説明

歯車潤滑装置

【課題】歯面に付着する潤滑油の昇温を抑制し、歯面の冷却性及び潤滑性を向上することができる歯車潤滑装置を提供する。
【解決手段】互いに噛合する一対の歯車(大歯車2及び小歯車3)の噛み合い部5に潤滑油6を供給する歯車潤滑装置1において、大歯車2及び小歯車3のうち少なくとも一方の歯車の回転方向の噛み合い部5より前の位置にてこの歯車の各歯面2a,3aに空気7を供給し、各歯面2a,3a上に付着している潤滑油6を除去する空気供給ノズル4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の歯面には加工痕等の微細な凹凸部があり、一対の歯車が噛み合う際にこれらの凹凸部同士が直接接触する頻度が多くなると、歯車の歯面間の摩擦係数が増大する。そこで歯車噛み合い時の歯面間の摩擦係数を低減させ、歯面の潤滑性を向上させるべく、例えば特許文献1には、歯車の噛み合い前及び噛み合い後に潤滑油を供給する歯車潤滑装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−122310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来の歯車潤滑装置においては、歯車の噛み合う歯面に供給された潤滑油が、分子間力や表面張力等により遠心力に抗して歯面上に残留する場合がある。歯面上に残留する潤滑油は、歯面と長時間接触し続けるため、歯車の噛み合い等によって発生した熱を歯面から伝達され昇温してゆく。歯面上の潤滑油が昇温すると、歯面上に形成される油膜が薄くなり、歯車の噛み合い部において両歯車の歯面の凹凸部同士の接触頻度が増大する。このように、従来の歯車潤滑装置では、歯車同士の噛合回転の時間経過と共に、歯面に付着する潤滑油が昇温し、歯面の潤滑性が低下する虞があった。また、歯面上の潤滑油が昇温すると、歯面から十分に吸熱することができず、歯面の冷却性も低下する虞があった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、歯面に付着する潤滑油の昇温を抑制し、歯面の冷却性及び潤滑性を向上することができる歯車潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、互いに噛合する一対の歯車の噛み合い部に潤滑油を供給する歯車潤滑装置において、前記一対の歯車のうち少なくとも一方の歯車の回転方向の前記噛み合い部より前の位置にて該歯車の各歯面に媒体を供給し、該媒体によって前記各歯面上に付着している潤滑油を除去する除去手段を備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記除去手段は、前記潤滑油を除去する歯車の前記噛み合い部の開始位置から、該歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲内において、前記媒体を供給するよう配置されることが好ましい。
【0008】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記除去手段により供給される媒体は空気であり、前記除去手段は、前記潤滑油を除去する歯車の歯面に空気を噴射する空気噴射手段を有することが好ましい。
【0009】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記空気噴射手段は、前記一対の歯車のうち少なくとも一方の歯車の周囲を覆って配置され、該歯車の回転に伴って該歯車との間隙に空気を導入して整流する整流カバーと、前記整流カバーによって整流された前記空気を、前記潤滑油を除去する歯車の外周側から歯面に向けて噴射する空気供給ノズルと、を有することが好ましい。
【0010】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記潤滑油を除去する歯車には、該歯車の回転軸まわりの内周面を備えた空間が設けられ、前記空気噴射手段は、前記潤滑油を除去する歯車に設けられた前記空間内に配置され、該歯車の回転に伴って前記空間の前記内周面に沿って空気を導入して整流すると共に、該歯車の前記噛み合い部の開始位置から該歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲内の所定位置において、空気の流れを外周側へ変化させるよう構成された整流ガイドと、前記潤滑油を除去する歯車の各歯底から、該歯車に設けられた前記空間の前記内周面へ連通され、前記整流ガイドにより整流された空気を外周側へ噴射する連通孔と、を有することが好ましい。
【0011】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記連通孔は、該連通孔の軸線が、前記潤滑油を除去する前記歯面の方向に傾斜するよう設けられることが好ましい。
【0012】
また、上記の歯車潤滑装置において、前記連通孔は、前記内周面上の孔径が前記歯底上の孔径より大きくなるよう設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る歯車潤滑装置では、除去手段が、互いに噛合する一対の歯車の回転方向の噛み合い部より前の位置にて歯車の各歯面に媒体を供給し、この媒体によって各歯面上に付着している潤滑油を除去する。この構成により、潤滑油が歯面に長時間付着し続けるのを抑制し、歯面と潤滑油との接触する時間を短縮することができるので、潤滑油の昇温量を低減させることが可能となる。このため、噛み合い部において歯面上に形成される油膜を厚く保つことができ、互いに噛合する一対の歯車の歯面間の金属接触の頻度を低減し、摩擦係数の増大を抑制して、歯面の潤滑性を向上させることができる。また、歯面上の潤滑油の温度を低くできるため、歯面から十分な熱伝導を受けることができ、歯面の冷却性を向上できる。この結果、本実施形態に係る歯車潤滑装置は、互いに噛合する一対の歯車の各歯面に付着する潤滑油の昇温を抑制し、歯面の冷却性及び潤滑性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る歯車潤滑装置の動作時の大歯車及び小歯車の歯面の状態を示した模式図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態の第1変形例に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態の第2変形例に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施形態に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明の第3実施形態に係る歯車潤滑装置の動作時の大歯車及び小歯車の歯面の状態を示した模式図である。
【図8】図8は、本発明の第3実施形態の変形例に係る歯車潤滑装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る歯車潤滑装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0016】
[第1実施形態]
まず、図1,2を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る歯車潤滑装置1の構成を示す概略図であり、図2は、本実施形態に係る歯車潤滑装置1の動作時の大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aの状態を示した模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の歯車潤滑装置1は、潤滑対象の一対の歯車である大歯車2及び小歯車3と、空気供給ノズル4(除去手段、空気噴射手段)とを備えて構成されている。
【0018】
大歯車2及び小歯車3は、それぞれの回転軸に回転可能に固定され、噛み合い部5にてそれぞれの歯面2a,3aが相互に噛合されており、一方の回転に応じて他方が回転されるよう構成される。図1の例では、大歯車2の回転方向は時計回りの方向であり、小歯車3の回転方向は反時計回りの方向である。大歯車2及び小歯車3は、平歯車やはすば歯車であり、例えば自動車等の車両における動力伝達装置などに用いられる歯車対である。
【0019】
大歯車2及び小歯車3の噛み合う歯面2a,3aには、図2(a)に示すように、例えば飛沫給油等の手法により噛み合い部5において潤滑油6が供給される。なお、潤滑油6の供給に関しては、大歯車2及び小歯車3の回転方向で、噛み合い部5の開始位置より上流側に潤滑油供給ノズル(図示せず)を設け、この潤滑油供給ノズルから大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aに潤滑油6を噴射させるよう構成してもよい。
【0020】
空気供給ノズル4は、大歯車2及び小歯車3のそれぞれの回転方向の噛み合い部5より前の位置にて、図2(b)に示すように、大歯車2及び小歯車3の噛み合う歯面2a,3aに空気(媒体)7を供給して、供給された空気7によって大歯車2及び小歯車3の各歯面2a,3a上に付着している潤滑油6を除去する。より詳細には、空気供給ノズル4は、大歯車2の径方向外側の、噛み合い部5の開始位置から大歯車2の回転方向の逆方向へ半周(180度)の位置までの範囲L1内に配置され、図示しない供給源から導入された空気7を、大歯車2の外周側から小歯車3と噛み合う歯面2aに向けて噴射するよう構成される。同様に、空気供給ノズル4は、小歯車3の径方向外側の、噛み合い部5の開始位置から小歯車3の回転方向の逆方向へ半周(180度)の位置までの範囲L2内にも配置され、図示しない供給源から導入された空気7を小歯車3の外周側から大歯車2と噛み合う歯面3aに向けて噴射するよう構成される。
【0021】
なお、上述のように潤滑油供給ノズル(図示せず)により潤滑油6を供給する構成の場合には、空気供給ノズル4は、潤滑油供給ノズルよりも大歯車2及び小歯車3のそれぞれの回転方向の上流側に配置される。
【0022】
このような歯車潤滑装置1では、大歯車2の各歯面2a及び小歯車3の各歯面3aは、まず周知の手法により歯面2a,3a上に潤滑油6が供給されて噛み合い部5にて噛合する。噛み合いの後には、図2(a)に示すように、両歯車2,3の噛み合いによって発生した熱(図2(a)の矢印)を歯面2a,3a上の潤滑油6へ伝達しながら回転を続ける。そして、噛み合い部5の上流側にて、図2(b)に示すように、空気供給ノズル4により歯面2a,3aに空気7を噴射され、各歯面2a,3aに付着している潤滑油6が吹き飛ばされて歯面2a,3a上から除去される。その後に、歯面2a,3a上に新たに潤滑油6が供給されて再び噛み合い部5にて噛合する。大歯車2及び小歯車3が噛合回転している間、このような動作が繰り返される。
【0023】
このように、本実施形態に係る歯車潤滑装置1によれば、図1,2に示すように、空気供給ノズル4が、互いに噛合する大歯車2及び小歯車3の回転方向の噛み合い部5より前の位置にて空気7を供給し、この空気7によって大歯車2及び小歯車3の各歯面2a,3a上に付着している潤滑油6を除去する。この構成により、潤滑油6が歯面2a,3aに長時間付着し続けるのを抑制し、歯面2a,3aと潤滑油6との接触する時間を短縮することができるので、潤滑油6の昇温量を低減させることが可能となる。このため、噛み合い部5において歯面2a,3a上に形成される油膜を厚く保つことができ、大歯車2の歯面2aと小歯車3の歯面3aとの間の金属接触の頻度を低減し、摩擦係数の増大を抑制して、歯面2a,3aの潤滑性を向上させることができる。また、歯面2a,3a上の潤滑油6の温度を低くできるため、歯面2a,3aから十分な熱伝導を受けることができ、歯面2a,3aの冷却性を向上できる。この結果、本実施形態に係る歯車潤滑装置1は、大歯車2及び小歯車3の各歯面2a,3aに付着する潤滑油6の昇温を抑制し、歯面2a,3aの冷却性及び潤滑性を向上させることができる。
【0024】
また、本実施形態の歯車潤滑装置1では、図1に示すように、空気供給ノズル4が、噛み合い部5の開始位置から、大歯車2及び小歯車3の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲L1,L2内に配置される。この構成により、大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aでは、噛み合い部5での噛み合い後に、少なくとも半周は歯面2a,3a上に潤滑油6を付着させたまま回転し、歯面2a,3aから潤滑油6への熱伝導が十分に行われてから、昇温した潤滑油6が除去されるので、歯面2a,3aの放熱を阻害することなく、潤滑油6の除去を行うことができる。
【0025】
また、本実施形態の歯車潤滑装置1では、図1,2に示すように、空気供給ノズル4により供給される、潤滑油6を除去するための媒体が空気7であり、空気供給ノズル4が、大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aに空気7を噴射する。この構成により、潤滑油6を除去するための媒体として、液体等より軽量な空気7を用いるため、歯車潤滑装置1の軽量化を図ることができる。また、媒体として空気7を用いれば、液体等のように予め媒体を貯留しておく必要もないので、歯車潤滑装置1の省スペース化を図ることもできる。
【0026】
なお、上記実施形態では、空気供給ノズル4は、大歯車2の歯面2a及び小歯車3の歯面3aの両方に空気7を噴射できるように設置されたが、両歯面2a,3aいずれか一方のみに空気7を噴射するように設置し、大歯車2または小歯車3のいずれか一方の歯面の潤滑油を除去するよう構成してもよい。この場合、1歯当たりの噛み合い回数の多い小歯車3に空気供給ノズル4を設け、小歯車3の歯面3aから潤滑油6を除去可能とし、潤滑油6を歯面3aから除去する頻度を増やすことができるよう構成するのが好適である。
【0027】
[第2実施形態]
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図3は、本発明の第2実施形態に係る歯車潤滑装置10の構成を示す概略図である。本実施形態の歯車潤滑装置10は、図3に示すように、(1)大歯車2及び小歯車3の周囲にそれぞれ整流カバー11a,11bを備える点、及び(2)空気供給ノズル12a,12bが、それぞれ整流カバー11a,11bから供給された空気7を噴射するよう構成されている点において、上記第1実施形態の歯車潤滑装置1と異なるものである。
【0028】
整流カバー11aは、大歯車2を覆ってその周囲に配置され、大歯車2の径方向外側に大歯車2の外周に沿った周面19aを備え、この周面19aと大歯車2との間に周方向に沿って間隙13aを形成している。また、整流カバー11aは、噛み合い部5から大歯車2の回転方向の下流側に、間隙13aに空気7を導入するための開口部14aを有し、さらに、噛み合い部5の上流側にて空気供給ノズル12aと連結されている。
【0029】
空気供給ノズル12aは、整流カバー11aの間隙13a内に開口し、整流カバー11a内を流れる空気7を導入する導入口15aを備える。この空気供給ノズル12aも、第1実施形態の空気供給ノズル4と同様に、大歯車2の径方向外側の、噛み合い部5の開始位置から大歯車2の回転方向の逆方向へ半周(180度)の位置までの範囲(図1に符号L1で示す範囲)内に配置される。
【0030】
同様に、整流カバー11bは、小歯車3を覆ってその周囲に配置され、小歯車3の径方向外側に小歯車3の外周に沿った周面19bを備え、この周面19bと小歯車3との間に周方向に沿って間隙13bを形成している。また、整流カバー11bは、噛み合い部5から小歯車3の回転方向の下流側に、間隙13bに空気7を導入するための開口部14bを有し、さらに、噛み合い部5の上流側にて空気供給ノズル12bと連結されている。
【0031】
空気供給ノズル12bは、整流カバー11bの間隙13b内に開口し、整流カバー11b内を流れる空気7を導入する導入口15bを備える。この空気供給ノズル12bも、第1実施形態の空気供給ノズル4と同様に、小歯車3の径方向外側の、噛み合い部5の開始位置から小歯車3の回転方向の逆方向へ半周(180度)の位置までの範囲(図1に符号L2で示す範囲)内に配置される。
【0032】
また、整流カバー11aと空気供給ノズル12aとの連結部分には、油切り口16aが径方向外側に向けて設けられ、整流カバー11aの間隙13aに滞留する潤滑油6を外部に排出させることができるよう構成されている。同様に、整流カバー11bと空気供給ノズル12bとの連結部分には、油切り口16bが径方向外側に向けて設けられ、整流カバー11bの間隙13bに滞留する潤滑油6を外部に排出させることができるよう構成されている。油滴は遠心力により、より外側へ移動する為、整流カバー11a,11bの外周に接するように油切り口16a,16bを配置し、空気供給ノズル12a,12bをその油切り口16a,16bよりも内側に配置してもよい。このようにすることで、油と空気を効果的に分離することができる。
【0033】
このような歯車潤滑装置10では、大歯車2及び小歯車3が噛合回転することによって、大歯車2及び小歯車3の回転方向に空気7の流れが発生し、開口部14aから、整流カバー11aの周面19aと大歯車2とのなす間隙13aへ、また、開口部14bから、整流カバー11bの周面19bと小歯車3とのなす間隙13bへと空気7が導入される。導入された空気7は、整流カバー11a,11bの周面19a,19bに沿って整流されて大歯車2及び小歯車3の回転方向に間隙13a,13bを流れる。そして、このように整流カバー11a,11bによって整流された空気7が導入口15a,15bから空気供給ノズル12a,12bに導入され、空気供給ノズル12aにより、大歯車2の外周側から歯面2aに向けて空気7が噴射され、また、空気供給ノズル12bにより、小歯車3の外周側から歯面3aに向けて空気7が噴射されて、大歯車2の各歯面2a及び小歯車3の各歯面3aに付着している潤滑油6が除去される。
【0034】
なお、歯面2a,3aから除去された潤滑油6は、整流カバー11a,11b内に滞留した場合には、大歯車2及び小歯車3の回転方向の空気7の流れによって、周面19a,19bに沿って移動され、空気供給ノズル12a,12bの導入口15a,15bの手前において、径方向外側に向けて設けられた油切り口16a,16bから外部に排出される。
【0035】
本実施形態に係る歯車潤滑装置10によれば、空気供給ノズル12a,12bが、大歯車2及び小歯車3の噛合回転に伴って整流カバー11a,11bに導入されて整流された空気7を歯面2a,3aに噴射する。この構成により、大歯車2及び小歯車3の回転により発生した空気7の流れを利用して、空気供給ノズル12a,12bから空気7を噴射させることが可能となるので、空気供給源を別途用意する必要がなくなり、歯車潤滑装置10の軽量化や低コスト化を図ることができる。
【0036】
次に、図4を参照して、本実施形態の第1変形例について説明する。図4は、本発明の第2実施形態の第1変形例に係る歯車潤滑装置10aの構成を示す概略図である。上記第2実施形態では、空気供給ノズル12a,12bは、それぞれ整流カバー11a,11bで整流された空気を導入口15a,15bから導入して個別に利用していたが、例えば、図4に示す歯車潤滑装置10aのように、空気供給ノズル12a,12bの導入口15a,15bから噴射口17a,17bの間に連通部18を設けて、この連通部18にて空気供給ノズル12a,12bを連通するよう構成してもよい。この構成により、空気供給ノズル12a,12bの導入口15a,15bからそれぞれ導入された空気7が連通部18で混合され、空気供給ノズル12a,12bの噴射口17a,17bから同量の空気を噴射させることが可能となるので、大歯車2の歯面2a及び小歯車3の歯面3aから潤滑油6を均等に除去することができる。
【0037】
次に、図5を参照して、本実施形態の第2変形例について説明する。図5は、本発明の第2実施形態の第2変形例に係る歯車潤滑装置10bの構成を示す概略図である。上記実施形態では、大歯車2及び小歯車3の両方に整流カバー11a,11bが設置されていたが、図5に示す歯車潤滑装置10bのように、大歯車2のみに整流カバー11aを設置するよう構成してもよい。この場合、整流カバー11aに連結される空気供給ノズル20は、整流カバー11aの間隙13aに開口する1つの導入口21と、この導入口21から導入された空気を分岐して各歯車2,3の歯面2a,3aに空気を噴射するための2つの噴射口22,23とを備えて構成される。なお、図5に示す例の他に、小歯車3のみに整流カバー11bを設置し、この整流カバー11bに空気供給ノズル20を連結するよう構成してもよい。また、空気供給ノズル20の噴射口を1つとし、大歯車2または小歯車3のいずれか一方のみに空気7を噴射するよう構成してもよい。
【0038】
[第3実施形態]
次に、図6,7を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。図6は、本発明の第3実施形態に係る歯車潤滑装置30の構成を示す概略図であり、図7は、本実施形態に係る歯車潤滑装置30の動作時の大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aの状態を示した模式図である。本実施形態の歯車潤滑装置30は、図6に示すように、(1)大歯車2及び小歯車3に回転軸まわりの内周面32a,32bを備えた空間31a,31bを設ける点、(2)この空間31a,31bの内周面32a,32bに沿って空気7を導入して整流する整流ガイド33a,33bを有する点、図7に示すように、(3)大歯車2及び小歯車3の各歯底34a,34bから、内周面32a,32bへ連通された連通孔35a,35bを有する点において、上記第1実施形態の歯車潤滑装置1と異なるものである。
【0039】
大歯車2に設けられた空間31aの内周面32aは、図6に示すように、回転軸の軸線方向視において、大歯車2の基準円と同心円状に設けられ、大歯車2の歯底を連ねた周面と対向して径方向内側に設けられている。同様に、小歯車3に設けられた空間31bの内周面32bは、軸線方向視において、小歯車3の基準円と同心円状に設けられ、小歯車3の歯底を連ねた周面と対向して径方向内側に設けられている。
【0040】
整流ガイド33a,33bは、図6に示すように、大歯車2及び小歯車3に設けられた空間31a,31bの内周面32a,32bの径方向内側に、この内周面32a,32bに沿って設けられた板状部材であり、例えば大歯車2及び小歯車3の外部の支持部材(図示せず)によって、大歯車2及び小歯車3の軸線方向外側から保持され、空間31a,31b内に配置されている。そして、大歯車2及び小歯車3の内周面32a,32bとの間に周方向に沿って間隙36a,36bを形成している。
【0041】
また、図6,7に示すように、整流ガイド33a,33bの周方向の端部の一方は径方向外側に湾曲されて、内周面32a,32bと共に間隙36a,36bを徐々に狭窄させる狭窄部37a,37bを形成しており、他方は内周面32a,32bと共に間隙36a,36bに空気7を導入する開口部38a,38bを形成している。
【0042】
そして、整流ガイド33a,33bは、狭窄部37a,37bが大歯車2及び小歯車3の回転方向で噛み合い部5の前の位置、より詳細には、噛み合い部5の開始位置から大歯車2及び小歯車3の回転方向の逆方向へ半周(180度)の位置までの範囲L1,L2内の所定位置に配置されるように、大歯車2及び小歯車3に設けられた空間31a,31b内に固設されている。
【0043】
連通孔35a,35bは、図7に示すように、大歯車2及び小歯車3の各歯の間の歯底34a,34bの全てから内周面32a,32bへと貫通され、それぞれの軸線方向が大歯車2及び小歯車3の径方向と略同一となるように設けられている。
【0044】
このような歯車潤滑装置30では、図6に示すように、大歯車2及び小歯車3が噛合回転することによって、大歯車2及び小歯車3の回転方向に空気7の流れが発生し、開口部38a,38bから整流ガイド33a,33bと大歯車2及び小歯車3の内周面32a,32bとのなす間隙36a,36bに空気7が導入される。導入された空気7は、整流ガイド33a,33bと内周面32a,32bに沿って整流されて、大歯車2及び小歯車3の回転方向に沿って間隙36a,36bを流れる。
【0045】
整流ガイド33a,33bによって整流された空気7は、図7に示すように、狭窄部37a,37bにおいて流れ方向を内周面32a,32bに沿った周方向から径方向外側(外周側)に向けて徐々に変化してゆく。そして、大歯車2及び小歯車3の回転によってこのとき狭窄部37a,37bに到来した連通孔35a,35bの1つに導入される。連通孔35a,35bに導入された空気7は、大歯車2及び小歯車3の回転に伴い発生する遠心力によって外周側に向けて噴射され、歯面2a,3a上の潤滑油6を吹き飛ばして除去しながら歯面2a,3aに沿って径方向外側に流れてゆく。
【0046】
本実施形態に係る歯車潤滑装置30によれば、大歯車2及び小歯車3の内部に設けられた整流ガイド33a,33b及び連通孔35a,35bを用いて、大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aに空気を噴射して潤滑油6を除去することが可能となるので、歯車潤滑装置30の省スペース化を図ることができる。また、大歯車2及び小歯車3の回転により発生した空気7の流れを利用して、大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aに潤滑油を除去するための空気を噴射させることが可能となるので、空気供給源を別途用意する必要がなくなり、歯車潤滑装置30の軽量化や低コスト化を図ることができる。さらに、連通孔35a,35bから噴射後の空気は、大歯車2及び小歯車3の回転により発生する遠心力を利用して歯面2a,3a上を進むので、効率的に歯面2a,3aの潤滑油6を除去することができる。
【0047】
なお、上記実施形態では、連通孔35a,35bは、軸線方向が大歯車2及び小歯車3の径方向と略同一となるように設けられていたが、図8に示すように、連通孔35a,35bの軸線が、潤滑油6を除去する大歯車2及び小歯車3の歯面2a,3aに向けて傾斜するように、連通孔35a,35bを設けてもよい。この構成により、連通孔35a,35bからの空気7の噴射方向が歯面2a,3aに近づくので、連通孔35a,35bから噴射される空気7を強く歯面に当てることが可能となり、歯面2a,3aから潤滑油6の除去を促進させることができる。
【0048】
また、連通孔35a,35bを、内周面32a,32b上の孔径が歯底34a,34b上の孔径より大きくなるよう設けてもよい。この構成により、連通孔35a,35bへの空気7の流入が促進され、連通孔35a,35bからの空気の噴射量を増大させることが可能となり、歯面2a,3aから潤滑油6の除去を促進させることができる。
【0049】
以上、本発明について好適な実施形態を示して説明したが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1,10,10a,10b,30 歯車潤滑装置
2 大歯車
2a 大歯車の歯面
3 小歯車
3a 小歯車の歯面
4,12a,12b,20 空気供給ノズル(除去手段、空気噴射手段)
5 噛み合い部
6 潤滑油
7 空気(媒体)
11a,11b 整流カバー
13a,13b 整流カバーと大歯車及び小歯車との間隙
31a,31b 大歯車及び小歯車に設けられた空間
32a,32b 空間の内周面
33a,33b 整流ガイド
34a,34b 歯底
35a,35b 連通孔
L1 噛み合い部の開始位置から、大歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲
L2 噛み合い部の開始位置から、小歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛合する一対の歯車の噛み合い部に潤滑油を供給する歯車潤滑装置において、
前記一対の歯車のうち少なくとも一方の歯車の回転方向の前記噛み合い部より前の位置にて該歯車の各歯面に媒体を供給し、該媒体によって前記各歯面上に付着している潤滑油を除去する除去手段を備えることを特徴とする歯車潤滑装置。
【請求項2】
前記除去手段は、前記潤滑油を除去する歯車の前記噛み合い部の開始位置から、該歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲内において、前記媒体を供給するよう配置されることを特徴とする、請求項1に記載の歯車潤滑装置。
【請求項3】
前記除去手段により供給される媒体は空気であり、
前記除去手段は、前記潤滑油を除去する歯車の歯面に空気を噴射する空気噴射手段を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の歯車潤滑装置。
【請求項4】
前記空気噴射手段は、
前記一対の歯車のうち少なくとも一方の歯車の周囲を覆って配置され、該歯車の回転に伴って該歯車との間隙に空気を導入して整流する整流カバーと、
前記整流カバーによって整流された前記空気を、前記潤滑油を除去する歯車の外周側から歯面に向けて噴射する空気供給ノズルと、
を有することを特徴とする、請求項3に記載の歯車潤滑装置。
【請求項5】
前記潤滑油を除去する歯車には、該歯車の回転軸まわりの内周面を備えた空間が設けられ、
前記空気噴射手段は、
前記潤滑油を除去する歯車に設けられた前記空間内に配置され、該歯車の回転に伴って前記空間の前記内周面に沿って空気を導入して整流すると共に、該歯車の前記噛み合い部の開始位置から該歯車の回転方向の逆方向へ半周の位置までの範囲内の所定位置において、空気の流れを外周側へ変化させるよう構成された整流ガイドと、
前記潤滑油を除去する歯車の各歯底から、該歯車に設けられた前記空間の前記内周面へ連通され、前記整流ガイドにより整流された空気を外周側へ噴射する連通孔と、
を有することを特徴とする、請求項3に記載の歯車潤滑装置。
【請求項6】
前記連通孔は、該連通孔の軸線が、前記潤滑油を除去する前記歯面の方向に傾斜するよう設けられることを特徴とする請求項5に記載の歯車潤滑装置。
【請求項7】
前記連通孔は、前記内周面上の孔径が前記歯底上の孔径より大きくなるよう設けられることを特徴とする、請求項5または6に記載の歯車潤滑装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−219962(P2012−219962A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88597(P2011−88597)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】