気泡の放出分散装置ならびに溶湯処理方法および溶湯処理装置
【課題】溶湯処理において、撹拌力を増大して効率良く溶湯中に微細気泡を均一に分散させ、かつ湯面のくぼみの拡大を抑制して介在物の巻き込みを防止できる気泡の放出分散装置を提供する。
【解決手段】気泡の放出分散装置は、溶湯(M)中で回転し、内部にガス供給通路(11)を有するシャフト(10)と、前記シャフト(10)の下端に設けられ、前記ガス供給通路(11)に連通するガス吹出口(26)を有する回転子(20)とを備える気泡の放出分散装置において、前記シャフト(10)の外周面または前記回転子(20)の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼(12)が突設されていることを特徴とする。
【解決手段】気泡の放出分散装置は、溶湯(M)中で回転し、内部にガス供給通路(11)を有するシャフト(10)と、前記シャフト(10)の下端に設けられ、前記ガス供給通路(11)に連通するガス吹出口(26)を有する回転子(20)とを備える気泡の放出分散装置において、前記シャフト(10)の外周面または前記回転子(20)の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼(12)が突設されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体、例えば金属溶湯中に微細な気泡を放出し分散させる気泡の放出分散装置、ならびにこの装置を用いた溶湯処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材料を溶解した溶湯中には水素ガス、AlやMg等の金属酸化物、NaやKのアルカリ金属、リン等の種々の介在物や不純物が含まれているため、鋳造前にこれらの介在物を除去する必要がある。介在物等を除去する方法としては、溶湯中にガスを放出し、介在物等を液面に浮上させる方法がある。また、溶湯中の化学反応を促進させるためにも、溶湯中にガスを放出させることがある。このようなガスを用いた溶湯処理では、処理効率を高めるためにガスを微細な気泡として溶湯中に放出し、かつ広範囲に分散させる必要がある。
【0003】
溶湯へのガス放出分散装置としては、軸方向にガス供給用の貫通孔が穿設されたシャフトと、シャフトの先端に取り付けられ、周面に前記貫通孔に通じるガス噴出孔が多数形成された回転子とを備えたものが用いられている。前記ガス放出分散装置は、溶湯中にシャフトの先端部と回転子を浸漬し、これらを回転するとともに、外部からシャフトの貫通孔にガスを導入し、ガス噴出孔から微細された気泡を溶湯中に放出させるというものである。
【0004】
このようなガス放出分散装置において、気泡を微細かつ均一に分散させる技術として、種々の形状の回転子が提案されている(特許文献1〜5参照)。
【0005】
特許文献1に記載された回転子は、底面に攪拌用の羽根を放射状に取付けたものである。
【0006】
特許文献2に記載された回転子は、周面に傾斜した羽根部を有するインペラーと、このインペラーの上方に隙間を有し、かつインペラーの上面よりも高い位置に配設される被覆体とを組み合わせたものである。
【0007】
特許文献3に記載された回転子は、多角形であり、底面において中心の気体吹出口から各角部に伸びる複数の溝が形成されたものである。
【0008】
特許文献4に記載された回転子は、複数の羽根状回転体を同軸上に連結したものである。
【0009】
特許文献5に記載された回転子は、頂面が中心から周縁部に向かって下方に傾斜し、周面に突起が設けられ、かつ底面に放射状の溝が形成されたものである。
【特許文献1】特許第3314993号公報
【特許文献2】特許第3465624号公報
【特許文献3】特許第2106486号公報
【特許文献4】特開平7−90406号公報
【特許文献5】特許第2048090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載された回転子は、特許文献1,2の回転子よりも気泡を効率的に均一分散させることができるものの、より高度な溶湯の清浄度を得るには高速での回転が必要となる。
【0011】
一方、特許文献4に記載された回転子では湯面のくぼみが大きくなり、浮上した介在物を巻き込み易くなるため、却って溶湯の清浄度を悪化させるおそれがある。
【0012】
また、特許文献5に記載された回転子によれば高速で微細気泡を均一に分散できるとされている。しかし、溶湯の清浄度を維持したまま大量の溶湯を効率的に処理するには限界がある。このため、さらに効率良く気泡を微細かつ均一に分散させ得る装置が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、撹拌力を増大して効率良く液体中に微細気泡を均一に分散させ、かつ液面のくぼみの拡大を抑制できる気泡の放出分散装置、ならびこの装置を用いた溶湯処理方法および溶湯処理装置の提供を目的とする。さらに、この溶湯処理装置を用いた高純度アルミニウムの製造方法および製造装置、この溶湯処理装置を用いたアルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【0014】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語は、アルミニウムおよびその合金を含む意味で用いる。
【0015】
即ち、本発明の気泡の放出分散装置は、下記[1]〜[12]に記載の構成を有する。
【0016】
[1] 液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、前記シャフトの外周面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【0017】
[2] 前記撹拌翼が前記回転子の上面から10〜50mm上方に設けられている前項1に記載の気泡の放出分散装置。
【0018】
[3] 前記攪拌翼はシャフトに対して着脱自在となされている前項1または2に記載の気泡の放出分散装置。
【0019】
[4] 液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、前記回転子の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置
[5] 前記攪拌翼は、前記シャフトの外周面に接する位置に設けられている前項4に記載の気泡の放出分散装置。
【0020】
[6] 前記攪拌翼は、前記シャフトから離れた位置に設けられている前項4に記載の気泡の放出分散装置。
【0021】
[7] 前記攪拌翼は回転子に対して着脱自在となされている前項4〜6のいずれか1項に記載の気泡の放出分散装置。
【0022】
[8] 前記攪拌翼の傾斜角度は3〜87°である前項1〜7のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0023】
[9] 前記撹拌翼の数は2〜6個である前項1〜8のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0024】
[10] 前記攪拌翼は板状である前項1〜9のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0025】
[11] 前記板状の攪拌翼の大きさは、幅が回転子半径の1/3以上、長さが回転子高さの0.1〜2倍である前項10に記載の気泡の放出分散装置。
【0026】
[12]
前記撹拌翼は、平板形、流線形、L字形、コ字形のいずれかである前項10または11に記載の気泡の放出分散装置。
【0027】
また、本発明の溶湯処理方法は[13]に記載の構成を有する。
【0028】
[13] 金属溶湯中に前項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置を浸漬し、シャフトを回転させて溶湯を撹拌するとともに、ガス供給通路に導入した溶湯処理用ガスを回転子のガス吹出口から微細気泡として放出させ、気泡を溶湯中に分散させることを特徴とする溶湯処理方法。
【0029】
また、本発明の溶湯処理装置は[14]に記載の構成を有する。
【0030】
[14] 金属溶湯を入れる処理槽と前項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置とを備え、前記気泡の放出分散装置の撹拌翼を含む部分が溶湯中に浸漬した状態に配置されることを特徴とする溶湯処理装置。
【0031】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法および製造装置は、[15]〜[17]に記載の構成を有する。
【0032】
[15] アルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を前項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製工程とを行うことを特徴とする高純度アルミニウムの製造方法。
【0033】
[16] 前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる前項15に記載の高純度アルミニウムの製造方法。
【0034】
[17] アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する前項14に記載の溶湯処理装置と、前記不純物を分離した溶湯を導入し、該溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製部とを備えることを特徴とする高純度アルミニウムの製造装置。
【0035】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置は、[18]〜[20]に記載の構成を有する。
【0036】
[18] アルミニウム鋳造用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を前項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯を所定形状の鋳塊に鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造方法。
【0037】
[19] 前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる前項18に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【0038】
[20] アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する前項14に記載の溶湯処理装置と、この溶湯処理装置の後段に配置され、前記不純物を分離した溶湯を所要形状の鋳塊に鋳造する鋳造部とを備えることを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造装置。
【発明の効果】
【0039】
[1]の発明によれば、液体を効率良く撹拌してガス吹出口から放出される気泡を均一かつ広範囲に分散させることができる。
【0040】
[2]の発明によれば、特に効率良く撹拌することができる。
【0041】
[3]の発明によれば、1つのシャフトに対して、液体の処理目的や液体量に適した撹拌翼に付け替えることができる。
【0042】
[4][5][6]の各発明によれば、液体を効率良く撹拌してガス吹出口から放出される気泡を均一かつ広範囲に分散させることができる。
【0043】
[7]の発明によれば、1つの回転子に対して、液体の処理目的や液体量に適した撹拌翼に付け替えることができる。
【0044】
[8][9][10][11][12]の各発明によれば、特に効率良く撹拌することができる。
【0045】
[13][14]の各発明によれば、金属溶湯中に微細な気泡を均一かつ広範囲に分散させることができ、介在物や不純物の除去や化学反応等の溶湯処理を効率良く行うことができる。
【0046】
[15]の発明によれば、溶湯中に含まれる非金属介在物や共晶不純物を除去して高純度アルミニウムを製造することができる。
【0047】
[16]の発明によれば、さらに溶湯中に含まれる包晶不純物を除去して高純度アルミニウムを製造することができる。
【0048】
[17]の発明によれば、上記[15][16]の高純度アルミニウムの製造方法を実施することができる。
【0049】
[18]の発明によれば、溶湯中に含まれる非金属介在物や共晶不純物を除去して高品質のアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0050】
[19]の発明によれば、さらに溶湯中に含まれる包晶不純物を除去して高品質のアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0051】
[20]の発明によれば、上記[18][19]のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
[気泡の放出分散装置および溶湯処理装置]
〔実施形態1〕
図1Aおよび図1Bに、本発明の気泡の放出分散装置の一実施形態を示す。
【0053】
気泡の放出分散装置(1)は、シャフト(10)と該シャフトの下端に取り付けられた回転子(20)とにより構成される。
【0054】
前記シャフト(10)は長さ方向に沿ってガス供給通路(11)が貫通し、下端部の外周面に雄ネジ部(13)が形成されている。また、シャフト(10)の下方部の外周面には、角形平板からなり、回転軸に対して傾斜する3枚の攪拌翼(12)(12)(12)が等間隔で突設されている。
【0055】
前記回転子(20)は、上面が中心から周縁に向かって下方に傾斜するとともに、底面が中心から周縁に向かって上方に傾斜し、所定高さを有する周面には周方向に等間隔で複数の液体攪拌用突起(21)(21)…が突設されている。また、前記回転子(20)上面の中央部には凹所(22)が設けられ、該凹所(22)の上半部は内周面に前記シャフト(10)の雄ネジ部(13)に対応する雌ネジ部(23)が形成され、下半部はガス供給通路(11)に連通するガス室(24)となされている。さらに前記ガス室(24)から連通し、各攪拌用突起(21)の先端面に至る複数のガス通路(25)が放射状に設けられている。各前記ガス通路(25)は攪拌用突起(21)の先端面に開口してガス吹出口(26)を形成している。一方、前記回転子(20)の底面の中央部には液体導入用凹所(27)が設けられ、該凹所(27)から各攪拌用突起(21)の先端面に開口する溝(28)が設けられている。
【0056】
図1Aおよび図1Bに示すように、前記気泡の放出分散装置(1)は、シャフト(10)の攪拌翼(12)を含む下方部が処理槽(3)に入れた溶湯(M)中に浸漬され、図外の駆動装置によりシャフト(10)が回転駆動するとともに、溶湯処理用ガス(G)がガス供給通路(11)を介して回転子(20)に導入される。導入された溶湯処理用ガス(G)は、ガス室(24)、ガス通路(25)を通ってガス吹出口(26)から微細な気泡として溶湯(M)中に放出されとともに、回転子(20)の回転によって撹拌された溶湯(M)の流動に伴って広い範囲に拡散される。即ち、回転子(20)よりも上方の溶湯(M)は、攪拌翼(12)と撹拌用突起(21)によって撹拌され、かつ攪拌された溶湯(M)は傾斜した回転子(20)の上面に沿って外方に流動する(M1)。一方、回転子(20)よりも下方の溶湯(M)は、液体導入用凹所(27)から溝(28)を通って開口端から外方に流れる(M2)。そして、上下の流れ(M1)(M2)が合流してさらに遠心方向に流動し、ガス吹出口(26)から放出された微細気泡は上述した溶湯の流動によって溶湯中に均一かつ広範囲に分散される。従って、溶湯中の介在物や不純物の除去や化学反応等の溶湯処理を効率良く行うことができる。
【0057】
上述した気泡の放出分散装置(1)において、攪拌翼(12)は、回転軸に対して傾斜させることによって十分な攪拌効果を得ることができ、ひいては微細気泡を広く均一に分散させることができる。図2に示すように、攪拌翼(12)の回転軸(Q)に対する傾斜角度(θ)は3〜87°が好ましい。3°未満または87°を超える場合は十分な攪拌力を得ることが困難である。特に好ましい傾斜角度(θ)は30〜60°である。
【0058】
また、攪拌翼(12)の数は限定されないが、2〜6個が好ましい。1個では攪拌力の増大効果が少なく、7個以上の多数の攪拌翼を取り付けても攪拌力の増大効果を見込めないためである。特に好ましい攪拌翼(12)の数は3〜4個である。
【0059】
前記板状の攪拌翼(12)の場合、撹拌効率を高める上で攪拌翼(12)の好ましい大きさは以下のとおりである。幅(W)、即ちシャフト(10)からの突出高さは回転子半径(W0)の1/3以上が好ましく、さらに1/2〜2/3が好ましい。長さ(L)は回転子高さ(L0)の0.1〜2倍が好ましく、さらに0.5〜1.5倍が好ましい。板厚(T)は2〜10mmが好ましく、さらに3〜8mmが好ましい。
【0060】
また、前記攪拌翼(12)の上下方向の位置は限定されないが、攪拌翼(12)の下端部が回転子(20)の上面から離れている方が好ましい。攪拌翼(12)と回転子(20)の上面との間にも溶湯(M)が流動して攪拌効果が増大するためである。攪拌翼(12)と回転子(20)の上面との距離(D)は10〜50mmの範囲が好ましく、特に15〜30mmが好ましい。
【0061】
なお、前記撹拌翼(12)の下端部が回転子(20)の上面に接している場合も本発明に含まれる。
【0062】
〔実施形態2〕
図3に示す気泡の放出分散装置(2)は、攪拌翼(31)を回転子(30)に一体に設けたものである。なお、図2において図1Aおよび図1Bと同一符号は同一物を示すものとして説明を省略する。
【0063】
前記気泡の放出分散装置(2)において、回転子(30)の上面に設けられた凹所(22)の外周縁に等間隔で3枚の板状撹拌翼(31)(31)(31)が突設されている。これらの撹拌翼(31)は、回転軸に対して傾斜するとともに、外縁(32)が基端部から上方に向かって中心側に傾斜するテーパー状に形成されている。また、シャフト(35)の下端部に設けられた雄ネジ部(13)を回転子(30)の凹所(22)の雌ネジ部(23)に螺合させてこれらを組み付けると、攪拌翼(30)の内縁(33)がシャフト(35)の外周面に接するものとなされている。
【0064】
回転子(30)の上面に設けた攪拌翼(31)についても、図1Aのシャフト(10)に設けた撹拌翼(12)と同様に撹拌効果を増大させ、微細な気泡を広く均一に分散させることができる。また、攪拌翼(31)の回転軸に対する傾斜角度(θ)、大きさ、個数は、シャフト(10)に設けた撹拌翼(12)に準じる(図2参照)。
【0065】
本発明における撹拌翼は、上述した平板状のものに限定されない。図4A〜図4Dに他の板状の撹拌翼の例を示す。図4Aの撹拌翼(40)は、シャフト(10)に近い基端部から先端部(径方向の外側)に向かって肉厚が薄くなる流線形に形成されたものである。図4Bの攪拌翼(41)は、先端部が屈曲したL字形である。図4Cの撹拌翼(42)は、断面コ字形でありシャフト(10)の外周面との間に空間(43)が形成されたものであり、溶湯が前記空間(43)の下端から入り上端から抜けることによりに撹拌効果を増大させるものである。図4Dの撹拌翼(45)は、下端縁が円弧状の扇形である。これらの板状攪拌翼(40)(41)(42)(45)の場合もまた、回転軸に対する傾斜角度(θ)、大きさ、個数は、平板状の撹拌翼(12)に準じる(図2参照)。
【0066】
さらに、本発明における撹拌翼は、角柱、角錐、角錐台、楕円柱、半楕円球等の突起状でも良い。これらの突起状攪拌翼は、突起の底面(シャフトまたは回転子に接している面)の外接円半径が回転子半径の1/3以上、突出高さが回転子高さの0.2〜1倍が好ましい。
【0067】
また、いずれの攪拌翼についても、シャフトまたは回転子に一体に設ける他、着脱自在に設けることができる。着脱手段はネジ止め、溝と凸部の嵌合等の周知手段を適宜用いることができる。撹拌翼を着脱自在とすることにより、1つのシャフトまたは回転子に対して撹拌翼を付け替えることができ、処理目的や液体量に適合した撹拌翼を選択することができる。
【0068】
本発明における回転子は、撹拌翼よりも下方からガスが放出されるものであれば良く、上述した形状のものに限定されない。図5〜7に他の回転子の例を示す。各図において(A)は縦断面図であり、(B)は底面図である。また、図5(A)、図6(A)、図7(A)は、それぞれ図5(B)の5A−5A線、図6(B)の6A−6A線、図7(C)の7A−7A線における断面図である。
【0069】
図5(A)(B)に示す回転子(50)は、上面が平坦面で形成され、周方向に複数の水平撹拌翼(51)とこの水平攪拌翼の下面中央に垂直撹拌翼(52)が突設され、シャフト取付け用の凹所(53)の側壁にガス吹出口(54)が形成されている。図6(A)(B)に示す回転子(60)は、上面が中心部から周縁部に向かって下方に傾斜し、周面には所定間隔で複数の撹拌用突起(61)が突設され、底面中心部の凹所(62)から撹拌用突起(61)の先端面に開口する溝(63)が放射状に設けられている。また、シャフト取付け用凹所(64)に連通するガス通路(65)は底面の流体導入用凹所(64)に開口し、溶湯処理用ガスは溝(63)を通って先端部から放出される。図7(A)(B)に示す回転子(70)は、上端面が緩やかに傾斜し、周面には所定間隔で複数の長い撹拌用突起(71)が突設され、底面中心部の流体導入凹所(72)から周面に開口する溝(73)が放射状に設けられている。また、シャフト取付け用凹所(74)は底面の流体導入用凹所(72)に開口し、溶湯処理用ガスは溝(73)を通って先端部から放出される。
【0070】
上述したように、本発明の気泡の放出分散装置は金属溶湯処理に好適に用いられてものであるが、溶湯以外の種々の液体中に気泡を分散させる場合に広く用いることができる。
【0071】
本発明の溶湯処理装置は、図1Aに示すように、溶湯(M)を入れる処理槽(3)と上述した本発明にかかる気泡の放出分散装置、例えば(1)とを備えるものであり、撹拌翼(12)を含む部分が溶湯(M)中に浸漬した状態に配置される。また、前記溶湯処理装置には、図示されないが、処理槽(3)の上部開口部を塞ぐ蓋、溶湯(M)の入口および出口、溶湯出口を覆って介在物の流出を防止する垂直隔壁等が任意に装備される。
[高純度アルミニウムの精製方法および製造装置]
図8および図9に、本発明の高純度アルミニウムの製造方法を実施する高純度アルミニウムの製造装置(80)の一例を示すとともに、製造方法について詳述する。
【0072】
前記製造装置(80)は、アルミニウムを精製して高純度アルミニウムを連続的に得る装置であって、アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉(81)と、溶解炉(81)に続いて直列に配置された複数のるつぼ(82A)(82B)(82C)(82D)(82E)とを備えている。
【0073】
前記溶解炉(81)に投入するアルミニウム精製用原料は、溶存水素ガス、酸化物等の非金属介在物、共晶不純物および包晶不純物等を含んだ精製すべきアルミニウム原料である。また、前記アルミニウム精製用原料には、共晶不純物および包晶不純物と反応して不溶性化合物を形成する元素を添加することがある。例えば、ホウ素を添加することにより、ホウ素がTi、V、Zr等の包晶不純物と反応してTiB2、VB2、ZrB2の不溶性金属ホウ化物が形成されるが、これらの不溶性金属ホウ化物を不純物として溶湯から分離することができる。勿論、アルミニウム精製用原料にホウ素が含まれている場合も、不溶性金属ホウ化物を形成し、後に分離される。ホウ素は、単体、Al−B母合金等のホウ素含有合金、ホウ素含有化合物等として添加することができる。なお、不純物除去のためのホウ素は、溶解炉(81)ではなく第1るつぼ(82A)で添加しても良い。
【0074】
前記溶解炉(81)に隣接する第1るつぼ(82A)は、溶湯処理用ガス吹き込み室であって、本発明の溶湯処理装置に対応する。また、他の第2るつぼ(82B)、第3るつぼ(82C)、第4るつぼ(82D)および第5るつぼ(82E)は、偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製室であって、本発明における精製部に対応する。隣り合うるつぼ(82A)(82B)、(82B)(82C)、(82C)(82D)、(82D)(82E)どうしは上端部において連結樋(83)により連通状に接続されている。また、第1るつぼ(82A)の上端部に溶解炉(81)から供給される溶湯を受ける受け樋(84)が設けられ、溶解炉(81)から最も離れた第5るつぼ(82E)の上端部に溶湯排出樋(85)が設けられている。
【0075】
前記第1るつぼ(82A)内には、上述した本発明の気泡の放出分散装置(1)(図1A〜図2)が配されている。前記気泡の放出分散装置(1)は、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされ、ガス供給通路(11)に溶湯処理用ガスを供給しながらシャフト(10)を回転させると、溶湯処理用ガスがガス吹出口(26)から溶湯中に微細な気泡として放出され、溶湯全体に分散される。溶湯は、気泡の放出分散装置(1)の回転子(20)および撹拌翼(12)の回転と気泡の分散とによって撹拌される。
【0076】
また、第1るつぼ(82A)の出湯口(90)と対応する位置において、出湯口(90)の第1るつぼ(82A)内側端部および第1るつぼ(82A)内面における出湯口(10)の下方に連なる部分を覆うような水平断面略U字形の垂直隔壁(91)が設けられている。この垂直隔壁(91)により、浮上した非金属介在物が精製用の第2るつぼ(82B)に流出するのを防止することができる。
【0077】
前記溶湯処理用ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスおよびこれらの混合ガス等の不活性ガス、塩素ガス、フロンガスならびにこれらの混合ガスなど、アルミニウム溶湯中に含まれる不純物に有効なすべてのガスが用いられる。アルミニウム溶湯中に含まれる水素ガス等の気体の不純物は、溶湯処理用ガスの気泡中に拡散し、気泡が溶湯中を通って溶湯表面まで浮上するに際に連行され、溶湯処理用ガスとともに雰囲気中に放出される。また、アルミニウム溶湯中の非金属介在物、反応によって形成された不溶性金属ホウ化物等の固形不純物は、気泡によって溶湯表面に運ばれて浮滓となる。雰囲気中に放出された気体不純物を含む溶湯処理用ガスおよび溶湯表面に浮かんでいる浮滓は、公知の手段により適宜除去すれば良く、これにより溶湯から不純物が除去される。
【0078】
第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)内には、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされた回転軸(93)と、回転軸(93)の下端に設けられた冷却体(94)とを備える回転冷却装置(94)が配置されている。前記回転軸(93)には内部に長さ方向に伸びる冷却流体通路(97)が形成されている。また、前記冷却体(94)は下方に向かって断面積が減少する有底の逆円錐台形状であり、前記冷却流体通路(97)に連通する内部空間(98)が形成され、冷却流体を冷却流体通路(97)を介して内部空間(98)に供給することによって溶湯に接触する外周面を凝固点以下の温度に保持し得るものとなされている。そして、偏析凝固の原理により、冷却体(94)の表面には溶湯よりも純度の高いアルミニウムが晶出する。従って、前記冷却体(94)は、アルミニウム溶湯と反応により溶湯を汚染しないことはもとより、熱伝導性のよい材料、たとえば黒鉛等により形成されていることが好ましい。また、前記冷却体(94)は、上端部を除いた部分がアルミニウム溶湯中に浸漬する高さに設定される。
【0079】
上述した高純度アルミニウムの製造装置(80)において、高純度アルミニウムの製造は下記の工程(i)〜(v)を経て行われる。
(i) 第1るつぼ(82A)における気泡の放出分散装置(1)、および第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)における回転冷却装置(94)を上昇させて各るつぼ(82A)〜(82E)の上方に待機させる。
(ii)溶解工程
共晶不純物および包晶不純物を含む精製すべきアルミニウム精製用原料で溶解炉(81)で溶解する。要すればホウ素(ホウ素含有合金、ホウ素化合物を含む)を添加し、共に溶解させる。
(iii)不純物分離工程
溶解炉(1)から溶湯を第1るつぼ(82A)に供給する。要すれば、ホウ素(ホウ素含有合金、ホウ素化合物を含む)を添加する。
【0080】
次いで、分散装置(1)のシャフト(10)を下降させて回転子(20)を溶湯中に浸漬し、シャフト(10)を回転させるとともに処理ガス通路(11)に溶湯処理用ガスを供給する。これにより、溶湯が攪拌されるとともに、溶湯処理ガスが回転子(20)のガス吹出口(26)からの微細な気泡として放出され、水素ガス等の気体および固体の不純物が浮上する。固体不純物には、非金属介在物、ホウ素との反応によって形成された不溶性金属ホウ化物等の固形不純物が含まれる。浮上した不純物を含む浮滓を適宜除去する。また、浮上した浮滓は前記隔壁(91)に阻まれて出湯口(10)への流出が防止される。
(iv) 第1るつぼ(82A)において不純物を除去された溶湯は出湯口(10)を介して第2るつぼ(2B)内に供給され、さらに連結樋(83)を介して順次第3るつぼ(82C)、第4るつぼ(82D)および第5るつぼ(82E)内に供給される。
(v)精製工程
第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)内の溶湯量が所定量に達すれば、回転冷却装置(94)の回転軸(93)を下降させて冷却体(94)を溶湯中に浸漬する。次いで、回転軸(93)の冷却流体通路(17)を介して回転冷却体(94)の内部空間(18)に冷却流体を供給してその外周面の温度をアルミニウムの凝固点以下に保持しつつ回転軸(93)および冷却体(94)を回転させる。またこのとき、図示しないヒータにより各るつぼ(92B)〜(92E)内の溶湯をその凝固点を越える温度に加熱保持しておく。これにより、偏析凝固の原理により、冷却体(94)の外周面に溶湯よりも純度の高いアルミニウムが晶出し、高純度アルミニウム塊が形成される。一方、晶出せず共晶不純物等の濃度の高くなった溶湯は溶湯排出樋(85)から排出される。
【0081】
各冷却体(94)に所定量の高純度アルミニウム塊が形成されれば、精製作業を終了する。
【0082】
なお、不純物除去のために添加されたホウ素のうちの過剰分は、Fe、Si、Cu等の共晶不純物とともに除去される。また、第1るつぼ(82A)において固体不純物が除去されているので、溶湯通過時に連結樋(83)および溶湯排出樋(85)に詰まるのが防止される。
【0083】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法において、高純度アルミニウムの取り出し方法は不純物を分離した母液から高純度アルミニウムを回収できれば良く、上記実施形態の冷却体表面への凝固に限定されない。また、冷却体の形状、冷却方法も問わない。
【0084】
また、上記実施形態では溶解炉および複数のるつぼ(反応室、精製室)を用いて溶解工程、不純物分離工程、精製工程を溶湯を移動させながら連続処理を行っている。このような連続処理は生産性が良好である。しかし、本発明は連続処理に限定するものではなく、1つの処理室で各工程をバッチ方式で行うこともできる。また、連続処理を行う場合、1つのるつぼ等の処理容器を壁等で仕切ることによって反応室と精製室を形成しても良い。
【0085】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法によれば、溶湯に含まれる不純物が処理ガス吹き込み室で溶湯処理用ガスの気泡に運ばれ、溶湯表面に浮上させられて浮滓となる。このため、この浮滓を掬い取る等の適当な手段で除去することにより非金属介在物や包晶不純物等の不純物を分離することができる。さらに、これらの不純物を分離するした溶湯から、偏析凝固の原理により純度の高いアルミニウムが晶出させ、高純度アルミニウムを得ることができる。また、本発明は溶解炉または処理ガス吹き込み室でホウ素を添加しない場合も含まれる。ホウ素を添加しない場合でも、気泡分散による溶湯処理を行えば非金属介在物および共晶不純物を除去できるし、またアルミニウム精製原料にホウ素が含まれている場合もあるからである。
【0086】
なお、上述の高純度アルミニウムの製造方法および製造装置の説明において、図1A等に示した気体の放出分散装置(1)を示したが、本発明の気体の放出分散装置であれば任意のものを用いることができる。
【0087】
[アルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置]
図10に、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施するアルミニウム鋳塊の製造装置(100)の一例を示すとともに、製造方法について詳述する。
【0088】
前記製造装置(100)は、アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉(81)と、溶解炉(81)に続いてるつぼ(82A)が配置され、さらにその後段に、溶湯供給路(99)を介してホットトップ式の鋳造部(101)が配置されている。
【0089】
前記溶解炉(81)およびるつぼ(82A)は、上述した高純度アルミニウムの製造装置(80)における前記溶解炉(81)および第1るつぼ(82A)と同様のものであり、気泡の放出分散装置(1)が配置された処理用ガス吹き込み室である。これらの構成および機能は高純度アルミニウムの製造装置(80)におけるものと同等であるから、説明を省略する。
【0090】
前記鋳造部(101)において、符号(102)は中空部に充填された冷却水(103)によって水冷されるとともに下端部に冷却水(103)の噴出口(104)が設けられた鋳型、符号(105)は溶湯供給路(99)から供給される溶湯(M)を受け入れて前記鋳型(102)に導く溶湯受容器であり、符号(106)は凝固した鋳塊(107)を保持し鋳塊(107)の製造に伴って下降するボトムブロック、符号(108)は鋳塊(107)を冷却する水槽内の冷却水である。また、前記溶湯供給路(99)は、第1るつぼ(82A)の溶湯出側に配置された連結樋(83)に接続されている。
【0091】
前記製造装置(100)において、るつぼ(82A)において不純物(浮滓)が除去された溶湯(M)は連通樋(83)から出て前記溶湯供給路(99)を通って溶湯受容器(105)に達し、鋳型(103)に注入される。このとき、ボトムブロック(106)を上昇させて鋳型(102)の下端部に配置されている。そして、鋳型(102)に注入された溶湯がボトムブロック(106)上に供給され、供給量が所定値に達した時点でボトムブロック(106)を降下させる。図10に示すようにボトムブロック(106)を下降させながら溶湯供給を行い、鋳塊(107)を連続鋳造する。溶湯(M)および鋳塊(107)の冷却は、鋳型(102)からの冷却、鋳型(102)の噴出口(104)から吹きつけられる冷却水(103)および水槽内の冷却水(108)への浸漬によって行われる。
【0092】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によれば、鋳造部(101)に供給される溶湯は前段のるつぼ(82A)において溶湯処理用ガスの分散により不純物を浮上させ、浮上した不純物を除去したものであるから、品質の良いアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0093】
なお、上述のアルミニウム鋳塊の製造方法の説明において、ホットトップ式の連続鋳造を例示したが、鋳造部の構成は何ら限定されず、従来公知の鋳造装置を任意に用いることができる。その他の鋳造部として、型鋳造機、水平型の連続鋳造機、連続鋳造機、半連続鋳造機、連続鋳造圧延機等を例示できる。連続鋳造にも限定されないが、溶湯処理装置ででは連続的に溶湯を処理できるので、連続鋳造機を用いることが好ましい。勿論、溶解、溶湯処理、鋳造を連続して行うことにも限定されず、溶湯処理を行って不純物を分離した溶湯をバッチ式で鋳造部に供給しても良い。
【実施例】
【0094】
表1に示すように、4種類の回転子と4種類の形状の撹拌翼を組み合わせ、さらに攪拌翼の長さと傾斜角度を変えた気泡の放出分散装置を製作し、溶湯処理試験を行った。
【0095】
回転子は、図1Aおよび図1Bに示す回転子(20)、図5(A)(B)に示す回転子(50)、図6(A)(B)に示す回転子(60)、図7(A)(B)に示す回転子(70)を用い、これらの半径と高さは表1に示すとおりである。
【0096】
攪拌翼は、図1Aおよび図1Bに示す平板形の撹拌翼(12)、図4Aに示す流線形の攪拌翼(40)、図4Bに示すL字形の攪拌翼(41)、図4Cに示すコ字形の攪拌翼(42)を用いた。これらの撹拌翼(12)(40)(41)(42)の板厚(T)、幅(W)、長さ(L)、傾斜角度(θ)は表1に示す通りである。また、いずれの例においても、3個の撹拌翼を周方向に等間隔で設置するものとし、撹拌翼(12)(40)(41)(42)の下端と回転子(20)(50)(60)(70)の上面との距離(D)を20mmとした。なお、図4Aの流線形の撹拌翼(40)における板厚(T)とは、シャフト(10)近傍の最も厚肉となされた基端部における肉厚であり、他の撹拌翼(12)(41)(42)の板厚(T)は一定の肉厚である。また、図4BのL字形の撹拌翼(41)の幅(W)とは、シャフト(10)に接する長辺の幅であり、屈曲した先端部の幅(W1)は10mmである。図4Cのコ字形の撹拌翼の幅(W)とは、シャフト(10)に接する長辺の幅であり、2つの長辺を繋ぐ短辺の幅(W2)は30mmである。
【0097】
表1から、実施例1〜10の撹拌翼は、いずれも幅(W)が回転子の半径の1/3以上、かつ長さ(L)が回転子の高さの0.1倍以上である。
【0098】
また、シャフト(10)に撹拌翼を設けない従来の気泡の放出分散装置(図示なし)を比較例1〜4とした。
【0099】
溶湯処理試験には、溶湯(M)としてJIS 1100アルミニウム合金を10m3用いた。そして、溶湯処理用ガスとして表1に示す量のArガスを供給しながら、シャフト(10)を回転数:800r.p.mで3分間回転させて溶湯処理を行い、湯面に浮上した介在物を除去した。
【0100】
上記溶湯処理において、撹拌時にシャフト周りに生じるくぼみの大きさを目視観察した。また、溶湯処理後に溶湯中の介在物量を測定した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1の結果から、撹拌翼を設けることによって、シャフト周りの湯面のくぼみを拡大させることなく撹拌効果を高め、微細気泡を均一かつ広範囲に拡散させて介在物を効率よく除去できることを確認した。特に、図7(A)(B)の回転子(70)に対しては湯面のくぼみを小さくすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の気泡の放出分散装置は、液体の撹拌効率を高め、液体中に放出した気泡を均一かつ広範囲に分散させることができるものであるから、溶湯処理をはじめとして各種液体の処理に利用することができる。
【0104】
また、この発明の溶湯処理装置は高純度アルミニウムの製造およびアルミニウム鋳塊の製造にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】本発明にかかる気泡の放出分散装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図1B】図1Aの1B−1B線断面図である。
【図2】図1Aの気泡の放出分散装置における攪拌翼の大きさを示す図である。
【図3】本発明にかかる気泡の放出分散装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【図4A】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4B】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4C】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4D】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図5】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図6】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図7】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図8】本発明の高純度アルミニウムの製造方法を実施する製造装置の一実施形態を示す一部垂直断面図である。
【図9】図8のZ−Z線拡大断面図である。
【図10】本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施する製造装置の一実施形態を示す一部垂直断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1,2…気泡の放出分散装置
10、35…シャフト
11…ガス供給通路
12、31、40、41、42、45…撹拌翼
20、30、50、60、70…回転子
26…ガス吹出口
80…高純度アルミニウムの製造装置
81…溶解炉
82A…第1るつぼ、処理室(溶湯処理装置)
82B、82C、82D、82E…第2〜第4るつぼ、精製室(精製部)
92…回転冷却装置(精製部)
100…アルミニウム鋳塊の製造装置
101…鋳造部
M…溶湯(液体)
θ…撹拌翼の傾斜角度
W…攪拌翼の幅
L…撹拌翼の長さ
W0…回転子の半径
L0…回転子の高さ
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体、例えば金属溶湯中に微細な気泡を放出し分散させる気泡の放出分散装置、ならびにこの装置を用いた溶湯処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材料を溶解した溶湯中には水素ガス、AlやMg等の金属酸化物、NaやKのアルカリ金属、リン等の種々の介在物や不純物が含まれているため、鋳造前にこれらの介在物を除去する必要がある。介在物等を除去する方法としては、溶湯中にガスを放出し、介在物等を液面に浮上させる方法がある。また、溶湯中の化学反応を促進させるためにも、溶湯中にガスを放出させることがある。このようなガスを用いた溶湯処理では、処理効率を高めるためにガスを微細な気泡として溶湯中に放出し、かつ広範囲に分散させる必要がある。
【0003】
溶湯へのガス放出分散装置としては、軸方向にガス供給用の貫通孔が穿設されたシャフトと、シャフトの先端に取り付けられ、周面に前記貫通孔に通じるガス噴出孔が多数形成された回転子とを備えたものが用いられている。前記ガス放出分散装置は、溶湯中にシャフトの先端部と回転子を浸漬し、これらを回転するとともに、外部からシャフトの貫通孔にガスを導入し、ガス噴出孔から微細された気泡を溶湯中に放出させるというものである。
【0004】
このようなガス放出分散装置において、気泡を微細かつ均一に分散させる技術として、種々の形状の回転子が提案されている(特許文献1〜5参照)。
【0005】
特許文献1に記載された回転子は、底面に攪拌用の羽根を放射状に取付けたものである。
【0006】
特許文献2に記載された回転子は、周面に傾斜した羽根部を有するインペラーと、このインペラーの上方に隙間を有し、かつインペラーの上面よりも高い位置に配設される被覆体とを組み合わせたものである。
【0007】
特許文献3に記載された回転子は、多角形であり、底面において中心の気体吹出口から各角部に伸びる複数の溝が形成されたものである。
【0008】
特許文献4に記載された回転子は、複数の羽根状回転体を同軸上に連結したものである。
【0009】
特許文献5に記載された回転子は、頂面が中心から周縁部に向かって下方に傾斜し、周面に突起が設けられ、かつ底面に放射状の溝が形成されたものである。
【特許文献1】特許第3314993号公報
【特許文献2】特許第3465624号公報
【特許文献3】特許第2106486号公報
【特許文献4】特開平7−90406号公報
【特許文献5】特許第2048090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載された回転子は、特許文献1,2の回転子よりも気泡を効率的に均一分散させることができるものの、より高度な溶湯の清浄度を得るには高速での回転が必要となる。
【0011】
一方、特許文献4に記載された回転子では湯面のくぼみが大きくなり、浮上した介在物を巻き込み易くなるため、却って溶湯の清浄度を悪化させるおそれがある。
【0012】
また、特許文献5に記載された回転子によれば高速で微細気泡を均一に分散できるとされている。しかし、溶湯の清浄度を維持したまま大量の溶湯を効率的に処理するには限界がある。このため、さらに効率良く気泡を微細かつ均一に分散させ得る装置が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、撹拌力を増大して効率良く液体中に微細気泡を均一に分散させ、かつ液面のくぼみの拡大を抑制できる気泡の放出分散装置、ならびこの装置を用いた溶湯処理方法および溶湯処理装置の提供を目的とする。さらに、この溶湯処理装置を用いた高純度アルミニウムの製造方法および製造装置、この溶湯処理装置を用いたアルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【0014】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語は、アルミニウムおよびその合金を含む意味で用いる。
【0015】
即ち、本発明の気泡の放出分散装置は、下記[1]〜[12]に記載の構成を有する。
【0016】
[1] 液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、前記シャフトの外周面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【0017】
[2] 前記撹拌翼が前記回転子の上面から10〜50mm上方に設けられている前項1に記載の気泡の放出分散装置。
【0018】
[3] 前記攪拌翼はシャフトに対して着脱自在となされている前項1または2に記載の気泡の放出分散装置。
【0019】
[4] 液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、前記回転子の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置
[5] 前記攪拌翼は、前記シャフトの外周面に接する位置に設けられている前項4に記載の気泡の放出分散装置。
【0020】
[6] 前記攪拌翼は、前記シャフトから離れた位置に設けられている前項4に記載の気泡の放出分散装置。
【0021】
[7] 前記攪拌翼は回転子に対して着脱自在となされている前項4〜6のいずれか1項に記載の気泡の放出分散装置。
【0022】
[8] 前記攪拌翼の傾斜角度は3〜87°である前項1〜7のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0023】
[9] 前記撹拌翼の数は2〜6個である前項1〜8のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0024】
[10] 前記攪拌翼は板状である前項1〜9のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【0025】
[11] 前記板状の攪拌翼の大きさは、幅が回転子半径の1/3以上、長さが回転子高さの0.1〜2倍である前項10に記載の気泡の放出分散装置。
【0026】
[12]
前記撹拌翼は、平板形、流線形、L字形、コ字形のいずれかである前項10または11に記載の気泡の放出分散装置。
【0027】
また、本発明の溶湯処理方法は[13]に記載の構成を有する。
【0028】
[13] 金属溶湯中に前項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置を浸漬し、シャフトを回転させて溶湯を撹拌するとともに、ガス供給通路に導入した溶湯処理用ガスを回転子のガス吹出口から微細気泡として放出させ、気泡を溶湯中に分散させることを特徴とする溶湯処理方法。
【0029】
また、本発明の溶湯処理装置は[14]に記載の構成を有する。
【0030】
[14] 金属溶湯を入れる処理槽と前項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置とを備え、前記気泡の放出分散装置の撹拌翼を含む部分が溶湯中に浸漬した状態に配置されることを特徴とする溶湯処理装置。
【0031】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法および製造装置は、[15]〜[17]に記載の構成を有する。
【0032】
[15] アルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を前項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製工程とを行うことを特徴とする高純度アルミニウムの製造方法。
【0033】
[16] 前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる前項15に記載の高純度アルミニウムの製造方法。
【0034】
[17] アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する前項14に記載の溶湯処理装置と、前記不純物を分離した溶湯を導入し、該溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製部とを備えることを特徴とする高純度アルミニウムの製造装置。
【0035】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置は、[18]〜[20]に記載の構成を有する。
【0036】
[18] アルミニウム鋳造用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を前項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯を所定形状の鋳塊に鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造方法。
【0037】
[19] 前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる前項18に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【0038】
[20] アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する前項14に記載の溶湯処理装置と、この溶湯処理装置の後段に配置され、前記不純物を分離した溶湯を所要形状の鋳塊に鋳造する鋳造部とを備えることを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造装置。
【発明の効果】
【0039】
[1]の発明によれば、液体を効率良く撹拌してガス吹出口から放出される気泡を均一かつ広範囲に分散させることができる。
【0040】
[2]の発明によれば、特に効率良く撹拌することができる。
【0041】
[3]の発明によれば、1つのシャフトに対して、液体の処理目的や液体量に適した撹拌翼に付け替えることができる。
【0042】
[4][5][6]の各発明によれば、液体を効率良く撹拌してガス吹出口から放出される気泡を均一かつ広範囲に分散させることができる。
【0043】
[7]の発明によれば、1つの回転子に対して、液体の処理目的や液体量に適した撹拌翼に付け替えることができる。
【0044】
[8][9][10][11][12]の各発明によれば、特に効率良く撹拌することができる。
【0045】
[13][14]の各発明によれば、金属溶湯中に微細な気泡を均一かつ広範囲に分散させることができ、介在物や不純物の除去や化学反応等の溶湯処理を効率良く行うことができる。
【0046】
[15]の発明によれば、溶湯中に含まれる非金属介在物や共晶不純物を除去して高純度アルミニウムを製造することができる。
【0047】
[16]の発明によれば、さらに溶湯中に含まれる包晶不純物を除去して高純度アルミニウムを製造することができる。
【0048】
[17]の発明によれば、上記[15][16]の高純度アルミニウムの製造方法を実施することができる。
【0049】
[18]の発明によれば、溶湯中に含まれる非金属介在物や共晶不純物を除去して高品質のアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0050】
[19]の発明によれば、さらに溶湯中に含まれる包晶不純物を除去して高品質のアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0051】
[20]の発明によれば、上記[18][19]のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
[気泡の放出分散装置および溶湯処理装置]
〔実施形態1〕
図1Aおよび図1Bに、本発明の気泡の放出分散装置の一実施形態を示す。
【0053】
気泡の放出分散装置(1)は、シャフト(10)と該シャフトの下端に取り付けられた回転子(20)とにより構成される。
【0054】
前記シャフト(10)は長さ方向に沿ってガス供給通路(11)が貫通し、下端部の外周面に雄ネジ部(13)が形成されている。また、シャフト(10)の下方部の外周面には、角形平板からなり、回転軸に対して傾斜する3枚の攪拌翼(12)(12)(12)が等間隔で突設されている。
【0055】
前記回転子(20)は、上面が中心から周縁に向かって下方に傾斜するとともに、底面が中心から周縁に向かって上方に傾斜し、所定高さを有する周面には周方向に等間隔で複数の液体攪拌用突起(21)(21)…が突設されている。また、前記回転子(20)上面の中央部には凹所(22)が設けられ、該凹所(22)の上半部は内周面に前記シャフト(10)の雄ネジ部(13)に対応する雌ネジ部(23)が形成され、下半部はガス供給通路(11)に連通するガス室(24)となされている。さらに前記ガス室(24)から連通し、各攪拌用突起(21)の先端面に至る複数のガス通路(25)が放射状に設けられている。各前記ガス通路(25)は攪拌用突起(21)の先端面に開口してガス吹出口(26)を形成している。一方、前記回転子(20)の底面の中央部には液体導入用凹所(27)が設けられ、該凹所(27)から各攪拌用突起(21)の先端面に開口する溝(28)が設けられている。
【0056】
図1Aおよび図1Bに示すように、前記気泡の放出分散装置(1)は、シャフト(10)の攪拌翼(12)を含む下方部が処理槽(3)に入れた溶湯(M)中に浸漬され、図外の駆動装置によりシャフト(10)が回転駆動するとともに、溶湯処理用ガス(G)がガス供給通路(11)を介して回転子(20)に導入される。導入された溶湯処理用ガス(G)は、ガス室(24)、ガス通路(25)を通ってガス吹出口(26)から微細な気泡として溶湯(M)中に放出されとともに、回転子(20)の回転によって撹拌された溶湯(M)の流動に伴って広い範囲に拡散される。即ち、回転子(20)よりも上方の溶湯(M)は、攪拌翼(12)と撹拌用突起(21)によって撹拌され、かつ攪拌された溶湯(M)は傾斜した回転子(20)の上面に沿って外方に流動する(M1)。一方、回転子(20)よりも下方の溶湯(M)は、液体導入用凹所(27)から溝(28)を通って開口端から外方に流れる(M2)。そして、上下の流れ(M1)(M2)が合流してさらに遠心方向に流動し、ガス吹出口(26)から放出された微細気泡は上述した溶湯の流動によって溶湯中に均一かつ広範囲に分散される。従って、溶湯中の介在物や不純物の除去や化学反応等の溶湯処理を効率良く行うことができる。
【0057】
上述した気泡の放出分散装置(1)において、攪拌翼(12)は、回転軸に対して傾斜させることによって十分な攪拌効果を得ることができ、ひいては微細気泡を広く均一に分散させることができる。図2に示すように、攪拌翼(12)の回転軸(Q)に対する傾斜角度(θ)は3〜87°が好ましい。3°未満または87°を超える場合は十分な攪拌力を得ることが困難である。特に好ましい傾斜角度(θ)は30〜60°である。
【0058】
また、攪拌翼(12)の数は限定されないが、2〜6個が好ましい。1個では攪拌力の増大効果が少なく、7個以上の多数の攪拌翼を取り付けても攪拌力の増大効果を見込めないためである。特に好ましい攪拌翼(12)の数は3〜4個である。
【0059】
前記板状の攪拌翼(12)の場合、撹拌効率を高める上で攪拌翼(12)の好ましい大きさは以下のとおりである。幅(W)、即ちシャフト(10)からの突出高さは回転子半径(W0)の1/3以上が好ましく、さらに1/2〜2/3が好ましい。長さ(L)は回転子高さ(L0)の0.1〜2倍が好ましく、さらに0.5〜1.5倍が好ましい。板厚(T)は2〜10mmが好ましく、さらに3〜8mmが好ましい。
【0060】
また、前記攪拌翼(12)の上下方向の位置は限定されないが、攪拌翼(12)の下端部が回転子(20)の上面から離れている方が好ましい。攪拌翼(12)と回転子(20)の上面との間にも溶湯(M)が流動して攪拌効果が増大するためである。攪拌翼(12)と回転子(20)の上面との距離(D)は10〜50mmの範囲が好ましく、特に15〜30mmが好ましい。
【0061】
なお、前記撹拌翼(12)の下端部が回転子(20)の上面に接している場合も本発明に含まれる。
【0062】
〔実施形態2〕
図3に示す気泡の放出分散装置(2)は、攪拌翼(31)を回転子(30)に一体に設けたものである。なお、図2において図1Aおよび図1Bと同一符号は同一物を示すものとして説明を省略する。
【0063】
前記気泡の放出分散装置(2)において、回転子(30)の上面に設けられた凹所(22)の外周縁に等間隔で3枚の板状撹拌翼(31)(31)(31)が突設されている。これらの撹拌翼(31)は、回転軸に対して傾斜するとともに、外縁(32)が基端部から上方に向かって中心側に傾斜するテーパー状に形成されている。また、シャフト(35)の下端部に設けられた雄ネジ部(13)を回転子(30)の凹所(22)の雌ネジ部(23)に螺合させてこれらを組み付けると、攪拌翼(30)の内縁(33)がシャフト(35)の外周面に接するものとなされている。
【0064】
回転子(30)の上面に設けた攪拌翼(31)についても、図1Aのシャフト(10)に設けた撹拌翼(12)と同様に撹拌効果を増大させ、微細な気泡を広く均一に分散させることができる。また、攪拌翼(31)の回転軸に対する傾斜角度(θ)、大きさ、個数は、シャフト(10)に設けた撹拌翼(12)に準じる(図2参照)。
【0065】
本発明における撹拌翼は、上述した平板状のものに限定されない。図4A〜図4Dに他の板状の撹拌翼の例を示す。図4Aの撹拌翼(40)は、シャフト(10)に近い基端部から先端部(径方向の外側)に向かって肉厚が薄くなる流線形に形成されたものである。図4Bの攪拌翼(41)は、先端部が屈曲したL字形である。図4Cの撹拌翼(42)は、断面コ字形でありシャフト(10)の外周面との間に空間(43)が形成されたものであり、溶湯が前記空間(43)の下端から入り上端から抜けることによりに撹拌効果を増大させるものである。図4Dの撹拌翼(45)は、下端縁が円弧状の扇形である。これらの板状攪拌翼(40)(41)(42)(45)の場合もまた、回転軸に対する傾斜角度(θ)、大きさ、個数は、平板状の撹拌翼(12)に準じる(図2参照)。
【0066】
さらに、本発明における撹拌翼は、角柱、角錐、角錐台、楕円柱、半楕円球等の突起状でも良い。これらの突起状攪拌翼は、突起の底面(シャフトまたは回転子に接している面)の外接円半径が回転子半径の1/3以上、突出高さが回転子高さの0.2〜1倍が好ましい。
【0067】
また、いずれの攪拌翼についても、シャフトまたは回転子に一体に設ける他、着脱自在に設けることができる。着脱手段はネジ止め、溝と凸部の嵌合等の周知手段を適宜用いることができる。撹拌翼を着脱自在とすることにより、1つのシャフトまたは回転子に対して撹拌翼を付け替えることができ、処理目的や液体量に適合した撹拌翼を選択することができる。
【0068】
本発明における回転子は、撹拌翼よりも下方からガスが放出されるものであれば良く、上述した形状のものに限定されない。図5〜7に他の回転子の例を示す。各図において(A)は縦断面図であり、(B)は底面図である。また、図5(A)、図6(A)、図7(A)は、それぞれ図5(B)の5A−5A線、図6(B)の6A−6A線、図7(C)の7A−7A線における断面図である。
【0069】
図5(A)(B)に示す回転子(50)は、上面が平坦面で形成され、周方向に複数の水平撹拌翼(51)とこの水平攪拌翼の下面中央に垂直撹拌翼(52)が突設され、シャフト取付け用の凹所(53)の側壁にガス吹出口(54)が形成されている。図6(A)(B)に示す回転子(60)は、上面が中心部から周縁部に向かって下方に傾斜し、周面には所定間隔で複数の撹拌用突起(61)が突設され、底面中心部の凹所(62)から撹拌用突起(61)の先端面に開口する溝(63)が放射状に設けられている。また、シャフト取付け用凹所(64)に連通するガス通路(65)は底面の流体導入用凹所(64)に開口し、溶湯処理用ガスは溝(63)を通って先端部から放出される。図7(A)(B)に示す回転子(70)は、上端面が緩やかに傾斜し、周面には所定間隔で複数の長い撹拌用突起(71)が突設され、底面中心部の流体導入凹所(72)から周面に開口する溝(73)が放射状に設けられている。また、シャフト取付け用凹所(74)は底面の流体導入用凹所(72)に開口し、溶湯処理用ガスは溝(73)を通って先端部から放出される。
【0070】
上述したように、本発明の気泡の放出分散装置は金属溶湯処理に好適に用いられてものであるが、溶湯以外の種々の液体中に気泡を分散させる場合に広く用いることができる。
【0071】
本発明の溶湯処理装置は、図1Aに示すように、溶湯(M)を入れる処理槽(3)と上述した本発明にかかる気泡の放出分散装置、例えば(1)とを備えるものであり、撹拌翼(12)を含む部分が溶湯(M)中に浸漬した状態に配置される。また、前記溶湯処理装置には、図示されないが、処理槽(3)の上部開口部を塞ぐ蓋、溶湯(M)の入口および出口、溶湯出口を覆って介在物の流出を防止する垂直隔壁等が任意に装備される。
[高純度アルミニウムの精製方法および製造装置]
図8および図9に、本発明の高純度アルミニウムの製造方法を実施する高純度アルミニウムの製造装置(80)の一例を示すとともに、製造方法について詳述する。
【0072】
前記製造装置(80)は、アルミニウムを精製して高純度アルミニウムを連続的に得る装置であって、アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉(81)と、溶解炉(81)に続いて直列に配置された複数のるつぼ(82A)(82B)(82C)(82D)(82E)とを備えている。
【0073】
前記溶解炉(81)に投入するアルミニウム精製用原料は、溶存水素ガス、酸化物等の非金属介在物、共晶不純物および包晶不純物等を含んだ精製すべきアルミニウム原料である。また、前記アルミニウム精製用原料には、共晶不純物および包晶不純物と反応して不溶性化合物を形成する元素を添加することがある。例えば、ホウ素を添加することにより、ホウ素がTi、V、Zr等の包晶不純物と反応してTiB2、VB2、ZrB2の不溶性金属ホウ化物が形成されるが、これらの不溶性金属ホウ化物を不純物として溶湯から分離することができる。勿論、アルミニウム精製用原料にホウ素が含まれている場合も、不溶性金属ホウ化物を形成し、後に分離される。ホウ素は、単体、Al−B母合金等のホウ素含有合金、ホウ素含有化合物等として添加することができる。なお、不純物除去のためのホウ素は、溶解炉(81)ではなく第1るつぼ(82A)で添加しても良い。
【0074】
前記溶解炉(81)に隣接する第1るつぼ(82A)は、溶湯処理用ガス吹き込み室であって、本発明の溶湯処理装置に対応する。また、他の第2るつぼ(82B)、第3るつぼ(82C)、第4るつぼ(82D)および第5るつぼ(82E)は、偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製室であって、本発明における精製部に対応する。隣り合うるつぼ(82A)(82B)、(82B)(82C)、(82C)(82D)、(82D)(82E)どうしは上端部において連結樋(83)により連通状に接続されている。また、第1るつぼ(82A)の上端部に溶解炉(81)から供給される溶湯を受ける受け樋(84)が設けられ、溶解炉(81)から最も離れた第5るつぼ(82E)の上端部に溶湯排出樋(85)が設けられている。
【0075】
前記第1るつぼ(82A)内には、上述した本発明の気泡の放出分散装置(1)(図1A〜図2)が配されている。前記気泡の放出分散装置(1)は、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされ、ガス供給通路(11)に溶湯処理用ガスを供給しながらシャフト(10)を回転させると、溶湯処理用ガスがガス吹出口(26)から溶湯中に微細な気泡として放出され、溶湯全体に分散される。溶湯は、気泡の放出分散装置(1)の回転子(20)および撹拌翼(12)の回転と気泡の分散とによって撹拌される。
【0076】
また、第1るつぼ(82A)の出湯口(90)と対応する位置において、出湯口(90)の第1るつぼ(82A)内側端部および第1るつぼ(82A)内面における出湯口(10)の下方に連なる部分を覆うような水平断面略U字形の垂直隔壁(91)が設けられている。この垂直隔壁(91)により、浮上した非金属介在物が精製用の第2るつぼ(82B)に流出するのを防止することができる。
【0077】
前記溶湯処理用ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスおよびこれらの混合ガス等の不活性ガス、塩素ガス、フロンガスならびにこれらの混合ガスなど、アルミニウム溶湯中に含まれる不純物に有効なすべてのガスが用いられる。アルミニウム溶湯中に含まれる水素ガス等の気体の不純物は、溶湯処理用ガスの気泡中に拡散し、気泡が溶湯中を通って溶湯表面まで浮上するに際に連行され、溶湯処理用ガスとともに雰囲気中に放出される。また、アルミニウム溶湯中の非金属介在物、反応によって形成された不溶性金属ホウ化物等の固形不純物は、気泡によって溶湯表面に運ばれて浮滓となる。雰囲気中に放出された気体不純物を含む溶湯処理用ガスおよび溶湯表面に浮かんでいる浮滓は、公知の手段により適宜除去すれば良く、これにより溶湯から不純物が除去される。
【0078】
第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)内には、図示しない駆動手段によって上下駆動するとともに回転するものとなされた回転軸(93)と、回転軸(93)の下端に設けられた冷却体(94)とを備える回転冷却装置(94)が配置されている。前記回転軸(93)には内部に長さ方向に伸びる冷却流体通路(97)が形成されている。また、前記冷却体(94)は下方に向かって断面積が減少する有底の逆円錐台形状であり、前記冷却流体通路(97)に連通する内部空間(98)が形成され、冷却流体を冷却流体通路(97)を介して内部空間(98)に供給することによって溶湯に接触する外周面を凝固点以下の温度に保持し得るものとなされている。そして、偏析凝固の原理により、冷却体(94)の表面には溶湯よりも純度の高いアルミニウムが晶出する。従って、前記冷却体(94)は、アルミニウム溶湯と反応により溶湯を汚染しないことはもとより、熱伝導性のよい材料、たとえば黒鉛等により形成されていることが好ましい。また、前記冷却体(94)は、上端部を除いた部分がアルミニウム溶湯中に浸漬する高さに設定される。
【0079】
上述した高純度アルミニウムの製造装置(80)において、高純度アルミニウムの製造は下記の工程(i)〜(v)を経て行われる。
(i) 第1るつぼ(82A)における気泡の放出分散装置(1)、および第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)における回転冷却装置(94)を上昇させて各るつぼ(82A)〜(82E)の上方に待機させる。
(ii)溶解工程
共晶不純物および包晶不純物を含む精製すべきアルミニウム精製用原料で溶解炉(81)で溶解する。要すればホウ素(ホウ素含有合金、ホウ素化合物を含む)を添加し、共に溶解させる。
(iii)不純物分離工程
溶解炉(1)から溶湯を第1るつぼ(82A)に供給する。要すれば、ホウ素(ホウ素含有合金、ホウ素化合物を含む)を添加する。
【0080】
次いで、分散装置(1)のシャフト(10)を下降させて回転子(20)を溶湯中に浸漬し、シャフト(10)を回転させるとともに処理ガス通路(11)に溶湯処理用ガスを供給する。これにより、溶湯が攪拌されるとともに、溶湯処理ガスが回転子(20)のガス吹出口(26)からの微細な気泡として放出され、水素ガス等の気体および固体の不純物が浮上する。固体不純物には、非金属介在物、ホウ素との反応によって形成された不溶性金属ホウ化物等の固形不純物が含まれる。浮上した不純物を含む浮滓を適宜除去する。また、浮上した浮滓は前記隔壁(91)に阻まれて出湯口(10)への流出が防止される。
(iv) 第1るつぼ(82A)において不純物を除去された溶湯は出湯口(10)を介して第2るつぼ(2B)内に供給され、さらに連結樋(83)を介して順次第3るつぼ(82C)、第4るつぼ(82D)および第5るつぼ(82E)内に供給される。
(v)精製工程
第2〜第5るつぼ(82B)〜(82E)内の溶湯量が所定量に達すれば、回転冷却装置(94)の回転軸(93)を下降させて冷却体(94)を溶湯中に浸漬する。次いで、回転軸(93)の冷却流体通路(17)を介して回転冷却体(94)の内部空間(18)に冷却流体を供給してその外周面の温度をアルミニウムの凝固点以下に保持しつつ回転軸(93)および冷却体(94)を回転させる。またこのとき、図示しないヒータにより各るつぼ(92B)〜(92E)内の溶湯をその凝固点を越える温度に加熱保持しておく。これにより、偏析凝固の原理により、冷却体(94)の外周面に溶湯よりも純度の高いアルミニウムが晶出し、高純度アルミニウム塊が形成される。一方、晶出せず共晶不純物等の濃度の高くなった溶湯は溶湯排出樋(85)から排出される。
【0081】
各冷却体(94)に所定量の高純度アルミニウム塊が形成されれば、精製作業を終了する。
【0082】
なお、不純物除去のために添加されたホウ素のうちの過剰分は、Fe、Si、Cu等の共晶不純物とともに除去される。また、第1るつぼ(82A)において固体不純物が除去されているので、溶湯通過時に連結樋(83)および溶湯排出樋(85)に詰まるのが防止される。
【0083】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法において、高純度アルミニウムの取り出し方法は不純物を分離した母液から高純度アルミニウムを回収できれば良く、上記実施形態の冷却体表面への凝固に限定されない。また、冷却体の形状、冷却方法も問わない。
【0084】
また、上記実施形態では溶解炉および複数のるつぼ(反応室、精製室)を用いて溶解工程、不純物分離工程、精製工程を溶湯を移動させながら連続処理を行っている。このような連続処理は生産性が良好である。しかし、本発明は連続処理に限定するものではなく、1つの処理室で各工程をバッチ方式で行うこともできる。また、連続処理を行う場合、1つのるつぼ等の処理容器を壁等で仕切ることによって反応室と精製室を形成しても良い。
【0085】
本発明の高純度アルミニウムの製造方法によれば、溶湯に含まれる不純物が処理ガス吹き込み室で溶湯処理用ガスの気泡に運ばれ、溶湯表面に浮上させられて浮滓となる。このため、この浮滓を掬い取る等の適当な手段で除去することにより非金属介在物や包晶不純物等の不純物を分離することができる。さらに、これらの不純物を分離するした溶湯から、偏析凝固の原理により純度の高いアルミニウムが晶出させ、高純度アルミニウムを得ることができる。また、本発明は溶解炉または処理ガス吹き込み室でホウ素を添加しない場合も含まれる。ホウ素を添加しない場合でも、気泡分散による溶湯処理を行えば非金属介在物および共晶不純物を除去できるし、またアルミニウム精製原料にホウ素が含まれている場合もあるからである。
【0086】
なお、上述の高純度アルミニウムの製造方法および製造装置の説明において、図1A等に示した気体の放出分散装置(1)を示したが、本発明の気体の放出分散装置であれば任意のものを用いることができる。
【0087】
[アルミニウム鋳塊の製造方法および製造装置]
図10に、本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施するアルミニウム鋳塊の製造装置(100)の一例を示すとともに、製造方法について詳述する。
【0088】
前記製造装置(100)は、アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉(81)と、溶解炉(81)に続いてるつぼ(82A)が配置され、さらにその後段に、溶湯供給路(99)を介してホットトップ式の鋳造部(101)が配置されている。
【0089】
前記溶解炉(81)およびるつぼ(82A)は、上述した高純度アルミニウムの製造装置(80)における前記溶解炉(81)および第1るつぼ(82A)と同様のものであり、気泡の放出分散装置(1)が配置された処理用ガス吹き込み室である。これらの構成および機能は高純度アルミニウムの製造装置(80)におけるものと同等であるから、説明を省略する。
【0090】
前記鋳造部(101)において、符号(102)は中空部に充填された冷却水(103)によって水冷されるとともに下端部に冷却水(103)の噴出口(104)が設けられた鋳型、符号(105)は溶湯供給路(99)から供給される溶湯(M)を受け入れて前記鋳型(102)に導く溶湯受容器であり、符号(106)は凝固した鋳塊(107)を保持し鋳塊(107)の製造に伴って下降するボトムブロック、符号(108)は鋳塊(107)を冷却する水槽内の冷却水である。また、前記溶湯供給路(99)は、第1るつぼ(82A)の溶湯出側に配置された連結樋(83)に接続されている。
【0091】
前記製造装置(100)において、るつぼ(82A)において不純物(浮滓)が除去された溶湯(M)は連通樋(83)から出て前記溶湯供給路(99)を通って溶湯受容器(105)に達し、鋳型(103)に注入される。このとき、ボトムブロック(106)を上昇させて鋳型(102)の下端部に配置されている。そして、鋳型(102)に注入された溶湯がボトムブロック(106)上に供給され、供給量が所定値に達した時点でボトムブロック(106)を降下させる。図10に示すようにボトムブロック(106)を下降させながら溶湯供給を行い、鋳塊(107)を連続鋳造する。溶湯(M)および鋳塊(107)の冷却は、鋳型(102)からの冷却、鋳型(102)の噴出口(104)から吹きつけられる冷却水(103)および水槽内の冷却水(108)への浸漬によって行われる。
【0092】
本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法によれば、鋳造部(101)に供給される溶湯は前段のるつぼ(82A)において溶湯処理用ガスの分散により不純物を浮上させ、浮上した不純物を除去したものであるから、品質の良いアルミニウム鋳塊を製造することができる。
【0093】
なお、上述のアルミニウム鋳塊の製造方法の説明において、ホットトップ式の連続鋳造を例示したが、鋳造部の構成は何ら限定されず、従来公知の鋳造装置を任意に用いることができる。その他の鋳造部として、型鋳造機、水平型の連続鋳造機、連続鋳造機、半連続鋳造機、連続鋳造圧延機等を例示できる。連続鋳造にも限定されないが、溶湯処理装置ででは連続的に溶湯を処理できるので、連続鋳造機を用いることが好ましい。勿論、溶解、溶湯処理、鋳造を連続して行うことにも限定されず、溶湯処理を行って不純物を分離した溶湯をバッチ式で鋳造部に供給しても良い。
【実施例】
【0094】
表1に示すように、4種類の回転子と4種類の形状の撹拌翼を組み合わせ、さらに攪拌翼の長さと傾斜角度を変えた気泡の放出分散装置を製作し、溶湯処理試験を行った。
【0095】
回転子は、図1Aおよび図1Bに示す回転子(20)、図5(A)(B)に示す回転子(50)、図6(A)(B)に示す回転子(60)、図7(A)(B)に示す回転子(70)を用い、これらの半径と高さは表1に示すとおりである。
【0096】
攪拌翼は、図1Aおよび図1Bに示す平板形の撹拌翼(12)、図4Aに示す流線形の攪拌翼(40)、図4Bに示すL字形の攪拌翼(41)、図4Cに示すコ字形の攪拌翼(42)を用いた。これらの撹拌翼(12)(40)(41)(42)の板厚(T)、幅(W)、長さ(L)、傾斜角度(θ)は表1に示す通りである。また、いずれの例においても、3個の撹拌翼を周方向に等間隔で設置するものとし、撹拌翼(12)(40)(41)(42)の下端と回転子(20)(50)(60)(70)の上面との距離(D)を20mmとした。なお、図4Aの流線形の撹拌翼(40)における板厚(T)とは、シャフト(10)近傍の最も厚肉となされた基端部における肉厚であり、他の撹拌翼(12)(41)(42)の板厚(T)は一定の肉厚である。また、図4BのL字形の撹拌翼(41)の幅(W)とは、シャフト(10)に接する長辺の幅であり、屈曲した先端部の幅(W1)は10mmである。図4Cのコ字形の撹拌翼の幅(W)とは、シャフト(10)に接する長辺の幅であり、2つの長辺を繋ぐ短辺の幅(W2)は30mmである。
【0097】
表1から、実施例1〜10の撹拌翼は、いずれも幅(W)が回転子の半径の1/3以上、かつ長さ(L)が回転子の高さの0.1倍以上である。
【0098】
また、シャフト(10)に撹拌翼を設けない従来の気泡の放出分散装置(図示なし)を比較例1〜4とした。
【0099】
溶湯処理試験には、溶湯(M)としてJIS 1100アルミニウム合金を10m3用いた。そして、溶湯処理用ガスとして表1に示す量のArガスを供給しながら、シャフト(10)を回転数:800r.p.mで3分間回転させて溶湯処理を行い、湯面に浮上した介在物を除去した。
【0100】
上記溶湯処理において、撹拌時にシャフト周りに生じるくぼみの大きさを目視観察した。また、溶湯処理後に溶湯中の介在物量を測定した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1の結果から、撹拌翼を設けることによって、シャフト周りの湯面のくぼみを拡大させることなく撹拌効果を高め、微細気泡を均一かつ広範囲に拡散させて介在物を効率よく除去できることを確認した。特に、図7(A)(B)の回転子(70)に対しては湯面のくぼみを小さくすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の気泡の放出分散装置は、液体の撹拌効率を高め、液体中に放出した気泡を均一かつ広範囲に分散させることができるものであるから、溶湯処理をはじめとして各種液体の処理に利用することができる。
【0104】
また、この発明の溶湯処理装置は高純度アルミニウムの製造およびアルミニウム鋳塊の製造にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】本発明にかかる気泡の放出分散装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図1B】図1Aの1B−1B線断面図である。
【図2】図1Aの気泡の放出分散装置における攪拌翼の大きさを示す図である。
【図3】本発明にかかる気泡の放出分散装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【図4A】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4B】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4C】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図4D】攪拌翼の他の例を示す斜視図である。
【図5】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図6】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図7】回転子の他の例を示す図であり、(A)は縦断面図、(B)は底面図である。
【図8】本発明の高純度アルミニウムの製造方法を実施する製造装置の一実施形態を示す一部垂直断面図である。
【図9】図8のZ−Z線拡大断面図である。
【図10】本発明のアルミニウム鋳塊の製造方法を実施する製造装置の一実施形態を示す一部垂直断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1,2…気泡の放出分散装置
10、35…シャフト
11…ガス供給通路
12、31、40、41、42、45…撹拌翼
20、30、50、60、70…回転子
26…ガス吹出口
80…高純度アルミニウムの製造装置
81…溶解炉
82A…第1るつぼ、処理室(溶湯処理装置)
82B、82C、82D、82E…第2〜第4るつぼ、精製室(精製部)
92…回転冷却装置(精製部)
100…アルミニウム鋳塊の製造装置
101…鋳造部
M…溶湯(液体)
θ…撹拌翼の傾斜角度
W…攪拌翼の幅
L…撹拌翼の長さ
W0…回転子の半径
L0…回転子の高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、
前記シャフトの外周面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【請求項2】
前記撹拌翼が前記回転子の上面から10〜50mm上方に設けられている請求項1に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項3】
前記攪拌翼はシャフトに対して着脱自在となされている請求項1または2に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項4】
液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、
前記回転子の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【請求項5】
前記攪拌翼は、前記シャフトの外周面に接する位置に設けられている請求項4に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項6】
前記攪拌翼は、前記シャフトから離れた位置に設けられている請求項4に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項7】
前記攪拌翼は回転子に対して着脱自在となされている請求項4〜6のいずれか1項に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項8】
前記攪拌翼の傾斜角度は3〜87°である請求項1〜7のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項9】
前記撹拌翼の数は2〜6個である請求項1〜8のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項10】
前記攪拌翼は板状である請求項1〜9のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項11】
前記板状の攪拌翼の大きさは、幅が回転子半径の1/3以上、長さが回転子高さの0.1〜2倍である請求項10に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項12】
前記撹拌翼は、平板形、流線形、L字形、コ字形のいずれかである請求項10または11に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項13】
金属溶湯中に請求項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置を浸漬し、シャフトを回転させて溶湯を撹拌するとともに、ガス供給通路に導入した溶湯処理用ガスを回転子のガス吹出口から気泡として放出させ、気泡を溶湯中に分散させることを特徴とする溶湯処理方法。
【請求項14】
金属溶湯を入れる処理槽と請求項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置とを備え、前記気泡の放出分散装置の撹拌翼を含む部分が溶湯中に浸漬した状態に配置されることを特徴とする溶湯処理装置。
【請求項15】
アルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を請求項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製工程とを行うことを特徴とする高純度アルミニウムの製造方法。
【請求項16】
前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる請求項15に記載の高純度アルミニウムの製造方法。
【請求項17】
アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する請求項14に記載の溶湯処理装置と、前記不純物を分離した溶湯を導入し、該溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製部とを備えることを特徴とする高純度アルミニウムの製造装置。
【請求項18】
アルミニウム鋳造用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を請求項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯を所定形状の鋳塊に鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項19】
前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる請求項18に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項20】
アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する請求項14に記載の溶湯処理装置と、この溶湯処理装置の後段に配置され、前記不純物を分離した溶湯を所要形状の鋳塊に鋳造する鋳造部とを備えることを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造装置。
【請求項1】
液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、
前記シャフトの外周面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【請求項2】
前記撹拌翼が前記回転子の上面から10〜50mm上方に設けられている請求項1に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項3】
前記攪拌翼はシャフトに対して着脱自在となされている請求項1または2に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項4】
液体中で回転し、内部にガス供給通路を有するシャフトと、前記シャフトの下端に設けられ、前記ガス供給通路に連通するガス吹出口を有する回転子とを備える気泡の放出分散装置において、
前記回転子の上面に、回転軸に対して傾斜する攪拌翼が突設されていることを特徴とする気泡の放出分散装置。
【請求項5】
前記攪拌翼は、前記シャフトの外周面に接する位置に設けられている請求項4に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項6】
前記攪拌翼は、前記シャフトから離れた位置に設けられている請求項4に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項7】
前記攪拌翼は回転子に対して着脱自在となされている請求項4〜6のいずれか1項に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項8】
前記攪拌翼の傾斜角度は3〜87°である請求項1〜7のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項9】
前記撹拌翼の数は2〜6個である請求項1〜8のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項10】
前記攪拌翼は板状である請求項1〜9のいずれかに記載の気泡の放出分散装置。
【請求項11】
前記板状の攪拌翼の大きさは、幅が回転子半径の1/3以上、長さが回転子高さの0.1〜2倍である請求項10に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項12】
前記撹拌翼は、平板形、流線形、L字形、コ字形のいずれかである請求項10または11に記載の気泡の放出分散装置。
【請求項13】
金属溶湯中に請求項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置を浸漬し、シャフトを回転させて溶湯を撹拌するとともに、ガス供給通路に導入した溶湯処理用ガスを回転子のガス吹出口から気泡として放出させ、気泡を溶湯中に分散させることを特徴とする溶湯処理方法。
【請求項14】
金属溶湯を入れる処理槽と請求項1〜12のいずれか1項に記載された気泡の放出分散装置とを備え、前記気泡の放出分散装置の撹拌翼を含む部分が溶湯中に浸漬した状態に配置されることを特徴とする溶湯処理装置。
【請求項15】
アルミニウム精製用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を請求項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製工程とを行うことを特徴とする高純度アルミニウムの製造方法。
【請求項16】
前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる請求項15に記載の高純度アルミニウムの製造方法。
【請求項17】
アルミニウム精製用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する請求項14に記載の溶湯処理装置と、前記不純物を分離した溶湯を導入し、該溶湯から偏析凝固により高純度アルミニウムを晶出させる精製部とを備えることを特徴とする高純度アルミニウムの製造装置。
【請求項18】
アルミニウム鋳造用原料を溶解して溶湯とする溶解工程と、前記溶湯を請求項14に記載の溶湯処理装置に導入し、溶湯中に溶湯処理用ガスを分散させて不純物を溶湯表面に浮上させる不純物分離工程と、前記不純物を分離した溶湯を所定形状の鋳塊に鋳造する鋳造工程とを含むことを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項19】
前記溶解工程または前記溶湯処理装置においてホウ素を添加し、不純物分離工程において、生成された不溶性金属ホウ化物を不純物として浮上させる請求項18に記載のアルミニウム鋳塊の製造方法。
【請求項20】
アルミニウム鋳造用原料を溶解する溶解炉と、この溶解炉の後段に配置され、溶湯を導入し、該溶湯中の不純物を浮上させて分離する請求項14に記載の溶湯処理装置と、この溶湯処理装置の後段に配置され、前記不純物を分離した溶湯を所要形状の鋳塊に鋳造する鋳造部とを備えることを特徴とするアルミニウム鋳塊の製造装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−176874(P2006−176874A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338478(P2005−338478)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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