β遺伝子のオルソログであることが判明した。一方、DFKZp686A1457は、マウスADAMTSL4β遺伝子中の586番目のチミジンが欠損しているため、アミノ酸配列のまったく異なる蛋白質をコードしているものと推量された。
【0152】
データベース上で同定されたヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子のcDNA配列を確認するために、同遺伝子の5’末端側および3’末端側に相当するプライマーを設計し、ヒト歯根膜より精製したRNAを鋳型として用いたRT−PCRを行い、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子をクローニングした。
【0153】
ヒトADMTSL4α遺伝子をクローニングする場合、PCRの反応条件は、94℃にて1分間の変性反応、60℃にて30秒間のアニーリング反応および72℃にて3分間の伸長反応からなる反応サイクルを30サイクル行った。また、ヒトADMTSL4β遺伝子をクローニングする場合、PCRの反応条件は、94℃にて1分間の変性反応、60℃にて30秒間のアニーリング反応および72℃にて2分間の伸長反応からなる反応サイクルを30サイクル行った。
【0154】
以下に、PCR反応に用いたプライマーを示す。なお、PCRに用いたプライマーは、制限酵素認識配列(NotI認識配列またはBamHI認識配列)を有している。
【0155】
ヒトADAMTSL4α遺伝子をクローニングするためのプライマーとしては、
5’−TGCGGCCGCCACCATGGTTTCCCATTTCATGGG−3’(配列番号15)に示される塩基配列を有するプライマー、および
5’−CGGGATCCTTATCTGCTCCCCAGGAAGCCCG−3’(配列番号16)に示される塩基配列を有するプライマーを用いた。
【0156】
また、ヒトADAMTSL4β遺伝子をクローニングするためのプライマーとしては、
5’−TGCGGCCGCCACCATGTTTGTCAGCTACCTGAT−3’(配列番号17)に示される塩基配列を有するプライマー、および
5’−CGGGATCCTTATCTGCTCCCCAGGAAGCCCG−3’(配列番号18)に示される塩基配列を有するプライマーを用いた。
【0157】
得られたPCR産物をNotIおよびBamHIで消化後、pCMV14(Sigma社製)にサブクローニングした。その後、業者の定める方法に従い、CEQ200XL(Beckman Coulter社製)を用いてDNA配列を確認した。DNA配列を確認したところ、データベース上で確認された配列と同一であった。
【0158】
〔実施例2:マウスADAMTSL4タンパク質の局在〕
生後4週のマウス下顎臼歯を採取し、川本テープ法(Kawamoto T. J Histochem Cytochem, 38(12),1805-1814,1990参照)に従い凍結標本を作製後、Leica CM3050(Leica社製)を用いて厚さ5μmの非脱灰凍結切片を作製した。まず、凍結切片を、10%ヤギ血清を用いて1時間ブロッキングした後に抗ADAMTSL4抗体であるR1−1抗体と反応させた。
【0159】
なお、上記R1−1抗体は、ヒトADAMTSL4αタンパク質、ヒトADAMTSL4βタンパク質、マウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質に共通して存在するspacer regionに対する組み換えタンパク質を作製し、当該組み換えタンパク質をウサギに免疫して作製したポリクローナル抗体である。なお、上記spacer regionは、配列番号2および配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの412位〜525位のポリペプチドである。また、配列番号4および配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの52位〜168位のポリペプチドである。したがって、上記R1−1抗体は、ヒトADAMTSL4αタンパク質、ヒトADAMTSL4βタンパク質、マウスADAMTSL4αタンパク質およびマウスADAMTSL4βタンパク質のいずれをも検出することのできる抗体である。
【0160】
次いで、リン酸緩衝液で洗浄した後、上記凍結切片を抗ウサギ2次抗体であるalexa488 anti-rabbit secondary antibody(Invitrogen社製)と反応させた。その後、リン酸緩衝液にて洗浄し、IX71蛍光顕微鏡(オリンパス社製)を用いて観察した。またオキシタラン線維を染色するため、同じく生後4週のマウス下顎臼歯を採取し、蟻酸を用いて脱灰した後にパラフィン包埋し、厚さ5μmの標本を作製した。その後、10%oxson(Merck社製)を用いて酸化処理を施した後に、酸性フクシン溶液で染色した。
【0161】
図1(a)にマウスADAMTSL4タンパク質の免疫染色像を示し、図1(b)にフクシン染色像(オキシタラン繊維が染色される)を示した。図1(a)および(b)から明らかなように、マウスADAMTSL4タンパク質はオキシタラン繊維と同じ局在を示した。以上の結果から、マウスADAMTSL4タンパク質は、オキシタラン繊維の構成成分であることが明らかとなった。
【0162】
〔実施例3:RT−PCR法を用いたヒトADAMTSL4α遺伝子およびADAMTSL4β遺伝子の発現解析〕
ヒト歯根膜組織は、神奈川歯科大学倫理委員会の定めたプロトコールに従い同意を得られた患者から抜歯した歯の歯根中央部分から採取した。ヒト歯根膜細胞の採取には、得られた歯根膜組織片を培養皿上でカバースリップで固定後、72時間後に組織片よりoutgrowthしてきた細胞を継代培養した。尚、培地はDulbecco's Modified Eagle's Medium に10%ウシ胎児血清を含むものを調整し使用した。
【0163】
次いで、上記ヒト歯根膜培養細胞およびヒト歯根膜組織から、Isogen(ニッポンジーン社製)を用いてTotal RNAを抽出した。その後、M-MLV reverse transcriptase(Invitrogen社製)およびランダムプライマー(Takara社製)を用いて、1μgの上記Total RNAからcDNAを合成した。次いで下記のプライマーおよびEX taq polymerase(Takara社製)を用いたPCR法によって、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子の発現の有無を検討した。
【0164】
上記PCRの反応条件は、94℃にて1分間の変性反応、60℃にて30秒間のアニーリング反応および72℃にて30秒間の伸長反応からなる反応サイクルを25サイクル行った。なお、以下に、PCR反応に用いたプライマーを示す。
【0165】
ヒトADAMTSL4α遺伝子の発現を特異的に検出するためのプライマーとしては、
5’−ATGGAGCAGACGCGGCCCTG−3’(配列番号9)に示される塩基配列を有するプライマー、および
5’−TGGACGCTTGTAGGTGAACA−3’(配列番号10)に示される塩基配列を有するプライマーを用いた。
【0166】
また、ヒトADAMTSL4β遺伝子の発現を特異的に検出するためのプライマーとしては、
5’−ATGTTTGTCAGCTACCTGAT−3’(配列番号11)に示される塩基配列を有するプライマー、および
5’−TGGACGCTTGTAGGTGAACA−3’(配列番号12)に示される塩基配列を有するプライマーを用いた。
【0167】
また、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子の発現を同時に検出するためのプライマーとしては、
5’−GGAGCCACGAAAATCAACAT−3’(配列番号13)に示される塩基配列を有するプライマー、および
5’−TGGACGCTTGTAGGTGAACA−3’(配列番号14)に示される塩基配列を有するプライマーを用いた。
【0168】
PCR反応後、PCR反応産物を、アガロースゲルを用いて電気泳動した。そして、電気泳動後のアガロースゲルを臭化エチジウムによって染色し、バンドを確認した。
【0169】
図2に、RT−PCRの結果を示す。図2では、上から順に、ヒトADAMTSL4α遺伝子、ヒトADAMTSL4β遺伝子、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子、並びにGAPDH遺伝子の発現パターンを示している。図2から明らかなように、ヒト歯根細胞およびヒト歯根膜組織は、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子の両方を発現していることが判明した。
【0170】
〔実施例4:ヒト歯根膜におけるヒトADAMTSL4タンパク質の局在〕
神奈川歯科大学の倫理委員会に承認されたプロトコールに従い、同意の得られた患者よりヒト智歯を抜歯後、川本テープ法に従いヒト智歯の凍結標本を作製した。その後、Leica CM3050を用いて、上記凍結標本から、厚さ5μmの非脱灰凍結切片を作製した。上記凍結切片に対して、10%ヤギ血清を用い、1時間のブロッキング処理を行った。ブロッキングの後、抗ADAMTSL4抗体であるR1−1抗体と反応させた。このとき、対照実験として、R1−1抗体の代わりに、正常ウサギ血清と反応させる凍結切片を用意した。
【0171】
R1−1抗体と反応させた後、リン酸緩衝液を用いて洗浄した。洗浄後、HRP(horseradish peroxidase)標識した抗ウサギ二次抗体(Dako enbision system labeled polymer社製)と反応させ、その後、再びリン酸緩衝液によって洗浄した。洗浄後、diaminobenzidine(DAB)を用いて可視化した。
【0172】
図3(a)および(b)は、R1−1抗体を用いて染色したときの染色像を示す。また、図3(c)および(d)は、対照実験として正常ウサギ血清を用いて染色したときの染色像を示す。ここで図3(b)は、図3(a)を拡大した染色像であって、図3(d)は、図3(c)を拡大した染色像である。図3(a)および(b)から明らかなように、ヒトADAMTSL4タンパク質は、象牙質やセメント質中には局在せず、ヒト歯根膜中に弾性繊維状の構造物として局在することが明らかとなった。
【0173】
〔実施例5:マウス歯小嚢細胞による、マウスADAMTSL4タンパク質を含む歯根膜様構造物の形成〕
マウス歯小嚢細胞(将来歯根膜になる細胞)を生後1日齢のマウス切歯根尖部分より採取した。採取した細胞は、ウシ胎児血清(最終濃度10%)、アスコルビン酸(最終濃度50μg/ml)、ストレプトマイシン(最終濃度100units/ml)およびペニシリン(最終濃度100units/ml)を含むα−MEM培地(Sigma社製)中で、5%CO、37℃の条件下で培養した。その後、上記マウス歯小嚢細胞を、ヒトパピローマウイルスE6のPDZドメイン欠失変異体を用いて形質転換し、その結果、安定した不死化細胞を得ることができた。なお、上記不死化細胞を作製するにあたっては、Kiyonoらの方法(Kiyono T et al, Nature. 1998 Nov 5;396(6706):84-88)に従った。
【0174】
次に、1mlのMEM培地に対して1×10個の上記不死化細胞を懸濁し、生分解性ハイドロキシアパタイト(β−TCP:osferion、オリンパス社製)の存在下で90分間の培養を行った。その後、上記不死化細胞と生分解性ハイドロキシアパタイトとの混合物をマウスフィブリン粉(マウス fibrinogen とマウスthrombinの混合物、Sigma社製)によって固め、複合性免疫不全症マウスの皮下へ移植した。移植して1ヶ月後に移植片を取り出し、川本テープ法に従い凍結標本を作製した。当該凍結標本について、上述の実施例2に記載の方法と同様の方法でR1−1抗体を用いて免疫染色を行った。
【0175】
図4に、移植片の免疫染色像を示す。図4から明らかなように、マウス歯小嚢細胞は歯根膜細胞へ分化し、マウスADAMTSL4タンパク質陽性の歯根膜弾性線維を形成することが確認された。
【0176】
〔実施例6:ヒトADAMTSL4αタンパク質およびADAMTSL4βタンパク質の過剰発現による歯根膜の形成〕
ヒトADAMTSL4αcDNAおよびヒトADAMTSL4βcDNAをそれぞれレトロウイルスベクターであるpCXSH(Saito et al. J Bone Miner Res. 2005 Jan;20(1):50-57 参照)に組み込み、293FT細胞を用いてV SV−Gシュードタイプ組み換えレトロウイルスを作製した。ここで、V SV−Gシュードタイプ組み換えレトロウイルスとは、vesicular stomatitis virus由来のG proteinを有し、かつpseudotype virusのエンベロ−プを有する感染効率の高いレトロウイルスである。なお、上記ウイルスを作製するにあたっては、Saito等の方法(Saito et al. J Bone Miner Res. 2005 Jan;20(1):50-57 参照)に従った。
【0177】
また、対照実験に用いるために、ヒトADAMTSL4αcDNAおよびADAMTSL4βcDNAを組み込まないpCXSH(コントロールベクター)と293FT細胞とを用いてV SV−Gシュードタイプ組み換えレトロウイルスを作製した。
【0178】
次に、ポリブレン(Sigma社製)を6μg/mlの濃度で含むDMEM培地(Sigma社製)中で培養し、20%コンフルエントに増殖したヒト骨肉種細胞(MG63細胞)に、
各ウイルスをそれぞれ感染させ、遺伝子導入を行った。上記レトロウイルスベクターは、マーカー遺伝子としてハイグロマイシン遺伝子を備えているので、ハイグロマイシンを500μg/mlの濃度で含むDMEM培地中で、それぞれのレトロウイルスベクターが導入されたMG63細胞を選択した。
【0179】
次に、上述の実施例5と同様の方法で移植実験を行った。すなわち、1mlのMEM培地に対して、1×10個の上記各ウイルスベクター導入細胞をそれぞれ懸濁し、生分解性ハイドロキシアパタイトの存在下で90分間の培養を行った。その後、各細胞と生分解性ハイドロキシアパタイトとの混合物をマウスフィブリン粉で固め、複合性免疫不全症マウスの皮下へ移植した。また、対照として、生分解性ハイドロキシアパタイトのみをマウスフィブリン粉によって固めたものを、複合性免疫不全症マウスの皮下へ移植した。
【0180】
上記組成物を移植して1ヶ月後に移植片を取り出し、川本テープ法に従い凍結標本を作製した。免疫染色を行った。当該凍結標本について、上述の実施例2と同様の方法でR1−1抗体を用いて免疫染色を行った。
【0181】
また、移植片がドナー由来であるか確認するために、抗ヒトvimentin抗体であるV9抗体(Dako、Carpinteria社製)を用いた免疫染色を同時に行った。免疫染色は、M.O.M. kit(Vector、Burlingame社製)を用い、使用説明書に従って行った。
【0182】
解析の結果を図5(a)〜(h)に示す。図5(a)〜(d)はそれぞれ、ヒトADAMTSL4α導入細胞、ヒトADAMTSL4β導入細胞、コントロールベクター導入細胞およびハイドロキシアパタイト(HAP)のみを移植した移植片を、R1−1抗体を用いて免疫染色を行った染色像を示す。また、図5(e)〜(h)はそれぞれ、ヒトADAMTSL4α導入細胞、ヒトADAMTSL4β導入細胞、コントロールベクター導入細胞およびハイドロキシアパタイト(HAP)のみを移植した移植片を、抗ヒトvimentin抗体を用いて免疫染色を行った染色像を示す。
【0183】
図5(e)〜(h)から明らかなように、各移植片にはヒト由来組織が含まれていた。
図5(a)から明らかなように、ヒトADAMTSL4α導入細胞を移植した場合、その移植片では、オキタラン線維様構造物の形成が観察された。また、図5(b)から明らかなように、ヒトADAMTSL4β組成物を移植した場合にも、その移植片では、オキタラン線維様構造物の形成が観察された。一方、図5(c)および(d)から明らかなように、コントロールベクター導入細胞およびハイドロキシアパタイトのみを移植した場合、その移植片では、オキタラン線維様構造物の形成が観察されなかった。
【0184】
これらの結果から明らかなように、ヒトADAMTSL4αタンパク質およびADAMTSL4βタンパク質は、歯根膜中のオキシタラン線維の形成に関わる細胞外マトリックス因子であり、これらの分子を用いて人工歯根膜シートの形成が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明は、歯周病治療用組成物を提供するものであり、医薬品産業、医療機器産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】実施例において、マウス下顎臼歯のマウスADAMTSL4タンパク質を染色した染色像である。
【図2】実施例において、ヒト歯根膜細胞およびヒト歯根膜組織におけるヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子の発現をRT−PCRによって解析した結果を示す電気泳動の画像である。
【図3】実施例において、ヒト歯根膜におけるヒトADAMTSL4タンパク質の局在を示した染色像である。
【図4】実施例において、マウス歯小嚢細胞による、マウスADAMTSL4タンパク質を含む歯根膜様構造物の形成を示す染色像である。
【図5】実施例において、ヒトADAMTSL4α遺伝子およびヒトADAMTSL4β遺伝子の過剰発現による歯根膜の形成を示す染色像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部を含む歯周病治療用組成物。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項2】
以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部をコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を含む歯周病治療用組成物。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項3】
以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を含む歯周病治療用組成物。
(c)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列、あるいは配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項4】
生体吸収材料を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歯周病治療用組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歯周病治療用組成物を歯周病罹患部位へ充填する充填工程を含むことを特徴とする歯根膜誘導方法。
【請求項6】
以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド、またはその一部をコードするポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴とする歯根膜誘導方法。
(a)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6もしくは8に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
【請求項7】
以下の(c)または(d)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを歯周病罹患部位の細胞へ導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴とする歯根膜誘導方法。
(c)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列、あるいは配列番号1、3、5もしくは7に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項8】
歯根膜を誘導するポリペプチドであって、
以下の(a)もしくは(b)に記載のポリペプチド。
(a)配列番号2もしくは4に示されるアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列、またはその一部からなるポリペプチド
【請求項9】
請求項8に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
以下の(c)または(d)のいずれかである請求項9に記載のポリヌクレオチド。
(c)配列番号1または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(d)配列番号1または3に示される塩基配列、あるいは配列番号1または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項11】
請求項9または10に記載のポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクター。
【請求項12】
請求項9または10に記載のポリヌクレオチドが導入されている形質転換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−333794(P2006−333794A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163337(P2005−163337)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年12月3日 大阪大学発行の「COEオープンシンポジウム2004『歯と骨の接点に迫る』」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(505079785)学校法人神奈川歯科大学 (6)
【Fターム(参考)】