説明

水性ポリマー分散体の調製のための水性重合方法

【課題】水性ポリマー分散体の調製のための水性重合方法を提供する。
【解決手段】本発明は、水性媒体中に分散されたポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法に関する。この方法は、第一ポリマー粒子を提供する工程;疎水性重合ブロッカーまたはスチレンモノマー重合ブロッカーを、第一ポリマー粒子を含む水性媒体に添加する工程;および第一ポリマー粒子の存在下で第二ポリマー粒子を調製する工程を含む。この水性ポリマー分散体は、少なくとも1つの属性、例えば粒子直径、分子量、組成、ガラス転移温度、またはモルホロジーに関して異なる第一ポリマー粒子および第二ポリマー粒子を含み、または広い多分散性を有するポリマー粒子を含む。この発明の方法によって調製された水性ポリマー分散体は、ペイント、接着剤、不織布用バインダー、およびペーパーコーティング用バインダーを包含する広い範囲の用途において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、水性媒体中に分散されたポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法に関する。本方法は、ある種の物質、例えば疎水性重合ブロッカーまたはスチレンモノマー重合ブロッカーの使用を含む。本方法は、少なくとも2つの異なるタイプのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製に有用である。これら2つの異なるタイプのポリマー粒子は、少なくとも1つの属性、例えば粒子直径、分子量、組成、ガラス転移温度、またはモルホロジーが異なる。本発明の方法はまた、粒子サイズの広い分布を有する水性ポリマー分散体の調製にも有用である。同様に、本発明の方法によって調製された水性ポリマー分散体も提供される。本発明の方法によって調製された水性ポリマー分散体は、広い範囲の用途において有用である。これにはペイント、接着剤、不織布用バインダー、およびペーパーコーティング用バインダーが含まれる。
【背景技術】
【0002】
水性媒体中に分散されたポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体は、広く多様な商業用途に用いられ、例えばコーティング配合物、例えばペイント、織布および不織布バインダー、インク配合物、皮革、ペーパーコーティング配合物、ならびに接着剤が挙げられる。多くの用途において、これらの配合物は、所望の特性を最適化するために、またはより高固形分の配合物を供給するために、少なくとも2つの異なるタイプまたはモードのポリマー粒子を用いて調製される。例えば平均直径300ナノメートル(nm)の第一モードのポリマー粒子および平均直径80nmの第二モードのポリマー粒子を含む高固形分配合物を調製することができる。別の例では、−10℃のガラス転移温度を含有するポリマー組成物の第一モードのポリマー粒子および50℃のポリマー組成物を有する第二モードのポリマー粒子を含有する配合物を調製することができる。
【0003】
2以上のモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体は典型的に、各モードのポリマー粒子を別々に重合し、次いでこれら2つのモードを所望の割合でブレンドすることによって調製される。あらかじめ形成されたポリマー分散体のブレンド法は、2以上の別々の乳化重合、ブレンド前の各々のポリマーモードの別々の保存、および異なるモードのポリマー粒子を含有する個々のあらかじめ形成されたポリマー分散体を組み合わせるための追加ブレンド工程を必要とするという欠点を有する。さらなる欠点は、ブレンドされた水性ポリマー分散体の固形分レベルが、あらかじめ形成されたポリマー分散体の固形分レベルの加重平均に限定されるということである。
【0004】
2モードの粒子直径分布を有するポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体は、様々な乳化重合方法によって調製することができる。例えば2モードの粒子直径分布を有する水性ポリマー分散体は、第一モードのポリマー粒子を重合し、第二モードのポリマー粒子を開始させるのに適した界面活性剤またはシードポリマー粒子を添加し、次いでモノマーを重合して、第二モードのポリマー粒子を調製することによって調製することができる。第一および第二モードのポリマー粒子の直径は、界面活性剤レベル、界面活性剤のタイプ、シード粒子の数、またはその他の合成パラメーターによって制御される。このタイプの方法の1つの制限は、第二モードのポリマー粒子の調製において、モノマー重合が、成長している第二モードのポリマー粒子に局在化されないということである。重合はまた、第一モードのポリマー粒子上またはその中でも発生することがあり、第一モードのポリマー粒子の直径を増加させ、またはその組成を変えることがある。このような重合方法は、組成、分子量、または粒子モルホロジーが異なる2以上のモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製に容易に適合しない。
【0005】
第WO0138412号は、多モード多段ポリマー物質の水性エマルジョンを開示しており、これは(i)少なくとも20℃のガラス転移温度差を有する少なくとも2段階重合のポリマー;(ii)少なくとも50nmの粒子直径差を有する少なくとも2段階重合のポリマー;ならびに(iii)(i)における異なるガラス転移温度の少なくとも1つおよび(ii)における異なる粒子直径の少なくとも1つを形成する手段が、多段重合の異なる段階で実施されて、ポリマー物質を形成することを記載している。多モード多段ポリマー物質のポリマーの水性エマルジョンは、第一段ポリマーを形成する第一水性乳化重合段階;第一段ポリマーよりも小さい粒子直径を有するポリマーを形成する段階;さらに直前の段階とは異なるガラス転移温度を有するポリマーを形成するためのモノマーの重合段階を含む方法によって調製される。この重合方法は、少なくとも3つの別々の重合工程を必要とし、選択された組成物のみを調製するのに適しており、これは例えば大きいポリマー粒子と小さいポリマー粒子とを含む組成物であって、小さいポリマー粒子または大きいポリマー粒子のいずれかが、異なるガラス転移温度を有するポリマーを含む組成物をはじめとする。
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO/0138412号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当該技術分野において望まれているものは、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の容易な調製方法である。異なるモードとは、少なくとも1つの特徴的属性、例えばガラス転移温度、平均粒子直径、分子量、平均ポリマー組成、または粒子モルホロジーが異なるポリマー粒子の集合部(population)を意味する。
本発明者らは、少なくとも2つの異なるモードのポリマーを含有する水性ポリマー分散体の調製を可能にする方法を見出した。本方法は例えば、異なる組成、分子量、またはガラス転移温度の、2以上のポリマー粒子モードを有する水性ポリマー分散体の調製であって、2以上のポリマーモードが、同様な平均粒子直径を有する水性ポリマー分散体の調製に適している。さらには本発明の重合方法は、平均粒子直径(および任意に他の特徴的属性、例えばポリマー組成または分子量)が異なる2以上のモードのポリマー粒子を含有する高固形分水性ポリマー分散体の調製に適している。発明者らはまた、本方法が、広い粒子サイズ分布を有する水性ポリマー分散体の調製に適することも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様に従って、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法であって:水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程;疎水性重合ブロッカーを第一ポリマー分散体に添加する工程;および第一ポリマー粒子の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程を含み;ここで第一モードおよび第二モードは、少なくとも2つの異なるモードであることを特徴とする方法が提供される。
【0009】
本発明の第二の態様は、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法であって:水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程;0.05g/水100ミリリットル未満の水溶性を有するスチレンまたは環置換スチレンから選択されたスチレン系モノマー重合ブロッカーを第一ポリマー分散体に添加する工程;およびエチレン性不飽和モノマーを第一ポリマー分散体に添加する工程であって、エチレン性不飽和モノマーが、このエチレン性不飽和モノマーの重量を基準にして、0〜20重量%のスチレンまたは環置換スチレンを含む工程;第一ポリマー粒子の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程を含み;ここで第一モードおよび第二モードは少なくとも2つの異なるモードであることを特徴とする方法を提供する。
【0010】
本発明の第三の態様は、水性ポリマー分散体の調製方法であって:第一エチレン性不飽和モノマーを水性媒体に添加する工程;水性媒体中で第一エチレン性不飽和モノマーを重合して、第一ポリマー粒子を調製する工程;疎水性重合ブロッカーおよび第二エチレン性不飽和モノマーを水性媒体に同時に添加する工程;および水性媒体中で第二エチレン性不飽和モノマーを重合して、第二ポリマー粒子を調製する工程を含み;ここでこの水性ポリマー分散体が、少なくとも1.5の多分散性の粒子直径分布を有することを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書で用いられている、例えば「(メタ)」という用語の使用は後にアクリレートなどの別の用語が続いて、アクリレートおよびメタクリレートの両方を意味する。例えば「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレートまたはメタクリレートのいずれかを意味し;「(メタ)アクリル」という用語は、アクリルまたはメタクリルのいずれかを意味し;「(メタ)アクリロニトリル」という用語は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルのいずれかを意味し;「(メタ)アクリルアミド」という用語は、アクリルアミドまたはメタクリルアミドのいずれかを意味する。
【0012】
本明細書において用いられている「ガラス転移温度」または「T」は、ガラス状ポリマーがポリマー鎖のセグメント運動を行う温度またはそれ以上の温度を意味する。ポリマーのガラス転移温度は、次のようなFox式[Bulletin of the American Physical Society、1、3、123ページ(1956)]によって計算することができる:
【数1】

コポリマーについて、wおよびwは、2つのコモノマーの重量分率を示し、Tg(1)およびTg(2)は、絶対温度におけるこれらの2つの対応するホモポリマーのガラス転移温度を示す。3以上のモノマーを含むポリマーについては、追加の項が加えられる(w/Tg(n))。ポリマー相のTはまた、ホモポリマーのガラス転移温度に適した値を用いても計算することができる。これは、例えば「Polymer Handbook」、J.BrandrupおよびE.H.Immergut、Interscience Publishers編に見いだすことができる。本明細書において報告されるTの値は、Fox式を用いて計算される。
【0013】
本明細書において用いられている「分散体」という用語は、少なくとも2つの異なる相を含み、第一相が第二相中に分配され、第二相が連続媒体である物質の物理的状態を意味する。水性ポリマー分散体は、主に水である(少量の水溶性または水混和性液体、例えば低級アルキルアルコール、ケトン、またはグリコールを含むことができる)、水性第二相中に分配されている第一相を含む分散体である。
【0014】
本発明の第一の態様において、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を調製するための方法が提供される。本方法は、水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を提供する工程;疎水性重合ブロッカーを第一ポリマー分散体に添加する工程;および第一ポリマー粒子の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程を含む。その結果生じた水性ポリマー分散体は、少なくとも1つの物理的または化学的属性について異なる少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する。
【0015】
本明細書において用いられているモードとは、複数の規定的特徴(例えば物理的性質、化学組成、およびモルホロジー)の組を有するポリマー粒子の集合部を意味する。物理的性質の例としては、粒子直径、密度、表面官能基例えば酸基、ガラス転移温度、および分子量が挙げられる。化学組成の例としては、ポリマー粒子に含まれている重合されたモノマーの平均含量、ランダムコポリマー中に含まれているような重合されたモノマーのランダム配列、コームグラフトポリマー、第二モードのポリマー粒子ではないあるモードのポリマー粒子中の選択されたエチレン性不飽和モノマーのポリマー単位の包含、およびブロックコポリマー中の重合されたモノマーの配列、例えばブロックのサイズまたはブロックのシーケンスが挙げられる。ポリマーのモルホロジーの例としては、単相ポリマー粒子、コア−シェルポリマー粒子、例えばポリマーコアを完全にまたは部分的にカプセル化する1以上のポリマーシェルを有する粒子、第二ポリマーの複数ドメインを有する第一ポリマーの連続相を有するポリマー粒子、相互侵入網状ポリマー、1以上の内部ボイドを有するポリマー粒子、1以上の内部ボイド、およびボイドとポリマー粒子の外部表面とを連結する少なくとも1つのチャネルを有するマクロレティキュラー化粒子、ならびに中心ポリマー粒子に結合している1以上のポリマーローブ(lobe)を有するポリマー粒子が挙げられる。
【0016】
少なくとも2つの異なるモードを含有する水性ポリマー分散体は、ポリマー粒子の少なくとも2つの異なる集合部を含有し、各モードのポリマー粒子が、複数の規定的特徴の組を有し、その他のモードとは少なくとも1つの規定的特徴が異なることを特徴とする水性ポリマー分散体を意味する。次の例は、異なるモードのポリマー粒子を有する水性ポリマー分散体の例示を与える。
【0017】
(a)第一モードの第一ポリマー粒子は、250nmの平均直径を有し、第二モードの第二ポリマー粒子は、80nmの平均直径を有する。第一モードおよび第二モードのポリマー組成は同一である。
(b)第一モードの第一ポリマー粒子は、500,000ダルトンの重量平均分子量を有し、第二モードの第二ポリマー粒子は、10,000ダルトンの重量平均分子量を有する。第一モードおよび第二モードの組成は同一である。
(c)第一モードの第一ポリマー粒子は、55℃のガラス転移温度を有し、第二モードの第二ポリマー粒子は、−10℃のガラス転移温度を有する。
(d)第一モードの第一ポリマー粒子は、第一ポリマー粒子の重量を基準にして、57重量%のメチルメタクリレート、40重量%のブチルアクリレート、および3重量%のメタクリル酸を重合単位として含むランダムコポリマーであり、21℃のガラス転移温度を有する。第二モードの第二ポリマー粒子は、第二ポリマー粒子の重量を基準にして、68重量%のメチルメタクリレート、29重量%の2−エチルヘキシルアクリレート、および3重量%のメタクリル酸を重合単位として含むランダムコポリマーであり、21℃のガラス転移温度を有する。
(e)第一モードの第一ポリマー粒子は、第一ポリマー粒子の重量を基準にして、57重量%のメチルメタクリレート、40重量%のブチルアクリレート、および3重量%のメタクリル酸を重合単位として含むランダムコポリマーであり、21℃のガラス転移温度を有する。第二モードの第二ポリマー粒子は、各々が、29重量%のメチルメタクリレート、6重量%のブチルアクリレート、および0.5重量%のメタクリル酸を重合単位として含むコア、および28重量%のメチルメタクリレート、34重量%のブチルアクリレート、および2.5重量%のメタクリル酸を重合単位として含むシェルを有するコア−シェルポリマー粒子を含んでおり、この場合各モノマーの重量%は、第二ポリマー粒子の重量を基準にしている。第二ポリマー粒子のコアおよびシェルは、それぞれ64℃および−2℃のガラス転移温度を有する。第一モードおよび第二モードのポリマー粒子は、異なる粒子モルホロジーを有するが、同一の平均ポリマー組成を有する。
(f)第一モードは、第一ポリマー粒子を有し、これは、70重量%のエチルアクリレート、15重量%のメチルメタクリレート、10重量%のヒドロキシエチルメタクリレート、および5重量%のメチルアクリレートから形成されたコポリマー粒子であり、100,000ダルトンの数平均分子量および150nmの平均粒子直径を有する。第二モードは、第二ポリマー粒子を有し、これらは、70重量%のブチルアクリレート、27重量%のスチレン、および3重量%のアクリル酸から形成されたコポリマー粒子であり、35,000ダルトンの数平均分子量および325nmの平均粒子直径を有する。
(g)第一モードの第一ポリマー粒子は、230nmの平均粒子直径を有し、第二モードの第二ポリマー粒子は、70nmの平均粒子直径を有し、第三モードの第三ポリマー粒子は、400nmの平均直径を有する。
(h)第一モードの第一ポリマー粒子は、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびメタクリル酸から形成される。第二モードの第二ポリマー粒子は、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、メタクリル酸、およびアセトアセトキシエチルメタクリレートから形成される。第二ポリマー粒子がアセトアセトキシエチルメタクリレートの重合単位を含み、一方第一ポリマー粒子は、アセトアセトキシエチルメタクリレートの重合単位が存在しないため、第一モードおよび第二モードの組成は異なる。
【0018】
本発明の第一態様の方法は、水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程を含む。第一ポリマー粒子は、1以上のエチレン性不飽和モノマーの重合によって形成された付加ポリマー、縮合ポリマー、または縮合ポリマーおよび付加ポリマーの両方を含むハイブリッドポリマーであることができる。縮合ポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの反応によって形成されないポリマーであり、これには例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリアミド、アルキド、ポリカーボネート、ポリシリコーン、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン(D)の縮合生成物;オクタメチルシクロテトラシロキサン(D)の縮合生成物、およびデカメチルシクロペンタシロキサン(D)の縮合生成物;ポリアルキルオキシド、例えばポリエチレンオキシド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリアセタール;およびバイオポリマー、例えばポリヒドロキシアルカノエート、ポリペプチド、および多糖類が挙げられる。第一ポリマー粒子は、2以上のポリマー組成物または相を含むことができ、これには、コア−シェルポリマー粒子、および1つのポリマー相が小さいドメインとして他方のポリマー相中に分散されているポリマー粒子が挙げられる。第一モードの第一ポリマー粒子は、本発明の方法に先立って、または本発明の方法における1つの工程として調製することができる。付加ポリマーである第一ポリマー粒子は、エチレン性不飽和モノマーの重合、例えば乳化重合、懸濁重合、または溶液重合、次いで当該技術分野において知られている多様な方法による、溶液ポリマーのポリマー粒子への転化を提供する任意の重合技術によって調製することができる。第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を調製するのに適した重合方法、例えば乳化重合、懸濁重合、および溶液重合法は、典型的にバッチ、半連続、または連続プロセスとして実施される。第一モードを含有する第一ポリマー分散体は、この第一ポリマー分散体の重量を基準にして、0.1〜60重量%の固形分の第一ポリマー粒子を含有するように提供することができる。
【0019】
水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体の提供工程後、疎水性重合ブロッカーが、第一ポリマー分散体に添加される。疎水性重合ブロッカーは、重合速度を最小限にし、またはエチレン性不飽和モノマーの重合を防ぐ物質である。疎水性重合ブロッカーは、フリーラジカルと化合してこれらを除去し、その結果としてフリーラジカル反応を終了させることによって、あるいは反応性フリーラジカルと化合して低い反応性を有する安定なフリーラジカルを形成することによってフリーラジカル重合を防ぐことができる。
【0020】
本発明の方法における疎水性重合ブロッカーとして機能する物質の能力は、次のテスト方法によって確認される。すなわち疎水性重合ブロッカーの存在下および不存在下における重合を比較する。第一の試料において、第一ポリマー粒子の存在下で重合されることになる20グラムのエチレン性不飽和モノマーが、0.02グラムのジ−t−ブチルペルオキシドとともに圧力容器に添加される。この容器は、15分間窒素ガスでパージされ、密封され、次いで1時間150℃の温度に維持される。この容器の内容物は、直ちに室温まで冷却され、次いでモノマー容積の20倍の容積の氷冷メタノール中に排出される。その結果生じるポリマー固形分は、70〜100ミクロンの焼結ガラス漏斗(Ace Glass、ミディアムフロータイプB)で真空濾過し、乾燥し、秤量し、形成されたポリマー重量を決定する。疎水性重合ブロッカーとしてテストされる0.4グラムの物質をさらに添加すること以外、同じ手順を第二の試料にも用いる。第二の試料のポリマー収率が第一の試料のポリマー収率の90重量%未満であることは、テストされた物質が疎水性重合ブロッカーであることを示している。
【0021】
疎水性重合ブロッカーの例としては、重合禁止剤、重合抑制剤、および疎水性連鎖移動剤が挙げられる。重合禁止剤は、フリーラジカル反応を終了させることによって重合を防ぐ物質であり、例えば、N−オキシドラジカル、例えば2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシフリーラジカル、および2,6−ジ−tert−ブチル−α−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキソ−2,5−シクロヘキサジエン−1−イリデン)p−トリルオキシ、フリーラジカル(ガルビノキシルフリーラジカル);フェノール;アルキルフェノール;カテコール、多芳香族化合物、例えばナフタレン、アントラセン、およびピレン;置換多芳香族化合物、例えばヒドロキシナフタレンおよびヒドロキシアントラセン;p−ベンゾキノン、およびp−ナフタキノンが挙げられる。重合抑制剤は、フリーラジカル反応速度を低下させる物質であり、例えば、不飽和脂肪酸のエステル、例えばリノール酸またはリノレン酸のアルキル、ヒドロキシアルキル、またはアルコキシエステル;ジチオ安息香酸のC〜C12誘導体、例えばジチオ安息香酸フェニルエステル、ジチオ安息香酸ベンジルエステル、ジチオ安息香酸クミルエステル、および禁止剤モノマーが挙げられる。禁止剤モノマーは、そのエチレン性不飽和モノマーの重合温度以下である天井温度を有し、またはその後の実質的な重合を伴なわずにラジカル捕獲が可能なエチレン性不飽和モノマーである。天井温度は、モノマーについての重合速度が解重合の速度に等しい温度である。禁止剤モノマーの例としては、1−アルキルスチレン、例えばα−メチルスチレン;1−アリールスチレン、例えば1,1−ジフェニルエチレン;2−アルキルまたは2−アリールスチレン、例えばスチルベンおよび1−フェニルペンテン;アルキルビニルエーテル;アリールビニルエーテル;trans−クロトニトリル;trans−1,2−ジフェニルエチレン;trans−1,2−ジベンゾイルエチレン;trans−1,2−ジアセチルエチレン;メチル−2−tert−ブチルアクリレート;1−イソプレニルナフタレン;α−スチルバゾール;2,4−ジメチル−α−メチルスチレン;イソプレニルトルエン;およびイタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸の半エステルまたは完全エステルが挙げられる。疎水性連鎖移動剤としては、例えばn−ドデシルメルカプタン、1,4−シクロヘキサジエン、テルピネオール、四塩化炭素、トリクロロメタン、ベンジルハライド;アリルハライド、およびクロチルハライドが挙げられる。1以上の重合ブロッカーを、水性媒体に添加することができる。本発明の方法に適した疎水性重合ブロッカーの範囲の例としては、第一ポリマー粒子の重量を基準にして、0.1〜10重量%、0.2〜5重量%、および0.5〜3重量%が挙げられる。
【0022】
疎水性重合ブロッカーの添加後、1以上のエチレン性不飽和モノマーは、第一ポリマー粒子の存在下で重合されて、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する。エチレン性不飽和モノマーを、疎水性重合ブロッカーの添加前、その間、またはその後に添加することができる。好ましくは疎水性重合ブロッカーは、第二ポリマー粒子を形成するために用いられるエチレン性不飽和モノマーの添加に先立って添加される。疎水性重合ブロッカーを、そのままで、または均質化水性エマルジョンなどのエマルジョンとして、または溶媒中溶液として添加することができる。
【0023】
理論に縛られるわけではないが、本発明の方法において、疎水性重合ブロッカーは、水性媒体から第一ポリマー粒子中に分配されると考えられる。疎水性重合ブロッカーは、これらが大部分第一ポリマー粒子中に位置し、少量が水性媒体中にあるのに十分な程度低い水溶性を有する。第一ポリマー粒子中の疎水性重合ブロッカーの存在は、第一ポリマー粒子中またはその上のエチレン性不飽和モノマーの重合を最小限にするかまたは排除すると考えられる。疎水性ポリマー禁止剤をその中に含む第一ポリマー粒子の存在下におけるエチレン性不飽和モノマーのその後の水性重合は、水性媒体中の第二モードの第二ポリマー粒子の形成を優勢的に生じ、第一ポリマー粒子中またはその上には、ほとんどまたはまったく重合が生じないと考えられる。
【0024】
1つの実施態様において、本発明の方法において有用な疎水性重合ブロッカーは、25℃の温度において、1g/水100ミリリットル(g/100ml)未満、好ましくは0.5g/水100ml未満、より好ましくは0.1g/100ml未満、なおより好ましくは0.05g/水100ml未満、最も好ましくは0.01g/水100ml未満の水溶性を有する。
【0025】
別の実施態様において、添加される疎水性重合ブロッカーの総量を基準にして、少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%の疎水性重合ブロッカーが、エチレン性不飽和モノマーの重合温度において、第一ポリマー粒子中に含有される。さらには本実施態様において、水性媒体は、添加される疎水性重合ブロッカーの総量を基準にして、25重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満の疎水性重合ブロッカーを、第一ポリマー粒子の存在下におけるエチレン性不飽和モノマーの重合温度で含有する。水性媒体と第一ポリマー粒子との間の疎水性重合ブロッカーの分配は、水性分散体のアリコートを取り出し、第一ポリマー粒子を遠心分離によって取り出し、適切な技術、例えば液体クロマトグラフィー、赤外分光法、紫外分光法、または核磁気共鳴分光法によって、水性媒体中に残留する疎水性重合ブロッカーの濃度を測定することによって決定することができる。
【0026】
典型的に、疎水性重合ブロッカーは、エチレン性不飽和モノマーの重合の開始に先だって、添加の少なくとも1分後、好ましくは少なくとも2分後、より好ましくは5分後に第一ポリマー粒子中へ分配される。水性媒体中の疎水性重合ブロッカーの局在化した濃度を最小限にするために、混合が通常用いられる。任意に、水性媒体を通して疎水性重合ブロッカーの移送を補助するために、1つの物質を添加することができる。このような物質の例としては、界面活性剤、および疎水性キャビティを有する高分子有機化合物が挙げられ、これには、シクロデキストリン、シクロデキストリン誘導体、シクロイヌロヘキソース、シクロイヌロヘプトース、シクロイヌロオクトース、カリキサレン、およびカビタンドが挙げられる。シクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリン誘導体とは、シクロデキストリン環の縁部上に位置するヒドロキシル基の少なくとも1つが、置換基、例えばメチル、アセチル、ヒドロキシプロピル、およびヒドロキシエチル基で官能基化されているα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリンを意味する。シクロデキストリン誘導体としてはまた、複数の置換基を有するシクロデキストリン分子を含み、これには1以上のタイプの置換基を有するシクロデキストリン分子が含まれる。シクロデキストリン誘導体は、1以上の結合されたシクロデキストリン環を有するポリマーを含まない。好ましいシクロデキストリン誘導体は、メチル−β−シクロデキストリンおよびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。メチル−β−シクロデキストリンは、最も好ましいシクロデキストリン誘導体である。米国特許第5,521,266号に開示されている方法において任意に用いられている、疎水性キャビティを有する高分子有機化合物の量は典型的には、疎水性重合ブロッカーの総重量を基準にして、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。疎水性重合ブロッカーの移送を補助する適した他の物質は、第WO98/24821A2号に開示されている、包接化合物を形成しうる非環式多糖類である。適切な非環式多糖類には、非変性多糖類、およびヒドロキシル基上で一部または全部誘導体化されている変性多糖類の両方が含まれる。
【0027】
エチレン性不飽和モノマーは、第一ポリマー粒子の存在下で乳化重合によって重合され、第二モードの第二ポリマー粒子を形成する。乳化重合の実施は、D.C.Blackley、「Emulsion Polymerization」、(Wiley、1975)に詳細に考察されている。ポリマー粒子の水性ポリマー分散体として第二ポリマー粒子を調製するため、ならびに第一ポリマー粒子を調製するために、従来の乳化重合技術を用いることができる。乳化重合の実施はまた、H.Warson、「The Applications of Synthetic Resin Emulsions」、第2章(Ernest Benn Ltd.(ロンドン)1972)においても考察されている。
【0028】
第二モードの第二ポリマー粒子の形成は、シードポリマー、界面活性剤、ミニエマルジョン、またはpH調節剤例えば緩衝剤の添加によって補助することができる。ミニエマルジョンは、数時間〜数ヶ月の範囲の期間安定である、1ミクロン以下の小滴直径を有する水中油分散体として当該技術分野でよく知られている。本発明の文脈の中で、ミニエマルジョンの小滴は、エチレン性不飽和モノマー、および安定サブミクロン小滴を提供するのに必要とされる他の任意の成分を含む。これらの他の任意の成分としては、非常に低い水溶性の化合物が挙げられ、当該技術分野では、補助界面活性剤、補助安定剤、または疎水性物質と呼ばれている。典型的な疎水性物質としては、高級アルカン、例えばヘキサデカン、疎水性アルコール、例えばセチルアルコール、非常に疎水性のモノマー、例えばステアリルメタクリレート、およびポリマーが挙げられる。ミニエマルジョンは典型的に、ロータ・ステータ器具、ソニファイヤー、および高圧ホモジナイザーの使用によって、高剪断下に形成される。ミニエマルジョンは典型的に、界面活性剤を用いて作成される。ミニエマルジョンおよび乳化重合におけるこれらの使用についての記載は、J.M.Asuaの「Progress in Polymer Science」のMiniemulsion Polymerization、第27巻、1283〜1346ページ(2002)に見いだすことができる。
【0029】
水性媒体への添加に先立って、エチレン性不飽和モノマーは、界面活性剤とも呼ばれているアニオン性または非イオン性分散剤で水中に乳化されることができ、例えば総モノマーの重量に基づいて、0.05〜10重量%の分散剤を用いる。アニオン性分散剤と非イオン性分散剤との組み合わせも用いることができる。任意に、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する共重合可能な界面活性剤を用いることができる。
【0030】
適切なアニオン性分散剤としては、例えば高級脂肪アルコールスルフェート、例えばナトリウムラウリルスルフェート;アルキルアリールスルホネート、例えばナトリウムまたはカリウムイソプロピルベンゼンスルホネートまたはイソプロピルナフタレンスルホネート;アルカリ金属高級アルキルスルホスクシネート、例えばナトリウムオクチルスルホスクシネート、ナトリウムN−メチル−N−パルミトイルラウレート、ナトリウムオレイルイソチオネート;アルキルアリールポリエトキシエタノールスルフェート、スルホネート、またはホスホネートのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、例えば1〜50オキシエチレン単位を有するナトリウムtert−オクチルフェノキシポリエトキシエチルスルフェート;アルキルポリエトキシエタノールスルフェート、スルホネート、またはホスフェートのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩;ならびにアリールポリエトキシエタノールスルフェート、スルホネート、およびホスフェートのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩が挙げられる。
【0031】
適切な非イオン性分散剤としては、約7〜18個の炭素原子および約6〜約60個のオキシエチレン単位のアルキル基を有するアルキルフェノキシポリエトキシエタノール、例えばヘプチルフェノキシポリエトキシエタノール、メチルオクチルフェノキシポリエトキシエタノール;メチレン連結アルキルフェノールのポリエトキシエタノール誘導体;硫黄含有薬剤、例えば約6〜60モルのエチレンオキシドと、ノニルメルカプタン、ドデシルメルカプタンとの縮合、またはアルキル基が6〜16個の炭素原子を含むアルキルチオフェノールとの縮合によって製造されたもの;長鎖カルボン酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、または1分子あたり6〜60個のオキシエチレン単位を含むトールオイルに見られる酸の混合物のエチレンオキシド誘導体;長鎖アルコール、例えばオクチル、デシル、ラウリル、またはセチルアルコールの類似エチレンオキシド縮合体、疎水性炭化水素鎖を有するエーテル化またはエステル化ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシド誘導体、例えば6〜60個のオキシエチレン単位を含むソルビタンモノステアレート;1以上の疎水性プロピレンオキシドセクションと組合わされたエチレンオキシドセクションのブロックコポリマーが挙げられる。アルキルベンゼンスルホネートとエトキシル化アルキルフェノールとの混合物を用いることができる。
【0032】
乳化重合方法は、熱型またはレドックス型であってもよい。すなわち、フリーラジカルを、開始剤種の熱解離のみによって発生させることもでき、またはレドックス系を用いることもできる。フリーラジカルタイプの重合開始剤、例えば過硫酸アンモニウムまたはカリウムを、単独でまたはレドックス系の酸化成分として用いることができ、ここでレドックス系にはさらに還元性成分、例えばカリウムメタビスルファイト、ナトリウムチオスルフェート、またはナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートが挙げられる。還元性成分は多くの場合、促進剤とも呼ばれる。開始剤および促進剤は通常、触媒、触媒系、またはレドックス系と呼ばれ、重合されるモノマーの重量を基準にして、各々約0.01%またはそれ以下〜3%の割合で用いることができる。レドックス触媒系の例としては、t−ブチルヒドロペルオキシド/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/Fe(II)、および過硫酸アンモニウム/ナトリウムビスルファイト/ナトリウムヒドロスルファイト/Fe(II)が挙げられる。他の適切な開始剤としてはアゾ化合物が挙げられる。重合温度は、10℃〜90℃またはそれ以上であってもよく、用いられる触媒系に対して従来通りに最適化することもできる。乳化重合は、シードすることもでき、シードしないこともできる。
【0033】
重合されるモノマーの全部または一部を含むモノマーエマルジョンを、モノマー、水、および界面活性剤を用いて調製することができる。水中に触媒を含む触媒溶液を、別々に調製することができる。モノマーエマルジョンおよび触媒溶液を、乳化重合の期間にわたって重合容器中に導入することができる。反応容器はまたさらに、シードエマルジョンを含むことができ、さらにはこれに加えて重合触媒の初期装填物を含むことができる。乳化重合の間の反応容器の温度は、重合反応によって発生した熱を除去するために冷却することによって、または反応容器を加熱することによって制御することができる。いくつかのモノマーエマルジョンを、反応容器中に同時に装填することができる。複数のモノマーエマルジョンが装填される場合、これらは異なるモノマー組成であってもよい。異なるモノマーエマルジョンが装填される順序および速度を、乳化重合プロセス工程の間に変えることができる。例えば異なるモノマーエマルジョンの添加速度は、独立して変えることができる。反応容器の内容物のpHはまた、乳化重合プロセスの工程の間に変えることもできる。
【0034】
第二ポリマー粒子の乳化重合は、重合の間に成長しつつある第二ポリマー粒子の安定化を補助するため、または水性ポリマー分散体中のポリマー粒子の凝集を阻止するために1以上の界面活性剤の存在下で実施することができる。適切な界面活性剤の例としては、上に列挙されたアニオン性および非イオン性分散剤が挙げられる。重合の間または重合後にポリマー粒子を安定化するのに適した他の物質としては、高分子量ポリマー、例えばヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、およびビニルアルコール;ならびに高分子電解質、例えばポリアクリル酸が挙げられる。
【0035】
典型的に、第二モードの第二ポリマー粒子は、第一ポリマー粒子の存在下で重合されたエチレン性不飽和モノマーの少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは95重量%を含む。少量のエチレン性不飽和モノマーが、第一ポリマー粒子上にまたはその中に重合することがあり、その結果、第一ポリマー粒子の直径のわずかな増加、または第一ポリマー粒子のポリマー組成への小さい変化を生じる。少量とは、第一ポリマー粒子の存在下で重合されたエチレン性不飽和モノマーの重量を基準にして、50重量%未満、好ましくは25重量%未満、より好ましくは10重量%未満、最も好ましくは5重量%未満を意味する。
【0036】
1つの実施態様において、疎水性重合ブロッカー、および第二ポリマー粒子を重合するために用いられるエチレン性不飽和モノマーの少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%が、第一ポリマー分散体に添加される。次いで、添加されたエチレン性不飽和モノマーが重合されて、第二モードの第二ポリマー粒子を生じ、一方で、第二ポリマー粒子を調製するために用いられる任意の残りのエチレン性不飽和モノマーが添加される。本実施態様の方法は、連続または半連続プロセスとして実施することができ、ここで第一ポリマー粒子、疎水性重合ブロッカー、およびエチレン性不飽和モノマーの少なくとも25重量%を含む反応混合物が調製され、反応混合物の一部が残りの反応混合物から連続除去され、次いで重合されて第二ポリマー粒子を調製する。
【0037】
第二ポリマー粒子の形成後に水性ポリマー分散体中に残留する未反応モノマーのレベルは、当該技術分野で知られている様々な方法によって低下させることができる。これには、開始剤が添加され、モノマーを反応させて除去する1以上のモノマーチェイス工程;および未反応モノマーを除去するストリッピングプロセス、例えば蒸気ストリッピングが含まれる。
【0038】
分子量を適度にするために、連鎖移動剤、例えばメルカプタン、ポリメルカプタン、およびポリハロゲン化合物を重合混合物中に用いることができる。用いることができる連鎖移動剤の例としては、長鎖アルキルメルカプタン例えばt−ドデシルメルカプタン、アルコール例えばイソプロパノール、イソブタノール、ラウリルアルコール、またはt−オクチルアルコール、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、およびトリクロロブロモエタンが挙げられる。一般に総モノマーの重量を基準にして、0.1〜3重量%の連鎖移動剤を用いることができる。あるいはまた、適切な分子量は、開始剤レベルを増加することによって、または開始剤レベルの増加と連鎖移動剤との組み合わせによって得ることができる。
【0039】
本発明の方法に用いるのに適した、または第一ポリマー粒子の調製に適したエチレン性不飽和モノマーとしては、例えばスチレン、ブタジエン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、ビニルバーサテート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸の様々なC〜C40アルキルエステル;例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、およびステアリル(メタ)アクリレート;その他の(メタ)アクリレート、例えばイソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、および2−ブロモエチル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、例えばエトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレン性不飽和ジ−およびトリカルボン酸および無水物の完全エステル、例えばエチルマレエート、ジメチルフマレート、およびエチルメチルイタコネートをはじめとするモノマーが挙げられる。他の適切なモノマーは、アニオン性モノマーであり、これには、カルボン酸含有モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、およびマレイン酸;リン酸含有モノマー(これは二水素ホスフェートモノマーである)、例えば2−ホスホエチル(メタ)アクリレート、2−ホスホプロピル(メタ)アクリレート、3−ホスホプロピル(メタ)アクリレート、および3−ホスホ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;硫黄酸含有モノマー、例えばビニルスルホン酸、およびスチレンスルホン酸が挙げられる。イオン性モノマーにはまた、アニオン性モノマーの塩、例えばアンモニウム、ナトリウム、またはカリウム塩が含まれる。さらに他の適切なモノマーとしては、多エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。これらは分子量を上昇させ、ポリマー粒子を架橋するのに有効である。多エチレン性不飽和モノマーの例としては、アリル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリビニルベンゼン、およびジビニルナフタレンが挙げられる。
【0040】
ある実施態様において、第一ポリマー粒子または第二ポリマー粒子は、重合単位として、1以上のアルデヒド反応性基含有モノマーを含む。「アルデヒド反応性基含有モノマー」とは、本明細書において、20重量%のモノマーと等モル量のホルムアルデヒドとを含む、pH1〜14の任意のpHの均質溶液において、25℃で1日後にモルベースでモノマーとホルムアルデヒトとの間の10%を超える反応程度を示すモノマーを意味する。エチレン性不飽和アルデヒド反応性含有モノマーとして挙げられるのは、例えばビニルアセトアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアセトアセテート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート、2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、ビニルアセトアセタミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド、3−(2−ビニルオキシエチルアミノ)−プロピオンアミド、N−(2−(メタ)アクリルオキシエチル)−モルホリノン−2,2−メチル−1−ビニル−2−イミダゾリン、2−フェニル−1−ビニル−2−イミダゾリン、2−(3−オキサゾリジニル)エチル(メタ)アクリレート、N−(2−ビノキシエチル)−2−メチルオキサゾリジン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニルオキサゾリン、3−(4−ピリジル)プロピル(メタ)アクリレート、2−メチル−5−ビニル−ピリジン、2−ビノキシエチルアミン、2−ビノキシエチルエチレン−ジアミン、3−アミノプロピルビニルエーテル、2−アミノ−2−メチルプロピルビニルエーテル、2−アミノブチルビニルエーテル、tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルジメチル−β−プロピオベタイン、ジエタノールアミンモノビニルエーテル、(メタ)アクリルオキシアセトアミド−エチルエチレンウレア、エチレンウレイドエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドエチル−エチレンウレア、(メタ)アクリルアミドエチル−エチレンチオウレア、N−((メタ)アクリルアミドエチル)−N−(1−ヒドロキシメチル)エチレンウレア、o−アニリンビニルチオエーテル、N−((メタ)アクリルアミドエチル)−N−(1−メトキシ)メチルエチレンウレア、N−ホルムアミドエチル−N−(1−ビニル)エチレンウレア、N−ビニル−N−(1−アミノエチル)−エチレンウレア、N−(エチレンウレイドエチル)−4−ペンテンアミド、N−(エチレンチオウレイド−エチル)−10−ウンデセンアミド、ブチルエチレンウレイド−エチルフマレート、メチルエチレンウレイド−エチルフマレート、ベンジルN−(エチレンウレイド−エチル)フマレート、ベンジルN−(エチレンウレイド−エチル)マレアメート、N−ビノキシエチルエチレン−ウレア、N−(エチレンウレイドエチル)−クロトンアミド、ウレイドペンチルビニルエーテル、2−ウレイドエチル(メタ)アクリレート、N−2−(アリルカルバモト)アミノエチルイミダゾリジノン、1−(2−((2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニルオキシ)プロピル)アミノ)エチル)−2−イミダゾリジノン、水素エチレンウレイドエチルイタコンアミド、エチレンウレイドエチル水素イタコネート、ビス−エチレンウレイドエチルイタコネート、エチレンウレイドエチルウンデシレネート、エチレンウレイドエチルウンデシレンアミド、2−(3−メチロールイミダゾリドン−2−イル−1)エチルアクリレート、N−アクリルオキシアルキルオキサゾリジン、アシルアミドアルキルビニルアルキレンウレア、アルデヒド反応性アミノ基含有モノマー、例えばジメチルアミノエチルメタクリレート、およびアジリジン官能基を含むエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。1以上のモードのポリマー粒子中へのアルデヒド反応性基含有モノマーの組み込みが用いられ、水性ポリマー分散体から形成されたコーティングの基体への接着を改良する。
【0041】
本発明の方法は任意に、その後の重合工程を含んでいてもよい。例えば第二モードの第二ポリマー粒子の形成後、疎水性重合ブロッカーが、第一および第二モードを含有する水性ポリマー分散体に添加され、次いで追加のエチレン性不飽和モノマーが、第一ポリマー粒子および第二ポリマー粒子の存在下で重合されて、第三モードの第三ポリマー粒子を形成してもよい。第三モードは、第一モードおよび第二モードと異なっていてもよい。別の実施例において、第二モードの形成後、追加のエチレン性不飽和モノマーは、第一モードまたは第二モードのポリマー粒子の1つまたは両方の上へまたはその中に重合される。
【0042】
本発明の第一態様の方法によって調製された水性ポリマー分散体は、第一ポリマー粒子を含む第一モードおよび第二ポリマー粒子を含む第二モードを含む、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含む。
【0043】
各モードが異なる平均粒子直径を有する、異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体は、2以上のピークを有する粒子サイズ分布を有することを特徴とする。粒子サイズ分布は、粒子直径の関数としてのある粒子直径を有するポリマー粒子の数である。各ピークは、1つのモードのポリマー粒子に関連している。粒子サイズ分布は、キャピラリー式流体力学的分離測定器(Capillary Hydrodynamic Fractionation apparatus)、例えば200nmでの紫外線検出器を有するMatec CHDF−2000測定器(Matec Applied Sciences(マサチューセッツ州))を用いて測定される。標準粒子サイズは、50〜800nmの米国標準技術局(National Institute of Standards and Technology)(NIST)の追跡可能な標準ポリスチレンによって提供され、これはDuke Scientific Corporation(カリフォルニア州)によって供給されている。1つの実施態様において、各モードのポリマー粒子の平均粒子直径の差は、少なくとも50nm、好ましくは少なくとも80nm、より好ましくは少なくとも100nm、最も好ましくは少なくとも150nmである。小さい方の粒子直径を有するモードまたは大きい方の粒子直径を有するモードのいずれかを、もう一方のモードの存在下で調製することができる。
【0044】
各モードが異なる重量平均分子量を有する異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体は、2以上のピークを有する重量平均分子量分布を有することを特徴とする。重量平均分子量分布は、分子量の関数としてのある分子量を有するポリマー粒子の重量である。重量平均分子量は、標準ポリスチレンを用いてゲル透過クロマトグラフィーを使用して測定することができる。1つの実施態様において、各モードのポリマー粒子の重量平均分子量の差は、少なくとも25,000ダルトン、好ましくは少なくとも50,000ダルトン、より好ましくは少なくとも100,000ダルトン、最も好ましくは少なくとも250,000ダルトンである。高い方の重量平均分子量または低い方の分子量のいずれかを有するモードを、それぞれのもう一方のモードの存在下で調製することができる。
【0045】
水性ポリマー分散体は、各モードが異なるガラス転移温度を有する異なるモードのポリマー粒子を含有するように提供することができる。各モードのガラス転移温度は、上記のFox式を用いて計算される。1つの実施態様において、各モードのポリマー粒子のガラス転移温度の差は、少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも30℃、最も好ましくは少なくとも40℃である。高い方または低い方のガラス転移温度を有するモードを、もう一方のモードの存在下で調製することができる。
【0046】
水性ポリマー分散体は、各モードのポリマー粒子のモルホロジーが異なる、異なるモードのポリマー粒子を含有するように提供することができる。例えば第一モードは、コア−シェルのモルホロジーを有する第一ポリマー粒子を含み、一方第二モードは、単一ポリマー相を有する第二ポリマー粒子を含むことができる。粒子のモルホロジーを、光学顕微鏡または電子顕微鏡によって決定することができる。多相ポリマー粒子における1つのポリマー相の染色を用いることができる。
【0047】
水性ポリマー分散体は、小さい方の粒子直径を有するモードが、さらにポリマー粒子の表面にまたはその近くに位置するある種の官能基を有する重合モノマーも有する、異なるモードのポリマー粒子を含有するように提供することができる。小さい方の粒子モードにのみこれらのある種のモノマーを有する水性ポリマー分散体の調製によって、これらのある種のモノマーのより低いレベルの使用が可能になる。特に、反応済みのある種のモノマーは、小さい方のポリマー粒子の表面上またはその中に濃縮され、大きい方のモードのポリマー粒子に対して、小さい方のポリマー粒子はその体積に比べてより大きな表面積を有する。小さい方のポリマー粒子の表面上またはその中で反応したある種のモノマーの配置は、水性ポリマー分散体、またはこの水性ポリマー分散体から調製された物品の1以上の所望の特性を向上させるのに有用である。ある種のモノマーの例としては、二価金属イオン、例えば亜鉛イオンによって架橋することができるカルボン酸含有モノマーまたはリン酸含有モノマー、フッ素化モノマー、ケイ素含有モノマー、および接着促進モノマーが挙げられる。
【0048】
1つの実施態様において、本発明の水性ポリマー分散体は、水性ポリマー分散体の重量を基準にして、40〜75重量%のポリマー固形分、好ましくは50〜75重量%のポリマー固形分を含む高固形分組成物として調製される。ポリマー固形分は、ポリマー粒子の乾燥重量を基準にして、水性ポリマー分散体中に含まれているポリマー粒子の総重量である。本実施態様において、水性ポリマー分散体は、150〜2.5ミクロン、好ましくは150〜2ミクロン、より好ましくは150〜1.5ミクロンの範囲内の平均粒子直径を有する1つのモード;および20〜400nm、好ましくは30〜300nm、より好ましくは35〜200nmの範囲内の平均粒子直径を有するもう1つのモードを含有し、ここで大きいモードの平均粒子直径は、小さいモードの平均粒子直径よりも少なくとも75%大きい。
【0049】
本発明の第二の態様において、少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を調製する方法が提供され、この方法には:水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程;0.05g/水100ミリリットル未満の水溶性を有するスチレンまたは環置換スチレンから選択されるスチレンモノマー重合ブロッカーを、第一ポリマー分散体に添加する工程;エチレン性不飽和モノマーを第一ポリマー分散体に添加する工程であって、このエチレン性不飽和モノマーが、エチレン性不飽和モノマーの重量を基準にして、0〜20重量%のスチレンまたは環置換スチレンを含む工程;および第一ポリマー粒子の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程を含み;ここで第一モードおよび第二モードは、少なくとも2つの異なるモードである。スチレンモノマー重合ブロッカーは、エチレン性不飽和モノマーの重合速度を最小限にするかまたは重合を妨げるスチレン物質である。環置換スチレンは、スチレンの芳香環に結合している少なくとも1つの置換基を有する。置換基は、芳香環のオルト、メタ、またはパラ位にある。さらには環置換スチレンは、0.05g/水100ミリリットル未満、好ましくは0.02g/水100ミリリットル未満、より好ましくは0.01g/水100ミリリットル未満の水溶性を有する。スチレンモノマー重合ブロッカーの量は典型的に、第一ポリマー粒子の重量を基準にして、5〜50重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは15〜50重量%の範囲内である。適切な環置換スチレンの例としては、アルキル基環置換スチレン、例えばo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−ブロモスチレン、p−クロロスチレン、およびp−メトキシスチレンが挙げられる。
【0050】
スチレンモノマー重合ブロッカーの添加後、1以上のエチレン性不飽和モノマーが、第一ポリマー分散体に添加され、重合されて第二ポリマー粒子を調製する。エチレン性不飽和モノマーは、このエチレン性不飽和モノマーの重量を基準にして、0〜20重量%、好ましくは0〜15重量%、より好ましくは0〜10重量%のスチレンまたは環置換スチレンを含む。本発明の第二態様の1つの実施態様において、スチレンモノマー重合ブロッカーが、第一ポリマー分散体に迅速に添加され、続いて、エチレン性不飽和モノマーの一部または全部が添加され、添加されたエチレン性不飽和モノマーの重合が開始する。好ましくは重合は、このエチレン性不飽和モノマーの一部または全部の添加の直後またはほぼ直後に開始される。別の実施態様において、エチレン性不飽和モノマーの一部または全部が、ミニエマルジョンとして添加される。
【0051】
本発明の第三の態様において、広い多分散性の粒子サイズ分布を有するポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を調製する方法が提供される。このような水性ポリマー分散体は、広く多様な用途において有用であり、取り扱いまたは適用に適する低い粘度を維持しつつ、高いポリマー固形分で供給することができる。第三の態様の方法は:第一エチレン性不飽和モノマーを水性媒体に添加する工程;水性媒体中で第一エチレン性不飽和モノマーを重合して第一ポリマー粒子を調製する工程;疎水性重合ブロッカーおよび第二エチレン性不飽和モノマーを水性媒体に同時に添加する工程;ならびに水性媒体中で第二エチレン性不飽和モノマーを重合して第二ポリマー粒子を調製する工程を含む。第一エチレン性不飽和モノマーとは、第一ポリマー粒子を形成するために用いられる1以上のエチレン性不飽和モノマーを意味する。第二エチレン性不飽和モノマーとは、第二ポリマー粒子を形成するために用いられる1以上のエチレン性不飽和モノマーを意味する。本発明の第三態様の方法によって調製された水性ポリマー分散体は、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも2.5の多分散性を特徴とする粒子サイズ分布を有する。粒子サイズ分布とは、第一ポリマー粒子および第二ポリマー粒子の直径を意味する。粒子サイズ分布の多分散性は、次の式で示される:
多分散性=(D90−D10)/D50
式中、D10、D50、およびD90はそれぞれ、分布関数dG=f(D)dD(式中Gはポリマー質量であり、Dは粒子直径である)の積分値が、水性ポリマー分散体中に含まれているポリマー粒子の総質量の0.1(=10重量%)、0.5(=50重量%)、および0.9(=90重量%)に等しい時の粒子直径である。好ましくは本態様において、疎水性重合ブロッカーはスチレンではない。
【0052】
本発明の第三態様の方法において、疎水性重合ブロッカーおよび第二エチレン性不飽和モノマーは、第二エチレン性不飽和モノマーの添加のある期間に同時に添加される。例えば疎水性重合ブロッカーは、第二エチレン性不飽和モノマーの少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%の添加について同時に添加される。疎水性重合ブロッカー、エチレン性不飽和モノマー、またはその両方を、連続的に、または段階的に、または可変添加速度で添加することができる。任意に、シードポリマー、界面活性剤、またはpH調節剤を、第二ポリマー粒子の形成を補助するために添加することができる。あるいはまた第二エチレン不飽和モノマーを、ミニエマルジョンとして水性媒体に添加することができる。
【0053】
本発明の第三態様の方法の1つの実施態様において、1つまたは複数のモノマーが使用され、第一ポリマー粒子および第二ポリマー粒子を形成する。本実施態様において、水性ポリマー分散体は、同じポリマー組成を有する第一ポリマー粒子および第二ポリマー粒子を含有する。この場合、この水性組成物は、広い多分散性を有する粒子サイズ分布を有する。
【0054】
揮発性有機化合物(「VOC」)は、本明細書において、大気圧で280℃より低い沸点を有する炭素含有化合物として規定される。例えば水およびアンモニアなどの化合物は、VOCから除外される。
【0055】
本発明の水性ポリマー分散体は、水性ポリマー分散体の総重量を基準にして、5重量%未満のVOC、好ましくは3重量%未満のVOC、より好ましくは1.7重量%未満のVOCを含む低VOC組成物として提供することができる。例えばこの水性ポリマー分散体は、水性ポリマー分散体の総重量を基準にして、0.01重量%〜1.7重量%のVOCを有するように提供することができる。
【0056】
さらには、水性ポリマー分散体は任意に他の成分を含み、これには、他のポリマー、界面活性剤、顔料、増量剤、染料、光沢剤、接着促進剤、架橋剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、紫外線安定剤、吸収性顔料、造膜助剤、レオロジー調節剤、保存料、殺生物剤、内部ボイドを有するポリマー粒子、および酸化防止剤が挙げられる。
【0057】
本発明の水性ポリマー分散体は、保護または美的コーティング、例えば木材コーティング、メンテナンスコーティング、内壁または外壁コーティング、金属下塗またはコーティング、トラフィックペイント、織布または不織布コーティング、レザーコーティング、コイルコーティング、建築コーティング、マスチックシーラント、ボードコーティング、ペーパーコーティング、エラストマー壁またはルーフコーティング、インク、上塗りワニス、およびフローリングコーティングの調製に有用である。水性ポリマー分散体から調製されるコーティングは、透明コーティング、フラットコーティング、サテンコーティング、半光沢コーティング、光沢コーティング、プライマー、テクスチャード加工コーティング等であってもよい。水性ポリマー分散体の他の用途には、織布飽和剤、コーキング剤、および接着剤が含まれる。水性ポリマー分散体はまた、例えばポリ塩化ビニル用の衝撃、性能、または加工調節剤としても有用である。
【0058】
コーティングは、従来の方法、例えばはけ塗り、ローリング、ドローダウン、浸漬、ナイフまたはこてを用いて、カーテンコーティング、およびスプレー方法、例えば空気噴霧スプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高容積低圧スプレー、およびエアアシストエアレススプレーによって、基体に水性ポリマー分散体を適用することにより調製することができる。水性ポリマー分散体の湿潤コーティング厚さは典型的に、1ミクロン〜2ミリメートルの範囲内にある。水性ポリマー分散体は、単一コートまたは複数コートとして基体上に適用される。適用された水性ポリマー分散体を、周囲条件、例えば0℃〜35℃で乾燥させるか、あるいはまた、高温、例えば35℃〜150℃で乾燥する。適切な基体としては、これらに限定されるわけではないが、中密度ファイバーボード;チップボード、およびラミネート;無機基体、例えばメーソンリー、セメント、ファイバーセメント、セメントアスベスト、プラスター、プラスターボード、艶出しされたまたは艶出しされていないセラミック;金属基体、例えば亜鉛めっき鉄、亜鉛めっき鋼、冷間圧延鋼、アルミニウム、鍛鉄、落とし鍛造鋼、およびステンレス鋼;既にペンキが塗られ、または下塗りされた表面;セルロース基体、例えば紙およびボール紙;ガラス;アスファルト;皮革;ウオールボード;不織布材料;および合成基体、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、およびポリプロピレンである。
【0059】
次の実施例は、本発明の方法および組成物を例示するために示されている。これらの実施例は、当業者が本発明を理解するのを助けるためのものである。しかしながら本発明は、まったくこれによって限定されるわけではない。
【0060】
次の省略形が実施例において用いられる:
APS:過硫酸アンモニウム
BA:ブチルアクリレート
MAA:メタクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
界面活性剤−A:アンモニウムアルキルエチレンオキシドスルフェート(30%活性物質)
wt.%:重量%
【実施例】
【0061】
実施例1−本発明の方法による、異なるポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製
すべての反応は、他の記載がなければ、パドルスターラー、温度計、窒素導入口、還流凝縮器を備えた5リットル4つ口丸底フラスコにおいて実施した。
固形分のレベルは、重量分析によって決定した。
微粉パーセント(percent fines)は、100nm未満の平均粒子直径を有するポリマー粒子モードの重量%として規定される。微粉パーセントは、大きい粒子直径モードと小さい方の粒子直径モードとを遠心分離によって分けることによって決定した。水性ポリマー分散体を25重量%の固形分まで希釈し、12,000rpmで45分間遠心分離した。小さい方の粒子直径モードを含むセラム(serum)相を、大きい粒子直径モードを含む沈殿ポリマーからデカントした。セラム相の質量およびセラム中のポリマーの量は、重量分析によって決定し、微粉%は、遠心分離管に装填されたポリマーの総重量からセラム中に除去されたポリマーの重量を引いた差分を基準にして、重量%として報告した。
【0062】
実施例1.1
フラスコに850.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gの溶液をフラスコに添加した。次に、600.0gの脱イオン水、28.5gの界面活性剤−A、851.7gのBA、817.7gのMMA、および34.0gのMAAを含むモノマーエマルジョンを、3時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、モノマーエマルジョンの添加の最後の90分の間にフラスコに添加した。60重量%のモノマーエマルジョンを添加した後、モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに装填し、続いて136.3gのα−メチルスチレンの添加を行った。フラスコの内容物を5分間この温度に維持し、次いでモノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を再開した。モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。次に、十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0063】
実施例1.2
フラスコに680.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃の温度に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gの溶液をフラスコに添加した。次に、600.0gの脱イオン水、28.5gの界面活性剤−A、851.7gのBA、817.7gのMMA、および34.0gのMAAを含むモノマーエマルジョンを、3時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、モノマーエマルジョンの添加の最後の90分の間にフラスコに添加した。60重量%のモノマーエマルジョンを添加した後、モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.5g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、続いて17.0gのn−ドデシルメルカプタンの添加を行った。フラスコの内容物を5分間この温度に維持し、次いでモノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を再開した。モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。次に、十分な水酸化アンモニウム溶液を添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0064】
比較例A
フラスコに700.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gの溶液をフラスコに添加した。次に、600.0gの脱イオン水、28.5gの界面活性剤−A、851.7gのBA、817.7gのMMA、および34.0gのMAAを含むモノマーエマルジョンを、3時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gの触媒溶液を、モノマーエマルジョンの添加の最後の90分の間にフラスコに添加した。60重量%のモノマーエマルジョンを添加した後、モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに装填し、フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次いでモノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加を再開した。モノマーエマルジョンおよび触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。次に、十分な水酸化アンモニウム溶液(28%活性)をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1.1の結果は、疎水性重合ブロッカーの存在下での重合を含む、本発明の第一態様の方法による実施例1.1および1.2の水性ポリマー分散体の調製が、2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を提供したことを示している。これらの実施例において、異なるモードは、異なる平均粒子直径を特徴とする。これに対して、比較例である比較例Aは、わずかな量の物質がセラム相中に残留している透明なセラム相を有し、ここでこのわずかな物質は界面活性剤であると示唆された。
【0067】
実施例1.3
フラスコに700.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gの溶液をフラスコに添加した。次に、360.0gの脱イオン水、17.1gの界面活性剤−A、235.1gのBA、766.5gのMMA、および20.4gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gの触媒溶液を、ME−1の添加の最後の30分の間にフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒供給を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、続いて136.3gのα−メチルスチレンの添加を行った。フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次いで240.0gの脱イオン水、11.4gの界面活性剤−A、340.7gのBA、327.1gのMMA、および13.6gのMAAを含む第二モノマーエマルジョン(ME−2)を、60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0068】
比較例B
比較例Bの比較水性ポリマー分散体を、α−メチルスチレンが添加されないこと以外、実施例1.3の一般的手順にしたがって調製した。
【0069】
【表2】

【0070】
表1.2の結果は、疎水性重合ブロッカーの存在下での重合を含む、本発明の第一態様の方法による実施例1.3の水性ポリマー分散体の調製が、2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を提供したことを示している。これらの実施例において、異なるモードは、異なる平均粒子直径、異なるポリマー組成、および異なるガラス転移温度を特徴とする。これに対して、比較例である比較例Bは、わずかな量の物質を含有する透明なセラム相を有し、ここでこのわずかな物質は界面活性剤であると示唆された。
【0071】
実施例1.4
フラスコに850.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gを含む溶液をフラスコに添加した。360.0gの脱イオン水、17.1gの界面活性剤−A、766.5gのBA、235.1gのMMA、および20.4gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、モノマーエマルジョンの添加の最後の90分にわたってフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、続いて136.3gのα−メチルスチレンの添加を行った。フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次いで、240.0gの脱イオン水、11.4gの界面活性剤−A、156.7gのBA、511.0gのMMA、および13.6gのMAAを含む第二モノマーエマルジョン(ME−2)を、60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0072】
実施例1.5
フラスコに700.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gを含む溶液をフラスコに添加した。360.0gの脱イオン水、17.1gの界面活性剤−A、766.5gのBA、235.1gのMMA、および20.4gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、ME−1の添加の最後の90分にわたってフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒供給を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。0.87gの2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、90.5gの界面活性剤−A、および115.0gの脱イオン水を含む混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次に、240.0gの脱イオン水、11.4gの界面活性剤−A、156.7gのBA、511.0gのMMA、および13.6gのMAAを含む第二モノマーエマルジョン(ME−2)を、60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0073】
実施例1.6
フラスコに720.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gを含む溶液をフラスコに添加した。360.0gの脱イオン水、17.1gの界面活性剤−A、766.5gのBA、235.1gのMMA、および20.4gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。次に、脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、ME−1の添加の最後の90分にわたってフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、続いて34.1gのn−ドデシルメルカプタンの添加を行った。フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次に、240.0gの脱イオン水、11.4gの界面活性剤−A、156.7gのBA、511.0gのMMA、および13.6gのMAAを含む第二モノマーエマルジョン(ME−2)を、次の60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0074】
実施例1.7
反応を、パドルスターラー、温度計、窒素導入口、および還流凝縮器を備えた3リットル4つ口丸底フラスコにおいて実施した。フラスコに350.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、20.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水10.0g中APS1.3gの溶液をフラスコに添加した。180.0gの脱イオン水、8.55gの界面活性剤−A、383.2gのBA、117.5gのMMA、および10.2gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。次に、脱イオン水37.5g中APS1.3gの触媒溶液を、ME−1添加の最後の90分にわたってフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒供給を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、0.85gの1,1−ジフェニルエテン、45.3gの界面活性剤−A、および57.5gの脱イオン水の混合物を、一ポーションでフラスコに装填し、フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次いで、120.0gの脱イオン水、5.70gの界面活性剤−A、78.35gのBA、255.5gのMMA、および6.8gのMAAを含む第二モノマーエマルジョン(ME−2)を、60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0075】
比較例C
フラスコに700.0gの脱イオン水を添加した。このフラスコの内容物を、窒素雰囲気下85℃に加熱した。次の物質:すなわち、40.0gのプレポリマーシードラテックス(45重量%固形分)、および脱イオン水20.0g中APS2.6gの溶液をフラスコに添加した。360.0gの脱イオン水、17.1gの界面活性剤−A、766.5gのBA、235.1gのMMA、および20.4gのMAAを含む第一モノマーエマルジョン(ME−1)を、2時間にわたってフラスコに添加した。脱イオン水75.0g中APS2.6gを含む触媒溶液を、ME−1の添加の最後の90分にわたってフラスコに添加した。ME−1の添加が完了した後、触媒溶液の添加を停止し、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持した。次に、脱イオン水115.0g中界面活性剤−A90.5gの混合物を、一ポーションでフラスコに添加し、フラスコの内容物を5分間この温度に維持した。次いで、240.0gの脱イオン水、11.4gの界面活性剤−A、156.7gのBA、511.0gのMMA、および13.6gのMAAを含む第二モノマーエマルジョンを、60分にわたって添加した。触媒溶液の添加を再開し、ME−2の添加と同時に添加した。ME−2および触媒溶液の添加が完了した後、フラスコの内容物を、15分間85℃の温度に維持し、次いで室温まで冷却した。十分な水酸化アンモニウム溶液をフラスコに添加し、pHを9に上げた。フラスコの内容物を濾過して、あらゆる凝塊を除去した。
【0076】
【表3】

【0077】
表1.3の結果は、疎水性重合ブロッカーの存在下での重合を含む、この発明の第一態様の方法による実施例1.4〜1.7の水性ポリマー分散体の調製が、2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体を提供したことを示している。これらの実施例において、異なるモードは、以下:すなわち、異なる平均粒子直径、異なるポリマー組成、または異なるガラス転移温度の1以上を特徴とする。これに対して、第一ポリマー粒子の存在下、疎水性重合ブロッカーの不存在下での第二モノマーエマルジョンの重合を含む比較例である比較例Cは、わずかな量の物質を含有する透明なセラム相を有し、ここでこのわずかな物質は界面活性剤であると示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法であって:
a)水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程;
b)25℃の温度で、1g/水100ミリリットル未満の水溶性を有する重合ブロッカー(ここで、添加される重合ブロッカーの量は第一ポリマー粒子の重量を基準にして0.1〜10重量%である)を前記第一ポリマー分散体に添加する工程;および、続いて
c)前記第一ポリマー粒子の存在下でエチレン性不飽和モノマーを添加および重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程;
を含み、前記第一モードおよび前記第二モードは、
i)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも10℃のガラス転移温度の差を有すること;
ii)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも50ナノメートルの平均粒子直径の差を有すること;
iii)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも25,000g/モルの重量平均分子量の差を有すること;
iv)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、粒子のモルホロジーにおける差異を有すること;
v)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、異なるポリマー組成を有すること;または
vi)これらの組合わせ
によって異なる、方法。
【請求項2】
少なくとも2つの異なるモードのポリマー粒子を含有する水性ポリマー分散体の調製方法であって:
a)水性媒体中に分散された第一モードの第一ポリマー粒子を含有する第一ポリマー分散体を提供する工程;
b)0.05g/水100ミリリットル未満の水溶性を有するスチレンまたは環置換スチレンから選択されたスチレンモノマー重合ブロッカー(ここで、添加される重合ブロッカーの量は第一ポリマー粒子の重量を基準にして5〜50重量%である)を前記第一ポリマー分散体に添加する工程;
c)続いて、エチレン性不飽和モノマーを前記第一ポリマー分散体に添加する工程であって、前記エチレン性不飽和モノマーが、前記エチレン性不飽和モノマーの重量を基準にして、0〜20重量%のスチレンまたは環置換スチレンを含む工程;および
d)前記第一ポリマー粒子の存在下で前記エチレン性不飽和モノマーを重合して、第二モードの第二ポリマー粒子を提供する工程;
を含み、前記第一モードおよび前記第二モードは、
i)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも10℃のガラス転移温度の差を有すること;
ii)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも50ナノメートルの平均粒子直径の差を有すること;
iii)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、少なくとも25,000g/モルの重量平均分子量の差を有すること;
iv)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、粒子のモルホロジーにおける差異を有すること;
v)前記第一ポリマー粒子と前記第二ポリマー粒子とが、異なるポリマー組成を有すること;または
vi)これらの組合わせ
によって異なる、方法。
【請求項3】
さらに、シードポリマー粒子、界面活性剤、緩衝剤、またはこれらの組み合わせを、前記エチレン性不飽和モノマーの重合に先立って、またはこれと同時に、前記水性第一ポリマー分散体に添加する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和モノマーが、ミニエマルジョンとして前記第一ポリマー分散体に添加される、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記第一ポリマー粒子が付加ポリマーである、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記第一ポリマー粒子が縮合ポリマーを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
水性ポリマー分散体の調製方法であって、
a)第一エチレン性不飽和モノマーを水性媒体に添加する工程;
b)前記水性媒体中で前記第一エチレン性不飽和モノマーを重合して、第一ポリマー粒子を調製する工程;
c)25℃の温度で、1g/水100ミリリットル未満の水溶性を有する重合ブロッカー(ここで、添加される重合ブロッカーの量は第一ポリマー粒子の重量を基準にして0.1〜10重量%である)および第二エチレン性不飽和モノマーを、前記水性媒体に同時に添加する工程、および
d)前記水性媒体中で前記第二エチレン性不飽和モノマーを重合して、第二ポリマー粒子を調製する工程
を含み、前記水性ポリマー分散体が、少なくとも1.5の多分散性を有する粒子直径分布を有する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法にしたがって調製された、水性ポリマー分散体。

【公開番号】特開2008−19451(P2008−19451A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−262064(P2007−262064)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【分割の表示】特願2004−39290(P2004−39290)の分割
【原出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】