説明

水性塗料の塗装試験装置

【課題】ある水性塗料につき、塗料としての適否を判断しようとして、この水性塗料を、試験的に用いられる被塗装体の被塗装面に対し試験的に噴霧して吹き付けるという塗装作業をする場合に、この試験的な塗装作業が容易かつ安価にできるようにする。
【解決手段】水性塗料2の塗装試験装置1は、試験的に塗装される被塗装面5を備えた被塗装体6を支持可能とする支持装置7と、温度と湿度とが所定値に調整された空気8が被塗装面5に沿って一方向Aに流動する空気層9となるようこの空気8を吐出する空気供給装置10と、試験対象とされる水性塗料2を、被塗装面5に対し空気層9を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズル11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験的に塗装される被塗装面の周りの空気につき、その温度と湿度とが所定値となるよう調整し、この状態で、上記被塗装面に対し試験対象となる水性塗料を噴霧して吹き付けるようにした水性塗料の塗装試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記水性塗料は溶媒が主に水であるために、溶媒を溶剤とすることに比べ、上記水性塗料を塗料として用いることは、環境上、好ましい。また、上記水性塗料による塗装後の乾燥塗膜の「見栄え」は、溶剤系の塗料と比べて何ら遜色が無い。このような理由により、上記水性塗料は、近時、自動車の車体など多量製造品において多用化されつつある。
【0003】
ここで、上記乾燥塗膜の「見栄え」の良否を判断する場合における判断基準は、一義的には、その表面の色合いが所望のものであるか否かであるが、肌のスムースさ(なめらかさ、つやなど)が所望のものであるか否かが主たるものとされる。
【0004】
上記水性塗料を用いた塗装装置については、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、上記塗装装置は、塗装対象とされる自動車の車体などのワークの表面に対し水性塗料を噴霧して吹き付けるスプレーノズルを備えている。
【0005】
上記塗装装置を用いて塗装作業をする場合には、まず、ワークの表面にスプレーノズルにより水性塗料を噴霧して吹き付ける。すると、これにより生じた塗膜からその周囲における空気中に水分が蒸発して固化が進行する。その後、上記塗膜を加熱乾燥させれば、乾燥塗膜が得られて塗装作業が完了する。
【0006】
上記水性塗料を用いた塗装作業において、吹き付けた直後の塗膜から水分が蒸発する際、その蒸発の速度は、この塗膜の周りにおける空気の温度と湿度との各値によって著しく左右させられる。ここで、上記水分の蒸発速度があまりに遅い場合は、上記塗膜の流動性により、この塗膜の各部分に垂れが生じ易くなって肌のスムースさが阻害され、上記「見栄え」が低下しがちとなる。一方、水分の蒸発速度があまりに速い場合には、吹き付け直後の塗膜の表面がなめらかになろうとする前に、固化が進行して肌のスムースさを得ることができず、この場合も、上記「見栄え」が低下しがちとなる。
【0007】
そこで、上記塗装作業は、従来、一般に、ワークを実機用ブース内に設置し、このブース内の空気の温度と湿度とが所定値となるよう調整して、この空気が所望雰囲気となるようにする。そして、これにより、上記水分の蒸発速度が所望速度となるようにして、上記ワークに対する塗装作業がなされている。
【0008】
一方、例えば、製造品の塗装仕様を、ある仕様から他の新たな仕様に変更しようとする場合のように、新しい水性塗料を用いようとする場合には、まず、種々の水性塗料が試作される。次に、これら各水性塗料を用いることによる試験的な塗装作業が行われて、これら水性塗料のうち、いずれのものが塗料として適正であるか否かが判断される。そして、塗料として適正と判断された水性塗料が、上記実機用ブース内で目的の製造品の塗装作業に供される。
【0009】
上記のように新しい水性塗料を用いようとする場合の試験的な塗装作業は、一般に、次のように行われる。まず、水性塗料の塗料成分が水を含めて種々設定され、かつ、これら塗料成分の混合比が種々設定されて、新しい各種水性塗料が準備される。一方、上記した試験的な塗装作業をするための専用ブースが設けられる。そして、この専用ブース内の空気の温度と湿度とが所定値に調整され、つまり、上記専用ブース内の空気が所望雰囲気となるよう調整される。
【0010】
そして、上記専用ブース内に、試験的に塗装される被塗装面を備えた被塗装体が複数設置され、これら被塗装体の被塗装面に対し、上記各水性塗料により試験的な塗装作業が行われる。これにより、上記吹き付けにより形成された上記被塗装面上の塗膜からの水分の蒸発速度が所望速度とされる。このようにして、上記空気の所望雰囲気を経て形成される乾燥塗膜の「見栄え」の良否が判断される。
【0011】
次に、上記専用ブース内の空気の温度と湿度とが他の所定値に調整され、つまり、上記専用ブース内の空気が他の所望雰囲気となるよう調整される。そして、上記と同様の試験的な塗装作業が行われる。このようにして、上記空気の他の所望雰囲気を経て形成される乾燥塗膜の「見栄え」の良否が判断される。
【0012】
以下、上記と同様の作業が繰り返される。そして、上記空気の各種所望雰囲気を経て形成される各乾燥塗膜の「見栄え」の良否の判断に基づき、上記水性塗料のいずれのものが適正であるか否かが判断される。また、この水性塗料が適正か否かの最終判断は、前記実機用ブース内での試験的な塗装作業により達成される。
【0013】
【特許文献1】特開2002−233812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記被塗装体に対する試験的な塗装作業をするために設けられた専用ブースは、その内部で上記被塗装体の設置作業をする必要がある。このため、この被塗装体は小片で足りることに比べて、上記専用ブース内の容積は極めて大きくなっている。
【0015】
よって、第1に、上記専用ブース内における空気の雰囲気を、ある所望のものから他の所望のものに変更しようとすると、長時間を要することとなって、その作業は煩雑である。また、上記ブース内を各部均一な所望雰囲気にさせることも極めて煩雑な作業である。また、第2に、上記専用ブース内における無用に多量の空気を調整する必要がある分、上記試験的な塗装作業は高価ともなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、ある水性塗料につき、塗料としての適否を判断しようとして、この水性塗料を、試験的に用いられる被塗装体の被塗装面に対し試験的に噴霧して吹き付けるという塗装作業をする場合に、この試験的な塗装作業が容易かつ安価にできるようにすることである。
【0017】
請求項1の発明は、試験的に塗装される被塗装面5を備えた被塗装体6を支持可能とする支持装置7と、温度と湿度とが所定値に調整された空気8が上記被塗装面5に沿って一方向Aに流動する空気層9となるようこの空気8を吐出する空気供給装置10と、試験対象とされる水性塗料2を、上記被塗装面5に対し上記空気層9を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズル11とを備えたものである。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記被塗装面5に直交する視線で見て(図3)、上記被塗装体6を一方向Bに向かって往、復移動C,Dさせるようにする一方、上記スプレーノズル11を上記一方向Bに対し直交する一方向Gに向かって往、復移動H,Iさせるようにしたものである。
【0019】
請求項3の発明は、請求項2の発明に加えて、上記被塗装面5に沿って上記空気層9が流動する上記一方向Aと、上記被塗装体6が往、復移動C,Dする上記一方向Bとを互いに一致させたものである。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1の発明に加えて、上記被塗装面5がほぼ鉛直方向に延びるよう上記支持装置7を構成し、上記空気層9が上記被塗装面5に沿って上方向に流動するよう上記空気供給装置10を構成したものである。
【0021】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0022】
本発明による効果は、次の如くである。
【0023】
請求項1の発明は、試験的に塗装される被塗装面を備えた被塗装体を支持可能とする支持装置と、温度と湿度とが所定値に調整された空気が上記被塗装面に沿って一方向に流動する空気層となるようこの空気を吐出する空気供給装置と、試験対象とされる水性塗料を、上記被塗装面に対し上記空気層を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズルとを備えている。
【0024】
即ち、ある水性塗料につき、塗料としての適否を判断しようとして、この水性塗料を、上記被塗装面に対し試験的に噴霧して吹き付けるという塗装作業をする場合、上記被塗装面の周囲は、上記空気層によって温度と湿度とが所望値とされた空気の所望雰囲気、つまり、上記水性塗料が将来用いられる実機用ブース内と同じ雰囲気とされる。これにより、上記吹き付けにより形成された上記被塗装面上の塗膜からの水分の蒸発速度が所望速度とされる。このようにして、上記空気の所望雰囲気を経て形成される乾燥塗膜の「見栄え」につき、良否が判断される。そして、この「見栄え」の良否の判断に基づき、塗料として適正と判断された水性塗料が、上記実機用ブース内で目的の製造品などの塗装作業に供される。
【0025】
ここで、上記した被塗装面の周囲に空気の所望雰囲気を形成することは、上記被塗装面に沿った狭い範囲につき空気層を流動させることにより達成される。また、この空気の量は空気層を形成することで足りるため、その流量は少量で足りる。このため、上記試験的な塗装作業において、上記のような所望雰囲気を形成しようとする場合に、前記専用ブースを用いていた従来の技術に比べ、上記発明によれば、試験的な塗装作業は極めて容易かつ安価にできる。
【0026】
請求項2の発明は、上記被塗装面に直交する視線で見て、上記被塗装体を一方向に向かって往、復移動させるようにする一方、上記スプレーノズルを上記一方向に対し直交する一方向に向かって往、復移動させるようにしている。
【0027】
このため、上記被塗装面に対しスプレーノズルにより水性塗料を噴霧して吹き付けることにより、上記被塗装面の各部に均一な塗膜を形成しようとする場合、これは、上記被塗装体とスプレーノズルとのそれぞれ直線的で単純な移動動作によって達成される。よって、その分、上記塗装試験装置の取り扱いが容易にできると共に、構成が簡単になり、この結果、上記試験的な塗装作業がより容易かつ安価にできる。
【0028】
請求項3の発明は、上記被塗装面に沿って上記空気層が流動する上記一方向と、上記被塗装体が往、復移動する上記一方向とを互いに一致させている。
【0029】
このため、上記被塗装面に直交する視線で見て、この被塗装面の上記一方向における往、復移動の移動軌跡の大きさにかかわらず、上記空気層の幅寸法は、上記被塗装面の幅寸法に合致させるだけで足りる。よって、上記空気層の流量をより少量にすることができて、上記空気供給装置の容量をより小さく抑制できる。よって、その分、塗装試験装置の構成をより簡単にできて、上記試験的な塗装作業がより安価にできる。
【0030】
請求項4の発明は、上記被塗装面がほぼ鉛直方向に延びるよう上記支持装置を構成し、上記空気層が上記被塗装面に沿って上方向に流動するよう上記空気供給装置を構成している。
【0031】
ここで、上記空気層の温度は、通常、塗装試験装置の周囲における空気の雰囲気温度に比べて高い場合が多いと考えられる。そこで、上記のように構成したのであり、これによれば、上記空気層は自由状態で上昇しようとし、この空気層の流動方向は上記空気供給装置による強制的な空気層の流動方向に合致する。このため、この空気層は、より確実に層流状態を保ちながら、上記被塗装面に沿って、より長い距離を流動する。よって、上記試験的な塗装作業がより精度良くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の水性塗料の塗装試験装置に関し、ある水性塗料につき、塗料としての適否を判断しようとして、この水性塗料を、試験的に用いられる被塗装体の被塗装面に対し試験的に噴霧して吹き付けるという塗装作業をする場合に、この試験的な塗装作業が容易かつ安価にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0033】
即ち、上記塗装試験装置は、試験的に塗装される被塗装面を備えた被塗装体を支持可能とする支持装置と、温度と湿度とが所定値に調整された空気が上記被塗装面に沿って一方向に流動する空気層となるようこの空気を吐出する空気供給装置と、試験対象とされる水性塗料を、上記被塗装面に対し上記空気層を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズルとを備えている。
【実施例】
【0034】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0035】
図において、符号1は水性塗料2の塗装試験装置であり、作業面3上に支持されている。なお、説明の便宜上、矢印Frを前方として以下説明する。
【0036】
上記塗装試験装置1は、試験的に塗装される被塗装面5を備えた被塗装体6を支持可能とする支持装置7と、温度と湿度とが所定値に調整された空気8が上記被塗装面5に沿って一方向Aに流動する空気層9となるようこの空気8を吐出する空気供給装置10と、試験対象とされる水性塗料2を、上記被塗装面5に対し上記空気層9を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズル11と、このスプレーノズル11を支持する他の支持装置12と、上記水性塗料2を加圧して上記スプレーノズル11に供給しこのスプレーノズル11により噴霧させる不図示の液体ポンプとを備えている。
【0037】
上記被塗装体6は板金製の矩形平板体であり、その裏面14の中央部には支軸15が突設されている。この支軸15の軸心16は、上記被塗装体6に直交する方向に延びている。
【0038】
上記支持装置7は、上記作業面3上を任意位置に移動可能となるようこの作業面3上に車輪17を介し支持される基台18を備えている。この基台18は箱形状をなし、その前面板19には開口が形成されて、この前面板19の開口はドア20により開閉可能に閉じられている。また、上記基台18の上面板21には、前、後開口22,23が形成されている。上記前開口22は上記上面板21の前部に形成されて左右に長く延び、後開口23は上記上面板21の後部で幅方向のほぼ中央部に形成されている。
【0039】
また、上記支持装置7は、上記基台18の内部に支持されるブラケット26と、このブラケット26に支持された縦向きガイド27に案内され、鉛直方向に相当する一方向Bに向かって上記被塗装体6と共に往、復移動(上、下動)C,Dさせられる縦長の移動体28と、上記後開口23を通して上記基台18の上外方に突出した上記移動体28の上端部に支持され、上記被塗装体6の支軸15を着脱可能に支持するチャックなどの支持体29と、上記移動体28を往、復移動C,Dさせるようこの移動体28を駆動させる駆動装置30と、上記支軸15の軸心16回りに上記被塗装体6を所定角度(90°)だけ往、復回動E,Fさせる回動装置31とを備えている。
【0040】
上記駆動装置30は、上記ブラケット26に支持される上下一対の鎖車34,35と、これら鎖車34,35に巻き掛けられ、その一部が上記移動体28に連結される無端チェーン36と、この無端チェーン36を正、逆回動可能とさせる不図示の減速電動機とを備えている。この電動機の正、逆駆動に連動する上記無端チェーン36が上記移動体28を被塗装体6と共に往、復移動C,Dさせる。この移動速度は、0.1−0.2m/sec程度であって一定速度とされるが、この速度は調整可能とされている。
【0041】
上記被塗装体6の被塗装面5と裏面14とがほぼ鉛直方向に延びるようこの被塗装体6の支軸15が上記支持装置7の支持体29に支持されている。上記被塗装体6は、上記移動体28と支持体29から少し前方に離れるよう位置している。
【0042】
上記被塗装体6の往移動Cの起点(復移動Dの終点)では、この被塗装体6は上記基台18の内部に全体的に収容される(図1,3中一点鎖線)。一方、上記被塗装体6の往移動Cの終点(復移動Dの起点)では、この被塗装体6は上記基台18の上方外部に全体的に露出させられる(各図中実線)。上記被塗装体6と共に移動体28が往、復移動C,Dするとき、上記被塗装体6は上記後開口23を通過可能とされる。
【0043】
なお、上記駆動装置30は電動式や空気圧式のシリンダであってもよく、ボールねじを用いたねじジャッキ式のものであってもよい。また、上記回動装置31は、電動機、ソレノイド、回転式シリンダなどが駆動源とされる。
【0044】
前記空気供給装置10は、大気側から吸入した空気の温度と湿度とを所定値に調整して上記した空気8とした上、この空気8を吐出する空気調整装置39と、この空気調整装置39から吐出された上記空気8を上記被塗装体6側にまで案内して上記空気8が空気層9となるよう吐出する空気案内ダクト40とを備えている。この空気案内ダクト40の一部は、上記基台18により構成されている。つまり、この基台18の側面板41に上記空気8の入口部42が形成され、上記後開口23が上記空気8の吐出部43とされ、上記基台18の内部が空気8の流動通路とされている。また、上記空気調整装置39から吐出された空気8を、上記入口部42を通し基台18の内部に流入させるフレキシブルダクト44が設けられている。
【0045】
上記空気8による空気層9の流量(m/min)は一定に維持されている。また。上記空気8の温度は、15−35℃の範囲で調整可能とされ、例えば、ほぼ20,25,30℃のいずれかに設定可能とされる。また、上記空気8の湿度は相対湿度であって、60−90%の範囲で調整可能とされ、例えば、ほぼ65,75,80%のいずれかに設定可能とされる。
【0046】
上記空気調整装置39から吐出された空気8は、上記フレキシブルダクト44と入口部42とを通って上記基台18の内部に流入させられる。そして、上記空気8は上記基台18の内部を通って、上記後開口23(吐出部43)から外部に吐出させられ、上記空気層9とされる。この空気層9は、上記被塗装面5と裏面14とに沿って上記一方向Aに流動する。この空気層9の一方向Aと、上記被塗装体6が往、復移動C,Dする上記一方向Bとは互いに一致させられている。上記一方向Aに向かう空気層9の流速は、上記支持装置7の移動体28が被塗装体6と共に移動する速度よりも速く、0.2−0.5m/sec程度である。
【0047】
前記スプレーノズル11は上記被塗装面5に対して円錐形状に水性塗料2を噴霧する。上記スプレーノズル11の孔芯と噴霧された水性塗料2の中心は上記被塗装面5に直交している。なお、上記噴霧された水性塗料2の形状は、偏平な扇形状などであってもよい。
【0048】
前記他の支持装置12は、前記ブラケット26に支持された横向きガイド47に案内されて左右の横方向に相当する一方向Gに向かって往、復移動H,Iする移動体48と、この移動体48を往、復移動H,Iさせるようこの移動体48を駆動する駆動装置49とを備えている。上記移動体48の上部は上記前開口22を通して上記基台18の上外方に突出し、上記スプレーノズル11を支持している。
【0049】
上記駆動装置49は、上記ブラケット26に支持される左右一対の鎖車51,52と、これら鎖車51,52に巻き掛けられその一部が上記移動体48に連結される無端チェーン53と、この無端チェーン53を正、逆回動可能とさせる減速電動機とを備えている。この電動機の正、逆駆動に連動する上記無端チェーン53が上記移動体48をスプレーノズル11と共に往、復移動H,Iさせる。この移動速度は、0.2−0.3m/sec程度であって一定速度とされるが、この速度は調整可能とされている。
【0050】
なお、上記各機器を自動制御可能とする不図示の制御装置が設けられている。
【0051】
上記塗装試験装置1を用いて、試験対象となる水性塗料2を、被塗装体6の被塗装面5に対し試験的に噴霧して吹き付けるという自動的な塗装作業につき、説明する。
【0052】
まず、上記支持装置7の支持体29に被塗装体6を支持させ、上記駆動装置30を駆動させて上記移動体28を被塗装体6と共に復移動Dさせて原位置(図1,3中一点鎖線)に位置させる。次に、上記空気供給装置10の空気調整装置39を駆動させて、上記空気案内ダクト40を通し上記後開口23(吐出部43)から上記基台18の上外方に向かって空気8を吐出させる。一方、上記スプレーノズル11から上記水性塗料2を噴霧させる。
【0053】
次に、上記支持装置7の駆動装置30の駆動により上記移動体28を被塗装体6と共に往移動Cさせる。すると、この被塗装体6が上記後開口23(吐出部43)を通過して上記基台18の上外方に突出し始める。この際、上記基台18の上外方に突出した被塗装体6の部分の被塗装面5と裏面14とに沿って、上記後開口23(吐出部43)から吐出された空気8による空気層9が流動する。
【0054】
一方、上記他の支持装置12の駆動装置49を駆動させて上記移動体48をスプレーノズル11と共に往、復移動H,Iを繰り返させる。すると、上記スプレーノズル11から噴霧された水性塗料2は、上記空気層9を横切って上記被塗装面5に吹き付けられる。この状態が続行された後、上記スプレーノズル11により噴霧される水性塗料2の上方域である上記往移動Cの終点に、上記被塗装体6が到達すると(各図中実線)、上記被塗装面5の全面への水性塗料2の吹き付けが完了し、第1層の塗膜が形成されるようになっている。
【0055】
上記被塗装体6が往移動Cの終点に達したとき、上記支持装置7の回動装置31の駆動により上記被塗装体6が所定角度である90°だけ往回動Eさせられる(図3中二点鎖線)。次に、上記駆動装置30の駆動により、上記移動体28が被塗装体6と共に復移動Dさせられる。この際、上記スプレーノズル11による水性塗料2の噴霧と上記他の支持装置12の駆動装置49の駆動とは続行されている。つまり、上記した被塗装体6の復移動Dの間に、上記被塗装面5の全面に水性塗料2が更に吹き付けられ、上記第1層上に第2層の塗膜が形成される。上記被塗装体6が復移動Dの終点に達すると、この被塗装体6と移動体28とは原位置(図1,3中一点鎖線)に位置して、停止させられる。
【0056】
そして、上記第1、第2層の塗膜により、上記被塗装面5には水性塗料2による各部均一な塗膜が形成される。なお、この塗膜を形成する場合、上記とは逆に、被塗装体6を、まず、復移動Dさせ、次に、往移動Cさせてもよい。また、上記と同様にして、第3、第4層の塗膜を形成してもよく、一層のみであってもよい。
【0057】
上記被塗装体6の被塗装面5に水性塗料2が吹き付けられて、上記塗膜が形成される間、上記被塗装面5は空気層9により覆われている。つまり、上記被塗装面5の周囲は、上記空気層9により温度と湿度とが所定値とされた空気8の所望雰囲気とされている。そして、上記吹き付けにより形成された被塗装面5上の塗膜からその周囲の空気8中に水分が蒸発して固化が進行し、上記被塗装面5上に塗膜が形成される。これにより、上記試験的な塗装作業が終了する。
【0058】
その後は、上記支持装置7から被塗装体6を取り外すなどして被塗装面5上の塗膜を光の照射により乾燥させる。これにより得られる乾燥塗膜につき「見栄え」の良否が判断される。そして、この「見栄え」が良と判断されれば、上記水性塗料2は、塗料として適正と判断されて、実機用ブース内で目的の製造品などの塗装作業に供される。
【0059】
具体的には、上記水性塗料2について、空気8の温度と湿度とが、20℃で65%、25℃で75%、および30℃で80%となるように設定された第1−第3段階の3つの試験が行われる。上記被塗装体6上の塗膜からの水分の蒸発速度は、温度よりも湿度の影響をより大きく受けて上記第1段階では比較的速く、第3段階では比較的遅い。そして、上記3つの試験結果として、上記水性塗料2についての各乾燥塗膜の「見栄え」がそれぞれ良以上と判断されれば、この水性塗料2は、塗料として適正と判断されて、目的の製造品などの塗装作業に供される。
【0060】
上記構成によれば、試験的に塗装される被塗装面5を備えた被塗装体6を支持可能とする支持装置7と、温度と湿度とが所定値に調整された空気8が上記被塗装面5に沿って一方向Aに流動する空気層9となるようこの空気8を吐出する空気供給装置10と、試験対象とされる水性塗料2を、上記被塗装面5に対し上記空気層9を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズル11とを備えている。
【0061】
即ち、ある水性塗料2につき、塗料としての適否を判断しようとして、この水性塗料2を、上記被塗装面5に対し試験的に噴霧して吹き付けるという塗装作業をする場合、上記被塗装面5の周囲は、上記空気層9によって温度と湿度とが所望値とされた空気8の所望雰囲気、つまり、上記水性塗料2が将来用いられる実機用ブース内と同じ雰囲気とされる。これにより、上記吹き付けにより形成された上記被塗装面5上の塗膜からの水分の蒸発速度が所望速度とされる。このようにして、上記空気8の所望雰囲気を経て形成される乾燥塗膜の「見栄え」につき、良否が判断される。そして、この「見栄え」の良否の判断に基づき、塗料として適正と判断された水性塗料2が、上記実機用ブース内で目的の製造品などの塗装作業に供される。
【0062】
ここで、上記した被塗装面5の周囲に空気8の所望雰囲気を形成することは、上記被塗装面5に沿った狭い範囲につき空気層9を流動させることにより達成される。また、この空気8の量は空気層9を形成することで足りるため、その流量は少量で足りる。このため、上記試験的な塗装作業において、上記のような雰囲気を形成しようとする場合に、前記専用ブースを用いていた従来の技術に比べ、上記構成によれば、試験的な塗装作業は極めて容易かつ安価にできる。
【0063】
また、前記したように、被塗装面5に直交する視線で見て(図3)、上記被塗装体6を一方向Bに向かって往、復移動C,Dさせるようにする一方、上記スプレーノズル11を上記一方向Bに対し直交する一方向Gに向かって往、復移動H,Iさせるようにしている。
【0064】
このため、上記被塗装面5に対しスプレーノズル11により水性塗料2を噴霧して吹き付けることにより、上記被塗装面5の各部に均一な塗膜を形成しようとする場合、これは、上記被塗装体6とスプレーノズル11とのそれぞれ直線的で単純な移動動作によって達成される。よって、その分、上記塗装試験装置1の取り扱いが容易にできると共に、構成が簡単になり、この結果、上記試験的な塗装作業がより容易かつ安価にできる。
【0065】
また、前記したように、被塗装面5に沿って上記空気層9が流動する上記一方向Aと、上記被塗装体6が往、復移動C,Dする上記一方向Bとを互いに一致させている。
【0066】
このため、上記被塗装面5に直交する視線で見て(図3)、この被塗装面5の上記一方向Bにおける往、復移動C,Dの移動軌跡の大きさにかかわらず、上記空気層9の幅寸法は、上記被塗装面5の幅寸法に合致させるだけで足りる。よって、上記空気層9の流量をより少量にすることができて、上記空気供給装置10の容量をより小さく抑制できる。よって、その分、塗装試験装置1の構成をより簡単にできて、上記試験的な塗装作業がより安価にできる。
【0067】
また、前記したように、被塗装面5がほぼ鉛直方向に延びるよう上記支持装置7を構成し、上記空気層9が上記被塗装面5に沿って上方向に流動するよう上記空気供給装置10を構成している。
【0068】
ここで、上記空気層9の温度は、通常、塗装試験装置1の周囲における空気の雰囲気温度に比べて高い場合が多いと考えられる。そこで、上記のように構成したのであり、これによれば、上記空気層9は自由状態で上昇しようとし、この空気層9の流動方向は上記空気供給装置10による強制的な空気層9の流動方向に合致する。このため、この空気層9は、より確実に層流状態を保ちながら、上記被塗装面5に沿って、より長い距離を流動する。よって、上記試験的な塗装作業がより精度良くできる。
【0069】
なお、以上は図示の例によるが、上記被塗装面5は、傾斜していても水平でもよい。また、空気層9の流動方向は上記被塗装面5に沿ってさえいれば、傾斜していても水平でもよく、下降させるようにしてもよい。
【0070】
また、上記被塗装体6とスプレーノズル11とのうち、いずれか一方のみが移動するようにしてもよく、また、上記支持装置7,12はロボットで構成してもよい。また、上記スプレーノズル11により噴霧される水性塗料2のほぼ全体が、空気層9の内部に位置するようにしてもよい。
【0071】
また、上記空気案内ダクト40を全体的にフレキシブルチューブで構成し、このチューブの吐出部43側の端部を上記被塗装体6側である移動体28に固定してもよい。このようにすれば、上記被塗装面5と上記吐出部43との相対位置が一定するため、この吐出部43から吐出され、上記被塗装面5に沿って流動する空気層9の流速等の条件が一定する。よって、上記試験的な塗装作業をより精度よくできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】塗装試験装置の側面図である。
【図2】塗装試験装置の全体正面図である。
【図3】図2の部分拡大詳細図である。
【図4】塗装試験装置の平面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 塗装試験装置
2 水性塗料
5 被塗装面
6 被塗装体
7 支持装置
8 空気
9 空気層
10 空気供給装置
11 スプレーノズル
12 支持装置
14 裏面
15 支軸
16 軸心
18 基台
21 上面板
22 前開口
23 後開口
28 移動体
29 支持体
30 駆動装置
31 回動装置
39 空気調整装置
40 空気案内ダクト
43 吐出部
48 移動体
49 駆動装置
A 一方向
B 一方向
C 往移動
D 復移動
E 往回動
F 復回動
G 一方向
H 往移動
I 復移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験的に塗装される被塗装面を備えた被塗装体を支持可能とする支持装置と、温度と湿度とが所定値に調整された空気が上記被塗装面に沿って一方向に流動する空気層となるようこの空気を吐出する空気供給装置と、試験対象とされる水性塗料を、上記被塗装面に対し上記空気層を横切るよう噴霧して吹き付けるスプレーノズルとを備えたことを特徴とする水性塗料の塗装試験装置。
【請求項2】
上記被塗装面に直交する視線で見て、上記被塗装体を一方向に向かって往、復移動させるようにする一方、上記スプレーノズルを上記一方向に対し直交する一方向に向かって往、復移動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の水性塗料の塗装試験装置。
【請求項3】
上記被塗装面に沿って上記空気層が流動する上記一方向と、上記被塗装体が往、復移動する上記一方向とを互いに一致させたことを特徴とする請求項2に記載の水性塗料の塗装試験装置。
【請求項4】
上記被塗装面がほぼ鉛直方向に延びるよう上記支持装置を構成し、上記空気層が上記被塗装面に沿って上方向に流動するよう上記空気供給装置を構成したことを特徴とする請求項1に記載の水性塗料の塗装試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−222848(P2007−222848A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49988(P2006−49988)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(593109584)伸栄産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】