説明

水中ポンプ用攪拌体

【課題】水底沈殿物を効率よく浮揚させ、吸上げることができる水中ポンプ用攪拌体を提供する。
【解決手段】
円錐状又は円柱状の基幹部22と、基幹部22の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の螺旋羽根24と、基幹部22の基端部に同軸的に形成されるボス部と、を具備する水中ポンプ用攪拌体20であって、基幹部22の軸線と平行な方向で各螺旋羽根の中途部を切欠して外側半径方向及び両円周方向に開く切欠部28を形成し、切欠部28の上方をなす螺旋羽根24の部分に下方向攪拌流生成部30を形成し、切欠部28の下方をなす螺旋羽根の部分に水平方向流生成部32を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫現場、土木現場、下水処理場、工場排液沈殿池等の水底の沈殿物を攪拌体により浮揚させた後、周囲の水で希釈しながら吸引して、所望の箇所に排出するために用いる水中ポンプに取り付ける水中ポンプ用攪拌体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した目的に供される水中ポンプとして、図6に示すように、下面中央部に吸引開口100を設け、外周壁に排出開口102を設け、内部にモーター104によって駆動されるインペラー106を回転自在に内蔵するインペラーケーシング108と、上部をインペラーケーシング108の下端に連通連結すると共に、周壁に複数の開孔110を設けた筒状ストレーナー112と、一端をモーター104に連結すると共に、インペラーケーシング108に設けた吸引開口100と筒状のストレーナー112の多孔底板114の中央部に設けた貫通穴116とを貫通してストレーナー112の下方に伸延する回転軸118と、回転軸118の下端に固着する攪拌体120とを具備する水中ポンプBが知られている。
【0003】
一般に、攪拌体120は、円錐状の基幹部122と、同基幹部122の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の螺旋羽根124と、前記基幹部の基端部に同軸的に形成され回転軸118に連結されるボス部126とから形成される。
また、螺旋羽根124は、図7に示すように、円周方向に大きく傾斜して基幹部122に設けられる上部羽根部128と、円周方向に殆ど傾斜せず基幹部122の軸線と平行な方向で略垂直面を形成す水平方向流生成用羽根部130と、両羽根部の中間に位置しある程度円周方向に傾斜する中間羽根部132とからなる。
上記した構成を有する水中ポンプBの攪拌体120による攪拌動作については、従来、以下のように考えられていた。モーター104の駆動と共に回転軸118が回転して、インペラー106と攪拌体120が一体的に回転し、攪拌体120の回転によって放射状にかつ下方に向かう攪拌流を発生させて、この攪拌流によって水底沈殿物を浮揚させた後、攪拌流は水底沈殿物と共に上方に向けて反転し、吸込流用開孔110を通してストレーナー112内に吸込され、その後、インペラーケーシング108を介して外部に排出される。
【0004】
しかし、発明者が、さらに攪拌流について検討するため、ストレーナー112の多孔底板114の下面の摩耗量を調査したところ、多孔底板114の下面は全体にわたって摩耗しており、また、貫通穴16が設けられた下面の中央部が周辺部より大きく摩耗しているのがわかった。一方、多数の孔が設けられたストレーナー112の周壁の摩耗量は、多孔底板114の下面の摩耗量と比較した場合、著しく低いことがわかった。これらの現象から、殆どの攪拌流は、実際は、図6及び図7に示すように、攪拌体120の回転によって放射状にかつ下方に向かった後、上方に向けて反転し、その後、多孔底板114の下面の中央部に向かい、多孔底板114の中央に設けた貫通穴116やその周囲の孔を通してストレーナー112内に吸込され、その後、インペラーケーシング108を介して外部に排出されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−009182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の攪拌体120による攪拌流の流れを更に検討したところ、以下のことが判明した。攪拌体120による攪拌流の流れは、図7に示すように、円周方向に大きく傾斜して基幹部122に設けられる上部羽根部128によって形成される強力な攪拌流F1と、円周方向に殆ど傾斜せず基幹部122の軸線と平行な方向で略垂直面を形成す水平方向流生成用羽根部130によって形成される水平攪拌流F2と、両羽根部の中間に位置しある程度円周方向に傾斜する中間羽根部132によって形成される中間攪拌流F3からなる。これらの内、上部羽根部128によって形成される強力な攪拌流F1によって沈殿物の攪拌を行い、水平方向流生成用羽根部130によって形成される水平攪拌流F2は、その下方の領域を減圧して、攪拌流F1が多孔底板114の下面の中央部に向かって流れるのを促進する。一方、中間羽根部132によって形成される中間攪拌流F3は、上部羽根部128によって形成される攪拌流F1を外側に付勢することになり、攪拌流F1による攪拌作用を逆に阻害することになると考えられる。
本発明は、上記した知見に基づいてなされたものであり、攪拌体によって生じる攪拌流をさらに強力にすることによって、水底沈殿物をさらに効率よく浮揚させ、吸上げることができる水中ポンプ用攪拌体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、円錐状又は円柱状の基幹部と、同基幹部の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の螺旋羽根と、前記基幹部の基端部に同軸的に形成されるボス部と、を具備する水中ポンプ用攪拌体であって、前記基幹部の軸線と平行な方向で前記各螺旋羽根の中途部を切欠して外側半径方向及び両円周方向に開く切欠部を形成し、前記切欠部の上方をなす前記螺旋羽根の部分に下方向攪拌流生成部を形成し、前記切欠部の下方をなす前記螺旋羽根の部分に水平方向流生成部を形成したことを特徴とする水中ポンプ用攪拌体に係るものである。
上記した水中ポンプ用攪拌体を用いることによって、攪拌体によって生じる攪拌流をさらに強力にすることによって、水底沈殿物をさらに効率よく浮揚させ、吸上げることができる。
【0008】
上記した構成において、好ましくは、螺旋羽根が基幹部の基端側端面と先端側端面との間を伸延し、基幹部の軸線と平行な方向における切欠部の高さH1を基幹部の高さHの0.15〜0.25倍とし、基幹部の軸線と平行な方向における水平方向流生成部の高さH2を基幹部の高さHの0.25〜0.35倍とする。
【0009】
本発明は、また、同軸線上に配列した上側大径部と下側小径部とからなる円錐状又は円柱状の基幹部と、前記上側大径部の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の下方向攪拌流生成用螺旋羽根と 前記下側小径部の外周面に所定円周間隔をあけて設けられる複数の水平方向流生成用羽根と、を具備する水中ポンプ用攪拌体に係るものである。
上記した水中ポンプ用攪拌体を用いることによって、攪拌体によって生じる攪拌流をさらに強力にすることによって、水底沈殿物をさらに効率よく浮揚させ、吸上げることができる。また、水平方向流生成用羽根を下側小径部の外周面に設けたので、水平方向流生成用羽根の回転により生じる回転抵抗が少なく、さらに少ない動力で水底沈殿物を効率よく浮揚させ、吸上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係る水中ポンプ用攪拌体を具備する水中ポンプの正面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る水中ポンプ用攪拌体を具備する水中ポンプの要部拡大正面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る同水中ポンプ用攪拌体の正面図である。
【図4】本発明の実施例1の変容例に係る水中ポンプ用攪拌体の正面図である。
【図5A】本発明の実施例2に係る水中ポンプ用攪拌体の正面図である。
【図5B】本発明の実施例2に係る水中ポンプ用攪拌体の平面図である。
【図6】従来例に係る水中ポンプ用攪拌体の正面図である。
【図7】従来例に係る水中ポンプ用攪拌体の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る実施例を説明する。
(実施例1)
まず、本実施例1に係る水中ポンプ用攪拌体20を具備する水中ポンプAの構成を、図1及び図2を参照して説明する。なお、本実施例1に係る水中ポンプ用攪拌体20が取り付けられる水中ポンプAは、何ら図示する水中ポンプに限定されるものではない。
【0012】
図1及び図2に示すように、水中ポンプAは、下面中央部に吸引開口1を設け、外周壁に排出開口2を設け、内部にモーター4によって駆動されるインペラー6を回転自在に内蔵するインペラーケーシング8と、上部をインペラーケーシング8の下端に連通連結すると共に、底壁に吸引開口11を設けた筒状のストレーナー12と、一端をモーター4に連結すると共に、インペラーケーシング8に設けた吸引開口11とストレーナー12の多孔底板14の中央部に設けた貫通穴16とを貫通してストレーナー12の下方に伸延する回転軸18と、回転軸18の下端に固着する攪拌体20と、を具備する。
攪拌体20は、図3及び図4にも示すように、裁頭円錐状の基幹部22と、同基幹部22の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられ基幹部22の基端側端面と先端側端面との間を伸延する複数の螺旋羽根24と、基幹部22の基端部に同軸的に形成され回転軸18に連結されるボス部26とから形成される。
本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体20は、基幹部22の軸線と平行な方向で各螺旋羽根24の中途部を切欠して外側半径方向及び両円周方向に開く切欠部28を形成し、切欠部28の上方をなす螺旋羽根24の部分に、円周方向に大きく傾斜して基幹部22に設けられる下方向攪拌流生成部30を形成し、切欠部28の下方をなす螺旋羽根24の部分に円周方向に殆ど傾斜せず基幹部22の軸線と平行な方向で略垂直面を形成する水平方向流生成部32を形成したことを特徴とする。
【0013】
次に、上記した構成を有する水中ポンプAの動作について説明する。
モーター4の駆動と共に回転軸8が回転して、インペラー6と攪拌体20が一体的に回転し、攪拌体20の回転によって放射状にかつ下方に向かう攪拌流を発生させて、この攪拌流によって水底沈殿物を浮揚させた後、攪拌流は水底沈殿物と共に下方に向けて反転した後、多孔底板14の下面の中央部に向かい、その後、多孔底板14の中央に設けた貫通穴16やその周囲の孔を通してストレーナー12内に吸込され、その後、インペラーケーシング8を介して外部に排出される。
【0014】
上記した攪拌流において、本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体20は、基幹部22の軸線と平行な方向で各螺旋羽根24の中途部を切欠して外側半径方向及び両円周方向に開く切欠部28を形成している。
従って、従来技術における水中ポンプ用攪拌体20と同様に、本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体20は、円周方向に大きく傾斜して基幹部22に設けられる下方向攪拌流生成部30によって強力な攪拌流F1を形成すると共に、円周方向に殆ど傾斜せず基幹部22の軸線と平行な方向で略垂直面を形成した水平方向流生成用羽根部32によって水平攪拌流F2は生成することができる。
一方、従来技術における水中ポンプ用攪拌体120と異なり、本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体20は、両羽根部の中間に位置しある程度円周方向に傾斜する中間羽根部132を有しないので、中間羽根部132によって形成される中間攪拌流F3は生成されない。従って、中間羽根部132が生成する中間攪拌流F3によって、下方向攪拌流生成部30によって形成される攪拌流F1が外側に付勢されることがなく、攪拌流F1は沈殿物を強力に攪拌でき、かつ、多孔底板14の中央に移送することができる。
【0015】
本実施例に係る水中ポンプAでは、ストレーナー12の周壁には、外部側方からの攪拌流の流入はほとんどないので開口は設けられていない。しかし、必要に応じて、ストレーナー12の周壁に開口を設けてもよい。
また、好ましくは、基幹部22の軸線Cと平行な方向における切欠部28の高さH1を基幹部22の高さHの0.15〜0.25倍とし、基幹部22の軸線Cと平行な方向における水平方向流生成部32の高さH2を基幹部22の高さHの0.25〜0.35倍とする。
このようにすることによって、攪拌流F1は沈殿物をより強力に攪拌することができる。
【0016】
(変容例)
図4に実施例1の変容例に係る水中ポンプ用攪拌体40を示す。
本変容例に係る水中ポンプ用攪拌体40は、実施例に1に係る水中ポンプ用攪拌体20と同様に、基幹部42と、基幹部42の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられ基幹部42の基端側端面と先端側端面との間を伸延する複数の螺旋羽根44と、基幹部42の基端部に同軸的に形成されるボス部46とから形成され、かつ、水中ポンプ用攪拌体40は、実施例1と同様に螺旋羽根44に切欠部48を形成し、切欠部48の上方をなす螺旋羽根44の部分に、円周方向に大きく傾斜して基幹部42に設けられる下方向攪拌流生成部50を形成し、切欠部48の下方をなす螺旋羽根44の部分に円周方向に殆ど傾斜せず基幹部42の軸線と平行な方向で略垂直面を形成する水平方向流生成部52を形成している。
本変容例は、基幹部42を円柱より形成したことを特徴とするものであり、基幹部42を円柱より形成することにより、実施例1の水中ポンプ用攪拌体20と比較して安価に製造できる。
【0017】
(実施例2)
本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体60は、図5A及び図5Bに示すように、同軸線上に配列した上側大径部62と下側小径部64とからなる円錐状又は円柱状の基幹部66と、上側大径部62の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の下方向攪拌流生成用螺旋羽根68と、下側小径部64の外周面に所定円周間隔をあけて設けられる複数の水平方向流生成用羽根70と、を具備する。
上記した構成によって、従来技術における水中ポンプ用攪拌体120と同様に、本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体60は、円周方向に大きく傾斜して上側大径部62に設けられる下方向攪拌流生成用螺旋羽根68によって強力な攪拌流を形成すると共に、円周方向に殆ど傾斜せず基幹部22の軸線と平行な方向で下側小径部64の外周面に形成した水平方向流生成用羽根70によって水平攪拌流は生成することができる。
【0018】
一方、従来技術における水中ポンプ用攪拌体120と異なり、本実施例に係る水中ポンプ用攪拌体60は、両羽根部の中間に位置しある程度円周方向に傾斜する中間羽根部132を有しないので、中間羽根部132によって形成される中間攪拌流は生成されない。従って、中間羽根部132が生成する中間攪拌流によって、下方向攪拌流生成用螺旋羽根68によって形成される攪拌流が外側に付勢されることがなく、攪拌流は沈殿物を強力に攪拌でき、かつ、多孔底板の中央に移送することができる。
また、水平方向流生成用羽根70を下側小径部64の外周面に設けたので、水平方向流生成用羽根70の回転により生じる回転抵抗が少なく、さらに少ない動力で水底沈殿物を効率よく浮揚させ、吸上げることができる。
【符号の説明】
【0019】
A:水中ポンプ
20:水中ポンプ用攪拌体
22:基幹部
24:螺旋羽根
28:切欠部
30:下方向攪拌流生成部
32:水平方向流生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐状又は円柱状の基幹部と、
同基幹部の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の螺旋羽根と、
前記基幹部の基端部に同軸的に形成されるボス部と、を具備する水中ポンプ用攪拌体であって、
前記基幹部の軸線と平行な方向で前記各螺旋羽根の中途部を切欠して外側半径方向及び両円周方向に開く切欠部を形成し、前記切欠部の上方をなす前記螺旋羽根の部分に下方向攪拌流生成部を形成し、前記切欠部の下方をなす前記螺旋羽根の部分に水平方向流生成部を形成したことを特徴とする水中ポンプ用攪拌体。
【請求項2】
前記螺旋羽根が前記基幹部の基端側端面と先端側端面との間を伸延し、前記基幹部の軸線と平行な方向における前記切欠部の高さH1を前記基幹部の高さHの0.15〜0.25倍とし、前記基幹部の軸線と平行な方向における前記水平方向流生成部の高さH2を前記基幹部の高さHの0.25〜0.35倍としたことを特徴とする請求項1記載の水中ポンプ用攪拌体。
【請求項3】
同軸線上に配列した上側大径部と下側小径部とからなる円錐状又は円柱状の基幹部と、
前記上側大径部の外周面に所定円周間隔をあけて螺旋状に設けられる複数の下方向攪拌流生成用螺旋羽根と、
前記下側小径部の外周面に所定円周間隔をあけて設けられる複数の水平方向流生成用羽根と、を具備する水中ポンプ用攪拌体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−92074(P2013−92074A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233411(P2011−233411)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(591013388)株式会社東洋電機工業所 (11)
【Fターム(参考)】