説明

水性メタリック塗料および複層塗膜形成方法

【課題】 本発明により、水性メタリック塗料の優れた発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性等を維持したまま、ツーコート・ワンベーク塗装法における光輝性顔料の配向がクリアー塗料塗装後に乱れにくく、優れたフリップフロップ性を保持できる塗膜を提供する水性メタリック塗料、およびそれを用いる複層塗膜形成方法およびその形成方法により得られる複層塗膜を提供する。
【解決手段】 本発明は、塗膜形成性樹脂、硬化剤および光輝性顔料を含有する水性メタリック塗料であって、該塗膜形成性樹脂がアクリル樹脂エマルションを含み、該アクリル樹脂エマルションが二段乳化重合によって得られ、かつ特定の酸価、水酸基価および粒径を有し、特定の粒径の疎水性メラミン樹脂水分散体であり、かつ更に、特定量の反応性増粘剤を含有することを特徴とする水性メタリック塗料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性メタリック塗料、それを用いる複層塗膜形成方法およびその形成方法により得られる複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車塗装で使用される水性塗料として、カルボキシル基、水酸基等の官能基を有するアクリル樹脂等の樹脂と、架橋剤としてのメラミン樹脂とを含有する塗料が使用されており、このような水性塗料の架橋剤としては、疎水性メラミン樹脂を使用したものが提案されている。
【0003】
水性塗料中の架橋剤として、疎水性メラミン樹脂を使用した場合に、水分散性が悪いという問題が存在する。このような問題を解決する技術として、特許文献1または2には、疎水性メラミン樹脂と、特定の酸価、水酸基価、分子量を有するアクリル樹脂、アルキド樹脂等と反応することにより得られる水性樹脂分散体を架橋剤として用いることが提案されているが、水分散性が満足できるものではない。
【0004】
特許文献3には、重量平均分子量5,000〜100,000、酸価10〜100mgKOH/g、水酸基価20〜200mgKOH/gのアクリル樹脂(A)、疎水メラミン樹脂(B)およびポリエステル樹脂(C)を加温処理して得た反応物を含んでなり、加温処理を行う前後での増粘化率が20〜200%の水性樹脂分散液が開示されている。これは、高酸価アクリル樹脂等を用いて疎水メラミン樹脂を変性することによって、水分散性等の性能を向上させることを目的とするものである。
【0005】
一方、特許文献4または5には、水性メタリック塗料内に、疎水性メラミン樹脂と、特定の酸価、水酸基価、分子量を有するグラフト樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂等と分散することにより得られる水性樹脂分散体を架橋剤として用いることが提案されているが、水分散性が満足できるものではない。
【0006】
また、ここで開示されている水性樹脂分散液は、分散粒径が小さいものではないため、この水性樹脂分散体を水性メタリック塗料の架橋剤として使用した場合、得られる塗膜の発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性等の性能が充分でないことがある。
【0007】
本発明者らも、いくつかの特許出願をして、疎水性メラミン樹脂を用いたアクリル樹脂を主体とする水性着色塗料を提案した(特許文献6および特許文献7)。
特許文献6および7の技術は、疎水性メラミン樹脂の分散性を改善するとともに、優れた発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する塗膜を提供することができる。
【0008】
しかしながら、上記のような本発明者らの水性着色塗料を、メタリックベース塗料として用いて、そのメタリックベース塗料の塗装後、メタリックベース塗膜を硬化せずにクリアー塗料を塗装し、メタリックベース塗膜とクリアー塗膜の両方を一度に加熱硬化(いわゆる、ツーコート・ワンベーク)するメタリック複合塗膜の製造に使用する場合には、メタリックベース単膜で得られるメタリック感と、クリアー塗膜を形成したのちのメタリック感との間に違いが生じるという問題があった。
【0009】
これは、メタリックベース塗膜とクリアー塗膜とをツーコート・ワンベーク法で塗装する場合、図1に示すように、メタリック塗装からクリアー塗装に移る前に、低温で短時間(例えば、80℃で5分ぐらい)乾燥するプレヒート行程を経てからクリアー塗料を塗布するのであるが、プレヒートだけでは光輝性顔料の固定には十分ではなく、クリアー塗料を未硬化のメタリックベース塗膜の上に塗布したときにクリアー塗料(溶剤型塗料が多い)がメタリックベース塗膜に影響を与えて、光輝性顔料の配向を乱してしまうからと考えている。即ち、光輝性顔料の配向は図2に示すように、平行に並ぶのが理想的であるが、図1に模式的に示すように、メタリックベース塗料塗装時に有る程度平行に配向した光輝性顔料がクリアー塗料塗装時に配向が乱れてしまうため、上記のようなクリアー塗膜形成の前後でメタリック感に違いが生じるものと考えられる。
【特許文献1】特開昭53‐99232号公報
【特許文献2】特開2004‐315623号公報
【特許文献3】特開2002‐308993号公報
【特許文献4】特開昭63‐193968号公報
【特許文献5】特開平07‐041729号公報
【特許文献6】特願2004‐332110号
【特許文献7】特願2004‐349019号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述の水性メタリック塗料の優れた特性、例えば発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性等を維持したまま、ツーコート・ワンベーク塗装法における光輝性顔料の配向がクリアー塗料塗装後に乱れにくく、フリップフロップ性に変動のない、優れたフリップフロップ性を保持できる塗膜を提供する水性メタリック塗料、およびそれを用いたツーコート・ワンベーク塗装法、更にはそれから得られるフリップフロップ性に優れた複層塗膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、塗膜形成性樹脂、硬化剤および光輝性顔料を含有する水性メタリック塗料において、上記塗膜形成性樹脂として二段乳化重合によって得られた特定のアクリル樹脂エマルションを使用し、上記硬化剤として特定の疎水性メラミン樹脂水分散体を使用し、かつ特定量の反応性増粘剤を使用することによって、水性メタリック塗料の優れた特性、例えば発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性等を維持したまま、ツーコート・ワンベーク塗装法における光輝性顔料の配向がクリアー塗料塗装後に乱れにくく、フリップフロップ性に変動のない、優れたフリップフロップ性を保持できる塗膜を提供する水性メタリック塗料、およびそれを用いたツーコート・ワンベーク塗装法、更にはそれから得られるフリップフロップ性に優れた複層塗膜を提供し、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
即ち、本発明は、塗膜形成性樹脂、硬化剤および光輝性顔料を含有する水性メタリック塗料であって、
該塗膜形成性樹脂がアクリル樹脂エマルションを含み、
該アクリル樹脂エマルションが二段乳化重合によって得られ、かつ酸価1〜30mgKOH/g、水酸基価10〜150mgKOH/gおよび粒径20〜140nmを有し、
該硬化剤が、粒径20〜140nmを有する疎水性メラミン樹脂水分散体であり、
更に、反応性増粘剤を樹脂固形分に対し0.1〜20質量%含有することを特徴とする水性メタリック塗料に関する。
【0013】
本発明を好適に実施するためには、
上記反応性増粘剤が、アルキル金属、アリール金属、金属‐π錯体、アルコキシ金属、アリロキシ金属、金属アシレート、金属キレートおよび複合金属から成る群から選択される少なくとも一つの化合物であって、上記配位金属がチタン、マグネシウム、アルミニウム、珪素、スズ、ジルコンおよびリンから成る群から選択される金属であり;
上記金属有機化合物が金属キレート化合物であり、上記金属がチタン、ジルコンおよびアルミニウムから成る群から選択される少なくとも一つの化合物である;
ことが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様として、
(I)被塗装物上に水性メタリックベース塗料を塗装してメタリックベース塗膜を形成する工程、
(II)該メタリックベース塗膜を硬化させることなく、その上にクリアー塗料を塗装してクリアー塗膜を形成する工程、および
(III)該メタリックベース塗膜と該クリアー塗膜とを同時に加熱する工程
を含む複層塗膜形成方法であって、
上記水性メタリックベース塗料が前述の水性メタリック塗料である
ことを特徴とする複層塗膜形成方法、およびその方法によって形成された複層塗膜がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性メタリック塗料は、前述した構成よりなるので、水性メタリック塗料の優れた特性、例えば発色性、リコート密着性、チッピング性、耐水付着性等を維持したまま、ツーコート・ワンベーク塗装法における光輝性顔料の配向がクリアー塗料塗装後に乱れにくく、フリップフロップ性に変動のない、優れたフリップフロップ性を保持できる塗膜が得られる水性メタリック塗料およびそれを用いた複層塗膜形成方法、更にはそれから得られるフリップフロップ性に優れた複層塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
[水性メタリック塗料]
本発明の水性メタリック塗料は、塗膜形成性樹脂、硬化剤および光輝性顔料を含有するものであって、
上記塗膜形成性樹脂がアクリル樹脂エマルションを含み、
上記アクリル樹脂エマルションが二段乳化重合によって得られ、かつ酸価1〜30mgKOH/g、水酸基価10〜150mgKOH/gおよび粒径20〜140nmを有し、
上記硬化剤が、粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体であり、かつ
更に、反応性増粘剤を樹脂固形分に対し0.1〜20質量%含有するものである。
【0017】
本発明では、前述のように、水性メタリック塗料に反応性増粘剤を含有することが必要である。上記反応性増粘剤を使用することによって、メタリックベース塗料を塗布後のプレヒート時に硬化反応が起こり、増粘される。これによって、クリアー塗料塗布により起こる光輝性顔料の配向の乱れが有効に防止できるものと考えられる。
【0018】
本発明ではまた、上記アクリル樹脂エマルションと共に、上記粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を用いることが重要であり、これらを含む塗料を用いることによって、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。このため、得られる塗膜は、白ぼけ感が少ないものである。また、水性メタリック塗料が例えばブルー顔料を含むものである場合には青み感が強い塗膜を、黒色顔料を含むものである場合には漆黒感のある塗膜を得ることができる。
【0019】
更に、自動車塗装における複層塗膜の形成において、上記水性メタリック塗料を用いた場合、上記アクリル樹脂エマルションとともに、上記粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む塗料を用いて形成するため、リコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性に優れた複層塗膜を得ることができる。また、発色性に優れた塗膜を得ることもできる。このため、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記水性メタリック塗料を好適に用いることができる。
【0020】
(塗膜形成性樹脂)
本発明の水性メタリック塗料に用いられる塗膜形成性樹脂は、アクリル樹脂エマルションを含み、上記アクリル樹脂エマルションは二段乳化重合によって得られ、かつ酸価1〜30mgKOH/g、水酸基価10〜150mgKOH/gおよび粒径20〜140nmを有する。
【0021】
上記アクリル樹脂エマルションは、酸価1〜30mgKOH/gを有することを要件とするが、好ましくは3〜25mgKOH/gである。上記酸価が、1mgKOH/g未満であるとエマルションの安定性が低下するおそれがあり、30mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0022】
上記アクリル樹脂エマルションは、水酸基価10〜150mgKOH/gを有することを要件とするが、好ましくは15〜120mgKOH/gである。上記水酸基価が10mgKOH/g未満であると、塗膜物性が低下するおそれがあり、150mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。なお、上記アクリル樹脂エマルションの酸価は実測値であり、水酸基価は、合成に使用した各種不飽和モノマーの配合量から計算によって求めた値である。
【0023】
上記アクリル樹脂エマルションは、粒子径20〜140nmを有することを要件とするが、好ましくは30〜120nm、より好ましくは50〜100nmである。上記粒子径が20nm未満である場合、塗料固形分(NV)の著しい低下が生じるおそれがあり、140nmを超える場合、得られる塗膜の発色性が低下するおそれがある。
【0024】
この粒子径の調節は、例えば、モノマー組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。なお、本発明にかかるアクリル樹脂エマルションおよび疎水性メラミン樹脂分散体の粒径は、ELS‐800(大塚電子株式会社製)を使用し、以下の条件により測定した平均分散粒径値である。
サンプル;イオン交換水にて無限希釈
測定温度;25℃
【0025】
上記アクリル樹脂エマルションとしては、例えば、上記カルボン酸基含有不飽和モノマーを原料とし、後述の乳化重合によってエマルション化したものを挙げることができる。また、本発明で使用するアクリル樹脂エマルションは、二段乳化重合によってコア部とシェル部を有するいわゆるコア・シェル型アクリル樹脂エマルションであることが好ましい。
【0026】
上記塗膜形成性樹脂がコア・シェル型アクリル樹脂エマルションを含有するものである場合、上記コア部は、酸価0〜100mgKOH/g、好ましくは0〜50mgKOH/gを有し、カルボン酸基含有不飽和モノマーを含むモノマー混合物(a)を乳化重合して得られるものであることが望ましい。100mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。なお、上記コア部の酸価とは、1段階目の乳化重合によって得られるアクリル樹脂エマルションの酸価である。
【0027】
また、上記シェル部は、酸価25〜200mgKOH/g、好ましくは30〜180mgKOH/gを有し、カルボン酸基含有不飽和モノマーを含むモノマー混合物(b)を乳化重合して得られるものであることが望ましい。上記酸価が25mgKOH/gを下回ると、エマルションの安定性が低下するおそれがあり、また、塗装作業性が不充分となるおそれがある。上記酸価が200mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。上記シェル部の酸価とは、2段階目の乳化重合によって得られるアクリル樹脂エマルションの酸価である。
【0028】
上記モノマー混合物(a)および/または上記モノマー混合物(b)は、水酸基を有する。上記水酸基価としては、10〜150mgKOH/g、好ましくは15〜120mgKOH/gである。上記水酸基価が10mgKOH/gを下回ると、充分な硬化性が得られないおそれがある。150mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0029】
更に、上記モノマー混合物(a)および/または上記モノマー混合物(b)は、上記その他のエチレン性不飽和モノマーを含むものであってもよい。また、上記コア・シェル型アクリル樹脂エマルションのガラス転移温度(Tg)は、得られる塗膜の物性の観点から、−20〜80℃であることが好ましい。
【0030】
上記カルボン酸基含有不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2‐アクリロイルオキシエチルフタル酸、2‐アクリロイルオキシエチルコハク酸、2‐アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸、ω‐カルボキシ‐ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α‐ハイドロ‐ω‐[(1‐オキソ‐2‐プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1‐オキソ‐1,6‐ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3‐ビニルサリチル酸、3‐ビニルアセチルサリチル酸等を挙げることができる。
【0031】
上記水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε‐カプロラクトン付加物を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε‐カプロラクトン付加物等を挙げることができる。
【0032】
上記その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステル〔(メタ)アクリル酸メチルまたは(メタ)アクリル酸エチル〕;エステル部の炭素数3以上の(メタ)アクリル酸エステル〔例えば、(メタ)アクリル酸n‐ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t‐ブチル、(メタ)アクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t‐ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等〕、重合性アミド化合物〔例えば、(メタ)アクリルアミド、N‐メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N‐モノブチル(メタ)アクリルアミド、N‐モノオクチル(メタ)アクリルアミド、2,4‐ジヒドロキシ‐4’‐ビニルベンゾフェノン、N‐(2‐ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N‐(2‐ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等〕;重合性芳香族化合物〔例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、ビニルケトン、t‐ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等〕;重合性ニトリル〔例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等〕;α‐オレフィン〔例えば、エチレン、プロピレン等〕;ビニルエステル〔例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等〕;等を挙げることができる。
【0033】
上記モノマー混合物(a)/上記モノマー混合物(b)〔コア部/シェル部〕のモノマー質量比は、50/50〜98/2であることが好ましく、65/35〜95/5であることがより好ましい。50/50よりシェル比が大きくなると、エマルションの安定性が低下し、98/2よりシェル比が小さくなると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0034】
上記アクリル樹脂エマルションを得るための乳化重合としては、通常よく知られている方法を用いて行うことができる。具体的には、水、または必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記モノマー混合物(a)または上記モノマー混合物(b)と、重合開始剤とを滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したモノマー混合物(a)またはモノマー混合物(b)を同様に滴下してもよい。
【0035】
上記重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’‐アゾビス(2‐メチルブチロニトリル)、2,2’‐アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等)および水性化合物(例えば、アニオン系の4,4’‐アゾビス(4‐シアノ吉草酸)、カチオン系の2,2’‐アゾビス(2‐メチルプロピオンアミジン));並びに、レドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t‐ブチルパーベンゾエート等)および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリウム、過酸化アンモニウム等)等が好ましい。
【0036】
上記乳化剤としては、当業者によってよく使用されているものを挙げることができるが、特に、反応性乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS‐60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS‐2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE‐20(旭電化社製)およびアクアロンHS‐10(第一工業製薬社製)等が好ましい。
【0037】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα‐メチルスチレンダイマー等のような連鎖移動剤を必要に応じて用いてもよい。
【0038】
反応温度は重合開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤では60〜90℃であり、レドックス系では30〜70℃で行うことが好ましい。一般に、反応時間は1〜8時間である。上記モノマー混合物(a)と上記モノマー混合物(b)との合計質量に対する重合開始剤の含有量は、一般に0.1〜5質量%であり、0.2〜2質量%であることが好ましい。
【0039】
上記アクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和することにより、pH=3〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いためである。この中和は、乳化重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを系に添加することにより行うことが好ましい。
【0040】
上記水性メタリック塗料中の上記アクリル樹脂エマルションの含有量は、塗料固形分中、5〜95質量%であることが好ましく、10〜85質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが更に好ましい。上記含有量が上記範囲外である場合、塗装作業性や得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0041】
(硬化剤)
本発明の水性メタリック塗料に用いられる硬化剤は、粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体である。疎水性メラミン樹脂水分散体は、特定のアクリル樹脂および疎水性メラミン樹脂を反応させることにより得られる粒径20〜140nmの樹脂粒子が水中で分散しているものである。このような疎水性メラミン樹脂水分散体を用いるものであるため、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。
【0042】
また、上記疎水性メラミン樹脂水分散体を使用した場合、優れたリコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性を有する複層塗膜を得ることができる。20nm未満であると、塗料固形分の著しい低下が生じる。140nmを超えると、水分散性が低下することに起因して、形成される塗膜の密着性、表面平滑性が低下するおそれがある。30〜120nmであることが好ましく、50〜100nmであることがより好ましい。なお、上記粒子径は、前述したアクリル樹脂エマルションの粒径と同様の方法により測定した値である。
【0043】
上記疎水性メラミン樹脂水分散体としては、酸価105〜200mgKOH/g、水酸基価100〜200mgKOH/g、数平均分子量1,000〜5,000のアクリル樹脂と、疎水性メラミン樹脂とを5/95〜50/50の質量比で混合・反応する工程(1)、および上記工程(1)で得られた反応生成物を水分散する工程(2)を含む製造方法により得られるものであることが好ましい。これにより、発色性、リコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性を向上させることができる。
【0044】
上記工程(1)では、先ず、酸価105〜200mgKOH/g、水酸基価100〜200mgKOH/g、数平均分子量1,000〜5,000のアクリル樹脂と、疎水性メラミン樹脂とを5/95〜50/50の質量比で、混合・反応する工程を行うものである。上記工程(1)を行うことにより、上記アクリル樹脂と上記疎水性メラミン樹脂との反応生成物を得ることができる。
【0045】
上記アクリル樹脂は、酸価が105〜200mgKOH/gである。105mgKOH/g未満であると、粒径が140nmを超えるおそれがある。200mgKOH/gを超えると、反応制御が著しく困難になるおそれがある。105〜180mgKOH/gであることが好ましい。
【0046】
上記アクリル樹脂は、水酸基価が100〜200mgKOH/gである。100mgKOH/g未満であると、粒径が140nmを超えるおそれがある。200mgKOH/gを超えると、反応制御が著しく困難になるおそれがある。120〜180mgKOH/gであることが好ましい。
【0047】
上記アクリル樹脂は、数平均分子量が1,000〜5,000である。1,000未満であると、粒径が140nmを超えるおそれがある。5,000を超えると、反応制御が著しく困難になるおそれがある。1,500〜4,000であることが好ましい。なお、上記アクリル樹脂の数平均分子量は、GPC法によるポリスチレン標準で測定した値である。
【0048】
上記アクリル樹脂は、例えば、水溶性有機溶剤中でカルボン酸基含有不飽和モノマー、水酸基含有不飽和モノマー、必要に応じてその他のエチレン性不飽和モノマーを含むモノマー組成物を、乳化重合等の公知の重合方法を用いて得ることができる。
【0049】
上記カルボン酸基含有不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2‐アクリロイルオキシエチルフタル酸、2‐アクリロイルオキシエチルコハク酸、2‐アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2‐アクリルアミド‐2‐メチルプロパンスルホン酸、ω‐カルボキシ‐ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α‐ハイドロ‐ω‐[(1‐オキソ‐2‐プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1‐オキソ‐1,6‐ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3‐ビニルサリチル酸、3‐ビニルアセチルサリチル酸等を挙げることができる。
【0050】
上記水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε‐カプロラクトン付加物を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε‐カプロラクトン付加物等を挙げることができる。
【0051】
上記その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステル〔(メタ)アクリル酸メチルまたは(メタ)アクリル酸エチル〕;エステル部の炭素数3以上の(メタ)アクリル酸エステル〔例えば、(メタ)アクリル酸n‐ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t‐ブチル、(メタ)アクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t‐ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等〕、重合性アミド化合物〔例えば、(メタ)アクリルアミド、N‐メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N‐モノブチル(メタ)アクリルアミド、N‐モノオクチル(メタ)アクリルアミド、2,4‐ジヒドロキシ‐4’‐ビニルベンゾフェノン、N‐(2‐ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N‐(2‐ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等〕;重合性芳香族化合物〔例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、ビニルケトン、t‐ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等〕;重合性ニトリル〔例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等〕;α‐オレフィン〔例えば、エチレン、プロピレン等〕;ビニルエステル〔例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等〕;等を挙げることができる。
【0052】
上記疎水性メラミン樹脂は、従来公知のものを使用することができるが、溶解性パラメーターδ(Sp)が9.0≦Sp≦11.5、好ましくは9.5≦Sp≦11.0の範囲のものであることが好ましい。上記Spが9.0未満であると、粒径が140nmを超えるおそれがあり、11.5を超えると、粒径が140nmを超え、また、塗膜にした場合に耐水性等の性能が低下するおそれがある。
【0053】
上記溶解性パラメーターδとは、当業者等の間で一般にSp(ソルビリティ・パラメーター)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性または疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。溶解性パラメーターは、例えば、濁度測定法等をもとに数値定量化することができる(参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A‐1,5,1671(1967).)。本明細書中の溶解性パラメーターδは、濁度測定法により求めたパラメーターである。濁度測定法による溶解性パラメーターは、例えば、測定対象である樹脂固形分(所定質量)を一定量の良溶媒(アセトン等)に溶解させた後、水またはヘキサン等の貧溶媒を滴下することによって、上記樹脂が不溶化し、溶液中に濁度を生じるまでの各々の滴定量から、上記参考文献等に記載されている公知の計算方法により求めることができる。
【0054】
上記工程(1)において、上記アクリル樹脂と、上記疎水性メラミン樹脂との混合比は、5/95〜50/50(質量比、アクリル樹脂/疎水性メラミン樹脂)であることが好ましい。5/95よりアクリル樹脂の配合量が少ないと、粒径が140nmを超えるおそれがある。50/50よりアクリル樹脂の配合量が多いと、塗料のNV(固形分濃度)の著しい低下が生じるおそれや反応制御が著しく困難になるおそれがある。更に好ましくは10/90〜40/60である。なお、アクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂との混合方法は、従来公知の方法により行うことができる。
【0055】
本発明では、上記工程(1)において、疎水性メラミン樹脂に対するアクリル樹脂の配合量が少ないため、得られる疎水性メラミン樹脂水分散体を硬化剤として使用した場合、硬化剤としての機能が低下することが少ない。そして、アクリル樹脂の配合量が少ないにもかかわらず、水分散後の粒径が20〜140nmである。このため、本発明により得られる疎水性メラミン樹脂水分散体を水性メタリック塗料の硬化剤として好適に用いることができる。なお、上記工程(1)において、上記アクリル樹脂、疎水性メラミン樹脂以外に、本発明の効果を疎外しない範囲内で、ポリエステル樹脂等の他の樹脂を含んでもよい。
【0056】
上記工程(1)において、上記アクリル樹脂と、上記疎水性メラミン樹脂との反応条件は、反応温度が70〜100℃であることが好ましく、75〜90℃であることがより好ましい。また、反応時間は、1〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。下限未満であると、粒径が140nmを超えるおそれがある。上限を超えると、反応制御が著しく困難になるおそれがある。
【0057】
上記工程(2)では、上記工程(1)を行うことにより得られた反応生成物を水分散することによって、粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を得る工程を行うものである。上記工程(2)を行うことによって、粒径20〜140nmの樹脂粒子が水中で分散している水分散体(水分散液)を得ることができる。
【0058】
上記工程(2)において、上記工程(1)で得られた反応生成物を水分散する方法としては特に限定されず、通常の樹脂の水分散方法を用いることができるが、上記反応生成物を温度50℃以下に冷却した後、水を用いて希釈することによって水分散することが好ましい。これにより、粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を好適に得ることができる。50℃以下に冷却しない場合には、粒径が20〜140nmのものを得ることができないおそれがある。30〜40℃に冷却した後、水で希釈することによって水分散することがより好ましい。
【0059】
上記工程(2)において、必要に応じて塩基で中和することにより、pH=6.5〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いためである。この中和は、上記アクリル樹脂と上記疎水性メラミン樹脂との反応の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを系に添加することにより行うことが好ましい。なかでも、上記アクリル樹脂と上記疎水性メラミン樹脂との反応の後に、3級アミンを添加し、次いで、反応生成物を温度50℃以下に冷却した後、水を用いて希釈することによって水分散することが特に好ましい。これにより、粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を好適に得ることができる。
【0060】
(反応性増粘剤)
本発明の水性メタリック塗料に用いられる反応性増粘剤は、塗布後のプレヒート時に、アクリル樹脂エマルションの原料として用いられる不飽和モノマーの含有するカルボン酸基や水酸基と硬化反応を起こして増粘するものであれば特に限定されないが、アルキル金属、アリール金属、金属‐π錯体、アルコキシ金属、アリロキシ金属、金属アシレート、金属キレートおよび複合金属から成る群から選択される少なくとも一つの化合物であって、それらの配位金属がチタン、マグネシウム、アルミニウム、珪素、スズ、ジルコニウムおよびリンから成る群から選択される金属が挙げられる。
【0061】
上記反応性増粘剤の例として、例えば上記金属がチタンの場合、アルキルチタン、例えばテトラベンジルチタン;アリールチタン、例えばジフェニルチタンジクロリド;チタン‐π錯体、例えばビス(シクロペンタジェニル)チタンジクロリド;アルコキシチタン、例えばテトラエトキシチタン;アリロキシチタン、例えばテトラフェノキシチタン;チタンアシレート、例えばヒドロキシチタンステアレート;チタンキレート、例えばジプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート);複合チタネート、例えばTi‐O‐Mg、Ti‐O‐Al、Ti‐O‐Si、Ti‐O‐Sn、Ti‐O‐Zr、Ti‐O‐P;等が挙げられる。
【0062】
上記反応性増粘剤として金属アシレート化合物および金属キレート化合物が好ましく、上記金属としてチタン、ジルコニウムおよびアルミニウムから成る群から選択されることが好ましい。
【0063】
上記反応性増粘剤の具体例として、松本製薬社製の「オルガチックス TC‐310」、「オルガチックス TC‐400」、「オルガチックス ZB‐115」、「オルガチックス TPHS」、「オルガチックス TC‐140」、「オルガチックス ZC‐150」、「オルガチックス ZC‐540」、「オルガチックス ZC‐550」、「オルガチックス ZC‐560」、川研ファインケミカル社製の「アルミキレート DOL」等が挙げられる。
【0064】
上記反応性増粘剤の配合量は、水性メタリック塗料の樹脂固形分に対して、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1.0〜5質量%である。上記顔料分散剤の配合量が0.1質量%未満では反応性増粘剤を使用することによる効果が得られなくなり、20質量%を超えると貯蔵安定性が低下する。
【0065】
上記反応性増粘剤は、本発明の水性メタリック塗料塗布後の加熱(プレヒート)時に、塗膜内で架橋反応を起こすことができ、その架橋程度としては、塗布された塗料の粘度が10倍以上に上昇するように、特に12〜50倍に上昇するように架橋させることが好ましい。上記反応性増粘剤は、上記範囲の粘度上昇率が発現できるように配合されることが好ましい。粘度上昇率が低いと、クリアー塗料塗布時に光輝性顔料の配向が乱れ、フリップフロップ性が低下する。
【0066】
一方、上記メタリック塗料塗布時の粘度は、3〜20Pa・Sと低く設定することが、光輝性顔料の配向性を高め、且つフリップフロップ性を高める観点から好ましく、40〜100℃で2〜10分間、好ましくは50〜80℃で、3〜10分間のプレヒートの後に、100Pa・S以上、特に140〜1000Pa・Sに上昇させることが更に好ましい。
【0067】
(光輝性顔料)
本発明の水性メタリック塗料に含まれる光輝性顔料としては、形状は特に限定されず、また着色されていてもよいが、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ厚さが0.1〜5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が10〜35μmの範囲のものが光輝感に優れ、更に好適に用いられる。具体的には、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝剤およびその混合物が挙げられる。この他に干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料等もこの中に含めるものとする。
【0068】
一方、必要により着色顔料を含有することができる。上記着色顔料としては、例えば有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、硫酸バリウム、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。
【0069】
また、光輝性顔料の顔料濃度(PWC)としては、一般的に18.0%以下であることが好ましい。上限を超えると、塗膜外観が低下するおそれがある。更に好ましくは、0.01〜15.0%であり、特に好ましくは、0.01〜13.0%である。
【0070】
上記水性メタリック塗料中の全顔料濃度(PWC)としては、0.1〜50%であることが好ましい。更に好ましくは、0.5〜40%であり、特に好ましくは、1.0〜30%である。上限を超えると、塗膜外観が低下するおそれがある。
【0071】
上記水性メタリック塗料は、必要によりその他の塗膜形成性樹脂を含んでいてもよい。その他の塗膜形成性樹脂としては、特に限定されるものではなく、上記アクリル樹脂エマルション以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂が利用できる。
【0072】
また、上記その他の塗膜形成性樹脂は、数平均分子量3,000〜50,000、好ましくは6,000〜30,000であることが好ましい。3,000未満であると、作業性および硬化性が充分でなく、50,000を超えると、塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪くなるおそれがある。
【0073】
上記その他の塗膜形成性樹脂は10〜100mgKOH/g、更に20〜80mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、上限を超えると、塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると樹脂の水分散性が低下するおそれがある。また、20〜180mgKOH/g、更に30〜160mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましく、上限を超えると、塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると、塗膜の硬化性が低下するおそれがある。
【0074】
上記水性メタリック塗料における上記アクリル樹脂エマルションと上記その他の塗膜形成性樹脂との配合割合は、その樹脂固形分総量を基準にして、アクリル樹脂エマルションが5〜95質量%、好ましくは10〜85質量%、更に好ましくは20〜70質量%であり、その他の塗膜形成性樹脂が95〜5質量%、好ましくは90〜15質量%、更に好ましくは80〜30質量%である。アクリル樹脂エマルションの割合が5質量%を下回ると作業性が低下し、95質量%より多いと造膜性が悪くなるおそれがある。
【0075】
上記その他の塗膜形成性樹脂として、上記アクリル樹脂エマルションとの相溶性の点から、水溶性アクリル樹脂を用いることが好ましい。上記水溶性アクリル樹脂は、前述のカルボン酸基含有不飽和モノマーを必須成分とし、それ以外のエチレン性不飽和モノマーとともに溶液重合を行うことにより得ることができる。
【0076】
なお、上記水溶性アクリル樹脂は、通常、塩基性化合物、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびジメチルエタノールアミンのような有機アミンで中和し、水に溶解させて用いるが、この中和は、水溶性アクリル樹脂そのものに対して行っても、水性メタリック塗料の製造時に行ってもよい。
【0077】
また、上記水性メタリック塗料は、ポリエーテルポリオールを含むことができる。上記ポリエーテルポリオールを含むことで、更に塗膜性能を向上させることができる。
【0078】
上記ポリエーテルポリオールとしては、1分子中に少なくとも一級水酸基を1つ以上有しており、数平均分子量300〜3,000、水酸基価が30〜700、かつ水トレランスが2.0以上であるものを用いることが好ましい。上記条件を満たしていない場合には、耐水性の低下や目的とする外観の向上が得られないことがある。
【0079】
このようなポリエーテルポリオールは、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸類等の活性水素含有化合物にプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した化合物を用いることができる。具体的なものとしては、プライムポールPX‐1000、サニックスSP‐750(上記いずれも三洋化成工業社製)、PTMG‐650(三菱化学社製)等の市販品を挙げることができる。上記ポリエーテルポリオールは、塗料樹脂固形分中、1〜40質量%含有されることが好ましく、3〜30質量%が更に好ましい。
【0080】
上記水性メタリック塗料は、本発明の硬化を阻害しない範囲内で、その他の硬化剤を含むことができる。上記その他の硬化剤としては、前述した疎水性メラミン樹脂水分散体以外で、塗料一般に用いられるものが使用できる。例えば、ブロックイソシアネート、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、親水性メラミン樹脂、金属イオン等が挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0081】
上記ブロックイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生するものが挙げられる。
【0082】
これらの硬化剤が含まれる場合、その含有量は水性メタリック塗料中の樹脂固形分100質量部に対し、10〜100質量部であることが好ましい。上記範囲外では、硬化性が不足するおそれがある。
【0083】
また更に、上記水性メタリック塗料には、上塗り塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために、その他の粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料等を挙げることができる。
【0084】
上記水性メタリック塗料には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0085】
上記水性メタリック塗料の製造方法は、後述するものを含めて、特に限定されず、顔料等の配合物をSGミル、グレンミル、ニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法を用い得る。
【0086】
(複層塗膜形成方法)
上記水性メタリック塗料は、自動車用水性メタリックベース塗料として好適に使用することができるものである。このため、自動車車体、部品等に適用する複層塗膜形成方法に適用することができる。上記複層塗膜形成方法としては、例えば、
(I)被塗装物上に前述した水性メタリックベース塗料を塗装してメタリックベース塗膜を形成する工程、
(II)上記メタリックベース塗膜を硬化させることなく、その上にクリアー塗料を塗装してクリアー塗膜を形成する工程、および
(III)上記メタリックベース塗膜と該クリアー塗膜とを同時に加熱する工程
からなる方法を挙げることができる。
【0087】
上記複層塗膜形成方法において用いられる被塗装物としては、種々の基材、例えば金属成型品、プラスチック成型品、発泡体等に用いることができるが、カチオン電着塗装可能な金属成型品に対して適用することが好ましい。
【0088】
上記金属成型品としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金による板、成型物を挙げることができ、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品を挙げることができる。これらの金属は予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されていることが好ましい。
【0089】
上記化成処理された金属成型品上に電着塗膜が形成されていてもよい。このような電着塗料としては、カチオン型およびアニオン型を使用できるが、防食性の観点から、カチオン型電着塗料組成物であることが好ましい。
【0090】
上記プラスチック成型品としては、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等による板、成型物等を挙げることができ、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等を挙げることができる。更に、これらのプラスチック成型品は、トリクロロエタンで蒸気洗浄または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、更に静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0091】
上記被塗装物上には更に必要に応じて、中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料が用いられる。この中塗り塗料には、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系や無機系の各種着色成分および体質顔料等が含有される。上記塗膜形成性樹脂および硬化剤は、特に限定されるものではなく、具体的には、先の水性メタリック塗料のところで挙げた塗膜形成性樹脂および硬化剤を挙げることができ、組み合わせて用いられるものである。得られる中塗り塗膜の諸性能およびコストの観点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとを組み合わせて用いられる。
【0092】
上記中塗り塗料に含まれる着色成分としては、先の水性メタリック塗料のところで述べたものを挙げることができる。一般的には、カーボンブラックと二酸化チタンとを主としたグレー系中塗り塗料や上塗りとの色相を合わせたセットグレーや各種の着色成分を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料を用いることが好ましい。更に、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料を添加してもよい。
【0093】
上記中塗り塗料中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。
【0094】
被塗装物に対して、上記水性メタリック塗料を塗装する方法としては、外観向上の観点から、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法を挙げることができる。
【0095】
上記水性メタリック塗料による塗装時の塗膜の膜厚は、所望の用途により変化するが、一般的には乾燥膜厚で10〜30μmであることが好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地を隠蔽することができず膜切れが発生し、30μmを超える場合、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいはタレ等の不具合が起ったりするおそれがある。良好な外観の複層塗膜を得るために、クリアー塗料を塗装する前に、得られたメタリックベース塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが好ましい。
【0096】
上記複層塗膜形成方法は、上記水性メタリック塗料を塗装して得られるメタリックベース塗膜を加熱硬化させることなくその上に上記クリアー塗料を塗装してクリアー塗膜を形成するものである。上記クリアー塗膜は、上記メタリックベース塗膜に起因する凹凸、チカチカ等を平滑にし、保護し、更に美観を与えるものである。
【0097】
上記クリアー塗料は、特に限定されず、塗膜形成性樹脂および硬化剤等を含有するクリアー塗料を利用できる。更に下地の意匠性を妨げない程度で有れば着色成分を含有することもできる。
【0098】
上記クリアー塗料の形態としては、溶剤型、水性型および粉体型のものを挙げることができる。
【0099】
上記溶剤型クリアー塗料の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0100】
また、上記水性型クリアー塗料の例としては、上記溶剤型クリアー塗料の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものが挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0101】
更に、上記クリアー塗料には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0102】
なお、上記複層塗膜形成方法において用いられるクリアー塗料としては、有機溶剤の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリアー塗料固形分が50質量%以上である溶剤型クリアー塗料または水性型クリアー塗料、あるいは、粉体型クリアー塗料であることが好ましい。
【0103】
上記メタリックベース塗膜に対して、先のクリアー塗料を塗装する方法としては、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。
【0104】
一方、粉体型クリアー塗料としては、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用い得ることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリアー塗料等が挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリアー塗料が特に好ましい。
【0105】
上記クリアー塗料を塗装することによって形成されるクリアー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜80μmが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の凹凸を隠蔽することができず、80μmを超えると塗装時にワキあるいはタレ等の不具合が起こるおそれがある。
【0106】
このようにして形成されたクリアー塗膜は、先に形成されているメタリックベース塗膜とともに同時に加熱させることによって硬化塗膜が形成される。上記加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80〜180℃に設定されていることが好ましく、120〜160℃に設定されていることが更に好ましい。加熱硬化時間は上記温度に応じて任意に設定することができるが、加熱硬化温度120℃〜160℃で時間が10〜30分であることが適当である。
【0107】
このようにして得られる複層塗膜の膜厚は、一般的には30〜300μmであり、50〜250μmであることが好ましい。上記膜厚が30μm未満である場合、膜自体の強度が低下し、300μmを超える場合、冷熱サイクル等の膜物性が低下するおそれがある。このようにして得られる複層塗膜もまた本発明の1つである。
【0108】
上記複層塗膜形成方法によって得られる複層塗膜を有する塗装物は、その表面に極めて高い光輝感および発色性、リコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性を兼ね備える複層塗膜を有するものである。
【0109】
本発明の水性メタリック塗料は、特定のアクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂、特定のアクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂とを特定配合で混合、反応させた反応生成物を水分散することによって得られる粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む硬化剤、特定の反応性増粘剤および顔料を含有するものであるため、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。また、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記水性メタリック塗料を水性メタリックベース塗料として用いた場合、優れたリコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する複層塗膜を得ることができる。従って、上記水性メタリック塗料は、水性メタリックベース塗料として好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0110】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0111】
(製造例1 アクリル樹脂エマルションEm‐1の製造)
反応容器にイオン交換水135.4部、アクアロンHS‐10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)を1.1部加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル25.21部、アクリル酸エチル22.37部、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル7.42部、メタクリル酸メチル15部からなる第1段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.21部およびイオン交換水8.6部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0112】
更に、この反応容器に、アクリル酸エチル23.54部、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル1.86部、メタクリル酸4.60部からなる第2段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.08部およびイオン交換水7.4部からなる開始剤溶液とを、80℃で0.5時間にわたり並行して滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0113】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、イオン交換水2.14部およびジメチルエタノールアミン0.24部を加えてpH6.5に調整し、平均粒径80nm、不揮発分30%、固形分酸価30mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションEm‐1を得た。
【0114】
(製造例2 水溶性アクリル樹脂の製造)
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびt‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0115】
次に、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびt‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0116】
更に、脱溶剤装置を用いて、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.11部留去した後、イオン交換水204部およびジメチルエタノールアミン714部を加えて水溶性アクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂溶液の不揮発分は30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/gであった。
【0117】
(製造例3 疎水性メラミン樹脂水分散体MFD‐1の製造)
反応容器にMFDG(メチルプロピレンジグリコール、日本乳化剤社製)50部を添加し、窒素気流中で撹拌しながら130℃に昇温した。次いで、アクリル酸14.77部、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル32.48部、アクリル酸ブチル47.75部、MSD‐100(α‐メチルスチレンダイマー、三井化学社製)5部からなるエチレン性不飽和モノマー混合物と、カヤエステルO(tert‐ブチルパーオクタノエート、化薬アクゾ社製)13部およびMFDG10部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後に0.5時間置いて、更にカヤエステルOが0.5部およびMFDGが5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり滴下した。滴下終了後1時間同温度で熟成を行った。次いで、50℃まで冷却し、不揮発分60%、固形分酸価110mgKOH/g、水酸基価140mgKOH/g、数平均分子量(Mn)=3,000のアクリル樹脂Ac1を得た。
【0118】
得られたアクリル樹脂Ac1の178.5部を、ユーバン20SB(完全ブチル化メラミン樹脂、日本サイテック社製、不揮発分75%、Sp=9.6)800部と混合し80℃で4時間撹拌した。その後、ジメチルエタノールアミンを18.3部加えて均一に分散し、40℃まで冷却した後、イオン交換水1003.2部を1時間で滴下することにより疎水性メラミン樹脂水分散体MFD‐1を得た。この水分散体中の樹脂粒子の粒径は80nmであった。
【0119】
(実施例1)
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルションEm‐1を153.3部、10質量%ジメチルエタノールアミン水溶液5部、製造例2で得られた水溶性アクリル樹脂を16.7部、プライムポールPX‐1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量1,000、水酸基価278mgKOH/g、水トレランス無限大)10部、製造例3で得られたMFD‐1を100部、光輝性顔料としてアルミペーストMH8801(旭化成社製アルミニウム顔料)19部、エチレングリコールモノヘキシルエーテル30部、および以下の表1に示した反応性増粘剤を混合撹拌し、10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えてpH=8.5に調整し、均一に分散し、水性ベース塗料を得た。更に、塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで60秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる水性ベース塗料を得た。
【0120】
(複層塗膜の形成)
リン酸処理鋼板に日本ペイント社製カチオン電着塗料「パワートップV‐20」およびポリエステル‐メラミン系グレー中塗り塗料「オルガH‐870(いずれも商品名)」をそれぞれ、乾燥膜厚が25μmおよび40μmになるように塗装して加熱硬化させた試験板に、前述のように得られた水性ベース塗料を静電塗装機AutoREA(商品名、ランズバーグ社製)により霧化圧5kg/cmで塗布し、80℃で5分間プレヒートした後、その上にウェットオンウェットで、日本ペイント社製「マックフロー O‐1810」(商品名、酸エポキシ硬化型アクリル樹脂系クリアー塗料)を、それぞれスプレーで塗布し、約7分間セッティング後140℃で30分間焼き付け乾燥を行い、塗装方式として2コート1ベーク(2C1B)の塗装試験板をそれぞれ作製した。なお、ベース塗料およびクリアー塗料による硬化塗膜は乾燥膜厚がそれぞれ15μmおよび40μmとなるように塗装した。
【0121】
得られた水性ベース塗料のPH(プレヒート)前の粘度を測定し、その結果を表1に示した。また、上記水性ベース塗料を塗装して、PH(80℃×5分間)後に塗板を取り出し、スパチュラーで塗料をはぎ取ったものを試料として、PH後の塗膜の粘度を測定し、その結果を同表に示した。試験方法は後述の通りとした。
【0122】
得られた水性ベース塗料のみを塗装して乾燥したベース単膜のフリップフロップ(FF)性を評価し、その結果を表1に示した。また、ベース単膜の上にクリアー塗料を塗布して得た塗膜について、同様にFF性を評価し、その結果を同表に示した。更に、ベース単膜のFF値とクリアー塗布後のFF値の色差変動(%):
[(クリアー塗布後のFF値/ベース単膜のFF値)×100]
を求めて同表に示した。試験方法は後述した通りである。
【0123】
(実施例2〜5および比較例1〜2)
反応性増粘剤の種類と添加量とを以下の表1および表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして水性ベース塗料および塗装試験板を得た。それらのFF性を実施例1と同様に評価し、その結果を同表に示した。試験方法は、以下の通りである。
【0124】
(試験方法)
(1)粘度測定
MR‐300ソリキッドメータ(株式会社ユービーエム製)により、以下の測定条件;
歪み:0.5deg
周波数:0.05Hz
で測定した。
【0125】
(2)フリップフロップ(FF)性
ミノルタ社製「ミノルタ変角色差計CM512‐M2」を用いて、入射光に対する15度および110度における上記各塗膜のL値からフリップフロップ性を評価した。なお、フリップフロップ性は、(15度でのL値)/(110度でのL値)の比によって求めた。上記比の値が大きいほど、フリップフロップ性が強いことを示す。
【0126】
尚、本発明において、「フリップフロップ性が強い」とは、メタリック塗膜を目視して、正面方向(塗面に対して直角)からは白く、かつキラキラとして光輝感にすぐれており、一方、斜め方向からでは光輝感は少なく色相がはっきりと見え、両者の明度差が大きいことを意味している。つまり、見る角度によってメタリック感が顕著に変化するメタリック塗膜を「フリップフロップ性が強い」と称し、意匠性が優れている。
【0127】
(試験結果)
【表1】

【0128】
【表2】

phr:樹脂固形分100質量部に対する質量部
【0129】
反応性増粘剤A:松本製薬社から商品名「オルガチックス TC‐400」で市販のチタンキレート(チタンラクテート)
反応性増粘剤B:松本製薬社から商品名「オルガチックス TC‐310」で市販のチタンキレート(チタントリエタノールアミネート)
反応性増粘剤C:松本製薬社から商品名「オルガチックス ZB‐115」で市販のジルコンキレート(ジルコニウムアセテート)
反応性増粘剤D:川研ファインケミカル社製のアルミキレートDOL
【0130】
以上の結果から、本発明の実施例1〜5の水性メタリック塗料は、比較例1〜2の従来の水性メタリック塗料に比較して、塗膜は優れたフリップフロップ性を有することがわかった。上記表1および2の結果から明らかなように、ベース単膜のFF値とクリアー塗布後のFF値の値に変化がない方が、クリアー塗料塗布による影響が少なく、優れていることになる。それは色差変動が100%に近いほど良いことになり、実施例1〜5では全て90%を超えているのに対し、反応性増粘剤を使用していない比較例1および反応性増粘剤の添加量が非常に少ない比較例では、ほぼ81〜82%ぐらいでしかなく、ベース単膜のFF値とクリアー塗布後のFF値との変化が大きいことを意味している。
【0131】
実施例1〜5の色差変動が小さいのは、アクリル樹脂エマルションの原料として用いられる不飽和モノマーの含有するカルボン酸基や水酸基と、塗料中に配合された反応性増粘剤とが、ベース塗料塗布後のプレヒート時(80℃×5分)に硬化反応を起こし、塗膜表面の粘度が上昇しているため、クリアー塗布後に起こるベース塗膜の溶剤膨潤および層間での樹脂の混ざりなどが抑制され、更に光輝性顔料の配向を乱すこともなくなり、その結果として色差変動が小さくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の水性メタリック塗料は、自動車塗装における水性メタリック塗料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】メタリックベース塗装からクリアー塗装への工程と断面を模式的に示す図である。
【図2】理想的なメタリックベース塗膜の光輝性顔料の配向を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成性樹脂、硬化剤および光輝性顔料を含有する水性メタリック塗料であって、
該塗膜形成性樹脂がアクリル樹脂エマルションを含み、該アクリル樹脂エマルションが二段乳化重合によって得られ、かつ酸価1〜30mgKOH/g、水酸基価10〜150mgKOH/gおよび粒径20〜140nmを有し、
該硬化剤が、粒径20〜140nmを有する疎水性メラミン樹脂水分散体であり、
更に、反応性増粘剤を樹脂固形分に対し0.1〜20質量%含有することを特徴とする水性メタリック塗料。
【請求項2】
前記反応性増粘剤が、アルキル金属、アリール金属、金属‐π錯体、アルコキシ金属、アリロキシ金属、金属アシレート、金属キレートおよび複合金属から成る群から選択される少なくとも一つの化合物であって、それらの配位金属がチタン、マグネシウム、アルミニウム、珪素、スズ、ジルコンおよびリンから成る群から選択される金属である請求項1記載の水性メタリック塗料。
【請求項3】
前記反応性増粘剤が金属キレート化合物であり、前記金属がチタン、ジルコンおよびアルミニウムから成る群から選択される少なくとも一つの化合物である請求項1または2記載の水性メタリック塗料。
【請求項4】
(I)被塗装物上に水性メタリックベース塗料を塗装してメタリックベース塗膜を形成する工程、
(II)上記メタリックベース塗膜を硬化させることなくその上にクリアー塗料を塗装してクリアー塗膜を形成する工程、および、
(III)上記メタリックベース塗膜と上記クリアー塗膜とを同時に加熱する工程
を含む複層塗膜形成方法であって、
該水性メタリックベース塗料が、請求項1〜3のいずれか一つに記載の水性メタリック塗料であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項5】
請求項4記載の複層塗膜形成方法により形成されることを特徴とする複層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−45948(P2007−45948A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232329(P2005−232329)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】