説明

残響フィルタ、アクティブソーナー装置、残響除去方法及び残響除去プログラム

【課題】 反射波から残響を高精度に除去できる残響フィルタ等を提供する。
【解決手段】 残響フィルタ10は、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたか否かを検出する反射波検出手段101と、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたことを反射波検出手段101が検出した場合に、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続ける継続時間Tを計測する継続時間計測手段102と、継続時間計測手段102で計測された継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたか否かを検出し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えた反射波を残響であると判定し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えない反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段103と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射波に含まれる残響を除去する残響フィルタ、残響除去方法、残響除去プログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブソーナー装置とは、送波器より水中目標物に対して音波を放射し、目標物からの反射音(エコー)が受波器に到達するまでの時間、到来方位及びドップラ周波数を測定することにより、目標物の位置及び速力を算出する装置である。アクティブソーナー装置に用いられる送信信号の形態として、主にCW(Continuous Wave)とLFM(Linear Frequency Modulated pulse)とがある。CWは、ドップラ分解能に優れ、フーリエ変換により、容易に周波数を取り出すことができるが、残響に弱いという特徴を持つ。LFMとレプリカ相関処理とによる方式では、単位周波数当たりのパワーが小さいため、耐残響性に優れるが、CWに比べてドップラ分解能に劣るという特徴を持つ。
【0003】
図8は、特許文献1に記載のアクティブソーナー装置を示すブロック図である。図9は、レプリカ相関によるエコー信号検出の原理を示すグラフである。以下、これらの図面に基づき説明する。
【0004】
この種のアクティブソーナー装置1aは、送信信号を生成して出力する送信信号生成部2と、送信信号増幅部3で増幅された送信信号を音波にして送波する送波部4と、目標で反射した目標エコー及びその他の雑音を含む音波を受信信号として出力する受波部5と、受信信号増幅部6、帯域濾波部7、A/D変換部8により増幅、濾波及びA/D変換された受信信号を処理する信号処理部12とを備えている。また、アクティブソーナー装置1aは、受信信号からエコー信号を検出する検出部13と、検出部13から出力されたデータを画面等に表示する表示部14と、を更に備えている。
【0005】
LFM信号を用いたときの受信信号は、単にフーリエ変換しても、CW信号に比較して各周波数のレベルが低く、取り出しにくい。そこで、信号処理部12は、送信信号と同等のレプリカ信号を生成し、このレプリカ信号を用いていわゆるレプリカ相関処理を行ってエコー信号を取り出している。レプリカ相関は、受信信号に対して時間をずらしながら受信信号と標本となる信号(レプリカ信号)との相関度を計算する信号処理方式であり、相互相関とも言われる。信号処理部12は、送信信号をレプリカ信号として、受信信号との相関度を計算している。
【0006】
図9に、レプリカ相関によるエコー信号の検出の概念図を示す。同図に示すように、受信信号Gに対して時間をずらしながらレプリカ信号Rとの相関を求めることにより、波形が最も類似した時刻で相関度のピークpを出現させる。そして、この最も相関の高いときに、エコーが到達した時刻te’としている。
【0007】
以上のような信号処理を行う信号処理部12は、具体的には、図8に示すように、受信信号のフーリエ変換手段121と、送信信号生成部2から送られる送信信号データに基づいてレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成手段122と、レプリカ信号のフーリエ変換手段123と、受信信号及びレプリカ信号のフーリエ変換後の片方の複素共役を乗算する乗算手段124と、乗算手段124による積を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換手段125とを備えている。
【0008】
信号処理部12は、受信信号とレプリカ信号とを、時刻をずらしながら乗算手段124で積を求めていき、これを逆フーリエ変換手段125で逆フーリエ変換することにより、図9に示したようなレプリカ相関を得ている。図9に示すように、レプリカ信号Rと受信信号Gとの相互相関からエコー信号Eを検出している。
【0009】
また、特許文献2、3には、次のようなアクティブソーナー装置が開示されている。
【0010】
特許文献2のアクティブソーナー装置は、送波器と、送波器から送波された音波の反射波を受波信号として受波する受波器と、地図上の位置における海底の深度を表す海底深度データと海底の障害物の位置を表す障害物データとを基に、反射が起こりやすい地形が存在する海域を検出除去海域として抽出する検出除去海域抽出部と、受波信号のレベルを算出する信号処理部と、受波信号のうち信号処理部にて算出されたレベルがあらかじめ設定されている閾値を越えている受波信号を、エコー信号として検出する信号検出部と、信号検出部にて検出されたエコー信号のうち検出除去海域抽出部にて抽出された検出除去海域にて反射したエコー信号を、残響として除去する検出除去判定部と、を備える。
【0011】
特許文献3のアクティブソーナー装置は、送波器と、前記送波器から送波された音波の反射波を受波信号として受波する受波器と、を有してなるアクティブソーナー装置であって、地図上に作図された、前記音波の反射が起きやすい地形が海底に存在する海域を、検出除去海域として設定する作図処理部と、前記受波器で受波された受波信号からエコー信号を検出し、検出したエコー信号のうち、前記検出除去海域にて反射したエコー信号を残響として除去する残響除去部と、を有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−216005号公報(図13、図14等)
【特許文献2】特開2009−068989号公報(要約等)
【特許文献1】特開2009−150824号公報(要約等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述したように、CWは本質的に残響に弱い。一方、LFMは、CWに比べて耐残響性に優れるものの、更なる耐残響性が望まれている。例えば、LFM信号を用いたアクティブソーナー装置では、LFMがCWに比べてドップラ分解能に劣るため、移動目標物からのエコーと、海底、海山、沈船などの反射波(残響)との分離が困難である。これが、LFMを使用した場合の誤警報の要因となる。
【0014】
そこで、本発明の目的は、反射波から残響を高精度に除去できる残響フィルタ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る残響フィルタは、
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段と、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段と、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るアクティブソーナー装置は、
送信信号を生成して出力する送信信号生成部と、
この送信信号生成部から出力された前記送信信号を音波として送波する送波部と、
この送波部から送波された前記音波が目標で反射して生じた目標エコーを含む反射波を受波し、これを受信信号として出力する受波部と、
前記受波部から出力された前記受信信号に基づいて前記反射波のレベルを算出し、この反射波のレベルを出力する信号処理部と、
この信号処理部から出力された前記反射波のレベルを入力する本発明に係る残響フィルタと、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る残響除去方法は、
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出し、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測し、
前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する、
ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る残響除去プログラムは、
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段、及び、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段、
としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反射波のレベルがレベル閾値を越え続ける継続時間に基づいて、反射波が残響であるか目標エコーであるかを判定することにより、反射波から残響を高精度に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る残響フィルタ及びアクティブソーナー装置の実施形態1を示すブロック図である。
【図2】図1の残響フィルタの各手段として機能するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【図3】図1のアクティブソーナー装置の使用例を示す断面図である。
【図4】図3の使用例において受波部に到達した音波を示すグラフである。
【図5】図4における目標エコー及び海底反射波の相関度を示すグラフである。
【図6】図1の残響フィルタにおける動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る残響フィルタ及びアクティブソーナー装置の実施形態2を示すブロック図である。
【図8】特許文献1に記載のアクティブソーナー装置を示すブロック図である。
【図9】レプリカ相関によるエコー信号検出の原理を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については同一の符号を用いる。
【0022】
図1は、本発明に係る残響フィルタ及びアクティブソーナー装置の実施形態1を示すブロック図である。図2は、図1の残響フィルタの各手段として機能するコンピュータの一例を示すブロック図である。以下、この図面に基づき説明する。
【0023】
本実施形態1の残響フィルタ10は、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたか否かを検出する反射波検出手段101と、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたことを反射波検出手段101が検出した場合に、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続ける継続時間Tを計測する継続時間計測手段102と、継続時間計測手段102で計測された継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたか否かを検出し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたときにその反射波を残響であると判定し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えなかったときにその反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段103と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
一例として、海中に音波を送波して、その反射波を受波した場合について説明する。この場合、残響は主に海底反射波となる。海底は目標に比べて極めて大きいので、海底反射波は目標エコーに比べて長時間に渡って受波される。そこで、残響フィルタ10によれば、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続ける継続時間Tを計測し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えればその反射波を残響であると判定し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えなければその反射波を目標エコーであると判定することにより、反射波から残響を高精度に除去できる。特に、海面から海中へ又は海中から更に深い海中へ音波を送波した場合は、海底反射波が非常に多くなるので、この効果がより顕著になる。海中に音波を送波した場合に限らず、空中に音波を送波した場合も同様の効果が得られる。
【0025】
また、空中に電波を送波した場合も、残響は主に地面反射波又は海面反射波になるので、残響フィルタ10を用いることにより前述と同様の効果が得られる。空中から空中へ電波を送波した場合、特に空中から更に低い空中へ電波を送波した場合は、地面反射波又は海面反射波が非常に多くなるので、この効果がより顕著になる。したがって、残響フィルタ10はレーダ装置への適用も可能である。
【0026】
継続時間計測手段102は、継続時間Tを計測している最中に、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを一定時間以内下回ったとしても、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続けたとして継続時間Tを計測する、としてもよい。この場合は、雑音の影響でレベルLが一時的に下がっても、その影響を排除できるので、耐雑音性を向上できる。
【0027】
目標エコー判定手段103は、継続時間閾値Tthよりも短い第二継続時間閾値Tth2を設け、継続時間Tが第二継続時間閾値Tth2を越えたか否かを検出し、継続時間Tが第二継続時間閾値Tth2を越えなかったときにその反射波を雑音であると判定する、としてもよい。この場合は、雑音の影響でレベルLが一時的に上がっても、その影響を排除できるので、耐雑音性を向上できる。
【0028】
レベル閾値Lth、継続時間閾値Tth及び第二継続時間閾値Tth2の各値は、理論的又は実験的に予め定めてもよく、残響フィルタ10の使用中に適宜変更してもよい。また、対象となる反射波は、どのような信号でもよく、例えばLFM信号でもCW信号でもよい。
【0029】
本実施形態1の残響除去方法は、残響フィルタ10の動作を方法の発明として捉えたものであり、次のステップを含む。(1)反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたか否かを検出するステップ。(2)反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたことを検出した場合に、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続ける継続時間Tを計測するステップ。(3)継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたか否かを検出し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたときにその反射波を残響であると判定し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えなかったときにその反射波を目標エコーであると判定するステップ。
【0030】
残響フィルタ10の各手段を、図2に示すようなコンピュータ35に機能させてもよい。本実施形態1の残響除去プログラムは、残響フィルタ10の各手段をコンピュータ35に機能させるためのものである。すなわち、本実施形態1の残響除去プログラムは、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたか否かを検出する反射波検出手段101、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越えたことを反射波検出手段101が検出した場合に、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続ける継続時間Tを計測する継続時間計測手段102、及び、継続時間計測手段102で計測された継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたか否かを検出し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えたときにその反射波を残響であると判定し、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えなかったときにその反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段103、としてコンピュータ35を機能させるためのものである。
【0031】
図2に示すように、コンピュータ35は、CPU31、RAM32、ROM33、入出力インタフェース34等を備えた一般的なものでよい。CPU31は、RAM32又はROM33から本残響除去プログラムを読み出し、解釈し、実行する。本残響除去プログラムは、非一時的な記録媒体(non-transitory storage medium)、例えば光ディスク、半導体メモリなどに記録されてもよい。その場合、本残響除去プログラムは、記録媒体からコンピュータ35によって読み出され、実行される。
【0032】
本実施形態1の残響除去方法及び残響除去プログラムは、前述した構成の他に残響フィルタ10と同様に様々な構成を採り得る。本実施形態1の残響除去方法及び残響除去プログラムによれば、残響フィルタ10と同様な作用及び効果を奏する。
【0033】
本実施形態1のアクティブソーナー装置1は、送信信号21を生成して出力する送信信号生成部2と、送信信号生成部2から出力された送信信号21を音波22として送波する送波部4と、送波部4から送波された音波22が目標で反射して生じた目標エコー23を含む反射波24を受波し、これを受信信号25として出力する受波部5と、受波部5から出力された受信信号25に基づいて反射波のレベルLを算出し、この反射波のレベルLを出力する信号処理部12と、信号処理部12から出力された反射波のレベルLを入力する残響フィルタ10と、を備えたことを特徴とする。
【0034】
送信信号21は、CW信号でもよいが、LFM信号としてもよい。すなわち、アクティブソーナー装置1は、次の特徴を有する。送信信号21はLFM信号である。信号処理部12は、送信信号生成部2から出力された送信信号21をレプリカ信号26とし、レプリカ信号26と受波部5から出力された受信信号25との相関度27を計算し、この相関度27を反射波のレベルLとして出力する。
【0035】
アクティブソーナー装置1には、送信信号増幅部3、受信信号増幅部6、帯域濾波部7、A/D変換部8及び表示部14が付設されている。残響フィルタ10は、信号処理部12から相関度27を反射波のレベルLとして入力し、目標エコー及び残響に関するデータを含む表示データ36を表示部14へ出力する。信号処理部12は、フーリエ変換手段121、レプリカ信号生成手段122、フーリエ変換手段123、乗算手段124及び逆フーリエ変換手段125を備えている。
【0036】
図3は、図1のアクティブソーナー装置の使用例を示す断面図である。図4は、図3の使用例において受波部に到達した音波を示すグラフである。以下、図1乃至図4に基づき説明する。
【0037】
ここで、送波部4と受波部5とが、一定距離を置いて海面30に浮遊しているとする。送波部4から音波22が送波されると、受波部5では直接波20と反射波24とが受波される。直接波20は、何にも当たることなく直接受波部5に到達した音波22である。反射波24は、何かに当たった後に受波部5に到達した音波22であり、目標11に当たった目標エコー23と海底29に当たった海底反射波28とを含む。
【0038】
図4に示すように、受波部5には、最初に直接波20が到達する。直接波20は、どこにも当たっていないことから減衰が少ないので、レベルが高い。その後、受波部5には、目標エコー23が到達し、これに少し遅れて海底反射波28が到達する。
【0039】
図5は、図4における目標エコー及び海底反射波の相関度を示すグラフである。以下、図1乃至図5に基づき説明する。
【0040】
残響フィルタ10では、相関度27がレベルLに対応し、レベルLがレベル閾値Lthを越え続けた時間を継続時間Tとして扱う。図5を見ると、目標エコー23の継続時間T1と海底反射波28の継続時間T2とに、明確な差があることが分かる。目標エコー23の継続時間T1は、目標11の大きさ(波面垂直方向への長さ)によって決まる。一方、海底反射波28の継続時間T2は、距離の異なる複数地点からの反射波が連続的に受波部5に到達するため、かなり長くなる。そして、アクティブソーナー装置1の捜索対象の大きさは、海底29に対して十分小さいため、目標エコー23の継続時間T1と海底反射波28と継続時間T2とに明確な差が生じる。
【0041】
そこで、残響フィルタ10は、目標エコー23の継続時間T1と海底反射波28の継続時間T2との違いを利用することにより、目標エコー23と海底反射波28とを精度良く分離することができる。つまり、レベルLがレベル閾値Lthを超えた時間を計測し、その継続時間Tが継続時間閾値Tthよりも長いか短いかを判定することにより、継続時間Tによるフィルタリングを行う。図5に示す例では、T1≦Tthであるので、継続時間T1の反射波24は目標エコー23であり、T2>Tthであるので、継続時間T2の反射波24は海底反射波28である。なお、T1≦TthかつT2>Tthとしているが、T1<TthかつT2≧Tthとしても実質的に同じである。
【0042】
アクティブソーナー装置1によれば、残響フィルタ10を用いることにより、海底反射波28を精度良く除去できるので、誤警報を低減することができるとともに、目標エコー23を容易に識別することができる。特に、送波部4が海面30から海中へ又は海中から更に深い海中へ音波22を送波する場合は、海底反射波28が非常に多くなるので、この効果がより顕著になる。
【0043】
図6は、本実施形態1の残響フィルタにおける動作の一例を示すフローチャートである。以下、図1及び図6を中心に説明する。
【0044】
まず、継続時間Tを「0」とし(ステップ201)、信号処理部12から相関度27をレベルLとして入力し(ステップ202)、レベルLとレベル閾値Lthとを比較する(ステップ203)。
【0045】
ここで、L≦Lthであればステップ201へ戻り、L>Lthであれば継続時間Tにサンプリング時間Δtを加えて新たな継続時間Tとする(ステップ204)。続いて、信号処理部12から相関度27をレベルLとして入力し(ステップ205)、レベルLとレベル閾値Lthとを比較する(ステップ206)。L≦Lthであればステップ209へ進み、L>Lthであれば継続時間Tと継続時間閾値Tthとを比較する(ステップ207)。
【0046】
ここで、T≦Tthであればステップ204へ戻り、T>Tthであればステップ208へ進む。ステップ208では、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えているので、継続時間Tに対応する反射波は残響であると判定する。一方、ステップ209では、継続時間Tが継続時間閾値Tthを越えていないので、継続時間Tに対応する反射波は目標エコーであると判定する。その後、処理を続けるのであればステップ201へ戻り、処理を終えるのであれば終了する(ステップ210)。
【0047】
ステップ201〜203までが反射波検出手段101の動作に相当し、ステップ204〜206までが継続時間計測手段102の動作に相当し、ステップ207〜210までが目標エコー判定手段103の動作に相当する。
【0048】
ステップ206において、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを一定時間以内下回ったとしても、反射波のレベルLがレベル閾値Lthを越え続けたとして継続時間Tを計測する、としてもよい。このとき、予めn(自然数)を定めておき、一定時間をn×Δtとしてもよい。つまり、ステップ206において、L≦Lthとなった回数をカウントし、その回数がn以下であればレベルLがレベル閾値Lthを越え続けたとして継続時間Tを計測する。
【0049】
ステップ207において、継続時間閾値Tthよりも短い第二継続時間閾値Tth2を設け、継続時間Tが第二継続時間閾値Tth2を越えたか否かを検出し、継続時間Tが第二継続時間閾値Tth2を越えなかったときにその反射波を雑音であると判定する、としてもよい。このとき、予めn(自然数)を定めておき、第二継続時間閾値Tth2をn×Δtとしてもよい。つまり、ステップ207において、T>Tthとなった回数をカウントし、その回数がnを越えなければ反射波を雑音であると判定する。
【0050】
図7は、本発明に係る残響フィルタ及びアクティブソーナー装置の実施形態2を示すブロック図である。以下、この図面に基づき説明する。
【0051】
本実施形態2の残響フィルタ40は、反射波が発生する地図上の位置データを入力する位置データ入力手段401と、位置データ入力手段401が入力した位置データに対応する地形データを入力する地形データ入力手段402と、地形データ入力手段402が入力した地形データに基づき、レベル閾値Lth及び継続時間閾値Tthの少なくとも一方を変更する閾値変更手段403と、を更に備えたことを特徴とする。閾値変更手段403は、地形データ入力手段402が入力した地形データに基づき、レベル閾値Lth、継続時間閾値Tth及び第二継続時間閾値Tth2の少なくとも一つを変更する、としてもよい。残響フィルタ40のその他の構成は、実施形態1の残響フィルタと同じである。
【0052】
本実施形態2のアクティブソーナー装置1Aは、実施形態1の残響フィルタを残響フィルタ40に代えた点、及びは、位置データ取得部41及び地形データ記憶部42を更に備えた点を除き、実施形態1のアクティブソーナー装置と同じ構成である。
【0053】
位置データ取得部41は、例えばGPS装置やキーボードなどであり、送波部4や受波部5の地図上の位置に関するデータ(緯度及び経度など)を、自動的又は人為的に取得する。位置データ取得部41は、位置データ入力手段401からの要求に応じて、現在の位置データを位置データ入力手段401へ出力する。
【0054】
地形データ記憶部42は、例えばHDDなどの一般的な記憶装置であり、地図上の位置に対応する地形データ(深度分布など)を予め記憶している。地形データ記憶部42は、地形データ入力手段402からの要求に応じて、位置データに対応する地形データを地形データ入力手段402へ出力する。
【0055】
図3に示すような使用例について説明する。閾値変更手段403は、地形データ入力手段402が入力した地形データに基づき、例えば次のように各閾値を変更する。一般に、海底が深いほど、海底反射波が減衰して弱くなるので、レベル閾値Lthを下げて低レベルの目標エコーも検出できるようにする。一般に、海底の凹凸が多いほど、あらゆる方向から海底反射波が到来してその継続時間T2も長くなるので、継続時間閾値Tthを長くして、継続時間T1の長い目標エコーも検出できるようにする。
【0056】
本実施形態2によれば、地形に応じて各閾値を変更することにより、反射波から残響を更に高精度に除去できる。本実施形態2その他の作用及び効果は、実施形態1と同様である。
【0057】
以上、上記各実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細については、当業者が理解し得るさまざまな変更を加えることができる。また、本発明には、上記各実施形態の構成の一部又は全部を相互に適宜組み合わせたものも含まれる。
【0058】
上記の実施形態の一部又は全部は以下の付記のようにも記載され得るが、本発明は以下の構成に限定されるものではない。
【0059】
[付記1]反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段と、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段と、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段と、
を備えたことを特徴とする残響フィルタ。
【0060】
[付記2]付記1記載の残響フィルタであって、
前記反射波が発生する地図上の位置データを入力する位置データ入力手段と、
位置データ入力手段が入力した前記位置データに対応する地形データを入力する地形データ入力手段と、
地形データ入力手段が入力した前記地形データに基づき、前記レベル閾値及び前記継続時間閾値の少なくとも一方を変更する閾値変更手段と、
を更に備えたことを特徴とする残響フィルタ。
【0061】
[付記3]付記1又は2記載の残響フィルタであって、
前記継続時間計測手段は、
前記継続時間を計測している最中に、前記反射波のレベルが前記レベル閾値を一定時間以内下回ったとしても、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続けたとして当該継続時間を計測する、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【0062】
[付記4]付記1乃至3のいずれか一つに記載の残響フィルタであって、
目標エコー判定手段は、前記継続時間閾値よりも短い第二継続時間閾値を設け、前記継続時間が前記第二継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記第二継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を雑音であると判定する、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【0063】
[付記5]付記1乃至4のいずれか一つに記載の残響フィルタであって、
前記反射波が音波かつLFM信号である、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【0064】
[付記6]送信信号を生成して出力する送信信号生成部と、
この送信信号生成部から出力された前記送信信号を音波として送波する送波部と、
この送波部から送波された前記音波が目標で反射して生じた目標エコーを含む反射波を受波し、これを受信信号として出力する受波部と、
前記受波部から出力された前記受信信号に基づいて前記反射波のレベルを算出し、この反射波のレベルを出力する信号処理部と、
この信号処理部から出力された前記反射波のレベルを入力する付記1乃至4のいずれか一つに記載の残響フィルタと、
を備えたことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【0065】
[付記7]付記6記載のアクティブソーナー装置であって、
前記送信信号はLFM信号であり、
前記信号処理部は、前記送信信号生成部から出力された前記送信信号をレプリカ信号とし、このレプリカ信号と前記受波部から出力された前記受信信号との相関度を計算し、この相関度を前記反射波のレベルとして出力する、
ことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【0066】
[付記8]付記6又は7記載のアクティブソーナー装置であって、
前記送波部は、海面から海中へ又は海中から更に深い海中へ前記音波を送波する、
ことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【0067】
[付記9]反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出し、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測し、
前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する、
ことを特徴とする残響除去方法。
【0068】
[付記10]反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段、及び、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段と、
としてコンピュータを機能させるための残響除去プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えばソーナー装置やレーダ装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1,1A,1a アクティブソーナー装置
2 送信信号生成部
3 送信信号増幅部
4 送波部
5 受波部
6 受信信号増幅部
7 帯域濾波部
8 A/D変換部
10,40 残響フィルタ
101 反射波検出手段
102 継続時間計測手段
103 目標エコー判定手段
11 目標
12 信号処理部
121 フーリエ変換手段
122 レプリカ信号生成手段
123 フーリエ変換手段
124 乗算手段
125 逆フーリエ変換手段
13 検出部
14 表示部
20 直接波
21 送信信号
22 音波
23 目標エコー
24 反射波
25 受信信号
26 レプリカ信号
27 相関度
28 海底反射波
29 海底
30 海面
31 CPU
32 RAM
33 ROM
34 入出力インタフェース
35 コンピュータ
36 表示データ
401 位置データ入力手段
402 地形データ入力手段
403 閾値変更手段
41 位置データ取得部
42 地形データ記憶部
L レベル
Lth レベル閾値
T,T1,T2 継続時間
Tth 継続時間閾値
Tth2 第二継続時間閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段と、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段と、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段と、
を備えたことを特徴とする残響フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載の残響フィルタであって、
前記反射波が発生する地図上の位置データを入力する位置データ入力手段と、
この位置データ入力手段が入力した前記位置データに対応する地形データを入力する地形データ入力手段と、
この地形データ入力手段が入力した前記地形データに基づき、前記レベル閾値及び前記継続時間閾値の少なくとも一方を変更する閾値変更手段と、
を更に備えたことを特徴とする残響フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の残響フィルタであって、
前記継続時間計測手段は、
前記継続時間を計測している最中に、前記反射波のレベルが前記レベル閾値を一定時間以内下回ったとしても、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続けたとして当該継続時間を計測する、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の残響フィルタであって、
前記目標エコー判定手段は、前記継続時間閾値よりも短い第二継続時間閾値を設け、前記継続時間が前記第二継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記第二継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を雑音であると判定する、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の残響フィルタであって、
前記反射波が音波かつLFM信号である、
ことを特徴とする残響フィルタ。
【請求項6】
送信信号を生成して出力する送信信号生成部と、
この送信信号生成部から出力された前記送信信号を音波として送波する送波部と、
この送波部から送波された前記音波が目標で反射して生じた目標エコーを含む反射波を受波し、これを受信信号として出力する受波部と、
前記受波部から出力された前記受信信号に基づいて前記反射波のレベルを算出し、この反射波のレベルを出力する信号処理部と、
この信号処理部から出力された前記反射波のレベルを入力する請求項1乃至4のいずれか一つに記載の残響フィルタと、
を備えたことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【請求項7】
請求項6記載のアクティブソーナー装置であって、
前記送信信号はLFM信号であり、
前記信号処理部は、前記送信信号生成部から出力された前記送信信号をレプリカ信号とし、このレプリカ信号と前記受波部から出力された前記受信信号との相関度を計算し、この相関度を前記反射波のレベルとして出力する、
ことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載のアクティブソーナー装置であって、
前記送波部は、海面から海中へ又は海中から更に深い海中へ前記音波を送波する、
ことを特徴とするアクティブソーナー装置。
【請求項9】
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出し、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測し、
前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えない前記反射波を目標エコーであると判定する、
ことを特徴とする残響除去方法。
【請求項10】
反射波のレベルがレベル閾値を越えたか否かを検出する反射波検出手段、
前記反射波のレベルが前記レベル閾値を越えたことを前記反射波検出手段が検出した場合に、当該反射波のレベルが前記レベル閾値を越え続ける継続時間を計測する継続時間計測手段、及び、
この継続時間計測手段で計測された前記継続時間が継続時間閾値を越えたか否かを検出し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えたときに当該反射波を残響であると判定し、当該継続時間が前記継続時間閾値を越えなかったときに当該反射波を目標エコーであると判定する目標エコー判定手段、
としてコンピュータを機能させるための残響除去プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−173224(P2012−173224A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37702(P2011−37702)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】