説明

水中欠陥検査装置及び水中欠陥検査方法

【課題】レーザ光を用いて水中で実行する非破壊検査の精度を向上させる。
【解決手段】照明用のレーザ光102aは、検査対象領域Bに照射されて反射光102bとなる。水流発生装置107の駆動により水流107aが発生する。加熱用のレーザ光101aは、検査対象領域Bを加熱する。水流107aを通過した反射光102bにより第1微分画像が生成される。画像撮影素子115は第1微分画像を撮影する。その後、レーザ光101aの照射が停止されて検査対象領域Bが設定温度まで低下したとき、第2微分画像が画像撮影素子115にて撮影される。第1及び第2微分画像情報が解析装置207に入力される。水流107aによって反射光102bの経路での水の屈折率がより一様化されるため、レーザ光を用いた水中の非破壊検査でき裂の有無を精度良く検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中欠陥検査装置及び水中欠陥検査方法に係り、特に、シェアログラフィ法を適用し、水中に置かれた検査対象物に対して熱歪みを付与して検査対象物の欠陥を検査する水中欠陥検査装置及び水中欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種構造材を対象とした非破壊検査では、検査対象物の欠陥の有無を検査するために、VT(目視検査法)及びPT(浸透探傷法)などが広く用いられている。VTは非常に簡単かつ迅速な非破壊検査法である。しかし、VTは、判断が人間の目視に委ねられているため、判断結果に個人差があり信頼性の高い非破壊検査方法とは言い難い。なお、かかる欠点に対処するため、近年では、デジタルカメラなどの撮影手段を利用したVTが用いられている。この場合も、検査対象物の表面状態によっては欠陥を見逃しやすいという問題点が指摘されている。また、この方法は、原理的に検査対象物の表面下の内部欠陥を検出することができない。
【0003】
一方、PTは、検査対象物に浸透液を塗布して欠陥に浸透させた後、余分な浸透液を拭き取り、その後、現像液と塗布して欠陥を見やすくする技術である。このようなPTは、欠陥の検出精度が非常に高いという利点を有するが、浸透液及び現像液の塗布と拭き取りに多大な労力を要し、検査に長時間を要するという問題点がある。この方法は、そもそも水中の検査には不適である。
【0004】
このような状況において、近年、迅速かつ信頼性の高い非破壊検査を実現するため、光学的な非破壊検査技術の開発が進められている。
【0005】
光学的な非破壊検査技術として、シェアログラフィ法が知られている。シェアログラフィ法の検査原理は以下の通りである。まず、レーザ光を検査対象物の検査対象領域に拡大照射する。検査対象領域からの反射光は、使用している光が干渉性の高いレーザ光であり、かつ検査対象物の表面が拡散性であるため、スペックルパターンとなる。この検査対象領域からの反射画像が撮像素子の手前に設置した分光素子で2つに分けられる。分けられた2つの反射画像を検査対象物の表面方向に僅かにずらしてCCDなどの撮像素子で撮影する。この撮像素子の二重露光により、撮像された反射画像は微分画像となる。また、レーザ光は干渉性が高いため、二重露光される2つの画像は互いに干渉し、二重露光されたパターンは干渉パターンとなる。この操作を外部応力の変化の過程で2度行うことにより、外部応力による歪みの微分値の経時変化が、干渉パターンの位相変化として得られる。このため、使用するレーザ光の波長レベルの微小な表面歪みが計測される。欠陥が存在する部位では周囲と異なる局所的な歪みを生じるため、微分画像とすることで外部応力による低周波の歪みを除去し、欠陥部での局所的な歪みのみを画像化することにより、欠陥を抽出する(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載されているシェアログラフィ法は、空気雰囲気中に存在する検査対象物に対して適用される。
【0006】
なお、シェアログラフィ法を実行する際、検査対象物に歪みを付与する方法として、検査対象物を減圧室に入れる方法、及び検査対象物を機械的に押圧する方法等のほか、検査対象物を加熱する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平7−218449号公報
【非特許文献1】早川峰之、「シェアログラフィーによる非破壊内部欠陥検査」、検査技術、日本工業出版、2004年6月1日発行、VOl.9、NO.6、第21頁から第26頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、水中に存在する検査対象物の欠陥検査へのシェアログラフィ法について種々検討した。この検討の結果、発明者らは、空気雰囲気中でのシェアログラフィ法による欠陥検査に比べて、検査対象物の検査面前方に存在する水の温度分布に起因して欠陥の検出精度が低下するという新たな課題が生じることを新たに見出した。これについて、具体的に説明する。すなわち、シェアログラフィ法により欠陥の有無を判断するためには、水中に存在する検査対象物を加熱する必要がある。検査対象物の加熱により、検査対象物の検査面の前面に存在する水も二次的に加熱され、その水の温度に分布が生じる。このような温度分布の形成は、水中においてレーザ光が進む経路の屈折率が一様にならなくなる。このため、水中を通過する反射光に乱れが生じ、反射光によって生成されるスペックルパターン画像、具体的には微分画像に悪影響を与えるのである。この悪影響によって、加熱された検査面から反射された反射光によって生成される微分画像は、その検査面に生じる熱歪みの状態を全く反映していない画像になってしまうことが判明した(発明者らが実験によって確認)。このため、水中に存在する検査対象物における欠陥の有無を精度良く確認することができなくなる。発明者らは、以上に述べた、シェアログラフィ法による水中での欠陥検査において生じる新たな課題を見出したのである。
【0009】
レーザ光の経路の温度分布を正確に把握することは非常に困難であり、また、シェアログラフィ法を用いる欠陥検査では、歪み付与前後又は歪み量の変化途中の画像を2枚取得して比較しなければならない。このため、シェアログラフィ法を用いる欠陥検査は、後処理による撮影画像の補正は困難である。
【0010】
本発明の目的は、水中で実行する非破壊検査の精度を向上させることができる水中欠陥検査装置及び水中欠陥検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、水中に存在する検査対象物を加熱する加熱手段と、前記検査対象物にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、前記レーザ光の照射で前記検査対象物から反射される反射光によって生成されるスペックルパターン画像を撮影する画像撮影手段と、前記反射光の通過領域に水を流す水流発生装置と、前記レーザ光の照射によって生成される第1の前記スペックルパターン画像の撮影、及び前記第1のスペックルパターン画像を得る温度と異なる前記検査対象物の温度において前記レーザ光の照射によって生成される第2の前記スペックルパターン画像の撮影を指示する制御指令を、画像撮影手段に出力する制御装置と、前記第1スペックルパターン画像情報及び前記第2スペックルパターン画像情報を用いて前記検査対象物のスペックル干渉縞の画像情報を生成する画像情報作成装置とを備えたことにある。
【0012】
本発明では、水流発生装置を用いて反射光の通過領域に水を流すことができるので、検査対象物に熱歪みを与えるために検査対象物を加熱しても反射光の通過領域に存在する水の温度がより均一化され、反射光の経路における水の屈折率がより一様化される。このため、反射光に基づいて生成される第1及び第2スペックルパターン画像情報への水の屈折率の影響が低減され、得られる第1及び第2スペックルパターン画像情報の精度が向上する。これにより、レーザ光を用いた水中での非破壊検査における欠陥(き裂等)の有無を精度良く検出することができ、水中で実行する非破壊検査の精度を向上させることができる。
【0013】
上記した目的は、前記検査対象物の表面前方で水を流す工程と、前記水が流れている状態で加熱された前記検査対象物にレーザ光を照射する工程と、前記レーザ光の照射で前記検査対象物から反射される反射光によって生成される第1スペックルパターン画像を撮影する工程と、前記第1スペックルパターン画像を得る温度と異なる前記検査対象物の温度状態において前記検査対象物から反射される前記反射光によって生成される第2スペックルパターン画像を撮影する工程と、前記第1スペックルパターン画像情報及び前記第2スペックルパターン画像情報を用いて前記検査対象物のスペックル干渉縞の画像情報を生成する工程とを備えることによっても達成できる。
【0014】
検査対象物の表面前方で水を流すため、検査対象物を加熱しても検査対象物の表面前方に存在する水の温度がより均一化され、反射光の経路における水の屈折率がより一様化される。このため、上記したように、レーザ光を用いた水中での非破壊検査における欠陥の有無を精度良く検出することができ、水中で実行する非破壊検査の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射光の経路における水の屈折率がより一様化されレーザ光を用いて水中で実行する非破壊検査の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施例である水中欠陥検査方法を、図1から図6を用いて以下に説明する。まず、その水中欠陥検査方法に用いられる水中欠陥検査装置について説明する。
【0017】
水中欠陥検査装置1は、図1及び図2に示すように、探傷部(探傷装置)100、画像処理・制御部200及び表示部(表示装置)300を備えている。探傷部100は、レーザ発振器101,102、拡大光学系103,104、欠陥検出装置105、水封容器106及び水流発生装置107,108を有する。レーザ発振器101は、検査対象物Aにおける所望の検査対象領域Bに熱歪みを発生させる加熱用レーザ光101a(以下、単にレーザ光101aという)を放出する。拡大光学系103で拡大されたレーザ光101aは検査対象領域Bに照射される。レーザ発振器102は照明用レーザ光102a(以下、単にレーザ光102aという)を放出する。拡大光学系104で拡大されたレーザ光102aは検査対象領域Bに照射される。欠陥検出装置105は検査対象領域Bからの反射光(反射画像)102bを二重露光させる。水封容器106は、レーザ発振器101,102、拡大光学系103,104及び欠陥検出装置105を内部に設置しこれらを防水する機能を有する。水封容器106は探傷部100の筐体としての機能も有する。計測用窓(例えば、耐熱ガラスで構成)106aが、水封容器106の、検査対象物Aと対向する側壁に設けられる。レーザ光101a、102a、及び反射光102bは、計測用窓106aを透過する。図1に示されたCはき裂(欠陥)である。
【0018】
水封容器106の、検査対象物Aと対向する側壁には、更に、水流発生装置(例えば、ファン)107及び108が設置される。水流発生装置107,108は、図2に示すように、互いに直交する方向に水流107a,108aを発生するように配置されている。水流発生装置107はある一方向(例えば、上下方向で上から下)に向かう水流107aを発生させ、水流発生装置108は、上記したある一方向と直交する他の方向(例えば、水平方向で検査対象物Aに向かって左から右)に向かう水流108aを発生させる。検査対象物Aは、鉛直状態に配置されている。水流107a、108aのそれぞれの流速を計測する2個の流速センサ109が、検査対象物Aと対向する上記側壁に設置される。水流107a、108aのそれぞれの流れ方向において、温度センサ110,111がそれぞれ配置される。温度センサ110,111も検査対象物Aと対向する上記側壁に設置される。各温度センサ110は水流の流れ方向において該当する水流発生装置側に配置され、各温度センサ111はその方向において該当する水流発生装置から離れた位置に配置される。各温度センサ110は、水流107a、108aが検査対象物Aと水封容器106との間で検査対象領域Bの前方の水領域(以下、前方水領域という)に入る前で該当する水流の温度(加熱前の水流温度)を計測する。各温度センサ111は、その前方水領域を通過した該当する水流の温度(加熱後の水流温度)を計測する。
【0019】
欠陥検出装置105の具体的な構成を、図3及び図4を用いて説明する。欠陥検出装置105は、図3(a)に示すように、集光レンズ111、分光素子112、反射鏡113,114及び画像撮影素子(例えば、CCDカメラ)115を有する。欠陥検出装置105は、分光素子112、反射鏡113,114及び回転調節装置30(図4参照)を含む微分画像生成装置、及び画像撮影素子(画像撮影装置)115を有しているとも言える。集光レンズ111は検査対象領域Bからの反射画像(スペックルパターン)102bを集光する。分光素子112は集光レンズ111により集光された反射画像102bを2つの反射画像112a,112bに分岐する。反射鏡(第1反射鏡)113は、分光素子112にて分岐された2つの反射画像のうち、一方の反射画像112aを反射させる。反射鏡(第2反射鏡)114は他方の反射画像112bを反射させる。画像撮影素子115は、反射鏡113,114にて反射された2つの反射画像112a,112bをそれぞれ受光する。反射鏡113は、画像撮影素子115のほぼ中央領域に反射画像112aを入射するように、光軸に対してほぼ垂直に設定されている。反射鏡114は、画像撮影素子115の受光面における反射画像112aの入射位置からやや離れた位置に反射画像112bを入射するように、光軸に対してやや傾斜した状態で設定されている。したがって、画像撮影素子115の受光面には、図3(b)に模式的に示すように、2つの反射画像112a,112bが干渉することにより得られる微分画像(スペックルパターンの微分画像)が入射される。微分画像の微分幅は、反射画像112aに対する反射画像112bのずらし量ΔXにより決定される。
【0020】
反射画像112aに対して反射画像112bをずらす方向は、水流発生装置107により発生する水流107aの流れ方向または水流発生装置108により発生する水流108aの流れ方向と一致する(又はほぼ一致する)ように設定される。すなわち、検査対象領域Bの表面に沿って流れる水流107aまたは108aは、検査対象領域Bの加熱時における前方水領域の温度分布の不均一性を改善する。これにより、レーザ光の経路の屈折率の不均一も改善され、微分画像に含まれるノイズが低減される。このノイズの低減度合いは、反射画像112aに対して反射画像112bをずらす方向が、水流の流れ方向と直交する方向となるよりも、その流れ方向となる方で大きくなる。この理由を具体的に説明する。反射画像をずらす方向が水流の流れ方向である場合には、その微分効果によって水流内での光の屈折率の不均一が軽減されるため、ほとんどノイズを生じなくなる。これに対して、反射画像をずらす方向が水流の流れ方向と直交する方向である場合には、それらの画像の干渉に基づく微分効果によって光の屈折率の不均一性が強調されるため、微分画像に含まれるノイズが、反射画像をずらす方向が水流の流れ方向である場合に比べて大きくなる。水流107aまたは108aは、層流になると温度分布がより均一化される。
【0021】
反射画像112aに対して反射画像112bをずらす方向とずらし量の設定は、反射鏡114の回転方向と回転量を調節することによって行われる。これらの調節を可能にする反射鏡114の回転調節装置30の構造を、図4を用いて説明する。回転調節装置30は、枠部材32、モーター(回転駆動装置)117a及び117bを有する。枠部材32は、水封容器106に取り付けられた支持部材31に回転軸116bにより回転可能に取り付けられる。枠部材32内に配置される反射鏡114は、回転軸116aにより枠部材32に回転可能に取り付けられる。回転軸116aは、その軸心が回転軸116bの軸心と直交する方向に配置される。例えば、回転軸116aの軸心は水流108aの流れ方向を向いており、回転軸116bの軸心は水流107aの流れ方向を向いている。回転軸116aはモーター117aの回転軸に連結され、回転軸116bはモーター117bの回転軸に連結される。モーター117aは枠部材32に設置され、モーター117bは支持部材31に設置される。
【0022】
モーター117bを駆動することによって回転軸116bが回転されて枠部材32が上下方向に延びる回転軸116bを中心に回転される。反射鏡114は、図3(a)に示すように、光軸に対して傾斜状態になる。このため、反射画像112bを、反射画像112aを基準に水流108aの方向に所定のずらし量ΔXだけずらすことができる。換言すれば、このずらし量ΔXは、モーター117bの駆動により枠部材32を回転させて反射鏡114を回転させることで設定される。図3(a)における集光レンズ111、分光素子112、反射鏡113,114及び画像撮影素子115のそれぞれの配置は、上方より見た状態を示している。また、モーター117aを駆動することによって回転軸116aが回転されて反射鏡114が水平方向に延びる回転軸116aを中心に回転される。これによって、反射画像112bを、反射画像112aを基準に水流107aの方向に所定のずらし量ΔYだけずらすことができる。換言すれば、このずらし量ΔYは、モーター117aの駆動により反射鏡114を回転させることで設定される。
【0023】
水中での光の屈折率の不均一によるノイズを低減させるためには、水流発生装置107または108は、水流107aまたは108aの流速が均一な層流になるように、整流装置を備えることが望ましい。この整流装置は、水流発生装置ではなく水封容器106に取り付けてもよい。また、水流源の温度は周囲環境温度と等しいことが重要である。これによって、検査対象領域Bに沿って流れる水流107aまたは108aの温度分布がほぼ均一になり、ほとんどノイズが生じないからである。この場合、水流107a または108aの流れ方向と反射画像112bをずらす方向が異なっていても、ノイズの低減によって画像が鮮明になり、き裂を容易に見分けることができる。水流発生装置107,108として発熱がほとんどないスクリュー装置を用いた場合は、水流107aまたは108aの温度分布が更に均一化できる。
【0024】
水流107aまたは108aの流速は、乱流にならない程度に大きくすることが望ましい。このような水流の流速の増大によって検査対象領域Bの表面の熱伝達率が大きくなり、検査対象領域Bの冷却効果が大きくなるため、水中での欠陥検査をより迅速に行うことができる。
【0025】
画像処理・制御部200は、図1に示すように、加熱制御装置201、欠陥検出制御装置202、水流制御装置203、システム制御装置(中央制御装置)204、記憶装置205、画像取り込み装置206及び解析装置(画像処理装置)207を備えている。このような画像処理・制御部200は、加熱制御装置201、欠陥検出制御装置202、水流制御装置203及びシステム制御装置204を含む制御装置、及び画像取り込み装置206及び解析装置207を含む画像情報作成装置を有するとも言える。加熱制御装置201は、加熱用のレーザ発振器101からのレーザ光101aの放出開始、放出停止、及び加熱量(レーザ光の強度)を制御する。欠陥検出制御装置202は、欠陥検出装置105のモーター117a,117bの駆動開始及び駆動停止、及び画像撮影素子115による反射画像の撮影開始及び撮影停止を制御する。水流制御装置203は、水流発生装置107及び108の駆動開始、駆動停止、更に水流の流速を制御する。システム制御装置204は、加熱制御装置201、欠陥検出制御装置202及び水流制御装置203への制御開始等のタイミング指令の出力、及び該当する制御装置への加熱量及び流速等の設定値の出力を行う。
【0026】
記憶装置205は、大きく分けて、システム制御装置204による制御に使用する制御指標情報(第1記憶情報)と、解析装置207での解析等の処理に使用される制御(第2記憶情報)を記憶している。第1記憶情報の一例は、後述するように図5(a)及び(b)に示されている。第1記憶情報の具体例としては、検査対象物Aの材質、厚さ及び温度に対応した熱物性値、欠陥の形状、大きさ及び深さに応じた加熱量、及びこの加熱量に対応付けられた局所歪み量等の情報である。更に、第1記憶情報には、検出したい欠陥に対応した加熱量、加熱時間、水流の流速及び撮影タイミングの最適値(最適値情報)も含まれている。第2記憶情報としては、ある加熱量、加熱時間、水流流速及び撮像タイミングを与えた時の、検査対象物Aの材質及び形状、検出したい欠陥の形状、大きさ及び深さに対応した出力画像のパターンを記憶している。欠陥が存在する出力画像パターンは、欠陥の画像情報を含んでおり、二重露光した熱歪みの歪み量の等高線の画像で表されている。出力画像パターンは、欠陥の種類ごとに予め作成されて記憶されており、解析装置207において微分画像情報を解析した結果として得られる画像情報(検査画像情報)との比較により欠陥の種類を特定するために用いられる。当然のことながら、出力画像パターンとしては、欠陥を含んでいない出力画像パターンもある。
【0027】
画像取り込み装置206は、欠陥検出装置105の画像撮影素子115で取得した画像情報(スペックルパターンの微分画像情報)を取り込む。解析装置207は、画像取り込み装置206で取り込んだ画像(微分画像)の情報の解析等の画像処理を行い、欠陥が存在する場合には欠陥の画像情報を含む検査画像情報を作成する。また、欠陥が存在しない場合には、欠陥の画像情報を含まない検査画像情報を作成する。
【0028】
システム制御装置204は、記憶装置205に記憶されている第1記憶情報(制御指標情報)に基づいて、加熱量、水流の流速、加熱時間及び撮影タイミングの制御情報を、検出しなければならない最小の欠陥寸法の局所歪み量を十分に高いS/Nで計測できるように設定する。記憶装置205に記憶される制御指標情報の一部を、図5にす。この制御指標情報は、以下のような特性と制約条件を含んでいる。まず、図5(a)に示すように、検査対象領域Bの加熱量が大きいほど欠陥の検出精度は向上するが、検査対象物Aが温度伝導率の大きい材質であるほど、同等の検出性を得るためにその加熱量を大きくする必要がある。また、その加熱量が大きく、検査対象領域Bの表面温度が高いほど、前方水領域におけるレーザ光の屈折率変化によりノイズが大きくなるため、水流発生装置で発生させる水流の流速を大きくする必要がある。しかしながら、その流速が乱流域まで大きくなり、大きな渦(例えば、カルマン渦)が発生するような場合には、逆に局所的な温度分布の不均一化に伴う屈折率変化が発生し、ノイズが大きくなってしまう。流速が乱流域まで大きくなっても大きな渦が前方水領域で生じないような検査対象物Aの表面構造及び探傷部100の構造であれば、その流速が乱流域まで大きくなったとしても、水流の温度分布はより均一化される。また、撮影タイミングで重要な値は、画像撮影の間隔である。前述のように、シェアログラフィ法を適用した欠陥検査では検査対象物Aへの熱歪み付与の前と熱歪み付与の後の2回にわたって撮影を行う必要がある。熱歪み付与の前後の2回の撮影のうち一方の撮影を、熱歪みを付与している途中段階で行っても良い。このため、本実施例では、一例として、加熱直後で検査対象領域Bが高温状態にあるときに検査対象領域Bからの反射画像(参照画像)の撮影を行い、その後、検査対象領域Bの低温状態で2回目の撮影を行っている。この2回の撮影間の時間間隔が長いほど2回の撮影時点での検査対象領域Bの温度の差が大きくなるため、図5(a)に示すように、欠陥(き裂等)の検出精度は向上する。しかし、この場合には欠陥検査に要する時間が長くなる。逆に、加熱前に参照画像の撮影を行い、加熱直後に2回目の画像撮影を行ってもよい。この場合は、画像撮影間隔は、加熱時間に相当するため、間隔が長いほど熱歪みが大きくなり、検出性が向上する。ただし、加熱終了後、2回目の撮影までに時間間隔があると、検査対象領域Bの温度が低下するため、熱歪みが小さくなり、検出性が低下する。しかし、外乱によるノイズ発生の確率が前述の高温状態での画像撮影を行った後に低温状態での画像撮影を行う場合に比べてやや高くなる。また、図5(b)に示すように、き裂等の欠陥がより深い位置に存在するほど、また、欠陥がより小さいほど、検査対象領域Bの加熱量をより大きくする必要がある。システム制御手段204は、第1記憶情報に含まれた前述の最適値情報に基づいて、検出したい欠陥の形状、大きさ及び深さに対応した制御情報を設定する。システム制御手段204は、設定した制御情報、及びタイミング指令を加熱制御装置201、欠陥検出制御装置202及び水流制御装置203に出力する。加熱制御装置201、欠陥検出制御装置202及び水流制御装置203は、その制御情報及びタイミング指令に基づいて前述したそれぞれの制御を行う。このとき、加熱制御装置201は温度センサ110,111の各計測値を入力してフィードバック制御を行う。水流制御装置203は、流速センサ109、温度センサ110,111の各計測値を入力してフィードバック制御を行う。
【0029】
表示部300は、画像撮影素子115により撮影された微分画像の情報301、微分画像情報の画像解析を行うことによって得られた検査画像情報302を表示する。検査画像情報302は、検査対象部領域Bの加熱前後で得られたそれぞれの微分画像情報を差分して求められた、検査対象領域Bの表面における歪み量分布の等高線画像情報である。すなわち、検査画像情報302は、表面変位の等高線画像情報(ただし、二重露光)である。検査対象領域B内に欠陥がある場合には、検査画像情報302は、欠陥部が凹凸対で表される欠陥画像情報303を含んでいる。この欠陥画像情報303が得られる理由は、二重露光により生成される微分画像情報を解析に用いるためである。
【0030】
水中欠陥検査装置1を用いた欠陥検査方法を、以下に説明する。検査対象物Aは、水中に配置されている構造物である。マニピュレータ(図示せず)を用いて水中欠陥検査装置1の探傷部100を、検査対象物Aの側まで近づける。この際、探傷部100の計測用窓106aが検査対象物Aに対向するように配置される。マニピュレータは、X方向、X方向と直交するY方向、及びX方向及びY方向と直交するZ方向に移動することができる。なお、Z方向は鉛直に配置された検査対象物Aの表面と直交する方向である。X方向は、検査対象物Aの表面に沿った水平方向であり、Y方向はその表面に沿った上下方向である。画像処理・制御部200は、水領域の外の空気雰囲気中に配置されている。オペレータは、入力装置(図示せず)から検査開始指令を入力する。システム制御装置204は、入力した検査開始指令に基づいて、図6に示す制御プログラムを記憶装置205から取り込み、この制御プログラムに基づいて該当する制御装置に制御指令及び該当する制御情報を出力する。探傷部100は、マニピュレータによって操作され、計測用窓106aが検査対象物Aの所定の検査対象領域Bに対向するように予め位置決めされている。
【0031】
まず、検査対象領域Bに照明用レーザ光が照射される(ステップ11)。すなわち、システム制御装置204は、レーザ光102aの放出開始指令を出力する。画像処理・制御部200の照明制御装置(図示せず)は、入力したその放出開始指令に基づいてレーザ発振器102を制御してレーザ光102aを放出させる。このレーザ光102aは、検査対象領域Bに照射され、その表面で反射されて反射光102bとなる。反射光102bは分光素子112に入射される。ステップ11の後に、水流発生装置が駆動される(ステップ12)。ステップ12の制御に際して、システム制御装置204は、水流発生装置の駆動開始指令、及び水流の流速情報(流速設定値)を水流制御装置203に出力する。更に、ステップ12で、駆動すべき水流発生装置の選択指令(水流発生装置107または108の選択指令)も出力される。水流発生装置の選択指令は、オペレータが入力装置からシステム制御装置204に入力した水流発生装置の選択情報に基づいて出力される。記憶装置205に記憶されている流速設定値は、検査対象領域Bの加熱量(レーザ光101aの強度)に基づいて定められている。水流制御装置203は、選択指令で指定された水流発生装置(例えば、水流発生装置107)を駆動開始指令及び流速設定値に基づいて制御する。これにより、水流発生装置107のファンが回転され、水流107aが発生する。水流制御装置203は、流速設定値に基づいて水流発生装置107のファンの回転数を制御し、水流107aの流速を流速設定値に調節する。水流制御装置203は、流速センサ109(水流発生装置107が選択された場合には、水流発生装置107の側に位置する流速センサ)で計測された流速計測値を入力し、この流速計測値が流速設定値になるようにフィードバック制御を実施する。水流107a,108aは反射光102bが通過する前方水領域内を流れる。
【0032】
ステップ12の後に、検査対象領域Bにレーザ光101aが照射される(ステップ13)。この制御は、システム制御装置204が、加熱用レーザ光の放出開始指令、及び加熱量の設定値(レーザ光強度の設定値)を出力することによって行われる。加熱量の設定値(レーザ光強度の設定値)は、検査対象物Aの表面からの深さ(深さ方向の検査範囲)に応じて決定される。加熱量の設定値を加熱用レーザ光の放出開始指令、及び加熱量の設定値を入力した加熱制御装置201は、放出開始指令及びレーザ光強度の設定値に基づいて、レーザ発振器101を制御する。レーザ発振器101は、レーザ光強度設定値に対応する強度のレーザ光101aを放出する。このレーザ光101aは、拡大光学系103を通って検査対象領域Bに照射され、検査対象領域Bを設定温度まで加熱する。ステップ13の後に、第2反射鏡の傾斜角度制御を行うステップ14の制御を実施する。具体的には、システム制御装置204は、水流発生装置の選択指令に基づいて欠陥検出制御装置202に第2反射鏡の角度制御指令を出力する。欠陥検出制御装置202は、その角度制御指令に基づいて微分画像生成装置のモーター117aまたはモーター117bの駆動を制御し、反射鏡114の傾斜角度を調節する。すなわち、反射鏡114は、水流の流れ方向において反射画像112aをずらすようにモーターによって回転させられる。例えば、水流発生装置107が選択されて駆動される場合には、欠陥検出制御装置202は、モーター117aを駆動させ、反射鏡114を回転させて傾斜させる。水流発生装置108が選択された場合には、欠陥検出制御装置202は、モーター117bを駆動させ、枠部材32を回転させて反射鏡114を傾斜させる。
【0033】
ステップ11,12,13及び14は、順番を入れ替えても、同時に行ってもかまわない。ステップ13のレーザ光101aの照射は、加熱量、加熱時間を制御する必要があるため、探傷部100が検査対象領域Bに対して前述のように位置決めされた後に行われる。
【0034】
検査対象領域Bがレーザ光101aの照射により設定温度まで上昇したとき、第1スペックルパターン画像の撮影が行われる(ステップ15)。すなわち、システム制御装置204は、温度センサ111の温度測定値と温度センサ110の温度測定値の差(加熱後の水流温度と加熱前の水流温度との差)が第1設定温度差(例えば、+10℃)になったとき、検査対象領域Bが第1設定温度まで加熱されたと判定する。システム制御装置204は、この判定により、欠陥検出制御装置202に第1画像撮影指令を出力する。水流発生装置107が駆動されているとき、水流107aの流れ方向に配置された温度センサ110、111からの温度計測値の差がシステム制御装置204で用いられる。水流発生装置107の駆動時には、微分画像生成装置において、検査対象領域Bで反射された反射光102bに基づいた第1スペックルパターン画像が得られる。本実施例で得られる第1スペックルパターン画像は、具体的には、水流107aの流れ方向にΔYだけずれた2つの反射画像112a,112bが干渉して得られる第1微分画像である。第1微分画像は、反射光102bに基づいて微分画像生成装置で生成される。画像撮影素子115は、その第1スペックルパターン画像、すなわち、第1微分画像を撮影する。第1微分画像の撮影中は、上記した温度計測値の差を第1設定温度差に保持するよう、加熱制御装置201がレーザ発信器101を制御してレーザ光101aの強度を制御する。
【0035】
なお、水流発生装置108の駆動時には、水流108aの流れ方向に配置された温度センサ110、111からの温度計測値の差が第1設定温度差になったとき、反射光102bに基づいて生成された第1スペックルパターン画像が画像撮影素子115で撮影される。この第1スペックルパターン画像は、水流108aの流れ方向にΔXだけずれた2つの反射画像112a,112bが干渉して得られる第1微分画像である。
【0036】
撮影された第1微分画像の情報は、画像取り込み装置206を介して解析装置207に入力される。解析装置207は第1微分画像情報を記憶装置205に、一旦、記憶させる。
【0037】
第1スペックルパターン画像の撮影が完了した後、加熱用レーザ光の照射が停止される(ステップ16)。システム制御装置204は、レーザ光101aの放出停止指令を加熱制御装置201に出力する。加熱制御装置201は、この放出停止指令に基づいてレーザ発信器101を制御し、レーザ光101aの放出を停止させる。このため、検査対象領域Bの加熱が終了し、水流107aによって検査対象領域Bが冷却され、検査対象領域Bの温度が低下する。温度センサ110、111からの2つの温度測定値の差が第2設定温度差(例えば、5℃)まで低下したとき、第2スペックルパターン画像の撮影が行われる(ステップ17)。画像撮影素子115による第2スペックルパターン画像の撮影は、上記した2つの温度測定値の差が第2設定温度差まで低下したとき、システム制御装置204が欠陥検出制御装置202に第2画像撮影指令を出力することによって行われる。第2スペックルパターン画像、すなわち、第2微分画像は、検査対象領域Bが低温状態になったときの第1微分画像に相当する。撮影された第2微分画像の情報は、第1微分画像情報と同様に、解析装置207に取り込まれ、記憶装置205に記憶される。第2スペックルパターン画像の撮影が終了した後、照明用レーザ光の照射及び駆動している水流発生装置の駆動を停止する(ステップ18)。システム制御装置204は、レーザ光102aの放出停止指令を照明制御装置に出力する。照明制御装置は、レーザ発振器102を制御し、レーザ光102aの放出を停止させる。また、システム制御装置204が水流発生装置の駆動停止指令を出力すると、水流制御装置203は駆動している水流発生装置を停止させる。
【0038】
なお、第1設定温度差から第2設定温度差近くまでの検査対象領域Bの温度を低下させる際に、水流制御装置203により水流発生装置のファンの回転数を増大させ、水流速度を乱流領域の速度まで増大させてもよい。温度センサ110と温度センサ111の温度計測値の差が第2設定温度差近くまで低下したとき、ファンの回転数を減少させ、水流を層流状態にする。その後、第2設定温度差になったとき、第2スペックルパターン画像の撮影を行う。検査対象領域Bの温度低下の際に、水流速度を乱流領域の速度まで増大させることにより、検査対象領域Bの冷却効果を高め、第2設定温度差まで温度を低下させる時間を短縮することができる。これは、欠陥検査に要する時間の短縮につながる。
【0039】
ステップ19では検査対象物Aの全検査対象範囲での欠陥検査が終了したかが判定される。全検査対象範囲での欠陥検査が終了していない場合(「Noの判定」)には、探傷部100が他の検査対象領域まで移動される(ステップ20)。システム制御装置204は、マニピュレータに移動指令を出力し、探傷部100を他の検査対象領域Bまで移動させる。その後、ステップ11〜18の制御が繰り返され、他の検査対象領域Bに対する欠陥検査が実施される。ステップ19の判定が「Yes」になったとき、検査対象物Aに対する欠陥検査が終了する。
【0040】
解析装置207は、記憶装置205に記憶した第1及び第2微分画像情報を取り込み、これらの情報の差分を計算することにより、検査対象領域Bの表面における歪み量分布の等高線画像情報(検査画像)302を作成する。この歪量分布の等高線画像情報(欠陥が存在する場合には、欠陥画像情報303を含む)は、スペックル干渉縞の画像情報である。第1及び第2微分画像の情報は、それぞれ、二重露光された反射画像112a,112bの干渉によって得られる干渉パターンの画像情報である。第1微分画像の情報(第1干渉パターンの画像情報)及び第2微分画像の情報(第2干渉パターンの画像情報)は、同一の検査対象領域Bで異なる熱歪みを発生させて得たものである。これらの微分画像の情報を用いることにより、熱歪みの微分値の経時変化を干渉パターンの位相変化として得ることができる。検査対象領域Bの、欠陥が存在する箇所では周囲と異なる局所的な熱歪みを生じるため、微分画像情報を用いることにより、レーザ光101aの照射によって生じる低周波の熱歪みを解析処理にて除去することができる。このため、欠陥部での局所的な熱歪みを画像化することができ(欠陥画像情報303の作成)、欠陥を精度良く抽出することができる。
【0041】
解析装置207は、作成した検査画像情報302を記憶装置205に記憶された各出力画像パターンと比較して、欠陥の有無を判定し、欠陥がある場合には欠陥の形状を特定する。更に、解析装置207は、システム制御手段204で設定された加熱量などの制御情報、流速センサ109及び温度センサ110の計測値を取り込む。解析装置207は、取り込んだこれらの情報を用いて検査対象領域Bの表層における温度分布を算出し、その温度分布と熱歪み量との関係に基づいて欠陥の大きさ及びその深さを算出する。
【0042】
解析装置207で生成された検査画像情報302、また、必要に応じて第1及び第2微分画像情報301が表示部300に出力され、表示部300に表示される。欠陥が存在する場合には、解析装置207で算出された欠陥の大きさ及びその深さの情報も表示部300に表示される。オペレータは、表示部300に表示された検査画像情報302を見ることにより、欠陥の有無、欠陥の形状、大きさ、深さ及び方位を把握することができる。
【0043】
き裂に対して直交する方向に水流を流した場合には、き裂に対して平行な方向に水流を流した場合に比べて表示部300に表示された画像内でき裂が見えやすくなり、き裂をより精度良く確認することができる。き裂に対して平行な方向に水流を流した場合は、水流を流さない場合よりもき裂を精度良く確認することができる。
【0044】
ステップ12の制御に基づいた水流発生装置107の駆動により発生した水流107aの方向がき裂と直交するか平行であるかは、解析装置207が判定することができる。その判定が可能な理由は、以下の通りである。水流の方向と同じである二重露光のずらし方向(反射画像112aに対する反射画像112bのずらし方向)がき裂と直交する場合、及び二重露光のずらし方向とき裂と平行な場合は、検査画像情報に含まれる欠陥画像情報により区別することができる。このため、二重露光のずらし方向がき裂と直交する場合の出力画像パターン、及び二重露光のずらし方向とき裂と平行な場合の出力画像パターンと、解析装置207で作成された検査画像情報302との比較により、水流の方向とき裂の方向との関係を判定することができる。二重露光のずらし方向がき裂と直交する場合の出力画像パターン、及び二重露光のずらし方向とき裂と平行な場合の出力画像パターンは、予め記憶装置205に記憶させる。
【0045】
この判定は、システム制御装置204が行う。システム制御装置204は、図6に示されていないが、ステップ18の処理とステップ19の処理との間で、その判定処理を行う。システム制御装置204は、記憶装置205から取り込んだ該当する出力画像パターンと解析装置207から入力した検査画像情報302を比較して水流の流れ方向とき裂の方向との関係を判定する。水流の流れ方向がき裂の方向と直交していると判定された場合には、ステップ19の処理が実行される。また、水流の流れ方向がき裂の方向と直交していると判定された場合には、ステップ11〜18の制御、及び上記した水流の流れ方向とき裂の方向の関係の判定処理が再実行される。この再実行でのステップ12の制御において、システム制御装置204は、前回とは異なる水流発生装置(例えば、水流発生装置108)を選択する選択指令を水流制御装置203に出力する。このため、き裂と直交する方向に水流を発生させる水流発生装置(例えば、水流発生装置108)が駆動される。また、ステップ14の制御によって、例えば、反射画像112aに対して反射画像112bをずらす方向を水流108aの流れ方向にするために、モーター117bが駆動されて回転軸116bが回転し、反射鏡114が該当する方向に傾斜される。
【0046】
本実施例は、上記した制御により、き裂と平行する方向に水流が発生した場合でも、上記した制御によりき裂と直交する方向の水流を発生する水流発生装置を駆動させることができる。上記した水流の流れ方向とき裂の方向の関係の判定処理の結果の情報は、表示部300に表示され、オペレータに知らせることができる。
【0047】
き裂に対して直交する方向に水流を流した場合には、き裂に対して平行な方向に水流を流した場合に比べて表示部300に表示された画像内でき裂が見えやすくなり、き裂をより精度良く確認することができる。き裂に対して平行な方向に水流を流した場合は、水流を流さない場合よりもき裂を精度良く確認することができる。
【0048】
本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
【0049】
本実施例は、水流発生装置107,108のいずれかを用いて反射光102bの通過領域(前方水領域)に水流107aまたは水流108aを発生させることができるので、検査対象領域Bに熱歪みを与えるために検査対象領域Bをレーザ光101aにより加熱しても前方水領域に存在する水の温度がより均一化される。すなわち、水中における反射光102bの経路での水の屈折率がより一様化される。このため、反射光102bに基づいて生成される第1及び第2微分画像情報は、従来のような不均一な水の屈折率の影響が著しく低減されてノイズが著しく低減され、検査対象領域Bの表面に生じる熱歪みの分布がそのまま反映された精度の高い画像となる。得られる第1及び第2スペックルパターン画像情報の精度が向上する。したがって、本実施例は、レーザ光を用いた水中での非破壊検査におけるき裂等の欠陥の有無を精度良く検出することができ、水中で実行する非破壊検査の検査精度を向上させることができる。本実施例は、シェアログラフィ法を水中の欠陥検査に適用した場合において、前述した新たな課題を改善することができ、水中で実行する非破壊検査の検査精度を向上させることができるのである。水流107a,108aを層流にすることにより、そのノイズを更に低減でき、欠陥の有無の検出精度を更に向上させることができる。水流107a,108aが乱流状態であっても、水流を流さないシェアログラフィ法による欠陥検査に比べて、前方水領域における水温の均一化が促進されるためき裂の有無を検出する精度が向上する。
【0050】
温度に対する水の屈折率変化は空気のそれに比べて大きい。前方水領域に水流を発生させない状態でシェアログラフィ法を水中の検査に適用する場合には、屈折率変化が無視できる程度にレーザ光101aの照射による検査対象領域Bでの加熱温度の上昇率を小さく抑える。このとき、検査対象領域Bにおける熱歪み量の変化が非常に小さくなる。そのため、シェアログラフィ法で計測可能な熱歪みの変位差になるまで、加熱後に、時間をかけて検査対象物Aをゆっくりと放熱させる必要がある。これでは、欠陥検査に要する時間が非常に長くなり、迅速な検査が不可能になる。本実施例は、検査対象領域Bを加熱した状態で前方水領域に水を流して前方水領域の温度分布をより均一化しているため、検査対象領域Bの加熱時における温度上昇率及び冷却時における温度低下率を大きくすることが可能である。したがって、本実施例は、検査対象領域Bの加熱及び冷却に要する時間を短縮することができ、水中での欠陥検査を寄り短時間で行うことができる。
【0051】
本実施例は、水流発生装置107,108を備えてそれらを選択して駆動させることができるので、検査対象物Aに存在するき裂の方向によらず得られる微分画像の感度を向上させることができる。このため、作成した検査画像302においてき裂をより鮮明に見ることができる。これは、き裂と直交する方向に水を流したほうが、き裂が見えやすくなるからである。
【0052】
本実施例は、反射光102bを検査対象物Aの表面に沿ってずらした二重露光によって生成された微分画像の情報を用いた、解析装置20での解析処理において、レーザ光101aの照射によって生じる低周波の熱歪みを除去することができる。このため、欠陥部での局所的な熱歪みを画像化することができ、欠陥を精度良く抽出することができる。
【0053】
また、本実施例は、回転調節装置30により反射鏡114の傾斜角を調節できるので、反射光102bを水流107aまたは水流108aの流れ方向にずらした二重露光を行うことができる。具体的には、反射画像112aと反射画像112bを水流の流れ方向にずらして二重露光を行う。この二重露光により、水流内での光の屈折率の不均一性がより軽減されてほとんどノイズを含まない微分画像の情報を得ることができる。このため、欠陥の検出精度が更に向上する。回転調節装置30及び反射鏡113,114が、反射光102bを水の流れ方向にずらすことによって二重露光を行う手段である。
【0054】
本実施例は、水流制御装置203が検査対象領域Bの加熱量に対応して設定された流速設定値に基づいて水流の流速を制御するため、加熱量が大きくて前方水領域の水温の不均一性が高くなる場合には水流の流速を速くすることができる。このように流速が制御できるので、加熱量の大小にかかわらず、前方水領域の水温をより均一化できる。
【0055】
本実施例は、水流の流れ方向がき裂と平行であった場合でも、き裂と直交する方向に水流を発生する水流発生装置を駆動させて欠陥検査を行うことができる。このため、き裂と直交する方向に水流を発生でき、き裂をより精度良く確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の好適的な一実施例である水中欠陥検査装置の構成図である。
【図2】図1に示す水流発生装置の配置例を示す説明図である。
【図3】図1に示す欠陥検出装置の詳細構成を示し、(a)は欠陥検出装置を上方から見た構成図、(b)は欠陥検出装置で得られる2つの反射画像の配置を示す説明図である。
【図4】図3に示す欠陥検出装置の微分画像生成装置の詳細構成図である。
【図5】図1に示すシステム制御装置で用いられる制御指標情報の一例を示す説明図である。
【図6】図1に示すシステム制御装置で実行される制御プログラムの内容を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1…水中欠陥検査装置、30…回転調節装置、32…枠部材、100…探傷部、101,102…レーザ発振器、105…欠陥検出装置、106…水封容器、107、108…水流発生装置、109…流速センサ、110,111…温度センサ、112…分光素子、113…反射鏡(第1反射鏡)、114…反射鏡(第2反射鏡)、115…画像撮影素子(画像撮影装置)、116a,116b…回転軸、117a,117b…モーター(回転駆動装置)、201…加熱制御装置、202…欠陥検出制御装置、203…水流制御装置、204…システム制御装置(中央制御装置)、206…画像取り込み装置、207…解析装置(画像処理装置)、300…表示部(表示装置)、A…検査対象物、B…検査対象領域、C…欠陥。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に存在する検査対象物を加熱する加熱手段と、前記検査対象物にレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、前記レーザ光の照射で前記検査対象物から反射される反射光によって生成されるスペックルパターン画像を撮影する画像撮影手段と、前記反射光の通過領域に水を流す水流発生装置と、前記レーザ光の照射によって生成される第1の前記スペックルパターン画像の撮影、及び前記第1のスペックルパターン画像を得る温度と異なる前記検査対象物の温度において前記レーザ光の照射によって生成される第2の前記スペックルパターン画像の撮影を指示する制御指令を、画像撮影手段に出力する制御装置と、前記第1スペックルパターン画像情報及び前記第2スペックルパターン画像情報を用いて前記検査対象物のスペックル干渉縞の画像情報を生成する画像情報作成装置とを備えたことを特徴とする水中欠陥検査装置。
【請求項2】
前記水流発生装置は、少なくとも、前記検査対象物の表面に沿ったある一方向に水流を発生させる第1水流発生手段、及び前記一方向と交差する他の方向に水流を発生させる第2水流発生手段を含んでいる請求項1記載の水中欠陥検査装置。
【請求項3】
前記第1水流発生手段及び前記第2水流発生手段のうち選択されたいずれか一方を駆動させる他の制御装置を含んでいる請求項2記載の水中欠陥検査装置。
【請求項4】
前記反射光を前記検査対象物の表面に沿ってずらして二重露光させて前記第1スペックルパターン画像情報及び前記第2スペックルパターン画像情報である微分画像情報を生成する微分画像情報生成装置を備えた請求項1または請求項2記載の水中欠陥検査装置。
【請求項5】
前記微分画像情報生成装置は、前記反射光を前記水の流れ方向にずらすことによって前記二重露光を行う手段を有する請求項4記載の水中欠陥検査装置。
【請求項6】
前記他の制御装置は、前記水の流速を前記検査対象物の加熱量に基づいて制御する請求項3記載の水中欠陥検査装置。
【請求項7】
水中の検査対象物を加熱する工程と、前記検査対象物の表面前方で水を流す工程と、前記水が流れている状態で加熱された前記検査対象物にレーザ光を照射する工程と、前記レーザ光の照射で前記検査対象物から反射される反射光によって生成される第1スペックルパターン画像を撮影する工程と、前記第1スペックルパターン画像を得る温度と異なる前記検査対象物の温度状態において前記検査対象物から反射される前記反射光によって生成される第2スペックルパターン画像を撮影する工程と、前記第1スペックルパターン画像の情報及び前記第2スペックルパターン画像の情報を用いて前記検査対象物のスペックル干渉縞の画像情報を生成する工程とを備えたことを特徴とする水中欠陥検査方法。
【請求項8】
前記第1及び第2スペックルパターン画像情報は、それぞれ、前記レーザ光の照射によって生じる反射光を、前記検査対象物の表面に沿ってずらして二重露光することによって得る微分画像情報である請求項7記載の水中欠陥検査方法。
【請求項9】
前記二重露光は、前記レーザ光の照射によって生じる反射画像を前記水の流れ方向にずらすことによって行う請求項8記載の水中欠陥検査方法。
【請求項10】
前記水の流れは、少なくとも、前記検査対象物の表面に沿ったある一方向とこの一方向と交差する他の方向に発生させ、それぞれの状態で前記第1及び第2スペックルパターン画像の撮影を行う請求項7記載の水中欠陥検査方法。
【請求項11】
前記水の流速を前記検査対象物の加熱量に基づいて制御する請求項7または請求項8記載の水中欠陥検査方法。
【請求項12】
前記水は前記反射光が通過する領域内を流れる請求項8記載の水中欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−315964(P2007−315964A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147077(P2006−147077)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】