説明

歯形部品の製造方法、歯形部品の製造装置、歯形部品

【課題】成形型の寿命の向上を図ることができる歯形部品の製造方法、歯形部品の製造装置、歯形部品を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、デフサイドギヤ12の製造方法において、歯形成形型16の歯形成形部26に素材10のR形状部を当接させ、凹み形状型18の凹み部36に素材10のボス部48を挿入しておき、素材10の中央部分27に対し軸方向に向かって荷重を加えて素材10の構成材料を径方向の外側に向かって流動させて傘歯車部11を形成する時に、ボス部48を凹み部36の内部に向かって流動させ、かつ、素材10の中間部分52の構成材料を材料逃げ部32の内部に向かって流動させて突起部56を形成し、荷重が最大となった時に、傘歯車部11と歯形成形部26との間、ボス部48と凹み形状型18との間、および突起部56と歯形成形型16との間に空間を設けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造により傘歯車部などの歯形部を備える歯形部品を製造するための歯形部品の製造方法、歯形部品の製造装置、歯形部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、素材に対して鍛造を行うことにより、歯形部を備える歯形部品を製造することが行われている。このような鍛造においては、円柱状の素材の軸方向から素材を圧縮して素材の構成材料を素材の径方向の外側に向かって流動させて、成形型の内部に素材の構成材料を充満させることにより、外周面に歯形部を備える歯形部品を製造する。
【0003】
このように素材の軸方向から素材を圧縮すると、まず成形型において素材の径方向の内側部分に素材の構成材料が充満するが、その後、素材の構成材料は素材の径方向の外側に向かって一方向に流動する。そして、更に素材の軸方向から素材を圧縮しようとすると、成形型において既に素材の構成材料が充満した部分の面圧が高くなるので、素材に加える荷重(成形荷重)をさらに大きくする必要がある。そのため、成形型への負荷が大きくなるので、成形型の寿命が短くなってしまう。
【0004】
ここで、特許文献1には鍛造の技術が開示されている。この特許文献1の技術によれば、リング状素材の外周面を拘束しながらリング状素材を軸方向から加圧機構により加圧し、リング状素材の構成材料を加圧方向に向かって流動させながら成形型の歯形部内に充満させている。そして、さらにリング状素材を軸方向から加圧機構により加圧することにより、成形型の歯形部内に連通する開放空所にリング状素材の構成材料の一部を余肉として押し出している。これにより、一定の圧力下でリング状素材の構成材料を流動させることができ、素材の体積のバラつきによる製品寸法および精度のバラつきを減少できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−177845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、リング状素材の構成材料を成形型の歯形部内に充満させた後に、さらにリング状素材を軸方向から加圧機構により加圧しており、成形荷重が大きくなってしまう。そのため、成形型への負荷が大きくなり、成形型の寿命が短くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、成形型の寿命の向上を図ることができる歯形部品の製造方法、歯形部品の製造装置、歯形部品を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造する歯形部品の製造方法において、前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくこと、を特徴とする。
【0009】
この態様によれば、素材の軸方向に向かって加える荷重が最も大きくなり歯形部を形成し終えた時に、成形型と素材との間に空間を設けて成形型に素材の構成材料を充満させていない。これにより、この空間内に素材の構成材料が流れる余地を持たせている。そのため、閉塞鍛造のように、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。したがって、成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0010】
また、素材の構成材料を、径方向の外側に向かう方向と、成形型の第1の窪み部に向かう方向と、成形型の第2の窪み部に向かう方向の3つの方向に流動させるので、成形荷重の低減効果が大きくなる。そのため、成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0011】
上記の態様においては、前記第2の窪み部の外形は、前記軸方向に向かって小さくなっていること、が好ましい。
【0012】
この態様によれば、歯形成形型の第2の窪み部に素材の構成材料が流れ難くなるので、歯形部を形成し終えた時に成形型の窪み部に素材が充満せず、素材と成形型との間に空間が設けられ易くなる。そのため、素材の構成材料の流動性に関わらず、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。したがって、素材の構成材料の流動性に関わらず成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0013】
上記の態様においては、前記第1の窪み部と前記第2の窪み部は、前記軸方向について対称な位置に形成されていること、が好ましい。
【0014】
この態様によれば、素材の成形加工時において素材の一部にて軸方向の両面を拘束しないので、素材に加える荷重をさらに抑制することができる。
【0015】
上記の態様においては、前記歯形部品は、差動装置のデフサイドギヤであること、が好ましい。
【0016】
この態様によれば、デフサイドギヤの製造において成形型の寿命が向上するので、製造コストを低減しつつデフサイドギヤを量産することができる。
【0017】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の態様は、回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造する歯形部品の製造装置において、前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくこと、を特徴とする。
【0018】
この態様によれば、素材の軸方向に向かって加える荷重が最も大きくなり歯形部を形成し終えた時に、成形型と素材との間に空間を設けて成形型に素材の構成材料を充満させていない。これにより、この空間内に素材の構成材料が流れる余地を持たせている。そのため、閉塞鍛造のように、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。したがって、成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0019】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の態様は、回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造された歯形部品において、前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくことにより製造されたものであり、前記軸方向の一端面に前記第1の突起部が設けられ、前記軸方向の他端面に前記第2の突起部が設けられており、前記第2の突起部は、前記歯形部に対して前記径方向の内側に設けられていること、を特徴とする。
【0020】
この態様によれば、素材の軸方向に向かって加える荷重が最も大きくなり歯形部を形成し終えた時に、成形型と素材との間に空間を設けて成形型に素材の構成材料を充満させていない。これにより、この空間内に素材の構成材料が流れる余地を持たせている。そのため、閉塞鍛造のように、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。したがって、成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0021】
また、第2の突起部は歯形部に対して径方向の内側(歯形部の内径端面の内側)に設けるので、歯形部にて他の歯形部品と噛み合わせる際に、歯形部品の機能性に影響を与えない。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る歯形部品の製造方法、歯形部品の製造装置、歯形部品によれば、成形型の寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】素材の成形加工前における歯形部品の製造装置の要部構成図である。
【図2】図1における材料逃げ部の周辺の拡大図である。
【図3】成形加工前における素材の外観斜視図である。
【図4】素材の成形加工中における歯形部品の製造装置の要部構成図である。
【図5】図4における材料逃げ部の周辺の拡大図である。
【図6】成形加工中における素材の断面図である。
【図7】成形加工中における素材の外観斜視図である。
【図8】素材の成形加工の完了時における歯形部品の製造装置の要部構成図である。
【図9】図8における材料逃げ部の周辺の拡大図である。
【図10】デフサイドギヤの断面図である。
【図11】デフサイドギヤの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施例では歯形部品として、例えば、車両における差動装置に使用されるデフサイドギヤを例に挙げて説明する。なお、差動装置のデフサイドギヤは、デフケース内において、デフピニオンギヤと噛み合う状態でドライブシャフトにより回転可能に支持されているギヤである。
【0025】
〔製造装置の説明〕
まず、歯形部品の製造装置1について説明する。製造装置1は、鍛造により回転対称形状の素材10(図3参照)から、傘歯車部11を備えるデフサイドギヤ12(図11参照)を製造するものである。
【0026】
図1に示すように、製造装置1は、外側成形型14と歯形成形型16と凹み形状型18の各成形型を有する。また、製造装置1は、これらの各成形型の動作を行うための油圧シリンダ等のアクチュエータ(不図示)と、当該アクチュエータの動作を制御する制御装置(不図示)なども有する。なお、図1は、素材10の成形加工前における製造装置1の要部構成図である。
【0027】
外側成形型14は、円筒状に形成されており、その内周面20の内側に素材10が配置され、さらに凹み形状型18が設けられている。そして、素材10の成形加工時において、外側成形型14は、歯形成形型16と同期しながら下方向(圧縮部24により素材10に荷重を加える方向)に移動する。
【0028】
歯形成形型16は、圧縮部24と歯形成形部26とを備え、円柱状の圧縮部24の外側に円筒状の歯形成形部26が設けられている。圧縮部24は、素材10の中央部分27に対応する位置に設けられている。そして、歯形成形部26は、下側(外側成形型14や凹み形状型18が設けられる側)に、傘歯の形状を形成した歯形部28を備えている。
【0029】
また、図2に示すように、歯形成形部26は、歯形部28の内側、すなわち、圧縮部24と歯形部28との間(歯形部28と歯形成形部26の内周面30との間)に、材料逃げ部32を備えている。材料逃げ部32は、上方向(圧縮部24により素材10に荷重を加える方向とは反対方向)に窪むようにして設けられており、外形が上方向に向かって小さくなるように先細りした形状に形成されている。また、材料逃げ部32は、歯形成形部26の内周面30に沿って歯形成形部26の周方向に環状に設けられている。なお、図2は、図1における材料逃げ部32の周辺の拡大図である。また、材料逃げ部32は、本発明における「第2の窪み部」の一例である。
【0030】
凹み形状型18は、円柱状に形成され、上側(歯形成形型16が設けられる側)に設けられた端面34と、当該端面34から下方向に窪むようにして設けられた凹み部36を備えており、外側成形型14の内周面20の内側に設けられている。凹み部36は、凹み形状型18の周方向に環状に設けられている。また、径方向(図1の左右方向)について、凹み部36は、歯形成形型16の材料逃げ部32と同じ位置に形成されている。すなわち、材料逃げ部32と凹み部36は、互いに素材10を挟んだ軸方向(図1の上下方向)の反対側に設けられ、軸方向に対称となる位置に設けられている。なお、凹み部36は、本発明における「第1の窪み部」の一例である。
【0031】
〔製造方法の説明〕
次に、以上のような構成を有する製造装置1を使用したデフサイドギヤ12の製造方法について説明する。
【0032】
まず、図1に示すように、凹み形状型18の端面34が外側成形型14の上側(歯形成形型16が設けられる側)の端面38よりも下側に位置する状態で、外側成形型14の内周面20の内側において、凹み形状型18の端面34の上に素材10を配置する。そして、外側成形型14の端面38に歯形成形部26を配置し、素材10の上端面40(歯形成形型16が設けられる側の端面)に圧縮部24を配置するようにして、歯形成形型16を配置する。これにより、外側成形型14と歯形成形型16と凹み形状型18の各成形型で囲まれた空間内に、素材10を配置する。このとき、素材10は、凹み形状型18の端面34と圧縮部24の端面42との間で挟まれる。
【0033】
素材10は、回転対称の形状に形成されており、軸方向の一端面として下端面46を備え、軸方向の他端面として上端面40を備えている。そして、上端面40の外径よりも下端面46の外径が小さく形成され、下端面46に下方向に突出するように形成された凸形状のボス部48を備える。ボス部48は、素材10の周方向に環状に形成されている。そして、ボス部48を凹み形状型18の凹み部36の内部に挿入して、素材10を凹み形状型18の端面34の上に配置する。なお、ボス部48を凹み形状型18の凹み部36の内部に挿入することにより、各成形型に対し素材10の径方向(図1の左右方向)の位置決めを行うことができる。また、ボス部48は、本発明における「第1の突起部」の一例である。
【0034】
また、素材10は、上端面40の外周端部に円周形状のR形状部49を備えている。そして、このR形状部49は、後述するように歯形成形部26の歯形部28が当接する部分である。
【0035】
次に、図4に示すように、外側成形型14と歯形成形型16とを一体的に(同期させながら)、凹み形状型18に対して相対的に下方向(凹み形状型18が設けられている方向)に移動させる。このとき、歯形成形型16の圧縮部24により素材10の中央部分27に対し下方向に向かって荷重を加えて当該中央部分27を圧縮して、素材10の構成材料を素材10の径方向の外側に(図4の左右方向に)向かって流動させる。そして、素材10のR形状部49に歯形成形部26の歯形部28を当接させ、歯形成形部26の歯形部28によりR形状部49を圧縮していくことにより、素材10の外側部分50に歯形を形成して傘歯車部11を形成していく。
【0036】
この時、素材10の径方向における中央部分27は圧縮されて厚みが減少し、素材10の構成材料は素材10の外側に向かって流動する。そして、図5に示すように、素材10において中央部分27と外側部分50との間の中間部分52の構成材料は、材料逃げ部32の内部を上方向に向かって流動するが、材料逃げ部32の内部にて素材10の中間部分52の構成材料と歯形成形型16との間に空間33を残している。このようにして、材料逃げ部32の内部で中間部分52の構成材料を拘束せずに上方向に自由な状態としている。また、図4に示すように、素材10のボス部48の構成材料は、凹み部36の内部を
下方向に向かって流動するが、凹み部36の内部にてボス部48と凹み形状型18との間に空間37を残している。このようにして、凹み部36の内部でボス部48の構成材料を拘束せずに下方向に自由な状態としている。このとき、素材10は図6と図7に示すような形状になる。
【0037】
なお、図4は素材10の成形加工中における製造装置1の要部構成図であり、図5は図4における材料逃げ部32の周辺の拡大図である。また、図6は成形加工中における素材10の断面図であり、図7は成形加工中における素材10の外観斜視図である。
【0038】
このように、素材10の成形加工中において、素材10において中間部分52は、上下方向(軸方向)に自由な状態としている。そのため、素材10の構成材料が各成形型により拘束される部分が少ないので、歯形成形型16から素材10に加える成形荷重を抑制しながら、素材10の成形加工を行うことができる。したがって、外側成形型14や歯形成形型16や凹み形状型18の各成形型への負荷を抑制できる。
【0039】
また、素材10の構成材料を、径方向の外側に向かう方向と、凹み部36の内部に向かう方向と、材料逃げ部32の内部に向かう方向の3つの方向に流動させるので、成形荷重の低減効果を図ることができる。
【0040】
そして、図8に示すように、さらに凹み形状型18に対して、相対的に外側成形型14と歯形成形型16とを一体的に下方向に移動させると、素材10がさらに歯形成形型16により圧縮される。これにより、素材10の構成材料が素材10の外側に向かって径方向(図8の左右方向)にさらに流動する。そして、歯形成形型16の歯形部28に素材10の構成材料が流れ込んで素材10の外側部分50に傘歯が形成され、素材10の成形加工が完了する。これにより、図10と図11に示すように、回転対称形状に形成され、傘歯車部11を備えるデフサイドギヤ12を製造することができる。なお、素材10の成形加工が完了する時には、外側成形型14と歯形成形型16とが最も下方向の位置に移動し、成形荷重が最も大きくなる。
【0041】
ここで、素材10の成形加工が完了した時に、図8や図9に示すように歯形成形型16の材料逃げ部32の内部に素材10の構成材料が流れ込んで突起部56(本発明における「第2の突起部」の一例)を形成するが、材料逃げ部32の内部において突起部56と歯形成形型16との間に空間33を設けている。また、凹み形状型18の凹み部36の内部において、ボス部48と凹み形状型18との間に空間37を設けている。そのため、素材10の構成材料は、素材10の成形加工が完了するまで、歯形成形型16の材料逃げ部32の内部と凹み形状型18の凹み部36の内部にて拘束されない。したがって、素材10の成形加工が完了してデフサイドギヤ12を製造するまで、歯形成形型16から素材10に加える成形荷重を抑制しながら、素材10の成形加工を行うことができる。ゆえに、外側成形型14や歯形成形型16や凹み形状型18の各成形型への負荷を抑制できる。
【0042】
また、凹み形状型18の凹み部36は、軸方向の長さ(深さ)を大きくすることにより、素材10の構成材料が流れ込む際の抵抗が大きくなり、当該凹み部36に素材10の構成材料が流れ難くなる。そこで、凹み形状型18の凹み部36の軸方向の長さを調整することにより、素材10の構成材料が流れ込む際の抵抗を調整して、素材10の成形加工が完了した時に、確実にボス部48と凹み形状型18との間に空間37を設けることができる。
【0043】
また、素材10の成形加工の完了時に、傘歯車部11と歯形成形型16との間に空間47(図9参照)を設けている。これにより、素材10の成形加工時において、歯形成形型16から素材10に加える成形荷重をさらに抑制できるので、外側成形型14や歯形成形型16や凹み形状型18の各成形型への負荷をさらに抑制できる。
【0044】
また、素材10の成形加工が完了した時に、図10や図11に示すようにデフサイドギヤ12(素材10)は、中心軸方向の下側の端面53(径方向に形成された面)に下方向(圧縮部24により素材10に荷重を加える方向)に突出するように形成された円筒状のボス部48を備えている。また、デフサイドギヤ12(素材10)は、中心軸方向の上側の端面(径方向に形成された面)に傘歯車部11の内側の内側端面54から上方向(圧縮部24により素材10に荷重を加える方向とは反対方向)に突出するように形成された突起部56を備えている。なお、突起部56は、噛み合わせる相手部品(デフピニオンギヤ)などと干渉しない部分に形成されているので、差動装置に使用されるデフサイドギヤ12の機能性に影響を与えない。
【0045】
なお、図8は素材10の成形加工の完了時における製造装置1の要部構成図であり、図9は図8における材料逃げ部32の周辺の拡大図である。また、図10はデフサイドギヤ12の断面図であり、図11はデフサイドギヤ12の外観斜視図である。
【0046】
なお、以上のように製造されたデフサイドギヤ12に対し、その中央部分58(図10と図11参照)に中心軸方向(図10の上下方向)に穴加工などの追加工を行って、ドライブシャフト(不図示)を挿入するための軸穴を形成する。
【0047】
〔本実施例の効果の説明〕
本実施例によれば、素材10の軸方向に向かって加える成形荷重が最も大きくなり傘歯車部11を形成し終えた時に、成形型と素材10(デフサイドギヤ12)との間に空間33,37,47を設けて成形型に素材10の構成材料を充満させていない。これにより、この空間33,37,47内に素材10の構成材料が流れる余地を持たせている。そのため、閉塞鍛造のように、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。したがって、外側成形型14や歯形成形型16や凹み形状型18の各成形型への負荷を抑制できるので、当該各成形型の寿命を向上させることができる。実験評価の結果の一例として、成形荷重が10%〜20%低減した。
【0048】
また、素材10の構成材料を、径方向の外側に向かう方向と、凹み部36に向かう方向と、材料逃げ部32に向かう方向の3つの方向に流動させるので、成形荷重の低減効果が大きくなる。
【0049】
また、材料逃げ部32の外形は上方向に向かって小さくなっている。そのため、材料逃げ部32に素材10の構成材料が流れ難くなるので、傘歯車部11を形成し終えた時に材料逃げ部32に素材10の構成材料が充満せず、突起部56と歯形成形型16との間に空間33が設けられ易くなる。したがって、素材10の構成材料の流動性に関わらず、成形荷重が極端に大きくなることを防止できる。ゆえに、素材10の構成材料の流動性に関わらず、成形型への負荷を抑制できるので、当該成形型の寿命を向上させることができる。
【0050】
また、材料逃げ部32と凹み部36は軸方向について対称な位置に形成されているので、素材10の成形加工時において素材10の中間部分52にて軸方向の両面を拘束しない。そのため、素材10に加える荷重をさらに抑制することができる。
【0051】
また、デフサイドギヤ12の製造において各成形型の寿命が向上するので、製造コストを低減しつつデフサイドギヤ12を量産することができる。
【0052】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0053】
1 製造装置
10 素材
11 傘歯車部
12 デフサイドギヤ
14 外側成形型
16 歯形成形型
18 凹み形状型
24 圧縮部
26 歯形成形部
27 (素材の)中央部分
28 (歯形成形部の)歯形部
32 材料逃げ部
33 空間
36 (凹み形状型の)凹み部
37 空間
47 空間
48 ボス部
49 R形状部
50 (素材の)外側部分
52 (素材の)中間部分
56 (デフサイドギヤの)突起部
58 (デフサイドギヤの)中央部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造する歯形部品の製造方法において、
前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、
前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、
前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、
前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくこと、
を特徴とする歯形部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1の歯形部品の製造方法において、
前記第2の窪み部の外形は、前記軸方向に向かって小さくなっていること、
を特徴とする歯形部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の歯形部品の製造方法において、
前記第1の窪み部と前記第2の窪み部は、前記軸方向について対称な位置に形成されていること、
を特徴とする歯形部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つの歯形部品の製造方法において、
前記歯形部品は、差動装置のデフサイドギヤであること、
を特徴とする歯形部品の製造方法。
【請求項5】
回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造する歯形部品の製造装置において、
前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、
前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、
前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、
前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくこと、
を特徴とする歯形部品の製造装置。
【請求項6】
回転対称形状の素材をもとに成形型を用いて製造された歯形部品において、
前記素材は、径方向の外側部分にR形状部を備え、軸方向の一端面に前記軸方向に突出するようにして周方向に環状に設けられた第1の突起部を備えており、前記成形型は、前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第1の窪み部と、前記第1の窪み部に対して前記素材を挟んだ前記軸方向の反対側にて前記軸方向に窪むようにして前記周方向に環状に設けられた第2の窪み部とを備え、前記成形型の歯形成形部に前記素材の前記R形状部を当接させ、前記第1の窪み部に前記素材の前記第1の突起部を挿入しておき、前記素材の径方向の中央部分に対し前記軸方向に向かって荷重を加えて前記素材の構成材料を前記径方向の外側に向かって流動させて前記素材の前記外側部分に歯形部を形成する時に、前記第1の突起部の前記素材の構成材料を前記第1の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させ、かつ、前記中央部分と前記外側部分との間の中間部分の前記素材の構成材料を前記第2の窪み部の内部に向かって前記軸方向に流動させて第2の突起部を形成し、前記荷重が最大となった時に、前記歯形部と前記歯形成形部との間、前記第1の突起部と前記成形型との間、および前記第2の突起部と前記成形型との間に空間を設けておくことにより製造されたものであり、
前記軸方向の一端面に前記第1の突起部が設けられ、
前記軸方向の他端面に前記第2の突起部が設けられており、
前記第2の突起部は、前記歯形部に対して前記径方向の内側に設けられていること、
を特徴とする歯形部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−171014(P2012−171014A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38975(P2011−38975)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】