殺菌装置
【課題】 食品材料などの殺菌対象の温度上昇を抑えつつ短時間に殺菌できる装置を提供する。
【解決手段】 通電ユニット2は上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23を積層して構成されている。そして、中間絶縁体22の溝24には電源装置に接続される板状チタニウム電極27,28をセットし、このチタニウム電極27,28を絶縁体間で挟持する。チタニウム電極27,28には電源装置4から交流電流とパルス電流が供給され、殺菌対象には交流波とパルス波が重畳された波形の電界が印加される。
【解決手段】 通電ユニット2は上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23を積層して構成されている。そして、中間絶縁体22の溝24には電源装置に接続される板状チタニウム電極27,28をセットし、このチタニウム電極27,28を絶縁体間で挟持する。チタニウム電極27,28には電源装置4から交流電流とパルス電流が供給され、殺菌対象には交流波とパルス波が重畳された波形の電界が印加される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水、ジュースやビール等の液体飲料或いは産業用水等の液体、更には固形食品などを殺菌するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品材料を殺菌するための方法としては、加熱する方法が広く適用されているが、その場合充分な殺菌効果が得られなかったり、逆に充分に殺菌しようとすれば食品材料中の有用な成分、たとえばビタミンC、香気成分等を損失してしまったりする問題があった。
【0003】
そこで最近に至り、対向する狭い電極間の間隙に液体食品材料を連続的に流すとともに、その電極間に交流の高電圧を印加して、電極間に生成される交流電界により連続的に殺菌する方法、すなわち交流高電界殺菌法が、例えば特許文献1、特許文献2等によって提案されている。
【0004】
この交流高電界殺菌法によれば、電極間を液体食品材料が通過する際に、液体食品材料が高温に加熱されると同時に、交流高電界による殺菌効果が得られ、そのため液体食品材料が高温となる時間が極めて短時間となり、効果的に殺菌することができると同時に、食品材料成分の損失を最小限に抑えることができる。
【0005】
【特許文献1】特許第2848591号公報
【特許文献2】特許第2964037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような交流高電界殺菌法は、果汁、コーヒー、茶飲料等の電気伝導率の比較的低い材料や粘度の低い食品材料の殺菌に適しているが、調味液等の電気伝導率が高いものに高電界を印加した場合、過大な電流が材料に流れ、材料温度が必要以上に上昇するため、食品の品質低下が避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した殺菌装置は、殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上、周波数が1kHz以上のパルス電界を印加する少なくとも一対の電極を備えた構成とした。上記のパルス電界を印加することで菌数が一桁以上低下することが確認できた。
【0008】
殺菌対象が電気伝導率の高い場合には、パルス幅を10μs以下、周波数を10kHz以下とすることで、殺菌対象が必要以上に高温になることを避けることができる。
【0009】
また請求項2に記載の殺菌装置は、殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上のパルス電界と殺菌対象の温度を90℃以上に加熱するために必要な交流電界とが重畳した電界を印加する少なくとも一対の電極を備えた構成とした。
【0010】
上記殺菌装置の場合、交流電界によって殺菌対象にジュール熱が加えられて加熱が行われるため、10kV/cm以下の電界強度のパルス電界によって物理的な殺菌が行われる。ここで、交流についてはジュール加熱で温度を上昇させるために利用しているため、対象の電気伝導率、流速により必要な電界が変化してしまうためパルス電界のように電界強度を特定することは困難であるが、枯草菌などの胞子を殺菌するためには、対象の温度を90度以上とする必要がある。
【0011】
従来において、枯草菌胞子のような耐熱性の高い微生物を電界効果だけで死滅させるためには40kV/cm以上の電界を数十回印加しなければならなかった。しかしながら、材料の温度を上げておけば、1kV/cm程度の電界で十分な殺菌効果が期待できるので、周波数を高くできる。周波数を高くすれば、1)スパークが発生しにくい、2)電極の腐食が小さい、3)処理時間が短縮可能、4)トランスによる昇圧が容易、などのメリット有ります。特に3)の処理時間の短縮により、連続処理(大量処理)が可能となる等のメリットがある。
【0012】
更に請求項3に記載の殺菌装置は、殺菌対象が連続的に流れる流路と、この流路の入口側に配置され殺菌対象に交流電界を印加する少なくとも一対の電極と、前記流路の出口側に配置され殺菌対象にパルス電界を印加する少なくとも一対の電極とを備えた構成とした。
【0013】
上記構成とした場合、交流電界とパルス電界を同時ではなく個別に殺菌対象に印加することができ、殺菌対象の電気伝導率などに応じた制御が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る殺菌装置によれば、殺菌対象の温度上昇を抑制しつつ効果的な殺菌が可能になる。したがって、交流電界による殺菌では高温になってしまっていた調味液などの電気伝導率が高い食品に対しても、効果的な殺菌を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る殺菌装置の全体図、図2は図1に示した殺菌装置の一部をなす通電ユニットの一部分解斜視図、図3は通電ユニットの縦断面図である。
【0016】
殺菌装置は液状食品などの殺菌対象を貯留するタンク1と、このタンク1内の殺菌対象を通電ユニット2に送り込むポンプ3と、通電ユニット2の電極に電圧を供給する電源装置(アンプ)4と、通電ユニット2によって殺菌された殺菌対象を冷却する冷却用タンク5と、貯留タンク1内及び通電ユニット2出口での殺菌対象の温度を測定して記録する記録装置6と、前記電源装置4及び記録装置6を制御するコントローラ7を備えている。
【0017】
前記通電ユニット2は上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23を積層して構成されている。これら上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23は何れもテフロンを材料とした板状をなしている。具体的な寸法を示せば、縦30mm、横30mm、厚さ3mmとする。
【0018】
図3及び図4に示すように、上部絶縁体21の中央部には段付き穴24が形成され、この段付き穴24は前記ポンプ3からの配管に接続され、また中間絶縁体22は複数枚用いられ、各中間絶縁体22の上面には幅3mm、深さ0.5mmの溝24が形成され、更に溝24の中間部即ち中間絶縁体22の中央部には3mm×1mmの流路25が形成され、更に、下部絶縁体23にも前記流路25につながる流路26が形成されている。
【0019】
そして、中間絶縁体22の溝24には電源装置に接続される棒状チタニウム電極27,28をセットし、このチタニウム電極27,28を絶縁体間で挟持する。チタニウム電極27,28の形状は、例えば長さ25mm、幅3mm、厚さ4mmで両端の上下の角を丸く面取りしたものとする。また、チタニウム電極27,28の上下方向の間隔は6mm程度とし、更に対向する電極27,28の先端の隙間(d)については、1mm以下とする。
【0020】
チタニウム電極27,28には電源装置4から交流電流とパルス電流が供給され、殺菌対象には交流波とパルス波が重畳された波形の電界が印加される。図4に重畳された波形の一例を示す。この波形は111Vrmsの交流と180Vのパルスが重畳されたものである。
【0021】
尚、一対の電極の間隙(d:mm)と印加ピーク電圧(H:ボルト)との関係は、100≦H/d≦1000となる条件、好ましくは200≦H/d≦1600となる条件で殺菌する。H/dが100(ボルト/mm)未満では充分な殺菌効果を発揮できず、また印加電圧は高いほど殺菌効果が高いと考えられるが、1000(ボルト/mm)以上にした場合には、スパークが発生しやすくなる他、例えば、ビール等を殺菌するとビールの温度が高くなってしまう。
【0022】
また、パルス電界については電界強度を1.0kV/cm以上、パルス幅を1μs以上、周波数を1kHz以上とすることが、前記同様殺菌対象の温度を必要以上に上げずに殺菌する上で好ましい。
【0023】
次に具体的な実施例について説明するにあたり、各種液状食品および食塩水の電気伝導率を図5に示し、また処理温度を65℃と70℃とした場合の,印加電界と殺菌効果との関係を図6に示す。この図6からは、例えば大腸菌の場合、65℃で処理する場合は非常に高い電圧を必要とし、70℃で処理すれば、10kV/cm程度の比較的実現しやすい電界で充分な殺菌効果が得られることが分かる。電界を高くすることは電源のコスト上昇以外に、スパークが発生し易くなる。したがって、交流を重畳して材料の温度を上昇させるのは極めて実用的である。
【0024】
実施例1(高塩濃度のモデル液状食品における大腸菌の殺菌)
高塩濃度のモデル液状食品として0.6%濃度の滅菌した食塩水を用意し、20℃に保ったものを100mL/分の一定流速で図3の電極間を通過させる。電極の対向面は4mm×3mmであり、電極間隔は0.5mmに設定した。両電極に交流および交流とパルスの重畳したもの(図4参照)を加え、電極の出口温度が70℃となるようにした。出口温度が安定したところで、37℃、24時間培養した大腸菌液1mLを食塩水に添加し、20秒後に電極出口からサンプルを取り、氷水で急冷した。図7に無処理の大腸菌液、各種電界を印加した処理液の大腸菌数をカウントした結果を示す。図7より同じ出口温度の場合、高い電界のパルスを重畳したほうが殺菌効率が高くなることが分かった。
【0025】
図8は通電ユニットの別実施例を示す断面図であり、この実施例にあっては通電ユニット2の流路25の入口側に交流電界用電極31,32を出口側にパルス電界用電極33,34を配置し、殺菌対象となる液状食品を、先ず交流電界によって加熱殺菌し、この後にパルス電界による電気ショックで殺菌を行うようにしている。
【0026】
図9(a)及び(b)は図8に示した殺菌装置によって加えられる電界の波形を示したグラフである。
【0027】
図10はパルス電界のみによって殺菌を行う殺菌装置の全体図であり、この殺菌装置は高周波パルス発生装置40と通電ユニット41とから構成され、通電ユニット41は例えば固形食品などの殺菌対象を入れるボックス42の両側に高周波パルス発生装置40に接続される平行平板型電極43,44を配置し、ボックス42内の殺菌対象にパルス電界を印加するようにしている。
上記の装置を用いた実施例2を以下に述べる。
【0028】
実施例2(固形食品中の枯草菌胞子の殺菌)
固形食品を対象とするため、電極間隔を10mmに設定した平行平板電極(対向面は10mm×20mm)に、0.5%濃度の滅菌した食塩水および市販の無調整豆乳に枯草菌胞子を添加したもの2mlを注入し、両電極に繰り返し周波数10kHzの高電界パルスを印加した(図11参照)。試料中心部に挿入した蛍光温度計により、試料温度が95℃に到達した瞬間(3分〜10秒)、パルスの印加を中止し、試料中の枯草菌胞子数をカウントした。図12にパルス電界強度と食塩水中の残存枯草菌胞子数および図13にパルス電界強度と豆乳中の残存枯草菌胞子数プロットした。この結果より、電界強度に比例して殺菌効率が高くなることが分かった。特に、食塩水に2000V/cmのパルス電界を印加した場合、10秒で95℃に達し、枯草菌胞子を106オーダー以上殺菌することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
醤油や調味液の中には塩分を含むため、電気伝導率が高い食品材料が多い。それら食品材料の品質を維持しつつ、安全性を高めるために本発明の殺菌方法が有用である。また、固形食品に対しても高周波パルス電界による短時間殺菌が可能なことが分かった。本発明の殺菌方法は装置が簡便であり、かつ連続・大量処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る殺菌装置の全体図
【図2】図1に示した殺菌装置の一部をなす通電ユニットの一部分解斜視図
【図3】通電ユニットの縦断面図
【図4】111Vrmsの交流と180Vのパルスを重畳した波形を示すグラフ
【図5】各種液状食品および食塩水の電気伝導率を示すグラフ
【図6】処理温度が65℃及び70℃のときの印加電圧と殺菌効果との関係を示すグラフ
【図7】未処理、電圧105Vの交流(2100V/cm)、電圧100Vの交流にピーク電圧50Vのパルスを重畳したもの(3000V/cm)を印加したときの大腸菌の殺菌効果を示すグラフ
【図8】入口側に交流電界用電極、出口側にパルス電界用電極を配置した殺菌装置の通電ユニットの断面図
【図9】(a)は殺菌対象に加えられる交流電界の波形、(b)は殺菌対象に加えられるパルス電界の波形
【図10】固形材料に対応した平行平板電極による高電界パルス印加装置の全体図
【図11】ピーク電界1.6kVのパルス波形を示すグラフ
【図12】0.5%の食塩水に枯草菌を加えたものを1E0としたとき、パルスの印加電界強度を変化させて印加して材料温度が95℃となったものの枯草菌胞子数の減少量を対数で示すグラフ
【図13】市販の豆乳に枯草菌を加えたものを1E0としたとき、パルスの印加電界強度を変化させて印加して材料温度が95℃となったものの枯草菌胞子数の減少量を対数で示すグラフ
【符号の説明】
【0031】
1…殺菌対象を貯留するタンク、2…通電ユニット、3…ポンプ、4…電源装置、5…冷却用タンク、6…記録装置、7…コントローラ、21…上部絶縁体、22…中間絶縁体、23…下部絶縁体、24…段付き穴、25,26…流路、27,28…電極、31,32…交流電界用電極、33,34…パルス電界用電極、40…高周波パルス発生装置、41…通電ユニット、43,44…平行平板型電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水、ジュースやビール等の液体飲料或いは産業用水等の液体、更には固形食品などを殺菌するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品材料を殺菌するための方法としては、加熱する方法が広く適用されているが、その場合充分な殺菌効果が得られなかったり、逆に充分に殺菌しようとすれば食品材料中の有用な成分、たとえばビタミンC、香気成分等を損失してしまったりする問題があった。
【0003】
そこで最近に至り、対向する狭い電極間の間隙に液体食品材料を連続的に流すとともに、その電極間に交流の高電圧を印加して、電極間に生成される交流電界により連続的に殺菌する方法、すなわち交流高電界殺菌法が、例えば特許文献1、特許文献2等によって提案されている。
【0004】
この交流高電界殺菌法によれば、電極間を液体食品材料が通過する際に、液体食品材料が高温に加熱されると同時に、交流高電界による殺菌効果が得られ、そのため液体食品材料が高温となる時間が極めて短時間となり、効果的に殺菌することができると同時に、食品材料成分の損失を最小限に抑えることができる。
【0005】
【特許文献1】特許第2848591号公報
【特許文献2】特許第2964037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような交流高電界殺菌法は、果汁、コーヒー、茶飲料等の電気伝導率の比較的低い材料や粘度の低い食品材料の殺菌に適しているが、調味液等の電気伝導率が高いものに高電界を印加した場合、過大な電流が材料に流れ、材料温度が必要以上に上昇するため、食品の品質低下が避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した殺菌装置は、殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上、周波数が1kHz以上のパルス電界を印加する少なくとも一対の電極を備えた構成とした。上記のパルス電界を印加することで菌数が一桁以上低下することが確認できた。
【0008】
殺菌対象が電気伝導率の高い場合には、パルス幅を10μs以下、周波数を10kHz以下とすることで、殺菌対象が必要以上に高温になることを避けることができる。
【0009】
また請求項2に記載の殺菌装置は、殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上のパルス電界と殺菌対象の温度を90℃以上に加熱するために必要な交流電界とが重畳した電界を印加する少なくとも一対の電極を備えた構成とした。
【0010】
上記殺菌装置の場合、交流電界によって殺菌対象にジュール熱が加えられて加熱が行われるため、10kV/cm以下の電界強度のパルス電界によって物理的な殺菌が行われる。ここで、交流についてはジュール加熱で温度を上昇させるために利用しているため、対象の電気伝導率、流速により必要な電界が変化してしまうためパルス電界のように電界強度を特定することは困難であるが、枯草菌などの胞子を殺菌するためには、対象の温度を90度以上とする必要がある。
【0011】
従来において、枯草菌胞子のような耐熱性の高い微生物を電界効果だけで死滅させるためには40kV/cm以上の電界を数十回印加しなければならなかった。しかしながら、材料の温度を上げておけば、1kV/cm程度の電界で十分な殺菌効果が期待できるので、周波数を高くできる。周波数を高くすれば、1)スパークが発生しにくい、2)電極の腐食が小さい、3)処理時間が短縮可能、4)トランスによる昇圧が容易、などのメリット有ります。特に3)の処理時間の短縮により、連続処理(大量処理)が可能となる等のメリットがある。
【0012】
更に請求項3に記載の殺菌装置は、殺菌対象が連続的に流れる流路と、この流路の入口側に配置され殺菌対象に交流電界を印加する少なくとも一対の電極と、前記流路の出口側に配置され殺菌対象にパルス電界を印加する少なくとも一対の電極とを備えた構成とした。
【0013】
上記構成とした場合、交流電界とパルス電界を同時ではなく個別に殺菌対象に印加することができ、殺菌対象の電気伝導率などに応じた制御が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る殺菌装置によれば、殺菌対象の温度上昇を抑制しつつ効果的な殺菌が可能になる。したがって、交流電界による殺菌では高温になってしまっていた調味液などの電気伝導率が高い食品に対しても、効果的な殺菌を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る殺菌装置の全体図、図2は図1に示した殺菌装置の一部をなす通電ユニットの一部分解斜視図、図3は通電ユニットの縦断面図である。
【0016】
殺菌装置は液状食品などの殺菌対象を貯留するタンク1と、このタンク1内の殺菌対象を通電ユニット2に送り込むポンプ3と、通電ユニット2の電極に電圧を供給する電源装置(アンプ)4と、通電ユニット2によって殺菌された殺菌対象を冷却する冷却用タンク5と、貯留タンク1内及び通電ユニット2出口での殺菌対象の温度を測定して記録する記録装置6と、前記電源装置4及び記録装置6を制御するコントローラ7を備えている。
【0017】
前記通電ユニット2は上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23を積層して構成されている。これら上部絶縁体21、中間絶縁体22…及び下部絶縁体23は何れもテフロンを材料とした板状をなしている。具体的な寸法を示せば、縦30mm、横30mm、厚さ3mmとする。
【0018】
図3及び図4に示すように、上部絶縁体21の中央部には段付き穴24が形成され、この段付き穴24は前記ポンプ3からの配管に接続され、また中間絶縁体22は複数枚用いられ、各中間絶縁体22の上面には幅3mm、深さ0.5mmの溝24が形成され、更に溝24の中間部即ち中間絶縁体22の中央部には3mm×1mmの流路25が形成され、更に、下部絶縁体23にも前記流路25につながる流路26が形成されている。
【0019】
そして、中間絶縁体22の溝24には電源装置に接続される棒状チタニウム電極27,28をセットし、このチタニウム電極27,28を絶縁体間で挟持する。チタニウム電極27,28の形状は、例えば長さ25mm、幅3mm、厚さ4mmで両端の上下の角を丸く面取りしたものとする。また、チタニウム電極27,28の上下方向の間隔は6mm程度とし、更に対向する電極27,28の先端の隙間(d)については、1mm以下とする。
【0020】
チタニウム電極27,28には電源装置4から交流電流とパルス電流が供給され、殺菌対象には交流波とパルス波が重畳された波形の電界が印加される。図4に重畳された波形の一例を示す。この波形は111Vrmsの交流と180Vのパルスが重畳されたものである。
【0021】
尚、一対の電極の間隙(d:mm)と印加ピーク電圧(H:ボルト)との関係は、100≦H/d≦1000となる条件、好ましくは200≦H/d≦1600となる条件で殺菌する。H/dが100(ボルト/mm)未満では充分な殺菌効果を発揮できず、また印加電圧は高いほど殺菌効果が高いと考えられるが、1000(ボルト/mm)以上にした場合には、スパークが発生しやすくなる他、例えば、ビール等を殺菌するとビールの温度が高くなってしまう。
【0022】
また、パルス電界については電界強度を1.0kV/cm以上、パルス幅を1μs以上、周波数を1kHz以上とすることが、前記同様殺菌対象の温度を必要以上に上げずに殺菌する上で好ましい。
【0023】
次に具体的な実施例について説明するにあたり、各種液状食品および食塩水の電気伝導率を図5に示し、また処理温度を65℃と70℃とした場合の,印加電界と殺菌効果との関係を図6に示す。この図6からは、例えば大腸菌の場合、65℃で処理する場合は非常に高い電圧を必要とし、70℃で処理すれば、10kV/cm程度の比較的実現しやすい電界で充分な殺菌効果が得られることが分かる。電界を高くすることは電源のコスト上昇以外に、スパークが発生し易くなる。したがって、交流を重畳して材料の温度を上昇させるのは極めて実用的である。
【0024】
実施例1(高塩濃度のモデル液状食品における大腸菌の殺菌)
高塩濃度のモデル液状食品として0.6%濃度の滅菌した食塩水を用意し、20℃に保ったものを100mL/分の一定流速で図3の電極間を通過させる。電極の対向面は4mm×3mmであり、電極間隔は0.5mmに設定した。両電極に交流および交流とパルスの重畳したもの(図4参照)を加え、電極の出口温度が70℃となるようにした。出口温度が安定したところで、37℃、24時間培養した大腸菌液1mLを食塩水に添加し、20秒後に電極出口からサンプルを取り、氷水で急冷した。図7に無処理の大腸菌液、各種電界を印加した処理液の大腸菌数をカウントした結果を示す。図7より同じ出口温度の場合、高い電界のパルスを重畳したほうが殺菌効率が高くなることが分かった。
【0025】
図8は通電ユニットの別実施例を示す断面図であり、この実施例にあっては通電ユニット2の流路25の入口側に交流電界用電極31,32を出口側にパルス電界用電極33,34を配置し、殺菌対象となる液状食品を、先ず交流電界によって加熱殺菌し、この後にパルス電界による電気ショックで殺菌を行うようにしている。
【0026】
図9(a)及び(b)は図8に示した殺菌装置によって加えられる電界の波形を示したグラフである。
【0027】
図10はパルス電界のみによって殺菌を行う殺菌装置の全体図であり、この殺菌装置は高周波パルス発生装置40と通電ユニット41とから構成され、通電ユニット41は例えば固形食品などの殺菌対象を入れるボックス42の両側に高周波パルス発生装置40に接続される平行平板型電極43,44を配置し、ボックス42内の殺菌対象にパルス電界を印加するようにしている。
上記の装置を用いた実施例2を以下に述べる。
【0028】
実施例2(固形食品中の枯草菌胞子の殺菌)
固形食品を対象とするため、電極間隔を10mmに設定した平行平板電極(対向面は10mm×20mm)に、0.5%濃度の滅菌した食塩水および市販の無調整豆乳に枯草菌胞子を添加したもの2mlを注入し、両電極に繰り返し周波数10kHzの高電界パルスを印加した(図11参照)。試料中心部に挿入した蛍光温度計により、試料温度が95℃に到達した瞬間(3分〜10秒)、パルスの印加を中止し、試料中の枯草菌胞子数をカウントした。図12にパルス電界強度と食塩水中の残存枯草菌胞子数および図13にパルス電界強度と豆乳中の残存枯草菌胞子数プロットした。この結果より、電界強度に比例して殺菌効率が高くなることが分かった。特に、食塩水に2000V/cmのパルス電界を印加した場合、10秒で95℃に達し、枯草菌胞子を106オーダー以上殺菌することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
醤油や調味液の中には塩分を含むため、電気伝導率が高い食品材料が多い。それら食品材料の品質を維持しつつ、安全性を高めるために本発明の殺菌方法が有用である。また、固形食品に対しても高周波パルス電界による短時間殺菌が可能なことが分かった。本発明の殺菌方法は装置が簡便であり、かつ連続・大量処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る殺菌装置の全体図
【図2】図1に示した殺菌装置の一部をなす通電ユニットの一部分解斜視図
【図3】通電ユニットの縦断面図
【図4】111Vrmsの交流と180Vのパルスを重畳した波形を示すグラフ
【図5】各種液状食品および食塩水の電気伝導率を示すグラフ
【図6】処理温度が65℃及び70℃のときの印加電圧と殺菌効果との関係を示すグラフ
【図7】未処理、電圧105Vの交流(2100V/cm)、電圧100Vの交流にピーク電圧50Vのパルスを重畳したもの(3000V/cm)を印加したときの大腸菌の殺菌効果を示すグラフ
【図8】入口側に交流電界用電極、出口側にパルス電界用電極を配置した殺菌装置の通電ユニットの断面図
【図9】(a)は殺菌対象に加えられる交流電界の波形、(b)は殺菌対象に加えられるパルス電界の波形
【図10】固形材料に対応した平行平板電極による高電界パルス印加装置の全体図
【図11】ピーク電界1.6kVのパルス波形を示すグラフ
【図12】0.5%の食塩水に枯草菌を加えたものを1E0としたとき、パルスの印加電界強度を変化させて印加して材料温度が95℃となったものの枯草菌胞子数の減少量を対数で示すグラフ
【図13】市販の豆乳に枯草菌を加えたものを1E0としたとき、パルスの印加電界強度を変化させて印加して材料温度が95℃となったものの枯草菌胞子数の減少量を対数で示すグラフ
【符号の説明】
【0031】
1…殺菌対象を貯留するタンク、2…通電ユニット、3…ポンプ、4…電源装置、5…冷却用タンク、6…記録装置、7…コントローラ、21…上部絶縁体、22…中間絶縁体、23…下部絶縁体、24…段付き穴、25,26…流路、27,28…電極、31,32…交流電界用電極、33,34…パルス電界用電極、40…高周波パルス発生装置、41…通電ユニット、43,44…平行平板型電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上、周波数が1kHz以上の高周波パルス電界を印加する少なくとも一対の電極を備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上のパルス電界と殺菌対象の温度を90℃まで上昇させる交流電界とが重畳した電界を印加する少なくとも一対の電極を備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項3】
殺菌対象が連続的に流れる流路と、この流路の入口側に配置され殺菌対象に交流電界を印加する少なくとも一対の電極と、前記流路の出口側に配置され殺菌対象にパルス電界を印加する少なくとも一対の電極とを備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項4】
請求項1に記載の殺菌装置において、前記パルスのパルス幅は1μs以上、周波数は1kHz以上であることを特徴とする殺菌装置。
【請求項1】
殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上、周波数が1kHz以上の高周波パルス電界を印加する少なくとも一対の電極を備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
殺菌対象に対し、電界強度が1.0kV/cm以上のパルス電界と殺菌対象の温度を90℃まで上昇させる交流電界とが重畳した電界を印加する少なくとも一対の電極を備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項3】
殺菌対象が連続的に流れる流路と、この流路の入口側に配置され殺菌対象に交流電界を印加する少なくとも一対の電極と、前記流路の出口側に配置され殺菌対象にパルス電界を印加する少なくとも一対の電極とを備えたことを特徴とする殺菌装置。
【請求項4】
請求項1に記載の殺菌装置において、前記パルスのパルス幅は1μs以上、周波数は1kHz以上であることを特徴とする殺菌装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−229319(P2007−229319A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57049(P2006−57049)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]