説明

毛様体筋緊張緩和剤

【課題】 毛様体筋緊張緩和剤並びに毛様体筋緊張緩和作用を有する医薬品および飲食品を提供し、さらに毛様体筋の緊張を原因とする調節性眼精疲労の改善効果を有する医薬品および飲食品を提供すること。
【解決手段】 6−ジンゲロール又はそれを含有するショウガ科植物抽出物を有効成分とする毛様体筋緊張緩和剤並びにこれを含有する医薬品および飲食品を提供する。6−ジンゲロールは食品成分由来であるため安全性が高く、入手が容易であり、また着色が薄いため、様々な形態の医薬品や飲食品に好適に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼精疲労を改善させることを目的とした毛様体筋緊張緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年はVDT(visual display terminal)作業等、長時間にわたる近距離の注視作業による眼精疲労が問題となっており、眼痛だけでなく、めまい、頭痛、嘔吐、肩こり等の様々な身体症状を伴うため、作業効率が低下し、そのため、その改善ニーズが高まっている。
上記の眼精疲労は、毛様体筋の過度の緊張による眼のピント調節力の低下を主原因とする調節性の眼精疲労と考えられており、眼精疲労の回復には、毛様体筋の過度の緊張を緩和させることが最も有効とされている。
【0003】
従来、調節性の眼精疲労に対しては、メチル硫酸ネオスチグミンのような血管収縮剤やシアノコバラミン、ピリドキシンなどのビタミン剤などの点眼薬が汎用されてきた(非特許文献1)。
特に、メチル硫酸ネオスチグミンは広く使用されており、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの作用を阻害することにより、副交感神経を興奮させることによって神経系を介して毛様体筋に作用し、調節機能を改善する毛様体筋の緊張緩和剤として作用することが知られているが、その効果は十分でなかった。そのため、メチル硫酸ネオスチグミンとビタミンとアミノ酸などの成分とを組み合わせて効果の改善が行われている(特許文献1)。
【0004】
また、経口摂取によって眼精疲労を改善するものとして、カシスアントシアニンが知られている(特許文献2)。
カシスアントシアニンは、食品成分として食経験があり、安全性の問題が少なく、毛様体筋の緊張緩和に対して有効であるが、高価であり、飲食品に添加した場合に着色などの問題があり、使用が限定されていた。
さらに、カシスアントシアニンは、収縮剤としてエンドセリンを用いて毛様筋を収縮させた場合には筋収縮を弛緩するが、収縮剤として一般的に使用されるカルバコールを用いて収縮させた場合には、毛様体筋を弛緩させる作用がないことが知られており(非特許文献2)、その作用は限定的であった。
【0005】
一方、6−ジンゲロールは、ショウガ科植物に特徴的な成分として知られ、鎮痛作用(特許文献3)、強心作用(特許文献4)、血行促進作用(特許文献5)、ラジカル消去作用(特許文献6)、消化管運動促進作用(非特許文献3)、角層修復促進作用(特許文献7)など様々な生理活性を有することが知られており、これらの生理活性のうち、血行促進作用や角層修復促進作用は経口投与で発揮されることが開示されている。
上記の各作用は、いずれも6−ジンゲロールだけでなく、8−ジンゲロールやショウガオールなど6−ジンゲロールと構造的に類似の化合物にも認められており、ジンゲロール類に共通する作用であることが知られている。
また、毛様体筋に対する作用や眼精疲労の改善作用については、6−ジンゲロールを含むジンゲロール類では、まったく知られていなかった。
【0006】
さらに、6−ジンゲロールを含有するショウガやショウガ抽出物は、悪心嘔吐の改善剤として古くから用いられているが、点眼薬の処方として、ショウガ香料を配合することが開示されている(特許文献8)。
上記点眼薬において、ショウガ香料は清涼剤として使用されており、清涼感を与えることによって持続的開眼状態に戻すことに有効であり、軽度の眼の不快な自覚症状の改善や眠気に対して効果があることが開示されている。しかし、ショウガについて、毛様体筋の過度の緊張や毛様体筋の過緊張を原因とする調節性の眼精疲労に対する作用はまったく知られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−143064号公報
【特許文献2】国際公開01/001798号公報
【特許文献3】特公昭59−1684号公報
【特許文献4】特公昭64−921号公報
【特許文献5】特開平6−183959号公報
【特許文献6】特開平2−193930号公報
【特許文献7】特開平6−239736号公報
【特許文献8】国際公開02/28404公報
【非特許文献1】OTCハンドブック 2002−03、学術情報流通センター発行、542−544(2002)
【非特許文献2】Experimental Eye Research、80、313−322(2005)
【非特許文献3】International Journal of Food Sciences and Nutrition、57、65−73(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、過度の毛様体筋緊張を緩和させる毛様体筋緊張緩和剤、および毛様体筋緊張緩和作用を有する医薬品および飲食品を提供することにあり、さらに毛様体筋緊張を原因とする調節性眼精疲労の改善効果を有する医薬品または飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決する方法として、有効物質の安全性が最も重要であると考え、食経験が十分にある食品成分に着目した。
そして、食品成分の中でも、入手が容易で、飲食品に添加した場合でも色調などの食品の品質に大きな影響を及ぼさない成分に特に着目した。
また、毛様体筋緊張緩和能のアッセイ系として、ウシなどから調製した毛様体筋切片を用い、生理学的な意義が明らかとなっている筋収縮剤としてカルバコールを使用する試験系を採用することによって、従来とは異なる新規でかつ優れた作用を有する新規化合物が見出せると考えた。
【0010】
そして、食経験があり、入手が容易な多数の食品素材について検討し、その結果、ショウガ科植物の抽出物に顕著な毛様体筋緊張緩和作用があることを見出した。そして、その有効成分を検討し、6−ジンゲロールが有効成分であることを見出した。
さらに、6−ジンゲロール、または6−ジンゲロールを含有するショウガ科植物抽出物を点眼薬、経口医薬品などの医薬品や飲食品に添加することにより、毛様体筋の緊張緩和に有効であること、さらに、6−ジンゲロール、または6−ジンゲロールを含有するショウガ科植物抽出物が調節性の眼精疲労を改善することができ、これを医薬品や飲食品に添加することにより、調節性の眼精疲労の改善に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のごとくである。
(1)6−ジンゲロールを有効成分とする毛様体筋緊張緩和剤。
(2)6−ジンゲロールを含有するショウガ抽出物を有効成分とする毛様体筋緊張緩和剤。
(3)(1)または(2)に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する毛様体筋緊張緩和用医薬品または飲食品。
(4)(1)または(2)に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する眼精疲労改善剤。
(5)(1)または(2)に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する眼精疲労改善用医薬品または飲食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、毛様体筋の過緊張を緩和する緩和剤および前記緩和剤を有効成分として含有する医薬品および飲食品が提供され、さらに調節性眼精疲労を改善することができる医薬品および飲食品が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の6−ジンゲロール(6−gingerol)は、(S)−5−ヒドロキシ−1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)デカン−3−オン((S)−5−Hydroxy−1−(4−hydroxy−3−methoxyphenyl)decan−3−one)を指す。
【0014】
6−ジンゲロールは、合成によって製造されたものでも、天然物からの抽出物でもよい。
天然物としては6−ジンゲロールを含有する植物が挙げられ、ショウガ(Zingiber officinale)やキョウオウ(春ウコン)(Curcuma aromatica)などのショウガ科(Zingiberaceae)の植物が好ましく、入手が容易なことから特にショウガが好ましい。
【0015】
ショウガの品種や産地、採取時期に特に限定はなく、三州(黄ショウガ)や金時などの品種に代表される小ショウガ、房州などの品種に代表される中ショウガ、近江や印度などの品種に代表される大ショウガ、および赤ショウガなどを用いることができるが、特に6−ジンゲロールが豊富な黄ショウガや金時の根茎が好ましい。
乾燥させたショウガは、6−ジンゲロールの一部がショウガオールに変換されており、6−ジンゲロールの含量が低くなっているため、新鮮なショウガの根茎を使用することが好ましい。
これらの抽出源は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
ショウガ科植物からの抽出方法に特に限定はなく、圧搾抽出、水または熱水抽出、酢酸やクエン酸などの有機酸による抽出、エタノールやメタノール等のアルコール類、ヘキサン、酢酸エチル等の有機溶媒による抽出、あるいは有機溶媒と水の混合液による抽出などを用いることができるが、抽出効率や安全性の面などから、水、エタノール、またはエタノールに水を混合して調製した含水エタノールで抽出することが好ましい。
【0017】
水抽出は、他のジンゲロール類化合物と比較して、6−ジンゲロールが抽出されやすく、6−ジンゲロールを選択的に抽出できるため、好ましい。
エタノール抽出は、6−ジンゲロールの抽出効率が高く、水と比較して抽出液の濃縮が容易であり、残存しても毒性の問題を生じない点で優れており、好ましい。
また、水抽出は抽出効率が低く、エタノール抽出は抽出選択性が水より劣るが効率的に6−ジンゲロールを抽出できるため、水とエタノールの併用、すなわち含水エタノール液による抽出も好ましい。
【0018】
抽出条件は、例えば、原料の1〜100容量倍の溶媒で約0℃〜100℃にて0.5〜50時間の条件で抽出することができるが、高温では6−ジンゲロールが熱分解されることから、なるべく4℃〜60℃程度の低温で抽出することが好ましい。
また、pH7の中性では6−ジンゲロールが分解されるので酸性条件で抽出することが好ましい。
【0019】
本発明では、上記の如く得られたショウガ科植物抽出物をそのまま毛様体筋緊張緩和剤とすることもできる。
また、必要であれば以下のように濃縮、(粗)精製したものを用いることもできる。すなわち、溶媒中に6−ジンゲロールを溶出させた後、ろ過して抽出残渣を取り除いて得た抽出液から、ロータリーエバポレーター等による濃縮後、遠心エバポレーターあるいは凍結乾燥等により、乾燥、固化させ、抽出物を得ることができる。さらに、カラムクロマトグラフィー等により、さらに純度を高めることができる。
【0020】
6−ジンゲロールの定量は、生薬学雑誌、40(3)、333〜339(1986)やJournal of AOAC INTERNATIONAL、90(5)、1219〜1226(2007)に記載された方法などで高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて可能である。
【0021】
ショウガには、6−ジンゲロールと類似の構造を有する8−ジンゲロール、10−ジンゲロール、6−ショウガオールなど数種の類縁体(6−ジンゲロール類縁体)が存在しており、通常は6−ジンゲロールと同時に抽出されるが、下記の実施例に示すごとく、上記類縁体には毛様体筋緊張緩和作用はない。
しかし、上記類縁体は、清涼作用は有しているので、上記類縁体の含量が高いと、それらの刺激性のため6−ジンゲロールの投与量が制限されてしまうことから、本発明において6−ジンゲロール類縁体はできるだけ除去することが好ましい。
【0022】
また、実施例2に示すごとく、ショウガ抽出物は、同量の6−ジンゲロールを用いた場合と同等以上の毛様体筋の緊張緩和作用を示すことから、本発明においては6−ジンゲロール以外の不純物をほとんど含有しない精製物だけでなく、粗精製のものや6−ジンゲロール含有物などのショウガ科植物抽出物を用いてもよい。
【0023】
本発明の毛様体筋緊張緩和作用は、たとえば、Journal of Physiology、559(3)、899−922(2004)に記載の方法で測定することができる。
すなわち、ウシ眼球から摘出した毛様体筋をあらかじめ収縮剤であるカルバコールで処理して毛様体筋を収縮させ、その状態でサンプルを添加し、添加によって引き起こされた毛様体筋の収縮度の変化を測定することにより、毛様体筋緊張緩和作用を測定できる。
【0024】
本発明の6−ジンゲロールを有効成分として含有する毛様体筋緊張緩和剤は、特に形状等に限定はなく、6−ジンゲロールまたは6−ジンゲロール含有ショウガ科植物抽出物をそのまま用いてもよく、また、濃縮して濃縮物としてもよいし、乾燥させて固形状としてもよいし、含水エタノール等で希釈して液状希釈物としてもよく、さらに、6−ジンゲロールの作用に影響を与えないような増量剤や分散剤などを含有させて、粉末状、顆粒状、打錠や液状としてもよい。
6−ジンゲロールは中性や低酸性では不安定なことから、液状、固形状のいずれの形状であっても、pH2〜pH6とすることが好ましい。
【0025】
本発明の毛様体筋緊張緩和剤は、そのままの形で眼に局所的に投与した場合や経口摂取した場合だけでなく、点眼薬などに配合して眼に局所的に投与した場合、または経口摂取できる形態の医薬品に配合した組成物や本発明の毛様体筋緊張緩和剤を添加した飲食品を経口摂取した場合にも、毛様体筋の緊張を緩和することができる。
【0026】
本発明において、6−ジンゲロール又はそれを含むショウガ科植物抽出物を毛様体筋緊張緩和剤として点眼薬などの眼局所投与用の医薬品に配合する場合、眼局所投与用の医薬組成物への6−ジンゲロールの配合量は、眼精疲労の症状、その目的、用途などにより一様ではないが、全質量に対して、6−ジンゲロールとして、通常約0.0001質量%〜1質量%、好ましくは0.0005質量%〜0.5質量%、より好ましくは0.005質量%〜0.05質量%である。
これより低い濃度であると効果を発揮できず、これ以上の濃度では、眼に対して過度の刺激があり、適さない。
【0027】
上記眼局所投与用医薬組成物には、6−ジンゲロールと作用機序の異なる毛様体筋緊張緩和作用を示すメチル硫酸ネオスチグミンやビタミンB12、ビタミンB6などを混合することも可能であり、これらを添加することによって相乗的な改善効果が期待できる。
上記眼局所投与用医薬組成物には、必要に応じて他の薬効成分や緩衝剤、保存剤など医学上許容される成分を添加することができる。
【0028】
本発明において、6−ジンゲロール又はそれを含むショウガ科植物抽出物を毛様体筋緊張緩和剤として配合して経口摂取可能な医薬品組成物とする場合、組成物の形状等に特に限定はない。なお、6−ジンゲロールは腸管で吸収されることが知られているが、胃の強い酸性pH下では不安定であることから、胃中での分解をなるべく抑制される形態が好ましく、具体的には、錠剤、顆粒、カプセル剤、粉剤、散剤、液剤が好ましい。
必要に応じて、安定化剤、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、分散剤、緩衝剤、防腐剤、コーティング剤、保存剤、矯味剤、香料、着色剤などを添加することができる。
【0029】
また、上記経口用医薬組成物には、カシスアントシアニンなどの経口摂取によって毛様体の緊張緩和作用や眼精疲労作用を発揮する化合物など、他の薬効成分を配合することができる。
上記経口用医薬組成物による6−ジンゲロールの摂取量としては、1日0.00001g〜3gが好ましい。これより低い量であると効果が発揮できず、これ以上の濃度であると消化管等への過度の影響がある。
【0030】
また、本発明の毛様体筋緊張緩和剤は、色が薄いために飲食品に添加しても外観に大きな影響を及ぼさないため、飲食品に添加して、毛様体筋の緊張を緩和し、眼精疲労を改善する飲食品とすることも可能である。
添加できる飲食品に特に限定はなく、例えば、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、飲料(トマトやニンジンなどの野菜ジュース、リンゴやブドウなどの果物ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(チーズ、牛乳、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(ドレッシング、食酢、味噌、醤油、麺つゆ等)、スープ類、納豆、酒類、香辛料をはじめとする一般食品や健康食品、栄養補助食品、食品素材などが挙げられる。
【0031】
これら飲食品には、その種類に応じて種々の成分を配合することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、食塩、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤、キサンタンガムやカラギーナンなどの増粘多糖類、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB群などのビタミン類、アミノ酸類、カルシウムなどの塩類、色素、香料、保存剤等の食品素材を使用することができる。これらは1種のみを配合しても良いし、2種類以上併用しても良い。
【0032】
本発明の毛様体筋緊張緩和剤を含有する飲食品の製造方法としては、製造過程で過度の熱負荷がかかると、6−ジンゲロールの分解が起こるため、熱負荷の低い製造方法が好ましい。
本発明の毛様体筋緊張緩和剤の飲食品への配合量に特に制限はないが、6−ジンゲロールの含量が0.001〜20質量%であるのが好ましい。
これより低い濃度であると効果を発揮できず、これ以上の濃度であると消化管等への過度の刺激があり、飲食するには不適となる。
【0033】
また、毛様体筋の過度の緊張は、眼精疲労を引き起こし、毛様体筋のピント調節機能の低下のみならず、めまい、頭痛、嘔吐、肩こり等の様々な身体症状の不定症状を生じ、作業効率の低下等が起こる。
さらに、上記の毛様体筋緊張緩和剤を配合した医薬品や飲食品は、投与あるいは摂取することによって毛様体筋の過緊張を緩和することができるため、視力、フリッカーテストやアコモドグラムなどによって測定できる毛様体筋のピント調節機能が改善し、眼精疲労に伴う自覚症状の改善やクレペリン検査などで測定できる低下した作業効率の改善が見られ、眼精疲労の改善に有効である。
また、毛様体筋の過緊張は仮性近視の場合にも見られ、毛様体筋緊張の緩和効果は、眼のピント調節機能を回復させることができ、仮性近視の改善もできる。
【0034】
以下に、本発明を実施例等によって詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
〔6−ジンゲロールの毛様体筋緊張緩和作用〕
種々の量の6−ジンゲロール(和光純薬工業株式会社製、純度98%)をDMSO(Dimethyl sulfoxide)0.1%(v/v)含むKrebs溶液(154mM NaCl、154mM KCl、102.7mM MgCl、308mM Glucose、154mM HEPES、102.7mM CaCl)に溶解し、6−ジンゲロールをそれぞれ0.00009%(w/v)、0.0003%(w/v)、0.0009%(w/v)、0.003%(w/v)、0.006%(w/v)、0.009%(w/v)、0.03%(w/v)含有する7種類の6−ジンゲロール溶液を作成した。
【0036】
上記7種類の6−ジンゲロール溶液の毛様体筋緊張緩和作用をJournal of Physiology、559(3)、899−922(2004)に記載の方法に準じて行った。
すなわち、屠殺ウシ眼球から毛様体筋を摘出し、縦走方向に長軸がなるように長さ7mm×幅2mmの切片標本を作製した。この標本の両端を手術用縫合糸(ナイロン縫合糸9−0、株式会社シラカワ製)で縛り、一方の端を37℃に維持した上記Krebs溶液を1mL/分の速度で灌流させたチャンバー内に固定して切片標本を懸垂状態にし、他方の端を張力センサー(ロードセル UL−2GR、ミネベア株式会社製)につないで、張力センサーを用いて毛様体筋切片の等尺性張力を測定できるようにした。張力センサーからの出力は、増幅器(ロードセルコンバータ LC−240、ユニパルス株式会社製)にて増幅し、ペンレコーダー(フラットベッドレコーダー FRB−253A、日置電機株式会社製)に接続して等尺性張力の変化を記録した。
【0037】
各溶液の毛様体筋の緊張を緩和する作用は、以下のように測定した。
まず、Krebs溶液を灌流して弛緩した状態の等尺性張力を測定し、次に灌流液にカルバコールを2×10−6mol/Lの濃度で添加して毛様体筋の収縮反応を惹起し、その後、収縮反応が安定化した時点でカルバコール添加前後の等尺性張力を測定し、カルバコールの添加前後の等尺性張力変化をカルバコールの収縮力(収縮力A)とした。
次に、カルバコールによって収縮した状態の毛様体筋に対して、上記の各種濃度の6−ジンゲロール溶液で灌流した。6−ジンゲロール溶液で30分間処理した後に等尺性張力を測定し、その後、灌流液を上記Krebs溶液に置換して再び弛緩状態に戻した時の等尺性張力を測定し、その差を各サンプルの収縮力(収縮力B)とした。
【0038】
各溶液の緊張緩和度は、以下の式で算出した。
【数1】

【0039】
ここで、緊張緩和度0%は、収縮力Aと収縮力Bが同じである場合で、サンプルを投与しても、カルバコールによって惹起された毛様体筋の収縮に影響を与えなかったことを意味する。また、緊張緩和度100%は、収縮力Bがゼロとなる場合で、カルバコールによって惹起された毛様体筋収縮は、サンプルによって完全に弛緩状態に戻ったことを意味する。
【0040】
結果を図1に示した。
0.00009%では緊張緩和は全く見られず、6−ジンゲロールは効果がなかったが、それ以上の濃度では濃度依存的に緊張が緩和され、0.03%では緊張緩和度は100%となり、カルバコールによって惹起された緊張は完全に抑制され、弛緩状態となった。
このことから、6−ジンゲロールは、毛様体筋の緊張を緩和する作用があることが分かった。
【実施例2】
【0041】
〔6−ジンゲロール含有黄ショウガエタノール抽出物の毛様体筋緊張緩和作用〕
新鮮な黄ショウガの根茎63gに対して、原料の15倍容量の80%(v/v)エタノール水溶液を加えて室温で1時間振盪し、次いで4℃で静置して6−ジンゲロールを抽出した後、抽出液をろ紙(ADVANTEC No.5A 150mm、アドバンテック東洋株式会社製)でろ過してろ過液を得、このろ過液をロータリーエバポレーター(EYELA製、型式N−N)にて35〜50℃で濃縮して濃縮液を得、さらにこの濃縮物を遠心エバポレーター(EYELA製、型式CVE−200D)で減圧乾固して6−ジンゲロールを含有する黄ショウガ抽出物を得た。この抽出物の6−ジンゲロール濃度は2.3%(w/w)であった。
【0042】
この抽出物をDMSO 0.1%(v/v)を含む実施例1記載のKrebs溶液に3mg/mLの濃度で溶解し(6−ジンゲロール濃度0.0069%(w/v))、溶液を調製した。この溶液の毛様体筋の緊張緩和作用を実施例1と同様に測定したところ、緊張緩和度は62.6%であった。
【実施例3】
【0043】
〔6−ジンゲロール含有黄ショウガ搾汁抽出物の毛様体筋緊張緩和作用〕
新鮮な黄ショウガの根茎72gを、室温でおろし金を用いて磨り下ろし、摩り下ろし物をナイロンメッシュで絞り、固形分を除去して6−ジンゲロールを含有する黄ショウガ抽出物45gを得た。この抽出物の6−ジンゲロール濃度は0.0621%(w/w)であった。
【0044】
この抽出物をDMSO 0.1%(v/v)を含む実施例1記載のKrebs溶液に86mg/mLの濃度で溶解し(6−ジンゲロール濃度0.00534%(w/v))、溶液を調製した。この溶液の毛様体筋の緊張緩和作用を実施例1と同様に測定したところ、緊張緩和度は81.7%であった。
【実施例4】
【0045】
〔6−ジンゲロール含有赤ショウガ抽出物の毛様体筋緊張緩和作用〕
実施例1の6−ジンゲロールの代わりに、赤ショウガ含水エタノール抽出物(商品名 赤ショウガエキス−P、オリザ油化株式会社製、6−ジンゲロール6%(w/w)含有)を実施例1と同一のDMSO 0.1%(v/v)を含むKrebs溶液に1mg/mLの濃度で溶解した溶液(6−ジンゲロール濃度0.006%(w/v))を調製した。
この溶液の毛様体筋の緊張緩和作用を実施例1と同様に測定したところ、緊張緩和度は45.0%であった。
【実施例5】
【0046】
〔6−ジンゲロール含有親ショウガ抽出物の毛様体筋緊張緩和作用〕
親ショウガ圧搾抽出濃縮エキス(商品名 フレッシュジンジャーエキス、池田糖化工業株式会社製、6−ジンゲロール濃度0.465%(w/w))21mgを、実施例1記載のKrebs溶液1mLに溶解した溶液(6−ジンゲロール濃度0.00977%(w/v))を調製した。
この溶液の毛様体筋の緊張緩和作用を実施例1と同様に測定したところ、緊張緩和度は96.3%であった。
【実施例6】
【0047】
〔6−ジンゲロールおよび6−ジンゲロール類縁体の毛様体筋緊張緩和作用〕
6−ジンゲロール(和光純薬工業株式会社製、純度98%)を実施例1と同一のDMSO 0.1%(v/v)を含むKrebs溶液に溶解した溶液(6−ジンゲロール濃度0.006%(w/v)、200μMに相当)を、実施例6とした。
【0048】
実施例6の6−ジンゲロールの代わりに、6−ジンゲロールと同一モル濃度(200μM)となるように8−ジンゲロール(和光純薬工業株式会社製、純度86%)を溶解した溶液(8−ジンゲロール濃度0.006%(w/v))を、比較例1とした。
同様に、実施例6の6−ジンゲロールの代わりに10−ジンゲロール(和光純薬工業株式会社製、純度96%)を溶解した溶液(10−ジンゲロール濃度0.007%(w/v)、200μM相当)を比較例2とし、6−ショウガオール(和光純薬工業株式会社製)を溶解した溶液(6−ショウガオール濃度0.006%(w/v)、200μM相当)を比較例3とした。
【0049】
上記の各溶解液の毛様体筋緊張緩和作用を実施例1と同様な方法で測定した。
結果を表1に示した。
6−ジンゲロールは毛様体筋緊張緩和作用を有するが、8−ジンゲロール、10−ジンゲロール、6−ショウガオールでは緩和作用が認められなかった。
以上のことから、毛様体筋緊張緩和作用は、6−ジンゲロールに特異的な作用で、6−ジンゲロールの構造類縁体にはないことが示された。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ショウガなどの食品成分として摂取されている6−ジンゲロールを有効成分とする毛様体筋の過緊張を緩和する緩和剤および前記緩和剤を有効成分として含有する医薬品および飲食品の提供を可能とする。
さらに、本発明は調節性眼精疲労を改善することができる医薬品および飲食品の提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1における、6−ジンゲロール濃度とウシ眼毛様体筋緊張緩和度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ジンゲロールを有効成分とする毛様体筋緊張緩和剤。
【請求項2】
6−ジンゲロールを含有するショウガ抽出物を有効成分とする毛様体筋緊張緩和剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する毛様体筋緊張緩和用医薬品または飲食品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する眼精疲労改善剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の毛様体筋緊張緩和剤を含有する眼精疲労改善用医薬品または飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100561(P2010−100561A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273057(P2008−273057)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】