説明

歯車連結装置及び歯車連結方法

【課題】歯車を噛み合わせる際の振動や騒音を低減できる歯車連結装置及び歯車連結方法を提供することにある。
【解決手段】歯車連結装置は、2つの歯車G1,G2の噛合いによって動力伝達を行い、かつ、少なくとも一方の歯車G1の軸方向D1の移動によって噛合いによる連結が解除される。回転センサS1,S2は、歯車G1,G2の回転を検知する。判定部10は、回転センサS1,S2の検知信号に基づいて、軸方向に移動する歯車G1の端面が、他の歯車G2の第1の歯の端面と、該第1の歯に隣接する第2の歯の端面の間に来ることを判定する。判定部10の判定結果に基づいて、駆動部20は歯車G1を軸方向に移動して、歯車の連結状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車によって動力伝達を行い、かつ、動力伝達の切り替えを行う歯車連結装置及び歯車連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの始動装置に用いる歯車装置として、歯車を連結する際の噛合わせのため、歯車の端面に面取りを設けるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、エンジンの始動装置は、エンジンを始動する時のみ歯車を連結させて動力を伝達し、始動動作が終了すると、連結を外している。この始動時以外に歯車の連結を外しておくことで、通常時には余計な機械摩擦が生じることがなくなり、システムの効率化が図れる。歯車の連結が外れるようにしたシステムでは、歯車を噛合わせる動作が必要となり、特許文献1記載のように、歯車の端面に面取りを設けることが有効となる。
【0003】
また、回転体の連結に関し、第1の係合部材の歯と第2の係合部材の歯との位相差に基づいて、第1の係合部材の回転状態を制御する位相調整手段を備えた制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。引用文献2に記載の技術は、車両の有段変速機の変速段を切り替える際に有効である。一般的に、車両の有段変速機においては、歯車による減速機構と、その歯車が動力伝達を行うか否かを切り替えるクラッチ機構を有し、それらの組合せによって、動力伝達経路が変更され、変速段の切り替えがなされる。クラッチ機構があることで、滑らかな切り替え動作が実現できるが、一方で、この方式の場合、歯車自体は動力伝達を行っていない時も噛合いを保つため、余分な機械摩擦が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−248710号公報
【特許文献2】特開2006−83919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯車の連結および解除によって、動力伝達の切り替えを行うシステムでは、歯車が減速装置と、切り替え装置の2つの機能を兼ねることで、部品点数を減らして、装置の小型化を図ることが可能となり、かつ、不要な時の機械摩擦をなくし、システムのエネルギー効率向上を図ることができる。
【0006】
しかし、連結が解除された状態から、連結した状態に移行するには、歯車を噛み合わせるための技術が必要となり、従来の技術では、歯車の端面どうしが接触する状態を経て、噛み合わざるを得なかった。そのため、歯車を噛み合わせる際に、端面の接触を経ると、その接触の際に振動および騒音が発生し、かつ、歯車の端面が摩耗する問題があった。
【0007】
また、歯車以外の回転体の歯(爪)を噛み合わせる場合であっても、端面どうしの接触なしで、噛み合わせるには、それぞれの歯の位相を合わせる位相調整手段が必要であった。
【0008】
本発明の目的は、歯車を噛み合わせる際の振動や騒音を低減できる歯車連結装置及び歯車連結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、2つの歯車の噛合いによって動力伝達を行い、かつ、少なくとも一方の歯車の軸方向の移動によって噛合いによる連結が解除される歯車連結装置であって、前記歯車の回転を検知する回転センサと、該回転センサの検知信号に基づいて、軸方向に移動する歯車の端面が、他の歯車の第1の歯の端面と、該第1の歯に隣接する第2の歯の端面の間に来ることを判定する判定部とを備え、該判定部の判定結果に基づいて、歯車の連結が解除された状態から、連結状態にするようにしたものである。
かかる構成により、歯車を噛み合わせる際の振動や騒音を低減できるものとなる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記判定部は、それぞれの歯車の歯の通過検知のずれ時間、それぞれの歯車の歯の通過が起きる時間間隔、および、歯車の軸方向の移動開始を判断してから歯車の端面どうしが同位置になるまでの時間を用いて演算を行い、その演算結果によって歯車の軸方向の移動の開始を判断するようにしたものである。
【0011】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記判定部は、それぞれの歯車の歯の通過検知のずれ時間をt3とし、それぞれの歯車の歯の通過が起きる時間間隔をそれぞれt1,t2とし、歯車の軸方向の移動開始を判断してから歯車の端面どうしが同位置になるまでの時間をTとし、t1<t2のとき、((t3/t2)+(T/t1)−(T/t2))の余りが所定の範囲内となるとき、歯車の軸方向の移動の開始を判断するようにしたものである。
【0012】
(4)上記(1)において、好ましくは、一方の歯車の周速度が、他方の歯車の周速度より速い状態で、歯車の連結動作を行うものであって、周速度が速い方の歯車は、歯の端面であって、回転方向の後ろ側に設けられた面取りを備え、周速度が遅い方の歯車は、歯の端面であって、回転方向の前側に設けられた面取りを備えるようにしたものである。
【0013】
(5)上記目的を達成するために、本発明は、2つの歯車の噛合いによって動力伝達を行い、かつ、少なくとも一方の歯車の軸方向の移動によって噛合いによる連結が解除される歯車連結方法であって、前記歯車の回転を検知する検知信号に基づいて、軸方向に移動する歯車の端面が、他の歯車の第1の歯の端面と、該第1の歯に隣接する第2の歯の端面の間に来ることを判定すると、歯車の連結が解除された状態から、連結状態にするようにしたものである。
かかる方法により、歯車を噛み合わせる際の振動や騒音を低減できるものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯車を噛み合わせる際の振動や騒音を低減できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いる回転センサの出力信号を示す波形図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いるギアG1の面取りC1の説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いるギアG2の面取りC2の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による歯車連結装置における歯車連結時の動作の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による歯車連結装置に用いる回転センサの出力信号を示す波形図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による歯車連結装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。
【0017】
本例では、ギアG1の回転による周速度が、ギアG2の回転による周速度より速い状態で、互いのギアG1,G2を連結させるシステムを一例として説明する。
【0018】
ギアG1,G2は、それぞれ図上に矢印R1,R2で示した方向に回転しておいる。回転の周速度は、ギアG1の方がギアG2より速いものである。なお、周速度とは、歯車のピッチ円上での速度のことであり、ピッチ円の円周×単位時間当たりの回転数で求められる。一般に、噛合って回転する歯車どうしは、周速度が同じになり、互いの回転数は歯数に逆比例する。ここでは、噛み合う前の状態を示しているために、互いの周速度が異なっている。
【0019】
回転センサS1は、ギアG1の回転を検知する。回転センサS1は、歯車の歯が近くに存在するか否かに応じて変化する信号を出力する。回転センサS2も同様な信号によって、ギアG2の回転を検知する。なお、本例を応用して利用する場合は、互いのギアの回転を検知するにあたって、歯車の歯を直接センシングするのではなく、連動して回転する箇所を利用して、間接的にセンシングする方法であってもよい。
【0020】
互いの歯車を連結する際は、ギアG1が、紙面の手前側に向かって軸方向に移動する。すなわち、連結する前は、ギアG1はギアG2より紙面の奥側に位置している。ギアG1の各歯には、面取りC1が施され、ギアG2の各歯には、面取りC2が施されている。ギアG1が、紙面の手前側に向かって軸方向に移動する場合には、ギアG1に設ける面取りC1は、紙面手前側の端面で、回転方向の後ろ側に施される。一方、ギアG2に設ける面取りC2は、紙面奥側の端面で、回転方向の前側に施される。
【0021】
ここで、図2を用いて、本実施形態による歯車連結装置に用いる回転センサの出力信号について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いる回転センサの出力信号を示す波形図である。
【0022】
回転センサS1,S2は、歯が回転センサS1,S2を横切った時にパルス状に信号を出力するようにしたものを用いる。この場合、図2(A),(B)に示すように、それぞれの回転センサS1,S2から時系列のパルス信号が得られる。すなわち、回転センサS1,S2からの信号は、1回のパルスが、1つの歯が回転センサの位置を横切ったことを示している。このため、パルスの時間間隔は、歯車の周速度に反比例した値になる。ここではパルスの時間間隔を求めるにあたり、パルスの立ち上がりの時点を利用しており、回転センサS1から得られるパルスの時間間隔がt1である。同様に、ギアG2の回転よって生じる回転センサS2の信号から得られるパルスの時間間隔がt2である。ギアG1,G2の回転速度が一定でない限り、パルスの時間間隔は一定にならないため、本実施形態による制御動作を行う際は、パルスの時間間隔の情報は、パルスの発生ごとに更新していく必要がある。また、ギアG1のパルスとギアG2のパルスの時刻のずれがt3であり、この情報も順次更新しながら制御動作を行う。
【0023】
センサS1,S2の出力信号は、図1に示す判定部10に取り込まれる。判定部10は後述するように、ギアG1を、紙面の手前側に向かって軸方向に移動開始するタイミングを判定する。移動開始のタイミングと判定すると、判定部10は、駆動部20に移動開始信号を出力する。駆動部20は、判定部10からの移動開始信号に基づいて、ギアG1を、紙面の手前側に向かって軸方向に移動する。駆動部20は、例えば、ソレノイドを備えている。ソレノイドに通電することで、ギアG1を、紙面の手前側に向かって軸方向に移動することができる。また、駆動部20には、モータ等の駆動力源を含む。ギアG1は、駆動力源により矢印R1方向に回転駆動されている。ギアG1とギアG2が噛み合った状態では、駆動力源の駆動力は、ギアG1を介して、ギアG2に伝達される。
【0024】
次に、図1に示した判定部10の判定動作について説明する。
【0025】
判定部10は、ギアG1の移動開始の判断を、以下の判定式(1)を用いて行う。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、t1は、図2に示したように、回転センサS1から得られるパルスの時間間隔である。t2は、図2に示したように、回転センサS2から得られるパルスの時間間隔である。また、t3は、ギアG1のパルスとギアG2のパルスの時刻のずれである。
【0028】
また、本例では、ギアG1の周速度がギアG2の周速度より速いことを前提としているため、パルスの時間間隔t1、t2の大小関係では、必ずt1<t2となっている。このため、数式中に引き算があっても、前提条件によって引き算の結果がマイナスになることはない。
【0029】
また、Tは、ギアG1の移動開始を判断してからギアG1が移動し、ギアG1の端面がギアG2の端面と同位置に来るまでの時間である。
【0030】
また、式(1)における「MOD」は割り算の余りを求める関数であり、MOD(x,y)は、xをyで割った際の余りを計算することを示している。本判定式では、yの部分を1としているため、余りは必ず0から1の間となる。
【0031】
また、α及びβは、閾値として事前に決めておく値であり、0から1までの間の値をとる。
【0032】
そして、判定部10は、t1、t2、t3の値が判定式を満たせば、移動開始信号を出力し、判定式を満たさなければギアG1を移動させることなく、条件が満足することを待つ。
【0033】
ここで、式(1)の意味するところについて説明する。
【0034】
式(1)の中で、パルスのずれ時間t3を、ギアG2のパルスの時間間隔t2で割る部分は、ギアG1の歯とギアG2の歯の位相差を、ギアG2の歯の間隔を基準にして便宜的に計算している。また、時間Tをt1とt2で割った値は、時間Tの経過によって、ギアG1とギアG2の位相が進行する量を予測的に計算している。このため、それぞれの位相の進行量の差をとることにより、ギアG1とギアG2の位相差が、時間Tの経過によって変化する量を予測的に計算することになる。
【0035】
変数Tは、定数として扱い、その値を決めるにあたっては、ギアG1の移動時間の他、ギアG1を移動させるためのアクチュエータが動作開始にかかる時間、および、制御系の遅れ時間を考慮して決める。
【0036】
閾値α,βは、回転センサS1,S2の取付け位置に応じて変化する値である。また、閾値α,βは、ギアG1を移動させる時間のバラツキや回転センサの計測誤差も考慮して決める。
【0037】
従って、式(1)の関数MODにより、現在の位相差に、時間経過による位相差の変化を加えることで、将来の位相差を予測することとなり、その位相差が閾値内にあることが、ギアG1の歯が、ギアG2の歯の間に来ることを意味する。なお、この点については、図5を用いて後述する。
【0038】
なお、動作時間のバラツキに対処するためには、図1の判定式を満足する他に、互いの歯車の周速度の差が一定の範囲内であることを、移動開始判定の条件に加えることも有効である。
【0039】
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態による歯車連結装置に用いるギアG1,G2の面取りC1,C2について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いるギアG1の面取りC1の説明図である。図4は、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置に用いるギアG2の面取りC2の説明図である。なお、図3及び図4において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0040】
最初に、図3を用いて、ギアG1に設ける面取りC1の位置を説明する。ギアG1は、軸位置に示した矢印の方向D1に移動することで、ギアの連結動作を行い、互いの回転方向は円弧の矢印R1,R2で示した方向となる。ギアG1の面取りC1は、移動方向D1の端面であって、回転方向の後ろ側に設ける。
【0041】
次に、図4を用いて、ギアG2に設ける面取りC2の位置を説明する。ギアG2の面取りC2は、ギアG1が移動してくる側の端面であって、回転方向R2の前側に設ける。互いのギアに面取りを施さない場合、一方の歯車の歯がもう一方の歯車の歯の間にくるための余裕はバックラッシ(=歯車の噛合せの遊び)分しかない。バックラッシを大きくすると噛込みは楽になるが、ギアが噛み合って動力伝達する際のガタが大きくなるため、騒音が増大することから、バックラッシは歯の大きさに対して小さな値しかとらない。
【0042】
このため、互いのギアに面取りがない場合は、ギアの端面どうしを衝突させずに噛み込ませることが出来る範囲が非常に狭い。互いのギアに面取りを設けることで、噛み込み可能な範囲を広げることができる。
【0043】
次に、図5を用いて、本実施形態による歯車連結装置における歯車連結時の動作について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態による歯車連結装置における歯車連結時の動作の説明図である。なお、図5において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0044】
図5では、歯車連結時の動作を示すため、両歯車のピッチ円による断面を用いて模式的に示している。ギアG1,ギアG2とも、歯の断面を、過去の位置および現在の位置で示している。過去の位置が破線で示されており、現在の位置が実線で示されている。
【0045】
ギアG2は、回転運動のみをしているため、紙面の下に向かって矢印R2方向に歯が移動しており、歯の端面は同一平面上にあり続ける。ギアG1の歯は、回転運動による、紙面の下側に向かっての矢印R1方向の移動と、軸方向の移動による紙面の右方向(矢印D1方向)への動きを行っている。
【0046】
現在の時点(実線で示す状態)では、ギアG1の軸方向の移動によって、ギアG1の端面が、ギアG2の端面と同位置になった時点であり、この先、さらに軸方向の移動が進み、歯車が噛み合った状態に至る。
【0047】
ここで、両ギアの端面どうしが同一面に位置した時点(実線で示す状態)で、ギアG1とギアG2の歯が接触していないことが、ギアが噛み込んでいける条件であり、このことを予測するのが判定式(1)である。
【0048】
歯車に面取りを施していない時は、ギアが噛込む条件として、ギアG1の歯の噛合い面が、ギアG2の隣接する2つの歯の噛合い面の間に来ることが必要となる。図5の現在の時点(実線で示す状態)では、そのような位置関係になっていないが、両方のギアに面取りが施されていることで、互いの歯の端面どうしが接触することが防がれている。また、この後の進行として、軸方向の移動が進むと面取り部が、衝突する可能性があるが、斜面になっていることで、衝突の反力は回転方向に分散され、端面の正面衝突より衝撃が小さくて済む。また、面取り部は、ギアG1の回転方向に対して後ろ側であるため、ギアG1の周速度の方がギアG2の周速度より速い条件のもとでは、衝突が起きる前に、相対的な位相がずれ、衝突自体が起きない可能性が高まる。よって、図5の現時点を通過後に起きることとしては、ギアG1の方が周速度が速いことで、ギアG1の噛合い面が、ギアG2の噛合い面に衝突する可能性が高いが、このことは軸方向の反力を生まないため、ギアの噛込み動作が妨げられることはない。よって、移動開始のタイミングを判定式(1)で判断することで、円滑な噛み込み動作が実現できる。
【0049】
前述したように、歯車に面取りを施していない時は、ギアが噛込む条件として、ギアG1の歯の噛合い面Eg1が、ギアG2の隣接する2つの歯の噛合い面Eg2の間に来ることである。それに対して、歯車に面取りを施されている時は、A)ギアG1の面取りC1とギアG1の端面との境界位置P11が、ギアG2の第1の歯の面取りC2とギアG2の端面との境界位置P21に対して、ギアG1の回転方向R1の先側に位置する場合と、B)ギアG1の端面の回転方向R1の先側の端部の位置P12が、ギアG2の第2の歯の端面の回転方向R2の手前側の端部の位置P22に対して、ギアG1の回転方向R1の手前に位置する場合の条件を満たす時に、ギアが噛込むことになる。ここで、ギアG1の面取りC1とギアG1の端面との境界位置P11と、ギアG2の第1の歯の面取りC2とギアG2の端面との境界位置P21とが一致する場合が、式(1)における閾値αである。また、ギアG1の端面の回転方向R1の先側の端部の位置P12と、ギアG2の第2の歯の端面の回転方向R2の手前側の端部の位置P22とが一致する場合が、式(1)における閾値βである。判定式(1)における噛み合い条件は、α<MOD(x、y)であり、これが、上記の条件(A)である。また、判定式(1)における噛み合い条件は、MOD(x、y)<βであり、これが、上記の条件(B)である。
【0050】
また、別の見方をすると、歯車に面取りを施してある時は、ギアが噛込む条件は、ギアG1の端面E1が、ギアG2の第1の歯の端面E21と、第1の歯に隣接する第2の歯の端面E22との間に来ることである。この条件は、歯車に面取りを施していない時のギアが噛込む条件としても用いることができる。
【0051】
以上説明したように、一般的に、連結が解除されている歯車を軸方向に移動させて連結する場合、互いの歯車の端面どうしの衝突と、端面どうしが摩擦する過程を経て、噛合った状態にすることになるが、本実施形態によれば、歯車の端面どうしの衝突を回避し、それに伴い、端面どうしの摩擦も回避して、噛合い状態に移行することが可能となる。これにより、連結の際の振動および騒音が低減され、かつ、歯車の摩耗も低減される。
【0052】
次に、図6及び図7を用いて、本発明の第2の実施形態による歯車連結装置の構成及び動作について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。図7は、本発明の第2の実施形態による歯車連結装置に用いる回転センサの出力信号を示す波形図である。なお、図1及び図2と同一符号は同一部分を示している。
【0053】
本例では、ギアG2’の周速度の方が、ギアG1’の周速度より速い状態でギアを連結させるシステムを一例として説明する。
【0054】
図1及び図2にて説明したものと異なる点は、周速度の大小関係が違うことで、その結果、面取りの位置が異なり、判定式が異なることである。ギアG1’の面取りC1’は、周速度が相対的に遅いことで、回転方向R1の前側に設ける。一方、ギアG2’の面取りC2’は、周速度が相対的に速いことで、回転方向R2の後ろ側に設ける。
【0055】
また、回転センサS1,S2からは、図7(A),(B)に示すような時系列のパルス信号が得られる。
【0056】
次に、判定部10’の判定動作について説明する。
【0057】
判定部10’は、ギアG1の移動開始の判断を、以下の判定式(2)を用いて行う。
【0058】
【数2】

【0059】
ここで、判定式(2)の中身において、ギアG1とギアG2のパルスの時間ずれt3をギアG1の時間間隔t1で割ることによって現時点の位相差を計算している点が、式(1)と異なっている。また、時間Tの経過によって、位相差が変化する量を求めるにあたっては、ギアG2の位相の変化量からギアG1の位相の変化量を引く点が、式(1)と異なっている。このように判定式が変わるため、閾値もα’,β’として、系にあった値を設定する。
【0060】
本実施形態によっても、歯車の端面どうしの衝突を回避し、それに伴い、端面どうしの摩擦も回避して、噛合い状態に移行することが可能となる。これにより、連結の際の振動および騒音が低減され、かつ、歯車の摩耗も低減される。
【0061】
次に、図8を用いて、本発明の第3の実施形態による歯車連結装置の構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の第3の実施形態による歯車連結装置の全体構成を示す構成図である。なお、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0062】
本例では、ギアG1”とギアG2”の周速度の大小関係が、どちらの状態ででもギアを連結させるシステムを一例として説明する。
【0063】
図1及び図2にて説明したものと異なる点は、周速度の大小関係がどちらにでも対応するために、1つの歯車の両方に面取りC1,C1’,C2,C2’を設けていることと、状態に応じて判定式を使い分けることである。歯車に施す面取りC1,C1’,C2,C2’は、ギアG1”とギアG2”の両方とも、同一端面の回転方向の前側と後ろ側の両方に設ける。
【0064】
また、回転センサS1,S2からは、図2や図7に示すような時系列のパルス信号が得られる。
【0065】
次に、判定部10”の判定動作について説明する。
【0066】
判定部10”は、ギアG1”の移動開始の判断を、以下の判定式(3)を用いて行う。
【0067】
【数3】

【0068】
また、判定式(3)は、ギアG1”の周速度の方が速い場合、すなわちt1<t2の場合、上段の式を用い、ギアG2”の周速度の方が速い場合は、t1>t2であり、下段の式を用いる。
【0069】
本実施形態によっても、歯車の端面どうしの衝突を回避し、それに伴い、端面どうしの摩擦も回避して、噛合い状態に移行することが可能となる。これにより、連結の際の振動および騒音が低減され、かつ、歯車の摩耗も低減される。
【0070】
次に、第1〜第3の実施形態の使い分けについて説明する。使い分けは、周速度の大小関係が決まっている場合は、それにあった構成を選択すればよく、任意に選択できる場合は、以下のように選択する。
【0071】
歯数が少ない方のギアG1が駆動側になる場合、すなわち歯車を介して、回転数を減速させるシステムでは、図1〜図5にて説明した第1の実施形態の構成が適する。なぜなら、歯数が少ない方のギアG1から、動力が伝達される場合、その動力は、ギアG1の噛合い面のうち、回転方向の前側の面が接触して、動力が伝達されるため、前側の噛合い面に高い接触荷重が生じる。この際、その面に、面取りがない方が、単位面積当たりの荷重が大きくならなくて済むことから、図1〜図5にて説明した第1の実施形態の面取りの構成が適する。
【0072】
このような例としては、自動MTに用いる同期噛み合い機構がある。従来の受動変速機の変速動作を自動化した自動変速機では、変速段を切り替えて、動力の伝達経路を変えるために、同期噛み合い機構を用いている。同期噛み合い機構の中には、回転体の歯(爪)が備えられ、これを噛み合わせている。このような機構に対して、第1の実施形態を適用することができる。
【0073】
同様の理由で、歯数が多い方のギアG2が駆動側になる場合は、図6〜図7にて説明した第2の実施形態の構成が適する。
【0074】
一方、歯数が少ない方のギアG1が駆動側であっても、ギアG1の側からギアG2の方にしか動力伝達を行わないようにするためのワンウェイクラッチが設けられている場合は、図6〜図7にて説明した第2の実施形態の構成が適する。なぜなら、周速度が異なる状態でギアを連結させると、連結に伴って、噛合い面の衝突が発生するが、ギアG2の周速度の方が速い状態で噛合い面の衝突が起きることとは、ギアG2の回転エネルギーをギアG1に受け渡す作用が発生する。そこにギアG1からギアG2への動力伝達しかさせないためのワンウェイクラッチがあると、交換された回転エネルギーの伝達が遮断され、その先に動力伝達がされなくて済む。その場合、運動エネルギーを交換する対象の質量が小さくて済むことから、発生する反力が小さくなる。このため、ギアの連結に伴う衝撃が小さくて済むことから、ギアG1が駆動側であっても、ワンウェイクラッチを備えるシステムでは、図6〜図7にて説明した第2の実施形態の構成を選択することが適する。
【0075】
このような例としては、プリメッシュ方式のアイドルストップシステムのエンジン始動装置がある。エンジンの始動にはスタータが用いられる。スタータの駆動力は、スタータ側のピニオンギアから、エンジンのクランクシャフトに連結されたリングギアに伝達され、エンジンを回転させる。通常のエンジン始動時は、エンジンが停止しており、リングギアの回転速度は0であるため、上述の各実施形態の条件にはあっていない。しかしながら、近年、アイドルストップの条件が整うと、エンジンを停止し、エンジンの再始動条件が整うとエンジンを再始動するアイドルストップシステムが適用されつつある。ここで、エンジンの再始動を早くするために、アイドルストップ時にエンジンの回転数が低下し、しかし、エンジンの回転数が0になるまえに、予め、スタータのピニオンをエンジンのリングギアに噛み合わせておくプリメッシュ方式が検討されている。プリメッシュの際は、エンジンの回転数がスタータの回転数よりも高い状態、すなわち、リングギアの回転速度がピニオンの回転速度よりも速い状態が好ましいため、第2の実施形態の条件が満たされる。そこで、プリメッシュ方式のアイドルストップシステムのエンジン始動装置では、図6に示したギアG1’がスタータのピニオンに相当し、ギアG2’がエンジンのリングギアに相当する。そして、第2の実施形態の構成を選択することができる。
【0076】
同様の理由で、歯数が多い方のギアG2が駆動側であって、かつ、ワンウェイクラッチを備えるシステムでは、第1の実施形態の構成を選択することが適する。
【0077】
また、ハイブリット車両では、第3の実施形態の構成を選択することができる。ハイブリット車両では、エンジンの駆動力とモータの駆動力を切り替えて車輪に伝達するようにしている。一般には駆動力源の切替には、クラッチ機構が用いられている。それに対して、クラッチ機構の代わりに、第1のギアと第2のギアを噛み合わせたり解放したりして、動力の伝達を行ったり切り離したりする構成を用いる場合には、第3の実施形態の構成を選択することができる。これにより、従来は歯車を常時噛み合わせていたのに対して、歯車の常時噛み合わせが不要となり、機械摩擦が低減され、ハイブリットシステムのエネルギー効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0078】
10…判定部
20…駆動部
G1,G2…ギア
S1,S2…回転センサ
C1,C2…面取り
E1,E21,E22…端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの歯車の噛合いによって動力伝達を行い、かつ、少なくとも一方の歯車の軸方向の移動によって噛合いによる連結が解除される歯車連結装置であって、
前記歯車の回転を検知する回転センサと、
該回転センサの検知信号に基づいて、軸方向に移動する歯車の端面が、他の歯車の第1の歯の端面と、該第1の歯に隣接する第2の歯の端面の間に来ることを判定する判定部とを備え、
該判定部の判定結果に基づいて、歯車の連結が解除された状態から、連結状態にすることを特徴とする歯車連結装置。
【請求項2】
請求項1記載の歯車連結装置において、
前記判定部は、それぞれの歯車の歯の通過検知のずれ時間、それぞれの歯車の歯の通過が起きる時間間隔、および、歯車の軸方向の移動開始を判断してから歯車の端面どうしが同位置になるまでの時間を用いて演算を行い、その演算結果によって歯車の軸方向の移動の開始を判断することを特徴とする歯車連結装置。
【請求項3】
請求項2記載の歯車連結装置において、
前記判定部は、それぞれの歯車の歯の通過検知のずれ時間をt3とし、それぞれの歯車の歯の通過が起きる時間間隔をそれぞれt1,t2とし、歯車の軸方向の移動開始を判断してから歯車の端面どうしが同位置になるまでの時間をTとし、t1<t2のとき、((t3/t2)+(T/t1)−(T/t2))の余りが所定の範囲内となるとき、歯車の軸方向の移動の開始を判断することを特徴とする歯車連結装置。
【請求項4】
請求項1記載の歯車連結装置において、
一方の歯車の周速度が、他方の歯車の周速度より速い状態で、歯車の連結動作を行うものであって、
周速度が速い方の歯車は、歯の端面であって、回転方向の後ろ側に設けられた面取りを備え、
周速度が遅い方の歯車は、歯の端面であって、回転方向の前側に設けられた面取りを備えることを特徴とする歯車連結装置。
【請求項5】
2つの歯車の噛合いによって動力伝達を行い、かつ、少なくとも一方の歯車の軸方向の移動によって噛合いによる連結が解除される歯車連結方法であって、
前記歯車の回転を検知する検知信号に基づいて、軸方向に移動する歯車の端面が、他の歯車の第1の歯の端面と、該第1の歯に隣接する第2の歯の端面の間に来ることを判定すると、歯車の連結が解除された状態から、連結状態にすることを特徴とする歯車連結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172699(P2012−172699A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32392(P2011−32392)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】