説明

水中油型乳化組成物及びそれを含有する食品

【課題】トランス脂肪酸(TFA)を実質的に含まず、高油分であっても乳化安定性が高く、ホイップ性が良好な水中油型乳化組成物の提供。
【解決手段】水中油型乳化物P[油脂A(全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂)を含有し、植物油脂由来の全油脂成分中における、油脂A含量が40〜100質量%、XOX型トリアシルグリセロール(TAG)含量が30質量%未満という条件を満たす水中油型乳化物]と水中油型乳化物Q[油脂F(XOX型TAGを30質量%以上含有する油脂)を含有し、植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型TAG含量が30〜80質量%という条件を満たす水中油型乳化物]とをP/Q(質量比)=90/10〜10/90で混合して得られ、全油脂成分中における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の割合が5質量%未満である水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に製菓、製パン領域で使用されるクリーム、特にホイップクリームとして用いられる水中油型乳化組成物であって、トランス脂肪酸を実質的に含まず、高油分であっても乳化安定性が高く、口溶け、起泡性、保形性等のホイップ特性が良好な水中油型乳化組成物及びそれを含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に製菓、製パン領域で使用されるクリーム、特にホイップクリームとして用いられる水中油型乳化物としては、従来、生乳から乳脂肪を分離して製造される天然の生クリームが用いられてきた。しかしながら、生クリームは、風味の点で他に類するものがない程優れてはいるものの、ホイップ前の乳液状態では、保存中の品温の上昇や輸送中の振動によって、いわゆるボテと呼ばれる急激な粘度の上昇や固化が起こり易く、取り扱い面で難点があった。また、生クリームは、原料である生乳の品質が季節変動を受けやすく、さらに価格的に高価である等の問題点があった。
このため、比較的低価格で、入手し易く、比較的品質の安定した水中油型乳化物として、乳脂肪の一部を植物性油脂に置き換えたコンパウンドタイプの水中油型乳化物や乳脂肪の全てを植物性油脂に置き換えた植物性タイプの水中油型乳化物が開発されてきた。
【0003】
植物性タイプの水中油型乳化物に用いられる植物性油脂としては、炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸を多く含むヤシ油、パーム核油等のラウリン系油脂、パーム油、菜種油等の炭素数16以上の脂肪酸を多く含む植物油脂、これら植物油脂の硬化油、分別油、これらの混合油等が挙げられる。
【0004】
ラウリン系油脂のみを用いて得られる水中油型乳化物は、口溶けが非常に良い反面、温度変化により増粘しやすく、作業に適した適度な起泡、硬度を保つことが難しいという問題がある。また、ラウリン系油脂のみを用いて得られる水中油型乳化物は、脂肪分を低く設定すると、水中油型乳化物の製造は可能となるが、クリーム、特にホイップクリームとして用いた場合、ホイップ後のホイップクリームの物性として腰が弱い、保形性が乏しい等の問題が依然として残っていた。
【0005】
一方、ラウリン系油脂とパーム油、菜種油等の炭素数16以上の脂肪酸を多く含む植物油脂の硬化油を併用して得られる水中油型乳化物は、口溶け、乳化安定性、保形性のバランスが良いことから、従来、クリーム、特にホイップクリームとして広く流通してきた(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、近年、硬化油に含まれるトランス脂肪酸が栄養学的に好ましくないという学説が出てきて、米国では一定基準以上のトランス酸を含む食品には表示の義務が課されるなど、トランス脂肪酸を低減した油脂含有食品が社会的に求められる様になってきた。従って、クリーム、特にホイップクリームに用いられる水中油型乳化物に関しても、トランス脂肪酸を含有する植物油脂の硬化油を使用しないことが求められるようになってきた。
【0006】
トランス脂肪酸を実質上含有しない水中油型乳化物としては、ラウリン系油脂とパーム油の中融点分別油を併用したタイプ等が考案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、ラウリン系油脂とパーム油の中融点分別油を併用して得られる水中油型乳化物はトランス脂肪酸を実質的に含まないが、油分を多く含む高油分の配合において、特に乳化安定性に問題があり、実用上満足できるものではなかった。よって、油分を多く含む高油分のクリーム、特にホイップクリームに用いられる水中油型乳化物は、美味しさの面では非常に有利であるが、依然として品質上、満足のいくものはなかった。
【0007】
従って、トランス脂肪酸を実質的に含まず、高油分であっても乳化安定性が高く、口溶け、起泡性、保形性等のホイップクリーム性が良好であるクリーム、特にホイップクリームに用いられる水中油型乳化物の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平10−75729号公報
【特許文献2】特開2002−34450号公報
【特許文献3】特開平5−219887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、主に製菓、製パン領域で使用されるクリーム、特にホイップクリームとして用いられる水中油型乳化組成物であって、トランス脂肪酸を実質的に含まず、高油分であっても乳化安定性が高く、口溶け、起泡性、保形性等のホイップクリーム性が良好な水中油型乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、2種の異なる特定の水中油型乳化物を特定の割合で混合して得られる水中油型乳化組成物によって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
かかる本発明は、下記水中油型乳化物Pと下記水中油型乳化物QとをP/Q(質量比)=90/10〜10/90で混合して得られる水中油型乳化組成物であって、該水中油型乳化組成物の全油脂成分中における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の割合が5質量%未満である該水中油型乳化組成物:
水中油型乳化物P
下記油脂Aを含有し、下記(a)及び(b)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂A:全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂
(a)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における油脂Aの含量が40〜100質量%、
(b)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロール(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)の含量が30質量%未満、
水中油型乳化物Q
下記油脂Fを含有し、下記(c)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂F:XOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)
(c)水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロールの含量が30〜80質量%、
に関する。
本発明の水中油型乳化組成物において、油脂Aは、主として、冷涼感のある良好な口溶けに寄与し、水中油型乳化物QにおけるXOX型トリアシルグリセロール含量条件は、主として、良好な乳化安定性及び良好な保形性に寄与する。油脂Fは上記XOX型トリアシルグリセロール含量条件を達成するために使用する。
【0011】
本発明の水中油型乳化組成物における水中油型乳化物Pは油脂A以外に、下記油脂B、下記油脂C、下記油脂E及び/又は乳脂肪を含有することができる。
すなわち、本発明はまた、水中油型乳化物Pが下記油脂B、下記油脂C、下記油脂E及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(d)及び(e)の条件を満たす前記水中油型乳化組成物:
油脂B:液体油
油脂C:下記油脂Dをエステル交換反応に付して得られるエステル交換油
油脂D:全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%以上75質量%未満、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量が25質量%以上70質量%未満である油脂、
油脂E:10℃、20℃及び35℃における固体脂含量がそれぞれ50%以上100%未満、20%以上90%未満、及び6%未満であるパーム油の中融点分別油及び/又はパーム油、
(d)含まれる場合の油脂B、油脂C及び油脂Eの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜25質量%、0〜40質量%及び0〜40質量%、
(e)乳脂肪の、水中油型乳化物Pの全油脂成分中における含量が0〜60質量%、
に関する。
本発明の、この態様の水中油型乳化組成物において、油脂Bは、主として、良好な乳化安定性に寄与し、油脂Cは、主として、良好な乳化安定性に寄与し、油脂Eは、主として、良好な口溶けに寄与し、乳脂肪は、主として、良好な風味及び良好な口溶けに寄与する。
【0012】
本発明の水中油型乳化組成物における水中油型乳化物Qは油脂F以外に、油脂A、油脂C及び/又は乳脂肪を含有することができる。
すなわち、本発明はまた、水中油型乳化物Qが前記油脂A、前記油脂C及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(f)及び(g)の条件を満たす前記水中油型乳化組成物:
(f)含まれる場合の油脂A及び油脂Cの、水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜39質量%及び0〜20質量%、
(g)含まれる場合の乳脂肪の、水中油型乳化物Qの全油脂成分中における含量が0〜60質量%、
に関する。
本発明の、この態様の水中油型乳化組成物において、油脂A、油脂C及び乳脂肪は、前記と同様に、すなわち、油脂Aは、主として、離水の抑制及び良好な保形性に寄与し、油脂Cは、主として、良好な乳化安定性に寄与し、乳脂肪は、主として、良好な風味及び良好な口溶けに寄与する。
【0013】
本発明の水中油型乳化組成物において、油脂Cの原料として用いる油脂Dは、特に限定される訳ではないが、ヨウ素価55〜71のパーム油の分別油であることが好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物は、また、油脂成分として乳脂肪を含有することができ、この乳脂肪は、水中油型乳化物P及び/又は水中油型乳化物Qに配合することによって含有させても、水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとの混合時にクリーム形態として、すなわち生クリームとして添加しても、それらの併用であってもよい。乳脂肪を含有させる場合、本発明の水中油型乳化組成物の全油脂成分中における乳脂肪の含量は10〜90質量%であることが好ましい。本発明の、この態様の水中油型乳化組成物において、乳脂は、主として、良好な風味及び良好な口溶けに寄与する。
本発明の水中油型乳化組成物はクリームであることが好ましく、ホイップクリームであることがより好ましい。
本発明は、また、前記水中油型乳化組成物を用いた食品に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主に製菓、製パン領域で使用されるクリーム、特にホイップクリームとして用いられる水中油型乳化組成物において、トランス脂肪酸を実質的に含まず、高油分であっても乳化安定性が高く、口溶け、起泡性、保形性等のホイップクリーム性が良好な水中油型乳化組成物を提供することができる。
また、水中油型乳化物Pと下記水中油型乳化物Qとを混合して得られる本発明の水中油型乳化組成物は、水中油型乳化物Pに含まれる油脂成分と水中油型乳化物Qに含まれる油脂成分の混合油を乳化することにより得られる水中油型乳化物よりも、ホイップクリーム性(オーバーラン、ホイップ時間、保形性、造花性、離水、口溶け、硬度変化及び凍結解凍耐性)において優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の水中油型乳化組成物における水中油型乳化物Pについて説明する。
<<水中油型乳化物P>>
本発明で使用する水中油型乳化物Pは、下記油脂Aを含有し、下記(a)及び(b)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂A:全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂
(a)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における油脂Aの含量が40〜100質量%、
(b)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロール(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)の含量が30質量%未満、
である。
【0016】
<植物油脂由来の油脂成分>
本発明において、植物油脂由来の油脂成分は、植物油脂自体はもちろんのこと、植物油脂を原料としてエステル交換等の加工処理を施して得られる油脂も含む概念として用いる。後述する水中油型乳化物Pの油脂成分として使用される油脂A、油脂B、油脂C及び油脂E並びに油脂Cの製造に使用される油脂Dは、植物油脂由来の油脂成分である。
水中油型乳化物Pの全油脂成分中における植物油脂由来の油脂成分の合計含量は40〜100質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがより一層好ましい。
なお、本発明において植物油脂由来の全油脂成分とは、含まれる植物油脂由来の油脂成分の合計を意味する。また、本発明において全油脂成分とは、含まれる全ての油脂成分の合計を意味する。
【0017】
<油脂A>
油脂Aは全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂である。
油脂Aとしては、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油、並びにラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種を含有する油脂をエステル交換反応に付して得られるエステル交換油よりなる群から選ばれる少なくとも1種の油脂であって、ラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂が使用される。
ラウリン系油脂とは、油脂を構成する脂肪酸が炭素数12の飽和脂肪酸であるラウリン酸に富んだ油脂の総称である。ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油等が挙げられる。油脂Aとしては、ラウリン系油脂を分別して得られるラウリン系油脂の分別油やラウリン系油脂を極度に水素添加して得られる極度硬化油(実質的にトランス脂肪酸を含有していない)、例えばパーム核油の極度硬化油も使用することができる。油脂Aとしては、さらに、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種を含有する油脂をエステル交換反応に付して得られるエステル交換油も使用することができる。ここで、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種を含有する油脂は、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種、及びラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種と他の油脂との混合油を包含する。他の油脂としては特に制限されないが、例えば、パーム油、パーム油の極度硬化油、パーム油の分別油(パームステアリン等)、パーム油の分別油の極度硬化油(パームステアリンの極度硬化油等)、大豆油の極度硬化油、菜種油の極度硬化油等を挙げることができる。これらの内でパーム油の極度硬化油が好ましい。ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種と他の油脂との混合油の場合、両者の混合比は、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種:他の油脂との質量比として、80:20〜20:80であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましく、60:40〜40:60であることがより一層好ましい。また、ラウリン系油脂、ラウリン系油脂の分別油及びラウリン系油脂の極度硬化油の少なくとも1種と他の油脂との好ましい組合せとしてはパーム核油の極度硬化油とパーム油の極度硬化油との組合せが挙げられる。
【0018】
本発明において油脂Aの全構成脂肪酸中におけるラウリン酸含量は、15質量%以上であることが必要であり、20質量%以上であることが好ましい。該ラウリン酸含量の上限については特に制限はないが、入手可能性等を考慮すると、上限は、せいぜい60質量%程度であり、より実際的には50質量%程度である。
本発明の水中油型乳化組成物において、油脂Aは、主として、冷涼感のある良好な口溶けに寄与する。
【0019】
水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における油脂Aの含量は40〜100質量%であることが、油脂Aの上記作用を発揮させるために必要であり、50〜100質量%であることが好ましく、61〜98質量%であることがより好ましく、61〜80質量%であることがより一層好ましく、61〜70質量%であることが最も好ましい。
【0020】
<XOX型トリアシルグリセロール含量>
水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロール(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)の含量は、30質量%未満であることが必要であり、25質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましい。
XOX型トリアシルグリセロールについての詳細な説明は、水中油型乳化物Qの説明のところで行う。
上記条件によって、水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとは、明確に区別され、それぞれの働き/効果を達成し得る。
【0021】
<固体脂含量>
水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分の10℃、15℃及び30℃における固体脂含量は、それぞれ50〜80%、35〜70%及び0〜8%であることが好ましく、それぞれ50〜80%、40〜70%及び1〜8%であることがより好ましく、それぞれ55〜80%、42〜68%及び1〜6%であることがより一層好ましい。上記固体脂含量条件は、主として、良好な口溶けに寄与する。
固体脂含量は、例えば、社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9−2003 固体脂含量(NMR法)に従って測定することができる。
<トランス脂肪酸含量>
水中油型乳化物Pの全油脂成分中における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の割合は、トランス脂肪酸量を低減させるという本発明の趣旨から、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがより一層好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0022】
<水中油型乳化物Pにおける任意的油脂成分>
本発明における水中油型乳化物Pは、下記油脂B、下記油脂C、下記油脂E及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(d)及び(e)の条件を満たす水中油型乳化物であることが、本発明の水中油型乳化組成物において、これらの油脂の特長を加味できる点から、好ましい。
油脂B:液体油
油脂C:下記油脂Dをエステル交換反応に付して得られるエステル交換油
油脂D:全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%以上75質量%未満、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量が25質量%以上70質量%未満である油脂、
油脂E:10℃、20℃及び35℃における固体脂含量がそれぞれ50%以上100%未満、20%以上90%未満、及び6%未満であるパーム油の中融点分別油及び/又はパーム油、
(d)含まれる場合の油脂B、油脂C及び油脂Eの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜25質量%、0〜40質量%及び0〜40質量%、
(e)含まれる場合の乳脂肪の、水中油型乳化物Pの全油脂成分中における含量が0〜60質量%。
【0023】
<油脂B>
油脂Bは、液体油である。本発明において、液体油とは、常温(25℃)で流動性を有する植物油脂を言い、好ましくは5℃において流動性を有する植物油脂を言う。さらに好ましくは、冷却試験(基準油脂分析試験法2.2.8.1−1996 冷却試験(その1))において、0℃で5時間以上清澄(透明)な植物油脂である。かかる液体油の例としては、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、米油、オリーブ油、落花生油及び亜麻仁油等、並びにそれらの各単独油又は混合油の水素添加油、それらの各単独油又は混合油をエステル交換反応に付して得られるエステル交換油、それらの各単独油又は混合油の分別油等の加工油などが挙げられる。
油脂Bの配合によって、本発明の水中油型乳化組成物、特にクリームは乳化安定性が良くなり、また、ホイップ後の保形性や離水の経時変化が少なくなることにより使い勝手が良くなる。
油脂Bの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量は、0〜25質量%であることが通常であり、1〜25質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることがより一層好ましい。
【0024】
<油脂C>
<油脂D>
油脂Cは、下記油脂Dをエステル交換反応に付して得られるエステル交換油である。
油脂Dは、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%以上75質量%未満であって、かつ、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量が25質量%以上70質量%未満である油脂である。全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸の含量は、25質量%以上70質量%未満であることが好ましく、30質量%以上70質量%未満であることがより好ましい。全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸の含量は、25質量%以上65質量%未満であることが好ましく、30質量%以上65質量%未満であることがより好ましい。
油脂Dについての、全構成脂肪酸中における、炭素数16以上の飽和脂肪酸の含量が20質量%以上75質量%未満であって、かつ、炭素数16以上の不飽和脂肪酸の含量が25質量%以上70質量%未満である油脂であるという条件が満たされる場合には、得られる油脂組成物中における3飽和脂肪酸のトリアシルグリセロール(トリアシルグリセロールに結合する3つの脂肪酸が全て飽和脂肪酸であるトリアシルグリセロール)の生成量が抑えられ、本発明の水中油型乳化組成物が蝋感のない良好な口溶けのものとなり、また、良好な風味を有するものとなる。
【0025】
油脂Dの具体例としては、パーム油やパーム油に分別処理(自然分別、溶剤分別、界面活性剤等)を施して得られるパーム油の分別油等が挙げられる。油脂Dは各単独で又は上記飽和及び不飽和脂肪酸含量の条件を満たす限り2種以上混合して用いることができる。油脂Dとしては、ヨウ素価25〜75のパーム油の分別油が好ましく、ヨウ素価55〜71のパーム油の分別油(パームオレインと呼ばれることもある)やヨウ素価25〜49のパーム油の分別油(パームステアリンと呼ばれることもある)がより好ましく、ヨウ素価55〜71のパーム油の分別油がより一層好ましい。
【0026】
油脂Cを使用した場合、本発明における水中油型乳化物Pひいては本発明の水中油型乳化組成物において、油脂Cは主として良好な乳化安定性に寄与する。パーム油やパーム油の分別油、特にヨウ素価55〜71のパーム油の分別油をエステル交換反応に付して得られた油脂Cを使用すると、得られる水中油型乳化物Pひいては本発明の水中油型乳化組成物の乳化安定性がより良好なものとなる。
油脂Cの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量は、0〜40質量%であることが通常であり、10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがより一層好ましい。
【0027】
<油脂E>
油脂Eは、10℃、20℃及び35℃における固体脂含量がそれぞれ50%以上100%未満、20%以上90%未満、及び6%未満であるパーム油の中融点分別油(パームミッドフラクション、PMFと呼ばれることもある)及び/又はパーム油である。パーム油の中融点分別油とは、パーム油に分別処理(自然分別、溶剤分別、界面活性剤分別等)を施して得られる軟質部を、さらに分別処理を施して得られる硬質部のことを意味する。上記パーム油の中融点分別油とパーム油は、2種を併用して使用することもできる。
油脂Eの固体脂含量は、10℃で50%以上95%未満、20℃で20%以上85%未満、35℃で5%未満であることが好ましく、10℃で50%以上90%未満、20℃で20%以上80%未満、35℃で4%未満であることがより好ましい。
油脂Eを配合した場合、本発明の水中油型乳化組成物、特にクリームにおいて、油脂Eはホイップクリームの良好な保形性及び良好な口溶けに寄与する。また、ホイップクリームの口溶けは、冷涼感のあるものとなる。
油脂Eの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量は、0〜40質量%であることが通常であり、10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがより一層好ましい。
<乳脂肪>
乳脂肪を配合した場合、本発明の水中油型乳化組成物、特にクリームにおいて、乳脂肪はホイップクリームの良好な風味及び良好な口溶けに寄与する。乳脂肪の、水中油型乳化物Pの全油脂成分中における含量は、0〜60質量%であることが通常であり、10〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0028】
<その他の油脂>
本発明における水中油型乳化物Pは上記した油脂以外の油脂、例えば後述する水中油型乳化物Qで使用する油脂Fを、上記した油脂の効果等を損わない範囲内で含有していてもよい。
【0029】
<水中油型乳化物Pの油脂成分含量>
本発明における水中油型乳化物Pは、乳化安定性、口溶け及び風味を良好にする観点から、油脂成分を、20〜50質量%含有することが好ましく、30〜50質量%含有することがより好ましく、40.5〜50質量%含有することがより一層好ましい。
【0030】
<水中油型乳化物Pにおける油脂以外の成分>
本発明における水中油型乳化物P及び後述する水中油型乳化物Qには、油脂成分以外の成分として、通常、水中油型乳化物に配合される成分、例えば乳化剤、無脂乳固形分、糖類、安定剤、塩類等を適量配合することができる。
乳化剤としては、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル等の従来公知の乳化剤が挙げられる。
無脂乳固形分としては、例えば、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、カゼインナトリウム等が挙げられる。無脂乳固形分は、一部を植物性蛋白で置換して利用することもできる。
糖類としては、例えば、グルコース、マルトース、ソルビトール、シュークロース、ラクトース等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、キサンタンガム、グアールガム等が挙げられる。
塩類としては、例えば、メタリン酸ナトリウム、リン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0031】
<水中油型乳化物Pの配合組成>
本発明における水中油型乳化物Pの配合組成は、例えば、好ましくは油脂成分20〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水43.0〜76.55質量%、塩類0.05〜0.30質量%であり、より好ましくは油脂成分30〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水44.25〜65.55質量%、塩類0.05〜0.20質量%であり、より一層好ましくは油脂成分40.5〜50質量%、無脂乳固形分4〜5質量%、乳化剤0.4〜0.6質量%、水44.25〜55.05質量%、塩類0.05〜0.15質量%である。
また、水中油型乳化物Pには、必要に応じて、糖類、安定剤、香料等を添加することができる。
【0032】
<水中油型乳化物Pの製造>
本発明における水中油型乳化物Pの製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法で製造することができる。例えば、油脂成分を含む油相と水相をそれぞれ調製した後、油相と水相を混合し、得られる乳化物を均質化処理することにより製造することができる。また、必要に応じて殺菌処理することもできる。均質化処理は、殺菌処理の前に行う前均質であっても、殺菌処理の後に行う後均質であってもよく、また、前均質及び後均質の両者を組み合わせた二段均質を行うこともできる。
【0033】
油脂成分として乳脂肪を配合する場合は、乳脂肪を配合した油相と水相を乳化することにより製造することができる。また、生クリーム(乳脂肪のみから製造されるクリーム)を水相に配合し、さらにこの水相と油相とを乳化することでも製造することができる。さらに、油相と水相を乳化して得られる乳化物と生クリームを混合することでも製造することができる。
【0034】
<<水中油型乳化物Q>>
本発明で使用する水中油型乳化物Qは、下記油脂Fを含有し、下記(c)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂F:XOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)
(c)水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロールの含量が30〜80質量%、
である。
【0035】
<植物油脂由来の油脂成分>
後述する、水中油型乳化物Qの油脂成分として使用される油脂F、油脂A及び油脂C並びに油脂Cの製造に使用される油脂Dは、植物油脂由来の油脂成分である。
水中油型乳化物Qの全油脂成分中における植物油脂由来の油脂成分の合計含量は40〜100質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがより一層好ましい。
【0036】
<油脂F>
油脂FはXOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)である。油脂Fは本発明における水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中のXOX型トリアシルグリセロールの含量を特定範囲(30〜80質量%)に保つために使用する。
Xは炭素数16以上の飽和脂肪酸であればよいが、炭素数16〜22の飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数16〜18の飽和脂肪酸であることがより好ましい。具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等が挙げられる。
かかる油脂F中のXOX型トリアシルグリセロールの含量は30質量%以上であることが必要であり、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。油脂F中のXOX型トリアシルグリセロールの含量の上限については特に制限はないが、入手可能性等を考慮すると、上限は、実際的には80質量%程度である。
XOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂の具体例としては、パーム油、パーム油の分別油(パームオレイン、スーパーオレイン)、パーム油の中融点分別油(PMF、ハードPMF)等が挙げられる。XOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂は各単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。パーム油の中融点分別油は、10℃での固体脂含量が60%以上100%未満、20℃での固体脂含量が30%以上90%未満、35℃での固体脂含量が5%未満であることが好ましい。
【0037】
<XOX型トリアシルグリセロール含量>
水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロールの含量は、30〜80質量%であることが、下記観点から、必要であり、35〜70質量%であることが好ましく、40〜59質量%であることがより好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物において、XOX型トリアシルグリセロールは、主として、良好な保形性及び良好な口溶けに寄与する。
【0038】
<トランス脂肪酸含量>
水中油型乳化物Qの全油脂成分中における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の割合は、トランス脂肪酸量を低減させるという本発明の趣旨から、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがより一層好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0039】
<水中油型乳化物Qにおける任意的油脂成分>
本発明における水中油型乳化物Qは、前記油脂A、前記油脂C及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(f)及び(g)の条件を満たす水中油型乳化物であることが、本発明の水中油型乳化組成物において、これらの油脂の特長を加味できる点から、好ましい。
油脂A:全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂(水中油型乳化物Pにおける油脂Aと同じ;ただし、このことは水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとで同じ具体的油脂Aを使用することを表明するものではない)
油脂C:下記油脂Dをエステル交換反応に付して得られるエステル交換油(水中油型乳化物Pにおける油脂Cと同じ;ただし、このことは水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとで同じ具体的油脂Cを使用することを表明するものではない)
油脂D:全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%以上75質量%未満、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量が25質量%以上70質量%未満である油脂(水中油型乳化物Pにおける油脂Dと同じ;ただし、このことは水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとで同じ具体的油脂Dを使用することを表明するものではない)、
(f)含まれる場合の油脂A及び油脂Cの、水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜39質量%及び0〜20質量%、
(g)含まれる場合の乳脂肪の、水中油型乳化物Qの全油脂成分中における含量が0〜60質量%。
【0040】
油脂A、油脂C、油脂D及び乳脂肪についての詳細な説明、及びこれらの油脂の効能は、水中油型乳化物Pの説明におけるものと同様である。
油脂Aの、水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中における含量は、0〜39質量%であることが通常であり、1〜39質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましく、1〜4質量%であることがより一層好ましい。
油脂Cの、水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中における含量は、0〜20質量%であることが通常であり、10〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
乳脂肪の、水中油型乳化物Qの全油脂成分中における含量は、0〜60質量%であることが通常であり、10〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0041】
<その他の油脂>
本発明における水中油型乳化物Qは上記した油脂以外の油脂を、上記した油脂の効果等を損わない範囲内で含有していてもよい。
【0042】
<水中油型乳化物Qの油脂成分についての任意的要件>
水中油型乳化物Qにおける植物油脂由来の全油脂成分中のX2O型トリアシルグリセロールの含量は、44質量%以上68質量%未満であることが好ましく、44〜60質量%であることがより好ましく、48〜55質量%であることがより一層好ましい。X2O型トリアシルグリセロールの含量とは、XOX型トリアシルグリセロールの含量とXXO型トリアシルグリセロールの含量の合計を意味する。XXO型トリアシルグリセロールとは、トリアシルグリセロールの1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がXであり、3位又は1位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロールのことを意味する(X及びOはXOX型トリアシルグリセロールにおけると同義)。
水中油型乳化物Qにおける植物油脂由来の全油脂成分中のX2O型トリアシルグリセロールの含量に対するXXO型トリアシルグリセロールの含量の比(XXO/X2O)は、0.11以上0.15未満であることが好ましく、0.12〜0.14であることがより好ましい。
【0043】
水中油型乳化物Qにおける植物油脂由来の全油脂成分の固体脂含量は10℃で60〜90%、15℃で40〜80%、30℃で1〜10%であることが好ましく、10℃で60〜80%、15℃で40〜70%、30℃で1〜8%であることがより好ましく、10℃で60〜70%、15℃で40〜60%、30℃で4〜8%であることがより一層好ましい。上記固体脂含量が上記必要範囲内にあると、得られる水中油型乳化組成物の口溶け及び保形性が良好なものとなる。
【0044】
水中油型乳化物Qに含まれる植物油脂由来の全油脂成分の全構成脂肪酸中におけるラウリン酸含量は、0.2〜2質量%であることが好ましく、0.3〜2質量%であることがより好ましく、0.5〜2質量%であることがより一層好ましく、1〜2質量%であることが最も好ましい。
【0045】
<水中油型乳化物Qにおける油脂以外の成分>
水中油型乳化物Qにおける油脂以外の成分は水中油型乳化物Pにおけるものと同様である。
<水中油型乳化物Qの油脂成分含量>
本発明における水中油型乳化物Qは、乳化安定性、口溶け及び風味を良好にする観点から、油脂成分を、20〜50質量%含有することが好ましく、30〜50質量%含有することがより好ましく、40.5〜50質量%含有することがより一層好ましい。
【0046】
<水中油型乳化物Qの配合組成>
本発明における水中油型乳化物Qの配合組成は、例えば、好ましくは油脂成分20〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水43.0〜76.55質量%、塩類0.05〜0.30質量%であり、より好ましくは油脂成分30〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水44.25〜65.55質量%、塩類0.05〜0.20質量%であり、より一層好ましくは油脂成分40.5〜50質量%、無脂乳固形分4〜5質量%、乳化剤0.4〜0.6質量%、水44.25〜55.05質量%、塩類0.05〜0.15質量%である。
また、水中油型乳化物Qには、必要に応じて、糖類、安定剤、香料等を添加することができる。
【0047】
<水中油型乳化物Qの製造>
本発明における水中油型乳化物Qは、水中油型乳化物Pと同様の製造方法で製造することができる。
【0048】
<<エステル交換油の製造>>
上記油脂A、油脂B及び油脂Cにおけるエステル交換油を得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。
化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換とも言われる)。
化学的エステル交換反応は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0049】
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。
リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1,3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
1,3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
【0050】
エステル交換反応は、位置特異性の乏しいエステル交換反応で行うことが好ましい。位置特異性の乏しいエステル交換反応で行うと、得られる水中油型乳化物の乳化安定性が良好なものとなる。
位置特異性の乏しいエステル交換反応におけるエステル交換反応の進行の程度は、例えば、ランダム化率で示すことができる。ランダム化率は、その値が高いほど、位置特異性の乏しいエステル交換反応であることを示しているが、本発明ではエステル交換反応の進行の程度を表す指標として用いる。ランダム化率は、例えば、油脂のトリアシルグリセロールを構成する全構成脂肪酸の脂肪酸組成(AOCS Ce1f−96準拠)と、エステル交換反応前後における油脂のトリアシルグリセロールの2位を構成する脂肪酸組成(AOCS Ch3−91準拠)から算出することができる。脂肪酸組成のうち、特に炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸を指標として、以下の如く、算出することができる。
ランダム化率(%)=(エステル交換反応後におけるトリアシルグリセロールの2位を構成する全構成脂肪酸中のパルミチン酸の割合−エステル交換反応前におけるトリアシルグリセロールの2位を構成する全構成脂肪酸中のパルミチン酸の割合)/(トリアシルグリセロールを構成する全構成脂肪酸中のパルミチン酸の割合−エステル交換反応前におけるトリアシルグリセロールの2位を構成する全構成脂肪酸中のパルミチン酸の割合)×100。
エステル交換反応におけるランダム化率は、30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、90%以上すなわち90〜100%であることが更に好ましい。
【0051】
<<水中油型乳化組成物>>
<水中油型乳化組成物の製造>
本発明の水中油型乳化組成物は、上記した水中油型乳化物P及び水中油型乳化物Qを混合することによって製造することができるが、この際、水中油型乳化組成物の全油脂成分中における乳脂肪の含量をさらに高めたい場合や、水中油型乳化組成物の油脂成分として乳脂肪を存在させたい場合には、生クリームを配合することができる。
水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとの配合比は、P/Q(質量比)として、90/10〜10/90であることが、本発明の効果を発現させるために必要であり、75/25〜25/75であることが好ましく、60/40〜30/70であることがより好ましい。
【0052】
<水中油型乳化組成物の内容/要件>
水中油型乳化組成物における油脂以外の成分は、水中油型乳化物Pにおけるものと同様であり、通常、水中油型乳化物P及び/又は水中油型乳化物Qに由来して水中油型乳化組成物中に存在するが、水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとの混合に際して添加してもよい。
本発明の水中油型乳化組成物における全油脂成分の含量は、乳化安定性、口溶け及び風味を良好にする観点から、20〜50質量%含有することが好ましく、30〜50質量%含有することがより好ましく、40.5〜50質量%含有することがより一層好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物の油脂成分は植物油脂のみからなっている場合も植物油脂と乳脂肪からなっている場合もある。
本発明の水中油型乳化組成物に油脂成分として乳脂肪を含有させる場合、該組成物の全油脂成分中における植物油脂由来の油脂成分の合計含量は、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることがより一層好ましく、該組成物の全油脂成分中の乳脂肪含量は、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることがより一層好ましい。なお、水中油型乳化物P及び/又は水中油型乳化物Qの油脂成分として乳脂肪を配合する場合や、本発明の水中油型乳化組成物の製造に際して生クリームを配合する場合、本発明の水中油型乳化組成物はコンパウンドクリームとなる。
【0053】
本発明の水中油型乳化組成物の植物油脂由来の全油脂成分中のXOX型トリアシルグリセロールの含量は、0.3質量以上75質量%未満であることが好ましく、5〜70質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがより一層好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物の全油脂成分の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸の含量は、5質量%未満であることが必要であり、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、0質量%であることがより一層好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物の植物油脂由来の全油脂成分の全構成脂肪酸中におけるラウリン酸含量は、1〜50質量%であることが好ましく、1〜45質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることがより一層好ましい。
本発明の水中油型乳化組成物の組成は、例えば、好ましくは油脂成分20〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水43.0〜76.55質量%、塩類0.05〜0.30質量%であり、より好ましくは油脂成分30〜50質量%、無脂乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水44.25〜65.55質量%、塩類0.05〜0.20質量%であり、より一層好ましくは油脂成分40.5〜50質量%、無脂乳固形分4〜5質量%、乳化剤0.4〜0.6質量%、水44.25〜55.05質量%、塩類0.05〜0.15質量%である。
【0054】
<水中油型乳化組成物の用途>
本発明の水中油型乳化組成物は、クリーム、コーヒーホワイトナー、アイスクリーム等の食品として用いることができ、特にクリームとして好適に用いることができる。
本発明のクリームは、ホイップクリーム(起泡させる前のホイップクリーム用のクリームと起泡させた後のホイップしたクリームの両方を含む)として好適に用いることができ、ホイップクリームは、ケーキ、パン等の製菓、製パン領域の食品に好適に使用することができる。
【0055】
また、本発明のクリームは、起泡させずにクリームソース等の調理用クリームとしても好適に使用することができる。
また、本発明のクリームは、他の植物性クリームと混合して用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0057】
(エステル交換油の調製)
エステル交換油1(油脂A)
パーム油の極度硬化油(日清オイリオグループ社内製、脂肪酸組成:ラウリン酸含量0質量%)とパーム核油の極度硬化油(日清オイリオグループ社内製、脂肪酸組成:ラウリン酸含量46.9質量%)とを1:1(質量比)で混合して得られる混合油を、減圧下120℃に加熱することにより十分に乾燥させた後、対油0.2質量%のナトリウムメチラートを添加し、減圧下、110℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。反応終了後、ナトリウムメチラートを水洗除去し、常法の精製方法に従って、脱色、脱臭処理して、エステル交換油1(脂肪酸組成:ラウリン酸含量23.3質量%、XOX型トリアシルグリセロール含量:0質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:0質量%)を得た。エステル交換油1のランダム化率(パルミチン酸ベース)は100%であった。
エステル交換油2(油脂C)
パームオレイン(商品名:パームオレイン、日清オイリオグループ株式会社製、脂肪酸組成:炭素数16以上の飽和脂肪酸含量44.0質量%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量53.7質量%、炭素数14以下の脂肪酸含量1.2質量%、ヨウ素価:56.4)を、減圧下120℃に加熱することにより十分に乾燥させた後、対油0.2質量%のナトリウムメチラートを添加し、減圧下、110℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。反応終了後、ナトリウムメチラートを水洗除去し、常法の精製方法に従って、脱色、脱臭処理して、エステル交換油2を得た(XOX型トリアシルグリセロール含量:9.4質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:28.3質量%)。エステル交換油2のランダム化率(パルミチン酸ベース)は100%であった。
【0058】
(油脂組成物の調製)
表1に示した組成で原料油脂を混合し、油脂組成物P及びQを得た。
表1に示した原料油脂は、以下のものを使用した。
ヤシ油の極度硬化油(油脂A)
商品名:ヤシ硬34、日清オイリオグループ株式会社製、脂肪酸組成:ラウリン酸含量46.7質量%、XOX型トリアシルグリセロール含量:0質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:0質量%。
ヤシ油(油脂A)
商品名:精製やし油、日清オイリオグループ株式会社製、脂肪酸組成:ラウリン酸含量46.7質量%、XOX型トリアシルグリセロール含量:0質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:0質量%。
高オレイン酸菜種油(油脂B)
商品名:ヘルシーライト、日清オイリオグループ株式会社製、0℃5時間以上清澄。
パーム油(油脂F)
商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製、SFC(固体脂含量):10℃53.8%、20℃20.3%、35℃5.4%、XOX型トリアシルグリセロール含量:32.8質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:37.1質量%。
PMF(油脂F)
マレーシアISF社のヨウ素価45工程品、SFC:10℃75.3%、20℃49.7%、35℃0.0%、脂肪酸組成:炭素数16以上の飽和脂肪酸含量53.4質量%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量45.2質量%、炭素数14以下の脂肪酸含量1.2質量%、ヨウ素価:45.4、XOX型トリアシルグリセロール含量:55.1質量%、X2O型トリアシルグリセロール含量:59.5質量%。
なお、油脂組成物の原料油脂中の脂肪酸組成は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)により測定した。
【0059】
植物油脂由来の全油脂成分の10℃、15℃、30℃における固体脂含量(SFC)、全油脂成分における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量、植物油脂由来の全油脂成分における全構成脂肪酸中のラウリン酸含量及び植物油脂由来の全油脂成分中のXOX型トリアシルグリセロール含量の測定
植物油脂由来の全油脂成分の10℃、15℃、30℃におけるSFCは、社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9−2003 固体脂含量(NMR法)に従って測定した。
全油脂成分における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量及び植物油脂由来の全油脂成分における全構成脂肪酸中のラウリン酸含量は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)により測定した。
また、植物油脂由来の全油脂成分中のXOX型トリアシルグリセロール(XOX型TAG)含量は、下記1)〜3)により算出した。
1)「X2O型TAG含量」を、JAOCS.vol70,11,1111‐1114(1993)の方法に準拠したガスクロマトグラフィー法により測定した。
2)「XXO型TAGとXOX型TAGの質量比(XXO型TAG:XOX型TAG)」を、J.High Resolut.Chromatogr.,18,105‐107(1995)の方法に準拠した銀イオンカラム−HPLC法により測定した。
3)「XOX型TAG含量」を、1)で測定したX2O型TAG含量と2)で測定したXXO型TAGとXOX型TAGの質量比を用いて算出した(例えば、X2O型TAG含量が50質量%であり、XXO型TAGとXOX型TAGの質量比が1:3である場合、XOX型TAG含量=50質量%×3/4=37.5質量となる)。
植物油脂由来の全油脂成分の10℃、15℃、30℃におけるSFC、全油脂成分における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量、植物油脂由来の全油脂成分における全構成脂肪酸中のラウリン酸含量及び植物油脂由来の全油脂成分中のXOX型トリアシルグリセロール含量の測定結果を併せて表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(クリームの調製)
油脂組成物P及び油脂組成物Qを用い、表2及び表3に示した組成で以下の方法により、比較例1〜3のクリーム、水中油型乳化物P及び水中油型乳化物Qを調製した。
油脂組成物に大豆レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルを溶解し、分散させて油相を調製した。また、水に脱脂粉乳、メタリン酸ナトリウム、安定剤を溶解し、分散させて水相を調製した。次に調製した水相に調製した油相を加え、60℃〜70℃に調温しながら、ホモミキサーにて予備乳化した。予備乳化後、6.0MPaの圧力下で均質化し、85℃、15分のバッチ殺菌を行い、約10℃まで冷却した後、5℃の冷蔵庫にて約18時間エージングすることにより、比較例1〜3のクリーム、水中油型乳化物P及び水中油型乳化物Qを得た。
水中油型乳化物P及び水中油型乳化物Qを用い、表4に示した組成で混合することにより、実施例1〜3のクリーム(水中油型乳化組成物)を調製した。また、実施例1〜3のクリーム中における各成分の組成を表5に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
実施例1〜3のクリーム及び比較例1〜3のクリームを用いて、乳化安定性、ホイップクリーム性(オーバーラン、ホイップ時間、保形性、造花性、離水、口溶け、硬度変化及び凍結解凍耐性)を下記評価方法により評価した。評価結果を表6及び表7に示す。
【0067】
<乳化安定性>
各クリームをビーカーに60g計量し、品温を20℃に調整し、スリーワンモーター(四枚羽根のプロペラ)にて160rpmで回転させ、クリームが凝固又は増粘する(いわゆるボテる)までの時間を測定した。クリームが凝固又は増粘するまでの時間が長いほど、乳化安定性が高いことを示す。凝固又は増粘するまでの時間は、通常、120秒以上であることが好ましい。
【0068】
(ホイップクリーム性)
実施例1〜3のクリーム及び比較例1〜3のクリームを用いて、ホイップクリーム性を評価した。
ホイップクリーム性は、各クリーム500gに砂糖35gを加え、ホバートミキサー(ホバートジャパン社製)を用い、中速2でホイップさせたホイップ後のホイップクリームを用いて評価した。
【0069】
<オーバーラン>
各クリームについて、以下に示す式から、クリームの増加体積の割合(オーバーラン(%))を算出した。オーバーランの値が大きいほど、起泡性が良好であることを示す。オーバーランは、通常、80〜220%が好適である。
オーバーラン(%)=[(定容積のホイップ前のクリーム質量−定容積のホイップ後のクリーム質量)/(定容積のホイップ後のクリーム質量)]×100
【0070】
<ホイップ時間>
各クリームをホイップし、ホイップクリームの硬度が45〜47gf(FUDOH社製レオメーター使用 進入速度6cm/分、進入距離3.5cm、使用アダプター φ20mm)に至るまでに要した時間をホイップ時間として測定した。ホイップ時間は、作業性、ホイップ終点の見極め易さから判断すると、300〜480秒付近であることが好ましい。
【0071】
<保形性>
各ホイップクリームを絞り袋に入れ、花型で絞り出し、20℃3時間保存した後のホイップクリームの外観を以下の4段階基準で評価した。
◎:型崩れなく極めて良好
〇:殆ど型崩れなく良好
△:わずかに型崩れがある状態
×:型崩れが大きい状態
【0072】
<造花性>
各ホイップクリームを絞り袋に入れ、花型で絞り出した時のホイップクリームの外観を以下の4段階基準で評価した。
◎:表面が滑らかでツヤがあり、エッジがシャープな極めて良好な状態
〇:良好
△:表面に荒れが見られ、エッジがややフラットな状態
×:荒れ、戻りのある状態
【0073】
<離水>
各ホイップクリームを5℃で24時間保存した後、ホイップクリームからの離水について以下の基準で評価した。
◎:なし
〇:殆どなし
△:ややあり
×:多い
【0074】
<口溶け>
各ホイップクリームを専門パネラー10名により食し、食した時の口溶けの好ましさを5段階基準で1〜5点に点数化し、10名の平均点から、ホイップクリームの口溶けを評価した。点数は、点数が高いほど口溶けが良く、点数が低いほど口溶けが悪いことを示している。
【0075】
<硬度変化>
各クリームをホイップクリームの硬度が45〜47gf(FUDOH社製レオメーター使用 進入速度6cm/分、進入距離3.5cm、使用アダプター φ20mm)に至るまでホイップし、得られたホイップクリームを5℃で24時間保存した後の硬度を測定した。硬度変化(保存後の硬度−保存前の硬度)は、−10〜+10gfであることが好ましい。
【0076】
<凍結解凍耐性>
各ホイップクリームをシャーレに充填して表面を平らに整えた後、−20℃で緩慢凍結して24時間保存し、得られた凍結品について5℃で12時間かけて解凍した際の外観変化を以下の4段階基準で評価した。
◎:変化なく極めて良好
〇:ほとんど収縮なく良好
△:やや収縮
×:大幅に収縮し表面にひび割れあり
【0077】
<総合評価>
各評価項目よりホイップクリームとしての総合的な性能を以下の4段階基準で評価した。
◎:ホイップクリームとして良好
〇:ホイップクリームとしてほぼ良好
△:ホイップクリームとしてやや不適
×:ホイップクリームとして不適
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
表6から分かるように、水中油型乳化物Pと水中油型乳化物Qとを混合して調製した実施例1〜3のクリーム(水中油型乳化組成物)は、全ての項目が満足できるものであった。
比較例1〜3のクリームは、クリーム中に含む油脂成分が実施例1〜3のクリームと同じである。しかし、表6と表7とを比較して分かるように、比較例1〜3のクリームは、実施例1〜3のクリームと比較すると、満足のいかない項目が多かった。総合評価も比較例1〜3のクリームは、実施例1〜3のクリームよりも劣るものであった。
【0081】
(コンパウンドクリームの調製及び評価)
実施例1〜3に使用した水中油型乳化物P及び水中油型乳化物Q並びに生クリーム(脂肪分40.5質量%)を使用し、表8に示した配合で上記した製造方法と同様の方法により実施例4のコンパウンドクリームを調製した。また、実施例4のコンパウンドクリーム中における各成分の組成を表9に示した。実施例4のコンパウンドクリームを用いて、乳化安定性、ホイップクリーム性(オーバーラン、ホイップ時間、保形性、造花性、離水、口溶け、硬度変化、凍結解凍耐性、及び総合評価)を上記した評価方法と同様の方法により評価した。評価結果を表10に示す。
【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
【表10】

【0085】
表10から分かるように、実施例4のコンパウンドクリームは、乳化安定性が高く、優れたものであった。
また、実施例4のコンパウンドクリームは、起泡性が優れ、適度なホイップ時間を有し、ホイップ後のホイップクリームについても、保形性、造花性、離水、口溶け、硬度変化、凍結解凍耐性が十分に満足できるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記水中油型乳化物Pと下記水中油型乳化物QとをP/Q(質量比)=90/10〜10/90で混合して得られる水中油型乳化組成物であって、該水中油型乳化組成物の全油脂成分中における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の割合が5質量%未満である該水中油型乳化組成物:
水中油型乳化物P
下記油脂Aを含有し、下記(a)及び(b)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂A:全構成脂肪酸中におけるラウリン酸の含量が15〜60質量%の油脂
(a)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における油脂Aの含量が40〜100質量%、
(b)水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロール(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)の含量が30質量%未満、
水中油型乳化物Q
下記油脂Fを含有し、下記(c)の条件を満たす水中油型乳化物:
油脂F:XOX型トリアシルグリセロールを30質量%以上含有する油脂(XOX型トリアシルグリセロール:トリアシルグリセロールの1位及び3位の脂肪酸がXであり、2位の脂肪酸がOであるトリアシルグリセロール、X:炭素数16以上の飽和脂肪酸、O:オレイン酸)
(c)水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中におけるXOX型トリアシルグリセロールの含量が30〜80質量%。
【請求項2】
水中油型乳化物Pが下記油脂B、下記油脂C、下記油脂E及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(d)及び(e)の条件を満たす請求項1記載の水中油型乳化組成物:
油脂B:液体油
油脂C:下記油脂Dをエステル交換反応に付して得られるエステル交換油
油脂D:全構成脂肪酸中における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20質量%以上75質量%未満、全構成脂肪酸中における炭素数16以上の不飽和脂肪酸含量が25質量%以上70質量%未満である油脂、
油脂E:10℃、20℃及び35℃における固体脂含量がそれぞれ50%以上100%未満、20%以上90%未満、及び6%未満であるパーム油の中融点分別油及び/又はパーム油、
(d)含まれる場合の油脂B、油脂C及び油脂Eの、水中油型乳化物Pの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜25質量%、0〜40質量%及び0〜40質量%、
(e)乳脂肪の、水中油型乳化物Pの全油脂成分中における含量が0〜60質量%。
【請求項3】
水中油型乳化物Qが前記油脂A、前記油脂C及び乳脂肪の少なくとも1種を含有することができ、下記(f)及び(g)の条件を満たす請求項1又は2記載の水中油型乳化組成物:
(f)含まれる場合の油脂A及び油脂Cの、水中油型乳化物Qの植物油脂由来の全油脂成分中における含量がそれぞれ0〜39質量%及び0〜20質量%、
(g)含まれる場合の乳脂肪の、水中油型乳化物Qの全油脂成分中における含量が0〜60質量%。
【請求項4】
油脂Dが、ヨウ素価55〜71のパーム油の分別油である請求項2又は3記載の水中油型乳化組成物。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物であるか、又は請求項1〜4のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物に生クリームを配合した水中油型乳化組成物であって、該水中油型乳化組成物の全油脂成分中における乳脂肪の含量が10〜90質量%である水中油型乳化組成物。
【請求項6】
前記水中油型乳化組成物がクリームである請求項1〜5のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項7】
前記クリームがホイップクリームである請求項6記載の水中油型乳化組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物を用いた食品。

【公開番号】特開2010−68770(P2010−68770A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241225(P2008−241225)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(591152584)高梨乳業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】