説明

水分検出方法及び水分検出装置

【課題】水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する必要がない水分検出方法を提供する。
【解決手段】単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子17が、中性子発生管2から、配管12を取り囲む保温材13に照射される。高速中性子17が保温材13内の水15及び配管12内の液体16で減速されて熱中性子18になる。高速中性子17の照射方向と逆方向に進む熱中性子18をHe比例計数管3で検出する。スケーラー10は、熱中性子の検出信号を用いて設定された時間毎の計数値を算出する。データ処理装置11は、これらの計数値を用いて、各時間幅での熱中性子の強度を求める。この強度がピークになる時間を基に熱中性子の飛行距離を求め、この飛行距離、及びHe比例計数管3と配管12の外面との距離に基づいて、保温材13内の水分の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分検出方法及び水分検出装置に係り、特に、化学プラントの蒸留塔等の塔及び槽、及び配管の周囲に設けられた保温材内の水分の検出に適用するのに好適な水分検出方法及び水分検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学プラント等のプラントにおける塔または配管の検査、すなわち、これらを取り囲む保温材内の水分の検出は、目視、超音波または渦電流を用いて実施されていた。しかし、この水分検出方法では減速された中性子、金属カバー及び保温材を塔または配管から取り除く必要があるため、水分検出に多大な労力及び時間を要する。また、その水分検出時に化学プラントを停止する必要がある。
【0003】
金属カバー及び保温材を取り除かないで塔または配管を検査する方法としては、腐食の原因となる保温材中の水分を計測する方法がある。この方法は、カリフォルニウム等の中性子線源から発生する中性子を金属カバーの外側から照射し、保温材中の水分によって中性子が減速され、その後、中性子の照射方向と逆方向に散乱されてくる減速された中性子束を測定する方法である(特公平7−58253号公報参照)。
【0004】
特公平7−58253号公報に記載された水分測定方法は、塔または配管内部の液体によって減速される中性子も測定してしまうので、塔または配管内部に液体が存在している化学プラントの運転時には、塔または配管内部からのバックグラウンドが高く保温材内の水分の測定が精度良く行うことができなかった。特に、化学プラント等の塔または配管内を流れる液体(重油、灯油等)で減速されて発生する中性子と保温材に含まれた水分で減速されて発生する中性子の区別がつかない。このため、塔または配管内に液体が流れている化学プラント等の運転中における保温材内の水分の検出が、特公平7−58253号公報に記載の方法では困難である。
【0005】
特公平7−58253号公報の問題点を解消する中性子を利用した化学プラント等の運転中の塔または配管を取り囲む保温材内の水分の検出方法が、特開2008−180700号公報にて提案されている。この水分検出方法は、中性子発生管で発生する単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を金属カバーの外側から配管の周囲に取り付けられている保温材に照射し、その高速中性子によって生成されて高速中性子の照射方向とは逆方向に進む減速された中性子(熱中性子)の強度の時間変化を、パルス状の高速中性子の発生時点を基点に算出し、得られたその時間変化の情報に基づいて保温材内における水の位置を求める方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−58253号公報
【特許文献2】特開2008−180700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2008−180700号公報に記載された方法では、塔または配管の保温材内に水が存在する場合とそれが存在しない場合の両方の測定を比較して保温材内の水の有無を判定している。このため、保温材内に水が存在しない場合での熱中性子検出率の分布のデータ(例えば、特開2008−180700号公報の図2(C)参照)を、測定結果に基づいて、予め、求め、データベース化することが必要である。
【0008】
特公平7−58253号公報に記載された水分検出方法でも、含水量を種々変更してこれらの含水域分布及び含水量が既知の複数のサンプルに対して、第1標準相関及び第2標準相関の各データを予め求め、データベース化する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する必要がない水分検出方法及び水分検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を、内部に液体が存在する検査対象物の周囲を取り囲んでいる保温材に照射し、照射された高速中性子から生成されて高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を中性子入射装置によって検出し、熱中性子の検出信号を基に、高速中性子の発生時点を基点にした、検出された熱中性子の強度の時間変化を算出し、得られたその時間変化の情報、及び設置された中性子入射装置と検査対象物の間の距離に基づいて、保温材内に存在する水を検出することにある。
【0011】
熱中性子の強度の時間変化の情報、及び設置された中性子入射装置と検査対象物の間の距離に基づいて、保温材内における水の存在を検出するので、水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する必要がなくなる。なお、中性子入射装置と検査対象物の間の距離は、中性子入射装置と検査対象物の外面との間の距離及び中性子入射装置と検査対象物の内面との間の距離のいずれかである。
【0012】
好ましくは、保温材内の水の検出は、熱中性子の強度の時間変化の情報を基に、熱中性子の強度がピークになる時点の、高速中性子の発生時点から経過した時間を求め、得られたこの時間に基づいて熱中性子の飛行距離を求め、この熱中性子の飛行距離及び中性子入射装置と検査対象物の間の距離に基づいて、保温材内に存在する水を検出することによって行われることが望ましい。
【0013】
熱中性子の強度の時間変化の情報を基に、熱中性子の強度がピークになる時点の時間を算出できるので、その時間までに中性子入射装置に到達する熱中性子の飛行距離を容易に求めることができる。このため、熱中性子の飛行距離及び中性子入射装置と検査対象物の間の距離に基づいて、保温材内における水の存在を精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の水分検出装置の構成図である。
【図2】計測された熱中性子の検出率の時間変化を示す特性図である。
【図3】図1に示す水分検出装置で計測された熱中性子の検出率の時間変化を示す説明図で、(A)はパルス状の高速中性子の、発生時間での発生率を示す説明図、(B)は保温材内に水が存在する状態での熱中性子の検出率の時間変化を示す説明図、(C)は保温材内に水が存在しない状態での熱中性子の検出率の時間変化を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施例である実施例2の水分検出装置の構成図である。
【図5】本発明の他の実施例である実施例3の水分検出装置の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例である実施例4の水分検出装置の構成図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例5の蒸留塔に適用した水分検出方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する必要がない水分検出方法を実現するために、種々の検討を行った。この検討に際しては、特開2008−180700号公報に記載された単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子の使用を前提にした。水分を検出する保温材を取り付けた検査対象物としては、蒸留塔、反応塔、反応槽、吸着塔及び混合槽等の塔及び槽、タンク(プラントで用いる化学薬品を充填したタンク及び石油タンク等)及び配管がある。
【0017】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を発生する中性子発生装置として、例えば、重水素と重水素の核融合反応を利用してその中性子を発生させる中性子発生装置を用いる。この中性子発生装置は、加速した重水素イオンをチタン等の水素吸蔵合金に吸蔵した重水素にパルス的に衝突させることによって、約2.5MeVのエネルギーの中性子がパルス的に発生する。金属カバーで覆われている保温材を取り付けた検査対象物に、発生したパルス状の高速中性子(以下、パルス高速中性子という)を、保温材を覆う金属カバーの外側から照射する。約2.5MeVのエネルギーの高速中性子は、速度が約2.2×10m/秒であるため、1マイクロ秒当たり約22m進む。
【0018】
照射されたパルス高速中性子は、金属カバー、保温材、保温材中の水分、及び検査対象物内の液体によって散乱され、エネルギーを失って減速された中性子(熱中性子)になる。その高速中性子は、金属による散乱ではほとんどエネルギーを失わず、水分等に含まれる軽元素による散乱によって大部分のエネルギーを失い、数マイクロ秒で熱中性子となる。このような熱中性子のうち、パルス高速中性子の照射方向に対して逆方向に進行する熱中性子をHe中性子検出器等の中性子入射装置に入射させる。熱中性子の平均エネルギーは0.025eVであり、速度が約2200m/秒であることから、10マイクロ秒あたり約2.2cm進むことになる。この熱中性子が、高速中性子の照射方向と逆の方向において、高速中性子が減速されて熱中性子になった位置から中性子入射装置に入射するまでの間に、照射方向に進む時にその高速中性子が減速された液体によって再び散乱され減速される。
【0019】
この高速中性子の照射方向と逆方向に進む熱中性子が、高速中性子が減速された液体によって再び散乱され減速される現象が遮蔽効果である。この遮蔽効果により再び減速または散乱される熱中性子の割合は、上記の逆方向に進行する熱中性子が通過する液体の厚さに応じて決まる。測定された熱中性子の強度は、その遮蔽効果により、高速中性子の発生時間を基点とするある経過時間においてピークを有する。この状態を以下に説明する。
【0020】
図2に、高速中性子の発生時間を基点とした熱中性子検出率の時間変化の一例を示す。高速中性子の発生率が高い場合には、高速中性子のパルス毎に現れる熱中性子検出率の時間変化は、特開2008−180700号公報の図2(B)に示されたバックグラウンドの熱中性子の領域bを含むようになる。しかしながら、高速中性子の発生率が低い中性子発生装置を用いてこの中性子発生装置により高速中性子を発生した場合には、一つの高速中性子のパルスに対して、高速中性子の照射方向と逆の方向に進行する熱中性子が数個しか検出されないという状況となり、上記したバックグラウンドの熱中性子の領域bがほとんど生じなくなる。図2は、多数の高速中性子のパルスに対して検出されたそれらの熱中性子の検出結果に基づいて得られた熱中性子検出率の時間変化を示している。パルス状の高速中性子が発生する時間間隔を伸ばした場合にも、検出される熱中性子の個数が少なくなり、バックグラウンドの熱中性子の領域bがほとんど発生しなくなる。
【0021】
中性子発生装置から照射された高速中性子の速度は、例えば2.5MeVの中性子において1マイクロ秒で22m進むように、非常に早いために、高速中性子の発生後、この高速中性子は瞬時に検査対象物内に達する。検査対象物内に達した高速中性子は、検査対象物内に到達するまでの間で、保温材の金属カバー、保温材、保温材内の水分、及び検査対象物内の液体によって散乱され、エネルギーを失って熱中性子になる。照射された高速中性子は、金属による散乱ではほとんどエネルギーを失わず、水分等の液体に含まれる軽元素による散乱によって大部分のエネルギーを失い、数マイクロ秒で熱中性子となる。このような熱中性子のうち、パルス高速中性子の照射方向とは逆の方向に進行する熱中性子が、He中性子検出器等の中性子入射装置に入射される。
【0022】
熱中性子は、前述したように、10マイクロ秒あたり約2.2cm進む。高速中性子の照射方向とは逆の方向に進行する熱中性子が、上記した遮蔽効果によって、再び減速または散乱される。このため、前述したように、中性子入射装置によって測定される熱中性子の強度は、高速中性子の発生時間を基点とするある経過時間においてピークを有する。熱中性子の速度をvth、熱中性子の強度がピークになる時間をTとすると、時間Tでの熱中性子の飛行距離L2は、(1)式で表すことができる。
【0023】
L2=vth×T ……(1)
ここで、熱中性子の速度vthは既知の値であり、熱中性子の強度がピークになる時間Tは測定結果である。厳密には、時間Tでの熱中性子の飛行距離L2は熱中性子が発生した時点からの飛行距離である。しかしながら、高速中性子の速度が熱中性子の速度に比べて非常に早いので、中性子発生装置で発生した高速中性子は、瞬時に、保温材内に存在する水または検査対象物内の液体の位置に到達し、減速されて熱中性子になる。このため、高速中性子の発生時間を基点にした、熱中性子の強度がピークになるまでの経過時間Tに基づいて熱中性子の飛行距離L2を求めても、生じる誤差は無視することができる。
【0024】
高速中性子照射によって生成される熱中性子が最大となる位置は、高速中性子のエネルギーが決まっていれば、保温材内に存在する水の表面からの水の厚さで決まるので、その熱中性子の量が最大となる位置から、He中性子検出器等の中性子入射装置に向って飛行してきた熱中性子の飛行時間を測定することによって、保温材内に存在する水の表面までの距離が分かる。本発明は、この原理に基づいて保温材内に存在する水の有無を判定している。
【0025】
中性子入射装置から検査対象物の外面までの距離をL1とすると、(L2−L1)が、遮蔽効果を生じる水の厚さDになる。設置された中性子入射装置から検査対象物の外面までの距離L1は、検査の前で中性子入射装置を設置した時点で予め求めておく。この距離L1は、例えば、中性子入射装置から金属カバーの外面までの測定された距離、金属カバーの外面から検査対象物の外面までの設計図面での寸法及び検査対象物の厚みによって求められる。高速中性子の発生時間を基点にして、熱中性子の強度がピークになる時間Tを測定する。測定された時間Tを(1)式に代入することによって、ピークを形成する時間Tでの熱中性子の飛行距離L2を算出することができ、結果として、(L2−L1)の値を求めることができる。
【0026】
遮蔽効果が生じる水の厚さをDとすると、(L2−L1)が水の厚さDより小さい値である場合は、保温材内に水が存在していると判定することができる。距離L1は設置された中性子入射装置から検査対象物の内面までの距離であってもよい。遮蔽効果が生じる水の厚さDは、実験(または計算)で予め求めておくことができる。したがって、中性子の強度がピークになる時間Tを求めることによって、保温材内における水の有無を判定できる。
【0027】
検査対象物の内部に液体が存在する場合、熱中性子の強度がピークに到達する時間は、減速された熱中性子を検出する中性子入射装置の設置位置と水の表面との距離に関係する。このため、中性子入射装置の、検査対象物の外面(または内面)からの距離を用いることによって、水の表面が保温材内に存在するか否かを判定することができる。
【0028】
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0029】
本発明の好適な一実施例である実施例1の水分検出装置を、図1に基づいて説明する。本実施例の水分検出装置1は、中性子発生管(中性子発生装置)2、中性子検出器であるHe比例計数管(中性子入射装置)3、制御装置5、波高弁別器9、スケーラー10及びデータ処理装置11を備えている。中性子検出器としてBF比例計数管を用いてもよい。電源4がケーブルにて中性子発生管2に接続される。He比例計数管3は、前置増幅器7及び増幅器8を介して波高弁別器9に接続される。波高弁別器9は、スケーラー10を介してデータ処理装置11に接続される。高圧電源6が前置増幅器7に接続される。制御装置5は、電源4及び波高弁別器9に接続される。中性子発生管2及びHe比例計数管3が支持部材(図示せず)に取り付けられている。
【0030】
保温材13が検査対象物である配管12の周囲を取囲んで配管12に取り付けられている。配管12は例えば化学プラントの配管である。金属カバー14が保温材13の外面を覆っている。配管12内には、液体(例えば、重油、軽油、灯油及び化学物質等のいずれか)16が流れている。中性子発生管2及びHe比例計数管3は、金属カバー14の外面に対向し、それぞれの軸心が配管12の半径方向を向いて配置される。
【0031】
保温材13内に水15が存在する場合には、この水15は、屋外に設置された配管12の金属カバー14の隙間等から金属カバー14と配管12の間に浸入した雨水である。この水15が配管12の腐食の原因となる。
【0032】
化学プラントの屋外に配置された配管12を対象に、水分検出装置1を用いて行う検査を以下に説明する。水分検出装置1は、検査員が手に持って移動可能な重量及び大きさになっている。検査員は、水分検出装置1の中性子発生管2及びHe比例計数管3を、支持部材に取り付けて、検査箇所の金属カバー14の外面から所定の距離だけ離して配置する。この支持部材は、配管12が設置されている地面またはコンクリート表面の上に倒れないようにして置かれる。検査員は、データ処理装置10に接続された入力装置(図示せず)から配管12の直径、保温材13及び金属カバー14の各厚み、配管12の外面(検査対象物の外面)から中性子発生管2及びHe比例計数管3までのそれぞれの距離、配管16内を流れる液体16の種類名(例えば、灯油、重油及び化学物質等の名称)及び保温材13の材質等の情報を入力する。これらの情報はデータ処理装置10のメモリ(図示せず)に記憶される。
【0033】
制御装置5は、クロック発生器(図示せず)からのクロック信号に基づいて所定の第1の時間間隔でパルス状の第1制御指令(高速中性子発生指令)を発生し、この第1制御指令に基づいて電源4を制御する。電源4は、第1の時間間隔でON,OFFされ、ONの状態において中性子発生管2に高電圧を印加する。これにより、中性子発生管2は、第1の時間間隔でパルス状の高速中性子17を、順次、発生する。中性子発生管2は、例えば、1000Hzで10秒間運転される。この間に発生したパルス状の高速中性子17は保温材13及び配管12に照射される。
【0034】
中性子発生管2として、重水素と重水素の核融合反応により高速中性子を発生させる中性子発生管を用いる。この中性子発生管2は、約2.5MeVの単一エネルギーの高速中性子17を発生する。中性子発生管2として、トリチウムと重水素の核融合反応により高速中性子を発生させる中性子発生管を用いることも可能である。この場合には、約14MeVの単一エネルギーの高速中性子17が中性子発生管内で発生する。
【0035】
発生した高速中性子17は、金属カバー14、保温材13、保温材13内に存在する水15、配管12及び配管12内を流れる液体16のそれぞれの構成元素と弾性散乱することによって、エネルギーを失い、より低いエネルギーの熱中性子18となる。高速中性子17は、主に原子番号の小さい元素(例えば水素元素)との弾性散乱によって多くのエネルギーを失い、原子番号の大きい元素との弾性散乱によってはほとんどエネルギーを失わない。このため、高速中性子17は、金属カバー14、保温材13及び配管12によってはエネルギーをほとんど失わず、水15及び液体16によって主にエネルギーを失って熱中性子18となる。
【0036】
生成された熱中性子18は、高速中性子17が弾性散乱されることによってエネルギーを失ったものであり、全ての方向に飛行する可能性がある。これらの熱中性子18のうち、高速中性子17の照射方向とは逆の方向に飛来する熱中性子18が、He比例計数管3で検出される。保温材13内に水15が存在する場合には、上記した逆方向に進行する熱中性子18が、その水15によってさらに減速される。高圧電源6からの高電圧が前置増幅器7を介してHe比例計数管3に印加されている。He比例計数管3は、熱中性子18とHeの核反応によって発生する荷電粒子である陽子を検出することによって熱中性子18を検出する。すなわち、He比例計数管3は、発生した陽子のエネルギーが内部で失われるとき、失われたエネルギーに対応した電流信号を発生する。Heは熱中性子以外との反応が非常に小さいので、He比例計数管3は、入射される高速中性子17をほとんど検出せずほぼ熱中性子18のみを検出する。
【0037】
熱中性子18を検出したHe比例計数管3から出力されたその電流信号は、前置増幅器7及び増幅器8を通して電圧信号に変換され、波高弁別器9に入力される。波高弁別器9は、設定波高値以上のアナログ信号を、ロジックパルスに変換する。この設定波高値のレベルは、任意に設定できる。He比例計数管3に中性子が入力されたときの波高値が、He比例計数管3にγ線が入力されたときの波高値よりも十分高くなっている。このため、波高弁別器9に設定波高値を適切に設定することによって、波高弁別器9はγ線のバックグラウンド信号を熱中性子の信号から分離する。
【0038】
制御装置5は、入力したクロック信号に基づいて第1制御指令を電源4に出力したとき、波高弁別器9にロジックパルス変換開始指令である第2制御指令を出力する。第2制御指令を入力した波高弁別器9は、設定波高値以上の、入力した熱中性子検出信号のロジックパルスへの変換を開始する。制御装置5は、第2制御指令の出力時点(中性子発生管2での酵素工中性子17の発生時点)を基点にして、所定の単位時間、例えば、1マイクロ秒毎に波高弁別器9に時間情報を与える。波高弁別器9は、第2制御指令の入力時点以降、1マイクロ秒毎に、設定波高値以上の熱中性子検出信号をロジックパルスに変換する。波高弁別器9は、1マイクロ秒毎の、ロジックパルスに変換された信号をスケーラー(計数値測定器)10に出力する。スケーラー10は、1マイクロ秒毎の、ロジックパルスに変換された信号に基づいて、設定された時間(例えば、1マイクロ秒)毎にその信号をカウントし、得られた1マイクロ秒毎の計数値をデータ処理装置11に出力する。
【0039】
データ処理装置11は、設定された時間(例えば、1マイクロ秒)毎の各計数値に基づいて、中性子発生管2における高速中性子17の発生時間を基点にして、上記の設定された時間幅で、時系列的に、単位時間当たりにHe比例計数管3で検出された熱中性子18の個数(熱中性子18の検出率)をそれぞれ算出する。この熱中性子18の個数は熱中性子18の強度を示している。データ処理装置11は、時系列的に1マイクロ秒毎に算出された、単位時間当たりの各熱中性子18の検出率のうち最も大きな熱中性子の検出率を選択する。選択された最大の熱中性子の検出率が、図2に示す熱中性子検出率のピーク値である。
【0040】
さらに、データ処理装置11において以下の処理が行われる。高速中性子17の発生時間から熱中性子18の検出率がピークになるまでに要した、上記の設定された時間幅の数をカウントし、このカウント数に基づいて、熱中性子18の検出率がピークになる時間Tを算出する。得られた時間Tを(1)式に代入し、ピークを形成する時間Tでの熱中性子18の飛行距離L2を算出する。He比例計数管3から配管12の外面までの距離L1及び熱中性子18の飛行距離L2に基づいて、(L1−L2)を算出し、(L1−L2)と遮蔽効果が生じる水の厚さDを比較する。遮蔽効果が生じる水の厚さDは、予め求めてデータ処理装置10のメモリに記憶されている。
【0041】
データ処理装置11は、L1−L2<Dのとき、保温材13内に水分が存在していると判定する。L1−L2≧Dのときには、保温材13内に水分が存在していないと判定される。データ処理装置11は、保温材13内における水分の有無の判定結果を表示装置(図示せず)に出力する。水分の有無の判定結果が表示装置に表示される。
【0042】
データ処理装置11によって、上記の設定された時間毎に算出された、単位時間当たりの各熱中性子の検出率を、時系列的に表示装置に表示すると、図3のようになる。高速中性子17が、時間T0で中性子発生管2から保温材13に向かって照射されたとする(図3(A)参照)。保温材13内に水15が存在するとき、He比例計数管3で検出された熱中性子18に基づいて得られた熱中性子の検出率(熱中性子の強度)の変化は、図3(B)のようになる。この熱中性子の検出率は、時間T0から時間が経過するにつれ増加し、時間T1でピーク値P1に達して、その後、減少する。熱中性子の検出率がピーク値P1になる時間T1を(1)式のTに代入して、熱中性子の飛行距離L2を求める。この場合には、L1−L2<Dになるので、データ処理装置11は保温材13内に水分が存在していると判定する。本実施例では、配管12の外面からHe比例計数管3までの距離は、例えば、15cmである。
【0043】
保温材13内に水15が存在しないとき、He比例計数管3で検出された熱中性子18に基づいて得られた熱中性子の検出率の変化は、図3(C)のようになる。この熱中性子の検出率も、時間T0から時間が経過するにつれ増加し、時間T2でピーク値P2に達して、その後、減少する。熱中性子の検出率がピーク値P2になる時間T2を(1)式のTに代入して、熱中性子の飛行距離L2を求める。この場合には、L1−L2≧Dになるので、データ処理装置11は保温材13内に水分が存在していないと判定する。
【0044】
例えば、中性子発生管2を1000Hzで運転した場合には、熱中性子の強度のピークは、10000パルス程度の熱中性子をHe比例計数管3によって検出することによって形成できる。このため、中性子発生管2で、10秒程度、高速中性子を発生すれば、保温材13内における水15の存在の有無を判定することができる。
【0045】
He比例計数管3から配管12の外面までの距離が上記の場合よりもΔLだけ離れたとき、熱中性子の検出率がピーク値になる時間が遅くなる。すなわち、保温材13内に水15が存在する場合には、図3(B)に一点鎖線で示すように、熱中性子の検出率がピーク値P1’に到達する時間T3がΔT=ΔL/vth だけ時間T1よりも遅くなる。すなわち、T3はT1+ΔTになる。保温材13内に水が存在しない場合には、図3(C)に一点鎖線で示すように、熱中性子の検出率がピーク値P2’に到達する時間T4がΔT=ΔL/vth だけ時間T2よりも遅くなる。すなわち、T4はT2+ΔTになる。したがって、He比例計数管3から金属カバー14の外面までの距離を正確に測定し、この測定した距離に設計図面等から読み取った金属カバー14の外面から配管12の外面までの寸法を加える必要がある。He比例計数管3から金属カバー14の外面までの距離は、レーザー等を用いて測定される。金属カバー14の外面から配管12の外面までの寸法を厳密に確認したい場合には、金属カバー14及び保温材13を一部取り除いて金属カバー14の外面から配管12の外面までの長さを測定するとよい。
【0046】
中性子発生管2は、時間T0で高速中性子17を発生した後、前述の第1の時間間隔で高速中性子17を順次発生させる。He比例計数管3は、高速中性子17の高速中性子17の照射方向とは逆の方向に飛来する熱中性子18を、周期的な高速中性子の発生毎に検出する。このため、熱中性子の強度のピーク値(P1またはP2)が周期的に現れる。
【0047】
本実施例は、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子17を配管12の検査対象箇所に照射するので、配管12内で液体16が流れている状態で、高速中性子17の発生時間T0を基点に、照射した高速中性子17に対応した熱中性子18の検出率のピーク値(P1またはP2)を得ることができる。このため、配管12内の液体16の流れを停止させないで保温材13内における水15の存在の有無を精度良く判定することができる。本実施例は、配管12内に液体16を流している状態、すなわち、化学プラントを運転している状態で、配管12を取り囲む保温材13内での水15の存在の有無を判定できるので、化学プラントの稼働率を向上させることができる。
【0048】
複数のエネルギーを有する高速中性子を検査対象箇所に照射した場合には、液体16及び水15によってエネルギーの異なる複数の熱中性子が生成される。これらの熱中性子がHe比例計数管3で検出されたとき、それぞれのエネルギーの熱中性子の検出率のそれぞれの分布が重なってしまい、S/N比が悪化する。本実施例は、単一エネルギーの高速中性子を照射しているので、検出される検出率のS/N比は向上する。パルス状の高速中性子を照射しているため、或る時間に発生した高速中性子17に対する熱中性子の検出率分布、特に、熱中性子の検出率のピーク値を得ることができる。したがって、上記したように、配管12内に液体16が流れている状態であっても、保温材13内に水15が存在しているか否かを精度良く検知することができる。
【0049】
本実施例は、熱中性子18の検出率(熱中性子の強度)がこのピーク値に達する時間までに、高速中性子17の照射方向とは逆の方向において熱中性子18が飛行する距離、及びHe比例計数管3と配管12の外面の間の距離に基づいて、配管12を取り囲む保温材13内に存在する水15を検出することができる。それに基づけば、保温材13内に水15が存在しない場合も検出することができる。このような本実施例は、保温材13内に水15が存在するか否かの判定に、特開2008−180700号公報の図2(C)に示されたバックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータを用いる必要がない。したがって、本実施例は、バックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータを事前に計測する必要がない。
【0050】
水15の存在の有無の判定に用いる遮蔽効果が生じる水の厚さDが演算で求められるので、特開2008−180700号公報で用いられるバックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータ、及び特公平7−58253号公報で用いられる第1標準相関及び第2標準相関の各データのように、水分の存在の判定に用いる情報のデータベースを予め作成する必要がなくなる。
【0051】
このバックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータを事前に計測する場合には、高速中性子を配管に照射してHe比例計数管で熱中性子を検出し、熱中性子の検出率の時間変化を求めると同時に、高速中性子を照射した位置での金属カバー及び保温材の一部を剥がし、保温材内の水の存在の有無を作業員が確認していた。保温材内に水が存在しないことが確認されたときにおける熱中性子の検出率の時間変化の情報を、バックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータにしていた。このようなバックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータは、保温材13内での水15の検出精度をあげるために、保温材13内の水分の検出を行う毎(中性子発生管2及びHe比例計数管3を検査対象物のそばに設置するたび)に行っていたので、水分検出作業に要する時間が長くなっていた。
【0052】
本実施例では、水15の存在の有無の判定に用いる遮蔽効果が生じる水の厚さDが演算で求められ、バックグラウンドの熱中性子の領域bに関するデータを求める場合のように、金属カバー14及び保温材13の一部を配管12から剥がす必要がないので、水分検出作業に要する時間を短縮することができる。
【0053】
また、本実施例は、中性子発生管2として重水素と重水素の核融合反応を利用して高速中性子17を発生する装置を用いるため、重水素の加速方向における高速中性子17の発生率が高くなる。したがって、重水素の加速方向を高速中性子17の配管12への照射方向とすることによって、全体の高速中性子17の発生率に対する配管12に照射される高速中性子17の発生率の割合を高めることができ、効率の良い高速中性子17の照射ができる。
【0054】
He比例計数管3と配管12の外面の間の距離L1を用いる替りに、L1として、He比例計数管3と配管12の内面の間の距離を用いても、保温材13内における水15の存在を判定することができる。
【実施例2】
【0055】
本発明の他の実施例である実施例2の水分検出装置を、図4に基づいて説明する。本実施例の水分検出装置1Aは、He比例計数管、前置増幅器7、増幅器8、波高弁別器9及びスケーラー10をそれぞれ4つずつ備えている以外は実施例1の水分検出装置1の構成と同じである。これらのHe比例計数管は、一対のHe比例計数管3A及び一対のHe比例計数管3Bを含んでいる。前置増幅器7、増幅器8、波高弁別器9及びスケーラー10は、実施例1のように互いに接続されている。各前置増幅器7が、一対のHe比例計数管3A及び一対のHe比例計数管3Bにそれぞれ接続される。各スケーラー10が1つのデータ処理装置11に接続される。電源4が中性子発生管2に接続される。高圧電源6が4つの前置増幅器7にそれぞれ接続される。図4では、3つの前置増幅器7と高圧電源6の接続の図示を、図面が煩雑になるために省略した。
【0056】
一対のHe比例計数管3A及び一対のHe比例計数管3Bが、それぞれ、中性子発生管2の軸心に対して対称になるように、中性子発生管2の両側に配置される。中性子発生管2、He比例計数管3A,3Bのそれぞれの軸心が配管12の中心を向いている。一対のHe比例計数管3Aのそれぞれ、及び一対のHe比例計数管3Bのそれぞれは、配管12の外面から等距離の位置に配置されている。図示されていないが、制御装置5は、第1制御指令を高圧電源4に出力し、第2制御指令を4つの波高弁別器9に出力する。
【0057】
第1制御指令に基づいて中性子発生管2から金属カバー14に単一エネルギーの高速中性子17が照射される。この高速中性子17は、第1制御指令が出力される時間毎にパルス状に発生する。生成された熱中性子18は該当するHe比例計数管に入射される。それぞれのHe比例計数管に接続される各スケーラー10で得られた各設定された時間毎の計数値は、データ処理装置11に入力される。データ処理装置11は、これらの計数値を基に実施例1と同様な処理を行い、保温材13内に水15が存在するかまたは水15が存在しないかを判定する。
【0058】
特に、一対のHe比例計数管3Aのそれぞれが、配管12の外面から等距離に配置されているので、保温材13内に水15が存在しない場合は、一対のHe比例計数管3Aのそれぞれで検出された各熱中性子の各検出信号に基づいて得られた各熱中性子の検出率が、各ピーク値P1に達する時間は、同じ時間T1になる。同様に、一対のHe比例計数管3Bのそれぞれで検出された各熱中性子の各検出信号に基づいて得られた各熱中性子の検出率が、各ピーク値P1に達する時間は、同じ時間T1になる。配管12の周方向において、水15が保温材13内に偏在して存在する場合には、対のHe比例計数管3A(または3B)でそれぞれ検出された各熱中性子の各検出信号に基づいて得られた、対のHe比例計数管3A(または3B)のそれぞれに対応する各熱中性子の検出率において、各ピーク値P1に達する時間が異なるので、本実施例は、偏在した水15の存在を検出できる。また、保温材13内に水15が均一に存在する場合でも、実施例1と同様に、水の存在を検出できる。
【0059】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0060】
本発明の他の実施例である実施例3の水分検出装置を、図5に基づいて説明する。本実施例の水分検出装置1Bは、実施例2における中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aを備えている。水分検出装置1Bは、実施例2の水分検出装置1Aにおいて、一対のHe比例計数管3B、及びこれらのHe比例計数管3Bに接続される前置増幅器7、増幅器8、波高弁別器9及びスケーラー10を取り除いた構成を有する。さらに、水分検出装置1Bにおいて、中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aが、配管12を取り囲む環状の連結具(移動体)20に取り付けられる。一対のHe比例計数管3Aが、それぞれ、中性子発生管2の軸心に対して対称になるように、中性子発生管2の両側に配置される。連結具20は、金属カバー14を取り囲んで金属カバー14の外面に設置された環状のガイドレール(ガイド装置)21に、配管12の周方向に移動可能に取り付けられる。ガイドレール21には、金属カバー14の外面に沿って配管12の軸方向に伸びる複数の支持部材22が取り付けられている。
【0061】
中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aを、連結具20をガイドレール21に沿って移動させることにより、He比例計数管3A金属カバー14の周囲を旋回する。連結具20は、所定の角度だけ旋回させた後、その角度で保持される。連結具20に取り付けられた中性子発生管2で発生した高速中性子17を保温材13に照射する。保温材13内に存在する水15及び配管12内を流れる液体16のそれぞれの減速作用によって生成された熱中性子18が、各He比例計数管3Aで計測される。ある角度での熱中性子18の計測が終了したとき、連結具20がさらに所定角度だけ回転される。このようにして、中性子発生管2及びHe比例計数管3Aが、周方向において、金属カバー14の周囲での移動及び停止を所定角度ずつ繰り返す。この動作によって、保温材13の周方向全域に亘って、高速中性子17の照射及び熱中性子18の計測が順次行われる。
【0062】
配管12の周方向において水15が保温材13内に偏在する場合には、実施例2と同様に、対になっているHe比例計数管3Aでそれぞれ検出された各熱中性子の各検出信号に基づいて得られた、対のHe比例計数管3Aのそれぞれに対応する各熱中性子の検出率において、各ピーク値P1に達する時間が異なるので、本実施例は、水15の存在を検出できる。保温材13内で周方向に水15が均一に存在する場合でも、実施例1と同様に、水15の有無を検知できる。
【0063】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、中性子発生管2及びHe比例計数管3Aが配管12の周囲を旋回するので、配管12の周方向において、保温財13内に存在する水15を検出することができる。
【実施例4】
【0064】
本発明の他の実施例である実施例4の水分検出装置を、図6に基づいて説明する。本実施例の水分検出装置1Cは、実施例3の水分検出装置1Bに、ワイヤ24の巻き取り及び巻き戻しを行う複数の巻き取り装置23を設けた構成を有する。3台の巻き取り装置23は連結具20に取り付けられる。巻き取り装置23は、中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3A毎に設けられる。中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aのそれぞれは、該当する巻き取り装置23に巻き付けられたワイヤ24に取り付けられる。
【0065】
水分検出装置1Cは、水分検出装置1Bと同様に、保温材13内に存在する水15を検出する。さらに、本実施例は、中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aのそれぞれがワイヤ23に取り付けられているので、各巻き取り装置23を回転させることによって、中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aを配管12の軸方向に移動させることができる。したがって、配管12の周方向だけでなくその軸方向にも、中性子発生管2及び一対のHe比例計数管3Aを移動させ、配管12の軸方向において保温材13内に存在する水15を検出することができる。
【0066】
本実施例の水分検出装置1Cは、ワイヤ24に取り付けられている関係上、上下方向に伸びる配管12の保温材3内に存在する水15の検出に用いられる。水平方向に伸びる配管12における保温材13内に存在する水15を検出する場合には、環状のガイドレール21を、配管12の軸方向に伸びる直線状の複数のガイドレールに、配管12の軸方向に移動可能に取り付けるとよい。
【0067】
本実施例は、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
【実施例5】
【0068】
本発明の他の実施例である実施例5の水分検出方法を、図7に基づいて説明する。本実施例の水分検出方法に用いられる水分検出装置は、実施例1の水分検出装置1である。本実施例における水分検出方法が適用される検査対象物は、化学プラントの蒸留塔25であり、屋外に設置されている。
【0069】
保温材13が蒸留塔25の周囲を取り囲んで蒸留塔25に取り付けられている。金属カバー14がその保温材13の外面を覆っている。蒸留塔25内には、液体(例えば、重油、軽油、灯油及び化学物質等のいずれか)16が流れている。中性子発生管2及びHe比例計数管3は、金属カバー14の外面に対向し、それぞれの軸心が蒸留塔25の半径方向を向いて配置される。水15が保温材13内に存在していることを想定する。
【0070】
水分検出装置1は、実施例1と同様に機能して蒸留塔25を取り囲む保温材13内に存在する水15を検出する。この水分検出装置1による、蒸留塔25を取り囲む保温材13内に存在する水15の検出の概略を以下に説明する。
【0071】
中性子発生管2で発生したパルス状の高速中性子17が、金属カバー14に向って照射される。この高速中性子17は、保温材13内に存在する水15及び蒸留塔25内を流れる液体16によって弾性散乱されてエネルギーを失い、より低いエネルギーの熱中性子18になる。発生した熱中性子のうち、高速中性子17の照射方向とは逆の方向に飛来する熱中性子18が、水15でさらに減速されてHe比例計数管3で検出される。熱中性子の検出によってHe比例計数管2から出力された電流信号は、前置増幅器6及び増幅器7を通過する際に電圧信号に変換され、波高弁別器9に入力される。波高弁別器9においてロジックパルスに変換された信号は、スケーラー10によって、設定された時間毎に計数値に変換される。設定された時間毎の計数値はデータ処理装置11に入力される。
【0072】
設定された時間毎の計数値を入力したデータ処理装置11は、実施例1と同様に、熱中性子18の検出率がピーク値P1になる時間Tを算出し、時間Tでの熱中性子18の飛行距離L2を算出する。さらに、データ処理装置11は、He比例計数管3から配管12の外面までの距離L1を用いて、(L1−L2)を算出し、L1−L2<Dであるかを判定する。L1−L2<Dのとき、保温材13内に水分が存在していると判定される。
【0073】
本実施例も、実施例1で生じる効果を得ることができる。
【0074】
本実施例では、水分検出装置1の替りに、実施例2〜4でそれぞれ用いられる水分検出装置1A,1B及び1Cのいずれかを用いてもよい。また、水分検出装置1,1A,1B及び1Cのいずれかを用いて、蒸留塔25以外の検査対象物である蒸留塔、反応塔、反応槽、吸着塔及び混合槽等の塔及び槽、及びタンクを取り囲む保温材内に水が存在するか否かを、蒸留塔25と同様に、検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、プラントに設けられた配管または塔を取り囲む保温材内に存在する水分の検出に適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1,1A,1B,1C…水分検出装置、2…中性子発生管、3,3A,3B…He比例計数管(中性子検出器)、5…制御装置、9…波高弁別器、10…スケーラー、11…データ処理装置、12…配管、13…保温材、14…金属カバー、15…水、16…液体、17…高速中性子、18…熱中性子、20…連結具、21…ガイドレール、25…蒸留塔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を、内部に液体が存在する検査対象物の周囲を取り囲んでいる保温材に照射し、照射された高速中性子から生成されて前記高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を中性子入射装置によって検出し、前記熱中性子の検出信号を基に、前記高速中性子の発生時点を基点にした、前記検出された熱中性子の強度の時間変化を算出し、得られた前記熱中性子の強度の時間変化の情報、及び設置された前記中性子入射装置と前記検査対象物の間の距離に基づいて、前記保温材内に存在する水を検出することを特徴とする水分検出方法。
【請求項2】
前記保温材内の前記水の検出は、前記熱中性子の強度の時間変化の情報を基に、前記熱中性子の強度がピークになる時点の、前記高速中性子の発生時点から経過した時間を求め、得られたこの時間に基づいて前記熱中性子の飛行距離を求め、この熱中性子の飛行距離及び前記中性子入射装置と前記検査対象物の間の距離に基づいて、前記保温材内に存在する水を検出することによって行われる請求項1に記載の水分検出方法。
【請求項3】
前記保温材内の前記水の検出は、前記高速中性子を発生する中性子発生装置及び前記熱中性子を検出する中性子入射装置を、前記検査対象物の周囲を旋回させることによって行われる請求項1に記載の水分検出方法。
【請求項4】
前記中性子発生装置及び前記中性子入射装置を、前記高速中性子の照射時に、前記検査対象物の軸方向に移動させる請求項3に記載の水分検出方法。
【請求項5】
前記検査対象物が、配管及び塔のいずれかである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水分検出方法。
【請求項6】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を発生し、この高速中性子を検査対象物の周囲に設けられた保温材に照射する中性子発生装置と、前記高速中性子から生成されて前記高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を入射する中性子入射装置と、前記中性子入射装置の出力を基に、前記パルス状の高速中性子の発生時点を基点にした、前記検出された熱中性子の強度の時間変化を求め、得られた前記熱中性子の強度の時間変化の情報、及び前記中性子入射装置と前記検査対象物の間の距離に基づいて、前記保温材内における水の存在を判定するデータ処理装置とを備えたことを特徴とする水分検出装置。
【請求項7】
前記熱中性子の強度の時間変化の情報を基に、前記熱中性子の強度がピークになる時点の、前記高速中性子の発生時点から経過した時間を求め、得られたこの時間に基づいて前記熱中性子の飛行距離を求め、この熱中性子の飛行距離及び前記中性子入射装置と前記検査対象物の間の距離に基づいて、前記判定を行う前記データ処理装置を備えた請求項6に記載の水分検出装置。
【請求項8】
前記中性子入射装置が前記熱中性子を検出したときに出力する検出信号に基づいて、設定された時間毎に計数値をそれぞれ算出する計数値測定装置と、これらの計数値に基づいて前記熱中性子の強度の前記時間変化の情報を生成する前記データ処理装置とを備えた請求項6に記載の水分検出装置。
【請求項9】
対となる前記中性子入射装置が、前記中性子発生装置の軸心に対して対象になるように配置された請求項6ないし8のいずれか1項に記載された水分検出装置。
【請求項10】
前記中性子発生装置及び前記中性子入射装置を前記検査対象の周囲に旋回させる旋回装置を備えた請求項6ないし9のいずれか1項に記載された水分検出装置。
【請求項11】
前記中性子発生装置及び前記中性子入射装置を前記検査対象の軸方向に移動させる移動装置を備えた請求項6ないし10のいずれか1項に記載された水分検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−175362(P2010−175362A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17627(P2009−17627)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】