気液分離膜、気液分離膜モジュール、燃料電池、及びガス放出方法
【課題】高い効率で気液を分離させることができる高性能な気液分離膜の提供。
【解決手段】細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【解決手段】細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体を含む液体から気体を分離させるために使用する気液分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気液混合流または気液二相流の状態から、気体成分または液体成分を分離するために、膜の気液選択性を利用する方法については、数多くの提案がなされてきた。
【0003】
例えば、インクジェットプリンターのヘッド部分における気泡の除去(特許文献1)、又はインクカートリッジ(特許文献2)に、膜の気液選択性を使用することが提案されている。
【0004】
また、近年、二酸化炭素の排出のないクリーンエネルギー源として燃料電池に関する研究開発が活発に行われている。そして、燃料電池においても、電極で発生する気体を効率よく排出するために気液分離膜を使用することが提案されている。
【0005】
燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができるという利点を有するだけでなく、燃料を交換すれば連続して発電できるという利点も有している。従って、燃料電池の小型化が出来れば、その燃料電池は、消費電力が小さいOA機器等の小型機器の作動に極めて有利なシステムといえる。
【0006】
研究開発されている各種の燃料電池の中でも、ダイレクトメタノール固体高分子電解質型燃料電池(以下「DMFC」ともいう。)は、燃料水素源として液体のメタノール水溶液を用いることでエネルギー密度を高くすることができ、改質器を必要とせず、さらに小型化もできることから、携帯電話等の小型の携帯機器に用いる燃料電池としての実用化が期待されている。
【0007】
DMFCは、電池本体への燃料供給方法によって、液体燃料をそのまま電池本体に供給する液体供給型と、液体燃料を気化させてから電池本体に供給する気化供給型とに大別される。また、これらの長所を併せ持ったDMFCとしては、燃料極、酸化剤極およびこれら両電極に挟持された電解質板又は層を有する起電部を有し、燃料として液体燃料を用い、前記液体燃料を毛管力で電池内に導入するための燃料浸透層と、前記燃料浸透層と燃料極との間に配置され、電池内に導入された液体燃料を気化させて気体燃料の形で燃料極に供給するための燃料気化層とを具備するDMFCが挙げられる。
【0008】
しかしながら、このような構成のDMFCには以下の様な問題がある。
これらのDMFCにおいては、電池反応により燃料極側で下記式(1)に表される反応が起こり、炭酸ガスが発生する。この炭酸ガスが電極表面に残存するために、燃料の円滑な供給および反応が妨げられ、長時間の使用による出力レベルの低下および安定した出力が得られないこと等の問題が発生していた。
CH3OH + H2O → 6H− +6e― +CO2↑ (1)
【0009】
このため、DMFCに発生ガス排出孔(以下、単に「排出孔」ともいう。)を設け、この排出孔から液体を漏らさず炭酸ガスだけを効率的に排出するために、気液分離膜を設けることが提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
この排出孔に設ける気液分離膜については、現在まで様々な材料が提案されている(特許文献4及び5参照)。しかし、これらの材料は、効率よく炭酸ガスを放出しているとは言えず、燃料電池の出力低下を十分抑制できていなかった。
【0011】
通常、撥水性の高い材料が、気液分離膜を構成する多孔質膜に用いられる。気液分離膜の細孔径が、液体を通過させない最大の細孔径以下に設計される必要があるため、気体の排出効率は細孔の均一性に大きく依存する。したがって、孔径が小さくなる方向に、その孔径の分布が生じた場合には、気体の通過効率が低下してしまう。
【0012】
このような多孔質膜は、素材粒子に予め液状潤滑材を配合した圧縮成型物をフィルム化した後、潤滑材を除去して延伸する製法により得ることができる。しかしながら、このような方法によって製造される多孔質膜においては、細孔の孔径を均等化することが困難であり、構造的に問題があった。
【0013】
これを解決するため、レーザー加工により均一な孔径を有する気液分離膜を作製する方法が提案されているが(特許文献6参照)、この方法で細孔数を増やして気孔率を上げるには、生産性上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−143023号公報
【特許文献2】特開2009−893号公報
【特許文献3】特許第3496934号公報
【特許文献4】特開2006−185629号公報
【特許文献5】特開2008−226751号公報
【特許文献6】特開2003−88733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、現在の燃料電池用気液分離膜は効率よく炭酸ガスを排出しているとは言えず、燃料電池の出力低下を十分抑制できていない。本発明の目的は、気体を含む液体から効率よく該気体を排出する気液分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細孔の孔径分布が極めて狭い燃料電池用気液分離膜が効率よく炭酸ガスを排出し、燃料電池の出力低下を十分抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下に記載の気液分離膜及びその製造方法、気液分離膜積層体及びその製造方法、気液分離膜モジュール、燃料電池、並びにガス排出方法に関するものである。
【0018】
[1] 細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【0019】
[2] 細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の気液分離膜の製造方法。
【0020】
[3] 前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、上記[2]に記載の製造方法。
【0021】
[4] 突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の気液分離膜の製造方法。
【0022】
[5] 前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、上記[4]に記載の製造方法。
【0023】
[6] 上記[1]に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体。
【0024】
[7] 上記[1]に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該気液分離膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む気液分離膜積層体の製造方法。
【0025】
[8] 上記[1]に記載の気液分離膜または上記[6]に記載の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る気液分離膜モジュール。
【0026】
[9] 燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に上記[1]に記載の気液分離膜または上記[6]に記載の気液分離膜積層体が形成されている、燃料電池。
【0027】
[10] 上記[8]に記載の気液分離モジュール内に収納された溶液中のガスを気液分離膜を通して外部空間に排出する工程を含むガス排出方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の気液分離膜は微細孔の孔径分布が狭いため、気体を含む液体から該気体を効率よく排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の気液分離膜の一態様を示す断面模式図である。
【図2】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る鋳型を作製するプロセスを示す図である。
【図3】テーパー形状の突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写するプロセスを示す図である。
【図4】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する第1の鋳型から気液分離膜を作製するプロセスの一例を示す図である。
【図5】実験例で作製した本発明の燃料電池を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の気液分離膜は、細孔を有しており、細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である微多孔膜である。なお、本発明における細孔とは、直径が約10〜300nmの微細な寸法を有する孔をいう。
【0031】
本発明の気液分離膜は、片側に気体を含む液体を配置し、他方の側に外部空間を配置することによって、気体を含む液体から該気体を効率よく外部空間に排出することが可能になる。
【0032】
まず、細孔を有する微多孔膜がいかにして気液分離膜として機能するかについて説明する。一般的に液体には表面張力が存在し、微多孔膜の細孔においてはこれと共に毛管力が発生する。毛管力は、孔や管が狭ければ狭いほど強く働くので、ある値以下であれば上記細孔における液体の通過が阻止される。一方、気体は、上記細孔の断面積に反比例して流れが阻害されるものの、その通過は許容され、液体のように流れが遮断されることはない。その結果、細孔を有する微多孔膜が気液分離膜として機能することになる。
【0033】
毛管力は、細孔付近における液体の接触角と、細孔の孔径によって決まる。その孔径の分布が大きい場合、気液を分離する際の圧力に対抗する力は、理論的には最も大きな孔径に依存してしまう。また、個々の細孔が独立して存在せず、細孔同士がつながっている気液分離膜においては、その細孔径に比して液体が通過しやすい。
【0034】
また、このような気液分離膜には、気体を速やかに通過させる機能も要求される。細孔の大きさと気体の通過抵抗は、一般的にハーゲン・ポアズイユの式によって表される。細孔の孔径が小さくなる方向に、その孔径の分布が生じた場合には、気体の通過効率が低下してしまう。つまり、毛管力を利用した気液分離膜は、通気孔の孔径が均一であればあるほど性能と信頼性が高くなる。
【0035】
本発明の気液分離膜の場合には、細孔の孔径分布における標準偏差が、平均値の30%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0036】
また、本発明の気液分離膜は、後述する多孔性フィルム基材に比較して表面平滑性が高いため、接触する流体の局所滞留が少なくなり、液側の気泡の移動が促進され、効率よく気体の排出を行うことができると考えられる。
【0037】
本発明の別の態様は、上記の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体である。従って、本発明の気液分離膜を平滑な多孔性フィルム基材に積層した気液分離膜積層体として使用する場合は、気液分離膜側に液体を流し、多孔性フィルム基材側から気体を外部に排出することが、液体からの気体排出率が高くなるので好ましい。
【0038】
以下に、本発明の気液分離膜の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の気液分離膜の一態様を示す断面模式図である。本態様の気液分離膜の細孔は、気液分離膜の表面から裏面に渡って細孔径が増加していくテーパー形状を有している。本発明の気液分離膜を後述する製造方法にて製造する場合は、気液分離膜の表面から裏面に渡って細孔径が均一な場合、鋳型より気液分離膜を離型する工程において、該気液分離膜の剥離をスムーズに行うことができず欠陥を生じる可能性があるため、本態様のテーパー形状がより好ましい。
【0039】
次に、本発明の気液分離膜の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む気液分離膜の製造方法である。ここで、該第1の鋳型は、たとえば、アルミニウム板を陽極酸化することにより好適に作製することができる。
【0040】
第2の製造方法は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む気液分離膜の製造方法である。ここで、該第3の鋳型は、例えば、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより好適に作製することができる。
【0041】
上記2種の製造方法において、第1の鋳型は、本発明の気液分離膜と同様に細孔から成る凹部を有する鋳型である。また、第2の鋳型、及び第3の鋳型は、本発明の気液分離膜とは逆に突起から成る凸部を有する鋳型であり、前記第1の鋳型とはポジとネガの関係にある。
【0042】
上記第1の製造方法について、より詳細に説明する。
図2は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ)の作製方法を示す。陽極酸化ポーラスアルミナ3は、陽極酸化によりアルミニウム基材2の表面に形成されるが、陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4の形状は、底部を除いてほぼ一定の径を有する円筒形状をしており、これをそのまま鋳型として用いた場合、薄膜の金型からの剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性がある。
【0043】
一方、陽極酸化とエッチングによる細孔の拡大処理とを組み合わせることにより、所望のテーパー形状の孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る反射防止膜作製用のスタンパを製造する方法が知られている(特開2005−156695号公報)。
【0044】
上記方法について簡単に述べると、アルミニウム基材2に所定の時間、陽極酸化を実施して所望の深さの細孔を形成した後、適当な酸溶液中に浸漬することにより孔径の拡大処理を行う。その後、再び陽極酸化を行うことで、1段階目に比較して孔径の小さな細孔を形成する。この操作を繰り返すことにより、テーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。繰り返し段数を増やすことで、より滑らかなテーパー形状の細孔を得ることができる。陽極酸化時間と孔径拡大処理時間とを調整することで、様々なテーパー形状を有する細孔の形成が可能であり、この方法を気液分離膜の製造に利用することで、ピッチ、孔の深さに合わせて最適な薄膜の構造設計が可能となると考えられる。
【0045】
また、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一条件で陽極酸化を施すことで作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、高い孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とすることが可能となる。
【0046】
使用する陽極酸化ポーラスアルミナとしては、例えば、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜60Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。また、硫酸を電解液として用い、化成電圧25V〜30Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることもできる。このような陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、より高い規則性を有する窪み配列を有する鋳型を得ることができる。
【0047】
さらに、陽極酸化ポーラスアルミナの作製において、陽極酸化に先立ちアルミニウム表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもでき、任意の配列を有する窪み配列を鋳型とすることが可能となる。
【0048】
上記方法により作製した第1の鋳型の細孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0049】
金属、金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、一般的にはNi、Ta、SiO2、炭素、有機SOG等が使用される。これらの例の中で、Niは電鋳が容易であるため好ましい。
【0050】
また、第1の鋳型の細孔に充填される高分子としては、加工性を有するものであれば限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標:DuPont社製)、ハイフロンAD(登録商標:Solvay Solexis社製)、サイトップ(登録商標:旭硝子社製))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第1の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中で、フッ素系樹脂は第1の鋳型からの離型性に優れるため好ましい。
【0051】
さらに、上記第2の鋳型に高分子を充填し、その後、該第2の鋳型から該高分子膜を離型することによって、気液分離膜を得ることができる。
【0052】
第2の鋳型に高分子を転写する方法としては、特に限定はされないが、光インプリント、熱インプリント、室温インプリント、ナノキャスティングインプリント等の方法を用いることができる。高分子としては、第2の鋳型に充填したときに、第2の鋳型の材料と接着又は融着等して問題が起こるものでなければ特に限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第2の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。
【0053】
転写に使用する高分子の体積を第2の鋳型の突起から成る凹凸の空隙の体積より多く使用した場合は、気液分離膜の片側の細孔が余分の残膜で塞がれた状態となっているため、離型前又は離型後に、この残膜をエッチング処理することにより除去して貫通開孔薄膜とする必要がある。エッチング方法としては、プラズマ等を利用した高真空ドライエッチング、大気圧ドライエッチング、溶剤を用いたウェットエッチング等を挙げることができる。これらの中でも大気圧ドライエッチングは低コストでエッチング精度が高いため好ましい。
【0054】
以上の工程によって、気液分離膜を製造するプロセスの一例を図4に示す。
陽極酸化ポーラスアルミナ3から成る第1の鋳型の表面に、無電解メッキ又はスパッタリングによりNi−P、Au、Cr等から成る表面導電層を形成した後、Ni等の電解メッキにより第2の鋳型を形成する。第1の鋳型から第2の鋳型を剥離させるか、第1の鋳型を選択的に溶解除去することにより第2の鋳型を得る。次に、第2の鋳型に高分子、例えば、ポリスルホンを溶媒に溶解させた溶液を充填し、溶媒を乾燥させて高分子から成る薄膜を得る。この薄膜の余分に充填された高分子膜をプラズマエッチングで除去した後、第2の鋳型から剥離して気液分離膜を得る。該気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させることで、本発明の気液分離膜積層体を得ることができる。
【0055】
次に、上記第2の製造方法について、より詳細に説明する。
図3は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型から、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型を作製する方法を示す。
【0056】
上記第3の鋳型は、干渉露光法によって好適に作製することができる。まず、平滑な基板7(例えば研磨されたガラス原盤)上に、ポジ型フォトレジストを塗布する。ポジ型フォトレジストは半導体装置製造の技術分野において周知のレジストであり、フェノール性水酸基を有する樹脂と、光酸発生剤とを含む組成物である。この組成物は光照射前のアルカリ性現像液に対する溶解性は低いが、光照射によって酸が発生しアルカリ性現像液に対する溶解性が高くなる。この現像液に対する光照射部と光未照射部の溶解性の差異を利用してパターニングを行うことが可能となる。以下においては、上記光未照射部のことを硬化部、上記光照射部のことを未硬化部ともいう。
【0057】
次に、レーザー光を用いた干渉露光法(以下「レーザー干渉露光法」ともいう。)により露光を行い、微細なテーパー形状の突起から成る硬化部と残余の未硬化部を得る。露光後、現像を行い未硬化部を除去することによって、突起から成る凸部8を有する第3の鋳型9として得る。
【0058】
フォトレジストに形成された凸部8は、レーザー干渉露光法により、凸部の頂上部8aが細くなる一方、底部8bが太くなる、いわゆるテーパー形状となる。この現象は、レーザー光のパワー強度がフォトレジスト表面で強く、フォトレジストの中を進むに従って弱くなり、その結果、フォトレジスト表面で露光量が大きくなって頂上部8aが浸食され、フォトレジストの深さ方向へ進むに従って露光量が小さくなって深さ方向への浸食が弱くなり、底面部8bが広がるためであると考えられる。従ってフォトレジストの感光性の度合い(γ値)によってテーパーの角度を調整することができる。
【0059】
なお、レーザー干渉露光法とは、特定の波長のレーザー光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザーの波長で制限される範囲内で色々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。例えば、方向を120度ずつずらした3組の上記干渉縞を重ね合わせて露光することで、上記のテーパー形状の突起から成る凹凸パターンを形成することができる。
【0060】
干渉露光に使用できるレーザーとしては、TEM00モードのレーザーに限定される。TEM00モードのレーザー発振できる紫外光レーザーとしては、アルゴンレーザー(波長364nm、351nm、333nm)、又はYAGレーザーの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0061】
また、形成されたパターンのエッチングによってもテーパーの角度を変化させることが可能である。すなわち、高真空プラズマエッチングにおいて、エッチングの異方性を制御することによりテーパーの角度を変えることができる。
【0062】
一般的に入射する反応性イオンの平均自由行程を低圧力にして長くする程、垂直にガスが入射して異方性が大きくなるが、この場合、垂直方向に一様にエッチングされるためテーパーの角度の変化は小さい。逆に圧力を高めに設定することにより、横方向への反応性イオンの入射が増加して横方向にもエッチングされ、テーパーの角度が変化する。
【0063】
上記方法により作製した第3の鋳型に対して、図3(b)に示すように、表面導電層を形成した後Ni電鋳を行い、第1の鋳型を形成する。該第3の鋳型を除去すると凹凸が反転して転写された凹凸を有する第1の鋳型10が得られる(図3(c))。
【0064】
上記方法により作製した第1の鋳型を用いて、その孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、該第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0065】
上記第2の製造方法で作製した第2の鋳型は、前記第1の製造方法で作製した第2の鋳型と同様に、高分子を充填し、該第2の鋳型から離型することによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を有し、細孔径の孔径分布が非常に小さい気液分離膜を得ることができる。
【0066】
上記の製造方法によって、細孔ピッチが30〜1000nmであり、細孔径が10〜300nmであり、細孔深さが30nm〜1000nmであり、かつ細孔径の孔径分布が極めて狭いことを特徴とする気液分離膜を得ることができる。微細孔径の孔径分布が非常に小さいとは、孔径(孔の直径)の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下であること、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを言う。
【0067】
また、本発明の気液分離膜の気孔率は、特に限定されないが、通常25%以上95%以下、好ましくは、40%以上、更に好ましくは、50%以上、特に好ましくは60%以上である。25%以上であれば透水性に優れ、95%以下であれば気液分離膜として用いる十分な強度を確保できる。
【0068】
上記製造方法によって得られた気液分離膜はそのまま用いることも可能であるが、機械的強度を高めるために多孔性フィルム基材と積層して気液分離膜積層体として用いることが好ましい。多孔性フィルム基材としては、微多孔膜、不織布、相分離膜、延伸開口膜等を挙げることができる。
【0069】
多孔性フィルム基材の材質としては、ステンレス等の金属、シリカ、アルミナ、炭素等の無機物、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等に代表される有機物を挙げることができる。
【0070】
多孔性フィルム基材の孔径は、気液分離膜の細孔径より大きいものが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性フィルム基材の厚みは10〜1000μmであることが強度と気孔率のバランス上好ましい。気液分離膜の多孔性フィルム基材への積層は、気液分離膜を金型から剥離しながら多孔性フィルム基材に重ね合わせていく方法が一般的であるが、残膜をエッチングすると気液分離膜が金型から離型し難くなる場合がある。この場合は積層した後に残膜をエッチングする必要がある。しかし単純な移し変えによる重ね合わせでは残膜は多孔性フィルム基材側になるので、後工程でエッチングができない問題がある。このような場合、一度別の基材に移し取って裏返しにしてから、多孔性フィルム基材に重ね合わせる必要がある。この別の基材は金型から剥がした薄膜を多孔性フィルム基材に貼り直す必要があるので弱粘着性であることが好ましい。
【0071】
気液分離膜及び多孔性フィルムは、単に重ね合わせて使用することも可能であるが、熱融着及び/又は接着剤による接着を行ってもよい。熱融着の場合、加熱により気液分離膜および/または多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる。このとき、多孔性フィルム基材を構成する材料の溶融温度が薄膜を構成する材料の溶融温度よりも低い方が、熱融着時に気液分離膜の細孔形状への影響が少ないので、より好ましい。熱融着の場合の加熱法としては、加熱板を当てること、熱風を当てること、及び赤外線又は高周波を照射すること等の方法が挙げられる。
【0072】
本発明の気液分離膜および気液分離膜積層体は、以下のような気液分離膜モジュールとすることで、気体を含む液体から気体を排出するために使用することができる。
【0073】
本発明の気液分離膜モジュールは、本発明の気液分離膜または本発明の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る。また、上記気液分離膜モジュールのガス排出口に、コック又は圧力調整用のバルブを設けることも好ましい。
【0074】
気液分離膜モジュールの容器の材料は、分離対象となる気体を含む液体に対する耐腐食性があるものであれば、特に限定はされない。
【0075】
このような気液分離膜モジュールの別の態様として、燃料電池が挙げられる。
本発明の燃料電池は、燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層又は膜と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に本発明の気液分離膜または本発明の気液分離膜積層体が形成されている燃料電池である。
【0076】
燃料極の材料はPt−Ru系触媒を担持させることができる導電性材料であれば特に限定されないが、カーボン粉末が好適に用いられる。燃料極の厚みは1〜1000μmが好ましい。また、酸化剤極の材料もPt系触媒を担持させることができる導電性材料であればよく、カーボン粉末が好適に用いられる。酸化剤極の厚みは1〜1000μmが好ましい。電解質層又は電解質膜の材料としては、パーフルオロスルホン酸膜やスルホン化された炭化水素系膜が挙げられる。電解質層の厚みは1〜1000μmが好ましい。外装材の材料は、絶縁性であり、かつ耐水性及び耐熱性に優れたものであれば特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート等を挙げることができる。外部リード端子の材料は、導電性の高いものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、ニッケル等が挙げられる。酸化剤ガス取り入れ口は、化学反応に十分なガス量が取り入れられる大きさを有する必要がある。酸化剤ガス取り入れ口の大きさは、可能な限り酸化剤極面全体に亘ることが好ましい。また、発生ガス排出孔の大きさは、ガス排出抵抗を小さくするために可能な限り燃料極面全体に亘ることが好ましい。
【実施例】
【0077】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明する。
[鋳型、及び膜の構造観察]
走査型電子顕微鏡による観察:作製した鋳型、気液分離膜、及び延伸開孔膜から任意の大きさに切り取った試料を導電性両面テープにより試料台に固定し、白金を3nm程度の厚みにスパッタリングして顕微鏡試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立株式会社製 S−3000N)を用い、加速電圧1.0kV、及び所定の倍率で試料の表面、及び断面を観察した。鋳型の凸部の径、鋳型及び膜の厚み、細孔径、細孔ピッチについて50箇所測定し、平均値を求めた。
原子間力顕微鏡による観察:作製した試料から任意の大きさに切り取った気液分離膜試料を両面テープにより試料台に固定し観察試料とした。原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製NanoScopeIII)を用い、Veeco社製のNCHVの探針を用いて所定の倍率で膜の表面形状を観察した。
【0078】
[膜厚]
多孔性フィルム基材および延伸開孔膜:膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130)を用いて測定した。異なる10点の箇所で測定し、平均値を求めた。
気液分離膜:走査型電子顕微鏡による気液分離膜の断面観察より膜厚を測定した。
【0079】
[気孔率]
走査型電子顕微鏡による膜の観察により、気液分離膜の測定範囲にある孔の体積を測定し、次式(2)によって気孔率を算出した。ここで、孔の体積は上面の直径がAであり、底面の直径がBであり、高さが膜の厚さに等しい円錐台形状と仮定して計算した。
気孔率(%)={(測定範囲内の孔の体積)/(測定範囲の膜の体積)}×100・・・(2)
【0080】
<実験例>
図5に示した構成を有する小型燃料電池を、以下に示す要領で作製した。
まず、カーボン粉末に液相法でPt−Ru系の触媒を担持させ、アルゴン−水素気流中で焼成して触媒の安定化を行った。
【0081】
次にこの触媒粉末に溶剤と固体高分子溶液をバインダーとして添加することによりペースト状にし、カーボンペーパー上に塗布して乾燥させて燃料極18側の触媒層を形成した。
【0082】
また、別にPt系触媒を担持したカーボン粉末を燃料極18側と同様のプロセスで作製し、酸化剤極16側の触媒層を形成した。
【0083】
以上のようにして作製した燃料極18と酸化剤極16を30mm×75mmにそれぞれ切断し、膜厚が200μmの電解質膜(パーフルオロスルホン酸膜)17を挟持した。
【0084】
これらを、135℃で15分間、100kg/cm2の圧力でプレスし一体化した。
次に燃料極端子12に10mmφの孔を開け、同サイズに切出した気液分離膜積層体をはめ込みエポキシ接着剤で固定した。
【0085】
次にこの起電部(燃料極18、電解質膜17、酸化剤極16の接合体)の燃料極18側に接する燃料保持層19(ポリオレフィンの多孔板)に予め燃料極端子12の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけ配置した。
【0086】
酸化剤極側にも予め酸化剤極端子11の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけ、さらに直径0.5μmの孔が多数設けられた酸化剤ガス拡散層15である多孔質テフロン(登録商標)シートを設置し、このようにして得た単位電池を予め燃料極端子12と酸化剤極端子11の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけた薄膜外装フィルムを用い燃料極端子12と酸化剤極端子11に設けた穴がずれないように位置決めをした後、200℃で熱圧着封入した。
【0087】
<実施例1>
0.3Mシュウ酸を電解液として用い、化成電圧60Vで、純度99.99%のアルミニウム板に50秒間陽極酸化を行った。その後、2重量%リン酸30℃中に10分間浸漬し、孔径拡大処理を行った。この操作を5回繰り返し、縦横ともに200mmで、細孔ピッチ300nm、細孔径開口部0.2μm、孔の深さ0.3μmのテーパー形状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る第1の鋳型を得た。
【0088】
次にこの第1の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行い、その上にニッケルの電気メッキを施した。金属メッキを鋳型から剥離することによって、ニッケルから成る第2の鋳型を得た。
【0089】
得られた第2の鋳型を、蒸留水中で十分に洗浄した。事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、第2の鋳型上に厚さ0.4μmの燃料電池用気液分離膜前駆体を形成した。燃料電池用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去した。
【0090】
多孔性フィルム基材として縦横ともに200mmのポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を用いて第2の鋳型上の薄膜と160℃(ポリスルホンの熱変形温度は約175℃、ポリプロピレンの融点は約160℃)で熱融着させることによって、第2の鋳型からの薄膜の剥離及び多孔性フィルム基材との積層を同時に行い、ポリプロピレン不織布上にポリスルホンから成る燃料電池用気液分離膜が積層された燃料電池用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0091】
この燃料電池用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.16μm、最大値0.23μm、平均値0.21μm、標準偏差0.03であった。膜厚は平均値0.25μmであった。
【0092】
<実施例2>
平滑に研磨された縦横ともに200mmのガラス板上にポジ型のフォトレジストを厚み300nmで塗布してフォトレジスト付基板を得た。TEM00モードのアルゴンレーザ(波長364nm)から出射される光をミラーで2分割して45度の角度で2方向から照射して重ね合わせることで干渉縞を形成させ、形成された干渉縞を120度間隔で3方向からフォトレジスト付基板に照射してフォトレジストを露光した。露光後、現像を行い、未硬化部を除去することによって、第3の鋳型を得た。
【0093】
この第3の鋳型の突起はピッチ260nmで、凸部の径は底部で250nm、頂部で120nmであり、高さは300nmであった。
【0094】
次に第3の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行った。その上にニッケルの電気メッキを施し、金属メッキを第3の鋳型から剥離することによって、第3の鋳型の凹凸構造を反転して転写された第1の鋳型を得た。
【0095】
次に第二の電鋳の剥離のための処理として、第1の鋳型の表面を酸化処理して金属の酸化被膜を形成した。そして、電鋳として第1の鋳型の表面にニッケルメッキを施した。第1の鋳型から金属メッキを剥離して第2の鋳型を得ることができた。この第2の鋳型は第1の鋳型を原盤として作製されるため、壊れても補充が可能である。
【0096】
事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、厚さ0.4μmの燃料電池用気液分離膜用薄膜前駆体を第2の鋳型上に得た。
【0097】
次に縦横ともに200mmに切出したフィックスフィルムHG−1(フジコピアン(株)社製)を張り合わせ、剥がすことにより燃料電池用気液分離膜前駆体を金型から離型した。
【0098】
多孔性フィルム基材としてポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を縦横ともに200mmに切出して金型から離型した燃料電池用気液分離膜前駆体と重ね合わせた。160℃で加熱して燃料電池用気液分離膜前駆体と多孔性フィルム基材とを熱融着させた後フィックスフィルムHG−1を剥離した。燃料電池用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去して燃料電池用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0099】
この燃料電池用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.18μm、最大値0.24μm、平均値0.21μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.24μmであった。
【0100】
<比較例1>
ポリテトラフルオロエチレンの微粒100重量部と石油ナフサ22重量部を混合しTダイを備えた押出し機により押出して平膜を成型し、加熱乾燥後250℃で120%に一軸延伸して平膜を作製した。この平膜を360℃で15分焼成した。得られた平膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.02μm、最大値0.24μm、平均値0.14μm、標準偏差0.09であった。膜厚は平均値90μmであった。
【0101】
<実施例3>
実験例において実施例1で得られた燃料電池用気液分離膜積層体を用いて図5に示す小型燃料電池を作製し、その最大電流密度及び出力特性を調べた。
【0102】
小型燃料電池の外側に設けた燃料タンク20から燃料保持層19の毛管力を利用してメタノールと水の1:1(モル比)混合液を供給した。
【0103】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス側に設けた複数の酸化剤ガス取り入れ口14から自然拡散で供給した。得られた最大電流密度及び出力特性の結果を表1に示す。
【0104】
<実施例4>
燃料電池用気液分離膜に実施例2で得られたものを使用すること以外は実施例3と同様にして作製した小型燃料電池の最大電流密度及び出力特性を調べた。結果を表1に示す。
【0105】
<比較例2>
燃料電池用気液分離膜に比較例1で得られたものを使用すること以外は実施例3と同様にして作製した小型燃料電池の最大電流密度及び出力特性を調べた。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1から明らかなように、本発明の燃料電池用気液分離膜は電極で発生した炭酸ガスを効率良く外部に放出することができ、その結果高い電池出力が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の気液分離膜は気体を含む液体からの気体の排出、特に燃料電池の分野で好適に使用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 第1の製造方法による第2の鋳型
2 アルミニウム
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 気液分離膜
6 多孔性フィルム基材
7 基板
8 テーパー形状の突起から成る凸部
8a 凸部の頂上部
8b 凸部の底部
9 第2の製造方法による第3の鋳型
10 第2の製造方法による第1の鋳型
11 酸化剤極リード(第1のリード端子)
12 燃料極リード(第2のリード端子)
13 気液分離膜
14 酸化剤ガス取り入れ口
15 酸化剤ガス拡散層
16 酸化剤極
17 固体電解質層
18 燃料極
19 燃料保持層
20 燃料タンク
21 外装体
【技術分野】
【0001】
本発明は気体を含む液体から気体を分離させるために使用する気液分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気液混合流または気液二相流の状態から、気体成分または液体成分を分離するために、膜の気液選択性を利用する方法については、数多くの提案がなされてきた。
【0003】
例えば、インクジェットプリンターのヘッド部分における気泡の除去(特許文献1)、又はインクカートリッジ(特許文献2)に、膜の気液選択性を使用することが提案されている。
【0004】
また、近年、二酸化炭素の排出のないクリーンエネルギー源として燃料電池に関する研究開発が活発に行われている。そして、燃料電池においても、電極で発生する気体を効率よく排出するために気液分離膜を使用することが提案されている。
【0005】
燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができるという利点を有するだけでなく、燃料を交換すれば連続して発電できるという利点も有している。従って、燃料電池の小型化が出来れば、その燃料電池は、消費電力が小さいOA機器等の小型機器の作動に極めて有利なシステムといえる。
【0006】
研究開発されている各種の燃料電池の中でも、ダイレクトメタノール固体高分子電解質型燃料電池(以下「DMFC」ともいう。)は、燃料水素源として液体のメタノール水溶液を用いることでエネルギー密度を高くすることができ、改質器を必要とせず、さらに小型化もできることから、携帯電話等の小型の携帯機器に用いる燃料電池としての実用化が期待されている。
【0007】
DMFCは、電池本体への燃料供給方法によって、液体燃料をそのまま電池本体に供給する液体供給型と、液体燃料を気化させてから電池本体に供給する気化供給型とに大別される。また、これらの長所を併せ持ったDMFCとしては、燃料極、酸化剤極およびこれら両電極に挟持された電解質板又は層を有する起電部を有し、燃料として液体燃料を用い、前記液体燃料を毛管力で電池内に導入するための燃料浸透層と、前記燃料浸透層と燃料極との間に配置され、電池内に導入された液体燃料を気化させて気体燃料の形で燃料極に供給するための燃料気化層とを具備するDMFCが挙げられる。
【0008】
しかしながら、このような構成のDMFCには以下の様な問題がある。
これらのDMFCにおいては、電池反応により燃料極側で下記式(1)に表される反応が起こり、炭酸ガスが発生する。この炭酸ガスが電極表面に残存するために、燃料の円滑な供給および反応が妨げられ、長時間の使用による出力レベルの低下および安定した出力が得られないこと等の問題が発生していた。
CH3OH + H2O → 6H− +6e― +CO2↑ (1)
【0009】
このため、DMFCに発生ガス排出孔(以下、単に「排出孔」ともいう。)を設け、この排出孔から液体を漏らさず炭酸ガスだけを効率的に排出するために、気液分離膜を設けることが提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
この排出孔に設ける気液分離膜については、現在まで様々な材料が提案されている(特許文献4及び5参照)。しかし、これらの材料は、効率よく炭酸ガスを放出しているとは言えず、燃料電池の出力低下を十分抑制できていなかった。
【0011】
通常、撥水性の高い材料が、気液分離膜を構成する多孔質膜に用いられる。気液分離膜の細孔径が、液体を通過させない最大の細孔径以下に設計される必要があるため、気体の排出効率は細孔の均一性に大きく依存する。したがって、孔径が小さくなる方向に、その孔径の分布が生じた場合には、気体の通過効率が低下してしまう。
【0012】
このような多孔質膜は、素材粒子に予め液状潤滑材を配合した圧縮成型物をフィルム化した後、潤滑材を除去して延伸する製法により得ることができる。しかしながら、このような方法によって製造される多孔質膜においては、細孔の孔径を均等化することが困難であり、構造的に問題があった。
【0013】
これを解決するため、レーザー加工により均一な孔径を有する気液分離膜を作製する方法が提案されているが(特許文献6参照)、この方法で細孔数を増やして気孔率を上げるには、生産性上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−143023号公報
【特許文献2】特開2009−893号公報
【特許文献3】特許第3496934号公報
【特許文献4】特開2006−185629号公報
【特許文献5】特開2008−226751号公報
【特許文献6】特開2003−88733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、現在の燃料電池用気液分離膜は効率よく炭酸ガスを排出しているとは言えず、燃料電池の出力低下を十分抑制できていない。本発明の目的は、気体を含む液体から効率よく該気体を排出する気液分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細孔の孔径分布が極めて狭い燃料電池用気液分離膜が効率よく炭酸ガスを排出し、燃料電池の出力低下を十分抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下に記載の気液分離膜及びその製造方法、気液分離膜積層体及びその製造方法、気液分離膜モジュール、燃料電池、並びにガス排出方法に関するものである。
【0018】
[1] 細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【0019】
[2] 細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の気液分離膜の製造方法。
【0020】
[3] 前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、上記[2]に記載の製造方法。
【0021】
[4] 突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、上記[1]に記載の気液分離膜の製造方法。
【0022】
[5] 前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、上記[4]に記載の製造方法。
【0023】
[6] 上記[1]に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体。
【0024】
[7] 上記[1]に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該気液分離膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む気液分離膜積層体の製造方法。
【0025】
[8] 上記[1]に記載の気液分離膜または上記[6]に記載の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る気液分離膜モジュール。
【0026】
[9] 燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に上記[1]に記載の気液分離膜または上記[6]に記載の気液分離膜積層体が形成されている、燃料電池。
【0027】
[10] 上記[8]に記載の気液分離モジュール内に収納された溶液中のガスを気液分離膜を通して外部空間に排出する工程を含むガス排出方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の気液分離膜は微細孔の孔径分布が狭いため、気体を含む液体から該気体を効率よく排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の気液分離膜の一態様を示す断面模式図である。
【図2】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る鋳型を作製するプロセスを示す図である。
【図3】テーパー形状の突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写するプロセスを示す図である。
【図4】テーパー形状の細孔から成る凹部を有する第1の鋳型から気液分離膜を作製するプロセスの一例を示す図である。
【図5】実験例で作製した本発明の燃料電池を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の気液分離膜は、細孔を有しており、細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である微多孔膜である。なお、本発明における細孔とは、直径が約10〜300nmの微細な寸法を有する孔をいう。
【0031】
本発明の気液分離膜は、片側に気体を含む液体を配置し、他方の側に外部空間を配置することによって、気体を含む液体から該気体を効率よく外部空間に排出することが可能になる。
【0032】
まず、細孔を有する微多孔膜がいかにして気液分離膜として機能するかについて説明する。一般的に液体には表面張力が存在し、微多孔膜の細孔においてはこれと共に毛管力が発生する。毛管力は、孔や管が狭ければ狭いほど強く働くので、ある値以下であれば上記細孔における液体の通過が阻止される。一方、気体は、上記細孔の断面積に反比例して流れが阻害されるものの、その通過は許容され、液体のように流れが遮断されることはない。その結果、細孔を有する微多孔膜が気液分離膜として機能することになる。
【0033】
毛管力は、細孔付近における液体の接触角と、細孔の孔径によって決まる。その孔径の分布が大きい場合、気液を分離する際の圧力に対抗する力は、理論的には最も大きな孔径に依存してしまう。また、個々の細孔が独立して存在せず、細孔同士がつながっている気液分離膜においては、その細孔径に比して液体が通過しやすい。
【0034】
また、このような気液分離膜には、気体を速やかに通過させる機能も要求される。細孔の大きさと気体の通過抵抗は、一般的にハーゲン・ポアズイユの式によって表される。細孔の孔径が小さくなる方向に、その孔径の分布が生じた場合には、気体の通過効率が低下してしまう。つまり、毛管力を利用した気液分離膜は、通気孔の孔径が均一であればあるほど性能と信頼性が高くなる。
【0035】
本発明の気液分離膜の場合には、細孔の孔径分布における標準偏差が、平均値の30%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0036】
また、本発明の気液分離膜は、後述する多孔性フィルム基材に比較して表面平滑性が高いため、接触する流体の局所滞留が少なくなり、液側の気泡の移動が促進され、効率よく気体の排出を行うことができると考えられる。
【0037】
本発明の別の態様は、上記の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体である。従って、本発明の気液分離膜を平滑な多孔性フィルム基材に積層した気液分離膜積層体として使用する場合は、気液分離膜側に液体を流し、多孔性フィルム基材側から気体を外部に排出することが、液体からの気体排出率が高くなるので好ましい。
【0038】
以下に、本発明の気液分離膜の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の気液分離膜の一態様を示す断面模式図である。本態様の気液分離膜の細孔は、気液分離膜の表面から裏面に渡って細孔径が増加していくテーパー形状を有している。本発明の気液分離膜を後述する製造方法にて製造する場合は、気液分離膜の表面から裏面に渡って細孔径が均一な場合、鋳型より気液分離膜を離型する工程において、該気液分離膜の剥離をスムーズに行うことができず欠陥を生じる可能性があるため、本態様のテーパー形状がより好ましい。
【0039】
次に、本発明の気液分離膜の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む気液分離膜の製造方法である。ここで、該第1の鋳型は、たとえば、アルミニウム板を陽極酸化することにより好適に作製することができる。
【0040】
第2の製造方法は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程を含む気液分離膜の製造方法である。ここで、該第3の鋳型は、例えば、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより好適に作製することができる。
【0041】
上記2種の製造方法において、第1の鋳型は、本発明の気液分離膜と同様に細孔から成る凹部を有する鋳型である。また、第2の鋳型、及び第3の鋳型は、本発明の気液分離膜とは逆に突起から成る凸部を有する鋳型であり、前記第1の鋳型とはポジとネガの関係にある。
【0042】
上記第1の製造方法について、より詳細に説明する。
図2は、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ)の作製方法を示す。陽極酸化ポーラスアルミナ3は、陽極酸化によりアルミニウム基材2の表面に形成されるが、陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4の形状は、底部を除いてほぼ一定の径を有する円筒形状をしており、これをそのまま鋳型として用いた場合、薄膜の金型からの剥離をスムーズに行うことができず、欠陥を生じる可能性がある。
【0043】
一方、陽極酸化とエッチングによる細孔の拡大処理とを組み合わせることにより、所望のテーパー形状の孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る反射防止膜作製用のスタンパを製造する方法が知られている(特開2005−156695号公報)。
【0044】
上記方法について簡単に述べると、アルミニウム基材2に所定の時間、陽極酸化を実施して所望の深さの細孔を形成した後、適当な酸溶液中に浸漬することにより孔径の拡大処理を行う。その後、再び陽極酸化を行うことで、1段階目に比較して孔径の小さな細孔を形成する。この操作を繰り返すことにより、テーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。繰り返し段数を増やすことで、より滑らかなテーパー形状の細孔を得ることができる。陽極酸化時間と孔径拡大処理時間とを調整することで、様々なテーパー形状を有する細孔の形成が可能であり、この方法を気液分離膜の製造に利用することで、ピッチ、孔の深さに合わせて最適な薄膜の構造設計が可能となると考えられる。
【0045】
また、定電圧で長時間陽極酸化を施した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一条件で陽極酸化を施すことで作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、高い孔配列規則性を有する陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とすることが可能となる。
【0046】
使用する陽極酸化ポーラスアルミナとしては、例えば、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜60Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることができる。また、硫酸を電解液として用い、化成電圧25V〜30Vにおいて作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いることもできる。このような陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、より高い規則性を有する窪み配列を有する鋳型を得ることができる。
【0047】
さらに、陽極酸化ポーラスアルミナの作製において、陽極酸化に先立ちアルミニウム表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもでき、任意の配列を有する窪み配列を鋳型とすることが可能となる。
【0048】
上記方法により作製した第1の鋳型の細孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0049】
金属、金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、一般的にはNi、Ta、SiO2、炭素、有機SOG等が使用される。これらの例の中で、Niは電鋳が容易であるため好ましい。
【0050】
また、第1の鋳型の細孔に充填される高分子としては、加工性を有するものであれば限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF(登録商標:DuPont社製)、ハイフロンAD(登録商標:Solvay Solexis社製)、サイトップ(登録商標:旭硝子社製))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第1の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。これらの例の中で、フッ素系樹脂は第1の鋳型からの離型性に優れるため好ましい。
【0051】
さらに、上記第2の鋳型に高分子を充填し、その後、該第2の鋳型から該高分子膜を離型することによって、気液分離膜を得ることができる。
【0052】
第2の鋳型に高分子を転写する方法としては、特に限定はされないが、光インプリント、熱インプリント、室温インプリント、ナノキャスティングインプリント等の方法を用いることができる。高分子としては、第2の鋳型に充填したときに、第2の鋳型の材料と接着又は融着等して問題が起こるものでなければ特に限定されないが、代表的なものとして、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等を挙げることができる。また、前記ポリマーのモノマーを第2の鋳型に充填後、UV等の光及び/又は熱で重合させてもよい。
【0053】
転写に使用する高分子の体積を第2の鋳型の突起から成る凹凸の空隙の体積より多く使用した場合は、気液分離膜の片側の細孔が余分の残膜で塞がれた状態となっているため、離型前又は離型後に、この残膜をエッチング処理することにより除去して貫通開孔薄膜とする必要がある。エッチング方法としては、プラズマ等を利用した高真空ドライエッチング、大気圧ドライエッチング、溶剤を用いたウェットエッチング等を挙げることができる。これらの中でも大気圧ドライエッチングは低コストでエッチング精度が高いため好ましい。
【0054】
以上の工程によって、気液分離膜を製造するプロセスの一例を図4に示す。
陽極酸化ポーラスアルミナ3から成る第1の鋳型の表面に、無電解メッキ又はスパッタリングによりNi−P、Au、Cr等から成る表面導電層を形成した後、Ni等の電解メッキにより第2の鋳型を形成する。第1の鋳型から第2の鋳型を剥離させるか、第1の鋳型を選択的に溶解除去することにより第2の鋳型を得る。次に、第2の鋳型に高分子、例えば、ポリスルホンを溶媒に溶解させた溶液を充填し、溶媒を乾燥させて高分子から成る薄膜を得る。この薄膜の余分に充填された高分子膜をプラズマエッチングで除去した後、第2の鋳型から剥離して気液分離膜を得る。該気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させることで、本発明の気液分離膜積層体を得ることができる。
【0055】
次に、上記第2の製造方法について、より詳細に説明する。
図3は、突起から成る凸部を有する第3の鋳型から、細孔から成る凹部を有する第1の鋳型を作製する方法を示す。
【0056】
上記第3の鋳型は、干渉露光法によって好適に作製することができる。まず、平滑な基板7(例えば研磨されたガラス原盤)上に、ポジ型フォトレジストを塗布する。ポジ型フォトレジストは半導体装置製造の技術分野において周知のレジストであり、フェノール性水酸基を有する樹脂と、光酸発生剤とを含む組成物である。この組成物は光照射前のアルカリ性現像液に対する溶解性は低いが、光照射によって酸が発生しアルカリ性現像液に対する溶解性が高くなる。この現像液に対する光照射部と光未照射部の溶解性の差異を利用してパターニングを行うことが可能となる。以下においては、上記光未照射部のことを硬化部、上記光照射部のことを未硬化部ともいう。
【0057】
次に、レーザー光を用いた干渉露光法(以下「レーザー干渉露光法」ともいう。)により露光を行い、微細なテーパー形状の突起から成る硬化部と残余の未硬化部を得る。露光後、現像を行い未硬化部を除去することによって、突起から成る凸部8を有する第3の鋳型9として得る。
【0058】
フォトレジストに形成された凸部8は、レーザー干渉露光法により、凸部の頂上部8aが細くなる一方、底部8bが太くなる、いわゆるテーパー形状となる。この現象は、レーザー光のパワー強度がフォトレジスト表面で強く、フォトレジストの中を進むに従って弱くなり、その結果、フォトレジスト表面で露光量が大きくなって頂上部8aが浸食され、フォトレジストの深さ方向へ進むに従って露光量が小さくなって深さ方向への浸食が弱くなり、底面部8bが広がるためであると考えられる。従ってフォトレジストの感光性の度合い(γ値)によってテーパーの角度を調整することができる。
【0059】
なお、レーザー干渉露光法とは、特定の波長のレーザー光を角度θ’の2つの方向から照射して形成される干渉縞を利用した露光法であり、角度θ’を変化させることで使用するレーザーの波長で制限される範囲内で色々なピッチを有する凹凸格子の構造を得ることができる。例えば、方向を120度ずつずらした3組の上記干渉縞を重ね合わせて露光することで、上記のテーパー形状の突起から成る凹凸パターンを形成することができる。
【0060】
干渉露光に使用できるレーザーとしては、TEM00モードのレーザーに限定される。TEM00モードのレーザー発振できる紫外光レーザーとしては、アルゴンレーザー(波長364nm、351nm、333nm)、又はYAGレーザーの4倍波(波長266nm)などが挙げられる。
【0061】
また、形成されたパターンのエッチングによってもテーパーの角度を変化させることが可能である。すなわち、高真空プラズマエッチングにおいて、エッチングの異方性を制御することによりテーパーの角度を変えることができる。
【0062】
一般的に入射する反応性イオンの平均自由行程を低圧力にして長くする程、垂直にガスが入射して異方性が大きくなるが、この場合、垂直方向に一様にエッチングされるためテーパーの角度の変化は小さい。逆に圧力を高めに設定することにより、横方向への反応性イオンの入射が増加して横方向にもエッチングされ、テーパーの角度が変化する。
【0063】
上記方法により作製した第3の鋳型に対して、図3(b)に示すように、表面導電層を形成した後Ni電鋳を行い、第1の鋳型を形成する。該第3の鋳型を除去すると凹凸が反転して転写された凹凸を有する第1の鋳型10が得られる(図3(c))。
【0064】
上記方法により作製した第1の鋳型を用いて、その孔に、金属、金属酸化物、高分子などの物質を充填した後、該第1の鋳型を除去することにより第2の鋳型を得ることができる。
【0065】
上記第2の製造方法で作製した第2の鋳型は、前記第1の製造方法で作製した第2の鋳型と同様に、高分子を充填し、該第2の鋳型から離型することによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状を有し、細孔径の孔径分布が非常に小さい気液分離膜を得ることができる。
【0066】
上記の製造方法によって、細孔ピッチが30〜1000nmであり、細孔径が10〜300nmであり、細孔深さが30nm〜1000nmであり、かつ細孔径の孔径分布が極めて狭いことを特徴とする気液分離膜を得ることができる。微細孔径の孔径分布が非常に小さいとは、孔径(孔の直径)の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下であること、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であることを言う。
【0067】
また、本発明の気液分離膜の気孔率は、特に限定されないが、通常25%以上95%以下、好ましくは、40%以上、更に好ましくは、50%以上、特に好ましくは60%以上である。25%以上であれば透水性に優れ、95%以下であれば気液分離膜として用いる十分な強度を確保できる。
【0068】
上記製造方法によって得られた気液分離膜はそのまま用いることも可能であるが、機械的強度を高めるために多孔性フィルム基材と積層して気液分離膜積層体として用いることが好ましい。多孔性フィルム基材としては、微多孔膜、不織布、相分離膜、延伸開口膜等を挙げることができる。
【0069】
多孔性フィルム基材の材質としては、ステンレス等の金属、シリカ、アルミナ、炭素等の無機物、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシ3フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、ポリ3フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テフロン(登録商標)AF、ハイフロンAD(登録商標)、サイトップ(登録商標))、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、並びにそれらの共重合体等に代表される有機物を挙げることができる。
【0070】
多孔性フィルム基材の孔径は、気液分離膜の細孔径より大きいものが好ましく、1〜100μmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性フィルム基材の厚みは10〜1000μmであることが強度と気孔率のバランス上好ましい。気液分離膜の多孔性フィルム基材への積層は、気液分離膜を金型から剥離しながら多孔性フィルム基材に重ね合わせていく方法が一般的であるが、残膜をエッチングすると気液分離膜が金型から離型し難くなる場合がある。この場合は積層した後に残膜をエッチングする必要がある。しかし単純な移し変えによる重ね合わせでは残膜は多孔性フィルム基材側になるので、後工程でエッチングができない問題がある。このような場合、一度別の基材に移し取って裏返しにしてから、多孔性フィルム基材に重ね合わせる必要がある。この別の基材は金型から剥がした薄膜を多孔性フィルム基材に貼り直す必要があるので弱粘着性であることが好ましい。
【0071】
気液分離膜及び多孔性フィルムは、単に重ね合わせて使用することも可能であるが、熱融着及び/又は接着剤による接着を行ってもよい。熱融着の場合、加熱により気液分離膜および/または多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる。このとき、多孔性フィルム基材を構成する材料の溶融温度が薄膜を構成する材料の溶融温度よりも低い方が、熱融着時に気液分離膜の細孔形状への影響が少ないので、より好ましい。熱融着の場合の加熱法としては、加熱板を当てること、熱風を当てること、及び赤外線又は高周波を照射すること等の方法が挙げられる。
【0072】
本発明の気液分離膜および気液分離膜積層体は、以下のような気液分離膜モジュールとすることで、気体を含む液体から気体を排出するために使用することができる。
【0073】
本発明の気液分離膜モジュールは、本発明の気液分離膜または本発明の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る。また、上記気液分離膜モジュールのガス排出口に、コック又は圧力調整用のバルブを設けることも好ましい。
【0074】
気液分離膜モジュールの容器の材料は、分離対象となる気体を含む液体に対する耐腐食性があるものであれば、特に限定はされない。
【0075】
このような気液分離膜モジュールの別の態様として、燃料電池が挙げられる。
本発明の燃料電池は、燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層又は膜と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に本発明の気液分離膜または本発明の気液分離膜積層体が形成されている燃料電池である。
【0076】
燃料極の材料はPt−Ru系触媒を担持させることができる導電性材料であれば特に限定されないが、カーボン粉末が好適に用いられる。燃料極の厚みは1〜1000μmが好ましい。また、酸化剤極の材料もPt系触媒を担持させることができる導電性材料であればよく、カーボン粉末が好適に用いられる。酸化剤極の厚みは1〜1000μmが好ましい。電解質層又は電解質膜の材料としては、パーフルオロスルホン酸膜やスルホン化された炭化水素系膜が挙げられる。電解質層の厚みは1〜1000μmが好ましい。外装材の材料は、絶縁性であり、かつ耐水性及び耐熱性に優れたものであれば特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート等を挙げることができる。外部リード端子の材料は、導電性の高いものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、ニッケル等が挙げられる。酸化剤ガス取り入れ口は、化学反応に十分なガス量が取り入れられる大きさを有する必要がある。酸化剤ガス取り入れ口の大きさは、可能な限り酸化剤極面全体に亘ることが好ましい。また、発生ガス排出孔の大きさは、ガス排出抵抗を小さくするために可能な限り燃料極面全体に亘ることが好ましい。
【実施例】
【0077】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明する。
[鋳型、及び膜の構造観察]
走査型電子顕微鏡による観察:作製した鋳型、気液分離膜、及び延伸開孔膜から任意の大きさに切り取った試料を導電性両面テープにより試料台に固定し、白金を3nm程度の厚みにスパッタリングして顕微鏡試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立株式会社製 S−3000N)を用い、加速電圧1.0kV、及び所定の倍率で試料の表面、及び断面を観察した。鋳型の凸部の径、鋳型及び膜の厚み、細孔径、細孔ピッチについて50箇所測定し、平均値を求めた。
原子間力顕微鏡による観察:作製した試料から任意の大きさに切り取った気液分離膜試料を両面テープにより試料台に固定し観察試料とした。原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製NanoScopeIII)を用い、Veeco社製のNCHVの探針を用いて所定の倍率で膜の表面形状を観察した。
【0078】
[膜厚]
多孔性フィルム基材および延伸開孔膜:膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130)を用いて測定した。異なる10点の箇所で測定し、平均値を求めた。
気液分離膜:走査型電子顕微鏡による気液分離膜の断面観察より膜厚を測定した。
【0079】
[気孔率]
走査型電子顕微鏡による膜の観察により、気液分離膜の測定範囲にある孔の体積を測定し、次式(2)によって気孔率を算出した。ここで、孔の体積は上面の直径がAであり、底面の直径がBであり、高さが膜の厚さに等しい円錐台形状と仮定して計算した。
気孔率(%)={(測定範囲内の孔の体積)/(測定範囲の膜の体積)}×100・・・(2)
【0080】
<実験例>
図5に示した構成を有する小型燃料電池を、以下に示す要領で作製した。
まず、カーボン粉末に液相法でPt−Ru系の触媒を担持させ、アルゴン−水素気流中で焼成して触媒の安定化を行った。
【0081】
次にこの触媒粉末に溶剤と固体高分子溶液をバインダーとして添加することによりペースト状にし、カーボンペーパー上に塗布して乾燥させて燃料極18側の触媒層を形成した。
【0082】
また、別にPt系触媒を担持したカーボン粉末を燃料極18側と同様のプロセスで作製し、酸化剤極16側の触媒層を形成した。
【0083】
以上のようにして作製した燃料極18と酸化剤極16を30mm×75mmにそれぞれ切断し、膜厚が200μmの電解質膜(パーフルオロスルホン酸膜)17を挟持した。
【0084】
これらを、135℃で15分間、100kg/cm2の圧力でプレスし一体化した。
次に燃料極端子12に10mmφの孔を開け、同サイズに切出した気液分離膜積層体をはめ込みエポキシ接着剤で固定した。
【0085】
次にこの起電部(燃料極18、電解質膜17、酸化剤極16の接合体)の燃料極18側に接する燃料保持層19(ポリオレフィンの多孔板)に予め燃料極端子12の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけ配置した。
【0086】
酸化剤極側にも予め酸化剤極端子11の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけ、さらに直径0.5μmの孔が多数設けられた酸化剤ガス拡散層15である多孔質テフロン(登録商標)シートを設置し、このようにして得た単位電池を予め燃料極端子12と酸化剤極端子11の形状(縦15mm、幅20mm)に穴をあけた薄膜外装フィルムを用い燃料極端子12と酸化剤極端子11に設けた穴がずれないように位置決めをした後、200℃で熱圧着封入した。
【0087】
<実施例1>
0.3Mシュウ酸を電解液として用い、化成電圧60Vで、純度99.99%のアルミニウム板に50秒間陽極酸化を行った。その後、2重量%リン酸30℃中に10分間浸漬し、孔径拡大処理を行った。この操作を5回繰り返し、縦横ともに200mmで、細孔ピッチ300nm、細孔径開口部0.2μm、孔の深さ0.3μmのテーパー形状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナから成る第1の鋳型を得た。
【0088】
次にこの第1の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行い、その上にニッケルの電気メッキを施した。金属メッキを鋳型から剥離することによって、ニッケルから成る第2の鋳型を得た。
【0089】
得られた第2の鋳型を、蒸留水中で十分に洗浄した。事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、第2の鋳型上に厚さ0.4μmの燃料電池用気液分離膜前駆体を形成した。燃料電池用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去した。
【0090】
多孔性フィルム基材として縦横ともに200mmのポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を用いて第2の鋳型上の薄膜と160℃(ポリスルホンの熱変形温度は約175℃、ポリプロピレンの融点は約160℃)で熱融着させることによって、第2の鋳型からの薄膜の剥離及び多孔性フィルム基材との積層を同時に行い、ポリプロピレン不織布上にポリスルホンから成る燃料電池用気液分離膜が積層された燃料電池用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0091】
この燃料電池用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.16μm、最大値0.23μm、平均値0.21μm、標準偏差0.03であった。膜厚は平均値0.25μmであった。
【0092】
<実施例2>
平滑に研磨された縦横ともに200mmのガラス板上にポジ型のフォトレジストを厚み300nmで塗布してフォトレジスト付基板を得た。TEM00モードのアルゴンレーザ(波長364nm)から出射される光をミラーで2分割して45度の角度で2方向から照射して重ね合わせることで干渉縞を形成させ、形成された干渉縞を120度間隔で3方向からフォトレジスト付基板に照射してフォトレジストを露光した。露光後、現像を行い、未硬化部を除去することによって、第3の鋳型を得た。
【0093】
この第3の鋳型の突起はピッチ260nmで、凸部の径は底部で250nm、頂部で120nmであり、高さは300nmであった。
【0094】
次に第3の鋳型の電鋳を行った。まず、ニッケルスパッタにより表面電極処理を行った。その上にニッケルの電気メッキを施し、金属メッキを第3の鋳型から剥離することによって、第3の鋳型の凹凸構造を反転して転写された第1の鋳型を得た。
【0095】
次に第二の電鋳の剥離のための処理として、第1の鋳型の表面を酸化処理して金属の酸化被膜を形成した。そして、電鋳として第1の鋳型の表面にニッケルメッキを施した。第1の鋳型から金属メッキを剥離して第2の鋳型を得ることができた。この第2の鋳型は第1の鋳型を原盤として作製されるため、壊れても補充が可能である。
【0096】
事前に調製したポリスルホン(帝人アモコ社製、UDEL−P3500)のN−メチルピロリドン溶液2wt%をこの第2の鋳型にスピンコートし、80℃で乾燥し、厚さ0.4μmの燃料電池用気液分離膜用薄膜前駆体を第2の鋳型上に得た。
【0097】
次に縦横ともに200mmに切出したフィックスフィルムHG−1(フジコピアン(株)社製)を張り合わせ、剥がすことにより燃料電池用気液分離膜前駆体を金型から離型した。
【0098】
多孔性フィルム基材としてポリプロピレン不織布(シンテックス(登録商標)MB MO18YY 三井化学株式会社製)を縦横ともに200mmに切出して金型から離型した燃料電池用気液分離膜前駆体と重ね合わせた。160℃で加熱して燃料電池用気液分離膜前駆体と多孔性フィルム基材とを熱融着させた後フィックスフィルムHG−1を剥離した。燃料電池用気液分離膜前駆体の表面にある残膜をプラズマエッチングにより厚さ0.15μm程度除去して燃料電池用気液分離膜積層体を得た。この積層体の厚みは157μmであった。
【0099】
この燃料電池用気液分離膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率48%、細孔径は50個測定して最小値0.18μm、最大値0.24μm、平均値0.21μm、標準偏差0.02であった。膜厚は平均値0.24μmであった。
【0100】
<比較例1>
ポリテトラフルオロエチレンの微粒100重量部と石油ナフサ22重量部を混合しTダイを備えた押出し機により押出して平膜を成型し、加熱乾燥後250℃で120%に一軸延伸して平膜を作製した。この平膜を360℃で15分焼成した。得られた平膜を電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡で解析したところ、空孔率40%、細孔径は50個測定して最小値0.02μm、最大値0.24μm、平均値0.14μm、標準偏差0.09であった。膜厚は平均値90μmであった。
【0101】
<実施例3>
実験例において実施例1で得られた燃料電池用気液分離膜積層体を用いて図5に示す小型燃料電池を作製し、その最大電流密度及び出力特性を調べた。
【0102】
小型燃料電池の外側に設けた燃料タンク20から燃料保持層19の毛管力を利用してメタノールと水の1:1(モル比)混合液を供給した。
【0103】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス側に設けた複数の酸化剤ガス取り入れ口14から自然拡散で供給した。得られた最大電流密度及び出力特性の結果を表1に示す。
【0104】
<実施例4>
燃料電池用気液分離膜に実施例2で得られたものを使用すること以外は実施例3と同様にして作製した小型燃料電池の最大電流密度及び出力特性を調べた。結果を表1に示す。
【0105】
<比較例2>
燃料電池用気液分離膜に比較例1で得られたものを使用すること以外は実施例3と同様にして作製した小型燃料電池の最大電流密度及び出力特性を調べた。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1から明らかなように、本発明の燃料電池用気液分離膜は電極で発生した炭酸ガスを効率良く外部に放出することができ、その結果高い電池出力が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の気液分離膜は気体を含む液体からの気体の排出、特に燃料電池の分野で好適に使用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 第1の製造方法による第2の鋳型
2 アルミニウム
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 気液分離膜
6 多孔性フィルム基材
7 基板
8 テーパー形状の突起から成る凸部
8a 凸部の頂上部
8b 凸部の底部
9 第2の製造方法による第3の鋳型
10 第2の製造方法による第1の鋳型
11 酸化剤極リード(第1のリード端子)
12 燃料極リード(第2のリード端子)
13 気液分離膜
14 酸化剤ガス取り入れ口
15 酸化剤ガス拡散層
16 酸化剤極
17 固体電解質層
18 燃料極
19 燃料保持層
20 燃料タンク
21 外装体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【請求項2】
細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の気液分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の気液分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該気液分離膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む気液分離膜積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の気液分離膜または請求項6に記載の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る気液分離膜モジュール。
【請求項9】
燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に請求項1に記載の気液分離膜または請求項6に記載の気液分離膜積層体が形成されている、燃料電池。
【請求項10】
請求項8に記載の気液分離モジュール内に収納された溶液中のガスを気液分離膜を通して外部空間に排出する工程を含むガス排出方法。
【請求項1】
細孔を有する気液分離膜であって、該細孔の細孔ピッチが30〜1000nmであり、該細孔の細孔径が10〜300nmであり、該気液分離膜の厚さが30〜1000nmであり、かつ該細孔の孔径分布における標準偏差が平均値の30%以下である、気液分離膜。
【請求項2】
細孔から成る凹部を有する第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の気液分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記細孔から成る凹部を有する第1の鋳型が、アルミニウム板を陽極酸化することにより作製される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
突起から成る凸部を有する第3の鋳型の凹凸を第1の鋳型に転写する工程、
該第1の鋳型の凹凸を第2の鋳型に転写する工程、及び
該第2の鋳型の凹凸を高分子から成る膜に転写する工程
を含む、請求項1に記載の気液分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記突起から成る凸部を有する第3の鋳型が、基板上に積層されたフォトレジスト層を干渉露光して現像することにより作製される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層させて成る気液分離膜積層体。
【請求項7】
請求項1に記載の気液分離膜と多孔性フィルム基材とを積層する工程、及び
加熱により該気液分離膜および/または該多孔性フィルム基材を融かして両者を融着させる工程
を含む気液分離膜積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の気液分離膜または請求項6に記載の気液分離膜積層体によって覆われたガス排出孔を有する容器から成る気液分離膜モジュール。
【請求項9】
燃料極と、該燃料極に対向して配置されると共に酸化剤ガス取入れ口を有する酸化剤極と、該燃料極および該酸化剤極に挟持された電解質層と、該酸化剤ガス取り入れ口を露出させると共に該燃料極及び該酸化剤極を覆う外装材と、該外装材から露出し該酸化剤極と電気的に接続された第1の外部リード端子と、該外装材から露出していて該燃料極と電気的に接続され且つ発生ガス排出孔が形成された第2の外部リード端子とを有する燃料電池であって、該発生ガス排出孔に請求項1に記載の気液分離膜または請求項6に記載の気液分離膜積層体が形成されている、燃料電池。
【請求項10】
請求項8に記載の気液分離モジュール内に収納された溶液中のガスを気液分離膜を通して外部空間に排出する工程を含むガス排出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−212547(P2011−212547A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81700(P2010−81700)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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