説明

歯車装置

【課題】簡易な構成で大きな減速比又は増速比を得ることのできる歯車機構を提供する。
【解決手段】減速機3は、第1カム部21及び第2カム部22が一体に形成された入力軸5と、第1カム部21にニードル軸受24を介して設けられる第1外歯歯車25と、第2カム部22にニードル軸受26を介して設けられる第2外歯歯車27とを備えた。また、減速機3は、第1外歯歯車25の第1外歯28と噛合する第1内歯15を有し入力軸5の回転によって回転しない第1ハウジング11と、第2外歯歯車27の第2外歯29と噛合する第2内歯18を有する筒状部17が形成された出力軸6とを備えた。そして、減速機3は、第1外歯歯車25に形成された第1円孔31及び第2外歯歯車27に形成された第2円孔32の双方に遊挿されるピン33を有する単一のキャリア35を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力される回転を減速又は増速して伝達する歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型で高い減速比又は増速比を得ることのできる構造として、偏心揺動型の歯車装置が知られている。こうした偏心揺動型の歯車装置は、例えば風車のナセル(プロペラや発電機等を含む本体部分)を風向きに応じて旋回させる駆動装置の減速機として用いられている(例えば、特許文献1参照)。そして、特許文献1に記載の駆動装置では、偏心揺動型の歯車装置からなる2つの減速部(第1及び第2減速部)がモータの軸方向に並置されており、各減速部において、モータの出力を2段階で減速することにより、高い減速比(例えば、1000以上)を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−65542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の構成では、第1及び第2減速部は、それぞれ内周に複数の内歯を有する内歯歯車と、内歯と噛合する複数の外歯を有する外歯歯車と、内歯歯車の軸心に対して外歯歯車を偏心回転させるクランク軸と、外歯歯車に形成された円孔に遊挿されるピンを有するキャリアとを備えている。そのため、従来の構成では、減速機の部品点数が多く、例えば減速機のコストが増大するといった問題があり、この点においてなお改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成で大きな減速比又は増速比を得ることのできる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、内周に複数の第1内歯を有する第1内歯歯車と、前記第1内歯と噛合する複数の第1外歯を有する第1外歯歯車と、前記第1内歯歯車の軸心に対して前記第1外歯歯車を偏心回転させる第1カム部を有する第1クランク軸と、前記第1外歯歯車に形成された第1円孔に遊挿される第1ピンを有する第1キャリアと、を含む第1歯車機構と、内周に複数の第2内歯を有する第2内歯歯車と、前記第2内歯と噛合する複数の第2外歯を有する第2外歯歯車と、前記第2内歯歯車の軸心に対して前記第2外歯歯車を偏心回転させる第2カム部を有する第2クランク軸と、前記第2外歯歯車に形成された第2円孔に遊挿される第2ピンを有する第2キャリアと、を含む第2歯車機構と、を備え、前記第1クランク軸と前記第2クランク軸とは、前記第1カム部及び前記第2カム部が前記第1及び第2内歯歯車の軸心に対してそれぞれ偏心するとともに軸方向に並置された単一のクランク軸として構成され、前記第1内歯歯車が前記第1及び第2クランク軸の回転によって回転しない非回転部位に固定され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとは、前記第1ピン及び前記第2ピンが前記第1及び第2円孔の双方に遊挿される共通のピンにより構成されることで単一のキャリアとして構成され、前記第1及び第2クランク軸と前記第2内歯歯車との間で回転を減速又は増速して伝達することを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、第1クランク軸に回転が入力されると、第2歯車機構において、第2クランク軸が第1クランク軸と一体回転するとともに、第2ピン(第2キャリア)が第1歯車機構で減速された第1ピン(第1キャリア)と一体回転することにより、第2内歯歯車から高い減速比で減速された回転が出力される。一方、第2内歯歯車に回転が入力されると、同様に第1クランク軸から高い増速比で増速された回転が出力される。そして、上記構成では、第1クランク軸と第2クランク軸とが単一のクランク軸として構成されるとともに、第1ピンと第2ピンとが共通のピンにより構成されることで第1キャリアと第2キャリアとが単一のキャリアとして構成されるため、部品点数を削減して構成の簡素化を図ることができるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、内周に複数の第1内歯を有する第1内歯歯車と、前記第1内歯と噛合する複数の第1外歯を有する第1外歯歯車と、前記第1内歯歯車の軸心に対して前記第1外歯歯車を偏心回転させる第1カム部を有する第1クランク軸と、前記第1外歯歯車に形成された第1円孔に遊挿される第1ピンを有する第1キャリアと、を含む第1歯車機構と、内周に複数の第2内歯を有する第2内歯歯車と、前記第2内歯と噛合する複数の第2外歯を有する第2外歯歯車と、前記第2内歯歯車の軸心に対して前記第2外歯歯車を偏心回転させる第2カム部を有する第2クランク軸と、前記第2外歯歯車に形成された第2円孔に遊挿される第2ピンを有する第2キャリアと、を含む第2歯車機構と、を備え、前記第1クランク軸と前記第2クランク軸とは、前記第1カム部及び前記第2カム部が前記第1及び第2内歯歯車の軸心に対してそれぞれ偏心するとともに軸方向に並置された単一のクランク軸として構成され、前記第1内歯歯車が前記第1及び第2クランク軸の回転によって回転しない非回転部位に固定され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとは、前記第1ピンと前記第2ピンとが前記第1及び第2円孔の双方に遊挿される共通のピンにより構成されることで単一のキャリアとして構成され、前記第1及び第2クランク軸と前記第2内歯歯車との間で回転を減速又は増速して伝達することを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、第1クランク軸に回転が入力されると、第2歯車機構において、第2クランク軸が第1クランク軸と一体回転するとともに、第2内歯歯車が第1歯車機構で減速された第1内歯歯車と一体回転することにより、第2キャリアから高い減速比で減速された回転が出力される。一方、第2キャリアに回転が入力されると、同様にして第1クランク軸から高い増速比で増速された回転が出力される。そして、上記構成では、第1クランク軸と第2クランク軸とが単一のクランク軸として構成されるととともに、第1内歯歯車と第2内歯歯車とが単一の内歯歯車として構成されるため、部品点数を削減して構成の簡素化を図ることができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の歯車装置において、前記第1歯車機構は、前記第1外歯歯車を1つ備え、前記第2歯車機構は、前記第2外歯歯車を1つ備え、前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車とは、該第1外歯歯車の軸心と該第2外歯歯車の軸心とが前記第1及び第2内歯歯車の軸心を挟んで対向するように配置されたことを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、第1及び第2クランク軸と第1及び第2外歯歯車とを含む回転部分の重心が、上記第1及び第2内歯歯車の軸心に近づくようになる。そのため、歯車装置が第1外歯歯車及び第2外歯歯車をそれぞれ1つずつ備える構成であっても、第1及び第2クランク軸の回転に伴う振動の発生を抑制することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯車装置において、前記第1及び第2クランク軸と前記第1及び第2外歯歯車とを含む回転部分の重心を、前記第1及び第2内歯歯車の軸心に一致させる重心調整手段を備えたことを要旨とする。
【0013】
すなわち、大きな減速比又は増速比を得るためには、第1外歯の数と第2外歯の数が異なる必要がある。そのため、例えば請求項3のように第1外歯歯車の軸心と第2外歯歯車の軸心とが第1及び第2内歯歯車の軸心を挟んで対向するように、第1外歯歯車と第2外歯歯車とを配置しても、第1及び第2クランク軸と第1及び第2外歯歯車とを含む回転部分の重心は、上記第1及び第2内歯歯車の軸心に一致しない。この点、上記構成によれば、重心調整手段によって上記重心が第1及び第2内歯歯車の軸心に一致するようになるため、第1及び第2クランク軸の回転に伴う振動の発生をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡素な構成で大きな減速比又は増速比を得ることのできる歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の駆動装置の断面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】図1のB−B断面図。
【図4】第1実施形態の減速機を示す模式図。
【図5】第2実施形態の減速機近傍を示す拡大断面図。
【図6】第2実施形態の減速機を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明の歯車装置を減速機に具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す駆動装置1は、例えば風車のナセル(図示略)を風向きに応じて旋回させるために用いられるものである。同図に示すように、駆動装置1は、駆動源となるモータ2と、モータ2の回転を減速して出力する減速機3とを備えている。減速機3の入力軸5には、モータ2の回転軸(図示略)が連結され、減速機3の出力軸6には、ナセルを旋回させるための従動歯車(図示略)に噛合する駆動歯車7が設けられている。そして、モータ2の回転が減速機3で減速されて駆動歯車7に伝達され、上記従動歯車が回転することにより、ナセルが旋回するようになっている。
【0017】
詳述すると、減速機3は、有底円筒状の第1ハウジング11と、第1ハウジング11の開口部に固定される円筒状の第2ハウジング12とを備えている。なお、第1及び第2ハウジング11,12は、図示しない風車のタワーに固定されている。
【0018】
第1ハウジング11の底部11aには、その軸方向に貫通した挿通孔13が中央に形成されている。そして、挿通孔13には、入力軸5の基端部(図1における上端部)が第1ハウジング11の外部に突出した状態で挿通されており、入力軸5はボール軸受14を介して第1ハウジング11に対して回転可能に支持されている。なお、入力軸5の基端部は、その軸心が入力軸5の回転中心L0(モータ2の回転中心)に一致する円柱状に形成されている。また、挿通孔13は、入力軸5の回転中心L0と第1ハウジング11の軸心とが一致するように形成されている。
【0019】
そして、第1ハウジング11の筒部11bの内周面には、複数(本実施形態では、41個)の第1内歯15が形成されている。つまり、本実施形態では、筒部11bが第1内歯歯車に相当し、第1内歯歯車の軸心は、入力軸5の回転中心L0に一致している。また、上記のように第1ハウジング11が風車のタワーに固定されているため、第1内歯歯車(第1内歯15)は入力軸5の回転によって回転しない非回転部位に固定されている。
【0020】
第2ハウジング12は、第1ハウジング11と同軸上に配置されるように、同第1ハウジング11の開口部に固定されている。そして、出力軸6は、駆動歯車7が固定される先端部(図1における下端部)が第2ハウジング12の開口部から外部に突出するとともに、入力軸5と同軸上に配置された状態で、第2ハウジング12の内周面に設けられた円錐コロ軸受16により回転可能に支持されている。また、出力軸6の基端部(図1における上端部)には、他の部分よりも大きな外径を有する円筒状の筒状部17が形成されている。そして、筒状部17の内周面には、複数(本実施形態では、40個)の第2内歯18が形成されている。つまり、本実施形態では、出力軸6の筒状部17が第2内歯歯車に相当し、第2内歯歯車の軸心は、入力軸5の回転中心L0に一致している。
【0021】
図1〜図3に示すように、入力軸5における第1ハウジング11内に配置される部分には、その基端部よりも大径の略円柱状に形成された第1カム部21及び第2カム部22が一体に形成されている。第1カム部21は、入力軸5における第1内歯15と対向する位置に形成され、第2カム部22は、入力軸5における第2内歯18と対向する位置に形成されている。つまり、第1カム部21と第2カム部22とは、入力軸5の軸方向に並置されている。また、第1カム部21と第2カム部22とは、同一の外径及び軸長を有しており、互いに同一形状に形成されている。そして、第1カム部21及び第2カム部22は、その軸心L1,L2が入力軸5の回転中心L0に対して所定量偏心するようにそれぞれ形成されている。なお、入力軸5における第1カム部21が形成された部分が第1クランク軸として構成され、入力軸5における第2カム部22が形成された部分が第2クランク軸として構成されている。
【0022】
さらに、本実施形態では、第1カム部21と第2カム部22とは、入力軸5の回転中心L0と直交する直線上において、第1カム部21の軸心L1と第2カム部22の軸心L2とが回転中心L0を挟んで対向するように配置されている。つまり、第1及び第2カム部21,22は、入力軸5の回転中心L0まわりにおいて180°ずれた位置に、それぞれの軸心L1,L2を有している。
【0023】
図1に示すように、減速機3は、入力軸5の第1カム部21にニードル軸受24を介して回転可能に支持される1つの第1外歯歯車25と、第2カム部22にニードル軸受26を介して回転可能に支持される1つの第2外歯歯車27と備えている。第1及び第2外歯歯車25,27は、円板状に形成されるとともに、その軸心L3,L4がそれぞれ第1及び第2カム部21,22の軸心L1,L2に一致するように設けられている。つまり、第1外歯歯車25と第2外歯歯車27とは、第1外歯歯車25の軸心L3と第2外歯歯車27の軸心L4とが入力軸5の回転中心L0を挟んで対向するように配置されている。
【0024】
また、第1及び第2外歯歯車25,27の外周面には、複数の第1外歯28及び第2外歯29がそれぞれ形成されている。そして、第1及び第2外歯歯車25,27は、入力軸5の回転により、入力軸5の回転中心L0、すなわち第1内歯15が形成された第1ハウジング11の軸心に対して偏心した状態で回転するようになっている。本実施形態では、入力軸5は、第1カム部21及び第2カム部22が回転中心L0に対してそれぞれ偏心するとともに軸方向に並置され、第1クランク軸と第2クランク軸とが単一化されたクランク軸として機能する。
【0025】
図1及び図2に示すように、第1外歯歯車25に設けられた第1外歯28の数は、第1内歯15よりも少なく設定されており(本実施形態では、40個)、第1外歯歯車25は、その一部のみが第1内歯15に内接した状態で噛合している。また、第1外歯歯車25には、その厚み方向(図1における上下方向)に貫通した複数の第1円孔31が形成されている。なお、本実施形態では、各第1円孔31は、第1外歯歯車25の軸心L3まわりに等角度間隔で形成されている。一方、図1及び図3に示すように、第2外歯歯車27に設けられた第2外歯29の数は、第2内歯18よりも少なく設定されており(本実施形態では、39個)、第2外歯歯車27は、その一部のみが第2内歯18に内接した状態で噛合している。また、第2外歯歯車27には、その厚み方向(図1における上下方向)に貫通した複数の第2円孔32が形成されている。なお、本実施形態では、各第2円孔32は、第2外歯歯車27の軸心L4まわりに等角度間隔で形成されている。
【0026】
また、第2外歯29の数が第1外歯28の数よりも少ない第2外歯歯車27の厚みT2は、第1外歯歯車25の厚みT1よりも厚く形成されている。これにより、入力軸5と、ニードル軸受24,26と、第1及び第2外歯歯車25,27とからなる回転部分の重心が、入力軸5の回転中心L0に一致するようになっている。すなわち、本実施形態では、第2外歯歯車27が重心調整手段として機能する。
【0027】
図1〜図3に示すように、減速機3は、各第1及び第2円孔31,32の双方に遊挿される複数のピン33と、各ピン33の両端に固定される一対の固定板34とからなるキャリア35を備えている。各ピン33は、各第1及び第2円孔31,32の内径よりも小さな外径を有しており、ピン33の外周には、滑り軸受36が装着されている。また、各固定板34は、円板状に形成されるとともに、その中央には厚み方向に貫通した貫通孔37が形成されている。そして、貫通孔37には、ボール軸受38を介して入力軸5の基端部及び先端部が回転可能に支持されている。本実施形態では、ピン33が第1円孔31に遊挿される第1ピンと第2円孔32に遊挿される第2ピンとを共通化した部材として構成され、ピン33及び固定板34により第1及び第2キャリアが構成されている。そして、キャリア35は、第1及び第2キャリアが単一化されたキャリアとして機能する。
【0028】
したがって、本実施形態では、図4に示すように、第1内歯15を有する第1ハウジング11、第1外歯歯車25、入力軸5、及びキャリア35により第1歯車機構41が構成されており、第2内歯18を有する出力軸6、第2外歯歯車27、入力軸5、及びキャリア35により第2歯車機構42が構成されている。
【0029】
このように構成された駆動装置1では、モータ2によって入力軸5が回転すると、第1カム部21に回転可能に支持された第1外歯歯車25は、入力軸5の回転中心L0に対して偏心回転する。ここで、第1内歯15が形成された第1ハウジング11は回転しないため、第1外歯歯車25は、第1内歯15と第1外歯28との歯数差に応じて僅かに自転しつつ、その第1円孔31に遊挿されたピン33の摺接位置が、入力軸5の回転に合わせて第1円孔31の内周を周回する態様で揺動する。そして、この揺動成分は、ピン33及び第1円孔31の隙間によって吸収され、自転成分のみがピン33(キャリア35)へ伝達される。
【0030】
なお、入力軸5に対するピン33(キャリア35)の減速比n1は、下記(1)式によって表される。
n1=−z1/(z2−z1)・・・(1)
なお、「z1」は第1外歯28の歯数、「z2」は第1内歯15の歯数を示し、マイナスの符号は、ピン33(キャリア35)が入力軸5と反対方向に回転することを示す。
【0031】
そして、第2歯車機構42では、入力軸5の回転によりその回転中心L0に対して偏心回転する第2外歯歯車27、及び第1外歯歯車25の自転成分に応じて回転するピン33(キャリア35)が入力要素となり、第2内歯18が形成された出力軸6に筒状部17が出力要素となる。これにより、入力軸5の回転が下記(2)式で表される減速比Nで減速されて出力軸6に伝達される。
【0032】
N=z1×z4/(z1×z4−z2×z3)・・・(2)
なお、「z3」は第2外歯29の歯数、「z4」は第2内歯18の歯数を示す。そして、本実施形態のように第1外歯28の数z1を「40」、第1内歯15の数z2を「41」、第2外歯29の数z3を「39」、第2内歯18の数z4を「40」に設定した場合には、減速比Nは「1600」となる。
【0033】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)第1外歯歯車25を偏心回転させる第1カム部21と、第2外歯歯車27を偏心回転させる第2カム部22とを入力軸5と一体に形成し、第1及び第2外歯歯車25,27の第1及び第2円孔31,32に共通のピン33を遊挿したので、減速機3の部品点数を削減することができる。特に、本実施形態では、第1及び第2円孔31,32に共通のピン33が遊挿されるため、第1及び第2円孔31,32に別々のピンが遊挿される場合に比べ、滑り軸受36の数も削減することができる。これにより、簡素な構成の減速機3により大きな減速比を得ることができる。
【0034】
(2)減速機3は、1つの第1外歯歯車25と、1つの第2外歯歯車27とを備え、第1外歯歯車25と第2外歯歯車27とは、第1外歯歯車25の軸心L3と第2外歯歯車27の軸心L4とが入力軸5の回転中心L0を挟んで対向するように配置した。そのため、入力軸5と、第1及び第2外歯歯車25,27と、ニードル軸受24,26とからなる回転部分の重心が回転中心L0に近づくようになる。これにより、第1外歯歯車25及び第2外歯歯車27がそれぞれ1つずつであっても、入力軸5の回転に伴う振動の発生を抑制することができる。
【0035】
(3)入力軸5と、第1及び第2外歯歯車25,27と、ニードル軸受24,26とからなる回転部分の重心が回転中心L0に一致するように、第2外歯歯車27の厚みを第1外歯歯車25の厚みよりも厚く形成した。
【0036】
ここで、大きな減速比又は増速比を得るためには、第1外歯28の数と第2外歯29の数が異なっている必要がある。そのため、本実施形態のように、軸心L3と軸心L4とが入力軸5の回転中心L0を挟んで対向するように、第1外歯歯車25と第2外歯歯車27とを配置するだけでは、入力軸5と第1及び第2外歯歯車25,27とを含む回転部分の重心は、入力軸5の回転中心L0(第1及び第2内歯歯車の軸心)に完全には一致しない。この点、上記構成によれば、上記重心が入力軸5の回転中心L0と一致するようになるため、入力軸5の回転に伴う振動の発生をより一層抑制することができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、減速機の構成のみである。このため、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図5に示すように、本実施形態の減速機3は、第1ハウジング11の内周面にボール軸受51を介して回転可能に支持される内歯歯車52を備えている。内歯歯車52の内周面における第1外歯歯車25と対向する位置には、第1外歯28と噛合する複数(本実施形態では、41個)の第1内歯53が一体に形成されるとともに、第2外歯歯車27と対向する位置には、第2外歯29と噛合する複数(本実施形態では、40個)の第2内歯54が一体に形成されている。つまり、第1内歯53と第2内歯54とは、内歯歯車52の軸方向に並置されている。本実施形態では、内歯歯車52における第1内歯53が形成された部分が第1内歯歯車として構成され、内歯歯車52における第2内歯54が形成された部分が第2内歯歯車として構成されている。そして、内歯歯車52は、第1内歯53及び第2内歯54が軸方向並置された単一の内歯歯車として機能する。
【0039】
また、減速機3は、第1外歯歯車25の第1円孔31に遊挿される複数の第1ピン55と、第2外歯歯車27の第2円孔32に遊挿される複数の第2ピン56とを備えている。第1ハウジング11の底部11aには、各第1ピン55の一端(図5における上端)が固定される円板状の固定部57が形成されている。また、固定部57の中央には、入力軸5が挿通される上記挿通孔13が形成されている。そして、各第1ピン55は、各第1円孔31の内径よりも小さな外径を有しており、第1ピン55の外周には、滑り軸受59が装着されている。なお、本実施形態では、第1ピン55及び固定部57により第1キャリアが構成されており、同第1キャリアは非回転部位である第1ハウジング11に固定されている。
【0040】
また、出力軸6の先端には、各第2ピン56の一端(図5における下端)が固定される円板状の固定部61が形成されている。また、固定部61の中央には、支持穴62が形成されており、支持穴62にはボール軸受63を介して入力軸5の先端部が回転可能に支持されている。そして、各第2ピン56は、各第2円孔32の内径よりも小さな外径を有しており、第2ピン56の外周には、滑り軸受64が装着されている。なお、本実施形態では、第2ピン56及び固定部61により第2キャリアが構成されており、同第2キャリアは出力軸6に固定されている。
【0041】
したがって、本実施形態では、図6に示すように、内歯歯車52、第1外歯歯車25、入力軸5、第1ピン55及び固定部57により第1歯車機構41が構成されており、内歯歯車52、第2外歯歯車27、入力軸5、第2ピン56及び固定部61により第2歯車機構42が構成されている。
【0042】
このように構成された駆動装置1では、モータ2によって入力軸5が回転すると、第1カム部21に回転可能に支持された第1外歯歯車25は、入力軸5の回転中心L0に対して偏心回転する。ここで、第1外歯歯車25の自転は、その第1円孔31に遊挿された第1ピン55により制限されているため、第1外歯歯車25は、第1円孔31に遊挿された第1ピン55の摺接位置が入力軸5の回転に合わせて第1円孔31の内周を周回する態様で揺動する。その結果、第1ハウジング11に回転可能に支持された内歯歯車52は、第1外歯28と第1内歯53との歯数差に応じて、第1外歯歯車25に対して自転する。なお、第1外歯歯車25の揺動成分は、第1ピン55及び第1円孔31の隙間によって吸収される。
【0043】
そして、第2歯車機構42では、入力軸5の回転によりその回転中心L0に対して偏心回転する第2外歯歯車27、及び第1外歯歯車25の自転成分に応じて回転する内歯歯車52が入力要素となり、第2ピン56が出力要素となる。これにより、入力軸5の回転が上記(2)式で表される減速比Nで減速されて出力軸6に伝達される。
【0044】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(2),(3)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(4)第1外歯歯車25を偏心回転させる第1カム部21と、第2外歯歯車27を偏心回転させる第2カム部22とを入力軸5と一体に形成し、第1内歯53と第2内歯54とを内歯歯車52と一体に形成したので、減速機3の部品点数を削減することができる。これにより、簡素な構成の減速機3により大きな減速比を得ることができる。
【0045】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記各実施形態では、第2外歯歯車27の厚みを調整することにより、入力軸5と、ニードル軸受24,26と、第1及び第2外歯歯車25,27とからなる回転部分の重心が入力軸5の回転中心L0に一致するようにした。しかし、これに限らず、例えば第1外歯歯車25にその一部を除肉した肉抜き部を形成したり、第2外歯歯車27に錘を設けたりすることで、上記回転部分の重心を入力軸5の回転中心L0に一致させてもよい。また、上記回転部分の重心を入力軸5の回転中心L0に一致しなくてもよい。
【0046】
・上記各実施形態では、減速機3は、1つの第1外歯歯車25と、1つの第2外歯歯車27とそれぞれ備え、第1外歯歯車25の軸心L3と第2外歯歯車27の軸心L4とが入力軸5の回転中心L0を挟んで対向するように配置した。しかし、これに限らず、減速機3が第1外歯歯車25及び第2外歯歯車27をそれぞれ複数備えるようにしてもよい。また、第1外歯歯車25の軸心L3と第2外歯歯車27の軸心L4とが入力軸5の回転中心L0に対して同じ側に配置されるようにしてもよい。
【0047】
・上記各実施形態では、本発明を風車のナセルを旋回させる駆動装置1の減速機3に具体化したが、これに限らず、例えば産業用ロボットのアームを回転させる駆動装置の減速機等に具体化してもよい。また、本発明の歯車装置を増速機に具体化してもよい。
【0048】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)モータの回転を請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯車装置により減速して出する駆動装置。
【符号の説明】
【0049】
1…駆動装置、2…モータ、3…減速機、5…入力軸、6…出力軸、11…第1ハウジング、12…第2ハウジング、15,53…第1内歯、18,54…第2内歯、21…第1カム部、22…第2カム部、25…第1外歯歯車、27…第2外歯歯車、28…第1外歯、29…第2外歯、31…第1円孔、32…第2円孔、33…ピン、34…固定板、35…キャリア、41…第1歯車機構、42…第2歯車機構、52…内歯歯車、55…第1ピン、56…第2ピン、57,61…固定部、L0…回転中心、L1,L2,L3,L4…軸心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複数の第1内歯を有する第1内歯歯車と、前記第1内歯と噛合する複数の第1外歯を有する第1外歯歯車と、前記第1内歯歯車の軸心に対して前記第1外歯歯車を偏心回転させる第1カム部を有する第1クランク軸と、前記第1外歯歯車に形成された第1円孔に遊挿される第1ピンを有する第1キャリアと、を含む第1歯車機構と、
内周に複数の第2内歯を有する第2内歯歯車と、前記第2内歯と噛合する複数の第2外歯を有する第2外歯歯車と、前記第2内歯歯車の軸心に対して前記第2外歯歯車を偏心回転させる第2カム部を有する第2クランク軸と、前記第2外歯歯車に形成された第2円孔に遊挿される第2ピンを有する第2キャリアと、を含む第2歯車機構と、を備え、
前記第1クランク軸と前記第2クランク軸とは、前記第1カム部及び前記第2カム部が前記第1及び第2内歯歯車の軸心に対してそれぞれ偏心するとともに軸方向に並置された単一のクランク軸として構成され、
前記第1内歯歯車が前記第1及び第2クランク軸の回転によって回転しない非回転部位に固定され、
前記第1キャリアと前記第2キャリアとは、前記第1ピンと前記第2ピンとが前記第1及び第2円孔の双方に遊挿される共通のピンにより構成されることで単一のキャリアとして構成され、
前記第1及び第2クランク軸と前記第2内歯歯車との間で回転を減速又は増速して伝達することを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
内周に複数の第1内歯を有する第1内歯歯車と、前記第1内歯と噛合する複数の第1外歯を有する第1外歯歯車と、前記第1内歯歯車の軸心に対して前記第1外歯歯車を偏心回転させる第1カム部を有する第1クランク軸と、前記第1外歯歯車に形成された第1円孔に遊挿される第1ピンを有する第1キャリアと、を含む第1歯車機構と、
内周に複数の第2内歯を有する第2内歯歯車と、前記第2内歯と噛合する複数の第2外歯を有する第2外歯歯車と、前記第2内歯歯車の軸心に対して前記第2外歯歯車を偏心回転させる第2カム部を有する第2クランク軸と、前記第2外歯歯車に形成された第2円孔に遊挿される第2ピンを有する第2キャリアと、を含む第2歯車機構と、を備え、
前記第1クランク軸と前記第2クランク軸とは、前記第1カム部及び前記第2カム部が前記第1及び第2内歯歯車の軸心に対してそれぞれ偏心するとともに軸方向に並置された単一のクランク軸として構成され、
前記第1キャリアが前記第1及び第2クランク軸の回転によって回転しない非回転部位に固定され、
前記第1内歯歯車と前記第2内歯歯車とは、前記第1内歯及び前記第2内歯が軸方向に並置された単一の内歯歯車として構成され、
前記第1及び第2クランク軸と前記第2キャリアとの間で回転を減速又は増速して伝達することを特徴とする歯車装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯車装置において、
前記第1歯車機構は、前記第1外歯歯車を1つ備え、
前記第2歯車機構は、前記第2外歯歯車を1つ備え、
前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車とは、該第1外歯歯車の軸心と該第2外歯歯車の軸心とが前記第1及び第2内歯歯車の軸心を挟んで対向するように配置されたことを特徴とする歯車装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯車装置において、
前記第1及び第2クランク軸と前記第1及び第2外歯歯車とを含む回転部分の重心を、前記第1及び第2内歯歯車の軸心に一致させる重心調整手段を備えたことを特徴とする歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−61013(P2013−61013A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199722(P2011−199722)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】