説明

気相潤滑方法用のディフューザー/シャッターの構造

【課題】気相潤滑方法用の装置を提供すること。
【解決手段】チャンバー、配列した開口部を有するディフューザープレート、ディフューザープレートの開口部とほぼ同じパターンの開口部を有するシャッタープレート、チャンバー内で被気相コーティング目的物を保持するホルダー、及びシャッタープレートを動かしてシャッタープレートの配列した開口部をディフューザープレートの配列した開口部に合わせるか、またはシャッタープレートでディフューザープレートの配列した開口部を少なくとも部分的に塞ぐアクチュエータを含む気相潤滑用装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
磁化可能な媒体を有する磁気ディスクは、ほとんど全てのコンピュータシステムのデータ記憶用に用いられている。現在の磁気ハードディスクドライブは、ディスク表面のほんの数ナノメートル上にある読み書きヘッドを使用して、かなり高速、概して1秒あたり数メートルで動作する。動作の際、読み書きヘッドはディスクに接触し得るため、摩耗及び摩擦を低減するためにディスク表面に潤滑剤の層がコーティングされる。
【背景技術】
【0002】
図1はディスク記録媒体、及び水平方向と垂直方向との記録の違いを示すディスクの断面を示す。図1は非磁性ディスクの一側面を示すが、磁気記録層は、図1の非磁性アルミニウム基板の両面にスパッタリング蒸着される。また、図1はアルミニウム基板を示すが、他の実施態様はガラス、ガラス−セラミック、NiP/アルミニウム、金属合金、プラスチック/ポリマー材料、セラミック、ガラス−ポリマー、複合材料、または他の非磁性材料で作られている基板を含む。
【0003】
一般に、潤滑剤は、潤滑剤を含む槽にディスクを浸漬することによって、ディスク表面に適用される。槽は概して潤滑剤と、通常、粘性オイルである潤滑剤のコーティング特性を改良するコーティング溶媒とを含む。ディスクは槽から取り外され、そしてディスクの表面に潤滑剤の層を残すように、溶媒が蒸発させられる。
【0004】
ハードディスク上の潤滑膜は、カーボン保護膜の摩耗を防ぐことによって、下地の磁性合金の保護を提供する。加えて、潤滑膜は保護膜と組み合わせて機能して下地の磁性合金の腐食防止効果を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気相潤滑方法では、所定の温度に潤滑剤を加熱することで潤滑剤蒸気が真空中で発生され、次いで潤滑剤蒸気が、カーボン保護膜を有するディスク上に凝結される。堆積速度は液体潤滑剤のヒーター温度によって制御される。従来のディップ−コート潤滑方法と比較すると、潤滑剤の蒸発による気相潤滑は、例えば無溶媒方法であること、ディップ潤滑方法に関連した潤滑剤の特徴を伴わずに均一な潤滑剤厚みが得られる等のようないくつかの利点を有する。しかしながら、現在の気相潤滑方法には1つの欠点がある。現在の設計では、潤滑剤の容器が、潤滑剤を蒸発させるために加熱されている。潤滑剤の蒸気は、ディスクがない場合以外もディフューザープレートを通して絶え間なく拡散される。待機時間及び移送時間よりも全体の潤滑剤の堆積時間が短いので、多くの潤滑剤がディスクに堆積されない。そのために、潤滑剤の使用量が、従来のディップ−潤滑方法と比べて非常に多量となる。本発明は、磁気記録媒体への潤滑剤の堆積のための従来の気相潤滑装置における上述の問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ディフューザープレートでシャッターを用いて記憶媒体上に潤滑膜を堆積するための方法及び装置に関する。シャッターは好ましくはディスクが存在するときだけ開くだろう。本発明の実施態様は、チャンバー、配列した開口部(開口部のアレイ)を有するディフューザープレート、シャッター、及びディフューザープレートの開口部を開閉するためにシャッターを動かすアクチュエータを含む磁気記録媒体の気相潤滑用の装置に関する。これらの及び様々な他の特徴と利点とが以下の詳細な説明を読むことから明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明は、添付図面とともに発明を実施するための形態を参照することでより良く理解されるだろう。
【図1】磁気記録媒体を示す。
【図2】磁気記録媒体を製造するためのインライン工程を示す。
【図3】(a)は、ディフューザープレートが円形に配列した開口部を有するディフューザー/シャッター構造を用いて記憶媒体上に潤滑膜を堆積するための装置の模式図であり、(b)は、ディフューザープレートが長方形に配列した開口部を有するディフューザー/シャッター構造を用いて記憶媒体上に潤滑膜を堆積するための装置の模式図を示す。
【図4】シャッター閉(上図)、及びシャッター開(下図)の時の気相潤滑方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ディフューザー/シャッター構造を用いて記憶媒体上に潤滑膜を堆積するための設備及び方法に関し、それによって潤滑剤の浪費を抑制する効果的な気相潤滑装置を作り出すものである。
【0009】
本発明は基板、特に記録媒体(記録ディスク)を、本明細書では「潤滑剤(lube)」とも言う潤滑剤(lubricant)でコーティングする方法を対象とする。潤滑剤は概して数百ダルトン〜数千ダルトンの範囲の分子量の成分を含む。
【0010】
媒体の耐腐食性を改良するための方法の一つは気相潤滑方法であり、カーボン保護膜が堆積された直後に、真空状態の下、潤滑剤が媒体上に堆積される。この方法は、媒体が大気環境に露出される前に潤滑剤によって保護される場合、腐食が遅れるという考えに基づく。気相潤滑方法は、媒体上にパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤を蒸着することを含む。この方法では、PFPE潤滑剤が高温で蒸発することによって潤滑剤が気化する。本発明の過程において、本発明者らは熱蒸発工程に関連したいくつかの問題を認識した。
【0011】
第1に、熱蒸発は潤滑剤の分子量に依存する。より小さい分子量の潤滑剤分子は、より高い蒸気圧を有し、そしてより大きい分子量の潤滑剤よりも早く蒸発する。蒸発速度のこの違いは、工程所要時間にわたって媒体上に堆積する潤滑剤の潤滑剤分子量の連続的なドリフトを引き起こす。さらに、一定の堆積速度を維持することが難しいということが分かり、そして蒸発温度が処理時間とともに連続的に増加されなければならなかった。加えて、潤滑剤槽が高温で維持されたため、一定期間にわたって潤滑剤の熱劣化が発生し得た。
【0012】
第2に、複数成分潤滑剤系の熱蒸発潤滑が難しいことが分かった。最近、例えばビス(4−フルオロフェノキシ)−テトラキス(3−トリフルオロメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン(X1P)のような潤滑剤の添加剤が、膜媒体のトライボロジー性能を改良するために広く用いられる。そのような複数成分系は、潤滑剤及び添加剤を続けて堆積するために複数の気相潤滑ステーションを必要とするだろう。さらに、それぞれの成分の層厚みを制御することが困難であった。
【0013】
磁気記録媒体を製造するためのインライン工程を図2に模式的に示す。媒体基板は、ヒーターから下部シード層の堆積ステーションに続けて送られ、そして下部シード層が媒体基板上に形成される。次いで、媒体基板がシード層、概してNiAlを堆積するためのシード層ステーションに送られる。下部シード層及びシード層の堆積後に、媒体基板が、下地層が堆積される下地層堆積ステーションを通される。次いで、媒体が磁性層堆積ステーション、次いで保護用のカーボン保護膜(オーバーコート)堆積ステーションに移される。最後に媒体が潤滑剤層堆積ステーションを通される。
【0014】
ディスク媒体のほとんど全ての製造は、雰囲気中のほこりの量が非常に少なく保たれているクリーンルームで行われ、そして厳しく制御され監視されている。非磁性基板の1以上の洗浄工程の後、基板が超清浄表面を有し、そして基板上に磁性媒体層を堆積するための準備が整う。そのような媒体に必要な全ての層を堆積するための装置は、静止式スパッタシステムまたは通過式システムであってもよく、そこでは潤滑剤を除く全ての層が、好適な真空環境の内部で続けて堆積される。
【0015】
本発明の磁気記録媒体を構成するそれぞれの層は、カーボン保護膜及び潤滑剤のトップコート層を除いて、任意の好適な物理気相成長法(PVD)、例えばスパッタによって、またはPVD法の組み合わせ、すなわちスパッタ、真空蒸着など、好ましくはスパッタによって堆積されてもよく、または別の方法で形成されてもよい。カーボン保護膜は概してスパッタまたはイオンビームデポジションで堆積される。潤滑剤層は概して、潤滑剤化合物の溶液を含む槽に媒体をディップすることによってトップコートとして提供され、その後に過剰な液体が拭き取られるようにして、または真空環境中の気相潤滑堆積方法によって除去される。
【0016】
スパッタはおそらく、記録媒体を作り出す全行程の中で最も重要なステップである。2つのタイプのスパッタ:通過式スパッタ及び静止式スパッタがある。通過式スパッタでは、ディスクが真空チャンバーの内部を通過するが、そこではディスクが動きながらその基板上に磁性及び非磁性材料が1以上の層として堆積される。静止式スパッタはより小さい機械を用い、そしてそれぞれのディスクが選ばれて、ディスクが動いていない時に個々に堆積される。本発明の実施態様のディスク上の層は、スパッタリング装置で静止式スパッタによって堆積された。
【0017】
スパッタ層は、スパッタリング装置に搭載されている、ボム(bombs)と呼ばれるものの中で堆積される。ボムは両側にターゲットを有する真空チャンバーである。基板がボムの中に持ち上げられ、そしてスパッタ材料で堆積される。
【0018】
潤滑剤の層は好ましくは、ディスク上のトップコート層の1つとして、カーボン表面に適用される。
【0019】
スパッタリングはスパッタの後のディスクにおいていくらかの微粒子の形成をもたらす。これらの微粒子は、ヘッドと基板との間にひっかき傷をもたらさないことを確保するために除去される必要がある。潤滑剤層が適用されるとすぐに、基板はバフ研磨ステージに移り、そこではスピンドルを選択的に回転させる間に基板が研磨される。ディスクが拭かれて、そしてきれいな潤滑剤が均一に表面上に適用される。
【0020】
続いて、いくつかの場合に、ディスクが準備され、そして3ステージのプロセスを通して品質検査を受ける。第1に、バーニッシュヘッドがディスク表面を横切っていずれの段差(技術用語として言えば凹凸)も除去する。次いで、グライドヘッドが、残った段差があればチェックしながらディスク上を通り過ぎる。最後に、サーティファイヘッドが製造欠陥について表面をチェックして、そしてまたディスクの磁気記録性能も測定する。
【0021】
本発明は、薄膜媒体上への潤滑剤及び潤滑剤の添加剤の蒸着を含む。潤滑剤及び例えばX−1pのような潤滑剤の添加剤を含む潤滑剤溶液が加熱されて蒸発するか、または概して真空下で、加工チャンバー内にノズルを通して直径数マイクロメートルまたはサブマイクロメートル程度の小さな超微粒の飛沫に噴霧される。任意には、媒体及び真空チャンバーの間にバッフルがあってもよく、またはそのようなバッフルが真空チャンバーに導入されることができる。
【0022】
本発明のノズル噴霧を用いた堆積工程では、例えばVertrel Xfのような飛沫内の低沸点の潤滑剤溶媒は、真空下で急速に蒸発する。潤滑剤溶媒の速い蒸発は飛沫を素早く分解して、このように加工チャンバー内で完全にPFPE潤滑剤を蒸発または噴霧する。媒体表面上への潤滑剤及び潤滑剤の添加剤のほぼ均一な堆積がその後に達成できる。「噴霧」なる語は液体を気体中に浮遊した飛沫に分解することをいう。「ほぼ均一」なる記載は、潤滑剤でコーティングされた目的物の一点から同じ目的物の他の点の潤滑剤の濃度のばらつきが10パーセント未満であることを意味する。
【0023】
潤滑剤は噴霧後にその蒸気圧に到達する。基板上での潤滑剤分子の衝突割合、Sは、S=P/2πmkTの関係にあり、そこではP及びmはそれぞれPFPE潤滑剤の蒸気圧及び分子量である。分子量2000amuのZdolPFPEは、その蒸気圧が20℃で約2×10-5トールである。媒体表面上に10Åの潤滑膜を堆積するために約0.32秒を要する。したがって、磁気記録媒体上への潤滑剤及び添加剤の堆積は、5秒以内、さらに好ましくは1秒以内で、媒体基板を潤滑剤及び添加剤の蒸気にさらして、完了し得る。
【0024】
他方では、磁気記録媒体を堆積チャンバーに挿入またはそこから取り除くために待機時間が数秒になり得る。それゆえに、ディフューザープレートが一定に開いて保持されている場合、潤滑剤の浪費が非常に大きくなるだろう。
【0025】
さらに潤滑剤堆積チャンバーが好ましい実施態様である「真空チャンバー」と言われることが多くても、潤滑剤堆積チャンバーが必ずしも真空下である必要はない。潤滑剤堆積チャンバー内の気体環境の圧力は、飛沫の少なくとも一部がチャンバーの気体環境に浮遊できるように、本発明の装置がノズルを入れて蒸気または液体の飛沫を生み出すようなものであるべきである。
【0026】
蒸気潤滑剤の噴霧が実行された場合は、噴霧蒸気潤滑工程の利点は以下のものである。加熱が必要ないので潤滑剤が経時で熱劣化することがない。ディスクに堆積される潤滑剤の組成物は溶液中のものとほぼ同一である。それゆえに、同じチャンバー内に同時に複数の組成物を堆積することができる。潤滑剤は室温で堆積されるので、潤滑剤槽の温度を制御する必要がない。堆積速度を制御するパラメータは真空圧であり、一定レベルに容易に設定され得る。概して、本発明の構造は、熱蒸発システムで直面する全ての問題に対処する。
【0027】
一変形例では、媒体は、噴霧チャンバー内で媒体が蒸気にさらされる前かその間に、紫外線で照射され得る。紫外線照射は、結合した潤滑剤厚みの増加を生じることができる。本発明者らは、紫外線照射後にカーボン表面のC−O及びC=O結合の量が増加し、それは紫外線照射工程の際に発生したオゾンがカーボン表面と反応して例えばCOOH及びC−OHのような官能基を形成すること意味していることを発見した。したがって、潤滑剤に結合したカルボキシル及びヒドロキシル末端基間のカーボン表面への強い双極子間相互作用が形成される。
【0028】
本発明の実施態様は、金属及びカーボンのインライン系から分離したオフラインの真空系を含むことができ、そしてそれは好ましくは潤滑剤の連続した真空堆積を行い、その後に真空紫外線硬化を行い、それから排気及び取り外しを行い得るのみである。
【0029】
例えば、本発明の実施態様は、スパッタ系とは別の独立した気相潤滑系に関する。ハードディスクは最初に全ての金属層及びカーボン保護膜でコーティングされ、次いで常用のスパッタプロセスにおけるようにスパッタ機の真空から取り出される。スパッタ後のディスクは独立した気相潤滑系に取り付けられ、潤滑剤の薄膜でコーティングされる(ex−situの気相潤滑ともいわれる)。独立した気相潤滑系は事前の潤滑表面処理チャンバー(例えばスパッタエッチングまたは紫外線/オゾン洗浄)、気相潤滑チャンバー、及び潤滑工程後のチャンバー(例えば紫外線硬化)の任意の組み合わせからなることができる。一つの設定例を図3に示す。
【0030】
紫外線(UV)光は、媒体の潤滑剤及び媒体のカーボン保護膜の間の化学的相互作用を増加するために、ディスクドライブ産業で広く用いられている。これらの増加した相互作用は一般に、広く用いられるが化学的に不明確な産業用語「結合された潤滑剤」として記載される。この専門用語に基づいて、結合された潤滑剤の割合は、いくつかの標準化された溶媒洗浄工程後のカーボン保護膜上に残っている全潤滑膜の割合をいう。潤滑膜へのUV照射後に、結合された全潤滑剤の部分量は概して、ときどき著しく増加しているようにみられる。上記増加量は、例えばUV照射時間、ディスク表面におけるUV出力密度、UV波長、潤滑剤の種類及び初期厚み、並びに例えば温度及び酸素分圧のような環境条件への露出のような多くの要因に依存する。硬化工程の際にO2結合を切断してそして腐食性ガスのオゾンを作り出すのに十分に高エネルギーを有する紫外光子の能力の故に、酸素分圧は特に関連のあるパラメータであると考えられる。
【0031】
UV硬化は水銀放電ランプを用いて行われ得る。UV工程は紫外光子エネルギーに強く依存する。水銀放電UVランプの場合、6.7eVの光子エネルギーを有する185nmの有用な波長でその全出力のうちほんのわずか(<15%)のみを発生して、4.9eVの光子エネルギーを有する有用性の低い254nmの波長で上記出力の主な割合が消費される。
【0032】
キセノンエキシマUVランプは7.2eVの光子エネルギーを有する172nmの有用な波長でUV光を発生する。この高エネルギーで、172nmのUV光子が多くの化学結合を切断するために十分に高いエネルギーを有する。キセノンエキシマUVランプがいかに機能するかという記述に制限されるものではないが、電子によるキセノン原子(Xe)の励起が励起キセノン原子(Xe*)を形成すると考えられている。励起Xe*原子は三体衝突で反応して、172nmで照射するXe2*エキシマ錯体を形成する。このエキシマシステムは非常に高出力密度(>1MW/cm2)で動作されることができ、そしてエキシマが安定基底状態を有さないために自己吸収が起きにくい。
【0033】
媒体上への蒸着及び続いてのエキシマUVランプへの媒体の露出が、好ましくは同じチャンバー内で行われることができ、さらに好ましくは、蒸着及びエキシマUVランプのUV照射のステップ間で媒体を動かさない。
【0034】
本発明の実施態様では、潤滑剤の蒸着及びUV照射の両方のための同じチャンバーは、以下に示すものであることができる。堆積及びソースチャンバーは、減圧下で機能して、そして堆積工程を妨害せず、そして得られる製造物、例えばガラス、セラミック、または金属の所望の特性に悪影響を及ぼさない任意の材料で構成されることができる。真空源は堆積及びソースチャンバーを大気圧未満の圧力、例えば約760トール未満の圧力に減圧するために使用され得る。次いで、ソースチャンバー、すなわち堆積チャンバーに供給される潤滑剤の供給源であるチャンバー内の潤滑剤の温度が、堆積チャンバー内の磁気記録媒体の温度より上に高められ、その高められた温度はソースチャンバー内に蒸発した潤滑剤を発生して、蒸発した潤滑剤はソースチャンバーから堆積チャンバーに流れて磁気記録媒体の表面に凝結して潤滑剤のトップコートを形成する。ほぼ均一な厚みでほぼ完全に磁気記録媒体の表面を覆うトップコートを堆積するために十分な時間が経過した後、堆積チャンバーが大気に放出され得るか、または所望のガスが注入され得る。次いで、磁気記録媒体は同じ堆積チャンバー内でUV処理されることができ、そして最後に取り外される。
【0035】
本発明の実施態様に従って、堆積及びソースチャンバーはほぼ同時に、約100トール〜約10-10トールのほぼ同一の相対圧力に減圧されることができる。堆積およびソースチャンバーを所望の圧力に減圧した後、ソースチャンバーは堆積チャンバー及び常用のバルブを使用する真空源から分離されることができる。その後のソースチャンバー内の潤滑剤の加熱は、堆積チャンバー内の圧力に対してソースチャンバー内の圧力を増加させる。次いでバルブを開けることによって、ソースチャンバー内の潤滑剤蒸気がソースチャンバーから堆積チャンバーに流れるだろう。堆積チャンバーがより低い温度及び圧力なので、ソースチャンバーからの加熱された潤滑剤は、堆積チャンバー内の磁気記録媒体上に堆積する。バルブは、潤滑剤のトップコートを所望の均一厚みに堆積するために十分な時間、開けられる。その後、バルブが閉じられ、堆積チャンバーが開放され、磁気記録媒体が取り除かれ、そして上記方法のステップが繰り返される。
【0036】
本発明の実施態様では、真空源は、他のバルブを使用する装置から分離されることができ、上記他のバルブは真空源及び上記装置の間に位置する。そのようなバルブを閉じることで、堆積チャンバー内で磁気記録媒体を潤滑剤蒸気にさらす前に、真空源が堆積チャンバーから分離されることができる。実施上の配慮点は、潤滑剤がソースチャンバー内で加熱される際に堆積チャンバーへ真空を適用すること、及び、2つのチャンバー間の適切な圧力差を確保することを必要としてもよい。本発明の実施態様は、堆積チャンバー及び真空源の間のバルブの使用を含む。
【0037】
本発明によれば、減圧下での磁気記録媒体の表面上への潤滑剤トップコートの堆積は、堆積されたトップコート層の改良された制御を生み出す。ソースチャンバーから堆積チャンバーへ流れる潤滑剤蒸気の量、質、及び分子量は、2つのチャンバー間の相対圧力差及び相対温度差に依存する。
【0038】
堆積チャンバー内の圧力を約10トール〜約10-10トールの範囲内、例えば約10-3トール〜約10-9トールの範囲内に低減することは特に効果的である。さらに、ソースチャンバー内の潤滑剤の温度を高めることによって、ソースチャンバーの圧力が堆積チャンバーの圧力に対して増加される。本発明の実施態様は、ソースチャンバー内の潤滑剤の温度を約35℃より高いが約300℃未満、例えば約120℃〜約220℃の範囲内の温度に高めることを含む。ソースチャンバー内の潤滑剤の温度を高めることによって、ソースチャンバー内の圧力もまた高められる。本発明の実施態様は、ソースチャンバーを、約700トール〜約10-5トール、例えば約100トール〜約0.01トールの圧力に減圧することを含む。
【0039】
媒体の照射は、堆積チャンバーを含む照射装置を使うことで達成されることができる。そのような照射プロセスでは、ディスクがサドル上に置かれ、専用プロセスチャンバー内の2つの紫外線ランプ間の空間に個々に持ち上げられる。
【0040】
実用的な使用であるために、UV硬化プロセスは、約10秒以下程度の時間で硬化に影響させるために、高い十分な光子エネルギーで高い十分なパワーを出力する真空の互換性のあるUVランプを必要とする。エキシマUVランプは、約40%のエネルギー変換効率で、約50mW/cm2の出力密度で単一の高エネルギー波長(例えば172nm)を出力する。これは、水銀放電ランプの代表的な全出力が20〜30mW/cm2であること、185nmの有用な波長が3〜5mW/cm2以下のみであること、そしてより非常に低い変換効率で動作することと比較する。また、エキシマランプは、水銀放電ランプで達成することは難しい真空の互換性のある部品で製造されることもできる。エキシマランプは動作ガスとして環境面で良性のキセノンを使用し、水銀に伴う危険性を排除する。最後に、エキシマランプは、水銀放電ランプよりも大幅に低温で動作して、そして外付けの冷却を必要としない。
【0041】
真空中でエキシマランプを動作することは、上記プロセスの際に、窒素パージの必要性及びオゾン発生の両方を同時に排除する。一方でオゾンが実は利益があると分かった場合は、酸素で堆積チャンバーをバックフィリングすることで、オゾンが制御された方法で上記プロセスに導入されることができる。潤滑剤の蒸着を併用したUVプロセスは外付けのUV硬化ツール並びにそれらに関連した床スペース及び操作ステップの必要性を排除する。エキシマランプを使用する真空プロセスは、雰囲気窒素によるUV出力の減衰を排除するので、水銀放電ランプを使用するUVプロセスよりも、さらにより効率的である。長い予熱時間及び一定出力を維持するために連続して運転させる必要性を要する水銀放電ランプとは違って、エキシマランプはフルパワーに到達するまでに要する予熱時間は1秒未満であり、したがってプロセスの一部として作動させたり停止させたりすることができる。
【0042】
潤滑剤部分は、例えばヒドロキシル、カルボキシ、またはアミノのような極性基で末端が官能基化され得るポリフルオロエーテル組成物を含む。極性基は記録媒体の表面上に潤滑剤をより良く付着または貼り付ける手段を提供する。これらのフッ素化されたオイルは、例えばFomblin Z(商標)、Fomblin Z−Dol(商標)、Fomblin Ztetraol(商標)、Fomblin Am2001(商標)、Fomblin Z−DISOC(商標)(モンテジソン社);Demnum(ダイキン社)及びKrytox(商標)(デュポン社)のような商標名で市販されている。
【0043】
一部のFomblin潤滑剤の化学構造を以下に示す。
X−CF2−[(OCF2−CF2)m−(OCF2)n]−OCF2−X
Fomblin Z:非反応性末端基
X=F
Fomblin Zdol:反応性末端基
X=CH2−OH
Fomblin Am2001:反応性末端基
【化1】

Fomblin Ztetraol:反応性末端基
【化2】

【0044】
X1pは、薄膜記憶媒体用に最も広く用いられている潤滑剤の添加剤である。X−1Pはダウケミカル社から入手可能である。以下の化学式を有する。
【化3】

【0045】
X1pを適用することの最も優れた利点は、記憶メディアの耐久性の著しい改良である。しかしながら、X1pの耐久性の利点は、PFPE潤滑剤中のX1pの限定された混和性のために、例えばX1pの相分離、ヘッドの汚れ、及びルブリカントピックアップのような潜在的な問題を伴う。例えばZdolのような潤滑剤分子のシクロトリホスファゼン部分への化学的な結合が、潤滑剤及びX1p間の低混和性の問題を除去できる。しかしながら、UV光はX1pを非常に効果的に活性化できる。X1p中のシクロトリホスファゼン環上のフルオロフェノール及びトリフルオロメチルフェノール置換物は、UV照射によって容易に活性化されることができる。光化学反応のシーケンスが、シクロトリホスファゼン環からフルオロフェノール及びトリフルオロメチルフェノール置換物を脱落させることを含んで、始動されることができる。
【0046】
本発明で潤滑剤部分に加えられ得る添加剤部分はX1−p及びその誘導体を含む。またUV硬化ができる末端基を主な潤滑剤に添加することは、飽和するまでの時間をさらに大幅に減少する。例えば、以下のUV硬化可能な化合物はZ−DOLと共に機能する:アクリレート、メタクリレート、スチレン、a−メチルスチレン、及びビニルエステル。
【0047】
UV硬化可能な末端基が、以下の反応でアクリル酸塩化物と反応することによってZ−DOLに加えられてもよい。
【化4】

【0048】
アクリレート官能基に加えて、メタクリレート、ビニルエステル、及び4−ビニルベンジラートを含む他の重合可能な官能基はまた、UV硬化可能な官能末端基を提供するという目的に役立つことができる。当業者は、添付の特許請求の範囲で定義するように本発明の範囲から外れないで、Z−DOL以外の潤滑剤を含む個別の用途によって、特定の紫外線波長及びUV硬化可能な末端基を変えてもよい、
【0049】
潤滑剤のコーティングの厚みは少なくとも0.5nm、好ましくは少なくとも1nm、及びさらに好ましくは少なくとも1.2nmであるべきであり、そして概して3nm未満、好ましくは1nm〜3nmの範囲だろう。より大きい膜厚を提供する特に関心がある分子量成分は1kD〜10kD、好ましくは2kD〜8kDの範囲である。好ましくは本発明の噴霧装置に溶媒は使用されない。添加剤はX1P及び潤滑剤用の他の添加剤であることができる。
【0050】
潤滑剤のコーティングの厚みは少なくとも0.1nm、好ましくは少なくとも0.7nm、及びさらに好ましくは少なくとも1.2nmであるべきであり、そして概して3nm未満、好ましくは1nm〜3nmの範囲だろう。より大きい膜厚を提供する特に関心がある分子量成分は1kD〜10kD、好ましくは2kD〜8kDの範囲である。
【0051】
ポリマーの分子成分の分布を記述する一つの方法、すなわち多分散性は、
w=Σmii/Σmi
として定義される質量平均分子量を
n=ΣNii/ΣNi
として定義される数平均分子量と比較することであり、
そこでは、miは分子量Miを有するポリマー中の分子成分の全質量であり、そしてNiは分子量Miを有するポリマー中のそれぞれの分子成分の全数である。ポリマーの質量平均分子量(Mw)は常に数平均分子量(Mn)よりも大きく、後者はそれぞれのクラスMiの分子の寄与をカウントし、前者は分子の質量の観点から分子の寄与に重みをつけるからである。したがって、大きい分子量を有するそれらの分子成分は、数よりもむしろ質量が重み係数として用いられる場合に、より多く平均に寄与する。
【0052】
全ての多分散ポリマーのMw/Mnの比率は常に1よりも大きく、そして1から逸れるこの比率の量は、ポリマーの多分散性の値である。Mw/Mnの比率が大きいほど、ポリマーの分子量分布の幅は広い。
【0053】
気相の分子量分布は、好適な基板上への蒸気の凝結によってサンプルされることができ、その後に較正されたサイズ排除クロマトグラフィーで凝結物の分析が行われる。
【0054】
新鮮な潤滑剤は、分子成分の比較的狭い分子量分布を有することが望ましい。実際には、分布が狭いほど、蒸気中の1以上の成分の一定状態の濃度を維持することが容易になるだろう。例えば、ポリマー中の最高及び最低の分子量成分が非常によく似た分子量を有する場合、それらの蒸気圧もまた非常によく似るだろう。一方で、分子量(蒸気圧)が大きく異なる場合、一定状態の濃度を維持するために、潤滑剤の加熱が、より高い温度及び加工制御を必要とするだろう。本発明で用いられる潤滑剤のMw/Mn比率は1〜1.6、好ましくは1〜1.3、さらに好ましくは1〜1.2を有するべきである。
【0055】
本発明は、比較的大きなまたは小さな多分散性を有する任意の市販の潤滑剤、または比較的小さな多分散性を有する潤滑剤を得るためにあらかじめ分別された潤滑剤で、実施されることができる。本発明の好ましい実施態様は、潤滑剤をあらかじめ分別することは含まない。しかしながら、分別された潤滑剤が比較的狭い分子量の潤滑剤を提供するために用いられてもよい。あらかじめ分別された潤滑剤が本発明に用いられる場合、蒸留、クロマトグラフィー、抽出、または分離できる他の技術が、分子量によってあらかじめ分別された潤滑剤を得ることができる。
【実施例】
【0056】
本発明の一実施態様は、図3(a)に示すように、円形に配列した開口部を有するディフューザープレートを含む。シャッタープレートは、ディフューザープレートと同じパターンの開口部を有する。ディスクが存在する場合、アクチュエータがシャッタープレートを駆動して、ディフューザープレート上の開口部がシャッタープレート上の開口部に合わせるような角度で回転するだろう。次いで、潤滑剤が、ディスク表面上に堆積を開始するだろう。堆積が行われた後、シャッタープレートが逆に回転して全ての開口部を塞ぐだろう。次いで、次のディスクが来るまでシャッターが再び閉じられるだろう。
【0057】
本発明の他の実施態様は、図3(b)に示すように、長方形に配列した開口部を有するディフューザープレートを含む。シャッタープレートは、ディフューザープレートと同じパターンの開口部を有する。ディスクが存在する場合、アクチュエータがシャッタープレートを駆動して、ディフューザープレート上の開口部がシャッタープレート上の開口部に合わせるような距離で直線的に動くだろう。次いで、潤滑剤が、ディスク表面上に堆積を開始するだろう。堆積が行われた後、シャッタープレートが逆にスライドして全ての開口部を塞ぐだろう。次いで、次のディスクが来るまでシャッターが再び閉じられるだろう。
【0058】
本出願は、本明細書と図面にいくつかの数値範囲を開示する。本発明が開示された数値範囲にわたって実施されることができるから、たとえ正確な範囲の限定が明細書中に一語一句述べられていなくても、開示された数値範囲は、開示された数値範囲内の任意の範囲または値を本質的に支持するものである。
【0059】
上の記載は、当業者が本発明を作製及び使用することができるようにするために示され、そして特定の用途及びその要求に関連して提供される。好ましい実施態様への様々な修飾が当業者に容易であり、そして本明細書に定義される一般的原理が、本発明の精神及び範囲から離れることなく他の実施態様及び用途に適用されてもよい。したがって、本発明は示された実施態様に限定されることを意図していないが、本明細書に開示した原理及び特徴と一致した最も広い範囲が認められる。上述の実施及び他の実施は以下の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体の気相潤滑用装置であって、
チャンバー;
第1の配列の開口部を有するディフューザープレート;
第2の配列の開口部を有するシャッタープレート;及び
該シャッタープレートを動かして、該ディフューザープレートの開口部を開閉するアクチュエータ、
を含み、その際、該アクチュエータが、該シャッタープレートの該第2の配列の開口部を該ディフューザープレートの該第1の配列の開口部に合わせるように形作られていて、磁気記録ディスクが該チャンバー内にある場合は、潤滑剤蒸気が該ディフューザープレートの該第1の配列の開口部を通って拡散することができ、そして磁気記録ディスクが該チャンバー内にない場合は、該シャッタープレートで該ディフューザープレートの該第1の配列の開口部を少なくとも部分的に閉塞する、
気相潤滑用装置。
【請求項2】
該第1の配列の開口部及び該第2の配列の開口部が実質的には同一のパターンを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
該第1及び第2の配列の少なくとも1つの開口部が円形のパターンを有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
該第1及び第2の配列の少なくとも1つの開口部が長方形のパターンを有する、請求項1、2、または3に記載の装置。
【請求項5】
請求項1、2、3、または4に記載の装置を用いて磁気記録媒体上に潤滑剤を堆積することを含む、磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−289392(P2009−289392A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−112290(P2009−112290)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(509123747)シーゲイト テクノロジー リミティド ライアビリティー カンパニー (8)
【Fターム(参考)】