説明

気相浄化体、気相浄化ユニット及び気相浄化方法

【課題】気相中のアルデヒド類及び、カルボン酸類を選択性良く、高効率で分解除去できる気相浄化体、該気相浄化体を含む気相浄化ユニット及び気相浄化方法を提供し、更には、長期保存した場合にも上記作用効果が得られ、このような作用を長期間維持しうる気相浄化体及び気相浄化ユニットを提供すること。
【解決手段】本発明の気相浄化体は、気相中の物質を補足して該補足した物質を酵素分解するものであって、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシターゼ、カルボン酸デヒドロゲナーゼ及びカルボン酸オキシダーゼから成る群より選ばれる1種又は2種以上のアルデヒド分解酵素及び/又はカルボン酸分解酵素と、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体と、水とを含み、該重合体に該酵素が分散した固化形態を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中のアルデヒド類及び/又はカルボン酸類を分解除去できる気相浄化体、気相浄化ユニット及び気相浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相中に存在する有害な有機物質を除去する材料として光触媒が幅広く利用されつつある。酸化チタンに代表される光触媒は、紫外光をあてると水や溶存酸素から活性酸素を生成し、これにより有機物質を分解する。しかしながら、光触媒の利用には光照射が必要であるという根本的な制限があることに加えて、光触媒を担持するマトリクス材料が劣化し易くなるため、無機物によるマトリクス形成が必要である等の成型方法が簡便でないという問題点がある。また、分解する有機物質の種類について選択性が無いという問題点もある。
【0003】
化学工学、食品加工、醸造、果汁工学、畜産業、化粧品、臨床診断等の様々な分野で利用されている酵素は、水溶液中で特定の物質(基質)を効率的に反応(分解)させる触媒として利用されている。一般に、このような酵素が特定の物質と反応する際には、酵素及び基質が、全て溶液中に溶解又は分散している必要があった。
しかし、最近では、ガスセンサーの分野において気相中の物質を酵素反応させる系が開発されている。例えば、特許文献1には、気相中のエタノールに対する選択性を有するガスセンサーとして、酵素を、アガロース、ゼラチン、ポリアクリルアミド、アルギネート等の親水性高分子と塩化カリウムとで構成されるマトリクスを用いて複合化し酵素複合体を形成する技術が開示されている。また、特許文献2には、気相中のエタノールに対する選択性を有するガスセンサーとして、酵素を、ヒドロキシエチルセルロースと炭素粉とで構成されるマトリクスで複合化し酵素複合体を形成する技術が開示されている。但し、これら酵素複合体では、微量の有機物の濃度を測定するためのセンサーを構築することは出来ても、室内の気相中の有害有機物を分解除去するような高効率の性能は発揮できない。
特許文献3〜5には、気相中のホルムアルデヒドの浄化方法として、ホルムアルデヒド分解酵素を空気清浄フィルターに利用する技術が開示されている。しかし、該技術情報にはそのような高効率の有害有機物分解除去システムを実用化する際に必須となる酵素の劣化や長期使用時の酵素の活性低下等を抑制する方法や抑制材料までは言及されていない。
【0004】
ところで、ホスホリルコリン類似基含有重合体は、生体膜に由来するリン脂質類似構造に起因して、タンパク質の吸着抑制、血液適合性、補体活性、生体物質非吸着性等の特性を有していることが明らかにされ、こうした機能を利用した生体関連材料の開発に利用されている。その中にはホスホリルコリン類似基含有重合体と酵素とを組合わせて利用する技術も開発されている。
例えば、特許文献6には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下MPCと略記する)を重合して得られた2−メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体(以下MPC含有重合体と略す)を化学的に修飾した酵素の製造方法と、これを用いたコンタクトレンズ洗浄液が開示されている。特許文献7には、MPC含有重合体を共存させる酵素の安定化方法が開示されており、特許文献8には、免疫学的活性物質である酵素修飾抗体を固定化した固相に、MPC含有重合体を吸着させた重合体吸着免疫学的活性物質固定化固相が開示させている。特許文献9には、MPC含有重合体を主要な材料とするハイドロゲル中に酵素を閉じ込め安定化する技術が開示されている。特許文献10には、MPC含有重合体と酵素を化学結合して得られる高分子/酵素複合体が開示されている。
【0005】
上述のように、MPC含有重合体と酵素とを組み合わせて利用する方法が従来提案されているが、いずれも酵素反応を水溶液中で生じさせる技術に関するものであり、気相に暴露した状態で高効率に酵素反応させる機能まで予見できる情報の開示はない。
【特許文献1】特開平7−77511号公報
【特許文献2】特開平7−198668号公報
【特許文献3】特開平6−303981号公報
【特許文献4】特開2001−340436号公報
【特許文献5】特開2004−222845号公報
【特許文献6】特開平9−327288号公報
【特許文献7】特開平10−45794号公報
【特許文献8】特開平10−114800号公報
【特許文献9】国際公開第00/02953号パンフレット
【特許文献10】特開2000−93169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、気相中のアルデヒド類及び/又はカルボン酸類を選択性良く、高効率で分解除去できる気相浄化体、該気相浄化体を含む気相浄化ユニット及び気相浄化方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、長期保存した場合にも気相中のアルデヒド類及び/又はカルボン酸類を選択性良く、高効率で分解除去でき、更にはこのような作用を長期間維持しうる気相浄化体及び気相浄化ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、気相中の物質を補足して該補足した物質を酵素分解する気相浄化体であって、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシターゼ、カルボン酸デヒドロゲナーゼ及びカルボン酸オキシダーゼから成る群より選ばれる1種又は2種以上のアルデヒド分解酵素及び/又はカルボン酸分解酵素と、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体と、水とを含み、該重合体に該酵素が分散した固化形態を有する気相浄化体が提供される。
また本発明によれば、上記気相浄化体を、気相と接するように基体に設けた気相浄化ユニットが提供される。
更に本発明によれば、上記気相浄化ユニットを気相と接触させることを特徴とする気相浄化方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気相浄化体、気相浄化ユニット及び気相浄化方法は、上記構成を具備するので、気相中のアルデヒド類及び/又はカルボン酸類を選択性良く、高効率で分解除去でき、空気等の気相を浄化することができる。
また、本発明の気相浄化体における、酵素、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体及び水の割合を制御したり、特定の添加物を含有させたりすることにより、長期保存した場合にも上記効果が得られ、更には上記効果を長期維持することが可能となる。
更に本発明の気相浄化体及び気相浄化ユニットは、用いる2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の種類や分子量等を制御することにより、上記効果を向上させることができる他、気相浄化体及び気相浄化ユニットの耐久性を向上させることができる。
従って、本発明の気相浄化体及び気相浄化ユニットは、防臭対策、シックハウス症候群予防、アレルギー予防、化学物質過敏症抑制等の機能を期待して目的とする環境下において有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の気相浄化体は、気相中の物質を補足して該補足した物質を酵素分解することで空気等の気相を浄化するものであって、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシターゼ、カルボン酸デヒドロゲナーゼ及びカルボン酸オキシダーゼから成る群より選ばれる1種又は2種以上のアルデヒド分解酵素及び/又はカルボン酸分解酵素と、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体と、水とを含む。
前記酵素分解させる気相中の物質は、含有させる酵素と反応可能な気相中の物質、基本的にはアルデヒド類及びカルボン酸類であれば特に限定されず、特にこれらに該当する有害な有機物質がその対象として挙げられる。このような気相中の物質としては、例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、トリクロルアセトアルデヒド(クロラール)、ベンズアルデヒド、オルソニトロベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、チオフェンアルデヒド、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、n−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン又はこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。これらの酵素と反応可能な気相中の物質の形態は、ガス状、霧状、微細なエアロゾル状のいずれであっても良い。
【0010】
本発明に利用できる酵素としては、上記気相中の物質を分解(反応)できる酵素であればいずれも使用可能であり、例えば、アルデヒド、カルボン酸、ケトンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質を基質とする酵素が好ましく挙げられる。このような酵素としては、例えば、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシターゼ、カルボン酸デヒドロゲナーゼ及びカルボン酸オキシダーゼから成る群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。特にアルデヒド分解酵素が最も有用である。
アルデヒド分解酵素としては、特異性等が明確である点から、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ホルムアルデヒドオキシダーゼ等が好ましく挙げられる。
【0011】
本発明に用いる2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体は、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる。
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、例えば、特開昭54−63025号公報、特開昭58−154591号公報等に示された公知の方法等に準じて製造することができる。
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体としては、本発明の所望の効果を向上させ、更に耐久性等を向上させるために、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他の単量体との共重合体が好ましい。中でも疎水性単量体と2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとを共重合して得られる共重合体が望ましく、更には水酸基含有単量体と疎水性単量体と2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの3元共重合体等が好ましい。これらの共重合体には、他の単量体が共重合されていても良い。
【0012】
疎水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が用いられる。
【0013】
前記共重合体を得るための他の単量体としては、疎水性単量体以外にも、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種又は2種以上が用いられる。中でも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールメタクリレート(以下、GLMと略す)等の水酸基含有(メタ)アクリレートを利用することが、複合フィルム中の酵素の劣化を抑制する点で最も望ましい。共重合体を構成する単量体の組合わせ例として、MPC−ブチルメタクリレート(以下、BMAと略す)−GLMの組合せは、気相中の物質を分解(反応)させる酵素活性の高さ及び酵素活性低下の抑制の点で最も好ましく挙げられる。
【0014】
前記共重合体において、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの構成単位は、通常20〜95質量%、望ましくは30〜70質量%である。該構成単位の割合が20質量%未満では酵素の反応効率を十分に維持することが困難になる恐れがあり、95質量%より多いと共重合する他の単量体の機能を十分に発揮させることが困難になる恐れがある。
前記3元共重合体を構成する各単量体の組成は、通常MPC等の2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン20〜90質量%、GLM等の水酸基含有単量体5〜70質量%、アルキルメタクリレート等の疎水性単量体5〜60質量%の範囲であり、望ましくは2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン40〜80質量%、水酸基含有単量体10〜50質量%、疎水性単量体10〜50質量%の範囲である。
【0015】
本発明に使用する2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の分子量は、重量平均分子量で通常5000〜5000000の範囲であり、形態をフィルムとする場合の形成性の観点からは50000〜1000000の範囲が好ましく、更に気相浄化力の点からは70000〜600000の範囲が好ましい。
【0016】
本発明の気相浄化体において、前記2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体、酵素及び水は、所望の効果をより改善するために、特定割合で含有されていることが好ましい。
前記2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の含有割合は、本発明の気相浄化体全量基準で、通常30〜98質量%、好ましくは50〜95質量%である。98質量%より多いと高い酵素活性を発揮させることが困難になる恐れがあり、30質量%未満では酵素活性を長期間にわたって維持することが困難になる恐れがある。
前記酵素の含有割合は、本発明の気相浄化体全量基準で、通常0.0001〜5質量%、好ましくは0.001〜0.5質量%である。0.0001質量%未満では、気相中の物質を十分除去することが困難になる恐れがあり、5質量%より多いと反応に関与しない酵素の割合が増加し、酵素量あたりの反応率の観点から効率低下が生じる恐れがある。
前記水の含有割合は、本発明の気相浄化体全量基準で、通常1.9999〜20質量%、好ましくは5〜15質量%である。該水は、本発明の気相浄化体の使用時にこのような含有割合であることが好ましい。水の含有割合が1.9999質量%未満では酵素反応の効率が低下する恐れがあり、20質量%より高いと長期保存の際に酵素の劣化が生じ易くなる恐れがあると共に、気相浄化体自体の力学的強度が極端に低下する恐れがある。
【0017】
本発明の気相浄化体において、前記好ましい水の含有割合の調整は、使用環境下における気相浄化体の自発的な吸湿性を利用して調整することができる他、使用環境においては、使用時或いは使用中に気相浄化体に断続的又は連続的に適量の水分を噴霧する方法等によって水を供給して好ましい水分量を調整することもできる。
前記使用環境下における気相浄化体の自発的な吸湿性を利用して水分量を調整するには、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体が、MPCと炭素数nが1〜22までのアルキル基のメタクリレート(以下、CnMAと略す)との共重合体である場合、使用環境の相対湿度、温度に対して、MPC−CnMA重合体中のMPCの質量比率を表1に示すデータを目安に制御することで、気相浄化体中の前記好ましい水の含有割合を調整することができる。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明の気相浄化体において、前記好ましい水の含有割合の調整は、前記2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体におけるホスホリルコリン類似基が本来有する吸湿性を直接利用して制御する方法に加えて、気相浄化体中に吸湿性を調整しうる添加剤を含有させる方法によっても行なうことができる。
本発明の気相浄化体に含有させることが可能な前記吸湿性を調整しうる添加剤としては、例えば、糖類、多価アルコール類、ポリアルキレングリコール類及びアミノ酸類の少なくとも1種が好ましく挙げられる。具体的には例えば、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、キシリトール、トレハロース、オリゴ糖、セルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸等の糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体等のポリアルキレングリコール類;アスパラギン酸、アルギニン等のアミノ酸類等が挙げられる。これらの中でも吸湿性を付与することに加えて、酵素の劣化抑制効果を併せ持つ点で、上記具体的に挙げた糖類の少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0020】
前記吸湿性を調整しうる添加剤を含有させる場合の含有割合は、気相浄化体全量基準で、通常1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。1質量%未満では、所望する吸湿性の調整効果が小さすぎ、50質量%より多いと、含有される2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の効果を損なう恐れがある。
【0021】
本発明の気相浄化体には、前記吸湿性を調整しうる添加剤以外にも必要に応じて、酵素活性を損なわない範囲で他の添加剤を含有させることができる。他の添加剤としては、例えば、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、防腐剤、色素、架橋剤、紫外線吸収剤、基材との密着性を高めるためのプライマー等が挙げられる。
これら他の添加剤の含有割合は、その所望の効果を達成し、且つ本発明の所望の効果を損なわない範囲で適宜決定することができる。
【0022】
本発明の気相浄化体の形態は、前記2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体に前記酵素が分散した固化形態である。固化形態は、流動性がなければゲル状であっても良いが、気相浄化体の機械的強度等を考慮する場合には、ある程度の硬度を有することが好ましい。また、前記酵素の分散状態は、前記重合体中に埋入した状態で分散していても、また、一部が露出して分散していても良い。
本発明の気相浄化体の具体的な形態としては、フィルムであることが好ましく、その厚さは通常0.01〜5000μm、好ましくは0.1〜100μmである。厚さが0.01μm未満の場合には、前記酵素がフィルム内部よりも外部に露出する割合が多くなり、前記酵素の安定性が低下する恐れがあり、5000μmより厚いと前記酵素と反応する気相中の特定の物質と前記酵素とが十分な接触が得られ難くなり酵素反応性が低下する恐れがある。
【0023】
本発明の気相浄化体を製造するには、例えば、前記2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の希釈液中に、前記酵素又は酵素溶液、更に必要に応じて各種添加剤を混合して得られる混合液を、適当な基体に流延して溶媒を蒸発させてフィルム状等に形成する、溶媒キャスト法、連続的に基体をスライドさせながら一定量の前記混合液を塗布し溶媒を乾燥させていく連続コーティング法、前記混合液をスプレー等で適当な基体に噴霧して乾燥させる方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の気相浄化体を製造する際に用いる前記重合体の希釈液や前記酵素溶液等を調製するための溶媒としては、例えば、水;酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッドの緩衝液等の各種緩衝溶液;エタノール、メタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の各種有機溶媒の単独液あるいは混合液を用いることができる。アルコールと反応する酵素を溶解する溶媒としては、酵素が不可逆的な変性を起こさない水又は緩衝溶液が好ましい。前記重合体を希釈する溶媒としては、乾固し易い水又は、水とエタノールとの混合溶媒が好ましい。
【0025】
本発明の気相浄化体を製造する際に用いる前記重合体及び酵素等を含む前記混合液中の前記重合体濃度は、気相浄化体を例えばフィルムに容易に調製できる濃度であれば良く、通常0.1〜50質量%の範囲である。前記重合体濃度が0.1質量%未満では、製造効率が低下する恐れがあり、50質量%を超えると前記混合液の粘度が上昇し気相浄化体形成時のハンドリング性が低下する恐れが生じる。
【0026】
本発明の気相浄化体を製造するにあたり、前記混合液を塗布等するための基体の材質としては、金属類、セラミックス、木製、プラスチック、ガラス、紙等が挙げられ、その形態としては、板、曲面を有する基体、繊維、不織布、多孔質体等が挙げられる。
本発明の気相浄化体を製造するにあたり、前記溶媒の乾燥工程は、前記重合体を含むので酵素の劣化を抑制して行なうことが可能であるが、製造工程中、酵素が最も劣化し易い工程であるので注意して行うことが好ましい。具体的には、溶媒の乾燥温度を通常10〜70℃の範囲、望ましくは20〜50℃の範囲で実施する。乾燥温度が10℃未満では、乾燥効率が低下する恐れがあり、70℃より高温では前記重合体による酵素劣化抑制効果が低下し、酵素が劣化する恐れがある。
前記基体に形成した本発明の気相浄化体は、そのまま後述する本発明の気相浄化ユニットとして用いることができる他、例えば、フィルム形態等の場合であって、十分な厚みと強度がある場合には、基体から剥がして自己支持性のフィルムとして利用することができる。
【0027】
本発明の気相浄化ユニットは、上述の本発明の気相浄化体を、空気等の気相に接するように基体に設けたものである。
基体としては、上述の基体、更にはこのような基体を含む建材、家具、衣類、エアコン機器、エアフィルター、冷蔵庫、自動車等を挙げることができる。
【0028】
本発明の気相浄化方法は、前記本発明の気相浄化ユニットを空気等の気相と接触させることを特徴とする。
前記気相浄化ユニットを気相に接触させる方法としては、気相浄化ユニットの気相浄化体を、浄化すべき気相に暴露させる方法、また、例えば繊維質や多孔質等の微小な空間に気相浄化体が形成された気相浄化ユニットの場合には、浄化すべき気相をファン等で流れを作り、該微小な空間の気相浄化体に接触するように気相を送り込む方法等により接触させることができる。
【0029】
本発明の気相浄化方法においては、前記気相浄化ユニットの気相浄化体表面に、酵素と反応可能な気相中の物質が吸着し、該表面に存在する酵素に結合、若しくは気相浄化体内部の酵素まで吸着された物質が移動して結合して、酵素反応が進行することにより、該物質が分解浄化される。
【実施例】
【0030】
以下、合成例、実施例に基づいて、本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらの例に限定されない。
合成例1
MPC50.0gをエタノール100gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後に、60℃でアゾビスブチロニトリル(以下、AIBNと略記する)0.24gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末39.8gを得た。なお、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定条件は20mMリン酸緩衝液(pH7.4)を溶離液とし、ポリエチレングリコールを標準物質とし、屈折率により検出した。結果を表2に示す。尚、得られたMPCホモポリマーを(P−1)と略記する。
【0031】
合成例2
MPC50.0gをエタノール100gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後に、60℃でAIBN 0.36gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末28.6gを得た。分子量を合成例1と同様に測定した。結果を表2に示す。尚、得られたMPCホモポリマーを(P−2)と略記する。
【0032】
合成例3
MPC36.0g、ブチルメタクリレート(BMA)4.0gをエタノール160gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後に、60℃でAIBN0.82gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末33.4gを得た。分子量を合成例1と同様に測定した。結果を表2に示す。尚、得られたMPC/BMAポリマーを(P−3)と略記する。
【0033】
合成例4〜23
合成例3の(P−3)の合成に準じて、表2に示す単量体の種類、組成比を変更し、合成例3と同様の操作により、各ポリマーを調製した。得られたポリマーを合成例の番号に合わせてそれぞれ(P−4)〜(P−23)と略記する。また、得られたポリマーの組成比(質量比)及び重量平均分子量を表2に示す。
尚、表2中、MACはメタクリル酸、EMAはエチルメタクリレート、HEMAは2−ヒドロキシエチルメタクリレート、C12MAはラウリルメタクリレート、C18MAはステアリルマタクリレート、QMAは2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドをそれぞれ示す。
【0034】
【表2】

【0035】
比較例に使用したポリマー(C−1〜C−10)
表3に示す7種類の市販のポリマーを後述する比較例に利用した。これらのポリマーを(C−1)〜(C−10)と略記する。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1
ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ(東洋紡社製)を100mg取り、1mMリン酸緩衝液で1mLに希釈しホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ溶液(以下、HD溶液と略記する)を調製した。合成例2で合成した(P−2)0.5gを1mMリン酸緩衝液で10mLに希釈し、24時間振とうして溶解させ、ポリマー原液を得た。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)(和光純薬工業製)60mgを取り、1mMリン酸緩衝液で10mLに希釈しNAD溶液を調製した。
HD溶液0.1mLとポリマー溶液2.9mLとNAD溶液1.0mLとをポリプロピレン製試験管で攪拌した後に、直径90mmのガラスのペトリディッシュに添加した。ペトリディッシュを28〜32℃、相対湿度30%以下で空気循環のある環境下に静置して24時間乾燥した後、相対湿度60%の恒温恒湿器中に移し24時間静置して、フィルム状の気相浄化体を調製した。得られた気相浄化体について以下の測定を行った。結果をそれぞれ表4に示す。
【0038】
<ホルムアルデヒド分解試験>
調製した気相浄化体を、上部にコック付きのガラスデシケーター(容量10L)に導入し、コックよりガラスデシケーターの気相中にホルムアルデヒド液(37%)5μLを、ガラスデシケーター内の予め熱したビーカに滴下した。ホルムアルデヒド液滴下直後及び、25℃で24時間放置後、デシケーター内のホルムアルデヒド濃度をガス検知管(ガステック社製)を用いて測定した。
<含水率測定>
ホルムアルデヒド分解試験の終了後、気相浄化体を取り出し、重量(A)を測定した後、110℃で4時間乾燥し、乾燥重量(B)を測定し、その重量差(A)−(B)を水分含有量とし、全重量における水分含有率を下記のように算出した。
水分含有率=[(A)−(B)]/(A)×100(%)
【0039】
実施例2〜23
合成例2で合成した(P−2)の代わりに、合成例1及び合成例3〜23で合成した(P−1)及び(P−3)〜(P−23)を用いた以外は、実施例1と同様に気相浄化体を調製し、各測定を行った。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
比較例1
実施例1の実験において、(P−2)を用いなかった以外は実施例1と同様に試験を行い、ホルムアルデヒドの残存率を実施例1に準じて評価した。結果を表5に示す。
【0042】
比較例2〜11
(P−2)の代わりに、表3に示す(C−1)〜(C−10)を用いた以外は、実施例1と同様に気相浄化体を調製し、各測定を行った。結果を表5に示す。
【0043】
実施例24〜27
実施例7、8、12、15と同様の試験において、気相浄化体を作製する際に、24時間乾燥する代わりに同様の方法で20時間乾燥後、4時間真空乾燥を行い、水分含有率を低下させた気相浄化体を調製し、各測定を行った。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例28〜48
実施例1、3〜14、16〜23で用いたフィルム状の気相浄化体を取り出し、改めて、上部にコック付きのガラスデシケーター(容量10L)に導入し、コックよりガラスデシケーターの気相中にホルムアルデヒド液(37%)5μLを、ガラスデシケーター内の予め熱したビーカに滴下した。ホルムアルデヒド液滴下直後及び、25℃で24時間放置後、デシケーター内のホルムアルデヒド濃度をガス検知管(ガステック社製)を用いて測定した。結果を表6に示す。
【0046】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中の物質を補足して該補足した物質を酵素分解する気相浄化体であって、
アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシターゼ、カルボン酸デヒドロゲナーゼ及びカルボン酸オキシダーゼから成る群より選ばれる1種又は2種以上のアルデヒド分解酵素及び/又はカルボン酸分解酵素と、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体と、水とを含み、該重合体に該酵素が分散した固化形態を有する気相浄化体。
【請求項2】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の重量平均分子量が70000〜600000である請求項1記載の気相浄化体。
【請求項3】
酵素の含有割合が0.0001〜5質量%、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体の含有割合が30〜98質量%及び水の含有割合が1.9999〜20質量%である請求項1又は2記載の気相浄化体。
【請求項4】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン含有重合体が、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとグリセロールモノ(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの3元共重合体である請求項1〜3のいずれか1項記載の気相浄化体。
【請求項5】
形態が厚さ0.01〜5000μmのフィルムである請求項1〜4のいずれか1項記載の気相浄化体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の気相浄化体を、気相と接するように基体に設けた気相浄化ユニット。
【請求項7】
請求項6記載の気相浄化ユニットを気相と接触させることを特徴とする気相浄化方法。


【公開番号】特開2007−54516(P2007−54516A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246200(P2005−246200)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(505361521)
【出願人】(502150557)
【Fターム(参考)】