説明

気動車用ツインクラッチ式変速機

【課題】コンパクトで伝達効率の良い気動車用ツインクラッチ式変速機を得る。
【解決手段】気動車用ツインクラッチ式変速機において、入力軸10、奇数段変速機構30、偶数段変速機構60及び出力機構90を備えるようにする。各変速機構30、60は、伝達ギア列32、62と、この伝達ギア列32、62の動力を伝達軸40、70に選択的に伝達するメインクラッチ34、64と、同期ギア列36、66と、同期ギア列36、66の動力を伝達軸40、70に選択的に伝達する同期クラッチ38、68を備えるようにする。更に、各変速機構30、60は、伝達軸40、70に設けられて出力機構90に回転を伝達する変速ギア列41、43、45、47、72、74、76、78と、この各変速ギア列と伝達軸40、70を選択的に結合するメカニカルクラッチ50、52、80、82を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上のクラッチを併用して変速制御を行う気動車用のツインクラッチ式変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気動車(ディーゼル動車)用の変速機として、エンジンの動力を伝えるトルクコンバータと、前記トルクコンバータに接続される複数段の歯車と、この歯車を切り替える湿式多板クラッチを備えたものが利用されている(特許文献1参照)。また、気動車用の変速機において、上記湿式多板クラッチに代えてメカニカルクラッチを採用することで、伝達効率を向上させる技術も提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
また近年、自動車用としては、ツインクラッチ式変速機が実用化されてきている(特許文献4、非特許文献1参照)。このツインクラッチ式変速機は、レーシングカー用の変速機としても以前から利用されている。
【特許文献1】実用新案登録2565596号公報
【特許文献2】実開平2−103555号公報
【特許文献3】特開平1−220761号公報
【特許文献4】特開2003−269592号公報
【非特許文献1】三菱自動車テクニカルレビュー2008 No.20 31頁〜34頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気動車用変速機では、エンジンの出力特性上、低車速域ではトルクコンバータを介した動力伝達を利用して牽引力を得るようにしているが、一般的にトルクコンバータは流体を介在させるため伝達効率が悪い。従って、トルクコンバータによる運転時間が長くなるほど、変速機の伝達効率が低下する。
【0005】
これを改善するため、近年は、変速機におけるシフト段数を3〜4段に増やし、中高速運転時にはトルクコンバータを介さずに直結運転を行い、効率を向上させている。しかし、シフト段数を増やすことで、各段に設置される湿式多板クラッチの数が増加してしまう。結合されていない(動力伝達と無関係な)湿式多板クラッチは空転するため、空転ロスが発生する。シフト段数を増やしてトルクコンバータを介した運転時間を短くしても、空転する湿式多板クラッチが増えるため、空転ロスも増加し、実質的には効率を大幅に改善することが困難であった。特に気動車の場合は稼働時間が長いため、湿式多板クラッチの空転ロスは無視できないものとなっていた。
【0006】
ところで、気動車用変速機では、動力伝達系統の慣性が自動車よりもはるかに大きいため、自動車で採用されているシンクロメッシュを用いた摩擦式の同期機構を用いることは出来ない。これに替わるものとして、上記特許文献2〜3で示したようなメカニカルクラッチを採用しようとすると、クラッチの同期制御システムが複雑化するという問題があった。特に、低速域まで直結運転を行うために、シフト段数を増やそうとすると、同期制御が更に複雑化してしまうという問題があった。なお、上記自動車用のツインクラッチ変速機は、全てシンクロメッシュを用いる構造であることから、気動車のような大馬力、大トルク、大慣性を伝達する際に、そのまま用いることが出来ないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、気動車用のツインクラッチ式変速機により、コンパクト且つ簡潔な構造で効率を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、エンジンの動力が入力される入力軸と、前記入力軸の回転が伝達される奇数段変速機構と、前記入力軸の回転が伝達される偶数段変速機構と、前記奇数段変速機構及び前記偶数段変速機構の動力が伝達される出力機構と、を備え、前記奇数段変速機構は、前記入力軸の回転を伝達する奇数段伝達ギア列と、前記奇数段伝達ギア列の動力を前記奇数段伝達軸に選択的に伝達する奇数段メインクラッチと、前記入力軸の回転を伝達する奇数段同期ギア列と、前記奇数段同期ギア列の動力を前記奇数段伝達軸に選択的に伝達する奇数段同期クラッチと、前記奇数段伝達軸に設けられて前記出力機構に回転を伝達する奇数段変速ギア列と、前記奇数段変速ギア列と前記奇数段伝達軸を選択的に結合する奇数段メカニカルクラッチと、を備え、前記偶数段変速機構は、前記入力軸の回転を伝達する偶数段伝達ギア列と、前記偶数段伝達ギア列の動力を前記偶数段伝達軸に選択的に伝達する偶数段メインクラッチと、前記入力軸の回転を伝達する偶数段同期ギア列と、前記偶数段同期ギア列の動力を前記偶数段伝達軸に選択的に伝達する偶数段同期クラッチと、前記偶数段伝達軸に設けられて前記出力機構に回転を伝達する偶数段変速ギア列と、前記偶数段変速ギア列と前記偶数段伝達軸を選択的に結合する偶数段メカニカルクラッチと、を備えることを特徴とする、気動車用ツインクラッチ式変速機である。
【0009】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、隣接する速度段の段間比がほぼ一定に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記奇数段伝達軸に対する前記偶数段伝達軸の回転比が前記段間比とほぼ等しくなるように、前記奇数段伝達ギア列及び前記偶数段伝達ギア列のギア比が設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、少なくとも一部の隣接する変速段間で、前記奇数段変速ギア列と前記偶数段変速ギア列のギア比がほぼ一致されており、前記奇数段変速ギア列と前記偶数段変速ギア列で前記出力機構の歯車が共用されることを特徴とするものである。
【0012】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記奇数段同期ギア列のギア比は、前記奇数段伝達ギア列のギア比を前記段間比で除した値と略一致するように設定され、前記偶数段同期ギア列のギア比は、前記偶数段伝達ギア列のギア比を前記段間比で除した値と略一致するように設定されることを特徴とするものである。
【0013】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記奇数段同期ギア列と前記偶数段伝達ギア列のギア比がほぼ一致されており、前記奇数段同期ギア列と前記偶数段伝達ギア列の間で前記入力軸の歯車が共用されることを特徴とするものである。
【0014】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記奇数段伝達軸と前記偶数段伝達軸のそれぞれに、同期用ブレーキが設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記出力機構は、出力軸の正転及び逆転を切り替える正逆切替メカニカルクラッチを備えることを特徴とするものである。
【0016】
上記目的を達成する気動車用ツインクラッチ式変速機は、上記発明において、前記入力軸上に、出力軸の正転及び逆転を切り替える正逆切替メカニカルクラッチを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンパクト且つ簡潔化構造で、高効率の気動車用ツインクラッチ式変速機を得ることが出来るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態の例に係る気動車用ツインクラッチ式変速機(以下、変速機という)を説明する。
【0019】
図1には、本実施形態に係る変速機1の構成が示されている。この変速機1は、ディーゼルエンジン2の動力が入力される入力軸10と、入力軸10の回転が伝達される奇数段変速機構30と、同様に入力軸10の回転が伝達される偶数段変速機構60と、奇数段変速機構30及び偶数段変速機構60の動力が選択的に伝達される出力機構90とを備える。奇数段変速機構30は、第1速、第3速、第5速、第7速の変速を実行するものであり、偶数段変速機構60は、第2速、第4速、第6速、第8速の変速を実行するものである。従って、この変速機1は、合計8段の変速が可能となっている。変速機1では、奇数段変速機構30と偶数段変速機構60のそれぞれにクラッチを設けておくことで、例えば奇数段変速機構30において動力を伝達している際、偶数段変速機構60側において隣接段へのシフトアップ又はシフトダウンの準備を可能にする。また、偶数段変速機構60において動力を伝達している際、奇数段変速機構30側において隣接段へのシフトアップ又はシフトダウンの準備を可能にする。
【0020】
奇数段変速機構30は、入力軸10の回転を伝達する奇数段伝達ギア列32と、奇数段伝達ギア列32の動力を奇数段伝達軸40に選択的に伝達する奇数段メインクラッチ34と、入力軸10の回転を伝達する奇数段同期ギア列36と、奇数段同期ギア列36の動力を奇数段伝達軸40に選択的に伝達する奇数段同期クラッチ38と、奇数段伝達軸40に設けられて出力機構90に回転を4段階で伝達する第1〜第7奇数段変速ギア列41、43、45、47と、第1〜第7奇数段変速ギア列41、43、45、47と奇数段伝達軸40を選択的に結合する奇数段メカニカルクラッチ50、52と、奇数段伝達軸40の端部に設けられる奇数段同期用ブレーキ54を備える。
【0021】
奇数段伝達ギア列32は、入力歯数31、出力歯数64、回転比2.065となる歯車対によって構成されている。この奇数段伝達ギア列32は、入力軸10と奇数段メインクラッチ34の間に設けられており、入力軸10の回転を減速して奇数段メインクラッチ34に伝える。奇数段メインクラッチ34は、湿式多板クラッチであり、油圧を利用して、入力軸10の回転を奇数段伝達軸40に選択的に伝達可能となっている。
【0022】
奇数段同期ギア列36は、入力歯数46、出力歯数74、回転比1.609となる歯車対によって構成されている。この奇数段同期ギア列36は、入力軸10と奇数段同期クラッチ38の間に設けられており、入力軸10の回転を減速して奇数段同期クラッチ38に伝える。奇数段同期クラッチ38は湿式多板クラッチであり、入力軸10の回転を奇数段伝達軸40に選択的に伝達可能となっている。奇数段同期ギア列36の回転比(減速比)は、奇数段伝達ギア列32の回転比(減速比)より小さくなっている。
【0023】
従って、奇数段変速機構30は、奇数段メインクラッチ34を利用して回転比2.065によって入力軸10の回転を奇数段伝達軸40に選択的に伝達するが、同期動作時には、奇数段メインクラッチ34が開放されている状態において、奇数段同期クラッチ38を結合させて、入力軸10の回転を、回転比1.609の高速回転で奇数段伝達軸40に伝達できるようになっている。
【0024】
奇数段伝達軸40に設けられる第1速変速ギア列41は、入力歯数30、出力歯数58、回転比1.933となる歯車対によって構成されており、奇数段伝達軸40の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。第3速変速ギア列43は、入力歯数51、出力歯数59、回転比1.157となる歯車対によって構成されており、奇数段伝達軸40の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。第5速変速ギア列45は、入力歯数65、出力歯数45、回転比0.692となる歯車対によって構成されており、奇数段伝達軸40の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。第7速変速ギア列47は、入力歯数77、出力歯数32、回転比0.416となる歯車対によって構成されており、奇数段伝達軸40の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。
【0025】
奇数段メカニカルクラッチ50は、第1速変速ギア列41と第3速変速ギア列43の間に配置される。この奇数段メカニカルクラッチ50は、第1速変速ギア列41と奇数段伝達軸40が結合された「第1速結合状態」と、第3速変速ギア列43と奇数段伝達軸40が結合された「第3速結合状態」と、第1速及び第3速変速ギア列41、43が共に奇数段伝達軸40から解放された「非結合状態」を選択的に切り替えることが出来る。
【0026】
他方の奇数段メカニカルクラッチ52は、第5速変速ギア列45と第7速変速ギア列47の間に配置される。この奇数段メカニカルクラッチ52は、第5速変速ギア列45と奇数段伝達軸40が結合された「第5速結合状態」と、第7速変速ギア列47と奇数段伝達軸40が結合された「第7速結合状態」と、第5速及び第7速変速ギア列45、47が共に奇数段伝達軸40から解放された「非結合状態」を選択的に切り替えることが出来る。従って、この奇数段メカニカルクラッチ50、52を適宜切り替えることで、第1速、第3速、第5速、第7速、及び中立のいずれかを適宜選択できるようになっている。なお、詳細は後述するが、奇数段同期用ブレーキ54は、奇数段伝達軸40の回転を制動することで、同期動作を円滑化する。
【0027】
出力機構90は、カウンタ軸92と、出力軸94と、カウンタ軸92と出力軸94の間に配置される正転ギア列96と、同様にカウンタ軸92と出力軸94の間に配置される逆転ギア列98と、出力軸94上における正転ギア列96と逆転ギア列98の間に配置される正逆選択メカニカルクラッチ97を備える。
【0028】
正転ギア列96は、一対の歯車の間にアイドラ歯車が挿入された合計3枚の歯車から構成されており、入力歯数28、アイドラ歯数36、出力歯数37、総回転比1.321となっている。従って、カウンタ軸92の回転は、この回転比によって出力軸94に伝達され、カウンタ軸92と出力軸94が同方向に回転する。逆転ギア列98は、入力歯数31、出力歯数41、回転比1.323となる歯車対によって構成されており、カウンタ軸92の回転を出力軸94に伝達する。この場合、カウンタ軸92と出力軸94は逆方向に回転する。なお、正転と逆転の回転比は略同一となるように設定される。
【0029】
正逆選択メカニカルクラッチ97は、正転ギア列96と出力軸94が結合された「正転結合状態」と、逆転ギア列98と出力軸94が結合された「逆転結合状態」と、正転及び逆転ギア列96、98が共に奇数段伝達軸40から解放された「非結合状態」を選択的に切り替える。この結果、正転と逆転を適宜切り替えるだけで、正転時と逆転時に略等しい条件で8段階の変速を行うことが可能となる。この結果、前進と後進が略同じ運転頻度となる気動車用として変速機1を利用できる。
【0030】
偶数段変速機構60は、入力軸10の回転を伝達する偶数段伝達ギア列62と、偶数段伝達ギア列62の動力を偶数段伝達軸70に選択的に伝達する偶数段メインクラッチ64と、入力軸10の回転を伝達する偶数段同期ギア列66と、偶数段同期ギア列66の動力を偶数段伝達軸70に選択的に伝達する偶数段同期クラッチ68と、偶数段伝達軸70に設けられて出力機構90に回転を4段階で伝達する第2〜第8偶数段変速ギア列72、74、76、78と、第2〜第8偶数段変速ギア列72、74、76、78と偶数段伝達軸70を選択的に結合する偶数段メカニカルクラッチ80、82と、偶数段伝達軸70の端部に設けられる偶数段同期用ブレーキ84を備える。
【0031】
偶数段伝達ギア列62は、入力歯数46、出力歯数74、回転比1.609となる歯車対によって構成されている。なお、この歯車対における入力側歯車は、奇数段変速機構30における奇数段同期ギア列36の歯車対と共用されている。また、偶数段伝達ギア列62と奇数段同期ギア列36の回転比も略同じ(ここでは完全に同一)に設定されている。
【0032】
この偶数段伝達ギア列62は、入力軸10と偶数段メインクラッチ64の間に設けられており、入力軸10の回転を減速して偶数段メインクラッチ64に伝える。偶数段メインクラッチ64は、湿式多板クラッチであり、入力軸10の回転を偶数段伝達軸70に選択的に伝達可能となっている。
【0033】
偶数段同期ギア列66は、入力歯数53、出力歯数66、回転比1.245となる歯車対によって構成されている。この偶数段同期ギア列66は、入力軸10と偶数段同期クラッチ68の間に設けられており、入力軸10の回転を減速して偶数段同期クラッチ68に伝える。偶数段同期クラッチ68は湿式多板クラッチであり、入力軸10の回転を偶数段伝達軸70に選択的に伝達可能となっている。
【0034】
偶数段変速機構60は、定常時は、偶数段メインクラッチ64を利用して回転比1.609によって入力軸10の回転を偶数段伝達軸70に選択的に伝達するが、同期動作時には、偶数段同期クラッチ68を優先させて、入力軸10の回転を、回転比1.245の高速回転により偶数段伝達軸70に伝達できるようになっている。
【0035】
偶数段伝達軸70に設けられる第2速変速ギア列72は、入力歯数30、出力歯数58、回転比1.933となる歯車対によって構成されており、偶数段伝達軸70の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。なお、この歯車対における出力側歯車は、奇数段変速機構30の第1速変速ギア列41の歯車対と共用されている。また、第2速変速ギア列72と第1速変速ギア列41の回転比も略同じ(ここでは完全に同一)に設定されている。ここでは実際に、第2速変速ギア列72と第1速変速ギア列41において全く同じ歯車が用いられている。この結果、変速機1全体において、第1速の入出力回転比と第2速の入出力回転比の比率は、奇数段伝達ギア列32と偶数段伝達ギア列62の回転比の比率と一致する。
【0036】
第4速変速ギア列74は、入力歯数51、出力歯数59、回転比1.157となる歯車対によって構成されており、偶数段伝達軸70の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。なお、この歯車対における出力側歯車は、奇数段変速機構30の第3速変速ギア列43の歯車対と共用されている。また、第4速変速ギア列74と第3速変速ギア列43の回転比も略同じ(ここでは完全に同一)に設定されていることから、本実施形態では、第4速変速ギア列74と第3速変速ギア列43で全く同じ歯車が用いられている。この結果、変速機1全体において、第3速の入出力回転比と第4速の入出力回転比の段間比は、奇数段伝達ギア列32と偶数段伝達ギア列62の回転比の比率と一致する。
【0037】
第6速変速ギア列76は、入力歯数65、出力歯数45、回転比0.692となる歯車対によって構成されており、偶数段伝達軸70の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。なお、この歯車対における出力側歯車は、奇数段変速機構30の第5速変速ギア列45の歯車対と共用されている。また、第6速変速ギア列76と第5速変速ギア列45の回転比も略同じ(ここでは完全に同一)に設定されていることから、本実施形態では、第6速変速ギア列76と第5速変速ギア列45で全く同じ歯車が用いられている。この結果、変速機1全体において、第5速の入出力回転比と第6速の入出力回転比の段間比は、奇数段伝達ギア列32と偶数段伝達ギア列62の回転比の比率と一致する。
【0038】
第8速変速ギア列78は、入力歯数77、出力歯数32、回転比0.416となる歯車対によって構成されており、偶数段伝達軸70の回転を出力機構90のカウンタ軸92に伝達する。なお、この歯車対における出力側歯車は、奇数段変速機構30の第7速変速ギア列47の歯車対と共用されている。また、第8速変速ギア列78と第7速変速ギア列47の回転比も略同じ(ここでは完全に同一)に設定されていることから、本実施形態では、第8速変速ギア列78と第7速変速ギア列47で全く同じ歯車が用いられている。この結果、変速機1全体において、第7速の入出力回転比と第8速の入出力回転比の段間比は、奇数段伝達ギア列32と偶数段伝達ギア列62の回転比の比率と一致する。
【0039】
偶数段メカニカルクラッチ80は、第2速変速ギア列72と第4速変速ギア列74の間に配置される。偶数段メカニカルクラッチ80は、第2速変速ギア列72と偶数段伝達軸70が結合された「第2速結合状態」と、第4速変速ギア列74と偶数段伝達軸70が結合された「第4速結合状態」と、第2速及び第4速変速ギア列72、74が共に偶数段伝達軸70から解放された「非結合状態」を選択的に切り替えることが出来る。
【0040】
偶数段メカニカルクラッチ82は、第6速変速ギア列76と第8速変速ギア列78の間に配置される。偶数段メカニカルクラッチ82は、第6速変速ギア列76と偶数段伝達軸70が結合された「第6速結合状態」と、第8速変速ギア列78と偶数段伝達軸70が結合された「第8速結合状態」と、第6速及び第8速変速ギア列76、78が共に偶数段伝達軸70から解放された「非結合状態」を選択的に切り替えることが出来る。従って、この偶数段メカニカルクラッチ80、82を適宜切り替えることで、第2速、第4速、第6速、第8速、及び中立のいずれかを適宜選択できるようになっている。なお、詳細は後述するが、偶数段同期用ブレーキ84は、偶数段伝達軸70の回転を制動することで、同期動作を円滑化する。
【0041】
以上のように構成された変速機1の第1速から第8速の回転比は、正転と逆転を含めて次の表の通りとなる。
【表1】

【0042】
このことからも分かるように、本変速機1では、隣接する速度段の段間比が、1.28〜1.30(約1.29程度)にほぼ一定に設定されている。また、この段間比(約1.29)は、奇数段伝達ギア列32の回転比(2.065)と偶数段伝達ギア列62の回転比(1.609)の比率(1.283=2.065/1.609)と略一致する。
【0043】
更に、この変速機1における奇数段同期ギア列36の回転比(1.609)は、奇数段伝達ギア列32の回転比(2.065)を上記段間比(約1.29)で除した値に設定されている。同様に、偶数段同期ギア列66の回転比(1.245)は、偶数段伝達ギア列62の回転比(1.609)を上記段間比(約1.29)で除した値に設定されている。詳細は後述するが、このように回転比を設定することで、各同期ギア列36、66及び同期クラッチ38、68を利用した変速時の同期制御を円滑化できる。
【0044】
次に、本変速機1の変速動作について説明する。なお、ここでは、ディーゼルエンジン2によって入力軸10を1000min−1で回転させている状態を想定する。
【0045】
<停止から第1速の駆動開始>
【0046】
図2に示されるように、まず、奇数段メカニカルクラッチ50を「第1速結合状態」とした状態で、トルクコンバータの代わりに奇数段メインクラッチ34を半クラッチ状態で滑らせながら次第に結合していき、入力軸10の回転を、奇数段伝達ギア列32を介して奇数段伝達軸40に伝達する。これにより、奇数段伝達軸40は約484min−1で回転する。この奇数段伝達軸40の回転は、第1速変速ギア列41を介してカウンタ軸92に伝達され、この結果、カウンタ軸92は251min−1で回転する。このカウンタ軸92の回転は正転ギア列96を介して出力軸94に伝達される。
【0047】
<第1速運転中の第2速準備>
【0048】
第1速で走行している状態において、偶数段変速機構60の第2速変速ギア列72の入力歯車(偶数段伝達軸70側の歯車)は第1速変速ギア列41と同様に484min−1で回転している。この状態で、図3に示されるように、偶数段メインクラッチ64を途中まで結合していき、偶数段伝達ギア列62の回転を偶数段伝達軸70に伝達していく。偶数段伝達ギア列62の回転比(1.609)により、偶数段伝達軸70は最大622min−1まで増大させることが可能であるが、ここでは、偶数段メインクラッチ64を途中まで結合すると同時に、偶数段同期用ブレーキ84を作動させて、偶数段伝達軸70を略484min−1となるように制御する。この結果、偶数段伝達軸70と第2速変速ギア列72の回転が同期するので、偶数段メカニカルクラッチ80を結合して「第2速結合状態」とすることができる。これにより第2速へのシフトアップの準備が完了する。
【0049】
<第1速から第2速へのシフトアップ>
【0050】
第2速にシフトアップするには、図4に示されるように、偶数段同期用ブレーキ84を開放すると共に、偶数段メインクラッチ64を最後まで結合させる。この動作と同時に、奇数段メインクラッチ34を「非結合状態」にして、奇数段伝達軸40の回転がカウンタ軸92に伝達されないようにする。これにより、偶数段伝達軸70が、半クラッチ状態の484min−1から622min−1まで上昇し、カウンタ軸92の回転が321min−1まで上昇する。これにより、第2速へのシフトアップが完了する。第2速運転中に次のシフトの準備として、奇数段メカニカルクラッチ50を「非結合状態」にしておく。
【0051】
<第2速運転中の第3速準備>
【0052】
第2速で走行している状態において、奇数段変速機構30の第3速変速ギア列43の入力歯車(奇数段伝達軸40側の歯車)は、その回転比により371min−1で回転している。従って、図5に示されるように、奇数段メインクラッチ34を途中まで結合していき、奇数段伝達ギア列32の回転を奇数段伝達軸40に伝達していく。奇数段伝達ギア列32の回転比(2.065)により、奇数段伝達軸40は最大484min−1まで増大させることが可能であるが、ここでは、奇数段メインクラッチ34を途中まで結合すると同時に、奇数段同期用ブレーキ54を作動させて、奇数段伝達軸40を略371min−1となるように制御する。この結果、奇数段伝達軸40と第3速変速ギア列43の回転が同期するので、奇数段メカニカルクラッチ50を結合して「第3速結合状態」とすることができる。これにより第3速へのシフトアップの準備が完了する。
【0053】
<第2速から第3速へのシフトアップ>
【0054】
第3速にシフトアップするには、図6に示されるように、奇数段同期用ブレーキ54を開放すると共に、奇数段メインクラッチ34を最後まで結合させる。この動作と同時に、偶数段メインクラッチ64を「非結合状態」にして、偶数段伝達軸70の回転がカウンタ軸92に伝達されないようにする。これにより、奇数段伝達軸40が、半クラッチ状態の371min−1から484min−1まで上昇し、カウンタ軸92の回転が418min−1まで上昇する。これにより、第3速へのシフトアップが完了する。第3速運転中に次のシフトの準備として、偶数段メカニカルクラッチ80を「非結合状態」にしておく。第4速以降のシフトアップも、これらと同様に実行される。
【0055】
<第3速運転中の第2速準備>
【0056】
第3速運転から第2速運転にシフトダウンする場合は、その準備として、第2速変速ギア列72を偶数段伝達軸70に結合させる。具体的に、第3速運転中は、カウンタ軸92の回転が418min−1であることから、偶数段変速機構60の第2速変速ギア列72の偶数段伝達軸70側の歯車は、808min−1で回転している。従って、図7に示されるように、偶数段同期クラッチ68を完全に結合して、偶数段同期ギア列66の回転を偶数段伝達軸70に伝達していく。偶数段同期ギア列66の回転比(1.245)により、偶数段伝達軸70の回転を803min−1まで増大させることができる。この結果、偶数段伝達軸70と第2速変速ギア列72の回転が略同期するので、偶数段メカニカルクラッチ80を結合して「第2速結合状態」とすることができる。これにより第2速へのシフトダウンの準備が完了する。
【0057】
<第3速から第2速へのシフトダウン>
【0058】
第2速にシフトダウンするには、図8に示されるように、偶数段同期クラッチ68から偶数段メインクラッチ64に結合状態を次第に移行させ、更に偶数段メインクラッチ64を最後まで結合させる。この動作と同時に、奇数段メインクラッチ34を「非結合状態」にして、奇数段伝達軸40の回転がカウンタ軸92に伝達されないようにする。これにより、偶数段伝達軸70が803min−1から622min−1まで下降し、カウンタ軸92の回転が321min−1まで下降する。これにより、第2速へのシフトダウンが完了する。第2速運転中に次のシフトの準備として、奇数段メカニカルクラッチ50を「非結合状態」にしておく。
【0059】
<第2速運転中の第1速準備>
【0060】
第2速運転から第1速運転にシフトダウンする場合は、その準備として、第1速変速ギア列41を奇数段伝達軸40に結合させる。具体的に、第2速運転中は、カウンタ軸92の回転が321min−1であることから、奇数段変速機構30の第1速変速ギア列41の奇数段伝達軸40側の歯車は、622min−1で回転している。従って、図9に示されるように、奇数段同期クラッチ38を完全に結合して、奇数段同期ギア列36の回転を奇数段伝達軸40に伝達していく。奇数段同期ギア列36の回転比(1.609)により、奇数段伝達軸40の回転を622min−1まで増大させることができる。この結果、奇数段伝達軸40と第1速変速ギア列41の回転が略同期するので、奇数段メカニカルクラッチ50を結合して「第1速結合状態」とすることができる。これにより第1速へのシフトダウンの準備が完了する。
【0061】
<第2速から第1速へのシフトダウン>
【0062】
第1速にシフトダウンするには、図10に示されるように、奇数段同期クラッチ38から奇数段メインクラッチ34に結合状態を次第に移行させ、奇数段メインクラッチ34を最後まで結合させる。この動作と同時に、偶数段メインクラッチ64を「非結合状態」にして、偶数段伝達軸70の回転がカウンタ軸92に伝達されないようにする。これにより、奇数段伝達軸40が622min−1から484min−1まで下降し、カウンタ軸92の回転が251min−1まで下降する。これにより、第1速へのシフトダウンが完了する。第1速運転中に次のシフトの準備として、偶数段メカニカルクラッチ80を「非結合状態」にしておく。
【0063】
以上、本実施形態の変速機1では、奇数段変速機構30と偶数段変速機構60が、メインクラッチ34、64と同期クラッチ38、68をそれぞれ備えている。この結果、隣接する変速段への変速準備を行う際に、シフトダウン時においては、準備側の同期クラッチ38、68を利用して、伝達軸40、70の回転速度を一時的に変化させて、変速先の変速ギア列と回転を一時的に同期させることが出来る。従って、相対的な滑りを前提とした湿式多板クラッチではなく、メカニカルクラッチによって伝達軸40、70と変速ギア列を結合する事が可能となる。メカニカルクラッチは、湿式多板クラッチと較べて、非結合時の空転ロスが各段に少ないため、運転時の伝達効率が大幅に高められる。
【0064】
更に本変速機1によれば、奇数段伝達軸40と偶数段伝達軸70のそれぞれに、同期用ブレーキ54、84が設けられている。従って、隣接する変速段への変速準備を行う際に、シフトアップ時においては、準備側のメインクラッチ34、64を半クラッチ状態にしつつ、同期用ブレーキ54、84を作動させて、その両者のバランスによって各伝達軸40、70を任意の回転に制御することができる。この結果、変速準備を行っている変速ギア列と同期させることができ、メカニカルクラッチによって伝達軸40、70と変速ギア列を結合することができる。
【0065】
本変速機1では、シフトアップ時において、メインクラッチ34、64と同期用ブレーキ54、84を組み合わせることによって、準備側の伝達軸40、70の回転を、本来の回転数よりも一時的に減速制御して変速ギア列と同期させ、メカニカルクラッチによって伝達軸40、70と変速ギア列を結合する。その後は、伝達軸40、70を本来の回転数まで上昇させることでシフトアップを完了させる。一方、シフトダウン時においては、メインクラッチ34、64よりも回転比の小さい(即ち、伝達軸40、70の回転数が大きくなる)同期クラッチ38、68を利用して、準備側の伝達軸40、70の回転を一時的に増速して変速ギア列と同期させ、メカニカルクラッチによって伝達軸40、70と変速ギア列を結合する。その後は、同期クラッチ38、68からメインクラッチ34、36に結合状態を移行させることで、シフトダウンを完了させる。このように、シフトアップ時は、同期用ブレーキ54、84とメインクラッチ34、64を組み合わせることで、メインクラッチ34、64を有効活用して隣接上段側の準備を実行し、シフトダウン時は、一時的に各伝達軸40、70の回転を増速させる同期クラッチ38、68を利用して、円滑に隣接下段の準備を行う。この結果、変速機1の構造が簡潔となり、変速機1をコンパクトに構成することが可能になると同時に、同期制御システムも簡素化されたものとなる。特にダウンシフト時においては、同期クラッチ38、68及び同期ギア列36、66によって機械的に伝達軸40、70の回転数を一時的に上昇させて同期を確保するので、ディーゼルエンジン2を回転数を一時的に上昇させて同期させる必要が無くなり、ディーゼルエンジン2の騒音が低減される。また、ディーゼルエンジン2や変速機1の耐久性や燃費を相乗的に向上させることができる。
【0066】
更に本変速機1では、例えば、第1速変速ギア列41と第2速変速ギア列72のように、隣接する変速ギア列間のギア比を略一致させている。この結果、第1速変速ギア列41と第2速変速ギア列72の間で同じ歯車を用いたり、カウンタ軸92の歯車を共用したりすることが可能になる。歯車の共用化によって、本変速機1は8段構成であるにもかかわらず、軸方向サイズは実質的に4段レベルとなり、変速機1を大幅に小型化することも可能となっている。
【0067】
また、表1で既に説明したように、本変速機1では、第1速〜第8速までの段間比が略1.29に統一されている。この結果、例えば、一つの同期クラッチ38及び同期ギア列36で、全奇数段のシフトダウン時の同期制御を実行できる。従って、この変速機1では、同期クラッチ38、68及び同期ギア列36、66の数を少なくすることが可能となる。例えば、従来のメカニカルトランスミッションでは、各速度段にシンクロメッシュ等の同期装置を設ける必要があったが、本変速機1では、奇数段側と偶数段側に、それぞれ1個の同期クラッチ及び同期ギア列を設けることで、全てのシフトダウン時の同期制御を行うことができる。この結果、変速機の構造の簡素化とコンパクト化が可能となっている。
【0068】
更に、本実施形態では、奇数段伝達軸40に対する偶数段伝達軸70の回転比、即ち、奇数段伝達ギア列32の回転比と偶数段伝達ギア列62の回転比の割合(比率)が、この段間比1.29と略一致させている。この結果、既述のとおり、例えば、第1速変速ギア列41と第2速変速ギア列72のギア比のように、隣接する変速段の変速ギア列のギア比を略一致させることができる。これは、奇数段伝達ギア列32と偶数段伝達ギア列62の回転比(段間比に等しい)によって、目的の段間比を確保できるからである。なお、第2速変速ギア列72と第3速変速ギア列43のギア比の比率は、段間比(1.29)の略二乗(1.66)に設定される。
【0069】
更にこの変速機1では、奇数段同期ギア列36のギア比は、奇数段伝達ギア列32のギア比を段間比で除した値に設定され、また、偶数段同期ギア列66のギア比は、偶数段伝達ギア列62のギア比を段間比で除した値に設定される。このようにすると、例えば、隣接する速度段間でダウンシフトを行う際には、準備側の同期ギア列36、66を同期クラッチ38、68によって結合させることにより、実質的に段間比分だけ一時的に伝達軸40、70の回転数を上昇させることができる。即ち、同期クラッチ38、68によって、準備側の伝達軸40、70の回転数を、隣接上位段(駆動側)の伝達軸40、70の回転数に略一致させることが出来る。この結果、準備側で空転している変速ギア列と伝達軸40、70を同期させることが可能となる。また、このように同期クラッチ38、68の回転比を設定することで、結果として、奇数段同期ギア列36と偶数段伝達ギア列62のギア比を略一致させることも可能となる。奇数段同期ギア列36と偶数段伝達ギア列62の間で入力軸10側の歯車を共用できる。この結果、奇数段同期ギア列36を効率的に収容することも可能となり、変速機1を更に小型化できる。
【0070】
また、本変速機1では、トルクコンバータを用いる必要が無くなるので、低速運転時のトルクコンバータによる伝達ロスを回避して、伝達効率を高めることが可能となる。また、トルクコンバータの場合、高速運転時にロックアップさせても、コンバータ内部の油が羽に衝突して内部ロスが生じるが、本変速機1はそもそもトルクコンバータが不要となるので、高速運転中の伝達効率を高めることが可能となる。また、変速機1内の設けられる湿式多板クラッチが4カ所(メインクラッチ34、64、同期クラッチ38、68)で済むと同時に、これらの湿式多板クラッチが仮に「非結合状態」となっていても、相対回転差が小さいので、空転ロスを小さくすることが可能となる。この結果、伝達効率を更に高めることが可能となる。更に湿式多板クラッチの発熱も抑制されるので、油を冷却するためのラジエターを不要にすることもできる。これは、各湿式多板クラッチの耐久性の向上にもつながる。
【0071】
以上、本実施形態の変速機1では、正転と逆転を切り替える機構が、出力機構90に設けられる場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図11に示される変速機1では、入力軸10側に正転と逆転を切り替える機構が組み込まれている。具体的に、この変速機1は、入力軸10に同軸状態で配置される奇数段伝達ギア列32A及び偶数段伝達ギア列62Aと、入力軸10に同軸上に配置される逆転側メイン歯車25と、入力軸10上に配置される正逆選択メカニカルクラッチ24を備える。この正逆選択メカニカルクラッチ24は、入力軸10に対して奇数段伝達ギア列32A及び偶数段伝達ギア列62Aを結合する「正転状態」と、入力軸に対して逆転側メイン歯車25を結合する「逆転状態」を選定できる。
【0072】
更にこの変速機1では、逆転側メイン歯車25と噛み合う逆転側のアイドラ歯車26と、このアイドラ歯車26と噛み合ってその回転を偶数段同期クラッチ68に伝達する偶数段同期歯車27と、奇数段変速機構30側に設けられる中間軸20と、この中間軸20に設けられて奇数段伝達ギア列32Aと噛み合う第1中間歯車21と、中間軸20に設けられてその回転を奇数段同期クラッチ38に伝達する奇数段同期ギア列22と、中間軸20に設けられて逆転側メイン歯車25と噛み合う第2中間歯車23と、を備える。
【0073】
従って、図12に示されるように、「正転状態」の場合、入力軸10の回転が、奇数段伝達ギア列32Aを介して奇数段メインクラッチ34に伝達される。また、入力軸10の回転が、奇数段伝達ギア列32A、第1中間歯車21、中間軸20及び奇数段同期ギア列22を介して奇数段同期クラッチ38に伝達される。更に、入力軸10の回転が、偶数段伝達ギア列62Aを介して偶数段メインクラッチ64に伝達される。また更に、入力軸10の回転が、奇数段伝達ギア列32A、第1中間歯車21、中間軸20、第2中間歯車23、アイドラ状態となっている逆転側メイン歯車25、アイドラ歯車26及び偶数段同期歯車27を介して、偶数段同期クラッチ68に伝達される。
【0074】
図13に示されるように「逆転状態」の場合、入力軸10の回転が、逆転側メイン歯車25、第2中間歯車23、中間軸20、第1中間歯車21及び奇数段伝達ギア列32Aを介して奇数段メインクラッチ34に伝達される。また、入力軸10の回転が、逆転側メイン歯車25、第2中間歯車23、中間軸20及び奇数段同期ギア列22を介して奇数段同期クラッチ38に伝達される。更に、入力軸10の回転が、逆転側メイン歯車25、第2中間歯車23、中間軸20、第1中間歯車21、奇数段伝達ギア列32A及び偶数段伝達ギア列62Aを介して偶数段メインクラッチ64に伝達される。また更に、入力軸10の回転が、逆転側メイン歯車25、アイドラ歯車26及び偶数段同期歯車27を介して偶数段同期クラッチ68に伝達される。
【0075】
この変速機1ように、入力側に正転と逆転を選択可能な機構を組み込むことで、入力軸10と出力機構90の出力軸92を同軸状態に配置することが容易となる。
【0076】
なお、正転、逆転の切替操作は停車状態で行われるが、本実施形態においては、エンジンと直結される入力軸上に正逆選択メカニカルクラッチを配置しているので、エンジンを停止して切替操作を行う必要がある。そこで、図中では省略しているが、一体的に構成している奇数段伝達ギア列及び偶数段伝達ギア列の入力軸側の歯車と入力軸の間、及び、逆転側メイン歯車と入力軸の間の各々に、奇数段・偶数段同期クラッチと同様の同期クラッチを追加配置しておくことも好ましい。このようにすると、エンジンを起動した状態で、正逆の切替操作を行うことが可能となる。
【0077】
尚、本発明の変速機は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の気動車用ツインクラッチ式変速機は、ディーゼル気動車等の様々な用途で利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態に係る気動車用ツインクラッチ式変速機の全体構成を示すスケルトン図である。
【図2】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第1速のトルクフローを示す図である。
【図3】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第2速準備のトルクフローを示す図である。
【図4】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第2速のトルクフローを示す図である。
【図5】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第3速準備のトルクフローを示す図である。
【図6】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第3速のトルクフローを示す図である。
【図7】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第2速準備のトルクフローを示す図である。
【図8】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第2速のトルクフローを示す図である。
【図9】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第1速準備のトルクフローを示す図である。
【図10】同気動車用ツインクラッチ式変速機の第1速のトルクフローを示す図である。
【図11】本実施形態の他の例に係る同気動車用ツインクラッチ式変速機の全体構成を示すスケルトン図である。
【図12】同気動車用ツインクラッチ式変速機の正転時のトルクフローを示す図である。
【図13】同気動車用ツインクラッチ式変速機の逆転時のトルクフローを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 変速機
2 ディーゼルエンジン
10 入力軸
30 奇数段変速機構
32 奇数段伝達ギア列
34 奇数段メインクラッチ
36 奇数段同期ギア列
38 奇数段同期クラッチ
40 奇数段伝達軸
41 第1速変速ギア列
43 第3速変速ギア列
45 第5速変速ギア列
47 第7速変速ギア列
50、52 奇数段メカニカルクラッチ
60 偶数段変速機構
62 偶数段伝達ギア列
64 偶数段メインクラッチ
66 偶数段同期ギア列
68 偶数段同期クラッチ
70 偶数段伝達軸
72 第2速変速ギア列
74 第4速変速ギア列
76 第6速変速ギア列
78 第8速変速ギア列
90 出力機構
94 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力が入力される入力軸と、
前記入力軸の回転が伝達される奇数段変速機構と、
前記入力軸の回転が伝達される偶数段変速機構と、
前記奇数段変速機構及び前記偶数段変速機構の動力が伝達される出力機構と、を備え、
前記奇数段変速機構は、
前記入力軸の回転を伝達する奇数段伝達ギア列と、
前記奇数段伝達ギア列の動力を前記奇数段伝達軸に選択的に伝達する奇数段メインクラッチと、
前記入力軸の回転を伝達する奇数段同期ギア列と、
前記奇数段同期ギア列の動力を前記奇数段伝達軸に選択的に伝達する奇数段同期クラッチと、
前記奇数段伝達軸に設けられて前記出力機構に回転を伝達する奇数段変速ギア列と、
前記奇数段変速ギア列と前記奇数段伝達軸を選択的に結合する奇数段メカニカルクラッチと、を備え、
前記偶数段変速機構は、
前記入力軸の回転を伝達する偶数段伝達ギア列と、
前記偶数段伝達ギア列の動力を前記偶数段伝達軸に選択的に伝達する偶数段メインクラッチと、
前記入力軸の回転を伝達する偶数段同期ギア列と、
前記偶数段同期ギア列の動力を前記偶数段伝達軸に選択的に伝達する偶数段同期クラッチと、
前記偶数段伝達軸に設けられて前記出力機構に回転を伝達する偶数段変速ギア列と、
前記偶数段変速ギア列と前記偶数段伝達軸を選択的に結合する偶数段メカニカルクラッチと、を備えることを特徴とする、
気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項2】
隣接する速度段の段間比がほぼ一定に設定されていることを特徴とする、
請求項1に記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項3】
前記奇数段伝達軸に対する前記偶数段伝達軸の回転比が前記段間比とほぼ等しくなるように、前記奇数段伝達ギア列及び前記偶数段伝達ギア列のギア比が設定されていることを特徴とする、
請求項2に記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項4】
少なくとも一部の隣接する変速段間で、前記奇数段変速ギア列と前記偶数段変速ギア列のギア比がほぼ一致されており、前記奇数段変速ギア列と前記偶数段変速ギア列で前記出力機構の歯車が共用されることを特徴とする、
請求項3に記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項5】
前記奇数段同期ギア列のギア比は、前記奇数段伝達ギア列のギア比を前記段間比で除した値と略一致するように設定され、
前記偶数段同期ギア列のギア比は、前記偶数段伝達ギア列のギア比を前記段間比で除した値と略一致するように設定されることを特徴とする、
請求項2、3又は4に記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項6】
前記奇数段同期ギア列と前記偶数段伝達ギア列のギア比が略一致されており、前記奇数段同期ギア列と前記偶数段伝達ギア列の間で前記入力軸の歯車が共用されることを特徴とする、
請求項5に記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項7】
前記奇数段伝達軸と前記偶数段伝達軸のそれぞれに、同期用ブレーキが設けられていることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項8】
前記出力機構は、出力軸の正転及び逆転を切り替える正逆切替メカニカルクラッチを備えることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。
【請求項9】
前記入力軸上に、出力軸の正転及び逆転を切り替える正逆切替メカニカルクラッチを備えることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の気動車用ツインクラッチ式変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−151159(P2010−151159A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327241(P2008−327241)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】