説明

気密容器の製造方法

【課題】外力が発生しても高い気密性を保持できる、信頼性の高い気密容器を製造する。
【解決手段】粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材1,2よりも軟化点が低い接合材4を、第2のガラス基材2の上に枠状に形成し、第1のガラス基材1を、接合材4と接触させるように、接合材4が形成された第2のガラス基材2に対向配置する。接合材4が延びる方向から見たとき、局所加熱光9の照射は、接合材4と、第2のガラス基材2の側端部6とが照射範囲に含まれるように行われるとともに、接合材4の両端部からそれぞれ、第2のガラス基材2の側端部6までの距離をA、第2のガラス基材2の側端部6と反対側の、照射範囲の境界までの距離をBとすると、B≧Aの関係を満たすように行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向するガラス基材を気密接合して気密性を有する内部空間を形成する技術が知られている。この技術は、真空断熱容器の製造方法や、有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の、フラットパネルの気密容器(外囲器)の製造方法に適用されている。これらの気密容器の製造においては、対向するガラス基材の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的な接着材等を配置した上で、周辺部に接合材を配置して、加熱等によりガラス基材同士を接合する。ガラス基材同士の接合方法としては、ガラス基材を仮組みして得られた組立体を加熱炉によって全体加熱(ベーク)する方法と、組立体の周縁部のみを局所加熱手段によって選択的に加熱する方法と、が提案されている。加熱冷却時間、加熱に要するエネルギーの低減、容器内部の機能デバイスの熱劣化防止といった観点で、局所加熱は全体加熱よりも有利である。
【0003】
特許文献1には、PDPの製造方法として、局所加熱光にレーザを使用し、リアパネルとフロントパネルを封着材料で固定する方法が開示されている。この方法では、2枚のパネルを鉛直方向の上下に配置し、封着材料を、上方のパネルの縁(外周側面の下端部)に沿って接触するように、下方のパネル上に配置する。そして、封着材料を溶融させ、封着材料の溶融物をパネル間に引き込ませることで、2枚のパネルを固定している。局所加熱光は、封着材料と、封着材料の溶融物を引き込ませたいパネル間の領域とに照射するが、このとき、上方のパネルの外周側面に直交する平面において、このパネル間の領域の面積を封着材料の切断面の面積よりも小さくなるようにする。これにより、溶融した封着材料は全部がパネル間に引き込まれず、残った部分が上側のパネルの外周側面と接触し、パネル間に引き込まれた部分と一体になることによってパネルの貼り合わせ強度が向上する。
【0004】
特許文献2には、色素増感太陽電池などの2枚のガラス基板を対向させ、これらガラス基板の周辺端部の側方からレーザ光を照射して、ガラス基板を接合する方法が開示されている。この方法によれば、色素増感太陽電池などのガラス基板を接合、封止する際に、簡単な操作により、耐久性、安全性等に優れた接合を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−103183号公報
【特許文献2】特開2004−292247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、局所加熱光を用いてガラス基材の接合方法においては、接合部をガラス基材の周端部に設けることで、接合部の気密性の高める技術が知られている。しかしながら、上述のように、局所加熱光を、ガラス基材の外周側面から接合材をガラス基材間に引き込むように照射したり、ガラス基材の周端部の側方から照射したりする方法では、接合部が形成される領域全体が十分に加熱されないことになる。そのため、形成される接合部が外力に対して十分な強度を有することができず、外力の発生時に、接合部にクラックが発生したり、接合部が剥離したりすることで、気密容器の気密性を保持できない場合がある。
【0007】
そこで本発明は、外力が発生しても高い気密性を保持できる信頼性の高い気密容器を製造する、気密容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、第1のガラス基材と、第1のガラス基材とともに気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の気密容器の製造方法は、粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、第2のガラス基材の上に、第2のガラス基材の側端部に沿って枠状に形成する工程と、第1のガラス基材を、前記接合材と接触させるように、前記接合材が形成された前記第2のガラス基材と対向配置する工程と、局所加熱光を、接合材の枠状に延びる方向に沿って接合材に照射し、対向配置された第1のガラス基材と前記第2のガラス基材とを接合する工程と、を有している。接合材が延びる方向から見たとき、局所加熱光の照射は、接合材と、第2のガラス基材の側端部とが照射範囲に含まれるように行われるとともに、接合材の両端部からそれぞれ、第2のガラス基材の側端部までの距離をA、第2のガラス基材の側端部と反対側の、照射範囲の境界までの距離をBとすると、B≧Aの関係を満たすように行われる。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明によれば、外力が発生しても高い気密性を保持できる信頼性の高い気密容器を製造する、気密容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の気密容器の製造方法によって製造される有機EL表示装置の平面図および断面図である。
【図2】第1のガラス基材と発光部の構成を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明のプロセスフローの一例を示す、ガラス基材の断面図である。
【図4】本発明による局所加熱光の照射の様子を示す、ガラス基材の断面図である。
【図5】本発明による局所加熱光の照射の様子を示す、ガラス基材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の気密容器の製造方法は、内部空間が外部雰囲気から気密遮断されることが必要なデバイスを有するFED、OLED、PDP等の製造方法に適用することが可能である。特に、内部に水や酸素に弱い有機発光材料を含むOLED等の画像表示装置では、画像表示装置の内部と外部とを遮断する高い気密性が求められるが、本発明の気密容器の製造方法によれば、長期的に高い気密性を確保することができる。
【0013】
図1は、本発明の気密容器の製造方法によって製造される有機EL表示装置の一例を示している。図1(a)および図1(b)はそれぞれ、上記有機EL表示装置の概略平面図および概略断面図であり、図1(c)は、図1(b)において破線円で囲まれた領域付近を拡大して示す概略断面図である。
【0014】
有機EL表示装置10は、図1(b)に示すように、第1のガラス基材1と、第2のガラス基材2とを有しており、第1のガラス基材1と第2のガラス基材との間には、発光部3および接合材4が設けられている。発光部3は、図1(a)および図1(b)に示すように、第1のガラス基材1上に設けられ、矩形状に形成されている。一方、接合材4は、図1(a)に示すように、発光部3を囲むように枠状に設けられ、発光部3を容器内に封止するとともに、図1(b)に示すように、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを接合している。
【0015】
図2は、第1のガラス基材1と発光部3の構成を概略的に示す断面図である。発光部3は、上述のように、第1のガラス基材1上に設けられ、下部電極31と有機EL層32と上部電極33とがこの順に積層された有機EL素子34と、有機EL素子34の上面および側面を被覆する保護層35と、を含んでいる。発光部3に通電することで、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが、有機EL層32の後述する発光層において再結合し、発光層に含まれる発光材料の発光色に応じて赤色、緑色、青色のそれぞれの光を放出することになる。発光層から発せられた光は、保護層35側から取り出すことができる。
【0016】
発光部3をアクティブマトリックス形式で駆動させる場合、第1のガラス基材1は、基材11と、基材11上に設けられたTFT回路12と、TFT回路12上に設けられた平坦化膜13とから構成されている。TFT回路12は、コンタクトホール14を介して、下部電極31に電気的に接続されている。
【0017】
次に、有機EL表示装置10の各構成部材を構成する材料について説明する。
【0018】
第1のガラス基材1および第2のガラス基材2としては、例えば、透明なガラス材を使用することができるが、必ずしもこれに限定されない。なお、発光部3をアクティブマトリックス形式で駆動させる場合には、基材として透明なガラス材が使用される。
【0019】
接合材4は、粘度が負の温度係数を有し、高温で軟化すればよく、かつ第1のガラス基材1および第2のガラス基材2のいずれよりも軟化点が低いことが望ましい。また、接合材4は、後述する局所加熱光の波長に対して高い吸収性を示すことが好ましい。内部空間の高い気密性が要求されるOLED等に適用する場合は、接合材4として、残留ハイドロカーボンの分解を抑制できるガラスフリットが好適に用いられる。
【0020】
有機EL素子34の有機EL層32は、特定の層構成に限定されるものではない。一例として、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順で積層される構成が挙げられる。
【0021】
正孔注入層を構成する正孔注入材料と正孔輸送層を構成する正孔輸送材料とは、陽極からの正孔の注入を容易にし、かつ注入された正孔を発光層に輸送するのに優れた正孔移動度を有する材料であることが好ましい。このような材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体等の低分子系材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の低分子系材料であってもよい。また、上述の正孔注入材料および正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール、ポリシリレン、ポリチオフェン、その他導電性高分子等の高分子系材料を用いることもできる。
【0022】
発光層を構成する発光材料としては、発光効率の高い蛍光材料や燐光材料を使用することができる。
【0023】
電子輸送層を構成する電子輸送材料として、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能を有する材料を任意に選ぶことができ、正孔輸送材料の正孔移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体等が挙げられる。さらに、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
電子注入層を構成する電子注入材料としては、上述した電子輸送材料に、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属、またはこれらの化合物を、0.1%〜数十%含有させた材料を用いることができる。電子輸送材料にアルカリ金属等を含ませることにより、電子注入性を付与することができる。
【0025】
有機EL素子34の下部電極31は、有機EL層32の発光層から発せられた光を反射する反射電極である。下部電極31の構成材料は、少なくとも反射率が50%以上の金属材料であり、好ましくは、反射率が80%以上の金属材料である。反射率が高い部材であるほど光取り出し効率を向上できるので好ましい。上記の反射率を有する金属材料としては、例えば、銀、アルミニウム、クロム、金、白金等が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。なお、下部電極31は、上記の金属材料からなる金属薄膜のみで構成されていてもよいが、当該金属薄膜のみでは有機EL層32への電荷注入がしにくい場合は、当該金属薄膜上に透明電極層をさらに設けてもよい。透明電極層としては、金属酸化物からなる導電膜が挙げられ、具体的には、酸化インジウムと酸化錫とからなる化合物膜(ITO)や酸化インジウムと酸化亜鉛とからなる化合物膜(IZO)等が挙げられる。
【0026】
有機EL素子34の上部電極33は、発光層から発せられた光が十分取り出されるように80%〜100%の透過率を有する材料で構成されていることが好ましい。上部電極33の構成材料は、特定の材料に限定されるものではない。例えば、銀、アルミニウム、クロム、金、白金等の金属材料を光が透過する程度の膜厚で形成した金属薄膜、ITOやIZO等の酸化物導電膜、あるいは当該金属材料で形成された薄膜と当該酸化物導電膜とを積層した積層体を用いることができる。
【0027】
発光部3を構成する保護層35は、有機EL素子34が大気中の酸素や水分等と接触するのを防止する目的で設けられている。保護層35の構成材料は、有機EL素子34との接着性を示す有機化合物であれば特に限定されず、好ましくは、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂、または2液混合型硬化樹脂であり、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等を用いることができる。保護層35は、第2のガラス基材2に密着していてもよい。一方、防湿性をより高めるために、上部電極33と保護層35との間に、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜がさらに設けられていてもよい。他方、保護層35が吸湿材を含有していてもよい。なお、保護層35は、有機EL表示装置10が、有機EL素子34から放出される光を第2のガラス基材2側から外部に放出するトップエミッション型である場合、透明な材料で構成する必要がある。
【0028】
次に、本発明の気密容器の製造方法におけるガラス基材の接合方法について、図3を参照して具体的に説明する。図3は、本方法のプロセスフローの一例を示す、ガラス基材の断面図である。
【0029】
(ステップ1)まず、図3(a)に示すように、第1のガラス基材1を準備する。製造する有機EL表示装置10がアクティブマトリックス型の表示装置である場合は、図2に示す構成の第1のガラス基材1を準備する。すなわち、このステップで、基材11上に、TFT回路12、平坦化膜13およびコンタクトホール14を順次設けておく。
【0030】
(ステップ2)次に、図3(b)に示すように、第1のガラス基材1上に発光部3を形成する。ここで、発光部3を構成する下部電極31、有機EL層32、上部電極33および保護層35の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0031】
(ステップ3)次に、図3(c)に示すように、第2のガラス基材2を準備した後、図3(d)に示すように、接合材4としてガラスフリットからなる薄膜を、第2のガラス基材2の上に、第2のガラス基材2の側端部6に沿って枠状に形成する。具体的には、まずガラスフリットに適当な液体物質を混合してフリットペーストを調製し、調製したフリットペーストを、発光部3を取り囲むように第2のガラス基材2上に塗布して薄膜を形成する。フリットペーストの塗布方法としては、ディスペンス法、スクリーン印刷法等を用いることができる。その後、フリットペーストからなる薄膜を前焼成し、接合材4とする。なお、接合材4の高さは、前焼成の段階で5μm〜300μmとなるようにすることが好ましい。
【0032】
(ステップ4)次に、図3(e)に示すように、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを対向設置する。具体的には、第1のガラス基材1上の発光部3が、第2のガラス基材2と第2のガラス基材2に設けられた接合材4とで取り囲まれるように、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2との位置合わせを行い、第1のガラス基材1と接合材4とを接触させる。これにより、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2との間に接合材4が介在するようになる。このとき、接合材4と第1のガラス基材1との接触を確保するために、補助的に第2のガラス基材2をガラス基材5で覆い、接合材4を第1のガラス基材1に押しつけることが好ましい。
【0033】
(ステップ5)次に、図3(f)に示すように、局所加熱光9を接合材4に局部的に照射し、対向配置された第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを接合する。具体的には、局所加熱光9を、接合材4が枠状に延びる方向に沿って移動させながら、接合材4に照射し、接合材4を加熱溶融することで、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを接合する。
【0034】
このとき接合材4は、上述したように、外力に対する強度を向上させるために、第2のガラス基材2の側端部6の一部を覆うように、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを接合することが好ましい(図3(g)参照)。このことは、局所加熱光9の照射を所定の条件で行うことで実現することができる。以下、このような局所加熱光9の照射条件について説明する。
【0035】
図4および図5は、接合材4付近を拡大して示す、第1および第2のガラス基材1,2の断面図であり、接合材4が延びる方向から見たときの断面を示している。
【0036】
接合材4は、局所加熱光9が照射されると、その粘度が低下し、鉛直方向(ガラス基材の板面と直交する方向)に押しつぶされることで、幅方向の両側(図で見て左右方向)に均一に広がっていく。そして、この接合材4が局所加熱光9の照射範囲全域を満たした時点で、局所加熱光9の照射範囲外にはみ出した接合材は固化し、その固化した接合材によって、ガラス基材間の間隔は規定される。そのため、それ以上の接合材4の広がりは抑制されることになる。したがって、接合材4が、第2のガラス基材2の側端部の一部を覆うように第1および第2のガラス基材1,2を接合するためには、まず、接合材4全体だけでなく、第2のガラス基材2の側端部6も局所加熱光9の照射範囲に含むようにすることが必要となる。これにより、接合部が形成される領域全体を十分に加熱することが可能となる。
【0037】
それに加えて、局所加熱光9の照射により粘度の低下した接合材4が、第2のガラス基材2の側端部6とは反対側の、局所加熱光9の境界に達するより先、あるいは同時に、第2のガラス基材2の側端部6に達する必要がある。つまり、局所加熱光9の照射は、接合材4の幅方向の両端部からそれぞれ、第2のガラス基材2の側端部6までの距離をAとし、局所加熱光9の、側端部6とは反対側の境界までの距離をBとすると、
B≧A
の関係を満たすように行う必要がある。ここで、局所加熱光の照射範囲とは、局所加熱光が後述する有効ビーム径となる範囲を意味し、局所加熱光の境界とは、その照射範囲の境界を意味する。
【0038】
なお、より確実に接合材4を第2のガラス基材2の側端部6に到達させるためには、局所加熱光9は、B>Aの関係を満たすように照射されることが好ましい。このような局所加熱光9の照射により、接合材4を第2のガラス基材2の側端部6に到達させるだけでなく、2枚のガラス基材1,2の間から突出させて、側端部6のより多くの部分を接合材4で覆うことが可能となる。これにより、側端部6での十分な接合を得ることができ、接合部の外力に対する強度を向上させることが可能となる。そのため、外力が発生しても高い気密性を保持できる気密容器を製造することが可能となる。
【0039】
また、接合部の強度をより向上させるためには、図5に示すような条件で、局所加熱光9を照射することが望ましい。それにはまず、ステップ3において、接合材4の一方の端部が第2のガラス基材2の側端部6と一致するように、接合材4を第2のガラス基材2上に形成する。そして、接合材4の他方の端部から局所加熱光9の境界までの距離Bが有限となるように(B>0)、局所加熱光9を照射する。この場合、局所加熱光9の照射と同時に、接合材4が第2のガラス基材2の側端部6に到達することになる。そのため、より一層の外力が発生した場合でも、クラックや剥離の発生を抑制して高い気密性を保持できる、信頼性の高い気密容器を提供することができる。
【0040】
なお、局所加熱光は、接合領域の近傍を局所的に加熱可能であればよく、光源としては半導体レーザが好適に用いられる。接合材を局所的に加熱する性能やガラス基材2,5の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0042】
(実施例1)
上記実施形態で説明した製造方法を適用して第1のガラス基材と第2のガラス基材との気密接合を行い、アクティブマトリックス型の有機EL表示装置を製造した。
【0043】
(工程1)まず、第1のガラス基材1を準備した。具体的にはまず、基材11(図2参照)として、0.7mm厚のガラス基材(旭硝子株式会社製AN100)を用意し、外形100mm×70mmに切り出した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンスおよびUV−オゾン洗浄によって、基材11の表面を脱脂した。そして、基材11に、TFT回路12、平坦化膜13およびコンタクトホール14を設け、第1のガラス基材1を形成した後、第1のガラス基材1上に、公知の方法を用いて発光部3を形成した(図3(a)および図3(b)参照)。
【0044】
次に、第1のガラス基材1と同様にして、第2のガラス基材2を準備した。すなわち、第2のガラス基材2として、0.7mm厚のガラス基材(旭硝子株式会社製AN100)を用意し、外形94×64mmに切り出した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンスおよびUV−オゾン洗浄によって、第2のガラス基材2の表面を脱脂した(図3(c)参照)。
【0045】
次に、接合材4を準備した。本実施例では、接合材4としてガラスフリットを用いた。ガラスフリットとしては、熱膨張係数α=45×10-7/℃、軟化点348℃のP25系鉛非含有ガラスフリット(旭硝子株式会社社製LFP−A50Z)を母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストを用いた。このようなペーストを、スクリーン印刷によって、第2のガラス基材2上に、図4(a)に示すような配置で塗布した。このとき、第2のガラス基材2の側端部からガラスフリット4端部までの距離Aを1mmとし、ガラスフリット4の幅および厚さを、それぞれ1mmおよび30μmとした。その後、有機物をバーンアウトするため460℃で加熱、焼成し、接合材4を形成した(図3(d)参照)。
【0046】
(工程2)次に、接合材4が形成された第2のガラス基材2を第1のガラス基材1に対してアライメントしながら、接合材4が第1のガラス基材1の発光部3を備えた面と接触するように、これらの部材を仮組みした。その後、接合材4への加圧力を均一化するために、補助的に、ガラス基材5(旭硝子株式会社製PD200)を、第2のガラス基材2上に配置した。さらに、加圧力を補助するために、加圧装置(図示せず)によって、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2と接合材4とを、大気圧がかかるように加圧した。このようにして、第1のガラス基材1と第2のガラス基材2とを接合材4を介して接触させた(図3(e)参照)。
【0047】
(工程3)次に、工程2で準備した、第2のガラス基材1と第2のガラス基材2と接合材4とからなる仮組み構造物に、局所加熱光(レーザ光)9を照射した(図3(f)参照)。
【0048】
本実施例では、局所加熱光9の光源として加工用半導体レーザ装置を1個用意し、レーザヘッド8にファイバー(図示せず)で連結した。レーザヘッド8は、接合材4を含む固定された被照射物に対して移動できるように構成するとともに、局所加熱光9の光源がガラス基材と直交するように、かつレーザ出射口とガラス基材5との距離が8cmとなるように配置した。
【0049】
局所加熱光9の照射条件は、波長を980nm、レーザパワーを40W、有効ビーム径を4.0mmとした。なお、本明細書中において、レーザパワーは、レーザヘッドから出射した全光束を積分した強度値として規定し、有効ビーム径は、レーザ光の強度がピーク強度のe-2倍以上となる範囲として規定した。また、局所加熱光9は、有効ビーム径の中心が接合材4の幅方向の中心となるようにアライメントし、接合材4の枠状に沿った走査速度を10mm/sで接合材4に照射した。したがって、それぞれ第2のガラス基材2の側端部6と反対側の、接合材4の端部から局所加熱光9の照射範囲の端部までの距離Bは、1.5mmであった。
【0050】
上記の工程をガラス基材の4つの周辺部に対して行い、接合材4が第2のガラス基材2の側端部の一部を覆うような、第1のガラス基材1と第2のガラス基材との接合を完了した(図3(g)参照)。
【0051】
以上のようにして気密容器を作成して、有機EL表示装置を完成させた。完成した装置を動作させたところ、画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が有機EL表示装置に適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【0052】
(実施例2)
本実施例では、工程1において、接合材4の一方の端部と第2のガラス基材2の側端部6とが一致するように接合材4を形成した(図5(a)参照)。また、それに応じて、実施例1と同様に、局所加熱光9の有効ビーム径の中心が接合材4の幅方向の中心となるように、局所加熱光9の照射範囲を変更した。これら以外は、実施例1と同様にして有機EL表示装置を作成した。
【0053】
このようにして作成した有機EL表示装置を動作させたところ、画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が有機EL表示装置に適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1 第1のガラス基材
2 第2のガラス基材
4 接合材
9 局所加熱光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス基材と、該第1のガラス基材とともに気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法であって、
粘度が負の温度係数を有し、前記第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、前記第2のガラス基材の上に、該第2のガラス基材の側端部に沿って枠状に形成する工程と、
前記第1のガラス基材を、前記接合材と接触させるように、前記接合材が形成された前記第2のガラス基材と対向配置する工程と、
局所加熱光を、前記接合材の枠状に延びる方向に沿って前記接合材に照射し、対向配置された前記第1のガラス基材と前記第2のガラス基材とを接合する工程と、
を有し、
前記接合材が延びる方向から見たとき、前記局所加熱光の照射は、前記接合材と、前記第2のガラス基材の前記側端部とが照射範囲に含まれるように行われるとともに、前記接合材の両端部からそれぞれ、前記第2のガラス基材の前記側端部までの距離をA、前記第2のガラス基材の前記側端部と反対側の、前記照射範囲の境界までの距離をBとすると、
B≧A
の関係を満たすように行われる、気密容器の製造方法。
【請求項2】
前記局所加熱光の照射は、
B>A>0
の関係を満たすように行われる、請求項1に記載の気密容器の製造方法。
【請求項3】
前記局所加熱光の照射は、
B>A=0
の関係を満たすように行われる、請求項1に記載の気密容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−252827(P2012−252827A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123282(P2011−123282)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】