説明

歯車構造体を有する変速装置のシリーズ、及び歯車構造体のシリーズ

【課題】歯車構造体の異なる複数種類の変速装置を、低コストに製造することができる変速装置のシリーズを提供する。
【解決手段】軸部材22の外周に第1歯車24及び第2歯車26が軸方向に並んで配置された歯車構造体を有する変速装置のシリーズであって、該シリーズは、歯車構造体A1を有する変速装置と、歯車構造体B1を有する変速装置を含み、該歯車構造体A1、B1は、それぞれ軸部材22の外周に第1歯部70及び第2歯部72が軸方向に並んで配置された共通のベース構造体74を備え、歯車構造体A1では、該ベース構造体74の第1歯部70をそのまま使用することによって当該歯車構造体A1の第1歯車24Aを構成し、歯車構造体B1では、前記ベース構造体74の第1歯部70の半径方向外側に、大径の第1歯車体80を、塑性流動を用いた結合で固定することによって当該歯車構造体B1の第1歯車24Bを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車構造体を有する変速装置のシリーズ、及び歯車構造体のシリーズに関する。
【背景技術】
【0002】
減速装置において、例えば減速比を調整するために、軸部材の外周に第1歯車及び第2歯車が軸方向に並んで配置された歯車構造体が広く使用されている。例えば、特許文献1において、図5に示されるような歯車構造体を有する減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置Goは、産業用ロボットの関節部に使用するもので、歯車構造体2が組み込まれている。歯車構造体2では、中空の軸部材4の外周に第1歯車6及び第2歯車8が軸方向に並んで配置されている。この例のように、軸部材4に第1歯車6及び第2歯車8を直接形成する歯車構造体2は、(軸部材にキー等を用いて歯車体を連結する構造と比べて)バックラッシがないという利点を有する。
【0004】
該歯車構造体2の部分での減速比(あるいは増速比)を調整することで、減速装置Go全体の減速比を比較的容易に変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−89157号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような軸部材4に第1歯車6及び第2歯車8を直接形成する歯車構造体2は、減速比を変えるために、例えば第1歯車6の歯数を変えようとしたときは、該第1歯車6だけでなく、第2歯車8及び軸部材4を含めた歯車構造体2自体を減速比毎に個別に製造しなければならず、減速装置の製造コスト及び在庫コストの負担が大きいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、歯車構造体の異なる複数種類の変速装置を、低コストに製造することができる変速装置のシリーズを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸部材の外周に第1歯車及び第2歯車が軸方向に並んで配置された歯車構造体を有する変速装置のシリーズであって、該シリーズは、歯車構造体Aを有する変速装置と、歯車構造体Bを有する変速装置を含み、該歯車構造体A、Bは、それぞれ前記軸部材の外周に第1歯部及び第2歯部が軸方向に並んで配置された共通のベース構造体を備え、前記歯車構造体Aでは、該ベース構造体の前記第1歯部をそのまま使用することによって当該歯車構造体Aの前記第1歯車を構成し、前記歯車構造体Bでは、前記ベース構造体の前記第1歯部の半径方向外側に、大径の第1歯車体を、塑性流動を用いた結合で固定することによって当該歯車構造体Bの前記第1歯車を構成することにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
なお、上記歯車構造体A、歯車構造体Bの「A」、「B」の符号は、単に両歯車構造体を識別するために付されたものであり、「A」、「B」の文字自体は、特別な意味を有しているものではない。また、本発明における「変速装置」の語は、「減速装置」と「増速装置」の双方を含む概念として使用されており、「速比を変更する装置」という概念で使用されているものではない。すなわち、個々の変速装置の減速比または増速比は、その変速装置自体では固定であってよい(勿論、速比を変更可能であってもよいが、単一の変速装置での速比の可変は必須ではない)。
【0010】
本発明においては、収容している歯車構造体の異なる複数種類の変速装置を、特別な関係を有する歯車構造体Aと歯車構造体Bを含む変速装置のシリーズとして構成する。
【0011】
歯車構造体Aおよび歯車構造体Bは、それぞれ軸部材の外周に第1歯部及び第2歯部が軸方向に並んで配置された「共通のベース構造体」を備える。その上で、歯車構造体Aは、該ベース構造体の第1歯部を当該歯車構造体Aの第1歯車として直接(そのまま)使用する。一方、歯車構造体Bでは、この同じベース構造体の第1歯部の半径方向外側に、大径の第1歯車体を「塑性流動を用いた結合」によって固定することによって当該歯車構造体Bの第1歯車を構成する。
【0012】
この結果、少なくとも第1歯車の部分において該歯車構造体で使用する歯車を容易に且つ低コストで変更することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯車構造体の異なる複数種類の変速装置を、低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る減速装置のシリーズの歯車構造体A1及び歯車構造体B1を示すもので、(A)は歯車構造体A1の断面図、(B)は、歯車構造体B1の断面図
【図2】上記歯車構造体A1の組み込まれた減速装置Gaを示すのもので、(A)はその全体断面図、(B)は(A)のIIB−IIB断面図、(C)はIIC−IIC断面図
【図3】上記歯車構造体B1の組み込まれた減速装置Gbを示すのもので、(A)はその全体断面図、(B)は(A)のIIIB−IIIB断面図、(C)は(A)のIIIC−IIIC断面図
【図4】歯車構造体A1および歯車構造体B1を有する減速装置のシリーズをより発展させたシリーズを示した系統図
【図5】従来の歯車構造体が組み込まれた減速装置の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る減速装置のシリーズにおける歯車構造体A1、B1の構成を示した断面図、図2は、歯車構造体A1が組み込まれた減速装置Gaの例を示した断面図、図3は、歯車構造体B1が組み込まれた減速装置Gbの例を示した断面図である。
【0017】
本実施形態に係る変速装置のシリーズは、歯車構造体A1が組み込まれた減速装置Gaと歯車構造体B1が組み込まれた減速装置Gbを含む。
【0018】
以下、主に図2を参照しながら、(歯車構造体A1が組み込まれた)減速装置Gaの構成から説明する。
【0019】
減速装置Gaは、産業用ロボットの関節部に使用されるもので、入力部12、歯車構造体A1、及び主減速機構部16を備える。
【0020】
前記入力部12は、図示せぬモータからの回転を受ける部分であり、この実施形態では入力軸18及び該入力軸18と一体化されたピニオン20を有している。
【0021】
前記歯車構造体A1は、中空部22Aを有する軸部材22の外周に、第1歯車24A及び第2歯車26が軸方向に並んで配置されたものである。第1歯車24Aが前記ピニオン20と噛合し、第2歯車26が後段の主減速機構部16の入力歯車30と噛合している。歯車構造体A1のより具体的な構成は、後に詳述する。
【0022】
前記主減速機構部16は、揺動内接噛合型の遊星歯車機構で構成されている。主減速機構部16の入力歯車30は、偏心体軸32に固定されている。図2においては、入力歯車30及び偏心体軸32は、1セットのみ描写されているが、この入力歯車30及び偏心体軸32は、実際には3セット配備されている。偏心体軸32には、2個の偏心体34が一体的に形成されており、ころ36を介して外歯歯車38が偏心(揺動)回転可能に組み付けられている。外歯歯車38は、内歯歯車40に内接噛合している。内歯歯車40は、ケーシング42と一体化されており、その歯数は外歯歯車38の歯数よりも僅かだけ(例えば1だけ)多い。前記偏心体軸32は、一対の第1、第2キャリヤ43、44に円錐ころ軸受46、47を介して回転自在に支持されている。第1、第2キャリヤ43、44はボルト48によって一体化され、一対のアンギュラ玉軸受50、51を介してケーシング42に回転自在に支持されている。
【0023】
主減速機構部16の作用を簡単に説明すると、例えば、ケーシング42(内歯歯車40)を固定した場合には、偏心体軸32の回転によって外歯歯車38が内歯歯車40に内接しながらゆっくりと自転し、この自転が偏心体軸32の軸心O1周りの公転、すなわち第1キャリヤ43(及び第2キャリヤ44)の回転(自転)として取り出される。一方、第1キャリヤ43(及び第2キャリヤ44)を固定した場合には、偏心体軸32の公転が拘束されるため、外歯歯車38は自転しない(できない)。このため、公転の拘束された偏心体軸32の回転(自転)によって外歯歯車38が内歯歯車40に内接しながら揺動のみを行う。この揺動により、内歯歯車40が回転し、該内歯歯車40と一体化されているケーシング42が回転する(いわゆる枠回転)。
【0024】
この実施形態に係る減速装置Gaは、産業用ロボットにその関節駆動用として組み込まれ、ケーシング42及び第1キャリヤ43のうちの一方が前段アーム側の部材に、他方が後段アーム側の部材(いずれも図示略)にそれぞれ固定されている。これにより、後段アームを前段アームに対して相対的に回転させることができる。
【0025】
なお、本発明においては、歯車構造体が組み込まれる変速装置(この実施形態では減速装置Ga、Gb)の具体的な減速機構の構成については、特に限定されない。
【0026】
次に、図1、図3を合わせて参照しながら、本実施形態に係る減速装置のシリーズにおいて、減速装置Gaに組み込まれた歯車構造体A1および減速装置Gbに組み込まれた歯車構造体B1の構成の詳細を説明する。
【0027】
なお、以降の説明において、同一の符号は、歯車構造体A1および歯車構造体B1において共通の部材であることを示している。
【0028】
図1(A)は歯車構造体A1を、図1(B)は歯車構造体B1をそれぞれ示している。より具体的には、図1(A)は、歯車構造体A1に第1歯車体80に押し込んで塑性結合しようとしている状態を示し、図1(B)は、歯車構造体B1に、第1歯車体80を塑性結合することで歯車構造体B1を形成した状態を示している。
【0029】
(図1の減速装置Gaに組み込まれた)歯車構造体A1は、中空部22Aを有する軸部材22の外周に、第1歯車24A及び第2歯車26が軸方向に並んで配置されたものである。より具体的には、歯車構造体A1は、軸部材22の外周に第1歯部70及び第2歯部72が軸方向に並んで配置されたベース構造体74を備え、該ベース構造体74の第1歯部70をそのまま使用することによって当該歯車構造体A1の第1歯車24Aを構成している。すなわち、簡便的に説明するならば、「歯車構造体A1の第1歯車24A=第1歯部70」である。
【0030】
なお、第1歯部70及び第2歯部72は、この実施形態では軸部材22に直接形成している。この構成は、軸部材22と第1歯部70及び第2歯部72との間でバックラッシがないという点で優れる。ただし、本発明では、第1歯部及び第2歯部は、必ずしも軸部材に直接形成されている必要はなく、例えば第1歯部及び第2歯部を構成する部材が軸部材に圧入等、何らかの方法で固定されている構成であっても良い。
【0031】
一方、(図3の減速装置Gbに組み込まれた)歯車構造体B1も、中空部22Aを有する軸部材22の外周に、第1歯車24B及び第2歯車26が軸方向に並んで配置されている。また、歯車構造体B1も、歯車構造体A1と共通のベース構造体74を備える。但し、歯車構造体B1の第1歯車24Bは、該ベース構造体74の第1歯部70の半径方向外側に、大径の第1歯車体80を、塑性流動を用いた結合で固定することによって形成される。すなわち、歯車構造体B1の第1歯車24Bを前記と同様に簡便的に説明するならば、「歯車構造体B1の第1歯車24B=第1歯部70+第1歯車体80」ということになる。なお、ここで言う「塑性流動を用いた結合」とは、図1(A)に示されるように、第1歯部70の外周に、軸方向Xに荷重を加えながら第1歯車体80を押し込むことによって、該第1歯部70と第1歯車体80とを結合するものである。
【0032】
第1歯車体80は、第1歯部70の歯高70hに対応した内径D1(歯高70hより僅かに小さい内径)の中空部80Aを有している。ここで、「第1歯部70の歯高70h」とは、第1歯部70の山部の高さに相当し、具体的には軸部材22の軸心から歯先までの距離を意味している。なお、この「第1歯部70の歯高70h」は、軸部材22の中空部22Aの内周と第1歯部70の歯先(山部の頂点)と定義することもできる。第1歯車体80が、第1歯部70の歯高70hに対応した内径D1(歯高70hより僅かに小さい内径)の中空部80Aを有していることにより、該第1歯車体80の内周面を第1歯部70の歯と歯の間に塑性流動させ、第1歯部70と第1歯車体80とをバックラッシ無しで結合することができる。なお、この実施形態では第2歯車26も、第2歯部72と第2歯車体84とをこの結合手法で結合している。この結合手法は、「塑性結合」と称されることもある。
【0033】
図1から明らかなように、歯車構造体A1と歯車構造体B1の違いは、第1歯車体80の塑性結合の有無のみである。
【0034】
なお、この実施形態では、歯車構造体A1、B1とも、第1歯部70の歯高70hの方が、第2歯部72の歯高72hよりも高く形成されている。これは、第1、第2歯部70、72を形成する前の「旋盤で形成されるギヤブランク(図示略)の第1、第2歯部相当位置」の外径を異ならせておくことで実現できる。第1歯部70の歯高70hと第2歯部72の歯高72hが異なっているため、第2歯部72に第2歯車体84を塑性結合する際に、第1歯部70の第2歯部側端面70Eを「当て面」として活用することができる。なお、第1歯部70と第2歯部72の双方に第1歯車体80及び第2歯車体84をそれぞれ塑性流動で固定する場合には、図1(B)に示されるように、第1歯車体80と第2歯車体84とを軸方向に当接させるようにするとよい。これにより、第1歯車体80を塑性結合する際に、既に塑性結合している第2歯車体84の軸方向第1歯車体側の端面80Eを「当て面」として活用することができる。
【0035】
また、この実施形態では、第1、第2歯部70、72自体は、同一の歯切り工具で連続して加工されている。すなわち、この実施形態では、ベース構造体74の第1歯部70の歯高70hと第2歯部72の歯高72hはそれぞれ異なっているが、該第1歯部70と第2歯部72のピッチ円径dpと歯数は同一である。これにより第1歯部70と第2歯部72の製造をより簡便化できる。
【0036】
図2、図3に戻って、各歯車構造体A1、B1の軸部材22は、一対の軸受25、27を介して第2キャリヤ44及び前段側の部材(図示略)に回転自在に支持されている。また、この実施形態に係るベース構造体74では、第1歯車24A、24Bが入力部12のピニオン20(図2)またはピニオン21(図3)と噛合しており、第2歯車26が主減速機構部16の入力歯車30と噛合している。ピニオン20、21と第1歯車24A、24Bとの噛合は「減速」、第2歯車26と入力歯車30との噛合は「偏心体軸32の第2歯車26周りの公転」をそれぞれ実現している。
【0037】
次に本実施形態に係る減速装置のシリーズの作用を説明する。
【0038】
本実施形態によれば、歯車構造体A1、B1のいずれを選択するか、すなわち、第1歯部70をそのまま用いる歯車構造体A1を選択するか、または第1歯部70に第1歯車体80を塑性結合した歯車構造体B1を選択するか、によって歯車構造体A1を有する減速装置Gaまたは歯車構造体B1を有する減速装置Gbを製造可能である。歯車構造体A1を選択する場合は、第1歯車24Aとピニオン20を組み合わせることになり、歯車構造体B1を選択する場合は、第1歯車24Bとピニオン21を組み合わせることになる。
【0039】
本実施形態では、このような歯車構造体としての基本的な作用を得ながら、更に以下のような有益な作用が得られる。
【0040】
第1に、いずれの減速比を選択する場合も、ベース構造体74及び第2歯車26を完全に共通化できる。
【0041】
従来の歯車構造体では、キーやスプラインで歯車体を軸部材に結合するものを含めて、第1歯部自体と、該第1歯部に歯車体を結合したものとを、共に「歯車」として活用するというような発想はなかった。そのため、第1歯車での減速比(あるいは増速比)の種類数を増大するには、該種類数と同じ数の第1歯車体を用意する必要があった(例えば第1歯車にてn種の減速比を確保するにはn個の第1歯車体を必要とした)。しかしながら、本実施形態によれば、第1歯部70自体を第1歯車24Aとして使用することを可能としているため、第1歯車にてn種の減速比を得るには、(n−1)個の第1歯車体80を確保するだけで足りる。そして、いずれの場合でも、ベース構造体74及び第2歯車26を完全に共通化できる。このため、製造コスト及び在庫コストを大幅に低減することができる。
【0042】
第2に、第1歯部70と第1歯車体80とのそれぞれの独立性を高く維持することができる。
【0043】
本実施形態に係る減速装置のシリーズでは、第1歯部70と第1歯車体80は塑性結合によって固定されるため、第1歯部70に形成されている歯形と第1歯車体80に形成されている歯形は、基本的に独立している。例えば、第1歯部70に平歯が形成されていても、斜歯が形成されていても、更にはウォームが形成されていても、その歯高70hに対応した内径D1の中空部を共通に有するどんな第1歯車体をも結合することが可能である。
【0044】
要するならば、第1歯部70は、平歯であっても、斜歯であっても構わない。また、第1歯車体80も、平歯であっても、斜歯であっても構わない。更には、平行軸歯車に限らず、ベベル、ハイポイド、ウォームギヤのような直交歯車であっても良い。これは、本シリーズでは、第1歯部70と第1歯車体80は、単に「減速比を変える」という機能の範疇を超え、「歯車の歯形の種類を変える」という機能をも有していることを意味している。例えば、『第1歯部をそのまま使用するときは、モータの斜歯出力軸を直に噛合させる設計とすることが多いため、第1歯部には斜歯を形成しておくが、第1歯車体としては、平歯、斜歯、ベベル、ハイポイドを用意しておくことで多様な設計に対応できるようにしておく』というようなシリーズの構築が可能となる。本実施形態は、第1歯部70をそのまま使用することを想定したシリーズであるため、該第1歯部70と第1歯車体80との独立性が高いというのは極めて大きなメリットとなる。
【0045】
第3に、軸部材の軸心に対して第1歯部と第1歯車体とを極めて高精度に同軸化することができる。
【0046】
本実施形態に係る第1歯部70と第1歯車体80の組み付け精度は、第1歯部70の歯高70hと第1歯車体80の内径D1の形成精度に依存する。第1歯部70の歯高70hは、該第1歯部70を形成する前のギヤブランク(図示略)の第1歯部相当位置の外径の形成精度を引き継ぐため、例えば旋盤によって極めて高精度に形成することが可能である。また、第1歯車体80の内径D1も、単純な円形であることから、これも極めて高精度に形成することが可能である。したがって、第1歯部70と第1歯車体80の結合する際の両者の同軸性を、高精度に維持することができる。ちなみに、スプラインによる結合の場合は、歯と歯を合わせることによって結合するものであるため、不可避的に内スプラインと外スプラインの歯切りによる心ずれの影響を受け、同軸性を高度に維持するのが困難である。本実施形態では、第1歯部70と第1歯車体80とを結合させる構成でありながら、あたかも始めから第1歯部70と第1歯車体80を一体形成したと同様の形成精度を得ることができる。
【0047】
第4に、第1歯部70と第1歯車体80との間にバックラッシが存在しない結合が可能である。
【0048】
本実施形態では、第1歯部70に第1歯車体80を塑性結合する構成が採用されているため、該第1歯部70と第1歯車体80との間にバックラッシが存在しない。そのため、産業用ロボットの関節部に使用する減速装置のように、バックラッシを嫌う用途に適用することが可能である。更には、例えば、種々のハイポイドギヤが「バックラッシ無し」で軸部材に連結されているような歯車構造体を複数種類用意するのは、従来は非常に製造コスト及び在庫コストが掛かるため、実現自体が困難であったが、本発明によれば、こうした特異な構造の歯車構造体であっても、製造コストや在庫コストを軽減でき、実現の可能性を高めることができる。
【0049】
第5に、サブシリーズ化することによる発展性が高い。
【0050】
例えば、第1、第2歯部70、72として、平歯を形成した歯車構造体を有する変速装置と、斜歯を形成した歯車構造体を有する変速装置とを、サブシリーズとして複数種類備えるように構成してもよい。
【0051】
更には、上記実施形態では、第2歯車26については、ともに、第2歯部72に第2歯車体84を塑性結合(第1歯車24Bでの塑性結合と同様な結合)したものが採用されていたが、本発明では、例えば、第2歯車26についても、第2歯部72をそのまま第2歯車26として使用する歯車構造体を有する変速装置を含むようにサブシリーズ化することができる。
【0052】
今、ここで、変速装置に組み込む歯車構造体の種類に着目して、該歯車構造体自体を、例えば図4に示されるようにシリーズ化した場合、結果として
i)第1歯部70が第1歯車24Aとしてそのまま使用されると共に、第2歯部72には第2歯車体84が塑性結合される第1の歯車構造体A1−1(図2の歯車構造体A1相当)
ii)第1歯部70が第1歯車24Aとしてそのまま使用されると共に、第2歯部72もそのまま使用される第2の歯車構造体A1−2
iii)第1歯部70に第1歯車体80を塑性結合することで第1歯車24Bを構成すると共に、第2歯車26も第2歯部72に第2歯車体84を塑性結合する第3の歯車構造体B1−1(図3の歯車構造体B1相当)
iv)第1歯部70に第1歯車体80を塑性結合することで第1歯車24Bを構成すると共に、第2歯部72はそのまま使用される第4の歯車構造体B1−2
の計4つの第1〜第4の歯車構造体A1−1、A1−2、B1−1、B1−2を含むシリーズを構築することができる。このことは、すなわち、これらの第1〜第4の歯車構造体A1−1、A1−2、B1−1、B1−2を有する減速装置のシリーズを実現できることにほかならない。
【0053】
なお、前述の図2の歯車構造体A1は、この分類でより詳細に区分けするならば、第1の歯車構造体A1−1に相当しており、図3の歯車構造体B1は、第3の歯車構造体B1−1に相当している。このようなシリーズに発展させることにより、第2歯車26に対しても、第1歯車24A、24Bと同様なバリエーションを展開することができる。例えば第2歯部72を平歯にしたり、斜歯にしたりすることができると共に、第2歯車体84を平歯にしたり、斜歯にしたりすることもできる。第2歯車体84をベベルやハイポイドのような直交ギヤとすることも可能である。すなわち、このようなシリーズに発展させることにより、第1歯部および第2歯部を備えたベース構造体を共通化しながら、第1歯車および第2歯車の双方において実現できる減速比の種類および歯形の種類を飛躍的に増大させることができる。
【0054】
なお、上記実施形態では、ベース構造体74の第1歯部70の歯高70hと第2歯部72の歯高72hをそれぞれ異ならせ、その差を第2歯車体84の塑性結合時の「当て面」として活用するようにしていたが、本発明では、第1歯部と第2歯部の歯高は同一としても良い。これにより第1歯部と第2歯部をより簡易に形成することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、図3の歯車構造体B1(図4の第3の歯車構造体B1−1)を製造する場合に、すなわち、第1歯部70と第2歯部72の双方に第1歯車体80及び第2歯車体84をそれぞれ塑性流動で固定する場合に、第1歯車体80と第2歯車体84とを軸方向に当接させるようにして、既に塑性結合した第2歯車体84を、後から塑性結合する第1歯車体80の「当て面」として利用するようにしていたが、何らかの止め部材を確保できるならば、この当接構成は必須ではない。
【0056】
また、上記実施形態では、第1歯部70と第2歯部72のピッチ円径dpと歯数を同一として歯形の形成を簡易化していたが、本発明では、第1歯部と第2歯部は、元より別々に(ピッチ円径や歯数を異ならせて)形成しても良い。この場合は、第1歯部と第2歯部の有用度をより高めることができる。
【0057】
なお、上記実施形態においては、動力伝達経路上の上流側の歯車を第1歯車と称していたが、本発明では、軸部材に軸方向に並んで配置されているいずれの歯車を第1歯車と捉えてもよい。
【0058】
上記実施形態では、いずれも減速装置のシリーズが例示されていたが、既に説明したように、本発明は、増速装置のシリーズとしても適用可能である。また、本発明は、例えば、図4に示されるような体系で捉えるならば、歯車構造体のシリーズと捉えることもできる。
【符号の説明】
【0059】
G1…減速装置
12…入力部
14…減速比調整部
16…主減速機構部
18…入力軸
20…ピニオン
22…軸部材
24A、24B…第1歯車
26…第2歯車
80…第1歯車体
84…第2歯車体
A1、B1…歯車構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の外周に第1歯車及び第2歯車が軸方向に並んで配置された歯車構造体を有する変速装置のシリーズであって、
該シリーズは、歯車構造体Aを有する変速装置と、歯車構造体Bを有する変速装置を含み、
該歯車構造体A、Bは、それぞれ前記軸部材の外周に第1歯部及び第2歯部が軸方向に並んで配置された共通のベース構造体を備え、
前記歯車構造体Aでは、該ベース構造体の前記第1歯部をそのまま使用することによって当該歯車構造体Aの前記第1歯車を構成し、
前記歯車構造体Bでは、前記ベース構造体の前記第1歯部の半径方向外側に、大径の第1歯車体を、塑性流動を用いた結合で固定することによって当該歯車構造体Bの前記第1歯車を構成する
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ベース構造体の前記第1歯部と前記第2歯部のピッチ円径と歯数が同一である
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ベース構造体の前記第2歯部の半径方向外側に、大径の第2歯車体を塑性流動を用いた結合で固定することによって、前記第2歯車として使用する
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記ベース構造体の前記第2歯部を、前記第2歯車としてそのまま使用する
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記第1歯部と第2歯部の歯高が異なる
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項6】
請求項1〜3、または5のいずれかにおいて、
前記第1歯部と第2歯部の双方に第1歯車体及び第2歯車体をそれぞれ塑性流動で固定する場合に、前記第1歯車体と前記第2歯車体とを軸方向に当接させる
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記第1歯車体として、直交歯車が固定された変速装置と、平行軸歯車が固定された変速装置と、を含む
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記第1、第2歯部として、平歯を形成した変速装置と、斜歯を形成した変速装置とを含む
ことを特徴とする歯車構造体を有する変速装置のシリーズ。
【請求項9】
軸部材の外周に第1歯車及び第2歯車が軸方向に並んで配置された歯車構造体のシリーズであって、
該シリーズは、歯車構造体Aと、歯車構造体Bを含み、
該歯車構造体A、Bは、それぞれ前記軸部材の外周に第1歯部及び第2歯部が軸方向に並んで配置された共通のベース構造体を備え、
前記歯車構造体Aでは、該ベース構造体の前記第1歯部をそのまま使用することによって当該歯車構造体Aの前記第1歯車を構成し、
前記歯車構造体Bでは、前記ベース構造体の前記第1歯部の半径方向外側に、大径の第1歯車体を、塑性流動を用いた結合で固定することによって当該歯車構造体Bの前記第1歯車を構成する
ことを特徴とする歯車構造体のシリーズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241867(P2012−241867A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115240(P2011−115240)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】