説明

水性中塗り塗料組成物及び複層塗膜の形成方法

本本発明は、複層塗膜としたときに、耐チッピング性及び耐水性に優れ、上塗り塗膜及び下塗り塗膜との適性及び仕上がり外観に優れた水性中塗り塗料組成物及びこれを用いた複層塗膜形成方法を提供する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含み、さらに必要に応じてスチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及び架橋性モノマー(d)が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンであって、前記樹脂のガラス転移温度が−50℃〜20℃、前記樹脂の酸価が2〜60mgKOH/g、前記樹脂の水酸基価が10〜120mgKOH/gである共重合体樹脂エマルジョンと、硬化剤とを含有する水性中塗り塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、水性中塗り塗料組成物及び複層塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
近年、地球環境問題や省資源の観点から、塗料中に使用されている有機溶剤の一部もしくは全量を水に置き換えた環境対応型の水系塗料が、自動車塗料等の工業塗装用塗料や建築・建材塗料分野で広く応用されるようになってきた。しかしながら、従来の水系塗料は、塗膜の機械的性質、耐溶剤性、耐水性に劣っていた。
例えば自動車塗料、中でも中塗り塗料、さらには最近特に省エネルギーのために要望されるスリーウエット方式(ウエットオンウエット塗装、すなわち複数の熱硬化型水性塗料を硬化させることなく塗り重ねていく塗装の方式)の中塗り塗料に従来の水系塗料を応用した場合、特に塗膜の耐チッピング性が弱く、下塗り塗装である電着塗膜との界面や上塗り塗装であるベースコートとの界面での剥離が生じたり、耐溶剤性が弱く塗膜の安定性が不適であったり、塗膜の耐水性と耐久性が劣るという問題があった。そのため、溶剤系塗料から水系塗料への代替えが進まなかった。
ここでスリーウエット方式の中塗り塗料について説明する。自動車車体塗装では複層塗膜が形成される。すなわち、まず燐酸亜鉛処理した鋼板上にカチオン電着塗装し電着塗膜を形成し、電着塗膜上に中塗り塗料を塗装し中塗り塗膜を形成し、中塗り塗膜上に意匠性を施すためのベース塗料を塗装しベースコート塗膜を形成し、最後にベースコート塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤートップ塗膜を形成する。このような複層塗膜形成においては、従来から、中塗り塗膜の形成後とクリヤートップ塗膜形成後の双方において焼き付け硬化工程が行われる。スリーコートワンベーク塗装は、中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略し、従来の2回の焼付け硬化工程を1回とするものである。中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略することにより、大きな省エネルギーが得られると共に塗装工程時間が短縮され、コストダウン効果が得られる。その反面、中塗り塗膜の物性低下を招かないよう、中塗り塗料にはより効率の良い硬化機構が要求される。しかしながら、従来の水性中塗り塗料組成物には、かかる要望に応えるものがなかった。
例えば日本国特開平8−33865号公報は、熱硬化性水性塗料(A)を塗装し、硬化させることなく該塗面に熱硬化性水性塗料(B)を塗装するウエットオンウエット塗装方法に関する。同号公報には、水性塗料(A)の基体樹脂の中和価を10〜40mgKOH/gとし、水性塗料(B)の基体樹脂の中和価を水性塗料(A)よりも10〜20mgKOH/g大きくすること、水性塗料(A)がカルボキシル基及び架橋性基を有する基体樹脂と架橋剤とを含有すること、水性塗料(A)の基体樹脂の酸価が10〜50mgKOH/gであることが開示されている。しかしながら、両塗料は、自己架橋性と反応硬化性の両機能の兼備という点については不十分であった。
例えば日本国特開2001−205175号公報は、電着塗膜を形成した被塗装物上に、水性中塗り塗料により中塗り塗膜、水性メタリックベース塗料によりメタリックベース塗膜及びクリヤー塗料によりクリヤー塗膜を順次形成する塗膜形成方法に関する。同号公報には、水性中塗り塗料が、アミド基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとを乳化重合して得られるアミド基含有アクリル樹脂粒子の水分散体を含有すること、アミド基含有アクリル樹脂粒子の酸価が0〜100mgKOH/gであることが開示され、他のエチレン性不飽和モノマーとして、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、(メタ)アクリレートモノマーが開示され、架橋性モノマーとして、多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステルが開示されている。しかしながら、水性中塗り塗料は、自己架橋性と反応硬化性の両機能の兼備という点については不十分であり、得られる複層塗膜の外観は満足のできるものではなかった。
このような状況下で、良好な粘弾性挙動等の機械的特性を有し、耐溶剤性及び耐水性が強く、塗装後の上塗り塗膜及び下塗り塗膜との接着性が優れ、且つ仕上がり外観の良い塗膜を提供する水性中塗り塗料組成物が特に要望されている。
【発明の開示】
発明の目的
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、複層塗膜としたときに、耐チッピング性及び耐水性に優れ、上塗り塗膜及び下塗り塗膜との適性及び仕上がり外観に優れた水性中塗り塗料組成物及びこれを用いた複層塗膜形成方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、鋭意検討の結果、アクリル系モノマー、酸基含有モノマー、水酸基含有モノマー及び架橋性を有するモノマーの混合液を乳化重合して樹脂に自己架橋性を導入することによって、更に得られた樹脂のガラス転移温度(Tg)、酸価及び水酸基価を特定の範囲として、塗料化時に硬化剤を添加して前記樹脂との硬化反応性を高めることによって得られる塗料組成物によって、複層塗膜にした場合にも、耐チッピング性及び耐水性が良く、仕上がり外観の良い複層塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
発明の概要
本発明には、以下の発明が含まれる。
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含み、さらに必要に応じてスチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー(a)、
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)、
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及び
架橋性モノマー(d)
が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンであって、前記樹脂のガラス転移温度が−50℃〜20℃、前記樹脂の酸価が2〜60mgKOH/g、前記樹脂の水酸基価が10〜120mgKOH/gである共重合体樹脂エマルジョンと、
硬化剤とを含有する水性中塗り塗料組成物。
<2> 前記架橋性モノマー(d)は、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー及び多官能ビニルモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋性モノマーを含む、<1>に記載の水性中塗り塗料組成物。
<3> 前記架橋性モノマー(d)として少なくともカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含み、且つ架橋助剤としてヒドラジン化合物を含む、<1>又は<2>に記載の水性中塗り塗料組成物。すなわち本発明においてカルボニル基含有モノマーを用いる場合には、上記水性塗料組成物中に、架橋助剤としてヒドラジン化合物を添加して、塗膜形成時に架橋構造が形成されるようにすることが好ましい。
<4> 前記硬化剤は、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物及びカルボジイミド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の硬化剤を含む、<1>〜<3>のいずれかに記載の水性中塗り塗料組成物。
<5> 前記架橋性モノマー(d)は、前記モノマー(a)、(b)及び(c)の合計量に対して、0.5〜10重量%用いられている、<1>〜<4>のいずれかに記載の水性中塗り塗料組成物。
<6> 前記硬化剤は、前記硬化剤及び前記共重合体樹脂エマルジョンの固形分の合計量に対して2重量%〜50重量%である、<1>〜<5>のいずれかに記載の水性中塗り塗料組成物。
<7> 顔料と顔料分散剤とを含む顔料分散ペーストをさらに含む、<1>〜<6>のいずれかに記載の水性中塗り塗料組成物。
<8> 前記顔料が、前記水性中塗り塗料組成物中の全ての樹脂固形分及び前記顔料の合計量に対して10〜60重量%となるように含まれ、前記顔料分散剤が、前記顔料に対して0.5〜10重量%である、<7>に記載の水性中塗り塗料組成物。
<9> 前記顔料分散剤中に揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、又は前記顔料分散剤の固形分に対して3重量%以下含まれる、<7>又は<8>に記載の水性中塗り塗料組成物。
本発明において、共重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)は、その重合に使用されるモノマーMi(i=1,2,...,i)の各ホモポリマーのガラス転移温度Tgi(i=1,2,...,i)と、モノマーMi(i=1,2,...,i)の各重量分率Xi(i=1,2,...,i)とから、以下の関係式:
1/Tg=Σ(Xi/Tgi) (I)
による良好な近似で算出される理論値である。
また、本発明において、共重合体樹脂の酸価及び水酸基価は、その重合に使用される各モノマーの配合量から計算によって得られる値である。
<10> 被塗装物上に電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する工程(1)と、前記電着塗膜上に水性中塗り塗料組成物を塗布して中塗り塗膜を形成する工程(2)と、前記中塗り塗膜上に、前記中塗り塗料を硬化することなく上塗り塗料を塗布して上塗り塗膜を形成する工程(3)とを含む複層塗膜の形成方法であって、前記水性中塗り塗料組成物は、<1>〜<9>のいずれかに記載の水性中塗り塗料組成物である、複層塗膜の形成方法。
<11> 前記工程(3)の後、前記中塗り塗膜及び前記上塗り塗膜を一度に硬化する、<10>に記載の複層塗膜の形成方法。
<12> 前記被塗装物が自動車車体である、<10>又は<11>に記載の複層塗膜の形成方法。
<13> <10>〜<12>のいずれかに記載の方法によって得られた複層塗膜。
本発明によって、複層塗膜としたときに、耐チッピング性及び耐水性に優れ、上塗り塗膜及び下塗り塗膜との適性及び仕上がり外観に優れている等の諸性能を有する水性中塗り塗料組成物及びこれを用いた複層塗膜形成方法を提供することができる。
本発明の複層塗膜形成方法においては、特に残存塩基性物量が少ない水性塗料を用いることより、スリーコートワンベーク塗装システムにおいても塗膜の黄変を抑制することができ、上記諸性能を有する塗膜を形成することができる。
従って、本発明の複層塗膜形成方法は、塗装工程短縮、コスト削減及び環境負荷低減を目指すスリーウエット塗装システムにおいて、特に自動車車体等の車両塗装に好適に使用することができる。
発明を実施するための形態
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の水性中塗り塗料組成物は、共重合体樹脂エマルジョンと硬化剤とを含む。まず、共重合体樹脂エマルジョンの各モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)について説明する。なお、本明細書においては、「アクリル系」重合性不飽和モノマーと「メタクリル系」重合性不飽和モノマーとを「(メタ)アクリル系」モノマーとして総称する。
モノマー成分(a)は、酸基及び水酸基のいずれをも含有しない重合性不飽和モノマーであり、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須成分とする。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜18のものが好ましく、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
モノマー成分(a)は、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレン等が挙げられる。必要に応じて、これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)は、少なくとも1つの酸基を分子内に有するエチレン性不飽和化合物であり、酸基は、例えばカルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基等から選ばれる。
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)のうち、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。スルホン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。リン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステル等のライトエステルPM(共栄社化学製)等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)は、得られる樹脂エマルジョンの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等等の諸安定性を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応促進触媒として作用する。上記モノマー(b)の内でも、上記諸安定性向上や硬化反応促進触媒能の観点から、カルボン酸基含有モノマーを用いることが重要である。モノマー(b)の内、カルボン酸基含有モノマーが50重量%以上含まれることが好ましい。
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマー等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーとしては、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」及び「プラクセルFM−5」等が挙げられる。
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)は、共重合により水酸基に基づく親水性を樹脂に付与し、得られる樹脂エマルジョンを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性を付与する。
架橋性モノマー(d)としては、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマーを用いることができる。
カルボニル基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)等のケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。このようなカルボニル基含有モノマーを用いる場合には、共重合体樹脂エマルジョン中に架橋助剤としてヒドラジン系化合物を添加して、塗膜形成時に架橋構造が形成されるようにする。
ヒドラジン系化合物としては、例えば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド; マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジド; ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低量合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させて得られるポリヒドラジド; 炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド; ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれより誘導されるポリイソシアネート化合物にヒドラジン化合物や上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド等が挙げられる。
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
前記架橋性モノマー(d)は、これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。モノマー(d)の共重合により、得られる共重合体樹脂エマルジョンに自己架橋性が付与される。
本発明における共重合体樹脂エマルジョンは、前記各モノマー成分から得られる共重合体樹脂のガラス転移温度が−50℃〜20℃、前記樹脂の酸価が2〜60mgKOH/g、前記樹脂の水酸基価が10〜120mgKOH/gとなるように前記各モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の種類や配合量を選択し、選択されたモノマー成分を乳化共重合することにより得られる。
共重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)は−50℃〜20℃の範囲とする。この範囲の樹脂のTgとすることにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む水性中塗り塗料をウエットオンウエット方式において用いた場合に、下塗り塗料及び上塗り塗料との親和性や密着性が良好となり、ウエット状態の上下両塗膜との界面でのなじみが良く反転が起こらない。また、最終的に得られる塗膜の適度な柔軟性が得られ、耐チッピング性が高められる。これらの結果、非常に高外観を有する複層塗膜が形成できる。樹脂のTgが−50℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が弱い。一方、樹脂のTgが20℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が弱くなる。従って、樹脂のTgは−50℃〜20℃であり、好ましくは−40℃〜10℃であり、さらに好ましくは−30℃〜0℃である。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂のTgが上記範囲となるように選択する。
共重合体樹脂の酸価は2〜60mgKOH/gとする。この範囲の樹脂の酸価とすることにより、樹脂エマルジョンやそれを用いた水性中塗り塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。樹脂の酸価が2mgKOH/g未満では、上記諸安定性が劣り、また、メラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分行われず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が劣る。一方、樹脂の酸価が60mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が悪くなったり、上記諸安定性が逆に悪くなったり、得られた塗膜の耐水性が劣るものとなる。従って、樹脂の酸価は2〜60mgKOH/gであり、好ましくは5〜50mgKOH/gが適当である。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように選択する。前述したように、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の内でもカルボン酸基含有モノマーを用いることが重要であり、モノマー(b)の内、カルボン酸基含有モノマーが好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含まれる。
共重合体樹脂の水酸基価は10〜120mgKOH/gとする。この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルジョンを含む塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性が増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性も十分である。水酸基価が10mgKOH/g未満では、前記硬化剤との硬化反応が不十分で、塗膜の機械的性質が弱く、耐チッピング性に欠け、耐水性及び耐溶剤性にも劣る。一方、水酸基価が120mgKOH/gを超えると、逆に得られた塗膜の耐水性が低下したり、前記硬化剤との相溶性が悪く、塗膜にひずみが生じ硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性及び耐水性が劣る。従って、樹脂の水酸基価は10〜120mgKOH/gであり、好ましくは20〜100mgKOH/gである。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択する。
また、架橋性モノマー(d)は、前記モノマー(a)、(b)及び(c)の合計量に対して、架橋性モノマー(d)を0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%の範囲で用いるとよい。モノマーの種類にもよるがこの範囲の使用量で、共重合体樹脂の架橋構造が得られ、塗膜の機械的性質、特に耐チッピング性、耐溶剤性及び耐水性向上効果が得られる。架橋性モノマー(d)の使用量が0.5重量%未満では、塗膜の架橋構造の形成が不十分で、塗膜の耐チッピング性、耐溶剤性及び耐水性向上効果が得られにくく、一方、架橋性モノマー(d)の使用量が10重量%を超えると、樹脂の製造工程でゲル化などの不都合が生ずるか、樹脂の製造工程上は問題なくても、塗膜の形成が不均一となる不都合を生じることがある。
乳化共重合は、前記モノマー成分を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、撹拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃程度として、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合液又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用される。
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
このようにして本発明で用いられる共重合体樹脂エマルジョンが調製される。得られた共重合体樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
さらに本発明においては、得られた共重合体樹脂エマルジョンに対し、カルボン酸の一部又は全量を中和して共重合体樹脂エマルジョンの安定性を保つため、塩基性化合物が添加される。これら塩基性化合物としては、通常アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などが用いられ、本発明においても適宜使用される。
本発明においては、上述の共重合体樹脂エマルジョンに、さらに硬化剤を加えることによって水性中塗り塗料組成物とする。硬化剤としては、共重合体樹脂と硬化反応を生じ、水性中塗り塗料組成物中に配合することができるものであれば特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基及び/又はブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723; メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267(何れも商品名、三井サイテック社製); ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(何れも商品名、三井化学社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
イソシアネート樹脂は、ジイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ジイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族ジイソシアネート類; イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート類; キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族−脂肪族ジイソシアネート類; トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート類; ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)等の水素添加ジイソシアネート類、及び以上のジイソシアネート類のアダクト体及びヌレート体等を挙げることができる。さらに、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
ジイソシアネート化合物をブロックするブロック剤としては、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類; m−クレゾール、キシレノール等のフェノール類;ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル等のジケトン類; チオフェノール等のメルカプタン類; チオ尿酸等の尿素類; イミダゾール類; カルバミン酸類等を挙げることができる。なかでも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましく、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、或いはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法等を用いることによって得られる。
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を重合したものである。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされて使用される。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、1重量%以上であることが好ましい。1重量%未満の量では硬化の程度が不充分となる傾向にあり、耐久性、耐水性等が損なわれる傾向にある。
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類; (メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類; (メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類; 塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化α,β−不飽和単量体類; スチレン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族単量体類等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
オキサゾリン基含有重合体は付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合等により製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルジョン等が挙げられるが、特にこれらの形態に限定されない。
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、ポリカルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素及び親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
上述の硬化剤は、硬化剤及び共重合体樹脂エマルジョンの固形分の合計量に対して下限2重量%、上限50重量%、好ましくは下限4重量%、上限40重量%、より好ましくは下限5重量%、上限30重量%となるように使用する。2重量%より少ないと、得られる塗膜の耐水性が低下する傾向がある。また、50重量%を超えると、得られる塗膜の耐チッピング性が低下する傾向がある。
本発明の水性中塗り塗料組成物は、さらに以下の成分を含むことができる。例えば、上記共重合体樹脂以外の樹脂成分、分散剤による顔料の分散ペースト(分散剤顔料分散ペースト)、増粘剤、その他の添加剤成分等を含有する事ができる。これら成分を加える順番は、共重合体樹脂エマルジョンに硬化剤を加える前でも良いし、後でも良い。
上記共重合体樹脂以外の樹脂成分としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂成分は、水性中塗り塗料用組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50重量%以下の割合で配合することが好ましい。50重量%を越えて配合した場合は、塗料中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
分散剤顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを予め分散して得られる。顔料分散剤には、揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、又は顔料分散剤の固形分に対し3重量%以下の割合で含まれている。本発明の水性中塗り塗料組成物においては、このような顔料分散剤を用いることによって、水性中塗り塗料から形成される塗膜中の揮発性塩基性物質の量が少なくなり、得られる複層塗膜の黄変を抑えることができる。従って、顔料分散剤の固形分に対し揮発性の塩基性物質が3重量%を超えて含まれていると、得られる複層塗膜が黄変し、仕上がり外観が悪くなる傾向にあるため好ましくない。
揮発性の塩基性物質とは、沸点が300℃以下の塩基性物質を意味するものであり、無機及び有機の窒素含有塩基性物質を挙げることができる。無機の塩基性物質としては、例えば、アンモニア等が挙げられる。有機の塩基性物質としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン; モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状ヒドロキシアルキル基含有1〜3級アミン; ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基及び炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン; ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の炭素数1〜20の置換又は非置換鎖状ポリアミン; モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状モノアミン; ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N,N−ジメチルピペラジン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状ポリアミン等のアミン類を挙げることができる。
本発明の水性中塗り塗料組成物には、上記顔料分散剤以外の成分にも、揮発性の塩基性物質が含まれる場合がある。従って、上記顔料分散剤に含まれる揮発性の塩基性物重量は、より少なく抑える程、より好ましい。すなわち、揮発性の塩基性物質を実質的に含まない顔料分散剤を用いて分散することが好ましい。また、従来一般的に使用されているアミン中和型の顔料分散樹脂を使用しないことが更に好ましい。そして、複層塗膜形成時に、単位面積1mmあたりの揮発性の塩基性物質が7×10−6mmol以下になるように顔料分散剤を用いることが好ましい。
顔料分散剤は、顔料親和部分及び親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分及び親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基等が挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基等が挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
顔料分散剤としては、揮発性の塩基性物質を含まないか、又は顔料分散剤の固形分に対し3重量%以下の含有量であるものであれば特に限定されないが、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182(高分子共重合物)、Disperbyk 184(高分子共重合物)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるEFKAPOLYMER4550、アビシア社製のノニオン系分散剤であるソルスパース27000、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095等を挙げることができる。
顔料分散剤の数平均分子量は、下限1000、上限10万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、10万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、下限2000、上限5万であり、更に好ましくは、下限4000、上限5万である。
前記分散剤顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得られる。
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料; 黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック等の無機着色顔料等が挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料を併用しても良い。
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料を用いることもできる。他にも、上塗り塗料と明度又は色相等を合わせた塗料や各種の着色顔料を組み合わせた塗料を用いることもできる。
顔料は、水性中塗り塗料組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分及び顔料の合計重量に対する顔料の重量の比(PWC;pigment weight content)が、10〜60重量%であることが好ましい。10重量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60重量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
顔料分散剤の含有量は、顔料の重量に対して、下限0.5重量%、上限10重量%であることが好ましい。0.5重量%未満であると、顔料分散剤の配合量が少ないために顔料の分散安定性に劣る場合がある。10重量%を超えると、塗膜物性に劣る場合がある。好ましくは、下限1重量%、上限5重量%である。
増粘剤としては特に限定されないが、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているものとしては、チローゼMH及びチローゼH(いずれもヘキスト社製、商品名)等のセルロース系のもの; ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、プライマルASE−60、プライマルTT−615、プライマルRM−5(いずれもローム&ハース社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)等のアルカリ増粘型のもの; ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、アデカノールUH−540、アデカノールUH−814N(旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)等の会合型のものを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
増粘剤を含有することにより、水性中塗り塗料組成物の粘度を高くすることができ、水性中塗り塗料組成物を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、中塗り塗膜とベース塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、増粘剤を含まない場合に比べて、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
増粘剤の含有量は、上記水性中塗り塗料組成物の樹脂固形分(水性中塗り塗料組成物に含まれる全ての樹脂の固形分)100重量部に対して、下限0.01重量部、上限20重量部であることが好ましく、下限0.1重量部、上限10重量部であることがより好ましい。0.01重量部未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20重量部を超えると、外観及び得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;消泡剤;表面調整剤;ピンホール防止剤等が挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
本発明の水性中塗り塗料組成物の製造方法は、特に限定されず、当業者に周知の全ての方法を用いることができる。また、本発明の水性中塗り塗料組成物は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルジョン等の形態を挙げることができる。
さらに、本発明の複層塗膜の形成方法について説明する。
本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物上に電着塗料を塗装することによって電着塗膜を形成する工程(1)と、電着塗膜上に上述した水性中塗り塗料組成物を塗布して中塗り塗膜を形成する工程(2)と、中塗り塗膜上にウエットオンウエット塗装方法により、上塗り塗料を塗布して上塗り塗膜を形成する工程(3)を含む。ここで、ウエットオンウエット塗装とは、複数の塗膜を硬化させることなく塗り重ねることをいう。
各塗料の塗装方法としては、特に限定されず、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用いることにより行うことができる。塗装後はプレヒートを行うことが好ましい。
本発明の複層塗膜の形成方法においては、上記工程(3)を行った後、中塗り塗膜及び上塗り塗膜を一度に加熱硬化させることができる。
上記工程(1)においては、被塗装物に対してカチオン電着塗料を塗装する。上記カチオン電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料を使用することができる。このようなカチオン電着塗料としては、カチオン性基体樹脂及び硬化剤を含有する塗料組成物を挙げることができる。
カチオン性基体樹脂としては、特に限定されないが、例えば、特公昭54−4978号公報、特公昭56−34186号公報等に記載されたアミン変性エポキシ樹脂系、特公昭55−115476号公報等に記載されたアミン変性ポリウレタンポリオール樹脂系、特公昭62−61077号公報、特開昭63−86766号公報等に記載されたアミン変性ポリブタジエン樹脂系、特開昭63−139909号公報、特公平1−60516号公報等に記載されたアミン変性アクリル樹脂系、特開平6−128351号公報等に記載されたスルホニウム基含有樹脂系等を挙げることができる。上記引例に記載されたものの他、ホスホニウム基含有樹脂系等を使用することもできる。上記カチオン性基体樹脂のなかでも、アミン変性エポキシ樹脂系を使用することが特に好ましい。
カチオン電着塗料を塗装した後、工程(2)として、上述した水性中塗り塗料組成物を塗装する。水性中塗り塗料組成物の塗装は、上述した塗装方法によって行うことができる。塗装後、乾燥又は加熱することによって未硬化の乾燥中塗り塗膜を形成することができる。乾燥又は加熱する条件は特に限定されないが、例えば、温度は下限室温、上限100℃、時間は下限30秒間、上限15分間で行う。
水性中塗り塗料組成物によって形成される硬化後の塗膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途に応じて設定することができる。上記膜厚の下限は、10μmであることが好ましく、より好ましくは15μmである。上記膜厚の上限は40μmであることが好ましく、より好ましくは30μmである。膜厚が上記上限を超えると、塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホール等の不具合が起こることがあり、上記下限を下回ると、得られる塗膜の外観及び耐チッピング性が低下するおそれがある。
工程(3)においては、上記工程(2)で得られた中塗り塗膜を硬化させることなく上塗り塗料を塗装する。
上塗り塗料としては特に限定されないが、例えば、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料等の顔料、各種添加剤等を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等を使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせが好ましい。硬化剤、顔料、各種添加剤も、中塗り塗料組成物に用いられるものを使用することができる。
上塗り塗料中に含まれる顔料濃度(PWC)は、一般的には、下限0.1重量%、上限50重量%であり、より好ましくは、下限0.5重量%、上限40重量%であり、更に好ましくは、下限1重量%、上限30重量%である。上記顔料濃度が0.1重量%未満であると、顔料による効果が得られず、50重量%を超えると、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
上塗り塗料の調製についても、中塗り塗料組成物の調製と同様の方法によって行うことができる。
上塗り塗料の塗料形態としては特に限定されず、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型のいずれであってもよい。上塗り塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が15〜70μmとなるように塗装される。乾燥硬化後の膜厚が15μm未満であると、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、70μmを超えると、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
上塗り塗料の塗装方法としては、前述の塗装方法を挙げることができる。上塗り塗料を自動車車体等に対して塗装する場合には、意匠性を高めるために、上記エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装を好ましくは2ステージで行うか、又は、上記エアー静電スプレー塗装と上記回転霧化式静電塗装とを組み合わせた塗装方法により行うことが好ましい。得られた上塗り塗膜は、被塗装物に対して美観と保護とを与える。
上塗り塗膜は、溶剤型あるいは水性のベース塗料により形成されるベース塗膜とクリヤー塗膜とを含む複層であってもよい。この場合、上記工程(3)においては、例えば、溶剤型あるいは水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を得た後、更に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を得る。
水性ベース塗料を用いてベース塗膜を形成する場合には、塗装工程において排出する有機溶剤分を大幅に削減することができ、環境対応型塗装工程であるという点でより好ましい。
ベース塗料としては特に限定されないが、塗膜形成性樹脂、硬化剤、光輝材及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等が挙げられる。
ベース塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜30μmとなるように塗装される。上記乾燥硬化後の膜厚が10μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。上記ベース塗料の塗装方法としては、前述の塗布方法を挙げることができる。
クリヤー塗料としては特に限定されないが、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いると良い。透明性又は耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を用いても良い。
クリヤー塗料の調製方法及び塗装方法としては、従来の方法に従って行うことができる。上記クリヤー塗膜の乾燥硬化後の膜厚は、用途により変化するが、例えば10〜70μmである。この乾燥硬化後の膜厚が上限を超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れ等の不具合が起こったりする場合があり、下限を下回ると、外観が低下するおそれがある。
クリヤー塗料から得られるクリヤー塗膜は、ベース塗料として光輝材を含むメタリックベース塗料を用いた場合の、光輝材に起因するベース塗膜の凹凸を平滑にして光沢を向上させたり、またベース塗膜を保護したりする効果がある。
加熱硬化させる場合、温度は下限110℃、上限180℃であることが好ましく、下限120℃、上限160℃であることがより好ましい。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。110℃未満であると、硬化が不充分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱硬化させる時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
本発明の方法によって塗装することができる被塗装物は、カチオン電着塗装可能な金属製品であれば特に制限されない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛及びこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキ又は蒸着製品等を挙げることができる。
【実施例】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【実施例1】
(A)水性中塗り塗料の製造
(着色顔料ペーストの調製)
市販分散剤「Disperbyk 190」(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤、商品名)9.4部、イオン交換水36.8部、ルチル型二酸化チタン34.5部、硫酸バリウム34.4部及びタルク6部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、分散剤着色顔料分散ペーストを得た。
(樹脂エマルジョンの調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルジョン製造用の反応容器に、水445部及びニューコール293(日本乳化剤(株)製)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。下記モノマー混合液(樹脂の酸価:18、水酸基価:85、Tg:−22℃)、水240部及びニューコール293(日本乳化剤(株)製)30部の混合物をホモジナイザーを用いて乳化し、そのモノマープレ乳化液を上記反応容器中に3時間にわたって攪拌しながら滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続し、その後、冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、不揮発分40.6重量%の水性樹脂エマルジョンを得た。
(モノマー混合組成)
メタクリル酸メチル 45部
アクリル酸ブチル 299部
スチレン 50部
アクリル酸2−ヒドロキシエチル 92部
メタクリル酸 14部
エチレングリコールジメタクリレート 20部
得られた樹脂エマルジョンは、30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7.2に調整した。
(水性中塗り塗料の調製)
上述のようにして得られた分散剤着色顔料分散ペースト60.3部、樹脂エマルジョン109.7部に、硬化剤としてサイメル327(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂、商品名)20.9部を混合した後、アデカノールUH−814N(ウレタン会合型増粘剤、有効成分30%、旭電化工業社製、商品名)1.0部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
(B)塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワートップU−50(日本ペイント社製カチオン電着塗料、商品名)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
得られた基板に、上記水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて20μm塗装し、80℃で5分プレヒートを行った後、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて10μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料として、マックフロー O−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、試験片を得た。
また、硬化前の複層塗膜に残存する塩基性物量を測定すると、4.4mmolであった。更に、加熱硬化後に得られた複層塗膜は、仕上がり外観に優れ、塗膜の黄変性という観点においても、全く変化無く良好なものであった。
なお、上記水性中塗り塗料、水性ベース塗料及びクリヤー塗料は、下記条件で希釈し、塗装に用いた。
・水性中塗り塗料
シンナー:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
塗料固形分は、54重量%であった。
・水性ベース塗料
シンナー:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
・クリヤー塗料
シンナー:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤、商品名)=1/1(重量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【実施例2〜8】
実施例2〜8では、モノマー組成を表1にそれぞれ示すように変更して樹脂エマルジョンを調製したこと以外は、実施例1と全く同様にして、それぞれ水性中塗り塗料を調製し、複層塗膜の試験片を得た。ただし、実施例5及び7では、カルボニル基含有モノマーとしてジアセトンアクリルアミド20部を用いたので、重合終了後にアジピン酸ジヒドラジド10部をそれぞれ添加した。
【実施例9】
硬化剤としてバイヒジュールLS−2186(住友バイエルウレタン社製ブロック型イソシアヌレート、商品名)を28.1部用いた以外は、実施例1と全く同様の方法にして水性中塗り塗料を調製し、複層塗膜の試験片を得た。
【実施例10】
樹脂エマルジョン111.4部、エポクロスWS−500(日本触媒社製オキサゾリン基含有化合物、水溶性型アクリル共重合体、オキサゾリン当量220[solid/eq]、商品名)5.5部を用いた以外は、実施例1と全く同様の方法にして水性中塗り塗料を調製し、複層塗膜の試験片を得た。
【実施例11】
樹脂エマルジョン134.8部、及び硬化剤として下記のようにして得られる変性カルボジイミド化合物の水分散体21.9部を用いた以外は、実施例1と全く同様の方法にして水性中塗り塗料を調製し、複層塗膜の試験片を得た。
(変性カルボジイミド化合物の調製)
4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート700部をカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)14部と共に180℃で16時間反応させ、イソシアネート末端4,4−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド(カルボジイミド基の含有量:4当量)を得た。次いで、得られたカルボジイミド226.8部を90℃加熱下でN−メチルピロリドン106.7部に溶解させ、溶解したカルボジイミドを得た。次に、ポリプロピレングリコール(数平均分子量:2000)200部を40℃で10分間撹拌後、溶解したカルボジイミド及びジブチル錫ジラウレート0.16部を加え、再度90℃まで昇温し、3時間反応させた。さらに、オキシエチレン単位を8個有するポリ(オキシエチレン)モノ−2−エチルヘキシルエーテル96.4部を加え100℃で5時間反応させた後、イオン交換水678.1部を50℃で加え、樹脂固形分40%の親水化変性カルボジイミド化合物の水分散体を得た。
[比較例1〜6]
モノマー組成を表1にそれぞれ示すように変更して樹脂エマルジョンを調製したこと以外は、実施例1と全く同様にして、それぞれ水性中塗り塗料を調製し、複層塗膜の試験片を得た。ただし、比較例3では、カルボニル基含有モノマーとしてジアセトンアクリルアミド20部を用いたので、重合終了後にアジピン酸ジヒドラジド10部を添加した。

表1の略号については、次の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸ブチル
ST:スチレン
MAA:メタクリル酸
2HEA:アクリル酸−2ヒドロキシエチル
4HBA:アクリル酸−4ヒドロキシブチル
FM−1:プラクセルFM1(ダイセル化学工業(株)製)
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
DVB:ジビニルベンゼン
DAAm:ジアセトンアクリルアミド
KBM−502:信越化学工業(株)製、アルコキシシリル基含有モノマー
表1において、酸価及び水酸基価の値は、それぞれ、モノマー混合液に含まれる各重合性不飽和モノマーの配合量から計算によって得られる値である。また、Tgの値は、それぞれ、モノマー混合液に含まれる各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度と各モノマーの重量分率とから前記関係式(I)によって得られた値を、小数点以下を四捨五入した値である。
(C)性能評価
製造された水性中塗り塗料を用いて得られた複層塗膜の試験片について、以下の評価を行った。
1.外観:ウエーブスキャン(SW値)
得られた試験片を、ビッグケミー社製「ウエーブスキャン」を用いて、SW値を測定することにより、仕上がり外観を評価した。尚、SW値は、主に艶感及び微小な肌を評価する指標であり、低い程、良好であることを示す。
2.耐チッピング性
得られた試験片の耐チッピング性の評価を以下のようにして行った。グラベロテスター試験機(スガ試験機社製)を用いて、7号砕石300個を35cmの距離から3.0kgf/cmの空気圧で、塗膜に45°の角度で衝突させた。水洗乾燥後、ニチバン社製工業用ガムテープを用いて剥離テストを行い、その後、塗膜のはがれの程度を、目視により観察し評価した。
(判断基準)
5;全く剥離なし
4;剥離面積が小さく、頻度も少ない
3;剥離面積は小さいが、頻度がやや多い
2;剥離面積は大きいが、頻度は少ない
1;剥離面積が大きく、頻度も多い
3.耐水性
得られた試験片を40℃の温水に10日間浸積し、洗浄1時間後の外観を目視により観察し、下記の基準により評価した。
(外観評価基準)
5;変化無し
4;温水境界部が、かすかに膨潤する
3;温水境界部が、かすかに黒ずんでいる
2;温水境界部が、黒ずんでいる
1;温水境界部が膨潤し、塗膜が黒ずんでいる。
以上の性能評価の結果を表2に示す。

表2より、実施例1〜8の複層塗膜の試験片は、いずれも外観が良好で、優れた耐チッピング性及び耐水性を示した。また、メラミン樹脂以外の硬化剤を配合した実施例9〜11の試験片も、高い塗膜性能を示し、優れた硬化性を示した。
これらの結果から、本発明の水性中塗り塗料組成物は、高固形分状態で塗装を行うことができるものであり、塗装効率が良好な水性塗料組成物である。また本発明の水性中塗り塗料組成物は、長期保存時の沈降、粘度上昇等の問題も生じることがなく、保存安定性にも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含み、さらに必要に応じてスチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー(a)、
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)、
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及び
架橋性モノマー(d)
が乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンであって、前記樹脂のガラス転移温度が−50℃〜20℃、前記樹脂の酸価が2〜60mgKOH/g、前記樹脂の水酸基価が10〜120mgKOH/gである共重合体樹脂エマルジョンと、
硬化剤とを含有する水性中塗り塗料組成物。
【請求項2】
前記架橋性モノマー(d)は、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー及び多官能ビニルモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋性モノマーを含む、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項3】
前記架橋性モノマー(d)として少なくともカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含み、且つ架橋助剤としてヒドラジン化合物を含む、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物及びカルボジイミド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の硬化剤を含む、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項5】
前記架橋性モノマー(d)は、前記モノマー(a)、(b)及び(c)の合計量に対して、0.5〜10重量%用いられている、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項6】
前記硬化剤は、前記硬化剤及び前記共重合体樹脂エマルジョンの固形分の合計量に対して2重量%〜50重量%である、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項7】
顔料と顔料分散剤とを含む顔料分散ペーストをさらに含む、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項8】
前記顔料が、前記水性中塗り塗料組成物中の全ての樹脂固形分及び前記顔料の合計量に対して10〜60重量%となるように含まれ、前記顔料分散剤が、前記顔料に対して0.5〜10重量%である、請求の範囲第7項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項9】
前記顔料分散剤中に揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、又は前記顔料分散剤の固形分に対して3重量%以下含まれる、請求の範囲第7項に記載の中塗り塗料組成物。
【請求項10】
被塗装物上に電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する工程(1)と、前記電着塗膜上に水性中塗り塗料組成物を塗布して中塗り塗膜を形成する工程(2)と、前記中塗り塗膜上に、前記中塗り塗料を硬化することなく上塗り塗料を塗布して上塗り塗膜を形成する工程(3)とを含む複層塗膜の形成方法であって、前記水性中塗り塗料組成物は、請求の範囲第1項に記載の水性中塗り塗料組成物である、複層塗膜の形成方法。
【請求項11】
前記工程(3)の後、前記中塗り塗膜及び前記上塗り塗膜を一度に硬化する、請求の範囲第10項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項12】
前記被塗装物が自動車車体である、請求の範囲第10項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項13】
請求の範囲第10項に記載の方法によって得られた複層塗膜。

【国際公開番号】WO2004/061025
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564492(P2004−564492)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016070
【国際出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】