説明

気泡発生機および気液接触装置

【課題】通過する気体を所望の均一な径の気泡に変えることのできる気泡発生機、およびこれを備える気液接触装置を提供する。
【解決手段】気泡発生機10は、液体Liqに接触させて用いられ、可撓性の樹脂シート20、第一の多孔板30および第二の多孔板40を有する。樹脂シート20には、複数の揺動片22が分散して切り込み形成されている。第一の多孔板30は、揺動片22の外径よりも大きな大径口32を複数備えている。第二の多孔板40は、揺動片22の外径よりも小さな小径口42を複数備え、第一の多孔板30とともに樹脂シート20を挟持する。気泡発生機10は、小径口42から流入し、揺動片22を付勢して大径口32より流出する気体Airを気泡化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡発生機およびこれを備える気液接触装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術に関し、特許文献1には、空気中に含まれる汚染物質を処理する空気清浄システムが記載されている。このシステムでは、循環路内に留められている汚染物質を含んだ空気を、エアーポンプの運転により散気管からバブリングして水槽に送給している。散気管は、逆止弁で整流された空気が供給されて、これを気泡に分散させる多孔体である。
【0003】
また、特許文献2には、外気を室内に導く給気経路に、外気を洗浄水に通して大気汚染物質を除去する空気環境浄化システムが記載されている。このシステムでは、清浄化手段として、外気を直径0.01〜0.05mmのマイクロバブルにして洗浄水に通すバブル発生部を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−230280号公報
【特許文献2】特開2006−205036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の散気管では、バブリングされた気泡の径を均一化することが困難である。
また、特許文献2の清浄化手段では、外気(気体)を0.1mm以下のマイクロバブルに変えるため、バブル発生部における圧力損失(圧損)が大きく、気体の十分な処理流量を得ることが困難である。また、かかる圧損を補償するためには、バブル発生部に専用のエアーポンプが必要であり、ランニングコストを要するという問題が生じる。
【0006】
ここで、気液接触装置においては、気液接触効率と、気体の処理流量とを両立して向上することが求められる。一般に、気泡径を小さくして気液接触効率を向上した場合には気体の圧損が大きくなり、単位時間あたりの処理流量が低下することとなる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、通過する気体を所望の均一な径の気泡に変えることのできる気泡発生機、およびこれを備える気液接触装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の気泡発生機は、液体に接触させて用いられる気泡発生機であって、複数の揺動片が分散して切り込み形成された可撓性の樹脂シートと、前記揺動片の外径よりも大きな大径口を複数備える第一の多孔板と、前記揺動片の外径よりも小さな小径口を複数備え、前記第一の多孔板とともに前記樹脂シートを挟持する第二の多孔板と、を有し、前記小径口から流入し、前記揺動片を付勢して前記大径口より流出する気体を気泡化する。
【0009】
また本発明の気液接触装置は、上記の気泡発生機を備え、多段に設けられた複数の液体層と気泡化された気体とを接触させる気液接触装置であって、前記気泡発生機により気泡化されて前記大径口より流出した気体が、前記第三の多孔板の下流側に接して配置された前記液体層とさらに接触することを特徴とする。
【0010】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気泡発生機によれば、小径口から大径口に抜ける気体の流路に、樹脂シートの揺動片が個別に設けられている。そして、大径口の側を気体の流出側とすることで、気体に付勢された揺動片の変位が多孔板によって損なわれることがない。このため、樹脂シートの可撓性により、流路ごとに気体の圧力が調整されて均一な径の気泡が発生する。また、本発明の気泡発生機を備える気液接触装置は、液体と接触する気体が所望の均一な径の気泡に変えられるため、気液接触効率と気体の処理流量とをバランスよく好適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の実施形態にかかる気液接触装置を模式的に示す正面図であり、(b)はその右側面図である。
【図2】(a)は気泡発生機の部分斜視図であり、(b)は気泡発生機の使用状態を示す部分断面図である。
【図3】気泡発生機の変形例にかかる部分切欠平面図である。
【図4】(a)から(c)は、本実施形態の気液接触装置の動作説明図である。
【図5】排気処理部の変形例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものであり、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
以下、本実施形態の気液接触装置は、略水平に設置された気泡発生機に対して鉛直下方から上方に気体を通過させる吹き上げ型を例示的に説明するが、本発明はこれに限られない。例えば、気体の通過方向を上方から下方への吹き下ろし型としてもよく、または起立させた気泡発生機に対して気体を水平方向に通過させてもよい。
【0014】
図1(a)は本発明の実施形態にかかる気液接触装置100を模式的に示す正面図であり、同図(b)はその右側面図である。図1各図では、説明のため、筐体90の一部を不図示として、気液接触装置100の内部を図示している。
図2(a)は気泡発生機10の部分斜視図であり、同図(b)は気泡発生機10の使用状態を示す部分断面図である。
【0015】
はじめに、本実施形態の気泡発生機10および気液接触装置100の概要について説明する。
【0016】
気泡発生機10は、液体Liq(図2を参照)に接触させて用いられる。本実施形態の気泡発生機10は、可撓性の樹脂シート20、第一の多孔板30および第二の多孔板40を有する。
樹脂シート20には、複数の揺動片22が分散して切り込み形成されている。
第一の多孔板30は、揺動片22の外径よりも大きな大径口32を複数備えている。
第二の多孔板40は、揺動片22の外径よりも小さな小径口42を複数備え、第一の多孔板30とともに樹脂シート20を挟持する。
そして、気泡発生機10は、小径口42から流入し、揺動片22を付勢して大径口32より流出する気体Airを気泡化する。
【0017】
気液接触装置100は、上記の気泡発生機10を備え、多段に設けられた複数の液体層L1、L2と、気泡化された気体Airと、を接触させる装置である。
そして、本実施形態の気液接触装置100においては、気泡発生機10により気泡化されて大径口32より流出した気体Airが、第三の多孔板50の下流側に接して配置された液体層L2とさらに接触する。
【0018】
つぎに、本実施形態の気泡発生機10および気液接触装置100について詳細に説明する。
【0019】
気泡発生機10を構成する第一の多孔板30と第二の多孔板40は、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属板材料に多数の開口(大径口32、小径口42)を形成したものである。第一の多孔板30および第二の多孔板40の種別は特に限定されず、例えば、打ち抜き加工もしくはレーザー加工により多数の開口を通孔形成したパンチングプレートでもよく、または線材を編組したメッシュ部材でもよい。
第一の多孔板30と第二の多孔板40とは、開口の径を除いて互いに共通としてもよく、または種別や厚み寸法を互いに相違させてもよい。
【0020】
樹脂シート20は、膜厚が50μmから500μmの樹脂製のシートまたはフィルム材料からなる。樹脂材料の例としては、ポリオレフィン、具体的にはポリプロピレンが挙げられる。なお、本実施形態においてはシートとフィルムとを区別しない。
【0021】
図2(a)に示す気泡発生機10では、大径口32(および図示しない小径口42)が正方格子状に配置されている。ただし、気泡発生機10の変形例として、図3に示すように、大径口32および小径口42をそれぞれ千鳥状に配置してもよい。
【0022】
図3は、気泡発生機10の部分切欠平面図である。同図は、第一の多孔板30、樹脂シート20および第二の多孔板40が互いに積層されてなる気泡発生機10を、第一の多孔板30の側から目視した平面図である。説明のため、図3においては、第一の多孔板30に斜線を付し、またその一部を切り欠き樹脂シート20の揺動片22を露出させて図示している。
揺動片22、大径口32および小径口42がそれぞれ千鳥状に配置されている点を除き、図3の気泡発生機10は図2と共通である。
【0023】
揺動片22は略円形をなし、大径口32、小径口42および揺動片22は同心状に配置されている。
【0024】
個々の揺動片22は円弧部24と裾部26とからなり、その外形はΩ字状をなしている。すなわち、揺動片22は樹脂シート20をΩ字状に切り込んで形成されている。
【0025】
円弧部24は大径口32から露出して、気体により付勢されて揺動する部位である。本実施形態の円弧部24は、円周の二分の一以上、好ましくは四分の三以上の長さを有している。
裾部26は、円弧部24を樹脂シート20に対して揺動可能に接続する部位である。裾部26は末広がり形状をなし、円弧部24の両端を拡幅している。
【0026】
ここで、揺動片22が略円形であるとは、円弧部24が真円および真円に近い円形、または真円に近似される非円形を含む。
【0027】
また、大径口32、小径口42および揺動片22が同心状であるとは、これらの少なくとも一部同士が、気泡発生機10の平面視方向に互いに重複していることをいう。
本実施形態の気泡発生機10では、図3に示す平面図において、大径口32は揺動片22の円弧部24を内包し、円弧部24は小径口42を内包している。
【0028】
円弧部24の直径は5〜10mmとすることが好ましい。隣接する揺動片22同士の間隔は、10〜30mmとするとよい。そして、大径口32の直径は円弧部24の直径よりも1〜10mm大きくし、小径口42の直径は円弧部24の直径よりも1〜4mm小さくするとよい。
【0029】
裾部26は、揺動片22のうち、第一の多孔板30と第二の多孔板40とで挟まれる部位である。すなわち、揺動片22は、第一の多孔板30と第二の多孔板40とで裾部26が挟持され、円弧部24が揺動可能となる。なお、裾部26が第一の多孔板30と第二の多孔板40とで挟持されていることで、円弧部24の揺動時に裾部26の終端部28に引裂力が生じることはない。ただし、終端部28を丸加工して円孔とし、裾部26の延伸を防止してもよい。
【0030】
樹脂シート20の揺動片22は、小径口42の側への変位が規制され大径口32の側に変位自在に構成された逆止弁である。
【0031】
図2(b)に示すように、円弧部24は第二の多孔板40により、同図下方側への変位が規制されている。
【0032】
気泡発生機10は、液体Liqに浸漬されて、または第一の多孔板30を液体Liqの界面に接触させて用いられる。本実施形態では、図2(b)に示すように、液体Liqの下方に気泡発生機10が設けられ、第一の多孔板30が液体Liqの下側界面に接している。
【0033】
この状態で、第二の多孔板40の小径口42より気体Airを吹き込むことで、気体Airを気泡化する。ここで、揺動片22の円弧部24は、気体Airの通過時には第一の多孔板30の側に押し上げられて大径口32より突出する。そして、通過する気体Airに対して、樹脂シート20の弾性反力と液体Liqの自重とが負荷される。これにより、気体Airの通過量が制限されて微細に気泡化される。すなわち、気体Airの通過時に円弧部24は連続的に揺動して気体Airを分断し、これを気泡化する。
【0034】
なお、本実施形態の気泡発生機10では、気体Airの流量、樹脂シート20の膜厚、円弧部24の直径、および液体Liqの量を調整することにより、5〜30mm程度の直径の気泡が形成される。
【0035】
図1に戻り、本実施形態の気液接触装置100を説明する。
気液接触装置100は、多段に配置された液体層L1、L2(液体Liq)に対して、気泡発生機10で気泡化された気体Airを接触させ、気体Airに含有する成分を液体層L1、L2に溶解させて除去する装置である。
【0036】
気液接触装置100の筐体90は箱形をなし、前面側(図1(b)の左方)は配管収容部92であり、奥行側(同図の右方)は気泡発生機10が設置されて気体Airの気泡化および気液接触が行われる気液接触部94である。
【0037】
気液接触部94は縦型2チャンバー構造をなす。
下部チャンバー95は、下部空洞74から流入する気体Airを液体層L1と気液接触させるチャンバーである。下部チャンバー95には、気体Airの流入部にあたる最下部に気泡発生機10が設けられ、その上部に液体層L1が貯留されている。液体層L1の上部には気体層G2が存在している。
下部チャンバー95に貯留された液体層L1は、気泡発生機10の揺動片22(逆止弁:図2を参照)に下方支持され、下部空洞74に落下することはない。
【0038】
上部チャンバー96は、下部チャンバー95で気液接触した気体Airを、さらに液体層L2と気液接触させるチャンバーである。上部チャンバー96には、気体Airの流入部にあたる最下部に第三の多孔板50が設けられ、その上部に液体層L2が貯留されている。液体層L2の上部には気体層G3が存在している。
【0039】
第三の多孔板50は、液体層L1を通過した気体Airを上部チャンバー96に導入するとともに、液体層L2を下方支持する部材である。気泡発生機10と第三の多孔板50とは略並行に対向して設置されている。
【0040】
第三の多孔板50は多数の開口を有する板状の部材であり、第一の多孔板30や第二の多孔板40と同様に、パンチングプレートやメッシュ部材を用いることができる。
すなわち、第三の多孔板50の開口には逆止弁が設けられておらず、気体Airおよび液体層L2は双方向に通過可能である。
【0041】
筐体90の下部には車輪98が取り付けられており、気泡発生機10は移送が可能である。
【0042】
本実施形態は、気液接触部94において、下方から上方に向かって気体Airを流動させる吹き上げ型の気液接触装置100である。
【0043】
気液接触装置100は、気体Airを連続的に供給する給気路70と、給気路70に対して所定の排気圧で気体Airを圧送するブロア(排気ブロア75)と、を有している。
給気路70の吸気口71には、気体Air中の塵埃を除去するためのフィルター(図示せず)を任意で備えてもよい。かかるフィルターとしては、PET(Polyethylene Terephthalate)やポリプロピレンなどの樹脂材料からなる不織布フィルターを用いることができる。
【0044】
排気ブロア75は、環状流路72を通じて気体Airを遠心加速する。給気路70には、環状流路72の下流側に、下降路73と下部空洞74がこの順に連通して設けられている。
下部空洞74は、気泡発生機10の下面側にあたる第二の多孔板40(図2を参照)に接して設けられている。
【0045】
すなわち、気泡発生機10の下流側(上部)に液体層L1が接触して設けられ、上流側(下部)に気体層G1が設けられている。
【0046】
そして、下部空洞74に到達した気体Airには、図2(b)に示すように、排気ブロア75の排気圧に基づく押し上げ力が、気泡発生機10の下面側にあたる第二の多孔板40のうち、小径口42に対して集中的に負荷される。このため、気体Airが気液接触部94を通過するために必要な排気ブロア75の排気圧およびランニングコストを抑制することができる。
【0047】
気泡発生機10と第三の多孔板50とは、ともに略水平に配置されている。気泡発生機10と第三の多孔板50の個別の水平度は特に限定されるものではなく、互いに相違する水平度で気液接触部94に設置されていてもよい。
【0048】
第三の多孔板50の下部側には気体層G2が存在している。気泡発生機10で発生した気泡は、液体層L1から浮上すると、液膜に気体Airを内包した泡沫となって、または泡沫がはじけて気体Airとなって、第三の多孔板50に至る。そして、かかる気体Airは、第三の多孔板50により再び気泡化されて液体層L2と接触する。
【0049】
ここで、排気ブロア75により気体Airを連続的に吹き上げることにより、泡沫化した液体層L1が上部チャンバー96に上昇して液体層L2となる速度と、液体層L2が下部チャンバー95に落下して液体層L1に戻る速度とが釣り合う。これにより、第三の多孔板50に逆止弁がなくとも、上部チャンバー96には所定量の液体層L2が常に貯留される。そして、排気ブロア75を停止することで、液体層L2は第三の多孔板50から落下して液体層L1となる。なお、第三の多孔板50は、上部チャンバー96の内壁に対して密に装着され、第三の多孔板50の周囲から下部チャンバー95に液体層L2が漏れ落ちることはない。
【0050】
本実施形態の気泡発生機10は、排気ブロア75により気体Airを吹き上げることで、下部チャンバー95に貯留された液体層L1の一部を分離して第三の多孔板50に液体層L2を形成し、これをもって気体Airの吸収液を多段化する。これにより、液体層L1、L2は各層が薄くなるため、高い気液接触効率を維持しつつも、通過する気体Airの圧損が低減される。
【0051】
気体Airの成分は特に限定されないが、本実施形態の気体Airは揮発性有機化合(VOC)を含有するものとする。
そして、気液接触装置100は、液体層L1を冷却する冷却装置76をさらに備えている。冷却装置76には、一例として、液体浸漬型のピエゾ素子が用いられる。
【0052】
これにより、気体Airに含有するVOCは、液体層L1に溶解されるのみならず、液体層L1で冷却されて凝集し、気体Airからさらに除去される。
このため、本実施形態の気液接触装置100は、気体Air中のVOCを高効率で除去することができる。
【0053】
図1に示すように、気泡発生機10は、気泡発生機10の上部に液体層L1を供給する供給路80をさらに備えている。
【0054】
供給路80には、開閉弁81と圧送ポンプ82が設けられている。
供給路80は、給気路70の下部空洞74と、気液接触部94における気泡発生機10の上部と、を連通している。そして、下部空洞74に貯留された液体Liqを、供給路80を通じて塗液口83から吐出し、かかる液体Liqを液体層L1として気泡発生機10の上部に供給する。なお、塗液口83の高さ位置は特に限定されず、第三の多孔板50よりも上部でもよく、または気泡発生機10と第三の多孔板50との間でもよい。
【0055】
気液接触装置100は、気泡発生機10と第三の多孔板50との間に第四の多孔板60をさらに備えている。すなわち、下部チャンバー95の中間高さに、第四の多孔板60が架設されている。
【0056】
第四の多孔板60は、気泡発生機10との間隔D1(図4(c)を参照)が可変である。気泡発生機10の上部に供給された液体層L1が気体Airとともに第三の多孔板50の上部に移動する量が、間隔D1の変更により増減調整される。
【0057】
下部チャンバー95には、第四の多孔板60を昇降調整するための一対の調整部62が設けられている。調整部62は、第四の多孔板60を吊り下げるワイヤーと、このワイヤーを巻き取る輪軸とからなる。第四の多孔板60は四隅がワイヤーで吊り下げられており、一対の調整部62の巻き取り量を調整することで、第四の多孔板60を水平支持したままで、または任意の角度に傾斜させて、これを昇降調整することができる。
【0058】
一方、上部チャンバー96の中間高さには、第三の多孔板50のさらに上方に、第五の多孔板64が架設されている。
上部チャンバー96にも、下部チャンバー95と同様に、第五の多孔板64を昇降調整するための一対の調整部66が設けられている。調整部66は、第五の多孔板64を吊り下げるワイヤーと、このワイヤーを巻き取る輪軸とからなり、その巻き取り量を調整することで、第五の多孔板64を任意の設置角度で昇降調整することができる。
【0059】
第四の多孔板60と第五の多孔板64は、液体層L1、L2から飛散して上昇する泡沫を捕捉し、液化して落下させる部材であり、第三の多孔板50と同様にパンチングプレートやメッシュ部材を用いることができる。第四の多孔板60と第五の多孔板64の開口率は10〜40パーセント、好ましくは20〜30%とするとよい。
【0060】
第四の多孔板60および第五の多孔板64は、それぞれ下部チャンバー95または上部チャンバー96の内壁面に対して非接触に吊り下げられており、液化した泡沫が第四の多孔板60および第五の多孔板64の周囲から流下する。このため、第四の多孔板60、第五の多孔板64の上に液体層L1、L2が他の液体層を形成することはない。
【0061】
ここで、第四の多孔板60を下降させて液体層L1の液面からの距離を小さくすると、液体層L1の液面のうねりが第四の多孔板60に衝突して、液体層L1の対流速度が向上し、気液接触効率が向上する。このため、液体層L1の粘度が比較的高い場合(例えば、100cPs程度の場合)に特に有効である。
【0062】
一方、第四の多孔板60を上昇させて液体層L1の液面からの距離を大きくすると、液体層L1の液面のうねりが第四の多孔板60に衝突することが低減し、液体層L1の対流速度が抑制される。液体層L1の粘度が比較的低い場合(例えば、10cPs以下の場合)に、第四の多孔板60を上昇させて、液体層L1の液面のうねりを抑えることが有効である。
【0063】
このとき、第四の多孔板60を足掛かりとして第三の多孔板50に移動する液体層L1の液量も低減する。このため、第四の多孔板60と気泡発生機10との間隔D1を増大させることで、液体層L1から上部チャンバー96に上昇する液体層L2の液量が減り、逆に間隔D1を減少させることで液体層L2の液量が増える。
【0064】
下部チャンバー95、上部チャンバー96には、それぞれ観察窓67、68が設けられている。これにより、液体層L1、L2の液量が目視観察可能である。観察窓67、68は、液体層L1、L2の液面と、第四、第五の多孔板60、64をともに含む位置に形成されている。
【0065】
気液接触装置100は、第三の多孔板50の下流側に流出した液体層L2を捕集する捕集部85と、捕集された液体層L2を回収する回収流路86と、をさらに備える。具体的には、上部チャンバー96の下流側に排気処理部110が設けられている。排気処理部110は、第五の多孔板64で捕集されずに通過した液体層L2の泡沫を含む気体Airが導入される導入路84と、導入路84の下流側に設置された捕集部85と、捕集部85を通過した気体Airを大気放出する排気口88とを含む。排気処理部110は筐体90の上部に設置されている。
【0066】
これにより、第五の多孔板64を通過した液体層L2の泡沫を捕集部85で捕集して液体層L2または液体層L1として再利用することができる。捕集部85には、SUSまたはアルミニウムなどの金属板からなるフィルターを用いることができる。より具体的には、捕集部85として、屈曲した金属板により気流方向を多段に転換して泡沫を衝突分離するスクリーン装置を用いるとよい。
【0067】
捕集部85および回収流路86を備えることにより、気液接触装置100を連続的に運転しても液体層L1、L2が減少することが抑えられる。
ここで、本実施形態の液体層L1、L2は、水よりも比重の高い溶質が溶解した水溶液からなるVOCの吸着液である。溶質として、エポキシ系などの高分子を例示することができる。
このとき、捕集部85を気液接触部94よりも上部に設けたことにより、かりに液体層L2の泡沫が捕集部85を通過して排気口88に至ったとしても、かかる泡沫の成分は比重の低い水が支配的となる。このため、気液接触装置100の連続運転により液体層L1、L2の液量が漸減したとしても、水を補充するだけで、液体層L1、L2は濃度および液量を維持することができる。
【0068】
図4(a)から(c)は、本実施形態の気液接触装置100の動作説明図である。
同図(a)は、初期状態を表している。初期状態では、注入口(図示せず)から気液接触部94に投入された液体Liqが、給気路70の下部空洞74に貯留されている。
液体Liqは、下部空洞74と、下部チャンバー95の下部に貯留され、気泡発生機10は液体Liqに浸漬されている。
【0069】
ここで、開閉弁81を開き、圧送ポンプ82を駆動することで、液体Liqは供給路80を通じて揚送される。そして、塗液口83から上部チャンバー96に吐出された液体Liqは、第三の多孔板50を流下して下部チャンバー95に落下し、気泡発生機10の上部に蓄積される。気泡発生機10は、揺動片22(図2を参照)が逆止弁として機能し、塗液口83から吐出された液体Liqを下部チャンバー95内に保持する。
【0070】
同図(b)は、排気ブロア75の動作開始時の状態を表している。このとき、液体Liqは下部空洞74から完全に排出されて下部チャンバー95に蓄積されている。排気ブロア75を作動することで、VOCが含有した気体Airが給気路70に導入されて、さらに下部空洞74に至る。
【0071】
同図(c)は、気液接触装置100の安定動作時の状態を表している。泡沫化した液体層L1の一部が気体Airとともに第三の多孔板50を通過し、液化して液体層L2となっている状態を示している。液体層L2は、第三の多孔板50から落下する速度と、新たな泡沫が液体層L2に追加される速度とがバランスしている。
気体Airは、下部チャンバー95の液体層L1と、上部チャンバー96の液体層L2とで二度にわたって気液接触し、VOC成分が溶解除去される。
【0072】
なお、同図(c)の安定動作中も圧送ポンプ82を駆動させてもよい。これにより、下部空洞74に落下した僅かな液体層L1を塗液口83に揚送し、液体層L1、L2として再利用することが可能である。
【0073】
図5は、排気処理部110の変形例を模式的に示す説明図である。
【0074】
捕集部85は、第三の多孔板50の下流側に流出した液体層L2の飛沫DRを含む気体(飛沫含有気体IN:太矢印)を導入する導入路84と、導入される飛沫DRおよび気体Air(飛沫含有気体IN)に対して逆風(飛沫防止逆風HW:細矢印)を吹き付けて飛沫DRと気体Airとを分離させる気流発生部850と、を含む。
【0075】
気流発生部850は、飛沫防止逆風HWを生成して飛沫含有気体INを減速する手段である。飛沫防止逆風HWは、気液接触装置100の外部から給気してもよく、または本変形例のように気液接触装置100(空洞部857)の内部の気体を循環させてもよい。
【0076】
本変形例の気流発生部850は、捕集部85の内部の気体を循環させて逆風(飛沫防止逆風HW)を発生させるブロア(循環ブロア851)と、導入路84よりも大径の開口をもち導入路84に対向配置された飛沫防止逆風HWの吹付口854と、を含む。
【0077】
より具体的には、気流発生部850は、循環ブロア851が設置された循環路852と、循環路852がテーパー状に拡張する拡張部853と、この拡張部853の先端に設けられた吹付口854と、循環ブロア851に導入される気体から飛沫DRを除去するフィルタ855と、を含む。
【0078】
本変形例の導入路84は、上部チャンバー96よりも小径であって飛沫含有気体INを収束させて空洞部857に導入する。導入路84は上部チャンバー96から連続的に縮径するテーパー部と、当該テーパー部の先端に延在するストレート部とからなる。
【0079】
飛沫含有気体INは、VOCが除去された気体Airと、液体層L2の飛沫DRとの二相混合気体である。かかる飛沫含有気体INに対して飛沫防止逆風HWを正面から吹き付けることにより、気体Airよりも慣性力が大きい飛沫DRが顕著に減速して、気体Airと飛沫DRとは互いに分離される。分離された飛沫DRの一部は導入路84から上部チャンバー96の内部に落下する。他の飛沫DRは、導入路84の外部で気体Airから分離されて、集液部856に集められ、さらに回収流路86aを通じて塗液口83(図1を参照)に送られる。
【0080】
集液部856は、導入路84の外部に周設された環状の貯液溝である。本変形例の集液部856は導入路84の外周面と空洞部857の内面とで挟まれた領域であり、その底面の一箇所または複数箇所に回収流路(飛沫ドレーン)86aが連通して設けられている。
【0081】
飛沫DRが分離除去された飛沫含有気体INは、排気EX(白抜矢印)となって排気口88から排出される。飛沫DRが分離されずに残った飛沫含有気体INは、飛沫防止逆風HWと混合されて循環路852に導入される。そして、フィルタ855にて飛沫含有気体INから飛沫DRが分離される。ここで分離された飛沫DRは回収流路86bを通じて塗液口83(図1を参照)に送られる。フィルタ855にはメッシュデミスタを用いることができる。
【0082】
このように、本変形例の排気処理部110では、集液部856とフィルタ855とで飛沫含有気体INから飛沫DRが分離され、再び液体層L1、L2となって塗液口83から気液接触部94に供給される。ここで、空洞部857に飛沫含有気体INが導入される導入路84の開口端面と、吹付口854の開口端面とは、互いに略同心位置かつ略同一平面上にあり、吹付口854の開口端面は導入路84の開口端面を内包している。これにより、飛沫含有気体INに対して正面から飛沫防止逆風HWが吹き付けられて飛沫含有気体IN(飛沫DR)が減速される。
【0083】
ただし、導入路84の開口端面が吹付口854の内部に位置して、導入路84と吹付口854とが入れ籠状に配置されてもよい。これにより、飛沫含有気体INと飛沫防止逆風HWとが確実に衝突する。
【0084】
吹付口854の開口径は、導入路84の開口径の2倍以上3倍以下の比率(以下、開口比)が好適である。開口比を2倍以上とすることで、導入される飛沫含有気体INに対して遺漏なく飛沫防止逆風HWが吹き付けられるため、飛沫DRを含んだまま飛沫含有気体INが排気口88に至ることが防止される。また、開口比を3倍以下とすることで、飛沫防止逆風HWが過度に拡散することがなく、飛沫含有気体INが導入路84の外周に沿って押し返されて空洞部857の内部で略N字状の気流が形成される。これにより、飛沫DRが飛沫含有気体INから好適に除去されて集液部856に集められる。
【0085】
排気ブロア75(図1を参照)に対する循環ブロア851の流量比は特に限定されないが、100%を超えてもよい。すなわち、排気ブロア75により吸気口71から給気される気体Airの流量よりも、循環ブロア851によって生じる飛沫防止逆風HWの流量の方が大きくてもよい。これにより、飛沫DRを飛沫含有気体INから好適に分離することができる。
【0086】
(実施例)
図1に示した上記実施形態で説明した気液接触装置100の動作結果の一例を以下に示す。
気温22℃の空気に、50℃に加熱したメチルエチルケトン(MEK)を下表1の濃度で混合した気体Airを、排気ブロア75により分速50mの流量で気液接触装置100に導入した。この気体Airを、水性の液体Liqに連続的に通過させて、MEKの除去試験を行った。
下部チャンバー95に設置した冷却装置76の設定温度を3℃とした。気液接触装置100の雰囲気温度は27℃であり、試験開始時の液体Liqの温度は26℃(常温)で安定した。
【0087】
また、図3に示す気泡発生機10を用い、隣接する揺動片22同士の間隔を20mm、円弧部24の直径を6mmとした。
【0088】
下表1に、VOCの除去試験の結果を表す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1の結果より、吸気口71における入口側のVOC濃度が7500ppmを超える高濃度の気体Airに対して、排気口88で排出されるVOC濃度は1000ppm以下となり、85%以上という高い吸収率でVOCが除去された。また、運転開始から5分と短時間のうちに吸収率は85%を超え、気液接触装置100によるVOCの吸収動作は安定した。そして、1.5時間にわたる連続運転を行っても、VOCの吸収率は85%以上を維持した。この間、液体Liqの補充は行わなかった。
【0091】
また、1週間を超える連続試験を行ったところ、VOCの吸収率は85%以上を維持した。この間、液体Liqの減少分に対しては水のみを補充した。
【0092】
さらに、吸気口71に導入されるVOCをトルエンおよび酢酸エチルにそれぞれ変更した場合についても、表1と同様に85%以上の吸収率が達成された。
【0093】
以上より、気液接触装置100による気液接触効率の高さと、VOCの吸収率の高さが明らかとなった。
【符号の説明】
【0094】
10 気泡発生機
20 樹脂シート
22 揺動片
24 円弧部
26 裾部
28 終端部
30 第一の多孔板
32 大径口
40 第二の多孔板
42 小径口
50 第三の多孔板
60 第四の多孔板
64 第五の多孔板
62、66 調整部
67、68 観察窓
70 給気路
71 吸気口
72 環状流路
73 下降路
74 下部空洞
75 排気ブロア
76 冷却装置
80 供給路
81 開閉弁
82 圧送ポンプ
83 塗液口
84 導入路
85 捕集部
850 気流発生部
851 循環ブロア
852 循環路
853 拡張部
854 吹付口
855 フィルタ
856 集液部
857 空洞部
86、86a、86b 回収流路
88 排気口
90 筐体
92 配管収容部
94 気液接触部
95 下部チャンバー
96 上部チャンバー
98 車輪
100 気液接触装置
110 排気処理部
Air 気体
DR 飛沫
EX 排気
HW 飛沫防止逆風
IN 飛沫含有気体
Liq 液体
G1、G2、G3 気体層
L1、L2 液体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に接触させて用いられる気泡発生機であって、
複数の揺動片が分散して切り込み形成された可撓性の樹脂シートと、
前記揺動片の外径よりも大きな大径口を複数備える第一の多孔板と、
前記揺動片の外径よりも小さな小径口を複数備え、前記第一の多孔板とともに前記樹脂シートを挟持する第二の多孔板と、を有し、
前記小径口から流入し、前記揺動片を付勢して前記大径口より流出する気体を気泡化する気泡発生機。
【請求項2】
前記揺動片が、前記小径口の側への変位が規制され前記大径口の側に変位自在に構成された逆止弁である請求項1に記載の気泡発生機。
【請求項3】
前記揺動片が略円形をなし、前記大径口、前記小径口および前記揺動片が同心状に配置されている請求項1または2に記載の気泡発生機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の気泡発生機を備え、多段に設けられた複数の液体層と気泡化された気体とを接触させる気液接触装置であって、
前記気泡発生機により気泡化されて前記大径口より流出した気体が、第三の多孔板の下流側に接して配置された前記液体層とさらに接触することを特徴とする気液接触装置。
【請求項5】
前記気泡発生機の下流側に前記液体層が接触して設けられ、上流側に気体層が設けられている請求項4に記載の気液接触装置。
【請求項6】
前記気泡発生機と前記第三の多孔板とがともに略水平に配置され、下方から上方に向かって前記気体を流動させる吹き上げ型の気液接触装置であって、
前記気泡発生機の上部に前記液体層を供給する供給路をさらに備える請求項4または5に記載の気液接触装置。
【請求項7】
前記気泡発生機と前記第三の多孔板との間に第四の多孔板をさらに備え、
前記第四の多孔板は、前記気泡発生機との間隔が可変であって、前記気泡発生機の上部に供給された前記液体層が前記気体とともに前記第三の多孔板の上部に移動する量が、前記間隔の変更により増減調整されることを特徴とする請求項6に記載の気液接触装置。
【請求項8】
前記第三の多孔板の下流側に流出した前記液体層を捕集する捕集部と、捕集された前記液体層を回収する回収流路と、をさらに備える請求項4から7のいずれかに記載の気液接触装置。
【請求項9】
前記捕集部が、前記第三の多孔板の下流側に流出した前記液体層の飛沫を含む気体を導入する導入路と、導入される前記飛沫および前記気体に対して逆風を吹き付けて前記飛沫と前記気体とを分離させる気流発生部と、を含む請求項8に記載の気液接触装置。
【請求項10】
前記気流発生部が、前記捕集部の内部の気体を循環させて前記逆風を発生させるブロアと、前記導入路よりも大径の開口をもち前記導入路に対向配置された前記逆風の吹付口と、を含む請求項9に記載の気液接触装置。
【請求項11】
前記液体層を冷却する冷却装置をさらに備え、
前記気体が揮発性有機化合物を含有する請求項4から10のいずれかに記載の気液接触装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167682(P2011−167682A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12754(P2011−12754)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(395004597)株式会社根岸製作所 (9)
【Fターム(参考)】