説明

気体圧縮機

【課題】気体圧縮機において,圧力調整弁の製造コストを低減して,気体圧縮機全体の製造コストを低減する。
【解決手段】トリガーバルブ90(圧力調整弁)を,線膨張係数が互いに異なる弁体94と圧力調整通路91が形成されたリヤサイドブロック20とにより構成することで,雰囲気温度に応じた両者の膨張度合いの差によって圧力調整通路91(大径通路92)の開放と閉鎖とを切り替えたものであり,閉鎖時に弁体94と圧力調整通路91との間に,表面粗さや形状の誤差等により隙間が発生する状況があった場合にも,膨張した弁体94がその隙間を埋めることで,高精度の仕上げを行うことなく閉鎖状態を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体圧縮機に関し,詳細には,遠心分離による油分離器に取り付けられる圧力調整弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,空気調和システムには,冷媒ガスなどの気体を圧縮して,空気調和システムに気体を循環させるための気体圧縮機(コンプレッサ)が用いられている。
【0003】
この気体圧縮機は,回転駆動されて気体を圧縮する圧縮機本体がハウジングの内部に収容され,圧縮機本体から高圧の気体が吐出される吐出室が区画して形成され,この吐出室からハウジングの外部に高圧の気体を排出するものである。
【0004】
ここで,圧縮機本体は,圧縮機本体の圧縮室から吐出された高圧の気体から油分を分離する油分離器を有し,油分離器によって分離された油分は,吐出室の底部に溜められる。
【0005】
そして,この吐出室底部に溜められた油分は,吐出室内の圧力(高圧気体の圧力)によって圧縮機本体に形成された油路およびベーンに背圧(ベーン背圧)を供給する空間であるベーン背圧空間を通って圧縮機本体内に導かれ,圧縮室内のロータに埋設された複数のベーンを突出させるベーン背圧として利用されている。
【0006】
ところで,気体圧縮機は,その停止状態(非運転状態)が長く続くと吐出室の内圧が低下するため,ベーン背圧空間等の圧力が低下し,いくつかのベーンは自重によりロータのベーン溝内に落ち込み,圧縮室が形成されない状態となる。
【0007】
このような状況下で気体圧縮機が起動すると,ベーンは遠心力やわずかなベーン背圧だけで突出するため,必要なベーン背圧が得られず,したがって圧縮室から所望とする高圧の圧縮気体を得るのに時間がかかる,という問題がある。
【0008】
そこで,気体圧縮機の起動直後に,吐出室に残る相対的に高い圧力の気体をベーン背圧空間に直接導入する圧力調整弁(トリガーバルブ)を設けることで,ベーン背圧を急速に高める技術が提案されている(特許文献1)。
【0009】
この圧力調整弁は,ベーン背圧が作用する中圧空間(ベーン背圧空間自体およびこのベーン背圧空間に通じた空間)と高圧の気体が通る高圧空間(吐出室自体およびこの吐出室に通じた空間)とを通じさせる圧力調整通路と,高圧空間と中圧空間との圧力差に応じてこの圧力調整通路を開閉する弁とを有するものであり,気体圧縮機の起動直後のように圧力差が小さいときは弁を開放することで,高圧空間の比較的高圧の気体を圧力調整通路を通って中圧空間に導入してベーン背圧を高め,これによりベーンを迅速に突出させる。
【0010】
一方,気体圧縮機の定常運転時は,圧力差が大きいため弁は閉鎖され,高圧空間の気体は圧力調整通路を通って中圧空間に導入されることがなく,これにより,ベーン背圧が過度に高められるのを防止して,ベーンとシリンダとが過度に強く接するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−223526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで,上述した圧力調整弁は,圧力調整通路に形成された座と,この座に接して圧力調整通路を閉じた閉鎖位置と座から離れて圧力調整通路を開いた開放位置との間で移動可能とされた金属製のボール弁体と,ボール弁体を開放位置の側に弾性力で押圧するバネとを備えたものとなっている。
【0013】
しかし,ボール弁体と座との接触によって圧力調整通路を閉鎖させるには,ボール弁体と座との接触部の形状を高精度に仕上げる必要がある。
【0014】
このため,圧力調整弁の製造コストを低減するのは困難である。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり,製造コストを低減することができる圧力調整弁を備えた気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る気体圧縮機は,圧力調整弁を,線膨張係数が互いに異なる弁体と圧力調整通路とにより構成することで,雰囲気温度に応じた両者の膨張度合いの差によって圧力調整通路の開放と閉鎖とを切り替えたものであり,閉鎖時に弁体と圧力調整通路との間に,表面粗さや形状の誤差等により隙間が発生する状況があったと仮定しても,膨張した弁体がその隙間を埋めることで閉鎖状態を確保することができ,先行技術の圧力調整弁のような高精度の仕上げを行う必要がなく,製造コストを低減させるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る気体圧縮機によれば,圧力調整弁の製造コストを低減することで,気体圧縮機全体の製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサを示す縦断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿った断面を示す断面図である。
【図3】トリガーバルブが開いている状態を示す要部断面図である。
【図4】トリガーバルブが閉じている状態を示す要部断面図である。
【図5】他の実施形態の一例を示す,図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明の気体圧縮機に係る実施形態について,図面を参照して説明する。
(構成)
図1は本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサ100(以下,単にコンプレッサ100という。)を示す縦断面図,図2は図1におけるA−A線に沿った横断面を示す図である。
【0020】
図示のコンプレッサ100は,例えば,冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下,単に空調システムという。)の一部として構成され,この空調システムの他の構成要素である凝縮器,膨張弁,蒸発器等(いずれも図示を省略する。)とともに冷却媒体の循環経路上に設けられている。
【0021】
そして,コンプレッサ100は,空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスGを圧縮し,この圧縮された冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。凝縮器は,圧縮された冷媒ガスGを液化させ,高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。
【0022】
高圧で液状の冷媒は,膨張弁で低圧化され,蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒は,蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し,この気化熱との熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
【0023】
コンプレッサ100は,ケース11とフロントヘッド12とからなるハウジング10の内部に収容された圧縮機本体70と,フロントヘッド12に取り付けられ,図示しない駆動源からの駆動力を圧縮機本体70に伝える伝達機構80とを備えている。
【0024】
ケース11は,一端が閉じられた筒状体を呈し,フロントヘッド12は,このケース11の開放された側の端部を覆うように組み付けられている。また,フロントヘッド12には,蒸発器から低圧の冷媒ガスGが吸入される吸入ポート(図示を略す。)が形成され,一方,ケース11には,圧縮機本体70で圧縮された高圧の冷媒ガスGを凝縮器に吐出する吐出ポート(図示を略す。)が形成されている。
【0025】
ハウジング10の内部には,ハウジング10の内面と圧縮機本体70の外面とによって,吸入ポートに通じる空間である吸入室31と吐出ポートに通じる空間である吐出室21とが区画して形成されている。
【0026】
圧縮機本体70は,回転軸51と,ロータ50と,シリンダ40と,5つのベーン58と,フロントサイドブロック30と,リヤサイドブロック20と,サイクロンブロック60(油分離器)とからなる。
【0027】
回転軸51は,伝達機構80によって伝達された駆動力により軸回りに回転駆動される。
【0028】
ロータ50は,回転軸51と同軸の円柱状を呈し,回転軸51と一体的に回転する。
【0029】
シリンダ40は,ロータ50の外周面の外方を取り囲む断面輪郭が略楕円形状の内周面49を有するとともに,両端が開放された形状を呈している。
【0030】
ベーン58は,ロータ50の両端面まで延びたベーン溝59に埋設され,ベーン溝59のうちロータ50の両端面に開口した部分を介して供給された冷凍機油Rによるベーン背圧を受けて,ロータ50の外周面から外方に向けて(シリンダ40の内周面49に向けて)突出可能とされ,その突出側の先端がシリンダ40の内周面49の輪郭形状に追従するように突出量が可変とされ,回転軸51回りに等角度間隔で5つ備えられている。
【0031】
フロントサイドブロック30は,シリンダ40の両側端面のうち吸入室31側の端面を覆うように固定され,リヤサイドブロック20は,シリンダ40の両側端面のうち吐出室21側の端面を覆うように固定されている。
【0032】
また,これら2つのサイドブロック20,30の略中央部には,ロータ50の両端面から突出した回転軸51の部分をそれぞれ回転自在に支持する軸受けとしての貫通孔が形成されている。
【0033】
圧縮機本体70のうち,2つのサイドブロック20,30およびシリンダ40で囲まれた内部には,5つの圧縮室48が形成されている。
【0034】
これらの圧縮室48は,2つのサイドブロック20,30,シリンダ40,ロータ50および回転軸51の回転方向に相前後する2つのベーン58,58によって区画された空間である。
【0035】
そして,これらの圧縮室48は,ロータ50の回転にしたがってその容積が増減を繰り返すことで,圧縮室48の内部に吸入された冷媒ガスGを圧縮する。
【0036】
具体的には,圧縮室48の容積が増加する行程において,吸入室31の冷媒ガスGを,フロントサイドブロック30に形成された吸入窓(図示を略す。)を介して圧縮室48内に吸入し,容積が減少する行程において,圧縮室48内に閉じこめられた冷媒ガスGを圧縮し,これによって冷媒ガスGは高温,高圧となり,シリンダ40,ケース11および2つのサイドブロック20,30で囲まれて区画された空間である,回転軸51に対して互いに点対称となる2つの位置に形成された吐出チャンバ43,43(図2参照)に吐出される。
【0037】
各吐出チャンバ43,43に吐出された高温,高圧の冷媒ガスGは,リヤサイドブロック20のうち各吐出チャンバ43,43を区画する部分に形成されたチャンバ孔44,44を通ってリヤサイドブロック20の外部に吐出される。
【0038】
リヤサイドブロック20の外面にはサイクロンブロック60が密着して取り付けられていて,リヤサイドブロック20の各チャンバ孔44,44には,サイクロンブロック60に形成された溝61,61がそれぞれ対向して配置されている。
【0039】
サイクロンブロック60は,下端部が閉じた略円筒状の外周壁を有する本体部64と,その外周壁の内部空間に,外周壁の円筒と略同軸に設けられたパイプ65とを備えていて,2つの溝61,62はそれぞれ,本体部64の外周壁の内側とパイプ65の外側との間の空間に通じている。
【0040】
したがって,リヤサイドブロック20の各チャンバ孔44から吐出した冷媒ガスGは,各チャンバ孔44,44に対応したサイクロンブロック60の溝61,61に流入し,本体部64の外周壁の内側とパイプ65の外側との間の空間に導かれ,その空間内を螺旋状に旋回しながら下方に移動する。
【0041】
圧縮室48から吐出された冷媒ガスGには冷凍機油Rが混在しているが,冷媒ガスGが上記空間を旋回しているときは,その混在している冷凍機油Rも含めた冷媒ガスGに強い遠心力が作用する。
【0042】
この結果,冷媒ガスGに混在している冷凍機油Rは,その遠心力によって冷媒ガスGから分離され,本体部64の内側の底部に落ち,その底部に形成された排出孔64cから図示下方に噴出され,吐出室21の底部に溜められる。
【0043】
一方,冷凍機油Rが分離された冷媒ガスGは,パイプ65の内側の空間を通って図示上方に流れて,サイクロンブロック60の上端の開口から吐出室21を通り,前述した吐出ポートからコンプレッサ100の外部に吐出される。
【0044】
以上のように,圧縮機本体70から吐出された高圧の冷媒ガスGは,吐出チャンバ43,チャンバ孔44,溝61,本体部64の外周壁の内側とパイプ65の外側との間の空間,パイプ65の内側の空間,吐出室21の順に通過する。
【0045】
そして,これらの高圧の冷媒ガスGが通る空間は,その冷媒ガスGの圧力によって高圧となっている。
【0046】
以下,これら吐出チャンバ43,チャンバ孔44,溝61,本体部64の外周壁の内側とパイプ65の外側との間の空間,パイプ65の内側の空間および吐出室21を高圧空間HSという。
【0047】
サイクロンブロック60の,リヤサイドブロック20の外面に密着する面には,リヤサイドブロック20の軸受けとしての貫通孔の周囲に形成されたボスと嵌め合わされる丸穴が形成されていて,サイクロンブロック60がリヤサイドブロック20に密着して取り付けられた状態において,この丸穴とリヤサイドブロック20のボスの端面との間には,ベーン背圧空間69が形成されている。
【0048】
一方,吐出室21の底部に溜められた冷凍機油Rは,コンプレッサ100の摺動部等を潤滑・冷却・清浄するとともに,ベーン58をシリンダ40の内周面49に向けて突出させて,その先端を内周面49に当接させた状態とするようにベーン58に背圧(ベーン背圧)を作用させるなどに用いられる。
【0049】
圧縮機本体70のリヤサイドブロック20には,吐出室21の底部に溜められ,吐出室21に吐出された冷媒ガスGの圧力により高圧となった冷凍機油Rを,ロータ50の端面まで導く導油路23が形成されている。
【0050】
この導油路23はリヤサイドブロック20の軸受けまで延び,軸受けに導かれた冷凍機油Rの一部は,軸受けと回転軸51の外周面との間の僅かな隙間を通って,リヤサイドブロック20の端面に形成された油溜め用の溝であるサライ溝25に供給される。
【0051】
一方,軸受けに導かれた冷凍機油Rの他の一部は,軸受けと回転軸51の外周面との間の僅かな隙間を通って,サイクロンブロック60が取り付けられている側のベーン背圧空間69に導かれ,このベーン背圧空間69から連通路24を通ってサライ溝25に供給される。
【0052】
なお,これらサライ溝25に供給された冷凍機油Rは,回転軸51の外周面と軸受けとの間の僅かな隙間を通過する間に,圧力損失を受けるため,吐出室21にあるときの圧力(高圧)よりも低い中圧となっている。
【0053】
また,シリンダ40およびフロントサイドブロック30にも,リヤサイドブロック20と同様に,冷凍機油Rを,ロータ50の他方の端面まで導く導油路46,33が形成されている。
【0054】
この導油路33はフロントサイドブロック30の軸受けまで延び,導油路23,46,33を介してフロントサイドブロック30の軸受けに導かれた冷凍機油Rは,この軸受けと回転軸51の外周面との間の僅かな隙間を通って,フロントサイドブロック30の端面に形成されたサライ溝35に供給される。
【0055】
ここで,ロータ50の回転に伴って各ベーン溝59も回転するが,これらベーン溝59の,ロータ50の両端面でそれぞれ開口する部分が,リヤサイドブロック20のサライ溝25,フロントサイドブロック30のサライ溝35にそれぞれ対向している期間中に,サライ溝25,35から冷凍機油Rがベーン溝59に供給され,この供給された冷凍機油Rがベーンを突出させるベーン背圧として作用する。
【0056】
以下,中圧のベーン背圧が作用するベーン背圧空間69,連通路24およびサライ溝25,35を中圧空間MSという。
【0057】
リヤサイドブロック20には,後述する,コンプレッサ100の起動時におけるベーン58の迅速な突出を補助するトリガーバルブ90(圧力調整弁)が設けられている。
【0058】
このトリガーバルブ90は,図3の拡大図に示すように高圧空間HSとしてのチャンバ孔44と中圧空間MSとしてのサライ溝25とを通じさせる圧力調整通路91と,圧力調整通路91に設けられた弁体94とを備えた構成である。
【0059】
ここで,圧力調整通路91は,図示の下側部分が相対的に径の小さい小径通路93(直径D2)として形成され,図示の上側部分が相対的に径の大きい大径通路92(直径D1(>D2))として形成されている。
【0060】
弁体94は高さ方向の長さが比較的短い短円柱状に形成されていて,その常温(例えば摂氏30[度])における直径d1は,大径通路92の直径D1よりも小さく,かつ,小径通路93の直径D2よりも大きく設定されている。
【0061】
ここで,圧力調整通路91はリヤサイドブロック20に形成されているが,リヤサイドブロック20は例えばSi系のアルミニウム乃至アルミニウム合金で形成されていて,その線膨張係数は2.1×10-5[/度]である。
【0062】
一方,弁体94は例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂で形成されていて,その線膨張係数は,リヤサイドブロック20の線膨張係数よりも大きい21.8×10-5[/度]である。
【0063】
また,弁体94は圧力調整通路91の大径通路92に設けられていて,圧縮機本体70の定常運転(コンプレッサ100の起動直後の期間および停止している期間を除いた期間)に対応する雰囲気温度(例えば,摂氏80[度]以上)においては図4に示すように弁体94の外周面と圧力調整通路91の大径通路92の内壁面とが全周にわたって接し,一方,圧縮機本体70の停止状態に対応する雰囲気温度(例えば,摂氏30[度]以下)においては図3に示すように弁体94の外周面と大径通路92の内壁面とのうち少なくと一部が非接触となるように,弁体94の外周面(直径d1)と大径通路92の内壁面(直径D1)との間の隙間が設定されている。
【0064】
具体的には,摂氏30[度]における弁体94の外周面(直径d1)が例えば13.500[mm],大径通路92の内壁面(直径D1)が例えば13.628[mm]に設定されていて,弁体94の外周面と大径通路92の内壁面との間にはΔ(=D1−d1=0.128[mm])の隙間が形成されて一部非接触状態となっている。つまりトリガーバルブ90は開いている。
【0065】
一方,摂氏80[度]における弁体94の外周面(直径d1)は13.647(=13.500+13.500×21.8×10-5×50)[mm],大径通路92の内壁面(直径D1)は13.642(=13.628+13.628×2.1×10-5×50)[mm]となり,弁体94は大径通路92の内壁面に全周にわたって接するため,圧力調整通路91は弁体94によって閉鎖される。つまりトリガーバルブ90は閉じている。
(作用)
以上のように構成された実施形態のコンプレッサ100によれば,定常運転のときは,トリガーバルブ90の雰囲気温度は摂氏80[度]以上になっていて,このときトリガーバルブ90は図4に示すように閉じているため,高圧空間HSと中圧空間MSとが圧力調整通路91によって通じることはない。
【0066】
ここで,コンプレッサ100の通常の運転状態においては,中圧空間MSの圧力はベーン背圧として適正な中圧に維持されているため,トリガーバルブ90が閉じていることによって,高圧空間HSの高圧によって中圧空間MSの圧力を過度に上昇させることがない。
【0067】
一方,コンプレッサ100が長く停止状態(非運転状態)に置かれると,冷媒ガスGの圧力が空気調和システムの全体で均一化するように変化する。
【0068】
この結果,吐出室21の内圧が低下し,これに伴ってベーン背圧となる冷凍機油Rの圧力が低下し,いくつかのベーンは自重によりロータ50のベーン溝59内に沈み込んでしまい,圧縮室48が形成されない状態となる。
【0069】
ここで,トリガーバルブ90を備えていないコンプレッサの場合は,この状態でコンプレッサ100が起動されると,起動直後の初期段階において,一部の圧縮室48が形成されていないため吐出室21の圧力が急激に高められず,したがってベーン溝59に作用する背圧も急激には高められず,結果的に全ての圧縮室48が形成されるまでに長い時間がかかり,通常の運転状態で安定するまでに長い時間を要することになる。
【0070】
これに対して本実施形態のコンプレッサ100はトリガーバルブ90を備えていて,上述の状態,すなわち,コンプレッサ100の停止状態では,トリガーバルブ90の雰囲気温度が摂氏30[度]以下になっていて,このときトリガーバルブ90は開いているため,高圧空間HSと中圧空間MSとが圧力調整通路91によって通じている。
【0071】
したがって,相対的に圧力の高い高圧空間HSから中圧空間MSに向けて冷媒ガスGが流入し,これによって中圧空間MSの圧力が高められる。
【0072】
この結果,ベーン背圧が高められてベーン58の迅速な突出を補助することができ,コンプレッサ100が通常の運転状態で安定するまでに要する時間を短縮することができる。
【0073】
また,本実施形態のコンプレッサ100はトリガーバルブ90が,圧縮機本体70から吐出された高圧の冷媒ガスGが通る高圧空間HSと圧縮機本体70のベーン58を突出させるベーン背圧が作用する中圧空間MSとを通じさせる圧力調整通路91と,圧力調整通路91に設けられた,圧力調整通路91が形成されたリヤサイドブロック20よりも線膨張係数の大きな材質の弁体94とによって構成されていて,雰囲気温度に応じた両者の膨張度合いの差によって圧力調整通路91の開放と閉鎖とを切り替えたものであり,閉鎖時に弁体94と圧力調整通路91(大径通路92)との間に,表面粗さや形状の誤差等により隙間が発生する状況があったと仮定しても,膨張した弁体94がその隙間を埋めることで閉鎖状態を確保することができ,圧力の変動に応じてボール弁体を座に密着させるためにボール弁体および座を高精度に仕上げる必要がなく,製造コストを低減させることができる。
【0074】
しかも,ボール弁体を閉鎖位置または開放位置に押圧するためのバネなどの弾性部材が不要になるため,トリガーバルブの構成部品点数も削減することができ,この部品点数の削減によっても,直接的に製造コストを低減することができる。
【0075】
なお,本実施形態のコンプレッサ100は,トリガーバルブ90が圧縮機本体70のリヤサイドブロック20に形成されたものであるが,本発明の気体圧縮機は,トリガーバルブ90がリヤサイドブロック20に形成されたものに限定されず,サイクロンブロック60など圧縮機本体70の他の部材に形成されてもよい。
【0076】
さらに,トリガーバルブ90は圧縮機本体70に形成されたものでなくてもよく,例えば,一端が高圧空間HSに開口し他端が中圧空間MSに開口した圧力調整通路91が形成された新たな部材を圧縮機本体70に接続等した構成であってもよい。
【0077】
また,本実施形態のコンプレッサ100は,圧力調整通路91が形成された部材であるリヤサイドブロック20がアルミニウム乃至アルミニウム合金で形成されたものであるが,本発明の気体圧縮機は,圧力調整通路91が形成された部材の材質としてこれらアルミニウムやアルミニウム合金に限定されるものではなく,鉄(線膨張係数1.2×10-5[/度])など他の金属であってもよい。
【0078】
さらに,本発明の気体圧縮機における弁体についても,本実施形態のポリテトラフルオロエチレン樹脂に限定されるものではなく,ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂:線膨張係数6.9×10-5[/度])など他の樹脂を適用することもできるし,樹脂以外の材質のものを適用することもできる。
【0079】
つまり,弁体94は圧力調整通路91が形成された部材よりも線膨張係数の大きな材質のものであって,圧縮機本体70の定常運転に対応する雰囲気温度においては弁体94の外周面と圧力調整通路91の内壁面とが全周にわたって接し,圧縮機本体70の停止状態に対応する雰囲気温度においては外周面と内壁面とのうち少なくと一部が非接触となるように,外周面と内壁面との間の隙間が設定されていればよく,弁体の材質と圧力調整通路が形成された部材の材質との関係がこの条件を満たす限り,どのような組み合わせであっても本発明の気体圧縮機として適用することができる。
【0080】
なお,圧力調整通路91が形成された部材として,アルミニウム合金よりも線膨張係数が小さい鉄製のリヤサイドブロック20を適用したものでは,弁体94も,ポリテトラフルオロエチレン樹脂よりも線膨張係数の小さいポリフェニレンサルファイド樹脂を適用するのが好ましい。
【0081】
また,本実施形態のコンプレッサ100は,トリガーバルブ90の開閉を規定する温度差を50[度](停止時の摂氏30[度]〜定常運転時の摂氏80[度])としたが,トリガーバルブ90の開閉を規定する温度差はこの温度差に限定されるものではなく,また低い側の温度(摂氏30[度])や高い側の温度(摂氏50[度])も,これらの具体的な値に限定されるものではない。
【0082】
さらに,本実施形態のコンプレッサ100は,トリガーバルブ90の弁体94を円柱形状として説明したが,本発明の気体圧縮機における弁体は円柱形状のものに限定されるものではない。
【0083】
また,本実施形態においては,弁体94が図示の下方に脱落するのを防止するために,圧力調整通路91として,弁体94の外径(直径d1)よりも小さい小径通路93を含む構成としたが,他の構成によって弁体94の脱落を防止するようにしてもよいし,弁体94の脱落の虞がない場合は,そのような2段階の太さの通路に形成する必要はない。
【0084】
なお,本実施形態においては,図3に示すように,大径通路92と小径通路93との境界の段部が,第1段部92aと,第1段部92aよりも高さHだけ低い第2段部92bとで形成されている。
【0085】
この結果,弁体94の外周面と圧力調整通路91の大径通路92の内壁面との間に隙間があるにも拘わらず,弁体94の底面94aが大径通路92と小径通路93との境界の段部に密着することで圧力調整通路91を塞いでしまう事態を避けることができる。
【0086】
なお,このような弁体94の底面94aが大径通路92と小径通路93との境界の段部に密着することで圧力調整通路91を塞いでしまうのを防止する構成としては,例えば図5に示すように,大径通路92の上側の内壁面と小径通路93の上側の内壁面とを一致させるように大径通路92の中心を小径通路93の中心から下側に偏心させて形成することにより,大径通路92と小径通路93との境界の段部92cを圧力調整通路91の下側だけに形成し,弁体94の底面94aは段部92cに突き当たって下方への脱落が防止されるとともに,弁体94の底面94aが圧力調整通路91を塞ぐのを防止することができる。
【符号の説明】
【0087】
20 リヤサイドブロック(圧力調整通路が形成された部材)
90 トリガーバルブ(圧力調整弁)
91 圧力調整通路
92 大径通路
93 小径通路
94 弁体
100 コンプレッサ(気体圧縮機)
G 冷媒ガス(気体)
HS 高圧空間
MS 中圧空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に,導入された気体を高圧に圧縮するベーンロタリー形式の圧縮機本体を備え,
前記圧縮機本体から吐出された高圧の気体が通る高圧空間と前記圧縮機本体のベーンを突出させるベーン背圧が作用する中圧空間とを通じさせる圧力調整通路が形成され,
前記圧力調整通路には,前記圧力調整通路が形成された部材よりも線膨張係数の大きな材質の弁体が設けられ,
前記圧縮機本体の定常運転に対応する雰囲気温度においては前記弁体の外周面と前記圧力調整通路の内壁面とが全周にわたって接し,前記圧縮機本体の停止状態に対応する雰囲気温度においては前記外周面と前記内壁面とのうち少なくと一部が非接触となるように,前記外周面と前記内壁面との間の隙間が設定されていることを特徴とする気体圧縮機。
【請求項2】
前記圧力調整通路が形成された部材が金属材料で形成されたものであり,前記弁体が樹脂材料で形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記樹脂材料がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の気体圧縮機。
【請求項4】
前記樹脂材料がポリフェニレンサルファイド樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の気体圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7304(P2013−7304A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139500(P2011−139500)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】