説明

毛髪着色効果の促進に適した医薬用又は化粧品用又は栄養用組成物

本発明は、医薬用、化粧品用又は栄養用組成物中における有効成分としての、スペルミジン又はその薬学的に許容できる誘導体の使用に関するものである。上記組成物は、毛髪、特には毛髪の毛幹を着色させるために使用される。また、本発明は、この着色効果を促進する組成物に関するものであり、該組成物は、有効成分としてスペルミジン又はその誘導体(塩等)を含有し、局所又は経口投与を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の毛髪の着色に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の毛嚢は、上皮(例えば、種々の系統のケラチノサイト、内皮)、間葉系(例えば、毛乳頭線維芽細胞、結合組織鞘線維芽細胞)、神経外胚葉(神経、メラノサイト)細胞集団、及び一過性移動細胞(免疫細胞、マスト細胞)の相互作用がある複雑な器官である。
【0003】
毛髪繊維の成長及び着色は、毛周期、体内分布、年齢差及びジャンル差、変わりやすいホルモン感受性、遺伝子欠陥、並びに年齢に関連した変化による変化を含む幾つかの内因性因子によって影響される。また、毛髪の成長の研究は、気候及び季節、汚染物質、毒素並びに化学物質への曝露を含む外因性の変わるものによっても複雑にされる。表皮と毛嚢での着色の調節の間に見出される相違点は、哺乳動物の皮膚の色素形成システムの区画への分割を反映する。
【0004】
表皮の、毛嚢球の、及び毛嚢外毛根鞘の鞘の、メラノサイトは、哺乳動物の皮膚の色素形成を開放システムとして理解しなければならないという事実にもかかわらず、お互いに大変異なっている。重要な違いは、それぞれのメラノサイト−ケラチノサイト機能単位の性質の違いである。毛球のメラミン単位は、近位成長期球(皮膚及び全体の免疫学的に特徴的な領域である)中に見られ、毛球中における5個のケラチノサイト毎に1個のメラノサイトによって形成されており、毛球基質の基底層中では、各ケラチノサイトに対して1個のメラノサイトである。これに対して、各表皮メラノサイトは、免疫担当性の表皮メラニン単位において、36個の重要なケラチノサイトに関連している。
【0005】
しかしながら、これら2つのメラノサイト皮膚集団の間で最も自明で、毛髪着色の調節のためにかなり意味のある相違点は、毛球メラノサイト活性が循環制御の影響を受けやすいという観察と、メラニン形成が毛髪成長周期に厳密に関連しているという観察である。一方、皮膚メラニン形成は、連続的であるように思われる。
【発明の概要】
【0006】
驚くべきことに、スペルミジン化合物、即ちN−(3−アミノプロピル)ブタン−1,4−ジアミンそれ自体又は塩等の薬学的に許容できる誘導体の形態としてのものが、毛髪に対するメラニン形成活性を備えており、それ故に、その着色、特には毛幹着色の促進のために効果的に使用できることを見出した。これが、本発明の目的である。
【0007】
かかる活性は、例えば毛髪染料に特有な、負の副作用がない天然着色剤としての人間の活性化合物の使用を構成することを可能にする。
【0008】
また、本発明の目的は、かかる着色効果の促進に適している医薬用又は化粧品用又は栄養用組成物であって、それ故に、局所又は経口投与のため、有効成分として、スペルミジンを単独又は塩等の薬学的に許容できる誘導体の形態で含有する組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ビヒクルのみで処置した対照グループと濃度が0.1μMのスペルミジン3HClで処置したグループを測定し、それらの間で比較された、毛嚢における着色強度に関する図である。
【図2】マッソン・フォンタナ染色によってメラニンの組織化学ディスプレイから取られた対応画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に従う好ましい塩は、スペルミジン三塩酸塩、即ちN−(3−アミノプロピル)ブタン−1,4−ジアミン・3HClである。
【0011】
本発明の組成物は、局所使用のために配合された溶液中においてスペルミジン三塩酸塩を含むことが好ましい。局所使用に適した形態は、例えば、ローション、コンディショナー、シャンプー、マスクである。
【0012】
本発明の異なる組成物は、経口使用のために配合された投与単位中においてスペルミジン三塩酸塩を含むことが好ましい。経口使用に適した形態は、例えば、被覆された若しくは被覆されていないタブレット若しくはカプセル、又は水若しくは他の液体中に分散させるための粒質物である。
【0013】
スペルミジンそれ自体又は塩等の薬学的に許容できる誘導体の形態としてのものは、好ましくは以下に示す範囲の量に従って、本発明の組成物中に含有されている:
・ 10−7〜1g/100ml,0.004〜4・10μMに相当
・ 10−5〜1g/100ml,0.4〜4・10μMに相当
・ 10−4〜2.4・10−2g/100ml,4〜9・10μMに相当
【0014】
更に好ましい濃度範囲は、以下の通りである:
・ 10−6〜10−1g/100ml
・ 10−5〜10−2g/100ml
・ 10−4〜10−3g/100ml
・ 10−7〜10−6g/100ml
・ 10−6〜10−5g/100ml
・ 10−5〜10−4g/100ml
・ 10−4〜10−3g/100ml
・ 10−3〜10−2g/100ml
・ 10−2〜10−1g/100ml
・ 10−1〜1g/100ml
【実施例】
【0015】
以下に示す配合物の例は、本発明を説明するが、いかなる方法によっても制限することを目的としていない。成分量は、グラム又はミリグラムで表されており、例1〜4の場合では、濃度範囲によって表される。
【0016】
例1
シャンプー
【表1】

【0017】
例2
ヘアマスク
【表2】

【0018】
例3
ヘアコンディショナー
【表3】

【0019】
例4
ヘアローション
【表4】

【0020】
例5
硬質ゼラチンカプセル
【表5】

【0021】
例6
軟質ゼラチンカプセル
【表6】

【0022】
例7
タブレット
【表7】

【0023】
例8
徐放性被覆タブレット
【表8】

【0024】
例9
即席の溶液を作るためのサシェ中における発泡性粒質物
【表9】

【0025】
以下に、本発明に従うスペルミジンの使用における活性に関する実験的な研究について説明する。
【0026】
活性研究
組織サンプル
正常のヒトの頭皮の皮膚を、インフォームド・コンセントを受けた後に定期フェイスリフト手術を受けた女性から取った。全ての実験は、倫理委員会の承認を受けて、ヘルシンキ・プリンシプルに従い行われた。
【0027】
完全な厚みを持つ皮膚器官培養物
3−4mm円柱状小刀を用いた生検を受ける組織を、100IUml−1のペニシリン、10μgml−1のストレプトマイシン(Gibco,カルルスルーエ,ドイツ)、10μgml−1のインスリン(Sigma,タウフキルヘン,ドイツ)、10ngml−1のヒドロコルチゾン(Sigma)及び2mmolL−1のL−グルタミン(Invitrogen,ペーズリー,U.K.)と一体にし、Williams E培地(Biochem,ケンブリッジ,U.K.)中において、37℃で6日間培養した。
【0028】
次いで、スペルミジン三塩酸塩、又は参照物質としてのビヒクルを、0.1μMの濃度にて、それぞれの培地を変えた時点で(即ち、48時間毎に)、投与した。
【0029】
毛嚢及び器官培養物のマイクロダイセクション
成長期VI相における正常の着色の毛嚢(HF)(灰色/白色毛嚢は研究から除外された)について、正常のヒトの頭皮からマイクロダイセクションを行い、それは、Philpottモデルに基づく器官培養物にさらされている。スペルミジン又はビヒクルを、それぞれの培地を変えた時点で(即ち、48時間毎に)、投与した。
【0030】
LDH測定
上澄みにおけるLDH活性は、細胞毒性の指標として役立ち、それは、製造業者の説明書に従って毎日測定された(細胞毒性検出キット;Roche,マンハイム,ドイツ)。サンプルの吸光度は、ELISAプレートリーダーを用い、490nmにて測定された。
【0031】
毛幹伸長
毛嚢の軸長の測定は、接眼レンズ測定シチクル付きのZeiss倒立双眼顕微鏡を用いて、単一の毛嚢に関し、1日おきに取られた。
【0032】
毛嚢周期段階の決定
毛嚢周期段階の決定は、先に規定したように形態学的基準に基づいて行われ、成長期及び早期の、中期の又は後期の退行期における毛嚢の割合が決定された。
【0033】
毛髪着色
マッソン・フォンタナ染色は、凍結切片上のメラニンの組織化学ディスプレイについて行われた。メラニンを茶色顆粒の形態として染色し、定量マッソン・フォンタナ技術によって着色レベルを決定した(Ito N.,Ito T.,Kromminga A.,Bettermann A.,Takigawa M.,Kees F.,Straub R.H.,及びPaus R.(2005):Human hair follicles display a functional equivalent of the hypothalamic−pituitary−adrenal axis and synthesize cortisol.FASEB J19,1332−4)。
【0034】
この方法は、酵素活性アッセイ及び標準チロシナーゼ発現によって証明されるように、メラニン合成の変化の特に感受性が高く、信頼できる指標である(Kauser S.,Slominski A.,Wei E.T.,及びTobin D.J.(2006):Modulation of the human hair follicle pigmentary unit by corticotropin−releasing hormone and urocortin peptides.FASEB J20,882−95)。
【0035】
染色強度は、イメージJソフトウェア(国立衛生研究所)を用い、毛嚢着色単位の規定された参照領域において分析された。
【0036】
増殖及びアポトーシス測定
増殖マーカーKi−67を用いてコロケーション中におけるアポトーシス細胞を評価するため、Ki−67を用いたTUNEL(末端dUTPニック末端標識)二重染色法を使用した。クリオスタット切片を、パラホルムアルデヒド及びエタノール−酢酸(2:1)中に固定し、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼの存在下において、ジゴキシゲニン−デオキシ−UTP(ApopTagフルオレスセインによりインサイチューでアポトーシスを識別するためのキット;Intergen,パーチェス,NY)を用いて標識付けし、次に、マウスのanti−Ki−67抗血清(4℃にて一晩PBS中において1:20;Dako,グロストルプ,デンマーク)と共にインキュベートした。TUNEL陽性細胞は、複合イソチオシアナートフルオレスセインアンチジゴキシゲニン抗体(キットApopTag)によって示され、一方、Ki−67は、ローダミンで標識付けされたヤギの抗マウス抗体によって検出された(Jackson ImmunoResearch,ウェストグローブ,PA)。陰性コントロールは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ及びKi−67抗体を除いて行われた。対比染色は、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Roche Molecular Biochemicals GmbH,マンハイム,ドイツ)を用いて行われた。定量的な組織形態計測的評価を行った;毛嚢及び皮膚基質の予め規定された参照領域において、Ki−67、TUNEL又はDAPI−陽性細胞をカウントし、陽性Ki−67/TUNEL細胞の割合を決定した。
【0037】
K15の定量的免疫組織化学
ケラチンK15の発現を調べるため、先に説明したチラミドシグナル増幅法を使用した(Kloepper et al.,2008)。簡単に言うと、アセトンによって固定された凍結切片を、TNT(トリス−HCL NaCl Tween)緩衝液(0.1mol/lのTris−HCl,pH7.5;0.15mol/lのNaCl及び0.05%のTween20を含有する)を用いて、5分間3回洗浄した。次いで、等張リン酸緩衝液(PBS)中において3%のHを用いて15分間洗浄することによって、ダイコンペルオキシダーゼをブロックした。アビジン及びビオチンのインキュベーションにより15分間の、中間の洗浄工程によってTNT中5%の正常なヤギの血清と共に30分間の、プレインキュベーションを行った。マウスの抗ヒトK15(クローンLHK15,Chemicon,ビルリカ,USA)をTNT中で希釈し、4℃にて一晩インキュベートし、その後に、二次ヤギ抗マウスビオチン標識抗体(TNT中1:200)が室温にて45分間続いた。次いで、ダイコンストレプトアビジン−ペルオキシダーゼを、室温にて30分間投与した(キットTSA;Perkin−Elmer,ボストン,MA,USA)(TNT中1:100)。FITC−チラミド増幅剤を用いて、その反応を室温にて5分間増幅した(キットによって供給された増幅希釈剤中1:50)。この免疫染色の強度をイメージJ(国立衛生研究所)ソフトウェアによって定量化した。毛嚢中で規定された参照領域の染色強度を測定し、ビヒクルのみを用いて処置した対照グループとスペルミジンを用いて処置したグループの間で比較した。
【0038】
統計分析
対になっていないサンプルについて、二者間のStudent t検定を用い、統計分析を行った。
【0039】
結果
添付図面の図は、説明した実験的な研究の結果を示す。
【0040】
図面の簡単な説明
図1は、ビヒクルのみで処置した対照グループと濃度が0.1μMのスペルミジン3HClで処置したグループを測定し、それらの間で比較された、毛嚢における着色強度に関する図である。
【0041】
図2は、マッソン・フォンタナ染色によってメラニンの組織化学ディスプレイから取られた対応画像を示す。
【0042】
メラニンの増加は、両方の図面から、スペルミジンを用いた処置の場合において、明らかであり、それ故に、かかる化合物によって処置した毛髪に対するメラニン形成活性は、参照ビヒクルと比較して、有意である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪着色、特には毛幹の着色の促進に適した、医薬用又は化粧品用又は栄養用組成物中における有効成分としての、スペルミジンの単独又は薬学的に許容できる誘導体の形態での使用。
【請求項2】
請求項1に従い使用される組成物であって、前記着色効果の促進に適しており、有効成分としてスペルミジンを単独又は塩等の薬学的に許容できる誘導体の形態で含有する、組成物。
【請求項3】
スペルミジンが、スペルミジン三塩酸塩の形態、即ちN−(3−アミノプロピル)ブタン−1,4−ジアミン・3HClである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
頭皮上への局所投与に適した任意の賦形剤と共に配合された前記有効成分を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
ローション又はバルサム又はシャンプー又はヘアマスクの形態としての請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
経口投与に適した任意の賦形剤と共に配合された前記有効成分を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
タブレット(被覆されていてもよいし、被覆されていなくてもよい)、又は硬質若しくは軟質カプセル、又は粒質物の形態としての請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
10−7〜1g/100mlの範囲のスペルミジン三塩酸塩の量に相当する0.004〜4・10μMの範囲の量でスペルミジンを含む、請求項2、3及び4のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
10−5〜1g/100mlの範囲のスペルミジン三塩酸塩の量に相当する0.4〜4・10μMの範囲の量でスペルミジンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
10−4〜2.4・10−2g/100mlの範囲のスペルミジン三塩酸塩の量に相当する3.9〜9.4・10μMの範囲の量でスペルミジンを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
経口使用のために配合された組成物の投与単位当たり0.14〜0.71mgの範囲の量でスペルミジンを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
経口使用のために配合された組成物の投与単位当たり0.25〜1.25mgの範囲の量でスペルミジン三塩酸塩を含む、請求項3〜6のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−500328(P2013−500328A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522327(P2012−522327)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053450
【国際公開番号】WO2011/013087
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504244025)ギウリアニ ソシエタ ペル アチオニ (7)
【Fターム(参考)】