説明

水中画像全方位表示処理装置及び方法

【課題】送受波器自体が回転してしまう可能性があるソーナーの場合にも、適切な回転補正を行うことによって、全方位において正確な水中画像を表示する。
【解決手段】開示される水中画像全方位表示処理装置は、送波部S001〜S004において複数の送波アレイから順次送波したタイミングで、受波部において受波アレイR001を構成する複数個の受波素子で目標からの反射音を受信して取得したそれぞれの送波アレイからの放射音に対応する反射音の受波データに基づいて得られた画像処理後の位置データに対して、受波アレイで受信した三方向の回転行列による演算を行って、送受波器の向きをメモリ210のジャイロデータによってヨウ,ピッチ,ロールの三方位のデータとして随時取得する位置補正処理回路200と、取得したデータを用いて演算結果を送受波器固定座標から地球を基準とした絶対座標に座標変換を行って合成画像を得る画像合成処理回路220とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘリコプタ搭載型のように、送受波器自体が回転してしまう可能性があるソーナーの場合にも、適切な回転補正を行うことによって、全方位において正確な水中画像を表示することができるようにするための、水中画像全方位表示処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスファンビーム方式によって、超音波の直交する扇形ビームを用いて、水中における目標の画像を形成する水中音響画像処理方式に関しては、従来から各種の技術が提案されている(例えば、後述する特許文献1および特許文献2)。
最も基礎的なこの方式では、鉛直方向(z’軸)に直線的に配列されたn個の送波素子(Z1〜Zn)で構成された送波アレイと、水平方向(x’軸)に直線的に配列されたm個の受波素子(X1〜Xm)で構成された受波アレイとが直交する、クロスアレイとして構成されている。
【0003】
以下、この従来技術の場合の動作について説明する。超音波を発生する送波素子は、入力励振信号の周波数を、周波数特性が大きく変化しない範囲(F1〜Fk)で線型的に変化させると同時に、同じタイミングで送信方向を鉛直方向にシフトさせる。
このとき、送波アレイによって形成される送波ビームの形状は、鉛直方向に細かく水平方向に広がりを持つた横形状である。一方、送波アレイと直交する受波アレイは、鉛直方向に広がりを持った縦形状の受波ビームを形成していて、この水平方向に細かい形状の受波ビームを、水平方向に角度をシフトしながら目標からの反射音を受波する。
すなわち、それぞれビーム形状の異なった、多数の送波ビームと多数の受波ビームとが交差することによって、高精度の画素(エコー振幅)がマトリクス状に形成された、目標物の正面画像(Cモード画像と呼ばれる)を表示することができる。
【0004】
さらに、このクロスファンビーム方式を用いた水中音響画像処理方式の別の例として、受波アレイを円筒型にして、全方位をカバーし得るようにした全方位水中画像送受波器が考えられる。
【0005】
この全方位水中画像送受波器は、鉛直(z’)方向に、水平の送波ビーム幅が全方向をカバーするに足る複数本(ここでは4本)の直線配列された送波アレイS001〜S004を、水平(x’y’)方向に円状に等間隔(等角度)に備え、受波アレイR001は、水平(x’y’)平面状に円筒形状に配列する。
送波アレイと円筒形状の受波アレイとは直交しているため、上記のラインアレイの場合と同様に、水中音響画像処理後、Cモード画像が生成される。
ただし、各送波アレイで形成する送波ビームの範囲に応じて、受波アレイのビーム範囲(例えば全部でM個の素子中のm個分)を決めて、同様の処理を行うようにする(例えば特許文献3)。
この際、各送波アレイが形成する水平方向のビーム幅は重複し合って、360°の範囲を隈なくカバーするように選ばれるものとする。
【0006】
特許文献1においては、水中画像ソーナーの送波装置を改良し、複数周波数F〜Fの送信パルスを時系列に発生する送信パルス発生回路11と、目標物が存在する方向に送波ビームBを向けるために必要な移相量をL個分の送波アレイ3〜3に対応して各周波数F〜Fごとの送信パルスに対してそれぞれ可変的に与えることにより生成したL個分の送信可変移相信号を出力するL個の可変移相回路10〜10と、送信パルス発生回路11と各可変移相回路10〜10とを制御する移相/周波数制御回路12とから送信制御部1を構成している。各送信可変移相信号は電力増幅回路2で電力増幅され、送波アレイ3〜3を成す各送波器から目標物へ向けてL個分の送波ビームBとして送波される。これによって簡素に構成されるとともに、大きさ,重量,消費電力等の基本的規格を改善し得る水中画像ソーナーを提供する、水中画像ソーナーが開示されている。
【0007】
また、特許文献2においては、掃引制御回路14は、送信パルス内で周波数を掃引する周波数データ142と送波音のビーム方向をシフトする移相データ141とを発生する。送信パルス発生回路15は送信パルス内で第1の周波数から第2の周波数に連続的に変化する励振信号151を発生する。送波器10〜10はビーム方向が移相データ141に応じて例えば垂直方向に変化しながら、周波数が第1の周波数から第2の周波数に連続的に変化する送波音1を水中に放射する。画像制御回路27は、画像化する周波数範囲が与えられると、周波数分離回路28〜28内の各フィルタの中心周波数と帯域幅を可変制御する。従来は、あるビーム幅ごとのデータしか得られず、目標の特定部分を抽出し、垂直方向の分解能を上げることができなかったが、上記構成により、反射音の特定周波数成分、つまり特定角度範囲を抽出できるようにして、垂直方向の分解能を上げることを可能にした、水中画像ソーナーが開示されている。
【0008】
また、特許文献3においては、それぞれ予め特定する指向特性を有する送信ファンビームと受信ファンビームとを送受波器を介して空間的に互いに直交させて送受信するクロスファンビーム送受信方式により送受信を行うソーナー送受信装置において、前記送信ファンビームを予め特定する複数の方位に同時に送信する多方位送信手段と、前記多方位送信手段の出力する複数の送信ビームのおのおのに対応しかつ空間的に直交する複数の受信ビームによって複数のクロスファンビームを形成し前記複数の送信ビームによる複数の受信エコーを同時に受信する多方位受信手段と、前記多方位送信手段と多方位受信手段とによる送受信のタイミングの切替を行う送受切替手段と、この送受切替手段を介して前記多方位送信手段と多方位受信手段による送受信のタイミングを制御するとともに前記複数のクロスファンビームを前記送信ファンビーム送信の都度それぞれ予め特定する方位角度でシフトしつつ形成せしめるように制御する送受信制御手段とを備えることによって、クロスファンビームによる先鋭な指向特性に基づく高分解能を保持しつつ、データレートと探査時間とを大幅に改善して、効率的にかつ容易に広方位範囲のソーナー送受信を行える、ソーナー送受信装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献4においては、被検体において第1位置P1に対応する3次元領域R1を超音波でスキャンして得られる第1エコー信号E1 に基づいて、その第1位置P1に対応する3次元領域R1についての第1画像I1をCモード画像として生成する。その後、被検体の第1位置P1から第2位置P2へ移動された超音波プローブI1で、第2位置P2に対応する3次元領域R2をスキャンして得られる第2エコー信号E2に基づいて、その第2位置P2に対応する3次元領域R2についての第2画像I2をCモード画像として生成する。この後、第1画像I1と第2画像I2とを第1位置P1と第2位置P2とに対応するように結合して結合画像IKを生成して、表示面に表示することによって、大きな範囲の診断部位を全体観察することができ、診断効率を向上させる、超音波画像生成方法および超音波診断装置が開示されている。
【0010】
また、特許文献5においては、扇状に放射した超音波ビームに対する受波信号から水深データを計測する音響測深装置と、前記水深データに対する地球上の測定点の位置を、船への指令速度及び方位等に基づき演算する測定点演算手段と、水深計測時の実際のジャイロ方位を検出するジャイロ方位検出器と、前記測定点演算手段で演算された測定点の位置を、ジャイロ方位検出器で検出された実際のジャイロ方位に基づき補正する測定点補正手段と、測定点補正手段で得られた各測定点の位置データを、作図図法に応じた所定の座標系のデータに変換する地球座標変換手段と、前記所定の座標に対して設定した仮想的なメッシュの各交点の座標を求める交点座標演算手段と、前記地球座標変換手段で得られた測定点の座標データ及び該座標データに対する水深データに基づき、前記交点座標演算手段で求められた各交点の座標における水深データを演算する水深演算部と、水深演算手段で演算された各水深データに対し、等しい水深の各交点を線にて結ぶ等の処理をして所定の表示器等に表示させるデータ処理手段と、を備えたことによって、水深データ測定点の位置を逐次補正し、正確な位置データに基づき海底地形図を作成するようにしたので、海底地形図作成装置を搭載する船の航行に蛇行等が生じることがあっても正確な海底地形図が得られる、海底地形図作成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平08−005728号公報
【特許文献2】特開平10−132930号公報
【特許文献3】特開昭59−030078号公報
【特許文献4】特開2006−255083号公報
【特許文献5】特開平03−075580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術の円筒配列の受波アレイを用いた全方位水中画像送受波器は、一般的に全方位をカバーするために艦船等に固定的に取り付けることは有効ではないため、有効な実際の運用方法としては、ヘリコプタ等に搭載して、送受波器中心から送受波器をケーブル等で吊り下げた状態で、水上から水中投下して、全方位を捜索する方法が用いられる。この方法によれば、周囲に障害物がなく、深度も変更できることから、全方位の画像化に最も有効な方法となる。
この場合、この送受波器から得られるCモード画像を構成する各画素の位置は、鉛直方向に関しては送波のシフト角から定まり、水平方向に関しては受波のマルチビームのシフト角によって指定される。
【0013】
しかしながら、このようにケーブル等で吊り下げられた状態で運用される送受波器は、運用時、海水中の潮流やケーブルの張力等の影響を受けて送受波器の姿勢が安定せず、回転状態になりやすいという問題がある。
【0014】
特に、超音波を用いてクロスファンビーム方式によって詳細な画像表示を行う場合には、このような送受波器自体の回転は、その後に得られる画像合成の処理に大きく影響する。
すなわち、上記したCモード画像における各画素の位置は、送受波器上に固定された座標系を基準として定められるため、送受波器が回転している場合は、結果的に実際の画素の位置と、処理結果得られる画素の位置とが異なってしまうため、最終的に得られる画像の位置(方位)に送受波器の回転誤差が含まれるようになって、正確な位置が示されない。
【0015】
また、これに付随して、各送波アレイで得られるCモード画像を合成することによって、全方位アレイの処理時間内に得られる、各Cモード画像(例えば4枚)は、それぞれ作成される時刻が異なるため、当然、固定座標系の向きも異なることとなる。
そのため、異なる方位をカバーしている、各送波アレイが形成するCモード画像の合成をそのまま行うと、画素のずれが発生することになる。
【0016】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、画素位置のずれを時間単位で修正して、各送波アレイの絶対座標における位置を算出することによって、全方位をカバーした全方位画像を得られるようすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、この発明は水中画像全方位表示処理装置に係り、複数の送波アレイで順次送波したタイミングにおいて、送受波器の向きをジャイロデータによってヨウ(Yaw:針路の左右振れ),ピッチ(Pitch:横揺れ),ロール(Roll:縦揺れ)の三方位(α,β,γ)のデータとして随時取得するデータ取得手段と、前記取得されたデータを用いて、それぞれの送波アレイが放射した反射音の受波データに基づいて、画像処理後の位置データに対して、三方向の回転行列による演算を行う演算手段と、前記演算結果の送受波器固定座標から地球を基準とした絶対座標に座標変換を行って合成画像を得る画像合成手段とを備えたことを特徴としている。
【0018】
また、この発明は水中画像全方位表示処理方法に係り、複数の送波アレイで順次送波したタイミングにおいて、送受波器の向きをジャイロデータによってヨウ(Yaw:針路の左右振れ),ピッチ(Pitch:横揺れ),ロール(Roll:縦揺れ)の三方位(α,β,γ)のデータとして随時取得し、前記取得されたデータを用いて、それぞれの送波アレイが放射した反射音の受波データに基づいて、画像処理後の位置データに対して、三方向の回転行列による演算を行い、前記演算結果の送受波器固定座標から地球を基準とした絶対座標に座標変換を行って合成画像を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水中画像全方位表示装置及び方法によれば、ヘリコプタ搭載型のような、送受波器自体が回転してしまうソーナーにおいても、回転補正を行うことによって全方位において正確な画像を得ることができるので、これにより、近距離捜索の場合の目標探知だけでなく、沈座している目標の判別の機会(確率)を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の水中画像全方位表示装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】送波アレイS001〜S004と、受波アレイR001で構成された全方位型送受波器の外観と座標系とを表示する図である。
【図3】図2に示された送受波器の水平面(x’y’)を表示する図である。
【図4】1個の送波アレイに対して作成されるCモード画像の座標(周波数)を表示する図である。
【図5】固定座標系の直交座標に対する極座標の取り方と、絶対座標系に対する送受波器の回転方向(α,β,γ)とを示す図である。
【図6】各送波アレイS001〜S004に対応する画像データの重複表示及び4つのCモード画像の合成イメージを示す図であって、(A)は位置を補正する前の送受波器の固定座標系に対応する表示イメージ、(B)は各送波アレイについて回転補正を行った場合の表示イメージ、(C)は(B)の各画像を合成したときの画像表示イメージである。
【図7】送波アレイにおける送波のタイムスケールを示す図であって、送波アレイS001〜S004までの時間スケールをTfigとしたとき、得られる合成後のCモード画像はこの時間範囲内で対象画像が静止しているものとして全方位の画像を作成したものである。
【図8】送波アレイS002からのCモード画像の固定座標系表示イメージである。
【図9】送受波器の運用イメージであって、回転(向きの変化)による、ある画素方向への影響を示すイメージ図である。
【図10】複数の受波素子からなる受波アレイR1002における受波走査ビーム範囲Δφと、受波走査ビーム1001と、送波ビーム方位φ’[001]との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明による水中画像ソーナーの一実施形態を示すブロック図である。
この例の水中画像ソーナーにおける水中画像全方位表示装置は、図1に示すように、送波部が、送波アレイS001〜S004と、送波アレイ切替用リレー回路20と、複数の電力増幅回路からなる電力増幅部30と、複数の可変移相回路からなる可変移相部40と、送信パルス発生回路50と、掃引制御回路60と、タイミング制御及び送波アレイ選択回路70とから構成され、受波部が、受波アレイR001と、複数の増幅回路からなる増幅部90と、複数の周波数分離回路からなる周波数分離部100と、受波マルチビーム合成回路110と、複数の画像再生処理回路からなる画像再生処理部120と、位置補正処理回路200と、画像合成処理回路220とから構成されていて、メモリ210に保持されたジャイロデータを用いて、送波部のタイミング制御及び送波アレイ選択回路70のタイミング制御結果を受波部の位置補正処理回路200に伝達して、画像合成処理回路220から合成Cモード画像230を生成するようになっている。
【0022】
送波部では、タイミング制御及び送波アレイ選択回路70のタイミング信号を送信パルス発生回路50及び掃引制御回路60に送り、同時にこのときのジャイロの方位データをメモリ210に格納する。掃引制御回路60により周波数をF1〜Fkに変化させ、この周波数を入力することで送信パルス発生回路50で生成される、PCW(Pulsed Continuous Wave) やLFM(Liner Frequency Modulation )、FH(Frequency Hopping) 等の種々な変調波からなる、周波数がF1〜Fkに連続的に変化する振幅一定のバースト波(励振信号)を、従来の通り可変移相部40で周波数変化のタイミングで送信鉛直方位θ’を±Δθ’分だけ線形に変化させ、これら信号を各CH単位で電力増幅部30に出力する。その後、電力増幅部30で増幅された個々の信号は、送波アレイ切替用リレー回路20を通して、タイミング制御及び送波アレイ選択回路70で選択した送波アレイに出力され、選択された送波アレイ(S001〜S004)において、電気信号を音波に変換して送信音として、水中へ放射する。
【0023】
送波音を放出する送信アレイに関しては、n個の送波素子によって直線状に配列された送波アレイを水平方向に4方位に配置する。図3に、送受波器の水平(x’y’)平面図を示している。図3に示すように、ここでは、送波アレイS001をx’軸に、送波アレイS002を90°ずらしてy’軸上に配置する。
このように、それぞれの送波アレイS001〜S004の送受波器の固定座標系での送波方位をそれぞれφ’[S001],φ’[S002],φ’[S003],φ’[S004]とすれば、φ’[S002]=φ’[S001]+ 90°、φ’[S003]=φ’[S001]+ 180°、φ’[S004]=φ’[S001]+ 270°となる。
このφ’[S001]〜φ’[S004]を中心とする送波水平ビームが、隣り合う送波アレイのビームと重複するようにビーム幅を定める周波数及び送波アレイの長さを選ぶ。
【0024】
受波部においては、受波アレイR001を構成するM個の受波素子のそれぞれを単位として、受波素子で選択された送波アレイ(例えばS001)から放射された音波による目標からの微小な反射音を受信する。この反射音を増幅部90において増幅して、従来と同様に周波数分離部100によって周波数F1〜Fkごとに分離処理を行うことによって、M個の受波信号のそれぞれに対する周波数F1〜Fkの分離信号が受波マルチビーム合成回路110に入力される。
受波マルチビーム合成回路110はタイミング制御及び送波アレイ選択回路70より送波アレイの選択情報を受け取り、それによって送波アレイS001〜S004の各方位に応じて、受波ビームの走査方位の切替と、このビーム範囲Δφにおける走査ビームの作成を行う。ここで、受波の走査範囲は、図10に示された送波ビーム方位(S001)に対する受波ビーム範囲をイメージしている。
送波方位に対して受波のビーム範囲は、送波ビーム幅以内になるようなΔφ’を選ぶ。送波アレイが変わっても方位は変わるが、受波の走査範囲Δφ’は同様とする。
受波走査ビーム1001は、受波素子1002のb個に対してその中心にビームを形成し、これを図10の受波ビーム範囲内で角度を変えながら受波ビーム範囲内で複数の走査ビームを形成する。ここで、走査ビームの本数をm本とする。
【0025】
また、画像再生処理回路120は、受波マルチビーム合成回路110から得られる受波走査ビームとその範囲における周波数F1〜Fkごとに、信号成分について公知の閾値処理を行って、周波数種類(F1〜Fk)×走査ビーム本数m分のレベルを検出する。これによって図4に示したようなCモード画像が得られる。
画像再生処理部120によって得られるCモード画像は、送受波器固定の極座標系によりその画素の位置が(r’,φ’,θ’)として指定される。同様にこれに対応した固定直交座標系は(x’,y’,z’)であり、その関係は図5左のように定義すると以下の関係で変換できる。
(r’,φ’,θ’)⇒(x’,y’,z’)
x’=r’cosθ’cosφ’
y’=r’cosθ’sinφ’ ・・・式(1)
z’=r’sinθ’
【0026】
次に、位置補正処理回路200の原理は以下の通りである。潮流及びケーブルからの張力による送受波器の回転は、送受波器の固定座標系の3軸周りの回転と見做せる。入力データであるCモード画素の固定直交座標系(x’,y’,z’)は、上記式(1)を用いて求められ、回転角はメモリ210のジャイロデータから、Yaw,Pitch,Rollの回転角(α,β,γ)を得る。このとき、この座標の回転方向を図6のように定義したとき、地球中心の絶対直交座標系(X,Y,Z)への変換は、回転行列R(α,β,γ)を用いて、最終的に以下の式(2)のように右から回転行列をかけることで行われる。
【0027】

この後、絶対位置座標(X,Y,Z)から絶対極座標(R,Φ,θ)へ変換する。
これにより、位置補正処理200で送波アレイによって得られる4枚のCモード画像の位置座標が正確な絶対座標へ変換されて統一される。
【0028】
このとき、本実施形態における位置補正のタイミングは、図7における送波アレイS001の送信後の受信処理期間701に一回、同じく送波アレイS002の送信後の受信処理期間702に一回というように、4つの送信アレイの送受信処理後に一回ずつ補正を行う。
【0029】
最後に、画像合成処理回路220において、これら4枚のCモード画像から1枚の合成画像を作成する。送波アレイ(S001〜S004)の水平(x’,y’)方向のビーム幅は、隣り合う送波ビーム同志が重複するように作られているため、位置座標を変換した後でも一般的には重複があるものと考えられる。そこで、4枚の画像位置は次の3つの条件によって合成される。
1.Cモード上の同位置(Φ,θ)において、2つのデータが重複したときは、その平均値を画像位置とする。
2.Cモード上で重複がないデータは、そのままの値を適用する。
3.データは水平方向は360度、鉛直方向は4枚のCモードのうちの最大〜最小の範囲で合成図を作成する。このとき、データが存在しない箇所は零値とする。
図7は、以上の位置補正及び画像合成処理のイメージ図を示したものである。
【0030】
以上説明したように、本発明の水中画像全方位表示処理装置及び方法によれば、従来のように送受波器自体が回転してしまうヘリコプタ搭載型のようなソーナーの場合でも、3次元の回転補正を行うことによって、全方位においてより正確な画像を得ることができるようになる。これによって、近距離捜索の場合に目標探知だけでなく、沈座している目標の判別の機会(確率)を増大することができると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明の水中画像全方位表示装置及び方法は、水中画像の全方位表示を必要とする各種の場合において、ソーナーの使用形態のいかんに関わらず、広く適用可能なものである。
【符号の説明】
【0032】
S001〜S004 送波アレイ(4箇所90°間隔固定)
R001 受波アレイ
101 〜10n (S001) 送波素子(送波アレイS001)

401 〜40n (S004) 送波素子(送波アレイS004)
20 送波アレイ切替用リレー回路
30 電力増幅部
40 可変移相部
50 送信パルス発生回路
60 掃引制御回路
70 タイミング制御及び送波アレイ選択回路
801 〜80M 受波素子(受波アレイR001)
90 増幅部
100 周波数分離部
110 受波マルチビーム合成回路
120 画像再生処理部
200 位置補正処理回路
210 メモリ
220 画像合成処理回路
230 合成Cモード画像
601 画像合成領域
602 Cモード重複領域
701 S001の位置補正タイミング
702 S002の位置補正タイミング
1001 受波走査ビーム
1002 受波素子数b個(1001受波走査ビーム合成用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送波部において複数の送波アレイから順次送波したタイミングで、受波部において受波アレイを構成する複数個の受波素子で目標からの反射音を受信して取得したそれぞれの送波アレイからの放射音に対応する反射音の受波データに基づいて得られた画像処理後の位置データに対して、受波アレイで受信した三方向の回転行列による演算を行って、送受波器の向きをジャイロデータによってヨウ(Yaw:針路の左右振れ),ピッチ(Pitch:横揺れ),ロール(Roll:縦揺れ)の三方位のデータとして随時取得する位置補正処理手段と、前記取得したデータを用いて、演算結果を送受波器固定座標から地球を基準とした絶対座標に座標変換を行って合成画像を得る画像合成処理手段とを備えてなることを特徴とする水中画像全方位表示処理装置。
【請求項2】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データを、水平表示範囲は360°全方位について合成することを特徴とする請求項1記載の水中画像全方位表示処理装置。
【請求項3】
前記複数のCモード画像は隣り合う画像の端部が重複し合うようにビーム幅を定め、送受波器の回転による位置補正を行っても画素が重複する部分についてはその値の平均をとり、重複しない部分については、そのままの値を用い、画素データがない部分は空欄とする3種類の処理を行って、水平方向の全方位をカバーした合成画像を得ることを特徴とする請求項2記載の水中画像全方位表示処理装置。
【請求項4】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データを、鉛直表示範囲は各Cモード画像内の最大最小値から定めて合成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一記載の水中画像全方位表示処理装置。
【請求項5】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データの画素位置が絶対座標からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一記載の水中画像全方位表示処理装置。
【請求項6】
送波部において複数の送波アレイから順次送波したタイミングで、受波部において受波アレイを構成する複数個の受波素子で目標からの反射音を受信して取得したそれぞれの送波アレイからの放射音に対応する反射音の受波データに基づいて得られた画像処理後の位置データに対して、受波アレイで受信した三方向の回転行列による演算を行って、送受波器の向きをジャイロデータによってヨウ(Yaw:針路の左右振れ),ピッチ(Pitch:横揺れ),ロール(Roll:縦揺れ)の三方位のデータとして随時取得し、前記取得したデータを用いて、演算結果を送受波器固定座標から地球を基準とした絶対座標に座標変換を行って合成画像を得ることを特徴とする水中画像全方位表示処理方法。
【請求項7】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データを、水平表示範囲は360°全方位について合成することを特徴とする請求項6記載の水中画像全方位表示処理方法。
【請求項8】
前記複数のCモード画像は隣り合う画像の端部が重複し合うようにビーム幅を定め、送受波器の回転による位置補正を行っても画素が重複する部分についてはその値の平均をとり、重複しない部分については、そのままの値を用い、画素データがない部分は空欄とする3種類の処理を行って、水平方向の全方位をカバーした合成画像を得ることを特徴とする請求項7記載の水中画像全方位表示処理方法。
【請求項9】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データを、鉛直表示範囲は各Cモード画像内の最大最小値から定めて合成することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一記載の水中画像全方位表示処理方法。
【請求項10】
前記各送波アレイで得られる複数のCモード画像データの画素位置が絶対座標からなることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一記載の水中画像全方位表示処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−2436(P2011−2436A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148142(P2009−148142)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(599161890)NECネットワーク・センサ株式会社 (71)
【Fターム(参考)】