説明

水分散系組成物及びその製造方法

【解決手段】
(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物と(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩及び/又は(b−2)高級脂肪酸の塩を含む水分散系組成物である。
また、 前記(a)100重量部に対して、(b−1)及び/又は(b−2)を0.5〜30重量部含むことが好ましい。更に、 (b−1)が、不飽和ジカルボン酸類で変性されたポリオレフィンの塩であることが好ましい水分散系組成物である。
【効果】
本発明によれば、ポリオレフィン系部材に対して十分な密着性を有し、塗工時の低温での造膜性に優れ、低温での良好なヒートシール性を発現する芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物を含む水分散系組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物を主成分とする水分散系組成物に関するものであり、さらに詳しくは、ポリオレフィンとの密着性に優れた塗膜を形成することができる水分散系組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の重合体の水分散系組成物が知られており、紙や繊維あるいはプラスチック成形品、木材、金属などの表面に塗布、乾燥させて樹脂被覆を形成させ、基材に耐水性、耐油性、耐薬品性などを付与したり、ヒートシール剤などの接着剤として使用されてきた。このような水分散系組成物は、分散液として水を使用しているので、引火性の問題や作業環境上の問題、取り扱い性などの面から、溶剤型のものに比べて、非常に有利であり、幅広い分野で利用されている。一方、環境問題の高まりを背景に、ポリ塩化ビニルをポリオレフィンに置き換える動きが盛んになっている。ところが、ポリオレフィンは難接着性物質であり、通常、その塗装、接着などのコーティングには、溶剤に溶解、分散したポリオレフィンが使用されているが、上記に示した溶剤型コーティング剤の問題を受け、水分散型コーティング剤の要請が高まっている。
本出願人は、すでにポリオレフィンを初めとする熱可塑性樹脂の水分散系組成物およびその製造方法について提案してきた(特許文献1,2)。これらの水分散系組成物は、ポリオレフィン、特に難接着性のポリプロピレンに対して良好な接着性を有し、ヒートシール剤として利用されてきた。また、本出願人は、低温でのヒートシール性が良好なプロピレン系エラストマーの水分散系も提案してきた(特許文献3)。
一方、芳香族ビニル化合物と共役ジエンの水素添加物の水分散系組成物については、種種の検討がなされている。本出願人はスチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物の水分散系について、α,β−不飽和ビニル単量体をグラフト共重合させる方法(特許文献4)、スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物の水分散系について、耐チッピング性付与水分散系組成物を提案している(特許文献5)。また、芳香族ビニル化合物の重合ブロックと共役ジエン化合物の重合ブロックを共重合体の水素添加物の主鎖と、カルボン酸基、その塩もしくはその無水物またはカルボン酸エステル基を含む側鎖とを有する変性共重合体を、塩基性化合物を含有する水系溶媒に分散してなる水系分散組成物が開示されている(特許文献6)。しかし、これらの提案は芳香族ビニル化合物と共役ジエンのブロック共重合体の水素添加物についての記載である。
【特許文献1】特開昭61−123664号報
【特許文献2】特開昭63−046273号報
【特許文献3】特開2000−344972号報
【特許文献4】特開平4−39314号報
【特許文献5】WO02/010296
【特許文献6】特開2003−128866号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリオレフィン系部材に対して十分な密着性を有し、塗工時の低温での造膜性に優れ、低温での良好なヒートシール性を発現する芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物を含む水分散系組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意研究の結果、(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物と(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩及び/又は(b−2)高級脂肪酸の塩を含む水分散系組成物がポリオレフィン系部材に対して十分な密着性を有し、塗工時の低温での造膜性に優れ、低温での良好なヒートシール性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物と(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩及び/又は(b−2)高級脂肪酸の塩を含む水分散系組成物である。また、 前記(a)100重量部に対して、前記(b−1)及び/又は前記(b−2)を0.5〜30重量部含むことが好ましい。更に、 前記(b−1)が、不飽和ジカルボン酸類で変性されたポリオレフィンの塩であることが好ましい水分散系組成物である。
また、前記(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体と酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸エステルとの溶融混練物に、塩基性物質と水を添加して溶融混練し、酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸エステルの少なくとも一部を中和及び/又はケン化して、水に分散させて得られる水分散系組成物の製造方法である。
また、前記記載の水分散系組成物からなるヒートシール用接着剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリオレフィン系部材に対して十分な密着性を有し、塗工時の低温での造膜性に優れ、低温での良好なヒートシール性を発現する芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物を含む水分散系組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物
(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物は、例えば特公昭48−3555号公報、特公昭45−20504号公報に開示された方法によって得ることができる。ランダム共重合体中の共役ジエン単位の水素添加率は、強度および耐候性の観点からできる限り高いことが望ましい。
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、pービニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。これらの中でもスチレン、α−メチルスチレンなどの非置換芳香族ビニル化合物が好ましい。芳香族ビニル化合物は、単独、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。共役ジエンの具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられるが、ブタジエンおよびイソプレンが好ましい。
【0009】
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物における芳香族ビニル化合物含量は、ポリオレフィンとの接着性の点から5〜70質量%であることが好ましく、8〜50質量%であることがさらに好ましい。また、この芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物について、ASTM D 1238により230℃で測定したMFRが、0.1〜1000g/10分であるものが好ましく、1〜500g/10分であるものがさらに好ましい。
ランダム共重合体の水素添加物は、市場で入手可能である。スチレンとブタジエンとのランダム共重合体の水素添加物は、例えばダイナロン1320P(スチレン含有量10重量%、JSR株式会社製)、ダイナロン1321P(スチレン含有量10重量%、JSR株式会社製)、ダイナロン2324P(スチレン含有量16重量%、JSR株式会社製)などがある。
【0010】
(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩
本発明に用いられる(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩は、ポリオレフィンの重合体鎖に結合したカルボン酸の塩の基(部分中和物ないし部分ケン化物の時はカルボン酸基を含む)を有するものである。さらに、カルボン酸の塩の基を樹脂1グラム当たり、−COO−基として0.05〜5ミリモル、好ましくは0.1〜4ミリモルの濃度で含むオレフィン系重合体樹脂である。酸変性ポリオレフィンの塩は、1)ポリオレフィン重合体に中和されたカルボン酸基(部分中和を含む)を有する単量体をグラフト共重合する方法、2)ポリオレフィン重合体にケン化されたカルボン酸エステル(部分ケン化含む)を有する単量体をグラフト共重合する方法、3)ポリオレフィン重合体にカルボン酸基を有する単量体をグラフとさせ、酸変性ポリオレフィンを作成し、該酸変性ポリオレフィンを塩基性物質で中和(部分中和を含む)する方法、4)ポリオレフィン重合体にカルボン酸エステルを有する単量体をグラフト共重合し、酸エステル変性ポリオレフィンを作成し、該酸エステル変性ポリオレフィンを塩基性物質でケン化(部分ケン化含む)方法、等いくつかの方法によって得ることが出来る。
【0011】
オレフィン重合体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等を挙げることができる。これらの中でも、特にエチレン単独重合体及びエチレン−プロピレン共重合体が好ましい。また、乳化性の点でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定で数平均分子量(Mn)が500〜10000の範囲にあるオレフィン重合体の単独又は2種以上の共重合体が好ましい。
【0012】
中和されているか中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているかケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物又はそのエステルなどが挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸としては(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが、その無水物としては無水ナジック酸TM (無水エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが、不飽和カルボン酸エステルとしては上記エチレン系不飽和カルボン酸のメチル、エチルもしくはプロピルなどのモノエステル又はジエステルなどが例示できる。これらの単量体は単独で用いることもできるし、また複数で用いることもできる。これらの中で、−COO−基を効率よく導入できる点で、不飽和ジカルボン酸類、その無水物、そのエステルが好ましい。
【0013】
上記の単量体から選ばれるグラフト単量体を被グラフト重合体にグラフト共重合して変性物を製造するには、従来公知の種々の方法を採用することができる。例えば、被グラフト重合体を溶融させグラフト単量体を添加してグラフト共重合させる方法、あるいは溶媒に溶解させグラフト単量体を添加してグラフト共重合させる方法等があげられる。いずれの場合にも、前記グラフト単量体を効率よくグラフト共重合させるためには、ラジカル開始剤の存在下に反応を実施することが好ましい。
グラフト反応は通常60〜350℃の温度で行われる。ラジカル開始剤の使用割合は被グラフト重合体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部の範囲である。ラジカル開始剤としては、有機ペルオキシド、有機ペルエステル、その他アゾ化合物等があげられる。これらのラジカル開始剤の中でもジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル-2,5−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルペルオキシドが好ましい。
【0014】
中和及びケン化に用いる塩基性物質としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ金属、ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム、ヒドラジン等の無機アミン、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、シクロヘキシルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機アミン、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、酸化カリウム、過酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水素化ストロンチウム、水酸化バリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の弱酸塩を挙げることができる。
塩基物質により中和又はケン化されたカルボン酸基あるいはカルボン酸エステル基としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩又はカルボン酸アンモニウムが好適であり、中でもカルボン酸カリウムが好ましい。
【0015】
(b−2)高級脂肪酸の塩
本発明で使用される(b−2)高級脂肪酸の塩としては、炭素数25〜60の脂肪酸の塩が好ましく、より好ましくは炭素数25〜40の脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩があげられる。特に好ましいのは、モンタン酸のアルカリ金属塩である。
更に、(b−2)は、高級脂肪酸の塩のほかに、高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸のエステルを含んでいてもよい。エステルを構成するアルコール残基は、炭素数2〜30であるのが好ましく、炭素数6〜20であるのが特に好ましい。残基は直鎖状でも、分岐状でも差し支えない。炭素数が異なるものの混合物であっても良い。アルコール残基として、具体的には、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの残基を挙げることができる。モンタン酸のエステルワックス、モンタンロウが特に好適である。
(b−2)高級脂肪酸の塩は、上記の高級脂肪酸を中和及び/又は上記の高級脂肪酸エステルをケン化して得ることができる。この際、中和もしくはケン化されていない脂肪酸又は脂肪酸エステルが共存する部分中和物ないし部分ケン化物であってもよい。中和及びケン化に用いることのできる塩基性物質は、前記(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩であげたものと同様なものを例示できる。
【0016】
水分散系組成物
本発明における水分散系組成物において、前記各成分は一定の量比の範囲で含有することが望ましい。すなわち、(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物100重量部に対して、(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩及び/又は(b−2)高級脂肪酸の塩は、水への分散性及び水分散系組成物の物性の点で、0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0017】
本発明の水分散系組成物は、水への分散安定性を向上させるために、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、水溶性多価金属塩類等の面活性剤を使用することができる。これらの界面活性剤の内、より安定な水分散体が得られるために、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましく、その中でも、高級脂肪酸類が好ましく、特に炭素原子数10〜20の、飽和または不飽和の高級脂肪酸の塩、特にアルカリ金属塩が好ましい。具体的には、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸、リンデン酸、ツズ酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、牛脂酸等のアルカリ金属塩などがあげられる。
これらの界面活性剤は1種単独で、又は2種以上を混合して、使用することができる。
本発明に添加される界面活性剤は、(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物100重量部当たり0.1〜40重量部、特に0.2〜20重量部の間で配合するのがよい。
【0018】
その他必要に応じて、滑性付与剤(例えば、合成ワックス、天然ワックス等)、粘接着性付与剤、架橋剤、補助バインダー(例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、石油樹脂等)、成膜助剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、濡れ剤、難燃剤、安定化剤、防錆剤、防かび剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、起泡剤、消泡剤、湿潤剤、凝固剤、ゲル化剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、付香剤、粘着防止剤、離型剤、沈降防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、染料、顔料(例えば、チタン白、ベンガラ、フタロシアニン、カーボンブラック、パーマネントイエロー等)、充填剤(例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、カオリン、雲母、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム等)有機溶剤、油(鉱物系潤滑油、鉱物油、合成油、植物油等)などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。これらの添加剤は単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。また、このような添加剤は、下記水分散系組成物方法のいずれの工程で添加してもよいし、製造終了後に水分散系組成物に添加してもよい。
【0019】
上記のような水分散系組成物は、前記(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物と酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は前記脂肪酸エステルを溶融混練した後に、これに前記塩基性物質と水を添加後、さらに溶融混練し、酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸エステルの少なくとも一部を中和及び/又はケン化しながら、前記(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物の水相への分散(転相)を行う方法が好ましい。
転相に利用する溶融混練手段は公知のいかなるものでも良いが、好適には、ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機を例示することができる。
中和又はケン化のための前記塩基性物質添加量の割合は、全カルボン酸又はカルボン酸エステルの60〜200%、好ましくは80〜170%である。
また、水分含有量は、水分散系組成物中に3〜25重量%、好ましくは3〜20重量%である。水分含有量が3重量%未満では、転相(水により樹脂固形分が連続相から分散相に変わること)が起り難く、好適な水分散体が得られない。また25重量%を超えると、水分散体が流動性を持ち混練が不十分となり好適な水分散体が得られない。この範囲の水分含有量であれば、このまま基材に塗布することもできる。さらに、粘度が高く作業性が低下する場合は、これに水を補給し粘度を下げた後、塗布することもできる。
【0020】
本発明の水分散系組成物は、ポリオレフィン同士、あるいは金属とポリオレフィンとの接着剤やヒートシール剤として、優れた接着性を示すため、特に包装用接着剤、ラミネート用接着剤、塗料用原料またはプライマーとしても有効に使用される。また、本発明の水分散系は、粒子の平均粒径が、0.1〜5μmと小粒径であり、得られる被膜は防湿性、発水性、紙、ガラス、木、繊維、不織布への熱接着性、熱転写性、耐磨耗性、耐衝撃性、耐候性、耐溶剤性、柔軟性、高周波加工性に優れているので、紙コーティングによる壁紙用バインダー、繊維コーティング剤、工事用ネット、ナイロン、ポリエステル、ガラス繊維の収束剤、紙、不織布の目止め及び熱接着剤、紙、フィルム、金属のヒートシール性付与剤、滅菌紙の熱接着剤、インキ、塗料のバインダー、インクジェットプリンター用紙及びフィルムの表面コート剤、自動車用塗料の耐チッピング性改良剤、無機及び有機物の分散剤等に使用される。
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるもではない。
【実施例】
【0021】
[製造例1]
芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物としてスチレン-ブタジエンランダム共重合体の水素添加物(JSR株式会社製:ダイナロン1321P)100重量部に対して、酸変性ポリオレフィンとして、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製: ハイワックス2203A:無水マレイン酸グラフト量 3重量%−COO−基:0.67ミリモル/g-重合体)10重量部およびオレイン酸カリウム3重量部を混合し、2軸スクリュー押出機(池貝鉄工製 PCM−30 L/D=20)のホッパーより3000g/時間の速度で供給して190℃で溶融混練し、同押出機のベント部に設けた供給口より水酸化カリウムの18.7%水溶液を123g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度200℃で連続的に押出した。
押出された溶融混練物は同押出機出口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで90℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入し固形分濃度45重量%になるように調整し、水分散系樹脂を得た。得られた水分散系の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社)で測定したところ0.5μmであった。
【0022】
[製造例2]
製造例1の芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物の代わりに芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物(旭化成株式会社製タフテックH1062)を使用して同様の方法で水分散系樹脂を得た。得られた水分散系の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置で測定したところ0.4μmであった。
【0023】
[製造例3]
製造例1の芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物の代わりにプロピレン系エラストマー(三井化学株式会社製:タフマーXR−110T)を使用して同様の方法で水分散系樹脂を得た。得られた水分散系の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置で測定したところ0.5μmであった。
【0024】
[実施例1]
(造膜性)製造例1で得られた水分散系樹脂を乾燥膜厚3μmとなるように、バーコーターを使用して厚み30ミクロン無延伸プロピレンフィルム(東セロ株式会社製:CP#30S)のコロナ処理面に塗布し、80℃にセットしたエア・オーブン中で60秒間加熱し成膜した。透明な皮膜が得られた。
【0025】
[比較例1]
(造膜性)製造例2で得られた水分散系を乾燥膜厚3μmとなるように、バーコーターを使用して厚み30ミクロン無延伸プロピレンフィルム(東セロ株式会社製CP#30S)のコロナ処理面に塗布し、80℃にセットしたエア・オーブン中で60秒間加熱し成膜した。透明な皮膜が得られた。
【0026】
[比較例2]
(造膜性)製造例3で得られた水分散系を乾燥膜厚3μmとなるように、バーコーターを使用して厚み30ミクロン無延伸プロピレンフィルム(東セロ株式会社製CP#30S)のコロナ処理面に塗布し、80℃にセットしたエア・オーブン中で60秒間加熱し成膜した。皮膜は不透明であり造膜が不十分であった。
【0027】
[比較例3]
(造膜性)エア・オーブンの温度を110℃に変える以外は比較例2同様に成膜した。透明な皮膜が得られた。
【0028】
[実施例2]
(ヒートシール性)実施例1で製造したヒートシール層付きのフィルムのヒートシール面同士をJIS Z 1707に準拠した方法により、100〜120℃で、1秒間、1kg/cm2の圧力をかけて熱接着し、試料とした。この試料の180°剥離強度試験の結果を表1に記した。
【0029】
[比較例4]
実施例2と同様に、比較例1で製造したヒートシール層付きのフィルムのヒートシール面同士をJIS Z 1707に準拠した方法により、100〜120℃で、1秒間、1kg/cm2の圧力をかけて熱接着し、試料とした。この試料の180°剥離強度試験の結果を表1に記した。
【0030】
[比較例5]
実施例2と同様に、比較例3で製造したヒートシール層付きのフィルムのヒートシール面同士をJIS Z 1707に準拠した方法により、100〜120℃で、1秒間、1kg/cm2の圧力をかけて熱接着し、試料とした。この試料の180°剥離強度試験の結果を表1に記した。
【0031】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体の水素添加物と(b−1)酸変性ポリオレフィンの塩及び/又は(b−2)高級脂肪酸の塩を含む水分散系組成物。
【請求項2】
前記(a)100重量部に対して、前記(b−1)及び/又は前記(b−2)を0.5〜30重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の水分散系組成物。
【請求項3】
前記(b−1)が、不飽和ジカルボン酸類で変性されたポリオレフィンの塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散系組成物。
【請求項4】
前記(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体と酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸エステルとの溶融混練物に、塩基性物質と水を添加して溶融混練し、酸変性ポリオレフィン及び/又は高級脂肪酸及び/又は高級脂肪酸エステルの少なくとも一部を中和及び/又はケン化して、水に分散させて得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水分散系組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の水分散系組成物からなるヒートシール用接着剤。

【公開番号】特開2006−282723(P2006−282723A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101397(P2005−101397)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】